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- FILENAME: text_320091-1.txt
- まばゆ: もしも私の人生が 1本の映画だったら…
- まばゆ: ごく当たり前に過ぎていく ごく当たり前の日常…
- まばゆ: それはとっても退屈で 観客の半分は途中で居眠り
- まばゆ: とても人様にお見せできる ようなものじゃない…
- まばゆ: そんなふうに思っていました
- まばゆ: だってまさか 突然時間が止まるなんて…
- まばゆ: そんなこと、本気で信じられる わけないじゃないですか!
- まばゆ: …………
- まばゆ: (さっきのアレ、なんですか? 信号もヤケに長かったし…)
- まばゆ: (時間が止まってたとしか… それ以外、考えられない…)
- まばゆ: (うーん、しかし…そんな 非科学的なこと、起こるワケ…)
- まばゆ: (起こるなら…せめてテスト中に 起こって欲しかった…!!)
- まばゆ: (カンニング させて欲しかった…!)
- まばゆ: (悔しい…!)
- まばゆ: …………いやいや
- まばゆ: (っていうか…うーん 私、疲れてるんですかね…)
- まばゆ: (まさかこれも、夢の続きとか そういうオチじゃ…)
- まばゆ: 咲笑さん
- 咲笑: なあに、まばゆちゃん?
- まばゆ: ほっぺ、つねってくれませんか?
- 咲笑: えいっ
- まばゆ: いででででっ!
- まばゆ: ちゅ、ちゅうちょがなひ…
- 咲笑: やあっ、とりゃー!
- まばゆ: だだだ、だいじょうぶ! もう、だいじょうぶれすからぁ…
- まばゆ: はぁ…咲笑さん、やることが極端
- 咲笑: 今日は様子が変よ また夜更かししちゃった?
- まばゆ: そうじゃ、ないんですけど…
- カランカラン
- 咲笑の声: いらっしゃいませー
- まばゆ: いらっしゃいま…せ
- まばゆ&マミ: あ…
- マミ: ええと…もしかして 愛生…さん?
- まばゆ: クラスメイトの、たしか… 巴さん…ですよね
- まばゆ: すみません!あ、あの…っ!! これ、アルバイトじゃなくて!
- まばゆ: 家の、手伝いで、だからその で、で、できれば内密に…
- マミ: ふふふ、大丈夫よ
- まばゆ: ほ…ほんとうですかっ!?
- マミ: だって、このお店にはいつも お世話になってるんだもの
- まばゆ: あ、あ、ありがとうございます! 恩に着ます!!
- 咲笑: ねえ、まばゆちゃん?
- 咲笑: さっきのお客さんは 同じクラスの子かしら?
- まばゆ: はい、巴マミさんって言って とっても優秀な生徒さんで…
- 咲笑: ステキなお友だちね
- まばゆ: おおお、お友だちなんてそんな!
- まばゆ: 私みたいな陰キャが友だちに なれるワケないじゃないですか!
- まばゆ: まともに話したのも、今日が 初めてですってば!
- 咲笑: あら、そう? そうは見えなかったけど
- まばゆ: はぁ…まったく、私を 甘く見ないでくださいよ!
- まばゆ: なんと言っても、筋金入りの ボッチなんですからね!
- FILENAME: text_320091-2.txt
- 先生: それじゃあ、次の問題…
- 先生: 巴マミ、計算してみろ
- マミ: はい
- まばゆ: (うーん、さすが)
- まばゆ: (私には全然わからない問題も 淀みなくすらすら解いて…)
- まばゆ: (別世界の存在って感じです)
- まばゆ: (それにくらべて、私は…)
- まばゆ: (成績、ダメ)
- まばゆ: (運動、下手)
- まばゆ: (友だち、皆無)
- まばゆ: (趣味、映画観賞)
- まばゆ: (…陰キャの詰め合わせ 欲張りセットですか?)
- まばゆ: (毎日学校行って… お店を手伝って… 映画を見て…コタツで寝て…)
- まばゆ: (繰り返し…繰り返し…)
- まばゆ: (繰り返し…繰り返し…)
- まばゆ: (なんか、ループもの みたいですね)
- まばゆ: (繰り返し…繰り返し…)
- まばゆ: (繰り返し…繰り返し…)
- まばゆ: (繰り返し…繰り返し…)
- まばゆ: (繰り返し…繰り返し…)
- まばゆ: …………
- まばゆ: へ?
- まばゆ: また…時間、止まってます!?
- まばゆ: (ううーん、やっぱり、変)
- まばゆ: (一度だけなら気のせいかとも 思いましたけども…)
- まばゆ: (まさか、もしかして…)
- まばゆ: (私に前世から宿っていた不思議 パワーが目覚めたのでは!?)
- まばゆ: って、まさかそんなことはね… あるわけ…ないわけ…
- まばゆ: …ん?
- エイミー: みゃーう
- まばゆ: エイミー!
- まばゆ: (お散歩の途中ですかね? お店の前でよく見るんですよね)
- まばゆ: (お仕事中じゃなかったら 遊んであげたいんですが…)
- まばゆ: あ…!
- まばゆ: (もしも、私が時間を止める 能力に目覚めたとしたら…)
- まばゆ: (エイミーにそっと近づいて なでなでしたりできるはず!)
- まばゆ: にひひひひ… 止まれ…止まれ…
- まばゆ: 時間よ…止まれ… 止まるのだー!でりゃあああ!
- 咲笑: まばゆちゃん…!?
- まばゆ: え
- 咲笑: ええと…どうしちゃったの?
- まばゆ: あ、いやですね、咲笑さん ただの冗談、冗談ですよ
- まばゆ: あはははは…
- まばゆ: (は、は、恥ずかしいところを 見られてしまった…!)
