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- FILENAME: text_311441-1.txt
- みこと: 帆奈ちゃん…
- みこと: 私の何より大切な友だち
- みこと: でも…帆奈ちゃんはソウルジェムを 自ら砕いてしまった
- みこと: きっと…たぶん、私のために
- みこと: 帆奈ちゃんが私に何を残そうとしたのか 私に何をしてくれようとしたのか それはわかっているつもり
- みこと: それでもね… もう一度会いたかったの
- みこと: 思い出に埋もれて死んだように生きるなら 全力でやってみるべきだって思ったの
- みこと: だから私は帆奈ちゃんを蘇らせた
- みこと: 柊ねむの体を乗っ取って うわさをつくりだして ここに帆奈ちゃんを呼び出したの
- みこと: でも帆奈ちゃんのことを環いろはは 記録から生まれたコピーって言うし 柊ねむなんて帆奈ちゃんを 消そうとしたんだから!
- みこと: 本当、ひどいよね… 帆奈ちゃんは帆奈ちゃんなのに
- みこと: …だから、出られない場所に閉じ込めて 逃げてきちゃった
- みこと: ―みこと― 帆奈ちゃん、次はどの町に行こっか?
- みこと: 私は帆奈ちゃんを連れて 誰にも見つからない…誰もいない世界へ 逃避行をつづけていた
- みこと: そうはいっても、環いろはたちがこのまま 大人しく閉じ込められているわけはないし… きっと仲間のやつらが異変に気づいて 何か仕掛けてくるだろう
- みこと: それに、私たちへの魔力の供給は断たれている ウワサの体になった私たちはつねに魔力を 必要とする以上、供給が断たれるのは 近いうちの終わりを意味している…
- みこと: たぶんこの逃避行は、クリスマスを迎える頃に 終わるんだろうな…でも、それでもいいの 帆奈ちゃんとそれまで一緒にいられるなら…
- みこと: 素敵なクリスマスの中で終わろうね、帆奈ちゃん
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 次の町なんて…どこでもいいよ
- みこと: ―みこと― え、そうなの…?
- みこと: ―みこと― も、もしかして帆奈ちゃん 飽きちゃった?逃げるの、つまらない?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― そうじゃなくて…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈と一緒ならどこだっていい
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …せ、瀬奈は…どうかな?
- みこと: ―みこと― んふふ…
- みこと: ―みこと― 私も帆奈ちゃんと一緒なら どこだっていいよ
- みこと: ―みこと― 他には何にもいらない…
- みこと: ああ…今すぐ世界が崩壊して 私たちを永遠にしてくれたらいいのに…
- みこと: 流れていく時間も 私たちを覆う空気も、体の輪郭も すべて私たちには不要な… 不純なもののように思える
- みこと: 全部、いらないな… 私たちだけあればそれでいい
- みこと: でも…この思い出は どこかに残しておきたいな…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈、種をまこうよ
- みこと: ―みこと― あ、うん、そうだね
- みこと: いつからか、こうやって花の種をまいている なんでまくことになったんだっけ…? よく覚えてないな…最近、物忘れが激しい
- みこと: ともかく、私たちの足跡を証明するように クリスマスが過ぎ、さらに冬が終わる頃 まいた種はきれいな花を咲かすだろう…
- みこと: 思い出は、ここにしまっておこう たとえ忘れてしまっても きれいに咲いてくれるなら、報われる
- みこと: そんなことを思ったときに ふと脳裏をよぎったのは 家族と暮らしていたあの団地だった
- みこと: なんでだろう? 父親をやってくれなかったあの人も 私を置いていったお母さんも いやな思い出なのに
- みこと: どうしてそんな思い出を忘れずに 私は思い出してしまうんだろう…
- みこと: どうやったって私には 普通の幸せなんて手に入らない そう、思い知らされるだけなのに
- 更紗 帆奈: 今晩の寝床は この町で見つけようか
- みこと: あれ…ここって…
- みこと: 偶然、立ち寄ったこの町にも団地はあって それは私が暮らしていた団地とよく似ていた
- みこと: 団地なんてどこも一緒だから 別に不思議じゃないし そもそも忌々しい場所なんだから 気にする必要なんてまるでないのに…
- みこと: 私はこの団地から目が離せないでいた
- 更紗 帆奈: …………
- 更紗 帆奈: …じゃあ、あの団地にしよっか
- みこと: え…?
- 更紗 帆奈: 団地のどこか一室を 暗示の魔法で乗っ取ってさ
- 更紗 帆奈: しばらく、そこで暮らそうよ
- みこと: しばらく…?
- 更紗 帆奈: ここに来るまで 落ち着く暇もなかったでしょ?
- 更紗 帆奈: だからまあ… ちょっと休憩しようよ
- みこと: でも…私たちが長く居座ると あやしまれるって…
- 更紗 帆奈: 瀬奈、疲れてるでしょ?
- 更紗 帆奈: 最近、ボーッとしてることも 多いし…今のうちに休んでおこう
- みこと: …ありがとう、帆奈ちゃん
- みこと: 確かに私は色々と消耗して ムリをしてしまっている この先のことを考えれば この辺りでしっかり休んでおくべきだ
- みこと: 何にもいい思い出のない… ひとりで過ごしてきたクリスマスを 今年はいい思い出にするためにも
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- みこと: ごっはん~♪ごっはん~♪
- 更紗 帆奈: …ふああ…早いね、瀬奈
- みこと: 帆奈ちゃん、おはよう! ちょうどごはんできたよっ
- みこと: こっちが厚揚げともやしを ポン酢で炒めたもの、こっちは…
- みこと: もやしスープともやしの和え物 それでこっちのもやしが…
- 更紗 帆奈: …もやしが多いね
- みこと: だってたくさんもやしが あったんだもん
- みこと: もやしは足がはやいから 早く食べないと
- 更紗 帆奈: はは… 瀬奈はもやしが好きなんだね
- みこと: ううん、別に どちらかというと嫌いかな?
- 更紗 帆奈: そ、そうなんだ…
- 更紗 帆奈: まあ…瀬奈はちゃんと自炊できて 偉いね、あたしにはムリだな
- みこと: これからも私が ごはんつくってあげる!
- 更紗 帆奈: ええ…悪いよ
- みこと: いーの、いーの!
- みこと: お昼は残りのもやしスープに すいとん入れるね
- みこと: あ、もしかして…物足りない? 帆奈ちゃんの分は量増やす?
- 更紗 帆奈: い、いや…いいよ 節約は大切だから
- みこと: うーん…私がちゃんとお金を 稼いでこられたらなあ…
- みこと: そうしたら、おいしいものを 食べさせてあげられるのに
- 更紗 帆奈: そんなのいいって 今はゆっくりするのが大事だよ
- 更紗 帆奈: この家の食料が尽きたら 隣の家を乗っ取ればいいんだから
- みこと: そうだけど…
- みこと: でもやっぱり… 帆奈ちゃんには楽しい思いをしてほしい 私と一緒にいてよかったと思ってほしい
- みこと: …そう考えて、よさそうなお店を見つけると これまで訪れた町でもそうしたように 働けないか頼んでみた
- みこと: 答えはこれまで訪れた町でもそうだったように 保護者に確認させてほしい、だった
- みこと: (…そんなこと言われたら 諦めるしかないじゃない…)
- みこと: 辺りはすっかり暗くなっている あのペンも見つからなかった 何もかもうまくいかない
- みこと: …あのペン…私が帆奈ちゃんに 昔あげたお揃いのペン…
- みこと: なんで私… 今さら探してるんだっけ?
