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- FILENAME: text_310331-1.txt
- 那由他: すやぁ…もぐもぐ… ふふ…おいしいですの…
- ぷわ…
- 那由他: んん…
- 那由他: …………んん!?
- 那由他: なんなんですの、このにおい!
- ラビ: おはようございます 朝ごはんの納豆のにおいですね
- 那由他: 納豆… 好きですけど…
- 那由他: 起こし方のクセが どんどん強くなってますの
- ラビ: 自分で起きていただければ 私が起こす必要もなくなります
- 那由他: う…その通りなんですの
- ラビ: 早く着替えてくださいね
- 那由他: はいですの…
- 那由他: ふわぁ… いただきますですの…
- ラビ: はい、めしあがれ
- ピンポーン♪
- みかげの声: なーゆーたーん! ラービーたーん!
- 那由他: あら、今日は早いんですのね
- みかげの声: たーすーけーてー!
- ラビ&那由他: ――っ!?
- ラビ: …なるほど
- ラビ: 宿題のウェブ新聞づくりで インタビューの必要があって
- ラビ: それで私の 密着取材をしたいと…
- 那由他: 事情はわかりましたけど 家の前であんな風に叫んだら
- 那由他: 警察沙汰になりかねませんの
- みかげ: あっ、そっか! ごめんね、なゆたん
- 那由他: わかってくれたらいいんですの
- ラビ: …それで どうして私の取材なんです?
- みかげ: 働く人の取材っていうのが テーマなんだけど
- みかげ: よく考えたら、ラビたんのお仕事 ちゃんと見たことないなーって
- ラビ: 私は、那由他様のお世話を しているだけですが…
- みかげ: …ダメ?
- ラビ: …まぁ、那由他様がよろしければ 私はいいですけど
- 那由他: 私は特に、反対するような 理由はありませんの
- みかげ: …じゃあ!
- ラビ: …念のためプライバシーに 留意していただければ
- みかげ: わかった!
- みかげ: …あ、それだと写真と動画って 載せちゃったらまずいかな…
- みかげ: もちろん ウェブ新聞って言っても
- みかげ: クラスの子しか 見られないやつなんだけど…
- 那由他: 顔を映らないようにするとか
- 那由他: あとで加工したら いいんじゃないんですの?
- ラビ: それで構いません
- みかげ: やったー♪
- ラビ: …ということで那由他様
- ラビ: あと15分ほどで 朝食を片づけたく…
- 那由他: え、もうですの?
- ラビ: 早く買い物に行かないと 仕事ぶりも見せられませんし…
- みかげ: なゆたん、はやくはやく!
- 那由他: 私の扱いが雑な気がしますの…
- 那由他: まぁ、いいんですの まずはこの、牛乳を…
- ガタッ
- 那由他: あっ…
- ガチャッ!
- みかげ: あーー! 牛乳、こぼれたー!
- ラビ: とりあえずは 拭き取っておきました
- 那由他: ありがとうなんですの…
- みかげ: 派手にこぼしちゃったね もったいないなー…
- ラビ: 英語のことわざにありますね
- ラビ: こぼれたミルクのことを 嘆いても仕方ない…と
- ラビ: 日本や中国では 「覆水盆に返らず」と言いますが
- 那由他: 残念ですの…
- ラビ: いえ、さっそくひとつ 仕事の技をお見せしましょう
- ラビ: こぼれた牛乳は戻せませんが 有効活用することにします
- ラビ: 棚に古い銀製品が ありましたよね?
- ラビ: 牛乳を古タオルで拭き取って 絞ったものがこちらです
- 那由他: お料理番組のような手際ですの
- ラビ: これに黒ずんだ銀製品を 浸しておけば
- ラビ: 買い物から帰ってくるころには ピカピカになっているはずです
- 那由他: 何でですの!?
- ラビ: ご自分で調べてみてください …そろそろ買い物に行かないと
- パシャッ
- みかげ: ラビたん かっこいい~!
- FILENAME: text_310331-2.txt
- みかげ: ラビたん、何買うの?
- ラビ: 夕飯の材料です 旬の野菜などを…
- みかげ: ふーん
- みかげ: じゃ、ラビたんはいつもみたいに お買い物してていいよ
- みかげ: ミィは勝手に見て写真撮ったり たまーに質問したりするから!