- まばゆ: (きっと、映画の見過ぎで頭が おかしくなったんだと思われる)
- まばゆ: (いや、でもホントに そうなっちゃったのかも…)
- 咲笑: ほら、まばゆちゃん オーダー溜まってるわよ
- まばゆ: は、はいっ!
- まばゆ: (咲笑さんは、レコンパンスを 切り盛りするパティシエで…)
- まばゆ: (身寄りをなくした私を 引き取った叔母でもあります)
- まばゆ: (あんまり心配は かけたくないんですが…)
- まばゆ: はぁ…
- 咲笑: えええええええーっ!?
- まばゆ: わわわわっ!
- まばゆ: ど、どうしました咲笑さん?
- 咲笑: だって、そのカフェ・マキアート どうしたの?
- まばゆ: どうしたって… ただ絵を描いただけですけど
- まばゆ: 私また何かやっちゃいました?
- 咲笑: だってまばゆちゃん、今まで つくったことなかったでしょ?
- 咲笑: なのに、そんなにステキな エイミーちゃんを描くなんて!!
- まばゆ: え?あー…そういえば… 今まで、描いた記憶…ない、かも
- まばゆ: 私ってばもしかして…天才!?
- まばゆ: ふんふふんふんふーん
- まばゆ: (絵を咲笑さんに絶賛されて お客さんにも褒められて…)
- まばゆ: (こんなに上機嫌になるなんて 我ながらチョロいですね)
- まばゆ: にひひひひ…
- エイミーの声: みゃーう
- まばゆ: ん?え、エイミーちゃん!?
- エイミー: なーう、ごろごろ…
- まばゆ: えっ?えっ?えっ?
- まばゆ: な、なんですか急に!? 突然の大サービス!?
- まばゆ: お、おさわりしちゃって 問題ないんです?ですね?
- エイミー: みゃーお
- まばゆ: うひょー!あ、ありがたやー!
- まばゆ: なでなで…なでなで… おおおおお…
- まばゆ: (私は成績ダメ、運動下手 友だちもいないボッチですけど)
- まばゆ: (でもまあ、映画は楽しいし 咲笑さんも優しいし…)
- まばゆ: (お手伝いも嫌いじゃないし 楽しいこともあったりで…)
- まばゆ: (私は私なりに 満足して毎日を暮らしてます)
- まばゆ: (そりゃまあ、マミさんみたいに 完璧じゃあないですけど…)
- まばゆ: (コレはコレで、幸せに やっているワケですよ)
- まばゆ: (いや、ホントに)
- まばゆ: なのに、うーん… なんででしょう
- まばゆ: なんか、しっくり来ないというか 忘れちゃってるよーな気が…
- まばゆ: しかも、それがめちゃくちゃ 大事なことだったよーな…
- まばゆ: ん…?あ…あれ…?
- まばゆ: ま、ま、まままま…
- まばゆ: まさか、この映画! タイムマシンが…公衆電話!?
- まばゆ: って、見たことあるじゃ ないですかー!!
- まばゆ: せっかくレンタルしてきたのに 忘れてたなんて…
- まばゆ: トホホホホホ…!
- FILENAME: text_320091-3.txt
- 先生: よーし、それじゃ 出席を取るぞー!
- 先生: 愛生まばゆ
- まばゆ: ふ、ふぁい…
- まばゆ: (私の名前、出席番号順で いつも最初なんですよね)
- まばゆ: (授業で最初に指名されたりも しょっちゅうだし)
- まばゆ: (サボり魔の私には 酷な名字ですよ、マッタク…)
- 先生: 巴マミ
- 先生: …………
- 先生: 巴マミ 居ないのか?
- 先生: …めずらしいな 巴が連絡もなしに休むなんて
- まばゆ: (ん…?)
- まばゆ: (確かにちょっと 珍しいかも)
- まばゆ: (ま、優等生にだって サボりたい日はありますよね)
- きゃーっ、かわいい!
- えっ?これすごくない!?
- あの、これ、店員さんが 描いたんですか?
- まばゆ: ええ…まあ…
- あのっ!もし良かったら ネットにアップしても…
- まばゆ: いえいえ!大したものでも ないですし、恥ずかしいし…
- 咲笑: もちろん!アップしてOKです
- 咲笑: お店の名前も入れて たくさん宣伝して下さいね!
- あ、は、はい!
- まばゆ: う、うううう… 咲笑さんってば…
- 咲笑: 褒めてくれてるんだし 恥ずかしがることないでしょう
- 咲笑: もしかしたら ネットで話題になるかもよ
- まばゆ: そ、そんなの…恐ろしすぎます!
- まばゆ: 見ず知らずの人間が、私の絵を 見て、弄って、嘲笑って…
- まばゆ: 晒されて、住所特定されて 卒アルがアップされて…
- 咲笑: ま、まばゆちゃん?そんな ネガティブにならなくても…
- まばゆ: 魚に空を飛べって言うんですか?
- まばゆ: しかも私は深海魚…
- まばゆ: 光の届かない、暗ーい海の 底でしか生きられない魚ですよ!
- 咲笑: うーん、そんなことないと 思うんだけれどなあ…
- まばゆ: ありますよ!
- まばゆ: 私の陰キャっぷりを 舐めてもらっては困ります
- 咲笑: やれやれ…
- まばゆ: 私はそういう性格だけど でも、不自由はないし…
- まばゆ: だから別に、自分が不幸だなんて 思いませんし…
- 咲笑: でも最近、ずーっと 浮かない顔よね
- まばゆ: …………
- 咲笑: あのお友だち、最近お店に来ないし 喧嘩しちゃったとか?
- まばゆ: だから、マミさんはただの クラスメイトですってば!
- まばゆ: まあ…最近学校を休んでて 心配ではありますけど…
- 咲笑: それじゃあ、別に何か心配事が?
