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Puella Historia: Heiress of Yamataikoku JP Text

Jun 26th, 2023 (edited)
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  2. 住民: 「…トヨ様、ですか?」
  3. 住民: 「はい、確かにまじない…ああ、鬼道でしたか? それに優れていると言われていますが… あの子の力は鬼道のおかげではありません」
  4. 住民: 「あの力は呪われた力… そう、あの子は祟り神の子なんですから」
  5. 住民: 「いつかあの子が原因で災いが起きる… 私たちはそう思っているんです …神奈備様の孫でなければ 追い出してやれたのに…」
  6. 住民: 「あなたも近づかない方がいい… あの子は祟り神の子…人の子ではありません」
  7. 使い: …祟り神の子、か 噂に過ぎないと思っていたが…
  8. 使い: こうも皆が口を揃えて 言うとなると本当かもしれません
  9. 使い: 度々、取り憑いている祟りが 表に出てきているようですし…
  10. 使い: “神懸かり”だな…
  11. 使い: 前に後継者候補に選ばれた巫女も 神懸かりを起こして…
  12. 使い: その身を祟り神に奪われ 厄災を引き起こしたと聞く
  13. 使い: …別の候補が命を捧げて 祟りを祓ったんですよね?
  14. 使い: 詳細は知らないが、後継者候補が 多く命を落としたのは事実…
  15. 使い: …どうします? さすがにやめておいた方が…
  16. 使い: 他に候補がいない以上 仕方がない
  17. 使い: それに…主祭殿からの 強い要望でもあるからな…
  18. 使い: 主祭殿…ヒミコ様が?
  19. 使い: さあな… 下っ端の我々にはわからんよ
  20. 使い: …………
  21. 使い: …はあ それにしても、暑いな
  22. 使い: もう夏ですからね
  23. トヨ: 『ぬわあああああああっ!!』
  24. トヨ: ―トヨ― な、何ということなのだ… この亀裂の走り方…
  25. トヨ: ―トヨ― ああ…やはりそうなのだ ばば様から聞いた通り…これは!
  26. トヨ: ―トヨ― じじ様がばば様にはじめて 好きと言った日に出た亀裂と同じ…!
  27. トヨ: ―トヨ― 占いも長らくやってきたが 実際に見たのはこれがはじめてなのだ…
  28. トヨ: ―トヨ― …今日はなんかいいことありそうなのだ
  29. じじ様: ―じじ様― トヨ…トヨや! 大変じゃ
  30. じじ様: ―じじ様― 邪馬台国のヒミコ様が お前を呼んでいるそうなのじゃ…!
  31. トヨ: ―トヨ― …ヒミコ様…なのだ?
  32.  
  33. FILENAME: text_519410-2_qv10h.txt
  34. トヨ: ぜえ…っ!ぜえ…っ!
  35. トヨ: …はあ~ バカに暑いのだ…
  36. トヨ: しかし…そんけーするヒミコ様に 会えるのだ…頑張るのだ…
  37. 使い: トヨはヒミコ様の 後継者候補に選ばれました
  38. 使い: 長、これは大変名誉なことですぞ この離れ里にとっても利になる
  39. 使い: トヨには準備ができ次第 邪馬台国へ向けて出立してもらう
  40. トヨ: あの日…吾(われ)らの属する女王国の中で 最も強力なクニ…邪馬台国から使いが来て 吾がヒミコ様のこーけーしゃに 選ばれたと言ったのだ
  41. トヨ: …こんなにうれしいことは 生まれてはじめてだったのだ
  42. トヨ: 邪馬台国のヒミコ様…
  43. トヨ: 世が乱れに乱れていたとき その卓越した鬼道で人々を導き
  44. トヨ: いくつものムラやクニを 束ねることに成功したお方…
  45. トヨ: 鬼道を志す者で その名を知らぬ者はいないのだ そして…
  46. トヨ: ヒミコ様のようになりたい… そう思わぬ者もいないのだ
  47. トヨ: 吾もその中のひとりだった
  48. トヨ: …いつから吾が鬼道をはじめたのか もう覚えてはいない…
  49. トヨ: じじ様は鎮守の森を管理する立場で ばば様は昔、巫女をしていた… そういうかんきょーもあって 物心つく前には鬼道に触れていたのだ
  50. トヨ: まあ、ともかく… 吾はヒミコ様が鬼道で多くの人を助け 皆の力になった話を聞き…
  51. トヨ: 吾もそうなりたいと 鬼道に夢中になっていったのだ
  52. トヨ: …それに、鬼道に没頭していると どういうわけか…何か優しいものに 包まれている気になったのだ…
  53. トヨ: しかし、じじ様とばば様は 吾が主祭殿へ行くことに 強く反対なさった
  54. トヨ: これまで神懸かりを起こす度に 祟りに憑かれていると言われてきたのだ…
  55. トヨ: 吾のことを思って引き留めようと なさったのはわかっているのだ
  56. トヨ: でも、この気持ちは抑えようがなかったのだ
  57. ばば様: 「…お前が鬼道をはじめたときから いつかこうなるだろうと… ヒミコ様のもとへ行ってしまうだろうと ばばは思っていたんですよ…」
  58. ばば様: 「これは天の意思… お前の旅立ちは、きっと… 誰にも止められないんでしょうねえ…」
  59. トヨ: ばば様はそう言って 吾の旅立ちを許してくださり じじ様を説得なさってくださったが…
  60. トヨ: …あのお言葉… どーゆー意味だったのだろうか…
  61. トヨ: …………
  62. ミーン!ミーン!
  63. トヨ: セミは元気なのだ… 吾は…喉が乾いたのだ…
  64. トヨ: よし、こんなときこそ鬼道なのだ この地形ならば…
  65. トヨ: …川はあっちか
  66. トヨ: ぜへえっ!ぜへえっ!!
  67. トヨ: …あ、あそこに…葦が…
  68. トヨ: 葦は水のあるところによく茂る… ならば…
  69. トヨ: はあ…はあ…着いたのだ
  70. トヨ: なーっはっはっは…
  71. トヨ: ごほ…ごほ、ごほっ!
  72. トヨ: …はあ、はあ…なはは…
  73. トヨ: これが鬼道… 先人の知の結晶なのだ
  74. トヨ: さて、吾も水を…
  75. 子どもたち: 「冷たくておいしいねー!」 「あははは!」
  76. トヨ: …わっぱたちもいたのか
  77. トヨ: 楽しそうなのだ 吾も一緒に飲みたいのだ
  78. トヨ: あ、あの…わっぱたちよ 吾も、まぜてほしいのだ
  79. 子ども: 「いいよー」
  80. トヨ: …ほ、ほんとーなのか!?
  81. 子ども: 「よくないって!お前、知らないのか? コイツ、祟り神の子なんだぞ」
  82. 子ども: 「えー、そうだったのー!?」
  83. 子ども: 「祟り神の子と 一緒にお水なんて飲めないよー」
  84. 子ども: 「こっちまで呪われるぞ、逃げろー!」
  85. トヨ: …あっ…
  86. トヨ: …なはは…仕方ないのだ…
  87. トヨ: 皆、祟りは怖いのだから… 吾は我慢しないと…
  88. トヨ: …………
  89. トヨ: …いいなあ…友だち
  90. レナ: うう…レナひとりなんて… かえで~…ももこ~…
  91. トヨ: ――っ!?
  92. トヨ: (…泣いているのだ)
  93. トヨ: …あの…そこの者… いじめられたのか…?
  94. レナ: だっ、誰よアンタ…!
  95. レナ: 話しかけないで レナのことはほっといていいから
  96. トヨ: は、はい…なのだ
  97. トヨ: (今度は怒り出したのだ… 感情的なやつなのだ…)
  98. トヨ: …………
  99. レナ: …なによ
  100. トヨ: なはは…心配なのだ
  101. レナ: …はあ 大切な本を奪われたのよ
  102. レナ: 取り戻そうと捜してたら 道に迷って…
  103. トヨ: ほん?
  104. レナ: …この時代にはないの? まあ、貴重なものよ
  105. レナ: 奪ったのは変なお面を つけたやつなんだけど…
  106. トヨ: こ、こっちには、来てない…のだ
  107. レナ: そう…かえでとももこに 期待するしかないか…
  108. レナ: 早くいろはの概念を回収しないと いけないっていうのに…
  109. トヨ: (それにしても…すごい衣なのだ いったいどこの者なのだ…?)
  110. レナ: ねえ…ここの水って飲めるの? レナ、喉が渇いて
  111. トヨ: わ、吾は飲んでないから 大丈夫なのだ…!
  112. レナ: はあ?
  113. トヨ: ひいいっ、怒らないでほしいのだ 吾はちゃんと我慢するから
  114. レナ: いや、意味がわかんない 別に飲んだらいいじゃない?
  115. トヨ: …あ、吾を知らないのだ…?
  116. トヨ: 吾は祟り神の子…吾といると ケガレが移ると言われているのだ
  117. レナ: …そういうオカルト染みた話が 信じられてる時代なのね
  118. トヨ: おか…?
  119. レナ: こっちの話
  120. レナ: ほら、アンタも飲みなさいよ レナは祟り神とか信じてないから
  121. トヨ: え…
  122. レナ: ほら!
  123. トヨ: …………
  124. レナ: …な、なによ
  125. トヨ: …う…う゛…
  126. トヨ: う゛れ゛し゛い゛の゛た゛! ぐわーん!ぐわわんっ!
  127. レナ: え…泣いてるの? なんで?
  128. レナ: …変なやつ
  129.  
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  131. 住民: またトヨ様が神懸かりを起こして 私、近くで見ちゃったのよ…
  132. 住民: 私もあるわ… あれ、本当におぞましいわよね
  133. 住民: 祟られている証拠だわ
  134. トヨ: …………
  135. 住民たち: ――っ!?
  136. 住民: い、いらしたのですね…声を かけてくださればよかったのに…
  137. トヨ: あっ…えっと…
  138. トヨ: タケノコ…採ってきて… こんなに…
  139. 住民: …この時季なのに? どうやって…
  140. トヨ: 吾、見つけるの… あの…得意だから…
  141. トヨ: な、汝ら…食べるか…?
  142. 住民たち: …………
  143. トヨ: い、一緒に、食べて… その…お喋りなんか、して…
  144. 住民: いえ…せっかくですが…
  145. トヨ: …そう、なのだ…
  146. 住民: それでは…
  147. 住民: …祟り神の子が採ってきた タケノコなんて食べられないわよ
  148. 住民: …ああ、怖い怖い タケノコですって…
  149. 住民: この時季にタケノコなんて あるはずないわ
  150. 住民: 祟りの力でどうにかしたのよ
  151. トヨ: …………
  152. トヨ: …なはは…じじ様、ばば様と 一緒に食べたらいいのだ
  153. レナ: なっによ、それ!
  154. レナ: 水だけじゃなくて 他でもいじめられてるわけ?
  155. レナ: あー気分わる…
  156. トヨ: いや…その…それは… 違うのだ…
  157. トヨ: 「えっと…この世に起こる様々な災いは 祟り神によって引き起こされる… そう皆が信じている以上 吾が忌避されるのは…仕方がないのだ」
  158. トヨ: 「もちろん、吾は祟り神の子などではないが… もともと親が誰かもわからぬケガレた身の上 祟りが宿っていても不思議はないのだ」
  159. トヨ: 「だから…皆が怖がる気持ちはわかる 吾は皆を責めようとは思わない」
  160. トヨ: 「それに…皆がほんとーは 心優しい者たちだと吾は知っているのだ」
  161. トヨ: 体を悪くしたじじ様やばば様を 皆、気遣ってくれているし…
  162. トヨ: 稲も大切に育て この土地を一生懸命守っている…
  163. トヨ: それが、皆の本質だと 吾はわかっているのだ
  164. レナ: アンタ…
  165. トヨ: だから…吾は、少しでも 皆の役に立ちたい
  166. トヨ: ヒミコ様に会いたいだけでなく… しっかりこーけーしゃになって
  167. トヨ: 故郷を豊かにしたいのだ
  168. トヨ: そう!それに、じじ様やばば様も 楽にしてあげたいのだ
  169. トヨ: …そう思って吾は旅立ち 邪馬台国を目指しているのだ
  170. レナ: 邪馬台国…どこかで聞いたことが ある気がするけど…
  171. レナ: まあいいや アンタ、ひとりなの?
  172. トヨ: じじ様やばば様は体が悪いし… 他の皆は、その…なはは…
  173. レナ: …………
  174. レナ: タケノコ
  175. トヨ: はあ?
  176. レナ: レナ、お腹空いたわ
  177. レナ: アンタ、タケノコ見つけるの 得意なんでしょ?採ってきて
  178. トヨ: …う、うん…なのだ わかったのだ…
  179. トヨ: はいこれなのだ
  180. レナ: …どうやって食べるの?
  181. トヨ: 生でもおいしいのだ 吾が見つけるものは一級品なのだ
  182. レナ: ふーん… ほら、アンタも食べなさいよ
  183. トヨ: え…? い…いい、のか?
  184. レナ: いちいち確認しないでよ しつこいわね
  185. トヨ: 祟り…怖くないのか…?
  186. レナ: さっきも一緒に 水を飲んだじゃない
  187. トヨ: それは…そうなのだが…
  188. レナ: …レナはこの時代の価値観とか よくわからないけど
  189. レナ: 仲間外れにするのは どの時代でもよくないわよ
  190. トヨ: そなた…
  191. レナ: ――っ!?
  192. トヨ: ど、どうしたのだ?
  193. レナ: 誰か来る
  194. ???: ――っ!?
  195. レナ: へえ…奇遇ね アンタを捜してたのよ…
  196. レナ: 本を返してもらうわ
  197. ???: …“ホン”…
  198. レナ: ねむ、無事でしょうね?
  199. ねむ: 心配には及ばないけど 状況は変わっていないよ
  200. ねむ: 彼らは君の狗奴国への同行を 求めているようだからね
  201. 狗奴国兵: 必ず来てもらう…いや 来てもらいますぞ
  202. 狗奴国兵: …トヨ様
  203. レナ: だから人違いだって 言ってんのに…
  204.  
  205. FILENAME: text_519410-4_qv10h.txt
  206. ねむ: 「ここは3世紀… 邪馬台国の女王ヒミコが君臨する日本」
  207. ねむ: 「倭国大乱と呼ばれる激しい戦いを ヒミコは各クニと女王国という一種の連合政権を つくることで収束させ、実質リーダーとなった」
  208. ねむ: 「けど連合に属さないクニもある… それが狗奴国」
  209. ねむ: 「邪馬台国が主導権を握った背景には 魏…大陸の王朝の力を借りていたから… 狗奴国は魏に臣従するのをよしとせず 邪馬台国と対立している…」
  210. ねむ: …という背景があるから
  211. ねむ: 重要人物であるトヨの 手がかりを得たいんだよ
  212. レナ: こんなときに説明されても 頭に入らないってば!
  213. レナ: とにかく、今すぐそいつから 取り戻すから、じっとしてて!
  214. ねむ: むしろ、動きようがないよ
  215. 狗奴国兵: 頭、さっきやられたってのに また強引にさらうつもりなのか?
  216. 狗奴国兵: まさか…何のためにこの“ホン” とやらを奪ったと思う?
  217. 狗奴国兵: トヨ様!このホンは魏から 贈られた重要な品とお見受けする
  218. 狗奴国兵: そのようなものが 奪われたとなれば一大事…
  219. 狗奴国兵: 大人しく言うことを聞けば ホンだけは返してやっても…
  220. レナ: だーかーら! レナはトヨじゃないっての!
  221. レナ: そもそもトヨって誰なのよ!
  222. トヨ: トヨは…吾なのだ
  223. レナ: は?
  224. ねむ: 驚いたね… トヨが彼女だったなんて
  225. レナ: …この子が重要人物の…トヨ?
  226. ねむ: そう…
  227. ねむ: 「3世紀…女王ヒミコの亡きあと 混乱する邪馬台国をまとめあげた 幼き女王…ヒミコの真の後継者」
  228. ねむ: …それが彼女
  229. レナ: この子が、後継者のトヨ…?
  230. 狗奴国兵: 頭、そっちのちんちくりんの方が トヨだってよ
  231. 狗奴国兵: 確かに…面影はある…
  232. 狗奴国兵: だが…どう見てもこのホンは 我々の技術を凌駕している…
  233. 狗奴国兵: つまりこれは魏からの贈り物… 貴人以外そんなものは所持できぬ
  234. 狗奴国兵: 拾ったんじゃねえの?
  235. 狗奴国兵: バカを言え!トヨ様だから 所持していたと考えるのが自然だ
  236. レナ: なに…本当にレナを トヨだと思っているの?
  237. ねむ: そうみたいだね…お姉さんの 記録が書かれたこの本を
  238. ねむ: 魏からもらったものだと 勘違いしてるようだ
  239. ねむ: 金印のような…臣従の証の品だと 思っているんだろうね
  240. 狗奴国兵: 頭、結局どっちがトヨなんだ?
  241. 狗奴国兵: 面影のある方か? ホンを持っていた方か?
  242. 狗奴国兵: ええい、この際ふたりまとめて 狗奴国へ連れていけばいい!
  243. 狗奴国兵: これ以上、手間をかけさせて くれますな…トヨ様
  244. トヨ: …事情は、よくわからんが
  245. トヨ: 狗奴国とは、ヒミコ様に 盾突く者たちだと聞いているのだ
  246. トヨ: どうせこーけーしゃ候補をさらい 政に利用するつもりなのだろう?
  247. トヨ: そんなところへ 行けるものか、なのだ!
  248. レナ: レナも行くつもりはないわよ
  249. 狗奴国兵: ちっ…このホンがどうなっても…
  250. 狗奴国兵: があっ…!
  251. ももこ: レナの声が聞こえると思ったら…
  252. かえで: こっちに来て正解だったね
  253. レナ: ももこ!かえで!
  254. 狗奴国兵: ちいっ…またこの厄介な 従者どもか…
  255. 狗奴国兵: 立てるか?
  256. 狗奴国兵: 面目ねえです、頭
  257. 狗奴国兵: 我々を軽くねじ伏せるこの力… 不埒な噂は本当だったようだ
  258. 狗奴国兵: 邪馬台国が祟りの力を巫女に 授けている…というのは
  259. 狗奴国兵: …今は退こうぜ この品があれば、まだ
  260. 狗奴国兵: そうだな
  261. ねむ: …退く?まずいね 今から言うことをよく聞いて
  262. レナ: え…?
  263. ねむ: トヨは魔法少女になる
  264. ねむ: 君達はトヨとともに この時代を歩んでいくんだ
  265. ねむ: そうすればお姉さんの概念は 回収されるはずだよ
  266. レナ: トヨが、魔法少女に…?
  267. 狗奴国兵: はあっ!
  268. かえで: ふゆぅ…砂煙…!?
  269. ももこ: あいつらが逃げるよ!
  270. レナ: ま、待ちなさい! ねむが!
  271. トヨ: あ… …逃げられたのだ
  272. レナ: そうみたいね…
  273. ももこ: レナ、その子は?
  274. レナ: この子はトヨよ 回収のためにとても重要な人物…
  275. かえで: それって…
  276. トヨ: …何なのだ、汝ら…? 吾をそんなに見て…
  277. レナ: (…トヨは魔法少女になる…)
  278. レナ: (けどそれは 止めてはいけないし…)
  279. レナ: 止めようとしたって 止められるものじゃない…
  280.  