- ラビ: …では、お言葉に甘えて いつも通りにさせていただきます
- ラビ: ですが、那由他様まで お付き合いいただかなくても…
- 那由他: ひとりでお留守番は 寂しいんですの…
- いらっしゃい、ラビちゃん! 今日もいい野菜が入ってるよ!
- ラビ: こんにちは おすすめはなんですか?
- 全部だけど 特に、にんじんが新鮮だね!
- ラビ: では、にんじんと…
- ラビ: それから… ピーマンともやしをお願いします
- 毎度ありっ!
- あ、そうそう 前にラビちゃんが言ってたあれ
- 言う通りにしたら土も野菜も 元気になったって
- 前に家庭菜園の相談をしてきた お客さん、すっごく喜んでたよ!
- ラビ: あぁ、前にお店に来ていた ご夫婦…秋野さんでしたっけ
- ラビ: 喜んでもらえたならよかったです
- ってことで、これは サービスのキャベツね!
- ラビちゃんには ひいきにしてもらってるし
- 畑や土いじりの話も すごくためになってるからね
- ラビ: いえ、そんな… ありがとうございます
- みかげ: ラビたん、野菜とか畑とか 詳しかったんだね!
- ラビ: はい、家庭菜園もやっていますし 祖父が畑を持っていたので…
- 那由他: おじいさまが…? それは初耳なんですの
- ラビ: あ、すみません みかげさん
- みかげ: なーに?
- ラビ: 仕事には関係ないのですが そこの書店に寄ってもいいですか
- ラビ: 珍しくワゴンセールを やっているみたいなので
- みかげ: うん、いいよ! ミィたちもついてくね!
- ラビ: …こんなものですかね
- みかげ: 1、2、3、4冊… ラビたん、そんなに本読むの?
- ラビ: はい 家事の合間などに
- みかげ: それなら、こういうセールって お得だね!
- ラビ: はい、とてもありがたいです
- 那由他: それにしても難しそうな本 ばかりなんですの…
- ラビ: そうでしょうか…?
- ラビ: 簡単な哲学書と歴史小説… あとは園芸関係とかですよ
- 那由他: 哲学書って面白いんですの?
- 那由他: 分厚い本は手を出しづらくて …パパの本は別ですけれど
- ラビ: 私は好きですよ
- ラビ: いろいろな考え方を知ることは 興味深いですね
- みかげ: ミィでも読めるかな?
- ラビ: 小学生向けの本もあるので 今度図書館へ見に行きましょうか
- みかげ: うんっ
- みかげ: でもラビたん、どうして こういう本読むようになったの?
- ラビ: そうですね… 父が読書家で…
- ラビ: 昔から父の書斎にあった本を 読んでいましたから…
- ラビ: そこから 影響されているかもしれません
- 那由他: お父さまの…ですの?
- ラビ: …私の話はいいですから 次のお店へ行きましょう
- FILENAME: text_310331-3.txt
- みかげ: なゆたん、ちょっと…
- 那由他: なんですの?
- みかげ: ラビたんって、なんだか 「ミステリアス」だよね
- 那由他: …ですの
- 那由他: 先ほどの、ご家族のお話なども 初めて伺ったんですの
- みかげ: なゆたんもそうなんだ?
- みかげ: …ん、あれ? ラビたんは?
- 那由他: 話をしている間に 見失ったんですの…!
- みかげ: あ、いた! あそこだ!
- 那由他: あら、ほんとですの 女性の方と立ち話をしていますの
- ラビ: フローリングの埃掃除ですか…
- ラビ: 畳と同じように茶殻を 使うと効果的かと
- 那由他: 家事のライフハックを 披露してるみたいなんですの
- みかげ: さすがは スーパー使用人のラビたんだね!
- 那由他: スーパー使用人…? なんですの、それ?
- みかげ: 新聞の見出しにしようと思って さっき考えたんだよ
- 那由他: そうなんですのね 何だか強そうなんですの
- 那由他: …というか、ラビさん 知り合いが多いんですのね
- 那由他: 主婦の方々とお知り合いだなんて 何だか大人みたいですの
- みかげ: 使用人さんっていうより なゆたんのママって感じだね
- 那由他: …それは同意しかねますの
- 那由他: …って…あれ?
- みかげ: どうしたの?
- 那由他: …ラビさんが女性から 何かを受け取ってますの
- みかげ: はっ! ミィ、姉ちゃに聞いたことあるよ
- みかげ: こっそり受け渡しする ワイロってやつがあるって!