- まばゆ: いや、まあ、それはその…
- まばゆ: (時間が止まってる…なんて 言ったら心配かけちゃうし…)
- まばゆ: (あんまり隠し事をしたくは ないですけれども…)
- まばゆ: (なんか、ごまかさないと…)
- まばゆ: え、ええと、ですね…
- まばゆ: さ、最近なんか、心に穴が 空いてるというか…
- まばゆ: 忘れてはいけない重要なことを 忘れてしまっているような…
- まばゆ: なんか、そんな気がするんです
- まばゆ: だからたぶんそのせいで 考え事が多いのかも…
- 咲笑: …………
- まばゆ: あれ?咲笑さん?
- まばゆ: (なんか急に深刻な雰囲気…?)
- 咲笑: まばゆちゃんは、嫌なことを 急に思い出しちゃうことはない?
- まばゆ: あ…はい、ありますあります!
- まばゆ: なんで昨日、クラスであんな 返事をしちゃったんだろう、とか
- まばゆ: 急に思い出しちゃって 「うがー!」って叫びだしたり
- まばゆ: あれって一体なんなんですかね
- 咲笑: 叫ぶだけで済むならいいけれど 場合によってはもっと深刻で…
- 咲笑: その出来事にずっと向き合うと 心が壊れてしまうこともあるの
- 咲笑: そうならないように、自分の 記憶を隠してしまう…
- 咲笑: そういう働きが、人にはあるのよ
- まばゆ: 記憶を、隠す…?
- 咲笑: あなたが、もしも何かを 忘れてしまっていたとしても…
- 咲笑: それは、忘れた方が いいことなのよ
- まばゆ: …………
- 咲笑: まばゆちゃん?
- まばゆ: 嫌です
- まばゆ: 忘れてしまったことが 忘れた方がいいことだなんて…
- まばゆ: 忘れた方がいいことが この世の中にあるだなんて…
- まばゆ: そんなの…私、絶対 納得できませんッ!!
- 咲笑: …………
- …………
- …………
- まばゆ: あ…やば…
- まばゆ: (我を忘れて、大声を 出してしまった…)
- まばゆ: (は、は、は、恥ずかしいっ!)
- まばゆ: よーし
- まばゆ: 今日の映画は 先日の続編ですよ…!
- まばゆ: 向こうの映画は見たこと自体 すっかり忘れていましたが…
- まばゆ: 続編はまだ、初見の…
- まばゆ: 忘れてしまったことが 忘れた方がいいことだなんて…
- まばゆ: 忘れた方がいいことが この世の中にあるだなんて…
- まばゆ: そんなの…私、絶対 納得できませんッ!!
- まばゆ: ぎゃああああああっ!
- まばゆ: やだー!やだー! 急に思い出してしまったー!
- まばゆ: 店の中で急に奇声を 発するだなんて…ううう…
- まばゆ: なんて、なんて恥ずかしい…
- まばゆ: というか、これを思い出すって どういうことですか?
- まばゆ: 忘れた方がいいことが世の中に あるのなら…
- まばゆ: 真っ先にこの記憶を忘れさせて くださいよー!ううううう…!
- まばゆ: …………
- まばゆ: でも…私、なんで大声 出しちゃったんですかね…
- まばゆ: 別にそんな、キレるところじゃ ないと思うんですけど…
- まばゆ: う、うう~ん…
- まばゆ: 我ながら謎
- FILENAME: text_320092-1.txt
- カランカラン
- まばゆ: ありがとうございましたー!
- 咲笑: まばゆちゃん、お疲れ様
- 咲笑: 今日も先に上がってもらって いいわよ
- まばゆ: はーい
- まばゆ: あ、あの…咲笑さん
- まばゆ: この前は、仕事中に大声あげて しまって、スミマセンでした
- 咲笑: そんな、気にしないで
- 咲笑: それより、はい これ、今日のまかない
- 咲笑: 多めに余ったから、豪華な 詰め合わせになっちゃって…
- まばゆ: あ…えっと
- 咲笑: ん?どうしたの?
- まばゆ: ちょっと、最近体重が 気になるというか…
- まばゆ: ケーキの量は 減らした方がいいかなって…
- 咲笑: あら、そう…
- まばゆ: それじゃ、今日も お疲れ様でしたー
- まばゆ: (謝るには謝ったけど…)
- まばゆ: (あれからなんか、咲笑さんと ギクシャクしちゃってますね)
- まばゆ: (別に、なにか問題があるって わけでもないんですが…)
- まばゆ: ってか、あー…
- まばゆ: ケーキ、どうして 断っちゃったんだろ
- まばゆ: (豪華な詰め合わせ…わざわざ 用意してくれたのかも)
- まばゆ: (せっかく気を遣ってくれたのに あんなにあっさり断って)
- まばゆ: (いや…でも、私が近頃 食べすぎなのは間違いないし)
- まばゆ: (受け取っても、余らせたら 申し訳ないし)
- まばゆ: (だから、断った私は 別に悪くない)
- まばゆ: (って、悪いとか悪くないとか そういう話をしたいわけじゃ…)
- まばゆ: …………あ
- まばゆ: また、時間…止まってる
- まばゆ: ま、時間が止まっても、全然 有効活用できないわけですが
- まばゆ: レンタルビデオ屋に忍びこんで コッソリ新作を借りる…
- まばゆ: とかも、考えましたけど ちょっと気が進まないというか
- まばゆ: 私はむしろ、ビデオ屋さんを 買い支えないといけない立場で…
- まばゆ: ってか…あれー?
- まばゆ: 借りてきた映画 全部見ちゃってますね
- まばゆ: 最近、映画を見るペースが 上がってるせい…かな
- まばゆ: 時間が止まってる間も プレイヤーを触ると再生できて…
- まばゆ: もしかしたらその分 たくさん消化できてるのかも
- まばゆ: うれしい悲鳴って ところですか
- まばゆ: ま、でも、仕方ないですね 今日はアーカイブの名作を…と
- まばゆ: んー、何がいいかな
- まばゆ: 知る人ぞ知る…な マニアック作品もいいですが…
- まばゆ: 今日はなんだか、もっと メジャーなエンタメ作品を…
- まばゆ: ん?あ、あれ?
