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- FILENAME: text_519410-1_qv10h.txt
- 住民: 「…トヨ様、ですか?」
- 住民: 「はい、確かにまじない…ああ、鬼道でしたか? それに優れていると言われていますが… あの子の力は鬼道のおかげではありません」
- 住民: 「あの力は呪われた力… そう、あの子は祟り神の子なんですから」
- 住民: 「いつかあの子が原因で災いが起きる… 私たちはそう思っているんです …神奈備様の孫でなければ 追い出してやれたのに…」
- 住民: 「あなたも近づかない方がいい… あの子は祟り神の子…人の子ではありません」
- 使い: …祟り神の子、か 噂に過ぎないと思っていたが…
- 使い: こうも皆が口を揃えて 言うとなると本当かもしれません
- 使い: 度々、取り憑いている祟りが 表に出てきているようですし…
- 使い: “神懸かり”だな…
- 使い: 前に後継者候補に選ばれた巫女も 神懸かりを起こして…
- 使い: その身を祟り神に奪われ 厄災を引き起こしたと聞く
- 使い: …別の候補が命を捧げて 祟りを祓ったんですよね?
- 使い: 詳細は知らないが、後継者候補が 多く命を落としたのは事実…
- 使い: …どうします? さすがにやめておいた方が…
- 使い: 他に候補がいない以上 仕方がない
- 使い: それに…主祭殿からの 強い要望でもあるからな…
- 使い: 主祭殿…ヒミコ様が?
- 使い: さあな… 下っ端の我々にはわからんよ
- 使い: …………
- 使い: …はあ それにしても、暑いな
- 使い: もう夏ですからね
- トヨ: 『ぬわあああああああっ!!』
- トヨ: ―トヨ― な、何ということなのだ… この亀裂の走り方…
- トヨ: ―トヨ― ああ…やはりそうなのだ ばば様から聞いた通り…これは!
- トヨ: ―トヨ― じじ様がばば様にはじめて 好きと言った日に出た亀裂と同じ…!
- トヨ: ―トヨ― 占いも長らくやってきたが 実際に見たのはこれがはじめてなのだ…
- トヨ: ―トヨ― …今日はなんかいいことありそうなのだ
- じじ様: ―じじ様― トヨ…トヨや! 大変じゃ
- じじ様: ―じじ様― 邪馬台国のヒミコ様が お前を呼んでいるそうなのじゃ…!
- トヨ: ―トヨ― …ヒミコ様…なのだ?
- FILENAME: text_519410-2_qv10h.txt
- トヨ: ぜえ…っ!ぜえ…っ!
- トヨ: …はあ~ バカに暑いのだ…
- トヨ: しかし…そんけーするヒミコ様に 会えるのだ…頑張るのだ…
- 使い: トヨはヒミコ様の 後継者候補に選ばれました
- 使い: 長、これは大変名誉なことですぞ この離れ里にとっても利になる
- 使い: トヨには準備ができ次第 邪馬台国へ向けて出立してもらう
- トヨ: あの日…吾(われ)らの属する女王国の中で 最も強力なクニ…邪馬台国から使いが来て 吾がヒミコ様のこーけーしゃに 選ばれたと言ったのだ
- トヨ: …こんなにうれしいことは 生まれてはじめてだったのだ
- トヨ: 邪馬台国のヒミコ様…
- トヨ: 世が乱れに乱れていたとき その卓越した鬼道で人々を導き
- トヨ: いくつものムラやクニを 束ねることに成功したお方…
- トヨ: 鬼道を志す者で その名を知らぬ者はいないのだ そして…
- トヨ: ヒミコ様のようになりたい… そう思わぬ者もいないのだ
- トヨ: 吾もその中のひとりだった
- トヨ: …いつから吾が鬼道をはじめたのか もう覚えてはいない…
- トヨ: じじ様は鎮守の森を管理する立場で ばば様は昔、巫女をしていた… そういうかんきょーもあって 物心つく前には鬼道に触れていたのだ
- トヨ: まあ、ともかく… 吾はヒミコ様が鬼道で多くの人を助け 皆の力になった話を聞き…
- トヨ: 吾もそうなりたいと 鬼道に夢中になっていったのだ
- トヨ: …それに、鬼道に没頭していると どういうわけか…何か優しいものに 包まれている気になったのだ…
- トヨ: しかし、じじ様とばば様は 吾が主祭殿へ行くことに 強く反対なさった
- トヨ: これまで神懸かりを起こす度に 祟りに憑かれていると言われてきたのだ…
- トヨ: 吾のことを思って引き留めようと なさったのはわかっているのだ
- トヨ: でも、この気持ちは抑えようがなかったのだ
- ばば様: 「…お前が鬼道をはじめたときから いつかこうなるだろうと… ヒミコ様のもとへ行ってしまうだろうと ばばは思っていたんですよ…」
- ばば様: 「これは天の意思… お前の旅立ちは、きっと… 誰にも止められないんでしょうねえ…」
- トヨ: ばば様はそう言って 吾の旅立ちを許してくださり じじ様を説得なさってくださったが…
- トヨ: …あのお言葉… どーゆー意味だったのだろうか…
- トヨ: …………
- ミーン!ミーン!
- トヨ: セミは元気なのだ… 吾は…喉が乾いたのだ…
- トヨ: よし、こんなときこそ鬼道なのだ この地形ならば…
- トヨ: …川はあっちか
- トヨ: ぜへえっ!ぜへえっ!!
- トヨ: …あ、あそこに…葦が…
- トヨ: 葦は水のあるところによく茂る… ならば…
- トヨ: はあ…はあ…着いたのだ
- トヨ: なーっはっはっは…
- トヨ: ごほ…ごほ、ごほっ!
- トヨ: …はあ、はあ…なはは…
- トヨ: これが鬼道… 先人の知の結晶なのだ
- トヨ: さて、吾も水を…
- 子どもたち: 「冷たくておいしいねー!」 「あははは!」
- トヨ: …わっぱたちもいたのか
- トヨ: 楽しそうなのだ 吾も一緒に飲みたいのだ
- トヨ: あ、あの…わっぱたちよ 吾も、まぜてほしいのだ
- 子ども: 「いいよー」
- トヨ: …ほ、ほんとーなのか!?
- 子ども: 「よくないって!お前、知らないのか? コイツ、祟り神の子なんだぞ」
- 子ども: 「えー、そうだったのー!?」
- 子ども: 「祟り神の子と 一緒にお水なんて飲めないよー」
- 子ども: 「こっちまで呪われるぞ、逃げろー!」
- トヨ: …あっ…
- トヨ: …なはは…仕方ないのだ…
- トヨ: 皆、祟りは怖いのだから… 吾は我慢しないと…
- トヨ: …………
- トヨ: …いいなあ…友だち
- レナ: うう…レナひとりなんて… かえで~…ももこ~…
- トヨ: ――っ!?
- トヨ: (…泣いているのだ)
- トヨ: …あの…そこの者… いじめられたのか…?
- レナ: だっ、誰よアンタ…!
- レナ: 話しかけないで レナのことはほっといていいから
- トヨ: は、はい…なのだ
- トヨ: (今度は怒り出したのだ… 感情的なやつなのだ…)
- トヨ: …………
- レナ: …なによ
- トヨ: なはは…心配なのだ
- レナ: …はあ 大切な本を奪われたのよ
- レナ: 取り戻そうと捜してたら 道に迷って…
- トヨ: ほん?
- レナ: …この時代にはないの? まあ、貴重なものよ
- レナ: 奪ったのは変なお面を つけたやつなんだけど…
- トヨ: こ、こっちには、来てない…のだ
- レナ: そう…かえでとももこに 期待するしかないか…
- レナ: 早くいろはの概念を回収しないと いけないっていうのに…
- トヨ: (それにしても…すごい衣なのだ いったいどこの者なのだ…?)
- レナ: ねえ…ここの水って飲めるの? レナ、喉が渇いて
- トヨ: わ、吾は飲んでないから 大丈夫なのだ…!
- レナ: はあ?
- トヨ: ひいいっ、怒らないでほしいのだ 吾はちゃんと我慢するから
- レナ: いや、意味がわかんない 別に飲んだらいいじゃない?
- トヨ: …あ、吾を知らないのだ…?
- トヨ: 吾は祟り神の子…吾といると ケガレが移ると言われているのだ
- レナ: …そういうオカルト染みた話が 信じられてる時代なのね
- トヨ: おか…?
- レナ: こっちの話
- レナ: ほら、アンタも飲みなさいよ レナは祟り神とか信じてないから
- トヨ: え…
- レナ: ほら!
- トヨ: …………
- レナ: …な、なによ
- トヨ: …う…う゛…
- トヨ: う゛れ゛し゛い゛の゛た゛! ぐわーん!ぐわわんっ!
- レナ: え…泣いてるの? なんで?
- レナ: …変なやつ
- FILENAME: text_519410-3_qv10h.txt
- 住民: またトヨ様が神懸かりを起こして 私、近くで見ちゃったのよ…
- 住民: 私もあるわ… あれ、本当におぞましいわよね
- 住民: 祟られている証拠だわ
- トヨ: …………
- 住民たち: ――っ!?
- 住民: い、いらしたのですね…声を かけてくださればよかったのに…
- トヨ: あっ…えっと…
- トヨ: タケノコ…採ってきて… こんなに…
- 住民: …この時季なのに? どうやって…
- トヨ: 吾、見つけるの… あの…得意だから…
- トヨ: な、汝ら…食べるか…?
- 住民たち: …………
- トヨ: い、一緒に、食べて… その…お喋りなんか、して…
- 住民: いえ…せっかくですが…
- トヨ: …そう、なのだ…
- 住民: それでは…
- 住民: …祟り神の子が採ってきた タケノコなんて食べられないわよ
- 住民: …ああ、怖い怖い タケノコですって…
- 住民: この時季にタケノコなんて あるはずないわ
- 住民: 祟りの力でどうにかしたのよ
- トヨ: …………
- トヨ: …なはは…じじ様、ばば様と 一緒に食べたらいいのだ
- レナ: なっによ、それ!
- レナ: 水だけじゃなくて 他でもいじめられてるわけ?
- レナ: あー気分わる…
- トヨ: いや…その…それは… 違うのだ…
- トヨ: 「えっと…この世に起こる様々な災いは 祟り神によって引き起こされる… そう皆が信じている以上 吾が忌避されるのは…仕方がないのだ」
- トヨ: 「もちろん、吾は祟り神の子などではないが… もともと親が誰かもわからぬケガレた身の上 祟りが宿っていても不思議はないのだ」
- トヨ: 「だから…皆が怖がる気持ちはわかる 吾は皆を責めようとは思わない」
- トヨ: 「それに…皆がほんとーは 心優しい者たちだと吾は知っているのだ」
- トヨ: 体を悪くしたじじ様やばば様を 皆、気遣ってくれているし…
- トヨ: 稲も大切に育て この土地を一生懸命守っている…
- トヨ: それが、皆の本質だと 吾はわかっているのだ
- レナ: アンタ…
- トヨ: だから…吾は、少しでも 皆の役に立ちたい
- トヨ: ヒミコ様に会いたいだけでなく… しっかりこーけーしゃになって
- トヨ: 故郷を豊かにしたいのだ
- トヨ: そう!それに、じじ様やばば様も 楽にしてあげたいのだ
- トヨ: …そう思って吾は旅立ち 邪馬台国を目指しているのだ
- レナ: 邪馬台国…どこかで聞いたことが ある気がするけど…
- レナ: まあいいや アンタ、ひとりなの?
- トヨ: じじ様やばば様は体が悪いし… 他の皆は、その…なはは…
- レナ: …………
- レナ: タケノコ
- トヨ: はあ?
- レナ: レナ、お腹空いたわ
- レナ: アンタ、タケノコ見つけるの 得意なんでしょ?採ってきて
- トヨ: …う、うん…なのだ わかったのだ…
- トヨ: はいこれなのだ
- レナ: …どうやって食べるの?
- トヨ: 生でもおいしいのだ 吾が見つけるものは一級品なのだ
- レナ: ふーん… ほら、アンタも食べなさいよ
- トヨ: え…? い…いい、のか?
- レナ: いちいち確認しないでよ しつこいわね
- トヨ: 祟り…怖くないのか…?
- レナ: さっきも一緒に 水を飲んだじゃない
- トヨ: それは…そうなのだが…
- レナ: …レナはこの時代の価値観とか よくわからないけど
- レナ: 仲間外れにするのは どの時代でもよくないわよ
- トヨ: そなた…
- レナ: ――っ!?
- トヨ: ど、どうしたのだ?
- レナ: 誰か来る
- ???: ――っ!?
- レナ: へえ…奇遇ね アンタを捜してたのよ…
- レナ: 本を返してもらうわ
- ???: …“ホン”…
- レナ: ねむ、無事でしょうね?
- ねむ: 心配には及ばないけど 状況は変わっていないよ
- ねむ: 彼らは君の狗奴国への同行を 求めているようだからね
- 狗奴国兵: 必ず来てもらう…いや 来てもらいますぞ
- 狗奴国兵: …トヨ様
- レナ: だから人違いだって 言ってんのに…
- FILENAME: text_519410-4_qv10h.txt
- ねむ: 「ここは3世紀… 邪馬台国の女王ヒミコが君臨する日本」
- ねむ: 「倭国大乱と呼ばれる激しい戦いを ヒミコは各クニと女王国という一種の連合政権を つくることで収束させ、実質リーダーとなった」
- ねむ: 「けど連合に属さないクニもある… それが狗奴国」
- ねむ: 「邪馬台国が主導権を握った背景には 魏…大陸の王朝の力を借りていたから… 狗奴国は魏に臣従するのをよしとせず 邪馬台国と対立している…」
- ねむ: …という背景があるから
- ねむ: 重要人物であるトヨの 手がかりを得たいんだよ
- レナ: こんなときに説明されても 頭に入らないってば!
- レナ: とにかく、今すぐそいつから 取り戻すから、じっとしてて!
- ねむ: むしろ、動きようがないよ
- 狗奴国兵: 頭、さっきやられたってのに また強引にさらうつもりなのか?
- 狗奴国兵: まさか…何のためにこの“ホン” とやらを奪ったと思う?
- 狗奴国兵: トヨ様!このホンは魏から 贈られた重要な品とお見受けする
- 狗奴国兵: そのようなものが 奪われたとなれば一大事…
- 狗奴国兵: 大人しく言うことを聞けば ホンだけは返してやっても…
- レナ: だーかーら! レナはトヨじゃないっての!
- レナ: そもそもトヨって誰なのよ!
- トヨ: トヨは…吾なのだ
- レナ: は?
- ねむ: 驚いたね… トヨが彼女だったなんて
- レナ: …この子が重要人物の…トヨ?
- ねむ: そう…
- ねむ: 「3世紀…女王ヒミコの亡きあと 混乱する邪馬台国をまとめあげた 幼き女王…ヒミコの真の後継者」
- ねむ: …それが彼女
- レナ: この子が、後継者のトヨ…?
- 狗奴国兵: 頭、そっちのちんちくりんの方が トヨだってよ
- 狗奴国兵: 確かに…面影はある…
- 狗奴国兵: だが…どう見てもこのホンは 我々の技術を凌駕している…
- 狗奴国兵: つまりこれは魏からの贈り物… 貴人以外そんなものは所持できぬ
- 狗奴国兵: 拾ったんじゃねえの?
- 狗奴国兵: バカを言え!トヨ様だから 所持していたと考えるのが自然だ
- レナ: なに…本当にレナを トヨだと思っているの?
- ねむ: そうみたいだね…お姉さんの 記録が書かれたこの本を
- ねむ: 魏からもらったものだと 勘違いしてるようだ
- ねむ: 金印のような…臣従の証の品だと 思っているんだろうね
- 狗奴国兵: 頭、結局どっちがトヨなんだ?
- 狗奴国兵: 面影のある方か? ホンを持っていた方か?
- 狗奴国兵: ええい、この際ふたりまとめて 狗奴国へ連れていけばいい!
- 狗奴国兵: これ以上、手間をかけさせて くれますな…トヨ様
- トヨ: …事情は、よくわからんが
- トヨ: 狗奴国とは、ヒミコ様に 盾突く者たちだと聞いているのだ
- トヨ: どうせこーけーしゃ候補をさらい 政に利用するつもりなのだろう?
- トヨ: そんなところへ 行けるものか、なのだ!
- レナ: レナも行くつもりはないわよ
- 狗奴国兵: ちっ…このホンがどうなっても…
- 狗奴国兵: があっ…!
- ももこ: レナの声が聞こえると思ったら…
- かえで: こっちに来て正解だったね
- レナ: ももこ!かえで!
- 狗奴国兵: ちいっ…またこの厄介な 従者どもか…
- 狗奴国兵: 立てるか?
- 狗奴国兵: 面目ねえです、頭
- 狗奴国兵: 我々を軽くねじ伏せるこの力… 不埒な噂は本当だったようだ
- 狗奴国兵: 邪馬台国が祟りの力を巫女に 授けている…というのは
- 狗奴国兵: …今は退こうぜ この品があれば、まだ
- 狗奴国兵: そうだな
- ねむ: …退く?まずいね 今から言うことをよく聞いて
- レナ: え…?
- ねむ: トヨは魔法少女になる
- ねむ: 君達はトヨとともに この時代を歩んでいくんだ
- ねむ: そうすればお姉さんの概念は 回収されるはずだよ
- レナ: トヨが、魔法少女に…?
