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- (From the opening sequence in 517110-0)
- もしも魔法少女にならなかったら… それは誰かの願った平穏な日常
- [Title card] 星屑のミラージュ
- FILENAME: text_517110-1_ptdpz.txt
- あるところに、ひとりの女の子がいました 彼女は、どこにでもいる普通の女の子でした
- けれども、ある日ふしぎな生き物が現れて 彼女に“契約”を持ちかけるのです
- それは、ひとつの願いを叶える代わりに 魔法少女になって、この世界を救うということ
- 女の子は願いを叶えてもらうと 魔法少女に変身する力を手に入れました
- そうして、女の子は魔法少女として みんなを苦しめる敵と戦い 世界に愛と笑顔を広げていきました
- 御園 かりん: って言うお話を考えたんだけど さなちゃんの感想を聞きたいの!
- さな: うーん…王道って感じで いいと思うんですけど…
- 御園 かりん: 心の準備はできてるから なんでも言うの!
- さな: …それじゃあ
- さな: …えっと その子にとっての幸せが
- さな: 願いを叶えることで 終わっちゃうのなら
- さな: どうして世界を救おうなんて 思えるのかな…って
- さな: 戦うことが幸せっていうこと?
- 御園 かりん: ハッ…言われてみれば そんな気もするの…
- 御園 かりん: そんなバーサーカーみたいな 理由で戦う魔法少女は嫌なの…
- 御園 かりん: 環先輩とういちゃんも 何かあるなら聞きたいの!
- うい: うーん…
- うい: 戦わないといけない理由 …とかが必要なのかも?
- うい: あと… 戦うのが幸せって言っても
- うい: 戦って、みんなを守れることが その子の幸せ…とか?
- いろは: …そうだ!
- いろは: 契約って言うからには 何かの代償があったり…とか?
- 御園 かりん: なるほどなの! 参考になるの!
- やちよの声: あら… 来てたのね、かりん
- 御園 かりん: あ、やちよさんからも お話のアドバイスが欲しいの!
- やちよ: ええ 別に構わないけど
- いろは: 二葉さなちゃんに、御園かりんちゃん それに、七海やちよさん… この賑やかなお家はみかづき荘という 下宿屋さんで、やちよさんは管理人をしているの
- いろは: 私とういは、少し前に お父さんとお母さんの海外転勤をきっかけに このみかづき荘に引っ越してきた
- 御園 かりん: さすが、元芸能人のお話は とっても役に立つの!
- やちよ: それならいいけど…
- パタパタパタ…
- ???の声: た、たたた大変よぉ…!
- やちよ: ちょっと…危ないから 走らないでったら…
- やちよの祖母: かなえちゃんが テレビに出るらしいのよ…!
- やちよ: え!? かなえが…!?
- やちよの祖母: 路上ライブがバズ?った? とかなんとからしくて…!
- いろは: この方が、もうひとりの管理人の やちよさんのおばあさん
- いろは: かなえさんっていう人は 以前、このみかづき荘に住んでいた人みたい
- いろは: 今は、音楽活動をするために みかづき荘を出て独り立ちをしてるんだけど 数年前まで、ここら辺でケンカをしていたような “不良”と呼ばれる人だったんだって
- いろは: 前にやちよさんから聞いた話だと 昔、ケンカでケガをしたかなえさんを やちよさんのおばあさんが助けて以来
- いろは: みかづき荘は、下宿としてだけでなく 困った女の子たちの駆け込み寺のようになって やちよさんとおばあさんのふたりで 下宿を営みながら、みんなを助けているみたい
- いろは: さなちゃんも、そうして救われたひとり… 家族からのけ者にされ、ひとりでいたところを おばあさんが保護して、さなちゃんは家族と 大喧嘩の末に、ここで暮らしているらしい
- いろは: かりんちゃんは、住んでいるわけではないけど かりんちゃんのおばあさんと やちよさんのおばあさんが知り合いで こうしてたまに遊びに来ては漫画を描いている
- いろは: 詳しいことは、あまり聞いてないけど かりんちゃんのおうちも、少し訳ありみたい
- やちよ: どうしよう、おばあちゃん 何かお祝いとか贈るわよね
- やちよの祖母: そうね…おみかんとか お米とか…あ、お肉も必要ね
- やちよ: 食べ物ばっかりじゃない… ふふっ
- 御園 かりん: やちよさんたち嬉しそうなの
- さな: はいっ、会ったことない人だけど 私も嬉しくなっちゃいます…
- さな: あ、そういえばいろはさんたちは 明日から新しい学校でしたっけ?
- いろは: うん、そうなんだ…!
- いろは: でも、さなちゃんも かりんちゃんも別の学校だし…
- いろは: 知ってる人がいないから 緊張しちゃうな…
- いろは: みかづき荘に通ってる子で 同じ学校の子がいるって
- いろは: 聞いてはいるけど まだ、名前しか知らなくて…
- うい: ちゃんと お友だちになれるかなぁ?
- 御園 かりん: きっと大丈夫なの! 目指せ、友だち100人なの!
- うい: うんっ!
- FILENAME: text_517110-2_ptdpz.txt
- いろは: それじゃあ、いってきます!
- いろは: …あれ?
- ???: あ!あの…えっとぉ… 新しいみかづき荘の子…だよね?
- ???: その…今日から初登校だって 聞いて来たんだけど…
- ???: やちよさんに聞いてる…かな? 家庭菜園でお世話になってる…
- いろは: あ!えっと… 秋野かえでちゃん…?
- かえで: うん、そう…!
- かえで: あの…良かったら 一緒に学校、行かない?
- いろは: 前にやちよさんから聞いた話だと 家の前にマンションが建ったせいで 家庭菜園ができなくなったかえでちゃんは
- いろは: みかづき荘のお庭の一画を借りて 野菜を育ててるみたい
- いろは: 今まで顔を合わせることがなかったのは 早朝に水やりをして みかづき荘には上がらず帰ってたからなんだって
- いろは: だけど今日は、私たちが初登校だって聞いて みかづき荘の前で待っててくれたみたいだった
- かえで: …って、早く行かないと 遅刻しちゃうね…!
- かえで: 歩きながらお話しよっ!
- かえで: じゃあ、お父さんとお母さん 今は海外にいるんだぁ
- うい: うん、でもお姉ちゃんがいるから あんまり寂しくないよ!
- かえで: そっかぁ ふたりは仲良しなんだね!
- いろは: でも、みかづき荘には 同じ学校の子っていないから
- いろは: こうして、かえでちゃんと会えて 本当によかったよ!
- かえで: ふふ、じゃあ私が 学校での初めてのお友だちかぁ
- かえで: それって、なんだか嬉しいな!
- それでは環さん 自己紹介をお願いします
- いろは: あ、環いろはです…! その、よろしくお願いします!
- はい、それじゃあ席は… 水波さんの隣かな
- いろは: よ、よろしくね…?
- レナ: …………
- いろは: (あ、あれ… 聞こえてなかった、かな…?)
- 今日の授業は 課題図書について
- ひとつのテーマを決めて 考えるという内容ですが
- 環さん、事前に知らせた本は 読めてますか?
- いろは: え、あ、はい 大丈夫です…!
- それじゃあ、隣の席の人と 話し合ってみてください
- いろは: …………
- レナ: …………
- いろは: (どうしよう… 私から話しかけないとだよね)
- いろは: あ、あの…水波さん…だよね 課題図書の…これ
- いろは: 「銀河鉄道の夜」… 水波さんも読んできた?
- レナ: …………まぁ、宿題だし
- いろは: そ、そうだよね… テーマ…何にしよっか
- レナ: …別に、そっちの 好きなやつでいいわよ
- レナ: …その方が、やりやすいでしょ
- いろは: じゃあ… えっと…何がいいかな…
- いろは: あ…そういえば 心に残っている台詞があって
- レナ: …どこ?
- いろは: えっと…あ、これ
- いろは: 『けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう』
- レナ: …結構、最後の方よね レナも覚えてるかも
- いろは: “ほんとうのさいわい”って 言葉が何度か使われていて…
- いろは: それで、自分にとってのそれって なんだろうって思ったの
- いろは: 水波さんは、何かある?
- レナ: …ほんとうのさいわい? そう言われるとわかんないけど
- レナ: レナは別に、推しが見られたら それで…って、何でもない
- いろは: 推し…って何?
- レナ: は? アンタ推しって言葉知らないの?
- いろは: あんまり、最近の言葉とか流行に 詳しくなくって…あはは
- レナ: …おばあちゃんみたいなこと 言うわね…
- レナ: …色んな相手に使うけど 要は好きな人ってこと
- いろは: 好きな人…
- レナ: あ、ちっ、違うわよ!? 恋的なヤツじゃなくて!
- レナ: その、アイドルとか… そういう応援…的なあれよ
- いろは: 水波さんはアイドルが 好きなんだ…!
- レナ: べ、別にレナが何を 好きだっていいでしょ!
- いろは: うん、好きなことがあるって いいことだと思うもん
- レナ: そ、そういうアンタは どうなのよっ!
- レナ: “ほんとうのさいわい”… なんかないの?
- いろは: さいわい… 本当に幸せなこと…
- さな: …えっと その子にとっての幸せが
- さな: 願いを叶えることで 終わっちゃうのなら
- さな: どうして世界を救おうなんて 思えるのかな…って
- さな: 戦うことが幸せっていうこと?
- いろは: (…みんな、何が幸せかとか わからないものなのかな…)
- いろは: うーん… 私は…まだよくわからないかも
- いろは: 不幸だとは思わないし 毎日幸せだって思うけど…
- いろは: ほんとうのさいわいって言うと ピンとこなくて…
- レナ: …まぁ、“ほんとうのさいわい” なんて難しいテーマ
- レナ: そう簡単に 答えなんか出ないわよね
- いろは: うん…そうだね
- いろは: ちょっと本を読み返して 考えてみようかな
- FILENAME: text_517110-3_ptdpz.txt
- いろは: (ほんとうのさいわい…)
- ぺらっ
- 誰だって、ほんとうにいいことをしたら、 いちばん幸なんだねえ。 だから、おっかさんは、 ぼくをゆるして下さると思う。
- ぺらっ
- けれどもまたそんなにして助けてあげるよりは このまま神のお前にみんなで行く方が ほんとうにこの方たちの幸福だとも思いました。
- ぺらっ
- ほんとうにどんなつらいことでも それがただしいみちを進む中でのできごとなら 峠の上りも下りもみんな ほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。
- ぺらっ
- ただいちばんのさいわいに至るために いろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。
- ぺらっ
- 僕はもうあのさそりのように ほんとうにみんなの幸のためならば 僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。
- いろは: (…本の中だけでも 幸せの形がいっぱいある…)
- いろは: (いいことをしたら幸せ… みんなの幸せのため…)
- いろは: (先生は無理に答えを出す必要は ないって言ってたけど…)
- “ほんとうのさいわい”について 環さんたちは考えたんですね
- いろは: でも、あんまりいい答えに たどりつけなくて…
- 難しいテーマですから 無理に答えを出さなくても
- これからの人生で見つけられれば それでいいと思いますよ
- 考えてみることに この授業の意味がありますから
- いろは: (やっぱり 気になっちゃうな…)
- キーンコーンカーンコーン
- いろは: (もう、こんな時間…!)
- いろは: (結局、水波さんとは あまり仲良くなれなかったな…)
- いろは: (ういは初等部だから、授業も もう終わってるみたいだし)
- いろは: (ひとりで帰ろう…)
- レナ: ねぇ
- いろは: わっ!?
- レナ: アンタ、どこ住み
- いろは: え、えと新西区の みかづき荘ってところで…
- レナ: あー、あそこ… 方向一緒ね、行きましょ
- いろは: え、あの…
- レナ: 「どうせ転校初日だし、今日の様子見てたら 友だちもろくにできてないだろうから レナが一緒に帰ってあげるって言ってんの!」
- いろは: あ、ありがとう… 水波さん…!
- レナ: …レナよ、水波レナ
- いろは: えっと、あ、いろはです! よろしくね、レナちゃん!
- かえで: いろはちゃーん!待ってたよぉ …って、みゃっ!?
- かえで: と、とと隣の怖い人誰…? なんか私、にらまれてるような…
- レナ: …は?何よいきなり ちょっと失礼じゃない?
- かえで: ふゆぅ…だ、だって いきなりにらんでくるから…!
- レナ: に、にらんでないわよ! 元々こういう目つきなの!
- かえで: えぇ…それじゃあ 大変そうだねぇ
- レナ: なんかムカつくんだけど!
- いろは: あ、あぁ…えっと、ふたりとも ケンカしないで…
- レナ&かえで: ケンカじゃないわよ! (ケンカじゃないよ!)
- いろは: (気が合う…のかな?)
- かえで: それじゃあ、またね いろはちゃん
- レナ: 迷子になるんじゃないわよ
- いろは: うん、またねふたりとも!
- いろは: (これからの学校生活 楽しくなりそうだなぁ…)
- ういの声: あれ、お姉ちゃん?
- いろは: やちよさん!うい…! あ、お買い物ですか?
- やちよ: ええ、ういちゃんにも 手伝ってもらってね
- やちよ: それはそうと 今、一緒にいたのって秋野さん?
- いろは: はい、かえでちゃんと 同じクラスのレナちゃんです
- やちよ: そう、学校でも友だちが できたみたいね
- いろは: はい、隣の席になったので 授業でも話し合いをしたり…
- やちよ: へぇ、話し合いって どんな授業だったの?
- いろは: あ、読んだ本をひとつのテーマで 考えるって内容なんですけど
- いろは: “ほんとうのさいわい”って やちよさんは何かありますか?
- やちよ: あぁ、銀河鉄道の夜?
- いろは: はい、そうです 私にはまだわからなくて…
- やちよ: そうね…
- ???: わたしはねぇ、お姉ちゃんと 由比家の復興を遂げたら
- ???: ほんとうのさいわいに たどり着ける気がするよ
- やちよ: きゃっ!?
