Vi_Vi

Stardust Mirage JP Text

Aug 22nd, 2022 (edited)
257
0
Never
Not a member of Pastebin yet? Sign Up, it unlocks many cool features!
text 119.48 KB | None | 0 0
  1. (From the opening sequence in 517110-0)
  2. もしも魔法少女にならなかったら… それは誰かの願った平穏な日常
  3. [Title card] 星屑のミラージュ
  4.  
  5. FILENAME: text_517110-1_ptdpz.txt
  6. あるところに、ひとりの女の子がいました 彼女は、どこにでもいる普通の女の子でした
  7. けれども、ある日ふしぎな生き物が現れて 彼女に“契約”を持ちかけるのです
  8. それは、ひとつの願いを叶える代わりに 魔法少女になって、この世界を救うということ
  9. 女の子は願いを叶えてもらうと 魔法少女に変身する力を手に入れました
  10. そうして、女の子は魔法少女として みんなを苦しめる敵と戦い 世界に愛と笑顔を広げていきました
  11. 御園 かりん: って言うお話を考えたんだけど さなちゃんの感想を聞きたいの!
  12. さな: うーん…王道って感じで いいと思うんですけど…
  13. 御園 かりん: 心の準備はできてるから なんでも言うの!
  14. さな: …それじゃあ
  15. さな: …えっと その子にとっての幸せが
  16. さな: 願いを叶えることで 終わっちゃうのなら
  17. さな: どうして世界を救おうなんて 思えるのかな…って
  18. さな: 戦うことが幸せっていうこと?
  19. 御園 かりん: ハッ…言われてみれば そんな気もするの…
  20. 御園 かりん: そんなバーサーカーみたいな 理由で戦う魔法少女は嫌なの…
  21. 御園 かりん: 環先輩とういちゃんも 何かあるなら聞きたいの!
  22. うい: うーん…
  23. うい: 戦わないといけない理由 …とかが必要なのかも?
  24. うい: あと… 戦うのが幸せって言っても
  25. うい: 戦って、みんなを守れることが その子の幸せ…とか?
  26. いろは: …そうだ!
  27. いろは: 契約って言うからには 何かの代償があったり…とか?
  28. 御園 かりん: なるほどなの! 参考になるの!
  29. やちよの声: あら… 来てたのね、かりん
  30. 御園 かりん: あ、やちよさんからも お話のアドバイスが欲しいの!
  31. やちよ: ええ 別に構わないけど
  32. いろは: 二葉さなちゃんに、御園かりんちゃん それに、七海やちよさん… この賑やかなお家はみかづき荘という 下宿屋さんで、やちよさんは管理人をしているの
  33. いろは: 私とういは、少し前に お父さんとお母さんの海外転勤をきっかけに このみかづき荘に引っ越してきた
  34. 御園 かりん: さすが、元芸能人のお話は とっても役に立つの!
  35. やちよ: それならいいけど…
  36. パタパタパタ…
  37. ???の声: た、たたた大変よぉ…!
  38. やちよ: ちょっと…危ないから 走らないでったら…
  39. やちよの祖母: かなえちゃんが テレビに出るらしいのよ…!
  40. やちよ: え!? かなえが…!?
  41. やちよの祖母: 路上ライブがバズ?った? とかなんとからしくて…!
  42. いろは: この方が、もうひとりの管理人の やちよさんのおばあさん
  43. いろは: かなえさんっていう人は 以前、このみかづき荘に住んでいた人みたい
  44. いろは: 今は、音楽活動をするために みかづき荘を出て独り立ちをしてるんだけど 数年前まで、ここら辺でケンカをしていたような “不良”と呼ばれる人だったんだって
  45. いろは: 前にやちよさんから聞いた話だと 昔、ケンカでケガをしたかなえさんを やちよさんのおばあさんが助けて以来
  46. いろは: みかづき荘は、下宿としてだけでなく 困った女の子たちの駆け込み寺のようになって やちよさんとおばあさんのふたりで 下宿を営みながら、みんなを助けているみたい
  47. いろは: さなちゃんも、そうして救われたひとり… 家族からのけ者にされ、ひとりでいたところを おばあさんが保護して、さなちゃんは家族と 大喧嘩の末に、ここで暮らしているらしい
  48. いろは: かりんちゃんは、住んでいるわけではないけど かりんちゃんのおばあさんと やちよさんのおばあさんが知り合いで こうしてたまに遊びに来ては漫画を描いている
  49. いろは: 詳しいことは、あまり聞いてないけど かりんちゃんのおうちも、少し訳ありみたい
  50. やちよ: どうしよう、おばあちゃん 何かお祝いとか贈るわよね
  51. やちよの祖母: そうね…おみかんとか お米とか…あ、お肉も必要ね
  52. やちよ: 食べ物ばっかりじゃない… ふふっ
  53. 御園 かりん: やちよさんたち嬉しそうなの
  54. さな: はいっ、会ったことない人だけど 私も嬉しくなっちゃいます…
  55. さな: あ、そういえばいろはさんたちは 明日から新しい学校でしたっけ?
  56. いろは: うん、そうなんだ…!
  57. いろは: でも、さなちゃんも かりんちゃんも別の学校だし…
  58. いろは: 知ってる人がいないから 緊張しちゃうな…
  59. いろは: みかづき荘に通ってる子で 同じ学校の子がいるって
  60. いろは: 聞いてはいるけど まだ、名前しか知らなくて…
  61. うい: ちゃんと お友だちになれるかなぁ?
  62. 御園 かりん: きっと大丈夫なの! 目指せ、友だち100人なの!
  63. うい: うんっ!
  64.  
  65. FILENAME: text_517110-2_ptdpz.txt
  66. いろは: それじゃあ、いってきます!
  67. いろは: …あれ?
  68. ???: あ!あの…えっとぉ… 新しいみかづき荘の子…だよね?
  69. ???: その…今日から初登校だって 聞いて来たんだけど…
  70. ???: やちよさんに聞いてる…かな? 家庭菜園でお世話になってる…
  71. いろは: あ!えっと… 秋野かえでちゃん…?
  72. かえで: うん、そう…!
  73. かえで: あの…良かったら 一緒に学校、行かない?
  74. いろは: 前にやちよさんから聞いた話だと 家の前にマンションが建ったせいで 家庭菜園ができなくなったかえでちゃんは
  75. いろは: みかづき荘のお庭の一画を借りて 野菜を育ててるみたい
  76. いろは: 今まで顔を合わせることがなかったのは 早朝に水やりをして みかづき荘には上がらず帰ってたからなんだって
  77. いろは: だけど今日は、私たちが初登校だって聞いて みかづき荘の前で待っててくれたみたいだった
  78. かえで: …って、早く行かないと 遅刻しちゃうね…!
  79. かえで: 歩きながらお話しよっ!
  80. かえで: じゃあ、お父さんとお母さん 今は海外にいるんだぁ
  81. うい: うん、でもお姉ちゃんがいるから あんまり寂しくないよ!
  82. かえで: そっかぁ ふたりは仲良しなんだね!
  83. いろは: でも、みかづき荘には 同じ学校の子っていないから
  84. いろは: こうして、かえでちゃんと会えて 本当によかったよ!
  85. かえで: ふふ、じゃあ私が 学校での初めてのお友だちかぁ
  86. かえで: それって、なんだか嬉しいな!
  87. それでは環さん 自己紹介をお願いします
  88. いろは: あ、環いろはです…! その、よろしくお願いします!
  89. はい、それじゃあ席は… 水波さんの隣かな
  90. いろは: よ、よろしくね…?
  91. レナ: …………
  92. いろは: (あ、あれ… 聞こえてなかった、かな…?)
  93. 今日の授業は 課題図書について
  94. ひとつのテーマを決めて 考えるという内容ですが
  95. 環さん、事前に知らせた本は 読めてますか?
  96. いろは: え、あ、はい 大丈夫です…!
  97. それじゃあ、隣の席の人と 話し合ってみてください
  98. いろは: …………
  99. レナ: …………
  100. いろは: (どうしよう… 私から話しかけないとだよね)
  101. いろは: あ、あの…水波さん…だよね 課題図書の…これ
  102. いろは: 「銀河鉄道の夜」… 水波さんも読んできた?
  103. レナ: …………まぁ、宿題だし
  104. いろは: そ、そうだよね… テーマ…何にしよっか
  105. レナ: …別に、そっちの 好きなやつでいいわよ
  106. レナ: …その方が、やりやすいでしょ
  107. いろは: じゃあ… えっと…何がいいかな…
  108. いろは: あ…そういえば 心に残っている台詞があって
  109. レナ: …どこ?
  110. いろは: えっと…あ、これ
  111. いろは: 『けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう』
  112. レナ: …結構、最後の方よね レナも覚えてるかも
  113. いろは: “ほんとうのさいわい”って 言葉が何度か使われていて…
  114. いろは: それで、自分にとってのそれって なんだろうって思ったの
  115. いろは: 水波さんは、何かある?
  116. レナ: …ほんとうのさいわい? そう言われるとわかんないけど
  117. レナ: レナは別に、推しが見られたら それで…って、何でもない
  118. いろは: 推し…って何?
  119. レナ: は? アンタ推しって言葉知らないの?
  120. いろは: あんまり、最近の言葉とか流行に 詳しくなくって…あはは
  121. レナ: …おばあちゃんみたいなこと 言うわね…
  122. レナ: …色んな相手に使うけど 要は好きな人ってこと
  123. いろは: 好きな人…
  124. レナ: あ、ちっ、違うわよ!? 恋的なヤツじゃなくて!
  125. レナ: その、アイドルとか… そういう応援…的なあれよ
  126. いろは: 水波さんはアイドルが 好きなんだ…!
  127. レナ: べ、別にレナが何を 好きだっていいでしょ!
  128. いろは: うん、好きなことがあるって いいことだと思うもん
  129. レナ: そ、そういうアンタは どうなのよっ!
  130. レナ: “ほんとうのさいわい”… なんかないの?
  131. いろは: さいわい… 本当に幸せなこと…
  132. さな: …えっと その子にとっての幸せが
  133. さな: 願いを叶えることで 終わっちゃうのなら
  134. さな: どうして世界を救おうなんて 思えるのかな…って
  135. さな: 戦うことが幸せっていうこと?
  136. いろは: (…みんな、何が幸せかとか わからないものなのかな…)
  137. いろは: うーん… 私は…まだよくわからないかも
  138. いろは: 不幸だとは思わないし 毎日幸せだって思うけど…
  139. いろは: ほんとうのさいわいって言うと ピンとこなくて…
  140. レナ: …まぁ、“ほんとうのさいわい” なんて難しいテーマ
  141. レナ: そう簡単に 答えなんか出ないわよね
  142. いろは: うん…そうだね
  143. いろは: ちょっと本を読み返して 考えてみようかな
  144.  
  145. FILENAME: text_517110-3_ptdpz.txt
  146. いろは: (ほんとうのさいわい…)
  147. ぺらっ
  148. 誰だって、ほんとうにいいことをしたら、 いちばん幸なんだねえ。 だから、おっかさんは、 ぼくをゆるして下さると思う。
  149. ぺらっ
  150. けれどもまたそんなにして助けてあげるよりは このまま神のお前にみんなで行く方が ほんとうにこの方たちの幸福だとも思いました。
  151. ぺらっ
  152. ほんとうにどんなつらいことでも それがただしいみちを進む中でのできごとなら 峠の上りも下りもみんな ほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。
  153. ぺらっ
  154. ただいちばんのさいわいに至るために いろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。
  155. ぺらっ
  156. 僕はもうあのさそりのように ほんとうにみんなの幸のためならば 僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。
  157. いろは: (…本の中だけでも 幸せの形がいっぱいある…)
  158. いろは: (いいことをしたら幸せ… みんなの幸せのため…)
  159. いろは: (先生は無理に答えを出す必要は ないって言ってたけど…)
  160. “ほんとうのさいわい”について 環さんたちは考えたんですね
  161. いろは: でも、あんまりいい答えに たどりつけなくて…
  162. 難しいテーマですから 無理に答えを出さなくても
  163. これからの人生で見つけられれば それでいいと思いますよ
  164. 考えてみることに この授業の意味がありますから
  165. いろは: (やっぱり 気になっちゃうな…)
  166. キーンコーンカーンコーン
  167. いろは: (もう、こんな時間…!)
  168. いろは: (結局、水波さんとは あまり仲良くなれなかったな…)
  169. いろは: (ういは初等部だから、授業も もう終わってるみたいだし)
  170. いろは: (ひとりで帰ろう…)
  171. レナ: ねぇ
  172. いろは: わっ!?
  173. レナ: アンタ、どこ住み
  174. いろは: え、えと新西区の みかづき荘ってところで…
  175. レナ: あー、あそこ… 方向一緒ね、行きましょ
  176. いろは: え、あの…
  177. レナ: 「どうせ転校初日だし、今日の様子見てたら 友だちもろくにできてないだろうから レナが一緒に帰ってあげるって言ってんの!」
  178. いろは: あ、ありがとう… 水波さん…!
  179. レナ: …レナよ、水波レナ
  180. いろは: えっと、あ、いろはです! よろしくね、レナちゃん!
  181. かえで: いろはちゃーん!待ってたよぉ …って、みゃっ!?
  182. かえで: と、とと隣の怖い人誰…? なんか私、にらまれてるような…
  183. レナ: …は?何よいきなり ちょっと失礼じゃない?
  184. かえで: ふゆぅ…だ、だって いきなりにらんでくるから…!
  185. レナ: に、にらんでないわよ! 元々こういう目つきなの!
  186. かえで: えぇ…それじゃあ 大変そうだねぇ
  187. レナ: なんかムカつくんだけど!
  188. いろは: あ、あぁ…えっと、ふたりとも ケンカしないで…
  189. レナ&かえで: ケンカじゃないわよ! (ケンカじゃないよ!)
  190. いろは: (気が合う…のかな?)
  191. かえで: それじゃあ、またね いろはちゃん
  192. レナ: 迷子になるんじゃないわよ
  193. いろは: うん、またねふたりとも!
  194. いろは: (これからの学校生活 楽しくなりそうだなぁ…)
  195. ういの声: あれ、お姉ちゃん?
  196. いろは: やちよさん!うい…! あ、お買い物ですか?
  197. やちよ: ええ、ういちゃんにも 手伝ってもらってね
  198. やちよ: それはそうと 今、一緒にいたのって秋野さん?
  199. いろは: はい、かえでちゃんと 同じクラスのレナちゃんです
  200. やちよ: そう、学校でも友だちが できたみたいね
  201. いろは: はい、隣の席になったので 授業でも話し合いをしたり…
  202. やちよ: へぇ、話し合いって どんな授業だったの?
  203. いろは: あ、読んだ本をひとつのテーマで 考えるって内容なんですけど
  204. いろは: “ほんとうのさいわい”って やちよさんは何かありますか?
  205. やちよ: あぁ、銀河鉄道の夜?
  206. いろは: はい、そうです 私にはまだわからなくて…
  207. やちよ: そうね…
  208. ???: わたしはねぇ、お姉ちゃんと 由比家の復興を遂げたら
  209. ???: ほんとうのさいわいに たどり着ける気がするよ
  210. やちよ: きゃっ!?
