primadog

TBS: Episode 3

Jan 18th, 2013
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Never
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  1. ==Part A==
  2.  
  3. 口恭介の病室
  4. ベッドをリクライニングさせて座っている恭介と、介添川の椅子に腰掛けているさやか。
  5. さやか「はい、これ」
  6. 見舞いに来たさやかから、ヴァイオリンのCDを手渡される恭介。驚きに日を見聞く。
  7. 恭介「うわ、凄い...これネットでも手に入らない廃盤だよ!」
  8. さやか「そ、そうなんだ...たまたま寄ったお店で見かけたんで、買ってみたんだけど」
  9. ベッドサイドのテーブルには、他にもCDのケースが積み上げられている。すべてさやかが買ってきたものである。
  10. 恭介「いつも、本当にありがとう。さやかはレアなCDを見つける天才だね」
  11. さやか「はは、そんな...う、運がいいだけだよ。きっと」
  12. 照れてはにかむさやか。
  13. 恭介はさっそくケースを開けて、CDをポータブルプ
  14. レーャーにセットする。
  15. 恭介「この人の演奏は、本当に凄いんだ。さやかも聴いてみる?」
  16. ヘッドホンの片方だけを嵌めて、もう一方をさやかに差し山す恭介。
  17. さやか「ぃ、いいのかな...」
  18. 恭介「本当はスピーカーで聴かせたいんだけど、病院だしね」
  19. コードの長さの都合で、やや身を寄せ合う姿勢になる二人。内心で照れまくるさやか。
  20. だが山曲が始まると、優しい旋律に心が利まされる。
  21. 優しい旋律に浸るさやか。
  22. x x x
  23. さやか幼少期の記憶。
  24. ヴァイオリンの発表会で楓爽と演奏をしている恭介と、その姿に目を奪われているさやか。
  25. × x x
  26. ふと目を開けるさやか。隣で恭介が静かに泣いているのに気付く。
  27. ベッドの上で力なく投げ出された恭介の左腕。無惨な手術跡。もう二度と演奏のできなくなった指が、演奏の記憶を辿って震えている。
  28. やるせない惣いに、胸が痛くなるきゃか。
  29.  
  30. 口夜の公園(異界化中)
  31. 魔砲からアルティマシュートを放つマミ。
  32. 直撃をくらい、悲鳴を上げて消滅していく使い魔。
  33. それを固唾を呑んで見守るまどかとさやか。
  34. 結界は解かれ、周囲はもとの公園の景色に戻る。マミも変身を解除。ほっと安堵するギャラリー二人。
  35. さやか「やっぱマミさんつてカツコいいね~」
  36. マミ「もう。見せ物じゃないのよ。危ないことしてる、って意識は忘れないでおいてほしいわ」
  37. さやか「いえーす」
  38. 手にした護身用パットを掲げ上げるさやか。
  39. まどか「グリーフシード、落とさなかったね」
  40. キユウべえ「今のは魔女から分裂した使い魔でしかないからね。グリーフシードは持つてないよ」
  41. まどか「魔女じゃなかったんだ...」
  42. さやか「なんか、ここんとこずっとハズレだよねえ」
  43. マミ「使い魔だって放っておけないのよ。成長すれば分裂元と同じ魔女になるから。ーーさ、行きましょ」
  44. × × ×
  45. 静寂を取り戻した夜の公園を、並んで歩くマミ、さやか、まどかとキユウベえ。
  46. マミ「二人とも、何か願い事は見つかった?」
  47. さやか「う~ん、まどかは?」
  48. まどか「う~ん...」
  49. 困リ果てる二人に、苦笑するマミ。
  50. マミ「まあ、そういうものよね。いざ考えろって言われたら」
  51. まどか「マミさんは、どんな願い事をしたんですか?」
  52. まどかが訊いた途端、マミの表情が陰る。やや慌てるまどか。
  53. まどか「いや、あの、どうしても聞きたいってわけじゃなくて、ちょっと気になった、っていうか、その...」
  54. マミ「ううん、いいの。別に隠すほどのことでもないし」
  55. 遠い眼差しで追憶するマミ。
  56. マミ「私の場合はーー」
  57. x x ×
  58. マミの回想。高速道路での大規模な事故。
  59. 潰れた車に閉じ込められて瀕死のマミが、手を差し伸べたその先に、キユウベえの姿がある。