- まばゆ: こんな映画 うちにありましたっけ?
- まばゆ: 未来から殺人マシーンが 襲ってくる、アレ…ですよね
- まばゆ: いや、めちゃくちゃ有名な名作… なのは、わかってるんですけど
- まばゆ: 全然、見た記憶がなくて 逆になんで覚えてないのか、謎
- まばゆ: ま、いいや!
- まばゆ: 名作は何度繰り返して見ても いいもんですからね!
- まばゆ: とりあえず再生、再生、と!!
- まばゆ: いやー、面白かったー!
- まばゆ: 内容すっかり忘れてたんで もーたっぷり楽しめましたよ
- まばゆ: でも、例の名台詞は覚えてたし 絶対見たことがあるはずで…
- まばゆ: …………
- まばゆ: う、うーん…なんか最近 忘れっぽくてダメですね
- まばゆ: まあいいや!それじゃあ続けて 2の方も見ちゃいましょうか
- まばゆの母: 次は、殺人鬼が味方になって 現れるんじゃないかしら
- まばゆ: え…?
- まばゆ: 今のって…お母さん?
- まばゆ: あれ?もしかして、私が 前に見たのって…
- まばゆ: あ、そうか…確か
- まばゆ: 私の記憶が確かなら この映画も一緒に観て…
- まばゆ: すごい…全部、お母さんの 言った通りになったよ!
- まばゆ: 今の「グッジョブ!」って 機械に魂が宿ったんだよね!?
- まばゆの母: ええ、きっとそうね
- まばゆ: それなのに死んじゃうなんて ロボットさんが、かわいそう…
- まばゆの母: まばゆは優しいのね
- まばゆ: 味方と思ったのが敵だったのも 言った通りだったし…
- まばゆ: お母さん、この映画 前に見たことがあるの?
- まばゆの母: いいえ、初めてよ
- まばゆ: うっそだー!
- まばゆ: 初めてだったら、こんなに次の お話がわかるわけないもん
- まばゆ: あ…もしかして、この映画の お話も、占いでわかったの!?
- まばゆの母: 占い…そうね
- まばゆの母: 少し、似ているところも あるかもしれないわね
- まばゆ: 似ている?
- まばゆの母: 例えば、の話なんだけれどね
- まばゆの母: 道路を渡っているとき目の前で おばあちゃんが転んだら…
- まばゆの母: それを見ていた女の子は どうすると思う?
- まばゆ: それは、助けないとダメだよ
- まばゆの母: 道路の向こう側から トラックが近づいていても?
- まばゆ: う、うーん…ええと…
- まばゆ: それでもやっぱり、できるだけ 助けようとすると思う!
- まばゆの母: ええ、そうね
- まばゆ: それでそのお話、おばあちゃんは どうなったの?
- まばゆ: まさか…トラックに 轢かれちゃった?
- まばゆの母: いいえ、きっと助かるわ
- まばゆの母: だって私たちは、助かって 欲しいって願うんだもの
- まばゆの母: お話はね、色んな出来事があって ハラハラドキドキするけれども…
- まばゆの母: でもそれは、皆がお話を鏡にして 自分の姿を見ているからなのよ
- まばゆ: かがみ…?
- まばゆの母: 占いも、それと同じなの
- まばゆの母: たくさんの人がやってきて 色んなお話を聞かせてくれるわ
- まばゆの母: 私は、お話を聞きながら 皆が見ている鏡の形を想像するの
- まばゆの母: どこの部分が欠けていて どこの部分が足りないのか
- まばゆの母: 全部埋めたものが、その人が 本当に語りたかった「お話」
- まばゆの母: 私の占いは、その欠けた部分を 探すお手伝いなのよ
- まばゆ: …………
- まばゆ: よく、わかんない
- まばゆの母: そうね、まだまばゆには 少し早かったかもね
- まばゆ: でも…だったら いっぱいお話を聞けばいいの?
- まばゆ: それで、お話の先が 想像できるようになったら…
- まばゆ: 私も、お母さんみたいに 占い師になれるかな?
- まばゆ: これからどうしようか 困っている人の力になれるかな?
- まばゆの母: …そうね
- まばゆの母: もしかしたら なれるかもしれないわね
- まばゆ: そっか…そうなんだ
- まばゆ: うん、わかった!
- まばゆ: 私、これから、いっぱい いっぱい、お話を見る!
- まばゆ: それで、お母さんみたいに 未来を占えるように…
- まばゆの母: ううん
- まばゆの母: あなたは、私みたいには ならなくていいのよ
- FILENAME: text_320092-2.txt
- 先生: それじゃあこの問題を、巴…
- 先生: …………
- 先生: ん?巴はまだ休みなのか
- まばゆ: (授業を上の空で 聞き流しながら…)
- まばゆ: (頭の中には、あの日の記憶が ずーっと繰り返されています)
- まばゆ: (『私みたいには ならなくていい』)
- まばゆ: (そう言った、お母さんの顔は なんだかとても悲しそうで…)
- まばゆ: (私も、思い出すだけで 泣きそうになってしまいます)
- 咲笑: お疲れ様、まばゆちゃん 今日はもう、上がっていいわよ
- まばゆ: あの…咲笑さん
- 咲笑: ん…何?
- まばゆ: お母さんって、未来のことが 視えたりしたんですよね
- まばゆ: 占いのこと…本当は どう思ってたんでしょうか?
- 咲笑: 占いのこと? 急に、どうかした?
