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Uwasa Mikoto MSS JP Text

Dec 18th, 2023
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  1. FILENAME: text_311441-1.txt
  2. みこと: 帆奈ちゃん…
  3. みこと: 私の何より大切な友だち
  4. みこと: でも…帆奈ちゃんはソウルジェムを 自ら砕いてしまった
  5. みこと: きっと…たぶん、私のために
  6. みこと: 帆奈ちゃんが私に何を残そうとしたのか 私に何をしてくれようとしたのか それはわかっているつもり
  7. みこと: それでもね… もう一度会いたかったの
  8. みこと: 思い出に埋もれて死んだように生きるなら 全力でやってみるべきだって思ったの
  9. みこと: だから私は帆奈ちゃんを蘇らせた
  10. みこと: 柊ねむの体を乗っ取って うわさをつくりだして ここに帆奈ちゃんを呼び出したの
  11. みこと: でも帆奈ちゃんのことを環いろはは 記録から生まれたコピーって言うし 柊ねむなんて帆奈ちゃんを 消そうとしたんだから!
  12. みこと: 本当、ひどいよね… 帆奈ちゃんは帆奈ちゃんなのに
  13. みこと: …だから、出られない場所に閉じ込めて 逃げてきちゃった
  14. みこと: ―みこと― 帆奈ちゃん、次はどの町に行こっか?
  15. みこと: 私は帆奈ちゃんを連れて 誰にも見つからない…誰もいない世界へ 逃避行をつづけていた
  16. みこと: そうはいっても、環いろはたちがこのまま 大人しく閉じ込められているわけはないし… きっと仲間のやつらが異変に気づいて 何か仕掛けてくるだろう
  17. みこと: それに、私たちへの魔力の供給は断たれている ウワサの体になった私たちはつねに魔力を 必要とする以上、供給が断たれるのは 近いうちの終わりを意味している…
  18. みこと: たぶんこの逃避行は、クリスマスを迎える頃に 終わるんだろうな…でも、それでもいいの 帆奈ちゃんとそれまで一緒にいられるなら…
  19. みこと: 素敵なクリスマスの中で終わろうね、帆奈ちゃん
  20. 更紗 帆奈: ―帆奈― 次の町なんて…どこでもいいよ
  21. みこと: ―みこと― え、そうなの…?
  22. みこと: ―みこと― も、もしかして帆奈ちゃん 飽きちゃった?逃げるの、つまらない?
  23. 更紗 帆奈: ―帆奈― そうじゃなくて…
  24. 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈と一緒ならどこだっていい
  25. 更紗 帆奈: ―帆奈― …せ、瀬奈は…どうかな?
  26. みこと: ―みこと― んふふ…
  27. みこと: ―みこと― 私も帆奈ちゃんと一緒なら どこだっていいよ
  28. みこと: ―みこと― 他には何にもいらない…
  29. みこと: ああ…今すぐ世界が崩壊して 私たちを永遠にしてくれたらいいのに…
  30. みこと: 流れていく時間も 私たちを覆う空気も、体の輪郭も すべて私たちには不要な… 不純なもののように思える
  31. みこと: 全部、いらないな… 私たちだけあればそれでいい
  32. みこと: でも…この思い出は どこかに残しておきたいな…
  33. 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈、種をまこうよ
  34. みこと: ―みこと― あ、うん、そうだね
  35. みこと: いつからか、こうやって花の種をまいている なんでまくことになったんだっけ…? よく覚えてないな…最近、物忘れが激しい
  36. みこと: ともかく、私たちの足跡を証明するように クリスマスが過ぎ、さらに冬が終わる頃 まいた種はきれいな花を咲かすだろう…
  37. みこと: 思い出は、ここにしまっておこう たとえ忘れてしまっても きれいに咲いてくれるなら、報われる
  38. みこと: そんなことを思ったときに ふと脳裏をよぎったのは 家族と暮らしていたあの団地だった
  39. みこと: なんでだろう? 父親をやってくれなかったあの人も 私を置いていったお母さんも いやな思い出なのに
  40. みこと: どうしてそんな思い出を忘れずに 私は思い出してしまうんだろう…
  41. みこと: どうやったって私には 普通の幸せなんて手に入らない そう、思い知らされるだけなのに
  42. 更紗 帆奈: 今晩の寝床は この町で見つけようか
  43. みこと: あれ…ここって…
  44. みこと: 偶然、立ち寄ったこの町にも団地はあって それは私が暮らしていた団地とよく似ていた
  45. みこと: 団地なんてどこも一緒だから 別に不思議じゃないし そもそも忌々しい場所なんだから 気にする必要なんてまるでないのに…
  46. みこと: 私はこの団地から目が離せないでいた
  47. 更紗 帆奈: …………
  48. 更紗 帆奈: …じゃあ、あの団地にしよっか
  49. みこと: え…?
  50. 更紗 帆奈: 団地のどこか一室を 暗示の魔法で乗っ取ってさ
  51. 更紗 帆奈: しばらく、そこで暮らそうよ
  52. みこと: しばらく…?
  53. 更紗 帆奈: ここに来るまで 落ち着く暇もなかったでしょ?
  54. 更紗 帆奈: だからまあ… ちょっと休憩しようよ
  55. みこと: でも…私たちが長く居座ると あやしまれるって…
  56. 更紗 帆奈: 瀬奈、疲れてるでしょ?
  57. 更紗 帆奈: 最近、ボーッとしてることも 多いし…今のうちに休んでおこう
  58. みこと: …ありがとう、帆奈ちゃん
  59. みこと: 確かに私は色々と消耗して ムリをしてしまっている この先のことを考えれば この辺りでしっかり休んでおくべきだ
  60. みこと: 何にもいい思い出のない… ひとりで過ごしてきたクリスマスを 今年はいい思い出にするためにも
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  62. FILENAME: text_311441-2.txt
  63. みこと: ごっはん~♪ごっはん~♪
  64. 更紗 帆奈: …ふああ…早いね、瀬奈
  65. みこと: 帆奈ちゃん、おはよう! ちょうどごはんできたよっ
  66. みこと: こっちが厚揚げともやしを ポン酢で炒めたもの、こっちは…
  67. みこと: もやしスープともやしの和え物 それでこっちのもやしが…
  68. 更紗 帆奈: …もやしが多いね
  69. みこと: だってたくさんもやしが あったんだもん
  70. みこと: もやしは足がはやいから 早く食べないと
  71. 更紗 帆奈: はは… 瀬奈はもやしが好きなんだね
  72. みこと: ううん、別に どちらかというと嫌いかな?
  73. 更紗 帆奈: そ、そうなんだ…
  74. 更紗 帆奈: まあ…瀬奈はちゃんと自炊できて 偉いね、あたしにはムリだな
  75. みこと: これからも私が ごはんつくってあげる!
  76. 更紗 帆奈: ええ…悪いよ
  77. みこと: いーの、いーの!
  78. みこと: お昼は残りのもやしスープに すいとん入れるね
  79. みこと: あ、もしかして…物足りない? 帆奈ちゃんの分は量増やす?
  80. 更紗 帆奈: い、いや…いいよ 節約は大切だから
  81. みこと: うーん…私がちゃんとお金を 稼いでこられたらなあ…
  82. みこと: そうしたら、おいしいものを 食べさせてあげられるのに
  83. 更紗 帆奈: そんなのいいって 今はゆっくりするのが大事だよ
  84. 更紗 帆奈: この家の食料が尽きたら 隣の家を乗っ取ればいいんだから
  85. みこと: そうだけど…
  86. みこと: でもやっぱり… 帆奈ちゃんには楽しい思いをしてほしい 私と一緒にいてよかったと思ってほしい
  87. みこと: …そう考えて、よさそうなお店を見つけると これまで訪れた町でもそうしたように 働けないか頼んでみた
  88. みこと: 答えはこれまで訪れた町でもそうだったように 保護者に確認させてほしい、だった
  89. みこと: (…そんなこと言われたら 諦めるしかないじゃない…)
  90. みこと: 辺りはすっかり暗くなっている あのペンも見つからなかった 何もかもうまくいかない
  91. みこと: …あのペン…私が帆奈ちゃんに 昔あげたお揃いのペン…
  92. みこと: なんで私… 今さら探してるんだっけ?