  281. FILENAME: text_519410-5_qv10h.txt
  282. ももこ: あー…そうだったんだ
  283. レナ: そうよ
  284. ももこ: そんなことになってたんなら もっと急いでくればよかったな…
  285. レナ: …別に、いいわよ
  286. レナ: ももこにしては、そんなに タイミング悪くなかったし…
  287. ももこ: お、おお…
  288. レナ: …なによ
  289. ももこ: いや…なんか 大人になってきてるなって
  290. かえで: よかったね、レナちゃん!
  291. かえで: 少しずつでも変わろうとしてる 努力の成果だよ
  292. レナ: う、うるさいわね
  293. ももこ&かえで: あはははは
  294. トヨ: …な…なはは…
  295. かえで: …これから、トヨちゃんに ついていけばいいんだよね?
  296. レナ: そう言ってたわね…
  297. ももこ: 狗奴国がトヨを 狙ってるみたいだけど
  298. ももこ: アタシたちは守っていいのか?
  299. かえで: …歴史でトヨちゃんがさらわれる ことになってたら、むしろ…
  300. ももこ: うーん…レナ、この時代のこと 何か知ってたりする?
  301. レナ: 知るわけないでしょ
  302. かえで: まあ、そうだよね…
  303. レナ: そもそも、邪馬台国だって ろくに知らないのに
  304. レナ: トヨのことなんて わかるはずないでしょ
  305. かえで: 胸を張って言うことじゃ ないと思うけどなあ…
  306. トヨ: 汝ら、何の話をしているのだ?
  307. ももこ: あー、えっと…
  308. レナ: レナたち、未来から来たの
  309. ももこ: ――っ!?
  310. かえで: い、言っちゃっていいの?
  311. レナ: なんで?
  312. ももこ: いやほら、歴史にどんな影響が あるかわからないだろ?
  313. レナ: そんな話、してたわね…
  314. トヨ: なあなあ、未来って何なのだ? 聞いたことがない言葉なのだ
  315. レナ: み、未来っていうのは…
  316. レナ: そう、国よ!国! ずっと遠いところにあるの
  317. トヨ: その未来国では、皆 汝らのような衣を着ているのか?
  318. かえで: え、ええと… そう、だね…
  319. トヨ: 汝らのように皆、 そんなに髪がきれいなのか?
  320. ももこ: これくらいなら、普通…かな?
  321. トヨ: すごいのだ… きっと優れたクニなのだろうな
  322. かえで: もう…変な嘘つかせないでよ…
  323. レナ: けどこれで乗り切れたわ
  324. トヨ: ではさっきの、ぱあーっと光って 衣が替わったあれ!
  325. トヨ: あれも未来国ではふつーなのか?
  326. レナ: うっ…そ、それは…
  327. かえで: 全然乗り切れてないよ…
  328. レナ: も、ももこ、何とかできない?
  329. ももこ: アタシ!?
  330. レナ: お願いよ この場を乗り切るだけでいいから
  331. ももこ: 乗り切るって言ったって…
  332. ももこ: …あ、あのな、トヨ… 姿が変わったことだけど…
  333. トヨ: うんなのだ
  334. ももこ: それはあれだよ…うん あれなんだ
  335. トヨ: あれとは何なのだ?
  336. ももこ: だから、うん…あれは、ほら あれだから…
  337. ももこ: …な、かえで?
  338. かえで: えええ…私に振らないでよ…
  339. トヨ: もしかして…汝ら…
  340. トヨ: 未来国の祓い巫女、なのか?
  341. ももこ: …祓い巫女?
  342. トヨ: 巫女の中には祟り神を祓うため 特別な力を持つ者がいると聞く…
  343. トヨ: こーけーしゃ候補の中にも そういった巫女がいたそうなのだ
  344. トヨ: …皆、命を落としたらしいがな
  345. みんな: ――っ!?
  346. レナ: ねえ、もしかしてそれって…
  347. ももこ: …魔法少女のことかもな
  348. トヨ: ま、待つのだ… ということは汝ら…
  349. トヨ: 吾を祓いにきたのかーっ!?
  350. みんな: え…
  351. トヨ: まあ…吾は人の子なのだ 祓われたって平気なのだ!
  352. レナ: 話がややこしくなってきたわね…
  353. トヨ: どんな祓い方をするのか知らんが 痛くはしないでほしいのだ…
  354. ももこ: …どうする?
  355. かえで: とりあえず、誤解はとこうよ
  356. レナ: …また話がこじれそうだけど…
  357.  
  358. FILENAME: text_519410-6_qv10h.txt
  359. トヨの声: あ゛つ゛い゛の゛た゛~~
  360. トヨ: 歩いているだけで 溶けてしまいそうなのだ…
  361. トヨ: 汝ら、祓い巫女なのだろう? どーにかできんのか?
  362. レナ: できるわけないでしょ…
  363. ももこ: もうちょっと頑張ろうよ 邪馬台国まであと少しなんだから
  364. かえで: そうだね…
  365. トヨ: …しかし、汝らもヒミコ様に 用があったとはな
  366. トヨ: まあ、未来国の巫女なのだから そういうこともあるだろうが…
  367. かえで: …いいのかな こんな嘘ついちゃって…
  368. レナ: …………
  369. 狗奴国兵: 我々を軽くねじ伏せるこの力… 不埒な噂は本当だったようだ
  370. 狗奴国兵: 邪馬台国が祟りの力を巫女に 授けている…というのは
  371. レナ: …構わないわ 確かめたいこともあるし
  372. かえで: そう…?
  373. トヨ: はあ…はあ… な、汝ら…ちょっと、待つのだ…
  374. トヨ: 歩きすぎたのか 脚が言うことを聞かんのだ
  375. ももこ: あ、そうだね ちょっと休んでいこっか
  376. レナ: どうせなら 水浴びでもする?
  377. トヨ: ――っ!?
  378. かえで: どうしたの、トヨちゃん? お水、浴びたい?
  379. レナ: あ、わかった 水遊びしたいんでしょ?
  380. トヨ: そ、そんなことないのだ! 吾を子ども扱いするな、なのだ!
  381. ももこ: またまた、そんなこと言って
  382. トヨ: そんなこともこんなことも 全部ないのだ!
  383. トヨ: 吾は一刻も早く邪馬台国に着き ヒミコ様に会わねばならんのだ
  384. トヨ: 遊んでいる場合ではないのだ!
  385. トヨ: ほーれレナ!ばしゃばしゃ!
  386. レナ: あー! やったわね!
  387. トヨ: きゃっ、きゃっなのだ!
  388. トヨ: っじゃなーーーいのだ!!
  389. ももこ: どうしたんだよ さっきまで楽しそうにしてたのに
  390. トヨ: うるさいのだ! 遊んでいる場合ではないのだ!
  391. レナ: 散々、遊んでたのに…
  392. かえで: …でも、私たちだって同じだよ 遊んでてよかったのかな…
  393. ももこ: ま、トヨについていく以外に やれることなんてないからね
  394. ももこ: 今は信頼関係を築くことが 最優先でいいと思うよ
  395. レナ: 途中で追い払われたら それこそ大変だからね
  396. トヨ: ええい、狗奴国のやつらが 近くに潜んでいるかもしれんのだ
  397. トヨ: 遊んでいる場合ではないのだ!!
  398. かえで: また言った…
  399. ももこ: そうカリカリするのは お腹が空いてる証拠
  400. ももこ: よし、ちょっと早いけど ご飯にしよっか?
  401. レナ: あ、そういえば…このタケノコ 食べてなかった
  402. ももこ: タケノコか…でも、4人分には ちょっと足りないかな
  403. トヨ: …この辺りなら、すぐに 他のタケノコも見つけられるのだ
  404. ももこ: いいね、決まり
  405. レナ: タケノコだけっていうのも何だし かえでと魚でも釣るわ
  406. かえで: ふゆぅ… 道具がなくてもできるかな…
  407. トヨ: い、いや、待つのだ 今は一刻を争うとき
  408. トヨ: ご飯を食べている場合では…!
  409. トヨ: うっま~いのだ!
  410. ももこ: それはよかった
  411. トヨ: すごいのだすごいのだ どうやってつくったのだ?
  412. ももこ: どうって…普通だよ 煮て、あくを抜いて…
  413. かえで: 狗奴国の人たちが 落としていった竹筒…
  414. かえで: もしかしたらって思ったら ちゃんと鍋のかわりになったね
  415. ももこ: ま、ちょーっと 小さかったけどな
  416. トヨ: 確かにふつーなのだ ならば、なぜ…
  417. かえで: みんなで食べるから おいしいんだよ、きっと
  418. トヨ: そういうものなのか…?
  419. レナ: まあ、タケノコ自体も おいしいからね
  420. ももこ: 時季外れなのに、よくこんな タケノコ見つけたな
  421. トヨ: ふんなのだ 吾にかかればこれくらい…
  422. 住民: …ああ、怖い怖い タケノコですって…
  423. 住民: この時季にタケノコなんて あるはずないわ
  424. 住民: 祟りの力でどうにかしたのよ
  425. トヨ: …あ…
  426. レナ: なによ 変な顔して
  427. トヨ: …な、なんでもないのだ
  428. レナ: …………
  429. レナ: ま、とにかく、トヨのタケノコを 見つける才能は認めるわ
  430. レナ: やるじゃない、アンタ
  431. トヨ: え…
  432. ももこ: うん、こんなにおいしいタケノコ はじめて食べたよ
  433. トヨ: …汝ら…怖く、ないのか?
  434. ももこ: あー…祟りがどうとかって話? そんなの気にしないって
  435. かえで: そうだよ…そもそもトヨちゃんが 祟られてるなんて思わないもん
  436. トヨ: 汝ら…
  437. レナ: アンタも、そんなバカみたいな ことを何度も言ってないで
  438. レナ: ちゃんと、素直に… …うれしいって言いなさいよ
  439. トヨ: …………
  440. トヨ: あ…あぐっ…あぐうっ、ぐうう!
  441. トヨ: ぐわあん、ぐわんぐわんぐわん!
  442. かえで: …す、すごい泣き方…
  443. トヨ: し゛か゛た゛な゛い゛の゛た゛~ う゛れ゛し゛く゛て゛…
  444. トヨ: うれじぐて…
  445. トヨ: …いや、ご飯食べてる 場合じゃなかったのだああっ!
  446. ももこ: やれやれ…
  447.  
  448. FILENAME: text_519410-7_qv10h.txt
  449. かえで: ここが邪馬台国…?
  450. レナ: …問題はないみたい
  451. かえで: 順調に進んでるんだね
  452. トヨ: 何をやっているのだ…?
  453. かえで: へっ!?え、えっと…
  454. ももこ: あー!それにしても 人が大勢いて、活気があるな!
  455. レナ: そ、そうね! ヒミコはどこにいるの?
  456. トヨ: …よいかレナ ヒミコ“様”なのだ
  457. トヨ: もっとも、ヒミコ様は優しきお方 それくらい気にはせんだろう
  458. トヨ: 民をこき使うのではなく 民とともに汗を流し…
  459. トヨ: 鬼道は民の幸せのために使う そーゆーご立派なお方なのだから
  460. トヨ: しかし、ヒミコ様を崇拝する者は 多い…呼び方には注意するのだ
  461. ももこ: 要するに、トヨの憧れなんだ
  462. トヨ: 憧れというか… 心からそんけーしているのだ
  463. レナ: けど、歴史上の人物に様づけで 呼ぶのって、なんか変な感じ…
  464. トヨ: 歴史上の人物?
  465. レナ: あ、えっと…語り継がれていく 有名人って意味
  466. トヨ: …それなら様づけはふつーなのだ 何を言っているのだ?
  467. レナ: あーもう、わかったわよ 様をつければいいんでしょ
  468. ももこ: まったく…最初から 素直にそうしてればいいのに
  469. トヨ: 子どもなのだ、許してやるのだ
  470. レナ: うぐぐぐ…
  471. かえで: 大丈夫、レナちゃんは それでも随分大人になったよ
  472. レナ: …どういう意味?
  473. トヨ: ともあれ、ヒミコ様に 挨拶をしにいくのだ
  474. ももこ: 心から尊敬する人に会うんだ 緊張するだろ?
  475. ももこ: アタシもさぁちゃんの握手会に 行ったときはガクガク震えたなあ
  476. トヨ: さぁちゃん?握手会?
  477. かえで: あんまり知らなくていいかも…
  478. かえで: それで、緊張してるの?
  479. トヨ: う、うんなのだ…
  480. トヨ: 邪馬台国にも吾の噂は 届いているはず…
  481. トヨ: 会うなり、帰れと言われたら いやだなと…
  482. ももこ: そんなことないって ヒミコ様がトヨを呼んだんだろ?
  483. かえで: それに優しい人なんだよね? きっと大丈夫だよ
  484. トヨ: そ…そうなのだ…?
  485. レナ: トヨは卑屈になりすぎよ
  486. レナ: ヒミコ様がトヨを嫌ってるなら わざわざ候補に指名しないでしょ
  487. レナ: もっと自信を持ちなさい トヨを好きな人もちゃんといるの
  488. レナ: みんながみんな トヨをいじめるわけじゃないわ
  489. ヒミコ: 帰りなさい
  490. トヨ: え…
  491. ヒミコ: この者が私… ヒミコの後継者候補ですと?
  492. ヒミコ: ふざけるのも大概にしなさい 誰が祟り神の子などを…!
  493. ももこ: そんな言い方…!
  494. レナ: トヨ…
  495. トヨ: …………
  496.  
  497. FILENAME: text_519410-8_qv10h.txt
  498. ヒミコ: 急に話があると言うから 何かと思えば…
  499. ヒミコ: 祟り神の子が 私の後継者候補ですと…?
  500. 女官: し、しかし…ご年齢的にも そろそろ後継者は必要…
  501. ヒミコ: …そう言って揃えた以前の 候補者たちはどうなりました?
  502. ヒミコ: …あんな悲劇があったというのに 平気で祟り神の子を連れてくる…
  503. ヒミコ: いったいどんな修行を積めば そのような境地に立てるのか
  504. ヒミコの弟: だけど…万が一のためにも 後継者は必要なんじゃないかい?
  505. ヒミコ: そんな話はしていません 私は恥の話をしています
  506. ヒミコの弟: そうでした?
  507. ヒミコ: …くっ…
  508. ヒミコの弟: まあ、ともかく… 思い直してくれませんか?
  509. ヒミコ: 思い直すも何も…そなたが勝手に 選んだのではないのですか?
  510. トヨ: え…
  511. ヒミコ: おおかた、トヨを傀儡に立て 実権を握るつもりなのでしょう?
  512. ヒミコ: 幼い上に、祟り神の子として 忌避されるトヨであれば…
  513. ヒミコ: 民からの人気も出ず 都合よく扱えるでしょうからね
  514. ヒミコ: …我が弟ながら 考えが浅ましすぎる
  515. ヒミコの弟: …なるほど どうも風向きが悪い
  516. ヒミコの弟: ここは退散させてもらいましょう
  517. ヒミコ: はあ…どの者も…
  518. レナ: ね、ねえ… これってどういうこと?
  519. かえで: ヒミコ様の弟さんが勝手に トヨちゃんを候補にしたみたい…
  520. ももこ: それも、トヨを政治的に 利用するために
  521. ももこ: …ひどい話だよ
  522. ヒミコ: そなたらは…トヨの従者か?
  523. かえで: あ、いえ…トヨちゃんとは ここに来る前に出会って…
  524. レナ: 未来国の巫女なの、レナたち
  525. ももこ: …今さらだけど なんかバカっぽくないか、それ
  526. ヒミコ: 未来国… 聞いたこともありませんが
  527. ヒミコ: そなたたちの衣から察するに 相当な技術を持ったクニ…
  528. ヒミコ: …それも、魏をしのぐほどの
  529. レナ: ――っ!?
  530. ヒミコ: …そなたたちと話がしたい ここに残りなさい
  531. レナ: トヨは…?
  532. トヨ: あ…
  533. ヒミコ: …………
  534. ヒミコ: …祟り神の子など汚らわしい 早々に立ち去りなさい
  535. レナ: あ、そ
  536. レナ: トヨ、行くわよ
  537. トヨ: え? こ、こら…レナ
  538. かえで: レナちゃん!
  539. ももこ: …あ、すみません、うちのレナが
  540. ヒミコ: …………
  541. ももこ: でも…アタシはレナの気持ち わかりますよ
  542. ももこ: 友だちが目の前で罵られていたら 誰だって腹が立つから
  543. ヒミコ: 友だち…
  544. かえで: それじゃあ…私たちも、これで…
  545. ヒミコ: …………
  546. ヒミコ: 待ちなさい
  547. トヨ: うわああ…ほんとーに ここに泊まっていいのだ?
  548. かえで: ヒミコ様はそう言ってたよ
  549. ももこ: まあ…明日には出ていけって 言われたけど
  550. トヨ: …………
  551. かえで: トヨちゃん、これからどうする?
  552. トヨ: なはは…出ていけと言われた以上 出ていくしかないのだ
  553. かえで: それでいいの?
  554. レナ: それでいいのよ
  555. かえで: レナちゃん…?
  556. レナ: あんな人のところにいたら トヨは大変な思いをするわ
  557. トヨ: …それは違うのだレナ ヒミコ様はよいお方なのだ
  558. トヨ: 吾が祟り神の子とされているのが いけないのだ
  559. レナ: そんなわけ…!
  560. レナ: …………
  561. レナ: …もういい、寝る!
  562. トヨ: …………
  563. ももこ: …よ、よし! 今日もタケノコ料理つくろうか!
  564. かえで: そ、そうだね 私も手伝うよ
  565. トヨ: …………
  566. トヨ: …ありがとー、なのだ
  567. レナ: …………
  568.  
  569. FILENAME: text_519410-9_qv10h.txt
  570. ヒミコの弟: 「やあ、君たちには無駄骨を折らせたね まさか姉上がまだあの件のことを 引きずっているとは思わなかったんだ」
  571. ヒミコの弟: 「ああ、そう…候補の中で祟りに取り憑かれた 巫女がいてね…災いがたくさん起きてしまった」
  572. ヒミコの弟: 「…結局、他の巫女が祟りを祓ったんだが… 命を落としたらしいね…よく知らないけど」
  573. ヒミコの弟: 「ああいや、興味がないってわけじゃなく 何がどうなったのか僕たちもわからないんだ 本当に、説明しにくくて…」
  574. ヒミコの弟: 「…狗奴国のやつらは我々が巫女に わざと祟りを取り憑かせたと言っているが そうじゃない…そんなことできるわけない あれは人知を超えた領域だ…」
  575. ヒミコの弟: 「もちろん、僕はトヨが祟り神の子だなんて 信じていないよ…だってそうだろう? 祟りがどうやって子をなすのさ…ははは」
  576. ヒミコの弟: 「姉上だって本当はそうだ …単に、あの不可解な事件を もう起こしたくないだけなんだろうね…」
  577. ヒミコの弟: 「…それはそれとして 次の作戦を考えるから待っててくれないか? 必ずトヨを後継者にしてみせるよ!」
  578. ヒミコの弟: 「もちろん、僕が邪馬台国に君臨するために ははは…冗談だよ」
  579. ももこ: あの弟に話を聞いたら だいたいわかってきたな…
  580. かえで: 後継者候補の中に魔法少女がいて 魔女になったってことだよね…?