- やちよ: …もう、びっくりさせないでよ
- いろは: やちよさん、この人は…?
- やちよ: 近くの中華屋さんの子でね たまに出前を頼んでるの
- やちよ: この子の姉とも知り合いだから 家族ぐるみの付き合いってとこね
- ???: 最近、引っ越してきた 環姉妹ちゃんだよね!
- 鶴乃: 中華飯店万々歳の看板娘 由比鶴乃だよ!ふんふん!
- 鶴乃: 鶴乃ちゃんって呼んでね! よろしく!
- いろは: あ、よ、よろしくお願いします!
- やちよ: 今日は何も頼んでないわよ?
- 鶴乃: 宣伝とお姉ちゃんの言伝だよ! はい、まずこれチラシね!
- 鶴乃: それで、お姉ちゃんからの 言伝だけど
- 鶴乃: 前に頼んでたウェブCMの出演 考えておいてって!
- やちよ: モデルだったのは もう昔の話だって言うのに…
- やちよ: 私なんかに頼るぐらい 経営は火の車っていうこと…?
- 鶴乃: まぁ、こうしてごひいきさんに 支えられてるぐらいだからね!
- 鶴乃: というわけで 次の出前に行ってくるよ!
- 鶴乃: またね!
- やちよ: 相変わらず嵐みたいな子ね…
- いろは: それから家に帰って、夜ご飯を食べながら みんなで“ほんとうのさいわい”について 話してみたの
- やちよの祖母: ほんとうのさいわい?
- いろは: はい、そうです 意見を聞いてみたくて
- やちよの祖母: そうね…毎日健康で 楽しく暮らせているからねぇ
- やちよの祖母: 身の回りで争いごともなく 可愛い孫や、さなちゃんに
- やちよの祖母: いろはちゃんとういちゃん… みんなに囲まれて
- やちよの祖母: 今が、私にとっては 幸せな時間だと思うわ
- やちよ: 私も…こうして食卓を囲む時間が 何よりも幸せだと思う
- やちよ: それに みかづき荘での仕事は
- やちよ: 新しい出会いもあって やりがいもある
- やちよ: かなえの報せがあったのが いい例かもしれないわね
- さな: 私は…家族のこととか 色々悩んでいましたし…
- さな: 消えてしまいたい…って 思っていたこともあったけど
- さな: 家族に言いたいことを全部言って 家を出てきて…
- さな: 今こうして、第二の家族…として ここに居られているから
- さな: 前よりも、自分に正直になれて 私はとっても幸せ…ですよ
- やちよ: さなは、前よりだいぶ 強くなったわね
- さな: えっと…その…
- やちよ: 褒めてるのよ、ふふ
- うい: わたしも 少し前まで病気だったけど
- うい: 今はこうして 元気に学校に通えるし
- うい: みかづき荘での新しい生活も すっごく楽しいから
- うい: 今がとっても幸せだよ!
- やちよの祖母: そうねぇ… 元気が一番よねぇ
- さな: …どうでしょう、いろはさん 何か見つけられそうですか?
- いろは: どうだろう…やっぱり はっきりとしてないかも…
- いろは: 朝のかりんちゃんのお話で 特に悩んじゃって
- いろは: 今、幸せだと思うし… 悪いことがないから幸せ…
- いろは: って言うのは ちょっと違う気もして…
- やちよ: そうかしら? それも立派な幸せだと思うわよ
- やちよの祖母: えぇ、日常ほど 尊いものはないからね
- やちよの祖母: それに、幸せの形なんて はっきりとはしないものよ
- いろは: …そうですよね
- いろは: 焦る必要はないし… これから、考えてみようかな…
- いろは: 少なくとも、幸せについて話す みんなの笑顔は大切で… 尊いものだと思うから
- FILENAME: text_517110-4_ptdpz.txt
- いろは: 学校に通い始めてから何週間か経って 私は、毎日かえでちゃんとレナちゃんの3人で 一緒に登下校をするようになった
- いろは: 今日は、当番の仕事で遅くなるレナちゃんと 別の学年のかえでちゃんを校門で待っている
- いろは: (学校、不安だったけど 友だちができて良かった…)
- いろは: (ふたり…まだかなぁ)
- ???: わーん、今日の宿題 ぜんぜんわかんないよ~
- ???: …それじゃあ、帰ったら みんなで勉強会する?
- ???: あ、ならウチにおいでよ! 昨日お菓子作ったんだよね
- ???: ほんと!?やった~ れいら、大好きー!
- ???: ちょっと、みと~ いきなり抱きついたら危ないって
- ???: …勉強は進まなそうだね
- いろは: (あの子たち仲良さそう… 勉強会かぁ…楽しそうだな)
- ピロン♪
- いろは: (あ、やちよさんから メッセージ…)
- やちよ: お疲れ様、授業はもう終わったころかしら ごめんなさい…少し、おつかいを頼みたくて
- やちよ: 今度ね、みかづき荘に霧峰村っていうところから 団体のお客様が来る予定なんだけど 足りない食材があるから、買ってきてもらえる?
- いろは: (霧峰村…どこだろ…)
- いろは: (わ、か、り、ま、し、た… これで送信…っと)
- かえで: いろはちゃん、遅れてごめんね! 待った?
- レナ: 途中で合流したかえでが ぐずぐずしてるから…
- かえで: あぁ!そうやって、すぐに 人のせいにするんだからー!
- いろは: あはは…まぁまぁ…
- レナ: へぇ、みかづき荘に 団体のお客さんが来るのね
- かえで: 村って言うくらいだから 結構遠いのかな?
- いろは: うん、山奥の集落だって 連絡があったよ
- ???の声: …ぅあーーーッ!!
- かえで: ひゃぁ!?
- いろは: 誰かの叫び声…!?
- いろは: 何かあったのかもしれないし 見に行こう…!
- ???: うわぁああ…!
- ???: もう、アタシのバカヤロウ…! 何してんだよほんとに…!
- レナ: 何事かと思えば ももこ…
- ???: …へ? あ…レナ…?
- いろは: レナちゃん、知り合い?
- レナ: あ、うん…
- レナ: 推しの現場で仲良くなった オタク仲間のももこよ
- レナ: オタク同士の馴れ合いとか レナ、そんな好きじゃないけど
- レナ: ももこは同じ学校だったし 話しやすいし
- レナ: グッズ交換とかも何度かして …だから…って
- レナ: そんなことはどうでもよくて 何、叫んでたのよ
- ももこ: …ああ!思い出させるな! 恥ずかしくて死ぬ!
- かえで: え、えぇと…とりあえず ここだと目立っちゃうし…
- いろは: そうだね…そこの 公園に行きませんか?
- レナ: …で、少しは落ち着いた?
- ももこ: あ、あぁ…ごめん ちょっと落ち着いたよ
- レナ: それで、何があったの?
- ももこ: …………
- ももこ: その…アタシ、クラスに 好きなヤツがいるって言ったろ
- レナ: 言ってたわね
- ももこ: そいつと、さっきまで 一緒に帰ってたんだけど
- ももこ: ふたりで話してたら 流れで恋バナになっちゃって
- ももこ: それで…アタシに好きな人は いるのかって聞かれて
- ももこ: アタシ、なんかもう パニクっちゃってさ
- ももこ: つい口を滑らせちゃったんだよ お前だよバカ!って
- ももこ: で、さっき道で別れて 冷静になってきたんだけど…
- ももこ: こう…恥ずかしいやらなんやら 込み上げてきちゃって…!
- レナ: いや、ちょっと待って! 大切なところ抜けてない!?
- レナ: …で、どうなったのよ
- ももこ: どう…?
- レナ: 告白したんでしょ!? 結果は!?
- ももこ: …つ、付き合うことになった
- レナ: ~~~~~~!
- レナ: 何よバカ!めでたいじゃない! あーもう、心配して損した!
- ももこ: だって、どうせなら ちゃんと告りたかっただろ!
- ももこ: ほら、その…勇気出して 正面から堂々とさ!
- ももこ: こういうときこそ 漢気見せなくてどうすんだ!
- レナ: アンタ女子でしょ!? 何、漢気見せようとしてんのよ
- レナ: てか、結果オーライじゃない!
- ももこ: …………たしかに
- ももこ: あ、アタシ、好きな人と アイツと付き合えたのか…!
- レナ: そうよ!いまさらなの!? もっと喜びなさいよ!
- ももこ: なんか、話を聞いてもらえて 冷静になれたよ、ありがとな!
- ももこ: えっと…キミたちもごめんね 巻き込んじゃって…その…
- レナ: この子は環いろは、最近隣の席に なったって言わなかったっけ?
- ももこ: ああ、例の転校してきた子か! よろしくね!
- いろは: はい、よろしくお願いします!
- レナ: で、こっちはかえで 苗字なんだったっけ?
- かえで: もう、レナちゃんひどいよぉ!
- いろは: それから、私たちはお互いに自己紹介をすると レナちゃんの案でももこさんの恋が実ったことを みんなでお祝いすることになった
- レナ: お祝い、どこでする? ファミレスとか?
- ももこ: それなら、行きたいところが あるんだけど、いいかな!
- ももこ: 前に見かけた店なんだけど 可愛すぎて入れなくて…
- ももこ: でも、今日ならみんなもいるし
- ももこ: 晴れて好きなヤツとも付き合えて なんか、勇気が出そうだからな!
- かえで: どんなお店なの? 勇気がいるお店って…
- ももこ: 行ってからのお楽しみだよ!
- いろは: (あ…お買い物どうしよう… 急ぎじゃないって言ってたし)
- いろは: (やちよさんには 帰りに買うって伝えておこう)
- FILENAME: text_517110-5_ptdpz.txt
- カラ~ン カラ~ン
- ???: 戻ったな、ご主人
- ???: お帰りなさいませぇっ ご主人様っ♪
- いろは: そのお店は、なんとメイドカフェで お店の看板メイドのなぎたんといくみんこと 十七夜さんと郁美さんに出会ったんだ
- レナ: わ…オムライスに ハートマーク…可愛い!
- 牧野 郁美: くみのきゅんきゅんなラブを 詰め込んでみたよぉ
- 十七夜: 自分からはこれだ
- ももこ: すげー! うっまそうな厚焼き玉子!
- 十七夜: ラブはないが丹精を込めて作った 味は保証するぞ
- レナ: …なんか、変わったメイドさんね 嫌いじゃないけど
- 十七夜: そうか、ご主人 気に入ってもらえて何よりだ
- レナ: …ちょっ ガチ恋営業とかやめてよね!
- 十七夜: ガチ…? 常に自分は本気だが
- いろは: (なんだかすごいところに 来ちゃったな…)
- ???: あれっ、キミ見ない顔だね?
- いろは: あ、えっ…メイドさん…?
- ???: あっはは、違う違う 私は観鳥令、ただの客だよ
- いろは: あ、ごめんなさい…っ 私は環いろはです
- いろは: 友だちについて来たから こういうところは初めてで…
- 観鳥 令: やっぱり、初めてじゃ この雰囲気って緊張するよね
- いろは: 観鳥さん…は よくここに来るんですか?
- 観鳥 令: うん、写真が趣味でね よく撮らせてもらってるんだ
- 牧野 郁美: ブログ用の写真とか いつも助かってるよぉ~
- 観鳥 令: 役に立ててるなら良かったよ
- いろは: ブログの写真…?
- 観鳥 令: …んー、ちょっと自分の話に なるんだけど、いいかな?
- いろは: あ、はい…!
- 観鳥 令: 私、昔から珍事件に 遭遇しやすい体質でね
- 観鳥 令: その証拠を押さえるために このカメラを持ち始めたんだ
- 観鳥 令: だけど、シャッターチャンスは 逃してばっかり
- 観鳥 令: それで悩んでた時に訪れたのが このメイドカフェで
- 観鳥 令: 牧野チャンのお願いに 巻き込まれて写真を撮るうちに
- 観鳥 令: 私が撮りたいのは こういう写真だって気づいたんだ
- 観鳥 令: ほらこれとか… ブレブレだけどいい笑顔でしょ?
- いろは: ほんとだ…なんだか 幸せに溢れてますね
- いろは: 観鳥さんは、笑顔の写真が 好きってことですか?
- 観鳥 令: それもあるけど、笑顔の裏にはね それぞれドラマがあるんだよ
- 観鳥 令: たとえば、あのふたり… 十七夜さんと牧野チャン
- 観鳥 令: ふたりも、人には見せないけど 実は、すごい努力の人でね
- 観鳥 令: 十七夜さんは怪我をした父親に 代わって家計を支えてるし
- 観鳥 令: 牧野チャンも後輩たちと働いてた メイドカフェが潰れちゃって
- 観鳥 令: 後輩のために新規事業を 立ち上げようと頑張ってるんだ
- 観鳥 令: 自分自身も アイドルを目指しながらね
- いろは: へぇ…すごいですね…!
- 牧野 郁美: あっ、も~っ くみの苦労話は禁止だよぉ!
- 牧野 郁美: くみはぁ、ここで働いていて 心の底から幸せなんだからぁ♪
- いろは: (幸せ…)
- ???: わぁ…このスイーツ すっごく美味しくて幸せ~…
- ほら、萌花こっちもあるよ あ~ん
- ???: あーむっ んん~ほっぺが落ちちゃう…
- ???: こ、この美味しさはまさに… う、う~ん思いつかない!
- いけるよ枇々木さん!
- 実況スキルアップへの 一歩!食リポ特訓!
- ???: う、ううぅ… おいしいです!
- そりゃそうだよ! あはは!
- ???: えへへ 先輩方も一口どうぞ!
- ???: このコラボ商品の技術力… まさか“奴等”が潜入して…
- ???: う、うぅ…塁さん… ミユは無理かもしれません…
- ???: コラボメイドカフェと聞き 遠征してきたのはいいですが
- ???: こっここ、ここは足フェチの ミユにとっては眩しすぎますぅ!
- ???: ハッ!ミユリちゃんダメだよ 気絶しちゃ…耐えて…!
