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- pmyth01
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混ざり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。長い時の中、卵はそこで揺れ続けていた。
- さらに長い時を経て、いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- 絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、巨人に姿を変えて、産まれて間もないアウスに次々と襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみる成長を続けながら、巨人を倒し続けた。
- 激しい戦いが続いたが、とうとうアウスはすべての巨人を打ち倒した。
- 傷ついたアウスは、自分の分身を創ることにした。
- アウスの体は左右で姿が異なったので、2人の分身を創ることにした。
- アウスは倒した巨人達の骸を集め、自らの血を注いだ。
- 自らの左側に似せたその者からは光が溢れたので、それを光の神イアを名付けた。
- 自らの右側に似せたその者からは闇が這ったので、それを闇の神エアを名付けた。
- アウスは2人に、あらゆる場所を家族で満たすことを命じ、深い眠りに着いた。
- 姿形の異なるイアとエアだったが、互いを愛し、交わり、多くの子を成した。
- だが、まだそこに世界に呼べる場所はなかった。行き場のない脆弱な子らは次々と死んでいった。
- 悲しみに暮れたイアとエアは、あらゆる者が健やかで豊かに暮らせる世界の創世を考えた。
- イアとエアは自らの子、眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイを呼んだ。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは3人に生命の種を与え、育てるように命じた。
- 3人が輪となって祈りを捧げると、生命の種は芽吹いた。
- 芽はみるみる成長し、巨大な生命の樹となった。
- しかし、どこまでも成長を続ける生命の樹は、やがて至る所を埋め尽くし、誰も身動きが取れなってしまった。
- 3人は、父なるイアと母なるエアに助けを求めた。
- エアとイアは再び交わり、3人の子を成した。
- 天空の神レックウザ、大地の神グラードン、大海の神カイオーガが産まれた。
- レックウザはその体を生命の樹に巻き付けた。
- グラードンとカイオーガは、その体を生命の樹に打ち付けた。
- やがて生命の樹は倒れ、3つに砕けた。
- レイ、アイ、ハイは、生命の樹がこのまま朽ちることを悲しみ、祈りを捧げた。
- すると、砕けた生命の樹は、それぞれ空と地と海に変化した。
- レックウザは空を頂く主柱と姿を変えた。
- 天空を登るその影は、カイリュー、カビゴン、バンギラスの3匹の空を支える神と化した。
- 空を大気が包み、星々が煌めいた。
- グラードンは地を覆う盤石と姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、ダーブ、サーン、ゴードンの3匹の地を支える神と化した。
- 地は胎動し、山々が蠢いた。
- カイオーガは海を抱く水脈と姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ラティアス、メタグロス、ラティオスの3匹の海を支える神と化した。
- 海に水が満ち渡り、波が囁いた。
- こうして世界が誕生した。
- イアとエア、そして多くの神々は、これを大いに喜び、世界に我が子らを住まわせた。
- 安らかなその世界は神の子らの楽園だった。
- 神の子らは増え続けた。
- その力、言葉を少しずつ変化させながら。
- いつしか神々は、その世界に生きる者達を2つの名で呼ぶようになった。
- 大いなる父イアに似た神の子らを"ポケモン"。大いなる母エアに似た神の子らを"人"と。
- やがて目覚める絶対神アウスは、 末裔の満ちる世界を見たとき、さらなる豊壌と繁栄を約束するであろう。
- pmyth01.1
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混ざり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。卵はそこで揺れ続けていた。
- いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- 絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、巨人に姿を変えて、産まれて間もないアウスに次々と襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみる成長を続けながら、巨人を倒し続けた。
- 激しい戦いが続いたが、とうとうアウスはすべての巨人を打ち倒した。
- 傷ついたアウスは、自分の分身を創ることにした。
- アウスの体は左右で姿が異なったので、2人の分身を創ることにした。
- アウスは倒した巨人達の骸を集め、自らの血を注いだ。
- 自らの左側に似せたその分身が生まれると、辺りに光が満ちた。
- アウスは、これに光の神イアと名付けた。
- 自らの右側に似せたその者が生まれると、時が回り始めた。
- アウスは、これに時の神エアを名付けた。
- アウスは2人に、同胞の繁栄と豊かな世界の創世を命じ、深い眠りに着いた。
- イアが大きく嘶くと、そこに光溢れた。
- イアの歩いた後には、光彩が伸び、辺りを優しく照らした。
- イアが大きく嘶くと、そこに時が放たれた。
- エアの歩いた後には、あらゆるものが、ゆっくりと胎動をはじめた。
- 世界を入れる器がそこに創られた。
- イアとエアの姿形はまるで違ったが、互いを愛し合い、3人の子を成した。
- 眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイが産まれた。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは3人に生命の種を与え、育てるように命じた。
- 3人が輪となって祈りを捧げると、生命の種は芽吹いた。
- 芽はどんどん成長し、やがて巨大な生命の樹となった。
- しかし、成長を止めぬ生命の樹は、やがて至る所を埋め尽くし、誰も身動きが取れなくなってしまった。
- やむなく3人は生命の樹を切ることにした。
- レイはその体を生命の樹に巻き付けた。
- アイとハイは、その体を生命の樹に打ち付けた。
- やがて生命の樹は倒れ、3つに砕けた。
- 3人は、生命の樹がこのまま朽ち消えることを惜しみ、再び祈りを捧げた。
- すると生命の樹の欠片に3人の神が降り立った。
- 天空の神レックウザ。大地の神グラードン。大海の神カイオーガ。
- 3人の神が嘶くと砕けた生命の樹は、それぞれ空と地と海に変化した。
- レックウザは天を頂く主柱へと姿を変えた。
- 天空を翔るその影は、カイリューと呼ばれる天を支える神と化した。
- 空を大気が包み、星々が煌めいた。
- グラードンは地を覆う盤石へと姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、バンギラスと呼ばれる地を支える神と化した。
- 地は胎動し、山々が蠢いた。
- カイオーガは海を抱く水脈へと姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ギャラドスと呼ばれる海を支える神と化した。
- 海に水が満ち渡り、波が囁いた。
- こうして世界が誕生した。
- イアとエア、そして他の神々は、これを大いに喜び、世界に我が子らを住まわせた。
- 安らかなその世界は神の子らの楽園だった。
- 神の子らは増え続けた。
- その力、言葉を少しずつ変化させながら。
- いつしか神々は、その世界に生きる者達を2つの名で呼ぶようになった。
- 大いなる父イアに似た神の子らを"ポケモン"。大いなる母エアに似た神の子らを"人"と。
- やがて目覚める絶対神アウスは、 この世界を見て大いに喜び、さらなる豊壌と繁栄を約束するだろう。
- pmyth02
- まだ世界と呼ばれる名前が無かった頃、すなわち世界がはっきりした姿を持っていなかった頃。
- そこには巨大な一つの卵があり、絶対神アウス以外の存在はなかった。
- アウスは世界の創世を望んでいたが、そのための労務は余りに多く、困難を極めた。
- そこでアウスは、自らの力を3つに分けた分身を作り出した。
- あらゆるものを照らし、輝かせる光の神イア。
- あらゆるものを管理し、動かす時の神エア。
- あらゆるものを破壊し、無に返す黒い巨人。
- 3人の兄弟が産まれた。
- アウスは、イアとエアに世界を形作るための作業を、巨人には卵を壊すように命じ、深い眠りについた。
- イアが大きく嘶くと、光が充ち満ちた。
- イアの歩いた後には、光彩が伸び、辺りを優しく照らした。
- イアが大きく嘶くと、時が放たれた。
- エアの歩いた後には、あらゆるものが、ゆっくりと動き始めた。
- イア、エアの加護を受けた巨人の体に力が漲った。
- 巨人はその拳を卵に振り下ろした。
- 卵は穿たれ、亀裂が走り、殻が砕けた。
- 中から沢山の人とポケモンが溢れだした。
- 巨人は卵から産まれた者をも次々と殺し始めた。
- イア、エアが諫めても、巨人には聞こえなかった。
- イア、エアは、巨人を殺すべきか悩んだが、自らの兄弟を手にかけることは出来なかった。
- そこで、卵から溢れだした人とポケモンの中から、優れた者を選び、巨人を殺させることにした。
- イア、エアは人の中からひときわ逞しく聡明な者を選び出して言った。
- 巨人を殺してください。あの者は我らの兄弟。我々が殺めることはできない。
- 人は言った。
- 我々の力でどうしてあの恐ろしい巨人を倒すことができるのですか。
- イア、エアは言った。
- あなたに力を与える仲間を授けましょう。
- 人の前に3匹のポケモンが現れた。
- イアとエアが揃って嘶くと、3匹のポケモンの姿がみるみる変わっていった。
- 3匹のポケモンは、眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイとなった。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは言った。
- レイの力があれば、巨人の動きは止まって見えるでしょう。
- アイの力があれば、巨人の考えが手に取るように分かるでしょう。
- ハイの力があれば、巨人の叫びに震えることもないでしょう。
- 人と3人のポケモンの神は力を合わせ、巨人を倒した。
- すると躯となった巨人の前にイアとエアが現れた。
- 兄弟の死を忍びなく思ったイアとエアは、その魂の半分を巨人に分け与えた。
- すると巨人の魂と体はそれぞれ3つに裂けた。
- その体は天と、地と、海になった。
- その魂は、天空の神レックウザ、大地の神グラードン、大海の神カイオーガに生まれ変わった。
- レックウザは天を包み、グラードンは山々を支え、カイオーガは海を抱いた。
- ここに世界が産まれた。
- イアとエアは、人と3人のポケモンの神に言った。
- あなた方とその家族は、そこに暮らしなさい。
- 我々は世界を見渡せる場所から、あなたがたの繁栄と世界の豊壌を永久に祈りましょう。
- こうして人と神とポケモンは、世界で暮らすようになった。
- pmyth03
- 世界にまだ、はっきりとした形がなかった頃。
- 神と人とポケモンの境が曖昧だった頃。
- 絶対神アウスは、究極なる世界の創世のため、その荒ぶる力を分けた分身、巨人を産んだ。
- 巨人はすべてを壊し、喰らい、浄化する力を持っていた。
- 巨人の力により、あらゆる壁は砕け、世界は広がっていった。
- 1人の男がいた。
- ある時、男の暮らす地に、1人の傷ついた女が倒れていた。
- 男は、女を連れ帰り、手厚く介護した。
- やがて二人は愛し合い、 その傷がすべて癒えた頃、女は二人の子を身ごもっていた。
- しばらくして、女は双子が産んだ。
- すると女はその姿を、神々しく変化させ、語り始めた。
- 私はアウスという神である。
- 私はこことは違う場所に暮らしていた。
- しかし我が分身である巨人にここに追いやられてしまった。
- 巨人は、私自身であるから、私はあの者を殺すことはできないのだ。
- 巨人は全てを破壊し、喰らいつくす。いずれこの世界にも降りてくるだろう。
- どうかその日まで、その子らを大切に育てて欲しい。
- あの者を殺せるのは、私と同じ力を持つ者、即ち、神と人とポケモンの3つの力を持つ、この子らだけなのだ。
- 語り終えるとアウスは男の前から消えた。
- 男は双子に名をつけた。アウスの真の姿を見た時に感じた2つの言葉。
- 光を意味する言葉イア、時を意味する言葉エアと。
- 父の愛を受け、双子は健やかに成長を続けた。
- やがてその身丈が父に迫る頃、双子は声を揃え父に言った。
- 巨人が来た。
- 辺りから色も音も穏やかな気配も消えていった。
- 人やポケモンが消えていった。
- その虚無の向こうに巨人が吠えていた。
- 巨人は双子の姿を見つけると、猛り狂いながら襲いかかってきた。
- 思わず父は飛び出した。身を呈し、巨人から子を庇うと父は力尽きた。
- するとイアとエアの体に変化が起こった。
- イアの人の体は裂け、逞しい四肢が伸びた。その上腕は金剛石のように輝いていた。
- エアの人の体は裂け、しなやかな2本の脚が伸びた。肩から背中までを、真珠のような球が覆った。
- 巨大なドラゴンに姿を変えたイア、エアは、巨人に飛びかかっていった。
- 長い戦いの果て、イアとエアの前に巨人は倒れた。
- イア、エアは父の躯の前に駆け寄り、大きく吠えた。
- そこに絶対神アウスが降り立ち言った。
- 身は滅んでも魂が滅ぶことはありません。
- 父の体から3つの光が溢れだした。
- その光は、眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイとなった。
- アウスは3人の神に言った。
- 愛しき者の化身たちよ、この世界にあなたたちの祝福を。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- 3匹の神はあらゆる場所を駈け巡り、その加護を振りまいた。
- 世界に幸福が充ち満ちた。
- アウスは巨人の躯に祈りを捧げた。すると躯は巨大な山に変化した。
- アウスは、イア、エアに言った。
- あなたがたは、何処よりも高いこの場所から、世界を見守りなさい。光を注ぎ、時を放ちなさい。
- アウスは、天へと登っていった。
- イア、エアは大きく嘶き、巨大な山に消えていった。
- pmyth04
- まだ世界が一つの大陸だった頃。
- 人、ポケモン、岡を抜ける風、葉にしたたる朝露、山に眠る石、あらゆるものは等しく、
- 世界のすべてのものは友であり、糧であり、家族だった。
- しかし長い時の中で人は、神々や自然への敬意、ポケモンへの友情を少しずつ忘れていった。
- やがて、栄華と富を求めて互いに争い、戦争を始めた。
- 木々を倒し、山を掘った。石を削り、武器を作った。血に塗れた刃を洗い水を濁らせた。
- 生きる場所を失った弱いポケモン達は次々と死んでいった。
- 強い力を持つポケモンは戦争の道具として利用され死んでいった。
- これを見た絶対神アウスは大いに怒り、悲しんだ。
- アウスの叫びは雷鳴となり、あらゆる建物を破壊した。
- 天空の神はその姿を消した。
- アウスが駆ける衝撃は地震となり、地を裂いた。
- 大地の神はその姿を消した。
- アウスの流す涙は津波となり、あらゆるものを飲み込んだ。
- 大海はその姿を消した。
- 支えを失った世界は無に還ろうとしていた。
- 残された人々は神を鎮めるために祈りを捧げた。
- 自然にその奢りを詫びた。ポケモンにその罪を詫びた。
- すると人々の前に2匹の神が降り立った。
- アウスの分身。光の神イア。時の神エア。
- イアとエアが大きく嘶くと天変地異が止んだ。
- アウスはその身を卵で包み、眠りについた。
- イアとエアは滅びかけた世界を駈け巡った。
- イアの後には、光彩が伸び、辺りを優しく照らした。