  581. レナ: たぶん、そうね
  582. かえで: その魔女を倒した魔法少女も 命を落としたって…
  583. ももこ: …魔女には ならなかったってことか
  584. レナ: きっと、真実を知って 自分でソウルジェムを…
  585. ももこ&かえで: …………
  586. ももこ: …ともかく、過去の候補たちの 話はもう終わったことなんだ
  587. ももこ: 悲しいけど、そう割り切ろう… 全部受け止めてたらおかしくなる
  588. かえで: …そうだね
  589. レナ: 問題なのは、ヒミコが 一番割り切れてないってことね
  590. ももこ: “祟り神の子”に敏感だったのも そのせいなんだろうな
  591. レナ: …詰みじゃない?
  592. レナ: どうやってここからトヨを 後継者だって認めさせるのよ
  593. かえで: でも…歴史では後継者に なったって…
  594. レナ: …どんな裏技が…
  595. レナ: ていうか、トヨは?
  596. ももこ: あれ、そういえば…
  597. トヨ: タケノコー!
  598. トヨ: …なはは…こんなときに タケノコ狩りとはな…
  599. トヨ: 吾ながら、バカみたいなのだ…
  600. トヨ: ヒミコ様を勝手にそんけーして 勝手に吾もヒミコ様みたいになりたいと思って…
  601. トヨ: 野山を駆けまわり… ばば様や他の巫女から…多くの先人から知恵を 授かり、鬼道に活かしてきた…
  602. トヨ: そーゆー日々すべてがバカみたいなのだ
  603. トヨ: …こんなことになるなら もっと他に楽しいことをしておけばよかった
  604. トヨ: 結局、吾に残ったものは何なのだろう…? 何もかも、なくしてしまった気がする…
  605. トヨ: …何もない、か
  606. 狗奴国兵の声: 何もないのなら 狗奴国へ来てはどうです
  607. トヨ: 汝は…狗奴国の…
  608. 狗奴国兵: そう警戒せずに… 今日は話をしにきただけ
  609. 狗奴国兵: トヨ様に… 真実を知ってもらうために
  610.  
  611. FILENAME: text_519410-10_qv10h.txt
  612. 狗奴国兵: 我々がトヨ様を 必要としているのは事実…
  613. 狗奴国兵: 話だけでも 聞いてくれませんか?
  614. トヨ: ふんなのだ、必要とする割に 吾を間違っていたようなのだが?
  615. 狗奴国兵: うぬ…
  616. トヨ: まあいいのだ…しかし レナたちには謝っておくのだ
  617. トヨ: 人違いで襲われたのだからな よいな?
  618. 狗奴国兵: …………
  619. 狗奴国兵: …少し、明るくなったな…
  620. トヨ: そうか?吾は目下意気消沈中だ なにせ候補から外されたのだから
  621. トヨ: 吾をさらったところでもう無意味 汝も諦めてクニに帰るのだ
  622. 狗奴国兵: なるほど…さすがのヒミコ様も 母としての情に流されると見た
  623. トヨ: …は?
  624. 狗奴国兵: いや、だから…危険なので 後継者から外されたんでしょう?
  625. 狗奴国兵: ヒミコ様の弟君も暗躍している…
  626. 狗奴国兵: 政争の渦中に放り込むのは さすがに忍びなかったのだな
  627. トヨ: ちょ、ちょっと待つのだ! 今、汝は…何と言った?
  628. 狗奴国兵: 何とは…?
  629. トヨ: だからその…
  630. トヨ: …………
  631. トヨ: ヒミコ様は…吾のかか様なのか?
  632. 狗奴国兵: …知らなかったのか…?
  633. トヨ: いや…そんなの、おかしいのだ 隠す理由なんてないのだ…
  634. 狗奴国兵: …なるほど、真実を伝えるには ちょうどよいのかもしれん…
  635. 狗奴国兵: トヨ様、おそらくヒミコ様は トヨ様の父君を知られたくなくて
  636. 狗奴国兵: すべてを隠していたのでしょうな
  637. トヨ: とと様、だと…? 待て、その口振りだと…
  638. 狗奴国兵: …お察しの通りトヨ様の父君は 狗奴国男王…ククチヒコ様
  639. 狗奴国兵: トヨ様は邪馬台国と狗奴国の御子 祟り神の子…などではありません
  640. トヨ: 嘘、なのだ…邪馬台国と狗奴国は ずっと対立していて…
  641. 狗奴国兵: すべて真実です…そうでなければ ここまであなた様に固執しません
  642. 狗奴国兵: 我が主君が会いたがっております どうか姫御子様、狗奴国へ…
  643. トヨ: そ…そんなこと急に言われても… 吾は…吾、は…っ
  644. トヨ: わからないのだ…!
  645. 狗奴国兵: トヨ様!
  646. トヨ: 何なのだ何なのだ…? ヒミコ様が吾のかか様だと…? その上、狗奴国の男王が 吾のとと様…?
  647. トヨ: なっはははは…何なのだそれは 荒唐無稽なのだ、笑えるのだ それに死ぬほど…
  648. トヨ: 死ぬほどバカにしてるのだ
  649. トヨ: なあ、ヒミコ様は知っていたのだろう? 吾が祟り神の子とされていることを いや、知っているも何もヒミコ様自身が 吾のことをそう言ったものな…
  650. トヨ: どんな気持ちだったのだ?
  651. トヨ: 吾は皆から避けられて その度に仕方ないと言い聞かせてきた
  652. トヨ: だが…一度だって仕方ないと思ったことはない いやだったのだ…ほんとーにいやだったのだ!
  653. トヨ: なのになんでヒミコ様は 吾に何もしてくれなかったのだ?
  654. トヨ: ヒミコ様ならこの状況を どうにかできたのではないのか? なのになんで何もしてくれなかったのだ?
  655. トヨ: かか様なら吾のもとへやってきて… 抱き締めてほしかったのだ 頑張ったねって言ってほしかったのだ
  656. トヨ: ヒミコ様…
  657. トヨ: かか様…
  658. トヨ: かか様は、吾のことが嫌いなのか…?
  659. トヨ: はあ…はあ… 走ったせいか…脚が…
  660. トヨ: …うん?
  661. ヒミコ: …夏だというのに もう枯れてしまったのですか…?
  662. 住民: あの祟り神の子が来る前日に… これも祟りの影響ですか…?
  663. ヒミコ: …………
  664. ヒミコ: 土を調べましょう
  665. 住民: あ、ヒミコ様! お召しものが汚れてしまいます!
  666. ヒミコ: 構いません
  667. トヨ: ヒミコ様が…
  668. 住民: あれ…ヒミコ様って人前に 姿を出さないんじゃ…
  669. 住民: それは弟君が吹聴してるだけ
  670. 住民: ここに来て間もないあんたは 知らないかもしれないけど
  671. 住民: ヒミコ様はああやって多くの民と 触れ合うことを望まれるのよ
  672. 住民: へえ… まじないをしてくれるのか?
  673. 住民: まじないじゃないわ、鬼道… 人を幸せにする知識の結晶よ
  674. トヨ: ――っ!?
  675. トヨ: ああ…そうだったな そうだったのだ…
  676. トヨ: ―トヨ― じじ様、ばば様 吾は必ず鬼道を極めて…
  677. トヨ: ―トヨ― ヒミコ様のように 皆を幸せにしてみせるのだ!
  678. トヨ: ―トヨ― どんな者でも生きているそれだけで 価値があるのだと示すために
  679. トヨ: そう…そうやって 立ち向かうこと、歯を食いしばること この世に絶望しないこと
  680. トヨ: それが吾の原点なのだ
  681. トヨ: 親が誰だとかそんなものに流されて 見当違いなところに来てしまったのか? すっかり見失ってしまったのか?
  682. トヨ: …そんなわけないのだ
  683. トヨ: なら吾は…“まだ何もなくしていない”のだ
  684. レナ: あ、トヨ!ここにいたの どこにもいないから捜して…
  685. トヨ: …応援しててほしいのだ
  686. ももこ: え…トヨ?
  687. 住民: ひっ…祟り神の子…!
  688. トヨ: ヒミコ様!
  689. ヒミコ: …トヨ まだいたのですか
  690. トヨ: 帰るわけにはいかないのだ 吾はここで何もしていないから
  691. ヒミコ: …あなたに 何ができると言うのです
  692. トヨ: 人を幸せにすることが
  693. ヒミコ: ――っ!?
  694. トヨ: そのために吾は鬼道を覚えたのだ
  695. トヨ: ヒミコ様のように多くの人を 幸せにして、笑顔にして…
  696. トヨ: 祟られた子などいないと 吾が証明してみせるのだ!
  697. ヒミコ: …………
  698. ヒミコ: …そこまで言うのであれば 証明してもらいましょう
  699. ヒミコ: 日照りのつづくムラがあります… そこへ赴き民の助けとなるのです
  700. ももこ: つまり、それって…
  701. かえで: …試験?
  702.  
  703. FILENAME: text_519410-11_qv10h.txt
  704. 住民: わー! 巫女様がおこしになったぞー!
  705. 住民: 素敵ー!雨、降らせてー!
  706. トヨ: なーっはっはっは! 安心するのだ任せろなのだ、民よ
  707. トヨ: 吾がちゃちゃっと鬼道で 大雨を降らせてやるのだ!
  708. 住民: 頼りになるわー!
  709. トヨ: なーっはっはっはっは!
  710. 住民: …で、あれから 結構たつけど
  711. 住民: 全然雨降らないね
  712. トヨ: うっ…
  713. 住民: …本当にあの人、巫女なの? 嘘ついてるんじゃない?
  714. トヨ: うう…っ
  715. トヨ: み゛な゛の゛し゛せ゛ん゛か゛ い゛た゛い゛の゛た゛~~~っ!
  716. レナ: …そりゃそうでしょうよ
  717. ももこ: あんなに大口叩いて 村の人たちから接待も受けて…
  718. ももこ: それで一滴も雨が降らないんじゃ しょーがないって
  719. かえで: やってることがほとんど詐欺師と 一緒だし、どうしよう…
  720. トヨ: どうすればいいのだ…?
  721. レナ: どうすればいいって… 雨乞いしなさいよ
  722. トヨ: はん、雨乞いで雨が降るなら 簡単なのだ
  723. ももこ: え…じゃあトヨは 何しにここへ来たんだよ?
  724. トヨ: ふむ…汝らは大きな 勘違いをしているのだ
  725. トヨ: よいか?雨乞いをしたところで 雨など絶対に降りはせんのだ
  726. トヨ: あれは民を安心させるための儀式 それ以上の効果はないのだ
  727. レナ: だったら…どうするのよ
  728. トヨ: 雨を待つ
  729. レナ: …それで?
  730. トヨ: それだけなのだ
  731. レナ: うっそでしょ!?
  732. レナ: ア、アンタ… 待つしかないのに あんな大口叩いてたの…!?
  733. ももこ: ははは…図太い神経だねえ…
  734. トヨ: 違うのだ、あれも演出なのだ 頼りなさそうなやつより
  735. トヨ: なんかデカいこと言うやつの方が 信じたくなるだろう?
  736. トヨ: 要は、信じて待ってみようと民に 思わせるのが雨乞いの仕事なのだ
  737. かえで: じゃあ、失敗したんだ…
  738. トヨ: うぐ…っ
  739. かえで: 試験、落ちちゃったけど… また一緒に頑張ろう
  740. トヨ: っうぐうう…っ!
  741. ももこ: ま、まだそうとは 決まってないだろ?
  742. レナ: けど、運頼みしかないんじゃ…
  743. トヨ: あ、一応、雨がいつ降るのかは 天候を読んでわかっているのだ
  744. レナ: なんだ ちゃんとやってるじゃない
  745. かえで: さすがトヨちゃん それで、いつ降るの?
  746. ももこ: 明日?明後日? あの雰囲気だと待てて3日だな…
  747. トヨ: いや、だいぶ先なのだ
  748. みんな: …………
  749. トヨ: …………
  750. トヨ: と、とにかく 皆の信頼を回復させるのだ!
  751. レナ: そ、そうね できることをやるのよ!
  752. かえで: 村の人たちの お手伝いをしてみようよ
  753. トヨ: 採用なのだ!
  754. ももこ: じゃあアタシ 何か困ってないか聞いてくる
  755. トヨ: なっはっは!そんなの答えは 雨が降らないから困ってるなのだ
  756. ももこ: そっか!あっはっは!
  757. レナ: 笑ってる場合か!
  758. トヨ: …っ、く… あ、あれ…なのだ…
  759. レナ: 何やってるのよ、トヨ そんなところに寝そべって
  760. ももこ: もう冗談はいいから早く…
  761. トヨの声: …あ…ああ…があっ!
  762. レナ: え…な、なに…? どうしたのよ、トヨ
  763. かえで: す、すごく震えてる… 口から泡が…!
  764. ももこ: 何かの病気!?
  765. 住民: 神懸かりだ…
  766. ももこ: え…?
  767. トヨの声: ぐ、あ…がああっ!
  768. トヨの声: あああああっ!
  769. 住民: おぞましい…
  770. ももこ: なっ… おぞましいって…!
  771. 住民: そういえば 聞いたことがあるわ…
  772. 住民: 最近邪馬台国に祟り神の子が やってきたって…
  773. 住民: もしかして、こいつが? だったらこの日照りも…
  774. 住民: 山の向こうのムラで急に稲が 枯れたのも、もしかして…
  775. 住民: 祟りだ…俺たちまで祟られるぞ!
  776. ももこ: 何が祟りだ!こんなの どう見ても病気だろうが!
  777. かえで: トヨちゃん、しっかりして! トヨちゃん!
  778. かえで: ね、ねえレナちゃん… トヨちゃん大丈夫だよね?
  779. かえで: あんなに元気だったんだもん すぐに治るよね…?
  780. レナ: …………
  781. ももこ: …ともかく、トヨを運ぼう
  782. レナ: そうね…
  783.  
  784. FILENAME: text_519410-12_qv10h.txt
  785. トヨ: もう大丈夫なのだ 心配かけたのだ
  786. レナ: …神懸かりってやつなのよね?
  787. トヨ: そうなのだ…たまにああなってな
  788. レナ: どう思う?
  789. ももこ: …病気の症状なのは 間違いないだろうな
  790. レナ: さすがに何の病気かは わからないわよね…?
  791. ももこ: …ただ、あの感じからすると 深刻な病気かもしれない
  792. ももこ: たとえば…脳に何かある、とか
  793. レナ: …脳に異常があるなんて この時代じゃ…
  794. ももこ: けど…トヨは後継者になる すぐに悪くなることはないはず
  795. レナ: …そうだといいけど
  796. かえで: …本当にもう何ともない?
  797. トヨ: ほんとーなのだ
  798. トヨ: …その…いやなものを見せたのだ 気持ち悪かっただろう…?
  799. かえで: そんなことないよ、本当に
  800. トヨ: なはは…汝らは優しいから…
  801. トヨ: けどほんとーに気持ち悪かったり 怖かったりしたら…
  802. トヨ: 吾のことなんて…
  803. かえで: …そんなことないって 言ってるよ、私
  804. トヨ: なはは…
  805. トヨ: …でもまあ、ムラの者たちからは 完全にきらわれてしまったのだ
  806. トヨ: 自業自得なのだ
  807. レナ: …自業自得? なんでそうなるのよ
  808. トヨ: なんでって… いつもそうなっていたからなのだ
  809. レナ: ――っ!?
  810. トヨ: こんなことになってしまったが やるだけやってみるのだ
  811. トヨ: 希望まで捨ててしまったら それこそ、祟りしか残らんからな
  812. レナ: …………
  813. トヨの声: おーい…! レナ、ももこ、かえで~
  814. トヨ: …皆、どこに行ったのだ? 朝から姿を見せずに…
  815. トヨ: うん…?
  816. ももこ: ちょっとくらい話を聞けって
  817. 住民: お前、祟り神の子と 一緒にいたやつだろ?
  818. 住民: こっちに来るな! 俺まで祟られる!
  819. ももこ: 祟りじゃないんだよ トヨは病気なだけで…
  820. 住民: わけのわからないことを あっちに行ってくれ!
  821. ももこ: あ、ちょっと…!
  822. ももこ: ったく、病気が原因って言っても この時代の感覚だとわからないか
  823. トヨ: ももこ…何をして…
  824. かえで: ちょっとでもトヨちゃんの 役に立とうと思ったんだよ
  825. トヨ: かえで…
  826. かえで: トヨちゃんの誤解をといて 試験に専念してもらおうって…
  827. かえで: そう、レナちゃんが 言い出したんだよ
  828. トヨ: レナが…?
  829. 住民: な、何もありません 手伝ってもらうことなど…
  830. レナ: レナは知ってほしいのよ、トヨは 祟りに取り憑かれてないって
  831. レナ: まあトヨは…変なところもあるし すぐ調子に乗ったりもするけど…
  832. レナ: トヨが誰かに 迷惑をかけたことなんてない
  833. レナ: 何にも悪いことなんてしてない
  834. 住民: けど、祟りが…!
  835. レナ: 勝手にトヨのせいにしないで!
  836. レナ: …祟り神の子だとか何だとか わけのわからないことを言われて
  837. レナ: みんなと遊びたくても遊べなくて ただ我慢するしかなくて…
  838. レナ: …それでもトヨは… トヨはね…
  839. レナ: みんなを幸せにしたいって そう言ったのよ
  840. レナ: そんな子が本当に 祟られてると思うわけ…!?
  841. 住民: …………
  842. レナ: …ていうか ずっと言いたかったんだけど
  843. レナ: レナの友だちを悪く言うな!!
  844. トヨ: ――っ!?
  845. かえで: いいなあ…トヨちゃんは はっきり言ってもらえて
  846. トヨ: 友だち…吾が?
  847. かえで: そうだよ、私もトヨちゃんの 友だちのつもり
  848. かえで: …いやかな?
  849. トヨ: …いやなものか…ただ、吾は… 友だちなんて、できないと…
  850. トヨ: ずっとずっとひとりでいるのだと そう…思っていたから…
  851. かえで: うん…
  852. トヨ: そうじゃないって言われて… 吾は…うれしくて…
  853. トヨ: あ、あれ…変なのだ… うれしいのに、なんで泣くのだ?
  854. かえで: うん…
  855. トヨ: なははは、かえでも…な、なんで 泣いているのだ…変なのだ
  856. かえで: …よく頑張ったよ、トヨちゃんは
  857. トヨ: …………
  858. トヨ: …う…うう…
  859. トヨ: 吾が大声で泣くと つられてかえでも泣き出した
  860. トヨ: するとレナやももこも集まってきて どういうわけか、皆で泣いたのだ
  861. トヨ: 泣くのはよくないことだと思っていたのだ 泣いてはならないと今まで思っていたのだ
  862. トヨ: でも今は… 涙が一粒こぼれる度に 何かが洗い流されていくような… そんな気がしたのだ
  863.  
  864. FILENAME: text_519410-13_qv10h.txt
  865. 住民: あの祟り神の子… まだここにいるのか…?
  866. 住民: ああ、今はムラの近くで 何かを掘っているみたいだ
  867. 住民: なんでそんなことを…?