- ???: ふひぃ…
- ???: …笑顔のまま 気絶してる…?
- 十七夜: ふっ、それなら なぎたんにお任せ、だぞっ!
- 牧野 郁美: もぉっ、誰~!? BBAって言ったのはぁ!
- 牧野 郁美: くみぃ、ぷんぷんっ なんだからねぇ~っ
- いろは: 本当に…みんな笑顔だ…
- いろは: メイドカフェで過ごす中で たくさんの人の幸せが見えた
- いろは: その形は様々だったけど、みんなが笑顔で 観鳥さんの写真が幸せに溢れているのも なんだかわかる気がして こういう幸せの形もあるんだって知ったんだ
- いろは: ここのみんなは とっても幸せそうですね
- 観鳥 令: でしょ? いいとこだよね、ここ
- いろは: はいっ …って、あ!
- 観鳥 令: ん? どうかしたの?
- いろは: 買いもの頼まれてたの 忘れてました!
- 観鳥 令: あらら… それじゃ、また今度だね
- いろは: はい、また!
- FILENAME: text_517110-6_ptdpz.txt
- いろは: メイドカフェを出て急いでおつかいを終えた私は みかづき荘でやちよさんと一緒に 霧峰村の人たちに振舞う食事の仕込みをした
- いろは: 手を動かしながら、引っ越してきてからの話や みかづき荘に訪れた人の話をしていると いつの間にか、この新しい生活に 馴染み始めている自分に気づいたんだ
- やちよ: そういえば、昨日うちに 駆け込んできた子
- やちよ: あのあと、結局 どうなったのかしらね
- いろは: あ、お見合いがどうとか 話してましたよね
- やちよ: ええ、水名にある呉服屋さんの 泣き虫な子だったわね
- やちよ: ご両親と、しっかり お話できてるといいけど…
- いろは: 仕込みもほとんど終えた頃…
- やちよ: あとはデザートだけ …って、いけない
- やちよ: 果物を買い忘れたわね…
- いろは: あ、私買ってきますよ
- やちよ: 何度もごめんなさい… 助かるわ
- いろは: それから、買い物に行ったけど やちよさんのおばあさんが好きだと言っていた 柿だけが見つからなくて 他のスーパーを探していたその頃…
- ぐすっ…ぐす…
- いろは: (…泣き声…?)
- いろは: あの、すみません どうかしましたか…?
- ???: うぅ…すまほは動かないし 母様が見当たらないのぉ…
- いろは: えっと…道に迷ったんですか?
- ???: ええ…物産展のために村から 神浜市に来たんだけど…
- ???: 母様とははぐれるし 宿の場所もわからなくて…
- いろは: …あの、宿の名前って わかったりしますか?
- いろは: 私、調べてみます
- ???: ありがとう…
- ???: 確か…みかづき荘って 名前だった気がするわ…
- いろは: え…あ、もしかして 霧峰村の…!?
- ???: まさか宿の方だったなんて あなたに会えて良かったわ!
- 静香: あ、私は時女静香よ 名前をうかがってもいいかしら?
- いろは: 環いろはです…! みかづき荘まで案内しますね
- 静香: 助かるわ! ついでにお願いがあるんだけど
- 静香: よかったら都会について 教えてもらえないかしら
- 静香: 村からほとんど出たことがなくて 私、なんにも知らないのよ…
- いろは: 私で役に立てること、あるかな…
- 静香: メイドカフェ…都会には そんなものがあるのねぇ
- いろは: 私も、さっき初めて 行ったばかりなんですけどね
- いろは: 時女さんの住んでる場所は どんなところなんですか?
- 静香: 山奥にある集落でね 山では山菜が採れるし作物も新鮮
- 静香: 川では魚がたくさん獲れて… 食べ物の美味しい、いいところよ
- 静香: 集落の人は、みんなが優しくて 家族みたいだしね!
- 静香: あ、それから私のことは 静香って呼んで欲しいわ
- 静香: 宿に着いたら「時女」が 何人もいるから
- いろは: 大家族…なんですか?
- 静香: まぁそうね…時女一族と言って 本家とか分家があるけど…
- 静香: あ、私ね、本家の娘なのよ えっへん
- いろは: え、すごい!
- 静香: って言っても、ほんとに ただの大きな家族って感じよ
- 静香: 前は、いろんな掟とかが あったみたいなんだけど
- 静香: もう、形骸化してて 最近は観光に力を入れてるの
- いろは: へぇ…そうなんですね
- いろは: ただいま戻りましたー
- やちよ: あら、おかえりなさい …と、その子は?
- 静香: 時女静香と申します! 今日からお世話になります
- やちよ: ああ、あなたね お母さんが心配してたわよ
- 静香: うぅ…母様って怒ると とっても恐いのよねぇ…
- やちよ: 買い物はできた?
- いろは: あ、それが頼まれていた 柿だけ見つからなくって…
- 静香: 柿… それならだいだいっこがあるわ
- いろは: だいだいっこ…?
- 静香: 霧峰村の名産でね
- 静香: 形は違うけど、だいだいっこは 柿の一種なのよ
- 静香: いろはさんには道案内を してもらって
- 静香: 都会のことも教えてもらったし
- 静香: 確か、物産展のために 持ってきただいだいっこの
- 静香: 余りの在庫があったはずだから お礼に後でお渡しするわ
- やちよ: それは助かるわ ありがとう
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- いろは: 霧峰村のみなさんと夜ご飯を食べて あとはお風呂に入って寝るだけ…という頃 みかづき荘に駆け込んできた人たちがいたの
- ???: ママはパパにひどく当たって… パパは何も言い返さないし…
- ???: あんなふたりを見ているのは もう耐えられないんですの
- ???: うちの父は政治ばかりで 私を見もしない…
- ???: たまには反抗してみるのも いいかと思ったんです
- ???: 女の子たちの駆け込み寺って 口コミを見まして…
- ???: 来る途中、この方とお会いして 一緒に来たんですの
- やちよ: …なるほど あなたたちどこから来たの
- やちよ: 今日は部屋がいっぱいで… 泊められそうにないのよね
- ???: 宝崎市なんですの…
- ???: 私は二木市から…
- やちよ: なっ…宝崎市はともかく 二木市は遠いわね…
- やちよ: この時間から帰すわけにも いかないし…
- やちよの祖母: そうねぇ…ご両親に連絡するから 連絡先を教えてもらえるかしら
- ???: …え、連絡するんですの?
- やちよ: 泊めるなら、当たり前よ あなたたち未成年でしょ?
- ???: 考えが及ばなかったんですの…
- ???: 私は、姿勢だけ示せればいいから 想定内でしたけど…
- やちよ: ただ、さっき言った通り 泊められる部屋がないから
- やちよ: 居間で寝てもらうけど いいかしら?
- ???: えぇ、構いません…
- ???: 私も、今日はへとへとなので どこででも眠れるんですの
- 静香: あ、それじゃあ私も 居間で過ごしていいかしら
- 静香: 集落育ちで世間知らずだから 見聞を広げなさいって
- 静香: 普段から母様に言われてるのよ
- やちよ: まぁ、構わないけど…
- いろは: あ、それじゃあ私も
- 静香: ふふっ、なんだか 楽しい夜になりそうね
- いろは: それから、私たちは 居間で一夜を明かすことになった さなちゃんも呼んだけど、知らない人が多いと 緊張しちゃうみたいで 今日は、部屋でういと過ごすみたい
- いろは: 居間で過ごす私たちは お互いに自己紹介をしたんだけど 話を聞くと里見那由他さんという子は 灯花ちゃんのいとこだった
- いろは: あまり気は合わないみたいだけど…
- いろは: それから、紅晴さんは二木市に住んでいて お父さんが市長さんをしているんだって
- 静香: それで、ふたりは 家出…?してきたのよね
- 那由他: ええ、そうですの
- 静香: ふーん…家出なんて 私にはあまり考えられないわ
- 那由他: ―那由他― 家出もしたくなるんですの…! ママはイライラしてパパに八つ当たりばかり
- 那由他: ―那由他― なのにパパは抵抗せずにヘラヘラするから ふたりに腹が立って仕方がないんですの!
- 那由他: ―那由他― 私がふたりに言っても聞かないから もう、息が詰まって出てきたんですの!
- 結菜: ―結菜― 私も、小さい頃から市長の娘として育ち 期待にさらされて息が詰まる日々だった
- 結菜: ―結菜― だから反抗して低いレベルの学校に入ったり 子どもじみた抵抗をしてみたけど
- 結菜: ―結菜― 今度は、臭い物に蓋をするように 私を隠したがってるようだったから
- 結菜: ―結菜― 自分で出てきてやったのよ
- 那由他: ―那由他― そう、家出は私たち子どもにとって 意思表示をする方法のひとつなんですの
- 静香: ―静香― 家長に意見を通すのが難しいのは なんとなくわかるわ
- 静香: ―静香― ただ私も、よく母様に反抗して怒られるけど 言い合いをした方が、わかりあえるときもあるし
- 静香: ―静香― ふたりも、家出よりも前に本気で言い合って 真っ向からケンカをしてみたらどうなのかしら
- いろは: ―いろは― でも、そう簡単じゃないから ここに来てるんじゃないのかな…
- 静香: そっか…そうよね… ちょっと無神経だったわ
- 結菜: …でもまぁ、よく考えたら 言い合いをしたことはないわね
- 那由他: 私も、言っても無駄なんだと ひとこと返されたところで
- 那由他: 見切りをつけて しまっていたんですの
- 那由他: これじゃあ、言い返さない パパと似たようなものですの…
- いろは: …………その、ふたりは ご両親にどうなって欲しいの?
- 結菜: 私は、私自身を 父にもっと見て欲しいだけよ
- 結菜: 「…私は、周りの生徒に背中を押される形で 学校改革を目的に 生徒会長を目指すようになったの」
- 結菜: 「学校が荒れてるのは 生徒だけの問題ではなく、学校組織にも 問題があるということに気づいたから」
- 結菜: 「だけど、それは父が私に求めた 政治の道を歩むことだから 私は2年になって生徒会長になると 自らの道を歩むことにした」
- 結菜: 「父の道具ではなく、私自身の信念と 行動で形に残ることをすれば 父は認めてくれるかもしれないと思った…」
- 結菜: 「だけど、学校の伝統に逆らい 時には大人と対立する… 自立した自由を得ようとする私は 父の求める“市長の娘”じゃなかったみたい」
- 結菜: 「自分で学費を稼いだり、学校改革を 成功させ、自立した自分を行動で示した… でも、頑張れば頑張るほど 父の理想からは離れて、父は私を見なくなった」
- 結菜: 私は父に見て欲しかった
- 結菜: 市長の娘としてじゃなく… ただ、娘として認められたかった
- いろは: そうなんですね…
- 那由他: 私は、ただママがパパに 優しくなってくれて
- 那由他: パパが、もう少しでいいので ママに言い返せたらいいんですの
- 那由他: 「ケンカをしないで常に仲良し…を 求めているわけじゃないんですの ケンカをしていても、家族として 愛し合ってるなら構わないんですけど」
- 那由他: 「それがわからないから どうしてふたりは一緒にいるのか、とか どうして家族になったのか…とか どうして私を産んだのか…とか 考えては、なんだか悲しくなるんですの」
- 静香: …そっか いろんな想いがあるのね…
- 静香: …うん、こういうときは
- 静香: 一度思っていることを 全部、口にしてみましょう!
- いろは: はい、私たちが聞くので!
- いろは: それから、那由他さんと紅晴さんの ご両親への話はなかなか止まらず…
- 那由他&結菜: はぁ…はぁ…
- 静香: …ずいぶんと うっぷんが溜まってたのね
- 那由他: …………
- いろは: すっきりしたかと思ったけど なんだか元気ないですね…
- 静香: あなたはお母様のことが 嫌いなんでしょ?
- 静香: これだけいろいろ言ったら せいせいするものじゃない?
- 那由他: …正直、嫌いですの…でも 居なくなったら悲しい存在ですの
- 那由他: パパを叱るママも 私に厳しいママも嫌い…
- 那由他: だけど、厳しいママのおかげで 勉強も平均くらいはできていて
- 那由他: こうやって、元気に すくすく育ったんですの
- 那由他: 嫌いだけど、家族で… 言葉にはしづらいんですの…
- 那由他: それに、情けないパパは嫌だけど パパのこと自体は大好きですの…
- 那由他: 私…寂しくなってきたんですの ぐすっ…会いたいですの…
- ピンポーン
- やちよの祖母: あら、あなたたちは…
- 那由他の父: 夜分遅くにすみません… 娘の那由他がいると聞きまして…
- 那由他: …パパ、ママも…
- 那由他の父: ああ那由他、ごめんね
- 那由他の母: …大体、あなたが 那由他を甘やかすから…
- 那由他の父: はは…ごめん…
- 那由他: そういうとこなんですの!
- 那由他: 「もっとママはパパに優しくして パパはママにもっと言い返すんですの! 家族なんだからいっそケンカするんですの! そういう感じが私は嫌なんですのっ!」
- 那由他: 「…私、ギスギスしたふたりを見て生活するのは 息が詰まって、ふたりを嫌いになりそうで… そう思うこともとっても嫌なんですの…だって ふたりはパパとママで嫌なところはあっても 居なくなったら寂しい…家族…なんですの」
- 那由他: そもそも…っ パパとママが愛し合っているから
- 那由他: 私は…産まれてきたんじゃ ないんですの…?
- 那由他: …ふたりが、そんなんじゃ…私 産まれた意味がわからないですの
- 那由他の父: っ…あぁ…ごめんね那由他 そんな風に思わせてしまって…
- 那由他の母: …えぇ、ごめんなさい那由他 ママたちが間違ってたわね…
- 那由他: 私は、いいのでっ… ふたりで仲直りするんですのっ
- 那由他の母: …そうね、辛く当たりすぎたわ 私もごめんなさい、あなた
- 那由他の父: いや、僕こそ… 君に何も言い返さなかったのは
- 那由他の父: 話し合いから 逃げていたせいかもしれない…
- 那由他: じゃあ、ふたりは ちゃんと愛し合ってるんですの?
