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- エピソード1 ミオリネの欲しいモノ
- Miorine: あ、床にこぼしそうになってる。ほらハンカチ。
- Suletta: き、気を付けます。やっぱりミオリネさんのトマトっておいしいですよね。
- Miorine: 当たり前でしょ。お母さんのトマトなんだから。だけどこの温室内の作物の品質向上もそろそろ天井が見えてきたわね。
- Suletta: こんなにおいしいのにもっとおいしくって難しくないですか?
- Miorine: できることがあるなら試しておきたいのよ。例えばまだ堆肥をつかったことがない。
- Suletta: 堆肥?
- Miorine: 堆肥ってのは植物や残飯、あるいは家畜糞尿を分解して肥料にしたもの。
- Suletta: 家畜糞尿?
- Miorine: 動物の糞やおしっこってこと。
- Suletta: なるほど。えーと成分的に動物堆肥は植物性堆肥に比べリン酸、カリウム、窒素といった栄養分を多く含み元肥として土壌を豊かにする効果もあると。
- Miorine: 地球寮には動物がいるでしょ。使わせてもらおうと思って。
- Suletta: それは良いですね。
- Miorine: あんたから頼んでおいて。
- Suletta: え?
- Suletta: ていう訳なんですけど…
- Chuchu: はあ?何であのお姫様が直接来ないんだよ。
- Suletta: えっとそれは…、な、何ででしょう?
- Chuchu: これだからスペーシアンは
- Nika: チュチュ、スレッタに怒ってもしょうがないでしょ。
- Chuchu: それはそうだけどさ、見下されてんだよあーしら。
- Lillique: そうかな?ミオリネ先輩あんまりそういうタイプには見えないけど。
- Nika: ミオリネさんのことはまだよく知らないけど、人に頼るのが苦手なタイプなのかもね。
- Suletta: そ、そうだと思います。
- Aliya: ミオリネのその提案、私は興味深いと思う。知ってるかい?普通、フロントに一般的な家畜はいない。
- Suletta: そ、そうなんですか?
- Aliya: 私も私の家族もアスティカシアがどんな学園なのかよく知らなかったんだ。だから家族は私が入学する際、家の財産であるヤギのティコやヤクのブラーエたちを持たせてくれた。
- Suletta: あ、そ、それは大事です。
- Aliya: ん?
- Suletta: 家族も家族がくれたものも大事です。
- Aliya: ああ、ありがとう。
- Martin: でも地球寮にお金が無いのは動物たちの影響も大きいんだ。
- Aliya: そうなんだ。ティコたちのことで迷惑をかけて、みんなにはいつもすまないと思っている。
- Martin: あ、いや…、そんなつもりじゃ…。
- Suletta: 何で動物に関係が?
- Nika: フロントは基本的に閉鎖環境でサスティナブルな設備が前提だからね。
- Aliya: こういう場所でティコたちの出す糞尿の処理にはお金がかかる。
- Suletta: ああ、なるほどです。
- Chuchu: まあまあ、金のことなんて気にすんなって。仲間にとって大事なもんはあーしにとっても大事なもんだ。
- Martin: 気にはしてほしいけど。
- Nika: チュチュの言うとおり、それに糞尿に使い道が出てきた。
- Suletta: は、そ、それって。
- Aliya: 渡りに船ってことさ。糞尿の処理費が少しでも浮くなら助かる。
- Nika: 動物の糞尿は微生物をたくさん含んでいてフロント内での取り扱いは厳重な注意が必要なんだけど、学園の規則上ミオリネさんの温室ならその条件をクリアしてるはずだし。
- Suletta: じゃあ協力していただけるんですね。
- Nika: もちろん。
- Chuchu: ちょい待ち。やっぱあのお姫様が直接来ないのが気に入らねぇ。堆肥の元がほしいなら全部スレッタまかせにするのはダメだ。あとちゃんと動物たちの世話もすること。だよな?