- 那由他: 賄賂って…
- 那由他: それは権力者に渡すものですので 違うと思いますの
- みかげ: そっかー…
- みかげ: でも、なんかラビたん 女の人に頭下げられてるよ?
- 那由他: えっ!?
- 本当にいつも ありがとうございます…
- 氷室さんには いつも助けて頂いて…
- ラビ: そんな…頭を上げてください それに、こんなお礼なんて…
- 那由他: …ほんとですの
- 那由他: ラビさんって いったい何者なんですの?
- みかげ: これも取材の一環だよ!
- みかげ: 本人に聞いてみよう!
- FILENAME: text_310331-4.txt
- 那由他: ラビさんのおじいさまへのお礼 …なんですの?
- みかげ: 畑やってるおじいちゃん?
- ラビ: ええ
- 氷室さんのおじいさまは 有機野菜の販売をしていまして
- そのお野菜には いつもお世話になっているんです
- それで、私の自宅でもお野菜と にわとりを育て始めまして
- 今朝とれた卵を おすそわけに…と
- 氷室さんに お渡ししていたところなんです
- ラビ: 卵はよく使いますので 助かります
- 那由他: それで物を受け取って…
- みかげ: ワイロじゃなかったね
- ラビ: 賄賂…?
- 那由他: …でも私、知らなかったんですの
- 那由他: 今回のおじいさまの 畑のお話もですけど
- 那由他: ラビさんのご家族のお話って あまり聞いたことがありませんの
- ラビ: もっと知りたいですか?
- 那由他: …いいんですの?
- ラビ: 別に隠しているわけでも ありませんので
- ラビ: 祖父が畑で野菜を作っている …というのはお伝えした通りで
- ラビ: 体の弱い子どもを中心に 有機野菜を販売しているんです
- みかげ: 有機野菜…?
- 農薬や化学肥料を使っていない お野菜のことですね
- うちの娘は体質的に 市販の野菜が合わないんですが…
- 氷室さんちのお野菜だと 美味しいと食べてくれますし
- 症状も出ずに済むんです
- それで今は、氷室さんに いろいろと教わりながら
- 家でも農薬を使わずに 野菜を作り始めたんです
- …まだまだ初心者ですが
- ラビ: いいえ、先程頂いた 野菜を見ましたが
- ラビ: あの葉の色つや… 大事に育てているのが伝わります
- ラビ: 今後もいい野菜が育つかと
- ほんとですか… ありがとうございます!
- それにしても氷室さんが こうやって元気だと勇気が出ます
- 娘も、あなたのように 早く良くなってくれたらいいのに
- みかげ: (良くなって…?)
- みかげ: (その子、何かの病気なのかな)
- みかげ: (それに…)
- ピカッ
- ゴロゴロゴロ…
- 那由他: ひゃっ!? 雷なんですの…!
- ラビ: え…天気予報では 雨はないって…
- ラビ: それより洗濯物が…!
- 那由他: 大変ですの! 早く帰りませんと!
- ラビ: みかげさんのため 一肌脱ぎましょう
- FILENAME: text_310332-1.txt
- 那由他: ふぅ…なんとか雨が降る前に 洗濯物をとりこめたんですの
- ラビ: 参りました…天気予報では 降水確率0%だったのですが…
- 那由他: 向こうの空は青いですし 通り雨のようですの
- 那由他: そういえば、朝漬けた銀製品って どうしたらいいんですの?
- ラビ: 軽くゆすいで 拭いたらピカピカです
- みかげ: …………
- ラビ: どうかしましたか?
- みかげ: さっきの人が言ってた話だけど
- みかげ: …もしかしてラビたんって 昔は体、弱かったの?
- 那由他: みかげさん…?
- ラビ: …………
- みかげ: あの人、自分の子どものこと
- みかげ: ラビたんみたいに 良くなればって言ってたから…
- みかげ: 取材とは関係ないことなんだけど 聞いてもいい…?
- ラビ: …いいですけど 長い話になりますよ…?
- ラビ: それに… そう面白い話でもありません
- 那由他: あ、あの… 私も聞いていいんですの?