  868. 住民: わからねえけど… 別に、いいんじゃないか
  869. 住民: 畑仕事を手伝ってもらったときも 何も悪いことはされなかったし…
  870. 住民: お、おめえ、手伝わせたのか? 祟られたらどうする?
  871. 住民: …………
  872. 住民: 本当にあの子… 祟られてるのか…?
  873. 住民: …………
  874. ももこ: よーし、これくらいでいい?
  875. トヨ: うむ…この深さなら 問題はないのだ
  876. レナ: ねえ…これって何してるの?
  877. かえで: え、レナちゃん…そんなことも 知らないで作業をしてたの?
  878. トヨ: これは川をつくっておるのだ
  879. レナ: 川?
  880. トヨ: そう…雨が降るとここを通って ムラの方へ流れてしまう…
  881. トヨ: 今度の雨は結構な量になるのだ だからグネグネとした川をつくり
  882. トヨ: 水の流れを 抑えようとしているのだ
  883. レナ: あ、それって…
  884. 住民: 困ってることって言っても 雨が降らないことしか…
  885. 住民: いや…雨が降ってもそれはそれで 困ることがあるんだけどな
  886. レナ: なによ、それ
  887. 住民: …いや、もう行ってくれ
  888. 住民: お前と話していると ムラで変な噂を立てられる…
  889. レナ: どういうことよ!
  890. レナ: …このことだったわけね
  891. トヨ: レナからその話を聞かされて ピンと来たのだ
  892. トヨ: お手柄なのだ、レナ
  893. レナ: 別に…これくらい…
  894. ももこ: …すると、むしろ今は 雨が降ったら困るってわけか
  895. トヨ: そうなのだ…早く終わらせないと ムラが被害を受ける
  896. レナ: …もしかして、なんだけど
  897. レナ: ヒミコがさせたかったのって これなんじゃない?
  898. レナ: 鬼道で雨を降らせられないのは ヒミコが一番知ってるわけだし…
  899. かえで: きっとそうだよ
  900. ももこ: なら、頑張らないとな!
  901. トヨ: 吾もがんば…
  902. トヨ: …………
  903. レナ: …どうしたの、トヨ?
  904. かえで: また発作が…?
  905. トヨ: あ、いや…何でもないのだ 疲れているせいか脚が重くて
  906. レナ: なによ…心配させないで
  907. かえで: 何ともなくてよかった…
  908. トヨ: うん、なのだ
  909. トヨ: …………
  910. 住民: …聞いたか、あの子たちのこと
  911. 住民: ムラのために水路を つくってくれているみたいだな
  912. 住民: けど、肝心の雨が降らないわ
  913. 住民: それはそうだが… 何もしないより、俺たちも…
  914. 住民: …祟りに取り憑かれるかも
  915. 住民: あの子たちが来てから それなりにたつが…
  916. 住民: …妙なことは何も起きていない
  917. 住民: 祟りのことはよく知らないが 別に…平気なんじゃないか…?
  918. 住民たち: …………
  919. トヨ: はあ…はあ… 重労働なのだ…
  920. かえで: すごい汗… 少し休もうよ
  921. トヨ: い、いや…時間がないのだ 雨はいつ降ってもおかしくない…
  922. ももこ: といっても…人手が足りないって このままだと…
  923. 住民の声: す、すみません
  924. トヨ: え…?
  925. 住民: 我々にもできることが あればと思って…
  926. 住民: ムラのことなのに、私たちが 何もしないのも…ねえ?
  927. トヨ: ムラの人たちが…
  928. レナ: アンタの頑張りが 届いたってことよ
  929. トヨ: …吾だけの頑張りじゃないのだ
  930. トヨ: レナ、かえで、ももこ… ほんとーにありがとーなのだ
  931. ももこ: なに終わった感じ出してるんだよ 作業はむしろこれからだろ?
  932. かえで: そうそう
  933. レナ: それで、いつ雨は降るの?
  934. トヨ: 明日なのだ
  935. ももこ: あ、なんだ、明日か 明日ねえ…
  936. ももこ: 明日あああっ!?
  937. レナ: ど、どうするのよ!まだ作業の 半分も終わってないのよ!?
  938. かえで: こういうときこそ鬼道だよ 何かないの、トヨちゃん!
  939. トヨ: そうだな… とっておきのがあるのだ
  940. レナ: とっておき!? 何なのよ、それ?
  941. トヨ: ふっ、それは…気合いなのだ
  942. レナ: 精神論…
  943. かえで: でも全部正しい歴史みたいだよ
  944. レナ: 嘘でしょ…
  945.  
  946. FILENAME: text_519410-14_qv10h.txt
  947. トヨ: 稲、大復活~~~っ!!
  948. トヨ: ああ…ぐわんぐわん 恵みの雨で緑が蘇ったのだ
  949. レナ: …恵みの雨っていうか 大雨だったわよ…
  950. ももこ: ま、とくに被害もなくて よかったじゃないか
  951. かえで: 水路をつくったおかげだね
  952. 住民の声: トヨ様~!
  953. トヨ: うん?
  954. 住民: トヨ様が仰っていた場所で こんなにも大きなタケノコが!
  955. 住民: これ、お裾分けです
  956. トヨ: うわあ おいしそーなタケノコなのだ
  957. 住民: トヨ様! タケノコならこっちにも!
  958. 住民: うぬっ、そっちがその気なら こっちも!
  959. トヨ: タ、タケノコだらけ… まるでこの世の楽園なのだ…
  960. レナ: そんな楽園 レナはいやだけど
  961. かえで: 要するに竹林だもんね
  962. ももこ: …ん? あそこに人垣ができてる
  963. かえで: 誰か有名な人が来たのかな…?
  964. トヨ: あれは…ヒミコ様なのだ
  965. みんな: ――っ!?
  966. レナ: ヒミコがどうしてここに?
  967. かえで: 試験の結果を言いにきたんだよ!
  968. ももこ: こっちに来る!
  969. ヒミコ: トヨ…うまくやったようですね
  970. トヨ: あ、ありがとーございますなのだ
  971. ヒミコ: しかし…聞いたところによると 考えもなしにムラに入ったとか
  972. ヒミコ: 事前の情報収集を怠りましたね
  973. トヨ: …はいなのだ
  974. ヒミコ: 最初から水路に気づいていれば 普請も楽だったはず…
  975. ヒミコ: さらに水路をつくることが 目的だと言えていれば
  976. ヒミコ: 今回ほどムラの民から 不信感を受けずに済んだでしょう
  977. ヒミコ: したたかさが足りませんね そこは、今後の課題でしょう
  978. トヨ: …今後の?
  979. かえで: よかったね、トヨちゃん 候補に認められたってことだよ!
  980. トヨ: 吾が…ヒミコ様…に…?
  981. レナ: え… ト、トヨ!
  982. トヨ: 何か…聞こえるのだ
  983. トヨ: これは、歌…?
  984. トヨ: いつか…遠い昔に 聞いたことがある気がするのだ
  985. トヨ: 誰かの腕の中で…この歌を…
  986. ヒミコ: ―ヒミコ― 気がつきましたか、トヨ?
  987. トヨ: ―トヨ― ヒ、ヒミコ様…!? 吾は…どうして…
  988. ヒミコ: ―ヒミコ― 動いてはいけません そなたは急に倒れたのですよ?
  989. トヨ: ―トヨ― あ、あの…レナたちは…?
  990. ヒミコ: ―ヒミコ― 水を汲みにいってもらっています そなたはじっとしていなさい
  991. トヨ: すごいのだ… そんけーするヒミコ様に… あのヒミコ様に… 膝枕をしてもらっているのだ
  992. トヨ: きんちょーして仕方ないのに どうしてなのだ…? …すごく、落ち着くのだ
  993. トヨ: こんなに温かくて 安らかな場所があるなんて 知らなかったのだ
  994. ヒミコ: ―ヒミコ― …何かそなたに褒美を 取らせないといけませんね
  995. トヨ: ―トヨ― ほーび?
  996. ヒミコ: ―ヒミコ― そなたは頑張ったのです… 報われて当然でしょう?
  997. トヨ: ―トヨ― …………
  998. トヨ: ―トヨ― す、すごく…貴重なものでも 頼んでいいのか…?
  999. ヒミコ: ―ヒミコ― ふふふ…貴重なものですか? いったい何を願われるのやら…
  1000. ヒミコ: ―ヒミコ― …言ってみなさい
  1001. トヨ: ―トヨ― そ、その…
  1002. トヨ: ―トヨ― 頭を…撫でてほしいのだ
  1003. ヒミコ: ―ヒミコ― …………
  1004. ヒミコ: ―ヒミコ― それだけで、いい…のですか…?
  1005. トヨ: ―トヨ― はい…なのだ
  1006. ヒミコ: ―ヒミコ― も、もっと…あるでしょう? きれいな衣とか首飾りとか…
  1007. トヨ: ―トヨ― そーゆーのは、いらないのだ… 吾は…ううんなのだ、吾も…
  1008. トヨ: ―トヨ― 吾も皆のように かか様に頭を撫でてもらいたいのだ
  1009. ヒミコ: ―ヒミコ― …………
  1010. トヨ: ―トヨ― 同じくらいの歳の者が… 頑張ったねと撫でられているところを見て
  1011. トヨ: ―トヨ― いいなあ…と思っていたのだ
  1012. トヨ: ―トヨ― でも吾にはかか様はいなかったから… ばば様はいるが…かか様にやってほしかったから
  1013. トヨ: ―トヨ― ほんとーに…いいなあって…
  1014. ヒミコ: ―ヒミコ― …………
  1015. ヒミコ: ―ヒミコ― …こう、ですか…?
  1016. トヨ: ―トヨ― 気持ち、いいのだ…
  1017. ヒミコ: ―ヒミコ― 本当ですか…? こういうのは、慣れていませんから…
  1018. トヨ: ―トヨ― ほんとー…なのだ…
  1019. トヨ: ―トヨ― ああ…ここは… 夢の中なのではないのか…?
  1020. トヨ: ―トヨ― 鬼道で皆の役に立てて… 大事な友だちもいて…
  1021. トヨ: ―トヨ― こんなふうに頭を撫でてもらえて
  1022. トヨ: ―トヨ― …吾には手にすることができないと 思っていたものが…すべてあるのだ…
  1023. ヒミコ: ―ヒミコ― …………
  1024. トヨ: ―トヨ― …なあ、ヒミコ様
  1025. トヨ: ―トヨ― ヒミコ様は、吾のかか様なのか…?
  1026. ヒミコ: ―ヒミコ― …………
  1027. ヒミコ: ―ヒミコ― …恨んでもいいのですよ 何年もそなたを放り出していたのですから
  1028. トヨ: ―トヨ― かか様でも… 知らないことがあるのだな…
  1029. トヨ: ―トヨ― 吾は…かか様のことが、大好きなのだ…
  1030. ヒミコ: ―ヒミコ― …………
  1031. トヨ: ―トヨ― うれしいのだ…吾にもかか様がいて… しかもそのかか様が…そんけーするお方で…
  1032. トヨ: ―トヨ― 吾は…きっと…この世で一番の… 幸せ者なのだ…
  1033. ヒミコ: ―ヒミコ― …っ、く…う…
  1034. トヨ: ―トヨ― どーしたのだ、かか様…?
  1035. ヒミコ: ―ヒミコ― 目を…開けてはいけません… そのまま、眠ってしまいなさい
  1036. ヒミコ: ―ヒミコ― そなたは…トヨはよく頑張ったのです 今はゆっくりお休み…
  1037. トヨ: かか様は吾の頭を撫でながら 囁くような声で歌う
  1038. トヨ: ああ、そうだ…吾はこの歌を聴いていた こんなふうに抱かれて、かか様の歌を聴いていた
  1039. トヨ: ずっと、ずっと前… きっと吾がかか様のもとにいた頃…
  1040. トヨ: 遠くからレナたちの声が聞こえてくるのだ
  1041. トヨ: かか様の歌はつづいている それらの声を包むように… 多くのセミの声が響いているのだ
  1042. トヨ: 瞼を閉じていても日輪の姿はありありとわかる… 何か胸を高鳴らせる予感が熱風の底で漂っている
  1043. トヨ: …夏だったのだ
  1044.  
  1045. FILENAME: text_519410-15_qv10h.txt
  1046. トヨ: ぼんやりと光が見える…
  1047. トヨ: ときどき、夢とうつつの狭間で 目が覚めることがあるのだ
  1048. トヨ: これはきっとそれなのだ
  1049. トヨ: ああ、早く起きないといけないのだ かか様のもとで修行を積まねばならないし この前飼うことになったイヌと レナの世話もしないといけないのだ
  1050. トヨ: それから… そのあとはももこから料理のつくり方を教わって かえでと一緒に水遊びをして…
  1051. トヨ: ああ、毎日ってこんなに楽しかったのか…
  1052. トヨ: 早く起きたい 起きて、楽しい日々をまたはじめたい
  1053. トヨ: 吾が夢見てきた素晴らしき日々を…
  1054. トヨ: ん…
  1055. トヨ: ふわあ…朝なのだ 早く寝床から出て…
  1056. トヨ: …………
  1057. トヨ: …え…?
  1058. トヨ: 脚を動かそうとしたのに 自分の意思に反して、脚はまったく動かなかった
  1059. トヨ: それは脚だけでなく 腕も…首も…すべてが動かなくなっていたのだ
  1060. トヨ: な、なんで…?
  1061. トヨ: 怖いのだ…
  1062. トヨ: …た、助けて…
  1063. トヨ: 起きよう、起きようとしても 体はまったく動かず 吾は横たわったままだった
  1064. トヨ: 助けて…レナ…
  1065. トヨ: かえで…ももこ…
  1066. トヨ: 助けて…か…かか…
  1067. トヨ: かか様…っ!
  1068. トヨ: 吾は動けないまま声を出しつづける なのに世界はバカに静かで 吾を拒絶するように超然としているのだ
  1069. トヨ: それなのに入り口の向こうは まばゆい光が躍っていて きらきらと輝いている…
  1070. トヨ: ああ、そうなのだ… 陽の当たる場所へ行けば… 誰かに見つけてもらえるかもしれないのだ
  1071. トヨ: 偶然通りかかったかか様に 助けてもらえるかもしれないのだ…
  1072. トヨの声: はあ…はあ…っ!
  1073. トヨ: 吾は動こうとした きらきらとした陽の当たる場所へ 這ってでも行こうと思ったのだ
  1074. トヨ: 吾はそこへ行きたかった…
  1075. [Part 1 end]
  1076. ---
  1077. [Part 2 start]
  1078. FILENAME: text_519420-1_YO4bE.txt
  1079. 住民: な、なぜ…急に稲が枯れて…
  1080. 住民: 稲だけじゃない… 家畜の様子もおかしいぞ
  1081. 住民: まるで 生気を吸い取られているような…
  1082. 住民: …祟りだ
  1083. ヒミコの弟: …というようなことが 各地で起きているようで…
  1084. ヒミコ: …………
  1085. ヒミコの弟: じり貧ですね…こんなとき 狗奴国に攻められればまずい
  1086. ヒミコの弟: しかし姉上、僕は狗奴国に 知り合いがいてね
  1087. ヒミコの弟: …トヨを後継者にすれば 戦はしないでくれるってさ…
  1088. ヒミコ: …やはりそのような魂胆でしたか
  1089. 狗奴国兵: くっ…
  1090. ヒミコの弟: おやおや…
  1091. ヒミコ: 狗奴国の者はすべて 捕らえています
  1092. ヒミコ: そなたと接触する証拠を 押さえるため泳がせていましたが
  1093. ヒミコ: …トヨに余計なことを言って…
  1094. 狗奴国兵: …………
  1095. ヒミコ: この者らを邪馬台国へ 手引きしたのはそなたですね?
  1096. ヒミコの弟: 知らないよ、そんなやつ
  1097. ヒミコ: …狗奴国の目的はトヨを 邪馬台国の女王にすること
  1098. ヒミコ: しかもそなたのような 狗奴国の犬に操られる女王に
  1099. ヒミコの弟: …………
  1100. ヒミコ: いや、トヨを形だけの女王にして 狗奴国へ引き渡し
  1101. ヒミコ: そなたが事実上の男王として 邪馬台国に君臨する…
  1102. ヒミコ: …そうでしょう?
  1103. ヒミコの弟: だったら、どうする?
  1104. ヒミコ: 狗奴国との戦を…再開します
  1105. ヒミコの弟: ――っ!?
  1106. ヒミコの弟: ま、待ってよ姉上! 本当に祟りは起きているんだ
  1107. ヒミコの弟: こんな状況で勝てっこない!
  1108. ヒミコ: 祟りなど人の力で乗り越えられる
  1109. ヒミコの弟: そうは言うけど どうやって民を納得させる?
  1110. ヒミコ: 納得も何もありません これは神意なのですから
  1111. ヒミコの弟: …神を利用するわけか 傲慢になったものだ
  1112. ヒミコの弟: いや…違うか それも母のなせるわざか…
  1113. ヒミコ: 待ちなさい! まだ話は…
  1114. ヒミコの弟: 僕はもう話すことなんてないです まあ、せいぜい頑張って
  1115. ヒミコの弟: 万が一のときは、僕が男王に なるから、安心していいよ
  1116. ヒミコの弟: …ほら、君もおいで 失敗したんだから死なないと
  1117. 狗奴国兵: なっ、お、俺は…っ!
  1118. ヒミコ: …………
  1119. ヒミコ: …う…く…
  1120. ヒミコ: 時間が、ない…早く すべてにケリをつけなければ…
  1121. ヒミコ: うん?これは…
  1122. ねむ: …まさか女王ヒミコに 拾われることになるとはね…
  1123. ねむ: …みんな、大丈夫かな…?
  1124.  
  1125. FILENAME: text_519420-2_YO4bE.txt
  1126. 住民: おい、聞いたか トヨ様がヒミコ様の御子だって…
  1127. 住民: 聞いたが… 祟り神の子じゃなかったのか?
  1128. 住民: ヒミコ様の御子なら 祟られているわけがないだろ
  1129. レナ: …随分、噂になってるわね
  1130. ももこ: みんなの態度も これで変わればいいんだけどな
  1131. かえで: でも、驚いたよ
  1132. かえで: トヨちゃんのお母さんが ヒミコ様だったなんて…
  1133. ももこ: ま、最初に聞かされたときは 何の冗談かと思ったけど…
  1134. レナ: …………
  1135. かえで: どうかしたの、レナちゃん?
  1136. レナ: …ううん…それより レナたちってこのままでいいの?
  1137. ももこ: このままトヨを見守っている だけでいいのかって?
  1138. かえで: ねむちゃんはそうしろって 言ってたんだよね…?
  1139. レナ: そうだけど…
  1140. レナ: いい加減、ねむを取り戻さないと
  1141. ももこ: だからこうやって 狗奴国のやつを捜してるんだろ?
  1142. かえで: …まったく見つからないけどね
  1143. レナ: あいつ、トヨを連れていこうと してたし、また来るかも…
  1144. ももこ: 今、トヨはどこに?