- 那由他の母: ………… いがみ合っても、噛み合ってる…
- 那由他の父: …僕たちは、昔から そういう関係だったからね
- 那由他の父: こうして、ふたりで那由他を 迎えに来たのが答えだと思うよ
- 静香: 里見さんたち、結局 ケンカしながら帰ってったわね
- 結菜: まぁ、あれが あの家族なんじゃない?
- いろは: いろんな幸せの形が あるってことでしょうか…
- 結菜: そうね…それに あの子を見ていたら
- 結菜: 私も父に対して、正直に気持ちを 伝えようって思えてきたわ
- 結菜: 大きな声で反論なんて 子どもじみてるって思ってたけど
- 結菜: こうした行動で訴える方が よっぽど子どもだものね
- 結菜: いくら私が頑張ったとしても 父がこっちを見ていないなら
- 結菜: 振り向かせる努力をしないと 永遠に見てもらえないもの
- いろは: 伝えてみるって 大事なのかもしれません
- 結菜: …そう考えられたのも あなたたちのおかげね
- いろは: 私は、ただふたりの話を 聞いてただけですけど…
- 結菜: その機会が、今まで なかったのよ、きっと
- 結菜: だから明日の朝には帰って 父と向き合ってみるわ
- 結菜: まぁ、十中八九 ケンカになりそうだけどね
- 静香: お互いケガはしないように 頑張ってね!健闘を祈るわ!
- 結菜: どうして殴り合いが 前提になってるのよ…
- いろは: 那由他さんにとっての幸せ… 紅晴さんにとっての幸せ…
- いろは: あの本の中に いろんな“さいわい”があったように みんなそれぞれの幸せを抱いてるんだ
- いろは: 私にとっての、ほんとうのさいわいは まだ見つかっていないけど 幸せなみんなを見るのは、やっぱり嬉しいな
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- テレビの声: 「スタジオ披露ありがとうございました! 演技をしてくれたのは湯国市から来た 大道芸人コンビのうらら&くららでした!」
- テレビの声: 「ありがとうございましたなんよ~!」
- やちよ: また、いつも通りの みかづき荘が戻ってきたわね
- いろは: なんだか、ちょっと寂しいです
- やちよの祖母: あんなにたくさんのお客さん なかなかないからねぇ
- テレビの声: 「続いて、先日起きた 小学校の立てこもり事件について 関係児童からの証言が物議を醸しています」
- テレビの声: 「証言によれば、殺害された女子児童について 犯人からクラスメイトに対し殺害する『生贄』の 投票を促したとのことで、関係児童たちへの 心のケアが急がれている…とのことですが コメンテーターの方々はどうお考えでしょう」
- テレビの声: 「投票だなんて酷い…信じられませんね… ただ、これ投票をした関係児童たちは いったい、どういう想いだったんでしょう いじめの有無などの事実確認も 必要なんじゃありませんか?」
- テレビの声: 「いやいや、そういった言動が児童たちの 心の傷をえぐるとはお考えにならないんですか 悪いのは、どう考えても犯人でしかない そのことを忘れてはいけないかと」
- やちよの祖母: あぁ、あの事件…覚えてるわ 生贄だなんてひどい話ね…
- うい: 同じ小学生の話だもんね こわいな…
- さな: なんだか最近 物騒な事件が多いですね…
- テレビの声: 「こうした児童の心の傷へのケアについて 里見メディカルセンターの院長に伺いました」
- うい: あ、灯花ちゃんのお父さんだ
- やちよ: 今日は、その灯花ちゃんの お見舞いに行くんだったかしら?
- いろは: はい、学校の帰りに寄るので 帰りが少し遅くなるかもです
- やちよ: わかったわ 気をつけていってらっしゃい
- やちよ: 灯花ちゃんとねむちゃん…よね ふたりにもよろしく伝えておいて
- いろは: はい…!
- いろは: (そういえばお土産… 何か持っていかなくちゃ)
- いろは: おはよう、レナちゃん 今朝は一緒に行けなくてごめんね
- いろは: ちょっとみかづき荘の 片づけがあったから…
- レナ: あぁ、おはよう… 別に気にしなくていいわよ
- いろは: …あれ レナちゃん元気ない?
- レナ: いや…さっきから みんなが噂してるあれよ…
- いろは: え…噂…?
- 「ねぇ、聞いた…? 2年生の子が団地の屋上から落ちたって」
- 「事故だって聞いたけど…大丈夫なのかな… 昨日の夕方に救急車で運ばれたらしいけど…」
- いろは: 気づかなかった…
- レナ: 団地の2年生らしいから 多分知らない子だと思うけど…
- レナ: ちょっと沈んじゃうわよね…
- いろは: うん…無事だといいね
- ドンッ
- いろは: あ、すみません…
- ???: …………屋上…
- いろは: へ…?
- レナ: いろは、大丈夫?
- いろは: あ、うん…
- いろは: (あの子、もういない… どうかしたのかな…)
- レナ: そういや、今日帰りも別だっけ お見舞いとか言ってたわよね
- いろは: え…あ、そうなの…! それでお土産を考えてて…
- レナ: ああ、それなら いいところを知ってるわよ
- いろは: レナちゃんに教わったのは 高等部で、最近フラワーアレンジメントの 同好会を開いた春名このみさんという人のこと
- いろは: それは、お花屋さんを開く夢を持つ彼女が フラワーアレンジメントのスクールを 昼休みに開いている…というお話で…
- 春名 このみ: はい、これで完成です! 大切な人に想いが届きますように
- いろは: これなら喜んでもらえそう…! ありがとうございます!
- いろは: そこで小さな花束を作って、私とういは 灯花ちゃんとねむちゃんのお見舞いに行ったの
- 灯花: うい、お姉さまっ! 待ってたよー!
- ねむ: 灯花とふたりきりだと 空気が悪いからね
- 灯花: にゃにをー!
- いろは: ふふ、ふたりとも 体調良さそうで良かった
- ねむ: うん、最近は容態も安定して 今にも走れそうな気分だよ
- 灯花: ま、本当に走ったら そのままICUに直行だけどねー
- うい: もう、嫌な冗談はやめてよ
- うい: このお花、生けておくね お姉ちゃんが作ったんだよ
- 灯花: 本当!?可愛い! わたくし、すっごい嬉しい!
- ねむ: うん、このまま枯れてしまうのが 惜しいくらいだね
- いろは: えへへ、喜んでもらえて嬉しいな
- いろは: あ、それから、やちよさんが ふたりによろしくだって
- 灯花: 今住んでるみかづき荘の 管理人さんだっけー?
- 灯花: いいなーわたくしたちも ういたちと一緒に住みたいにゃー
- ねむ: うん…そのためには早く 治さないといけないね
- いろは: うん、待ってるからね
- うい: でも、無理は禁物だよ!
- うい: ふたりとも体調良さそうで 良かったね
- いろは: うん、そうだね
- ???の声: ウソだ!そんなのウソだよ!
- ???: …みと、落ち着いて… 叫んだって、なんにも…
- ???: だって、だってつい最近まで 一緒にいた…元気だった!
- ???: せいかが救急車を呼んだときは まだ、息してたんでしょ!?
- ???: …私だって、信じられないよ… でも、お医者さんが…そう言って
- ???: …いや…ぁ…嫌だよ… れいらが死んじゃったなんて
- ???: そんなの嫌だよぉ…っ
- いろは: (同じ制服… 前に見かけた子たち…)
- いろは: (その中のひとりが 亡くなった…のかな…)
- 「ねぇ、聞いた…? 2年生の子が団地の屋上から落ちたって」
- 「事故だって聞いたけど…大丈夫なのかな… 昨日の夕方に救急車で運ばれたらしいけど…」
- いろは: (あ…学校で噂になってた子 あの子たちの友だちだったんだ)
- FILENAME: text_517110-9_ptdpz.txt
- やちよ: おかえり、ふたりとも …どうかしたの?
- いろは: …その…
- やちよ: そんなことがあったのね…
- やちよの祖母: …それは悲しいね
- うい: うん…
- さな: …………
- さな: 不謹慎…かもしれないですけど こう考えると、私たちは
- さな: 生きてるだけで 幸せなのかもしれません…
- いろは: うん…
- いろは: 生きるとか死ぬとか… あまり考えてなかったのかも
- いろは: 灯花ちゃんやねむちゃん… それに、少し前までのういも…
- いろは: 病気の子は目の前にいたとしても 死を目の当たりにすることって
- いろは: 今まであまりなかったから… 忘れちゃってたんだ…
- やちよの祖母: 普通は、考えないものよ
- やちよの祖母: 考えずにいられる日常が きっと幸せなんだから
- やちよ: …そうね
- いろは: 生きてるってことが当たり前で 気づかなかったけど
- いろは: その当たり前が 幸せだったんですね…
- いろは: …なんだか、お母さんたちに 会いたくなってきちゃった
- うい: うん…わたしも そう思ってたところ
- やちよ: たまには電話をしてみるのも いいんじゃない?
- やちよ: 時差もあって、メッセージで 済ますことも多いんだし
- やちよの祖母: ええ、そうね きっと喜んでくれるよ
- いろは: …はい
- いろは: もしもし…お母さん?
- いろは: うん、うん…元気だよ うい?
- うい: わたしも元気だよ お母さんとお父さんは?
- うい: …そっか、よかった
- うい: んー…えっとね 声が聞きたくなっちゃって
- いろは: うん、私も同じ…
- いろは: …初登園で泣いてたのを 思い出すって…
- いろは: もう、それ私が 幼稚園の頃の話でしょ!
- うい: ふふふっ
- いろは: …へ? あ、あー…
- いろは: …うん、ふたりには バレバレだね…
- いろは: …うん、元気出たよ …ありがとう
- いろは: お母さん、お父さん …あのね、いつもありがとう
- うい: わたしも…! …え!?お父さん泣いてるの!?
- いろは: お父さんとお母さんと電話をして ふたりの愛情をいっぱいもらって 心があったかくなったの
- いろは: そして、これからも当たり前を大切にして 幸せを見逃さないように生きなきゃって そう、思ったんだ
- FILENAME: text_517110-10_ptdpz.txt
- いろは: それから、私は日々みかづき荘に 駆け込んでくる人たちとの触れ合いの中で 自分は、誰かの幸せのために 何ができるだろうって考えるようになった
- 粟根 こころ: お父さんと、ケンカしちゃって…
- いろは: 那由他さんや紅晴さんのように 家出をしてきた子は結構いて
- 旭: 祖父の過干渉が嫌になり 湯国市からここまで…
- いろは: 時には、かなり遠くから来る子もいたり…
- 千秋 理子: お姉さんの結婚が 認めてもらえるまで
- 千秋 理子: わたし おうちに帰りませんから!
- いろは: 色々な悩みを抱えた子が訪れてきた
- 矢宵 かのこ: 両親が私のファッションセンスを 全然わかってくれないの…!
- 矢宵 かのこ: 私のデザイン、これなんだけど!
- いろは: んー…一度ご両親の意見を 聞いてみるのもいいのかも…?
- いろは: 口コミがどう伝わったのか 駆け込み寺と言うよりは 悩み相談の側面も強くなってはいたけど
- 志伸 あきら: ボク、すぐにトラブル相談が 舞い込んできて…
- 七瀬 ゆきか: 日々にトラブルがなくて 刺激がないといいますか…
- いろは: あ、それなら 紹介したい人が…!
- いろは: このことをきっかけに 友だちを探しに来る子なんかも現れたり…
- 史乃 沙優希: 刀について語れるお友だちが 欲しいんですがぁ…
- 梢 麻友: 美術館で働いてたんですけど その、人間関係でトラブルが…
- いろは: あ、あの…美術館って 刀…とかもあります?
- 江利 あいみ: 好きな人の気持ちが わからないんです!
- いろは: えっと…聞いてみる…とか? 直球すぎますか…?
- 江利 あいみ: 聞く…告白じゃなくて 聞くだけだったら…
- 江利 あいみ: ドキドキしちゃうかもだけど 頑張れるかもしれません!
- いろは: いろんな人と会って、たくさん話をして そして、笑顔で帰る人を見るのは嬉しかった
- いろは: 話を聞くだけなのがほとんどだし 自分に何ができてるかって考えると そんなに役に立ててないのかもしれない
- いろは: だけど、今は目の前にある 自分にできることをひとつひとつ 悔いの残らないようにやっていくしかない
- いろは: そして、みんなの笑顔を見る中で 私はあることを決めた
- やちよ: カメラを貸して欲しい?
- いろは: …はい
- やちよの祖母: あら、それなら 倉庫に古いのがあるけど
- やちよの祖母: 急にカメラだなんて 何に使うんだい
- いろは: その、みんなの笑顔を 撮って、残したくて
- いろは: メイドカフェで観鳥さんと出会ってから たまに写真が送られてくるようになった
- いろは: 相変わらずブレてるものが多かったけど どれも笑顔で、幸せに満ちていて その写真を見るのが楽しみになってたんだ
- いろは: 神浜市に来てから 嬉しいことも悲しいことも経験して 日常の大切さを知ったから 当たり前が当たり前じゃないって気づいたから…
- いろは: この大切で尊い瞬間を 写真という形で残しておきたいって思ったの
- いろは: それじゃあ、撮るので みなさん並んでくださーい
- さな: ういちゃん、もう少し こっちの方がいいかも
- うい: う、うんっ
- 御園 かりん: こんにちはなのー って、みんな何してるの?
- やちよの祖母: ちょうどいいわ かりんちゃんもこっちおいで
- 御園 かりん: わかんないけど わかったのー!
- 鶴乃: どうもー、万々歳から クーポンのお知らせだよ~
- 鶴乃: ほっ?写真撮影? じゃあ、わたしも入っちゃお~!
- やちよ: すごいタイミングね…
- やちよの祖母: ふふふ、ほらほらみんな 真ん中にぎゅーっと集まって
- むぎゅっ
- いろは: それじゃあ、いきますねー
- いろは: 『はい、チーズ!』
- パシャッ
- うい: どう? ちゃんと撮れた?