  60. マミoff「ーー考えている余裕さえ、なかったってだけ」
  61. × x ×
  62. 再び現代。夜の公園。マミが語った過去に、ややショックを受けている二人。
  63. マミ「ーー後悔してるわけじゃないのよ。今の生き方も、あそこで死んじゃうよりは余程良かったと思ってる」
  64. マミ「でもね、ちゃんと選択の余地がある子には、きちんと考えた上で決めてほしいの。私にできなかったことだからこそ、ね」
  65. 意を決して、質問をぶつける気になるさやか。
  66. さやか「ねえ、マくさん...願い事つて、自分のための事柄でなきや駄目なのかな?」
  67. マミ「ぇ?」
  68. さやか「たとえばーーたとえばの話なんだけどさ。あたしなんかより、よほど困ってる人がいて、その人のために願い事をするのはーー」
  69. まどか「それって...上条くんのこと?」
  70. さやか「た、例え話だって言ってるじゃんか!」
  71. 慌てるさやかを余所に、冷静に頷くキユウベえ。
  72. キユウベえ「べつに契約者自身が願い事の対象になる必然性はないんだけどね。前例もないわけじゃないし」
  73. マミ「...でも、あまり感心できた話じゃないわ」
  74. やや険しい声で異論を挿むマミ。
  75. マミ「他の人の願いを叶えるのなら、なおのことれ分の望みをはっきりさせておかないと。ーー美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも彼の夢を叶えた恩人になりたいの?」
  76. さやか「...」
  77. マミの言い様に、さすがに憮然と押し黙るさやか。狼狽えるまどか。
  78. まどか「マミさんーー」
  79. マミ「同じようでも全然違うことよ。これ」
  80. さやか「...その言い方は、ちょっと酷いと思う」
  81. マミ「ごめんね。でも今のうちに言っておかないと。そこを履き違えたまま先に進んだら、あなた、きっと後悔するから」
  82. さやか「...」
  83. さやか、しばし押し黙って考え込んでから、深呼吸し、領く。
  84. さやか「...そうだね。あたしの考えが甘かった。ごめん」
  85. きっぱりと謝罪するさやかに、安堵するまどか。マミも笑顔を返す。
  86. マミ「やっぱり、難しい事柄よね。焦って決めるべきじゃないわ」
  87. キユウベえ「僕としては、早ければ早いほどいいんだけど」
  88. ぼやくキユウべえの頭を小突くマミ。
  89. マミ「駄目ょ。女の子を急かす男は嫌われるぞ」
  90. 笑うマミとさやか。まどかも釣られて笑うものの、その胸の内はやや複雑。
  91.  
  92. 口まどかの部屋
  93. 就寝間際、パジャマに着替えてベッドの上でごろごろしているまどか。傍らにはキユウベえ。
  94. 公園でのさやかとマミの問答を思い出し、溜息をつくまどか。
  95. まどか「...やっぱり、簡単なことじゃないんだよね...」
  96. キュゥベえ「僕の立場で急かすわけにはいかないしね。助言するのもルール違反だし」
  97. まどか「ただ、なりたいってだけじゃ、駄目なのかな...」
  98. ノートの落書きの変身プランを眺めるまどか。華麗に戦うマミを思い出し、その姿に自分を重ねて妄想する。
  99. キユウベえ「まどかは力そのものに憧れているのかい?」
  100. まどか「ゃ、そんなんじゃなくて...う~ん、そうなのかな?私ってどんくさいし、何の取り柄もないし、だからマミさんみたいに格好良くて素敵な人になれたら、それだけでもう充分に幸せなんだけど...」
  101. キユウベえ「まどかが魔法少女になれば、マミよりずっと強くなれるよ」
  102. まどか「へ?」
  103. 思わぬ言葉に、狐につままれたかのようなまどか。
  104. キユウベえ「もちろん、どんな願い事で契約をするかにもよるけれど...まどかが生み出すかもしれないソウルジエムの大きさは、僕にも測定しきれない。これだけの素質を持つ子と出会ったのは初めてだ」
  105. まどか「はは...何言ってるのよ、もう。嘘でしょ」
  106. キユウべえ「いやーー」
  107. そこに扉をノックする音。
  108. 知久「まどか、起きてるか?」
  109. まどか「うん?どしたの?」
  110. 知久「ママが帰ってきたんだが...ちょっと手伝ってくれないかな」
  111.  