- Aliya: 私はそこまでしなくてもいいと思うが…。
- Martin: 僕も渡しちゃっていいと思うけどな。
- Chuchu: 甘いんだよ。他のみんなは許してもあーしは許さねぇ。スレッタこのことをあのお姫様に伝えな。
- Suletta: は、はい。
- Miorine: はあ?なにそれ?私がなんでそんなことまで。
- Suletta: わ、私じゃなくてチュチュ先輩が…。
- Miorine: はあ、まったくもう。
- Suletta: あ、あの…。
- Miorine: 何?
- Suletta: アリヤさんすごくテ、ティコさんたちのことを大事にしてて、で、でもそれにお金がかかってるなら少しでも手伝えたらって…、ダメでしょうか?
- Miorine: ダメだなんて一言も言ってない。
- Suletta: それじゃあ。
- Aliya: ミオリネさんが来た。
- Nika: てことは本気なんだね。
- Miorine: 何よ、そっちにとってもいい話なんでしょ?
- Aliya: チュチュが糞尿がほしいならティコたちの世話を手伝ってほしいと条件を出していたが…。
- Miorine: 毎日は無理よ、私もやることあるし。でも糞尿の取引日の前後には私とスレッタが世話を手伝う。
- Suletta: わ、私もですか?
- Miorine: 何よ、文句ある?
- Suletta: な、ないです。
- Miorine: んで、動物の世話をした後は汗もかくだろうし、臭いもつくだろうからシャワーを貸して。
- Suletta: モノレールで移動しなきゃですもんね。
- Aliya: わかった、それで構わない。
- Lillique: 良かった、これにて一件落着ですね。
- Chuchu: ちょっと待った。
- Lillique: ん?
- Miorine: そっちの出した条件はのんだけど。
- Chuchu: そもそも何で最初からお姫様が話をつけに来なかったんだ、ああ?
- Miorine: いまさらその話?もともと捨てるものだったんでしょ、ぐだぐだ混ぜっかえさないでよ。
- Chuchu: はあ?ぐだぐだだと?なんだよその態度は?
- Miorine: こっちのセリフよ。最初からけんか腰であんた当り屋なの?
- Chuchu: なんだと?納得いかねぇ。やっぱりスペーシアンはアーシアンから搾取しようとする。
- Miorine: 今日の提案はそっちにも得があるでしょ。
- Chuchu: 決闘だ。この学園にはもめたら決闘でケリをつけるってルールがあるだろ。だからあーしとお姫様で決闘だ。
- Miorine: なんでそんなことしなきゃなんないのよ。
- Chuchu: あーしが納得するためだよ。お姫様が逃げるなら糞尿は絶対あげねぇ。
- Miorine: はあ?
- Martin: そんなぁ、あげちゃおうよ。
- Nika: まあまあ二人ともちょっと落ち着いて。
- Lillique: 決闘って、モビルスーツで戦うってこと?
- Chuchu: いいや、お姫様とモビルスーツ対決なんて大人げないからさ、ここは拳で決めるってのが筋だろ。
- Aliya: ヤギの乳しぼり対決はどうだろう?
- Chuchu: はあ?
- Lillique: いいと思います。それはぴったりですね。
- Nika: うん、私もそれでいいと思うよ。物騒じゃないのがいい。
- Chuchu: ニカ姉。
- Martin: え?みんななんか楽しんでない?ねえもうあげちゃおうよ。
- Miorine: 私はいいわよ。ただヤギの乳しぼりを調べるから5分ちょうだい。
- Aliya: チュチュはヤギの乳しぼり初めてじゃないよな?
- Chuchu: 当たり前よ。負けるわけねぇし。
- Miorine: 私が勝ったら糞尿はもらう。それと二度と文句を言わないで。
- Chuchu: あーしが勝ったら糞尿をあげる話は白紙だかんな。
- Lillique: なんか楽しくなってきましたね。オジェロさんたちがいたらもっと騒がしくなりそう。
- Nika: 今日オジェロたちのグループ一日中特別実習だからね。あの実習最高にメカニック心をくすぐるんだ。
- Lillique: オジェロさんは死んだ目をして出ていきましたけどね。
- Aliya: さあさあ準備を始めるぞ。
- Aliya: よし、消毒完了だ。
- Miorine: ところで勝利条件は?たくさんしぼった方の勝ち?