- 狗奴国兵: はあっ!
- かえで: ふゆぅ…砂煙…!?
- ももこ: あいつらが逃げるよ!
- レナ: ま、待ちなさい! ねむが!
- トヨ: あ… …逃げられたのだ
- レナ: そうみたいね…
- ももこ: レナ、その子は?
- レナ: この子はトヨよ 回収のためにとても重要な人物…
- かえで: それって…
- トヨ: …何なのだ、汝ら…? 吾をそんなに見て…
- レナ: (…トヨは魔法少女になる…)
- レナ: (けどそれは 止めてはいけないし…)
- レナ: 止めようとしたって 止められるものじゃない…
- FILENAME: text_519410-5_qv10h.txt
- ももこ: あー…そうだったんだ
- レナ: そうよ
- ももこ: そんなことになってたんなら もっと急いでくればよかったな…
- レナ: …別に、いいわよ
- レナ: ももこにしては、そんなに タイミング悪くなかったし…
- ももこ: お、おお…
- レナ: …なによ
- ももこ: いや…なんか 大人になってきてるなって
- かえで: よかったね、レナちゃん!
- かえで: 少しずつでも変わろうとしてる 努力の成果だよ
- レナ: う、うるさいわね
- ももこ&かえで: あはははは
- トヨ: …な…なはは…
- かえで: …これから、トヨちゃんに ついていけばいいんだよね?
- レナ: そう言ってたわね…
- ももこ: 狗奴国がトヨを 狙ってるみたいだけど
- ももこ: アタシたちは守っていいのか?
- かえで: …歴史でトヨちゃんがさらわれる ことになってたら、むしろ…
- ももこ: うーん…レナ、この時代のこと 何か知ってたりする?
- レナ: 知るわけないでしょ
- かえで: まあ、そうだよね…
- レナ: そもそも、邪馬台国だって ろくに知らないのに
- レナ: トヨのことなんて わかるはずないでしょ
- かえで: 胸を張って言うことじゃ ないと思うけどなあ…
- トヨ: 汝ら、何の話をしているのだ?
- ももこ: あー、えっと…
- レナ: レナたち、未来から来たの
- ももこ: ――っ!?
- かえで: い、言っちゃっていいの?
- レナ: なんで?
- ももこ: いやほら、歴史にどんな影響が あるかわからないだろ?
- レナ: そんな話、してたわね…
- トヨ: なあなあ、未来って何なのだ? 聞いたことがない言葉なのだ
- レナ: み、未来っていうのは…
- レナ: そう、国よ!国! ずっと遠いところにあるの
- トヨ: その未来国では、皆 汝らのような衣を着ているのか?
- かえで: え、ええと… そう、だね…
- トヨ: 汝らのように皆、 そんなに髪がきれいなのか?
- ももこ: これくらいなら、普通…かな?
- トヨ: すごいのだ… きっと優れたクニなのだろうな
- かえで: もう…変な嘘つかせないでよ…
- レナ: けどこれで乗り切れたわ
- トヨ: ではさっきの、ぱあーっと光って 衣が替わったあれ!
- トヨ: あれも未来国ではふつーなのか?
- レナ: うっ…そ、それは…
- かえで: 全然乗り切れてないよ…
- レナ: も、ももこ、何とかできない?
- ももこ: アタシ!?
- レナ: お願いよ この場を乗り切るだけでいいから
- ももこ: 乗り切るって言ったって…
- ももこ: …あ、あのな、トヨ… 姿が変わったことだけど…
- トヨ: うんなのだ
- ももこ: それはあれだよ…うん あれなんだ
- トヨ: あれとは何なのだ?
- ももこ: だから、うん…あれは、ほら あれだから…
- ももこ: …な、かえで?
- かえで: えええ…私に振らないでよ…
- トヨ: もしかして…汝ら…
- トヨ: 未来国の祓い巫女、なのか?
- ももこ: …祓い巫女?
- トヨ: 巫女の中には祟り神を祓うため 特別な力を持つ者がいると聞く…
- トヨ: こーけーしゃ候補の中にも そういった巫女がいたそうなのだ
- トヨ: …皆、命を落としたらしいがな
- みんな: ――っ!?
- レナ: ねえ、もしかしてそれって…
- ももこ: …魔法少女のことかもな
- トヨ: ま、待つのだ… ということは汝ら…
- トヨ: 吾を祓いにきたのかーっ!?
- みんな: え…
- トヨ: まあ…吾は人の子なのだ 祓われたって平気なのだ!
- レナ: 話がややこしくなってきたわね…
- トヨ: どんな祓い方をするのか知らんが 痛くはしないでほしいのだ…
- ももこ: …どうする?
- かえで: とりあえず、誤解はとこうよ
- レナ: …また話がこじれそうだけど…
- FILENAME: text_519410-6_qv10h.txt
- トヨの声: あ゛つ゛い゛の゛た゛~~
- トヨ: 歩いているだけで 溶けてしまいそうなのだ…
- トヨ: 汝ら、祓い巫女なのだろう? どーにかできんのか?
- レナ: できるわけないでしょ…
- ももこ: もうちょっと頑張ろうよ 邪馬台国まであと少しなんだから
- かえで: そうだね…
- トヨ: …しかし、汝らもヒミコ様に 用があったとはな
- トヨ: まあ、未来国の巫女なのだから そういうこともあるだろうが…
- かえで: …いいのかな こんな嘘ついちゃって…
- レナ: …………
- 狗奴国兵: 我々を軽くねじ伏せるこの力… 不埒な噂は本当だったようだ
- 狗奴国兵: 邪馬台国が祟りの力を巫女に 授けている…というのは
- レナ: …構わないわ 確かめたいこともあるし
- かえで: そう…?
- トヨ: はあ…はあ… な、汝ら…ちょっと、待つのだ…
- トヨ: 歩きすぎたのか 脚が言うことを聞かんのだ
- ももこ: あ、そうだね ちょっと休んでいこっか
- レナ: どうせなら 水浴びでもする?
- トヨ: ――っ!?
- かえで: どうしたの、トヨちゃん? お水、浴びたい?
- レナ: あ、わかった 水遊びしたいんでしょ?
- トヨ: そ、そんなことないのだ! 吾を子ども扱いするな、なのだ!
- ももこ: またまた、そんなこと言って
- トヨ: そんなこともこんなことも 全部ないのだ!
- トヨ: 吾は一刻も早く邪馬台国に着き ヒミコ様に会わねばならんのだ
- トヨ: 遊んでいる場合ではないのだ!
- トヨ: ほーれレナ!ばしゃばしゃ!
- レナ: あー! やったわね!
- トヨ: きゃっ、きゃっなのだ!
- トヨ: っじゃなーーーいのだ!!
- ももこ: どうしたんだよ さっきまで楽しそうにしてたのに
- トヨ: うるさいのだ! 遊んでいる場合ではないのだ!
- レナ: 散々、遊んでたのに…
- かえで: …でも、私たちだって同じだよ 遊んでてよかったのかな…
- ももこ: ま、トヨについていく以外に やれることなんてないからね
- ももこ: 今は信頼関係を築くことが 最優先でいいと思うよ
- レナ: 途中で追い払われたら それこそ大変だからね
- トヨ: ええい、狗奴国のやつらが 近くに潜んでいるかもしれんのだ
- トヨ: 遊んでいる場合ではないのだ!!
- かえで: また言った…
- ももこ: そうカリカリするのは お腹が空いてる証拠
- ももこ: よし、ちょっと早いけど ご飯にしよっか?
- レナ: あ、そういえば…このタケノコ 食べてなかった
- ももこ: タケノコか…でも、4人分には ちょっと足りないかな
- トヨ: …この辺りなら、すぐに 他のタケノコも見つけられるのだ
- ももこ: いいね、決まり
- レナ: タケノコだけっていうのも何だし かえでと魚でも釣るわ
- かえで: ふゆぅ… 道具がなくてもできるかな…
- トヨ: い、いや、待つのだ 今は一刻を争うとき
- トヨ: ご飯を食べている場合では…!
- トヨ: うっま~いのだ!
- ももこ: それはよかった
- トヨ: すごいのだすごいのだ どうやってつくったのだ?
- ももこ: どうって…普通だよ 煮て、あくを抜いて…
- かえで: 狗奴国の人たちが 落としていった竹筒…
- かえで: もしかしたらって思ったら ちゃんと鍋のかわりになったね
- ももこ: ま、ちょーっと 小さかったけどな
- トヨ: 確かにふつーなのだ ならば、なぜ…
- かえで: みんなで食べるから おいしいんだよ、きっと
- トヨ: そういうものなのか…?
- レナ: まあ、タケノコ自体も おいしいからね
- ももこ: 時季外れなのに、よくこんな タケノコ見つけたな
- トヨ: ふんなのだ 吾にかかればこれくらい…
- 住民: …ああ、怖い怖い タケノコですって…
- 住民: この時季にタケノコなんて あるはずないわ
- 住民: 祟りの力でどうにかしたのよ
- トヨ: …あ…
- レナ: なによ 変な顔して
- トヨ: …な、なんでもないのだ
- レナ: …………
- レナ: ま、とにかく、トヨのタケノコを 見つける才能は認めるわ
- レナ: やるじゃない、アンタ
- トヨ: え…
- ももこ: うん、こんなにおいしいタケノコ はじめて食べたよ
- トヨ: …汝ら…怖く、ないのか?
- ももこ: あー…祟りがどうとかって話? そんなの気にしないって
- かえで: そうだよ…そもそもトヨちゃんが 祟られてるなんて思わないもん
- トヨ: 汝ら…
- レナ: アンタも、そんなバカみたいな ことを何度も言ってないで
- レナ: ちゃんと、素直に… …うれしいって言いなさいよ
- トヨ: …………
- トヨ: あ…あぐっ…あぐうっ、ぐうう!
- トヨ: ぐわあん、ぐわんぐわんぐわん!
- かえで: …す、すごい泣き方…
- トヨ: し゛か゛た゛な゛い゛の゛た゛~ う゛れ゛し゛く゛て゛…
- トヨ: うれじぐて…
- トヨ: …いや、ご飯食べてる 場合じゃなかったのだああっ!
- ももこ: やれやれ…
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- かえで: ここが邪馬台国…?
- レナ: …問題はないみたい
- かえで: 順調に進んでるんだね
- トヨ: 何をやっているのだ…?
- かえで: へっ!?え、えっと…
- ももこ: あー!それにしても 人が大勢いて、活気があるな!
- レナ: そ、そうね! ヒミコはどこにいるの?
- トヨ: …よいかレナ ヒミコ“様”なのだ
- トヨ: もっとも、ヒミコ様は優しきお方 それくらい気にはせんだろう
- トヨ: 民をこき使うのではなく 民とともに汗を流し…
- トヨ: 鬼道は民の幸せのために使う そーゆーご立派なお方なのだから
- トヨ: しかし、ヒミコ様を崇拝する者は 多い…呼び方には注意するのだ
- ももこ: 要するに、トヨの憧れなんだ
- トヨ: 憧れというか… 心からそんけーしているのだ
- レナ: けど、歴史上の人物に様づけで 呼ぶのって、なんか変な感じ…
- トヨ: 歴史上の人物?
- レナ: あ、えっと…語り継がれていく 有名人って意味
- トヨ: …それなら様づけはふつーなのだ 何を言っているのだ?
- レナ: あーもう、わかったわよ 様をつければいいんでしょ
- ももこ: まったく…最初から 素直にそうしてればいいのに
- トヨ: 子どもなのだ、許してやるのだ
- レナ: うぐぐぐ…
- かえで: 大丈夫、レナちゃんは それでも随分大人になったよ
- レナ: …どういう意味?
- トヨ: ともあれ、ヒミコ様に 挨拶をしにいくのだ
- ももこ: 心から尊敬する人に会うんだ 緊張するだろ?
- ももこ: アタシもさぁちゃんの握手会に 行ったときはガクガク震えたなあ
- トヨ: さぁちゃん?握手会?
- かえで: あんまり知らなくていいかも…
- かえで: それで、緊張してるの?
- トヨ: う、うんなのだ…
- トヨ: 邪馬台国にも吾の噂は 届いているはず…
- トヨ: 会うなり、帰れと言われたら いやだなと…
- ももこ: そんなことないって ヒミコ様がトヨを呼んだんだろ?
- かえで: それに優しい人なんだよね? きっと大丈夫だよ
- トヨ: そ…そうなのだ…?
- レナ: トヨは卑屈になりすぎよ
- レナ: ヒミコ様がトヨを嫌ってるなら わざわざ候補に指名しないでしょ
- レナ: もっと自信を持ちなさい トヨを好きな人もちゃんといるの
- レナ: みんながみんな トヨをいじめるわけじゃないわ
- ヒミコ: 帰りなさい
- トヨ: え…
- ヒミコ: この者が私… ヒミコの後継者候補ですと?
- ヒミコ: ふざけるのも大概にしなさい 誰が祟り神の子などを…!
- ももこ: そんな言い方…!
- レナ: トヨ…
- トヨ: …………
- FILENAME: text_519410-8_qv10h.txt
- ヒミコ: 急に話があると言うから 何かと思えば…
- ヒミコ: 祟り神の子が 私の後継者候補ですと…?
- 女官: し、しかし…ご年齢的にも そろそろ後継者は必要…
- ヒミコ: …そう言って揃えた以前の 候補者たちはどうなりました?
- ヒミコ: …あんな悲劇があったというのに 平気で祟り神の子を連れてくる…
- ヒミコ: いったいどんな修行を積めば そのような境地に立てるのか
- ヒミコの弟: だけど…万が一のためにも 後継者は必要なんじゃないかい?
- ヒミコ: そんな話はしていません 私は恥の話をしています
- ヒミコの弟: そうでした?
- ヒミコ: …くっ…
- ヒミコの弟: まあ、ともかく… 思い直してくれませんか?
- ヒミコ: 思い直すも何も…そなたが勝手に 選んだのではないのですか?
- トヨ: え…
- ヒミコ: おおかた、トヨを傀儡に立て 実権を握るつもりなのでしょう?
- ヒミコ: 幼い上に、祟り神の子として 忌避されるトヨであれば…
- ヒミコ: 民からの人気も出ず 都合よく扱えるでしょうからね
- ヒミコ: …我が弟ながら 考えが浅ましすぎる
- ヒミコの弟: …なるほど どうも風向きが悪い
- ヒミコの弟: ここは退散させてもらいましょう
- ヒミコ: はあ…どの者も…
- レナ: ね、ねえ… これってどういうこと?
- かえで: ヒミコ様の弟さんが勝手に トヨちゃんを候補にしたみたい…
- ももこ: それも、トヨを政治的に 利用するために
- ももこ: …ひどい話だよ
- ヒミコ: そなたらは…トヨの従者か?
- かえで: あ、いえ…トヨちゃんとは ここに来る前に出会って…
- レナ: 未来国の巫女なの、レナたち
- ももこ: …今さらだけど なんかバカっぽくないか、それ
- ヒミコ: 未来国… 聞いたこともありませんが
- ヒミコ: そなたたちの衣から察するに 相当な技術を持ったクニ…
- ヒミコ: …それも、魏をしのぐほどの
- レナ: ――っ!?
- ヒミコ: …そなたたちと話がしたい ここに残りなさい
- レナ: トヨは…?
- トヨ: あ…
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: …祟り神の子など汚らわしい 早々に立ち去りなさい
- レナ: あ、そ
- レナ: トヨ、行くわよ
- トヨ: え? こ、こら…レナ
- かえで: レナちゃん!
- ももこ: …あ、すみません、うちのレナが
- ヒミコ: …………
- ももこ: でも…アタシはレナの気持ち わかりますよ
- ももこ: 友だちが目の前で罵られていたら 誰だって腹が立つから
- ヒミコ: 友だち…
- かえで: それじゃあ…私たちも、これで…
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: 待ちなさい
- トヨ: うわああ…ほんとーに ここに泊まっていいのだ?
- かえで: ヒミコ様はそう言ってたよ
- ももこ: まあ…明日には出ていけって 言われたけど
- トヨ: …………
- かえで: トヨちゃん、これからどうする?
- トヨ: なはは…出ていけと言われた以上 出ていくしかないのだ
- かえで: それでいいの?
- レナ: それでいいのよ
- かえで: レナちゃん…?
- レナ: あんな人のところにいたら トヨは大変な思いをするわ
- トヨ: …それは違うのだレナ ヒミコ様はよいお方なのだ
- トヨ: 吾が祟り神の子とされているのが いけないのだ
- レナ: そんなわけ…!
- レナ: …………
- レナ: …もういい、寝る!
- トヨ: …………
- ももこ: …よ、よし! 今日もタケノコ料理つくろうか!