  211. やちよ: …もう、びっくりさせないでよ
  212. いろは: やちよさん、この人は…?
  213. やちよ: 近くの中華屋さんの子でね たまに出前を頼んでるの
  214. やちよ: この子の姉とも知り合いだから 家族ぐるみの付き合いってとこね
  215. ???: 最近、引っ越してきた 環姉妹ちゃんだよね!
  216. 鶴乃: 中華飯店万々歳の看板娘 由比鶴乃だよ!ふんふん!
  217. 鶴乃: 鶴乃ちゃんって呼んでね! よろしく!
  218. いろは: あ、よ、よろしくお願いします!
  219. やちよ: 今日は何も頼んでないわよ?
  220. 鶴乃: 宣伝とお姉ちゃんの言伝だよ! はい、まずこれチラシね!
  221. 鶴乃: それで、お姉ちゃんからの 言伝だけど
  222. 鶴乃: 前に頼んでたウェブCMの出演 考えておいてって!
  223. やちよ: モデルだったのは もう昔の話だって言うのに…
  224. やちよ: 私なんかに頼るぐらい 経営は火の車っていうこと…?
  225. 鶴乃: まぁ、こうしてごひいきさんに 支えられてるぐらいだからね!
  226. 鶴乃: というわけで 次の出前に行ってくるよ!
  227. 鶴乃: またね!
  228. やちよ: 相変わらず嵐みたいな子ね…
  229. いろは: それから家に帰って、夜ご飯を食べながら みんなで“ほんとうのさいわい”について 話してみたの
  230. やちよの祖母: ほんとうのさいわい?
  231. いろは: はい、そうです 意見を聞いてみたくて
  232. やちよの祖母: そうね…毎日健康で 楽しく暮らせているからねぇ
  233. やちよの祖母: 身の回りで争いごともなく 可愛い孫や、さなちゃんに
  234. やちよの祖母: いろはちゃんとういちゃん… みんなに囲まれて
  235. やちよの祖母: 今が、私にとっては 幸せな時間だと思うわ
  236. やちよ: 私も…こうして食卓を囲む時間が 何よりも幸せだと思う
  237. やちよ: それに みかづき荘での仕事は
  238. やちよ: 新しい出会いもあって やりがいもある
  239. やちよ: かなえの報せがあったのが いい例かもしれないわね
  240. さな: 私は…家族のこととか 色々悩んでいましたし…
  241. さな: 消えてしまいたい…って 思っていたこともあったけど
  242. さな: 家族に言いたいことを全部言って 家を出てきて…
  243. さな: 今こうして、第二の家族…として ここに居られているから
  244. さな: 前よりも、自分に正直になれて 私はとっても幸せ…ですよ
  245. やちよ: さなは、前よりだいぶ 強くなったわね
  246. さな: えっと…その…
  247. やちよ: 褒めてるのよ、ふふ
  248. うい: わたしも 少し前まで病気だったけど
  249. うい: 今はこうして 元気に学校に通えるし
  250. うい: みかづき荘での新しい生活も すっごく楽しいから
  251. うい: 今がとっても幸せだよ!
  252. やちよの祖母: そうねぇ… 元気が一番よねぇ
  253. さな: …どうでしょう、いろはさん 何か見つけられそうですか?
  254. いろは: どうだろう…やっぱり はっきりとしてないかも…
  255. いろは: 朝のかりんちゃんのお話で 特に悩んじゃって
  256. いろは: 今、幸せだと思うし… 悪いことがないから幸せ…
  257. いろは: って言うのは ちょっと違う気もして…
  258. やちよ: そうかしら? それも立派な幸せだと思うわよ
  259. やちよの祖母: えぇ、日常ほど 尊いものはないからね
  260. やちよの祖母: それに、幸せの形なんて はっきりとはしないものよ
  261. いろは: …そうですよね
  262. いろは: 焦る必要はないし… これから、考えてみようかな…
  263. いろは: 少なくとも、幸せについて話す みんなの笑顔は大切で… 尊いものだと思うから
  264.  
  265. FILENAME: text_517110-4_ptdpz.txt
  266. いろは: 学校に通い始めてから何週間か経って 私は、毎日かえでちゃんとレナちゃんの3人で 一緒に登下校をするようになった
  267. いろは: 今日は、当番の仕事で遅くなるレナちゃんと 別の学年のかえでちゃんを校門で待っている
  268. いろは: (学校、不安だったけど 友だちができて良かった…)
  269. いろは: (ふたり…まだかなぁ)
  270. ???: わーん、今日の宿題 ぜんぜんわかんないよ~
  271. ???: …それじゃあ、帰ったら みんなで勉強会する?
  272. ???: あ、ならウチにおいでよ! 昨日お菓子作ったんだよね
  273. ???: ほんと!?やった~ れいら、大好きー!
  274. ???: ちょっと、みと~ いきなり抱きついたら危ないって
  275. ???: …勉強は進まなそうだね
  276. いろは: (あの子たち仲良さそう… 勉強会かぁ…楽しそうだな)
  277. ピロン♪
  278. いろは: (あ、やちよさんから メッセージ…)
  279. やちよ: お疲れ様、授業はもう終わったころかしら ごめんなさい…少し、おつかいを頼みたくて
  280. やちよ: 今度ね、みかづき荘に霧峰村っていうところから 団体のお客様が来る予定なんだけど 足りない食材があるから、買ってきてもらえる?
  281. いろは: (霧峰村…どこだろ…)
  282. いろは: (わ、か、り、ま、し、た… これで送信…っと)
  283. かえで: いろはちゃん、遅れてごめんね! 待った?
  284. レナ: 途中で合流したかえでが ぐずぐずしてるから…
  285. かえで: あぁ!そうやって、すぐに 人のせいにするんだからー!
  286. いろは: あはは…まぁまぁ…
  287. レナ: へぇ、みかづき荘に 団体のお客さんが来るのね
  288. かえで: 村って言うくらいだから 結構遠いのかな?
  289. いろは: うん、山奥の集落だって 連絡があったよ
  290. ???の声: …ぅあーーーッ!!
  291. かえで: ひゃぁ!?
  292. いろは: 誰かの叫び声…!?
  293. いろは: 何かあったのかもしれないし 見に行こう…!
  294. ???: うわぁああ…!
  295. ???: もう、アタシのバカヤロウ…! 何してんだよほんとに…!
  296. レナ: 何事かと思えば ももこ…
  297. ???: …へ? あ…レナ…?
  298. いろは: レナちゃん、知り合い?
  299. レナ: あ、うん…
  300. レナ: 推しの現場で仲良くなった オタク仲間のももこよ
  301. レナ: オタク同士の馴れ合いとか レナ、そんな好きじゃないけど
  302. レナ: ももこは同じ学校だったし 話しやすいし
  303. レナ: グッズ交換とかも何度かして …だから…って
  304. レナ: そんなことはどうでもよくて 何、叫んでたのよ
  305. ももこ: …ああ!思い出させるな! 恥ずかしくて死ぬ!
  306. かえで: え、えぇと…とりあえず ここだと目立っちゃうし…
  307. いろは: そうだね…そこの 公園に行きませんか?
  308. レナ: …で、少しは落ち着いた?
  309. ももこ: あ、あぁ…ごめん ちょっと落ち着いたよ
  310. レナ: それで、何があったの?
  311. ももこ: …………
  312. ももこ: その…アタシ、クラスに 好きなヤツがいるって言ったろ
  313. レナ: 言ってたわね
  314. ももこ: そいつと、さっきまで 一緒に帰ってたんだけど
  315. ももこ: ふたりで話してたら 流れで恋バナになっちゃって
  316. ももこ: それで…アタシに好きな人は いるのかって聞かれて
  317. ももこ: アタシ、なんかもう パニクっちゃってさ
  318. ももこ: つい口を滑らせちゃったんだよ お前だよバカ!って
  319. ももこ: で、さっき道で別れて 冷静になってきたんだけど…
  320. ももこ: こう…恥ずかしいやらなんやら 込み上げてきちゃって…!
  321. レナ: いや、ちょっと待って! 大切なところ抜けてない!?
  322. レナ: …で、どうなったのよ
  323. ももこ: どう…?
  324. レナ: 告白したんでしょ!? 結果は!?
  325. ももこ: …つ、付き合うことになった
  326. レナ: ~~~~~~!
  327. レナ: 何よバカ!めでたいじゃない! あーもう、心配して損した!
  328. ももこ: だって、どうせなら ちゃんと告りたかっただろ!
  329. ももこ: ほら、その…勇気出して 正面から堂々とさ!
  330. ももこ: こういうときこそ 漢気見せなくてどうすんだ!
  331. レナ: アンタ女子でしょ!? 何、漢気見せようとしてんのよ
  332. レナ: てか、結果オーライじゃない!
  333. ももこ: …………たしかに
  334. ももこ: あ、アタシ、好きな人と アイツと付き合えたのか…!
  335. レナ: そうよ!いまさらなの!? もっと喜びなさいよ!
  336. ももこ: なんか、話を聞いてもらえて 冷静になれたよ、ありがとな!
  337. ももこ: えっと…キミたちもごめんね 巻き込んじゃって…その…
  338. レナ: この子は環いろは、最近隣の席に なったって言わなかったっけ?
  339. ももこ: ああ、例の転校してきた子か! よろしくね!
  340. いろは: はい、よろしくお願いします!
  341. レナ: で、こっちはかえで 苗字なんだったっけ?
  342. かえで: もう、レナちゃんひどいよぉ!
  343. いろは: それから、私たちはお互いに自己紹介をすると レナちゃんの案でももこさんの恋が実ったことを みんなでお祝いすることになった
  344. レナ: お祝い、どこでする? ファミレスとか?
  345. ももこ: それなら、行きたいところが あるんだけど、いいかな!
  346. ももこ: 前に見かけた店なんだけど 可愛すぎて入れなくて…
  347. ももこ: でも、今日ならみんなもいるし
  348. ももこ: 晴れて好きなヤツとも付き合えて なんか、勇気が出そうだからな!
  349. かえで: どんなお店なの? 勇気がいるお店って…
  350. ももこ: 行ってからのお楽しみだよ!
  351. いろは: (あ…お買い物どうしよう… 急ぎじゃないって言ってたし)
  352. いろは: (やちよさんには 帰りに買うって伝えておこう)
  353.  
  354. FILENAME: text_517110-5_ptdpz.txt
  355. カラ~ン カラ~ン
  356. ???: 戻ったな、ご主人
  357. ???: お帰りなさいませぇっ ご主人様っ♪
  358. いろは: そのお店は、なんとメイドカフェで お店の看板メイドのなぎたんといくみんこと 十七夜さんと郁美さんに出会ったんだ
  359. レナ: わ…オムライスに ハートマーク…可愛い!
  360. 牧野 郁美: くみのきゅんきゅんなラブを 詰め込んでみたよぉ
  361. 十七夜: 自分からはこれだ
  362. ももこ: すげー! うっまそうな厚焼き玉子!
  363. 十七夜: ラブはないが丹精を込めて作った 味は保証するぞ
  364. レナ: …なんか、変わったメイドさんね 嫌いじゃないけど
  365. 十七夜: そうか、ご主人 気に入ってもらえて何よりだ
  366. レナ: …ちょっ ガチ恋営業とかやめてよね!
  367. 十七夜: ガチ…? 常に自分は本気だが
  368. いろは: (なんだかすごいところに 来ちゃったな…)
  369. ???: あれっ、キミ見ない顔だね?
  370. いろは: あ、えっ…メイドさん…?
  371. ???: あっはは、違う違う 私は観鳥令、ただの客だよ
  372. いろは: あ、ごめんなさい…っ 私は環いろはです
  373. いろは: 友だちについて来たから こういうところは初めてで…
  374. 観鳥 令: やっぱり、初めてじゃ この雰囲気って緊張するよね
  375. いろは: 観鳥さん…は よくここに来るんですか?
  376. 観鳥 令: うん、写真が趣味でね よく撮らせてもらってるんだ
  377. 牧野 郁美: ブログ用の写真とか いつも助かってるよぉ~
  378. 観鳥 令: 役に立ててるなら良かったよ
  379. いろは: ブログの写真…?
  380. 観鳥 令: …んー、ちょっと自分の話に なるんだけど、いいかな?
  381. いろは: あ、はい…!
  382. 観鳥 令: 私、昔から珍事件に 遭遇しやすい体質でね
  383. 観鳥 令: その証拠を押さえるために このカメラを持ち始めたんだ
  384. 観鳥 令: だけど、シャッターチャンスは 逃してばっかり
  385. 観鳥 令: それで悩んでた時に訪れたのが このメイドカフェで
  386. 観鳥 令: 牧野チャンのお願いに 巻き込まれて写真を撮るうちに
  387. 観鳥 令: 私が撮りたいのは こういう写真だって気づいたんだ
  388. 観鳥 令: ほらこれとか… ブレブレだけどいい笑顔でしょ?
  389. いろは: ほんとだ…なんだか 幸せに溢れてますね
  390. いろは: 観鳥さんは、笑顔の写真が 好きってことですか?
  391. 観鳥 令: それもあるけど、笑顔の裏にはね それぞれドラマがあるんだよ
  392. 観鳥 令: たとえば、あのふたり… 十七夜さんと牧野チャン
  393. 観鳥 令: ふたりも、人には見せないけど 実は、すごい努力の人でね
  394. 観鳥 令: 十七夜さんは怪我をした父親に 代わって家計を支えてるし
  395. 観鳥 令: 牧野チャンも後輩たちと働いてた メイドカフェが潰れちゃって
  396. 観鳥 令: 後輩のために新規事業を 立ち上げようと頑張ってるんだ
  397. 観鳥 令: 自分自身も アイドルを目指しながらね
  398. いろは: へぇ…すごいですね…!
  399. 牧野 郁美: あっ、も~っ くみの苦労話は禁止だよぉ!
  400. 牧野 郁美: くみはぁ、ここで働いていて 心の底から幸せなんだからぁ♪
  401. いろは: (幸せ…)
  402. ???: わぁ…このスイーツ すっごく美味しくて幸せ~…
  403. ほら、萌花こっちもあるよ あ~ん
  404. ???: あーむっ んん~ほっぺが落ちちゃう…
  405. ???: こ、この美味しさはまさに… う、う~ん思いつかない!
  406. いけるよ枇々木さん!
  407. 実況スキルアップへの 一歩!食リポ特訓!
  408. ???: う、ううぅ… おいしいです!
  409. そりゃそうだよ! あはは!
  410. ???: えへへ 先輩方も一口どうぞ!
  411. ???: このコラボ商品の技術力… まさか“奴等”が潜入して…
  412. ???: う、うぅ…塁さん… ミユは無理かもしれません…
  413. ???: コラボメイドカフェと聞き 遠征してきたのはいいですが
  414. ???: こっここ、ここは足フェチの ミユにとっては眩しすぎますぅ!
  415. ???: ハッ!ミユリちゃんダメだよ 気絶しちゃ…耐えて…!
  416. ???: ふひぃ…
  417. ???: …笑顔のまま 気絶してる…?