  93. みこと: …………
  94. みこと: …あ、そうだ…クリスマスに プレゼントするからだ
  95. みこと: あはは…最近、本当に忘れっぽい どうしたんだろう…
  96. みこと: なぜ記憶が薄れていっているのか 実際のところ、その理由はわかっている けれど正面から受け止める勇気がなくて 私は見て見ぬ振りをする
  97. みこと: …あ、あれ…? まだ開いてるお店がある
  98. みこと: 喫茶店だ…
  99. みこと: 店内を覗いて、私は息を呑んだ そこは私と帆奈ちゃんが 昔よく訪れていた喫茶店によく似ていた
  100. みこと: 私の住んでいた団地によく似た場所 私たちがよく行っていた喫茶店によく似た場所 なんだろう、これは…まるで思い出が私の足に まとわりついてくるようで、いやな感じがする
  101. みこと: でも…
  102. みこと: もし私が魔法少女にならず… あの喫茶店で働いていたら どうなったんだろう…?
  103. みこと: 父親…あの人はいなくならないけど 私は働いたお金を家に入れて お母さんを楽にしてあげることができる
  104. みこと: それに、もしかしたら… 私は何にも言ってないのに 事情を察した優しい帆奈ちゃんが あの人をやっつけてくれるかもしれない
  105. みこと: 帆奈ちゃんだって、あの喫茶店には 私と出会う前から行っていたみたいだから 魔法少女にならなくても出会える
  106. みこと: そして私たちは、必ず仲よくなる
  107. みこと: きっかけが違ったって… たとえ何があったって… 私と帆奈ちゃんは必ずそうなる それが運命なんだって私は信じている
  108. みこと: お客さんとしてやってくる帆奈ちゃんに 私はうれしくなってたくさん話しかけて マスターから怒られちゃって… でも、そんな時間がとても好きで…
  109. みこと: それで、家にはお母さんがいて みことのおかげで楽になったって
  110. みこと: あの人なんかいなくてもみことが いればそれでいいんだよって
  111. みこと: そう言ってくれて…
  112. みこと: 学校でも、お金の心配はないから 放課後みんなで遊びに行ったり…
  113. みこと: クレープを食べたりして…もう 貧乏な自分を隠さなくてよくて…
  114. みこと: …そうやって私は 普通の生活を送っていたのかもしれない 夢に見ていた普通の生活を…
  115. みこと: …なんて 都合がよすぎるよね
  116. みこと: それに今さら、 普通の生活なんて…
  117. みこと: …………
  118. あなた…どうしたの?
  119. みこと: ――っ!?
  120.  
  121. FILENAME: text_311441-3.txt
  122. 更紗 帆奈: 喫茶店で働く…?
  123. みこと: うん、そうなの!
  124. みこと: 昨日、昔よくふたりで行った 喫茶店に似てるお店を見つけてね
  125. みこと: 懐かしいなって覗いていたら 女の人に声をかけられちゃって
  126. みこと: で、なんとその人がマスターで トントン拍子で話が進んだの!
  127. 更紗 帆奈: …あやしくない?
  128. みこと: んふふ、帆奈ちゃんは心配性だね
  129. みこと: 男の人だったら私だって 怖いなって思うけど
  130. みこと: 別にそういうわけでもなかったし それに、ただの喫茶店だよ?
  131. みこと: あやしい仕事をさせられるなんて 考えられないし、大丈夫だよ
  132. 更紗 帆奈: うーん…
  133. みこと: そんなに心配なら 一緒に来る?
  134. みこと: 私、帆奈ちゃんと働けたら すごく幸せだと思うの!
  135. 更紗 帆奈: いや…さすがにツレも働かせろ って要求するのは図々しいよ
  136. 更紗 帆奈: …まあ、あたしはやめとく
  137. みこと: そっか…残念
  138. 更紗 帆奈: そのかわり、客として行くよ 瀬奈の働いてるところを見に
  139. みこと: え、やった!うれしいなあ
  140. 更紗 帆奈: 本当はゆっくり 体を休めてほしかったんだけど
  141. みこと: 大丈夫、大丈夫!いっぱい働いて 帆奈ちゃんにご馳走してあげる!
  142. 更紗 帆奈: だから…
  143. 更紗 帆奈: …まあ、うん…ほどほどにね?
  144. みこと: そうして私は 喫茶店のお手伝いをすることになった
  145. みこと: 店内には静かな時間が流れ 落ち着きと安らぎを求めたお客さんがやってきて 私はそんな喧噪に疲れたお客さんへ 温かなホットコーヒーを差し出す…
  146. みこと: …そんな光景を想像していたけど
  147. お姉ちゃん、コーヒーのおかわり
  148. こっちのコーヒーまだ来てないよ
  149. こっちは名物のフルーツポンチ!
  150. みこと: は、はーい!よろこんで!
  151. 私、お客さんと用事があるから 悪いけどひとりで頑張って
  152. みこと: よ、よろこんで…!
  153. みこと: ご、ご注文のコーヒーを お届けにきました…!
  154. あらやだ、本当に届いた
  155. だから言ったでしょう 喫茶店をはじめたのは本当なのよ
  156. 前までは何をやってるのか よくわからなかったものねえ…
  157. まあ、喫茶店なら安心だわ これからもよろしくね
  158. みこと: よ、よろこんで…!!
  159. みこと: 思っていたのとなんか違う…っ!
  160. みこと: ああ、忙しい…目が回る… 喫茶店ってこんなに忙しいものなの…? というか、なんで私、初日から ワンオペなの…?
  161. みこと: マスターはちょくちょくお客さんと 奥の部屋に行って何かしていて お店のことは何にもしてくれない
  162. みこと: きっと仕事は全部私に任せて 自分は楽するつもりなんだ…ひどい…
  163. みこと: あれ…ひどいのか?経営者ってそんなものかも… だいたい、身元もわからない私を受けいれて しかもなかなか弾んでくれているんだから つべこべ言わず働くべきなんじゃ…
  164. お姉ちゃん! このコーヒー軽すぎるよ!
  165. みこと: 軽いって何だ…っ!?
  166. みこと: え…?えええ~… コーヒーには重い軽いの概念があるの…!? そんなの知らないよ…だって初日なんだもん… コーヒーを淹れられてるだけでもすごいんだよ…
  167. 更紗 帆奈: せ、瀬奈…
  168. みこと: ああ、忙しさのあまり ついに幻覚まで…
  169. みこと: えへへ…けど、幻覚でもいいや 帆奈ちゃん、疲れたよ甘えさせて
  170. 更紗 帆奈: いや…幻覚じゃないから 見にいくって言ったでしょ?
  171. みこと: えっ、じゃあ… 本物の帆奈ちゃん!?
  172. みこと: た、大変!すぐここ片づけるね! ブラックコーヒーも用意するから
  173. 更紗 帆奈: …いや、いいよ
  174. みこと: へ…っ?
  175. 更紗 帆奈: ちょっとあんた、コーヒーが薄い って?この店はその味なんだよ
  176. 更紗 帆奈: 嫌ならよそへ行きな
  177. あ…っ、えっと…
  178. 更紗 帆奈: それで、あんたはおかわり? 他にはいないね?
  179. は、はい…
  180. 更紗 帆奈: あと、届ける注文がふたつか これはあたしが行くよ
  181. みこと: 手伝ってくれるの…?
  182. 更紗 帆奈: 瀬奈が困ってるのに 放っておけるわけないでしょ
  183. みこと: は、帆奈ちゃん…!