- 木々が蘇り、大気は澄み切った。
- エアの後には、時が放たれ、あらゆるものが動き始めた。
- 風がそよぎ、水は流れを取り戻した。
- イアとエアは、世界を蘇らせていった。
- ただ、人がアウスの怒りと悲しみを忘れぬよう、裂けた大地はそのままにしておいた。
- 世界に光と時が満ちると、天、地、海にそれぞれを支える神々が舞い戻った。
- 世界は息を吹き返した。
- イアとエアは眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイを呼び、この世界を守護するように命じた。
- そして2匹の神は、世界で一番高い山へと消えていった。
- レイはその眼で世界をつぶさに見渡す。
- アイはその心で不吉な気配を感じ取る。
- ハイはその耳で世界の軋む音を聞き分ける。
- 3人の神は3つの場所から世界を見守っている。
- もしも人々が同じ過ちを繰り返すならば、アウスを呼び起こすだろう。
- もしも世界に災厄が訪れる時は、イア、エアを呼び起こすだろう。
- レイが見ている。アイがそこにいる。ハイが聴いている。
- 3人の神は人々の戒めと加護となった。
- こうして人々は、かつてのように神々を奉り、自然を愛し、ポケモンを友として暮らすようになった。
- pmyth05.1
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混じり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。卵はそこで揺れ続けていた。
- いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- 絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、巨人※1に姿を変え、産まれて間もないアウスに次々と襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみると成長を続け巨人を倒し続けた。
- 激しい戦いの果てにアウスはすべての巨人を打ち倒した。
- 戦いに傷ついたアウスは、自分の分身を創ることにした。
- アウスの体は左右で姿が異なった※2 ので、2人の分身を創ることにした。
- アウスは巨人達の屍を集め、自らの血を注いだ。
- 自らの左側に似せたその分身が生まれると、辺りに光が満ちた。
- アウスはこの分身に光の神イアと名付けた。
- 自らの右側に似せたその者が生まれると、時が回り始めた。
- アウスは この分身に時の神エアを名付けた。
- アウスは2人に生命とそれが暮らす世界の創世を命じ、深い眠りに着いた。
- イアが祈ると、光彩が伸び辺りを照らした。
- イアが祈ると、あらゆるものが胎動をはじめた。
- そこに世界を入れる器が創られた。
- イアとエアの姿形はまるで違ったが、互いを愛し子を成した。
- 眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイが産まれた。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは3人に生命の種を育てるように命じた。
- 3人が輪となって祈りを捧げると、生命の種は芽吹いた。
- 芽はどんどん成長し、やがて巨大な生命の樹※3となった。
- 成長を続ける生命の樹は、やがて至る所を埋め尽くし、誰も身動きが取れなくなってしまった。
- やむなく3人は生命の樹を切ることにした。
- レイはその体を生命の樹に巻きつけた。アイとハイは、その体を生命の樹に打ちつけた。
- やがて生命の樹は倒れ、3つに砕けた。
- 3人の神は、生命の樹がこのまま朽ち消えることを惜しみ、祈りを捧げた。
- イアとエアは、生命の樹の欠片に新たに産まれた3匹の子を使わした。
- 天空の神レックウザ。大地の神グラードン。大海の神カイオーガ。
- 3匹の神が吠えると、砕けた生命の樹はそれぞれ空と地と海に変化した。
- レックウザは天を頂く主柱へと姿を変えた。
- 天空を翔るその影は、カイリューと呼ばれる天を支える神と化した。
- 空を大気が包み、星々が煌めいた。
- グラードンは地を覆う盤石へと姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、バンギラスと呼ばれる地を支える神と化した。
- 地は胎動し、山々が蠢いた。
- カイオーガは海を抱く水脈へと姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ギャラドスと呼ばれる海を支える神と化した。
- 海に水が満ち、波が囁いた。
- こうして一つの天と地と海を持つ世界が産まれた。 ※4
- イアとエアはこれを喜び、世界にレイ、アイ、ハイを初めとした自らの子らを住まわせた。
- 豊かな世界で神の子達は増え続けた。その姿、力、言葉を少しずつ変化させながら。
- やがて神々はその世界に生きるもの達を3つの名で呼ぶようになった。
- 人。ポケモン。自然。
- あらゆるものが友であり、糧であり、家族だった。すべてが満ち、世界は幸福に包まれていた。
- 限りない幸福の中で人は、神々への敬意、自然やポケモンへの友情を少しずつ忘れていった。
- やがてその心に驕りと欲が生じた。そしてそれを満たすために戦争を始めた。
- 木々を倒し、山を掘った。岩を削り、武器を作った。血に塗れた刃を洗い水を濁らせた。
- 生きる場所を失った弱いポケモン達は次々と死んでいった。
- 強い力を持つポケモンは戦争の道具に利用され死んでいった。
- 人とポケモンの屍が辺りに溢れかえった。
- これを見たイアとエアは大いに怒り、悲しんだ。
- 2人の嘆きは地震となり、一つの大地を引き裂いた。
- 激昂の果てにイアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 鋼のような皮膚に太く逞しい四肢。その上腕は金剛石のように輝いていた。
- 慟哭の淵にエアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 水のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- イアが吠えると、辺りに光の雨が降り注ぎ、あらゆるものを焼き払っていった。
- エアが吠えると、辺りの時は歪み、あらゆるものの活動が停止していった。
- 生き残った僅かな人々は神を鎮めるために祈りを捧げた。
- 自然にその驕りを詫びた。ポケモンにその罪を詫びた。
- すると人々の前にレイ、アイ、ハイが現れた。
- 3人の神は人と共に祈りを捧げた。
- やがて祈りは強大な渦となり、イアとエアを優しく包んだ。
- 祈りを聞き届けた2匹は鎮まり、世界で一番高い山へと消えた。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。世界は豊かな姿を取り戻していった。
- ただ、イアとエアに刻まれた深い怒りと悲しみを示すように、分かたれた大地は元に戻らなかった。 ※4
- 3人の神はイアとエアを癒すために、そして人々の行いを見守るために世界の3つの場所に散った。
- 人々は再び神々を敬い、自然を愛し、ポケモンを友として暮らすようになった。
- そして同じ過ちを繰り返さぬように、この出来事を歌とし、戒めとした。
- あらゆるものを友とせよ。
- イアを怒らせてはいけない。エアを悲しませてはいけない。
- 裂けた大地は戻らない。
- あらゆるものを友とせよ。
- レイが見ている。アイがそこにいる。ハイが聞いている。
- 3つの神と共に祈れ。
- ※1
- ユングの言うところの母胎からの分離の恐怖やショックの象徴。 なお巨人はポケモンに非ず。
- ※2
- 本当に左右が違う訳ではなく、絶対性の象徴、人とポケモンの粗を同一とする暗喩。
- イア=男・ポケモン。エア=女・人。
- ※3
- 木=生命の成長性の象徴。
- ※4
- 一つの大地=パンゲア超大陸、分かたれた大地=現在の世界大陸を意味する。
- pmyth05.2
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混じり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。卵はそこで揺れ続けていた。
- いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- 絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、巨人※1に姿を変え、産まれて間もないアウスに次々と襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみると成長を続け巨人を倒し続けた。
- 激しい戦いの果てにアウスはすべての巨人を打ち倒した。
- 戦いに傷ついたアウスは、自分の分身を創ることにした。
- アウスの体は左右で姿が異なった※2 ので、二人の分身を創ることにした。
- アウスは巨人達の屍を集め、自らの血を注いだ。
- 自らの左側に似せたその分身が生まれると、辺りに光が満ち満ちた。
- アウスはこの分身に光の神イアと名付けた。
- 自らの右側に似せたその者が生まれると、静かに時が回り始めた。
- アウスは この分身に時の神エアを名付けた。
- アウスは二人に生命とそれが暮らす世界の創世を命じ、深い眠りに着いた。
- イアが祈ると、光彩が伸び辺りを照らした。
- イアが祈ると、あらゆるものが胎動をはじめた。
- そこに世界を入れる器が創られた。
- イアとエアの姿形はまるで違ったが互いを愛し三つの子を成した。
- 眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイが産まれた。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは三人の神に種を渡し、育てるように命じた。
- 三人が輪になって祈ると瞬く間に種は芽吹いた。
- 芽はどんどん成長し、やがて巨大な樹※3となった。
- 成長を続ける樹は、やがて至る所を埋め尽くし、誰も身動きが取れなくなってしまった。
- やむなく三人の神は樹を切ることにした。
- レイはその体を樹に巻きつけた。アイとハイは、その体を樹に打ちつけた。
- やがて樹は倒れ、三つに砕けた。
- 三人の神は、樹がこのまま朽ち消えることを惜しみ、祈りを捧げた。
- イアとエアは、樹の欠片に三匹の子を使わした。
- 天空の神レックウザ。大地の神グラードン。大海の神カイオーガ。
- 三匹の神が吠えると、砕けた樹の破片はそれぞれ空と地と海に変化した。
- レックウザは天を頂く主柱へと姿を変えた。
- 天空を翔るその影は、カイリューと呼ばれる天を支える神と化した。
- 空を大気が包み、星々が煌めいた。
- グラードンは地を覆う盤石へと姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、バンギラスと呼ばれる地を支える神と化した。
- 地は胎動し、山々が蠢いた。
- カイオーガは海を抱く水脈へと姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ギャラドスと呼ばれる海を支える神と化した。
- 海に水が満ち、波が囁いた。
- こうして一つの天と地と海を持つ世界が産まれた。 ※4
- イアとエアはこれを喜び、世界にレイ、アイ、ハイを初めとした自らの子らを住まわせた。
- イアはその身で世界と子供達を優しく照らした。
- エアはその身で世界と子供達を静かに育んだ。
- 豊かな世界で子供らは増え続けた。その姿、力、言葉を少しずつ変化させながら。
- やがて神々はその世界に生きるもの達を三つの名で呼ぶようになった。
- 人。ポケモン。自然。
- あらゆるものが友であり、糧であり、家族だった。すべてが満ち、世界は幸福に包まれていた。
- しかし限りない幸福の中で人は、神々への敬意、自然やポケモンへの友情を少しずつ忘れていった。
- やがてその心に驕りと欲が生じた。そしてそれを満たすために戦争を始めた。
- 木々を倒し、山を掘った。岩を削り、武器を作った。血に塗れた刃を洗い水を濁らせた。
- 生きる場所を失った弱いポケモン達は次々と死んでいった。
- 強い力を持つポケモンは戦争の道具に利用され死んでいった。
- 人とポケモンの屍が辺りに溢れかえった。
- これを見たイアとエアは大いに怒り、悲しんだ。
- 二人の嘆きは地震となり、一つの大地を引き裂いた。
- 激昂の果てにイアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 鋼のような皮膚に太く逞しい四肢。その上腕は金剛石のように輝いていた。
- 慟哭の淵にエアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 水のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- イアが恐ろしい声で吠えると、辺りを巨大な太陽が覆い隠した。
- 焼けつく光が辺りを照らし、山が燃え、海は干上がった。行き場を失った人やポケモンは熱さと餓えの中で死んでいった。
- エアが世にも悲しい声で吠えると、辺りが夜のように暗く寒くなった。
- 大地は凍てつき、木々はみるみる腐っていった。多くの人やポケモンが寒さと餓えの中で死んでいった。
- 二匹は叫び続け世界は崩れていった。
- 生き残った僅かな人々は二匹を鎮めるために祈りを捧げた。
- 自然にその驕りを詫びた。ポケモンにその罪を詫びた。
- すると人々の前にレイ、アイ、ハイが現れた。
- 三人の神は人と共に祈りを捧げた。
- 辺りに穏やかな音が響いた。
- 人もポケモンも木々も鉱物も共に祈り始めた。
- 怒りと悲しみの叫びは、穏やかな祈りの音に包み込まれた。
- 三匹のドラゴンポケモンは一番高い山の奥へと去っていった。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。世界は豊かな姿を取り戻していった。
- ただ、イアとエアに刻まれた深い怒りと悲しみを示すように、分かたれた大地は元に戻らなかった。 ※4
- 三人の神は人々の行いを見守るために世界の三つの場所に散った。
- 人々は再び神々を敬い、あらゆるものを家族として愛するようになった。
- そして再び同じ過ちを繰り返さぬよう、 祈りの音を歌にして歌い続けることにした。
- あらゆるものを友とせよ。
- イアを怒らせてはいけない。エアを悲しませてはいけない。
- 裂けた大地は戻らない。
- あらゆるものを友とせよ。
- レイが見ている。アイがそこにいる。ハイが聞いている。
- 三つの神と共に祈れ。
- ※1
- ユングの言うところの母胎からの分離の恐怖やショックの象徴。 なお巨人はポケモンに非ず。
- ※2
- 本当に左右が違う訳ではなく、絶対性の象徴、人とポケモンの粗を同一とする暗喩。
- イア=男・ポケモン。エア=女・人。
- ※3
- 木=生命の成長性の象徴。
- ※4
- 一つの大地=パンゲア超大陸、分かたれた大地=現在の世界大陸を意味する。
- pmyth05.2アウス
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混じり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。卵はそこで揺れ続けていた。
- いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- 絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、巨人※1に姿を変え、産まれて間もないアウスに次々と襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみると成長を続け巨人を倒し続けた。
- 激しい戦いの果てにアウスはすべての巨人を打ち倒した。
- 戦いに傷ついたアウスは、自分の分身を創ることにした。
- アウスの体は左右で姿が異なった※2 ので、二人の分身を創ることにした。
- アウスは巨人達の屍を集め、自らの血を注いだ。
- 自らの左側に似せたその分身が生まれると、辺りに光が満ち満ちた。
- アウスはこの分身に光の神イアと名付けた。