  112. 口鹿り一家玄関
  113. 上がり枢で、泥酔した詢子が潰れている。
  114. まどか「あー、またか...まったくもう」
  115. やや呆れ気味に苦笑いするまどか。
  116. 詢子「み、水...」
  117. 既に川意しであったコップの水を詢子に飲ませる知久。
  118. 知久「ともかくベッドまで運んで、着替えさせないと。ほら、そっち持ってくれ」
  119. まどかと知久、二人がかりで詢子を肩に担いで、寝室まで引っ張っていく。
  120. 詢子「ぐえええ...このスダレハゲ...呑みたきゃ手酌でやってろっつ、つの...」
  121. 譫言のように愚痴を漏らす詢子。
  122.  
  123. 口両親の寝室
  124. 布団にくるまり、安らかな寝息を立てている詢子。
  125. 一仕事終えた知久とまどか、ほっと一息。
  126. 知久「ココアでも入れようか?」
  127. まどか「うん、お願い」
  128.  
  129. ロダイニングキヴチン
  130. 寝間着姿にガウンを羽織り、テーブルで差し向かいに座ってホットココアを啜る二人。
  131. まどか「なんでママは、あんなに仕事が好きなのかな。昔からあの会社で働くのが夢だったーーなんて、ないよね?」
  132. 知久「ママは仕事が好きなんじゃなくて、頑張るのが好きなのさ」
  133. まどか「...?」
  134. 知久「嫌なことも辛いこともいっぱいあるだろうけど、それを乗り越えたときの満足感が、ママにとっては最高の宝物なのさ。そういう意味で、今の難しくて大変な仕事は、とてもやり甲斐があるんだろうね」
  135. まどか「ママは...満足なのかな、それで」
  136. 知久「そりゃ、会社勤めが夢だったわけじゃないだろうけどさ。それでもママは、理想と思っていた生き方を通してる。そんな風にして叶える夢もあるんだよ」
  137. まどか「...生き方そのものを、夢にするの?」
  138. 知久「どう思うかは人それぞれだろうけどーー僕はね、ママのそういうところが大好きだ。尊敬できるし、自慢できる。素晴らしい人だってね」
  139. まどか「...うん」
  140. 父の笑顔に、表情を和ませるまどか。
  141.  
  142. 口夜道
  143. まどか、さやかと別れて帰路を歩くマミ。ふと背後についてくる気配を感じ、足を止める。
  144. 街灯の光を避けるように、闇の中に佇んでいるほむら。
  145. ほむら「分かっているの?あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」
  146. マミ「彼女たちはキユウベえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」
  147. ほむら「あなたは二人を魔法少女に誘導している」
  148. マミ「それが面白くないわけ?」
  149. ほむら「ええ。迷感よ。...特に鹿目まどか」
  150. マミ、ほむらの真意を見透かし(たと勘違いして)日を細める。
  151. マミ「ふうん...そう、あなたも気付いてたのね、あの子の素質に」
  152. ほむらの眼差しがさらに険しくなる。
  153. ほむら「彼女だけは、契約させるわけにはいかない」
  154. マミ「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられつ子の発想ね」
  155. 内心でかっとなるほむらだが、一旦目を閉じて気持ちを静める。
  156. ほむら「あなたとは戦いたくないのだけれど」
  157. マミ「なら二度と会うことがないよう努力して」
  158. ほむらの側にこの場で仕掛けてくる意図がないと判断したマミは、踵を返す。
  159. マミ「話し合いだけで事が済むのは、きっと今夜で最後だろうから」
  160. 捨て台詞を残して去っていくマミ。ほむらは事態が思うように進まないことに苛立ち、歯噛みする。
  161. ほむら「...」
  162.  