- まばゆ: いや、あの… なんていうか…ですね
- まばゆ: 私、こんなに映画をたくさん 観るようになったのは…
- まばゆ: お母さんみたいに、お話の未来が 先にわかるようになりたいって…
- まばゆ: それで、人の役に立てるように なりたいと思ったからだって…
- まばゆ: そういうこと、映画を観てたら 突然思い出しちゃって
- 咲笑: まばゆちゃん…
- まばゆ: 『私みたいにはならなくていい』
- まばゆ: お母さんがそう、言ったのは なんでなんですかね?
- まばゆ: もしかして、私のこと…
- まばゆ: 嫌いだったのかな、なんて 考えちゃったりして…
- 咲笑: それは違うわ
- まばゆ: でも…それじゃあなんでです?
- まばゆ: 未来のことがわかって たくさんの人が救えて…
- まばゆ: だから私も、お母さんみたいに なりたいって思ったのに…
- まばゆ: そんなこと言う理由が 全然、わかんなくて…
- 咲笑: それは…
- 咲笑: …………
- まばゆ: やっぱり、それも…
- まばゆ: 忘れた方がいいことですか?
- 咲笑: え…
- まばゆ: 忘れてしまったことは 忘れた方がいいこと…
- まばゆ: 私がお母さんとの思い出を 忘れてしまったのも…
- まばゆ: 私にとっては、忘れた方が いい思い出だったから…?
- 咲笑: まばゆちゃん
- 咲笑: 焦らなくても、大丈夫
- 咲笑: もしそれが必要なら 必要な時にはちゃんと…
- まばゆ: 嫌なんです
- まばゆ: 私は…お母さんのことを ちゃんと覚えていたい
- まばゆ: 楽しいことも、辛いことも ぜんぶ、ぜんぶひっくるめて…
- まばゆ: 私の目に、焼き付けたい!
- 咲笑: …………
- まばゆ: え、ええと…
- まばゆ: また、大声出してしまって スミマセン…
- まばゆ: お先に失礼します
- まばゆ: (まただ…)
- まばゆ: (また、咲笑さんを 困らせてしまいました…)
- まばゆ: (咲笑さんは何にも悪いこと してないのに…)
- まばゆ: (これじゃただの 八つ当たりです)
- まばゆ: (うん、やっぱり決めました)
- まばゆ: (このまま、モヤモヤとした 気持ちじゃいられません)
- まばゆ: (私、もっとちゃんと お母さんのこと、思い出そう!)
- FILENAME: text_320092-3.txt
- まばゆ: ええと…確かお店は あのビルでしたよね
- まばゆ: (私のお母さんは とても有名な占い師でした)
- まばゆ: (未来のことがよく当たるって 大評判!)
- まばゆ: (お父さんは、私が物心つく前に 亡くなっていたけれども…)
- まばゆ: (お母さんは女手ひとつで 私を育ててくれていて…)
- まばゆ: (なにひとつ、不自由する ことなんてありませんでした)
- まばゆ: …懐かしいですね
- まばゆ: いつも、仕事場には 入れてもらえませんでしたけど…
- まばゆ: (色々な悩みを抱えた人たちが 遠くからわざわざやってきて…)
- まばゆ: (お店に入るときは、みんな 深刻な顔をしていたけれど…)
- まばゆ: (お母さんの占いを聞いて 笑顔で外に出て行った)
- まばゆ: (それはまるで魔法みたいで…)
- まばゆ: (私もいつか、お母さんみたいに 誰かの役に立ちたいって思った)
- まばゆ: まあ…今の私には 絶対無理ですけど
- まばゆ: あー、せめて私にも、占いの 才能があったらなあ…
- まばゆ: ねえ、お母さん
- まばゆの母: なあに、まばゆ
- まばゆ: お母さんは 未来が視えるんだよね?
- まばゆの母: ええ、調子のいいときはね
- まばゆ: だったら、私の未来も占える?
- まばゆの母: ごめんなさい それはできないわ
- まばゆ: えー!?どうして?
- まばゆの母: だってまばゆは、未来を 占うことができたら…
- まばゆの母: きっと、テストをカンニング したいって言うでしょう?
- まばゆ: あっ ば、バレてた…
- まばゆの母: ふふふ
- まばゆの母: 未来を視ることは、あなたの ためになるとは限らないのよ
- まばゆの母: だからちゃんと テスト勉強は続けないとね
- まばゆ: はーい、わかりました
- まばゆ: (お母さんは、いつも優しくて 私はとっても大好きで…)
- まばゆ: (でも…よくわからないけど それとは別の感情もあって)
- まばゆ: (お母さんのことを思い出すと 胸がキューッと締め付けられる)
- まばゆ: (心臓がバクバクして 頭がフワフワ真っ白になる)
- まばゆ: (なんで?どうして?)
- まばゆ: (私、やっぱり何か 忘れてること、あるのかな?)
- 咲笑: お帰りなさい、まばゆちゃん
- まばゆ: ただいまです、咲笑さん
- 咲笑: 今日は帰り、遅かったわね どこかお出かけ?
- まばゆ: まあ、そんなところです
- 咲笑: そう…ご飯、作ってあるから 温めて食べてちょうだいね
- まばゆ: はい、ありがとうございます
- 咲笑: ええと…
- まばゆ: 咲笑さん
- 咲笑: あ、なあに?