- 自らの右側に似せたその者が生まれると、静かに時が回り始めた。
- アウスは この分身に時の神エアを名付けた。
- アウスは二人に生命とそれが暮らす世界の創世を命じ、深い眠りに着いた。
- イアが祈ると、光彩が伸び辺りを照らした。
- イアが祈ると、あらゆるものが胎動をはじめた。
- そこに世界を入れる器が創られた。
- イアとエアの姿形はまるで違ったが互いを愛し三つの子を成した。
- 眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイが産まれた。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは三人の神に種を渡し、育てるように命じた。
- 三人が輪になって祈ると瞬く間に種は芽吹いた。
- 芽はどんどん成長し、やがて巨大な樹※3となった。
- 成長を続ける樹は、やがて至る所を埋め尽くし、誰も身動きが取れなくなってしまった。
- やむなく三人の神は樹を切ることにした。
- レイはその体を樹に巻きつけた。アイとハイは、その体を樹に打ちつけた。
- やがて樹は倒れ、三つに砕けた。
- 三人の神は、樹がこのまま朽ち消えることを惜しみ、祈りを捧げた。
- イアとエアは、樹の欠片に三匹の子を使わした。
- 天空の神レックウザ。大地の神グラードン。大海の神カイオーガ。
- 三匹の神が吠えると、砕けた樹の破片はそれぞれ空と地と海に変化した。
- レックウザは天を頂く主柱へと姿を変えた。
- 天空を翔るその影は、カイリューと呼ばれる天を支える神と化した。
- 空を大気が包み、星々が煌めいた。
- グラードンは地を覆う盤石へと姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、バンギラスと呼ばれる地を支える神と化した。
- 地は胎動し、山々が蠢いた。
- カイオーガは海を抱く水脈へと姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ギャラドスと呼ばれる海を支える神と化した。
- 海に水が満ち、波が囁いた。
- こうして一つの天と地と海を持つ世界が産まれた。 ※4
- イアとエアはこれを喜び、世界にレイ、アイ、ハイを初めとした自らの子らを住まわせた。
- イアはその身で世界と子供達を優しく照らした。
- エアはその身で世界と子供達を静かに育んだ。
- 豊かな世界で子供らは増え続けた。その姿、力、言葉を少しずつ変化させながら。
- やがて神々はその世界に生きるもの達を三つの名で呼ぶようになった。
- 人。ポケモン。自然。
- あらゆるものが友であり、糧であり、家族だった。すべてが満ち、世界は幸福に包まれていた。
- しかし限りない幸福の中で人は、神々への敬意、自然やポケモンへの友情を少しずつ忘れていった。
- やがてその心に驕りと欲が生じた。そしてそれを満たすために戦争を始めた。
- 木々を倒し、山を掘った。岩を削り、武器を作った。血に塗れた刃を洗い水を濁らせた。
- 生きる場所を失った弱いポケモン達は次々と死んでいった。
- 強い力を持つポケモンは戦争の道具に利用され死んでいった。
- 人とポケモンの屍が辺りに溢れかえった。
- これを見たイアとエアは大いに怒り、悲しんだ。
- 二人の嘆きは地震となり、一つの大地を引き裂いた。
- 激昂の果てにイアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 鋼のような皮膚に太く逞しい四肢。その上腕は金剛石のように輝いていた。
- 慟哭の淵にエアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 水のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- イアが恐ろしい声で吠えると、辺りを巨大な太陽が覆い隠した。
- 焼けつく光が辺りを照らし、山が燃え、海は干上がった。行き場を失った人やポケモンは熱さと餓えの中で死んでいった。
- エアが世にも悲しい声で吠えると、辺りが夜のように暗く寒くなった。
- 大地は凍てつき、木々はみるみる腐っていった。多くの人やポケモンが寒さと餓えの中で死んでいった。
- 二匹は叫び続け世界は崩れていった。
- 生き残った僅かな人々は二匹を鎮めるために祈りを捧げた。
- 自然にその驕りを詫びた。ポケモンにその罪を詫びた。
- すると人々の前にレイ、アイ、ハイが現れた。
- 三人の神は人と共に祈りを捧げた。
- 辺りに穏やかな音が響いた。
- 人もポケモンも木々も鉱物も共に祈り始めた。
- 怒りと悲しみの叫びは、穏やかな祈りの音に包み込まれた。
- 三匹のドラゴンポケモンは一番高い山の奥へと去っていった。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。世界は豊かな姿を取り戻していった。
- ただ、イアとエアに刻まれた深い怒りと悲しみを示すように、分かたれた大地は元に戻らなかった。 ※4
- 三人の神は人々の行いを見守るために世界の三つの場所に散った。
- 人々は再び神々を敬い、あらゆるものを家族として愛するようになった。
- そして再び同じ過ちを繰り返さぬよう、 祈りの音を歌にして歌い続けることにした。
- あらゆるものを友とせよ。
- イアを怒らせてはいけない。エアを悲しませてはいけない。
- 裂けた大地は戻らない。
- あらゆるものを友とせよ。
- レイが見ている。アイがそこにいる。ハイが聞いている。
- 三つの神と共に祈れ。
- ※1
- ユングの言うところの母胎からの分離の恐怖やショックの象徴。 なお巨人はポケモンに非ず。
- ※2
- 本当に左右が違う訳ではなく、絶対性の象徴、人とポケモンの粗を同一とする暗喩。
- イア=男・ポケモン。エア=女・人。
- ※3
- 木=生命の成長性の象徴。
- ※4
- 一つの大地=パンゲア超大陸、分かたれた大地=現在の世界大陸を意味する。
- pmyth05
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混じり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。卵はそこで揺れ続けていた。
- いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- 絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、巨人※1に姿を変え、産まれて間もないアウスに次々と襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみると成長を続け巨人を倒し続けた。
- 激しい戦いの果てにアウスはすべての巨人を打ち倒した。
- 戦いに傷ついたアウスは、自分の分身を創ることにした。
- アウスの体は左右で姿が異なった※2 ので、2人の分身を創ることにした。
- アウスは巨人達の屍を集め、自らの血を注いだ。
- 自らの左側に似せたその分身が生まれると、辺りに光が満ちた。
- アウスはこの分身に光の神イアと名付けた。
- 自らの右側に似せたその者が生まれると、時が回り始めた。
- アウスは この分身に時の神エアを名付けた。
- アウスは2人に生命とそれが暮らす世界の創世を命じ、深い眠りに着いた。
- イアが祈ると、光彩が伸び辺りを照らした。
- イアが祈ると、あらゆるものが胎動をはじめた。
- そこに世界を入れる器が創られた。
- イアとエアの姿形はまるで違ったが、互いを愛し子を成した。
- 眼の神レイ、心の神アイ、声の神ハイが産まれた。
- レイが目覚めると、あらゆるものがそこに現れた。色と輪郭が生まれた。
- アイが願うと、あらゆるものがそこに感じられた。穏やかな気配が広がった。
- ハイが叫ぶと、あらゆるものがそこで震えた。幸福な音色が響きはじめた。
- イアとエアは3人に生命の種を育てるように命じた。
- 3人が輪となって祈りを捧げると、生命の種は芽吹いた。
- 芽はどんどん成長し、やがて巨大な生命の樹※3となった。
- 成長を続ける生命の樹は、やがて至る所を埋め尽くし、誰も身動きが取れなくなってしまった。
- やむなく3人は生命の樹を切ることにした。
- レイはその体を生命の樹に巻きつけた。アイとハイは、その体を生命の樹に打ちつけた。
- やがて生命の樹は倒れ、3つに砕けた。
- 3人の神は、生命の樹がこのまま朽ち消えることを惜しみ、祈りを捧げた。
- イアとエアは、生命の樹の欠片に新たに産まれた3匹の子を使わした。
- 天空の神レックウザ。大地の神グラードン。大海の神カイオーガ。
- 3匹の神が吠えると、砕けた生命の樹はそれぞれ空と地と海に変化した。
- レックウザは天を頂く主柱へと姿を変えた。
- 天空を翔るその影は、カイリューと呼ばれる天を支える神と化した。
- 空を大気が包み、星々が煌めいた。
- グラードンは地を覆う盤石へと姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、バンギラスと呼ばれる地を支える神と化した。
- 地は胎動し、山々が蠢いた。
- カイオーガは海を抱く水脈へと姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ギャラドスと呼ばれる海を支える神と化した。
- 海に水が満ち、波が囁いた。
- こうして一つの天と地と海を持つ世界が産まれた。 ※4
- イアとエアはこれを喜び、世界にレイ、アイ、ハイを初めとした自らの子らを住まわせた。
- 豊かな世界で神の子達は増え続けた。その姿、力、言葉を少しずつ変化させながら。
- やがて神々はその世界に生きるもの達を3つの名で呼ぶようになった。
- 人。ポケモン。自然。
- あらゆるものが友であり、糧であり、家族だった。すべてが満ち、世界は幸福に包まれていた。
- 限りない幸福の中で人は、神々への敬意、自然やポケモンへの友情を少しずつ忘れていった。
- やがてその心に驕りと欲が生じた。そしてそれを満たすために戦争を始めた。
- 木々を倒し、山を掘った。岩を削り、武器を作った。血に塗れた刃を洗い水を濁らせた。
- 生きる場所を失った弱いポケモン達は次々と死んでいった。
- 強い力を持つポケモンは戦争の道具に利用され死んでいった。
- 人とポケモンの屍が辺りに溢れかえった。
- これを見たイアとエアは大いに怒り、悲しんだ。
- 2人の嘆きは地震となり、一つの大地を引き裂いた。
- 激昂の果てにイアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 鋼のような皮膚に太く逞しい四肢。その上腕は金剛石のように輝いていた。
- 慟哭の淵にエアの姿は巨大なドラゴンポケモンと化した。
- 水のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- イアが吠えると、辺りに光の雨が降り注ぎ、あらゆるものを焼き払っていった。
- エアが吠えると、辺りの時は歪み、あらゆるものの活動が停止していった。
- 生き残った僅かな人々は神を鎮めるために祈りを捧げた。
- 自然にその驕りを詫びた。ポケモンにその罪を詫びた。
- すると人々の前にレイ、アイ、ハイが現れた。
- 3人の神は人と共に祈りを捧げた。
- やがて祈りは強大な渦となり、イアとエアを優しく包んだ。
- 祈りを聞き届けた2匹は鎮まり、世界で一番高い山へと消えた。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。世界は豊かな姿を取り戻していった。
- ただ、イアとエアに刻まれた深い怒りと悲しみを示すように、分かたれた大地は元に戻らなかった。 ※4
- 3人の神はイアとエアを癒すために、そして人々の行いを見守るために世界の3つの場所に散った。
- 人々は再び神々を敬い、自然を愛し、ポケモンを友として暮らすようになった。
- そして同じ過ちを繰り返さぬように、この出来事を歌とし、戒めとした。
- あらゆるものを友とせよ。
- イアを怒らせてはいけない。エアを悲しませてはいけない。
- 裂けた大地は戻らない。
- あらゆるものを友とせよ。
- レイが見ている。アイがそこにいる。ハイが聞いている。
- 3つの神と共に祈れ。
- ---------------------------------------------------------------------------------------------
- ※1
- ユングの言うところの 母胎からの分離の恐怖やショックの象徴。 なお巨人のみポケモンに非ず。
- ※2
- 本当に左右が違う訳ではなく、絶対性の象徴、人とポケモンの粗を同一とする暗喩。
- イア=男・ポケモン。エア=女・人。
- ※3
- 木=生命の成長性の象徴。
- ※4
- 一つの大地=パンゲア超大陸、分かたれた大地=現在の世界大陸を意味する。
- pmyth5.3
- はじめに、混沌のうねりがあった。
- すべてがゆっくりと混じり合い、あらゆるものは曖昧だった。
- ある時、その中心に大きな卵が現れた。卵はそこで揺れ続けていた。
- いつしかうねりが止まると、卵はこぼれ落ち、割れた。
- そこに絶対神アウスが産まれた。
- 飛び散った殻の欠片は、黒い巨人に姿を変えた。
- 黒い巨人は、産まれて間もないアウスに襲いかかった。
- しかしアウスは、みるみると成長し巨人と戦った。
- 激しい戦いが続いたが、とうとうアウスは巨人を倒した。
- アウスは、混沌としたここに世界を創ることにした。
- まずアウスは巨人の両腕から二匹の神を創った。
- 巨人の右手からは空間の神イアが生まれた。
- イアが生まれると、何もないそこに空間が生まれた。
- それは永遠に広がり続けることになった。
- 巨人の左手からは時間の神エアが生まれた。
- エアが生まれると、 あらゆるものが胎動し時が回り始めた。
- それは永遠に進み続けることになった。
- こうして世界の基となる器が創られた。
- 次にアウスは三匹の神を創った。
- 巨人の眼から眼の神レイ、巨人の心臓から心の神アイ、巨人の喉から声の神ハイが生まれた。
- アウスは三匹の神に世界に暮らす命をつくるように命じた。
- しかし世界の基となる器にはまだ天と地と海の境はなく、命が暮らすことは困難だった。
- そこでアウスは巨人の鼻からさらに三匹の神を創った。
- アウスは三匹に、天空の神レックウザ、大地の神グラードン、大海の神カイオーガと名づけた。
- そして三匹に、世界の基となる器を、命が暮らせるように創り変えるよう命じた。
- 世界の基となる器に降り立つと、レックウザは天を頂く主柱へと姿を変えた。
- 天空を翔るその影は、カイリューと呼ばれる天を支える神と化した。
- こうして天が生まれた。
- 世界の基となる器に降り立つと、グラードンは地を覆う盤石へと姿を変えた。
- 大地に潜るその轟音は、バンギラスと呼ばれる地を支える神と化した。
- こうして大地が生まれた。
- 世界の基となる器に降り立つと、カイオーガは海を抱く水脈へと姿を変えた。
- 大海に消えるその波紋は、ギャラドスと呼ばれる海を支える神と化した。
- こうして海が生まれた。
- 世界はただの器から天と地と海を持つようになった。
- 天と地と海が生まれると、レイ、アイ、ハイが創った命が世界で育ち始めた。
- これを見たアウスは大いに喜んだ。
- そして自らの身体を再び卵に変え、深い眠りに着いた。
- 神々が創世した世界。
- そこに生きる命はあらゆるものが友であり、糧であり、家族だった。
- すべてが満ち、幸福に包まれる世界で、命は増え続けた。
- 姿、力、言葉を少しずつ変化させながら増え続けた。
- やがて神々はその世界に生きる命を三つの名で呼ぶようになった。
- 人。ポケモン。自然。
- 長く幸福な時。
- その中で人は、神々への敬意、自然やポケモンへの友情を少しずつ忘れていった。
- そしてその心に驕りと欲が生じた。
- いつしか神も自然もポケモンも軽んじるようになった。
- そして人々は、欲望のままに木々を倒して山を掘るようになった。
- 世界の形を変え、領土を広げ続けた。
- 住処を追われた弱い者たちは、行き場もなく次々と死んでいった。
- 岩を削り、鉱物を溶かして、強い武器を作るようになった。
- 驕りに任せ、その武器で大量の人やポケモンを瞬く間に殺し続けた。
- これを見ていた空間の神イアは大いに怒り、時の神イアは大いに悲しんだ。