  1145. かえで: 主祭殿でお手伝いをしてるよ
  1146. かえで: 正式に後継者候補になったから 覚えることがあるんだって
  1147. トヨ: …………
  1148. 女官: トヨ様、いかがされました? 皆、待っていますよ
  1149. トヨ: …わ、わかったのだ 表で待っていてほしいのだ
  1150. 女官: 早くいらしてくださいね
  1151. トヨ: …ふうっ…くっ…
  1152. トヨ: また体が おかしくなってきたのだ…
  1153. トヨ: うまく、歩けない…
  1154. トヨ: あ…っ
  1155. トヨ: いたた…
  1156. トヨ: はあ…どうなっているのだ 吾は…
  1157. トヨ: 波のように体がよくなったり 悪くなったり…
  1158. トヨ: 吾は…死ぬのか…?
  1159. トヨ: ようやく望んだ日々が 手に入ろうとした矢先に…?
  1160. トヨ: い、いやだ…いやなのだ…
  1161. ヒミコ: 随分手間取っているようですが… どうかしたのですか、トヨ?
  1162. トヨ: かか様…実は、吾…
  1163. ヒミコ: …?
  1164. トヨ: …………
  1165. トヨ: …なはは…吾、お腹が空いて 動けないのだ、何か食べたいのだ
  1166. ヒミコ: まったく、この子は… 少し待っていなさい
  1167. トヨ: …………
  1168. トヨ: …言えるわけ、ないのだ
  1169.  
  1170. FILENAME: text_519420-3_YO4bE.txt
  1171. 住民: ヒミコ様、作物が育たないんです どうかお祈りを…
  1172. ヒミコ: わかりました 今度、儀式をしましょう
  1173. ヒミコ: …トヨ、おそらく原因は 土にあるはずです
  1174. トヨ: 土…たしか土にもいのちがあって いきたり、しんだりすると…
  1175. ヒミコ: そうです…よく知っていましたね 今度調べにいきましょう
  1176. ももこ: へー、トヨって 助手みたいなことしてるんだ
  1177. かえで: ヒミコ様相手なら 息も合うんじゃないかな
  1178. レナ: …そう?
  1179. ももこ: あ、レナ、不満なんだ
  1180. かえで: 最近、トヨちゃんが忙しくて 遊んでもらえないもんね
  1181. レナ: こ、この…っ!
  1182. レナ: …ぐっ…堪えるのよ レナは堪えられるんだから…っ
  1183. ももこ: 手を出しそうになったのを 必死に堪えてる…
  1184. かえで: ごめんね、レナちゃん…
  1185. レナ: いいのよ… それより、あれを見て
  1186. ヒミコ: …………
  1187. トヨ: …………
  1188. ももこの声: え、ちょっと目を離した隙に 気まずそうになってる…
  1189. ヒミコ: 次は、どの者でしたか…?
  1190. トヨ: あ、はいなのだ もうちょっとしたら来るのだ
  1191. ヒミコ: そうですか
  1192. トヨ: そーなのだ
  1193. ヒミコ: …………
  1194. トヨ: あー…きょーもあついのだ
  1195. ヒミコ: …そうですね
  1196. ももこの声: な、なけなしの天気の話題が そうですね、で終わった…!?
  1197. かえでの声: お仕事以外の話は あんまり弾まないみたい
  1198. ももこの声: ビジネスライク…
  1199. ももこ: うーん…せっかく親子だって わかったんだから
  1200. ももこ: もっとこう…なあ?
  1201. かえで: そうだね もっとこう…だよ
  1202. レナ: もっとこう…なによ?
  1203. ももこ: だーかーら、もっと仲睦まじく してもいいんじゃないかって
  1204. かえで: それなら 前みたいに作戦をやろうよ
  1205. かえで: ヒミコ様とトヨちゃんの 距離を近づけるために
  1206. ももこ: いいねー、やろうか 前も大成功したもんな
  1207. レナ: 大成功してないから なんでか犬を飼っただけじゃない
  1208. ももこ: いいだろ、べろべろ可愛いし
  1209. かえで: べろべろとお散歩するの とっても楽しいよ
  1210. レナ: 目的とズレてるのよ…
  1211. ももこ: 今回は大丈夫だって! とっておきの案があるんだよ
  1212. トヨ: うみ…?
  1213. ももこ: そう!泊まりがけで海に行こう
  1214. かえで: ヒミコ様も誘って みんなで楽しく過ごすんだよ
  1215. トヨ: しかし…いまはのーさくぶつに いへんがおきているらしいのだ
  1216. トヨ: それに狗奴国とのもんだいも… あそんでいるばーいでは…
  1217. ももこ: 狗奴国の狙いはトヨなんだろ?
  1218. ももこ: だったら、アタシたちが守るし… アタシたちのそばが一番安全だよ
  1219. かえで: それに、農作物もこの辺りの ものしか見てないよね?
  1220. かえで: 遠出をして、そこと比べて 異変に違いがないか調べる…
  1221. かえで: それも原因究明に役立つと思うよ
  1222. ももこ: さすがかえで、詳しいね
  1223. かえで: えへへ…
  1224. トヨ: …………
  1225. トヨ: そ、そうだな…やるべきことを ちゃんと、やると言うなら…
  1226. トヨ: われも、うみにいってみたいのだ
  1227. ももこ: じゃあ、決まり! ヒミコ様にも声かけてこよう!
  1228. トヨ: うわあー 断られたりしないだろーか…?
  1229. かえで: きっと大丈夫だよ
  1230. トヨ: …なはは、うみか… じつは見たことないのだ
  1231. トヨ: たのしみなのだ
  1232. レナ: …ねえトヨ アンタ、ちょっと調子悪い?
  1233. トヨ: ――っ!?
  1234. トヨ: な、なんでなのだ?
  1235. レナ: なんか、いつもより 呂律が回ってない気がして…
  1236. トヨ: そんなことないのだ いつもどーりなのだ
  1237. レナ: うう…そう言われると いつも通りのような気が…
  1238. ももこ: でも、神懸かりがあるから 少し気にはなるな…
  1239. トヨ: わ、われはへーきなのだ! だいじょーぶなのだ!
  1240. ももこ: うーん…
  1241. ももこ: …まあ、ちょっと様子を見て 何ごともなければ出発しよっか
  1242. かえで: うん、そうしようよ
  1243. トヨ: やったのだー!
  1244. レナ: …………
  1245.  
  1246. FILENAME: text_519420-4_YO4bE.txt
  1247. レナ: …というわけで レナたちと海に行かない?
  1248. レナ: トヨは行きたがってるわよ
  1249. ヒミコ: …すみませんが 今はそれどころではありません
  1250. レナ: 農作物なら、色んな場所のものを 見た方がいいって伝えたでしょ?
  1251. レナ: あ、そっか…狗奴国のこと? 確かに一緒にいると…
  1252. ヒミコ: そうではなく…私にも 役目というものがあるのです
  1253. レナ: …お祈りをすること?
  1254. ヒミコ: 鬼道の本質は神頼みにありません 知識の活用です
  1255. ヒミコ: 民の暮らしを支えるのは 当たり前として
  1256. ヒミコ: 情勢を読みクニの方針を定め それを神意として伝える…
  1257. ヒミコ: それも私の役目です
  1258. ヒミコ: もっともこの頃は 弟が口を挟んできていますが…
  1259. レナ: ふーん…そうなの
  1260. ヒミコ: 未来国は違うのですか?
  1261. レナ: 未来国?なにそれ?
  1262. ヒミコ: え?
  1263. レナ: え?
  1264. ねむ: …前後の経緯がわからないから 完全な推測になるけど
  1265. ねむ: 身元を隠すために、未来国から 来たって言ったんじゃないかな?
  1266. レナ: あー、そうよ! そうだったわ
  1267. レナ: よかった…ねむがいなかったら もっと墓穴を掘るところ…
  1268. レナ: って、ねむがいる!?
  1269. ねむ: 持ち主を転々とすることになって 今はヒミコのところにいるんだよ
  1270. ねむ: ともかく、再会できてよかった
  1271. レナ: ほんとよ! アンタ、大丈夫なの?
  1272. ねむ: 僕は大丈夫だよ それより…
  1273. ヒミコ: あ、あの…レナさん?
  1274. ねむ: テレパシー、使えばよかったね
  1275. レナ: しまった…
  1276. ヒミコ: …なるほど…未来国では 突然大きな声で叫んだり
  1277. ヒミコ: ひとりでブツブツ言ったりする 風習があるのですね
  1278. ねむ: 取り繕うにしても 赤点以下の言い訳だね
  1279. レナ: うるさいわね… 思いつかなかったのよ…!
  1280. ヒミコ: あ、またブツブツ…
  1281. ヒミコ: いえ…異なるクニの風習は 理解できなくても尊重します
  1282. レナ: いい態度ね
  1283. レナ: …じゃなくて あ、ありがとう
  1284. ヒミコ: …ふふ…おもしろい子
  1285. レナ: 子ども扱いしないでよ
  1286. ヒミコ: 私からすれば子どもです…
  1287. ヒミコ: …トヨと 仲よくしてあげてくださいね?
  1288. レナ: レナに頼む前に まず自分でやってみなさいよ
  1289. ヒミコ: …………
  1290. レナ: 役目だとか何だとか 色々と言ってるけど
  1291. レナ: 今さら母親面できないって そう思ってるだけじゃないの?
  1292. ヒミコ: それは…
  1293. レナ: 親に遠慮されたら 子どもはたまんないわよ
  1294. ヒミコ: …なら、どうすればいいのです
  1295. レナ: 普通にすれば?
  1296. ヒミコ: 普通…?
  1297. レナ: 普通に会話したり… 海に行ったり…
  1298. レナ: 特別なことなんて 何もいらないわよ
  1299. ヒミコ: …………
  1300. レナ: まあ、どーしても国が心配なら ついてこなくていいわよ
  1301. レナ: アンタが育てた邪馬台国が 母親なしじゃ何もできないって…
  1302. レナ: そう思ってるならね
  1303. ヒミコ: …………
  1304. ヒミコ: …私は…
  1305.  
  1306. FILENAME: text_519420-5_YO4bE.txt
  1307. トヨ: スイカわり…?
  1308. かえで: うん、そういう遊びもあるんだよ トヨちゃん、やったことない?
  1309. トヨ: やったことないというか…
  1310. トヨ: そもそも スイカとは何なのだ?
  1311. かえで: スイカ、見たことないの?
  1312. トヨ: うんなのだ
  1313. かえで: そうなんだ…この時代には スイカってなかったんだ…
  1314. トヨ: どうしたのだ?
  1315. かえで: う、ううん、何でも…
  1316. かえで: それで…スイカっていうのは 夏に食べるおいしいもので…
  1317. トヨ: ほう…たべものなのか
  1318. かえで: うん、丸くて、緑色で、 中身は真っ赤で、とっても甘いの
  1319. トヨ: つまり、タケノコか?
  1320. かえで: なんでそうなるの…
  1321. かえで: …あっ、そういえば最近 タケノコ狩りにいってないね
  1322. トヨ: うん、なんだ…あついからなのだ
  1323. かえで: そっかあ… まあ、外は本当に暑いもんね…
  1324. トヨ: レナたちをいかせてよかったのだ
  1325. かえで: あー、悪いんだ
  1326. ももこ: いやー 引き受けてもらえてよかったよ
  1327. レナ: …よかったの? 相手はヒミコの弟よ?
  1328. ももこ: 仕方ないって…この時代じゃ それくらいの身分の人じゃないと
  1329. ももこ: 簡単にペットの世話を 引き受けられる余裕はないから
  1330. レナ: そっか…
  1331. ももこ: それに、向こうもこっちへ 恩を売りたいみたいだから
  1332. ももこ: 悪いようにはされないと思う
  1333. レナ: …なるほどね
  1334. ももこ: ま、とにかく、出発の日の朝に べろべろを預けにいこう
  1335. レナ: ふふ…トヨ、 泣いて駄々こねるんじゃない?
  1336. レナ: やっぱりべろべろも 連れていくのだ~って
  1337. ももこ: ははは、言いそう
  1338. レナ: それで…次の準備は…
  1339. ももこ: あ、そうだ ねむの話、途中だっただろ?
  1340. ももこ: ヒミコ様のところに 置いてきたって言ってたけど
  1341. レナ: 置いてきたっていうか…
  1342. レナ: ヒミコが本を調べようとしてる!?
  1343. ねむ: 心配はいらないよ
  1344. ねむ: ヒミコは製本技術に 興味があるだけで
  1345. ねむ: お姉さんの記録を読もうと しているわけじゃないんだ
  1346. ねむ: …そもそも、 ヒミコには読めないよ
  1347. レナ: 製本技術を調べられるのも まずいんじゃないの?
  1348. ねむ: この時代の人には理解できない だから安心して構わないよ
  1349. ねむ: …むしろ、レナが所有者だと 名乗り出て変に探られる方が危険
  1350. ねむ: ヒミコならちょっとした言葉で 何かに気づくかもしれない
  1351. レナ: この時代にない知識を与えるのも 歴史の改変になるから
  1352. レナ: 避けないといけないってわけね
  1353. ねむ: …その様子だと、後先考えず 好き勝手やってるみたいだけど…
  1354. ねむ: …案外何も問題は起きてないから 引きつづきトヨのそばにいて
  1355. レナ: わかった
  1356. ヒミコ: 今度はじっと黙って…
  1357. レナ: これも風習なの 尊重して
  1358. ヒミコ: は、はあ…
  1359. レナ: …って言ってたわ
  1360. ももこ: ヒミコ様、呆れてない? そこがすごく気になるけど…
  1361. ももこ: ま…雑には扱われないだろうから 一応は安心していいのかな?
  1362. レナ: いざとなれば奪い取ればいいのよ
  1363. ももこ: んな乱暴な…
  1364. レナ: ともかく、回収するためには トヨが後継者に…つまり…
  1365. レナ: 次の女王になる瞬間を 見届ける必要があるわ
  1366. ももこ: …アタシたちは歴史を 変えちゃいけないけど…
  1367. ももこ: 表情くらいなら変えられる …だろ?
  1368. レナ: どうせなら 笑って後継者になってほしいもの
  1369. ももこ: …そのためにも 今回の旅行、成功させないとな
  1370. レナ: ヒミコも何だかんだいって 来てくれるみたいだし
  1371. レナ: きっと成功するわよ
  1372. レナ: ふあ…もう朝…?
  1373. トヨ: そうなのだ
  1374. かえで: トヨちゃん…今日は早いね
  1375. レナ: あ、さては楽しみで 眠れなかったんでしょ?
  1376. トヨ: なはは…そう、なのだ…
  1377. ももこ: とりあえず、べろべろを 預けにいこっか?
  1378. ヒミコ: まだ預けていなかったのですか?
  1379. かえで: あっ…ヒミコ様
  1380. ももこ: あれ…迎えにきてもらう 約束でしたっけ…?
  1381. ヒミコ: …そなたらが遅いので こちらから出向いたまでです
  1382. ヒミコ: 早く準備をして…ふあ…
  1383. かえで: あくびだ…
  1384. レナ: なによ…親子揃って 楽しみで眠れなかったわけ?
  1385. ヒミコ: …よ、よいではありませんか
  1386. トヨ: そうなのか…?かかさまは そんなに楽しみにしていたのだ?
  1387. ヒミコ: そ、それは…
  1388. トヨ: われも、ほんとーに… ほんとーに楽しみにしていたのだ
  1389. トヨ: かかさまととーでできるなんて おもってもいなかったし…
  1390. トヨ: みたことのないうみにも つれていってくれる…
  1391. トヨ: われひとりじゃなくて… みんなと…かかさまといっしょに
  1392. ヒミコ: …トヨ?
  1393. トヨ: いきたかったのだ… それくらい、ゆるしてほしかった
  1394. ヒミコ: 許すも何も… 行きましょうよ、トヨ
  1395. ヒミコ: かかはしばらく主祭殿を空けて いてもいいようにしたのです
  1396. ヒミコ: 海へ行きましょう、トヨ 楽しみにしていたのでしょう?
  1397. トヨ: …いけないのだ
  1398. ヒミコ: え…?
  1399. トヨ: かかさま…
  1400. トヨ: 『われ…からだがうごかないのだ』
  1401.  
  1402. FILENAME: text_519420-6_YO4bE.txt
  1403. ヒミコ: …………
  1404. レナ: トヨは?
  1405. ヒミコ: 今は眠っています
  1406. レナ: そう…
  1407. ももこ: …手脚がときどき 動かなくなっていたなんて…
  1408. かえで: …気づいてあげられなかったね
  1409. レナ: 隠してたのよ、トヨは レナたちに心配かけないために
  1410. ももこ&かえで: …………
  1411. ヒミコ: …少し、出ましょう トヨが起きてしまいます
  1412. ももこ: …………
  1413. レナ: ももこ、行かないの?
  1414. ももこ: アタシは残ってるよ
  1415. ももこ: 目が覚めたときひとりだったら トヨは…不安だと思うから
  1416. ヒミコ: ありがとうございます…
  1417. ももこ: いや、お礼なんて… やりたくてやってるだけですよ
  1418. ヒミコ: …………
  1419. レナ: ここは?
  1420. ヒミコ: 神事で身を清める際に使う滝です めったに人は来ません
  1421. かえで: …何か私たちに内緒のお話が…?
  1422. ヒミコ: トヨのことです…
  1423. ヒミコ: 「あの子は生まれながらに体が弱く 赤子のときなど 何度か命を落としかけたこともありました」
  1424. ヒミコ: 「私は鬼道でトヨを救おうとしましたが 何をどうやってもトヨの体が よくなることはありませんでした…」
  1425. ヒミコ: 「例の神懸かり… あれも病の発作なのですが 発作という概念は皆には 理解しにくかったようで…」
  1426. ヒミコ: 「祟りに取り憑かれた子… 祟り神の子と認識されることに なってしまったのです…」
  1427. レナ: …まあ、そうでしょうね
  1428. ヒミコ: やはりそなたらは 私の話が理解できるのですね…
  1429. ヒミコ: 邪馬台国では 誰にも理解されなかったのに
  1430. かえで: それは…未来国では 一般的な考えというか…
  1431. ヒミコ: …本当に優れたクニなのですね
  1432. ヒミコ: 「そなたらのクニであったら もしかしたら治せたのかもしれませんが… 私には、ただ…トヨを遠くへやり、離れ里で 静かに過ごさせることしか思いつけなかった」
  1433. ヒミコ: 「あそこは水が澄んでいて 実りも豊かで…私の縁者が暮らしている… ちょうどいい場所だと思ったのです」
  1434. ヒミコ: 「結局、祟り神の子と蔑まされることに なってしまいましたが…」
  1435. レナ: …だったら、なおさら たまには会ってあげていたら…
  1436. ヒミコ: …なるほど…トヨの父が誰なのか 聞いてないのですね?
  1437. ヒミコ: トヨの父は狗奴国男王 ククチヒコ…
  1438. ヒミコ: 「かつて私が… すべてを捨ててともに逃げよう …と約束した者です」
  1439.  
  1440. FILENAME: text_519420-7_YO4bE.txt
  1441. レナ: 狗奴国の王と邪馬台国の女王が すべてを捨てて…?
  1442. かえで: そ、それって…駆け落ち? 何があったんですか…?