  184. 更紗 帆奈: そんじゃ ちょっと行ってくるから
  185. みこと: ありがとう!温かいコーヒーを ブラックで淹れて待ってるね!
  186. 更紗 帆奈: …………
  187. 更紗 帆奈: …行ってきます
  188. みこと: よ、よし…今のうちに 食器を洗っておかないと!
  189. みこと: 帆奈ちゃんが来てくれたおかげで 元気が戻ってきた…もっと頑張れる
  190. みこと: …やっぱり私は帆奈ちゃんがいないとダメだな なんて…当たり前のことをしみじみと思った
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  192. FILENAME: text_311441-4.txt
  193. みこと: あれからも帆奈ちゃんはお店に来ては 私の仕事を手伝ってくれている
  194. みこと: おかげでお店は順調に回り 1週間もたたないうちに 色んなお客さんが訪ねてくれるようになって 評判はうなぎ登りになった
  195. みこと: その効果もあって、商店街を歩けば みんなが気軽に声をかけてくれるようになった 私たちを優しく受けいれてくれるように…
  196. みこと: なんだか、別人の人生を送っているみたい… 私がこんな生活を送れるとは 夢にも思っていなかったから…
  197. みこと: はあ、ちょっと休憩
  198. 更紗 帆奈: じゃあ、紅茶を淹れてあげるよ
  199. みこと: ありがとう
  200. 更紗 帆奈: コーヒーを飲めないのに よくやってるねえ
  201. みこと: ダメかな…?
  202. 更紗 帆奈: ううん、すごいよ、瀬奈は
  203. みこと: えへへ…
  204. 更紗 帆奈: …マスターは何してんの? 全部瀬奈に押しつけてさ
  205. みこと: 本業が他にあるみたい 今はそっちに集中したいんだって
  206. 更紗 帆奈: なに、それ…
  207. みこと: 別にいいじゃない…無理やり 働かされてるわけじゃないし…
  208. みこと: それに…邪魔な人がいない おかげでふたりっきりだし…
  209. みこと: 帆奈ちゃんとお店を出した みたいで…私、うれしいな
  210. 更紗 帆奈: 瀬奈…
  211. みこと: うん?なあに?
  212. 更紗 帆奈: 手鍋に火をかけたらさ 底が抜けたんだけど、どうしよう
  213. みこと: えええええっ!?
  214. あの、すみません…
  215. みこと: わーっ!? お客さんだ
  216. みこと: 帆奈ちゃん、とりあえず 火、止めて!火!
  217. 更紗 帆奈: わ、わかった
  218. …忙しそうなところすみませんが 名物のフルーツポンチをください
  219. ど、どうしても食べたくて…
  220. みこと: あ、はい
  221. 更紗 帆奈: …瀬奈、どこへ行くの?
  222. みこと: フルーツポンチって裏メニュー みたいでね
  223. みこと: オーダーが通ったら マスターに言わないといけないの
  224. 更紗 帆奈: …へえ、そうなんだ
  225. フルーツポンチが入ったの?
  226. みこと: あ、マスター ちょうど今…
  227. じゃあ、これ…今日の分 もう上がっちゃっていいよ
  228. みこと: いいんですか?
  229. ふたりには頑張ってもらってるし おかげで本業もやりやすいから…
  230. 今日は特別!クリスマスも近いし ふたりで遊びにいっておいで
  231. みこと: わーい
  232. 更紗 帆奈: …あたしの分もある
  233. もちろん…あなたにも 手伝ってもらってるもの
  234. 更紗 帆奈: …………
  235. みこと: 行こう、帆奈ちゃん 私、食べたいものがあるの
  236. 更紗 帆奈: え、うん…
  237. 楽しんできたらいいわ
  238. みこと: 私は帆奈ちゃんの手を引いて クレープ屋さんへ行き イチゴとチョコレートとホイップが たっぷり入った甘いクレープを注文する
  239. みこと: 帆奈ちゃんはチーズソースのツナと コーンのクレープだった それもいいなと思ったけど… 私はやっぱり甘い方がよかった
  240. みこと: そうしてふたりでクレープを食べながら クリスマスに染まった町を歩く…
  241. みこと: …こういうことを、ずっとしてみたかった
  242. みこと: 学校終わりに友だちとクレープ屋さんに寄って それから町に繰り出してお買い物をして…
  243. みこと: 私、幸せだ…
  244. みこと: あの頃、どうやっても手に入らなかった普通が ずっと遠くの方できらきらしていたすべてが 今、ここにある
  245. 更紗 帆奈: クレープ食べてるから 店の中に入れないね
  246. みこと: もったいないよ、今入ったら
  247. 更紗 帆奈: もったいない…?
  248. みこと: うん…
  249. みこと: ねえ帆奈ちゃん…このあと お買い物いっぱいしようね
  250. みこと: カラオケにもいこっか? ボウリングもしようよ
  251. 更紗 帆奈: やることがいっぱいだ
  252. みこと: でも…全部、できる
  253. みこと: 幸せが胸をいっぱいにして苦しくなる この苦しみがとてもうれしい… 呼吸ができなくなっても それでも構わないくらいにうれしい…
  254. みこと: 今、こんなにも私の世界がきらきらしているなら クリスマス当日にはどうなってしまうんだろう…
  255. みこと: 今年は帆奈ちゃんと一緒にクリスマスを過ごす それは間違いなく最高のクリスマスになるから きっと私はきらきら光る感情に喉を絞められて 窒息してしまうだろう…
  256. みこと: そのとき、私はこう思うの この瞬間のために今までの地獄に耐えて 生きてきたんだ…と
  257. みこと: ねえ帆奈ちゃん、私…
  258. みこと: 息もできないくらい、幸せ
  259.  
  260. FILENAME: text_311442-1.txt
  261. みこと: うっ…
  262. みこと: はあ…はあ…
  263. みこと: 帆奈ちゃんは…?
  264. 更紗 帆奈: …………
  265. みこと: …よかった もう辛そうじゃない…
  266. みこと: 帆奈ちゃんはうわさの内容が影響して この世の悪意というものを取り込んでしまう そんなふうにはするつもりはなかったんだけど …バカな私のせいだ
  267. みこと: だから帆奈ちゃんへ流れる悪意を 私は自分のウワサの中へ移植させている そして結果的に、自分の記憶が薄れるような 現象を引き起こしてしまっている
  268. みこと: けれど…だからといって放っておけば 帆奈ちゃんは苦しみとともに悪意を取り込み 怒りや憎しみで 何もかも忘れてしまうかもしれない
  269. みこと: 私たちの大切な思い出すら 怒りと憎しみで上書きしてしまうかもしれない
  270. みこと: …それは、耐えられそうになかった
  271. みこと: (結局、私のわがままなんだ…)
  272. みこと: 勝手なことばかりしてごめんね、帆奈ちゃん でもね、帆奈ちゃんには私との思い出を きれいなままに残しておいてほしいの
  273. みこと: …それだけで私は 心残りがなくなるから…
  274. みこと: 『許してね、帆奈ちゃん…』
  275. 更紗 帆奈: ふわあぁ…
  276. みこと: あ、おはよう帆奈ちゃん! 遅かったね
  277. 更紗 帆奈: 熟睡しちゃったよ 疲れてたのかな…?
  278. みこと: そんな帆奈ちゃんのために とびっきりの朝食を用意しました
  279. みこと: はい、どーん!
  280. 更紗 帆奈: シャケとだし巻き玉子と… お味噌汁
  281. 更紗 帆奈: …も、もやしがない 普通だ…
  282. みこと: 普通が一番だからね!
  283. みこと: それじゃあ今日も 労働、頑張るぞ~!
  284. 更紗 帆奈: …あれ? ドアに紙が挟まってる
  285. みこと: …いつの間に? なんて書いてあるの?