- そして世界を一度滅ぼすことに決めた。
- 世界に降り立ったイアの姿は、巨大なドラゴンポケモンだった。
- 虹色に輝く身体、その開いたその口の奥には、果てしない空間が広がっていた。
- イアが吠えると、辺りの空間が大きく歪んだ。
- 海も空も、人もポケモンもその場からつぎつぎ消え去っていった。
- 世界に降り立ったエアの姿は、巨大なドラゴンポケモンだった。
- 光り輝く身体、その発光する皮膚を透いてあらゆる時が巡っていた。
- エアが吠えると、辺りの時間が大きく乱れた。
- 大地も空気も、人もポケモンもみるみるうちに腐っていった。
- 二匹が吠えるたび、世界は崩れていった。
- 世界に残された僅かな人々は、あらゆるものに詫びた。
- 一日目に神々に詫び、二日目にポケモンに詫びた。
- 三日目に自然に詫び、四日目に人間に詫びた。
- 五日目の朝。人々の前に、眼の神レイ、心の神エア、声の神ハイが現れた。
- 三匹の神は、暴れ続けるイアとエアに心を痛め、祈りを捧げた。
- 人もポケモンも木々も海も鉱物も共に祈り始めた。
- 祈りはやがて大きな音になり、イアとエアを包み込んだ。
- すると二匹は、世界で一番高い山の、深い森の更に奥にある木々の間に消えていった。
- 二匹がいなくなると、世界は豊かな姿を取り戻していった。
- レイ、アイ、ハイは、祈りの音を歌にして歌い続けるよう人々に命じた。
- そしてイアとエアを見守るため、世界の三つの場所で暮らすようになった。
- pmyth06
- 世界には2つの民がいた。
- 森の民はポケモンと共に森と海を巡って暮らしていた。
- 豊かな自然は月に棲む時の神エアに守られていた。
- 人とポケモンはエアに感謝し、丸く美しい石を海から集め捧げていた。
- 村の民は磨いた石で大地を耕し、作物を育て暮らしていた。
- 実りをもたらす輝きは太陽に棲む光の神イアに守られていた。
- 人々はイアに感謝し、固く輝く石を土から堀り起こし捧げていた。
- 長く穏やかな日々の中で村の民は増え続けた。
- やがてより多くの作物を得るために、森を切り開き、山を削って村を広げた。
- ある時のことだった。一匹のポケモンが村の民の前に迷い込んだ。
- 餓えたポケモンは田畑を荒らし、一人の村人を襲った。
- これを見つけた東の人々はポケモンを殺し、森の民の元に送りつけた。
- 殺されたポケモンはある森の民の妻だった。
- 森の民とポケモンは丸く美しい石を抱いて嘆き悲しんだ。
- 石のかたちが醜く歪み、 星の瞬く夜空の彼方からエアが現れた。
- その姿は巨大なドラゴンポケモンだった。
- 水のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- エアが世にも悲しい声で吠えると、東の空が夜のように暗く寒くなった。
- 川は凍てつき、田畑はみるみる腐っていった。多くの人々が寒さと餓えの中で死んでいった。
- 村の民は固く光る石を抱いて怒り狂った。
- 石の光が吸い込まれるように消え、輝く日射しの向こうからイアが現れた。
- その姿は巨大なドラゴンポケモンだった。
- 鋼のような皮膚に太く逞しい四肢。上腕は金剛石のように輝いていた。
- イアが恐ろしい声で吠えると、西の空を巨大な太陽が覆った。
- 焼けつく光が辺りを照らし、山が燃え、水は干上がった。行き場を失った人やポケモンは熱さと餓えの中で死んでいった。
- 二匹のドラゴンポケモンは叫び続けた。
- 世界は崩れていった。
- 生き残った人々は相談し、一番高い山に棲む神に相談することにした。
- 神は、殺されたポケモンの亡骸を持ってくるよう言った。
- 人々は亡骸を探し見つけたが、目と声と心以外はすでに朽ち果てていた。
- 神が目に触れると、それは見たこともないポケモンに生まれ変わった。
- 神はその者にレイと名付けた。
- 神はレイに世界で最も透き通った場所に行き、祈りを捧げるよう命じた。
- 神が心に触れると、それは見たこともないポケモンに生まれ変わった。
- 神はその者にアイと名付けた。
- 神はアイに世界で最も美しい場所に行き、祈りを捧げるよう命じた。
- 神が声に触れると、それは見たこともないポケモンに生まれ変わった。
- 神はその者にハイと名付けた。
- 神はハイこの世界で最も優しい場所に行き、祈りを捧げるよう命じた。
- 三匹が祈ると辺りに穏やかな音が響いた。
- 人もポケモンも木々も鉱物も共に祈り始めた。
- 怒りと悲しみの叫びは、穏やかな祈りの音に包み込まれた。
- 二匹のドラゴンポケモンは一番高い山の奥へと去っていった。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。
- 風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。
- 世界は豊かな姿を取り戻していった。
- 人々は神とレイ、アイ、ハイに感謝した。
- そしてその祈りの音を忘れぬように、歌にして歌い続けることにした。
- -----------------------------------------------------------------
- ・イア/エアが象徴するもの
- イアー光ー安定ー太陽ー農耕ー倭人ー干害ー男ー人工ー怒りーダイア
- エアー時ー変化ー月ー狩猟ー蝦夷/アイヌー冷害ー女ー自然ー悲しみーパール
- ・レイアイハイが象徴するもの
- バランスー調和ー音ー鼎
- ・アウスが象徴するもの
- 究極ー生命ー万能
- -----------------------------------------------------------------
- pmyth07.1イアエア
- 人と自然とポケモンの境が曖昧だった頃、世界には二つの民がいた。
- 世界の東に暮らす民は、自然を巡り、家族であり糧であるポケモンと暮らしていた。
- 東の民にとって、人とポケモンに違いはなく、人はポケモンの夫であり、妻だった。
- 豊かな自然の在処を示す月と星は、時の神エアに守られていた。
- 月を背に星空を飛ぶその姿は巨大なドラゴンポケモンだった。
- 氷のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- エアが舞うと、月は姿を変え星は瞬いて、時と方角を知ることができた。
- 東の民とポケモンはエアに感謝し、丸く美しい石を海から集め捧げていた。
- 世界の西の民は、磨いた石で大地を耕し作物を育て、村を作って暮らしていた。
- 豊かな実りをもたらす太陽は、光の神イアに守られていた。
- 朝日と共に大地から現れるその姿は巨大なドラゴンポケモンだった。
- 鋼のような輝く皮膚に太く逞しい四肢。上腕は金剛石のように輝いていた。
- イアが歩くと、太陽はより強く、より輝きを増して、あらゆる所を暖かく照らした。
- 西の民はイアに感謝し、固く光る石を土から掘り出して捧げていた。
- 長く穏やかな日々の中で、西の民は増え続けた。
- やがてより多くの作物を得るために、森を切り開き、山を削って村を広げていった。
- ある時のことだった。
- 一匹の牝のリングマが西の民の村に迷い込んだ。
- 住処を失ったリングマは飢えた家族のため、田畑に実った作物を奪い、一人の村人を襲った。
- これを見つけた人々は大いに怒り、リングマを殺して、その亡骸を村のはずれにある森に捨てた。
- リングマの夫である東の森に暮らす人間の男は、
- 食べ物を探しに行ったまま戻らない妻を捜しに出かけた。
- やがて森のはずれにたどり着くと、そこに妻の亡骸があった。
- 妻の体には見た事もない道具がたくさん刺さっていた。
- 夫は涙を流しながらそれを引き抜き、辺りが震えるほどの大声で泣きわめいた。
- すると森の向こうから自分とは違う服を着た人が大勢現れた。
- その手には妻の体を貫いた見た事もない道具を携えていた。その目は怒りに濁っていた。
- 夫は妻の亡骸を抱え森の奥へと逃げ帰った。
- 仲間の元へと戻った夫は、妻の亡骸を前に丸く美しい石を抱いて嘆き悲しんだ。
- そして妻を殺した森の向こう側から現れた人々への恨みを募らせた。
- 仲間たちも共に悲しみ、恨みを募らせた。 ただ一人、母親を殺された子供を覗いて。
- 丸く美しい石のかたちが醜く歪み、 満月の彼方からエアが現れた。
- 深い悲しみに侵されたエアの目は青白く濁っていた。
- エアは世にも悲しい声で吠えると、西の空へと飛び去った。
- 月が血に染まり星が流れた。※1
- 辺りは闇に呑まれ、真冬のように寒くなった。
- 海も大地も凍りつき、人は時が止まったように動けなくなった。
- 作物は成長を止め、瞬く間に腐っていった。
- これを見た東の民とポケモンは、殺されたリングマを弔うことも忘れ、森の向こう側へと向かった。
- 母親を失った子供だけが、その亡骸を弔うために神の住む一番高い山へと向かっていった。
- 森の向こう側には田畑が広がり、多くの人々がいた。
- 人々は寒さと餓えで動かなかった。
- 東の民とポケモンは、田畑を荒らし、弱っている人々を殺して回った。
- 最も多く殺したのはリングマの夫だった。
- 仲間を殺され育て上げた田畑を失った西の民たちは、固く光る石を抱いて怒り狂った。
- そして森からやってきた人々に恨みを募らせた。
- 固く光る石の輝きが吸い込まれるように消え、巨大な太陽と共に地を砕いてイアが現れた。
- 深い怒りに侵されたその目は赤黒く濁っていた。
- イアは世にも恐ろしい声で吠えると、東の森へと消えていった。
- 太陽が巨大な影に呑み込まれた。※2
- 辺りは焼けつくような光と熱に包まれ、海は干上がり、草木は枯れ果てた。
- 山に炎が広がり、自然も人もポケモンも灰になり、辺りは黒い煙に覆われた。
- リングマの夫は誰よりも先に灰になった。
- 二匹のドラゴンポケモンは叫び続けた。
- 西の民も東の民もポケモンも山も川も次々と死んでいった。
- 母の亡骸を背負った子供は、一番高い山の頂にたどり着いた。
- その亡骸はすでにほとんど朽ち果てていたが、透き通った目と、美しい心と、優しい声はまだ生きているようだった。
- 子供が空を仰ぐと、何処からか音が聞こえた。
- お前には母親を殺された悲しみはないのか。
- 子供は首を横に振った。
- お前には母親を殺された怒りはないのか。
- 子供は首を横に振った。
- お前はもう一度母親に会いたいのか。
- 子供は深くうなずいた。
- すると目の前の母の亡骸がみるみる変化していった。
- その目が、見たこともないゴーストポケモンに生まれ変わった。
- 全身は白く発光し、その瞳は虹のように輝いていた。
- その者は自らをレイと名乗った。
- レイは子供の周りを慈しむように一回りすると、北の空へと飛び去っていった。
- その心が、見たこともないゴーストポケモンに生まれ変わった。
- 全身は黄金色の霧のようで、中心で虹のような玉が輝いていた。
- その者は自らをアイと名乗った。
- アイは子供の周りを慈しむように一回りすると南西の空へと飛び去っていった。
- その声が、見たこともないゴーストポケモンに生まれ変わった。
- 全身は煙のようにおぼろげで、巨大な口から虹のように輝く歯が覗いていた。
- その者は自らをハイと名乗った。
- ハイは子供の周りを慈しむように一回りすると南東の空へと飛び去っていった。
- 三匹が飛び立つと、再び空から音が聞こえた。それはとても穏やかな音だった。
- 子供は、透き通った湖のある方角から、愛しい母親の眼差しを感じた。
- 子供は、美しい湖のある方角から、 愛しい母親の温もりを感じた。
- 子供は、穏やかな湖のある方角から 愛しい母親の声を聞いた。
- 子供は、音にあわせて祈りを捧げた。
- 辺りは震え、音はみるみる広がっていった。
- 祈りの音は森も村も包み込み、人もポケモンも木々も鉱物も共に祈り始めた。
- 世界が祈りの音に満たされていった。
- その渦の中に怒りと悲しみの叫びはゆっくりと溶けていった。
- 赤黒く濁ったイアの目が穏やかになり、光と熱は引いていった。
- 青白く濁ったエアの目が穏やかになり、あらゆるものが動きはじめた。
- 二匹のドラゴンポケモンは、一番高い山の奥へと去っていった。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。世界は豊かな姿を取り戻していった。
- 東の民と西の民は、子供とレイ、アイ、ハイに感謝し、世界の三つの湖を大切に守ることにした。
- そして同じ過ちを繰り返さないよう、一番高い山を境に互いの住処を分けた。
- 二匹の神を鎮めた祈りの音は、歌として歌い継がれることになった。
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- あらゆるものを友とせよ
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- エアが悲しむ イアが怒る
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- 月が血に染まる 太陽が消える
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- レイが見ている
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- アイがそこにいる
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- ハイが聞いている
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- 心鎮めて神と祈れ
- -----------------------------------------------------------------
- ■注釈について
- ※1 皆既月食/流星
- ※2 皆既月食
- ■イア/エアが象徴するもの
- イアー光ー安定ー太陽ー農耕ー倭人ー干害ー男ー人工ー怒りーダイア
- エアー時ー変化ー月(及び星)ー狩猟ー蝦夷/アイヌー冷害ー女ー自然ー悲しみーパール
- ■エアのタイプについて
- "時を止める"という状態をポケモンの特徴・能力におとすにあたって
- 今回は、エアのタイプを"水・ドラゴン""→"氷・ドラゴン"に変更しました。
- ■レイアイハイが象徴するもの
- 魂ーバランスー祈りー音ー鼎
- ■アウスが象徴するもの
- 究極ー生命ー万能
- -----------------------------------------------------------------
- pmyth07
- 人と自然とポケモンの境が曖昧だった頃、世界には2つの民がいた。
- 世界の東に暮らす民は、自然を巡り、家族であり糧であるポケモンと暮らしていた。
- 豊かな自然の在処を示す月と星は、時の神エアに守られていた。
- 月を背に星空を飛ぶその姿は巨大なドラゴンポケモンだった。
- 氷のように透き通った皮膚にしなやかな二本の脚。肩から背中にかけて真珠のような球が覆っていた。
- エアが舞うと、月は姿を変え星は瞬いて、時と方角を知ることができた。
- 東の民とポケモンはエアに感謝し、丸く美しい石を海から集め捧げていた。
- 世界の西の民は、磨いた石で大地を耕し作物を育て、村を作って暮らしていた。
- 豊かな実りをもたらす太陽は、光の神イアに守られていた。
- 朝日と共に大地から現れるその姿は巨大なドラゴンポケモンだった。
- 鋼のような輝く皮膚に太く逞しい四肢。上腕は金剛石のように輝いていた。
- イアが歩くと、太陽はより強く、より輝きを増して、あらゆる所を暖かく照らした。
- 西の民はイアに感謝し、固く光る石を土から堀り起こし捧げていた。
- 長く穏やかな日々の中で、西の民は増え続けた。
- やがてより多くの作物を得るために、森を切り開き、山を削って村を広げていった。
- ある時のことだった。
- 一匹の白く大きなポケモンが西の民の村に迷い込んだ。
- 住処を失ったポケモンは、飢えた我が子のため、田畑に実った作物を奪い、一人の人間を襲った。
- これを見つけた西の民は大いに怒り、白く大きなポケモンを殺し、その亡骸を東の森に捨てた。
- やがて変わり果てた亡骸を見つけた人間の夫は、仲間と共に丸く美しい石を抱いて嘆き悲しんだ。
- 東に暮らす者たちは西の民への恨みを募らせた。
- ただ一人、母親を殺された子供を覗いて。
- 丸く美しい石のかたちが醜く歪み、 満月の彼方からエアが現れた。
- 深い悲しみに侵されたイアの目は青白く濁っていた。