  1443. ヒミコ: …当時、今以上に激しく 狗奴国と戦っており…
  1444. ヒミコ: 私たちはいつ終わるかも知れぬ 戦いに疲弊していました…
  1445. ヒミコ: 「最初は和議を結ぶためにククチヒコと 交流を持ったのですが… 次第に彼の人柄に惹かれていってしまった…」
  1446. ヒミコ: 「…もう、いい」
  1447. ヒミコ: 「あるとき私は、そう思ってしまったのです 何もかも、もういいと ククチヒコとふたりでこんな世から 逃げ出してしまいたい…と」
  1448. ヒミコ: 「ククチヒコも同じ気持ちだと 言ってくれました」
  1449. ヒミコ: 「ですが…私たちが逃げ出そうとしたとき 突然、海は大いに荒れ狂い… 船を出せなくなってしまったのです」
  1450. ヒミコ: 「あまりにも無責任な行動に 神霊が私たちへ罰を下したのでしょう…」
  1451. ヒミコ: 「困り切っている私たちのもとへ 狗奴国の追っ手と邪馬台国の追っ手 それぞれが殺到し… 私たちは引き離されることになりました」
  1452. ヒミコ: 「愚かな逃避行はそこで終わり… ククチヒコとはそれっきり会っていません」
  1453. ヒミコ: …トヨを授かったと知ったのは そのすぐあとです
  1454. ヒミコ: せめてこの子だけは自由に…
  1455. ヒミコ: 政や戦などとは 無縁の生を送ってほしい
  1456. ヒミコ: …私のようになってほしくはない
  1457. ヒミコ: そう考え 他人として生きてきたのです
  1458. ヒミコ: トヨの出生が明らかになれば 必ず政に利用され…
  1459. ヒミコ: 辛い思いをすることになるのが 明らかでしたから
  1460. かえで: けど…トヨちゃんの存在が 狗奴国に知られてしまった…?
  1461. ヒミコ: …おそらく 弟が知らせたのだと思います
  1462. ヒミコ: 狗奴国を掌の上で操っている つもりなのでしょうが…
  1463. ヒミコ: …弟ではムリです ククチヒコの父君には勝てない
  1464. レナ: 父君?
  1465. ヒミコ: 狗奴国を実質支配しているのが 父君なのです
  1466. ヒミコ: ククチヒコは 操られているだけです
  1467. ヒミコ: …トヨを狙う手口からして 間違いありません
  1468. レナ: そういえば、トヨは狗奴国に 狙われていたけど…
  1469. レナ: その父君ってやつが 孫を取り戻したかったから…?
  1470. ヒミコ: そうでしょうね…道具として 取り戻したかったのでしょう
  1471. レナ: 道具って…
  1472. ヒミコ: 私は不老不死ではありませんから いつか必ず死にます
  1473. ヒミコ: そのあとを弟が継いだとしても 長くはもたないでしょう
  1474. ヒミコ: そうなると、後継者は トヨしかなくなる…
  1475. ヒミコ: 同時にトヨは狗奴国の 後継者にもなり得ます
  1476. ヒミコ: 「邪馬台国と狗奴国の王がトヨになり そのトヨをククチヒコの父君が背後で 操りだしたら、それは…」
  1477. ヒミコ: 「邪馬台国が狗奴国に吸収されたのと同義です」
  1478. ヒミコ: …ククチヒコの父君は 間違いなくそれを狙っています
  1479. ヒミコ: そして私の弟は 無謀にもその逆を狙っている…
  1480. レナ: それじゃあ、どうやってもトヨが 争いの中心に立たされるじゃない
  1481. ヒミコ: はい、そうです… だというのに、トヨは…
  1482. ヒミコ: トヨは、私と同じ道を 進もうとする…
  1483. ヒミコ: …こんなはずじゃなかった…っ!
  1484. ヒミコ: 「祟り神の子と周囲から信じられているなら たとえトヨを傷つけることになろうと 人の醜い争いから遠ざけられると思っていた!」
  1485. ヒミコ: 「けれど狗奴国がトヨを追いはじめ… 私の知らないところでトヨが後継者候補になり… トヨは私に認めてもらおうと 体が弱いのにあんなに頑張るなんて…!」
  1486. ヒミコ: 「だったらもう…私の手もとに置いて… 私が守っていくしかないと…そう思った …思ったんです…っ!」
  1487. ヒミコ: 「しかし、トヨは…」
  1488. ヒミコ: 「私のトヨは…」
  1489. ヒミコ: 「わ、私の…大切な子は…」
  1490. ヒミコ: 「…死んでしまう」
  1491. ヒミコ: …トヨの病は 私にはどうすることもできない…
  1492. ヒミコ: 私の力では守れないんです…っ!
  1493. ヒミコ: で、ですから…どうか、あの子を 未来国へ連れていってください!
  1494. レナ: そ、それは…
  1495. ヒミコ: ムリは承知しています ですが、この通りです…!
  1496. ヒミコ: お願いします…! 私の子を、助けてください…っ!
  1497. ヒミコ: 未来国ではそれが できるんじゃないですか?ねえ?
  1498. レナ: …………
  1499. ヒミコ: レナさん… お願いです…私の子を、助けて…
  1500. かえで: …っ…
  1501. ヒミコ: かえでさん…お願いですよ… 命でも何でも差し上げますから…
  1502. ヒミコ: 「誰か私の子を、助けてください…」
  1503. ももこ: あ、帰ってきたよ
  1504. トヨ: かかさま…
  1505. ヒミコ: トヨ…起きていたのですか?
  1506. トヨ: …それ、ほたるなのだ?
  1507. ヒミコ: え、ええ… 帰りに見つけて…
  1508. ヒミコ: きれいでしょう? トヨに見せたくなったのです
  1509. トヨ: …きれー、なのだ…
  1510. トヨ: もっと、ちかづけて ほしーのだ
  1511. トヨ: われのて…うごかないから
  1512. ヒミコ: …………
  1513. ヒミコ: はい…よく、ごらんなさい
  1514. トヨ: あ…
  1515. トヨ: …ほたる、とんでったのだ もっと、みたかったのだ…
  1516. ヒミコ: そんなに気に入ったのですか?
  1517. トヨ: われ、ほたるのひかり すきなのだ
  1518. ヒミコ: そうだったのですか… 私は…そんなことも知らずに…
  1519. ヒミコ: …今度、夜空いっぱいに 蛍の光を集めてみせますよ
  1520. ヒミコ: そうしたら よろこんでくれますか?
  1521. トヨ: なはは…そんなにほたるが いっぱいだと、きもちわるいのだ
  1522. ヒミコ: いいえ、きれいにしてみせます トヨがよろこぶように、きれいに
  1523. トヨ: かかさまが、われのために なにかをしてくれるだけで…
  1524. トヨ: われはうれしーのだ
  1525. ヒミコ: …………
  1526. レナ: …ごめんね、トヨ 連れていってあげられなくて…
  1527. トヨ: え…? うみのことなのだ…?
  1528. レナ: ううん…ごめんね…
  1529. トヨ: なんで、なくのだ あやまるのは、われのほーなのだ
  1530. トヨ: こんなからだになって ごめんなのだ
  1531. かえで: …っ…
  1532. トヨ: かえで…?
  1533. レナ: …ほ、蛍を…捕まえにいったのよ きっと…
  1534. レナ: レナたちも…レナたちだって… トヨをよろこばせたい、から…
  1535. トヨ: みんな、やさしーのだ…
  1536. トヨ: ああ…われはしあわせものなのだ うみはみれなかったが
  1537. トヨ: かかさまが、きれーなほたるを… われのために…みせてくれて…
  1538. トヨ: だいすきなみんなが…われのため いろいろしてくれて…
  1539. トヨ: 『うまれてきて… ほんとーに、よかったのだ…』
  1540. ヒミコ: …………
  1541. 女官: あ、ヒミコ様… どうしたのです、こんな朝から…
  1542. ヒミコ: …私の鬼道のすべてをかけて つくるべきものが生まれましてね
  1543. ヒミコ: 時間がないので 寝る間も惜しみ…
  1544. 女官: お、お身体をご自愛ください…!
  1545. ヒミコ: 大げさな…
  1546. ヒミコ: それより…皆を主祭殿へ 参集させなさい
  1547. ヒミコ: 神意を受けました …狗奴国と戦をはじめます
  1548.  
  1549. FILENAME: text_519420-8_YO4bE.txt
  1550. 狗奴国兵: …最近、邪馬台国の動きが 妙じゃないか?
  1551. 狗奴国兵: 妙だと?
  1552. 狗奴国兵: いや、変に静かというか…
  1553. 狗奴国兵: があ…っ!
  1554. 狗奴国兵: な、何だ!?
  1555. 邪馬台国兵: 狗奴国の兵は ひとり残らず倒せ!
  1556. 狗奴国兵: や、邪馬台国!?
  1557. 邪馬台国兵: ぐあっ!
  1558. 狗奴国兵: 何なんだ 急に戦を仕掛けてきて…
  1559. 狗奴国兵: わからねえが… 攻められてばかりってのはな
  1560. 狗奴国兵: ああ、そうだな
  1561. 住民: ひ、火が…っ! 私たちの家が…!
  1562. 邪馬台国兵: 早く逃げろ!ここは我々が…
  1563. 狗奴国兵: うるさい!
  1564. 邪馬台国兵: ああ…っ!
  1565. 住民: た、助けてー!
  1566. 狗奴国兵: ふははは、邪馬台国など 狗奴国がひねり潰してやる!
  1567. トヨ: …いくさか
  1568. かえで: うん…
  1569. トヨ: かかさまは…どうして いま、いくさを…
  1570. ももこ: …………
  1571. ももこ: …アタシ、ちょっと出てくる
  1572. かえで: 危ないよ
  1573. ももこ: さすがにここは安全だって それに、すぐ帰るから
  1574. かえで: あ…
  1575. トヨ: …ももこは、どこへ いったんだろーな…?
  1576. かえで: 私には、わかるかも…
  1577. トヨ: うん…?
  1578. かえで: …ううん、お腹空いてない? ご飯用意するよ
  1579. ヒミコ: …なに、我が方が劣勢?
  1580. 邪馬台国兵: は、はい… 緒戦は不意を突けましたが
  1581. 邪馬台国兵: 反撃してきた狗奴国に 押されています…
  1582. ヒミコ: 魏からの支援は?
  1583. 女官: 鉄器は届いていません… まだまだかかるかと…
  1584. ヒミコ: …………
  1585. 邪馬台国兵: …ヒミコ様 神意は何と…?
  1586. ヒミコ: 邪馬台国の勝利です
  1587. ヒミコ: 今は苦戦を強いられていますが 必ずや挽回できるでしょう
  1588. ももこの声: それ、本当なんですか?
  1589. ヒミコ: そなたは…
  1590. ももこ: レナのかわりに来ました
  1591. ももこ: ま、あいつに任せたら 余計話がこじれると思って
  1592. ヒミコ: …そなたはトヨの友であり 未来国の客人…丁重にはもてなす
  1593. ヒミコ: しかし…邪馬台国の問題に 口を出すのはご遠慮願います
  1594. ももこ: あ、そーじゃなくてさ
  1595. ももこ: 事情も聞いてるし…アタシたちが 止めちゃいけないのもわかってる
  1596. ももこ: その上で…あなたを信じるための 理由がほしいんですよ
  1597. ヒミコ: …なぜそなたに 信じてもらう必要が?
  1598. ももこ: ああ、言い方がまずかったかな? アタシじゃなくて…
  1599. ももこ: トヨが信じるための理由
  1600. ヒミコ: ――っ!?
  1601. ももこ: だって、そうでしょ?
  1602. ももこ: 吾のかか様は民を守るために 戦ったのだ~っ!
  1603. ももこ: …って、 信じさせたいじゃないですか?
  1604. ももこ: それくらいは…いいでしょう?
  1605. ヒミコ: …………
  1606. ヒミコ: …理由など簡単です
  1607. ヒミコ: 私がもうじき死ぬからです
  1608. ももこ: ――っ!?
  1609. かえで: …ごめんね、トヨちゃん… 食材が全然なくて…
  1610. トヨ: しかたない、のだ… いくさなのだから
  1611. かえで: …いやだよね、戦いって
  1612. トヨ: …そーなのだ…
  1613. トヨ: せっかくたがやしたはたけも… すいろも…ひとのいのちも…
  1614. トヨ: ぜんぶ だいなしにされるのだから…
  1615. かえで: うん…
  1616. トヨ: みんながまんぞくに たべられなくなる…
  1617. トヨ: でも…かえでがつくってくれた タケノコじる…おいしーのだ
  1618. トヨ: これなら…われは もんくないのだ…
  1619. かえで: そ、それ…タケノコじゃ…
  1620. トヨ: うん…? なんていったのだ、かえで…?
  1621. かえで: …………
  1622. かえで: ううん!トヨちゃんを見習って おいしいタケノコ採ってきたの
  1623. かえで: よ、よろこんで…もらえて よかった…!
  1624. トヨ: なはは…とっても うれしーのだ
  1625. かえで: …………
  1626. トヨ: …わればかり、あつかいがよくて もうしわけなくなるな…
  1627. トヨ: みんな、ぶじだろーか…?
  1628. トヨ: …あのムラは だいじょーぶ、だろーか…?
  1629.  
  1630. FILENAME: text_519420-9_YO4bE.txt
  1631. トヨ: …このきれつ… やはり…あのムラでわざわいが…
  1632. トヨ: かえで…?かえでやーい…
  1633. トヨ: …ちかくにも、いないのだ つごーが、よいのだ…
  1634. トヨ: きょーは、よく、うごける… いまのうちに…
  1635. トヨ: よいしょ…よいしょ…なのだ
  1636. トヨ: (ただあるくのが… こんなに、たいへんだとは、な)
  1637. トヨ: (だが…うごけるうちに むかわないと…)
  1638. 邪馬台国兵: トヨ様! 何をなさっているのです!
  1639. トヨ: ――っ!?
  1640. 邪馬台国兵: も、申し訳ありません 大きな声を出してしまい…
  1641. 邪馬台国兵: 私はヒミコ様よりトヨ様の 警護を命じられている者です
  1642. 邪馬台国兵: さあ、戻りましょう ここは危険です
  1643. トヨ: だ、だが…われは…
  1644. 邪馬台国兵: そこで何をしているの!
  1645. 邪馬台国兵: あ、トヨ様が外に 出ていらしたので
  1646. 邪馬台国兵: なによ、アンタ 聞いてないの?
  1647. 邪馬台国兵: ここだと危ないから トヨは別の場所に移るのよ
  1648. 邪馬台国兵: 初耳ですが…
  1649. 邪馬台国兵: あーもう、うるさいわね これはヒミコの命令なの
  1650. 邪馬台国兵: わかったら さっさとあっち行って!
  1651. 邪馬台国兵: は、はい…
  1652. トヨ: …な、なんじは…
  1653. レナ: ま、ざっとこんなもんね
  1654. トヨ: おどろいたのだ…レナは… すがたをかえらえるのか…?
  1655. レナ: 姿じゃないわ
  1656. レナ: これは…魔法っていうのは 自分自身を変える力よ
  1657. レナ: …絶望に負けないためのね
  1658. トヨ: ぜつぼーに、まけない…?
  1659. レナ: アンタだってそうでしょ?
  1660. レナ: 体が大変になってるっていうのに あの村を心配してさ…
  1661. レナ: どうせ止めたって行くんでしょ? みんなで水路をつくった村へ
  1662. トヨ: うん、なのだ あそこは、まもりたいのだ
  1663. かえで: そう言うと思ってたよ
  1664. トヨ: か、かえで…いままでどこに…?
  1665. かえで: どこって、そんなの…
  1666. かえで: 急いで輿をつくってたんだよ!
  1667. トヨ: こ、こし…?
  1668. かえで: この時代に輿はないのかな? 担架…はもっとないよね
  1669. かえで: まあともかく、これに乗れば 楽にどこへでも行けるよ
  1670. トヨ: いつのまに、そんなものを…?
  1671. かえで: えへへ…トヨちゃんの 体調が悪くなってから
  1672. かえで: みんなで何かできないかなって 話し合って、つくってたの
  1673. かえで: 完成できてよかったあ…
  1674. レナ: …家で寝たきりじゃ つまらないでしょ?
  1675. レナ: 気分転換用だったんだけど ここで使うことになるなんてね
  1676. トヨ: みんな、われのために…
  1677. レナ: さあ、これに乗って! 村までアンタを運ぶわ!
  1678. トヨ: わ、わかったのだ…!
  1679. かえで: よーし 行っちゃおう!
  1680. ももこ: ちょっと待ってください ヒミコ様が死ぬって…どういう…
  1681. 邪馬台国兵: …ヒミコ様
  1682. ヒミコ: 構いません… そなたたちは下がっていなさい
  1683. 邪馬台国兵: はい…
  1684. ヒミコ: …さて、今から言うことは ごく一部の者しか知りません
  1685. ヒミコ: 絶対に他言してなりませんよ とくに、トヨには
  1686. ももこ: …体が、悪いんですか…?
  1687. ヒミコ: 近頃は毎日 血を吐いています
  1688. ヒミコ: 光もやけにまぶしく感じるように なりましてね…
  1689. ヒミコ: …今ではぼんやりとでしか 物が見えなくなっているんです
  1690. ももこ: 一時的なものなんじゃ…
  1691. ヒミコ: …これを見れば少しは わかるかもしれませんね…
  1692. ももこ: ――っ!?
  1693. ヒミコ: とくに顔の周りがひどいのです… …見苦しいものを見せましたね
  1694. ももこ: いや、そんな…
  1695. ヒミコ: 他にも様々な不調がありますが…
  1696. ヒミコ: これらの不調を同時に 起こした者は、皆、死にました
  1697. ヒミコ: ですから私も死ぬのでしょう
  1698. ももこ: …まだ、 わからないじゃないですか
  1699. ねむ: わかるよ
  1700. ももこ: ねむ!?
  1701. ねむ: 邪馬台国のヒミコは 狗奴国との戦いの最中に死ぬ…
  1702. ねむ: これは歴史で確定しているんだ
  1703. ももこ: そんな…
  1704. ヒミコ: …ともあれ 私は急がねばならない
  1705. ヒミコ: トヨの体も日に日に悪くなる… 今私が死ねば、どうなりますか?
  1706. ヒミコ: 私が生きている間に 戦いを終結させないと…
  1707. ももこ: …だからこんなに 慌てて戦を…
  1708. ヒミコ: トヨのためです
  1709. ももこ: …………
  1710. ヒミコ: …子どものために戦を起こすなど 指導者としては不適格…
  1711. ヒミコ: 戦いが終われば 死をもって償うつもりです
  1712. ヒミコ: 私の首をはねれば、民の溜飲も 多少は下がるでしょうから…
  1713. ヒミコ: もっとも、後先短い老いた首で 大変申し訳ありませんが
  1714. ももこ: どうして、そこまでするんです?
  1715. ヒミコ: …そなたも 母親になればわかりますよ
  1716. レナ: っと 着いたわよ!
  1717. トヨ: ぬわああ…はやいのだあ…
  1718. かえで: ト、トヨちゃん、大丈夫?
  1719. トヨ: すこーし めがまわっただけなのだ
  1720. かえで: 掴まって
  1721. レナ: 狗奴国のやつらは…!
  1722. 狗奴国兵: この…!
  1723. 邪馬台国兵: くっ…!
  1724. 狗奴国兵: 攻めろ、攻めろ!
  1725. トヨ: なんなのだ…
  1726. レナ: 戦場になってる…
  1727. かえで: 見て!村の人が!