  286. 更紗 帆奈: …………
  287. みこと: ねえ、なんて?
  288. 更紗 帆奈: …ねえ瀬奈 テレビつけて
  289. みこと: う、うん…いいけど
  290. みこと: テレビをつけるとニュース番組が映った クローズアップされているのは 最近つづいている通り魔事件のことで 私たちがいるこの町でも…
  291. みこと: え…ここでも起きてたの?
  292. 更紗 帆奈: あたしたちがこの町に来た日に 起きてたみたい
  293. 更紗 帆奈: 発覚は昨日の夜みたいだけど
  294. みこと: …もしかして その紙に書かれてたのって…
  295. 更紗 帆奈: 通り魔はこの町から 出ていけってさ…くだらない
  296. みこと: …………
  297. 更紗 帆奈: …客、来ないね
  298. みこと: みんな、私たちのことを 犯人だと思ってるんだよ
  299. 更紗 帆奈: なんで?あたしたちが現れたら 事件が起きたから?それだけで?
  300. みこと: あはは…たぶん、十分すぎるよ
  301. 更紗 帆奈: …ただの偶然なのに
  302. みこと: でも…ここの町の人は 話せばわかってくれると思う
  303. みこと: わかってくれないと… 普通がなくなる
  304. 更紗 帆奈: …瀬奈?
  305. みこと: 私、誤解をといてくる
  306. 更紗 帆奈: ちょっと、瀬奈!
  307.  
  308. FILENAME: text_311442-2.txt
  309. あっ、あなたは喫茶店の…
  310. 来てもらって悪いけど 今日は注文は…ねえ?
  311. え、ええ… 噂を信じてるわけじゃないのよ?
  312. でも…ねえ?
  313. みこと: 冷たいような、しつこいような視線が 大勢から注がれる…この人たちが 嘘を言っていることくらいわかった
  314. みこと: よくお店に来てフルーツポンチを 頼んでいた人にばったり出会っても 反応は同じだった
  315. …いや…面倒事には 巻き込まれたくなくて…
  316. みこと: 顔には町から出ていけと書いてあった
  317. みこと: どこに行っても、どんなふうに話しかけても みんな反応は同じ…私を犯人扱いする
  318. みこと: 確かに私は身元がわからなくて 不審なところがいっぱいあると思う
  319. みこと: でも、受けいれようとしたのは あなたたちの方じゃない
  320. みこと: こんなふうに手のひらを返すなら 最初からそんな真似、しないでよ
  321. みこと: 普通が手に入るかもなんて そんな期待…させないでよ…
  322. みこと: …みんな、いなくなればいいのに
  323. みこと: …………
  324. みこと: …あれ? 私、どうしてたんだっけ…?
  325. みこと: 思い出せない…でも どうでもいいや、そんなの…
  326. みこと: コンビニの中では私に気づいた人たちが ひそひそと何か喋っている 居心地が悪い…もうこの町はダメだ
  327. みこと: 逃げなきゃ、こんな悪意の場所から
  328. みこと: そうだ… やっぱり他人なんかがいるからダメなんだ 帆奈ちゃん以外の人は誰もいらない 私たちふたりだけの世界へ行かないと…
  329. みこと: そうじゃないと、汚される
  330. みこと: …え? 私、さっきまでコンビニに…
  331. みこと: いつの間にかこんなところまで 歩いてきちゃったんだ…
  332. 更紗 帆奈: …見つけた、瀬奈
  333. みこと: あ、帆奈ちゃん…
  334. 更紗 帆奈: 捜したよ… こんなところにいたんだ
  335. みこと: うん…
  336. 更紗 帆奈: …今さらだけど、よかったよ あたしには効果がなくて
  337. みこと: 効果?
  338. 更紗 帆奈: 瀬奈を捜すと果てなし鏡に 連れていかれるってやつ
  339. みこと: ああ…そんなの当たり前だよ
  340. みこと: 他人が私を捜せばそうなるけど 帆奈ちゃんは他人じゃないから
  341. 更紗 帆奈: そっか… まあ、何にしてもよかった
  342. 更紗 帆奈: 瀬奈を見つけるのは あたしの役割だからね
  343. みこと: …んふふ、なにそれ
  344. 更紗 帆奈: さあ?
  345. みこと: ふふふ
  346. 更紗 帆奈: ははは…
  347. みこと: …ねえ帆奈ちゃん 別の町に行こうよ、ここはもう…
  348. 更紗 帆奈: 前にクレープ食べて 遊び回ったときさ…
  349. みこと: え?う、うん
  350. 更紗 帆奈: 瀬奈、すごく楽しそうだった そんな瀬奈を見るのははじめて…
  351. 更紗 帆奈: ううん…久し振りだったよ
  352. みこと: …それは今までやりたくても できなかったことができたからで
  353. みこと: でももう、いいの 全部、終わったの
  354. 更紗 帆奈: 終わらせないよ
  355. 更紗 帆奈: 瀬奈がもう一度あんなふうに 笑えるようになるなら
  356. 更紗 帆奈: あたしが、ぶっ潰してあげる
  357. みこと: ぶっ潰すって…何をするの?
  358. 更紗 帆奈: 忘れた?あたしは混沌のヴィラン
  359. 更紗 帆奈: 『この町を混沌に陥れる存在は あたしひとりでいい』
  360. 更紗 帆奈: さあ行こう、瀬奈
  361. 更紗 帆奈: 通り魔なんていうくだらない悪を あたしたち巨悪が打ち砕くの
  362. 更紗 帆奈: …正義なんかより よっぽど信じられるでしょ?
  363. みこと: 帆奈ちゃん…
  364. 更紗 帆奈: あはは…まあ、巨悪なのは あたしだけで瀬奈は無実だけど
  365. みこと: 帆奈ちゃん 実は私もワルなんだ
  366. 更紗 帆奈: あはは…瀬奈は悪じゃなくても 別にいいんだよ
  367. 更紗 帆奈: 心配しなくても あたしは瀬奈の味方だから
  368. みこと: 帆奈ちゃんは誤解してるよ 私は本当に汚くて…
  369. 更紗 帆奈: 瀬奈はきれいだよ、絶対に
  370. みこと: 帆奈ちゃん…
  371. 更紗 帆奈: さあ、あたしの手を取って 復讐しにいくよ!
  372. みこと: …………
  373. みこと: …うん!
  374. みこと: そして私は帆奈ちゃんの手を取って きらきらとした夕日に向かって駆け出す 帆奈ちゃんはいつだって私をきらきらとした きれいな場所へ連れてってくれる…
  375. みこと: 私が辛いとき、悲しいとき 必ず私を見つけ出してくれて救ってくれる そんな帆奈ちゃんは、まるで…
  376. みこと: …ヒーローみたい
  377.  
  378. FILENAME: text_311442-3.txt
  379. 暗くなってきたな…
  380. …………
  381. …俺も、やられるのか…? 支払いが滞ってるから…
  382. 帆奈の声: 面白そうな話だね
  383. ――っ!?
  384. 更紗 帆奈: あたしたちにも詳しく聞かせてよ
  385. みこと: んふふ…まあ他の人からも だいたい聞いちゃってるけどね
  386. お、お前たちは…
  387. 話すことなんて何もない 他の連中から聞いたってのも嘘だ
  388. 更紗 帆奈: それが本当なんだなあ
  389. みこと: 帆奈ちゃんにかかれば 誰だって簡単に口を割るの
  390. え…?
  391. 更紗 帆奈: 隠していること、話しな 洗いざらい、すべて
  392. …これで全部ね
  393. みこと: マスター…大きな鞄ですね
  394. ――っ!?
  395. い、いたの…あなた
  396. みこと: ええ、いましたよ…んふふ
  397. …その格好は、なに?
  398. みこと: マスターこそ その鞄は何ですか…?