- さな: あ…これは…ふふ
- やちよ: あら…ブレッブレね
- 鶴乃: 修行が必要そうだね! ふんふん!
- 御園 かりん: でも、楽しそうで いい一枚なの!
- やちよの祖母: ふふふ、そうね 玄関に飾ろうかしら
- いろは: そ、それは 恥ずかしいですよ…!
- いろは: 私は、あの授業から “ほんとうのさいわい”を“一番の幸せ”として 探していたような気がするけど
- いろは: きっと、幸せの形はたくさんあるから ひとつに絞らなくたっていい
- いろは: ただ、この当たり前の日々が続けば それでいいって思うんだ
- いろは: もしかしたら、かりんちゃんの物語に 出てきたあの魔法少女も そんな日常を守るために戦っていたのかな
- さな: 今度は、いろはさんも 一緒に写りましょう
- やちよ: そうね、どうせ飾るなら 全員入ってないとね
- いろは: こんな幸せが ずっと続いたらいいなって、そう願ったんだ
- [Part 1 end]
- ---
- [Part 2 start]
- FILENAME: text_517120-1_rJz0C.txt
- いろは: あれから時間は経って 数えきれないほど写真を撮った
- うい: ふふ、この写真いいね
- いろは: でしょ、いい笑顔だよね 観鳥さんにも褒められちゃった
- いろは: ただ、幸せな写真は時間が経って増えたけど みかづき荘に訪れる人が 悩みを抱えていることは変わらない
- いろは: 私は、その話を聞くことはできても それ以上は、何もできていないように思う…
- いろは: だけど、私にはどうすれば 他の誰かを幸せにできるかわからない…
- いろは: 私自身が誰かに 幸せを与えられる側になれたらいいんだけど…
- さな: あ、いろはさん リビングにいたんですね
- 御園 かりん: …って、環先輩とういちゃん 何をしてるの?
- いろは: 撮った写真を現像して ちゃんとアルバムにしてみたから
- いろは: 神浜市に来てからのことを ういと見返してたんだ
- 御園 かりん: なるほどなの!
- 御園 かりん: あれから写真すっごい増えたし とっても上手になったの
- 御園 かりん: あ、これアリナ先輩の 個展会場の写真なの!
- いろは: うん、この時はね…
- いろは: 『かりんちゃんに紹介してもらった アリナさんっていう芸術家さんの 個展に行ったときの話なんだけど…』
- いろは: なんか…すごかったけど 私には難しかったな…
- うい: わたしも… 小学生には早かったかも?
- ???: あの…すみません…!
- ???: そこの美術館のチケット…
- ???: 余ってるんだけど… よかったら使いませんか?
- いろは: あ、ごめんなさい… 私たち今見終えたところで
- ???: そっかー…
- いろは: えっと… どうかしたんですか?
- ???: いや…好きな人と来る予定 だったんだけど
- ???: 失恋しちゃってさー…はは
- ???: ひとりで見ようとも思ったけど やっぱそんな気分になれなくて…
- ???: でも、チケットもったいないし 誰かもらってくれないかなーとか
- ???: …って、何話してんだろ はは…はっずかし…
- ???の声: えぇえ!? ここにいれてたはずなのに!?
- ???: チケット落とすとか 超サイアクだよ~!
- うい: もしかして、あの人…
- ???: やっば! ちょうどいい人いたっぽい!
- ???: ほんと助かるよ~!
- ???: あーし大人っぽくなりたくて 美術館で勉強!って思ってたから
- ???: そだ、あーし衣美里! よろしくっ!
- ???: あたしは梨花! よろしくね!
- 木崎 衣美里: んん? このふたりは?
- 綾野 梨花: ふたりと話してたから あなたを見つけられたんだよ!
- 木崎 衣美里: そんじゃ、ふたりもあーしの ピンチを救ってくれたわけかー!
- 木崎 衣美里: っつーことは、今日から あーしら友だちじゃん!?
- いろは: あれから、たまに一緒に 遊んだりしてるんだ
- うい: ふたりには神浜市のこと いろいろ教えてもらったよね
- さな: あれ、こっちの写真って ゲームセンターですか?
- いろは: あぁ…これは… 大変だったんだよね…
- いろは: 『大変だった…って言うのもね レナちゃんとゲームセンターで遊んでたら 突然、知らない女の子に声を掛けられて そのままゲーム大会に出ることになっちゃって』
- ???: 神浜市に引っ越してきてから よくこの店に来てんだけど…
- ???: アンタ、たまに見かけててさ 上手いから目を付けてたんだよね
- ???: ねえ、クレーンゲームの大会 アタシとチームにならない?
- レナ: ふん、見る目あるじゃない そんなに言うならいいわよ
- いろは: (私は…どうしよう… 見てようかな…)
- いろは: (あれ、あの子も 大会に出るのかな…?)
- ???: …何?
- いろは: あ、大会…出るのかなって
- ???: …ちょっと興味があったから 神浜市への用事ついでに来たけど
- ???: チーム戦なの知らなくて…
- ???: 誰かに声を掛ける 勇気もなかったから…
- ???: …………ねぇ
- ???: あなた、今ヒマなの? それならさ…
- いろは: 『それで、その子…笠音さんと一緒に ゲーム大会に出たんだけど レナちゃんとその相手、智珠さんは強いし』
- いろは: 『私は、ゲームなんて全然できないから 足引っ張ってばかりで惨敗だったんだよね… だけど…』
- いろは: ごめんなさい… 私のせいで負けちゃいましたね
- アオ: ほんと…びっくりするくらい へたっぴだよね~…
- アオ: …でも、あなたと遊べて わたし、楽しかった
- アオ: ありがとね、環さん …また一緒に遊ぼう
- いろは: それからも たまに連絡をとっててね
- いろは: 笠音さんの好きな ボードゲームのこととか
- いろは: いろいろ教えてもらったり してるんだ
- いろは: もちろん、大会に出場なんて 大変だったけど
- いろは: 今じゃ楽しい思い出のひとつだし 仲良くなれて幸せだよ
- さな: 写真の数だけいろんな出会いが あったんですね…!
- いろは: そうなの だから、いつかみんなに
- いろは: 何か恩返しができないかなって 最近ずっと考えてるんだ
- いろは: 私は、いつも誰かに 幸せをもらってばかりだから
- いろは: 他の人に幸せを 与えられたらな…って
- 御園 かりん: いい出会いばっかりで よかったの!
- いろは: あ、でも…出来事としては いいことばっかりじゃなくてね…
- いろは: 例えば、このふたりとの出会いは その、良くない方だったかも…
- いろは: 月夜さんと月咲さんっていう 双子の人だったんだけど…
- いろは: ケンカをしてたところに たまたま居合わせちゃって
- 月咲: 双子なんだから 仲良くしろってこと!?
- 月夜: あなたに何が わかるでございますか!?
- 月夜: 私だって、仲良く したいでございます…でも
- 月咲: 生まれの違いは どうしても埋まらないよ!
- いろは: 私が無神経なばっかりに 怒らせちゃって…
- いろは: だから本当は、アルバムに載せず しまっておきたかったけど
- いろは: 幸せのためには 悲しいことや辛いことも
- いろは: 残しておいた方がいいって 観鳥さんと話して
- いろは: 忘れないために 残すことにしたの
- いろは: だから、観鳥さんの写真には そういうものが含まれてて…
- いろは: たとえば、観鳥さんが撮った この化学室の写真はいい例かも
- さな: 誰もいない化学室の写真…? 何かあったんですか?
- いろは: 『何年も前の話だけど 化学室で実験中に有毒ガスが発生して 亡くなった子がいるみたいで それから化学部はずっとないらしいの』
- いろは: だから、このアルバムの中には 幸せだけがあるわけじゃないんだ
- 御園 かりん: たしかに… よくわからない写真もあるの
- 御園 かりん: これは、本の青空市なの?
- いろは: うん、商店街でたまたま 見かけたんだ
- いろは: 『夏目書房って本屋さんなんだけど 以前、お店への放火があったみたいで… 今は、こうして建て直しのために 少しずつ頑張ってるんだって』
- いろは: 『でも、在庫もほとんど燃えてしまったから 大変で…店主のお父さんがふさぎこんでるって お店の子が言ってたんだ…』
- 御園 かりん: こっちは…お祭りなの?
- いろは: 宝崎市の火祭りだね なくなっちゃうって聞いて
- いろは: 最後に見に行ってきたの 泣いてる人がたくさんいて
- いろは: 愛されていたお祭り だったんだと思うよ
- 御園 かりん: それから、ここ! 駄菓子屋さんがあったはずなのに
- 御園 かりん: いつの間に マンションになってたの!?
- いろは: 見返してみると 当たり前の尊い日常を残そうと思って みんなの笑顔を撮り始めた私は 次第に喜びも悲しみも撮るようになった
- いろは: だけど、次第に もどかしさを感じるようになっている
- いろは: きっと、ただ残すばかりで 生かすことができていないから 歯がゆいのかもしれない…
- 御園 かりん: あとこれなんか、わたしが すっころんだときの
- 御園 かりん: …って、そうじゃないの!
- 御園 かりん: 環先輩に話そうと 思ってたことが別にあったの!
- 御園 かりん: みかづき荘で、いろんな人の話を 聞いてる環先輩なら
- 御園 かりん: もしかして何か知ってるかもって 思って聞きにきたんだったの!
- いろは: …?
- FILENAME: text_517120-2_rJz0C.txt
- やちよ: お百度参りの噂?
- いろは: はい、かりんちゃんと さなちゃんが話してて
- さな: 「いろはさんは知ってますか? お百度参りの噂… 水徳寺っていうお寺に毎日のように現れては 必死の形相で何かをお祈りしてるみたいで」
- 御園 かりん: 「その様子が少し怖いって 最近、神浜市の子たちの間で ちょこっとだけ噂になってるお話なの! 確かに、ちょっとこわーい!なの!」
- やちよ: それは…ただ普通にお百度参りを している人なんじゃない?
- いろは: ですよね… でも、何を祈ってるんでしょう
- やちよ: …あ、水徳寺と言えば ここのすぐ近くね
- いろは: …行ってみてもいいですか? 何もないかもしれないですけど
- いろは: そこまで強い祈りって なんだろうって気になって
- やちよ: …そうね 行ってみましょうか
- いろは: …まぁ、特に何も ないですよね
- やちよ: …せっかくだし お参りしていきましょうか
- いろは: はい… あ、あそこ
- やちよ: 他にも参拝客がいるようね
- ???の声: おい、賽銭泥棒はあんたか!?
- いろは&やちよ: ――っ!?
- ???: はぁ?賽銭泥棒?
- ???: 土地を手放す瀬戸際まで 追い詰められた寺を相手に…
- ???: ったく 泣きっ面に蜂たぁこのことだ
- ???: いや、だからなんの話!?
- ???: 素直に白状したら 許してやろうと思ったが仕方ねえ
- ???: だから勘違いだって! 離してよ…っ!
- いろは: あ、あの、その人 本当にお参りしてただけです…!
- ???: あ…?
- ???: 「ほんっとうにすまなかった!この通りだ!」
- ???: 誤解がとけたならいいからさ 土下座とか勘弁してよ…
- ???: あと、あなたもありがとね おかげで助かったよ
- いろは: いえ、私はそんな…
- ???: さっき言った通り、うちの寺は 絶賛、存続の危機ってとこでよ
- ???: そんなときに賽銭泥棒が出たって 聞いたもんで、敏感になっててな
- ???: あたしからも感謝だ …って名乗ってなかったな
- 南津 涼子: あたしの名前は 南津涼子!
- 南津 涼子: 水徳寺の番人とは あたしのことよ!
- 南津 涼子: …まあ、つっても住職の 手伝いに来てるだけだし
- 南津 涼子: ちっと やりすぎちまったけどな…
- いろは: ふふ、私は環いろはです
- やちよ: 私は七海やちよよ
- 南津 涼子: ふたりはこの辺りの人かい?
- やちよ: ええ、みかづき荘って知らない?
- 南津 涼子: ああ、みかづき荘のか! よろしくな
- 南津 涼子: んで、あんたは?
- 鈴鹿 さくや: …私は鈴鹿さくや えっと、普通に高校生だよ
- 南津 涼子: ところであんた…
- 南津 涼子: 「金剛力士阿形像の様な脚だな!」
- 鈴鹿 さくや: は!?
- 南津 涼子: 悪い悪い…欲に駆られて 取り乱しちまった
- 鈴鹿 さくや: 寺の人が言うこと…?
- 南津 涼子: 陸上部ってこたぁ 必勝祈願にでも来たのか
- 鈴鹿 さくや: …まあ、そんなとこだよ うちの部、暴力事件があってから
- 鈴鹿 さくや: 活動は停止になるし 大会にも出られなくなってさ…
- 鈴鹿 さくや: それでも体を鈍らせないために 走ってたら寺を見つけて
- 鈴鹿 さくや: こうやって神頼みをしてたんだよ
- 南津 涼子: 寺だから仏さんだけど 努力はお天道様が見てくれてるさ
- いろは: …やっぱり、お百度参りの 人じゃなかったんですね…
- 鈴鹿 さくや: お百度参り?
- 南津 涼子: ああ、そういや最近 毎日来てるのがいたな
- 南津 涼子: あ、そうそうあんなやつ
- やちよ: …あの子、なんだか…
- いろは: すごく怒ってませんか?