- みこと: …………
- みこと: …あ、そうだ…クリスマスに プレゼントするからだ
- みこと: あはは…最近、本当に忘れっぽい どうしたんだろう…
- みこと: なぜ記憶が薄れていっているのか 実際のところ、その理由はわかっている けれど正面から受け止める勇気がなくて 私は見て見ぬ振りをする
- みこと: …あ、あれ…? まだ開いてるお店がある
- みこと: 喫茶店だ…
- みこと: 店内を覗いて、私は息を呑んだ そこは私と帆奈ちゃんが 昔よく訪れていた喫茶店によく似ていた
- みこと: 私の住んでいた団地によく似た場所 私たちがよく行っていた喫茶店によく似た場所 なんだろう、これは…まるで思い出が私の足に まとわりついてくるようで、いやな感じがする
- みこと: でも…
- みこと: もし私が魔法少女にならず… あの喫茶店で働いていたら どうなったんだろう…?
- みこと: 父親…あの人はいなくならないけど 私は働いたお金を家に入れて お母さんを楽にしてあげることができる
- みこと: それに、もしかしたら… 私は何にも言ってないのに 事情を察した優しい帆奈ちゃんが あの人をやっつけてくれるかもしれない
- みこと: 帆奈ちゃんだって、あの喫茶店には 私と出会う前から行っていたみたいだから 魔法少女にならなくても出会える
- みこと: そして私たちは、必ず仲よくなる
- みこと: きっかけが違ったって… たとえ何があったって… 私と帆奈ちゃんは必ずそうなる それが運命なんだって私は信じている
- みこと: お客さんとしてやってくる帆奈ちゃんに 私はうれしくなってたくさん話しかけて マスターから怒られちゃって… でも、そんな時間がとても好きで…
- みこと: それで、家にはお母さんがいて みことのおかげで楽になったって
- みこと: あの人なんかいなくてもみことが いればそれでいいんだよって
- みこと: そう言ってくれて…
- みこと: 学校でも、お金の心配はないから 放課後みんなで遊びに行ったり…
- みこと: クレープを食べたりして…もう 貧乏な自分を隠さなくてよくて…
- みこと: …そうやって私は 普通の生活を送っていたのかもしれない 夢に見ていた普通の生活を…
- みこと: …なんて 都合がよすぎるよね
- みこと: それに今さら、 普通の生活なんて…
- みこと: …………
- あなた…どうしたの?
- みこと: ――っ!?
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- 更紗 帆奈: 喫茶店で働く…?
- みこと: うん、そうなの!
- みこと: 昨日、昔よくふたりで行った 喫茶店に似てるお店を見つけてね
- みこと: 懐かしいなって覗いていたら 女の人に声をかけられちゃって
- みこと: で、なんとその人がマスターで トントン拍子で話が進んだの!
- 更紗 帆奈: …あやしくない?
- みこと: んふふ、帆奈ちゃんは心配性だね
- みこと: 男の人だったら私だって 怖いなって思うけど
- みこと: 別にそういうわけでもなかったし それに、ただの喫茶店だよ?
- みこと: あやしい仕事をさせられるなんて 考えられないし、大丈夫だよ
- 更紗 帆奈: うーん…
- みこと: そんなに心配なら 一緒に来る?
- みこと: 私、帆奈ちゃんと働けたら すごく幸せだと思うの!
- 更紗 帆奈: いや…さすがにツレも働かせろ って要求するのは図々しいよ
- 更紗 帆奈: …まあ、あたしはやめとく
- みこと: そっか…残念
- 更紗 帆奈: そのかわり、客として行くよ 瀬奈の働いてるところを見に
- みこと: え、やった!うれしいなあ
- 更紗 帆奈: 本当はゆっくり 体を休めてほしかったんだけど
- みこと: 大丈夫、大丈夫!いっぱい働いて 帆奈ちゃんにご馳走してあげる!
- 更紗 帆奈: だから…
- 更紗 帆奈: …まあ、うん…ほどほどにね?
- みこと: そうして私は 喫茶店のお手伝いをすることになった
- みこと: 店内には静かな時間が流れ 落ち着きと安らぎを求めたお客さんがやってきて 私はそんな喧噪に疲れたお客さんへ 温かなホットコーヒーを差し出す…
- みこと: …そんな光景を想像していたけど
- お姉ちゃん、コーヒーのおかわり
- こっちのコーヒーまだ来てないよ
- こっちは名物のフルーツポンチ!
- みこと: は、はーい!よろこんで!
- 私、お客さんと用事があるから 悪いけどひとりで頑張って
- みこと: よ、よろこんで…!
- みこと: ご、ご注文のコーヒーを お届けにきました…!
- あらやだ、本当に届いた
- だから言ったでしょう 喫茶店をはじめたのは本当なのよ
- 前までは何をやってるのか よくわからなかったものねえ…
- まあ、喫茶店なら安心だわ これからもよろしくね
- みこと: よ、よろこんで…!!
- みこと: 思っていたのとなんか違う…っ!
- みこと: ああ、忙しい…目が回る… 喫茶店ってこんなに忙しいものなの…? というか、なんで私、初日から ワンオペなの…?
- みこと: マスターはちょくちょくお客さんと 奥の部屋に行って何かしていて お店のことは何にもしてくれない
- みこと: きっと仕事は全部私に任せて 自分は楽するつもりなんだ…ひどい…
- みこと: あれ…ひどいのか?経営者ってそんなものかも… だいたい、身元もわからない私を受けいれて しかもなかなか弾んでくれているんだから つべこべ言わず働くべきなんじゃ…
- お姉ちゃん! このコーヒー軽すぎるよ!
- みこと: 軽いって何だ…っ!?
- みこと: え…?えええ~… コーヒーには重い軽いの概念があるの…!? そんなの知らないよ…だって初日なんだもん… コーヒーを淹れられてるだけでもすごいんだよ…
- 更紗 帆奈: せ、瀬奈…
- みこと: ああ、忙しさのあまり ついに幻覚まで…
- みこと: えへへ…けど、幻覚でもいいや 帆奈ちゃん、疲れたよ甘えさせて
- 更紗 帆奈: いや…幻覚じゃないから 見にいくって言ったでしょ?
- みこと: えっ、じゃあ… 本物の帆奈ちゃん!?
- みこと: た、大変!すぐここ片づけるね! ブラックコーヒーも用意するから
- 更紗 帆奈: …いや、いいよ
- みこと: へ…っ?
- 更紗 帆奈: ちょっとあんた、コーヒーが薄い って?この店はその味なんだよ
- 更紗 帆奈: 嫌ならよそへ行きな
- あ…っ、えっと…
- 更紗 帆奈: それで、あんたはおかわり? 他にはいないね?
- は、はい…
- 更紗 帆奈: あと、届ける注文がふたつか これはあたしが行くよ
- みこと: 手伝ってくれるの…?