- かえで: そ、そうだね 私も手伝うよ
- トヨ: …………
- トヨ: …ありがとー、なのだ
- レナ: …………
- FILENAME: text_519410-9_qv10h.txt
- ヒミコの弟: 「やあ、君たちには無駄骨を折らせたね まさか姉上がまだあの件のことを 引きずっているとは思わなかったんだ」
- ヒミコの弟: 「ああ、そう…候補の中で祟りに取り憑かれた 巫女がいてね…災いがたくさん起きてしまった」
- ヒミコの弟: 「…結局、他の巫女が祟りを祓ったんだが… 命を落としたらしいね…よく知らないけど」
- ヒミコの弟: 「ああいや、興味がないってわけじゃなく 何がどうなったのか僕たちもわからないんだ 本当に、説明しにくくて…」
- ヒミコの弟: 「…狗奴国のやつらは我々が巫女に わざと祟りを取り憑かせたと言っているが そうじゃない…そんなことできるわけない あれは人知を超えた領域だ…」
- ヒミコの弟: 「もちろん、僕はトヨが祟り神の子だなんて 信じていないよ…だってそうだろう? 祟りがどうやって子をなすのさ…ははは」
- ヒミコの弟: 「姉上だって本当はそうだ …単に、あの不可解な事件を もう起こしたくないだけなんだろうね…」
- ヒミコの弟: 「…それはそれとして 次の作戦を考えるから待っててくれないか? 必ずトヨを後継者にしてみせるよ!」
- ヒミコの弟: 「もちろん、僕が邪馬台国に君臨するために ははは…冗談だよ」
- ももこ: あの弟に話を聞いたら だいたいわかってきたな…
- かえで: 後継者候補の中に魔法少女がいて 魔女になったってことだよね…?
- レナ: たぶん、そうね
- かえで: その魔女を倒した魔法少女も 命を落としたって…
- ももこ: …魔女には ならなかったってことか
- レナ: きっと、真実を知って 自分でソウルジェムを…
- ももこ&かえで: …………
- ももこ: …ともかく、過去の候補たちの 話はもう終わったことなんだ
- ももこ: 悲しいけど、そう割り切ろう… 全部受け止めてたらおかしくなる
- かえで: …そうだね
- レナ: 問題なのは、ヒミコが 一番割り切れてないってことね
- ももこ: “祟り神の子”に敏感だったのも そのせいなんだろうな
- レナ: …詰みじゃない?
- レナ: どうやってここからトヨを 後継者だって認めさせるのよ
- かえで: でも…歴史では後継者に なったって…
- レナ: …どんな裏技が…
- レナ: ていうか、トヨは?
- ももこ: あれ、そういえば…
- トヨ: タケノコー!
- トヨ: …なはは…こんなときに タケノコ狩りとはな…
- トヨ: 吾ながら、バカみたいなのだ…
- トヨ: ヒミコ様を勝手にそんけーして 勝手に吾もヒミコ様みたいになりたいと思って…
- トヨ: 野山を駆けまわり… ばば様や他の巫女から…多くの先人から知恵を 授かり、鬼道に活かしてきた…
- トヨ: そーゆー日々すべてがバカみたいなのだ
- トヨ: …こんなことになるなら もっと他に楽しいことをしておけばよかった
- トヨ: 結局、吾に残ったものは何なのだろう…? 何もかも、なくしてしまった気がする…
- トヨ: …何もない、か
- 狗奴国兵の声: 何もないのなら 狗奴国へ来てはどうです
- トヨ: 汝は…狗奴国の…
- 狗奴国兵: そう警戒せずに… 今日は話をしにきただけ
- 狗奴国兵: トヨ様に… 真実を知ってもらうために
- FILENAME: text_519410-10_qv10h.txt
- 狗奴国兵: 我々がトヨ様を 必要としているのは事実…
- 狗奴国兵: 話だけでも 聞いてくれませんか?
- トヨ: ふんなのだ、必要とする割に 吾を間違っていたようなのだが?
- 狗奴国兵: うぬ…
- トヨ: まあいいのだ…しかし レナたちには謝っておくのだ
- トヨ: 人違いで襲われたのだからな よいな?
- 狗奴国兵: …………
- 狗奴国兵: …少し、明るくなったな…
- トヨ: そうか?吾は目下意気消沈中だ なにせ候補から外されたのだから
- トヨ: 吾をさらったところでもう無意味 汝も諦めてクニに帰るのだ
- 狗奴国兵: なるほど…さすがのヒミコ様も 母としての情に流されると見た
- トヨ: …は?
- 狗奴国兵: いや、だから…危険なので 後継者から外されたんでしょう?
- 狗奴国兵: ヒミコ様の弟君も暗躍している…
- 狗奴国兵: 政争の渦中に放り込むのは さすがに忍びなかったのだな
- トヨ: ちょ、ちょっと待つのだ! 今、汝は…何と言った?
- 狗奴国兵: 何とは…?
- トヨ: だからその…
- トヨ: …………
- トヨ: ヒミコ様は…吾のかか様なのか?
- 狗奴国兵: …知らなかったのか…?
- トヨ: いや…そんなの、おかしいのだ 隠す理由なんてないのだ…
- 狗奴国兵: …なるほど、真実を伝えるには ちょうどよいのかもしれん…
- 狗奴国兵: トヨ様、おそらくヒミコ様は トヨ様の父君を知られたくなくて
- 狗奴国兵: すべてを隠していたのでしょうな
- トヨ: とと様、だと…? 待て、その口振りだと…
- 狗奴国兵: …お察しの通りトヨ様の父君は 狗奴国男王…ククチヒコ様
- 狗奴国兵: トヨ様は邪馬台国と狗奴国の御子 祟り神の子…などではありません
- トヨ: 嘘、なのだ…邪馬台国と狗奴国は ずっと対立していて…
- 狗奴国兵: すべて真実です…そうでなければ ここまであなた様に固執しません
- 狗奴国兵: 我が主君が会いたがっております どうか姫御子様、狗奴国へ…
- トヨ: そ…そんなこと急に言われても… 吾は…吾、は…っ
- トヨ: わからないのだ…!
- 狗奴国兵: トヨ様!
- トヨ: 何なのだ何なのだ…? ヒミコ様が吾のかか様だと…? その上、狗奴国の男王が 吾のとと様…?
- トヨ: なっはははは…何なのだそれは 荒唐無稽なのだ、笑えるのだ それに死ぬほど…
- トヨ: 死ぬほどバカにしてるのだ
- トヨ: なあ、ヒミコ様は知っていたのだろう? 吾が祟り神の子とされていることを いや、知っているも何もヒミコ様自身が 吾のことをそう言ったものな…
- トヨ: どんな気持ちだったのだ?
- トヨ: 吾は皆から避けられて その度に仕方ないと言い聞かせてきた
- トヨ: だが…一度だって仕方ないと思ったことはない いやだったのだ…ほんとーにいやだったのだ!
- トヨ: なのになんでヒミコ様は 吾に何もしてくれなかったのだ?
- トヨ: ヒミコ様ならこの状況を どうにかできたのではないのか? なのになんで何もしてくれなかったのだ?
- トヨ: かか様なら吾のもとへやってきて… 抱き締めてほしかったのだ 頑張ったねって言ってほしかったのだ
- トヨ: ヒミコ様…
- トヨ: かか様…
- トヨ: かか様は、吾のことが嫌いなのか…?
- トヨ: はあ…はあ… 走ったせいか…脚が…
- トヨ: …うん?
- ヒミコ: …夏だというのに もう枯れてしまったのですか…?
- 住民: あの祟り神の子が来る前日に… これも祟りの影響ですか…?
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: 土を調べましょう
- 住民: あ、ヒミコ様! お召しものが汚れてしまいます!
- ヒミコ: 構いません
- トヨ: ヒミコ様が…
- 住民: あれ…ヒミコ様って人前に 姿を出さないんじゃ…
- 住民: それは弟君が吹聴してるだけ
- 住民: ここに来て間もないあんたは 知らないかもしれないけど
- 住民: ヒミコ様はああやって多くの民と 触れ合うことを望まれるのよ
- 住民: へえ… まじないをしてくれるのか?
- 住民: まじないじゃないわ、鬼道… 人を幸せにする知識の結晶よ
- トヨ: ――っ!?
- トヨ: ああ…そうだったな そうだったのだ…
- トヨ: ―トヨ― じじ様、ばば様 吾は必ず鬼道を極めて…
- トヨ: ―トヨ― ヒミコ様のように 皆を幸せにしてみせるのだ!
- トヨ: ―トヨ― どんな者でも生きているそれだけで 価値があるのだと示すために
- トヨ: そう…そうやって 立ち向かうこと、歯を食いしばること この世に絶望しないこと
- トヨ: それが吾の原点なのだ
- トヨ: 親が誰だとかそんなものに流されて 見当違いなところに来てしまったのか? すっかり見失ってしまったのか?
- トヨ: …そんなわけないのだ
- トヨ: なら吾は…“まだ何もなくしていない”のだ
- レナ: あ、トヨ!ここにいたの どこにもいないから捜して…
- トヨ: …応援しててほしいのだ
- ももこ: え…トヨ?
- 住民: ひっ…祟り神の子…!
- トヨ: ヒミコ様!
- ヒミコ: …トヨ まだいたのですか
- トヨ: 帰るわけにはいかないのだ 吾はここで何もしていないから
- ヒミコ: …あなたに 何ができると言うのです
- トヨ: 人を幸せにすることが
- ヒミコ: ――っ!?
- トヨ: そのために吾は鬼道を覚えたのだ
- トヨ: ヒミコ様のように多くの人を 幸せにして、笑顔にして…
- トヨ: 祟られた子などいないと 吾が証明してみせるのだ!
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: …そこまで言うのであれば 証明してもらいましょう
- ヒミコ: 日照りのつづくムラがあります… そこへ赴き民の助けとなるのです
- ももこ: つまり、それって…
- かえで: …試験?
- FILENAME: text_519410-11_qv10h.txt
- 住民: わー! 巫女様がおこしになったぞー!
- 住民: 素敵ー!雨、降らせてー!
- トヨ: なーっはっはっは! 安心するのだ任せろなのだ、民よ
- トヨ: 吾がちゃちゃっと鬼道で 大雨を降らせてやるのだ!
- 住民: 頼りになるわー!
- トヨ: なーっはっはっはっは!
- 住民: …で、あれから 結構たつけど
- 住民: 全然雨降らないね
- トヨ: うっ…
- 住民: …本当にあの人、巫女なの? 嘘ついてるんじゃない?
- トヨ: うう…っ
- トヨ: み゛な゛の゛し゛せ゛ん゛か゛ い゛た゛い゛の゛た゛~~~っ!
- レナ: …そりゃそうでしょうよ
- ももこ: あんなに大口叩いて 村の人たちから接待も受けて…
- ももこ: それで一滴も雨が降らないんじゃ しょーがないって
- かえで: やってることがほとんど詐欺師と 一緒だし、どうしよう…
- トヨ: どうすればいいのだ…?
- レナ: どうすればいいって… 雨乞いしなさいよ
- トヨ: はん、雨乞いで雨が降るなら 簡単なのだ
- ももこ: え…じゃあトヨは 何しにここへ来たんだよ?
- トヨ: ふむ…汝らは大きな 勘違いをしているのだ
- トヨ: よいか?雨乞いをしたところで 雨など絶対に降りはせんのだ
- トヨ: あれは民を安心させるための儀式 それ以上の効果はないのだ
- レナ: だったら…どうするのよ
- トヨ: 雨を待つ
- レナ: …それで?
- トヨ: それだけなのだ
- レナ: うっそでしょ!?
- レナ: ア、アンタ… 待つしかないのに あんな大口叩いてたの…!?
- ももこ: ははは…図太い神経だねえ…
- トヨ: 違うのだ、あれも演出なのだ 頼りなさそうなやつより
- トヨ: なんかデカいこと言うやつの方が 信じたくなるだろう?
- トヨ: 要は、信じて待ってみようと民に 思わせるのが雨乞いの仕事なのだ
- かえで: じゃあ、失敗したんだ…
- トヨ: うぐ…っ
- かえで: 試験、落ちちゃったけど… また一緒に頑張ろう
- トヨ: っうぐうう…っ!
- ももこ: ま、まだそうとは 決まってないだろ?
- レナ: けど、運頼みしかないんじゃ…
- トヨ: あ、一応、雨がいつ降るのかは 天候を読んでわかっているのだ
- レナ: なんだ ちゃんとやってるじゃない
- かえで: さすがトヨちゃん それで、いつ降るの?
- ももこ: 明日?明後日? あの雰囲気だと待てて3日だな…
- トヨ: いや、だいぶ先なのだ
- みんな: …………
- トヨ: …………
- トヨ: と、とにかく 皆の信頼を回復させるのだ!
- レナ: そ、そうね できることをやるのよ!
- かえで: 村の人たちの お手伝いをしてみようよ
- トヨ: 採用なのだ!
- ももこ: じゃあアタシ 何か困ってないか聞いてくる
- トヨ: なっはっは!そんなの答えは 雨が降らないから困ってるなのだ
- ももこ: そっか!あっはっは!
- レナ: 笑ってる場合か!
- トヨ: …っ、く… あ、あれ…なのだ…
- レナ: 何やってるのよ、トヨ そんなところに寝そべって
- ももこ: もう冗談はいいから早く…
- トヨの声: …あ…ああ…があっ!
- レナ: え…な、なに…? どうしたのよ、トヨ
- かえで: す、すごく震えてる… 口から泡が…!
- ももこ: 何かの病気!?
- 住民: 神懸かりだ…
- ももこ: え…?
- トヨの声: ぐ、あ…がああっ!
- トヨの声: あああああっ!
- 住民: おぞましい…
- ももこ: なっ… おぞましいって…!
- 住民: そういえば 聞いたことがあるわ…
- 住民: 最近邪馬台国に祟り神の子が やってきたって…
- 住民: もしかして、こいつが? だったらこの日照りも…
- 住民: 山の向こうのムラで急に稲が 枯れたのも、もしかして…
- 住民: 祟りだ…俺たちまで祟られるぞ!
- ももこ: 何が祟りだ!こんなの どう見ても病気だろうが!
- かえで: トヨちゃん、しっかりして! トヨちゃん!
- かえで: ね、ねえレナちゃん… トヨちゃん大丈夫だよね?
- かえで: あんなに元気だったんだもん すぐに治るよね…?
- レナ: …………
- ももこ: …ともかく、トヨを運ぼう
- レナ: そうね…
- FILENAME: text_519410-12_qv10h.txt
- トヨ: もう大丈夫なのだ 心配かけたのだ
- レナ: …神懸かりってやつなのよね?
- トヨ: そうなのだ…たまにああなってな
- レナ: どう思う?
- ももこ: …病気の症状なのは 間違いないだろうな
- レナ: さすがに何の病気かは わからないわよね…?
- ももこ: …ただ、あの感じからすると 深刻な病気かもしれない
- ももこ: たとえば…脳に何かある、とか
- レナ: …脳に異常があるなんて この時代じゃ…
- ももこ: けど…トヨは後継者になる すぐに悪くなることはないはず
- レナ: …そうだといいけど
- かえで: …本当にもう何ともない?
- トヨ: ほんとーなのだ
- トヨ: …その…いやなものを見せたのだ 気持ち悪かっただろう…?
- かえで: そんなことないよ、本当に
- トヨ: なはは…汝らは優しいから…
- トヨ: けどほんとーに気持ち悪かったり 怖かったりしたら…
- トヨ: 吾のことなんて…
- かえで: …そんなことないって 言ってるよ、私
- トヨ: なはは…
- トヨ: …でもまあ、ムラの者たちからは 完全にきらわれてしまったのだ
- トヨ: 自業自得なのだ
- レナ: …自業自得? なんでそうなるのよ
- トヨ: なんでって… いつもそうなっていたからなのだ
- レナ: ――っ!?
- トヨ: こんなことになってしまったが やるだけやってみるのだ
- トヨ: 希望まで捨ててしまったら それこそ、祟りしか残らんからな
- レナ: …………
- トヨの声: おーい…! レナ、ももこ、かえで~
- トヨ: …皆、どこに行ったのだ? 朝から姿を見せずに…
- トヨ: うん…?
- ももこ: ちょっとくらい話を聞けって
- 住民: お前、祟り神の子と 一緒にいたやつだろ?
- 住民: こっちに来るな! 俺まで祟られる!
- ももこ: 祟りじゃないんだよ トヨは病気なだけで…
- 住民: わけのわからないことを あっちに行ってくれ!
- ももこ: あ、ちょっと…!
- ももこ: ったく、病気が原因って言っても この時代の感覚だとわからないか
- トヨ: ももこ…何をして…
- かえで: ちょっとでもトヨちゃんの 役に立とうと思ったんだよ
- トヨ: かえで…
- かえで: トヨちゃんの誤解をといて 試験に専念してもらおうって…
- かえで: そう、レナちゃんが 言い出したんだよ
- トヨ: レナが…?
- 住民: な、何もありません 手伝ってもらうことなど…
- レナ: レナは知ってほしいのよ、トヨは 祟りに取り憑かれてないって
- レナ: まあトヨは…変なところもあるし すぐ調子に乗ったりもするけど…
- レナ: トヨが誰かに 迷惑をかけたことなんてない
- レナ: 何にも悪いことなんてしてない
- 住民: けど、祟りが…!
- レナ: 勝手にトヨのせいにしないで!
- レナ: …祟り神の子だとか何だとか わけのわからないことを言われて
- レナ: みんなと遊びたくても遊べなくて ただ我慢するしかなくて…
- レナ: …それでもトヨは… トヨはね…
- レナ: みんなを幸せにしたいって そう言ったのよ
- レナ: そんな子が本当に 祟られてると思うわけ…!?
- 住民: …………
- レナ: …ていうか ずっと言いたかったんだけど
- レナ: レナの友だちを悪く言うな!!
- トヨ: ――っ!?
- かえで: いいなあ…トヨちゃんは はっきり言ってもらえて
- トヨ: 友だち…吾が?
- かえで: そうだよ、私もトヨちゃんの 友だちのつもり
- かえで: …いやかな?