- Aliya: 1分以内でたくさんしぼった方の勝ちだ。でもティコの扱いは丁寧に頼む。
- Miorine: わかったわ。
- Martin: そ、それではこれより双方合意のもと、決闘を執り行う。立会人は地球寮寮長マルタン・アップモントがつとめる。決闘方法は一対一の個人戦、勝敗はしぼったミルクの多かった者の勝ちとする。ただし、同じ量だった場合、アリヤ・マフヴァーシュのジャッジで勝者を決するものとする。
- Lillique: マルタン先輩、立会人がんばってますね。
- Nika: なんだかんだで楽しんでるね。
- Martin: 両者、向顔。
- Miorine: 勝敗はヤギのコンディションのみで決まらず。
- Chuchu: 乳しぼりの技量のみで決まらず。
- Miorine/Chuchu: ただ、結果のみが真実。
- Martin: フィックスリリース。
- Miorine: 付け根を押さえ、乳が逆流しないように…、あ、すごい、生きてる。
- Chuchu: 残りの指を順番に閉じて乳をしぼり出す、残りの指を順番に閉じて乳をしぼり出す。
- Lillique: 地味な決闘ですね。
- Suletta: で、でもすごいです。白熱してます。
- Miorine: けっこう難しい。
- Chuchu: なかなかやるじゃねぇか。
- Nika: 頑張れチュチュ、ミオリネさん。
- Chuchu: ニカ姉…。
- Suletta: ミオリネさんが苦戦してます。
- Aliya: ティコもいい顔をしてるな。
- Nika: 今日しぼったミルクはどうしようか?バターにする?チーズにする?
- Aliya: チーズにしてみんなで食べるか。
- Martin: おおっと、経験者のチュチュが優勢だ。
- Lillique: マルタン先輩もしかして乗ってきました?
- Martin: しかしまだまだ序盤、盛り返すことは可能です。地球寮の財政難を救うためにもミオリネさんには頑張ってほしいところ。
- Chuchu: あーあ、やっぱりスペーシアンにこういう作業は無理だよな。
- Miorine: 静かにしてくれない?雑音があると集中できない。
- Chuchu: はあ?雑音ってなんだよ?うわ、ブラーエ。
- Martin: おおっと、地球寮のヤク、ブラーエがここで乱入だ。
- Aliya: チュチュに頬をすり寄せてるな。
- Nika: うん、ほほえましい。
- Chuchu: ほほえましくない。地球寮を裏切るつもりかよブラーエ。
- Miorine: よし、コツつかんできた。
- Suletta: す、すごいミオリネさんどんどん慣れてきてる。
- Martin: これは猛追撃、指の使い方も丁寧。
- Lillique: ブラーエも上機嫌で見守ってます。
- Martin: いよいよタイムリミットが近付いてくる。はたして勝敗は?
- Aliya: そこまで。
- Martin: スレッタ、どっちのミルクが多い?
- Suletta: うん、ま、まったく同じ量です。
- Everyone: はあ?
- Nika: じゃあこの決闘の勝敗はアリヤ次第だね。
- Chuchu: アリヤ、勝敗は?
- Miorine: どうなの?
- Aliya: そうだな、チュチュの乳しぼりは力を込めすぎず、乳頭を傷めないように凄く気を付けてくれていた。普段のがさつさをよく抑えてくれていた。
- Chuchu: 普段のがさつさってその言葉必要か?
- Lillique: まあまあ、褒めてるんだよ。
- Aliya: そしてミオリネ。慣れないながらも丁寧に一生懸命やってくれた。どうだ?