  418. 十七夜: ふっ、それなら なぎたんにお任せ、だぞっ!
  419. 牧野 郁美: もぉっ、誰~!? BBAって言ったのはぁ!
  420. 牧野 郁美: くみぃ、ぷんぷんっ なんだからねぇ~っ
  421. いろは: 本当に…みんな笑顔だ…
  422. いろは: メイドカフェで過ごす中で たくさんの人の幸せが見えた
  423. いろは: その形は様々だったけど、みんなが笑顔で 観鳥さんの写真が幸せに溢れているのも なんだかわかる気がして こういう幸せの形もあるんだって知ったんだ
  424. いろは: ここのみんなは とっても幸せそうですね
  425. 観鳥 令: でしょ? いいとこだよね、ここ
  426. いろは: はいっ …って、あ!
  427. 観鳥 令: ん? どうかしたの?
  428. いろは: 買いもの頼まれてたの 忘れてました!
  429. 観鳥 令: あらら… それじゃ、また今度だね
  430. いろは: はい、また!
  431.  
  432. FILENAME: text_517110-6_ptdpz.txt
  433. いろは: メイドカフェを出て急いでおつかいを終えた私は みかづき荘でやちよさんと一緒に 霧峰村の人たちに振舞う食事の仕込みをした
  434. いろは: 手を動かしながら、引っ越してきてからの話や みかづき荘に訪れた人の話をしていると いつの間にか、この新しい生活に 馴染み始めている自分に気づいたんだ
  435. やちよ: そういえば、昨日うちに 駆け込んできた子
  436. やちよ: あのあと、結局 どうなったのかしらね
  437. いろは: あ、お見合いがどうとか 話してましたよね
  438. やちよ: ええ、水名にある呉服屋さんの 泣き虫な子だったわね
  439. やちよ: ご両親と、しっかり お話できてるといいけど…
  440. いろは: 仕込みもほとんど終えた頃…
  441. やちよ: あとはデザートだけ …って、いけない
  442. やちよ: 果物を買い忘れたわね…
  443. いろは: あ、私買ってきますよ
  444. やちよ: 何度もごめんなさい… 助かるわ
  445. いろは: それから、買い物に行ったけど やちよさんのおばあさんが好きだと言っていた 柿だけが見つからなくて 他のスーパーを探していたその頃…
  446. ぐすっ…ぐす…
  447. いろは: (…泣き声…?)
  448. いろは: あの、すみません どうかしましたか…?
  449. ???: うぅ…すまほは動かないし 母様が見当たらないのぉ…
  450. いろは: えっと…道に迷ったんですか?
  451. ???: ええ…物産展のために村から 神浜市に来たんだけど…
  452. ???: 母様とははぐれるし 宿の場所もわからなくて…
  453. いろは: …あの、宿の名前って わかったりしますか?
  454. いろは: 私、調べてみます
  455. ???: ありがとう…
  456. ???: 確か…みかづき荘って 名前だった気がするわ…
  457. いろは: え…あ、もしかして 霧峰村の…!?
  458. ???: まさか宿の方だったなんて あなたに会えて良かったわ!
  459. 静香: あ、私は時女静香よ 名前をうかがってもいいかしら?
  460. いろは: 環いろはです…! みかづき荘まで案内しますね
  461. 静香: 助かるわ! ついでにお願いがあるんだけど
  462. 静香: よかったら都会について 教えてもらえないかしら
  463. 静香: 村からほとんど出たことがなくて 私、なんにも知らないのよ…
  464. いろは: 私で役に立てること、あるかな…
  465. 静香: メイドカフェ…都会には そんなものがあるのねぇ
  466. いろは: 私も、さっき初めて 行ったばかりなんですけどね
  467. いろは: 時女さんの住んでる場所は どんなところなんですか?
  468. 静香: 山奥にある集落でね 山では山菜が採れるし作物も新鮮
  469. 静香: 川では魚がたくさん獲れて… 食べ物の美味しい、いいところよ
  470. 静香: 集落の人は、みんなが優しくて 家族みたいだしね!
  471. 静香: あ、それから私のことは 静香って呼んで欲しいわ
  472. 静香: 宿に着いたら「時女」が 何人もいるから
  473. いろは: 大家族…なんですか?
  474. 静香: まぁそうね…時女一族と言って 本家とか分家があるけど…
  475. 静香: あ、私ね、本家の娘なのよ えっへん
  476. いろは: え、すごい!
  477. 静香: って言っても、ほんとに ただの大きな家族って感じよ
  478. 静香: 前は、いろんな掟とかが あったみたいなんだけど
  479. 静香: もう、形骸化してて 最近は観光に力を入れてるの
  480. いろは: へぇ…そうなんですね
  481. いろは: ただいま戻りましたー
  482. やちよ: あら、おかえりなさい …と、その子は?
  483. 静香: 時女静香と申します! 今日からお世話になります
  484. やちよ: ああ、あなたね お母さんが心配してたわよ
  485. 静香: うぅ…母様って怒ると とっても恐いのよねぇ…
  486. やちよ: 買い物はできた?
  487. いろは: あ、それが頼まれていた 柿だけ見つからなくって…
  488. 静香: 柿… それならだいだいっこがあるわ
  489. いろは: だいだいっこ…?
  490. 静香: 霧峰村の名産でね
  491. 静香: 形は違うけど、だいだいっこは 柿の一種なのよ
  492. 静香: いろはさんには道案内を してもらって
  493. 静香: 都会のことも教えてもらったし
  494. 静香: 確か、物産展のために 持ってきただいだいっこの
  495. 静香: 余りの在庫があったはずだから お礼に後でお渡しするわ
  496. やちよ: それは助かるわ ありがとう
  497.  
  498. FILENAME: text_517110-7_ptdpz.txt
  499. いろは: 霧峰村のみなさんと夜ご飯を食べて あとはお風呂に入って寝るだけ…という頃 みかづき荘に駆け込んできた人たちがいたの
  500. ???: ママはパパにひどく当たって… パパは何も言い返さないし…
  501. ???: あんなふたりを見ているのは もう耐えられないんですの
  502. ???: うちの父は政治ばかりで 私を見もしない…
  503. ???: たまには反抗してみるのも いいかと思ったんです
  504. ???: 女の子たちの駆け込み寺って 口コミを見まして…
  505. ???: 来る途中、この方とお会いして 一緒に来たんですの
  506. やちよ: …なるほど あなたたちどこから来たの
  507. やちよ: 今日は部屋がいっぱいで… 泊められそうにないのよね
  508. ???: 宝崎市なんですの…
  509. ???: 私は二木市から…
  510. やちよ: なっ…宝崎市はともかく 二木市は遠いわね…
  511. やちよ: この時間から帰すわけにも いかないし…
  512. やちよの祖母: そうねぇ…ご両親に連絡するから 連絡先を教えてもらえるかしら
  513. ???: …え、連絡するんですの?
  514. やちよ: 泊めるなら、当たり前よ あなたたち未成年でしょ?
  515. ???: 考えが及ばなかったんですの…
  516. ???: 私は、姿勢だけ示せればいいから 想定内でしたけど…
  517. やちよ: ただ、さっき言った通り 泊められる部屋がないから
  518. やちよ: 居間で寝てもらうけど いいかしら?
  519. ???: えぇ、構いません…
  520. ???: 私も、今日はへとへとなので どこででも眠れるんですの
  521. 静香: あ、それじゃあ私も 居間で過ごしていいかしら
  522. 静香: 集落育ちで世間知らずだから 見聞を広げなさいって
  523. 静香: 普段から母様に言われてるのよ
  524. やちよ: まぁ、構わないけど…
  525. いろは: あ、それじゃあ私も
  526. 静香: ふふっ、なんだか 楽しい夜になりそうね
  527. いろは: それから、私たちは 居間で一夜を明かすことになった さなちゃんも呼んだけど、知らない人が多いと 緊張しちゃうみたいで 今日は、部屋でういと過ごすみたい
  528. いろは: 居間で過ごす私たちは お互いに自己紹介をしたんだけど 話を聞くと里見那由他さんという子は 灯花ちゃんのいとこだった
  529. いろは: あまり気は合わないみたいだけど…
  530. いろは: それから、紅晴さんは二木市に住んでいて お父さんが市長さんをしているんだって
  531. 静香: それで、ふたりは 家出…?してきたのよね
  532. 那由他: ええ、そうですの
  533. 静香: ふーん…家出なんて 私にはあまり考えられないわ
  534. 那由他: ―那由他― 家出もしたくなるんですの…! ママはイライラしてパパに八つ当たりばかり
  535. 那由他: ―那由他― なのにパパは抵抗せずにヘラヘラするから ふたりに腹が立って仕方がないんですの!
  536. 那由他: ―那由他― 私がふたりに言っても聞かないから もう、息が詰まって出てきたんですの!
  537. 結菜: ―結菜― 私も、小さい頃から市長の娘として育ち 期待にさらされて息が詰まる日々だった
  538. 結菜: ―結菜― だから反抗して低いレベルの学校に入ったり 子どもじみた抵抗をしてみたけど
  539. 結菜: ―結菜― 今度は、臭い物に蓋をするように 私を隠したがってるようだったから
  540. 結菜: ―結菜― 自分で出てきてやったのよ
  541. 那由他: ―那由他― そう、家出は私たち子どもにとって 意思表示をする方法のひとつなんですの
  542. 静香: ―静香― 家長に意見を通すのが難しいのは なんとなくわかるわ
  543. 静香: ―静香― ただ私も、よく母様に反抗して怒られるけど 言い合いをした方が、わかりあえるときもあるし
  544. 静香: ―静香― ふたりも、家出よりも前に本気で言い合って 真っ向からケンカをしてみたらどうなのかしら
  545. いろは: ―いろは― でも、そう簡単じゃないから ここに来てるんじゃないのかな…
  546. 静香: そっか…そうよね… ちょっと無神経だったわ
  547. 結菜: …でもまぁ、よく考えたら 言い合いをしたことはないわね
  548. 那由他: 私も、言っても無駄なんだと ひとこと返されたところで
  549. 那由他: 見切りをつけて しまっていたんですの
  550. 那由他: これじゃあ、言い返さない パパと似たようなものですの…
  551. いろは: …………その、ふたりは ご両親にどうなって欲しいの?
  552. 結菜: 私は、私自身を 父にもっと見て欲しいだけよ
  553. 結菜: 「…私は、周りの生徒に背中を押される形で 学校改革を目的に 生徒会長を目指すようになったの」
  554. 結菜: 「学校が荒れてるのは 生徒だけの問題ではなく、学校組織にも 問題があるということに気づいたから」
  555. 結菜: 「だけど、それは父が私に求めた 政治の道を歩むことだから 私は2年になって生徒会長になると 自らの道を歩むことにした」
  556. 結菜: 「父の道具ではなく、私自身の信念と 行動で形に残ることをすれば 父は認めてくれるかもしれないと思った…」
  557. 結菜: 「だけど、学校の伝統に逆らい 時には大人と対立する… 自立した自由を得ようとする私は 父の求める“市長の娘”じゃなかったみたい」
  558. 結菜: 「自分で学費を稼いだり、学校改革を 成功させ、自立した自分を行動で示した… でも、頑張れば頑張るほど 父の理想からは離れて、父は私を見なくなった」
  559. 結菜: 私は父に見て欲しかった
  560. 結菜: 市長の娘としてじゃなく… ただ、娘として認められたかった
  561. いろは: そうなんですね…
  562. 那由他: 私は、ただママがパパに 優しくなってくれて
  563. 那由他: パパが、もう少しでいいので ママに言い返せたらいいんですの
  564. 那由他: 「ケンカをしないで常に仲良し…を 求めているわけじゃないんですの ケンカをしていても、家族として 愛し合ってるなら構わないんですけど」
  565. 那由他: 「それがわからないから どうしてふたりは一緒にいるのか、とか どうして家族になったのか…とか どうして私を産んだのか…とか 考えては、なんだか悲しくなるんですの」
  566. 静香: …そっか いろんな想いがあるのね…
  567. 静香: …うん、こういうときは
  568. 静香: 一度思っていることを 全部、口にしてみましょう!
  569. いろは: はい、私たちが聞くので!
  570. いろは: それから、那由他さんと紅晴さんの ご両親への話はなかなか止まらず…
  571. 那由他&結菜: はぁ…はぁ…
  572. 静香: …ずいぶんと うっぷんが溜まってたのね
  573. 那由他: …………
  574. いろは: すっきりしたかと思ったけど なんだか元気ないですね…
  575. 静香: あなたはお母様のことが 嫌いなんでしょ?
  576. 静香: これだけいろいろ言ったら せいせいするものじゃない?
  577. 那由他: …正直、嫌いですの…でも 居なくなったら悲しい存在ですの
  578. 那由他: パパを叱るママも 私に厳しいママも嫌い…
  579. 那由他: だけど、厳しいママのおかげで 勉強も平均くらいはできていて
  580. 那由他: こうやって、元気に すくすく育ったんですの
  581. 那由他: 嫌いだけど、家族で… 言葉にはしづらいんですの…
  582. 那由他: それに、情けないパパは嫌だけど パパのこと自体は大好きですの…
  583. 那由他: 私…寂しくなってきたんですの ぐすっ…会いたいですの…
  584. ピンポーン
  585. やちよの祖母: あら、あなたたちは…
  586. 那由他の父: 夜分遅くにすみません… 娘の那由他がいると聞きまして…
  587. 那由他: …パパ、ママも…
  588. 那由他の父: ああ那由他、ごめんね
  589. 那由他の母: …大体、あなたが 那由他を甘やかすから…
  590. 那由他の父: はは…ごめん…
  591. 那由他: そういうとこなんですの!
  592. 那由他: 「もっとママはパパに優しくして パパはママにもっと言い返すんですの! 家族なんだからいっそケンカするんですの! そういう感じが私は嫌なんですのっ!」
  593. 那由他: 「…私、ギスギスしたふたりを見て生活するのは 息が詰まって、ふたりを嫌いになりそうで… そう思うこともとっても嫌なんですの…だって ふたりはパパとママで嫌なところはあっても 居なくなったら寂しい…家族…なんですの」
  594. 那由他: そもそも…っ パパとママが愛し合っているから
  595. 那由他: 私は…産まれてきたんじゃ ないんですの…?
  596. 那由他: …ふたりが、そんなんじゃ…私 産まれた意味がわからないですの
  597. 那由他の父: っ…あぁ…ごめんね那由他 そんな風に思わせてしまって…
  598. 那由他の母: …えぇ、ごめんなさい那由他 ママたちが間違ってたわね…
  599. 那由他: 私は、いいのでっ… ふたりで仲直りするんですのっ
  600. 那由他の母: …そうね、辛く当たりすぎたわ 私もごめんなさい、あなた
  601. 那由他の父: いや、僕こそ… 君に何も言い返さなかったのは
  602. 那由他の父: 話し合いから 逃げていたせいかもしれない…
  603. 那由他: じゃあ、ふたりは ちゃんと愛し合ってるんですの?