- ラビ: 構いませんよ
- ラビ: …私の体が弱かった というのは事実です
- ラビ: 小学生の頃の私は、原因不明の 症状に悩まされていました
- ラビ: 「幼い頃は、特に症状はありませんでしたが 実家のある山から 町へと学校に通うようになり 徐々に体調が悪くなることが増えました」
- ラビ: 「いくつかの病院を転々として 何か、町という環境特有のもの… たとえば、自然由来でない人工物など… そういったものが原因となっている 疑いがあることがわかりました」
- ラビ: 「ただ私は、深刻な状態にはなりませんでした」
- ラビ: 「というのも、祖父は畑で有機野菜を作っていて そちらを食事の中心に切り替えたら 症状が緩和されてきたんです」
- ラビ: 「もしかするとそれ以外にも、症状改善の理由が あったのかもしれません…」
- ラビ: 「お医者さんからも、今の環境で 生活ができるのであれば問題ないということで 普通の生活はできていたのですが…」
- ラビ: 「その症状の性質上、友だちの家に 遊びに行くことや、人混みに行くことができず」
- ラビ: 「また理解もされにくい症状だったために 幼少期はひとりで過ごすことが多かったんです」
- ラビ: 「なので、友人と呼べるような人は ほとんどいませんでした」
- ラビ: 「ただ、不幸ではありませんでした」
- ラビ: 「先ほどお話した通り 普通の生活はできていましたし 祖父は私のために 一生懸命野菜を作ってくれました」
- ラビ: 「それに家族は皆 私を大切にしてくれて 救ってくれたんです」
- ラビ: 「私を最初に救ってくれた祖父の畑は いつしか家族みんなにとって大切な 宝物のような存在になっていました」
- ラビ: 「その畑で、祖父と母は 私と同じような境遇の子たちのために 新しく作物を育て始めようとしていました」
- ラビ: 「しかし…」
- ラビ: 「あの夏、私の地元では 酷い嵐が何日にもわたって続きました」
- ラビ: 「その嵐は、祖父が 長い時間をかけて作り上げた畑の土を ダメにしてしまいました」
- ラビ: 「近くの山の土砂が流れ込んだ上に 海水による深刻な塩害まで起きて… 畑の土壌が、殺されてしまったんです」
- 那由他: そんな…
- みかげ: 元には戻せなかったの…?
- ラビ: 自然に回復するような 状態ではありませんでした
- ラビ: 何年もかけて…それも 大規模に手を入れる必要があって
- ラビ: その間、祖父の畑では 野菜が作れないことになります
- ラビ: 特に有機栽培で土にこだわる 私たちの畑にとっては
- ラビ: 致命的とも言えるような ダメージでした
- みかげ: …じゃあ、どうしたの?
- 那由他: まさか…ラビさん…
- ラビ: …………
- ラビ: 「私は、土壌の復活を願って 魔法少女になったんです」
- FILENAME: text_310332-2.txt
- 那由他: それで、魔法少女に なったんですのね…
- みかげ: そっかー
- みかげ: でも、ラビたんすごいね
- ラビ: 私ですか?
- みかげ: うん、だってラビたんの 願いのおかげで
- みかげ: おじいちゃんの畑が元気になって 家族の大事なものも守れたし
- みかげ: それにラビたんのおじいちゃんは 有機野菜っていうのを作って
- みかげ: たくさんの子を 救ってるっていうことでしょ?
- ラビ: …そう、ですね
- ラビ: 救えている…と言っていいのかは 正直わかりませんが
- ラビ: 私と同じ境遇の子やその家族の 希望にはなれているのかと…
- みかげ: それってすごいことだよね!
- 那由他: たしかに、そうですの
- 那由他: ラビさんのおかげで たくさんの方が救われていますの
- みかげ: …ねぇ、今の話 ウェブ新聞の記事にしていいかな
- ラビ: え…?
- みかげ: だって、理解されにくい 症状なんだよね?
- みかげ: ミィも、ラビたんに聞くまで 全然知らなかったし…
- みかげ: ミィのクラスの子だけでも
- みかげ: 昔のラビたんみたいに 困ってる子がたくさんいること
- みかげ: 少しでも知ってもらえたら いいと思うんだ!
- ラビ: それは構いませんが…
- 那由他: 魔法少女の 願いの話はどうしますの…?
- みかげ: あ…
- みかげ: たしかに それは新聞に書けないね…
- みかげ: うーん… いい案だと思ったんだけど…
- ラビ: そうですね…
- ラビ: それに、祖父の野菜を食べれば 私と同じくらい良くなるとは
- ラビ: 言えないと思うので…
- みかげ: え、違うの?