- 更紗 帆奈: 瀬奈が困ってるのに 放っておけるわけないでしょ
- みこと: は、帆奈ちゃん…!
- 更紗 帆奈: そんじゃ ちょっと行ってくるから
- みこと: ありがとう!温かいコーヒーを ブラックで淹れて待ってるね!
- 更紗 帆奈: …………
- 更紗 帆奈: …行ってきます
- みこと: よ、よし…今のうちに 食器を洗っておかないと!
- みこと: 帆奈ちゃんが来てくれたおかげで 元気が戻ってきた…もっと頑張れる
- みこと: …やっぱり私は帆奈ちゃんがいないとダメだな なんて…当たり前のことをしみじみと思った
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- みこと: あれからも帆奈ちゃんはお店に来ては 私の仕事を手伝ってくれている
- みこと: おかげでお店は順調に回り 1週間もたたないうちに 色んなお客さんが訪ねてくれるようになって 評判はうなぎ登りになった
- みこと: その効果もあって、商店街を歩けば みんなが気軽に声をかけてくれるようになった 私たちを優しく受けいれてくれるように…
- みこと: なんだか、別人の人生を送っているみたい… 私がこんな生活を送れるとは 夢にも思っていなかったから…
- みこと: はあ、ちょっと休憩
- 更紗 帆奈: じゃあ、紅茶を淹れてあげるよ
- みこと: ありがとう
- 更紗 帆奈: コーヒーを飲めないのに よくやってるねえ
- みこと: ダメかな…?
- 更紗 帆奈: ううん、すごいよ、瀬奈は
- みこと: えへへ…
- 更紗 帆奈: …マスターは何してんの? 全部瀬奈に押しつけてさ
- みこと: 本業が他にあるみたい 今はそっちに集中したいんだって
- 更紗 帆奈: なに、それ…
- みこと: 別にいいじゃない…無理やり 働かされてるわけじゃないし…
- みこと: それに…邪魔な人がいない おかげでふたりっきりだし…
- みこと: 帆奈ちゃんとお店を出した みたいで…私、うれしいな
- 更紗 帆奈: 瀬奈…
- みこと: うん?なあに?
- 更紗 帆奈: 手鍋に火をかけたらさ 底が抜けたんだけど、どうしよう
- みこと: えええええっ!?
- あの、すみません…
- みこと: わーっ!? お客さんだ
- みこと: 帆奈ちゃん、とりあえず 火、止めて!火!
- 更紗 帆奈: わ、わかった
- …忙しそうなところすみませんが 名物のフルーツポンチをください
- ど、どうしても食べたくて…
- みこと: あ、はい
- 更紗 帆奈: …瀬奈、どこへ行くの?
- みこと: フルーツポンチって裏メニュー みたいでね
- みこと: オーダーが通ったら マスターに言わないといけないの
- 更紗 帆奈: …へえ、そうなんだ
- フルーツポンチが入ったの?
- みこと: あ、マスター ちょうど今…
- じゃあ、これ…今日の分 もう上がっちゃっていいよ
- みこと: いいんですか?
- ふたりには頑張ってもらってるし おかげで本業もやりやすいから…
- 今日は特別!クリスマスも近いし ふたりで遊びにいっておいで
- みこと: わーい
- 更紗 帆奈: …あたしの分もある
- もちろん…あなたにも 手伝ってもらってるもの
- 更紗 帆奈: …………
- みこと: 行こう、帆奈ちゃん 私、食べたいものがあるの
- 更紗 帆奈: え、うん…
- 楽しんできたらいいわ
- みこと: 私は帆奈ちゃんの手を引いて クレープ屋さんへ行き イチゴとチョコレートとホイップが たっぷり入った甘いクレープを注文する
- みこと: 帆奈ちゃんはチーズソースのツナと コーンのクレープだった それもいいなと思ったけど… 私はやっぱり甘い方がよかった
- みこと: そうしてふたりでクレープを食べながら クリスマスに染まった町を歩く…
- みこと: …こういうことを、ずっとしてみたかった
- みこと: 学校終わりに友だちとクレープ屋さんに寄って それから町に繰り出してお買い物をして…
- みこと: 私、幸せだ…
- みこと: あの頃、どうやっても手に入らなかった普通が ずっと遠くの方できらきらしていたすべてが 今、ここにある
- 更紗 帆奈: クレープ食べてるから 店の中に入れないね
- みこと: もったいないよ、今入ったら
- 更紗 帆奈: もったいない…?
- みこと: うん…
- みこと: ねえ帆奈ちゃん…このあと お買い物いっぱいしようね
- みこと: カラオケにもいこっか? ボウリングもしようよ
- 更紗 帆奈: やることがいっぱいだ
- みこと: でも…全部、できる
- みこと: 幸せが胸をいっぱいにして苦しくなる この苦しみがとてもうれしい… 呼吸ができなくなっても それでも構わないくらいにうれしい…
- みこと: 今、こんなにも私の世界がきらきらしているなら クリスマス当日にはどうなってしまうんだろう…
- みこと: 今年は帆奈ちゃんと一緒にクリスマスを過ごす それは間違いなく最高のクリスマスになるから きっと私はきらきら光る感情に喉を絞められて 窒息してしまうだろう…
- みこと: そのとき、私はこう思うの この瞬間のために今までの地獄に耐えて 生きてきたんだ…と
- みこと: ねえ帆奈ちゃん、私…
- みこと: 息もできないくらい、幸せ
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- みこと: うっ…
- みこと: はあ…はあ…
- みこと: 帆奈ちゃんは…?
- 更紗 帆奈: …………
- みこと: …よかった もう辛そうじゃない…
- みこと: 帆奈ちゃんはうわさの内容が影響して この世の悪意というものを取り込んでしまう そんなふうにはするつもりはなかったんだけど …バカな私のせいだ
- みこと: だから帆奈ちゃんへ流れる悪意を 私は自分のウワサの中へ移植させている そして結果的に、自分の記憶が薄れるような 現象を引き起こしてしまっている
- みこと: けれど…だからといって放っておけば 帆奈ちゃんは苦しみとともに悪意を取り込み 怒りや憎しみで 何もかも忘れてしまうかもしれない
- みこと: 私たちの大切な思い出すら 怒りと憎しみで上書きしてしまうかもしれない
- みこと: …それは、耐えられそうになかった
- みこと: (結局、私のわがままなんだ…)
- みこと: 勝手なことばかりしてごめんね、帆奈ちゃん でもね、帆奈ちゃんには私との思い出を きれいなままに残しておいてほしいの
- みこと: …それだけで私は 心残りがなくなるから…
- みこと: 『許してね、帆奈ちゃん…』
- 更紗 帆奈: ふわあぁ…
- みこと: あ、おはよう帆奈ちゃん! 遅かったね
- 更紗 帆奈: 熟睡しちゃったよ 疲れてたのかな…?
- みこと: そんな帆奈ちゃんのために とびっきりの朝食を用意しました
- みこと: はい、どーん!
- 更紗 帆奈: シャケとだし巻き玉子と… お味噌汁
- 更紗 帆奈: …も、もやしがない 普通だ…
- みこと: 普通が一番だからね!
- みこと: それじゃあ今日も 労働、頑張るぞ~!
- 更紗 帆奈: …あれ? ドアに紙が挟まってる
- みこと: …いつの間に? なんて書いてあるの?