- トヨ: …いやなものか…ただ、吾は… 友だちなんて、できないと…
- トヨ: ずっとずっとひとりでいるのだと そう…思っていたから…
- かえで: うん…
- トヨ: そうじゃないって言われて… 吾は…うれしくて…
- トヨ: あ、あれ…変なのだ… うれしいのに、なんで泣くのだ?
- かえで: うん…
- トヨ: なははは、かえでも…な、なんで 泣いているのだ…変なのだ
- かえで: …よく頑張ったよ、トヨちゃんは
- トヨ: …………
- トヨ: …う…うう…
- トヨ: 吾が大声で泣くと つられてかえでも泣き出した
- トヨ: するとレナやももこも集まってきて どういうわけか、皆で泣いたのだ
- トヨ: 泣くのはよくないことだと思っていたのだ 泣いてはならないと今まで思っていたのだ
- トヨ: でも今は… 涙が一粒こぼれる度に 何かが洗い流されていくような… そんな気がしたのだ
- FILENAME: text_519410-13_qv10h.txt
- 住民: あの祟り神の子… まだここにいるのか…?
- 住民: ああ、今はムラの近くで 何かを掘っているみたいだ
- 住民: なんでそんなことを…?
- 住民: わからねえけど… 別に、いいんじゃないか
- 住民: 畑仕事を手伝ってもらったときも 何も悪いことはされなかったし…
- 住民: お、おめえ、手伝わせたのか? 祟られたらどうする?
- 住民: …………
- 住民: 本当にあの子… 祟られてるのか…?
- 住民: …………
- ももこ: よーし、これくらいでいい?
- トヨ: うむ…この深さなら 問題はないのだ
- レナ: ねえ…これって何してるの?
- かえで: え、レナちゃん…そんなことも 知らないで作業をしてたの?
- トヨ: これは川をつくっておるのだ
- レナ: 川?
- トヨ: そう…雨が降るとここを通って ムラの方へ流れてしまう…
- トヨ: 今度の雨は結構な量になるのだ だからグネグネとした川をつくり
- トヨ: 水の流れを 抑えようとしているのだ
- レナ: あ、それって…
- 住民: 困ってることって言っても 雨が降らないことしか…
- 住民: いや…雨が降ってもそれはそれで 困ることがあるんだけどな
- レナ: なによ、それ
- 住民: …いや、もう行ってくれ
- 住民: お前と話していると ムラで変な噂を立てられる…
- レナ: どういうことよ!
- レナ: …このことだったわけね
- トヨ: レナからその話を聞かされて ピンと来たのだ
- トヨ: お手柄なのだ、レナ
- レナ: 別に…これくらい…
- ももこ: …すると、むしろ今は 雨が降ったら困るってわけか
- トヨ: そうなのだ…早く終わらせないと ムラが被害を受ける
- レナ: …もしかして、なんだけど
- レナ: ヒミコがさせたかったのって これなんじゃない?
- レナ: 鬼道で雨を降らせられないのは ヒミコが一番知ってるわけだし…
- かえで: きっとそうだよ
- ももこ: なら、頑張らないとな!
- トヨ: 吾もがんば…
- トヨ: …………
- レナ: …どうしたの、トヨ?
- かえで: また発作が…?
- トヨ: あ、いや…何でもないのだ 疲れているせいか脚が重くて
- レナ: なによ…心配させないで
- かえで: 何ともなくてよかった…
- トヨ: うん、なのだ
- トヨ: …………
- 住民: …聞いたか、あの子たちのこと
- 住民: ムラのために水路を つくってくれているみたいだな
- 住民: けど、肝心の雨が降らないわ
- 住民: それはそうだが… 何もしないより、俺たちも…
- 住民: …祟りに取り憑かれるかも
- 住民: あの子たちが来てから それなりにたつが…
- 住民: …妙なことは何も起きていない
- 住民: 祟りのことはよく知らないが 別に…平気なんじゃないか…?
- 住民たち: …………
- トヨ: はあ…はあ… 重労働なのだ…
- かえで: すごい汗… 少し休もうよ
- トヨ: い、いや…時間がないのだ 雨はいつ降ってもおかしくない…
- ももこ: といっても…人手が足りないって このままだと…
- 住民の声: す、すみません
- トヨ: え…?
- 住民: 我々にもできることが あればと思って…
- 住民: ムラのことなのに、私たちが 何もしないのも…ねえ?
- トヨ: ムラの人たちが…
- レナ: アンタの頑張りが 届いたってことよ
- トヨ: …吾だけの頑張りじゃないのだ
- トヨ: レナ、かえで、ももこ… ほんとーにありがとーなのだ
- ももこ: なに終わった感じ出してるんだよ 作業はむしろこれからだろ?
- かえで: そうそう
- レナ: それで、いつ雨は降るの?
- トヨ: 明日なのだ
- ももこ: あ、なんだ、明日か 明日ねえ…
- ももこ: 明日あああっ!?
- レナ: ど、どうするのよ!まだ作業の 半分も終わってないのよ!?
- かえで: こういうときこそ鬼道だよ 何かないの、トヨちゃん!
- トヨ: そうだな… とっておきのがあるのだ
- レナ: とっておき!? 何なのよ、それ?
- トヨ: ふっ、それは…気合いなのだ
- レナ: 精神論…
- かえで: でも全部正しい歴史みたいだよ
- レナ: 嘘でしょ…
- FILENAME: text_519410-14_qv10h.txt
- トヨ: 稲、大復活~~~っ!!
- トヨ: ああ…ぐわんぐわん 恵みの雨で緑が蘇ったのだ
- レナ: …恵みの雨っていうか 大雨だったわよ…
- ももこ: ま、とくに被害もなくて よかったじゃないか
- かえで: 水路をつくったおかげだね
- 住民の声: トヨ様~!
- トヨ: うん?
- 住民: トヨ様が仰っていた場所で こんなにも大きなタケノコが!
- 住民: これ、お裾分けです
- トヨ: うわあ おいしそーなタケノコなのだ
- 住民: トヨ様! タケノコならこっちにも!
- 住民: うぬっ、そっちがその気なら こっちも!
- トヨ: タ、タケノコだらけ… まるでこの世の楽園なのだ…
- レナ: そんな楽園 レナはいやだけど
- かえで: 要するに竹林だもんね
- ももこ: …ん? あそこに人垣ができてる
- かえで: 誰か有名な人が来たのかな…?
- トヨ: あれは…ヒミコ様なのだ
- みんな: ――っ!?
- レナ: ヒミコがどうしてここに?
- かえで: 試験の結果を言いにきたんだよ!
- ももこ: こっちに来る!
- ヒミコ: トヨ…うまくやったようですね
- トヨ: あ、ありがとーございますなのだ
- ヒミコ: しかし…聞いたところによると 考えもなしにムラに入ったとか
- ヒミコ: 事前の情報収集を怠りましたね
- トヨ: …はいなのだ
- ヒミコ: 最初から水路に気づいていれば 普請も楽だったはず…
- ヒミコ: さらに水路をつくることが 目的だと言えていれば
- ヒミコ: 今回ほどムラの民から 不信感を受けずに済んだでしょう
- ヒミコ: したたかさが足りませんね そこは、今後の課題でしょう
- トヨ: …今後の?
- かえで: よかったね、トヨちゃん 候補に認められたってことだよ!
- トヨ: 吾が…ヒミコ様…に…?
- レナ: え… ト、トヨ!
- トヨ: 何か…聞こえるのだ
- トヨ: これは、歌…?
- トヨ: いつか…遠い昔に 聞いたことがある気がするのだ
- トヨ: 誰かの腕の中で…この歌を…
- ヒミコ: ―ヒミコ― 気がつきましたか、トヨ?
- トヨ: ―トヨ― ヒ、ヒミコ様…!? 吾は…どうして…
- ヒミコ: ―ヒミコ― 動いてはいけません そなたは急に倒れたのですよ?
- トヨ: ―トヨ― あ、あの…レナたちは…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― 水を汲みにいってもらっています そなたはじっとしていなさい
- トヨ: すごいのだ… そんけーするヒミコ様に… あのヒミコ様に… 膝枕をしてもらっているのだ
- トヨ: きんちょーして仕方ないのに どうしてなのだ…? …すごく、落ち着くのだ
- トヨ: こんなに温かくて 安らかな場所があるなんて 知らなかったのだ
- ヒミコ: ―ヒミコ― …何かそなたに褒美を 取らせないといけませんね
- トヨ: ―トヨ― ほーび?
- ヒミコ: ―ヒミコ― そなたは頑張ったのです… 報われて当然でしょう?
- トヨ: ―トヨ― …………
- トヨ: ―トヨ― す、すごく…貴重なものでも 頼んでいいのか…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― ふふふ…貴重なものですか? いったい何を願われるのやら…
- ヒミコ: ―ヒミコ― …言ってみなさい
- トヨ: ―トヨ― そ、その…
- トヨ: ―トヨ― 頭を…撫でてほしいのだ
- ヒミコ: ―ヒミコ― …………
- ヒミコ: ―ヒミコ― それだけで、いい…のですか…?
- トヨ: ―トヨ― はい…なのだ
- ヒミコ: ―ヒミコ― も、もっと…あるでしょう? きれいな衣とか首飾りとか…
- トヨ: ―トヨ― そーゆーのは、いらないのだ… 吾は…ううんなのだ、吾も…
- トヨ: ―トヨ― 吾も皆のように かか様に頭を撫でてもらいたいのだ
- ヒミコ: ―ヒミコ― …………
- トヨ: ―トヨ― 同じくらいの歳の者が… 頑張ったねと撫でられているところを見て
- トヨ: ―トヨ― いいなあ…と思っていたのだ
- トヨ: ―トヨ― でも吾にはかか様はいなかったから… ばば様はいるが…かか様にやってほしかったから
- トヨ: ―トヨ― ほんとーに…いいなあって…
- ヒミコ: ―ヒミコ― …………
- ヒミコ: ―ヒミコ― …こう、ですか…?
- トヨ: ―トヨ― 気持ち、いいのだ…
- ヒミコ: ―ヒミコ― 本当ですか…? こういうのは、慣れていませんから…
- トヨ: ―トヨ― ほんとー…なのだ…
- トヨ: ―トヨ― ああ…ここは… 夢の中なのではないのか…?
- トヨ: ―トヨ― 鬼道で皆の役に立てて… 大事な友だちもいて…
- トヨ: ―トヨ― こんなふうに頭を撫でてもらえて
- トヨ: ―トヨ― …吾には手にすることができないと 思っていたものが…すべてあるのだ…
- ヒミコ: ―ヒミコ― …………
- トヨ: ―トヨ― …なあ、ヒミコ様
- トヨ: ―トヨ― ヒミコ様は、吾のかか様なのか…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― …………
- ヒミコ: ―ヒミコ― …恨んでもいいのですよ 何年もそなたを放り出していたのですから
- トヨ: ―トヨ― かか様でも… 知らないことがあるのだな…
- トヨ: ―トヨ― 吾は…かか様のことが、大好きなのだ…
- ヒミコ: ―ヒミコ― …………
- トヨ: ―トヨ― うれしいのだ…吾にもかか様がいて… しかもそのかか様が…そんけーするお方で…
- トヨ: ―トヨ― 吾は…きっと…この世で一番の… 幸せ者なのだ…
- ヒミコ: ―ヒミコ― …っ、く…う…
- トヨ: ―トヨ― どーしたのだ、かか様…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― 目を…開けてはいけません… そのまま、眠ってしまいなさい
- ヒミコ: ―ヒミコ― そなたは…トヨはよく頑張ったのです 今はゆっくりお休み…
- トヨ: かか様は吾の頭を撫でながら 囁くような声で歌う
- トヨ: ああ、そうだ…吾はこの歌を聴いていた こんなふうに抱かれて、かか様の歌を聴いていた
- トヨ: ずっと、ずっと前… きっと吾がかか様のもとにいた頃…
- トヨ: 遠くからレナたちの声が聞こえてくるのだ
- トヨ: かか様の歌はつづいている それらの声を包むように… 多くのセミの声が響いているのだ
- トヨ: 瞼を閉じていても日輪の姿はありありとわかる… 何か胸を高鳴らせる予感が熱風の底で漂っている
- トヨ: …夏だったのだ
- FILENAME: text_519410-15_qv10h.txt
- トヨ: ぼんやりと光が見える…
- トヨ: ときどき、夢とうつつの狭間で 目が覚めることがあるのだ
- トヨ: これはきっとそれなのだ
- トヨ: ああ、早く起きないといけないのだ かか様のもとで修行を積まねばならないし この前飼うことになったイヌと レナの世話もしないといけないのだ
- トヨ: それから… そのあとはももこから料理のつくり方を教わって かえでと一緒に水遊びをして…
- トヨ: ああ、毎日ってこんなに楽しかったのか…
- トヨ: 早く起きたい 起きて、楽しい日々をまたはじめたい
- トヨ: 吾が夢見てきた素晴らしき日々を…
- トヨ: ん…
- トヨ: ふわあ…朝なのだ 早く寝床から出て…
- トヨ: …………
- トヨ: …え…?
- トヨ: 脚を動かそうとしたのに 自分の意思に反して、脚はまったく動かなかった
- トヨ: それは脚だけでなく 腕も…首も…すべてが動かなくなっていたのだ
- トヨ: な、なんで…?
- トヨ: 怖いのだ…
- トヨ: …た、助けて…
- トヨ: 起きよう、起きようとしても 体はまったく動かず 吾は横たわったままだった
- トヨ: 助けて…レナ…
- トヨ: かえで…ももこ…
- トヨ: 助けて…か…かか…
- トヨ: かか様…っ!
- トヨ: 吾は動けないまま声を出しつづける なのに世界はバカに静かで 吾を拒絶するように超然としているのだ
- トヨ: それなのに入り口の向こうは まばゆい光が躍っていて きらきらと輝いている…
- トヨ: ああ、そうなのだ… 陽の当たる場所へ行けば… 誰かに見つけてもらえるかもしれないのだ
- トヨ: 偶然通りかかったかか様に 助けてもらえるかもしれないのだ…
- トヨの声: はあ…はあ…っ!
- トヨ: 吾は動こうとした きらきらとした陽の当たる場所へ 這ってでも行こうと思ったのだ
- トヨ: 吾はそこへ行きたかった…
- [Part 1 end]
- ---
- [Part 2 start]
- FILENAME: text_519420-1_YO4bE.txt
- 住民: な、なぜ…急に稲が枯れて…
- 住民: 稲だけじゃない… 家畜の様子もおかしいぞ
- 住民: まるで 生気を吸い取られているような…
- 住民: …祟りだ
- ヒミコの弟: …というようなことが 各地で起きているようで…
- ヒミコ: …………
- ヒミコの弟: じり貧ですね…こんなとき 狗奴国に攻められればまずい
- ヒミコの弟: しかし姉上、僕は狗奴国に 知り合いがいてね
- ヒミコの弟: …トヨを後継者にすれば 戦はしないでくれるってさ…
- ヒミコ: …やはりそのような魂胆でしたか
- 狗奴国兵: くっ…
- ヒミコの弟: おやおや…
- ヒミコ: 狗奴国の者はすべて 捕らえています
- ヒミコ: そなたと接触する証拠を 押さえるため泳がせていましたが
- ヒミコ: …トヨに余計なことを言って…
- 狗奴国兵: …………
- ヒミコ: この者らを邪馬台国へ 手引きしたのはそなたですね?
- ヒミコの弟: 知らないよ、そんなやつ
- ヒミコ: …狗奴国の目的はトヨを 邪馬台国の女王にすること
- ヒミコ: しかもそなたのような 狗奴国の犬に操られる女王に
- ヒミコの弟: …………
- ヒミコ: いや、トヨを形だけの女王にして 狗奴国へ引き渡し
- ヒミコ: そなたが事実上の男王として 邪馬台国に君臨する…
- ヒミコ: …そうでしょう?
- ヒミコの弟: だったら、どうする?
- ヒミコ: 狗奴国との戦を…再開します
- ヒミコの弟: ――っ!?
- ヒミコの弟: ま、待ってよ姉上! 本当に祟りは起きているんだ
- ヒミコの弟: こんな状況で勝てっこない!
- ヒミコ: 祟りなど人の力で乗り越えられる
- ヒミコの弟: そうは言うけど どうやって民を納得させる?
- ヒミコ: 納得も何もありません これは神意なのですから
- ヒミコの弟: …神を利用するわけか 傲慢になったものだ
- ヒミコの弟: いや…違うか それも母のなせるわざか…
- ヒミコ: 待ちなさい! まだ話は…
- ヒミコの弟: 僕はもう話すことなんてないです まあ、せいぜい頑張って
- ヒミコの弟: 万が一のときは、僕が男王に なるから、安心していいよ
- ヒミコの弟: …ほら、君もおいで 失敗したんだから死なないと
- 狗奴国兵: なっ、お、俺は…っ!
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: …う…く…
- ヒミコ: 時間が、ない…早く すべてにケリをつけなければ…
- ヒミコ: うん?これは…
- ねむ: …まさか女王ヒミコに 拾われることになるとはね…
- ねむ: …みんな、大丈夫かな…?
- FILENAME: text_519420-2_YO4bE.txt
- 住民: おい、聞いたか トヨ様がヒミコ様の御子だって…
- 住民: 聞いたが… 祟り神の子じゃなかったのか?