  163. 口封院ロビー(翌日、放課後)
  164. 恭介が入院している病院。さやかの見舞いに付き添って来たまどかが、ペンチでさやかの戻リを待っている。隣にはキユウベえ。
  165. そこで溜息をつきつつエレベーターから降りてくるさやか。
  166. さやか「ょ、お待たせ」
  167. まどか「あれ? ...上条くん、逢えなかったの?」
  168. さやか「なんか今日は都合悪いみたいでさ。わざわざ来てやったのに、失礼しちゃうわよね~」
  169.  
  170. 口病院・訴の駐輪場
  171. 連れ立つて、病院の中庭を横切るまどかとさやか。
  172. ふと気になって、駐輪場の奥にある物置のスペースに目をやるまどか。
  173. そこで何かが怪しく光っている。
  174. まどか「...?」
  175. さやか「ん? どしたの?」
  176. まどか「あそこ、何か...」
  177. 胸騒ぎを感じて、近寄って調べる二人。
  178. そこには、壁に突き刺さるようにして埋まっているグリーフシード。まるで呼吸するかのように光を脈動させている。
  179. キユウベえ「グリーフシードだ...孵化しかかってる!」
  180. まどか「嘘、なんでこんな所に...」
  181. キユウベえ「まずいよ。早く逃げないと。この辺りはもうこいつの魔力に侵食されはじめてる。もうすぐ結界が出来上がる」
  182. さやか「またあの迷路が...」
  183. さやかの脳裏を、かつてマミから聞いた言葉が過ぎる。
  184. x x x
  185. マミ「...それから、病院とかに取り憑かれると最悪よ。ただでさえ弱っている人たちから生命力が吸い上げられるから、日も当てられないことになる」
  186. × × ×
  187. これは断じて見過ごせないと、意を決するさやか。
  188. さやか「まどか、先に行って。マミさんを呼んできて。あたしはこいつを見張ってる」
  189. まどか「そんな!」
  190. キユウベえ「無茶だよ。中の魔女が出てくるまでにはまだ時間があるけど、結界が閉じたら君は外に出られなくなる。マミの助けが間に合うかどうかーー」
  191. さやか「あの迷路が出来上がったら、こいつの居所も分からなくなっちゃ、つんでしょ?」
  192. さやかの脳裂を過ぎる、衰弱した恭介のイメージ。
  193. さやか「放つておけないよ。こんな場所で...」
  194. さやかの決意を察して、頷くキユウベえ。まどかの肩から降りる。
  195. キユウベえ「まどか、先に行ってくれ。さやかには僕がついてる」
  196. まどか「キユウべえ...」
  197. キユウベえ「マミならテレパシーで僕の位置が解る。ここでさやかと一緒にグリーフシードを見張っていれば、最短距離で結界を抜けられるよう、マミを誘導できるから」
  198. さやか「ありがとう。キユウベえ」
  199. まどか「...あたし、すぐにマミさんを連れてくるから!」
  200. 走り去るまどか。さやかとキユウベえの周囲は徐々に異界化し、現実枇界と隔てられていく。
  201. 駐輪場を出る前に、振り返ってさやかたちがいた辺りを見るまどか。そこは既に不気味な静寂に包まれて、誰もいない。
  202. x x x
  203. 病院の屋上に立っているほむら。
  204. 駐輪場から駆け出ていくまどかを、無言で見守っている。
  205.  
  206. ==Part B==
  207.  
  208. 口結界内部
  209. 脈動するグリーフシードを前にして、キユウベえを抱きかかえているさやか。
  210. キユウベえ「恐いかい? さやか」
  211. さやか「そりゃあまあ...当然でしょ」
  212. キユウベえ「願い事さえ決めてくれれば、今この場で君を魔法少女にしてあげることもできるんだけど」
  213. さやか「うん、いざとなったら頼むかも。...でも、今はやめとく。マミさんを待つよ」
  214. 弱気になりそうな自分を奮い立たせようと、深呼吸するさやか。
  215. さやか「あたしにとっても、大事なことだから。...できる』となら、いい加減な気持ちで決めたくない」
  216.  