  604. 那由他の母: ………… いがみ合っても、噛み合ってる…
  605. 那由他の父: …僕たちは、昔から そういう関係だったからね
  606. 那由他の父: こうして、ふたりで那由他を 迎えに来たのが答えだと思うよ
  607. 静香: 里見さんたち、結局 ケンカしながら帰ってったわね
  608. 結菜: まぁ、あれが あの家族なんじゃない?
  609. いろは: いろんな幸せの形が あるってことでしょうか…
  610. 結菜: そうね…それに あの子を見ていたら
  611. 結菜: 私も父に対して、正直に気持ちを 伝えようって思えてきたわ
  612. 結菜: 大きな声で反論なんて 子どもじみてるって思ってたけど
  613. 結菜: こうした行動で訴える方が よっぽど子どもだものね
  614. 結菜: いくら私が頑張ったとしても 父がこっちを見ていないなら
  615. 結菜: 振り向かせる努力をしないと 永遠に見てもらえないもの
  616. いろは: 伝えてみるって 大事なのかもしれません
  617. 結菜: …そう考えられたのも あなたたちのおかげね
  618. いろは: 私は、ただふたりの話を 聞いてただけですけど…
  619. 結菜: その機会が、今まで なかったのよ、きっと
  620. 結菜: だから明日の朝には帰って 父と向き合ってみるわ
  621. 結菜: まぁ、十中八九 ケンカになりそうだけどね
  622. 静香: お互いケガはしないように 頑張ってね!健闘を祈るわ!
  623. 結菜: どうして殴り合いが 前提になってるのよ…
  624. いろは: 那由他さんにとっての幸せ… 紅晴さんにとっての幸せ…
  625. いろは: あの本の中に いろんな“さいわい”があったように みんなそれぞれの幸せを抱いてるんだ
  626. いろは: 私にとっての、ほんとうのさいわいは まだ見つかっていないけど 幸せなみんなを見るのは、やっぱり嬉しいな
  627.  
  628. FILENAME: text_517110-8_ptdpz.txt
  629. テレビの声: 「スタジオ披露ありがとうございました! 演技をしてくれたのは湯国市から来た 大道芸人コンビのうらら&くららでした!」
  630. テレビの声: 「ありがとうございましたなんよ~!」
  631. やちよ: また、いつも通りの みかづき荘が戻ってきたわね
  632. いろは: なんだか、ちょっと寂しいです
  633. やちよの祖母: あんなにたくさんのお客さん なかなかないからねぇ
  634. テレビの声: 「続いて、先日起きた 小学校の立てこもり事件について 関係児童からの証言が物議を醸しています」
  635. テレビの声: 「証言によれば、殺害された女子児童について 犯人からクラスメイトに対し殺害する『生贄』の 投票を促したとのことで、関係児童たちへの 心のケアが急がれている…とのことですが コメンテーターの方々はどうお考えでしょう」
  636. テレビの声: 「投票だなんて酷い…信じられませんね… ただ、これ投票をした関係児童たちは いったい、どういう想いだったんでしょう いじめの有無などの事実確認も 必要なんじゃありませんか?」
  637. テレビの声: 「いやいや、そういった言動が児童たちの 心の傷をえぐるとはお考えにならないんですか 悪いのは、どう考えても犯人でしかない そのことを忘れてはいけないかと」
  638. やちよの祖母: あぁ、あの事件…覚えてるわ 生贄だなんてひどい話ね…
  639. うい: 同じ小学生の話だもんね こわいな…
  640. さな: なんだか最近 物騒な事件が多いですね…
  641. テレビの声: 「こうした児童の心の傷へのケアについて 里見メディカルセンターの院長に伺いました」
  642. うい: あ、灯花ちゃんのお父さんだ
  643. やちよ: 今日は、その灯花ちゃんの お見舞いに行くんだったかしら?
  644. いろは: はい、学校の帰りに寄るので 帰りが少し遅くなるかもです
  645. やちよ: わかったわ 気をつけていってらっしゃい
  646. やちよ: 灯花ちゃんとねむちゃん…よね ふたりにもよろしく伝えておいて
  647. いろは: はい…!
  648. いろは: (そういえばお土産… 何か持っていかなくちゃ)
  649. いろは: おはよう、レナちゃん 今朝は一緒に行けなくてごめんね
  650. いろは: ちょっとみかづき荘の 片づけがあったから…
  651. レナ: あぁ、おはよう… 別に気にしなくていいわよ
  652. いろは: …あれ レナちゃん元気ない?
  653. レナ: いや…さっきから みんなが噂してるあれよ…
  654. いろは: え…噂…?
  655. 「ねぇ、聞いた…? 2年生の子が団地の屋上から落ちたって」
  656. 「事故だって聞いたけど…大丈夫なのかな… 昨日の夕方に救急車で運ばれたらしいけど…」
  657. いろは: 気づかなかった…
  658. レナ: 団地の2年生らしいから 多分知らない子だと思うけど…
  659. レナ: ちょっと沈んじゃうわよね…
  660. いろは: うん…無事だといいね
  661. ドンッ
  662. いろは: あ、すみません…
  663. ???: …………屋上…
  664. いろは: へ…?
  665. レナ: いろは、大丈夫?
  666. いろは: あ、うん…
  667. いろは: (あの子、もういない… どうかしたのかな…)
  668. レナ: そういや、今日帰りも別だっけ お見舞いとか言ってたわよね
  669. いろは: え…あ、そうなの…! それでお土産を考えてて…
  670. レナ: ああ、それなら いいところを知ってるわよ
  671. いろは: レナちゃんに教わったのは 高等部で、最近フラワーアレンジメントの 同好会を開いた春名このみさんという人のこと
  672. いろは: それは、お花屋さんを開く夢を持つ彼女が フラワーアレンジメントのスクールを 昼休みに開いている…というお話で…
  673. 春名 このみ: はい、これで完成です! 大切な人に想いが届きますように
  674. いろは: これなら喜んでもらえそう…! ありがとうございます!
  675. いろは: そこで小さな花束を作って、私とういは 灯花ちゃんとねむちゃんのお見舞いに行ったの
  676. 灯花: うい、お姉さまっ! 待ってたよー!
  677. ねむ: 灯花とふたりきりだと 空気が悪いからね
  678. 灯花: にゃにをー!
  679. いろは: ふふ、ふたりとも 体調良さそうで良かった
  680. ねむ: うん、最近は容態も安定して 今にも走れそうな気分だよ
  681. 灯花: ま、本当に走ったら そのままICUに直行だけどねー
  682. うい: もう、嫌な冗談はやめてよ
  683. うい: このお花、生けておくね お姉ちゃんが作ったんだよ
  684. 灯花: 本当!?可愛い! わたくし、すっごい嬉しい!
  685. ねむ: うん、このまま枯れてしまうのが 惜しいくらいだね
  686. いろは: えへへ、喜んでもらえて嬉しいな
  687. いろは: あ、それから、やちよさんが ふたりによろしくだって
  688. 灯花: 今住んでるみかづき荘の 管理人さんだっけー?
  689. 灯花: いいなーわたくしたちも ういたちと一緒に住みたいにゃー
  690. ねむ: うん…そのためには早く 治さないといけないね
  691. いろは: うん、待ってるからね
  692. うい: でも、無理は禁物だよ!
  693. うい: ふたりとも体調良さそうで 良かったね
  694. いろは: うん、そうだね
  695. ???の声: ウソだ!そんなのウソだよ!
  696. ???: …みと、落ち着いて… 叫んだって、なんにも…
  697. ???: だって、だってつい最近まで 一緒にいた…元気だった!
  698. ???: せいかが救急車を呼んだときは まだ、息してたんでしょ!?
  699. ???: …私だって、信じられないよ… でも、お医者さんが…そう言って
  700. ???: …いや…ぁ…嫌だよ… れいらが死んじゃったなんて
  701. ???: そんなの嫌だよぉ…っ
  702. いろは: (同じ制服… 前に見かけた子たち…)
  703. いろは: (その中のひとりが 亡くなった…のかな…)
  704. 「ねぇ、聞いた…? 2年生の子が団地の屋上から落ちたって」
  705. 「事故だって聞いたけど…大丈夫なのかな… 昨日の夕方に救急車で運ばれたらしいけど…」
  706. いろは: (あ…学校で噂になってた子 あの子たちの友だちだったんだ)
  707.  
  708. FILENAME: text_517110-9_ptdpz.txt
  709. やちよ: おかえり、ふたりとも …どうかしたの?
  710. いろは: …その…
  711. やちよ: そんなことがあったのね…
  712. やちよの祖母: …それは悲しいね
  713. うい: うん…
  714. さな: …………
  715. さな: 不謹慎…かもしれないですけど こう考えると、私たちは
  716. さな: 生きてるだけで 幸せなのかもしれません…
  717. いろは: うん…
  718. いろは: 生きるとか死ぬとか… あまり考えてなかったのかも
  719. いろは: 灯花ちゃんやねむちゃん… それに、少し前までのういも…
  720. いろは: 病気の子は目の前にいたとしても 死を目の当たりにすることって
  721. いろは: 今まであまりなかったから… 忘れちゃってたんだ…
  722. やちよの祖母: 普通は、考えないものよ
  723. やちよの祖母: 考えずにいられる日常が きっと幸せなんだから
  724. やちよ: …そうね
  725. いろは: 生きてるってことが当たり前で 気づかなかったけど
  726. いろは: その当たり前が 幸せだったんですね…
  727. いろは: …なんだか、お母さんたちに 会いたくなってきちゃった
  728. うい: うん…わたしも そう思ってたところ
  729. やちよ: たまには電話をしてみるのも いいんじゃない?
  730. やちよ: 時差もあって、メッセージで 済ますことも多いんだし
  731. やちよの祖母: ええ、そうね きっと喜んでくれるよ
  732. いろは: …はい
  733. いろは: もしもし…お母さん?
  734. いろは: うん、うん…元気だよ うい?
  735. うい: わたしも元気だよ お母さんとお父さんは?
  736. うい: …そっか、よかった
  737. うい: んー…えっとね 声が聞きたくなっちゃって
  738. いろは: うん、私も同じ…
  739. いろは: …初登園で泣いてたのを 思い出すって…
  740. いろは: もう、それ私が 幼稚園の頃の話でしょ!
  741. うい: ふふふっ
  742. いろは: …へ? あ、あー…
  743. いろは: …うん、ふたりには バレバレだね…
  744. いろは: …うん、元気出たよ …ありがとう
  745. いろは: お母さん、お父さん …あのね、いつもありがとう
  746. うい: わたしも…! …え!?お父さん泣いてるの!?
  747. いろは: お父さんとお母さんと電話をして ふたりの愛情をいっぱいもらって 心があったかくなったの
  748. いろは: そして、これからも当たり前を大切にして 幸せを見逃さないように生きなきゃって そう、思ったんだ
  749.  
  750. FILENAME: text_517110-10_ptdpz.txt
  751. いろは: それから、私は日々みかづき荘に 駆け込んでくる人たちとの触れ合いの中で 自分は、誰かの幸せのために 何ができるだろうって考えるようになった
  752. 粟根 こころ: お父さんと、ケンカしちゃって…
  753. いろは: 那由他さんや紅晴さんのように 家出をしてきた子は結構いて
  754. 旭: 祖父の過干渉が嫌になり 湯国市からここまで…
  755. いろは: 時には、かなり遠くから来る子もいたり…
  756. 千秋 理子: お姉さんの結婚が 認めてもらえるまで
  757. 千秋 理子: わたし おうちに帰りませんから!
  758. いろは: 色々な悩みを抱えた子が訪れてきた
  759. 矢宵 かのこ: 両親が私のファッションセンスを 全然わかってくれないの…!
  760. 矢宵 かのこ: 私のデザイン、これなんだけど!
  761. いろは: んー…一度ご両親の意見を 聞いてみるのもいいのかも…?
  762. いろは: 口コミがどう伝わったのか 駆け込み寺と言うよりは 悩み相談の側面も強くなってはいたけど
  763. 志伸 あきら: ボク、すぐにトラブル相談が 舞い込んできて…
  764. 七瀬 ゆきか: 日々にトラブルがなくて 刺激がないといいますか…
  765. いろは: あ、それなら 紹介したい人が…!
  766. いろは: このことをきっかけに 友だちを探しに来る子なんかも現れたり…
  767. 史乃 沙優希: 刀について語れるお友だちが 欲しいんですがぁ…
  768. 梢 麻友: 美術館で働いてたんですけど その、人間関係でトラブルが…
  769. いろは: あ、あの…美術館って 刀…とかもあります?
  770. 江利 あいみ: 好きな人の気持ちが わからないんです!
  771. いろは: えっと…聞いてみる…とか? 直球すぎますか…?
  772. 江利 あいみ: 聞く…告白じゃなくて 聞くだけだったら…
  773. 江利 あいみ: ドキドキしちゃうかもだけど 頑張れるかもしれません!
  774. いろは: いろんな人と会って、たくさん話をして そして、笑顔で帰る人を見るのは嬉しかった
  775. いろは: 話を聞くだけなのがほとんどだし 自分に何ができてるかって考えると そんなに役に立ててないのかもしれない
  776. いろは: だけど、今は目の前にある 自分にできることをひとつひとつ 悔いの残らないようにやっていくしかない
  777. いろは: そして、みんなの笑顔を見る中で 私はあることを決めた
  778. やちよ: カメラを貸して欲しい?
  779. いろは: …はい
  780. やちよの祖母: あら、それなら 倉庫に古いのがあるけど
  781. やちよの祖母: 急にカメラだなんて 何に使うんだい
  782. いろは: その、みんなの笑顔を 撮って、残したくて
  783. いろは: メイドカフェで観鳥さんと出会ってから たまに写真が送られてくるようになった
  784. いろは: 相変わらずブレてるものが多かったけど どれも笑顔で、幸せに満ちていて その写真を見るのが楽しみになってたんだ
  785. いろは: 神浜市に来てから 嬉しいことも悲しいことも経験して 日常の大切さを知ったから 当たり前が当たり前じゃないって気づいたから…
  786. いろは: この大切で尊い瞬間を 写真という形で残しておきたいって思ったの
  787. いろは: それじゃあ、撮るので みなさん並んでくださーい
  788. さな: ういちゃん、もう少し こっちの方がいいかも
  789. うい: う、うんっ
  790. 御園 かりん: こんにちはなのー って、みんな何してるの?
  791. やちよの祖母: ちょうどいいわ かりんちゃんもこっちおいで
  792. 御園 かりん: わかんないけど わかったのー!
  793. 鶴乃: どうもー、万々歳から クーポンのお知らせだよ~
  794. 鶴乃: ほっ?写真撮影? じゃあ、わたしも入っちゃお~!
  795. やちよ: すごいタイミングね…
  796. やちよの祖母: ふふふ、ほらほらみんな 真ん中にぎゅーっと集まって
  797. むぎゅっ
  798. いろは: それじゃあ、いきますねー
  799. いろは: 『はい、チーズ!』
  800. パシャッ
  801. うい: どう? ちゃんと撮れた?
  802. さな: あ…これは…ふふ
  803. やちよ: あら…ブレッブレね
  804. 鶴乃: 修行が必要そうだね! ふんふん!
  805. 御園 かりん: でも、楽しそうで いい一枚なの!