- 住民: ヒミコ様の御子なら 祟られているわけがないだろ
- レナ: …随分、噂になってるわね
- ももこ: みんなの態度も これで変わればいいんだけどな
- かえで: でも、驚いたよ
- かえで: トヨちゃんのお母さんが ヒミコ様だったなんて…
- ももこ: ま、最初に聞かされたときは 何の冗談かと思ったけど…
- レナ: …………
- かえで: どうかしたの、レナちゃん?
- レナ: …ううん…それより レナたちってこのままでいいの?
- ももこ: このままトヨを見守っている だけでいいのかって?
- かえで: ねむちゃんはそうしろって 言ってたんだよね…?
- レナ: そうだけど…
- レナ: いい加減、ねむを取り戻さないと
- ももこ: だからこうやって 狗奴国のやつを捜してるんだろ?
- かえで: …まったく見つからないけどね
- レナ: あいつ、トヨを連れていこうと してたし、また来るかも…
- ももこ: 今、トヨはどこに?
- かえで: 主祭殿でお手伝いをしてるよ
- かえで: 正式に後継者候補になったから 覚えることがあるんだって
- トヨ: …………
- 女官: トヨ様、いかがされました? 皆、待っていますよ
- トヨ: …わ、わかったのだ 表で待っていてほしいのだ
- 女官: 早くいらしてくださいね
- トヨ: …ふうっ…くっ…
- トヨ: また体が おかしくなってきたのだ…
- トヨ: うまく、歩けない…
- トヨ: あ…っ
- トヨ: いたた…
- トヨ: はあ…どうなっているのだ 吾は…
- トヨ: 波のように体がよくなったり 悪くなったり…
- トヨ: 吾は…死ぬのか…?
- トヨ: ようやく望んだ日々が 手に入ろうとした矢先に…?
- トヨ: い、いやだ…いやなのだ…
- ヒミコ: 随分手間取っているようですが… どうかしたのですか、トヨ?
- トヨ: かか様…実は、吾…
- ヒミコ: …?
- トヨ: …………
- トヨ: …なはは…吾、お腹が空いて 動けないのだ、何か食べたいのだ
- ヒミコ: まったく、この子は… 少し待っていなさい
- トヨ: …………
- トヨ: …言えるわけ、ないのだ
- FILENAME: text_519420-3_YO4bE.txt
- 住民: ヒミコ様、作物が育たないんです どうかお祈りを…
- ヒミコ: わかりました 今度、儀式をしましょう
- ヒミコ: …トヨ、おそらく原因は 土にあるはずです
- トヨ: 土…たしか土にもいのちがあって いきたり、しんだりすると…
- ヒミコ: そうです…よく知っていましたね 今度調べにいきましょう
- ももこ: へー、トヨって 助手みたいなことしてるんだ
- かえで: ヒミコ様相手なら 息も合うんじゃないかな
- レナ: …そう?
- ももこ: あ、レナ、不満なんだ
- かえで: 最近、トヨちゃんが忙しくて 遊んでもらえないもんね
- レナ: こ、この…っ!
- レナ: …ぐっ…堪えるのよ レナは堪えられるんだから…っ
- ももこ: 手を出しそうになったのを 必死に堪えてる…
- かえで: ごめんね、レナちゃん…
- レナ: いいのよ… それより、あれを見て
- ヒミコ: …………
- トヨ: …………
- ももこの声: え、ちょっと目を離した隙に 気まずそうになってる…
- ヒミコ: 次は、どの者でしたか…?
- トヨ: あ、はいなのだ もうちょっとしたら来るのだ
- ヒミコ: そうですか
- トヨ: そーなのだ
- ヒミコ: …………
- トヨ: あー…きょーもあついのだ
- ヒミコ: …そうですね
- ももこの声: な、なけなしの天気の話題が そうですね、で終わった…!?
- かえでの声: お仕事以外の話は あんまり弾まないみたい
- ももこの声: ビジネスライク…
- ももこ: うーん…せっかく親子だって わかったんだから
- ももこ: もっとこう…なあ?
- かえで: そうだね もっとこう…だよ
- レナ: もっとこう…なによ?
- ももこ: だーかーら、もっと仲睦まじく してもいいんじゃないかって
- かえで: それなら 前みたいに作戦をやろうよ
- かえで: ヒミコ様とトヨちゃんの 距離を近づけるために
- ももこ: いいねー、やろうか 前も大成功したもんな
- レナ: 大成功してないから なんでか犬を飼っただけじゃない
- ももこ: いいだろ、べろべろ可愛いし
- かえで: べろべろとお散歩するの とっても楽しいよ
- レナ: 目的とズレてるのよ…
- ももこ: 今回は大丈夫だって! とっておきの案があるんだよ
- トヨ: うみ…?
- ももこ: そう!泊まりがけで海に行こう
- かえで: ヒミコ様も誘って みんなで楽しく過ごすんだよ
- トヨ: しかし…いまはのーさくぶつに いへんがおきているらしいのだ
- トヨ: それに狗奴国とのもんだいも… あそんでいるばーいでは…
- ももこ: 狗奴国の狙いはトヨなんだろ?
- ももこ: だったら、アタシたちが守るし… アタシたちのそばが一番安全だよ
- かえで: それに、農作物もこの辺りの ものしか見てないよね?
- かえで: 遠出をして、そこと比べて 異変に違いがないか調べる…
- かえで: それも原因究明に役立つと思うよ
- ももこ: さすがかえで、詳しいね
- かえで: えへへ…
- トヨ: …………
- トヨ: そ、そうだな…やるべきことを ちゃんと、やると言うなら…
- トヨ: われも、うみにいってみたいのだ
- ももこ: じゃあ、決まり! ヒミコ様にも声かけてこよう!
- トヨ: うわあー 断られたりしないだろーか…?
- かえで: きっと大丈夫だよ
- トヨ: …なはは、うみか… じつは見たことないのだ
- トヨ: たのしみなのだ
- レナ: …ねえトヨ アンタ、ちょっと調子悪い?
- トヨ: ――っ!?
- トヨ: な、なんでなのだ?
- レナ: なんか、いつもより 呂律が回ってない気がして…
- トヨ: そんなことないのだ いつもどーりなのだ
- レナ: うう…そう言われると いつも通りのような気が…
- ももこ: でも、神懸かりがあるから 少し気にはなるな…
- トヨ: わ、われはへーきなのだ! だいじょーぶなのだ!
- ももこ: うーん…
- ももこ: …まあ、ちょっと様子を見て 何ごともなければ出発しよっか
- かえで: うん、そうしようよ
- トヨ: やったのだー!
- レナ: …………
- FILENAME: text_519420-4_YO4bE.txt
- レナ: …というわけで レナたちと海に行かない?
- レナ: トヨは行きたがってるわよ
- ヒミコ: …すみませんが 今はそれどころではありません
- レナ: 農作物なら、色んな場所のものを 見た方がいいって伝えたでしょ?
- レナ: あ、そっか…狗奴国のこと? 確かに一緒にいると…
- ヒミコ: そうではなく…私にも 役目というものがあるのです
- レナ: …お祈りをすること?
- ヒミコ: 鬼道の本質は神頼みにありません 知識の活用です
- ヒミコ: 民の暮らしを支えるのは 当たり前として
- ヒミコ: 情勢を読みクニの方針を定め それを神意として伝える…
- ヒミコ: それも私の役目です
- ヒミコ: もっともこの頃は 弟が口を挟んできていますが…
- レナ: ふーん…そうなの
- ヒミコ: 未来国は違うのですか?
- レナ: 未来国?なにそれ?
- ヒミコ: え?
- レナ: え?
- ねむ: …前後の経緯がわからないから 完全な推測になるけど
- ねむ: 身元を隠すために、未来国から 来たって言ったんじゃないかな?
- レナ: あー、そうよ! そうだったわ
- レナ: よかった…ねむがいなかったら もっと墓穴を掘るところ…
- レナ: って、ねむがいる!?
- ねむ: 持ち主を転々とすることになって 今はヒミコのところにいるんだよ
- ねむ: ともかく、再会できてよかった
- レナ: ほんとよ! アンタ、大丈夫なの?
- ねむ: 僕は大丈夫だよ それより…
- ヒミコ: あ、あの…レナさん?
- ねむ: テレパシー、使えばよかったね
- レナ: しまった…
- ヒミコ: …なるほど…未来国では 突然大きな声で叫んだり
- ヒミコ: ひとりでブツブツ言ったりする 風習があるのですね
- ねむ: 取り繕うにしても 赤点以下の言い訳だね
- レナ: うるさいわね… 思いつかなかったのよ…!
- ヒミコ: あ、またブツブツ…
- ヒミコ: いえ…異なるクニの風習は 理解できなくても尊重します
- レナ: いい態度ね
- レナ: …じゃなくて あ、ありがとう
- ヒミコ: …ふふ…おもしろい子
- レナ: 子ども扱いしないでよ
- ヒミコ: 私からすれば子どもです…
- ヒミコ: …トヨと 仲よくしてあげてくださいね?
- レナ: レナに頼む前に まず自分でやってみなさいよ
- ヒミコ: …………
- レナ: 役目だとか何だとか 色々と言ってるけど
- レナ: 今さら母親面できないって そう思ってるだけじゃないの?
- ヒミコ: それは…
- レナ: 親に遠慮されたら 子どもはたまんないわよ
- ヒミコ: …なら、どうすればいいのです
- レナ: 普通にすれば?
- ヒミコ: 普通…?
- レナ: 普通に会話したり… 海に行ったり…
- レナ: 特別なことなんて 何もいらないわよ
- ヒミコ: …………
- レナ: まあ、どーしても国が心配なら ついてこなくていいわよ
- レナ: アンタが育てた邪馬台国が 母親なしじゃ何もできないって…
- レナ: そう思ってるならね
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: …私は…
- FILENAME: text_519420-5_YO4bE.txt
- トヨ: スイカわり…?
- かえで: うん、そういう遊びもあるんだよ トヨちゃん、やったことない?
- トヨ: やったことないというか…
- トヨ: そもそも スイカとは何なのだ?
- かえで: スイカ、見たことないの?
- トヨ: うんなのだ
- かえで: そうなんだ…この時代には スイカってなかったんだ…
- トヨ: どうしたのだ?
- かえで: う、ううん、何でも…
- かえで: それで…スイカっていうのは 夏に食べるおいしいもので…
- トヨ: ほう…たべものなのか
- かえで: うん、丸くて、緑色で、 中身は真っ赤で、とっても甘いの
- トヨ: つまり、タケノコか?
- かえで: なんでそうなるの…
- かえで: …あっ、そういえば最近 タケノコ狩りにいってないね
- トヨ: うん、なんだ…あついからなのだ
- かえで: そっかあ… まあ、外は本当に暑いもんね…
- トヨ: レナたちをいかせてよかったのだ
- かえで: あー、悪いんだ
- ももこ: いやー 引き受けてもらえてよかったよ
- レナ: …よかったの? 相手はヒミコの弟よ?
- ももこ: 仕方ないって…この時代じゃ それくらいの身分の人じゃないと
- ももこ: 簡単にペットの世話を 引き受けられる余裕はないから
- レナ: そっか…
- ももこ: それに、向こうもこっちへ 恩を売りたいみたいだから
- ももこ: 悪いようにはされないと思う
- レナ: …なるほどね
- ももこ: ま、とにかく、出発の日の朝に べろべろを預けにいこう
- レナ: ふふ…トヨ、 泣いて駄々こねるんじゃない?
- レナ: やっぱりべろべろも 連れていくのだ~って
- ももこ: ははは、言いそう
- レナ: それで…次の準備は…
- ももこ: あ、そうだ ねむの話、途中だっただろ?
- ももこ: ヒミコ様のところに 置いてきたって言ってたけど
- レナ: 置いてきたっていうか…
- レナ: ヒミコが本を調べようとしてる!?
- ねむ: 心配はいらないよ
- ねむ: ヒミコは製本技術に 興味があるだけで
- ねむ: お姉さんの記録を読もうと しているわけじゃないんだ
- ねむ: …そもそも、 ヒミコには読めないよ
- レナ: 製本技術を調べられるのも まずいんじゃないの?
- ねむ: この時代の人には理解できない だから安心して構わないよ
- ねむ: …むしろ、レナが所有者だと 名乗り出て変に探られる方が危険
- ねむ: ヒミコならちょっとした言葉で 何かに気づくかもしれない
- レナ: この時代にない知識を与えるのも 歴史の改変になるから
- レナ: 避けないといけないってわけね
- ねむ: …その様子だと、後先考えず 好き勝手やってるみたいだけど…
- ねむ: …案外何も問題は起きてないから 引きつづきトヨのそばにいて
- レナ: わかった
- ヒミコ: 今度はじっと黙って…
- レナ: これも風習なの 尊重して
- ヒミコ: は、はあ…
- レナ: …って言ってたわ
- ももこ: ヒミコ様、呆れてない? そこがすごく気になるけど…
- ももこ: ま…雑には扱われないだろうから 一応は安心していいのかな?
- レナ: いざとなれば奪い取ればいいのよ
- ももこ: んな乱暴な…
- レナ: ともかく、回収するためには トヨが後継者に…つまり…
- レナ: 次の女王になる瞬間を 見届ける必要があるわ
- ももこ: …アタシたちは歴史を 変えちゃいけないけど…
- ももこ: 表情くらいなら変えられる …だろ?
- レナ: どうせなら 笑って後継者になってほしいもの
- ももこ: …そのためにも 今回の旅行、成功させないとな
- レナ: ヒミコも何だかんだいって 来てくれるみたいだし
- レナ: きっと成功するわよ
- レナ: ふあ…もう朝…?
- トヨ: そうなのだ
- かえで: トヨちゃん…今日は早いね
- レナ: あ、さては楽しみで 眠れなかったんでしょ?
- トヨ: なはは…そう、なのだ…
- ももこ: とりあえず、べろべろを 預けにいこっか?
- ヒミコ: まだ預けていなかったのですか?
- かえで: あっ…ヒミコ様
- ももこ: あれ…迎えにきてもらう 約束でしたっけ…?
- ヒミコ: …そなたらが遅いので こちらから出向いたまでです
- ヒミコ: 早く準備をして…ふあ…
- かえで: あくびだ…
- レナ: なによ…親子揃って 楽しみで眠れなかったわけ?
- ヒミコ: …よ、よいではありませんか
- トヨ: そうなのか…?かかさまは そんなに楽しみにしていたのだ?
- ヒミコ: そ、それは…
- トヨ: われも、ほんとーに… ほんとーに楽しみにしていたのだ
- トヨ: かかさまととーでできるなんて おもってもいなかったし…
- トヨ: みたことのないうみにも つれていってくれる…
- トヨ: われひとりじゃなくて… みんなと…かかさまといっしょに
- ヒミコ: …トヨ?
- トヨ: いきたかったのだ… それくらい、ゆるしてほしかった
- ヒミコ: 許すも何も… 行きましょうよ、トヨ
- ヒミコ: かかはしばらく主祭殿を空けて いてもいいようにしたのです
- ヒミコ: 海へ行きましょう、トヨ 楽しみにしていたのでしょう?
- トヨ: …いけないのだ
- ヒミコ: え…?
- トヨ: かかさま…
- トヨ: 『われ…からだがうごかないのだ』
- FILENAME: text_519420-6_YO4bE.txt
- ヒミコ: …………
- レナ: トヨは?
- ヒミコ: 今は眠っています
- レナ: そう…
- ももこ: …手脚がときどき 動かなくなっていたなんて…
- かえで: …気づいてあげられなかったね
- レナ: 隠してたのよ、トヨは レナたちに心配かけないために
- ももこ&かえで: …………
- ヒミコ: …少し、出ましょう トヨが起きてしまいます
- ももこ: …………
- レナ: ももこ、行かないの?
- ももこ: アタシは残ってるよ
- ももこ: 目が覚めたときひとりだったら トヨは…不安だと思うから
- ヒミコ: ありがとうございます…
- ももこ: いや、お礼なんて… やりたくてやってるだけですよ
- ヒミコ: …………
- レナ: ここは?
- ヒミコ: 神事で身を清める際に使う滝です めったに人は来ません
- かえで: …何か私たちに内緒のお話が…?
- ヒミコ: トヨのことです…
- ヒミコ: 「あの子は生まれながらに体が弱く 赤子のときなど 何度か命を落としかけたこともありました」
- ヒミコ: 「私は鬼道でトヨを救おうとしましたが 何をどうやってもトヨの体が よくなることはありませんでした…」
- ヒミコ: 「例の神懸かり… あれも病の発作なのですが 発作という概念は皆には 理解しにくかったようで…」
- ヒミコ: 「祟りに取り憑かれた子… 祟り神の子と認識されることに なってしまったのです…」
- レナ: …まあ、そうでしょうね
- ヒミコ: やはりそなたらは 私の話が理解できるのですね…
- ヒミコ: 邪馬台国では 誰にも理解されなかったのに
- かえで: それは…未来国では 一般的な考えというか…
- ヒミコ: …本当に優れたクニなのですね
- ヒミコ: 「そなたらのクニであったら もしかしたら治せたのかもしれませんが… 私には、ただ…トヨを遠くへやり、離れ里で 静かに過ごさせることしか思いつけなかった」
- ヒミコ: 「あそこは水が澄んでいて 実りも豊かで…私の縁者が暮らしている… ちょうどいい場所だと思ったのです」
- ヒミコ: 「結局、祟り神の子と蔑まされることに なってしまいましたが…」
- レナ: …だったら、なおさら たまには会ってあげていたら…
- ヒミコ: …なるほど…トヨの父が誰なのか 聞いてないのですね?