- まばゆ: いつも、ご心配おかけして スミマセン…
- まばゆ: でも、私は大丈夫なんで
- 咲笑: ええ…わかってるわ
- まばゆ: (ごまかしちゃって ごめんなさい、咲笑さん)
- まばゆ: (いつも優しくしてくれて すごく感謝しているんですが…)
- まばゆ: (私にとって お母さんは特別で…)
- まばゆ: (私ひとりで、ちゃんと 向き合いたいんです)
- FILENAME: text_320093-1.txt
- 「本日午前7時、突発的異常気象に 伴い避難指示が発令されました」
- 「付近にお住まいの皆さまは」
- 「速やかに最寄りの避難場所への 移動をお願いします」
- まばゆ: うへぇ…昨日までの天気予報じゃ 全然大丈夫だったのに…
- まばゆ: 異常気象ってヤツですね
- 咲笑の声: まばゆちゃーん 避難所、準備お願いねー
- まばゆ: わかりましたー
- まばゆ: (表面上は、今までと同じ 仲良く暮らしているけれど…)
- まばゆ: (私と咲笑さんの関係は 相変わらずどこかぎこちない)
- まばゆ: (嫌ったり、疎んじたりしている わけじゃなくて…)
- まばゆ: (むしろお互いに尊重して 気を遣っている感じ)
- まばゆ: (だからかえって、問題が こんがらがっているのかも…)
- 咲笑: まばゆちゃん、そろそろ行くわよ
- まばゆ: はーい
- おばあちゃん、良かったら この座布団使って下さいね
- ママー!どこー?
- 気分が悪くなった方は、すぐに 係の人にご連絡下さーい
- 咲笑: あらら、ずいぶん賑やかね
- まばゆ: 大ごとですね…これ以上 何もないといいのですけれど…
- 咲笑: まばゆちゃん、私、ちょっと お手伝いに行ってくるわね
- 咲笑: ひとりでも大丈夫?
- まばゆ: あ、はい 映画も持って来ましたし
- まばゆ: いつもボッチなんで 時間を潰すのは得意です!
- 咲笑: そ、そう… それじゃ、また後でね
- まばゆ: はーい
- まばゆ: (さて…と)
- まばゆ: (やることもないですし 早速映画でも観ますかね)
- まばゆ: (こんなこともあろうかと まとめて借りてて良かったー)
- まばゆ: (さて、それじゃあ何から 観始めますかね…)
- まばゆ: (尾道舞台の名作タイムトラベル 映画にしましょうか?)
- うぎゃああああああああんっ!!
- まばゆ: (あるいは、先に同原作の アニメ版を先に観ちゃう手も…)
- やだやだやだやだあああああ!! うちに帰るうううううううう!!
- こらっ!静かにしなさい!
- ここつまんない! つまんないいいいいいいいいい!!
- 駄々こねるんじゃない! ほら、皆うるさがってるんだぞ!
- 知らなーい!!帰るんだもーん!! お母さんのところに行くのーッ!!
- まばゆ: あ、あの…
- まばゆ: もし良かったら これ、使いますか?
- へ…?なに、この丸いの?
- まばゆ: ポチッと再生!
- わわっ、これ、アニメ?
- まばゆ: ポータブルビデオプレイヤーです
- まばゆ: これさえあれば、いつでも どこでも映画の世界にダイブ!
- まばゆ: つまんない日常とも オサラバですよ
- お姉ちゃん、これ、貸して!
- まばゆ: はい、どうぞどうぞ
- すみません…うちの息子が ご迷惑をかけて…
- まばゆ: い、いえいえ! 迷惑だなんてそんな
- まばゆ: 困ったときはお互い様ですし…
- いや、でも本当に助かりました 言いだしたら聞かないもんで…
- 本当に、隣町の病院まで つれて行かなきゃならないかと…
- まばゆ: 隣町の病院?
- はい、つい先日から 妻が盲腸で入院してて…
- 避難指示が出て、大きな病院に 転院できたのは良かったんですが…
- まばゆ: 病院…
- まばゆの母: 近づかないでって 言ったでしょう、まばゆ!
- まばゆの母: あなたの顔が、見たくないの…
- まばゆ: あっ…
- まばゆ: お、お母さん… そんな、そんなのって…
- あの…どうかしましたか?
- まばゆ: い、いえ…なんでもないです なんでも!
- まばゆ: それ、お貸ししますんで 楽しんで下さいね!
- はい、助かります
- まばゆ: …………ふぅ
- まばゆ: (さっきのは…何?)
- まばゆ: (お母さんが、私に向かって 怒鳴って、別人みたいで…)
- まばゆ: (あれは…夢?)
- まばゆ: (ううん、違う…)
- まばゆ: (あの場所は、お母さんが 入院した病院で…)
- まばゆ: (私は確かに あの光景を見たことがある)
- まばゆ: (でも、何があったの?)
- まばゆ: (どうして、忘れていたの?)
- まばゆ: (それもやっぱり 忘れた方がいいことなの…!?)
- まばゆ: そんなわけ…あ…
- まばゆ: (また、時間が止まった…)
- まばゆ: …………
- まばゆ: っ!!
- まばゆ: (私、お母さんとの思い出を 忘れたくなんて、ない…!!)
- まばゆ: (もし、それが辛いことでも… それでも、私、どうしても…!)
- まばゆ: どうしても 思い出したいッ!!
- まばゆ: (嵐が近づく町を走って、時間は しばらく止まったままでした)
- まばゆ: (それは、私が今まで経験した中で 一番の長さで…)
- まばゆ: (私が病院にたどり着くのを 待っていたみたいでした)
- FILENAME: text_320093-2.txt
- まばゆ: はぁっ…はぁっ…はぁっ…
- まばゆ: (今までずっと 思い出せなかったのに…)
- まばゆ: (不思議と記憶は鮮明でした)
- まばゆ: (お母さんが 入院していた病院…)
- まばゆ: (お母さんが 最期の日を過ごした病室…)
- まばゆ: (私は、時間の止まった病院の 階段を駆け上がって…)
- まばゆ: ここだ…っ!
- まばゆ: ここに、私、前に お見舞いに、来て…
- まばゆ: それで、お母さんは…
- まばゆの母: 近づかないでって 言ったでしょう、まばゆ!
- まばゆの母: 私は、死ぬの…運命なのよ それが視えてしまったの
- まばゆの母: 私はもう…何も感じたくない
- まばゆの母: このまま静かに… 消えていきたいのよ!