  806. やちよの祖母: ふふふ、そうね 玄関に飾ろうかしら
  807. いろは: そ、それは 恥ずかしいですよ…!
  808. いろは: 私は、あの授業から “ほんとうのさいわい”を“一番の幸せ”として 探していたような気がするけど
  809. いろは: きっと、幸せの形はたくさんあるから ひとつに絞らなくたっていい
  810. いろは: ただ、この当たり前の日々が続けば それでいいって思うんだ
  811. いろは: もしかしたら、かりんちゃんの物語に 出てきたあの魔法少女も そんな日常を守るために戦っていたのかな
  812. さな: 今度は、いろはさんも 一緒に写りましょう
  813. やちよ: そうね、どうせ飾るなら 全員入ってないとね
  814. いろは: こんな幸せが ずっと続いたらいいなって、そう願ったんだ
  815. [Part 1 end]
  816. ---
  817. [Part 2 start]
  818. FILENAME: text_517120-1_rJz0C.txt
  819. いろは: あれから時間は経って 数えきれないほど写真を撮った
  820. うい: ふふ、この写真いいね
  821. いろは: でしょ、いい笑顔だよね 観鳥さんにも褒められちゃった
  822. いろは: ただ、幸せな写真は時間が経って増えたけど みかづき荘に訪れる人が 悩みを抱えていることは変わらない
  823. いろは: 私は、その話を聞くことはできても それ以上は、何もできていないように思う…
  824. いろは: だけど、私にはどうすれば 他の誰かを幸せにできるかわからない…
  825. いろは: 私自身が誰かに 幸せを与えられる側になれたらいいんだけど…
  826. さな: あ、いろはさん リビングにいたんですね
  827. 御園 かりん: …って、環先輩とういちゃん 何をしてるの?
  828. いろは: 撮った写真を現像して ちゃんとアルバムにしてみたから
  829. いろは: 神浜市に来てからのことを ういと見返してたんだ
  830. 御園 かりん: なるほどなの!
  831. 御園 かりん: あれから写真すっごい増えたし とっても上手になったの
  832. 御園 かりん: あ、これアリナ先輩の 個展会場の写真なの!
  833. いろは: うん、この時はね…
  834. いろは: 『かりんちゃんに紹介してもらった アリナさんっていう芸術家さんの 個展に行ったときの話なんだけど…』
  835. いろは: なんか…すごかったけど 私には難しかったな…
  836. うい: わたしも… 小学生には早かったかも?
  837. ???: あの…すみません…!
  838. ???: そこの美術館のチケット…
  839. ???: 余ってるんだけど… よかったら使いませんか?
  840. いろは: あ、ごめんなさい… 私たち今見終えたところで
  841. ???: そっかー…
  842. いろは: えっと… どうかしたんですか?
  843. ???: いや…好きな人と来る予定 だったんだけど
  844. ???: 失恋しちゃってさー…はは
  845. ???: ひとりで見ようとも思ったけど やっぱそんな気分になれなくて…
  846. ???: でも、チケットもったいないし 誰かもらってくれないかなーとか
  847. ???: …って、何話してんだろ はは…はっずかし…
  848. ???の声: えぇえ!? ここにいれてたはずなのに!?
  849. ???: チケット落とすとか 超サイアクだよ~!
  850. うい: もしかして、あの人…
  851. ???: やっば! ちょうどいい人いたっぽい!
  852. ???: ほんと助かるよ~!
  853. ???: あーし大人っぽくなりたくて 美術館で勉強!って思ってたから
  854. ???: そだ、あーし衣美里! よろしくっ!
  855. ???: あたしは梨花! よろしくね!
  856. 木崎 衣美里: んん? このふたりは?
  857. 綾野 梨花: ふたりと話してたから あなたを見つけられたんだよ!
  858. 木崎 衣美里: そんじゃ、ふたりもあーしの ピンチを救ってくれたわけかー!
  859. 木崎 衣美里: っつーことは、今日から あーしら友だちじゃん!?
  860. いろは: あれから、たまに一緒に 遊んだりしてるんだ
  861. うい: ふたりには神浜市のこと いろいろ教えてもらったよね
  862. さな: あれ、こっちの写真って ゲームセンターですか?
  863. いろは: あぁ…これは… 大変だったんだよね…
  864. いろは: 『大変だった…って言うのもね レナちゃんとゲームセンターで遊んでたら 突然、知らない女の子に声を掛けられて そのままゲーム大会に出ることになっちゃって』
  865. ???: 神浜市に引っ越してきてから よくこの店に来てんだけど…
  866. ???: アンタ、たまに見かけててさ 上手いから目を付けてたんだよね
  867. ???: ねえ、クレーンゲームの大会 アタシとチームにならない?
  868. レナ: ふん、見る目あるじゃない そんなに言うならいいわよ
  869. いろは: (私は…どうしよう… 見てようかな…)
  870. いろは: (あれ、あの子も 大会に出るのかな…?)
  871. ???: …何?
  872. いろは: あ、大会…出るのかなって
  873. ???: …ちょっと興味があったから 神浜市への用事ついでに来たけど
  874. ???: チーム戦なの知らなくて…
  875. ???: 誰かに声を掛ける 勇気もなかったから…
  876. ???: …………ねぇ
  877. ???: あなた、今ヒマなの? それならさ…
  878. いろは: 『それで、その子…笠音さんと一緒に ゲーム大会に出たんだけど レナちゃんとその相手、智珠さんは強いし』
  879. いろは: 『私は、ゲームなんて全然できないから 足引っ張ってばかりで惨敗だったんだよね… だけど…』
  880. いろは: ごめんなさい… 私のせいで負けちゃいましたね
  881. アオ: ほんと…びっくりするくらい へたっぴだよね~…
  882. アオ: …でも、あなたと遊べて わたし、楽しかった
  883. アオ: ありがとね、環さん …また一緒に遊ぼう
  884. いろは: それからも たまに連絡をとっててね
  885. いろは: 笠音さんの好きな ボードゲームのこととか
  886. いろは: いろいろ教えてもらったり してるんだ
  887. いろは: もちろん、大会に出場なんて 大変だったけど
  888. いろは: 今じゃ楽しい思い出のひとつだし 仲良くなれて幸せだよ
  889. さな: 写真の数だけいろんな出会いが あったんですね…!
  890. いろは: そうなの だから、いつかみんなに
  891. いろは: 何か恩返しができないかなって 最近ずっと考えてるんだ
  892. いろは: 私は、いつも誰かに 幸せをもらってばかりだから
  893. いろは: 他の人に幸せを 与えられたらな…って
  894. 御園 かりん: いい出会いばっかりで よかったの!
  895. いろは: あ、でも…出来事としては いいことばっかりじゃなくてね…
  896. いろは: 例えば、このふたりとの出会いは その、良くない方だったかも…
  897. いろは: 月夜さんと月咲さんっていう 双子の人だったんだけど…
  898. いろは: ケンカをしてたところに たまたま居合わせちゃって
  899. 月咲: 双子なんだから 仲良くしろってこと!?
  900. 月夜: あなたに何が わかるでございますか!?
  901. 月夜: 私だって、仲良く したいでございます…でも
  902. 月咲: 生まれの違いは どうしても埋まらないよ!
  903. いろは: 私が無神経なばっかりに 怒らせちゃって…
  904. いろは: だから本当は、アルバムに載せず しまっておきたかったけど
  905. いろは: 幸せのためには 悲しいことや辛いことも
  906. いろは: 残しておいた方がいいって 観鳥さんと話して
  907. いろは: 忘れないために 残すことにしたの
  908. いろは: だから、観鳥さんの写真には そういうものが含まれてて…
  909. いろは: たとえば、観鳥さんが撮った この化学室の写真はいい例かも
  910. さな: 誰もいない化学室の写真…? 何かあったんですか?
  911. いろは: 『何年も前の話だけど 化学室で実験中に有毒ガスが発生して 亡くなった子がいるみたいで それから化学部はずっとないらしいの』
  912. いろは: だから、このアルバムの中には 幸せだけがあるわけじゃないんだ
  913. 御園 かりん: たしかに… よくわからない写真もあるの
  914. 御園 かりん: これは、本の青空市なの?
  915. いろは: うん、商店街でたまたま 見かけたんだ
  916. いろは: 『夏目書房って本屋さんなんだけど 以前、お店への放火があったみたいで… 今は、こうして建て直しのために 少しずつ頑張ってるんだって』
  917. いろは: 『でも、在庫もほとんど燃えてしまったから 大変で…店主のお父さんがふさぎこんでるって お店の子が言ってたんだ…』
  918. 御園 かりん: こっちは…お祭りなの?
  919. いろは: 宝崎市の火祭りだね なくなっちゃうって聞いて
  920. いろは: 最後に見に行ってきたの 泣いてる人がたくさんいて
  921. いろは: 愛されていたお祭り だったんだと思うよ
  922. 御園 かりん: それから、ここ! 駄菓子屋さんがあったはずなのに
  923. 御園 かりん: いつの間に マンションになってたの!?
  924. いろは: 見返してみると 当たり前の尊い日常を残そうと思って みんなの笑顔を撮り始めた私は 次第に喜びも悲しみも撮るようになった
  925. いろは: だけど、次第に もどかしさを感じるようになっている
  926. いろは: きっと、ただ残すばかりで 生かすことができていないから 歯がゆいのかもしれない…
  927. 御園 かりん: あとこれなんか、わたしが すっころんだときの
  928. 御園 かりん: …って、そうじゃないの!
  929. 御園 かりん: 環先輩に話そうと 思ってたことが別にあったの!
  930. 御園 かりん: みかづき荘で、いろんな人の話を 聞いてる環先輩なら
  931. 御園 かりん: もしかして何か知ってるかもって 思って聞きにきたんだったの!
  932. いろは: …?
  933.  
  934. FILENAME: text_517120-2_rJz0C.txt
  935. やちよ: お百度参りの噂?
  936. いろは: はい、かりんちゃんと さなちゃんが話してて
  937. さな: 「いろはさんは知ってますか? お百度参りの噂… 水徳寺っていうお寺に毎日のように現れては 必死の形相で何かをお祈りしてるみたいで」
  938. 御園 かりん: 「その様子が少し怖いって 最近、神浜市の子たちの間で ちょこっとだけ噂になってるお話なの! 確かに、ちょっとこわーい!なの!」
  939. やちよ: それは…ただ普通にお百度参りを している人なんじゃない?
  940. いろは: ですよね… でも、何を祈ってるんでしょう
  941. やちよ: …あ、水徳寺と言えば ここのすぐ近くね
  942. いろは: …行ってみてもいいですか? 何もないかもしれないですけど
  943. いろは: そこまで強い祈りって なんだろうって気になって
  944. やちよ: …そうね 行ってみましょうか
  945. いろは: …まぁ、特に何も ないですよね
  946. やちよ: …せっかくだし お参りしていきましょうか
  947. いろは: はい… あ、あそこ
  948. やちよ: 他にも参拝客がいるようね
  949. ???の声: おい、賽銭泥棒はあんたか!?
  950. いろは&やちよ: ――っ!?
  951. ???: はぁ?賽銭泥棒?
  952. ???: 土地を手放す瀬戸際まで 追い詰められた寺を相手に…
  953. ???: ったく 泣きっ面に蜂たぁこのことだ
  954. ???: いや、だからなんの話!?
  955. ???: 素直に白状したら 許してやろうと思ったが仕方ねえ
  956. ???: だから勘違いだって! 離してよ…っ!
  957. いろは: あ、あの、その人 本当にお参りしてただけです…!
  958. ???: あ…?
  959. ???: 「ほんっとうにすまなかった!この通りだ!」
  960. ???: 誤解がとけたならいいからさ 土下座とか勘弁してよ…
  961. ???: あと、あなたもありがとね おかげで助かったよ
  962. いろは: いえ、私はそんな…
  963. ???: さっき言った通り、うちの寺は 絶賛、存続の危機ってとこでよ
  964. ???: そんなときに賽銭泥棒が出たって 聞いたもんで、敏感になっててな
  965. ???: あたしからも感謝だ …って名乗ってなかったな
  966. 南津 涼子: あたしの名前は 南津涼子!
  967. 南津 涼子: 水徳寺の番人とは あたしのことよ!
  968. 南津 涼子: …まあ、つっても住職の 手伝いに来てるだけだし
  969. 南津 涼子: ちっと やりすぎちまったけどな…
  970. いろは: ふふ、私は環いろはです
  971. やちよ: 私は七海やちよよ
  972. 南津 涼子: ふたりはこの辺りの人かい?
  973. やちよ: ええ、みかづき荘って知らない?
  974. 南津 涼子: ああ、みかづき荘のか! よろしくな
  975. 南津 涼子: んで、あんたは?
  976. 鈴鹿 さくや: …私は鈴鹿さくや えっと、普通に高校生だよ
  977. 南津 涼子: ところであんた…
  978. 南津 涼子: 「金剛力士阿形像の様な脚だな!」
  979. 鈴鹿 さくや: は!?
  980. 南津 涼子: 悪い悪い…欲に駆られて 取り乱しちまった
  981. 鈴鹿 さくや: 寺の人が言うこと…?
  982. 南津 涼子: 陸上部ってこたぁ 必勝祈願にでも来たのか
  983. 鈴鹿 さくや: …まあ、そんなとこだよ うちの部、暴力事件があってから
  984. 鈴鹿 さくや: 活動は停止になるし 大会にも出られなくなってさ…
  985. 鈴鹿 さくや: それでも体を鈍らせないために 走ってたら寺を見つけて
  986. 鈴鹿 さくや: こうやって神頼みをしてたんだよ
  987. 南津 涼子: 寺だから仏さんだけど 努力はお天道様が見てくれてるさ
  988. いろは: …やっぱり、お百度参りの 人じゃなかったんですね…
  989. 鈴鹿 さくや: お百度参り?
  990. 南津 涼子: ああ、そういや最近 毎日来てるのがいたな
  991. 南津 涼子: あ、そうそうあんなやつ
  992. やちよ: …あの子、なんだか…
  993. いろは: すごく怒ってませんか?
  994.  
  995. FILENAME: text_517120-3_rJz0C.txt
  996. 鈴鹿 さくや: あら… 今度は泣きだしちゃった
  997. 南津 涼子: オイオイ どうしたってんだよ
  998. ???: うぐっ…ぅ 100日、通ったんでず…
  999. ???: でも、何も変わらないので 文句を言いに来たんでず…ずびっ
  1000. いろは: お百度参りの噂の正体である胡桃まなかさんは ウォールナッツという洋食店の子で 店の人気がなかなか出ないことに悩んで お百度参りをしていたみたい
  1001. 胡桃 まなか: …まなかだって、わかってました こんなことをしても仕方ないって
  1002. 胡桃 まなか: それでも、料理は絶対に 美味しいはずだし
  1003. 胡桃 まなか: 宣伝だってそれなりに 頑張ってきたはずでした
  1004. 胡桃 まなか: だからもう、これくらいしか… ワラにもすがる想いで…
  1005. ぐ~ぎゅるるるる…
  1006. 南津 涼子: あ、悪い…飯の話聞いてたら 腹が減っちゃって…なはは
  1007. 鈴鹿 さくや: はぁ、空気読んでよね…
  1008. いろは: あ、そうだ…みんなで胡桃さんの ところに食べに行きませんか?