- 更紗 帆奈: …………
- みこと: ねえ、なんて?
- 更紗 帆奈: …ねえ瀬奈 テレビつけて
- みこと: う、うん…いいけど
- みこと: テレビをつけるとニュース番組が映った クローズアップされているのは 最近つづいている通り魔事件のことで 私たちがいるこの町でも…
- みこと: え…ここでも起きてたの?
- 更紗 帆奈: あたしたちがこの町に来た日に 起きてたみたい
- 更紗 帆奈: 発覚は昨日の夜みたいだけど
- みこと: …もしかして その紙に書かれてたのって…
- 更紗 帆奈: 通り魔はこの町から 出ていけってさ…くだらない
- みこと: …………
- 更紗 帆奈: …客、来ないね
- みこと: みんな、私たちのことを 犯人だと思ってるんだよ
- 更紗 帆奈: なんで?あたしたちが現れたら 事件が起きたから?それだけで?
- みこと: あはは…たぶん、十分すぎるよ
- 更紗 帆奈: …ただの偶然なのに
- みこと: でも…ここの町の人は 話せばわかってくれると思う
- みこと: わかってくれないと… 普通がなくなる
- 更紗 帆奈: …瀬奈?
- みこと: 私、誤解をといてくる
- 更紗 帆奈: ちょっと、瀬奈!
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- あっ、あなたは喫茶店の…
- 来てもらって悪いけど 今日は注文は…ねえ?
- え、ええ… 噂を信じてるわけじゃないのよ?
- でも…ねえ?
- みこと: 冷たいような、しつこいような視線が 大勢から注がれる…この人たちが 嘘を言っていることくらいわかった
- みこと: よくお店に来てフルーツポンチを 頼んでいた人にばったり出会っても 反応は同じだった
- …いや…面倒事には 巻き込まれたくなくて…
- みこと: 顔には町から出ていけと書いてあった
- みこと: どこに行っても、どんなふうに話しかけても みんな反応は同じ…私を犯人扱いする
- みこと: 確かに私は身元がわからなくて 不審なところがいっぱいあると思う
- みこと: でも、受けいれようとしたのは あなたたちの方じゃない
- みこと: こんなふうに手のひらを返すなら 最初からそんな真似、しないでよ
- みこと: 普通が手に入るかもなんて そんな期待…させないでよ…
- みこと: …みんな、いなくなればいいのに
- みこと: …………
- みこと: …あれ? 私、どうしてたんだっけ…?
- みこと: 思い出せない…でも どうでもいいや、そんなの…
- みこと: コンビニの中では私に気づいた人たちが ひそひそと何か喋っている 居心地が悪い…もうこの町はダメだ
- みこと: 逃げなきゃ、こんな悪意の場所から
- みこと: そうだ… やっぱり他人なんかがいるからダメなんだ 帆奈ちゃん以外の人は誰もいらない 私たちふたりだけの世界へ行かないと…
- みこと: そうじゃないと、汚される
- みこと: …え? 私、さっきまでコンビニに…
- みこと: いつの間にかこんなところまで 歩いてきちゃったんだ…
- 更紗 帆奈: …見つけた、瀬奈
- みこと: あ、帆奈ちゃん…
- 更紗 帆奈: 捜したよ… こんなところにいたんだ
- みこと: うん…
- 更紗 帆奈: …今さらだけど、よかったよ あたしには効果がなくて
- みこと: 効果?
- 更紗 帆奈: 瀬奈を捜すと果てなし鏡に 連れていかれるってやつ
- みこと: ああ…そんなの当たり前だよ
- みこと: 他人が私を捜せばそうなるけど 帆奈ちゃんは他人じゃないから
- 更紗 帆奈: そっか… まあ、何にしてもよかった
- 更紗 帆奈: 瀬奈を見つけるのは あたしの役割だからね
- みこと: …んふふ、なにそれ
- 更紗 帆奈: さあ?
- みこと: ふふふ
- 更紗 帆奈: ははは…
- みこと: …ねえ帆奈ちゃん 別の町に行こうよ、ここはもう…
- 更紗 帆奈: 前にクレープ食べて 遊び回ったときさ…
- みこと: え?う、うん
- 更紗 帆奈: 瀬奈、すごく楽しそうだった そんな瀬奈を見るのははじめて…
- 更紗 帆奈: ううん…久し振りだったよ
- みこと: …それは今までやりたくても できなかったことができたからで
- みこと: でももう、いいの 全部、終わったの
- 更紗 帆奈: 終わらせないよ
- 更紗 帆奈: 瀬奈がもう一度あんなふうに 笑えるようになるなら
- 更紗 帆奈: あたしが、ぶっ潰してあげる
- みこと: ぶっ潰すって…何をするの?
- 更紗 帆奈: 忘れた?あたしは混沌のヴィラン
- 更紗 帆奈: 『この町を混沌に陥れる存在は あたしひとりでいい』
- 更紗 帆奈: さあ行こう、瀬奈
- 更紗 帆奈: 通り魔なんていうくだらない悪を あたしたち巨悪が打ち砕くの
- 更紗 帆奈: …正義なんかより よっぽど信じられるでしょ?
- みこと: 帆奈ちゃん…
- 更紗 帆奈: あはは…まあ、巨悪なのは あたしだけで瀬奈は無実だけど
- みこと: 帆奈ちゃん 実は私もワルなんだ
- 更紗 帆奈: あはは…瀬奈は悪じゃなくても 別にいいんだよ
- 更紗 帆奈: 心配しなくても あたしは瀬奈の味方だから
- みこと: 帆奈ちゃんは誤解してるよ 私は本当に汚くて…
- 更紗 帆奈: 瀬奈はきれいだよ、絶対に
- みこと: 帆奈ちゃん…
- 更紗 帆奈: さあ、あたしの手を取って 復讐しにいくよ!
- みこと: …………
- みこと: …うん!
- みこと: そして私は帆奈ちゃんの手を取って きらきらとした夕日に向かって駆け出す 帆奈ちゃんはいつだって私をきらきらとした きれいな場所へ連れてってくれる…
- みこと: 私が辛いとき、悲しいとき 必ず私を見つけ出してくれて救ってくれる そんな帆奈ちゃんは、まるで…
- みこと: …ヒーローみたい
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- 暗くなってきたな…
- …………
- …俺も、やられるのか…? 支払いが滞ってるから…
- 帆奈の声: 面白そうな話だね
- ――っ!?
- 更紗 帆奈: あたしたちにも詳しく聞かせてよ
- みこと: んふふ…まあ他の人からも だいたい聞いちゃってるけどね
- お、お前たちは…
- 話すことなんて何もない 他の連中から聞いたってのも嘘だ
- 更紗 帆奈: それが本当なんだなあ
- みこと: 帆奈ちゃんにかかれば 誰だって簡単に口を割るの
- え…?
- 更紗 帆奈: 隠していること、話しな 洗いざらい、すべて
- …これで全部ね
- みこと: マスター…大きな鞄ですね
- ――っ!?
- い、いたの…あなた
- みこと: ええ、いましたよ…んふふ
- …その格好は、なに?
- みこと: マスターこそ その鞄は何ですか…?