  1728. トヨ: た、たすけに、いくのだ…っ!
  1729. レナ: ちょっとちょっと! 今のアンタじゃムリよ!
  1730. かえで: 私が村の人を 避難させておくから!
  1731. レナ: 頼んだわよ!
  1732. トヨ: はあ…っ、はあ…っ!
  1733. レナ: だ、だから! ひとりで動かないで!
  1734. トヨ: す、すいろへ、つれていって ほしーのだ…
  1735. レナ: でも…
  1736. トヨ: ここまできて…ダメはないのだ
  1737.  
  1738. FILENAME: text_519420-10_YO4bE.txt
  1739. 住民: ああ…私たちのムラが…
  1740. 住民: 稲が踏み荒らされてるわ…
  1741. かえで: と、とにかく みなさんこっちに…
  1742. かえで: …トヨちゃんたち 大丈夫かな…?
  1743. 狗奴国兵: うっ…!
  1744. レナ: 次から次へと…
  1745. レナ: …トヨは!?
  1746. 狗奴国兵: ん…? なんだ、こいつは
  1747. トヨ: ここを…あらしては ならん、のだ…
  1748. トヨ: このすいろが、こわれれば みんなが、こまるのだ…
  1749. 狗奴国兵: わけのわかんねえこと 言ってんじゃねえ!
  1750. トヨ: ――っ!?
  1751. レナ: はあっ!
  1752. 狗奴国兵: くっ…!
  1753. 狗奴国兵: や、やられたのか?
  1754. 狗奴国兵: 気を失ってるだけだ
  1755. 狗奴国兵: しかし…こいつ、強いぞ
  1756. レナ: 言っておくけど トヨは後継者になるの
  1757. レナ: こんなところでやられたら 歴史が変わるでしょうが!
  1758. 狗奴国兵: ああっ!
  1759. レナ: トヨ、ムリするんじゃないわよ
  1760. トヨ: わかってるのだ
  1761. レナ: それ、わかってないやつが言う セリフだから
  1762. ヒミコ: ももこさん、これを
  1763. ももこ: え…この本を?
  1764. ヒミコ: ホンというのですか、それは 不思議なものですね
  1765. ヒミコ: 調べてみましたが 何もわかりませんでした
  1766. ももこ: …どうしてこれが アタシたちのものだって…
  1767. ヒミコ: そなたやレナさん…
  1768. ヒミコ: ふたり揃ってホンに向かって 何か言っていれば気づきます
  1769. ももこ: あちゃ~…
  1770. ヒミコ: 会話ができたりするのですか? さすが…遠い先の技術です
  1771. ももこ: ――っ!?
  1772. ヒミコ: 未来というのは…そういう意味の 言葉なのでしょう?
  1773. ヒミコ: …未来国などで大人を騙せると 思わないことですね
  1774. ももこ: お、おい、ねむ バレちまったけど、大丈夫か?
  1775. ねむ: 大丈夫、何の影響もないよ
  1776. ももこ: そ、そうなのか?
  1777. ねむ: …その知識を得て何かに影響を 与えるだけの時間が…
  1778. ねむ: この人には もう残されていないんだ
  1779. ももこ: …………
  1780. 邪馬台国兵: ヒミコ様
  1781. ヒミコ: …どうしたのです 下がってよいと言ったはずですが
  1782. 邪馬台国兵: 南のムラで我が方と狗奴国が 衝突した模様です
  1783. ももこ: 南の村って…
  1784. ヒミコ: …以前、そなたらが 水路をつくったムラです
  1785. ももこ: ――っ!?
  1786. ヒミコ: どうしたのです
  1787. ももこ: そこにトヨがいるんです!
  1788. ヒミコ: トヨが…!?
  1789. 狗奴国兵: ちっ…なんだこの水路 邪魔だな!
  1790. トヨ: やめる、のだ…っ!
  1791. 狗奴国兵: なんだそれは… 殴っているつもりか…?
  1792. 狗奴国兵: 人を殴るっていうのは こうするんだよっ!
  1793. トヨ: があ…っ!
  1794. レナ: トヨ!
  1795. トヨ: はあ…はあ…っ
  1796. 狗奴国兵: …何なんだよ、本当に
  1797. 狗奴国兵: さっさと始末するぞ
  1798. 狗奴国兵: そうだな
  1799. レナ: させないわよ!
  1800. 狗奴国兵: ぐっ…!
  1801. レナ: トヨ、いったん ここから離れて!
  1802. トヨ: いやなのだ
  1803. トヨ: ても、うえにあがらんし… ろくにあるけない…
  1804. トヨ: …なんのやくにもたたんのは われでも、よーくわかってるのだ
  1805. レナ: だったら…!
  1806. トヨ: ちがうのだ…
  1807. トヨ: こーゆーときにいうのは だったら、ではなく…
  1808. トヨ: …それでも、なのだ
  1809. レナ: トヨ…
  1810. 狗奴国兵: お前ごときに何ができる
  1811. トヨ: それでも!
  1812. トヨ: ここで、いじをとおさないで いつ、とおすのだ…っ!
  1813.  
  1814. FILENAME: text_519420-11_YO4bE.txt
  1815. ヒミコ: はあ…っ!はあ…っ!
  1816. ももこ: 大丈夫ですか?
  1817. ヒミコ: 私のことは構わないでください それより、トヨは…!?
  1818. かえで: ももこちゃん!
  1819. ももこ: かえで! トヨとレナは?
  1820. かえで: それが…
  1821. ヒミコ: トヨですか!? トヨが怪我をしたのですか!?
  1822. かえで: あ、そうじゃなくて…
  1823. トヨ: このあたりは だいじょーぶなのだ
  1824. トヨ: あそことあそこに てをくわえれば、もとどーりに…
  1825. トヨ: …っ、あ…
  1826. レナ: トヨ、もう休みなさいよ
  1827. トヨ: それは、できないのだ…
  1828. かえで: …あんなふうにずっと 村の様子を見ていて…
  1829. ヒミコ: トヨ…
  1830. トヨ: あ…かかさま…
  1831. トヨ: なはは…みつかったのだ…
  1832. ヒミコ: …なぜ、こんな… 体を大切にしないと…
  1833. トヨ: ここを、まもりたかったのだ
  1834. ヒミコ: そなたが民を思う気持ちは よくわかりました…ですが…
  1835. トヨ: …なはは…ちがうのだ…
  1836. ヒミコ: え…?
  1837. トヨ: もちろん…たみのくらしを まもりたい、きもちはある…
  1838. トヨ: だけど…その…ここは…
  1839. トヨ: はじめて、かかさまに ほめてもらった、ばしょだから…
  1840. ヒミコ: ――っ!?
  1841. トヨ: たいせつな、ばしょなのだ… だから、どーしても…
  1842. ヒミコ: そんな… そんなことのために…?
  1843. トヨ: そんなことじゃ、ないのだ…
  1844. トヨ: われの、だいじな おもいで…
  1845. トヨ: …く…っ
  1846. ヒミコ: 痛むのですか…? こっちへ来なさい
  1847. トヨ: へ…?
  1848. ヒミコ: ―ヒミコ― 疲れたでしょう…? ここで休みなさい
  1849. トヨ: ―トヨ― また、ひざまくらを、してくれるのだ…?
  1850. ヒミコ: ―ヒミコ― トヨ…かかはそなたのためにできることを 毎日、ずっと考えていました
  1851. ヒミコ: ―ヒミコ― 出た答えは…すべての問題を解決して そなたに位を譲る…
  1852. ヒミコ: ―ヒミコ― 今となってはそれが最善だと そう思ったのです
  1853. ヒミコ: ―ヒミコ― ですが…違ったのですね
  1854. ヒミコ: ―ヒミコ― ただ、そなたをこうしてやればよかった…
  1855. トヨ: ―トヨ― かかさま…
  1856. ヒミコ: ―ヒミコ― かかは…そなたの母親をちゃんとできなかった
  1857. ヒミコ: ―ヒミコ― 甘えたいときに我慢させ… 辛いときに突き放し…
  1858. ヒミコ: ―ヒミコ― たくさん、苦しい思いをしましたね…? いやなことも、いっぱいありましたね…?
  1859. ヒミコ: ―ヒミコ― 許してください…トヨ… こんなかかを、許して…
  1860. トヨ: ―トヨ― ゆるすも、ゆるさないも、ないのだ
  1861. トヨ: ―トヨ― トヨは、かかさまのことが だいすきなのだ
  1862. ヒミコ: ―ヒミコ― トヨ…
  1863. レナ: …………
  1864. かえで: …よかったね、あのふたり
  1865. ももこ: うん…
  1866. ももこ: ――っ!?
  1867. レナ: これ…魔女?
  1868. レナ: え、これ… 稲が、枯れて…
  1869. かえで: どれも根から腐ってる…
  1870. ヒミコ: これは…報告にあった祟り…
  1871. ヒミコ: まさか…祟り神が…!?
  1872. レナ: そういうこと…ずっと魔女が トヨの足をひっぱってたってわけ
  1873. トヨ: ど、どーしたのだ、みんな…?
  1874. レナ: 魔女を…ううん 祟り神を退治してくるわ
  1875. かえで: …もう誰にもトヨちゃんを 祟り神の子って言わせないから!
  1876. ももこ: 行こう!
  1877. トヨ: きえた、のだ…?
  1878. ヒミコ: いったい、何が…
  1879. ???の声: 魔女が現れたんだよ
  1880. トヨ: ――っ!?
  1881. キュゥべえ: はじめまして、トヨ ボクの名前はキュゥべえ
  1882. トヨ: キュゥべえ…?
  1883.  
  1884. FILENAME: text_519420-12_YO4bE.txt
  1885. トヨ: キュゥべえ… なんなのだ…なんじは…?
  1886. ヒミコ: トヨ…そこに何かあるのですか?
  1887. トヨ: かかさまは、みえないのか…?
  1888. トヨ: っく…うう…っ
  1889. キュゥべえ: その苦しみと恐怖から 逃れられる手段があるとしたら
  1890. キュゥべえ: キミはどうするかな?
  1891. トヨ: そんなことが…?
  1892. ヒミコ: トヨ、しっかりするのです そこには何も…
  1893. ヒミコ: …いや、いるのですね そこに何かが
  1894. トヨ: なんじ…われはどうすればいい? われは、このままはいやなのだ
  1895. キュゥべえ: ボクのお願いを 聞いてくれるかい?
  1896. トヨ: おねがい…?
  1897. キュゥべえ: ボクと契約して、 魔法少女になってほしいんだ
  1898. ももこ: やあっ!
  1899. ももこ: さっきから使い魔ばかりだな
  1900. かえで: それも、かなりの数だよ…
  1901. レナ: …とにかく、急ぎましょう なにか、いやな予感がするの
  1902. トヨ: ねがいを…?
  1903. ヒミコ: どうしたのです、トヨ?
  1904. トヨ: われが、なにかねがうと からだがうごくよーになるのだ
  1905. ヒミコ: ――っ!?
  1906. ヒミコ: ト、トヨ! 願ってはいけません!
  1907. ヒミコ: 昔の後継者候補の巫女が、願いを 叶えて力を得たと言っていて…
  1908. ヒミコ: ですが、その者は結局… 祟りに呑まれてしまったのです!
  1909. ヒミコ: そして厄災が起き… 多くの者が命を落とし…
  1910. ヒミコ: 何もわからぬ私たちだけが 取り残されるように生きて…
  1911. ヒミコ: …いや、そうか
  1912. ヒミコ: トヨ、そこの者に言いなさい 私にその力を授けよと
  1913. トヨ: え…?
  1914. ヒミコ: 私が願いによって トヨの体をよくしてあげます
  1915. トヨ: …ダメ、なのだそーだ
  1916. ヒミコ: だ、だったら…!
  1917. トヨ: …なるほど、そーだったのか それが…まほーしょーじょか…
  1918. トヨ: それなら、いろいろと つじつまがあう…
  1919. ヒミコ: トヨ…?
  1920. トヨ: レナたちみたいに、なれるなら ぜんぜん、わるくないのだ…
  1921. かえで: きゃあ…っ!
  1922. ももこ: かえで…!
  1923. ももこ: …っがっ!
  1924. レナ: …はあ…はあ…
  1925. レナ: 思ったより、やるじゃない
  1926. レナ: …けど、こんなところで 負けるわけにはいかないのよ!
  1927. ヒミコ: や、やめなさい、トヨ そなたはあの悲劇を知らないから
  1928. トヨ: しっていても、こたえは かわらないとおもうのだ
  1929. トヨ: たとえ、かこのよーなことが ふたたびおきよーと…
  1930. トヨ: われが、たたりがみに のまれよーと…
  1931. トヨ: ずっと、われがしたかった… みんなを、しあわせにして
  1932. トヨ: いきているだけで、かちがあると しめすことが、できるのなら…
  1933. トヨ: われは、よろこんで まほーしょーじょになるのだ
  1934. トヨ: みんなが…われのよーなものが ぜつぼーに、まけないように
  1935. ヒミコ: ですが トヨがすることはないでしょう!
  1936. ヒミコ: かかはトヨだけが心配なのです 誰に何を言われようと構いません
  1937. ヒミコ: トヨが幸せなら… 他はどうだっていいの…っ!
  1938. トヨ: …それは、うそなのだ
  1939. ヒミコ: え…?
  1940. トヨ: 『わこくの、そーらんをおさめ… おおくのたみから、したわれ… たみをみちびきながら… たみといったいになってクニをつくりあげた方』
  1941. トヨ: 『それが、かかさま… われのじまんの、かかさまなのだ』
  1942. トヨ: …ねがいは、きまったのだ
  1943. キュゥべえ: それはキミの魂を差し出すに 足る願いかい?
  1944. トヨ: はいなのだ
  1945. ヒミコ: トヨ…やめて…っ!
  1946. トヨ: われの、ねがいは…
  1947. トヨ: 『かかさまのよーに、なれますよーに』
  1948. 邪馬台国兵: …………
  1949. 邪馬台国兵: 何をぼんやりしている!
  1950. 邪馬台国兵: …いや、前に負った傷が すっかり治っているなと思って…
  1951. 邪馬台国兵: ああ、お前もヒミコ様の御子… 姫御子様の鬼道を受けたのか
  1952. 邪馬台国兵: 何でもできるんだな、鬼道は
  1953. 邪馬台国兵: 普通はできないだろうよ
  1954. 邪馬台国兵: ただ、姫御子様はその才を ヒミコ様より受け継いでいる…
  1955. 邪馬台国兵: 間違いなく、次代のヒミコ様だ
  1956. 邪馬台国兵: …………
  1957. 狗奴国兵: 見つけたぞ! 邪馬台国のやつらだ!
  1958. 邪馬台国兵たち: ――っ!?
  1959. 邪馬台国兵: …ここを抜けさせるわけには いかない、押し返すぞ…!
  1960. 邪馬台国兵: わかっている、我々で邪馬台国を …姫御子様をお守りせねばな
  1961. 住民: 本当に行くの?
  1962. 住民: 他のところで困っている人たちが 大勢いるみたいだからね
  1963. 住民: 私でも何かできることがあるなら 頑張ってみたいんだよ
  1964. 住民: …私はここに残って 田んぼを守るよ
  1965. 住民: でも稲、枯れちゃったんだろう? 祟りだって…
  1966. 住民: 祟りなんてあるわけない
  1967. 住民: 姫御子様が土の肥やし方を 教えてくれたんだ
  1968. 住民: その通りにやってみるよ みんなの生活を守るためにも
  1969. 住民: 姫御子様みたいなこと言って
  1970. 住民: あんただって
  1971. ヒミコの弟: 僕と手を切るだって!?
  1972. 狗奴国兵: 貴様ではトヨを御し得ない との判断だ
  1973. ヒミコの弟: いったい誰の判断だ! 僕はククチヒコの父親から…
  1974. 狗奴国兵: そのお方の判断だ
  1975. 狗奴国兵: トヨは大乱を収めたときの ヒミコを彷彿とさせる…
  1976. 狗奴国兵: 間違いなく後継者の器を持った者 貴様と組むよりむしろ…
  1977. ヒミコの弟: そう、言っていたのか…?
  1978. ヒミコの弟: み、認めない… 僕こそが王に相応しいんだ!
  1979. 狗奴国兵: …追いつめられればその程度か 手を切れてよかったというもの…
  1980. 狗奴国兵: うん…?
  1981. 狗奴国兵: 今、光が…
  1982. レナ: く、うう…
  1983. ももこ: レナ…まだ、動ける?
  1984. レナ: 当たり前でしょ
  1985. ももこ: かえでは…?
  1986. かえで: こ、怖いけど… でも、大丈夫
  1987. ももこ: アタシが隙をつくるから ふたりで…
  1988. レナ: ももこ、危ない!
  1989. ももこ: ――っ!?
  1990. ももこ: え…
  1991. レナ: だ、誰が…?
  1992. トヨ: 『なーっはっはっはっは!』
  1993. レナ: ――っ!?
  1994. トヨ: 『鬼道を志し、かか様のあとを追い いくたの困難にうちのめされようと 諦めることなく抗いつづけて やってまいりましたこの大天才!』
  1995. トヨ: 『立ち向かうこと、歯を食いしばること この世に絶望しないこと それらを胸に今日も悪しき魂を祓ってみせる!』
  1996. トヨ: 『祟りなどに人が負けてなるものか!』
  1997. トヨ: かか様のこーけーしゃ 邪馬台国のトヨなのだっ!
  1998. ももこ: ト、トヨ…
  1999. レナ: …キュゥべえと 契約を交わしたのね
  2000. トヨ: なーっはっはっはっは!
  2001. トヨ: レナ、ももこ、かえで! 吾が来たからにはもう安心なのだ
  2002. トヨ: ちゃちゃっと吾が この祟り神を祓ってやるのだ!
  2003. トヨ: なーっはっはっは!
  2004. ももこ: は、ははは…人の気も知らないで 勝手に元気になりやがって…
  2005. かえで: でも、なんだか… トヨちゃんが戻ってきた気がする
  2006. レナ: ふん、調子に乗って
  2007. トヨ: さて、祟り神 ここからは簡単に済むと思うな
  2008. トヨ: 人の子の力…見せてやるのだ!
  2009.  
  2010. FILENAME: text_519420-13_YO4bE.txt
  2011. トヨ: よいしょっと…
  2012. トヨ: 戻ってこられたのだ
  2013. かえで: トヨちゃんのおかげで 助かったよ
  2014. トヨ: 気にするな、なのだ
  2015. レナ: …トヨ、実は伝えないと いけないことがあって…
  2016. ももこ: 魔法少女になると、その…
  2017. トヨ: …何かの代償があるのだ? まあ、そうだろうな
  2018. トヨ: 突然、体がじゆーになったのだ それくらいはやむを得ん
  2019. ももこ: 強いんだね、トヨは
  2020. トヨ: 絶望に負けたくないだけなのだ
  2021. 住民: あのトヨ様…そのお姿は…?
  2022. トヨ: これか?ふむ…これは…
  2023. トヨ: そう、天から授かった衣なのだ!
  2024. トヨ: 吾はこの衣の力で 祟り神を討ってきたのだ!
  2025. 住民: た、祟り神を…
  2026. 住民: じゃあもう災いが起きないの…?