- ラビ: 魔法少女は、魔女と戦うために 身体能力が向上するというのは
- ラビ: 那由他様もみかげさんも ご存知ですよね?
- 那由他: えぇ、パパの本で読んでますし その実感もあるんですの
- みかげ: うん、ミィもだよ
- みかげ: …あっ、じゃあ ラビたんが元気になったのって…
- ラビ: はい、魔法少女になったことで 身体能力が高まった…
- ラビ: その副産物として 体質が改善されたのだと
- ラビ: そう、推測しています
- みかげ: そっか…
- FILENAME: text_310332-3.txt
- ラビ: ただ、みかげさんがおっしゃった 症状のことを知らせるという話…
- ラビ: それ自体は いい試みかと思います
- ラビ: …少しずつ認知されるように なってきてはいるものの
- ラビ: まだ理解はされにくい…
- ラビ: かつての私のような症状の子に 周囲の理解は不可欠です
- ラビ: ひとりでも多くの方に 知っていただきたいという想いは
- ラビ: 今でもありますので…
- みかげ: …うん、わかった!
- ラビ: ありがとうございます
- みかげ: でも、どうしよう…
- みかげ: 今までの内容で 新聞を作ってもいいんだけど
- みかげ: ちょっと内容が 寂しい気がするんだよね…
- 那由他: たしかに…ちょっと 地味な記事になりそうですの
- みかげ: うん…
- みかげ: せっかくなら もっと面白い内容にしたいし
- みかげ: …もしかしたら 見た目の派手さがないのかも?
- 那由他: そういえば写真や動画も あまり撮れてないんですの
- 那由他: そもそも家事ってお仕事自体
- 那由他: 大変な割に 取材映えしない気がしますの
- ラビ: …そうですね
- ラビ: …では“取材映え”するような 家事をしてみましょうか
- みかげ: スーパー使用人ラビたん ってこと!?
- ラビ: そういうことになりますね
- みかげ: えー見たい見たい! あ、動画も撮っていい!?
- ラビ: いいですよ
- みかげ: やったぁ!
- 那由他: キッチン…ということは 料理をするんですの?
- ラビ: はい、お昼ごはんを作ろうかと
- みかげ: それで、ラビたんは どうやって映えな感じにするの?
- ラビ: 見てのお楽しみ… というほどのことでもないですが
- ラビ: …頑張ってみます
- みかげ: おっけー! それじゃあ、カメラ回すね!
- みかげ: はい、なゆたんよろしく
- 那由他: あ、私が撮るんですの!?
- みかげ: よーい、アクション!
- みかげ: スーパー使用人さん!
- みかげ: 今日のお昼ごはんの 献立はなんですか?
- ラビ: …野菜炒めと鮭のソテーです
- ラビ: あとは作り置きしていたものを 何点か出します
- みかげ: じゃあさっそく 料理始めちゃってください!
- ラビ: はい
- サッ
- スッ
- サササッ
- みかげ: わー! ラビたん早い!
- みかげ: ラビたんって、料理は 元々得意だったんだっけ?
- ラビ: まぁ…仕込まれてはいますね
- ラビ: でも、こんなに早くなったのは 最近になってからです
- みかげ: なゆたんのお世話をするように なってからってこと?
- ラビ: はい
- 那由他の声: え、それはなんでですの?
- ラビ: 朝食の準備を手早く終わらせて 那由他様を起こしたりとか
- ラビ: 今朝の牛乳のようなことも よくありますから
- ラビ: そういったことをフォローする 時間を捻出する必要があるので
- 那由他の声: 私のせいでしたの!?
- みかげ: あ、ちょっとなゆたん カメラ揺らさないでね!
- 那由他の声: ごめんなさいですの…
- FILENAME: text_310332-4.txt
- ラビ: …ということで 1品目の完成です
- みかげ: すごくいいにおい! やっぱラビたんはすごいね!
- みかげ: あ! ミィ思いついちゃった!
- 那由他: なんですの?
- みかげ: 題して!
- みかげ: 「超すごいラビたんと 弟子入りして超すごくなる すごいミィとなゆたん!」
- 那由他: …どういうことですの?
- 那由他: 「すごい」ということしか わからないんですの
- みかげ: その通り! すごいんだよ!