  1009. いろは: それから私たちは胡桃さんと一緒に ウォールナッツに行ったんだけど お店は綺麗だし、見た目からは どうしてお客さんが少ないのかわからなかった
  1010. 胡桃 まなか: みなさん注文は 何にしますか?
  1011. 南津 涼子: じゃあ、おすすめで!
  1012. 胡桃 まなか: わかりました それじゃあ少々お待ちを
  1013. まなかの声: 先輩、そっちから 材料持ってきてください
  1014. まなかの声: そっちじゃなくて 棚の上ですよ
  1015. いろは: 他にも働いてる人が いるみたいですね
  1016. やちよ: ええ、さっきから姿は 見えないけどね
  1017. 胡桃 まなか: はい、おまたせいたしました
  1018. 胡桃 まなか: ウォールナッツ特製 ふわふわオムライスです
  1019. みんな: 「いただきます!」
  1020. やちよ: こ、これは…! くちどけがまろやかで…
  1021. 南津 涼子: うめえ…こんなに うまいもんがあるなんて
  1022. 鈴鹿 さくや: 美味しいのはもちろんだけど 卵…すごくいいの使ってない!?
  1023. 鈴鹿 さくや: 黄身の味が濃厚で… こんなの初めてだよ…!
  1024. 胡桃 まなか: もちろん、こだわりの食材を 使用してますからね
  1025. いろは: どうしてこれで 人気がないんですか!?
  1026. 胡桃 まなか: そうなんですよね まなかにもさっぱりなんです
  1027. やちよ: …ところで、キッチンの奥から ずっと視線を感じるんだけど
  1028. 胡桃 まなか: 視線…ああ、先輩ですね こっちに来たらどうですか?
  1029. ???の声: む、無理に決まってる…! あ、憧れのやちよちゃんもいるし
  1030. やちよ: ん、私…?
  1031. 胡桃 まなか: そういえば先輩言ってましたね 憧れのモデルさんがいるって…
  1032. 胡桃 まなか: え、その七海やちよって この人なんですか?
  1033. ???の声: 胡桃さん、知らなかったの!? 私、ずっとファンなのに…!
  1034. やちよ: あら、そうなの…? 引退して結構経つけど…
  1035. やちよ: そう言ってもらえるのは 素直に嬉しいわね
  1036. 胡桃 まなか: 阿見先輩、憧れの人に会うなんて こんな機会なかなかないんですし
  1037. 胡桃 まなか: たまにはこっちに 出てきたらどうですか?
  1038. 胡桃 まなか: …………ダメそうですね すみません、先輩シャイなんです
  1039. 胡桃 まなか: 思えば、阿見先輩との出会いも 高校デビューをしようとして
  1040. 胡桃 まなか: 結局できずにめげていた先輩が ひとりでお腹を鳴らしていて
  1041. 胡桃 まなか: 見かねたまなかが、お弁当を あげたのがきっかけでしたし
  1042. 莉愛の声: 余計なことは言わないでよね…!
  1043. 莉愛の声: あ、あの、でも ウォールナッツは美味しいから
  1044. 莉愛の声: やちよちゃんの影響力とかで 有名にできたり…とか
  1045. やちよ: 元モデルってだけだし 言うほど影響力は…
  1046. いろは: でも、なんとかしたいですよね
  1047. いろは: こんなに美味しいお店が 埋もれてるなんて…
  1048. いろは: (何か、この人のために 私にできることは…)
  1049. いろは: そうなの だから、いつかみんなに
  1050. いろは: 何か恩返しができないかなって 最近ずっと考えてるんだ
  1051. いろは: 私は、いつも誰かに 幸せをもらってばかりだから
  1052. いろは: 他の人に幸せを 与えられたらな…って
  1053. いろは: あ…これなら…!
  1054.  
  1055. FILENAME: text_517120-4_rJz0C.txt
  1056. やちよ: 恩返しのために ここでパーティーを?
  1057. いろは: はい、そしたらみんなに 感謝を伝えられるし
  1058. いろは: みんなで幸せを共有できて… お店の宣伝にもなるかもって
  1059. 胡桃 まなか: なるほど、まなかとしては 大歓迎です!
  1060. 胡桃 まなか: ただ、人数にもよりますが パーティーとなると
  1061. 胡桃 まなか: それなりに お金も必要になりますよ?
  1062. いろは: あぁ…確かに…!
  1063. 胡桃 まなか: ただ、宣伝のためですし まなかにとってもいい話なので
  1064. 胡桃 まなか: もし、そちらで ある程度の食材を用意して頂けて
  1065. 胡桃 まなか: 配膳なども手伝ってもらえるなら
  1066. 胡桃 まなか: お父さんに確認する 必要はありますが
  1067. 胡桃 まなか: なんとかなるかもしれません
  1068. いろは: 食材かぁ… うーん…
  1069. ~~♪~~♪
  1070. 胡桃 まなか: 出ていいですよ
  1071. いろは: あ、すみません…
  1072. 静香: もしもし、いろはさん?
  1073. 静香: さっき荷物を送ったんだけど 届いたかしら?
  1074. いろは: あ、今ちょっと外にいて… 荷物ってなんですか?
  1075. 静香: 前にみかづき荘で お世話になったでしょ?
  1076. 静香: そのお礼に、野菜や魚… 霧峰村の名産を送ったの
  1077. 静香: かなりの量だからご近所に 配ったりして食べてね
  1078. いろは: え、そんな… ありがとうございます!
  1079. いろは: あ、そうだ…!
  1080. いろは: パーティーを開こうとしていること もし実現できたら静香ちゃんにも来て欲しいこと そして、頂いた食材をそのパーティーに 使ってもいいかということを 静香ちゃんに聞いてみた
  1081. 静香: 全然いいわよ! 私、宴って大好き!
  1082. 静香: それに、いろんな人に集落の 食材を食べてもらいたいもの
  1083. 静香: むしろ母様に 頼んで追加で送るわ!
  1084. いろは: 感謝するために開くはずなのに なんだかごめんね…
  1085. 静香: いいのよ、困ったときは お互い様って言うでしょ?
  1086. 胡桃 まなか: 食材が…などと お話が聞こえてきましたが…
  1087. いろは: はい、お友だちが食材を たくさん送ってくれるみたいで!
  1088. 胡桃 まなか: それは頼もしいですね!
  1089. 胡桃 まなか: さっそくお父さんに 交渉してみるので
  1090. 胡桃 まなか: ちょっと待ってていただけると!
  1091. 胡桃 まなか: 宣伝してもらえるならとのことで はりきってました!
  1092. いろは: よかった…! ありがとうございます!
  1093. 胡桃 まなか: こちらこそ、あんなに嬉しそうな お父さんは久々に見るので!
  1094. ピロン♪
  1095. ピロン♪
  1096. いろは: わ…!
  1097. やちよ: どうしたの?
  1098. いろは: 静香ちゃんが那由他さんと 紅晴さんに話してくれたみたいで
  1099. いろは: ふたりも、食材のことを 協力してくれるみたいです!
  1100. 胡桃 まなか: たくさん料理を作れそうで わくわくしてきますね!
  1101. いろは: 胡桃さんの助けにもなれば って思って始めたのに
  1102. いろは: 結局、みんなの力を 借りちゃってるけど…
  1103. 南津 涼子: そりゃあ、あんたがそんだけ 人のことも助けてるってことだろ
  1104. 南津 涼子: あんたが積んだ徳の報いが 現れてるんじゃねえか?
  1105. 南津 涼子: たとえば あたしはあんたに助けられた
  1106. 南津 涼子: もう少しで罪のねえやつを とっ捕まえるとこだったからな
  1107. 南津 涼子: だから、あたしは あんたに恩返しをする
  1108. 南津 涼子: ここまで乗った船でもあるし 宴の準備は手伝うつもりだ
  1109. 南津 涼子: きっと、あたしみたいに あんたから助けられたやつが
  1110. 南津 涼子: 周りに大勢 いるってことだろうよ
  1111. 南津 涼子: 縁ってのは 巡っていくもんだからな
  1112. やちよ: そうね…いろはが神浜市で いい出会いをしている…
  1113. やちよ: その証拠じゃない?
  1114. いろは: そうだといいな…
  1115. いろは: 縁が巡る…その言葉は 幸せをもらったから、誰かに幸せを与えたい… そう思う私の胸にすとんと腑に落ちた気がした
  1116. いろは: 誰かにもらった幸せを、また誰かに渡す そうして縁を、幸せを巡らせていけば きっとみんなが幸せになれると思うから
  1117.  
  1118. FILENAME: text_517120-5_rJz0C.txt
  1119. いろは: 結局、いろいろな人の力を借りながら 迎えたパーティーの当日…
  1120. いろは: みんなを笑顔にできるのか もらった幸せを返せるのか そんな不安と、純粋な楽しみでどきどきしていた
  1121. いろは: うい、そっちは写真飾れた?
  1122. うい: うん、ばっちりだよ!
  1123. 御園 かりん: アルバムの写真を飾ってるの? すっごくいい案だと思うの!
  1124. いろは: みんなで思い出を振り返れたら いいかなって思って
  1125. さな: 本当に、いろんなことが ありましたもんね…
  1126. 十七夜: 配膳するものは他にあるか?
  1127. いろは: おふたりにも手伝っていただいて すみません…
  1128. 牧野 郁美: 気にしないでいいよぉ くみの事業も軌道に乗ってきたし
  1129. いろは: え、そうなんですか!?
  1130. 牧野 郁美: ふふ、後でちょっとした サプライズがあるからね♪
  1131. 鶴乃の声: あ、いろはちゃーん!
  1132. 鶴乃: いやあ、声かけてくれて ほんとに助かったよー!
  1133. いろは: こちらこそ料理を手伝って もらっちゃって…
  1134. 鶴乃: ううん!まなか先生に いろいろ教えてもらっててね
  1135. 鶴乃: 中華料理と洋食のコラボ なんかも思いつきそうなんだ!
  1136. 胡桃 まなか: まなかとしても、鶴乃さんの お話はとても参考になります
  1137. 胡桃 まなか: 地域と密着しつつSNSで 情報共有…広報が素晴らしいです
  1138. 莉愛の声: SNSアカウント…なら 作っておいたわよ
  1139. 胡桃 まなか: お、先輩 仕事が早いですね!
  1140. 胡桃 まなか: って…こういうときくらい 表に出てきたらどうです?
  1141. 静香の声: こんにちは~
  1142. いろは: あ、みんな来ましたね…!
  1143. いろは: 『みなさん、今日は 集まっていただき、ありがとうございます!』
  1144. いろは: 『神浜市に来てからいろんな人に支えられて その感謝を伝えたいと思って開いた会ですが 結局、この会を開けたのもみなさんに 助けて頂いたおかげで…』
  1145. いろは: 『もらった幸せのぶんだけみなさんにも 幸せな気持ちになってもらえたら とっても嬉しいです…!』
  1146. いろは: えっと… それでは、かんぱい!
  1147. みんな: 「かんぱーい!」
  1148. 木崎 衣美里: この料理やば! 激うまなんだけど!
  1149. 綾野 梨花: ほんとヤバ! 三ツ星シェフって感じじゃん!
  1150. 綾野 梨花: 見た目もすごい可愛くて 映えって感じだし!
  1151. 胡桃 まなか: ふふ、そうでしょうそうでしょう こちらもおすすめですよ!
  1152. 胡桃 まなか: SNSへの投稿をして頂ければ 次回クーポンをプレゼントです!
  1153. 静香: それで、ふたりは家族と 今はどんな感じなの?
  1154. いろは: あ、私も気になります
  1155. 結菜: …私は、ストレス発散に ボクシングジムに通ってるわ
  1156. いろは: ボクシング!?
  1157. 静香: ケンカのために!?
  1158. 結菜: 違うわよ…直接言い合うのは 効果的でもストレスが溜まるから
  1159. 結菜: 発散できればと思って 通い始めたんだけど…
  1160. 結菜: そのボクシングジムに 面白い子がいてねぇ…ふふ
  1161. 結菜: 最近、学校を辞めた子で なかなかに問題児らしいんだけど
  1162. 結菜: 現役ボクサーの父親と一緒に 指導する姿が熱くてねぇ
  1163. ???: オイ、結菜ァ! まだまだへばってねえよな!?
  1164. ???: そのストレス、最後まで 燃やし尽くせんだろ!?
  1165. 結菜: とんでもない子だけど 面白いのよねぇ
  1166. 那由他: で、私のパパも定期的に 鍛えてもらってるんですの
  1167. 静香: 学者のお父様よね…?
  1168. 那由他: パパは気が弱いので… 筋肉で自信を持たせるんですの!
  1169. ???: オッサン! まだまだいけんだろ!?
  1170. 那由他の父: ま、まだまだ… やれるさ…!
  1171. 那由他: ママには言い返さないですけど はつらつとしてきたんですの
  1172. 那由他: 静香さんの方はどうなんですの?
  1173. 静香: 私はね、あれから勉強して… ほら見て!
  1174. 静香: 時女集落を紹介するサイトを 作ってみたのよ
  1175. あなたは時女集落の 134人目のお客様です! キリ番をゲットした方は…
  1176. 結菜: これ…参考にした資料が ちょっと古いんじゃない?
  1177. 静香: そう? まだ改良が必要みたいね
  1178. いろは: それからも、入れ替わりでいろんな人が お店に来ては、私のところに話にきてくれて みんなの近況を聞くことができたの
  1179. 御園 かりん: みんなのアドバイスのおかげで やっと漫画を描き終えたから
  1180. 御園 かりん: 即売会ってとこで売ってみるの! 目指せ、壁サーなの!
  1181. 御園 かりん: そこで環先輩にお願いなの!
  1182. 御園 かりん: 魔法少女のコスプレで 売り子をして欲しいの!
  1183. 御園 かりん: アリナ先輩に頼んだら、3日間 口をきいてもらえなかったの…
  1184. さな: 実は…こねこのゴロゴロ みたいな人形を
  1185. さな: 作る仕事がしたくって 勉強を始めたんです
  1186. さな: いつか、私みたいな ひとりぼっちの子に
  1187. さな: 私が作ったもので 手を差し伸べられたら…
  1188. さな: そう思えたのは、きっと みかづき荘にいたおかげです
  1189. 鶴乃: 万々歳のウェブCMが すっごいバズっちゃって!
  1190. 鶴乃: これも、やちよさんが CMに出てくれたおかげだよ!
  1191. 鶴乃: ここで得た新規顧客を 今後も定着させるために
  1192. 鶴乃: お姉ちゃんと新規メニューとかの 企画をしてるからお楽しみに!
  1193. やちよ: CMに出てからオファーが いくつか来るようになって…
  1194. やちよ: いろいろ考えてみたんだけど 少し受けてみようと思うの
  1195. やちよ: 阿見さんにも 後押しされちゃったからね
  1196. やちよ: もちろん下宿の仕事は続けるし 兼業として、だけど
  1197. ももこ: 今度デートに行くんだけど デートなんてアタシ初めてで…
  1198. ももこ: なんもわかんないから少女漫画で 勉強してみたんだけど
  1199. ももこ: その…手、とか繋ぐんだろ?