- エアは世にも悲しい声で吠えると、西の空へと飛び去った。
- 月が血に染まり星が流れた。※1辺りは闇に呑まれ、真冬のように寒くなった。
- 海も大地も凍りつき、人は時が止まったように動けなくなった。
- 田畑の作物は成長を止め、瞬く間に腐っていった。
- これを見た東の民たちはポケモンを引き連れ、西の民の暮らす村へ向かった。
- 母親を失った東の子供は一人、その亡骸を弔うために神の住む一番高い山へと向かっていった。
- 東の民たちは、田畑を荒らし、餓え苦しんでいる西の人々を殺して回った。
- 最も多く殺したのは、白く大きなポケモンの夫だった。
- 仲間を殺され、育て上げた田畑を失った西の民たちは、固く光る石を抱いて怒り狂った。
- 東の民への恨みを募らせた。
- 固く光る石の輝きが吸い込まれるように消え、巨大な太陽と共に地を砕いてイアが現れた。
- 深い怒りに侵されたその目は赤黒く濁っていた。
- イアは世にも恐ろしい声で吠えると、東の森へと消えていった。
- 太陽が巨大な影に呑み込まれた。※2
- 辺りは焼けつくような光と熱に包まれた。
- 海は干上がり、草木は枯れ果てた。
- 山に炎が広がり、自然も人もポケモンも灰になり、辺りは黒い煙に覆われた。
- 白く大きなポケモンの夫は、誰よりも先に灰になった。
- 二匹のドラゴンポケモンは叫び続け、西の民も東の民もポケモンも次々と死んでいった。
- 白く大きなポケモンの亡骸を背負った東の子供は、一番高い山の頂にたどり着いた。
- その亡骸はすでにほとんど朽ち果てていたが、透き通った目と、美しい心と、優しい声はまだ生きているようだった。
- 東の子供が空を仰ぐと、何処からか音が聞こえた。
- お前には母親を殺された悲しみはないのか。
- 東の子供は首を横に振った。
- お前には母親を殺された怒りはないのか。
- 東の子供は首を横に振った。
- お前はもう一度母親に会いたいのか。
- 東の子供は深くうなずいた。
- すると目の前の母の亡骸がみるみる変化した。
- その目が、見たこともないゴーストポケモンに生まれ変わった。
- 全身は白く発光し、その瞳は虹のように輝いていた。
- その者は自らをレイと名乗った。
- そして子供の周りを慈しむように一回りすると、北の空へと飛び去っていった。
- その心が、見たこともないゴーストポケモンに生まれ変わった。
- 全身は黄金色の霧のようで、中心で虹のような玉が輝いていた。
- その者は自らをアイと名乗った。
- そして子供の周りを慈しむように一回りすると南西の空へと飛び去っていった。
- その声が、見たこともないゴーストポケモンに生まれ変わった。
- 全身は煙のようにおぼろげで、巨大な口から虹のように輝く歯が覗いていた。
- その者は自らをハイと名乗った。
- そして子供の周りを慈しむように一回りすると南東の空へと飛び去っていった。
- 三匹が飛び立つと、再び空から音が聞こえた。それはとても穏やかな音だった。
- 子供は、透き通った湖のある方角から、愛しい母親の眼差しを感じた。
- 子供は、美しい湖のある方角から、 愛しい母親の温もりを感じた。
- 子供は、穏やかな湖のある方角から 愛しい母親の声を聞いた。
- 子供は、音に併せて祈りを捧げた。
- 辺りは震え、音はみるみる広がっていった。
- 祈りの音は森も村も包み込み、人もポケモンも木々も鉱物も共に祈り始めた。
- 音が世界に満たされていった。
- 音の渦に怒りと悲しみの叫びは溶けていった。
- 赤黒く濁ったイアの目が穏やかになり、光と熱は引いていった。
- 青白く濁ったエアの目が穏やかになり、あらゆるものが動きはじめた。
- 二匹のドラゴンポケモンは、一番高い山の奥へと去っていった。
- 木々が蘇り大気は澄み切った。風がそよぎ川のせせらぎが蘇った。世界は豊かな姿を取り戻していった。
- 東の民と西の民は、子供とレイ、アイ、ハイに感謝し、世界の三つの湖を大切に護ることにした。
- そして同じ過ちを繰り返さないよう、一番高い山を境に互いの住処を分けた。
- 神を鎮めた祈りの音は、歌として歌い継がれることになった。
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- あらゆるものを友とせよ
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- エアが悲しむ イアが怒る
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- 月が血に染まる 太陽が消える
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- レイが見ている
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- アイがそこにいる
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- ハイが聞いている
- 悲しんではいけない 怒ってはならない
- 心鎮めて神と祈れ
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- ■注釈について
- ※1 皆既月食/流星
- ※2 皆既月食
- ■イア/エアが象徴するもの
- イアー光ー安定ー太陽ー農耕ー倭人ー干害ー男ー人工ー怒りーダイア
- エアー時ー変化ー月(及び星)ー狩猟ー蝦夷/アイヌー冷害ー女ー自然ー悲しみーパール
- ■エアのタイプについて
- "時を止める"という状態をポケモンの特徴・能力におとすにあたって
- 今回は、エアのタイプを"水・ドラゴン""→"氷・ドラゴン"に変更しました。
- ■レイアイハイが象徴するもの
- 魂ーバランスー祈りー音ー鼎
- ■アウスが象徴するもの
- 究極ー生命ー万能
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- pmythイノムー0714
- テーマ:人とポケモンの関係/人間的(らしい)思考法
- 昔。ポケモンと人間の境が曖昧だった頃。
- あるところに村があった。
- ある日、その村の少女が山へ薪を集めに出かけた。
- 山の奥にはよく乾いた枯れ木が見つかったので、少女はどんどん奥深くへ進んでいった。
- 気がつくと日は傾いていて、少女は道に迷っていた。
- 辺りにはイノムーの糞が転がっており、少女は不安になった。
- すると森の向こうから一人の男が洗われた。
- 男の顔は、村に住む男の誰にも似ていなかったが、とてもハンサムだった。
- 男は言った。
- 「君は道に迷っているのだろう?僕は山を降りる道を知っているけれど、君の足では真夜中になってしまう。明日の朝連れて帰ってあげるから、今日は僕のところで休まないか?」
- 少女はしかたなく男の言う通りにすることにした。
- 男は少女の手をひいて歩きだした。
- 日が暮れる頃、大きな洞穴にたどり着いた。
- 「ここが僕の家だ。おなかが空いているだろ? 待っていて」
- 男はそう言うと、洞窟の外へ出て行った。
- 男が出て行ってから暫くすると、山の遠くで、木々が揺れる音がした。
- やがて男は沢山の赤い木の実を抱えて帰ってきた。
- 男は言った。
- 「これを食べたら今日は寝よう。僕より先に目が覚めても、僕の顔を見ないでくれよ」
- 翌朝少女が目を覚ますと男はまだ眠っていた。
- 少女は男との約束を守って横になったまま待っていたが、やがて再び眠りにおちた。
- 男の声で少女は目覚めた。外を見ると日がすでに傾いていた。
- 「今日は緑の木の実を食べよう。待っていて」
- そう言って、洞窟の外へ出て行った。
- 男が出て行ってから暫くすると、山の遠くで、木々が揺れる音がした。
- 日がすっかり暮れた頃、男は沢山の緑の木の実を抱えて帰ってきた。
- 男は言った。
- 「これを食べたら今日は寝よう。僕より先に目が覚めても、僕の顔を見ないでくれよ」
- 少女は家族が心配しているので早く帰りたいと言うと、
- 男は大きなあくびをして少女の頭を叩いた。
- すると少女は、家族のこと、家のことをきれいさっぱり忘れてしまった。
- そして二人で緑の木の実を食べて、眠りについた。
- 次の日も二人は日が傾く頃に目覚め、男は木の実を取りに行き二人で食べて、また眠った。
- そんな暮らしが何日も続き、やがて少女は男がイノムーであること気がついた。
- 冬が近づく頃、イノムーは洞窟の奥を掘り出した。そして少女に言った。
- 「薪なる木を集めておいで。できる高い木の、上のほうの枝を折っておいで」
- 少女はイノムーの言う通りにしようとしたが、高い木は恐ろしかったので、低い木にしか登れなかった。
- 枝をいくつか集めて帰ると、イノムーは言った。
- 「だめだよ、もっと高い木の枝でなければ人間に見つかってしまう」
- 雪が降り始めると、二人は深くなった穴の奥で、眠りながら暮らした。
- 食べ物はたくさんあった。 たまに目覚めて食事をし、また眠った。
- ある日に目覚めると少女は一人の子供を抱いていた。
- 何日かの昼と夜が過ぎ、少女が目覚めると、イノムーは言った。
- 「君のお父さんが君を捜している。だけど君は私の妻だから返すわけにいかない。彼と戦わなければいけない」
- 少女は言った。
- 「やめてください。お父さんを殺さないでください。家族を殺されてどうしてあなたと生きていけるのです。あなたいい人です。だから外に出ないでここで眠りましょう」
- 「分かった。ここで眠ろう」
- 男はうなずいた。
- 次の日の夜、イノムーは少女を起こして言った。
- 「君のお父さんがすぐ側にいる。外を見ておいで」
- 少女が外へ出ると辺りは吹雪いていた。少女は低い木に登り、その枝を折った。
- 洞窟に戻ってくると、イノムーは歌っていた。聞いたことのない歌だった。
- 「君は木の枝を折ってきたな。間もなくここに君のお父さんがやってくる。これから私は君のお父さんに悪いことをしに行く。もし私が殺されたら、私の目と声と心を貰うんだ。そして私の殺された場所に火を焚いて、それを燃やして欲しい。そして燃え尽きるまでこの歌を歌って欲しい」
- 少女は言った。
- 「やめてください。お父さんを殺すなんて。やめてください。あなたが殺されてください」
- 「さよなら。二度と会う事もない」
- そう言うと、イノムーは外へと出て行った。
- しばらくすると、大きな物音がして、少女は外を覗いた。
- すると少女の父親がイノムーを殺していた。
- 少女は外に飛び出して、父親に言った。
- 「お父さんは息子を殺しました。私は今まで彼と暮らしてきました。彼は私の夫です。夫の、イノムーの目と心と声を私に下さい」
- 少女はイノムーが殺された場所で火を焚いて、目と心と声を炎にくべた。
- そして燃え尽きるまでの間、イノムーに習った歌を歌った。
- 少女の父は、村のはずれに小屋をつくって、少女と子供を住まわせた。
- やがて春が来た。
- 村の若者たちは、少女とその子供をよくからかい虐めた。
- それは日増しに酷くなり、あるとき、イノムーの毛皮を被せようとした。
- 少女は家に戻り、両親に訴えた。
- 「私たちをからかわないように、村の人たちに言ってください。あの毛皮を被れば、きっと私たちはイノムーになってしまいます。もう今だって半分イノムーなのです」
- 両親が話をしても、村の者たちは聞き入れることはなかった。
- それどころか、ますます面白がって、少女と子供にイノムーの毛皮をかぶせた。
- すると少女と子供は大きな声で嘶き、二人は森の奥へと消えていった。
- 二人は二度と村に戻ってこなかった。
- そういうことがあって人々は知った。
- イノムーは半分人間なのだと。
- pmythオクタン0714
- テーマ:文化/関係性の崩壊
- ポケモンと人の境が曖昧だった頃。
- 海辺の村に一人の男がいた。
- ある日男が海岸を歩いていると、砂浜に打ち上げられた牝のオクタンがいた。
- 男はオクタンと交わって、それを海に投げ捨てた。
- 次の日も同じ場所に行くと、同じオクタンがいた。
- 男はまたオクタンと交わって、同じように海に投げ捨てた。
- 何日か過ぎた晩。男は夢を見た。夢の中であのオクタンが言った。
- 「わたしはあなたのところへいくことはできませんが、あなたの赤ん坊を届けます。あなたとわたしの赤ん坊です」
- 翌朝、男はオクタンと出会った場所へ行った。
- そこに男の子がいた。
- 男はその子を連れて帰り、育てた。
- 月日が流れ、男の子は青年になり、父親は死んだ。
- 青年はいつもひとりぼっちだった。
- ある日青年が海岸を歩いていると、遠くの方で、大勢の人が遊んでいるのが見えた。
- 人たちは皆、その手にとても大きな刀を持って舞踊っていた。
- 青年は、人々の方へ近寄っていった。
- すると海岸にはサメハダーが戯れていた。
- 青年がさらにそばに近づこうとすると、サメハダーたちは一斉に海に飛び込んでいった。
- ただ、一匹のサメハダーだけはすぐに行ってしまわず、辺りを三度見回してから、去っていった。
- サメハダー達が遊んでいた場所に行くと、そこに大きく刀が落ちていた。
- それは、見た事もない形をしていて、とても鋭く尖っていた。
- 青年はその刀を持ち帰った。
- 次の日。青年は刀を持って森へ行った。
- 森を歩いていると、リングマに出会った。
- ためしに青年は刀でリングマの口を斬りつけた。簡単に口が落ちた。
- こんどは刀でリングマの目玉を突いてみた。簡単に目が潰れた。
- 最後に青年は刀でリングマの胸を突いた。リングマはあっけなく死んだ。
- その日青年はリングマを三十匹殺した。
- それから青年はいつも刀を持ち歩き、出会ったポケモンを傷つけてみたり、体の一部を切ってみたりして遊んだ。
- ある秋のこと、青年は薪を探している間に道に迷ってしまった。
- しばらく歩くと、リングマの巣穴に出くわした。
- 見ると中に年老いたリングマが横たわっていた。
- 年老いたリングマは青年を見て言った。
- 「入ってこい」
- 青年は迷ったが、外が暗くなってきたので穴の中に入った。
- 間もなくすると巣穴に人が次々と入ってきた。
- やがて部屋の中は人でいっぱいになった。
- 見ると人の顔はみな傷だらけで、目がない者もいた。
- 人々はおしゃべりをしていたが、青年は無視して眠った。
- ある時目覚めると、隣に年老いたリングマが寝ていた。
- 青年はまた眠った。
- 再び目が覚めると、また沢山の人々がいて、何事かを喋っていた。
- 青年はまた無視して眠った。
- やがて春になると、年老いたリングマが言った。
- 「家に帰りたいか。では家に返してやろう。家に帰ると、じき村の近くでホエルオーが見つかるだろう。そこへ行け。わたしたちは一人の男を遣る。おまえは刀を置いて、証人を連れて行け。どうしてお前はあんなことを、顔を切ったり鼻を削いだりしたのだ」
- 年老いたリングマが青年を村まで送った。
- 村に帰ると青年、人々に起こったことをすっかり話した。
- そして翌朝青年は、村人を連れ、海岸に向かった。
- 海岸を歩いていると、大きなホエルオーがいた。
- そしてその近くの砂浜にヒメグマがいた。
- 青年に気がつくとヒメグマは森に隠れ、代わりに大きなリングマが出てきた。
- リングマが襲いかかってくると、青年は隠し持っていた刀を抜こうとした。
- しかし、刀がひっかかってうまく抜けなかったので、青年もリングマに掴み掛かった。
- 青年とリングマは組み合って、拳で互いの顔を殴り合った。
- お互いの首をありったけの力で首を絞め合った。
- そして、そのままお互いの息の根を止め、重なるように倒れた。
- 村人は、帰って見たことを人々に話して聞かせた。
- pmythギャロップ0714
- テーマ:人がポケモンを狩ること/ネイティブアメリカンのエコロジー哲学
- 人とポケモンの境界が曖昧だった昔。
- 山の麓に草原と大きな湖があり、湖の西と東に二人の男が暮らしていた。
- 二人の男はポケモンを狩って暮らしていた。
- 西に暮らす男は、腕は未寿だが、狩りの掟をよく守る男だった。
- 東に暮らす男は、狩りの腕は良かったが、狩りの掟を疎かにする男だった。
- ある日西に暮らす男が狩りに出かけると、草原にギャロップがいた。
- 豊かなたてがみが、太陽の光を浴びて一層美しく輝いていた。
- 西に暮らす男が弓を構えると、ギャロップは言った。
- 「今、私たちには子供がいます。私が死ねばこの草原から私たちがいなくなってしまうでしょう」
- 西に暮らす男は弓を下げて言った。
- 「ではお前を殺すのは止めよう。ただ、その美しいたてがみが欲しいので、私の妻になって欲しい」