- ただの、荷物よ 遠くへ行くの、本業の関係で
- 悪いけど、あとは頼んだわ
- 更紗 帆奈: 逃がすわけないでしょ
- …あなた
- みこと: マスター、私たち 全部聞いているんです
- みこと: 悪い取り引きをここでしたことも
- 更紗 帆奈: フルーツポンチ…だっけ? 隠語だったんだね
- …何のこと?
- みこと: 隠さなくてもいいですよ 本当に全部聞いているんですから
- みこと: まあ、他の人たちにはひと足先に 警察に行ってもらったから
- みこと: 確認のしようがないですけど
- …何の冗談? 大人をからかうのはやめなさい
- 更紗 帆奈: それはちゃんと大人をやってる 人間が言う台詞だよ
- 更紗 帆奈: …少なくとも、通り魔が言う 台詞じゃないね
- …………
- 更紗 帆奈: 「あんたはもともとこの店で くだらない悪さをしていた けれど、支払いの悪い客と揉めて… 頭にきたあんたは闇夜に紛れて後ろからゴツン」
- 更紗 帆奈: 金もそのとき回収したんでしょ? 通り魔っていうか強盗だね…
- 更紗 帆奈: 「まあ、ともかくあんたは犯行を隠したかった いや、隠しきれなくても、捜査の目を誤魔化す 何かが欲しかった…そんなときだよ この店の前で瀬奈が立っていたのは」
- 更紗 帆奈: 「あんたはその役割を瀬奈にやってもらうため ろくにやってもいない喫茶店で働かせた」
- 更紗 帆奈: 「実際、この店は前まで何をやってるのか わからないって言われてたそうじゃない? 取り引き以外では使ってなかったんでしょ?」
- 更紗 帆奈: おかげで用具はボロボロだったよ 手鍋とかさ
- ふん、居抜きで買い取ってから 何も手入れしていないからね
- 「表向きは喫茶店として商売して その裏では…ってのをするつもりだったんだけど 思いの外、喫茶店って疲れるじゃない? だから早々に店は閉めて取り引きだけしていた」
- 「けれど、そこの子が働くって言うから 当初の予定通りにさせてもらっただけ… 出前なんてしたことなかったけど その子を見せるためにたくさん受けたわ」
- 「そうしたら…笑っちゃうわよね みんな、私が流したデマにコロッと騙されて その子のことを犯人じゃないかって…」
- 虫も殺したことがないような手で できるわけないのに…ふふふ
- みこと: マスターも誤解してるよ 私、実はワルなの
- ワル?家出のことを言ってるの? 可愛いわね
- みこと: ううん 私、世界を滅ぼそうとしたの
- みこと: …私はそういう悪
- はあ…?
- みこと: べちゃくちゃ喋ってるけど 要は私を騙したんだよね?
- みこと: 私に期待させるだけさせて くだらない遊びに付き合わせた…
- みこと: んふふ…悪い子
- …何だか知らないけど それで、どうするつもり?
- 言っておくけど証拠なんてないわ
- みこと: その鞄の中に、取り引きの品が 入ってるんじゃないの?
- 見てみなさい、正真正銘衣類よ
- 所詮子どもね、そんなものを 自分で運ぶわけないでしょう?
- それに、私が強盗? 記憶にないわね!あっははは
- みこと: ふーん…そんな態度を取るんだ
- なに、不満?…もしかして 観念して自白したと思ってたの?
- 違うわ、探偵ごっこを頑張った ご褒美に教えてあげただけ…
- 証拠がない以上、私の安全は 確定されているからね…あははは
- 更紗 帆奈: …悪いけどあたしたちは 正義の味方ってわけじゃないんだ
- 更紗 帆奈: だから、証拠なんていらない
- え…?
- 更紗 帆奈: 警察に自分がしたことすべて 白状して、捕まえてもらいな
- 更紗 帆奈: もちろん、あたしたちのことは きっちり忘れた上で
- 「…はい、そうです 私が通り魔事件の犯人です 喫茶店の店主もしていて、そこで違法な…」
- 「ええ、ええ… ですから、捕まえてください 捕まえてもらわないと困るんです」
- 更紗 帆奈: あいつ、連れてかれたよ
- みこと: …そうだね
- 更紗 帆奈: あたしたちの存在は バレてないみたい
- みこと: でも…もうここにはいられないよ 警察の目もあるし
- 更紗 帆奈: あの喫茶店でもう一度ってのは ムリだろうけど…
- 更紗 帆奈: 瀬奈の冤罪も晴れたんだし 他の場所で雇ってもらえるかも
- みこと: そ、そうかな…?
- 更紗 帆奈: 瀬奈の頑張りはみんな見てたよ だから、大丈夫
- 更紗 帆奈: むしろ大丈夫じゃなかったら この世のやつらの目は腐ってる
- みこと: 帆奈ちゃん…
- みこと: けれど数時間後 またこの町で通り魔事件が起きた
- FILENAME: text_311442-4.txt
- みこと: また、起きたの…? 事件がこの町で…
- 更紗 帆奈: …うん、コンビニの近くで
- みこと: つまり…あの人は 犯人じゃなかったってこと?
- 更紗 帆奈: いや、そうじゃない あいつは犯人だよ
- 更紗 帆奈: 昨日起きた事件の犯人が 別にいるだけで
- みこと: それって、誰…?
- 更紗 帆奈: 一連の通り魔事件の犯人
- みこと: そっか…そうだよね あの人は一連の事件とは無関係…
- ドンドン!
- みこと: え…?
- 谷川さん、お宅のところから 若い子の声が聞こえるんだけど
- 中にいるの…本当に谷川さん? どうなの?返事して!
- みこと: ど、どうしよう 気づかれちゃった
- 更紗 帆奈: …これ、たぶん 警察にも連絡いってるね
- みこと: じゃあ…誘い込んで倒す?
- 更紗 帆奈: 逃げるの! 窓から飛び降りるよ
- みこと: はあ、はあ… ここまで来れば…
- 更紗 帆奈: …悪かったね瀬奈 こんな町、さっさと離れていれば
- みこと: は、帆奈ちゃんが謝ることなんて
- みこと: …うっ
- 更紗 帆奈: 瀬奈!
- みこと: だ、大丈夫…
- みこと: ちょっと、苦しくなっただけ
- 更紗 帆奈: …あのフード頭たちに 消耗させられてるから…
- みこと: (本当は悪意を移植してるせい だけど…言えないよ)
- 更紗 帆奈: とにかく どこか人目のつかない場所へ
- 更紗 帆奈: 少しの間なら、ここでも…
- 警察官: ――っ!?
- 警察官: 君たち、どこから入った? ここは関係者以外立ち入り禁止だ
- 更紗 帆奈: …ちっ、もういるのか
- 警察官: なあ、この子たちって…
- 警察官: もしかして…ここで働いていた っていう少女たちか…?
- 警察官: 君たち、少し話を…
- 更紗 帆奈: あたしたちのことは忘れろ!
- 警察官たち: …………
- 更紗 帆奈: 瀬奈、肩に掴まって 違うところへ行こう
- みこと: う、うん…
- な、なんであんたたちが…
- 更紗 帆奈: 少し、休ませてほしくて…
- みこと: …………
- どうせ警察から 逃げ回ってるんでしょ!