- まばゆの母: だから…来ないでちょうだい
- まばゆ: お母さん、私を信じて
- まばゆ: 病気は絶対治るから 絶対に、治るから!
- まばゆ: だからまた昔みたいに 元気に占いの仕事をして…
- まばゆの母: …………
- まばゆ: お母さん?
- まばゆの母: …けるな
- まばゆ: お母さん?なにを…
- まばゆの母: ふざけるなッ!!
- まばゆ: えっ…
- まばゆの母: そんなこと、無理に決まってる! 私の占いは外れないの!
- まばゆの母: 私の運命は定まってしまって もう、変えることはできない!
- まばゆの母: もし変えられるなら、そんなの とっくの昔にやっていたわ!
- まばゆの母: あなたの顔が、見たくないの…
- まばゆの母: もう…私に辛い思いを させないでちょうだい…お願い
- まばゆ: …………
- まばゆ: ああ…そうだ…
- まばゆ: 私…ずっと、忘れてた…
- まばゆ: お母さんは、自分が命を 失う未来を、視ちゃったんだ
- まばゆ: 自分の未来に怯えて まるで、人が変わったみたいに…
- まばゆ: 私のことなんて 忘れてしまったみたいに…
- まばゆ: 私は、それが怖くて… 受け止められなくて…
- まばゆ: だから、目を逸らしたんだ
- まばゆ: あんなに好きだった お母さんのことを…
- まばゆ: 心の中から 追い出しちゃったんだ…
- まばゆ: あはは…
- まばゆ: そりゃ…そうですよね…
- まばゆ: そんな、薄情者ですもん
- まばゆ: ボッチになっても 当たり前っていうか…
- まばゆ: 自業自得ですよ
- まばゆ: 私には、誰にも 愛される資格なんて…
- 咲笑の声: まばゆちゃんっ!!
- まばゆ: え…
- 咲笑: まばゆちゃん やっぱりここに居たのね
- まばゆ: 咲笑さん…! なんで、ここに…?
- 咲笑: ふふふ…まばゆちゃんが 考えてることは、わかるわよ
- 咲笑: 様子を見に戻ったら どこにも居なくて…
- 咲笑: まばゆちゃんのプレイヤーを 使ってる子が居たから
- 咲笑: お父さんに、話を聞いたの
- まばゆ: ああ、なるほど…
- 咲笑: まばゆちゃん最近、お母さんの ことで悩んでいたでしょう?
- 咲笑: もしどこかに行くなら この場所かなって
- まばゆ: 咲笑さんは、なんでも お見通しですね
- まばゆ: お見舞いに来たときも 咲笑さんと一緒でしたもんね
- 咲笑: まばゆちゃん
- 咲笑: あの時のお母さんは あなたを嫌ったわけじゃなくて…
- まばゆ: ええ、そうです お母さんは、優しい人でした
- まばゆ: 変えてしまったのは私です
- まばゆ: 私が居なかったら…お母さんは あんなふうにはならなかった
- まばゆ: みんな、私のせいなんです
- FILENAME: text_320093-3.txt
- まばゆ: ねえ、お母さん?
- まばゆの母: なあに、まばゆ?
- まばゆ: お母さんは 未来が視えるんだよね
- まばゆの母: ええ、調子がいいときはね
- まばゆ: それ、すごいね!
- まばゆの母: ええ、これはね 私が神様から授かった力なの
- まばゆの母: この力があるおかげで 私は皆の役に立てるのよ
- まばゆの母: もし私が、この力を失ったら 困ってしまうかもしれないわね
- まばゆ: それじゃあ、未来を変えたら どうなるの?
- まばゆの母: ううん、残念だけれど 未来は変わらないの
- まばゆ: なんで?
- まばゆの母: さあ、どうしてかしらね? 私にもわからないわ
- まばゆの母: でもね、どれだけ努力をしても 未来は変わらない…
- まばゆの母: もしかしたら運命は、最初から 決まっているのかもね
- まばゆ: でもお母さん 占いをしてるんだよね?
- まばゆ: 嫌な未来が視えて、変えられ なかったら、どうするの?
- まばゆ: そんな未来、知っても 嫌な気持ちになるだけだよね?
- まばゆの母: ええ、そうね
- まばゆの母: だからそういうときは そっと胸の奥にしまっておくの
- まばゆ: 胸の奥に…?
- まばゆの母: 伝えるのはいいことだけ お互いにとって、幸せでしょ?
- まばゆ: …苦しくないの?
- まばゆの母: えっ…?
- まばゆ: お母さんの胸の中には、誰にも 言えない不幸が詰まってて…
- まばゆ: それって、なんだか苦しそう
- まばゆの母: 人の未来を預かるのは、とても 苦しくて、責任のあることだわ
- まばゆの母: だから時々は辛くもなる
- まばゆの母: でも…私はこの仕事に誇りを 持っているわ
- まばゆの母: 未来を視るこの力は 私の人生そのものなの
- まばゆ: 人生、そのもの…?
- まばゆの母: 心配してくれて、ありがとう
- まばゆの母: まばゆみたいな優しい娘がいて 私は幸せだわ
- まばゆ: お母さん…
- まばゆの母: え…
- まばゆの母: 嘘…
- まばゆ: …お母さん?
- まばゆの母: やめて…
- まばゆ: お母さん、どうしたの?
- まばゆの母: お願い、来ないで!
- まばゆ: え…
- まばゆの母: 視えた…
- まばゆの母: 視えて、しまったの…!!
- まばゆ: あの時…お母さんは 私の未来を視たんです
- まばゆ: 私が、お母さんの死を 経験する、未来を
- まばゆ: だから、もし、あの時 私がそばにいなければ…
- まばゆ: お母さんは、自分の運命を 知ることはなかった
- まばゆ: 死に怯えて、あんなに 苦しむ事もなかったんです!