- ギャロップは西に暮らす男の妻になった。
- 二ヶ月ほどの時が過ぎて、草原にポニータが見られるようになった頃。
- 西に暮らす男は、妻のギャロップの背に乗せられ、草原を走っていた。
- やがて、沢山のギャロップとポニータが休んでいる場所にたどり着くと、妻は言った。
- 「彼らは私の夫です。あなたが必要なら狩りなさい。大切に扱えば、彼らは死ぬわけではありません。ただし、メスのギャロップとポニータは殺さないでください。メスのギャロップは私の妹、そしてポニータは私の子供です。つまり、あなたはメスのギャロップはあなたの義理妹、ポニータは子供です」
- 数日が経ったある日。東に暮らす男が狩りに出かけていた。
- 草原に出ると、そこにポニータを見つけた。
- 男はすぐさま矢を撃って、ポニータを仕留めた。
- さらに獲物を探していると、ギャロップに出会った。
- メスのギャロップだった。
- ギャロップは何か言おうとしたが、東に暮らす男は無視して矢を射った。
- 東に暮らす男は、仕留めたギャロップのたてがみを体から切り分けた。
- そして美しいたてがみを西に暮らす男に自慢しようと、それを頭に巻いて家へと向かった。
- やがて歩き疲れた東に暮らす男は、湖のほとりに立つ大きな木の下で休むことにした。
- 西に暮らす男と妻のギャロップが湖をほとり歩いていると、大きな木の陰にギャロップのたてがみが見えた。
- 「彼はオスです。子供もいないので、あなたが必要なら狩りなさい」
- 妻がそう言うので、ギャロップを矢で射った。
- 仕留めた獲物に駆け寄ってみると、頭にギャロップのたてがみを巻いた、東に暮らす男が倒れていた。
- 「このたてがみを持って帰りなさい。そして、ギャロップを狩る時は、私の言ったことを守ってください」
- ギャロップはそう言うと、西に暮らす男と別れを告げ、草原へ去っていった。
- pmythケッキング
- あるところに猟師の家族がおり、その少女が山へ薪を集めに出かけた。
- 山の奥にはよく乾いた枯れ木が見つかったので、少女はどんどん奥深くへ進んでいった。
- 気がつくと日は傾いていて、少女は道に迷っていた。
- 辺りにはケッキングの糞が転がっており、少女は不安になった。
- すると森の向こうから一人の男が洗われた。
- 男の顔は、村に住む男の誰にも似ていなかったがとてもハンサムだった。男は言った。
- 「君は道に迷っているのだろう?僕は山を降りる道を知っているけれど、君の足では真夜中になってしまう。明日の朝連れて帰ってあげるから、今日は僕のところで休まないか?」
- 少女はしかたなく男の言う通りにすることにした。男は少女の手をひいて歩きだした。
- 日が暮れる頃大きな洞穴にたどり着いた。
- 「ここが僕の家だ。おなかが空いているだろ? 待っていて」
- 男はそう言うと、洞窟の外へ出て行った。
- 男が出て行ってから暫くすると山の遠くで木々が揺れる音がした。
- やがて男は沢山の赤い木の実を抱えて帰ってきた。
- 男は言った。
- 「これを食べたら今日は寝よう。僕より先に目が覚めても、僕の顔を見ないでくれよ」
- 翌朝少女が目を覚ますと男はまだ眠っていた。
- 少女は男との約束を守って横になったまま待っていたがやがて再び眠りにおちた。
- 男の声で少女は目覚めた。外を見ると日がすでに傾いていた。
- 「今日は緑の木の実を食べよう。 待っていて」
- そう言って、洞窟の外へ出て行った。
- 男が出て行ってから暫くすると山の遠くで木々が揺れる音がした。
- 日がすっかり暮れた頃、男は沢山の緑の木の実を抱えて帰ってきた。
- 男は言った。
- 「これを食べたら今日は寝よう。僕より先に目が覚めても、僕の顔を見ないでくれよ」
- 少女は家族が心配しているので早く帰りたいと言うと、男は大きなあくびをして少女の頭を叩いた。
- すると少女は、家族のこと、家のことをきれいさっぱり忘れてしまった。
- そして二人で緑の木の実を食べて、眠りについた。
- 次の日も二人は日が傾く頃に目覚め、男は木の実を取りに行き二人で食べて、また眠った。
- そんな暮らしが長い間続き、少女はやがて男がケッキングであること気がついた。
- 季節が巡り寒くなりはじめた頃、ケッキングは洞窟の奥を掘り出した。そして少女に言った。
- 「薪なる木を集めておいで。できる高い木の、上のほうの枝を折ってくるんだ」
- 少女はリングマの言う通りにしようとしたが、恐かったのでできるだけ低い木を選んで登った。
- 木に登るのは生まれて初めてだったのに、少女はとても簡単に登ることができた。
- 枝をいくつか集めて帰ると、ケッキングは言った。
- 「だめだよ、もっと高い木の枝でなければ人間に見つかってしまう」
- 雪が降り始める頃、二人は深くなった穴の奥で、眠りながら暮らした。
- 食べ物はたくさんあった。 たまに目覚めて、また眠った。
- ある日に目覚めると少女は一人の子供を抱いていた。
- 何日かの昼と夜が過ぎ、少女が目覚めると遠くの方で何かが吠えていた。
- ケッキングは少女に言った。
- 「君の父と兄弟が君を捜している。君は私の妻だから返すわけにいかない。彼らと戦わなければいけない」
- 少女は言った。
- 「やめてください。私の家族を殺さないでください。家族を殺されてどうしてあなたと生きていけるのです。あなたいい人です。だから外に出ないでここで眠りましょう」
- 「分かった。ここで眠ろう」
- 男はうなずいた。
- その晩の遅く、ケッキングは少女を起こして言った。
- 「君の家族がすぐ側にいる。外を見ておいで」
- 少女が外へ出ると辺りは吹雪いていた。少女は低い木に登りその枝を折った。
- 洞窟に戻ってくると、ケッキングは歌っていた。聞いたことのない歌だった。
- 「君は木の枝を折ってきたな。間もなくここに君の家族がやってくる。私が殺されたら、私の目と声と心を貰うんだ。私の殺された場所に火を焚いて、それを燃やすんだ。そして燃え尽きるまでこの歌を歌うんだ」
- そう言うと、ケッキングは、洞窟にある大きな岩集め始めた。
- 「やめてください。私の家族を殺すんですか。やめてください。あなたが殺されてください」
- 「さよならだ。二度と会う事もない」
- そう言うと、ケッキングは外へと出て行った。
- しばらくすると、大きな物音がして、少女は外を覗いた。するとすでに父親と弟がケッキングを殺していた。
- 少女は外に飛び出して、父に言った。
- 「お父さんは息子を殺しました。 私は今まで彼と暮らしてきました。彼は私の夫です。そのケッキングの目と心と声を私に下さい」
- 続けて弟に言った。
- 「おまえは義兄を殺した。家族を殺してしまったのよ。そのケッキングの目と心と声を私によこしなさい」
- 少女はケッキングが殺された場所で火を焚いて、目と心と声を炎にくべた。
- そしてが燃え尽きるまでの間、ケッキングに習った歌を歌った。
- 少女の父は、家から離れた場所に小屋をつくって、少女と子供を住まわせた。
- やがて春が来た。
- 弟は少女と子供にケッキングの格好をさせてからかおうとした。
- 弟は牝と雄のケッキングを殺し、その皮を少女と子供にかぶせようとした。
- 少女は家に帰り、母親に訴えた。
- 「やめさせてください。皮をかぶれば私たちはケッキングになってしまいます。もうすでに半分ケッキングなのです。体中に長い毛が生えています」
- しかし弟は面白がって、少女と子供にケッキングの皮をかぶせた。
- 少女の体中の毛がみるみる伸び、大きく吠えた。突然、少女はケッキングになってしまった。
- 少女にはもうどうしようもなかった。 ケッキングになった少女は弟を殺し、母親も殺した。
- ただ、ずっと優しかった父親だけは殺さなかった。少女の顔から涙が溢れ出た。
- ケッキングになった子供を連れて、少女はいなくなった。
- そういうことがあって、ケッキングは半分人間になった。
- 人々がケッキングの肉を食べないのはそういう訳だった。
- ケッキングは半分人間なのだ。
- pmythケンタロス
- 狩人の家族がいた。
- 年老いた父と母と兄と妹の家族だった。
- 母と妹はいつものように森に木の実を集めに出かけた。
- 父と兄はいつものように狩りにでかけた。
- いつものように山を越え、野原に出るとそこに一匹のケンタロスがいた。
- ケンタロスは、物凄い勢いで二人に向かって突進してきた。
- 怯えた兄はその場に立ちすくんでしまった。
- 父親はケンタロスの前に飛び出して兄を庇って怪我をした。
- しかし、父は素早く矢を放つと、ケンタロスはその場に倒れた。
- 父は仕留めた獲物に近づくと、まずその角を切った。
- そして祈りを捧げて、空に投げた。
- それから大きなナイフで皮と肉を切り分けながら、兄に言った。
- 「ケンタロスを仕留められたら、必ず始めに角を切れ。そして祈りを忘れるな」
- 次の日。母と妹はいつものように森に木の実を集めに出かけた。
- 年老いた父は怪我をしていたし、昨日仕留めた獲物がまだあったので、休むよう言った。
- だが、早く一人前になりたい兄は狩りにでかけた。
- 山に入ると、そこに一匹のオタチがいた。
- 兄は素早く矢を放ち、オタチを仕留めた。
- 兄は昔父に習った通りに、仕留めたオタチの尾を切って、祈りを捧げて土に埋めた。
- そして皮と肉を切り分けて、再び山の奥へと進んだ。
- 森の途中にある湖で、オタチを捌いた刀を洗っていると、湖のほとりにマリルが現れた。
- 兄は素早く弓を構えて矢を放ち、マリルを仕留めた。
- 兄は昔父に習った通りに、仕留めたルリリの尾を切り、祈りを捧げて土に埋めた。
- そして皮と肉を切り分けて、再び山の奥へと進んだ。
- 山を越えて、野原に出るとそこに、またオタチがいた。
- 兄は素早く矢を放ったが、外れ、オタチは逃げていった。
- 野原を進むとそこに一匹のケンタロスがいた。
- 兄は素早く矢を放ち、ケンタロスを仕留めた。
- 父は仕留めた獲物に近づくと、まずはその角を切って祈りを捧げた。
- そして、祈りを捧げて土に埋めた。
- そして皮と肉を切り分け、家へと帰った。
- 夜が更ける頃、家に着くと、部屋中が荒らされていた。
- そこら中にケンタロスの足跡があった。
- 部屋の奥に父親が倒れていた。
- 父は言った。
- 「お前がケンタロスとの約束を守らなかったので、女たちに角が生えて、ケンタロスになってしまった。ケンタロスの牝は半分人間なのだ。角を切れば人間、角を伸ばせばケンタロスなのだ。だけどもう2人は全部ケンタロスになってしまった」
- 翌朝、親子が野原に行くと、そこに二匹のケンタロスがいた。
- 二人を見ると、二匹は野原の向こうに駆けていった。
- pmythナマケロ0714
- テーマ:現在のポケモン世界をベースにした原罪
- まだポケモンと人の境が曖昧だった昔。
- あるところに女とその仲間達がいた。
- 彼女たちは毎日退屈だったので、近くの森に棲むナマケロをよく捕まえた。
- そして、捕まえたナマケロをいたずらで殺してみたり、目玉を潰したり、耳を削いだりして遊んだ。
- ある日女が一人で森を歩いていると、木にナマケロがぶら下がっていた。
- 女はナマケロを捕まえてやろうと木に登ったが、足を滑らして怪我をした。
- そこにヤルキモノが現れた。
- そのヤルキモノは耳がちぎれていた。
- 驚いた女は逃げようとしたが、怪我をした足が痛くて、動けなかった。
- 耳のちぎれたヤルキモノは、女を見ると突然襲いかかってきた。
- 女は気を失った。
- 目覚めると、女は見たことのない場所にいた。
- 目の前に透明な湖が広がり、それを囲む木々に
- 沢山のナマケロとヤルキモノがぶら下がっていた。
- ポケモンたちはみな、体のどこかが傷ついていた。
- それは女と仲間達にやったものだった。
- よく見ると、木々にぶら下がっているナマケロの中には死骸もあった。
- それは女と仲間達が殺し捨てたナマケロの死骸だった。
- ナマケロたちはその死骸を湖に投げ込んでいた。
- 女は恐くなって逃げ出そうとしたが、そこにケッキングが現れた。
- ケッキングは耳がちぎれていた。
- 女は目の前のケッキングがさっきのヤルキモノだと気がついて、
- 恐ろしくなってまた気を失った。
- 女が再び目覚めると、そこは家の近くの森の入り口で、周りに仲間がいた。
- 仲間たちは女を背負って家へ連れて帰った。
- それからしばらくして女の子は子供を生んだ。
- それはナマケロだった。
- 女の子はそれを捨てようとしたが、できなかった。
- それから仲間たちと会うのを止め、ナマケロを育てた。
- 女を心配した仲間達が、女の子の家の近くにいくと、ナマケロが寝ていた。
- 女の子供のナマケロだった。
- 仲間はいつものようにナマケロを捕まえ、胸を突いて、殺した。
- その死骸を持って女の家へと向かった。
- 女は殺されたナマケロを見て、大いに悲しんだ。
- ナマケロの死骸を奪い、森の奥へと駆けていった。
- 驚いた仲間たちは、その後を追いかけていった。
- 深い森の中を進んでいくと、突然辺りが開け、そこに透明な湖が現れた。
- 湖の周りには、沢山のナマケロとヤルキモノがいた。
- 女は湖の前に立つと、ナマケロの亡骸とともにそこに身を投げた。
- それから仲間達は、死んだ女と同じように、ナマケロを仲間として付き合うようになった。
- pmythバクフーン
- テーマ:人とポケモンの関係/人間的(らしい)思考法
- 昔。ポケモンと人間の境が曖昧だった頃。
- あるところに村があった。
- ある日、その村の少女が山へ薪を集めに出かけた。
- 山の奥にはよく乾いた枯れ木が見つかったので、少女はどんどん奥深くへ進んでいった。
- 気がつくと日は傾いていて、少女は道に迷っていた。
- 辺りにはバクフーンの糞が転がっており、少女は不安になった。
- すると森の向こうから一人の男が洗われた。
- 男の顔は、村に住む男の誰にも似ていなかったが、とてもハンサムだった。
- 男は言った。
- 「君は道に迷っているのだろう?僕は山を降りる道を知っているけれど、君の足では真夜中になってしまう。明日の朝連れて帰ってあげるから、今日は僕のところで休まないか?」
- 少女はしかたなく男の言う通りにすることにした。
- 男は少女の手をひいて歩きだした。
- 日が暮れる頃大きな洞穴にたどり着いた。
- 「ここが僕の家だ。おなかが空いているだろ? 待っていて」
- 男はそう言うと、洞窟の外へ出て行った。
- 男が出て行ってから暫くすると、山の遠くが赤く光り、木々が揺れる音がした。
- やがて男は沢山の赤い木の実を抱えて帰ってきた。男は言った。
- 「これを食べたら今日は寝よう。僕より先に目が覚めても、僕の顔を見ないでくれよ」
- 翌朝少女が目を覚ますと男はまだ眠っていた。
- 少女は男との約束を守って横になったまま待っていたが、やがて再び眠りにおちた。
- 男の声で少女は目覚めた。外を見ると日がすでに傾いていた。
- 「今日は緑の木の実を食べよう。待っていて」
- そう言って、洞窟の外へ出て行った。
- 男が出て行ってから暫くすると、山の遠くが赤く光り、木々が揺れる音がした。
- 日がすっかり暮れた頃、男は沢山の緑の木の実を抱えて帰ってきた。
- 男は言った。
- 「これを食べたら今日は寝よう。僕より先に目が覚めても、僕の顔を見ないでくれよ」
- 少女は家族が心配しているので早く帰りたいと言うと、
- 男は大きなあくびをして少女の頭を叩いた。
- すると少女は、家族のこと、家のことをきれいさっぱり忘れてしまった。
- そして二人で緑の木の実を食べて、眠りについた。
- 次の日も二人は日が傾く頃に目覚め、男は木の実を取りに行き二人で食べて、また眠った。
- そんな暮らしが続き、やがて少女は男がバクフーンであること気がついた。
- 冬が近づく頃、バクフーンは洞窟の奥を掘り出した。そして少女に言った。
- 「薪なる木を集めておいで。できる高い木の、上のほうの枝を折っておいで」
- 少女はバクフーンの言う通りにしようとしたが、高い木は恐ろしかったので、低い木にしか登れなかった。
- 枝をいくつか集めて帰ると、バクフーンは言った。
- 「だめだよ、もっと高い木の枝でなければ人間に見つかってしまう」
- 雪が降り始めると、二人は深くなった穴の奥で、眠りながら暮らした。
- 食べ物はたくさんあった。 たまに目覚めて食事をし、また眠った。
- ある日に目覚めると少女は一人の子供を抱いていた。
- 何日かの昼と夜が過ぎ、少女が目覚めると、バクフーンは言った。
- 「君のお父さんが君を捜している。だけど君は私の妻だから返すわけにいかない。彼と戦わなければいけない」
- 少女は言った。