- みかげ: ラビたんの弟子が すっごい腕前を上げたら
- みかげ: 師匠であるラビたんのすごさが もっと伝わるでしょ!
- みかげ: どうかな、ラビたん
- みかげ: ラビたんのすごさ もっと知って欲しいし
- みかげ: ミィも、ラビたんみたいに
- みかげ: 料理がすっごい上手な 立派なお姉さんになりたいから!
- ラビ: (すごいしか言っていない…)
- ラビ: そうですね…
- ラビ: しっかり言うことを聞いて 安全に行うのであれば
- みかげ: やったぁ!
- みかげ: 野菜を切るときは猫の手で…
- ラビ: はい、できてます
- パシャッ
- みかげ: あれ、いまミィの写真撮ってた?
- ラビ: みかげさんが頑張っている 写真も必要かと思い
- みかげ: たしかに…
- みかげ: ありがと、ラビたん!
- パシャッ
- みかげ: ん?
- ラビ: いい笑顔だったので、つい
- 那由他: ラビさん…あの これはどうしたら…
- ラビ: そうですね、これはこうして…
- 那由他: …なるほど
- 那由他: さすがラビさんですの
- ラビ: いえいえ
- ラビ: それより手元から 目を離さないでくださいね
- ラビ: ケガをされたら大変です
- 那由他: わかってるんですの ラビさんは心配性なんですの
- ラビ: …普段を見ていれば そうもなりますよ…
- ラビ: (ただ、今日はとても 順調に進んでいる…)
- ラビ: (これまでにないくらい順調で)
- ラビ: (逆に 不安になってくるくらいに…)
- ピンポーン♪
- ラビ: ん?
- ラビ: 私の家事は、まぁ… 仕込まれてますからね
- FILENAME: text_310333-1.txt
- ピンポーン♪
- ラビ: ん?
- ラビ: あ…そういえば今日 園芸用品が届くんでした
- みかげ: 行ってきていいよ あとはミィたちでやっておくから
- ラビ: まぁ…ここまで来たら 失敗はないですよね
- ラビ: すぐに戻ってきますから 火には用心してくださいね
- 那由他&みかげ: はーい
- ラビ: はい、受け取りました ありがとうございます
- ラビ: …………
- ラビ: さて、急いで戻らないと
- ラビ: (キッチンから騒いでる様子は 感じられない…)
- ラビ: (これなら大丈夫か)
- ラビ: …………
- ラビ: (いや、ふたりにしては 静かすぎるような…)
- ラビ: (こんな話を聞いたことがある)
- ラビ: (やんちゃな子たちは 静かなときこそ危ない…と)
- ラビ: まさか…
- 那由他: ラビさん…
- 那由他: うっ、うぅうぅぅ…
- みかげ: ち、違うんだよ ミィも悪いんだよ…!
- ラビ: …………
- ラビ: 何があったのか 話して頂けますか?
- ラビ: なるほど…
- ラビ: 「料理が完成し、盛りつけまではできたものの お皿に水を派手にこぼしてしまって 味つけをし直すために再度フライパンに投入」
- ラビ: 「しかし、いろいろと調味料をいれていたところ 入れすぎて味が濃くなり どうしようもなくなってしまって号泣…」
- ラビ: …ということで あってますか?
- 那由他: あってますの…
- 那由他: 言語化されると 何だか恥ずかしいんですの…
- みかげ: ラビたんがやった通りに したはずなんだけど…
- みかげ: ごめんなさい…
- ラビ: そうですね… …一度味つけしたものに
- ラビ: また同じ量の調味料を入れれば それは、濃くなりますね…
- みかげ: たしかに…
- 那由他: 私がついていながら 情けないんですの…
- ラビ: まぁ、おふたりに ケガがなくて何よりです
- 那由他&みかげ: …………
- ラビ: さて、起きてしまったことは 仕方ありません…
- ラビ: リカバリーする方法を 考えてみましょう
- みかげ: …うん、わかった!
- 那由他: でも…変に調味料を くわえてしまったせいで
- 那由他: 取り返しのつかないことに なってしまったんですの…
- 那由他: 覆水盆に返らず …なんですの
- ラビ: …たしかに慌てて調味料を 足したのは良くなかったですね
- 那由他: うぅ…
- ラビ: …………
- ラビ: 顔を上げてください 那由他様
- 那由他: …なんですの?