  217. 口病院袋の駐輪場
  218. マミを連れて再び戻ってくるまどか。
  219. マミ「ここね...」
  220. マミ、魔力で結界の入口を開く。二人の前に晒される異界の迷路。マミはキユウべえにテレパシーで呼びかける。
  221. マミ『キユウべえ、状況は?」
  222. キユウベえ『まだ大丈夫。すぐに孵化する様子はないよ』
  223. まどか『さやかちゃん、大丈夫?』
  224. さやか『へーきへーき。退屈で居眠りしちゃいそう』
  225. キユウベえ『むしろ迂闊に大きな魔力を使って卵を刺激する方がまずい。急がなくていいから、なるべく静かに米てくれるかい?』
  226. マミ『わかったわ」
  227. マミ、変身することなく結界の中へと踏み込む。後に続くまどか。
  228. まどか「間に合って良かった...」
  229. マミ「無茶しすぎ、って怒りたいところだけれど。今回に限つては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃がす心配はーー」
  230. 言いかけて立ち止まり、振り向くマミ。まどかもまた背後を見て息を呑む。
  231. 二人の後から、ほむらが結界に踏み込んでくる。
  232. マミ「...言ったはずよね。二度と会いたくないって」
  233. ほむら「今回の獲物は私が狩る。あなたたちは手を退いて」
  234. マミ「そうもいかないわ。美樹さんとキユウベえを迎えに行かないと」
  235. ほむら「その二人の安全は保証するわ」
  236. マミ「信用すると思って?」
  237. マミ、予め床に仕掛けておいた魔力の網を発動。
  238. 不意を突かれ、網に捕らりわれて動けなくなるほむら。
  239. ほむら「馬鹿ッ...こんなことやってる場合じゃ!」
  240. マミ「もちろん怪我させるつもりはないけど、あんまり暴れたら保証しかねるわ」
  241. 忠行をよそに抵抗するほむら。だが魔力の拘束はますます固く彼女を締め上げる。
  242. ほむら「今度の魔女は、これまでの奴らとはワケが違う!」
  243. マミ「大人しくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる。ーー行きましょう、鹿目さん」
  244. まどか「は、はい...」
  245. ほむら「待て...ぐッ!」
  246. ますますマミの魔力が絞まり、声も出せなくなるほむら。
  247. まどかはその様子を心配げに眺めつつ、マミに促されるままついていく。
  248.  
  249. 口結界迷路の途中
  250. 迷路を徘徊する使い魔たちの背後を、そっと忍び足で通り抜けるマミとまどか。
  251. 何となく沈黙が重くて、マミに声をかけるまどか。
  252. まどか「おの...マミさん?」
  253. マミ「なに?」
  254. まどか「願い事、私なりに、色々と考えてみたんですけど...」
  255. マミ「決まりそうなの?」
  256. まどか「はい。でも、あの、もしかしたらマミさんには、考え方が甘いって、怒られそうで...」
  257. マミ「どんな夢を叶えるつもり?」
  258. まどか、自分なりに思考を整理しようと努めつつ、たどたどしく語りはじめる。
  259. まどか「私って、昔から、得意な学科とか、人に自慢できる才能とか、何にもなくて...きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけていくのかなって...それが嫌でしょうがなかったんです」
  260. マミ「...」
  261. まどか「でも、マミさんと会って...誰かを助けるために戦ってるの、見せてもらって...同じことが、私にもできるかもしれないって言われて...何よりも嬉しかったのは、そのことで...」
  262. 黙って聞いているマミに、勇気を出して告白するまどか。
  263. まどか「だから私、魔法少女になれたなら、それで願い事は叶っちゃうんです。こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって、胸を張って生きていけたら...それが一番の夢だから...」
  264. 先を行くマミは、振り向くことなく問い返す。
  265. マミ「...大変だよ? 怪我もするし、恋したり遊んだりしてる暇もなくなっちゃうよ?」
  266. まどか「でも、それでも頑張ってるマミさんに...私、憧れてるんです」