- ヒミコ: トヨの父は狗奴国男王 ククチヒコ…
- ヒミコ: 「かつて私が… すべてを捨ててともに逃げよう …と約束した者です」
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- レナ: 狗奴国の王と邪馬台国の女王が すべてを捨てて…?
- かえで: そ、それって…駆け落ち? 何があったんですか…?
- ヒミコ: …当時、今以上に激しく 狗奴国と戦っており…
- ヒミコ: 私たちはいつ終わるかも知れぬ 戦いに疲弊していました…
- ヒミコ: 「最初は和議を結ぶためにククチヒコと 交流を持ったのですが… 次第に彼の人柄に惹かれていってしまった…」
- ヒミコ: 「…もう、いい」
- ヒミコ: 「あるとき私は、そう思ってしまったのです 何もかも、もういいと ククチヒコとふたりでこんな世から 逃げ出してしまいたい…と」
- ヒミコ: 「ククチヒコも同じ気持ちだと 言ってくれました」
- ヒミコ: 「ですが…私たちが逃げ出そうとしたとき 突然、海は大いに荒れ狂い… 船を出せなくなってしまったのです」
- ヒミコ: 「あまりにも無責任な行動に 神霊が私たちへ罰を下したのでしょう…」
- ヒミコ: 「困り切っている私たちのもとへ 狗奴国の追っ手と邪馬台国の追っ手 それぞれが殺到し… 私たちは引き離されることになりました」
- ヒミコ: 「愚かな逃避行はそこで終わり… ククチヒコとはそれっきり会っていません」
- ヒミコ: …トヨを授かったと知ったのは そのすぐあとです
- ヒミコ: せめてこの子だけは自由に…
- ヒミコ: 政や戦などとは 無縁の生を送ってほしい
- ヒミコ: …私のようになってほしくはない
- ヒミコ: そう考え 他人として生きてきたのです
- ヒミコ: トヨの出生が明らかになれば 必ず政に利用され…
- ヒミコ: 辛い思いをすることになるのが 明らかでしたから
- かえで: けど…トヨちゃんの存在が 狗奴国に知られてしまった…?
- ヒミコ: …おそらく 弟が知らせたのだと思います
- ヒミコ: 狗奴国を掌の上で操っている つもりなのでしょうが…
- ヒミコ: …弟ではムリです ククチヒコの父君には勝てない
- レナ: 父君?
- ヒミコ: 狗奴国を実質支配しているのが 父君なのです
- ヒミコ: ククチヒコは 操られているだけです
- ヒミコ: …トヨを狙う手口からして 間違いありません
- レナ: そういえば、トヨは狗奴国に 狙われていたけど…
- レナ: その父君ってやつが 孫を取り戻したかったから…?
- ヒミコ: そうでしょうね…道具として 取り戻したかったのでしょう
- レナ: 道具って…
- ヒミコ: 私は不老不死ではありませんから いつか必ず死にます
- ヒミコ: そのあとを弟が継いだとしても 長くはもたないでしょう
- ヒミコ: そうなると、後継者は トヨしかなくなる…
- ヒミコ: 同時にトヨは狗奴国の 後継者にもなり得ます
- ヒミコ: 「邪馬台国と狗奴国の王がトヨになり そのトヨをククチヒコの父君が背後で 操りだしたら、それは…」
- ヒミコ: 「邪馬台国が狗奴国に吸収されたのと同義です」
- ヒミコ: …ククチヒコの父君は 間違いなくそれを狙っています
- ヒミコ: そして私の弟は 無謀にもその逆を狙っている…
- レナ: それじゃあ、どうやってもトヨが 争いの中心に立たされるじゃない
- ヒミコ: はい、そうです… だというのに、トヨは…
- ヒミコ: トヨは、私と同じ道を 進もうとする…
- ヒミコ: …こんなはずじゃなかった…っ!
- ヒミコ: 「祟り神の子と周囲から信じられているなら たとえトヨを傷つけることになろうと 人の醜い争いから遠ざけられると思っていた!」
- ヒミコ: 「けれど狗奴国がトヨを追いはじめ… 私の知らないところでトヨが後継者候補になり… トヨは私に認めてもらおうと 体が弱いのにあんなに頑張るなんて…!」
- ヒミコ: 「だったらもう…私の手もとに置いて… 私が守っていくしかないと…そう思った …思ったんです…っ!」
- ヒミコ: 「しかし、トヨは…」
- ヒミコ: 「私のトヨは…」
- ヒミコ: 「わ、私の…大切な子は…」
- ヒミコ: 「…死んでしまう」
- ヒミコ: …トヨの病は 私にはどうすることもできない…
- ヒミコ: 私の力では守れないんです…っ!
- ヒミコ: で、ですから…どうか、あの子を 未来国へ連れていってください!
- レナ: そ、それは…
- ヒミコ: ムリは承知しています ですが、この通りです…!
- ヒミコ: お願いします…! 私の子を、助けてください…っ!
- ヒミコ: 未来国ではそれが できるんじゃないですか?ねえ?
- レナ: …………
- ヒミコ: レナさん… お願いです…私の子を、助けて…
- かえで: …っ…
- ヒミコ: かえでさん…お願いですよ… 命でも何でも差し上げますから…
- ヒミコ: 「誰か私の子を、助けてください…」
- ももこ: あ、帰ってきたよ
- トヨ: かかさま…
- ヒミコ: トヨ…起きていたのですか?
- トヨ: …それ、ほたるなのだ?
- ヒミコ: え、ええ… 帰りに見つけて…
- ヒミコ: きれいでしょう? トヨに見せたくなったのです
- トヨ: …きれー、なのだ…
- トヨ: もっと、ちかづけて ほしーのだ
- トヨ: われのて…うごかないから
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: はい…よく、ごらんなさい
- トヨ: あ…
- トヨ: …ほたる、とんでったのだ もっと、みたかったのだ…
- ヒミコ: そんなに気に入ったのですか?
- トヨ: われ、ほたるのひかり すきなのだ
- ヒミコ: そうだったのですか… 私は…そんなことも知らずに…
- ヒミコ: …今度、夜空いっぱいに 蛍の光を集めてみせますよ
- ヒミコ: そうしたら よろこんでくれますか?
- トヨ: なはは…そんなにほたるが いっぱいだと、きもちわるいのだ
- ヒミコ: いいえ、きれいにしてみせます トヨがよろこぶように、きれいに
- トヨ: かかさまが、われのために なにかをしてくれるだけで…
- トヨ: われはうれしーのだ
- ヒミコ: …………
- レナ: …ごめんね、トヨ 連れていってあげられなくて…
- トヨ: え…? うみのことなのだ…?
- レナ: ううん…ごめんね…
- トヨ: なんで、なくのだ あやまるのは、われのほーなのだ
- トヨ: こんなからだになって ごめんなのだ
- かえで: …っ…
- トヨ: かえで…?
- レナ: …ほ、蛍を…捕まえにいったのよ きっと…
- レナ: レナたちも…レナたちだって… トヨをよろこばせたい、から…
- トヨ: みんな、やさしーのだ…
- トヨ: ああ…われはしあわせものなのだ うみはみれなかったが
- トヨ: かかさまが、きれーなほたるを… われのために…みせてくれて…
- トヨ: だいすきなみんなが…われのため いろいろしてくれて…
- トヨ: 『うまれてきて… ほんとーに、よかったのだ…』
- ヒミコ: …………
- 女官: あ、ヒミコ様… どうしたのです、こんな朝から…
- ヒミコ: …私の鬼道のすべてをかけて つくるべきものが生まれましてね
- ヒミコ: 時間がないので 寝る間も惜しみ…
- 女官: お、お身体をご自愛ください…!
- ヒミコ: 大げさな…
- ヒミコ: それより…皆を主祭殿へ 参集させなさい
- ヒミコ: 神意を受けました …狗奴国と戦をはじめます
- FILENAME: text_519420-8_YO4bE.txt
- 狗奴国兵: …最近、邪馬台国の動きが 妙じゃないか?
- 狗奴国兵: 妙だと?
- 狗奴国兵: いや、変に静かというか…
- 狗奴国兵: があ…っ!
- 狗奴国兵: な、何だ!?
- 邪馬台国兵: 狗奴国の兵は ひとり残らず倒せ!
- 狗奴国兵: や、邪馬台国!?
- 邪馬台国兵: ぐあっ!
- 狗奴国兵: 何なんだ 急に戦を仕掛けてきて…
- 狗奴国兵: わからねえが… 攻められてばかりってのはな
- 狗奴国兵: ああ、そうだな
- 住民: ひ、火が…っ! 私たちの家が…!
- 邪馬台国兵: 早く逃げろ!ここは我々が…
- 狗奴国兵: うるさい!
- 邪馬台国兵: ああ…っ!
- 住民: た、助けてー!
- 狗奴国兵: ふははは、邪馬台国など 狗奴国がひねり潰してやる!
- トヨ: …いくさか
- かえで: うん…
- トヨ: かかさまは…どうして いま、いくさを…
- ももこ: …………
- ももこ: …アタシ、ちょっと出てくる
- かえで: 危ないよ
- ももこ: さすがにここは安全だって それに、すぐ帰るから
- かえで: あ…
- トヨ: …ももこは、どこへ いったんだろーな…?
- かえで: 私には、わかるかも…
- トヨ: うん…?
- かえで: …ううん、お腹空いてない? ご飯用意するよ
- ヒミコ: …なに、我が方が劣勢?
- 邪馬台国兵: は、はい… 緒戦は不意を突けましたが
- 邪馬台国兵: 反撃してきた狗奴国に 押されています…
- ヒミコ: 魏からの支援は?
- 女官: 鉄器は届いていません… まだまだかかるかと…
- ヒミコ: …………
- 邪馬台国兵: …ヒミコ様 神意は何と…?
- ヒミコ: 邪馬台国の勝利です
- ヒミコ: 今は苦戦を強いられていますが 必ずや挽回できるでしょう
- ももこの声: それ、本当なんですか?
- ヒミコ: そなたは…
- ももこ: レナのかわりに来ました
- ももこ: ま、あいつに任せたら 余計話がこじれると思って
- ヒミコ: …そなたはトヨの友であり 未来国の客人…丁重にはもてなす
- ヒミコ: しかし…邪馬台国の問題に 口を出すのはご遠慮願います
- ももこ: あ、そーじゃなくてさ
- ももこ: 事情も聞いてるし…アタシたちが 止めちゃいけないのもわかってる
- ももこ: その上で…あなたを信じるための 理由がほしいんですよ
- ヒミコ: …なぜそなたに 信じてもらう必要が?
- ももこ: ああ、言い方がまずかったかな? アタシじゃなくて…
- ももこ: トヨが信じるための理由
- ヒミコ: ――っ!?
- ももこ: だって、そうでしょ?
- ももこ: 吾のかか様は民を守るために 戦ったのだ~っ!
- ももこ: …って、 信じさせたいじゃないですか?
- ももこ: それくらいは…いいでしょう?
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: …理由など簡単です
- ヒミコ: 私がもうじき死ぬからです
- ももこ: ――っ!?
- かえで: …ごめんね、トヨちゃん… 食材が全然なくて…
- トヨ: しかたない、のだ… いくさなのだから
- かえで: …いやだよね、戦いって
- トヨ: …そーなのだ…
- トヨ: せっかくたがやしたはたけも… すいろも…ひとのいのちも…
- トヨ: ぜんぶ だいなしにされるのだから…
- かえで: うん…
- トヨ: みんながまんぞくに たべられなくなる…
- トヨ: でも…かえでがつくってくれた タケノコじる…おいしーのだ
- トヨ: これなら…われは もんくないのだ…
- かえで: そ、それ…タケノコじゃ…
- トヨ: うん…? なんていったのだ、かえで…?
- かえで: …………
- かえで: ううん!トヨちゃんを見習って おいしいタケノコ採ってきたの
- かえで: よ、よろこんで…もらえて よかった…!
- トヨ: なはは…とっても うれしーのだ
- かえで: …………
- トヨ: …わればかり、あつかいがよくて もうしわけなくなるな…
- トヨ: みんな、ぶじだろーか…?
- トヨ: …あのムラは だいじょーぶ、だろーか…?
- FILENAME: text_519420-9_YO4bE.txt
- トヨ: …このきれつ… やはり…あのムラでわざわいが…
- トヨ: かえで…?かえでやーい…
- トヨ: …ちかくにも、いないのだ つごーが、よいのだ…
- トヨ: きょーは、よく、うごける… いまのうちに…
- トヨ: よいしょ…よいしょ…なのだ
- トヨ: (ただあるくのが… こんなに、たいへんだとは、な)
- トヨ: (だが…うごけるうちに むかわないと…)
- 邪馬台国兵: トヨ様! 何をなさっているのです!
- トヨ: ――っ!?
- 邪馬台国兵: も、申し訳ありません 大きな声を出してしまい…
- 邪馬台国兵: 私はヒミコ様よりトヨ様の 警護を命じられている者です
- 邪馬台国兵: さあ、戻りましょう ここは危険です
- トヨ: だ、だが…われは…
- 邪馬台国兵: そこで何をしているの!
- 邪馬台国兵: あ、トヨ様が外に 出ていらしたので
- 邪馬台国兵: なによ、アンタ 聞いてないの?
- 邪馬台国兵: ここだと危ないから トヨは別の場所に移るのよ
- 邪馬台国兵: 初耳ですが…
- 邪馬台国兵: あーもう、うるさいわね これはヒミコの命令なの
- 邪馬台国兵: わかったら さっさとあっち行って!
- 邪馬台国兵: は、はい…
- トヨ: …な、なんじは…
- レナ: ま、ざっとこんなもんね
- トヨ: おどろいたのだ…レナは… すがたをかえらえるのか…?
- レナ: 姿じゃないわ
- レナ: これは…魔法っていうのは 自分自身を変える力よ
- レナ: …絶望に負けないためのね
- トヨ: ぜつぼーに、まけない…?
- レナ: アンタだってそうでしょ?
- レナ: 体が大変になってるっていうのに あの村を心配してさ…
- レナ: どうせ止めたって行くんでしょ? みんなで水路をつくった村へ
- トヨ: うん、なのだ あそこは、まもりたいのだ
- かえで: そう言うと思ってたよ
- トヨ: か、かえで…いままでどこに…?
- かえで: どこって、そんなの…
- かえで: 急いで輿をつくってたんだよ!
- トヨ: こ、こし…?
- かえで: この時代に輿はないのかな? 担架…はもっとないよね
- かえで: まあともかく、これに乗れば 楽にどこへでも行けるよ
- トヨ: いつのまに、そんなものを…?
- かえで: えへへ…トヨちゃんの 体調が悪くなってから
- かえで: みんなで何かできないかなって 話し合って、つくってたの
- かえで: 完成できてよかったあ…
- レナ: …家で寝たきりじゃ つまらないでしょ?
- レナ: 気分転換用だったんだけど ここで使うことになるなんてね
- トヨ: みんな、われのために…
- レナ: さあ、これに乗って! 村までアンタを運ぶわ!
- トヨ: わ、わかったのだ…!
- かえで: よーし 行っちゃおう!
- ももこ: ちょっと待ってください ヒミコ様が死ぬって…どういう…
- 邪馬台国兵: …ヒミコ様
- ヒミコ: 構いません… そなたたちは下がっていなさい
- 邪馬台国兵: はい…
- ヒミコ: …さて、今から言うことは ごく一部の者しか知りません
- ヒミコ: 絶対に他言してなりませんよ とくに、トヨには
- ももこ: …体が、悪いんですか…?
- ヒミコ: 近頃は毎日 血を吐いています
- ヒミコ: 光もやけにまぶしく感じるように なりましてね…
- ヒミコ: …今ではぼんやりとでしか 物が見えなくなっているんです
- ももこ: 一時的なものなんじゃ…
- ヒミコ: …これを見れば少しは わかるかもしれませんね…
- ももこ: ――っ!?
- ヒミコ: とくに顔の周りがひどいのです… …見苦しいものを見せましたね
- ももこ: いや、そんな…
- ヒミコ: 他にも様々な不調がありますが…
- ヒミコ: これらの不調を同時に 起こした者は、皆、死にました
- ヒミコ: ですから私も死ぬのでしょう
- ももこ: …まだ、 わからないじゃないですか
- ねむ: わかるよ
- ももこ: ねむ!?
- ねむ: 邪馬台国のヒミコは 狗奴国との戦いの最中に死ぬ…
- ねむ: これは歴史で確定しているんだ
- ももこ: そんな…
- ヒミコ: …ともあれ 私は急がねばならない
- ヒミコ: トヨの体も日に日に悪くなる… 今私が死ねば、どうなりますか?
- ヒミコ: 私が生きている間に 戦いを終結させないと…
- ももこ: …だからこんなに 慌てて戦を…
- ヒミコ: トヨのためです
- ももこ: …………
- ヒミコ: …子どものために戦を起こすなど 指導者としては不適格…
- ヒミコ: 戦いが終われば 死をもって償うつもりです
- ヒミコ: 私の首をはねれば、民の溜飲も 多少は下がるでしょうから…
- ヒミコ: もっとも、後先短い老いた首で 大変申し訳ありませんが
- ももこ: どうして、そこまでするんです?
- ヒミコ: …そなたも 母親になればわかりますよ
- レナ: っと 着いたわよ!