- Miorine: どうだって…。
- Aliya: 動物はいいものだろ?
- Miorine: それはまあ…。
- Aliya: よってこの勝負、引き分け。
- Everyone: ええ?
- Aliya: なので互いに納得してハグして終わりだ。
- Chuchu: はあ?誰がこの糞スペーシアンなんかとハグするか。
- Miorine: 私だってお断りよ。
- Suletta: ミ、ミオリネさん。ジャッジには従わないと。
- Miorine: スレッタあんたどっちの味方なのよ?
- Nika: 二人ともアリヤのジャッジに逆らっちゃダメだよ。
- Martin: ハ、ハグって結局糞尿は?どうなるの?
- Lillique: ほら仲直りのハグしましょ。
- Chuchu: 絶対に嫌だ。
- Nika: チュチュ。
- Suletta: おいしいトマトのためです。ミオリネさん。
- Nika: はい、ハグは最低3秒。
- Chuchu: おわあ、押すなよニカ姉。
- Martin: ねえ、だからどうなるの?
- Suletta: さあ、ミオリネさん。
- Miorine: ちょ、スレッタ。
- Everyone: 1、2、3
- Chuchu: 遅え。まさかわがまま女とハグすることになるとは。
- Miorine: わがまま女…、ま、お姫様よりずっとマシね。
- Nika: そういえば引き分けの場合はどうなるんだろう?
- Martin: 引き分けだけどね、糞尿は持っていってもらうということで。
- Chuchu: はあ?ふざけんな。引き分けなんだからあげる必要ねぇだろ。
- Martin: もういいじゃん。あげようよ。
- Lillique: もう一回決闘しますか?
- Nika: それはティコがかわいそうかも。じゃあ次はモビルクラフトの組み立て対決でもする?
- Martin: それはいつまでたっても決着がつかないんじゃ…。
- Suletta: ミ、ミオリネさん。ど、どうしましょう?ミオリネさん。
- Miorine: はあ…、仕方ないわね。糞尿、わけてくれませんか?
- Chuchu: な、なんだよ急に?頭なんか下げて。
- Nika: チュチュ、いいよね?
- Chuchu: わーってるよ、仕方ねぇな。
- Aliya: ミオリネ、ありがとう。
- Miorine: 私のトマトのためよ。
- Miorine: これでよし、と。
- Suletta: 全然臭くないんですね。
- Miorine: 密閉性の容器で発酵を進めてるから。宇宙空間で微生物は厳しく管理されているから、代わりにマイクロロボットを使うの。
- Suletta: はえー、でもこのサイズの容器なら温室の中に置いておいた方がよくないですか?臭いもしないし、どうしてこんなこそこそと?
- Miorine: 学園の許可とってないから。
- Suletta: え?
- Miorine: 申請が面倒なのよ。ああだこうだと文句つけられるに決まってるんだから。安全性に問題ないのはわかってるんだし、ぐだぐだ言われる前にやっちゃえばいいのよ。
- Suletta: え?ええ?
- Miorine: あんたも警備ハロには気を付けてね。見つかったら厄介だから。
- Suletta: わ、わかりました。でもミオリネさんのトマト、ますますおいしくなっちゃいますね。早く食べたいな。
- Miorine: スレッタ、今日のことだけど。
- Suletta: はい。
- Miorine: よくやってくれた。一応お礼言っとく。
- Suletta: え?い、今の、今のもう一回お願いします。よくやったって。
- Miorine: 何よそれ?聞き間違いじゃない?
- Suletta: え?で、でも今絶対言ってました。
- Miorine: 言ってない。幻聴でしょ。
- Suletta: え?いいじゃないですか。もう一回。
- Miorine: しつこい、言ってない。
- Suletta: そんな。ミオリネさんのケチ。
- Miorine: ケチって何よ?
- Suletta: い、言ってないですケチなんて。
- Miorine: 言ったでしょ?
- Suletta: 言ってません。
- Miorine: 言った。
- Suletta: 言ってません。
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