  1200. ももこ: あた、アタシ…手とか… 手つなぐとか、したことなくて
  1201. ももこ: ねえ、いろはちゃん!!
  1202. ももこ: ちょっと一回、手を繋ぐ練習に 付き合ってくれないかな…!?
  1203. ももこ: いや、そういうことじゃないか! どうしよう混乱してきた…!
  1204. かえで: 宝くじが当たってね 家を引っ越すことになったの
  1205. かえで: 日当たりのいい場所だから 家庭菜園も続けられそうなんだよ
  1206. かえで: そんなに遠くないから 転校はしなくていいんだけど
  1207. かえで: 一緒に登校できなくなるのは ちょっと寂しいね…
  1208. かえで: あ、でも工事中は みかづき荘にお世話になるから
  1209. かえで: その間、よろしくね~
  1210. 牧野 郁美: さっき言ってたサプライズだけど アイドル事務所を設立したんだ
  1211. 牧野 郁美: で、いま働いてるメイドカフェと 提携してライブを開いたりするの
  1212. 牧野 郁美: それでぇ、後輩ちゃんたちは もちろんなんだけど
  1213. 牧野 郁美: レナちゃんもアイドルユニットに 加わることになったんだぁ♪
  1214. レナ: …レナ、前から 変わりたいって思ってたから
  1215. レナ: アイドルになったら、なんか 変われたりするのかもって…
  1216. 十七夜: 自分もメイドと兼業で歌って踊る なぎたんになる予定だ
  1217. 観鳥 令: で、私はそんなみんなの 専属カメラマン兼マネージャー
  1218. 観鳥 令: 正式に働けるのは高校生から だから、今は見習いだけどね
  1219. 牧野 郁美: 写真もだいぶ上手になったもんね
  1220. 観鳥 令: うん、だから牧野チャンの ファースト写真集は
  1221. 観鳥 令: 絶対に私が撮るからね ちなみに水着とかはNGだよ
  1222. 十七夜: ふっ、厳しいマネージャーに なりそうで心強いな
  1223. いろは: これだけじゃない…
  1224. いろは: 衣美里ちゃんは大人っぽくなるために 梨花ちゃんとボランティアをはじめて その梨花ちゃんは竜真館の子と意気投合して 薙刀を習い始めたらしい
  1225. いろは: それに、笠音さんはSNSで仲間を集めて ボードゲームの自主制作を始めたみたいで 智珠さんに至っては、ゲーム好きが高じて レトロなゲームセンターを保護するために Dotuberとして資金を集めているらしい
  1226. いろは: 他にも、涼子さんとさくやさんは あれからなんだかんだと仲良くなって 今では毎朝一緒に走り込みをしているみたい
  1227. いろは: レナちゃんの話とか… 驚く報告も多かったけど 今を語るみんなは幸せそうで なんだかすごく嬉しかったんだ
  1228. いろは: それじゃあ、そろそろ いい時間ですし…
  1229. いろは: 最後にみんなで写真を 撮りましょう
  1230. いろは: 『それじゃあ、撮りますよー』
  1231. いろは: 『はい、チーズ』
  1232. パシャッ
  1233.  
  1234. FILENAME: text_517120-6_rJz0C.txt
  1235. いろは: パーティーから何日か経っても なんだかずっとふわふわした気持ちでいた
  1236. いろは: 結局、幸せそうなみんなに 私が幸せををもらうことになったけど…
  1237. いろは: でもそれは、お互いに 幸せだってことだからいいことなのかもしれない
  1238. いろは: もっと与える側でいられたら嬉しいけど 今は、このままでも…
  1239. いろは: (また、ああやって みんなで集まれたらいいなぁ)
  1240. いろは: だけど、そんな幸せは長く続かなくて
  1241. 環さん、ちょっといいかしら 病院からご連絡が…
  1242. その、里見灯花さんの お父様だと…
  1243. うい: お姉ちゃん…!
  1244. いろは: うい…! 灯花ちゃんとねむちゃんは?
  1245. うい: 早く治そうと無理したみたいで 急に容体が悪化したって…
  1246. うい: …どうしよう…ふたりが 死んじゃったら…わたし…
  1247. いろは: …っ、大丈夫… 大丈夫だよ、うい…
  1248. 灯花の父: あぁ、ふたりとも… まだいてくれたんだね
  1249. うい: と、灯花ちゃんたちは…
  1250. 灯花の父: なんとか一命は取り留めた
  1251. うい: よ、よかった…うぅ…
  1252. いろは: うん…よかった… よかったね…
  1253. いろは: 改めて思ったんだ… 何もない日常がどれだけ尊いか 生きていてさえくれれば、それでいいんだって
  1254. いろは: 大切な人たちが笑顔で生きている ただそれだけのことが、どれだけ大切か いつも通りが、どんなに大事なのか 痛いほど、思い知らされた
  1255. いろは: …うい、少し落ち着いた?
  1256. うい: …うん、ちょっとだけ
  1257. いろは: …そうだ、少し遠回りして 甘いものでも買って帰ろうか
  1258. うい: …なんだか、甘いものって 気分にもなれないね…
  1259. いろは: うん…そうだね… 今日はこのまま帰ろうか
  1260. 「ねー今日のアイツの顔見た?」 「それな、言いたいことあんなら言えって感じ」 「でも、すぐ黙るしつまんないんだよねー もうそろ飽きてきたかもーギャハハ」
  1261. 「オイ、ババァどこみて歩いてんだ気ィつけろや」 「す、すみません…」
  1262. いろは: (この町って…こんなに 嫌な感じだったっけ…)
  1263. いろは: (悲しい気持ちになる町 …だったっけ…)
  1264. 「次に… 南凪区の路上で、高校3年生の女子生徒が 車にはねられ大けがをしました この事故で警察は、車を運転していた男を 酒気帯び運転の疑いで逮捕しました」
  1265. 「警察によりますと、けがをした女子生徒は 近くにいた男の子を助けようとして はねられたとみられ…」
  1266. いろは: (違う…元からこうだった)
  1267. いろは: (ただ、嫌なところを 見ないようにしてただけ…)
  1268. いろは: いろんな幸福があるのと同じように いろんな不幸がある
  1269. いろは: あそこにいるおじいさん…大荷物で 困ってるけど誰ひとり気にしてない…
  1270. いろは: 違う…それだけじゃない みんな、他人に無関心で、見てないんだ …それは、今まで見えていなかった私も同じ…?
  1271. うい: お姉ちゃん…大丈夫? 顔色悪いみたいだけど…
  1272. いろは: (なんだろう… 胸騒ぎがする…)
  1273. うい: お姉ちゃん…?
  1274. いろは: あ、ごめんねうい… 早く…帰ろっか…
  1275. ドンッ
  1276. うい: わ、なんかすごい音が…
  1277. 「きゃああぁあああ!」
  1278. いろは: え…いったい…何が…
  1279. 「ビルの上から人が…!路地裏に落ちたぞ」 「女の子が…だ、誰か救急車!」 「巻き込まれた人はいないみたいだけど これじゃあ救急車を呼んだところで…」
  1280. いろは: あ…あ…ぁ… あの…人…
  1281. いろは: 人混みの向こう、路地裏の奥… 見えたのは真っ赤な血だまりと その中に倒れている同じ制服の女の子 そして、その子は見たことのある子だった
  1282. うい: お姉ちゃん…どうしたの?
  1283. いろは: …っ、うい! 見ちゃダメ…!
  1284. うい: あ…
  1285. 「え…あれアイツじゃない…?マジかよキツ」
  1286. いろは: …………
  1287. いろは: 聞こえた言葉の悪意に目まいがした 自分がどれだけ優しい世界で生きていたのか どれだけ、他の世界を知らなかったのか
  1288. やちよの声: いろは!ういちゃん!
  1289. いろは: ショックで動けなくなっていたところに たまたま買い物に出かけていた やちよさんとさなちゃんが来て 私たちは、支えられながら家に帰った
  1290. いろは: 帰りながら、ふたりが何を話してたのか 何を言っていたのか、何も聞こえなくて ただ脳裏には真っ赤な景色が焼きついていた
  1291. やちよの祖母: お茶をいれてきたけど 飲めそうかい…?
  1292. いろは: …はい
  1293. やちよ: 灯花ちゃんたちは何とか 助かったみたいだけど…
  1294. さな: はい…あんな光景 見ちゃったら…
  1295. うい: うっ…わたし ちょっとトイレに…
  1296. やちよの祖母: 私がついていくよ …ういちゃん、行こう
  1297. いろは: どうして…
  1298. いろは: 灯花ちゃんやねむちゃんみたいに 生きたい人だっているのに…
  1299. いろは: 自分から…なんて
  1300. さな: …そう思ってしまうような 環境が悪いんです…
  1301. さな: 絶対、そんなことないのに それしか解決方法がないって
  1302. さな: その人は、いじめられて 思ってしまったんですね…
  1303. いろは: そう、いじめ…私、同じ学校で あの子に会ったこともあるのに
  1304. いろは: 私…助けられなかった いじめなんて、知らなくて…
  1305. いろは: なんにも見えてなかった 嫌なこと、不幸なこと…
  1306. やちよ: あなたは転校生なんだし クラスも違えば気づけないわ
  1307. やちよ: それに、自分の周り以外が 見えないなんて
  1308. やちよ: その歳じゃ普通のことよ
  1309. やちよ: 中学生の女の子が、そんなに 目線を高くする必要はないの
  1310. やちよ: そもそも それはあなたの役目じゃない
  1311. やちよ: 教師…大人たちの仕事よ あなたは気負わなくていいの
  1312. やちよ: …だから 自分を責めたらダメ
  1313. いろは: …………でも
  1314. やちよ: …今日は早く寝なさい
  1315. やちよ: 明日は学校も お休みしていいと思うわ
  1316. いろは: …わかりました
  1317. いろは: 眠ろうと目を瞑っても、眠れなかった 頭の中をぐるぐる回り続ける光景が こびりついて、消えなくて…
  1318. いろは: 私は、あの子に何ができたんだろう あの子だけじゃなく、今まで見てこなかった たくさんの人の不幸に 私は、いったい何をすればよかったんだろう
  1319. いろは: どうしたら、みんなが幸せになれるの? 誰も泣かない世界であればいいのに
  1320. いろは: もしも、あの子に会ったときに声をかけていたら もしも、いじめに気づけていたら もしも、もしも、もしも…
  1321. いろは: 叶いもしない「もしも」を数えては 辛くなって、ただ、朝を待っていた
  1322.  
  1323. FILENAME: text_517120-7_rJz0C.txt
  1324. やちよ: おはよう、いろは 体調はどう…?
  1325. いろは: …すみません、今日は 学校お休みします…
  1326. やちよ: そう…ういちゃんも 今日は休むみたいで
  1327. やちよ: さなが付き添ってくれてるから 心配しないでいいわ
  1328. やちよ: …ほら、あの子はいま オンラインで勉強してるから
  1329. いろは: すみません… ありがとうございます
  1330. いろは: …私、ちょっと歩いてきます なんだか、落ち着かなくて…
  1331. やちよ: …ええ、気をつけて
  1332. いろは: (…あれ、気づいたら こんなところに…)
  1333. いろは: (水名神社…だっけ せっかくだしお参りしていこう)
  1334. いろは: (神様なら… 叶えてくれるかな…)
  1335. いろは: (もう、あんなことが 起きてしまわないように…)
  1336. いろは: …みんなが幸せな 世界になりますように…
  1337. ???: それは、さすがに 無理みが深くない?
  1338. いろは: ――っ!?
  1339. ???: みんなが幸せとか 理想ではあるけどさ?
  1340. いろは: …っ、うぅ… 私だってそれくらい…
  1341. いろは: ただの理想論だってこと わかってるもん…っ
  1342. ???: え、ちょ、ごめんて! 泣かせるつもりはなくって…!
  1343. いろは: 泣き出してしまった私の話を その子、藍家さんはうんうんと 最後まで優しく聞いてくれた
  1344. ひめな: なるほどねー、まぁ いろりんは優しい子なんだね
  1345. いろは: ううん…あ、それより私 お参りの邪魔を…!
  1346. ひめな: あ、いーっていーって
  1347. ひめな: 人のお参りにちゃちゃを 入れたのは私チャンなんだから
  1348. ひめな: ていうか、この神社恋愛成就とか 縁結びでも有名だからさ
  1349. ひめな: 歳近そうだし、そっち系の 願いだと思ってたんだよね
  1350. いろは: そうなんですか?
  1351. ひめな: そっ、ここの神社には ある伝説があってね…
  1352. ひめな: 「昔、身分違いの恋をしたふたりがいたんだけど 身分の低かった男の方は殺されちゃって… 悲しんだ女の人は神様にお祈りしたんだって」
  1353. ひめな: 「どうか大好きなあの人に もう一度会わせてください…って」
  1354. ひめな: そしたら幽霊になった恋人に 再会できたーとかなんとかってね
  1355. いろは: そんな伝説が…
  1356. いろは: じゃあ、藍家さんは 恋愛のお願いを…?
  1357. ひめな: そ、周りが相手を理解せずに 受け入れなかったから招いた悲劇
  1358. ひめな: そんな物語に シンパシー感じちゃってさ
  1359. ひめな: 世の中、ほんとそんな話ばっか…
  1360. ひめな: いろりんが言ういじめも不幸もさ ぶっちゃけ似たようなもんでしょ
  1361. ひめな: どうしてみんなお互いを理解して 受け入れようとしないんだろ…
  1362. ひめな: 神浜市って東西の格差… みたいなのがあるんでしょ?
  1363. いろは: はい…私は 話でしか知りませんけど…
  1364. ひめな: 「噂だけど、少し前にそれが原因で 学校で突き落としたとか突き落とされたみたいな そういう事件があって 当事者のヤクモさんって人が自殺未遂したとか」
  1365. ひめな: 「本当、人間てサイアク… 生まれた場所とか家柄とか見た目とか性格とか… それって見えてる一面でしかないわけじゃん?」
  1366. ひめな: 「なのに、それで他人を見下していじめとか マジで馬鹿げてるし それで相手が死ぬかも、とか アイツらは何とも思ってないんだよ」
  1367. ひめな: 「なんなら、いじめてるつもりなかったーとか あと、見て見ぬ振りするやつだっているじゃん」
  1368. ひめな: 「見えてるひとつのことだけじゃなくてさ もっと他のところとか、お互いに知ろうとして 少しだけ歩み寄って…そうしたらさ」
  1369. ひめな: そうしたら…ヒコ君だって 本当はすごいって…
  1370. いろは: …?
  1371. ひめな: ああゴメン、熱くなっちゃった
  1372. ひめな: ヒコ君ってのは私チャンの 彼ピでね、マジ最高なの★
  1373. いろは: あ、その人のことで ここに…
  1374. ひめな: ………… まー…さ、いろりん
  1375. ひめな: 多分ね、みんなが幸せなんて きっと一生無理だよ
  1376. いろは: …………
  1377. ひめな: それでも、いろりんは その未来を望むの?