- 「やめてください。お父さんを殺さないでください。家族を殺されてどうしてあなたと生きていけるのです。あなたいい人です。だから外に出ないでここで眠りましょう」
- 「分かった。ここで眠ろう」
- 男はうなずいた。
- 次の日の夜、バクフーンは少女を起こして言った。
- 「君のお父さんがすぐ側にいる。外を見ておいで」
- 少女が外へ出ると辺りは吹雪いていた。少女は低い木に登り、その枝を折った。
- 洞窟に戻ってくると、バクフーンは歌っていた。聞いたことのない歌だった。
- 「君は木の枝を折ってきたな。間もなくここに君のお父さんがやってくる。これから私は君のお父さんに悪いことをしに行く。もし私が殺されたら、私の目と声と心を貰うんだ。そして私の殺された場所に火を焚いて、それを燃やして欲しい。そして燃え尽きるまでこの歌を歌って欲しい」
- 少女は言った。
- 「やめてください。お父さんを殺すなんて。やめてください。あなたが殺されてください」
- 「さよなら。二度と会う事もない」
- そう言うと、バクフーンは外へと出て行った。
- しばらくすると、大きな物音がして、少女は外を覗いた。
- すると少女の父親がバクフーンを殺していた。
- 少女は外に飛び出して、父親に言った。
- 「お父さんは息子を殺しました。私は今まで彼と暮らしてきました。彼は私の夫です。夫の、バクフーンの目と心と声を私に下さい」
- 少女はバクフーンが殺された場所で火を焚いて、目と心と声を炎にくべた。
- そして燃え尽きるまでの間、バクフーンに習った歌を歌った。
- 少女の父は、村のはずれに小屋をつくって、少女と子供を住まわせた。
- やがて春が来た。
- 村の若者たちは、少女とその子供をよくからかい虐めた。
- それは日増しに酷くなり、あるとき、バクフーンの毛皮を被せようとした。
- 少女は家に戻り、両親に訴えた。
- 「私たちをからかわないように、村の人たちに言ってください。あの皮を被れば、きっと私たちはバクフーンになってしまいます。
- もう今だって半分バクフーンなのです」
- 両親が話をしても、村の者たちは聞き入れることはなかった。
- それどころか、ますます面白がって、少女と子供にバクフーンの毛皮をかぶせた。
- すると少女と子供は大きな声で吠えた。そして、二人は森の奥へと消えていった。
- 二人は二度と戻ってこなかった。
- そういうことがあって人々は知った。
- バクフーンは半分人間なのだ。
- pmythラプラス
- ある村に一人の男がいた。
- ある日男は、オドシシを獲りに出かけた。
- 海岸を歩いていると、砂浜にラプラスがいた。
- 男はラプラスと交わってから、それを海に帰した。
- 次の日も同じ場所に行くと、同じラプラスがいた。
- 男はまたラプラス交わり、同じように海に帰した。
- 何日か過ぎた晩。男は夢を見た。夢の中であのラプラスが言った。
- 「わたしはあなたのところへいくことはできませんが、あなたの赤ん坊を届けます。あなたとわたしの赤ん坊です」
- 翌朝、男はラプラスと出会った場所へ行った。
- そこに男の子がいた。
- 男はその子を連れて帰り、育てた。
- 月日が流れ、男の子は青年になり、父親は死んだ。
- 青年はひとりぼっちだった。
- ある日青年が狩りに出かけると、海岸に大勢の人がいて、遊んでいるのが見えた。
- 遊びながら仲良く一つの煙草を回し呑んで吸っていた。
- 青年は森に隠れて釣り針を作り、それからその近くにそっと近寄った。
- その時見ると、海岸にはサメハダーが戯れていた。
- 青年がさらにそばに近づくと、サメハダーたちは一斉に水の中に消えた。
- ただ、一匹のサメハダーだけはすぐに行ってしまわず、辺りを三度見回してから、去っていった。
- サメハダー達が遊んでいた場所に行くと、そこに大きな剣があった。
- 青年は剣を持ち帰った。
- 青年は剣を持って狩りに行き、それでリングマを三十匹殺した。
- リングマの顔を斬りつけた。
- リングマの鼻を削いだ。
- 青年が漁に行くとたくさんのコイキングが捕れた。
- 森で罠を仕掛ければ五十匹のオタチが獲れた。
- 青年はいつも剣を持ち歩いていた。剣だけで弓も槍も持たなかった。
- ある秋のこと、青年は薪を探している間に道に迷ってしまった。
- 混乱して何処に行けばいいか分からなくなってしまった。
- しばらく歩くとリングマの巣穴に出くわした。
- 見ると、中に年老いたリングマが横たわっていた。
- 年老いたリングマは言った。
- 「さあ、入ってこい、私と一緒に横になれ」
- リングマと寝るのはおっかなかったが、外が暗くなってきたので穴の中に入った。
- リングマの側で寝た。
- するとリングマの巣穴は人間の家になり、家に次々と人が入ってきた。
- 部屋の中は人でいっぱいになった。
- 青年が見ると、人の顔はみな傷だらけで鼻がない者もいた。
- 青年は眠った。
- 目が覚めると青年は 年老いたリングマと二人で寝ていた。
- もう一度眠ると夢の中で人々が集まり、仲良く煙草を回し呑んで吸っていた。
- 春になった。
- 年老いたリングマが言った。
- 「家に帰りたいか。家に帰ると、じき村の近くでホエルオーが見つかるだろう。そこへ行け。わたしたちは一人の男を遣る。おまえは剣を置いて、二人の証人を連れて行け。どうしてお前はあんなことを、顔を切ったり鼻を削いだりしたのだ」
- 青年は目を覚まして、リングマの穴から出た。
- 年老いたリングマも一緒に出て青年を村まで送った。
- 村に帰ると人々は青年にどこに行っていたかを聞いた。
- 青年はあったことをすっかり話した。
- 翌朝青年は、二人の村人を連れて、海岸に向かった。
- 死んだホエルオーをヒメグマが食べていた。
- 人に気がつくとヒメグマは森に隠れ、代わりに大きなリングマが出てきた。
- 青年とリングマは組み合って、拳で戦い、互いの顔を殴り合った。
- リングマは森のほうへ逃げたがそのはずれで死んだ。
- 青年も死んだ。
- 二人とも死んだ。
- 証人である二人の村人は、村に帰ってすべてを語った。
- pmythリングマ1
- 山の裾野に広がる森があり、その麓に兄弟が暮らしていた。
- 二人は木の実とリングマを獲って暮らしていた。
- 木の実は短い夏のあいだだけ実り、冬には枯れて深い雪に覆われた。
- リングマは、夏の間は小さくか弱いヒメグマだったが、冬になると大きく逞しいリングマになった。
- リングマの肉を食べるとても力がついた。リングマの毛皮は暖かく、体にまとえば、どんな厳しい寒さをしのぐ事ができた。
- 兄は狩りの名人だったので、夏も冬も毎日獲物を家に持って帰った。
- 弟は狩りの腕は未熟で、木の実ばかりを家に持って帰った。
- 暑い夏のある日。弟は森に出かけた。
- 森の中に美しいリングマがいた。
- 豊かな毛が太陽の光を浴びて美しく輝いていた。
- 弟が急いで弓をかまえるとリングマは言った。
- お前は何故こんなに太陽が照りつける日に私の毛を必要とするのだ。
- お前は何故ここに沢山の木の実があるのに私の肉を必要とするのだ。
- あなたの兄が家族を殺してしまうのでこの森にはもう私以外に牝はいない。
- 私が死ねば私たちはいなくなってしまう。
- 弟は弓を下げて言った。
- ではお前を殺すのは止める。だがその美しい毛の側にありたい。私と一緒にいてほしい。
- リングマは弟の妻になった。
- 弟とリングマは共に木の実を採って回った。
- リングマは人の知らない木の実のありかを弟に教えた。
- その代わりに弟は、兄が狩りに出る日をリングマたちに教えた。
- 夏のあいだ兄弟はヒメグマとリングマの肉を口にすることはなかった。
- やがて冬が訪れるとリングマは雄を連れて弟の前に現れた。
- リングマは言った。
- 彼らはすでに私と子を成しました。だからあなたたち兄弟の生きる糧にしてください。
- 弟は仲間を殺し、毛皮を剥ぎ、肉を切り分けた。残った死骸は木の種とともに土に埋めた。
- 弟とリングマが感謝の祈りを捧げると、雪を割り、小さな木の芽が現れた。
- 弟の持ち帰る獲物のおかげで兄弟は凍えることも飢えることもなかった。
- しかし兄は、弟だけがいつも獲物を持ち帰ってくるのを快く思わなかった。
- 雪の降る晩。兄は狩りに出かけた。
- 山の裾野に広がる森の奥で、リングマが雪をかき分け食べ物を探していた。
- それは弟の妻のリングマだった。
- 豊かな体毛が月に照らされてぼんやりと光り、その姿は驚くほど巨大に見えた。
- 兄が弓を構えるとリングマは言った。
- お前は弟の持ち帰る肉があるから飢えていないだろう。
- お前は弟の持ち帰る毛皮があるから寒さに凍えることもないだろう。
- 兄は構わず矢を射った。
- 兄は獲物を携えて家に帰った。
- 兄が持ち帰った美しい毛皮と肉を見た弟は、外へと飛び出していった。
- 驚いた兄が後を追いかけると、弟は仕留めたリングマの死骸の前にいた。
- 美しい毛皮を剥がれ、肉をとられた死骸は、目と心と声しか残っていなかった。
- 弟はそれらを拾い集めると森の奥へと消えていった。
- 兄は大きな声で何度も呼び止めたが、弟は二度と戻ってくることはなかった。
- pmythリングマ2
- 村があった。
- 村一番の猟師は、一度狩りに出ると十匹のリングマを獲り、もっと沢山のヒメグマを獲った。
- その妻は夫が獲ってきたリングマとヒメグマの毛皮を剥ぎ、肉を捌いて売った。
- 毛皮と肉はとてもよい金になった。
- 妻は夫が狩りに出かけるたびに、もっと多くの獲物を獲ってくるように言った。
- 夫婦のあいだには一人の息子がいた。
- 父に似て狩りの得意な子供だった。
- 太陽が眩しい日。息子は朝から狩りに出かけた。
- しかし、いくら森を進んでもまるで獲物に出会えなかった。
- 日が傾く頃、ようやく一匹のヒメグマを見つけた。
- しかしヒメグマが余りに小さかったので追い払って、さらに山の奥に進んだ。
- そのうちに日は暮れ、息子は道に迷ってしまった。
- すると、またヒメグマに出会った。さっき出会ったヒメグマだった。
- 息子がまた追い払おうとすると、ヒメグマは手をつかみ走り出した。
- 息子はヒメグマに連れられるままに道を進み、村へとたどり着いた。
- 沢山のリングマが田畑を荒らし、そこに実った作物を食べていた。
- 沢山のリングマが家を壊し、火をつけて回っていた。
- 沢山の村人の死骸が辺りに転がっていた。
- ひときわ大きなリングマが、父を殺そうとしていた。
- 父は気を失っていたが、まだ生きていた。
- その傍らには、皮を剥がれ、肉を裂かれた母親が転がっていた。
- 息子は言った。
- おまえらが怒るのもしかたない。
- 俺の父さんが、お前の息子、父さん、爺さん、ひいじいさんを殺した。
- 俺の母さんが、お前の娘、母さん、婆さん、ひい婆さんの皮を剥いだ。
- でも仕方ないのだ。俺たちは、お前達の毛皮を着なければ寒くて死んでしまう。
- リングマは黙って聞いていた。
- それはお前らがコイキングを取るのと同じだ。ヒマナッツを食べるのと同じだ。
- たしかに俺の父さんと母さんはやりすぎた。
- でも、これからはあんな無茶なことはしない。俺はやりすぎない。だからお前達、もう許してくれ。
- 息子がそこまで言うと、大きなリングマが吠えた。すると森で出会ったヒメグマが現れた。
- 分かった。
- けれどもお前達に殺されて、この村で毛皮を剥がされた仲間達がまだここにいる。
- どこに行ったらいいか分からずに迷っている。
- お前に私の子供預ける。死んだ仲間たちを導くように、大切に育てるんだ。
- そう言うと、リングマは父の腕を噛み砕き、仲間達とともに山の奥へと去っていった。
- その日から息子はヒメグマと一緒に暮らした。
- 息子の方が歳上だったので、ヒメグマは息子の弟になった。
- 父は弓矢を握れなくなったので、代わりに息子が狩りに出かけた。
- 息子は、月に1度だけ狩りに出て、リングマを獲った。ヒメグマは獲らなかった。
- 残りの日は木の実を集めたり、父と一緒に畑を耕して暮らした。
- 月日が流れ、やがて息子は立派な青年に、ヒメグマは立派なリングマに成長した。
- 丸い月の晩。青年が狩りから帰ると、リングマが歌い、踊っていた。
- 誰も聞いたことのない歌、見たことのない踊りだった。
- リングマは言った。
- 明日になったら、村の真ん中に大きな火を焚いてください。
- 私を殺し、目と心と声をその火にくべてください。
- そして私のそれらが燃え尽きるまで、この歌を歌い、この踊りを踊ってください。
- 青年とリングマは、夜が白むまで歌い、踊った。
- 翌朝、青年は村人を呼び、リングマの言う通りに村の広場で大きな火を焚いた。
- 炎が十分に上がるのを見て、リングマが促した。
- 青年はリングマを殺した。
- その目と心と声を切り分けて、火の中にくべてから、歌い、踊りはじめた。
- 大きな煙があがり、それは山に向かって流れていった。
- 山々から沢山のリングマの遠吠えが聞こえた。
- やがてすっかり煙が尽きるまで、その遠吠えは山々に鳴り続いた。
- pmythリングマ0714
- テーマ:原罪/弱者のテロリズム/獲物への敬意
- まだ人がポケモンを食べ、ポケモンが人を食べていた頃。
- あるところに村があった。
- 村一番の腕を持つ猟師は、一度狩りに出ると十匹のリングマを獲り、もっと沢山のヒメグマを獲った。
- 獲ってきたリングマとヒメグマは、毛皮を剥ぎ、売った。
- 毛皮も肉もよい金になったので、妻は猟師にもっと多くの獲物を獲ってくるように言った。
- 猟師は妻の言う通り、毎日沢山のリングマとヒメグマを狩ってきた。
- あまりに沢山獲りすぎるので、毛皮も肉も売れ残ることがあった。
- 余った毛皮と肉は、燃やして捨てた。
- 猟師の夫婦には一人の息子がいた。
- ある日、息子は朝から狩りに出かけた。
- しかし、その日はいくら森を探してもまるで獲物に出会えなかった。
- 日が傾く頃、ようやく一匹のヒメグマを見つけた。
- しかしヒメグマが余りに小さかったので、追い払って、さらに山の奥に進んだ。
- そのうち日は暮れ、息子は道に迷ってしまった。
- すると、またヒメグマに出会った。さっき出会ったヒメグマだった。
- 息子がまた追い払おうとすると、ヒメグマは息子の手をひき、走り出した。
- 息子はヒメグマに連れられるままに道を進み、村へと帰ることができた。
- 帰ってきた村で、沢山のリングマが暴れていた。
- リングマが田畑を荒らしていた。実った作物を食い荒らしていた。
- リングマが家を壊し、火をつけて回っていた。
- 沢山の体を引き裂かれた村人の死骸が辺りに転がっていた。
- ひときわ大きなリングマが、父を殺そうとしていた。
- 父は気を失っていたが、まだ生きていた。
- その傍らには、皮を剥がれた母親が転がっていた。
- 息子は言った。
- 「怒るのもしかたない。俺たちがお前の家族を殺した。でもそれは仕方ないのだ。俺たちは、お前達の毛皮を着なければ寒くて死んでしまう。お前らの肉を喰わなければ死んでしまうんだ。それはお前らが木の実を取って喰うのと同じだ。土に掘って巣穴をつくるのと変わらない。たしかに父さんも母さんもみんなも。やりすぎた。もうこれからはあんなことはしない。俺はやりすぎない。だから、もう許してくれ」
- 息子がそこまで言うと、大きなリングマが吠えた。すると森で出会ったヒメグマが現れた。
- 「お前の言う事は分かった。けれどもお前達に殺されて、この村で毛皮を剥がされた仲間達がまだここにいる。どこに行ったらいいか分からずに迷っている。だからお前に私の子供預ける。死んだ仲間たちを導くように、大切に育てるんだ。これは約束だ」
- そう言うと、リングマは父の腕を噛み砕き、仲間達とともに山の奥へと去っていった。
- その日から息子はヒメグマと一緒に暮らした。
- 息子の方が歳上だったので、ヒメグマは息子の弟になった。
- 父は弓矢を握れなくなったので、代わりに息子が狩りに出かけた。
- 息子は、月に1度だけ狩りに出て、リングマを獲った。
- ヒメグマは獲らなかった。
- 月日が流れ、やがて息子は立派な青年に、ヒメグマは立派なリングマに成長した。
- 丸い月の晩。
- 青年が狩りから帰ると、リングマが歌い、踊っていた。
- リングマは言った。
- 「この踊りを終える頃、私は死ぬでしょう。明日になったら、村の真ん中に大きな火を焚いてください。そして、死んだ私の、目と心と声をその火の中にくべてください。そして私のそれらが燃え尽きるまで、この歌を歌い、この踊りを踊ってください」
- 青年とリングマは、共に歌い、踊った。
- 太陽が昇る頃、リングマは疲れて眠るように静かに息を引き取った。