  2027. トヨ: いや、祟り神は方々にいるらしい
  2028. トヨ: 吾はこれからも祟り神と戦う 皆の暮らしを守るために
  2029. トヨ: しかし当然だが、吾ひとりでは クニを回していくことはできん
  2030. トヨ: 吾はまだまだ未熟… 皆の支えが必要なのだ
  2031. トヨ: だからどうか吾と一緒に クニをつくっていってくれぬか
  2032. 住民: もちろんです、トヨ様!
  2033. 住民: ともにクニを つくっていきましょう!
  2034. ヒミコ: 多くの者を導きながら しかし同時に支えられ
  2035. ヒミコ: ともにクニをつくっていく…
  2036. ヒミコ: それは私の原点…
  2037. ヒミコ: …トヨの姿から、あの頃の私を 思い出すことになるなんて…
  2038. ももこ: トヨはヒミコ様の背を追いかけて いるんですよ…だからそう見える
  2039. ももこ: 子は親の背を見て 育っていくものだろ…?
  2040. ヒミコ: …私が、何を見せたと… どうして…
  2041. ももこ: ヒミコ様…
  2042. ヒミコ: 私のように なってほしくはなかった…
  2043. ヒミコ: 政争や戦とは無縁の場所で… ただ…普通の子として…
  2044. トヨ: 早くムラを復興させるため うねをどうにかしたいのだが…
  2045. トヨ: 人足が必要になるのだ
  2046. ???の声: こっちだ!急げ!
  2047. トヨ: うん…?
  2048. 邪馬台国兵: おや、これはこれはトヨ様… なぜこのような場所へ?
  2049. トヨ: 吾は祟り神退治を行っていたのだ 汝らは?
  2050. 邪馬台国兵: 祟り神退治…それは素晴らしい
  2051. 邪馬台国兵: 我らはこの辺りに狗奴国が 攻め込んできていると聞き
  2052. 邪馬台国兵: こうやって者どもを集め 駆けつけた次第であります
  2053. トヨ: 戦ならとっくに終わったのだ
  2054. 邪馬台国兵: そ、そうでしたか… 面目ございません…
  2055. トヨ: いや…どうせなら汝ら うねの普請を手伝っていけなのだ
  2056. トヨ: ちょうど人足も 足りてなかったのだ
  2057. 邪馬台国兵: そういうことであれば
  2058. トヨ: ふむ…どうせなら 木こりもいるといいのだが…
  2059. ???: すみません 長はどなたでしょう?
  2060. トヨ: 汝は…?
  2061. 木こり: 私は木こりです
  2062. 木こり: 何か困っていることはないかと 隣のムラから来まして…
  2063. 木こり: 長の許可をいただきに…
  2064. トヨ: おおっ、ちょうど汝のような 人材を求めていたのだ…!
  2065. レナ: な、なんか…必要な人が 都合よく集まってきてない…?
  2066. かえで: …ひょっとして、これが トヨちゃんの力…?
  2067. ももこ: 光った…!
  2068. ねむ: 概念が回収された… あとは、ほんの少しだけ
  2069. レナ: …長かった夏も、もう終わりね
  2070.  
  2071. FILENAME: text_519420-14_YO4bE.txt
  2072. 住民: まさかヒミコ様が不予とは…
  2073. 住民: 姫御子様もまだお若いのに…
  2074. ももこ: 噂が広がるの 止められなかったな…
  2075. レナ: 仕方ないわよ…あれから かなり容体を悪くしたんだから…
  2076. かえで: みんな、不安がってるね…
  2077. ももこ: 狗奴国との戦争が まだつづいているせいだ
  2078. レナ: …トヨは?
  2079. かえで: ヒミコ様の看病をしてるよ
  2080. ももこ: …これが親子の最後の 時間かもしれない
  2081. ももこ: ふたりっきりにしてやろう…
  2082. レナ: …………
  2083. トヨ: かか様… 少しでも食べるのだ
  2084. ヒミコ: トヨ… 持ってきてくれたのですか?
  2085. トヨ: 実は、吾がつくってみたのだ
  2086. トヨ: タケノコをすり潰して… 煮立ててな
  2087. トヨ: 題して、タケノコ汁なのだ!
  2088. ヒミコ: …あまり…おいしそうでは ありませんね…
  2089. トヨ: そんなあ…
  2090. ヒミコ: ふふふ…冗談ですよ… 飲ませてください…
  2091. ヒミコ: …もうよく見えないのです
  2092. トヨ: 失礼するのだ…
  2093. ヒミコの声: ああ…おいしい…
  2094. トヨ: …………
  2095. ヒミコ: …見苦しいものを 見せましたね…
  2096. トヨ: そ、そんなことはないのだ かか様はお美しいのだ…!
  2097. トヨ: それで、心優しくて、立派で… 吾のえーえんの目標なのだ…!
  2098. ヒミコ: …トヨ、どうしても 私の跡を継ぎますか…?
  2099. トヨ: え…
  2100. ヒミコ: 私は女王になって すべてを犠牲にしてきました
  2101. ヒミコ: 人としてのよろこびも 楽しみも…
  2102. ヒミコ: そして何より… 母親としての時も…
  2103. ヒミコ: …後継者になれば、そなたは 私と同じ苦しみを味わうでしょう
  2104. ヒミコ: そんな思いを… そなたにはしてほしくない…
  2105. トヨ: …それはできないのだ
  2106. トヨ: だって吾は…
  2107. トヨ: 大好きな かか様のようになりたいのだ
  2108. ヒミコ: …………
  2109. ヒミコ: この…親不孝者…
  2110. トヨ: ごめんなさいなのだ
  2111. ヒミコ: ああ…私はもう疲れました… 少し、休ませてください…
  2112. トヨ: わ、吾が…膝枕するのだ!
  2113. ヒミコ: トヨが…?
  2114. トヨ: うんなのだ! 吾に甘えるといいのだ!
  2115. ヒミコ: ふふふ…では…
  2116. トヨ: かか様はいっぱい頑張ったのだ よしよしするのだ
  2117. ヒミコの声: 私は…何も頑張ってませんよ… 結局…何も解決できず…
  2118. ヒミコの声: それなのに…こんなことばかり… 思うのです…
  2119. ヒミコの声: もっとトヨと…同じ時を 過ごしたかったと…
  2120. トヨ: こ、これから…過ごせばいいのだ
  2121. ヒミコの声: そう、ですね…これから… トヨと…
  2122. ヒミコの声: ああ…鬼道のことも…もっと そなたに、おしえないと…
  2123. ヒミコの声: わたしとトヨがいれば… きっとなんでもできる…
  2124. ヒミコの声: 青々とした…ゆたかな地平を… どこまでもひろげられる…
  2125. ヒミコの声: そう…トヨはわたしの子ですから なんだってできる…
  2126. ヒミコの声: わたしができなかったことも… だれもできなかったことも…
  2127. ヒミコの声: トヨなら…すばらしい未来を…
  2128. トヨ: そんなに褒められると うれしーのだ
  2129. ヒミコの声: …まだろれつが まわらないのですか…?
  2130. トヨ: 癖になってしまったのだ
  2131. トヨ: い、今は…かか様の方が 回ってないのだ…なはは
  2132. ヒミコの声: ふふふ…
  2133. トヨ: 早くよくなるのだ…吾はかか様と やりたいことがたくさんあるのだ
  2134. トヨ: そうなのだ…今度こそ 一緒に海へ行くのだ
  2135. トヨ: レナたちも誘って…みんなで! きっと楽しいのだ
  2136. トヨ: か、かか様…も…そう思うのだ?
  2137. ヒミコの声: …ええ…それは…ほんとうに… たのしそう…
  2138. トヨ: …っ…う、海では… スイカ割りもするのだ!
  2139. トヨ: 知っているのだ?タケノコを 海で割る遊びらしいのだ!
  2140. トヨ: かか様と吾がきょーりょくして レナたちと戦うのだ!
  2141. トヨ: 吾ら親子の力を 皆に見せつけてやるのだ!
  2142. ヒミコの声: …トヨ… かかは…いつまでも…
  2143. ヒミコの声: トヨを…みてます、よ…
  2144. トヨ: …わ…っ、わか…ってる、のだ かか様は吾が好きなのだから!
  2145. トヨ: そ、それで…っ、夜になれば また一緒に蛍を見るのだ!
  2146. トヨ: あのきれいな光を…っ またかか様と一緒に見たいのだ!
  2147. ヒミコの声: …………
  2148. トヨ: だ…だから…早、く… よく、なって…
  2149. トヨ: 吾は…吾は…かか様といっぱい 楽しい思い出をつくりたいのだ
  2150. トヨ: かか様は自分は母親失格だと 思っているのかもしれないが…っ
  2151. トヨ: それを吾が否定してやるのだっ!
  2152. トヨ: かか様以上のかか様はいないのだ どこにも!絶対に…っ!
  2153. トヨの声: 吾は、かか様の子で…っ!
  2154. トヨの声: かか様が…かか様で…っ!
  2155. トヨの声: 絶対に幸せだったのだ…っ!!
  2156. かえで: あっ、トヨちゃん…?
  2157. レナ: 主祭殿から出てきたわね ヒミコは…
  2158. トヨ: 皆、聞くのだ ヒミコ様は今し方お隠れになった
  2159. 住民: ヒ、ヒミコ様が…
  2160. 住民: そんな…
  2161. トヨ: だが、ここには吾がいる
  2162. トヨ: 後継者の吾がいるのだ!
  2163. トヨ: ヒミコ様の遺志を継ぎ 邪馬台国を…
  2164. トヨ: この世で最も 豊かなクニにしてみせる
  2165. トヨ: 吾が後継者となることに 不満がある者もいるだろう
  2166. トヨ: さらに狗奴国との戦も いまだつづいている
  2167. トヨ: この旅立ちはきっと困難を極める
  2168. トヨ: だが吾らは示さなくてはならん ヒミコ様が…いや…
  2169. トヨ: かか様がいなくても ここで、やっていけることを!
  2170. かえで: トヨちゃん…
  2171. ももこ: 覚悟を決めたって感じだな
  2172. レナ: …これで、回収は終わったの?
  2173. ねむ: そうだね、終わったよ
  2174. ねむ: 僕達も旅立ちのときだ
  2175.  
  2176. FILENAME: text_519420-15_YO4bE.txt
  2177. トヨ: どこまでも高くて 限りなくつづく青空…
  2178. トヨ: また…この季節がやってくる
  2179. トヨ: 夏がまた、やってくるのだ
  2180. レナ: あーもう! なんでこんなゴツゴツしてるの
  2181. かえで: これじゃあスイカ割りは できないかも…
  2182. ももこ: ごめんな、せっかく 遠出したってのに…
  2183. トヨ: 謝ることは何もないのだ
  2184. トヨ: 吾は皆と最後に 海を見られてよかったのだ
  2185. トヨ: …かか様とも 一緒に見たかったのだ
  2186. みんな: …………
  2187. トヨ: レナ、ももこ、かえで… 汝らが未来国に帰る直前 吾を海に連れていってくれて ほんとーにありがとうなのだ
  2188. トヨ: 確かにスイカ割りはできなかったが 海を直に見れて、泳げて… 楽しくて仕方なかったのだ
  2189. トヨ: あんなふうに友だちと過ごすことが できるようになるなんて… 昔の吾なら夢にも思わなかったのだ
  2190. トヨ: 皆からはたくさんのものをもらったのだ いつか恩返しに行きたいのだ
  2191. レナ: …とりあえず、遊ぼっか?
  2192. ももこ: そうだね
  2193. かえで: 行こう、トヨちゃん!
  2194. トヨ: うんなのだ!
  2195. トヨ: あの日のことは… 皆と過ごしたあの夏のことは 一生の思い出として、いつまでも 吾の記憶に残りつづけるのだ
  2196. レナ: 「アンタを見てて レナも、もっと頑張ろうって思ったわ」
  2197. トヨ: 最後にレナはそう言ったのだ 何を頑張るのかと聞くと…
  2198. レナ: 「大人になることを」
  2199. トヨ: その翌日、吾らは別々の道で あるべき場所へ戻っていった
  2200. トヨ: あれから季節はめぐった… 狗奴国との戦いはまだつづくが 吾は戦いを終わらせられるよう頑張っているのだ
  2201. トヨ: とと様とは相変わらず会えないでいるが いつか、わかりあえる日が来ると思うのだ
  2202. ヒミコの弟: トヨなど鬼道ができるだけの小娘 邪馬台国を導ける存在ではない!
  2203. ヒミコの弟: 僕こそが真の後継者 …邪馬台国の男王だ!
  2204. トヨ: 狗奴国との繋がりを失った叔父上が ある日突然、王を僭称したこともあった
  2205. トヨ: けれど、その数日後に殺されたのだ
  2206. トヨ: 狗奴国の手の者によって寝首を掻かれたのだ あっけないものなのだ… 政の中ではひとりの命など 何の価値もないように雑に扱われる
  2207. トヨ: だからこそかか様は最後まで 吾を心配していたのだろう
  2208. トヨ: けれどかか様…心配いらないのだ 吾はしゃんとここに立っているのだ かか様の後継者として…
  2209. トヨ: …っと
  2210. トヨ: ふう…祟り神退治も大変なのだ
  2211. トヨ: だが…あの者たちは かつての後継者候補…
  2212. トヨ: 吾の手で静かな眠りを 与えてやりたいのだ…
  2213. トヨ: …………
  2214. トヨ: この場所で…よくかか様は 身を清められていたな…
  2215. トヨ: かか様…
  2216. トヨ: …会いたいのだ
  2217. トヨ: …………
  2218. トヨ: …なんて、会えるわけないのだ
  2219. トヨ: そうなのだ…我慢なのだ 吾は後継者として立派に…
  2220. 女官: ト、トヨ様… ようやくいらしたのですね
  2221. トヨ: うん?汝はかか様の 側付きをしていた…
  2222. 女官: はい、そうです…
  2223. 女官: 今はここで神薬を岩に塗るのが 私の仕事でありますが
  2224. トヨ: 神薬?何なのだ、それは?
  2225. 女官: ヒミコ様が鬼道のすべてをかけて おつくりになったものです
  2226. トヨ: ――っ!?
  2227. 女官: 私はそれを塗りつづけ トヨ様を待っておりました
  2228. 女官: これをお渡しするために
  2229. トヨ: …石?
  2230. 女官: 私が立ち去ったら その石を打ち合わせてください
  2231. トヨ: ま、待つのだ 意味がわからんのだ
  2232. 女官: 詳しくは言えません ヒミコ様はトヨ様を驚かせたくて
  2233. 女官: こんな回りくどいことを わざわざしたのですから…
  2234. 女官: …ようやくそのときが来て 私もうれしく思います…
  2235. トヨ: …………
  2236. 女官: それでは…ごゆっくり…
  2237. トヨ: …行ったのだ
  2238. トヨ: この石を 打ち合わせればよいのか?
  2239. トヨ: よいしょ、なのだ
  2240. トヨ: うん?石から火花が出たが… それだけなのだ
  2241. トヨ: よいしょっ!よいしょっ!
  2242. トヨ: うぬぬ…ここまでやっても 何にも起きないのだ!
  2243. トヨ: じゃあもうムダなのだ こんな石などポイーなのだ
  2244. トヨ: …まったく かか様はなぜこのようなことを
  2245. トヨ: …え?
  2246. トヨ: ―トヨ― …蛍…?
  2247. トヨ: いつの間にか辺りには 無数の蛍が飛び交っていたのだ
  2248. トヨ: そのきれいな光は 吾を包むようにして 優しく照らしてくる…
  2249. トヨ: そうか…吾が起こした火花を 仲間の光だと勘違いして 寄ってきたのか…
  2250. トヨ: だが…それにしては数が多い… いくらここの水が澄んでいるとはいえ この数の蛍は見たことがないのだ
  2251. トヨ: …もしかして、これなのか? かか様がつくった神薬というのは
  2252. トヨ: なぜこんなことのために 鬼道のすべてをかけたのだ…?
  2253. トヨ: われ、ほたるのひかり すきなのだ
  2254. ヒミコ: そうだったのですか… 私は…そんなことも知らずに…
  2255. ヒミコ: …今度、夜空いっぱいに 蛍の光を集めてみせますよ
  2256. ヒミコ: そうしたら よろこんでくれますか?
  2257. トヨ: ―トヨ― …………
  2258. トヨ: ―トヨ― …そのため…?
  2259. トヨ: ―トヨ― …これまで費やしてきた鬼道のすべてを… ただ…吾をよろこばすために…?
  2260. トヨ: ―トヨ― な、何を…やっているのだ…かか様なら もっと他に残すべきものがあったのだ…
  2261. トヨ: ―トヨ― かか様の知が…人生を捧げてきた鬼道の すべてが…これだなんて…
  2262. トヨ: ―トヨ― な、なはは…ほんとーに… ほんとーに…かか様は…
  2263. トヨ: ―トヨ― 吾のことが…大好きなのだ…っ!
  2264. トヨ: 涙が堰を切ったように流れ出したのだ 止める気にはならかったのだ 吾は感情のままに泣きつづけたのだ
  2265. トヨ: この真っ暗な中で泣きつづけていると その泣き声が、まるで… 自分がここにいると証明しているように 思えてならなかった
  2266. トヨ: ―トヨ― かか様…っ、かか様…っ!!
  2267. トヨ: ―トヨ― 寂しいのだ…っ! 会いたいのだっ!
  2268. トヨ: ―トヨ― もっと膝枕してほしかったのだ…っ! 一緒に海に行きたかったのだっ!
  2269. トヨ: ―トヨ― タケノコだって一緒に採って… でも、かか様の方が見つけるの上手で…
  2270. トヨ: ―トヨ― わ、吾は…やっぱり…かか様には かなわないなあって…
  2271. トヨ: ―トヨ― そうやって…笑い合いたかったのだっ!
  2272. トヨ: 我慢していたものをすべて吐き出していくと なんだか、清らかなものが胸に流れ込んできて それは感傷を連れて、どこかへと飛んでいく…
  2273. トヨ: その一瞬で 吾はもう大丈夫になろうとしていた すべてを楽しかった思い出にできるくらい 吾は大丈夫になりつつあった
  2274. トヨ: いつから吾は大人になるのだろう… そんなことをぼんやり考えたことがあった その“いつか”が、今だった
  2275. トヨ: それがほんとーに悲しかったのだ
  2276. トヨ: ―トヨ― かか様…吾は、生まれてきて… かか様の子でよかったのだ…っ!
  2277. トヨ: ―トヨ― かか様…ッ!!
  2278. トヨ: それでも吾はただ泣きつづける 蛍の光はやがて夜空の方へと上っていった
  2279. トヨ: かか様…吾はかか様の子として 精一杯生ききってみせるのだ
  2280. トヨ: 祟りなんてこの世にはない… 祝福だけがこの世にはあるのだと 吾がこの身で証明してやるのだ
  2281. トヨ: 新たに生まれくる者たちが この世を呪い、祟るのなら その子らに精一杯の愛を捧げるのだ
  2282. トヨ: かか様がそうしてくれたように…
  2283. トヨ: 泣きつづける吾を照らしていた蛍が 夜空の方へ上っていく 光はやがて消えていく…
  2284. トヨ: 新しい何かが はじまろうとしていた
  2285. トヨ: …夏が、はじまっていくのだ
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