- まばゆ: お母さんは、私のせいで…
- 咲笑: 違う あなたのせいじゃないわ
- まばゆ: そんな気休めは、要らないです
- 咲笑: 気休めなんかじゃない
- 咲笑: まばゆちゃん、良く聞いて
- 咲笑: あなたは、お母さんの 希望だったのよ
- まばゆ: …希望?
- 咲笑: あなたのお母さんが自分の未来を 視たのは、それが初めてじゃない
- 咲笑: それまでにも何度も 自分の未来を視ていたわ
- 咲笑: 不意に近くの人の未来が視えて 自分の運命がわかってしまう
- 咲笑: それは、避けようのない ことだったのよ
- 咲笑: 嬉しいことも視えれば 悲しいことだって視える
- 咲笑: 中には、自分の大切な人を失う 未来が、視えることだってあった
- まばゆ: あ…それって、もしかして…
- まばゆ: お父さんの、未来も?
- 咲笑: ええ、そうよ
- 咲笑: あなたのお母さんは、必死に 未来を変えようとした
- 咲笑: お父さんが巻き込まれる事故を 防ごうとしたのよ、でも…
- 咲笑: 変えられなかった
- 咲笑: 愛おしい人たちの死を ただ見送ることしかできなかった
- 咲笑: それが…彼女が視る未来の 絶対のルールだったから
- まばゆ: そんな…
- 咲笑: その時、あなたのお母さんは 絶望に沈んだわ
- 咲笑: 周囲に当たり散らして 自分の力を呪った
- 咲笑: 未来を変えることができないのに 予知に何の意味があるんだって
- 咲笑: 愛する人を救えずに 生きている意味なんてないって
- 咲笑: そんな、お母さんの苦しみを 救ったのが…
- 咲笑: まばゆちゃん あなただったのよ
- まばゆ: 私…?
- 咲笑: ええ
- 咲笑: あなたの居る未来が お母さんの生きる意味だった
- 咲笑: あなたの命こそが まばゆい未来の希望だった
- 咲笑: だから…
- 咲笑: 自分の死で、その希望を 手放すときに、お母さんは…
- 咲笑: 我を失ってしまうくらい 辛い思いをすることになったの
- 咲笑: あなたが悪いわけじゃない あなたが嫌いだったわけじゃない
- 咲笑: むしろ逆で…
- 咲笑: あなたが大好きだったから 苦しんだのよ
- まばゆ: お母さん…
- まばゆ: でも…だったら、やっぱり…
- まばゆ: 私がそばにいなければ… 未来を視せたりしなければ…
- 咲笑: まばゆちゃんは、そのショックが 大きくて、覚えていないかしら
- まばゆ: なにを、ですか?
- 咲笑: お医者さんは、化学治療の 副作用と言っていたけれど…
- 咲笑: 最期の頃のお母さんは、どうやら 記憶を失っていたみたいなの
- まばゆ: あ…
- まばゆの母: あら、まばゆ いらっしゃい
- まばゆ: お母さん…?
- まばゆ: 大丈夫…? 気分は、悪くない?
- まばゆの母: 悪くないどころか 曇り空が晴れたみたい
- まばゆの母: 心配かけちゃって ゴメンなさいね
- まばゆの母: すぐに病気を治して 元気なお母さんに戻るから!
- まばゆ: お…お、お…
- まばゆ: お母さんっ!!
- まばゆの母: ん?なあに?泣いてるの?
- まばゆの母: ふふふ、大丈夫よ だってまばゆは、強い子でしょう
- まばゆの母: だって、どんな運命にも負けない 私の希望なんだもの
- まばゆ: そうだった…
- まばゆ: 私、お母さんと 最期に、この部屋で…
- 咲笑: まばゆちゃん、聞いて
- まばゆ: 咲笑さん…?
- 咲笑: 辛いことがあっても 苦しいことがあっても…
- 咲笑: あなたを愛する人は あなたのそばに、確かにいるし…
- 咲笑: 例え、その人が遠くなっても 記憶から薄れてしまっても…
- 咲笑: あなたがここにいることは とても意味のあることなのよ
- まばゆ: …うん
- FILENAME: text_320093-4.txt
- まばゆ: 遠くから、音が…
- 咲笑: 町の中心部は危ないみたいね
- 咲笑: 今日はこのまま、ここに 避難させてもらいましょう
- まばゆ: はい、それがいいと思います
- 咲笑: それじゃ、私はボランティアの お手伝いに行ってくるから
- 咲笑: 今度は、ひとりでどこかに 行ったりしないでよ
- まばゆ: はーい
- まばゆ: 咲笑さんも、あんまり 無理しないでくださいね
- 咲笑: はいはい、わかってます
- まばゆ: (といっても、ちょっとは 無理しちゃうんだろうなあ)
- まばゆ: (私を探しに、当てもなく 嵐の中に飛び出すくらいだし)
- まばゆ: (今度は私が、咲笑さんを 助けてあげなきゃ!)
- まばゆ: (もうこれ以上、心配なんて かけられないですからね!)
- まばゆ: あ、また時間が…
- まばゆ: (全く、なんなんですかね 私のこの力…)
- まばゆ: (やっぱり、お母さんの占いと 何か関係があるんでしょうか?)
- まばゆ: (私、まだまだ何かを 忘れてしまっていて…)
- まばゆ: …………
- まばゆ: (でも、まあ…)
- まばゆ: (それも、悪くはないのかも しれませんね)
- まばゆ: (お母さんが、笑顔で最期を 迎えられたのも…)
- まばゆ: (優しい忘却があったからで…)
- まばゆ: きっと、意味がある
- まばゆ: えっ!?
- まばゆ: (急に、空が晴れた?)
- まばゆ: (なんだろう あの眩しい光は…?)
- まばゆ: (不思議と心が温かくなって…)
- まばゆ: なんだか、不思議と 笑顔になっちゃいますね…
- まばゆ: にひひひひ
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