- 青年は村人を呼び、リングマの言う通りに村の広場で大きな火を焚いた。
- リングマの死骸から、その目と心と声を切り分けた。
- それらを、火の中にくべ、歌い、踊りはじめた。
- 大きな煙があがり、それは山に向かって流れていった。
- 山々からリングマの遠吠えが聞こえた。
- やがてすっかり煙が尽きるまで、その遠吠えは山々に鳴り続いた。
- pmythリングマ0722
- まだ人とポケモンの境が曖昧だった昔。
- 北の果てに一つの村があった。
- 村一番の腕を持つ猟師は、リングマとヒメグマを獲って暮らしていた。
- 猟師は、一日に十匹のリングマを獲り、もっと多くのヒメグマを獲った。
- 仕留めたリングマたちの毛皮を剥いで、それを売って暮らしていた。
- 毛皮を剥いだ後の死骸は、村の外れの茂みに捨てた。
- 毛皮はよい金になったので、妻は猟師にもっと多くの獲物を獲ってくるように言った。
- 猟師はより多くの獲物を捕るために、新しい狩りの道具を手に入れた。
- それはとても鋭い刀だった。
- 刀を持って狩りに出かけると、リングマたちは酷く怯えたので、
- とても簡単に殺すことができた。
- そして、さらに多くの毛皮を手に入れられるようになった。
- しかし、あまりに沢山獲れすぎるので、やがて毛皮は売れ残るようになった。
- 売れ残った毛皮は、村の外れの草の茂みに捨てた。
- それでも猟師とその妻は、リングマたちを狩るのを止めず、毛皮をとり続けた。
- 猟師の夫婦には一人の息子がいた。
- 秋のある日。猟師の息子は父親の代わりに狩りに出かけた。
- 家を出るとき、父親は息子に刀を貸し与えた。
- しかし、息子がいくら森の中を探しても、リングマにもヒメグマにも出会えなかった。
- 息子はリングマたちは眠っているのかも知れないと思い、巣穴を探し、覗いて回った。
- しかし、どの巣穴の中にもリングマはいなかった。
- 太陽が沈み、月が顔を出す頃。
- 息子は狩りを諦めて、村へと帰る事にした。
- 息子が村のある方の空を眺めると、村の上の空が赤く輝いていた。
- 息子が村にたどり着くと、村中の家が燃えていた。
- そして村のいたるところで、沢山のリングマが暴れていた。
- リングマたちは、家々に火をつけて回った。
- そして、燃えさかる家の中から逃げ出した人々に襲いかかり、次々と殺して回った。
- 村の至る所に体を引き裂かれた村人の死骸が転がっていた。
- 息子は両親が心配になり、家へと急いだ。
- 家の前にたどり着くと、ひときわ大きなリングマが父を掴み、殺そうとしていた。
- その傍らには、皮を剥がれた母親の死骸が転がっていた。
- 息子が刀を構えると、リングマは叫ぶように言った。
- お前の父親は、眠っているあいだにわたしたちを殺す。
- だからわたしたちは眠ることもできない。
- お前の父親は、その刀が恐くて動けないわたしたちを殺す。
- だから私たちは逃げ出すこともできない。
- お前の父親は、毛皮を剥いだわたしたちを粗末にして捨てる。
- だからわたしの家族は、死んでしまってもまだこの村にいる。
- みんなどこへ行っていいか分からない。
- だから、わたしたちのところへ戻ってこない。
- 息子は刀を下げ、言った。
- 確かにお前の言う事はもっともだ。
- 確かにお前たちが怒るのも仕方ない。
- でも、僕たちだって仕方ないんだよ。
- 僕たちは、お前たちの毛皮を着なければここで生きていくことができない。
- 凍えて死んでしまう。だからお前たちが必要なんだ。
- それはお前たちに、木の実が必要なのと同じだ。
- コイキングが必要なのと同じだ。
- そう、きっと土を掘って、巣穴をつくるのとも変わらない。
- ただ、僕の父さんと母さんは、やりすぎだ。
- だけど、僕はやりすぎない。
- もうこれからはあんなことはしない。
- こんな刀もいらない。
- だからもう許してくれ。
- お父さんを殺さないでくれ。
- そう言って息子は刀を地面におもいっきり叩きつけた。
- すると刀は、音をたてて折れた。
- それを見たリングマは言った。
- わたしたちの家族は、まだここにいる。
- どこへ行けばいいか分からず、ここで迷っている。
- だから、お前にわたしの子供を預ける。
- お前は、その子と一緒に暮らすんだ。
- やがて大きくなったわたしの子供が、
- ここにいる家族たちを、わたしたちのところへ導くまで。
- 言い終わると、掴み続けていた父親の腕を噛み砕き、その場に降ろした。
- そしてリングマたちは村から去っていった。
- 次の日の晩。
- 村人達は死んだ身内を、村の近くにある大きな河に弔っていた。
- 大きな河の水面には、大きな月が映っていた。
- 息子も、母親の死骸に、母が好きだった綺麗な着物を着せて、河に沈めた。
- すると、母親の死骸の周りに沢山のコイキングが集まった。
- コイキングたちは母親を背負うようにして、月の映る河の向こうへ消えていった。
- 息子が家へと戻ると、家の前に一匹のヒメグマがいた。
- 両腕に沢山の木の実を抱えていた。息子はヒメグマを家に招きいれた。
- 息子の方が歳上だったので、そのヒメグマは息子の弟になった。
- 次の日からヒメグマの弟は、毎日木の実を採りに出かけた。
- 息子も一緒に出かけた。
- 採った木の実を持って帰り、それを大切にしまっておいた。
- やがて辺り一面が雪に覆われて、木の実が採れなく頃になると、
- ヒメグマの弟は毎日家で眠って暮らすようになった。
- 息子も一緒に眠って暮らした。
- 二人はたまに目覚めると、しまっておいた木の実を食べて、また眠った。
- あるとき息子が目覚めると、弟のヒメグマは立派なリングマに進化していた。
- それから間もなくして、春が訪れた。
- ある日。息子の父親が病気で死んだ。
- 日が暮れると息子は、母親と同じように父の亡骸を大きな河に弔いに行った。
- 大きな河の水面には、大きな月が映っていた。
- 父の死骸を河に沈めると、死骸の周りに沢山のコイキングが集まった。
- コイキングたちは、父親を背負うようにして、月の映る河の向こうへと泳ぎ出した。
- すると、川岸に一匹のリングマが現れた。
- リングマは、父親の周りに集まっているコイキングを一匹捕まえた。
- そしてそれをくわえ去っていった。
- 春になると、リングマの弟は息子を狩りに誘った。
- 息子は木で弓矢をつくってから、二人で出かけた。
- リングマの弟は、リングマたちが集まる場所に案内してくれた。
- そこはとても澄んだ湖のほとりで、その西側と東側にリングマたちが集まっていた。
- リングマの弟は、息子を東側のほとりに連れて行き、そして大きく吠えた。
- すると一匹の年老いたリングマが立ち上がり、息子に言った。
- 毛皮が必要ならば、ここにいるリングマを狩りなさい。
- だけど、西のほとりにいるリングマたち、そしてヒメグマは狩ってはいけない。
- 約束できるか?
- 約束できるなら、さあ、私を狩りなさい。
- 息子はうなずき弓を構えた。
- リングマは逃げることもせず、矢を浴びた。
- うちに帰ると、リングマの弟は、今日狩った獲物が誰なのかを教えてくれた。
- それはリングマの弟の、ひいおじいさんだった。
- 毛皮を剥いだ後の死骸は、綺麗な着物を丁寧に着せ、両親の死骸と同じように河に流した。
- 息子はそれから必要な時だけ狩りに出かけた。
- 約束を守り、湖の東のほとりにいるリングマだけを狩った。
- 獲物になったのは必ずオスのリングマだった。
- それからさらに何日が過ぎたある日の晩。
- 息子が薪を拾いから家に戻ると、弟のリングマが歌い、踊っていた。
- 息子に気がついた弟のリングマは言った。
- この踊りを終える頃、わたしは皆を連れていきます。
- 明日になったら、村の真ん中に大きな火を焚いてください。
- そして、私の、目と心と声をその火の中にくべてください。
- 私のそれらが燃え尽きるまで、この歌を歌い、この踊りを踊ってください。
- 息子とリングマは、夜明けまで、共に歌い、踊った。
- 太陽が昇る少し前、弟のリングマは眠るように静かに息を引き取った。
- 息子は弟のリングマの言う通りに、村の広場で大きな火を焚いた。
- 弟のリングマの死骸から、その目と心と声を切り分けた。
- それらを、火の中にくべ、歌い、踊りはじめた。
- 大きな煙があがり、それは山に向かって流れていった。
- 山々からリングマの遠吠えが聞こえた。
- やがてすっかり煙が尽きるまで、その遠吠えは山々に鳴り続いた。
- pmythリングマ0726
- まだ人とポケモンの境が曖昧だった昔。
- 北の果てに一つの村があった。
- 村一番の腕を持つ猟師は、リングマとヒメグマを獲って暮らしていた。
- 猟師は、一日に十匹のリングマを獲り、もっと多くのヒメグマを獲った。
- 仕留めたリングマたちの毛皮を剥いで、それを売って暮らしていた。
- 毛皮を剥いだ後の死骸は、村の外れの茂みに捨てた。
- 毛皮はよい金になったので、妻は猟師にもっと多くの獲物を獲ってくるように言った。
- 猟師はより多くの獲物を捕るために、新しい狩りの道具を手に入れた。
- それはとても鋭い刀だった。
- 刀を持って狩りに出かけると、リングマたちは酷く怯えたので、
- とても簡単に殺すことができた。
- なのでさらに多くの毛皮を手に入れられるようになった。
- あまりに沢山獲れすぎるので、やがて毛皮は売れ残るようになった。
- 売れ残った毛皮は、村の外れの草の茂みに捨てた。
- それでも猟師とその妻は、リングマたちを狩るのを止めず、毛皮をとり続けた。
- 猟師の夫婦には一人の息子がいた。
- 秋のある日。猟師の息子は父親の代わりに狩りに出かけた。
- 家を出るとき、父親は息子に刀を貸し与えた。
- しかし、息子がいくら森の中を探しても、リングマにもヒメグマにも出会えなかった。
- 息子はリングマたちは眠っているのかも知れないと思い、巣穴を探し、覗いて回った。
- しかし、どの巣穴の中にもリングマはいなかった。
- 太陽が沈み、月が顔を出す頃。
- 息子は狩りを諦めて、村へと帰る事にした。
- 息子が村のある方の空を眺めると、村の上の空が赤く輝いていた。
- 息子が村にたどり着くと、村中の家が燃えていた。
- そして村のいたるところで、沢山のリングマが暴れていた。
- リングマたちは、家々に火をつけて回った。
- そして、燃えさかる家の中から逃げ出した人々に襲いかかり、次々と殺して回った。
- 村の至る所に体を引き裂かれた村人の死骸が転がっていた。
- 息子は両親が心配になり、家へと急いだ。
- 家の前にたどり着くと、ひときわ大きなリングマが父を掴み、殺そうとしていた。
- その傍らには、皮を剥がれた母親の死骸が転がっていた。
- 息子が刀を構えると、リングマは叫ぶように言った。
- お前の父親は、眠っているあいだにわたしたちを殺す。
- だからわたしたちは眠ることもできない。
- お前の父親は、その刀が恐くて動けないわたしたちを殺す。
- だから私たちは逃げ出すこともできない。
- お前の父親は、毛皮を剥いだわたしたちを粗末にして捨てる。
- だからわたしの家族は、死んでしまってもまだこの村にいる。
- みんなどこへ行っていいか分からない。
- だから、わたしたちのところへ戻ってこない。
- 息子は刀を下げ、言った。
- 確かにお前の言う事はもっともだ。
- 確かにお前たちが怒るのも仕方ない。
- でも、僕たちだって仕方ないんだよ。
- 僕たちは、お前たちの毛皮を着なければここで生きていくことができない。
- 凍えて死んでしまう。だからお前たちが必要なんだ。
- それはお前たちに、木の実が必要なのと同じだ。
- コイキングが必要なのと同じだ。
- そう、きっと土を掘って、巣穴をつくるのとも変わらない。
- ただ、僕の父さんと母さんは、やりすぎだ。
- だけど、僕はやりすぎない。
- もうこれからはあんなことはしない。
- こんな刀もいらない。
- だからもう許してくれ。
- お父さんを殺さないでくれ。
- そう言って息子は刀を地面におもいっきり叩きつけた。
- すると刀は、音をたてて折れた。
- それを見たリングマは言った。
- わたしたちの家族は、まだここにいる。
- どこへ行けばいいか分からず、ここで迷っている。
- だから、お前にわたしの子供を預ける。
- お前は、その子と一緒に暮らすんだ。
- やがて大きくなったわたしの子供が、
- ここにいる家族たちを、わたしたちのところへ導くまで。
- 言い終わると、掴み続けていた父親の腕を噛み砕き、その場に降ろした。
- そしてリングマたちは村から去っていった。
- 次の日の晩。
- 村人達は死んだ身内を、村の近くにある大きな河に弔っていた。
- 大きな河の水面には、大きな月が映っていた。
- 息子も、母親の死骸に、母が好きだった綺麗な着物を着せて、河に沈めた。
- すると、母親の死骸の周りに沢山のコイキングが集まった。
- コイキングたちは母親を背負うようにして、月の映る河の向こうへ消えていった。
- 息子が家へと戻ると、家の前に一匹のヒメグマがいた。
- 両腕に沢山の木の実を抱えていた。息子はヒメグマを家に招きいれた。
- 息子の方が歳上だったので、そのヒメグマは息子の弟になった。
- 次の日からヒメグマの弟は、毎日木の実を採りに出かけた。
- 息子も一緒に出かけた。
- 採った木の実を持って帰り、それを大切にしまっておいた。
- やがて辺り一面が雪に覆われて、木の実が採れなく頃になると、
- ヒメグマの弟は毎日家で眠って暮らすようになった。
- 息子も一緒に眠って暮らした。
- 二人はたまに目覚めると、しまっておいた木の実を食べて、また眠った。
- あるとき息子が目覚めると、弟のヒメグマは立派なリングマに進化していた。
- それから間もなくして、春が訪れた。
- ある日。息子の父親が病気で死んだ。
- 日が暮れると息子は、母親と同じように父の亡骸を大きな河に弔いに行った。
- 大きな河の水面には、大きな月が映っていた。
- 父の死骸を河に沈めると、死骸の周りに沢山のコイキングが集まった。
- コイキングたちは、父親を背負うようにして、月の映る河の向こうへと泳ぎ出した。
- すると、川岸に一匹のリングマが現れた。
- リングマは、父親の周りに集まっているコイキングを一匹捕まえた。
- そしてそれをくわえ去っていった。
- 春になると、リングマの弟は息子を狩りに誘った。
- 息子は木で弓矢をつくってから、二人で出かけた。
- リングマの弟は、リングマたちが集まる場所に案内してくれた。
- そこはとても澄んだ湖のほとりで、その西側と東側にリングマたちが集まっていた。
- リングマの弟は息子を東側のほとりに連れて行き、そして大きく吠えた。
- すると一匹の年老いたリングマが立ち上がり、息子に言った。
- 毛皮が必要ならば、ここにいるリングマを狩りなさい。
- だけど、西のほとりにいるリングマたち、そしてヒメグマは狩ってはいけない。
- この約束が守れるのなら、私を狩りなさい。
- 息子はうなずき弓を構えた。
- リングマは逃げることもせず、矢を浴びた。
- うちに帰ると、リングマの弟は、今日狩った獲物が誰なのかを教えてくれた。
- それはリングマの弟の、ひいおじいさんだった。
- 毛皮を剥いだ後の死骸は、綺麗な着物を丁寧に着せ、両親の死骸と同じように河に流した。
- 息子はそれから必要な時だけ狩りに出かけた。
- 約束を守り、湖の東のほとりにいるリングマだけを狩った。
- 獲物になるのは全てオスのリングマだった。
- それからさらに何日が過ぎたある日の晩。
- 息子が薪を拾いから家に戻ると、弟のリングマが歌い、踊っていた。
- 息子に気がついた弟のリングマは言った。
- この踊りを終える頃、わたしは皆を連れていきます。
- 明日になったら、村の真ん中に大きな火を焚いてください。
- そして、私の、目と心と声をその火の中にくべてください。
- 私のそれらが燃え尽きるまで、この歌を歌い、この踊りを踊ってください。
- 息子とリングマは、夜明けまで、共に歌い、踊った。
- 太陽が昇る少し前、弟のリングマは眠るように静かに息を引き取った。
- 息子は弟のリングマの言う通りに、村の広場で大きな火を焚いた。
- 弟のリングマの死骸から、その目と心と声を切り分けた。
- それらを、火の中にくべ、歌い、踊りはじめた。
- 大きな煙があがり、それは山に向かって流れていった。
- 山々からリングマの遠吠えが聞こえた。
- やがてすっかり煙が尽きるまで、その遠吠えは山々に鳴り続いた。
Comments
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