- FILENAME: text_517120-3_rJz0C.txt
- 鈴鹿 さくや: あら… 今度は泣きだしちゃった
- 南津 涼子: オイオイ どうしたってんだよ
- ???: うぐっ…ぅ 100日、通ったんでず…
- ???: でも、何も変わらないので 文句を言いに来たんでず…ずびっ
- いろは: お百度参りの噂の正体である胡桃まなかさんは ウォールナッツという洋食店の子で 店の人気がなかなか出ないことに悩んで お百度参りをしていたみたい
- 胡桃 まなか: …まなかだって、わかってました こんなことをしても仕方ないって
- 胡桃 まなか: それでも、料理は絶対に 美味しいはずだし
- 胡桃 まなか: 宣伝だってそれなりに 頑張ってきたはずでした
- 胡桃 まなか: だからもう、これくらいしか… ワラにもすがる想いで…
- ぐ~ぎゅるるるる…
- 南津 涼子: あ、悪い…飯の話聞いてたら 腹が減っちゃって…なはは
- 鈴鹿 さくや: はぁ、空気読んでよね…
- いろは: あ、そうだ…みんなで胡桃さんの ところに食べに行きませんか?
- いろは: それから私たちは胡桃さんと一緒に ウォールナッツに行ったんだけど お店は綺麗だし、見た目からは どうしてお客さんが少ないのかわからなかった
- 胡桃 まなか: みなさん注文は 何にしますか?
- 南津 涼子: じゃあ、おすすめで!
- 胡桃 まなか: わかりました それじゃあ少々お待ちを
- まなかの声: 先輩、そっちから 材料持ってきてください
- まなかの声: そっちじゃなくて 棚の上ですよ
- いろは: 他にも働いてる人が いるみたいですね
- やちよ: ええ、さっきから姿は 見えないけどね
- 胡桃 まなか: はい、おまたせいたしました
- 胡桃 まなか: ウォールナッツ特製 ふわふわオムライスです
- みんな: 「いただきます!」
- やちよ: こ、これは…! くちどけがまろやかで…
- 南津 涼子: うめえ…こんなに うまいもんがあるなんて
- 鈴鹿 さくや: 美味しいのはもちろんだけど 卵…すごくいいの使ってない!?
- 鈴鹿 さくや: 黄身の味が濃厚で… こんなの初めてだよ…!
- 胡桃 まなか: もちろん、こだわりの食材を 使用してますからね
- いろは: どうしてこれで 人気がないんですか!?
- 胡桃 まなか: そうなんですよね まなかにもさっぱりなんです
- やちよ: …ところで、キッチンの奥から ずっと視線を感じるんだけど
- 胡桃 まなか: 視線…ああ、先輩ですね こっちに来たらどうですか?
- ???の声: む、無理に決まってる…! あ、憧れのやちよちゃんもいるし
- やちよ: ん、私…?
- 胡桃 まなか: そういえば先輩言ってましたね 憧れのモデルさんがいるって…
- 胡桃 まなか: え、その七海やちよって この人なんですか?
- ???の声: 胡桃さん、知らなかったの!? 私、ずっとファンなのに…!
- やちよ: あら、そうなの…? 引退して結構経つけど…
- やちよ: そう言ってもらえるのは 素直に嬉しいわね
- 胡桃 まなか: 阿見先輩、憧れの人に会うなんて こんな機会なかなかないんですし
- 胡桃 まなか: たまにはこっちに 出てきたらどうですか?
- 胡桃 まなか: …………ダメそうですね すみません、先輩シャイなんです
- 胡桃 まなか: 思えば、阿見先輩との出会いも 高校デビューをしようとして
- 胡桃 まなか: 結局できずにめげていた先輩が ひとりでお腹を鳴らしていて
- 胡桃 まなか: 見かねたまなかが、お弁当を あげたのがきっかけでしたし
- 莉愛の声: 余計なことは言わないでよね…!
- 莉愛の声: あ、あの、でも ウォールナッツは美味しいから
- 莉愛の声: やちよちゃんの影響力とかで 有名にできたり…とか
- やちよ: 元モデルってだけだし 言うほど影響力は…
- いろは: でも、なんとかしたいですよね
- いろは: こんなに美味しいお店が 埋もれてるなんて…
- いろは: (何か、この人のために 私にできることは…)
- いろは: そうなの だから、いつかみんなに
- いろは: 何か恩返しができないかなって 最近ずっと考えてるんだ
- いろは: 私は、いつも誰かに 幸せをもらってばかりだから
- いろは: 他の人に幸せを 与えられたらな…って
- いろは: あ…これなら…!
- FILENAME: text_517120-4_rJz0C.txt
- やちよ: 恩返しのために ここでパーティーを?
- いろは: はい、そしたらみんなに 感謝を伝えられるし
- いろは: みんなで幸せを共有できて… お店の宣伝にもなるかもって
- 胡桃 まなか: なるほど、まなかとしては 大歓迎です!
- 胡桃 まなか: ただ、人数にもよりますが パーティーとなると
- 胡桃 まなか: それなりに お金も必要になりますよ?
- いろは: あぁ…確かに…!
- 胡桃 まなか: ただ、宣伝のためですし まなかにとってもいい話なので
- 胡桃 まなか: もし、そちらで ある程度の食材を用意して頂けて
- 胡桃 まなか: 配膳なども手伝ってもらえるなら
- 胡桃 まなか: お父さんに確認する 必要はありますが
- 胡桃 まなか: なんとかなるかもしれません
- いろは: 食材かぁ… うーん…
- ~~♪~~♪
- 胡桃 まなか: 出ていいですよ
- いろは: あ、すみません…
- 静香: もしもし、いろはさん?
- 静香: さっき荷物を送ったんだけど 届いたかしら?
- いろは: あ、今ちょっと外にいて… 荷物ってなんですか?
- 静香: 前にみかづき荘で お世話になったでしょ?
- 静香: そのお礼に、野菜や魚… 霧峰村の名産を送ったの
- 静香: かなりの量だからご近所に 配ったりして食べてね
- いろは: え、そんな… ありがとうございます!
- いろは: あ、そうだ…!
- いろは: パーティーを開こうとしていること もし実現できたら静香ちゃんにも来て欲しいこと そして、頂いた食材をそのパーティーに 使ってもいいかということを 静香ちゃんに聞いてみた
- 静香: 全然いいわよ! 私、宴って大好き!
- 静香: それに、いろんな人に集落の 食材を食べてもらいたいもの
- 静香: むしろ母様に 頼んで追加で送るわ!
- いろは: 感謝するために開くはずなのに なんだかごめんね…
- 静香: いいのよ、困ったときは お互い様って言うでしょ?
- 胡桃 まなか: 食材が…などと お話が聞こえてきましたが…
- いろは: はい、お友だちが食材を たくさん送ってくれるみたいで!
- 胡桃 まなか: それは頼もしいですね!
- 胡桃 まなか: さっそくお父さんに 交渉してみるので
- 胡桃 まなか: ちょっと待ってていただけると!
- 胡桃 まなか: 宣伝してもらえるならとのことで はりきってました!
- いろは: よかった…! ありがとうございます!
- 胡桃 まなか: こちらこそ、あんなに嬉しそうな お父さんは久々に見るので!
- ピロン♪
- ピロン♪
- いろは: わ…!
- やちよ: どうしたの?
- いろは: 静香ちゃんが那由他さんと 紅晴さんに話してくれたみたいで
- いろは: ふたりも、食材のことを 協力してくれるみたいです!
- 胡桃 まなか: たくさん料理を作れそうで わくわくしてきますね!
- いろは: 胡桃さんの助けにもなれば って思って始めたのに
- いろは: 結局、みんなの力を 借りちゃってるけど…
- 南津 涼子: そりゃあ、あんたがそんだけ 人のことも助けてるってことだろ
- 南津 涼子: あんたが積んだ徳の報いが 現れてるんじゃねえか?
- 南津 涼子: たとえば あたしはあんたに助けられた
- 南津 涼子: もう少しで罪のねえやつを とっ捕まえるとこだったからな
- 南津 涼子: だから、あたしは あんたに恩返しをする
- 南津 涼子: ここまで乗った船でもあるし 宴の準備は手伝うつもりだ
- 南津 涼子: きっと、あたしみたいに あんたから助けられたやつが
- 南津 涼子: 周りに大勢 いるってことだろうよ
- 南津 涼子: 縁ってのは 巡っていくもんだからな
- やちよ: そうね…いろはが神浜市で いい出会いをしている…
- やちよ: その証拠じゃない?
- いろは: そうだといいな…
- いろは: 縁が巡る…その言葉は 幸せをもらったから、誰かに幸せを与えたい… そう思う私の胸にすとんと腑に落ちた気がした
- いろは: 誰かにもらった幸せを、また誰かに渡す そうして縁を、幸せを巡らせていけば きっとみんなが幸せになれると思うから
- FILENAME: text_517120-5_rJz0C.txt
- いろは: 結局、いろいろな人の力を借りながら 迎えたパーティーの当日…
- いろは: みんなを笑顔にできるのか もらった幸せを返せるのか そんな不安と、純粋な楽しみでどきどきしていた
- いろは: うい、そっちは写真飾れた?
- うい: うん、ばっちりだよ!
- 御園 かりん: アルバムの写真を飾ってるの? すっごくいい案だと思うの!
- いろは: みんなで思い出を振り返れたら いいかなって思って
- さな: 本当に、いろんなことが ありましたもんね…
- 十七夜: 配膳するものは他にあるか?
- いろは: おふたりにも手伝っていただいて すみません…
- 牧野 郁美: 気にしないでいいよぉ くみの事業も軌道に乗ってきたし
- いろは: え、そうなんですか!?
- 牧野 郁美: ふふ、後でちょっとした サプライズがあるからね♪
- 鶴乃の声: あ、いろはちゃーん!
- 鶴乃: いやあ、声かけてくれて ほんとに助かったよー!
- いろは: こちらこそ料理を手伝って もらっちゃって…
- 鶴乃: ううん!まなか先生に いろいろ教えてもらっててね
- 鶴乃: 中華料理と洋食のコラボ なんかも思いつきそうなんだ!
- 胡桃 まなか: まなかとしても、鶴乃さんの お話はとても参考になります
- 胡桃 まなか: 地域と密着しつつSNSで 情報共有…広報が素晴らしいです
- 莉愛の声: SNSアカウント…なら 作っておいたわよ
- 胡桃 まなか: お、先輩 仕事が早いですね!
- 胡桃 まなか: って…こういうときくらい 表に出てきたらどうです?
- 静香の声: こんにちは~
- いろは: あ、みんな来ましたね…!
- いろは: 『みなさん、今日は 集まっていただき、ありがとうございます!』
- いろは: 『神浜市に来てからいろんな人に支えられて その感謝を伝えたいと思って開いた会ですが 結局、この会を開けたのもみなさんに 助けて頂いたおかげで…』
- いろは: 『もらった幸せのぶんだけみなさんにも 幸せな気持ちになってもらえたら とっても嬉しいです…!』
- いろは: えっと… それでは、かんぱい!
- みんな: 「かんぱーい!」
- 木崎 衣美里: この料理やば! 激うまなんだけど!
- 綾野 梨花: ほんとヤバ! 三ツ星シェフって感じじゃん!
- 綾野 梨花: 見た目もすごい可愛くて 映えって感じだし!
- 胡桃 まなか: ふふ、そうでしょうそうでしょう こちらもおすすめですよ!
- 胡桃 まなか: SNSへの投稿をして頂ければ 次回クーポンをプレゼントです!
- 静香: それで、ふたりは家族と 今はどんな感じなの?
- いろは: あ、私も気になります
- 結菜: …私は、ストレス発散に ボクシングジムに通ってるわ
- いろは: ボクシング!?
- 静香: ケンカのために!?
- 結菜: 違うわよ…直接言い合うのは 効果的でもストレスが溜まるから
- 結菜: 発散できればと思って 通い始めたんだけど…
- 結菜: そのボクシングジムに 面白い子がいてねぇ…ふふ
- 結菜: 最近、学校を辞めた子で なかなかに問題児らしいんだけど
- 結菜: 現役ボクサーの父親と一緒に 指導する姿が熱くてねぇ
- ???: オイ、結菜ァ! まだまだへばってねえよな!?
- ???: そのストレス、最後まで 燃やし尽くせんだろ!?
- 結菜: とんでもない子だけど 面白いのよねぇ
- 那由他: で、私のパパも定期的に 鍛えてもらってるんですの
- 静香: 学者のお父様よね…?
- 那由他: パパは気が弱いので… 筋肉で自信を持たせるんですの!
- ???: オッサン! まだまだいけんだろ!?
- 那由他の父: ま、まだまだ… やれるさ…!
- 那由他: ママには言い返さないですけど はつらつとしてきたんですの
- 那由他: 静香さんの方はどうなんですの?
- 静香: 私はね、あれから勉強して… ほら見て!
- 静香: 時女集落を紹介するサイトを 作ってみたのよ
- あなたは時女集落の 134人目のお客様です! キリ番をゲットした方は…
- 結菜: これ…参考にした資料が ちょっと古いんじゃない?
- 静香: そう? まだ改良が必要みたいね
- いろは: それからも、入れ替わりでいろんな人が お店に来ては、私のところに話にきてくれて みんなの近況を聞くことができたの
- 御園 かりん: みんなのアドバイスのおかげで やっと漫画を描き終えたから
- 御園 かりん: 即売会ってとこで売ってみるの! 目指せ、壁サーなの!
- 御園 かりん: そこで環先輩にお願いなの!
- 御園 かりん: 魔法少女のコスプレで 売り子をして欲しいの!
- 御園 かりん: アリナ先輩に頼んだら、3日間 口をきいてもらえなかったの…
- さな: 実は…こねこのゴロゴロ みたいな人形を
- さな: 作る仕事がしたくって 勉強を始めたんです
- さな: いつか、私みたいな ひとりぼっちの子に
- さな: 私が作ったもので 手を差し伸べられたら…
- さな: そう思えたのは、きっと みかづき荘にいたおかげです
- 鶴乃: 万々歳のウェブCMが すっごいバズっちゃって!
- 鶴乃: これも、やちよさんが CMに出てくれたおかげだよ!
- 鶴乃: ここで得た新規顧客を 今後も定着させるために
- 鶴乃: お姉ちゃんと新規メニューとかの 企画をしてるからお楽しみに!
