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May 11th, 2017
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  1. 現在瀞霊廷某所
  2. 「む……」
  3. そこで、男は目を醒ます。
  4. 「やれやれ、随分と懐かしい夢を見たも のだ」
  5. 男は玉座のように豪奢な安楽椅子上で 身を伸ばし、薄暗い周囲の光景に目を向 けた。
  6.  
  7. すると、最初に目に映った小柄な人影 が、目を^^と耀かせながら声を上げ る。
  8. 「お目覚めですか!時灘様!」
  9. 「ああ、良い夢を見た。幸先が良いな」
  10. 「夢ですか? どんな夢ですか! 時灘 様!」
  11. まだ年若い子供の声にそう問い掛けら れた男一綱彌代時灘は、ふむ、と今し がた見た夢の事を思いだし、口元を邪悪 な笑みで歪ませながら言葉を返した。
  12.  
  13. 「懐かしくも心地好い夢だ。今でも八ッ キリと思い出す事ができるよ。人の心が 絶望に満ちる瞬間は実に胸が空くもの だ。自分に向けられた果て無き憎悪を叩 き潰す瞬間は何度味わっても飽きる事は ない。例えそれが夢の中であってもね」
  14. 「そうなんですか? 良く解りません、 時灘様!」
  15. 「ああ、いいんだ。お前は何も解らなく ていい。まだお前は幼いからな」
  16. 時灘の視線の先にいるのは、死覇装に 似た雰囲気の黒い衣服を纏った子供だっ た0
  17.  
  18. 所属を示す隊章などは身につけておら ず Iどことなく通常の尸魂¥の住人と は違った空気を身に纏っている。
  19. 年頃は、現世の人間に当てはめるなら ば15歳前後といった所だろう。顔立ち は充分に美形といって差し支えないのだ が、中性的な顔立ちをしており、性別が 男なのか女なのか見た目で判じる事はで きない。そんな外見の子供だった。
  20. 「彦禰は何をしていた?私が起きるま でそこで棒立ちしていたわけではあるま い?」
  21.  
  22. すると、彦禰と呼ばれたその子供は、 口元に子供のような笑みを浮かべて答え る。
  23. 「はい! 時灘様に言われた通りの事を したのです!時灘様を殺そうとする人 達がいらっしゃったので、ちゃんと動か なくしておきました!」
  24. そこで時灘は、改めて周囲の景色に目 を向ける。
  25. 彦禰の周りには数名の黒装束の者達が 倒れ臥しており、何人かは四肢の骨を全 て折られて痙攣していた。
  26.  
  27. その身なりから、隠密機動から貴族達 に引き抜かれた暗殺者だろうと判断した 時灘は、ゆっくりと椅子から立ち上がっ て彦禰の頭を軽く撫でる。
  28. 「そうか、良くやったな。御苦労だっ た」
  29. 「はい! はい!ありがとうございま す!時灘様!」
  30. 子犬のように目を耀かせる彦禰を余所 に、時灘はゆっくりと暗殺者達に近づい て行った。
  31.  
  32. そして、まだ意識があると思しき者の 前に立ち、淡々とした調子で問い掛け る。
  33. 「もう、君達の依頼人は全て死んだとは 思わないのか? どうしてそうも律儀に 仕事を遂行しようとするのかな?」
  34. 時灘がそういいながら、背後にチラリ と視線を向ける。
  35. そこには長い卓があり、椅子に数名の 貴族らしき者達が座っていた。
  36. 彼らの服にはそれぞれ時灘と同じ家紋 が縫い付けられており、綱彌代家の一族 だという事が推測される。
  37.  
  38. しかし、彼らが動く事はなかった。
  39. 誰もが喉や腹を搔き切られ、絶命して いるという事が一目で解る状況だったの である。
  40. 「綱彌代時灘を暗殺せよ。普通に考えれ ば、依頼人は私と同じ綱彌代家の重鎮達 だ。だが、彼らはこうして死んでいる。 そのまま逃げればただで前金をせしめる 好機だったのではないかな?」
  41.  
  42. 暗殺者は黙して語らない。少しでも自 分や仲間の情報を漏らさぬようにしてい るのだろうが、自害しない所を見ると、 まだこちらを殺す機会を窺っているとも 受け取れた。
  43. そう分析した時灘は、嬉しそうに口元 を緩ませ、賞賛するように両手を上下に ゆっくりと打ち鳴らす。
  44. 「素晴らしい。一度受けた依頼は、例え 依頼人が死しても最後まで完遂しようと いうその心意気に、私は心からの敬意を 払おう。,,,,,,私には決してできぬ事だか らな」
  45.  