  399. ただの、荷物よ 遠くへ行くの、本業の関係で
  400. 悪いけど、あとは頼んだわ
  401. 更紗 帆奈: 逃がすわけないでしょ
  402. …あなた
  403. みこと: マスター、私たち 全部聞いているんです
  404. みこと: 悪い取り引きをここでしたことも
  405. 更紗 帆奈: フルーツポンチ…だっけ? 隠語だったんだね
  406. …何のこと?
  407. みこと: 隠さなくてもいいですよ 本当に全部聞いているんですから
  408. みこと: まあ、他の人たちにはひと足先に 警察に行ってもらったから
  409. みこと: 確認のしようがないですけど
  410. …何の冗談? 大人をからかうのはやめなさい
  411. 更紗 帆奈: それはちゃんと大人をやってる 人間が言う台詞だよ
  412. 更紗 帆奈: …少なくとも、通り魔が言う 台詞じゃないね
  413. …………
  414. 更紗 帆奈: 「あんたはもともとこの店で くだらない悪さをしていた けれど、支払いの悪い客と揉めて… 頭にきたあんたは闇夜に紛れて後ろからゴツン」
  415. 更紗 帆奈: 金もそのとき回収したんでしょ? 通り魔っていうか強盗だね…
  416. 更紗 帆奈: 「まあ、ともかくあんたは犯行を隠したかった いや、隠しきれなくても、捜査の目を誤魔化す 何かが欲しかった…そんなときだよ この店の前で瀬奈が立っていたのは」
  417. 更紗 帆奈: 「あんたはその役割を瀬奈にやってもらうため ろくにやってもいない喫茶店で働かせた」
  418. 更紗 帆奈: 「実際、この店は前まで何をやってるのか わからないって言われてたそうじゃない? 取り引き以外では使ってなかったんでしょ?」
  419. 更紗 帆奈: おかげで用具はボロボロだったよ 手鍋とかさ
  420. ふん、居抜きで買い取ってから 何も手入れしていないからね
  421. 「表向きは喫茶店として商売して その裏では…ってのをするつもりだったんだけど 思いの外、喫茶店って疲れるじゃない? だから早々に店は閉めて取り引きだけしていた」
  422. 「けれど、そこの子が働くって言うから 当初の予定通りにさせてもらっただけ… 出前なんてしたことなかったけど その子を見せるためにたくさん受けたわ」
  423. 「そうしたら…笑っちゃうわよね みんな、私が流したデマにコロッと騙されて その子のことを犯人じゃないかって…」
  424. 虫も殺したことがないような手で できるわけないのに…ふふふ
  425. みこと: マスターも誤解してるよ 私、実はワルなの
  426. ワル?家出のことを言ってるの? 可愛いわね
  427. みこと: ううん 私、世界を滅ぼそうとしたの
  428. みこと: …私はそういう悪
  429. はあ…?
  430. みこと: べちゃくちゃ喋ってるけど 要は私を騙したんだよね?
  431. みこと: 私に期待させるだけさせて くだらない遊びに付き合わせた…
  432. みこと: んふふ…悪い子
  433. …何だか知らないけど それで、どうするつもり?
  434. 言っておくけど証拠なんてないわ
  435. みこと: その鞄の中に、取り引きの品が 入ってるんじゃないの?
  436. 見てみなさい、正真正銘衣類よ
  437. 所詮子どもね、そんなものを 自分で運ぶわけないでしょう?
  438. それに、私が強盗? 記憶にないわね!あっははは
  439. みこと: ふーん…そんな態度を取るんだ
  440. なに、不満?…もしかして 観念して自白したと思ってたの?
  441. 違うわ、探偵ごっこを頑張った ご褒美に教えてあげただけ…
  442. 証拠がない以上、私の安全は 確定されているからね…あははは
  443. 更紗 帆奈: …悪いけどあたしたちは 正義の味方ってわけじゃないんだ
  444. 更紗 帆奈: だから、証拠なんていらない
  445. え…?
  446. 更紗 帆奈: 警察に自分がしたことすべて 白状して、捕まえてもらいな
  447. 更紗 帆奈: もちろん、あたしたちのことは きっちり忘れた上で
  448. 「…はい、そうです 私が通り魔事件の犯人です 喫茶店の店主もしていて、そこで違法な…」
  449. 「ええ、ええ… ですから、捕まえてください 捕まえてもらわないと困るんです」
  450. 更紗 帆奈: あいつ、連れてかれたよ
  451. みこと: …そうだね
  452. 更紗 帆奈: あたしたちの存在は バレてないみたい
  453. みこと: でも…もうここにはいられないよ 警察の目もあるし
  454. 更紗 帆奈: あの喫茶店でもう一度ってのは ムリだろうけど…
  455. 更紗 帆奈: 瀬奈の冤罪も晴れたんだし 他の場所で雇ってもらえるかも
  456. みこと: そ、そうかな…?
  457. 更紗 帆奈: 瀬奈の頑張りはみんな見てたよ だから、大丈夫
  458. 更紗 帆奈: むしろ大丈夫じゃなかったら この世のやつらの目は腐ってる
  459. みこと: 帆奈ちゃん…
  460. みこと: けれど数時間後 またこの町で通り魔事件が起きた
  461.  
  462. FILENAME: text_311442-4.txt
  463. みこと: また、起きたの…? 事件がこの町で…
  464. 更紗 帆奈: …うん、コンビニの近くで
  465. みこと: つまり…あの人は 犯人じゃなかったってこと?
  466. 更紗 帆奈: いや、そうじゃない あいつは犯人だよ
  467. 更紗 帆奈: 昨日起きた事件の犯人が 別にいるだけで
  468. みこと: それって、誰…?
  469. 更紗 帆奈: 一連の通り魔事件の犯人
  470. みこと: そっか…そうだよね あの人は一連の事件とは無関係…
  471. ドンドン!
  472. みこと: え…?
  473. 谷川さん、お宅のところから 若い子の声が聞こえるんだけど
  474. 中にいるの…本当に谷川さん? どうなの?返事して!
  475. みこと: ど、どうしよう 気づかれちゃった
  476. 更紗 帆奈: …これ、たぶん 警察にも連絡いってるね
  477. みこと: じゃあ…誘い込んで倒す?
  478. 更紗 帆奈: 逃げるの! 窓から飛び降りるよ
  479. みこと: はあ、はあ… ここまで来れば…
  480. 更紗 帆奈: …悪かったね瀬奈 こんな町、さっさと離れていれば
  481. みこと: は、帆奈ちゃんが謝ることなんて
  482. みこと: …うっ
  483. 更紗 帆奈: 瀬奈!
  484. みこと: だ、大丈夫…
  485. みこと: ちょっと、苦しくなっただけ
  486. 更紗 帆奈: …あのフード頭たちに 消耗させられてるから…
  487. みこと: (本当は悪意を移植してるせい だけど…言えないよ)
  488. 更紗 帆奈: とにかく どこか人目のつかない場所へ
  489. 更紗 帆奈: 少しの間なら、ここでも…
  490. 警察官: ――っ!?
  491. 警察官: 君たち、どこから入った? ここは関係者以外立ち入り禁止だ
  492. 更紗 帆奈: …ちっ、もういるのか
  493. 警察官: なあ、この子たちって…
  494. 警察官: もしかして…ここで働いていた っていう少女たちか…?
  495. 警察官: 君たち、少し話を…
  496. 更紗 帆奈: あたしたちのことは忘れろ!
  497. 警察官たち: …………
  498. 更紗 帆奈: 瀬奈、肩に掴まって 違うところへ行こう
  499. みこと: う、うん…
  500. な、なんであんたたちが…
  501. 更紗 帆奈: 少し、休ませてほしくて…
  502. みこと: …………
  503. どうせ警察から 逃げ回ってるんでしょ!
  504. 110番よ110番! 犯罪者が逃げ込んできたわ!
  505. 更紗 帆奈: 瀬奈は無実だって 証明したでしょ!
