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- 現在瀞霊廷某所
- 「む……」
- そこで、男は目を醒ます。
- 「やれやれ、随分と懐かしい夢を見たも のだ」
- 男は玉座のように豪奢な安楽椅子上で 身を伸ばし、薄暗い周囲の光景に目を向 けた。
- すると、最初に目に映った小柄な人影 が、目を^^と耀かせながら声を上げ る。
- 「お目覚めですか!時灘様!」
- 「ああ、良い夢を見た。幸先が良いな」
- 「夢ですか? どんな夢ですか! 時灘 様!」
- まだ年若い子供の声にそう問い掛けら れた男一綱彌代時灘は、ふむ、と今し がた見た夢の事を思いだし、口元を邪悪 な笑みで歪ませながら言葉を返した。
- 「懐かしくも心地好い夢だ。今でも八ッ キリと思い出す事ができるよ。人の心が 絶望に満ちる瞬間は実に胸が空くもの だ。自分に向けられた果て無き憎悪を叩 き潰す瞬間は何度味わっても飽きる事は ない。例えそれが夢の中であってもね」
- 「そうなんですか? 良く解りません、 時灘様!」
- 「ああ、いいんだ。お前は何も解らなく ていい。まだお前は幼いからな」
- 時灘の視線の先にいるのは、死覇装に 似た雰囲気の黒い衣服を纏った子供だっ た0
- 所属を示す隊章などは身につけておら ず Iどことなく通常の尸魂¥の住人と は違った空気を身に纏っている。
- 年頃は、現世の人間に当てはめるなら ば15歳前後といった所だろう。顔立ち は充分に美形といって差し支えないのだ が、中性的な顔立ちをしており、性別が 男なのか女なのか見た目で判じる事はで きない。そんな外見の子供だった。
- 「彦禰は何をしていた?私が起きるま でそこで棒立ちしていたわけではあるま い?」
- すると、彦禰と呼ばれたその子供は、 口元に子供のような笑みを浮かべて答え る。
- 「はい! 時灘様に言われた通りの事を したのです!時灘様を殺そうとする人 達がいらっしゃったので、ちゃんと動か なくしておきました!」
- そこで時灘は、改めて周囲の景色に目 を向ける。
- 彦禰の周りには数名の黒装束の者達が 倒れ臥しており、何人かは四肢の骨を全 て折られて痙攣していた。
- その身なりから、隠密機動から貴族達 に引き抜かれた暗殺者だろうと判断した 時灘は、ゆっくりと椅子から立ち上がっ て彦禰の頭を軽く撫でる。
- 「そうか、良くやったな。御苦労だっ た」
- 「はい! はい!ありがとうございま す!時灘様!」
- 子犬のように目を耀かせる彦禰を余所 に、時灘はゆっくりと暗殺者達に近づい て行った。
- そして、まだ意識があると思しき者の 前に立ち、淡々とした調子で問い掛け る。
- 「もう、君達の依頼人は全て死んだとは 思わないのか? どうしてそうも律儀に 仕事を遂行しようとするのかな?」
- 時灘がそういいながら、背後にチラリ と視線を向ける。
- そこには長い卓があり、椅子に数名の 貴族らしき者達が座っていた。
- 彼らの服にはそれぞれ時灘と同じ家紋 が縫い付けられており、綱彌代家の一族 だという事が推測される。
- しかし、彼らが動く事はなかった。
- 誰もが喉や腹を搔き切られ、絶命して いるという事が一目で解る状況だったの である。
- 「綱彌代時灘を暗殺せよ。普通に考えれ ば、依頼人は私と同じ綱彌代家の重鎮達 だ。だが、彼らはこうして死んでいる。 そのまま逃げればただで前金をせしめる 好機だったのではないかな?」
- 厂
- 暗殺者は黙して語らない。少しでも自 分や仲間の情報を漏らさぬようにしてい るのだろうが、自害しない所を見ると、 まだこちらを殺す機会を窺っているとも 受け取れた。
- そう分析した時灘は、嬉しそうに口元 を緩ませ、賞賛するように両手を上下に ゆっくりと打ち鳴らす。
- 「素晴らしい。一度受けた依頼は、例え 依頼人が死しても最後まで完遂しようと いうその心意気に、私は心からの敬意を 払おう。,,,,,,私には決してできぬ事だか らな」