- 110番よ110番! 犯罪者が逃げ込んできたわ!
- 更紗 帆奈: 瀬奈は無実だって 証明したでしょ!
- どこがよ!あの喫茶店で 違法なことをしていたくせに
- 更紗 帆奈: それは瀬奈とは関係ない
- そんな嘘 通じるわけないでしょう
- みこと: 帆奈ちゃん、もういこ?
- 更紗 帆奈: …う、うん ごめんね瀬奈…
- みこと: ううん、悪いのは私だから…
- 更紗 帆奈: 瀬奈…
- 早くこの町から出ていけ!
- 犯罪者!
- 更紗 帆奈: …なあ、あんたら
- なによ
- 更紗 帆奈: あんたたちは今から全員 天井にロープを吊してそれで…
- みこと: ダメだよ!
- 更紗 帆奈: せ、瀬奈…
- みこと: そんな暗示、ダメだよ 私のせいでそんなことしちゃ…
- みこと: 帆奈ちゃんが汚れちゃう
- 更紗 帆奈: あたしはどれだけ汚れたっていい 瀬奈がきれいな方がうれしいから
- みこと: 私だって汚れてるよ…!
- 更紗 帆奈: そんなことない…瀬奈はきれいだ あたしが絶対に汚させない
- なに言ってるの、あんたたち
- 更紗 帆奈: …あたしたちのこと すべて忘れな
- …………
- 更紗 帆奈: さあ、行こう ここは怖くて汚いところだから
- みこと: うん…
- みこと: それから色んな場所へ行ったけど… 私たちが休める場所なんてなくて 結局、薄汚れた路地裏に戻ってきて 地べたに腰を下ろしている
- みこと: ここが…私たちにはお似合いなんだろう 普通の生活なんて どうやったって私たちには送れない 社会からはどうやったってはみ出してしまう
- みこと: 精一杯生きてるだけなのに… 私たちがここに…この世界にいてもいいと ただ認めてほしいだけなのに つまはじきにされてしまうんだ
- 更紗 帆奈: …瀬奈、大丈夫?
- みこと: うん…ごめんね、帆奈ちゃん
- みこと: 私、帆奈ちゃんと楽しい思い出を いっぱいつくりたかったのに…
- みこと: こんな思い出ばかりで…ごめんね
- 更紗 帆奈: …………
- みこと: …クリスマスだって、きっとそう ろくでもないことになるよ
- みこと: もう、このまま…死んじゃいたい
- 更紗 帆奈: …ねえ、瀬奈
- 更紗 帆奈: 全部、台なしにしようよ
- みこと: …え?
- 更紗 帆奈: 瀬奈を苦しめるもの 縛りつけるもの
- 更紗 帆奈: そういうのを全部 台なしにしてやるんだ
- みこと: そ、それって…
- 更紗 帆奈: どうする、瀬奈… あたしと一緒にやる?
- みこと: …そんなの、答えは最初から決まっていた
- みこと: もう1回やろう、全部を台なしに
- FILENAME: text_311443-1.txt
- 更紗 帆奈: 全部台なしにするぞ計画…?
- 更紗 帆奈: あー…うん、そうそう そんな名前だったね
- 更紗 帆奈: そのときは…まあ… そういう結果…だった、でしょ?
- 更紗 帆奈: だから、今度はもっと派手に… バアーッと台なしにしてやるの
- 更紗 帆奈: どうやるって… そんなの簡単だよ
- 更紗 帆奈: 爆弾を仕掛ける
- みこと: 帆奈ちゃんは町のあらゆる場所に 爆弾を仕掛けて それを一気に爆発させようと言った
- みこと: そうしたら、いやなものが全部吹き飛んで きれいさっぱり忘れられるし それに何より…
- 更紗 帆奈: 人生っていうクソ映画には もってこいのエンディングでしょ
- 更紗 帆奈: 爆発オチってさ
- みこと: …ということらしい
- みこと: でも…そんなことしたら 人が死んじゃうね
- みこと: …ダメだよ、そんなの
- みこと: ううん、他人の命なんて どうだっていい、私がいやなのは
- みこと: 帆奈ちゃんの手が 血に染まってしまうこと
- みこと: …汚れてしまうこと
- みこと: それは、いやだよ…
- 更紗 帆奈: あたしは願いを叶えた時点で すでに手が汚れている
- 更紗 帆奈: あいつらを消したときは そりゃ興奮して舞い上がったけど
- 更紗 帆奈: 「同時に…取り返しのつかないことを してしまったなって内心思ったよ」
- 更紗 帆奈: いや…あんなやつらでも命は 大切だとかそういう話じゃなく…
- 更紗 帆奈: …………
- 更紗 帆奈: …本当はなりたかったんだ 弱い者を守る正義の味方に
- 更紗 帆奈: …誰かを救うヒーローに
- 更紗 帆奈: けど、もうそんな自分には絶対に なれないんだって思っただけ…
- 更紗 帆奈: まあ、あいつらだけじゃなく 直接消した覚えはなくても
- 更紗 帆奈: あたしの暗示の影響や 解き放った魔女のせいで
- 更紗 帆奈: ひどい思いをしたやつらは きっと大勢いる…
- 更紗 帆奈: だからせめて…あたしは ヴィランでありつづけないと
- 更紗 帆奈: 本当はこんな事情がありました お涙ちょうだい…なんて
- 更紗 帆奈: …そいつらへの冒涜だよ
- 更紗 帆奈: だからあたしのことはいいの 何にも気にしないで
- 更紗 帆奈: というわけで…
- 更紗 帆奈: さっそく爆弾をつくろうー!
- みこと: う、うん…
- 更紗 帆奈: 瀬奈ー なんでテンション低いの?
- 更紗 帆奈: 爆弾だよ?爆弾つくるんだよ? 楽しくない?
- みこと: た、楽しい…えへへ
- 更紗 帆奈: …………
- 更紗 帆奈: …瀬奈、いやだったら…
- みこと: いやなことないよ! 今度こそ台なしにするんだもん!
- みこと: そうだ、今度こそ全部台なしにするんだ あの楽しい思い出を、もう一度やり直すんだ いやになるわけがない…!
- みこと: 帆奈ちゃんが罪を抱えるつもりなら 今度は分けてもらえればいい ふたりで罪も、苦しみも分け合えれば 何も不安になることはない
- みこと: むしろそれは…私を安定させるはずだから
- みこと: それで、爆弾って どうやってつくるの?
- 更紗 帆奈: この辺に落ちてる鉄パイプを これくらいに切る
- 更紗 帆奈: 火薬とかはあたしが暗示を使って コツコツ集めてくるから
- 更紗 帆奈: 瀬奈はひたすらこれを切ってて
- みこと: ウワサの力を見せるときだね
- 更紗 帆奈: こ、壊さないでよ?
- みこと: どれくらい切ればいいの?
- 更紗 帆奈: この町のいたるところに 仕掛けるわけだから…
- 更紗 帆奈: まあ、とにかくいっぱい
- みこと: えー適当~
- みこと: そうして私たちは笑いながら 爆弾をつくりはじめる
- みこと: なんだか、文化祭の準備をしているみたいで とても楽しかった
- FILENAME: text_311443-2.txt
- みこと: 私ひとりだったら爆弾なんて とてもつくれなかっただろうけど 帆奈ちゃんのおかげで ずらっと並べれば壮観なくらい爆弾をつくれた
- みこと: 準備はすべて整った 第2次全部台なしにするぞ計画の開始だ
- 更紗 帆奈: はい、これ
- みこと: え…?