  506. どこがよ!あの喫茶店で 違法なことをしていたくせに
  507. 更紗 帆奈: それは瀬奈とは関係ない
  508. そんな嘘 通じるわけないでしょう
  509. みこと: 帆奈ちゃん、もういこ?
  510. 更紗 帆奈: …う、うん ごめんね瀬奈…
  511. みこと: ううん、悪いのは私だから…
  512. 更紗 帆奈: 瀬奈…
  513. 早くこの町から出ていけ!
  514. 犯罪者!
  515. 更紗 帆奈: …なあ、あんたら
  516. なによ
  517. 更紗 帆奈: あんたたちは今から全員 天井にロープを吊してそれで…
  518. みこと: ダメだよ!
  519. 更紗 帆奈: せ、瀬奈…
  520. みこと: そんな暗示、ダメだよ 私のせいでそんなことしちゃ…
  521. みこと: 帆奈ちゃんが汚れちゃう
  522. 更紗 帆奈: あたしはどれだけ汚れたっていい 瀬奈がきれいな方がうれしいから
  523. みこと: 私だって汚れてるよ…!
  524. 更紗 帆奈: そんなことない…瀬奈はきれいだ あたしが絶対に汚させない
  525. なに言ってるの、あんたたち
  526. 更紗 帆奈: …あたしたちのこと すべて忘れな
  527. …………
  528. 更紗 帆奈: さあ、行こう ここは怖くて汚いところだから
  529. みこと: うん…
  530. みこと: それから色んな場所へ行ったけど… 私たちが休める場所なんてなくて 結局、薄汚れた路地裏に戻ってきて 地べたに腰を下ろしている
  531. みこと: ここが…私たちにはお似合いなんだろう 普通の生活なんて どうやったって私たちには送れない 社会からはどうやったってはみ出してしまう
  532. みこと: 精一杯生きてるだけなのに… 私たちがここに…この世界にいてもいいと ただ認めてほしいだけなのに つまはじきにされてしまうんだ
  533. 更紗 帆奈: …瀬奈、大丈夫?
  534. みこと: うん…ごめんね、帆奈ちゃん
  535. みこと: 私、帆奈ちゃんと楽しい思い出を いっぱいつくりたかったのに…
  536. みこと: こんな思い出ばかりで…ごめんね
  537. 更紗 帆奈: …………
  538. みこと: …クリスマスだって、きっとそう ろくでもないことになるよ
  539. みこと: もう、このまま…死んじゃいたい
  540. 更紗 帆奈: …ねえ、瀬奈
  541. 更紗 帆奈: 全部、台なしにしようよ
  542. みこと: …え?
  543. 更紗 帆奈: 瀬奈を苦しめるもの 縛りつけるもの
  544. 更紗 帆奈: そういうのを全部 台なしにしてやるんだ
  545. みこと: そ、それって…
  546. 更紗 帆奈: どうする、瀬奈… あたしと一緒にやる?
  547. みこと: …そんなの、答えは最初から決まっていた
  548. みこと: もう1回やろう、全部を台なしに
  549.  
  550. FILENAME: text_311443-1.txt
  551. 更紗 帆奈: 全部台なしにするぞ計画…?
  552. 更紗 帆奈: あー…うん、そうそう そんな名前だったね
  553. 更紗 帆奈: そのときは…まあ… そういう結果…だった、でしょ?
  554. 更紗 帆奈: だから、今度はもっと派手に… バアーッと台なしにしてやるの
  555. 更紗 帆奈: どうやるって… そんなの簡単だよ
  556. 更紗 帆奈: 爆弾を仕掛ける
  557. みこと: 帆奈ちゃんは町のあらゆる場所に 爆弾を仕掛けて それを一気に爆発させようと言った
  558. みこと: そうしたら、いやなものが全部吹き飛んで きれいさっぱり忘れられるし それに何より…
  559. 更紗 帆奈: 人生っていうクソ映画には もってこいのエンディングでしょ
  560. 更紗 帆奈: 爆発オチってさ
  561. みこと: …ということらしい
  562. みこと: でも…そんなことしたら 人が死んじゃうね
  563. みこと: …ダメだよ、そんなの
  564. みこと: ううん、他人の命なんて どうだっていい、私がいやなのは
  565. みこと: 帆奈ちゃんの手が 血に染まってしまうこと
  566. みこと: …汚れてしまうこと
  567. みこと: それは、いやだよ…
  568. 更紗 帆奈: あたしは願いを叶えた時点で すでに手が汚れている
  569. 更紗 帆奈: あいつらを消したときは そりゃ興奮して舞い上がったけど
  570. 更紗 帆奈: 「同時に…取り返しのつかないことを してしまったなって内心思ったよ」
  571. 更紗 帆奈: いや…あんなやつらでも命は 大切だとかそういう話じゃなく…
  572. 更紗 帆奈: …………
  573. 更紗 帆奈: …本当はなりたかったんだ 弱い者を守る正義の味方に
  574. 更紗 帆奈: …誰かを救うヒーローに
  575. 更紗 帆奈: けど、もうそんな自分には絶対に なれないんだって思っただけ…
  576. 更紗 帆奈: まあ、あいつらだけじゃなく 直接消した覚えはなくても
  577. 更紗 帆奈: あたしの暗示の影響や 解き放った魔女のせいで
  578. 更紗 帆奈: ひどい思いをしたやつらは きっと大勢いる…
  579. 更紗 帆奈: だからせめて…あたしは ヴィランでありつづけないと
  580. 更紗 帆奈: 本当はこんな事情がありました お涙ちょうだい…なんて
  581. 更紗 帆奈: …そいつらへの冒涜だよ
  582. 更紗 帆奈: だからあたしのことはいいの 何にも気にしないで
  583. 更紗 帆奈: というわけで…
  584. 更紗 帆奈: さっそく爆弾をつくろうー!
  585. みこと: う、うん…
  586. 更紗 帆奈: 瀬奈ー なんでテンション低いの?
  587. 更紗 帆奈: 爆弾だよ?爆弾つくるんだよ? 楽しくない?
  588. みこと: た、楽しい…えへへ
  589. 更紗 帆奈: …………
  590. 更紗 帆奈: …瀬奈、いやだったら…
  591. みこと: いやなことないよ! 今度こそ台なしにするんだもん!
  592. みこと: そうだ、今度こそ全部台なしにするんだ あの楽しい思い出を、もう一度やり直すんだ いやになるわけがない…!
  593. みこと: 帆奈ちゃんが罪を抱えるつもりなら 今度は分けてもらえればいい ふたりで罪も、苦しみも分け合えれば 何も不安になることはない
  594. みこと: むしろそれは…私を安定させるはずだから
  595. みこと: それで、爆弾って どうやってつくるの?
  596. 更紗 帆奈: この辺に落ちてる鉄パイプを これくらいに切る
  597. 更紗 帆奈: 火薬とかはあたしが暗示を使って コツコツ集めてくるから
  598. 更紗 帆奈: 瀬奈はひたすらこれを切ってて
  599. みこと: ウワサの力を見せるときだね
  600. 更紗 帆奈: こ、壊さないでよ?
  601. みこと: どれくらい切ればいいの?
  602. 更紗 帆奈: この町のいたるところに 仕掛けるわけだから…
  603. 更紗 帆奈: まあ、とにかくいっぱい
  604. みこと: えー適当~
  605. みこと: そうして私たちは笑いながら 爆弾をつくりはじめる
  606. みこと: なんだか、文化祭の準備をしているみたいで とても楽しかった
  607.  
  608. FILENAME: text_311443-2.txt
  609. みこと: 私ひとりだったら爆弾なんて とてもつくれなかっただろうけど 帆奈ちゃんのおかげで ずらっと並べれば壮観なくらい爆弾をつくれた
  610. みこと: 準備はすべて整った 第2次全部台なしにするぞ計画の開始だ
  611. 更紗 帆奈: はい、これ
  612. みこと: え…?