  46. 尚も睨み付ける暗殺者に、時灘は言っ た。
  47. 「ああ、その褒美として、一ついい事を 教えてやろう。君達の依頼人はまだ生き ている。つまり、君達の行為は無駄足で はなかったわけだ」
  48. 「……?」
  49. 倒れ臥したままの暗殺者が眉を顰め る。
  50. 仲介人がいたとはいえ、時灘の暗殺を 依頼するのは彼を疎んじている同家の者 達だろうと推測していたのだろう。
  51.  
  52. だが、先ほど『依頼人が死んだとは思 わないのか?』と言った時灘が、今はま ったく逆の事を言いだした事に奇妙な違 和感を覚え、相手を殺す機会を窺いなが ら時灘の言葉の続きを待った。
  53. すると時灘は、子供をあやすような笑 顔を浮かべながらロを開く。
  54. 「私だよ」
  55. 「……?」
  56. 「君達に私を殺すように依頼をしたの は、私なんだ」
  57.  
  58. 困惑する暗殺者に、時灘は続けた。
  59. 「綱彌代家に凶刃を持ち込んだ暗殺者を 返り討ちにした私は、既に事切れていた ―族の皆を発見する。中々に同情を誘う 筋書きだろう?」
  60. 「……ばか、な」
  61. 自分を手の平の上で踊らせていたと告 げる時灘に、暗殺者は顔を歪める。
  62. 仲介した人間は、いつもと同じ綱彌代 家の子飼いだった男の害だ。
  63. 一族にとって腫れ物である時灘には従 わない0
  64.  
  65. だが、その推測を嘲笑うように、時灘 が言った。
  66. 「混乱しているね。まあ、信じようと信 じまいとどちらでもいいんだ。君のよう な暗殺者は絶望という感情を最初から抱 えている場合が多いからな。絶望させる よりも困惑させる方が面白い」
  67. 「なに を 」
  68. 声を振り絞る暗殺者に、時灘が嗤う。
  69.  
  70. 「どうして、こんな事をベラべラと喋る と思う?この屋敷の内部に十二番隊の
  71. ろくれいちゆう
  72. 録霊蟲などが持ち込めない事を踏まえて も、自分の計画を口にするなんて愚かだ と思わないか? 私は愚かだと思う」
  73. そして、時灘はそのまま相手の指に足 を置いて踏みにじる。
  74. 「がぁツ !」
  75. 何本か骨が折れる音を聞きながら、時 灘は楽しそうに笑う、嗤う、愉悦う。
  76.  
  77. 「だけどね、止められないんだ。悪癖と いう奴さ。誰かに聞かれるリスクを冒し てでも、私は見たかったんだ! 君のよ うな誇り高き暗殺者が困惑する顔を! その表情を!」
  78. 丁寧に、ゆっくりと、時灘は何度も何 度も男の全身の骨を踏み折りながら笑い 続けた。
  79. そして、不意にその笑顔を顔から消し たかと思うと、冷静に首を振りながら独 りごちる。
  80. 「よく考えたら、本当に誇り高ければ貴 族子飼いの暗殺者になどなる害もない か」
  81.  
  82. 小さく溜息を吐いて、腰から斬魄刀を 抜く時灘。
  83. その様子を見て、彦禰が変わらずに目 を耀かせながら声を掛けた。
  84. 「楽しそうですね!時灘様」
  85. すると時灘は、自らの斬魄刀を相手の 脊髄にゆっくりと突きたてながら微笑み を返す。
  86. 「ああ、楽しいとも。蹂躪は楽しい。簡 単に飽きはするが、半刻もすれば再び心 が求めるものさ」
  87.  
  88. 時灘は、その後数刻かけて暗殺者達全 員を絶命させた後、斬魄刀の血を拭いな がら彦禰へと声をかけた。
  89. 「さて、行こうか彦禰。凶漢に殺された 大叔父様達に代わり、私が今日から綱彌 代家の当主になったと瀞霊廷に告げなけ れぱな」
  90. 「はい! 時灘様!あ、これからは当 主様とお呼びした方が良いですか?」
  91. 「気にするな。私とお前の仲だろう。時 灘で構わない」
  92.  
  93. 「いいんですか!時灘様!」
  94. 周りに十数体の死体が転がる中で、彦 禰は無邪気な笑顔を輝かせる。
  95. そんな男女曖昧な子供の頭を撫でなが ら、時灘は殊更に邪悪な笑みを浮かべて 断言した、
  96. 「なあに、構わないさ」
  97. れいおう
  98. 「彦禰は、いずれ霊王になるんだから な。対等な関係で行こうじやないか」
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