- 更紗 帆奈: 記念すべき第1号爆弾 どこに仕掛ける?
- みこと: それは…
- みこと: やっぱりここだよねー
- 更紗 帆奈: 瀬奈、大きい声出すと 警察に見つかるから…
- みこと: あ、帆奈ちゃん 爆弾って落としていいんだっけ?
- みこと: 手が滑って 落としちゃったんだけど
- 更紗 帆奈: ええええええっ!?
- みこと: 帆奈ちゃん、声!声!
- 更紗 帆奈: いや…まさか気軽に爆弾を 落とす人がいるとは思わなくて…
- みこと: あ…何ともない 案外丈夫なんだね
- 更紗 帆奈: …そうだね
- みこと: んふふ…ここが爆発するんだ
- みこと: 散々大変な思いをさせられたけど これですっきりするね
- 更紗 帆奈: よーし、それじゃあ 次に行ってみよう!
- みこと: ここも爆発させちゃおう!
- 更紗 帆奈: いいねー!とくにここは 念入りに爆発させよう
- みこと: あははは!
- みこと: ここだって爆発させるの!
- みこと: 何が私の家に似てるだ! 知るかバカヤロー!
- 更紗 帆奈: バカヤロー!
- みこと: あっはは!こんなの 全部なくなればいい!
- 更紗 帆奈: ははは!
- みこと: この屋上も本当 腹が立つくらい似てる
- みこと: だからもうなくなればいい!
- みこと: 爆弾で、消し飛べ!
- みこと: 思い出からなくなればいいのよ!
- みこと: そう…お願いだから私のために消えて いつまでも私にまとわりついてこないで
- みこと: こんなところ、寂しい思い出しかない ずっとひとりで時間を潰してた そんな思い出しか…
- みこと: だからなくなってよ、私のために…!
- みこと: 思い返してみれば 私の人生なんてなくなってほしい思い出ばかり 辛いこと、悲しいこと、打ちのめされること …そんなことばかりだったから
- みこと: それでも人の生は素晴らしいものだって 生きる意味があるんだってよく言うけど そんなの、愛された思い出がある人の話
- みこと: 私にはそんな記憶がないから 自分の価値がどうしてもわからなくて 全部を…自分自身を台なしにしてしまう
- みこと: でもそこに後悔なんてない そうしなくちゃ抑えきれないものがあって 私はその衝動に身を任せたくなるだけ
- みこと: 自分含めて何もかもを無茶苦茶にすることで クリスマスのとき、ひとりぼっちだった自分も あらゆるとき、ひとりぼっちだった私を 救えるような気がするの
- みこと: だから、私は爆弾を仕掛ける 頭がいやな思い出に呑み込まれて 叫びたくなるような感情に支配される前に 爆弾ですべてなくすの
- みこと: 普通っていうレールに 乗ることすらできなくて ただ普通行きの列車を見送っていた私には こうすることしかできない
- みこと: 愛は知らないから爆弾をあげる
- みこと: 怒りや憎しみ、悲しみだって… 私のすべてをあげるから… ここからなくなってよ
- みこと: 思い出なんてなくなってしまえ
- みこと: 全部なくなれ…
- みこと: …私もなくなれ
- みこと: 何もかも雪みたいに溶けて きれいになくなればいい
- 更紗 帆奈: …全部、仕掛け終わったね あとは爆発させるだけ
- みこと: そうだね
- 更紗 帆奈: …ここなら見晴らしがいいから よく爆発が見えると思うよ
- みこと: だから…ここに?
- 更紗 帆奈: さあね…
- 更紗 帆奈: …それで、どうする? ここで一緒に見る?
- 更紗 帆奈: 全部が吹っ飛ぶ瞬間をさ
- みこと: 帆奈ちゃんはどこか私を試すような口調だった それでも私は…
- みこと: 見てるんじゃなくて爆発させるの 起爆装置を貸して
- 更紗 帆奈: これ?
- みこと: うん…私が爆発させる
- FILENAME: text_311443-3.txt
- みこと: …………
- みこと: 私はまじまじと起爆装置を見つめる 手のひらにすっぽり収まるサイズで ボタンはシンプルにひとつだけ
- みこと: どういう仕組みなのか知らないけど とにかく帆奈ちゃんがそうつくったんだから このボタンを押せばそれだけで町に仕掛けた 爆弾が一斉に爆発することになるだろう
- みこと: (このボタンを押すだけで 全部がなくなる…)
- 更紗 帆奈: …怖い?
- みこと: ううん…
- みこと: 別に怖さはなかった 罪悪感もとくにない
- みこと: それが寂しかった
- 更紗 帆奈: じゃあ… カウントダウンをしようか
- 更紗 帆奈: 10秒前からはじめて ゼロになったらボタンを押す
- 更紗 帆奈: …それで、きれいに終わり
- みこと: わかった
- 更紗 帆奈: 本当にいい? 後悔はしないね…?
- みこと: …後悔なんて、しないよ
- 更紗 帆奈: だったら…
- みこと: 帆奈ちゃんがカウントダウンをはじめる 私は普通にはなれない…そんな現実を 突きつけてきたすべてがもうすぐ消えてなくなる
- みこと: あの喫茶店だって、もうすぐなくなる
- みこと: 悪い取り引きが行われていた現場だし 警察が見張っているような場所なんだから きれいさっぱりなくなった方がいい 何の後悔もない
- みこと: それとも、あのマスターだって 親切にしてくれたところはあったんだと きれいごとを並べてみる?
- みこと: 手のひらを返した町の人たちだって 最初は優しくしてくれたんだって…
- みこと: …そんなの、できるわけがない 思い出ごとなくなってしまえばいい
- みこと: そうだ、なくなればいいんだ あんな思い出…
- みこと: …でも
- みこと: …でもね…
- みこと: 帆奈ちゃんと一緒に お店を切り盛りした思い出は なくなってほしくないな…
- みこと: 本当に束の間だったけど 私も、帆奈ちゃんも あのときだけは普通の子で… 忙しかったけど心から楽しくて…
- みこと: …あんな思い出をなくしたくない
- みこと: 帆奈ちゃんにいっぱいごはんを つくってあげた思い出も なくしたくない
- みこと: 何でも食べられるって言っておいて ピーマンを出したとき 苦そうにしながら食べてた帆奈ちゃんだって いつまでも覚えていたい
- みこと: あれくらいで苦いって思うんなら 本当はコーヒーなんて飲めないんじゃないの?
- みこと: きっとそうだ…帆奈ちゃん恒例の虚勢だ…
- みこと: んふふ、可愛いな…帆奈ちゃんは
- みこと: ふたりでクレープを食べた思い出も そのあと、お洋服を一緒に見たことも やっぱり帆奈ちゃんにはズボンより ロングスカートの方が似合っていたことも
- みこと: それから、カラオケに行って え、そんな歌うたうんだ… 世界観強いね、帆奈ちゃん…ってなったことも …んふふ、それは忘れた方がいいのかな?