  613. 更紗 帆奈: 記念すべき第1号爆弾 どこに仕掛ける?
  614. みこと: それは…
  615. みこと: やっぱりここだよねー
  616. 更紗 帆奈: 瀬奈、大きい声出すと 警察に見つかるから…
  617. みこと: あ、帆奈ちゃん 爆弾って落としていいんだっけ?
  618. みこと: 手が滑って 落としちゃったんだけど
  619. 更紗 帆奈: ええええええっ!?
  620. みこと: 帆奈ちゃん、声!声!
  621. 更紗 帆奈: いや…まさか気軽に爆弾を 落とす人がいるとは思わなくて…
  622. みこと: あ…何ともない 案外丈夫なんだね
  623. 更紗 帆奈: …そうだね
  624. みこと: んふふ…ここが爆発するんだ
  625. みこと: 散々大変な思いをさせられたけど これですっきりするね
  626. 更紗 帆奈: よーし、それじゃあ 次に行ってみよう!
  627. みこと: ここも爆発させちゃおう!
  628. 更紗 帆奈: いいねー!とくにここは 念入りに爆発させよう
  629. みこと: あははは!
  630. みこと: ここだって爆発させるの!
  631. みこと: 何が私の家に似てるだ! 知るかバカヤロー!
  632. 更紗 帆奈: バカヤロー!
  633. みこと: あっはは!こんなの 全部なくなればいい!
  634. 更紗 帆奈: ははは!
  635. みこと: この屋上も本当 腹が立つくらい似てる
  636. みこと: だからもうなくなればいい!
  637. みこと: 爆弾で、消し飛べ!
  638. みこと: 思い出からなくなればいいのよ!
  639. みこと: そう…お願いだから私のために消えて いつまでも私にまとわりついてこないで
  640. みこと: こんなところ、寂しい思い出しかない ずっとひとりで時間を潰してた そんな思い出しか…
  641. みこと: だからなくなってよ、私のために…!
  642. みこと: 思い返してみれば 私の人生なんてなくなってほしい思い出ばかり 辛いこと、悲しいこと、打ちのめされること …そんなことばかりだったから
  643. みこと: それでも人の生は素晴らしいものだって 生きる意味があるんだってよく言うけど そんなの、愛された思い出がある人の話
  644. みこと: 私にはそんな記憶がないから 自分の価値がどうしてもわからなくて 全部を…自分自身を台なしにしてしまう
  645. みこと: でもそこに後悔なんてない そうしなくちゃ抑えきれないものがあって 私はその衝動に身を任せたくなるだけ
  646. みこと: 自分含めて何もかもを無茶苦茶にすることで クリスマスのとき、ひとりぼっちだった自分も あらゆるとき、ひとりぼっちだった私を 救えるような気がするの
  647. みこと: だから、私は爆弾を仕掛ける 頭がいやな思い出に呑み込まれて 叫びたくなるような感情に支配される前に 爆弾ですべてなくすの
  648. みこと: 普通っていうレールに 乗ることすらできなくて ただ普通行きの列車を見送っていた私には こうすることしかできない
  649. みこと: 愛は知らないから爆弾をあげる
  650. みこと: 怒りや憎しみ、悲しみだって… 私のすべてをあげるから… ここからなくなってよ
  651. みこと: 思い出なんてなくなってしまえ
  652. みこと: 全部なくなれ…
  653. みこと: …私もなくなれ
  654. みこと: 何もかも雪みたいに溶けて きれいになくなればいい
  655. 更紗 帆奈: …全部、仕掛け終わったね あとは爆発させるだけ
  656. みこと: そうだね
  657. 更紗 帆奈: …ここなら見晴らしがいいから よく爆発が見えると思うよ
  658. みこと: だから…ここに?
  659. 更紗 帆奈: さあね…
  660. 更紗 帆奈: …それで、どうする? ここで一緒に見る?
  661. 更紗 帆奈: 全部が吹っ飛ぶ瞬間をさ
  662. みこと: 帆奈ちゃんはどこか私を試すような口調だった それでも私は…
  663. みこと: 見てるんじゃなくて爆発させるの 起爆装置を貸して
  664. 更紗 帆奈: これ?
  665. みこと: うん…私が爆発させる
  666.  
  667. FILENAME: text_311443-3.txt
  668. みこと: …………
  669. みこと: 私はまじまじと起爆装置を見つめる 手のひらにすっぽり収まるサイズで ボタンはシンプルにひとつだけ
  670. みこと: どういう仕組みなのか知らないけど とにかく帆奈ちゃんがそうつくったんだから このボタンを押せばそれだけで町に仕掛けた 爆弾が一斉に爆発することになるだろう
  671. みこと: (このボタンを押すだけで 全部がなくなる…)
  672. 更紗 帆奈: …怖い?
  673. みこと: ううん…
  674. みこと: 別に怖さはなかった 罪悪感もとくにない
  675. みこと: それが寂しかった
  676. 更紗 帆奈: じゃあ… カウントダウンをしようか
  677. 更紗 帆奈: 10秒前からはじめて ゼロになったらボタンを押す
  678. 更紗 帆奈: …それで、きれいに終わり
  679. みこと: わかった
  680. 更紗 帆奈: 本当にいい? 後悔はしないね…?
  681. みこと: …後悔なんて、しないよ
  682. 更紗 帆奈: だったら…
  683. みこと: 帆奈ちゃんがカウントダウンをはじめる 私は普通にはなれない…そんな現実を 突きつけてきたすべてがもうすぐ消えてなくなる
  684. みこと: あの喫茶店だって、もうすぐなくなる
  685. みこと: 悪い取り引きが行われていた現場だし 警察が見張っているような場所なんだから きれいさっぱりなくなった方がいい 何の後悔もない
  686. みこと: それとも、あのマスターだって 親切にしてくれたところはあったんだと きれいごとを並べてみる?
  687. みこと: 手のひらを返した町の人たちだって 最初は優しくしてくれたんだって…
  688. みこと: …そんなの、できるわけがない 思い出ごとなくなってしまえばいい
  689. みこと: そうだ、なくなればいいんだ あんな思い出…
  690. みこと: …でも
  691. みこと: …でもね…
  692. みこと: 帆奈ちゃんと一緒に お店を切り盛りした思い出は なくなってほしくないな…
  693. みこと: 本当に束の間だったけど 私も、帆奈ちゃんも あのときだけは普通の子で… 忙しかったけど心から楽しくて…
  694. みこと: …あんな思い出をなくしたくない
  695. みこと: 帆奈ちゃんにいっぱいごはんを つくってあげた思い出も なくしたくない
  696. みこと: 何でも食べられるって言っておいて ピーマンを出したとき 苦そうにしながら食べてた帆奈ちゃんだって いつまでも覚えていたい
  697. みこと: あれくらいで苦いって思うんなら 本当はコーヒーなんて飲めないんじゃないの?
  698. みこと: きっとそうだ…帆奈ちゃん恒例の虚勢だ…
  699. みこと: んふふ、可愛いな…帆奈ちゃんは
  700. みこと: ふたりでクレープを食べた思い出も そのあと、お洋服を一緒に見たことも やっぱり帆奈ちゃんにはズボンより ロングスカートの方が似合っていたことも
  701. みこと: それから、カラオケに行って え、そんな歌うたうんだ… 世界観強いね、帆奈ちゃん…ってなったことも …んふふ、それは忘れた方がいいのかな?
  702. みこと: でも、なくしたくはないよ
  703. みこと: どんな場所、どんな場面を思い出しても そこには必ず帆奈ちゃんがいる
  704. みこと: だから、きらきらと輝いている
  705. みこと: この町でのいやな思い出はたくさんある そんなのは本当になくしてしまいたい
  706. みこと: けれどその代償に… 帆奈ちゃんとの思い出がなくなるのはいやだ
  707. 更紗 帆奈: 2…1…
  708. みこと: ――っ!?