- ラビ: 那由他様にひとつ よいことを教えてさしあげます
- ラビ: ある人の言葉なんですが…
- ラビ: 「人は試練を与えられて生きていますが 最終的には救われるようにできているんです」
- 那由他: どういうことなんですの…?
- ラビ: 覆水は盆に返りませんが
- ラビ: 諦めるには まだ早いということです
- FILENAME: text_310333-2.txt
- 那由他: で、でもラビさん…!
- 那由他: 味が薄いぶんには どうにかなるかもしれませんけど
- 那由他: 濃くなってしまったら どうにもならないんですの…!
- 那由他: 濃い味、薄味に戻らず なんですの…
- ラビ: 使用人の本気を見せると 宣言してしまいましたので
- ラビ: ここはなんとかしてみせます
- 那由他: できるんですの…?
- ラビ: 最善を尽くします カメラも回ってることですし
- 那由他: あれ、私録画ボタンは止め… …てなかったんですの
- 那由他: 定点カメラ的に私たちの失敗も ずっと収められてたんですの…
- ラビ: …さて まずは対処法ですが
- ラビ: 那由他様が入れた調味料は なんでしょうか?
- 那由他: お醤油と、コショウと それから料理酒ですの
- ラビ: …レシピからは 外れていませんね
- ラビ: 変なものを入れないでくださり 助かりました
- 那由他: 変なもの…
- ラビ: …であれば 今日頂いた新鮮な卵と…これを
- みかげ: あ、商店街で会った お母さんの!
- 那由他: もうひとつは、八百屋さんに 頂いたキャベツですのね
- ラビ: はい
- みかげ: それでどうするの?
- ラビ: キャベツを入れることで カサを増して味を分散します
- みかげ: 量は増えちゃうけど 3人もいれば食べきれるね!
- 那由他: 卵はどうするんですの? 元々、入っていなかったんですの
- ラビ: これは持論 …というほどでもありませんが
- ラビ: 卵でとじれば 大概は何とかなります
- ラビ: それでは…
- ジューッ
- ザッザッ
- 那由他: ―那由他― すごいフライパンさばきですの ラビさん…!
- みかげ: ―みかげ― なゆたん見て見て! 卵、片手で割ってるよ!?
- みかげ: ―みかげ― これがスーパー使用人ラビたんの本気…! すっごいかっこいいね!
- 那由他: ―那由他― さすがなんですの…! …って、感想はこれくらいにしましょう
- 那由他: ―那由他― 私たちの声が入ってしまったら せっかくの動画が台無しなんですの
- みかげ: ―みかげ― それもそうだね…!
- ラビ: …はい、これで完成です
- 那由他&みかげ: おぉぉぉ…!
- 那由他: すごいんですの…!
- ラビ: 味が問題ないか おふたりで味見してみてください
- みかげ: うんっ!
- ぱくっ
- 那由他&みかげ: おいしい!(ですの!)
- 那由他: 卵でとじたことで ふわっふわなんですの!
- 那由他: それに、キャベツが新鮮で とっても美味しいんですの!
- みかげ: こんなにおいしい野菜炒め ミィ、初めて食べた!
- ラビ: それはよかったです
- みかげ: じゃあ、お昼を食べたら みんなで新聞づくりだね!
- みかげ: 取材映えするような写真や動画も たくさん撮れたし!
- 那由他: あれ…私たちも新聞づくり 手伝うんですの…?