- やちよ: CMに出てからオファーが いくつか来るようになって…
- やちよ: いろいろ考えてみたんだけど 少し受けてみようと思うの
- やちよ: 阿見さんにも 後押しされちゃったからね
- やちよ: もちろん下宿の仕事は続けるし 兼業として、だけど
- ももこ: 今度デートに行くんだけど デートなんてアタシ初めてで…
- ももこ: なんもわかんないから少女漫画で 勉強してみたんだけど
- ももこ: その…手、とか繋ぐんだろ?
- ももこ: あた、アタシ…手とか… 手つなぐとか、したことなくて
- ももこ: ねえ、いろはちゃん!!
- ももこ: ちょっと一回、手を繋ぐ練習に 付き合ってくれないかな…!?
- ももこ: いや、そういうことじゃないか! どうしよう混乱してきた…!
- かえで: 宝くじが当たってね 家を引っ越すことになったの
- かえで: 日当たりのいい場所だから 家庭菜園も続けられそうなんだよ
- かえで: そんなに遠くないから 転校はしなくていいんだけど
- かえで: 一緒に登校できなくなるのは ちょっと寂しいね…
- かえで: あ、でも工事中は みかづき荘にお世話になるから
- かえで: その間、よろしくね~
- 牧野 郁美: さっき言ってたサプライズだけど アイドル事務所を設立したんだ
- 牧野 郁美: で、いま働いてるメイドカフェと 提携してライブを開いたりするの
- 牧野 郁美: それでぇ、後輩ちゃんたちは もちろんなんだけど
- 牧野 郁美: レナちゃんもアイドルユニットに 加わることになったんだぁ♪
- レナ: …レナ、前から 変わりたいって思ってたから
- レナ: アイドルになったら、なんか 変われたりするのかもって…
- 十七夜: 自分もメイドと兼業で歌って踊る なぎたんになる予定だ
- 観鳥 令: で、私はそんなみんなの 専属カメラマン兼マネージャー
- 観鳥 令: 正式に働けるのは高校生から だから、今は見習いだけどね
- 牧野 郁美: 写真もだいぶ上手になったもんね
- 観鳥 令: うん、だから牧野チャンの ファースト写真集は
- 観鳥 令: 絶対に私が撮るからね ちなみに水着とかはNGだよ
- 十七夜: ふっ、厳しいマネージャーに なりそうで心強いな
- いろは: これだけじゃない…
- いろは: 衣美里ちゃんは大人っぽくなるために 梨花ちゃんとボランティアをはじめて その梨花ちゃんは竜真館の子と意気投合して 薙刀を習い始めたらしい
- いろは: それに、笠音さんはSNSで仲間を集めて ボードゲームの自主制作を始めたみたいで 智珠さんに至っては、ゲーム好きが高じて レトロなゲームセンターを保護するために Dotuberとして資金を集めているらしい
- いろは: 他にも、涼子さんとさくやさんは あれからなんだかんだと仲良くなって 今では毎朝一緒に走り込みをしているみたい
- いろは: レナちゃんの話とか… 驚く報告も多かったけど 今を語るみんなは幸せそうで なんだかすごく嬉しかったんだ
- いろは: それじゃあ、そろそろ いい時間ですし…
- いろは: 最後にみんなで写真を 撮りましょう
- いろは: 『それじゃあ、撮りますよー』
- いろは: 『はい、チーズ』
- パシャッ
- FILENAME: text_517120-6_rJz0C.txt
- いろは: パーティーから何日か経っても なんだかずっとふわふわした気持ちでいた
- いろは: 結局、幸せそうなみんなに 私が幸せををもらうことになったけど…
- いろは: でもそれは、お互いに 幸せだってことだからいいことなのかもしれない
- いろは: もっと与える側でいられたら嬉しいけど 今は、このままでも…
- いろは: (また、ああやって みんなで集まれたらいいなぁ)
- いろは: だけど、そんな幸せは長く続かなくて
- 環さん、ちょっといいかしら 病院からご連絡が…
- その、里見灯花さんの お父様だと…
- うい: お姉ちゃん…!
- いろは: うい…! 灯花ちゃんとねむちゃんは?
- うい: 早く治そうと無理したみたいで 急に容体が悪化したって…
- うい: …どうしよう…ふたりが 死んじゃったら…わたし…
- いろは: …っ、大丈夫… 大丈夫だよ、うい…
- 灯花の父: あぁ、ふたりとも… まだいてくれたんだね
- うい: と、灯花ちゃんたちは…
- 灯花の父: なんとか一命は取り留めた
- うい: よ、よかった…うぅ…
- いろは: うん…よかった… よかったね…
- いろは: 改めて思ったんだ… 何もない日常がどれだけ尊いか 生きていてさえくれれば、それでいいんだって
- いろは: 大切な人たちが笑顔で生きている ただそれだけのことが、どれだけ大切か いつも通りが、どんなに大事なのか 痛いほど、思い知らされた
- いろは: …うい、少し落ち着いた?
- うい: …うん、ちょっとだけ
- いろは: …そうだ、少し遠回りして 甘いものでも買って帰ろうか
- うい: …なんだか、甘いものって 気分にもなれないね…
- いろは: うん…そうだね… 今日はこのまま帰ろうか
- 「ねー今日のアイツの顔見た?」 「それな、言いたいことあんなら言えって感じ」 「でも、すぐ黙るしつまんないんだよねー もうそろ飽きてきたかもーギャハハ」
- 「オイ、ババァどこみて歩いてんだ気ィつけろや」 「す、すみません…」
- いろは: (この町って…こんなに 嫌な感じだったっけ…)
- いろは: (悲しい気持ちになる町 …だったっけ…)
- 「次に… 南凪区の路上で、高校3年生の女子生徒が 車にはねられ大けがをしました この事故で警察は、車を運転していた男を 酒気帯び運転の疑いで逮捕しました」
- 「警察によりますと、けがをした女子生徒は 近くにいた男の子を助けようとして はねられたとみられ…」
- いろは: (違う…元からこうだった)
- いろは: (ただ、嫌なところを 見ないようにしてただけ…)
- いろは: いろんな幸福があるのと同じように いろんな不幸がある
- いろは: あそこにいるおじいさん…大荷物で 困ってるけど誰ひとり気にしてない…
- いろは: 違う…それだけじゃない みんな、他人に無関心で、見てないんだ …それは、今まで見えていなかった私も同じ…?
- うい: お姉ちゃん…大丈夫? 顔色悪いみたいだけど…
- いろは: (なんだろう… 胸騒ぎがする…)
- うい: お姉ちゃん…?
- いろは: あ、ごめんねうい… 早く…帰ろっか…
- ドンッ
- うい: わ、なんかすごい音が…
- 「きゃああぁあああ!」
- いろは: え…いったい…何が…
- 「ビルの上から人が…!路地裏に落ちたぞ」 「女の子が…だ、誰か救急車!」 「巻き込まれた人はいないみたいだけど これじゃあ救急車を呼んだところで…」
- いろは: あ…あ…ぁ… あの…人…
- いろは: 人混みの向こう、路地裏の奥… 見えたのは真っ赤な血だまりと その中に倒れている同じ制服の女の子 そして、その子は見たことのある子だった
- うい: お姉ちゃん…どうしたの?
- いろは: …っ、うい! 見ちゃダメ…!
- うい: あ…
- 「え…あれアイツじゃない…?マジかよキツ」
- いろは: …………
- いろは: 聞こえた言葉の悪意に目まいがした 自分がどれだけ優しい世界で生きていたのか どれだけ、他の世界を知らなかったのか
- やちよの声: いろは!ういちゃん!
- いろは: ショックで動けなくなっていたところに たまたま買い物に出かけていた やちよさんとさなちゃんが来て 私たちは、支えられながら家に帰った
- いろは: 帰りながら、ふたりが何を話してたのか 何を言っていたのか、何も聞こえなくて ただ脳裏には真っ赤な景色が焼きついていた
- やちよの祖母: お茶をいれてきたけど 飲めそうかい…?
- いろは: …はい
- やちよ: 灯花ちゃんたちは何とか 助かったみたいだけど…
- さな: はい…あんな光景 見ちゃったら…
- うい: うっ…わたし ちょっとトイレに…
- やちよの祖母: 私がついていくよ …ういちゃん、行こう
- いろは: どうして…
- いろは: 灯花ちゃんやねむちゃんみたいに 生きたい人だっているのに…
- いろは: 自分から…なんて
- さな: …そう思ってしまうような 環境が悪いんです…
- さな: 絶対、そんなことないのに それしか解決方法がないって
- さな: その人は、いじめられて 思ってしまったんですね…
- いろは: そう、いじめ…私、同じ学校で あの子に会ったこともあるのに
- いろは: 私…助けられなかった いじめなんて、知らなくて…
- いろは: なんにも見えてなかった 嫌なこと、不幸なこと…
- やちよ: あなたは転校生なんだし クラスも違えば気づけないわ
- やちよ: それに、自分の周り以外が 見えないなんて
- やちよ: その歳じゃ普通のことよ
- やちよ: 中学生の女の子が、そんなに 目線を高くする必要はないの
- やちよ: そもそも それはあなたの役目じゃない
- やちよ: 教師…大人たちの仕事よ あなたは気負わなくていいの
- やちよ: …だから 自分を責めたらダメ
- いろは: …………でも
- やちよ: …今日は早く寝なさい
- やちよ: 明日は学校も お休みしていいと思うわ
- いろは: …わかりました
- いろは: 眠ろうと目を瞑っても、眠れなかった 頭の中をぐるぐる回り続ける光景が こびりついて、消えなくて…
- いろは: 私は、あの子に何ができたんだろう あの子だけじゃなく、今まで見てこなかった たくさんの人の不幸に 私は、いったい何をすればよかったんだろう
- いろは: どうしたら、みんなが幸せになれるの? 誰も泣かない世界であればいいのに
- いろは: もしも、あの子に会ったときに声をかけていたら もしも、いじめに気づけていたら もしも、もしも、もしも…
- いろは: 叶いもしない「もしも」を数えては 辛くなって、ただ、朝を待っていた
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- やちよ: おはよう、いろは 体調はどう…?
- いろは: …すみません、今日は 学校お休みします…
- やちよ: そう…ういちゃんも 今日は休むみたいで
- やちよ: さなが付き添ってくれてるから 心配しないでいいわ
- やちよ: …ほら、あの子はいま オンラインで勉強してるから
- いろは: すみません… ありがとうございます
- いろは: …私、ちょっと歩いてきます なんだか、落ち着かなくて…
- やちよ: …ええ、気をつけて
- いろは: (…あれ、気づいたら こんなところに…)
- いろは: (水名神社…だっけ せっかくだしお参りしていこう)
- いろは: (神様なら… 叶えてくれるかな…)
- いろは: (もう、あんなことが 起きてしまわないように…)
- いろは: …みんなが幸せな 世界になりますように…
- ???: それは、さすがに 無理みが深くない?
- いろは: ――っ!?
- ???: みんなが幸せとか 理想ではあるけどさ?
- いろは: …っ、うぅ… 私だってそれくらい…
- いろは: ただの理想論だってこと わかってるもん…っ
- ???: え、ちょ、ごめんて! 泣かせるつもりはなくって…!
- いろは: 泣き出してしまった私の話を その子、藍家さんはうんうんと 最後まで優しく聞いてくれた
- ひめな: なるほどねー、まぁ いろりんは優しい子なんだね
- いろは: ううん…あ、それより私 お参りの邪魔を…!
- ひめな: あ、いーっていーって
- ひめな: 人のお参りにちゃちゃを 入れたのは私チャンなんだから
- ひめな: ていうか、この神社恋愛成就とか 縁結びでも有名だからさ
- ひめな: 歳近そうだし、そっち系の 願いだと思ってたんだよね
- いろは: そうなんですか?
- ひめな: そっ、ここの神社には ある伝説があってね…
- ひめな: 「昔、身分違いの恋をしたふたりがいたんだけど 身分の低かった男の方は殺されちゃって… 悲しんだ女の人は神様にお祈りしたんだって」
- ひめな: 「どうか大好きなあの人に もう一度会わせてください…って」
- ひめな: そしたら幽霊になった恋人に 再会できたーとかなんとかってね
- いろは: そんな伝説が…
- いろは: じゃあ、藍家さんは 恋愛のお願いを…?
- ひめな: そ、周りが相手を理解せずに 受け入れなかったから招いた悲劇
- ひめな: そんな物語に シンパシー感じちゃってさ
- ひめな: 世の中、ほんとそんな話ばっか…
- ひめな: いろりんが言ういじめも不幸もさ ぶっちゃけ似たようなもんでしょ
- ひめな: どうしてみんなお互いを理解して 受け入れようとしないんだろ…
- ひめな: 神浜市って東西の格差… みたいなのがあるんでしょ?
- いろは: はい…私は 話でしか知りませんけど…
- ひめな: 「噂だけど、少し前にそれが原因で 学校で突き落としたとか突き落とされたみたいな そういう事件があって 当事者のヤクモさんって人が自殺未遂したとか」
- ひめな: 「本当、人間てサイアク… 生まれた場所とか家柄とか見た目とか性格とか… それって見えてる一面でしかないわけじゃん?」
- ひめな: 「なのに、それで他人を見下していじめとか マジで馬鹿げてるし それで相手が死ぬかも、とか アイツらは何とも思ってないんだよ」
- ひめな: 「なんなら、いじめてるつもりなかったーとか あと、見て見ぬ振りするやつだっているじゃん」
- ひめな: 「見えてるひとつのことだけじゃなくてさ もっと他のところとか、お互いに知ろうとして 少しだけ歩み寄って…そうしたらさ」
- ひめな: そうしたら…ヒコ君だって 本当はすごいって…
- いろは: …?
- ひめな: ああゴメン、熱くなっちゃった
- ひめな: ヒコ君ってのは私チャンの 彼ピでね、マジ最高なの★
- いろは: あ、その人のことで ここに…
- ひめな: ………… まー…さ、いろりん
- ひめな: 多分ね、みんなが幸せなんて きっと一生無理だよ
- いろは: …………
- ひめな: それでも、いろりんは その未来を望むの?