  267. 立ち止まるマミ。
  268. マミ「憧れるほどのもんじゃないわよ。私」
  269. まどか「...?」
  270. マミの背中を見守るまどか。その肩が震えているのに気付く。
  271. マミ「無理してカッコつけてるだけで、恐くても、辛くても、誰にも相談できないし、独りぼっちで泣いてばっかり。いいものじゃないわよ。魔法少女なんて」
  272. まどか「マミさんはもう独りぼっちなんかじゃないです」
  273. マミ「そうね、そうなんだよね」
  274. 振リ向いて、まどかの手を握るマミ。その日に光る涙を見て、やや驚くまどか。
  275. マミ「本当に、これから...私と一緒に、戦ってくれるの?側にいてくれるの?」
  276. 擦れた声で問、つマミに、やや気後れしつつ、それでもきっぱりと頷くまどか。
  277. まどか「はい。...私なんかで、良かったら」
  278. マミは涙を堪えようとして、無理に照れ笑いを浮かべようとする。
  279. マミ「まいったなあ...まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになあ...やっぱり私、駄目な子だ...」
  280. まどか「マミさん...」
  281. ようやく涙を引っ込めて、笑うマミ。
  282. マミ「...でもさ、折角なんだし、願い事は何か考えておきなよ」
  283. まどか「折角ーーですかね、やっぱり」
  284. 冗談めかしたマミの声に、釣られて笑うまどか。
  285. マミ「契約は契約なんだから、ものはついでと思っておこうよ。億万長者とか、素敵な彼氏とか、何だっていいじゃない」
  286. まどか「いやあ、その...」
  287. マミ「じゃあ、こうしましょ。この魔女をやっつけるまでに願い事が決まらなかったら、そのときはキユウベえに、ごちそうとケーキを頼みましょ」
  288. まどか「け、ヶーキ?」
  289. マミ「そう、最高におつきくて贅沢な、お祝いのケーキ。それでみんなでパーティーするの。私と鹿目さんの、魔法少女コンビ結成記念よ」
  290. まどか「ゎ、私、ヶーキで魔法少女に?」
  291. マミ「嫌なら、ちゃんと自分で考える!」
  292. まどか「ふええ...」
  293.  
  294. 口結界最深部
  295. さやかとキユウべえが見守る眼前で、やおら変形しはじめるグリーフシード。そのおぞましさに息を呑むさやか。
  296. キユウべえ「マミ! グリーフシードが動き始めた!孵化が始まるーー急いで!」
  297.  
  298. 口結界迷路の途中
  299. キユウべえからのテレパシーを受けて、頷くマミ。
  300. マミ「オツケー、わかったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ!」
  301. まどか「わわ、そんなーー」
  302. 魔力を抑える理由のなくなったマミは、魔法少女スタイルに変身。
  303. まどかの手を引いて、疾風のように結界の迷路を駆け抜ける。
  304. 今更ながらマミたちの存在に気付く使い魔たちだが、勢いづいたマミの魔力で片っ端から吹き飛ばされていく。
  305. マミM 『身体が軽いーーこんな幸せな気持ちで戦うなんて
  306.  
  307. 初めて』
  308. 切迫した状況にも拘わらず、微笑みを浮かべているマミ。
  309. その笑みに勇気づけられたまどかも、マミの視線に微笑を返す。
  310. マミM 『もう何も恐くない。私ーー独りぼっちじゃないもの!』
  311.  
  312. 口結界最深部
  313. 孵化中眼前のグリーフシードから後退るさやかとキユウベえの前に、使い魔たちを蹴散らしながら駆け込んでくるマミとまどか。
  314. マミ「お待たせ!」
  315. さやか「ふう...間に合ったあ」
  316. キユウべえ「気を令けてーー出てくるよ!」
  317. グリーフシード、孵化。現れ出る異形の魔女。
  318. だがマミはまどかたちを庇いつつ、いつにない気迫で身構える。
  319. マミ「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」
  320. マミ、魔力の投網を発動。先手を打たれていきなり縛り上げられる魔女。
  321. そのままマミは魔銃を魔砲へと変形させ、発射態勢に。
  322. さやか「ゃったーー」
  323.  