- トヨ: ぬわああ…はやいのだあ…
- かえで: ト、トヨちゃん、大丈夫?
- トヨ: すこーし めがまわっただけなのだ
- かえで: 掴まって
- レナ: 狗奴国のやつらは…!
- 狗奴国兵: この…!
- 邪馬台国兵: くっ…!
- 狗奴国兵: 攻めろ、攻めろ!
- トヨ: なんなのだ…
- レナ: 戦場になってる…
- かえで: 見て!村の人が!
- トヨ: た、たすけに、いくのだ…っ!
- レナ: ちょっとちょっと! 今のアンタじゃムリよ!
- かえで: 私が村の人を 避難させておくから!
- レナ: 頼んだわよ!
- トヨ: はあ…っ、はあ…っ!
- レナ: だ、だから! ひとりで動かないで!
- トヨ: す、すいろへ、つれていって ほしーのだ…
- レナ: でも…
- トヨ: ここまできて…ダメはないのだ
- FILENAME: text_519420-10_YO4bE.txt
- 住民: ああ…私たちのムラが…
- 住民: 稲が踏み荒らされてるわ…
- かえで: と、とにかく みなさんこっちに…
- かえで: …トヨちゃんたち 大丈夫かな…?
- 狗奴国兵: うっ…!
- レナ: 次から次へと…
- レナ: …トヨは!?
- 狗奴国兵: ん…? なんだ、こいつは
- トヨ: ここを…あらしては ならん、のだ…
- トヨ: このすいろが、こわれれば みんなが、こまるのだ…
- 狗奴国兵: わけのわかんねえこと 言ってんじゃねえ!
- トヨ: ――っ!?
- レナ: はあっ!
- 狗奴国兵: くっ…!
- 狗奴国兵: や、やられたのか?
- 狗奴国兵: 気を失ってるだけだ
- 狗奴国兵: しかし…こいつ、強いぞ
- レナ: 言っておくけど トヨは後継者になるの
- レナ: こんなところでやられたら 歴史が変わるでしょうが!
- 狗奴国兵: ああっ!
- レナ: トヨ、ムリするんじゃないわよ
- トヨ: わかってるのだ
- レナ: それ、わかってないやつが言う セリフだから
- ヒミコ: ももこさん、これを
- ももこ: え…この本を?
- ヒミコ: ホンというのですか、それは 不思議なものですね
- ヒミコ: 調べてみましたが 何もわかりませんでした
- ももこ: …どうしてこれが アタシたちのものだって…
- ヒミコ: そなたやレナさん…
- ヒミコ: ふたり揃ってホンに向かって 何か言っていれば気づきます
- ももこ: あちゃ~…
- ヒミコ: 会話ができたりするのですか? さすが…遠い先の技術です
- ももこ: ――っ!?
- ヒミコ: 未来というのは…そういう意味の 言葉なのでしょう?
- ヒミコ: …未来国などで大人を騙せると 思わないことですね
- ももこ: お、おい、ねむ バレちまったけど、大丈夫か?
- ねむ: 大丈夫、何の影響もないよ
- ももこ: そ、そうなのか?
- ねむ: …その知識を得て何かに影響を 与えるだけの時間が…
- ねむ: この人には もう残されていないんだ
- ももこ: …………
- 邪馬台国兵: ヒミコ様
- ヒミコ: …どうしたのです 下がってよいと言ったはずですが
- 邪馬台国兵: 南のムラで我が方と狗奴国が 衝突した模様です
- ももこ: 南の村って…
- ヒミコ: …以前、そなたらが 水路をつくったムラです
- ももこ: ――っ!?
- ヒミコ: どうしたのです
- ももこ: そこにトヨがいるんです!
- ヒミコ: トヨが…!?
- 狗奴国兵: ちっ…なんだこの水路 邪魔だな!
- トヨ: やめる、のだ…っ!
- 狗奴国兵: なんだそれは… 殴っているつもりか…?
- 狗奴国兵: 人を殴るっていうのは こうするんだよっ!
- トヨ: があ…っ!
- レナ: トヨ!
- トヨ: はあ…はあ…っ
- 狗奴国兵: …何なんだよ、本当に
- 狗奴国兵: さっさと始末するぞ
- 狗奴国兵: そうだな
- レナ: させないわよ!
- 狗奴国兵: ぐっ…!
- レナ: トヨ、いったん ここから離れて!
- トヨ: いやなのだ
- トヨ: ても、うえにあがらんし… ろくにあるけない…
- トヨ: …なんのやくにもたたんのは われでも、よーくわかってるのだ
- レナ: だったら…!
- トヨ: ちがうのだ…
- トヨ: こーゆーときにいうのは だったら、ではなく…
- トヨ: …それでも、なのだ
- レナ: トヨ…
- 狗奴国兵: お前ごときに何ができる
- トヨ: それでも!
- トヨ: ここで、いじをとおさないで いつ、とおすのだ…っ!
- FILENAME: text_519420-11_YO4bE.txt
- ヒミコ: はあ…っ!はあ…っ!
- ももこ: 大丈夫ですか?
- ヒミコ: 私のことは構わないでください それより、トヨは…!?
- かえで: ももこちゃん!
- ももこ: かえで! トヨとレナは?
- かえで: それが…
- ヒミコ: トヨですか!? トヨが怪我をしたのですか!?
- かえで: あ、そうじゃなくて…
- トヨ: このあたりは だいじょーぶなのだ
- トヨ: あそことあそこに てをくわえれば、もとどーりに…
- トヨ: …っ、あ…
- レナ: トヨ、もう休みなさいよ
- トヨ: それは、できないのだ…
- かえで: …あんなふうにずっと 村の様子を見ていて…
- ヒミコ: トヨ…
- トヨ: あ…かかさま…
- トヨ: なはは…みつかったのだ…
- ヒミコ: …なぜ、こんな… 体を大切にしないと…
- トヨ: ここを、まもりたかったのだ
- ヒミコ: そなたが民を思う気持ちは よくわかりました…ですが…
- トヨ: …なはは…ちがうのだ…
- ヒミコ: え…?
- トヨ: もちろん…たみのくらしを まもりたい、きもちはある…
- トヨ: だけど…その…ここは…
- トヨ: はじめて、かかさまに ほめてもらった、ばしょだから…
- ヒミコ: ――っ!?
- トヨ: たいせつな、ばしょなのだ… だから、どーしても…
- ヒミコ: そんな… そんなことのために…?
- トヨ: そんなことじゃ、ないのだ…
- トヨ: われの、だいじな おもいで…
- トヨ: …く…っ
- ヒミコ: 痛むのですか…? こっちへ来なさい
- トヨ: へ…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― 疲れたでしょう…? ここで休みなさい
- トヨ: ―トヨ― また、ひざまくらを、してくれるのだ…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― トヨ…かかはそなたのためにできることを 毎日、ずっと考えていました
- ヒミコ: ―ヒミコ― 出た答えは…すべての問題を解決して そなたに位を譲る…
- ヒミコ: ―ヒミコ― 今となってはそれが最善だと そう思ったのです
- ヒミコ: ―ヒミコ― ですが…違ったのですね
- ヒミコ: ―ヒミコ― ただ、そなたをこうしてやればよかった…
- トヨ: ―トヨ― かかさま…
- ヒミコ: ―ヒミコ― かかは…そなたの母親をちゃんとできなかった
- ヒミコ: ―ヒミコ― 甘えたいときに我慢させ… 辛いときに突き放し…
- ヒミコ: ―ヒミコ― たくさん、苦しい思いをしましたね…? いやなことも、いっぱいありましたね…?
- ヒミコ: ―ヒミコ― 許してください…トヨ… こんなかかを、許して…
- トヨ: ―トヨ― ゆるすも、ゆるさないも、ないのだ
- トヨ: ―トヨ― トヨは、かかさまのことが だいすきなのだ
- ヒミコ: ―ヒミコ― トヨ…
- レナ: …………
- かえで: …よかったね、あのふたり
- ももこ: うん…
- ももこ: ――っ!?
- レナ: これ…魔女?
- レナ: え、これ… 稲が、枯れて…
- かえで: どれも根から腐ってる…
- ヒミコ: これは…報告にあった祟り…
- ヒミコ: まさか…祟り神が…!?
- レナ: そういうこと…ずっと魔女が トヨの足をひっぱってたってわけ
- トヨ: ど、どーしたのだ、みんな…?
- レナ: 魔女を…ううん 祟り神を退治してくるわ
- かえで: …もう誰にもトヨちゃんを 祟り神の子って言わせないから!
- ももこ: 行こう!
- トヨ: きえた、のだ…?
- ヒミコ: いったい、何が…
- ???の声: 魔女が現れたんだよ
- トヨ: ――っ!?
- キュゥべえ: はじめまして、トヨ ボクの名前はキュゥべえ
- トヨ: キュゥべえ…?
- FILENAME: text_519420-12_YO4bE.txt
- トヨ: キュゥべえ… なんなのだ…なんじは…?
- ヒミコ: トヨ…そこに何かあるのですか?
- トヨ: かかさまは、みえないのか…?
- トヨ: っく…うう…っ
- キュゥべえ: その苦しみと恐怖から 逃れられる手段があるとしたら
- キュゥべえ: キミはどうするかな?
- トヨ: そんなことが…?
- ヒミコ: トヨ、しっかりするのです そこには何も…
- ヒミコ: …いや、いるのですね そこに何かが
- トヨ: なんじ…われはどうすればいい? われは、このままはいやなのだ
- キュゥべえ: ボクのお願いを 聞いてくれるかい?
- トヨ: おねがい…?
- キュゥべえ: ボクと契約して、 魔法少女になってほしいんだ
- ももこ: やあっ!
- ももこ: さっきから使い魔ばかりだな
- かえで: それも、かなりの数だよ…
- レナ: …とにかく、急ぎましょう なにか、いやな予感がするの
- トヨ: ねがいを…?
- ヒミコ: どうしたのです、トヨ?
- トヨ: われが、なにかねがうと からだがうごくよーになるのだ
- ヒミコ: ――っ!?
- ヒミコ: ト、トヨ! 願ってはいけません!
- ヒミコ: 昔の後継者候補の巫女が、願いを 叶えて力を得たと言っていて…
- ヒミコ: ですが、その者は結局… 祟りに呑まれてしまったのです!
- ヒミコ: そして厄災が起き… 多くの者が命を落とし…
- ヒミコ: 何もわからぬ私たちだけが 取り残されるように生きて…
- ヒミコ: …いや、そうか
- ヒミコ: トヨ、そこの者に言いなさい 私にその力を授けよと
- トヨ: え…?
- ヒミコ: 私が願いによって トヨの体をよくしてあげます
- トヨ: …ダメ、なのだそーだ
- ヒミコ: だ、だったら…!
- トヨ: …なるほど、そーだったのか それが…まほーしょーじょか…
- トヨ: それなら、いろいろと つじつまがあう…
- ヒミコ: トヨ…?
- トヨ: レナたちみたいに、なれるなら ぜんぜん、わるくないのだ…
- かえで: きゃあ…っ!
- ももこ: かえで…!
- ももこ: …っがっ!
- レナ: …はあ…はあ…
- レナ: 思ったより、やるじゃない
- レナ: …けど、こんなところで 負けるわけにはいかないのよ!
- ヒミコ: や、やめなさい、トヨ そなたはあの悲劇を知らないから
- トヨ: しっていても、こたえは かわらないとおもうのだ
- トヨ: たとえ、かこのよーなことが ふたたびおきよーと…
- トヨ: われが、たたりがみに のまれよーと…
- トヨ: ずっと、われがしたかった… みんなを、しあわせにして
- トヨ: いきているだけで、かちがあると しめすことが、できるのなら…
- トヨ: われは、よろこんで まほーしょーじょになるのだ
- トヨ: みんなが…われのよーなものが ぜつぼーに、まけないように
- ヒミコ: ですが トヨがすることはないでしょう!
- ヒミコ: かかはトヨだけが心配なのです 誰に何を言われようと構いません
- ヒミコ: トヨが幸せなら… 他はどうだっていいの…っ!
- トヨ: …それは、うそなのだ
- ヒミコ: え…?
- トヨ: 『わこくの、そーらんをおさめ… おおくのたみから、したわれ… たみをみちびきながら… たみといったいになってクニをつくりあげた方』
- トヨ: 『それが、かかさま… われのじまんの、かかさまなのだ』
- トヨ: …ねがいは、きまったのだ
- キュゥべえ: それはキミの魂を差し出すに 足る願いかい?
- トヨ: はいなのだ
- ヒミコ: トヨ…やめて…っ!
- トヨ: われの、ねがいは…
- トヨ: 『かかさまのよーに、なれますよーに』
- 邪馬台国兵: …………
- 邪馬台国兵: 何をぼんやりしている!
- 邪馬台国兵: …いや、前に負った傷が すっかり治っているなと思って…
- 邪馬台国兵: ああ、お前もヒミコ様の御子… 姫御子様の鬼道を受けたのか
- 邪馬台国兵: 何でもできるんだな、鬼道は
- 邪馬台国兵: 普通はできないだろうよ
- 邪馬台国兵: ただ、姫御子様はその才を ヒミコ様より受け継いでいる…
- 邪馬台国兵: 間違いなく、次代のヒミコ様だ
- 邪馬台国兵: …………
- 狗奴国兵: 見つけたぞ! 邪馬台国のやつらだ!
- 邪馬台国兵たち: ――っ!?
- 邪馬台国兵: …ここを抜けさせるわけには いかない、押し返すぞ…!
- 邪馬台国兵: わかっている、我々で邪馬台国を …姫御子様をお守りせねばな
- 住民: 本当に行くの?
- 住民: 他のところで困っている人たちが 大勢いるみたいだからね
- 住民: 私でも何かできることがあるなら 頑張ってみたいんだよ
- 住民: …私はここに残って 田んぼを守るよ
- 住民: でも稲、枯れちゃったんだろう? 祟りだって…
- 住民: 祟りなんてあるわけない
- 住民: 姫御子様が土の肥やし方を 教えてくれたんだ
- 住民: その通りにやってみるよ みんなの生活を守るためにも
- 住民: 姫御子様みたいなこと言って
- 住民: あんただって
- ヒミコの弟: 僕と手を切るだって!?
- 狗奴国兵: 貴様ではトヨを御し得ない との判断だ
- ヒミコの弟: いったい誰の判断だ! 僕はククチヒコの父親から…
- 狗奴国兵: そのお方の判断だ
- 狗奴国兵: トヨは大乱を収めたときの ヒミコを彷彿とさせる…
- 狗奴国兵: 間違いなく後継者の器を持った者 貴様と組むよりむしろ…
- ヒミコの弟: そう、言っていたのか…?
- ヒミコの弟: み、認めない… 僕こそが王に相応しいんだ!
- 狗奴国兵: …追いつめられればその程度か 手を切れてよかったというもの…
- 狗奴国兵: うん…?
- 狗奴国兵: 今、光が…
- レナ: く、うう…
- ももこ: レナ…まだ、動ける?
- レナ: 当たり前でしょ
- ももこ: かえでは…?
- かえで: こ、怖いけど… でも、大丈夫
- ももこ: アタシが隙をつくるから ふたりで…
- レナ: ももこ、危ない!
- ももこ: ――っ!?
- ももこ: え…
- レナ: だ、誰が…?
- トヨ: 『なーっはっはっはっは!』
- レナ: ――っ!?
- トヨ: 『鬼道を志し、かか様のあとを追い いくたの困難にうちのめされようと 諦めることなく抗いつづけて やってまいりましたこの大天才!』
- トヨ: 『立ち向かうこと、歯を食いしばること この世に絶望しないこと それらを胸に今日も悪しき魂を祓ってみせる!』
- トヨ: 『祟りなどに人が負けてなるものか!』
- トヨ: かか様のこーけーしゃ 邪馬台国のトヨなのだっ!
- ももこ: ト、トヨ…
- レナ: …キュゥべえと 契約を交わしたのね
- トヨ: なーっはっはっはっは!
- トヨ: レナ、ももこ、かえで! 吾が来たからにはもう安心なのだ
- トヨ: ちゃちゃっと吾が この祟り神を祓ってやるのだ!
- トヨ: なーっはっはっは!
- ももこ: は、ははは…人の気も知らないで 勝手に元気になりやがって…
- かえで: でも、なんだか… トヨちゃんが戻ってきた気がする
- レナ: ふん、調子に乗って
- トヨ: さて、祟り神 ここからは簡単に済むと思うな
- トヨ: 人の子の力…見せてやるのだ!
- FILENAME: text_519420-13_YO4bE.txt
- トヨ: よいしょっと…
- トヨ: 戻ってこられたのだ
- かえで: トヨちゃんのおかげで 助かったよ
- トヨ: 気にするな、なのだ
- レナ: …トヨ、実は伝えないと いけないことがあって…
- ももこ: 魔法少女になると、その…
- トヨ: …何かの代償があるのだ? まあ、そうだろうな
- トヨ: 突然、体がじゆーになったのだ それくらいはやむを得ん
- ももこ: 強いんだね、トヨは
- トヨ: 絶望に負けたくないだけなのだ
- 住民: あのトヨ様…そのお姿は…?
- トヨ: これか?ふむ…これは…
- トヨ: そう、天から授かった衣なのだ!
- トヨ: 吾はこの衣の力で 祟り神を討ってきたのだ!
- 住民: た、祟り神を…
- 住民: じゃあもう災いが起きないの…?