  709. みこと: は、帆奈ちゃん ちょっと待って、私…!
  710. 更紗 帆奈: …ゼロ
  711. みこと: 『…え?』
  712. みこと: メリーゴーランドだ…
  713. みこと: 私の目の前では ところどころ壊れたメリーゴーランドが それでもきらきらとした光をまとって ゆっくりと動き出している
  714. みこと: 光が躍っているようだった… まばゆく光って回るメリーゴーランドは その美しさによって存在を証明していて なんだか、とても貴重なもののように思える
  715. みこと: 辺りには他にもアトラクションがあった そうか、ここは遊園地だったんだ… 外灯こそ薄ら点いているけど それ以外は暗闇に呑まれてしまっている
  716. みこと: メリーゴーランドだけが希望の世界にいるように いつまでも、いつまでも…輝きを放っていた
  717. みこと: 握り締めていたはずの起爆装置は 気づけば地面に落ちていて、そのかわりに 帆奈ちゃんが私の手を優しく握っている
  718. みこと: ―みこと― きれい…
  719. 更紗 帆奈: ―帆奈― 大変だったんだよ、直すの
  720. みこと: ―みこと― これ、帆奈ちゃんが直したの?
  721. 更紗 帆奈: ―帆奈― 他に誰がすんのさ…火薬を集めにいく振りをして こっそりメリーゴーランドの修理をしてたの
  722. 更紗 帆奈: ―帆奈― あ、一応言っておくけど、あの爆弾は偽物だから 見た目だけ似てるけど、爆発はしない
  723. 更紗 帆奈: ―帆奈― …というか、あたしが瀬奈に人殺しなんか させるわけないでしょ
  724. 更紗 帆奈: ―帆奈― まあ…あんたが爆弾を落としたとき、偽物だって バレないか内心ヒヤヒヤしてたけど…あっはは
  725. みこと: ―みこと― なんで、そんなことを…
  726. 更紗 帆奈: ―帆奈― …偽物でよかったでしょ? その気持ちを忘れないでほしくてさ
  727. みこと: ―みこと― このメリーゴーランドは…?
  728. 更紗 帆奈: ―帆奈― え、これ…? これを直した理由は…
  729. 更紗 帆奈: ―帆奈― きれいなものを見せて 瀬奈をよろこばせたいなって…そう思ったから
  730. 更紗 帆奈: ―帆奈― …だってさ、ここに来て いい思い出つくれなかったでしょ?
  731. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしは瀬奈にたくさん いい思い出をあげたい
  732. 更紗 帆奈: ―帆奈― ずっと笑っていてほしい
  733. 更紗 帆奈: ―帆奈― だから…ほら、きれいでしょ? うれしくない…?
  734. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたし、瀬奈に気に入ってもらうために すごく頑張ったんだよ
  735. みこと: ―みこと― そんなことのために…
  736. 更紗 帆奈: ―帆奈― そんなこと…じゃないよ 私にはそれがすべてなんだ
  737. みこと: ―みこと― …帆奈、ちゃん…
  738. 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈がいやな思いをしたら あたしがきれいな思い出で塗り替えてあげる
  739. 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈が悲しい思いをしたら あたしが何をしてでも笑わせてみせる
  740. 更紗 帆奈: ―帆奈― だからさ…笑ってよ、瀬奈
  741. みこと: ―みこと― …わ…笑って、よ…って…
  742. みこと: ―みこと― …っ、ずっと…笑ってるよ…
  743. 更紗 帆奈: ―帆奈― 嘘…泣いてる
  744. みこと: ―みこと― 帆奈ちゃんがバカなことするから…
  745. みこと: ―みこと― ホント、帆奈ちゃんはいつもそう 私なんかのためにムリして、頑張って
  746. みこと: ―みこと― そうやって私に きらきらとしたものを見せてくれる
  747. みこと: ―みこと― …あの夜景と一緒
  748. 更紗 帆奈: ―帆奈― …………
  749. みこと: ―みこと― ねえ帆奈ちゃん、わかってないみたいだから ちゃんと教えておくね
  750. みこと: ―みこと― 私にとって帆奈ちゃんが希望なの
  751. みこと: ―みこと― 世界が輝いているんじゃない… 帆奈ちゃんがいるから、私の世界が輝くの
  752. みこと: ―みこと― 私はね…ずっと…ずっと…っ
  753. みこと: ―みこと― 帆奈ちゃんと一緒に この灯りを見たかったの…っ
  754. 更紗 帆奈: ―帆奈― …そう、なの…?
  755. みこと: ―みこと― そうだよ
  756. みこと: ―みこと― …帆奈ちゃんのバカ
  757. みこと: そうして私たちは手を取り合ったまま メリーゴーランドへ向かって 動いているお馬さんの上に タイミングを見計らってちょこんと座る
  758. みこと: お馬さんは、ぐるぐる、ぐるぐると回る そんなふうにきらきらとした光の中を 回っていると何もかもがきらめいて見えた
  759. みこと: 振り返ると帆奈ちゃんが笑っている だから、私も笑った
  760. みこと: 帆奈ちゃんがつくってくれた光は 本当にきれいで… これさえあれば悲しくない気がして
  761. みこと: …私はとっても幸せだった…
  762.  
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  764. みこと: あの夜が明けると メリーゴーランドは動かなくなって 私たちは町をあとにした
  765. みこと: どうして動かなくなったのかはわからない それは朝日とともに魔法が解けたように パタリと停止して、それっきりだった
  766. みこと: まるで…帆奈ちゃんが見せてくれた メリーゴーランドのきれいな光を あの夜だけの思い出にしたかったように
  767. 更紗 帆奈: ―帆奈― あの町のやつら、騒いでるかな? 爆弾、置いたままだから
  768. みこと: ―みこと― 偽物なんでしょう?
  769. 更紗 帆奈: ―帆奈― 偽物だけどさ… 見た目はパイプ爆弾そのものだから
  770. みこと: ―みこと― まあ、あんなのが意味ありげに置いてあったら びっくりするかもしれないね
  771. 更紗 帆奈: ―帆奈― びっくりする程度か… なんだか小っさいね、あたしたちの復讐
  772. みこと: 確かに小さいけれど… 他人に迷惑をかけているのは事実だろう
  773. みこと: でも私たちはこうやってしか生きていけない
  774. みこと: 普通になれないレールの上を ずっと歩いてきたし…これからも このレールの上を最後まで歩くはずだから…
  775. みこと: ―みこと― …そうだ、種をまこっか
  776. みこと: 私は袋からスノードロップの種を取り出すと 帆奈ちゃんと一緒にレールの上へまいた 普通への憧れとここで決別するためにも…
  777. みこと: ―みこと― そういえば…結局暗示で あの町の人たちから私たちのこと忘れさせたね
  778. 更紗 帆奈: ―帆奈― その方がいいでしょ?
  779. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしたちのことはあたしたちだけが 覚えていればいい…あとはせいぜい
  780. 更紗 帆奈: ―帆奈― …この花くらいかな?
  781. みこと: 私は冬が終わる頃に咲く スノードロップを想像した
  782. みこと: 私たちの足跡を証明するように 真っ白な花が転々と咲くその光景を…
  783. みこと: ―みこと― …ちゃんと言えてなかったけど…
  784. 更紗 帆奈: ―帆奈― うん…?
  785. みこと: あのね…
  786. みこと: 私は帆奈ちゃんに出会えて 本当によかったと思ってる…
  787. みこと: 帆奈ちゃんがいるから この世界で私は生きているし
  788. みこと: こんな世界でも 生きていたいと思える
  789. みこと: だから…
  790. みこと: …………
  791. みこと: ねえ帆奈ちゃん 今度は置いていかないでね
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