  324. だが今回の魔女は身体が伸縮自在な構造だった。いきなり伸び上がった首から先が、ちょうどマミの頭を丸呑みするほどに顎を拡げて、覆い被さってくる。
  325. マミ「ーーえ?」
  326. 信じられない、といった表情で硬直するマミ。
  327. 恐怖に目を見開くまどかとさやか。
  328.  
  329. 口結界入口付近
  330. マミの緊縛魔術に縛られていたほむら。
  331. だがふいにマミの魔力が消失し、拘束から解放される。
  332. ほむら「まさか...ッ!」
  333. 痛恨の面持ちで舌打ちするほむら。
  334.  
  335. 口結界最深部
  336. 糸が切れた人形のように倒れ伏すマミの身体。(実は頭が無くなっているのだがアングルで誤魔化す方向で)
  337. その上に、自由になった魔女の巨体が覆い被さり、隠す。
  338. 肉と骨を附み砕き、呑み込む音。
  339. まどかとさやかは恐怖のあまり固まって、目を逸らすことも、悲鳴を上げることもできない。
  340. キユウベえ「二人ともーー今すぐ僕と契約を!」
  341. 叱陀するキユウベえ。聞こえていても反応できない二人。
  342. キユウベえ「願い事を決めるんだ! 早く!」
  343. マミの骸を食べ終えて、顔(?)を上げる魔女。その眼がまどかとさやかを見据える。
  344. まどか「あ...」
  345. 死を覚悟する二人。
  346. キユウベえ「まどか! さやか!」
  347. ほむら「ーーその必要はないわ」
  348. 掠み上がった二人を背に庇って、魔女の前に立ちはだかるほむら。
  349. ほむら「こいつを仕留めるのは、私ーー」
  350. ほむら、変身シークェンス。魔法少女スタイルに。
  351. 予想だにしなかった救援に、呆然となるまどかとさやか。
  352. 魔女はマミのときと同様に、一瞬で伸縮する身体でほむらを捕らえようとする。
  353. だがほむらは瞬間移動したかのように別の位置に。代わりに魔女が捕まえたのは起爆寸前の爆弾である。触手を吹き飛ばされ、絶叫する魔女。
  354. ほむらは次々と瞬間移動を繰り返し、そのたびに次から次へと出現する置き土産の罠にひっかかり、一方的に翻弄される魔女。(ほむらは得意の時間静止魔術を駆使しているのだが、見守っているまどかやさやかには理解できない)
  355. 華麗だったマミの戦闘スタイルとに違い、冷附かつ無駄のない戦略。全く違う次元の魔法戦闘を見せつけられるまどか。
  356. ほむら「...ふん」
  357. 最後に何事もなかったかのように鼻を鳴らして、いきなり変身を解除するほむら。まどかたちの方に向き直る。
  358. ほむら「命拾いしたわね、あなたたち」
  359. さやか「なーー」
  360. ここぞとばかりに襲いかかる魔女。だがその周囲は、既に必殺の罠で完全に包囲されている。
  361. 背を向けたほむらの背後で、とどめを刺され、絶叫とともに出消滅する魔女。
  362. ほむら「目に焼きつけておきなさい。魔法少女になるって、そういうことよ」
  363. 半泣きになりながら、地面の一画(マミの死体がある辺り)を見つめているまどかとさやか。
  364. 魔女が消滅したことで、結界もまた消えていく。周囲は再び、もとの駐輪場の光景に。
  365. 後に残されたグリーフシードを、ほむらが拾い上げる。
  366. それを見て、遣り場のない怒りに駆られるさやか。
  367. さやか「...返してよ」
  368. ほむら「...」
  369. 無言で見つめ返すほむらに、掴みかかるさやか。
  370. さやか「返せよッ!それはーーそれはマミさんのものだ!」
  371. 逆上するさやかを振り払い、そのまま冷ややかな眼差しで見下ろすほむら。
  372. ほむら「そうよ。これは魔法少女のためのもの。ーーあなたたちには触る資格なんて、ない」
  373. 言い放ち、そのまま去っていくほむら。
  374. 後には泣き崩れるさやかと、虚ろな目で立ち尽くすまどかが取り残される。
  375. そしてキユウべえは、絶望する二人ではなく、去っていくほむらの背中を、何やら物思いに耽りながら見送る。
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