- トヨ: いや、祟り神は方々にいるらしい
- トヨ: 吾はこれからも祟り神と戦う 皆の暮らしを守るために
- トヨ: しかし当然だが、吾ひとりでは クニを回していくことはできん
- トヨ: 吾はまだまだ未熟… 皆の支えが必要なのだ
- トヨ: だからどうか吾と一緒に クニをつくっていってくれぬか
- 住民: もちろんです、トヨ様!
- 住民: ともにクニを つくっていきましょう!
- ヒミコ: 多くの者を導きながら しかし同時に支えられ
- ヒミコ: ともにクニをつくっていく…
- ヒミコ: それは私の原点…
- ヒミコ: …トヨの姿から、あの頃の私を 思い出すことになるなんて…
- ももこ: トヨはヒミコ様の背を追いかけて いるんですよ…だからそう見える
- ももこ: 子は親の背を見て 育っていくものだろ…?
- ヒミコ: …私が、何を見せたと… どうして…
- ももこ: ヒミコ様…
- ヒミコ: 私のように なってほしくはなかった…
- ヒミコ: 政争や戦とは無縁の場所で… ただ…普通の子として…
- トヨ: 早くムラを復興させるため うねをどうにかしたいのだが…
- トヨ: 人足が必要になるのだ
- ???の声: こっちだ!急げ!
- トヨ: うん…?
- 邪馬台国兵: おや、これはこれはトヨ様… なぜこのような場所へ?
- トヨ: 吾は祟り神退治を行っていたのだ 汝らは?
- 邪馬台国兵: 祟り神退治…それは素晴らしい
- 邪馬台国兵: 我らはこの辺りに狗奴国が 攻め込んできていると聞き
- 邪馬台国兵: こうやって者どもを集め 駆けつけた次第であります
- トヨ: 戦ならとっくに終わったのだ
- 邪馬台国兵: そ、そうでしたか… 面目ございません…
- トヨ: いや…どうせなら汝ら うねの普請を手伝っていけなのだ
- トヨ: ちょうど人足も 足りてなかったのだ
- 邪馬台国兵: そういうことであれば
- トヨ: ふむ…どうせなら 木こりもいるといいのだが…
- ???: すみません 長はどなたでしょう?
- トヨ: 汝は…?
- 木こり: 私は木こりです
- 木こり: 何か困っていることはないかと 隣のムラから来まして…
- 木こり: 長の許可をいただきに…
- トヨ: おおっ、ちょうど汝のような 人材を求めていたのだ…!
- レナ: な、なんか…必要な人が 都合よく集まってきてない…?
- かえで: …ひょっとして、これが トヨちゃんの力…?
- ももこ: 光った…!
- ねむ: 概念が回収された… あとは、ほんの少しだけ
- レナ: …長かった夏も、もう終わりね
- FILENAME: text_519420-14_YO4bE.txt
- 住民: まさかヒミコ様が不予とは…
- 住民: 姫御子様もまだお若いのに…
- ももこ: 噂が広がるの 止められなかったな…
- レナ: 仕方ないわよ…あれから かなり容体を悪くしたんだから…
- かえで: みんな、不安がってるね…
- ももこ: 狗奴国との戦争が まだつづいているせいだ
- レナ: …トヨは?
- かえで: ヒミコ様の看病をしてるよ
- ももこ: …これが親子の最後の 時間かもしれない
- ももこ: ふたりっきりにしてやろう…
- レナ: …………
- トヨ: かか様… 少しでも食べるのだ
- ヒミコ: トヨ… 持ってきてくれたのですか?
- トヨ: 実は、吾がつくってみたのだ
- トヨ: タケノコをすり潰して… 煮立ててな
- トヨ: 題して、タケノコ汁なのだ!
- ヒミコ: …あまり…おいしそうでは ありませんね…
- トヨ: そんなあ…
- ヒミコ: ふふふ…冗談ですよ… 飲ませてください…
- ヒミコ: …もうよく見えないのです
- トヨ: 失礼するのだ…
- ヒミコの声: ああ…おいしい…
- トヨ: …………
- ヒミコ: …見苦しいものを 見せましたね…
- トヨ: そ、そんなことはないのだ かか様はお美しいのだ…!
- トヨ: それで、心優しくて、立派で… 吾のえーえんの目標なのだ…!
- ヒミコ: …トヨ、どうしても 私の跡を継ぎますか…?
- トヨ: え…
- ヒミコ: 私は女王になって すべてを犠牲にしてきました
- ヒミコ: 人としてのよろこびも 楽しみも…
- ヒミコ: そして何より… 母親としての時も…
- ヒミコ: …後継者になれば、そなたは 私と同じ苦しみを味わうでしょう
- ヒミコ: そんな思いを… そなたにはしてほしくない…
- トヨ: …それはできないのだ
- トヨ: だって吾は…
- トヨ: 大好きな かか様のようになりたいのだ
- ヒミコ: …………
- ヒミコ: この…親不孝者…
- トヨ: ごめんなさいなのだ
- ヒミコ: ああ…私はもう疲れました… 少し、休ませてください…
- トヨ: わ、吾が…膝枕するのだ!
- ヒミコ: トヨが…?
- トヨ: うんなのだ! 吾に甘えるといいのだ!
- ヒミコ: ふふふ…では…
- トヨ: かか様はいっぱい頑張ったのだ よしよしするのだ
- ヒミコの声: 私は…何も頑張ってませんよ… 結局…何も解決できず…
- ヒミコの声: それなのに…こんなことばかり… 思うのです…
- ヒミコの声: もっとトヨと…同じ時を 過ごしたかったと…
- トヨ: こ、これから…過ごせばいいのだ
- ヒミコの声: そう、ですね…これから… トヨと…
- ヒミコの声: ああ…鬼道のことも…もっと そなたに、おしえないと…
- ヒミコの声: わたしとトヨがいれば… きっとなんでもできる…
- ヒミコの声: 青々とした…ゆたかな地平を… どこまでもひろげられる…
- ヒミコの声: そう…トヨはわたしの子ですから なんだってできる…
- ヒミコの声: わたしができなかったことも… だれもできなかったことも…
- ヒミコの声: トヨなら…すばらしい未来を…
- トヨ: そんなに褒められると うれしーのだ
- ヒミコの声: …まだろれつが まわらないのですか…?
- トヨ: 癖になってしまったのだ
- トヨ: い、今は…かか様の方が 回ってないのだ…なはは
- ヒミコの声: ふふふ…
- トヨ: 早くよくなるのだ…吾はかか様と やりたいことがたくさんあるのだ
- トヨ: そうなのだ…今度こそ 一緒に海へ行くのだ
- トヨ: レナたちも誘って…みんなで! きっと楽しいのだ
- トヨ: か、かか様…も…そう思うのだ?
- ヒミコの声: …ええ…それは…ほんとうに… たのしそう…
- トヨ: …っ…う、海では… スイカ割りもするのだ!
- トヨ: 知っているのだ?タケノコを 海で割る遊びらしいのだ!
- トヨ: かか様と吾がきょーりょくして レナたちと戦うのだ!
- トヨ: 吾ら親子の力を 皆に見せつけてやるのだ!
- ヒミコの声: …トヨ… かかは…いつまでも…
- ヒミコの声: トヨを…みてます、よ…
- トヨ: …わ…っ、わか…ってる、のだ かか様は吾が好きなのだから!
- トヨ: そ、それで…っ、夜になれば また一緒に蛍を見るのだ!
- トヨ: あのきれいな光を…っ またかか様と一緒に見たいのだ!
- ヒミコの声: …………
- トヨ: だ…だから…早、く… よく、なって…
- トヨ: 吾は…吾は…かか様といっぱい 楽しい思い出をつくりたいのだ
- トヨ: かか様は自分は母親失格だと 思っているのかもしれないが…っ
- トヨ: それを吾が否定してやるのだっ!
- トヨ: かか様以上のかか様はいないのだ どこにも!絶対に…っ!
- トヨの声: 吾は、かか様の子で…っ!
- トヨの声: かか様が…かか様で…っ!
- トヨの声: 絶対に幸せだったのだ…っ!!
- かえで: あっ、トヨちゃん…?
- レナ: 主祭殿から出てきたわね ヒミコは…
- トヨ: 皆、聞くのだ ヒミコ様は今し方お隠れになった
- 住民: ヒ、ヒミコ様が…
- 住民: そんな…
- トヨ: だが、ここには吾がいる
- トヨ: 後継者の吾がいるのだ!
- トヨ: ヒミコ様の遺志を継ぎ 邪馬台国を…
- トヨ: この世で最も 豊かなクニにしてみせる
- トヨ: 吾が後継者となることに 不満がある者もいるだろう
- トヨ: さらに狗奴国との戦も いまだつづいている
- トヨ: この旅立ちはきっと困難を極める
- トヨ: だが吾らは示さなくてはならん ヒミコ様が…いや…
- トヨ: かか様がいなくても ここで、やっていけることを!
- かえで: トヨちゃん…
- ももこ: 覚悟を決めたって感じだな
- レナ: …これで、回収は終わったの?
- ねむ: そうだね、終わったよ
- ねむ: 僕達も旅立ちのときだ
- FILENAME: text_519420-15_YO4bE.txt
- トヨ: どこまでも高くて 限りなくつづく青空…
- トヨ: また…この季節がやってくる
- トヨ: 夏がまた、やってくるのだ
- レナ: あーもう! なんでこんなゴツゴツしてるの
- かえで: これじゃあスイカ割りは できないかも…
- ももこ: ごめんな、せっかく 遠出したってのに…
- トヨ: 謝ることは何もないのだ
- トヨ: 吾は皆と最後に 海を見られてよかったのだ
- トヨ: …かか様とも 一緒に見たかったのだ
- みんな: …………
- トヨ: レナ、ももこ、かえで… 汝らが未来国に帰る直前 吾を海に連れていってくれて ほんとーにありがとうなのだ
- トヨ: 確かにスイカ割りはできなかったが 海を直に見れて、泳げて… 楽しくて仕方なかったのだ
- トヨ: あんなふうに友だちと過ごすことが できるようになるなんて… 昔の吾なら夢にも思わなかったのだ
- トヨ: 皆からはたくさんのものをもらったのだ いつか恩返しに行きたいのだ
- レナ: …とりあえず、遊ぼっか?
- ももこ: そうだね
- かえで: 行こう、トヨちゃん!
- トヨ: うんなのだ!
- トヨ: あの日のことは… 皆と過ごしたあの夏のことは 一生の思い出として、いつまでも 吾の記憶に残りつづけるのだ
- レナ: 「アンタを見てて レナも、もっと頑張ろうって思ったわ」
- トヨ: 最後にレナはそう言ったのだ 何を頑張るのかと聞くと…
- レナ: 「大人になることを」
- トヨ: その翌日、吾らは別々の道で あるべき場所へ戻っていった
- トヨ: あれから季節はめぐった… 狗奴国との戦いはまだつづくが 吾は戦いを終わらせられるよう頑張っているのだ
- トヨ: とと様とは相変わらず会えないでいるが いつか、わかりあえる日が来ると思うのだ
- ヒミコの弟: トヨなど鬼道ができるだけの小娘 邪馬台国を導ける存在ではない!
- ヒミコの弟: 僕こそが真の後継者 …邪馬台国の男王だ!
- トヨ: 狗奴国との繋がりを失った叔父上が ある日突然、王を僭称したこともあった
- トヨ: けれど、その数日後に殺されたのだ
- トヨ: 狗奴国の手の者によって寝首を掻かれたのだ あっけないものなのだ… 政の中ではひとりの命など 何の価値もないように雑に扱われる
- トヨ: だからこそかか様は最後まで 吾を心配していたのだろう
- トヨ: けれどかか様…心配いらないのだ 吾はしゃんとここに立っているのだ かか様の後継者として…
- トヨ: …っと
- トヨ: ふう…祟り神退治も大変なのだ
- トヨ: だが…あの者たちは かつての後継者候補…
- トヨ: 吾の手で静かな眠りを 与えてやりたいのだ…
- トヨ: …………
- トヨ: この場所で…よくかか様は 身を清められていたな…
- トヨ: かか様…
- トヨ: …会いたいのだ
- トヨ: …………
- トヨ: …なんて、会えるわけないのだ
- トヨ: そうなのだ…我慢なのだ 吾は後継者として立派に…
- 女官: ト、トヨ様… ようやくいらしたのですね
- トヨ: うん?汝はかか様の 側付きをしていた…
- 女官: はい、そうです…
- 女官: 今はここで神薬を岩に塗るのが 私の仕事でありますが
- トヨ: 神薬?何なのだ、それは?
- 女官: ヒミコ様が鬼道のすべてをかけて おつくりになったものです
- トヨ: ――っ!?
- 女官: 私はそれを塗りつづけ トヨ様を待っておりました
- 女官: これをお渡しするために
- トヨ: …石?
- 女官: 私が立ち去ったら その石を打ち合わせてください
- トヨ: ま、待つのだ 意味がわからんのだ
- 女官: 詳しくは言えません ヒミコ様はトヨ様を驚かせたくて
- 女官: こんな回りくどいことを わざわざしたのですから…
- 女官: …ようやくそのときが来て 私もうれしく思います…
- トヨ: …………
- 女官: それでは…ごゆっくり…
- トヨ: …行ったのだ
- トヨ: この石を 打ち合わせればよいのか?
- トヨ: よいしょ、なのだ
- トヨ: うん?石から火花が出たが… それだけなのだ
- トヨ: よいしょっ!よいしょっ!
- トヨ: うぬぬ…ここまでやっても 何にも起きないのだ!
- トヨ: じゃあもうムダなのだ こんな石などポイーなのだ
- トヨ: …まったく かか様はなぜこのようなことを
- トヨ: …え?
- トヨ: ―トヨ― …蛍…?
- トヨ: いつの間にか辺りには 無数の蛍が飛び交っていたのだ
- トヨ: そのきれいな光は 吾を包むようにして 優しく照らしてくる…
- トヨ: そうか…吾が起こした火花を 仲間の光だと勘違いして 寄ってきたのか…
- トヨ: だが…それにしては数が多い… いくらここの水が澄んでいるとはいえ この数の蛍は見たことがないのだ
- トヨ: …もしかして、これなのか? かか様がつくった神薬というのは
- トヨ: なぜこんなことのために 鬼道のすべてをかけたのだ…?
- トヨ: われ、ほたるのひかり すきなのだ
- ヒミコ: そうだったのですか… 私は…そんなことも知らずに…
- ヒミコ: …今度、夜空いっぱいに 蛍の光を集めてみせますよ
- ヒミコ: そうしたら よろこんでくれますか?
- トヨ: ―トヨ― …………
- トヨ: ―トヨ― …そのため…?
- トヨ: ―トヨ― …これまで費やしてきた鬼道のすべてを… ただ…吾をよろこばすために…?
- トヨ: ―トヨ― な、何を…やっているのだ…かか様なら もっと他に残すべきものがあったのだ…
- トヨ: ―トヨ― かか様の知が…人生を捧げてきた鬼道の すべてが…これだなんて…
- トヨ: ―トヨ― な、なはは…ほんとーに… ほんとーに…かか様は…
- トヨ: ―トヨ― 吾のことが…大好きなのだ…っ!
- トヨ: 涙が堰を切ったように流れ出したのだ 止める気にはならかったのだ 吾は感情のままに泣きつづけたのだ
- トヨ: この真っ暗な中で泣きつづけていると その泣き声が、まるで… 自分がここにいると証明しているように 思えてならなかった
- トヨ: ―トヨ― かか様…っ、かか様…っ!!
- トヨ: ―トヨ― 寂しいのだ…っ! 会いたいのだっ!
- トヨ: ―トヨ― もっと膝枕してほしかったのだ…っ! 一緒に海に行きたかったのだっ!
- トヨ: ―トヨ― タケノコだって一緒に採って… でも、かか様の方が見つけるの上手で…
- トヨ: ―トヨ― わ、吾は…やっぱり…かか様には かなわないなあって…
- トヨ: ―トヨ― そうやって…笑い合いたかったのだっ!
- トヨ: 我慢していたものをすべて吐き出していくと なんだか、清らかなものが胸に流れ込んできて それは感傷を連れて、どこかへと飛んでいく…
- トヨ: その一瞬で 吾はもう大丈夫になろうとしていた すべてを楽しかった思い出にできるくらい 吾は大丈夫になりつつあった
- トヨ: いつから吾は大人になるのだろう… そんなことをぼんやり考えたことがあった その“いつか”が、今だった
- トヨ: それがほんとーに悲しかったのだ
- トヨ: ―トヨ― かか様…吾は、生まれてきて… かか様の子でよかったのだ…っ!
- トヨ: ―トヨ― かか様…ッ!!
- トヨ: それでも吾はただ泣きつづける 蛍の光はやがて夜空の方へと上っていった
- トヨ: かか様…吾はかか様の子として 精一杯生ききってみせるのだ
- トヨ: 祟りなんてこの世にはない… 祝福だけがこの世にはあるのだと 吾がこの身で証明してやるのだ
- トヨ: 新たに生まれくる者たちが この世を呪い、祟るのなら その子らに精一杯の愛を捧げるのだ
- トヨ: かか様がそうしてくれたように…
- トヨ: 泣きつづける吾を照らしていた蛍が 夜空の方へ上っていく 光はやがて消えていく…
- トヨ: 新しい何かが はじまろうとしていた
- トヨ: …夏が、はじまっていくのだ
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