- いろは: …はい、たとえ理想論でも みんなの幸せを求めたい
- いろは: 笑顔でいて欲しいし 幸せでいて欲しい…
- いろは: その理想を諦めたくないんです
- ひめな: なら、私チャンは応援するよ
- ひめな: 私チャンだってね、みんなが ちゃんと理解し合えたら…
- ひめな: そんな未来があるんなら 幸せだって思うから
- いろは: …はい
- ひめな: とりま、いろりんが 落ち込んでても仕方なくない?
- ひめな: 後ろ向いてもしょうがないし
- ひめな: 前向くしかないっしょ キャハッ★
- いろは: 確かに…そうですね…! 私、目が覚めました
- ひめな: 元気が出たなら とりまオッケー!
- いろは: はいっ
- ひめな: …私チャンさ、近いうちに でっかいことやろうと思ってんの
- ひめな: ヒコ君と私チャン ふたりだけの幸せのために
- いろは: …?
- ひめな: だから、見てて それから私チャンを忘れないでね
- いろは: 忘れたりしませんし また会って、お話したいです
- ひめな: …………
- ひめな: んじゃ、これ私チャンの 連絡先、登録しといて
- ひめな: でっかいこと 成功したら報告するから
- いろは: …わかりました 報告、待ってますね
- ひめな: そんじゃ、お参りして帰るわ
- ひめな: きっと、私チャンがすること みんな許してくれないから
- いろは: え…それってどういう?
- ひめな: 「ママも、先生も、いろりんも 神様だって、きっと許してくれない よくないことだって、私チャンもわかってる… それでも、これが私チャンの一番の幸せだから」
- ひめな: そんじゃあね★
- いろは: 許してもらえない… もしかして、駆け落ちとか…
- いろは: …藍家さんも 頑張るみたいだし
- いろは: 私も頑張らなきゃ
- いろは: だけど… 誰だって、幸せでありたいのは同じはずなのに お互いを理解できないのなら… それなら、どうやったら理解し合えるんだろう
- いろは: やちよさんたちにも聞いてみて考えよう
- FILENAME: text_517120-8_rJz0C.txt
- いろは: 藍家さんと会って何日か経った頃 彼女からの連絡はないまま インターネット上では、ある異変が起きていた
- さな: …なに、これ…
- いろは: さなちゃん、どうしたの?
- さな: なんか、SNSがひとつの投稿で 埋め尽くされていて…
- さな: 複数のアカウントから 一斉に投稿されてるみたいです…
- やちよ: ………… いじめの告発文?
- いろは: そこに書いてあったのは ひとりの男の子を死へと追いやったいじめの全容 関係した生徒の実名、顔写真、いじめの手口 それに対する学校側のずさんな対応…
- いろは: それだけでも驚いたけど 私を驚かせたのは 告発文とは別にあったメッセージ
- そんなわけだから 彼を殺したやつらは 生きて、苦しみ続けてください
- 加害者にも人生がーとか そんなの私は認めないよ だってヒコ君は人生丸ごと奪われたんだもん
- 仮に社会が、法が許しても私は許さない 恨み続けるから、忘れないでね
- 私チャンは、一足先に この世界とはサヨナラするから バイバイ
- 藍家ひめなより
- いろは: 藍家さん…!? 許されないって…これ…!
- やちよ: え、知り合いなの… でも、この内容って…彼女…
- ピロン♪
- いろは: …藍家さんから! 動画が…!
- ひめな: 「この動画を見てるってことは 私チャンはもうこの世にはいないってことだよね キャハッ★ こういうのちょっと言ってみたかったんだ」
- ひめな: 「ネットを見たなら大体わかったと思うけど ヒコ君はいじめられて自分で死んじゃったの ちょうど、ここでね」
- ひめな: 「本当なら、すぐに後を追うつもりだったし 何ならいじめてた奴ら全員殺しちゃおーとか ちょっと考えたけど、やめた」
- ひめな: 「だって、一瞬の苦しみだけで許されるなんて そんなのありえないし だったら、証拠を用意してばら撒いて… 一生、人殺しとして 生きながら苦しめばいいって思ったから」
- ひめな: 「でも、いろりんと会ってちょっとぐらついたよ あんなまっすぐにみんなの幸せを願うんだもん いろりんなら、そんな未来を もしかしたら作れちゃうのかも…って 少し、希望を抱いちゃった」
- ひめな: 「だけど、ごめんね やっぱ私チャンの幸せはヒコ君といることなんだ ヒコ君がいない世界じゃ、息ができないから …それなら、これしか道はないっしょ?」
- ひめな: 「…本当はね、ヒコ君と生きていたかった ふたり一緒に大人になって、結婚して いつかママとパパになって… でも、それは叶わない夢なんだよね」
- ひめな: 「だから、幸せな未来は来世の私チャンに託す! いろりんは、それまでに みんなが幸せな未来、準備しておいてよ★ じゃあ、来世でまた会おうね…いろりん」
- いろは: そんなの… 許せるわけないよ…
- いろは: でも…わかってる 前向くしかないんですよね
- さな: …そう思ってしまうような 環境が悪いんです…
- ひめな: とりま、いろりんが 落ち込んでても仕方なくない?
- ひめな: 後ろ向いてもしょうがないし
- ひめな: 前向くしかないっしょ キャハッ★
- いろは: 幸せになりたい気持ちは同じはずなのに 私たちは、みんな違う想いを抱いていて それを互いに理解し合えない
- いろは: わかっていても きっとすぐに解決できるようなことじゃない 子どもの私たちにできることは限られている
- いろは: 藍家さんの、あの告発だって どこまでの影響を及ぼすか…正直わからない
- いろは: この一瞬は、話題になったとしても 何か月か経ったら、きっと世間は忘れてしまう みんなが幸せになるための 根本的な解決にはならない…
- いろは: きっと、藍家さんもそれをわかっているから 私にいつかの未来を託したんだ
- いろは: だから、諦めたくない 藍家さんの想いも背負ったんだから
- いろは: 誰かの幸福も不幸も見られるようになった私なら きっと、ほんとうのみんなのさいわいのために 何かができるはずだから
- いろは: そう、まずは 手が届く範囲から…
- いろは: きっと、動かなければ後悔するから
- FILENAME: text_517120-9_rJz0C.txt
- いろは: まずは、手が届く範囲で できることをしようと決意してから いろんなことをやってみた
- いろは: 衣美里ちゃんたちに紹介してもらって ボランティアに参加してみたり
- いろは: 今までと同じように、みかづき荘で いろんな人の悩みを聞いてみて できるだけ解決まで協力してみたり
- いろは: そうしているうちに、少しずつだけど 同じ想いを持つ人たちが集まって
- いろは: ほんの少し、前よりも 町に優しい雰囲気が広がるようになってきた
- いろは: ただ、それも東西問題やいじめのような 大きな問題には影響がなくて 本当に身の回りの小さなことだけだったけど 大きな進歩だった
- いろは: 困っている人には積極的に声をかけ 周りをよく見るようになって…
- いろは: そんなとき、あの子に出会ったの
- いろは: (あの子、うずくまって どうかしたのかな…)
- いろは: …あの、大丈夫?
- ???: …………
- ぐぅぅぅぅ…きゅるる…
- いろは: あ、お腹空いてるの…?
- いろは: 私、お菓子持ってるから よかったら…
- ???: うるせぇんだよ!
- ???: なんなんだよ! オマエもオレを責めんのか!
- ???: 父ちゃんと母ちゃんを オレが殺したから…!
- ???: だからオマエもオレを 施設とかに連れてくのかよ!
- いろは: え…?
- ???: オレに関わんじゃねえ!
- いろは: 待って…!
- ブロロロロロ…
- いろは: (あの子が向かった先 トラックが…!)
- いろは: 『危ないっ!フェリシアちゃん!』
- キキーッ
- ドンッ
- いろは: あれ…私いま…なんで フェリシアちゃん…って
- いろは: それに、どうして生きて…
- いろは: …そっか、私
- いろは: 魔法少女だったんだ
- いろは: この光…
- いろは: 今まで撮った写真が 光ってる…!
- いろは: ああ、そっか… 本当のみかづき荘は…
- いろは: 本当の、私たちは…
- いろは: これは、キモチのみんなと 繋がったことで見えていた
- いろは: 魔法少女たちの想い …だったんだね
- いろは: 『もしも魔法少女にならなかったら』
- いろは: そうなったときに起こりえた ありえたかもしれない日常…
- いろは: みんなの理想と現実…
- ういの声: わたしも見てたよ、お姉ちゃん
- いろは: 今のういは、私と ひとつになってるもんね
- いろは: これは…魔法少女たち ひとりひとりの想い…?
- やちよ: 「魔法少女にならなかったら… 日々、戦いに緊張せずに済んだし もう少し穏やかな性格になってたかもね」
- やちよ: 「もし、おばあちゃんも生きてたりしたら 一緒にみかづき荘を経営して… うん、そういうのも良かったかもしれない」
- やちよ: 「でも、今のみかづき荘も大事だし… 私の日常にみんながいないのは …それは、寂しいわ 誰ひとり欠けてほしくないもの」
- 結菜: 「魔法少女にさえならなければ… 血の惨劇は起こらなかったし 二木市の多くの命が救われたでしょうねぇ…」
- 結菜: 「だから、ならないに越したことは なかったでしょうねぇ…」
- 結菜: 「ただ、プロミストブラッドの仲間は 魔法少女になってから得た大切な仲間たち… 失ったものの方が大きいけれど すべてを否定することはできないわぁ」
- 結菜: 「アオを育てた14年間を想うと、特にねぇ…」
- ひめな: 「魔法少女にならなかったら? いや、無理みが深すぎ…死ぬしかないじゃん キュゥべえが現れないとかマジで有り得ないし 考えたくもないって」
- ひめな: 「だって私チャンの中に ヒコ君がいないとかヤバヤバのヤバだって ぶっちゃけ魔法少女になって後悔とかないし 魔法少女にならない世界とかお節介だから」
- フェリシア: 「オレ、魔法少女になってなかったら みかづき荘のみんながいなかったら… 父ちゃんと母ちゃんのこと きっと受け止めきれなかったと思う…」
- フェリシア: 「それに、魔法少女じゃなかったら いろはたちにも会えてなかっただろ? オレ、そんなのイヤだぞ…」
- 灯花: 「まあ、わたくしたちに関しては 魔法少女にならなかったら すーぐ死んじゃってただろうからねー」
- ねむ: 「うん、これしか道はなかったと思ってるよ」
- いろは: そっか…魔法少女に ならなければって想いもあれば
- いろは: 魔法少女になって 救われた子たちもいる
- いろは: 私たちが見てきたものの中で 救われなかった子たちは
- いろは: 魔法少女になることで 救われた子たちだったんだ
- ういの声: わたしたちも、そうだね
- ういの声: お姉ちゃんが魔法少女に ならなかったら
- ういの声: わたしは生きてなかったもん
- いろは: これは…
- …………
- いろは: …聞こえる、魔法少女たちの 救いを求める声が…
- FILENAME: text_517120-10_rJz0C.txt
- いろは: みんな希望を抱いてる
- いろは: 自動浄化システムが広がって 平和になったあとの未来に
- ラビ: 「那由他様とみかげさんと みんなで、ただ普通に日々を過ごしたい 家庭菜園をしながら、穏やかに…」
- ひめな: 「ネオマギウスのみんなと、そしてヒコ君と ゆっくりでいいから魔法少女のことを 知ってもらって、認めてもらうんだ」
- 結菜: 「ただ静かに…いえ、騒がしい仲間たちと 生死なんて考えないような 普通の学生としての日々を過ごせたら…」
- 静香: 「時女一族の巫としての誇りを胸に 日の本のために生きることは変わらないけど もう少し普通の女の子としての生活もして 仲間たちと一緒に生きていたいわ」
- ういの声: いっぱい聞こえるね 希望の声
- いろは: そうだね…
- いろは: 魔法少女にならなかったら… そう思うことはあっても
- いろは: みんな未来を見てるんだ
- いろは: ―いろは― どれだけ苦しくても、悲しくても たとえ大切な仲間を失ってくじけそうになっても
- いろは: ―いろは― それでも、魔法少女たちは未来を見て ただひたすらに、がむしゃらに
- いろは: ―いろは― 一筋の希望を目指して進みつづけてる…
- いろは: ―いろは― 魔法少女にならなければ あのとき、ああしていたら…
- いろは: ―いろは― 数えきれない「もしも」があっても それでも諦めないのは
- いろは: ―いろは― 希望で終わる未来になるってきっとどこかで信じているから
- いろは: あの「もしも」の世界も たしかに楽しかった…
- ういの声: でも、魔法少女だから できた関係もいっぱいだから
- ういの声: 振り返ると、ちょっと寂しいね
- ういの声: フェリシアさんもみかづき荘に いなかったし…
- いろは: そうだね…うい
- いろは: 魔法少女になって救われた子も 多かったからね
- いろは: 過去に後ろ髪を 引かれることはあるけど
- いろは: それでも私たちが 見るべきなのは未来だよね
- いろは: ―いろは― キモチから、みんなの記憶が流れてくる
- うい: ―うい― 嬉しいことも、悲しいこともあったけど それを含めて今なんだよね
- いろは: ―いろは― うん、みんな私たちに希望を託してくれてる
- いろは: ―いろは― それなら、私にとってのほんとうのさいわいは
- いろは: ―いろは― みんなの希望を未来へと繋ぐことで 希望で終わる未来を紡ぐことなんだね
- いろは: ―いろは― だから うい、userName
- いろは: ―いろは― もう少し、一緒に ついてきてくれる?
- うい: ―うい― もちろんだよ
- userName: ―userName― モッキュゥ!
- いろは: ―いろは― ふふ
- いろは: ―いろは― それじゃあ もしもの世界にはお別れを告げて
- いろは: 私たちは 今を生かした前向きな未来を掴もう
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