- みこと: でも、なくしたくはないよ
- みこと: どんな場所、どんな場面を思い出しても そこには必ず帆奈ちゃんがいる
- みこと: だから、きらきらと輝いている
- みこと: この町でのいやな思い出はたくさんある そんなのは本当になくしてしまいたい
- みこと: けれどその代償に… 帆奈ちゃんとの思い出がなくなるのはいやだ
- 更紗 帆奈: 2…1…
- みこと: ――っ!?
- みこと: は、帆奈ちゃん ちょっと待って、私…!
- 更紗 帆奈: …ゼロ
- みこと: 『…え?』
- みこと: メリーゴーランドだ…
- みこと: 私の目の前では ところどころ壊れたメリーゴーランドが それでもきらきらとした光をまとって ゆっくりと動き出している
- みこと: 光が躍っているようだった… まばゆく光って回るメリーゴーランドは その美しさによって存在を証明していて なんだか、とても貴重なもののように思える
- みこと: 辺りには他にもアトラクションがあった そうか、ここは遊園地だったんだ… 外灯こそ薄ら点いているけど それ以外は暗闇に呑まれてしまっている
- みこと: メリーゴーランドだけが希望の世界にいるように いつまでも、いつまでも…輝きを放っていた
- みこと: 握り締めていたはずの起爆装置は 気づけば地面に落ちていて、そのかわりに 帆奈ちゃんが私の手を優しく握っている
- みこと: ―みこと― きれい…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 大変だったんだよ、直すの
- みこと: ―みこと― これ、帆奈ちゃんが直したの?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 他に誰がすんのさ…火薬を集めにいく振りをして こっそりメリーゴーランドの修理をしてたの
- 更紗 帆奈: ―帆奈― あ、一応言っておくけど、あの爆弾は偽物だから 見た目だけ似てるけど、爆発はしない
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …というか、あたしが瀬奈に人殺しなんか させるわけないでしょ
- 更紗 帆奈: ―帆奈― まあ…あんたが爆弾を落としたとき、偽物だって バレないか内心ヒヤヒヤしてたけど…あっはは
- みこと: ―みこと― なんで、そんなことを…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …偽物でよかったでしょ? その気持ちを忘れないでほしくてさ
- みこと: ―みこと― このメリーゴーランドは…?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― え、これ…? これを直した理由は…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― きれいなものを見せて 瀬奈をよろこばせたいなって…そう思ったから
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …だってさ、ここに来て いい思い出つくれなかったでしょ?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしは瀬奈にたくさん いい思い出をあげたい
- 更紗 帆奈: ―帆奈― ずっと笑っていてほしい
- 更紗 帆奈: ―帆奈― だから…ほら、きれいでしょ? うれしくない…?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― あたし、瀬奈に気に入ってもらうために すごく頑張ったんだよ
- みこと: ―みこと― そんなことのために…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― そんなこと…じゃないよ 私にはそれがすべてなんだ
- みこと: ―みこと― …帆奈、ちゃん…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈がいやな思いをしたら あたしがきれいな思い出で塗り替えてあげる
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈が悲しい思いをしたら あたしが何をしてでも笑わせてみせる
- 更紗 帆奈: ―帆奈― だからさ…笑ってよ、瀬奈
- みこと: ―みこと― …わ…笑って、よ…って…
- みこと: ―みこと― …っ、ずっと…笑ってるよ…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 嘘…泣いてる
- みこと: ―みこと― 帆奈ちゃんがバカなことするから…
- みこと: ―みこと― ホント、帆奈ちゃんはいつもそう 私なんかのためにムリして、頑張って
- みこと: ―みこと― そうやって私に きらきらとしたものを見せてくれる
- みこと: ―みこと― …あの夜景と一緒
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …………
- みこと: ―みこと― ねえ帆奈ちゃん、わかってないみたいだから ちゃんと教えておくね
- みこと: ―みこと― 私にとって帆奈ちゃんが希望なの
- みこと: ―みこと― 世界が輝いているんじゃない… 帆奈ちゃんがいるから、私の世界が輝くの
- みこと: ―みこと― 私はね…ずっと…ずっと…っ
- みこと: ―みこと― 帆奈ちゃんと一緒に この灯りを見たかったの…っ
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …そう、なの…?
- みこと: ―みこと― そうだよ
- みこと: ―みこと― …帆奈ちゃんのバカ
- みこと: そうして私たちは手を取り合ったまま メリーゴーランドへ向かって 動いているお馬さんの上に タイミングを見計らってちょこんと座る
- みこと: お馬さんは、ぐるぐる、ぐるぐると回る そんなふうにきらきらとした光の中を 回っていると何もかもがきらめいて見えた
- みこと: 振り返ると帆奈ちゃんが笑っている だから、私も笑った
- みこと: 帆奈ちゃんがつくってくれた光は 本当にきれいで… これさえあれば悲しくない気がして
- みこと: …私はとっても幸せだった…
- FILENAME: text_311443-4.txt
- みこと: あの夜が明けると メリーゴーランドは動かなくなって 私たちは町をあとにした
- みこと: どうして動かなくなったのかはわからない それは朝日とともに魔法が解けたように パタリと停止して、それっきりだった
- みこと: まるで…帆奈ちゃんが見せてくれた メリーゴーランドのきれいな光を あの夜だけの思い出にしたかったように
- 更紗 帆奈: ―帆奈― あの町のやつら、騒いでるかな? 爆弾、置いたままだから
- みこと: ―みこと― 偽物なんでしょう?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― 偽物だけどさ… 見た目はパイプ爆弾そのものだから
- みこと: ―みこと― まあ、あんなのが意味ありげに置いてあったら びっくりするかもしれないね
- 更紗 帆奈: ―帆奈― びっくりする程度か… なんだか小っさいね、あたしたちの復讐
- みこと: 確かに小さいけれど… 他人に迷惑をかけているのは事実だろう
- みこと: でも私たちはこうやってしか生きていけない
- みこと: 普通になれないレールの上を ずっと歩いてきたし…これからも このレールの上を最後まで歩くはずだから…
- みこと: ―みこと― …そうだ、種をまこっか
- みこと: 私は袋からスノードロップの種を取り出すと 帆奈ちゃんと一緒にレールの上へまいた 普通への憧れとここで決別するためにも…
- みこと: ―みこと― そういえば…結局暗示で あの町の人たちから私たちのこと忘れさせたね
- 更紗 帆奈: ―帆奈― その方がいいでしょ?
- 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしたちのことはあたしたちだけが 覚えていればいい…あとはせいぜい
- 更紗 帆奈: ―帆奈― …この花くらいかな?
- みこと: 私は冬が終わる頃に咲く スノードロップを想像した
- みこと: 私たちの足跡を証明するように 真っ白な花が転々と咲くその光景を…
- みこと: ―みこと― …ちゃんと言えてなかったけど…
- 更紗 帆奈: ―帆奈― うん…?
- みこと: あのね…
- みこと: 私は帆奈ちゃんに出会えて 本当によかったと思ってる…
- みこと: 帆奈ちゃんがいるから この世界で私は生きているし
- みこと: こんな世界でも 生きていたいと思える
- みこと: だから…
- みこと: …………
- みこと: ねえ帆奈ちゃん 今度は置いていかないでね
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