- 厂
- 尚も睨み付ける暗殺者に、時灘は言っ た。
- 「ああ、その褒美として、一ついい事を 教えてやろう。君達の依頼人はまだ生き ている。つまり、君達の行為は無駄足で はなかったわけだ」
- 「……?」
- 倒れ臥したままの暗殺者が眉を顰め る。
- 仲介人がいたとはいえ、時灘の暗殺を 依頼するのは彼を疎んじている同家の者 達だろうと推測していたのだろう。
- だが、先ほど『依頼人が死んだとは思 わないのか?』と言った時灘が、今はま ったく逆の事を言いだした事に奇妙な違 和感を覚え、相手を殺す機会を窺いなが ら時灘の言葉の続きを待った。
- すると時灘は、子供をあやすような笑 顔を浮かべながらロを開く。
- 「私だよ」
- 「……?」
- 「君達に私を殺すように依頼をしたの は、私なんだ」
- 困惑する暗殺者に、時灘は続けた。
- 「綱彌代家に凶刃を持ち込んだ暗殺者を 返り討ちにした私は、既に事切れていた ―族の皆を発見する。中々に同情を誘う 筋書きだろう?」
- 「……ばか、な」
- 自分を手の平の上で踊らせていたと告 げる時灘に、暗殺者は顔を歪める。
- 仲介した人間は、いつもと同じ綱彌代 家の子飼いだった男の害だ。
- 一族にとって腫れ物である時灘には従 わない0
- だが、その推測を嘲笑うように、時灘 が言った。
- 「混乱しているね。まあ、信じようと信 じまいとどちらでもいいんだ。君のよう な暗殺者は絶望という感情を最初から抱 えている場合が多いからな。絶望させる よりも困惑させる方が面白い」
- 「なに を 」
- 声を振り絞る暗殺者に、時灘が嗤う。
- 「どうして、こんな事をベラべラと喋る と思う?この屋敷の内部に十二番隊の
- ろくれいちゆう
- 録霊蟲などが持ち込めない事を踏まえて も、自分の計画を口にするなんて愚かだ と思わないか? 私は愚かだと思う」
- そして、時灘はそのまま相手の指に足 を置いて踏みにじる。
- 「がぁツ !」
- 何本か骨が折れる音を聞きながら、時 灘は楽しそうに笑う、嗤う、愉悦う。
- 「だけどね、止められないんだ。悪癖と いう奴さ。誰かに聞かれるリスクを冒し てでも、私は見たかったんだ! 君のよ うな誇り高き暗殺者が困惑する顔を! その表情を!」
- 丁寧に、ゆっくりと、時灘は何度も何 度も男の全身の骨を踏み折りながら笑い 続けた。
- そして、不意にその笑顔を顔から消し たかと思うと、冷静に首を振りながら独 りごちる。
- 「よく考えたら、本当に誇り高ければ貴 族子飼いの暗殺者になどなる害もない か」
- 小さく溜息を吐いて、腰から斬魄刀を 抜く時灘。
- その様子を見て、彦禰が変わらずに目 を耀かせながら声を掛けた。
- 「楽しそうですね!時灘様」
- すると時灘は、自らの斬魄刀を相手の 脊髄にゆっくりと突きたてながら微笑み を返す。
- 「ああ、楽しいとも。蹂躪は楽しい。簡 単に飽きはするが、半刻もすれば再び心 が求めるものさ」
- 時灘は、その後数刻かけて暗殺者達全 員を絶命させた後、斬魄刀の血を拭いな がら彦禰へと声をかけた。
- 「さて、行こうか彦禰。凶漢に殺された 大叔父様達に代わり、私が今日から綱彌 代家の当主になったと瀞霊廷に告げなけ れぱな」
- 「はい! 時灘様!あ、これからは当 主様とお呼びした方が良いですか?」
- 「気にするな。私とお前の仲だろう。時 灘で構わない」
- 「いいんですか!時灘様!」
- 周りに十数体の死体が転がる中で、彦 禰は無邪気な笑顔を輝かせる。
- そんな男女曖昧な子供の頭を撫でなが ら、時灘は殊更に邪悪な笑みを浮かべて 断言した、
- 「なあに、構わないさ」
- れいおう
- 「彦禰は、いずれ霊王になるんだから な。対等な関係で行こうじやないか」
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