  1378. いろは: …はい、たとえ理想論でも みんなの幸せを求めたい
  1379. いろは: 笑顔でいて欲しいし 幸せでいて欲しい…
  1380. いろは: その理想を諦めたくないんです
  1381. ひめな: なら、私チャンは応援するよ
  1382. ひめな: 私チャンだってね、みんなが ちゃんと理解し合えたら…
  1383. ひめな: そんな未来があるんなら 幸せだって思うから
  1384. いろは: …はい
  1385. ひめな: とりま、いろりんが 落ち込んでても仕方なくない?
  1386. ひめな: 後ろ向いてもしょうがないし
  1387. ひめな: 前向くしかないっしょ キャハッ★
  1388. いろは: 確かに…そうですね…! 私、目が覚めました
  1389. ひめな: 元気が出たなら とりまオッケー!
  1390. いろは: はいっ
  1391. ひめな: …私チャンさ、近いうちに でっかいことやろうと思ってんの
  1392. ひめな: ヒコ君と私チャン ふたりだけの幸せのために
  1393. いろは: …?
  1394. ひめな: だから、見てて それから私チャンを忘れないでね
  1395. いろは: 忘れたりしませんし また会って、お話したいです
  1396. ひめな: …………
  1397. ひめな: んじゃ、これ私チャンの 連絡先、登録しといて
  1398. ひめな: でっかいこと 成功したら報告するから
  1399. いろは: …わかりました 報告、待ってますね
  1400. ひめな: そんじゃ、お参りして帰るわ
  1401. ひめな: きっと、私チャンがすること みんな許してくれないから
  1402. いろは: え…それってどういう?
  1403. ひめな: 「ママも、先生も、いろりんも 神様だって、きっと許してくれない よくないことだって、私チャンもわかってる… それでも、これが私チャンの一番の幸せだから」
  1404. ひめな: そんじゃあね★
  1405. いろは: 許してもらえない… もしかして、駆け落ちとか…
  1406. いろは: …藍家さんも 頑張るみたいだし
  1407. いろは: 私も頑張らなきゃ
  1408. いろは: だけど… 誰だって、幸せでありたいのは同じはずなのに お互いを理解できないのなら… それなら、どうやったら理解し合えるんだろう
  1409. いろは: やちよさんたちにも聞いてみて考えよう
  1410.  
  1411. FILENAME: text_517120-8_rJz0C.txt
  1412. いろは: 藍家さんと会って何日か経った頃 彼女からの連絡はないまま インターネット上では、ある異変が起きていた
  1413. さな: …なに、これ…
  1414. いろは: さなちゃん、どうしたの?
  1415. さな: なんか、SNSがひとつの投稿で 埋め尽くされていて…
  1416. さな: 複数のアカウントから 一斉に投稿されてるみたいです…
  1417. やちよ: ………… いじめの告発文?
  1418. いろは: そこに書いてあったのは ひとりの男の子を死へと追いやったいじめの全容 関係した生徒の実名、顔写真、いじめの手口 それに対する学校側のずさんな対応…
  1419. いろは: それだけでも驚いたけど 私を驚かせたのは 告発文とは別にあったメッセージ
  1420. そんなわけだから 彼を殺したやつらは 生きて、苦しみ続けてください
  1421. 加害者にも人生がーとか そんなの私は認めないよ だってヒコ君は人生丸ごと奪われたんだもん
  1422. 仮に社会が、法が許しても私は許さない 恨み続けるから、忘れないでね
  1423. 私チャンは、一足先に この世界とはサヨナラするから バイバイ
  1424. 藍家ひめなより
  1425. いろは: 藍家さん…!? 許されないって…これ…!
  1426. やちよ: え、知り合いなの… でも、この内容って…彼女…
  1427. ピロン♪
  1428. いろは: …藍家さんから! 動画が…!
  1429. ひめな: 「この動画を見てるってことは 私チャンはもうこの世にはいないってことだよね キャハッ★ こういうのちょっと言ってみたかったんだ」
  1430. ひめな: 「ネットを見たなら大体わかったと思うけど ヒコ君はいじめられて自分で死んじゃったの ちょうど、ここでね」
  1431. ひめな: 「本当なら、すぐに後を追うつもりだったし 何ならいじめてた奴ら全員殺しちゃおーとか ちょっと考えたけど、やめた」
  1432. ひめな: 「だって、一瞬の苦しみだけで許されるなんて そんなのありえないし だったら、証拠を用意してばら撒いて… 一生、人殺しとして 生きながら苦しめばいいって思ったから」
  1433. ひめな: 「でも、いろりんと会ってちょっとぐらついたよ あんなまっすぐにみんなの幸せを願うんだもん いろりんなら、そんな未来を もしかしたら作れちゃうのかも…って 少し、希望を抱いちゃった」
  1434. ひめな: 「だけど、ごめんね やっぱ私チャンの幸せはヒコ君といることなんだ ヒコ君がいない世界じゃ、息ができないから …それなら、これしか道はないっしょ?」
  1435. ひめな: 「…本当はね、ヒコ君と生きていたかった ふたり一緒に大人になって、結婚して いつかママとパパになって… でも、それは叶わない夢なんだよね」
  1436. ひめな: 「だから、幸せな未来は来世の私チャンに託す! いろりんは、それまでに みんなが幸せな未来、準備しておいてよ★ じゃあ、来世でまた会おうね…いろりん」
  1437. いろは: そんなの… 許せるわけないよ…
  1438. いろは: でも…わかってる 前向くしかないんですよね
  1439. さな: …そう思ってしまうような 環境が悪いんです…
  1440. ひめな: とりま、いろりんが 落ち込んでても仕方なくない?
  1441. ひめな: 後ろ向いてもしょうがないし
  1442. ひめな: 前向くしかないっしょ キャハッ★
  1443. いろは: 幸せになりたい気持ちは同じはずなのに 私たちは、みんな違う想いを抱いていて それを互いに理解し合えない
  1444. いろは: わかっていても きっとすぐに解決できるようなことじゃない 子どもの私たちにできることは限られている
  1445. いろは: 藍家さんの、あの告発だって どこまでの影響を及ぼすか…正直わからない
  1446. いろは: この一瞬は、話題になったとしても 何か月か経ったら、きっと世間は忘れてしまう みんなが幸せになるための 根本的な解決にはならない…
  1447. いろは: きっと、藍家さんもそれをわかっているから 私にいつかの未来を託したんだ
  1448. いろは: だから、諦めたくない 藍家さんの想いも背負ったんだから
  1449. いろは: 誰かの幸福も不幸も見られるようになった私なら きっと、ほんとうのみんなのさいわいのために 何かができるはずだから
  1450. いろは: そう、まずは 手が届く範囲から…
  1451. いろは: きっと、動かなければ後悔するから
  1452.  
  1453. FILENAME: text_517120-9_rJz0C.txt
  1454. いろは: まずは、手が届く範囲で できることをしようと決意してから いろんなことをやってみた
  1455. いろは: 衣美里ちゃんたちに紹介してもらって ボランティアに参加してみたり
  1456. いろは: 今までと同じように、みかづき荘で いろんな人の悩みを聞いてみて できるだけ解決まで協力してみたり
  1457. いろは: そうしているうちに、少しずつだけど 同じ想いを持つ人たちが集まって
  1458. いろは: ほんの少し、前よりも 町に優しい雰囲気が広がるようになってきた
  1459. いろは: ただ、それも東西問題やいじめのような 大きな問題には影響がなくて 本当に身の回りの小さなことだけだったけど 大きな進歩だった
  1460. いろは: 困っている人には積極的に声をかけ 周りをよく見るようになって…
  1461. いろは: そんなとき、あの子に出会ったの
  1462. いろは: (あの子、うずくまって どうかしたのかな…)
  1463. いろは: …あの、大丈夫?
  1464. ???: …………
  1465. ぐぅぅぅぅ…きゅるる…
  1466. いろは: あ、お腹空いてるの…?
  1467. いろは: 私、お菓子持ってるから よかったら…
  1468. ???: うるせぇんだよ!
  1469. ???: なんなんだよ! オマエもオレを責めんのか!
  1470. ???: 父ちゃんと母ちゃんを オレが殺したから…!
  1471. ???: だからオマエもオレを 施設とかに連れてくのかよ!
  1472. いろは: え…?
  1473. ???: オレに関わんじゃねえ!
  1474. いろは: 待って…!
  1475. ブロロロロロ…
  1476. いろは: (あの子が向かった先 トラックが…!)
  1477. いろは: 『危ないっ!フェリシアちゃん!』
  1478. キキーッ
  1479. ドンッ
  1480. いろは: あれ…私いま…なんで フェリシアちゃん…って
  1481. いろは: それに、どうして生きて…
  1482. いろは: …そっか、私
  1483. いろは: 魔法少女だったんだ
  1484. いろは: この光…
  1485. いろは: 今まで撮った写真が 光ってる…!
  1486. いろは: ああ、そっか… 本当のみかづき荘は…
  1487. いろは: 本当の、私たちは…
  1488. いろは: これは、キモチのみんなと 繋がったことで見えていた
  1489. いろは: 魔法少女たちの想い …だったんだね
  1490. いろは: 『もしも魔法少女にならなかったら』
  1491. いろは: そうなったときに起こりえた ありえたかもしれない日常…
  1492. いろは: みんなの理想と現実…
  1493. ういの声: わたしも見てたよ、お姉ちゃん
  1494. いろは: 今のういは、私と ひとつになってるもんね
  1495. いろは: これは…魔法少女たち ひとりひとりの想い…?
  1496. やちよ: 「魔法少女にならなかったら… 日々、戦いに緊張せずに済んだし もう少し穏やかな性格になってたかもね」
  1497. やちよ: 「もし、おばあちゃんも生きてたりしたら 一緒にみかづき荘を経営して… うん、そういうのも良かったかもしれない」
  1498. やちよ: 「でも、今のみかづき荘も大事だし… 私の日常にみんながいないのは …それは、寂しいわ 誰ひとり欠けてほしくないもの」
  1499. 結菜: 「魔法少女にさえならなければ… 血の惨劇は起こらなかったし 二木市の多くの命が救われたでしょうねぇ…」
  1500. 結菜: 「だから、ならないに越したことは なかったでしょうねぇ…」
  1501. 結菜: 「ただ、プロミストブラッドの仲間は 魔法少女になってから得た大切な仲間たち… 失ったものの方が大きいけれど すべてを否定することはできないわぁ」
  1502. 結菜: 「アオを育てた14年間を想うと、特にねぇ…」
  1503. ひめな: 「魔法少女にならなかったら? いや、無理みが深すぎ…死ぬしかないじゃん キュゥべえが現れないとかマジで有り得ないし 考えたくもないって」
  1504. ひめな: 「だって私チャンの中に ヒコ君がいないとかヤバヤバのヤバだって ぶっちゃけ魔法少女になって後悔とかないし 魔法少女にならない世界とかお節介だから」
  1505. フェリシア: 「オレ、魔法少女になってなかったら みかづき荘のみんながいなかったら… 父ちゃんと母ちゃんのこと きっと受け止めきれなかったと思う…」
  1506. フェリシア: 「それに、魔法少女じゃなかったら いろはたちにも会えてなかっただろ? オレ、そんなのイヤだぞ…」
  1507. 灯花: 「まあ、わたくしたちに関しては 魔法少女にならなかったら すーぐ死んじゃってただろうからねー」
  1508. ねむ: 「うん、これしか道はなかったと思ってるよ」
  1509. いろは: そっか…魔法少女に ならなければって想いもあれば
  1510. いろは: 魔法少女になって 救われた子たちもいる
  1511. いろは: 私たちが見てきたものの中で 救われなかった子たちは
  1512. いろは: 魔法少女になることで 救われた子たちだったんだ
  1513. ういの声: わたしたちも、そうだね
  1514. ういの声: お姉ちゃんが魔法少女に ならなかったら
  1515. ういの声: わたしは生きてなかったもん
  1516. いろは: これは…
  1517. …………
  1518. いろは: …聞こえる、魔法少女たちの 救いを求める声が…
  1519.  
  1520. FILENAME: text_517120-10_rJz0C.txt
  1521. いろは: みんな希望を抱いてる
  1522. いろは: 自動浄化システムが広がって 平和になったあとの未来に
  1523. ラビ: 「那由他様とみかげさんと みんなで、ただ普通に日々を過ごしたい 家庭菜園をしながら、穏やかに…」
  1524. ひめな: 「ネオマギウスのみんなと、そしてヒコ君と ゆっくりでいいから魔法少女のことを 知ってもらって、認めてもらうんだ」
  1525. 結菜: 「ただ静かに…いえ、騒がしい仲間たちと 生死なんて考えないような 普通の学生としての日々を過ごせたら…」
  1526. 静香: 「時女一族の巫としての誇りを胸に 日の本のために生きることは変わらないけど もう少し普通の女の子としての生活もして 仲間たちと一緒に生きていたいわ」
  1527. ういの声: いっぱい聞こえるね 希望の声
  1528. いろは: そうだね…
  1529. いろは: 魔法少女にならなかったら… そう思うことはあっても
  1530. いろは: みんな未来を見てるんだ
  1531. いろは: ―いろは― どれだけ苦しくても、悲しくても たとえ大切な仲間を失ってくじけそうになっても
  1532. いろは: ―いろは― それでも、魔法少女たちは未来を見て ただひたすらに、がむしゃらに
  1533. いろは: ―いろは― 一筋の希望を目指して進みつづけてる…
  1534. いろは: ―いろは― 魔法少女にならなければ あのとき、ああしていたら…
  1535. いろは: ―いろは― 数えきれない「もしも」があっても それでも諦めないのは
  1536. いろは: ―いろは― 希望で終わる未来になるってきっとどこかで信じているから
  1537. いろは: あの「もしも」の世界も たしかに楽しかった…
  1538. ういの声: でも、魔法少女だから できた関係もいっぱいだから
  1539. ういの声: 振り返ると、ちょっと寂しいね
  1540. ういの声: フェリシアさんもみかづき荘に いなかったし…
  1541. いろは: そうだね…うい
  1542. いろは: 魔法少女になって救われた子も 多かったからね
  1543. いろは: 過去に後ろ髪を 引かれることはあるけど
  1544. いろは: それでも私たちが 見るべきなのは未来だよね
  1545. いろは: ―いろは― キモチから、みんなの記憶が流れてくる
  1546. うい: ―うい― 嬉しいことも、悲しいこともあったけど それを含めて今なんだよね
  1547. いろは: ―いろは― うん、みんな私たちに希望を託してくれてる
  1548. いろは: ―いろは― それなら、私にとってのほんとうのさいわいは
  1549. いろは: ―いろは― みんなの希望を未来へと繋ぐことで 希望で終わる未来を紡ぐことなんだね
  1550. いろは: ―いろは― だから うい、userName
  1551. いろは: ―いろは― もう少し、一緒に ついてきてくれる?
  1552. うい: ―うい― もちろんだよ
  1553. userName: ―userName― モッキュゥ!
  1554. いろは: ―いろは― ふふ
  1555. いろは: ―いろは― それじゃあ もしもの世界にはお別れを告げて
  1556. いろは: 私たちは 今を生かした前向きな未来を掴もう
Add Comment
Please, Sign In to add comment