- FILENAME: text_310333-3.txt
- 那由他&みかげ: すぴー…すやぁ…
- ラビ: ふふ…新聞づくりを終えて 疲れて寝てしまいましたか…
- ラビ: みかげさんはまだしも 那由他様まで…
- ラビ: ウェブ新聞に載せる動画も できあがったことですし
- ラビ: 少し再生してみましょう
- カチッ
- みかげ: 「ちょーかっこいいスーパー使用人さんの ちょーかっこいい料理シーン!」
- みかげ: 「スーパー使用人さんは、いつもすごい! お買い物も手際が良くて みんなに好かれてるからオマケももらっちゃう!」
- みかげ: 「それに、主婦の人たちにも頼られてて やっぱりすごいかっこいい!」
- ラビ: …また すごいしか言っていないけど
- ラビ: 何だか照れる…
- みかげ: 「なゆたんとミィの失敗をりかばりーしてくれた! もう絶対ムリだと思ったのに!」
- みかげ: 「人は試練を与えられて生きてるけど 最後には救われるようにできてるって言葉 ミィ、感動しちゃった!」
- ラビ: …………
- ラビ: そう…
- ラビ: みんな救われるようにできている
- ラビ: …はずだった
- ラビ: みかげさんたちに話した私の過去に 嘘偽りはほとんどない
- ラビ: ただ、少しばかり 伏せたところがあるのは確かだ
- ラビ: 体の弱い私は、家族に救われて生きてきた
- ラビ: 祖父は、私のために野菜を作ってくれて 私に体の健康をくれた
- ラビ: 父は存命中、私に読書を教えてくれた 亡きあともたくさんの本を残してくれて 私に心の健康をくれた
- ラビ: 母は、父亡きあとも一生懸命に働き 私に健やかな日常を与えてくれた
- ラビ: そして、私の家族は 私を救うという目標を抱き そこから生きる喜びを得ていた
- ラビ: だけど、私自身に生きる喜びはなかった
- ラビ: 家族のおかげで生かされていたし 救われてもいた そのことには感謝しているけれど
- ラビ: 生きることに対しての喜びを 私は見つけられないでいた
- ラビ: そんなとき、父の生前の日記で見つけたのが
- ラビ: “人は試練を与えられて生きているが いつかは救われるようにできている”
- ラビ: そんな言葉だった…
- ラビ: だから、魔法少女になって 誰かを救えるとわかったとき 私はとても嬉しかった
- ラビ: 救われ続けた私が 救う側に回れるんだと
- ラビ: 初めて、生きる喜びを見つけた
- ラビ: しかし 魔法少女は決して救われない…
- ラビ: その事実は、父の言葉を否定した
- ラビ: いつかは救われる… そんな曖昧な希望にすがっていた私を 今までの人生を否定されたような気分だった
- ラビ: みかげさんたちには希望を語っておきながら 当の私自身は希望を諦めている
- ラビ: 父は、どうだったのだろうか
- ラビ: 本当に救われると思っていたのか
- ラビ: それとも、諦めながら どこかで光を求めていたのか
- ラビ: 今となっては もうわからない…
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- ラビ: (魔法少女になった時点で 我々に救いは訪れない…)
- ラビ: 魔女になってしまうという宿命はもちろん そのことに同情してもらうことさえも 宇宙の意思に邪魔されてしまう …という、私たちの諦念
- ラビ: (教授は今も そう考えているのだろうか)
- ラビ: (…私たちの向かう先には 何が待っているのだろうか)
- ラビ: …………
- ラビ: (たまに、思ってしまう…)
- ラビ: (宇宙の意思なんて ただの勘違いであればいいと…)
- ラビ: (すべてを諦めたと言いながら)
- ラビ: (どこかで救いを 欲しているのかもしれない…)
- ラビ: (しかし、これもきっと私の 生存本能に過ぎないのだろう)
- ラビ: (そう…宇宙が我々を異物として 取り除かんとするように)
- 那由他&みかげ: すぅ…すぅ…
- ラビ: …………
- ラビ: (たまに、夢を見る)
- ピンポーン♪
- みかげの声: なーゆーたんっ ラービーたんっ
- 太助: 「いらっしゃい、みかげちゃん」
- みかげ: 「なゆたんパパ、こんにちは! 今日はなゆたんの成人式おめでとー! …って、あれ?なゆたんは?」
- ラビ: 『メイクが決まらないとかで、奥で格闘中です』
- 太助: 「せっかくラビが着付けしてくれたのに 崩しちゃうんじゃないかな… 那由他がいつもそそっかしくてすまないね」
- ラビ: 『いえ、慣れましたので』
- みかげ: 「え、ラビたん着付けしたの!? なんでもできるんだね!」
- ラビ: 『この日のために習いました』
- 那由他: 「お、遅くなったんですの…!」
- ラビ: 『あぁ…那由他様、走らないで…!』
- みかげ: 「わぁ!なゆたん…すっごく可愛いね!」
- 太助: 「うん、綺麗だね…那由他」
- 那由他: 「ふふ…なんだか恥ずかしいですの」
- ラビ: 『…………』
- ラビ: 『…とっても綺麗ですよ、那由他様』
- ラビ: (叶いもしない そんな夢を見るだなんて)
- ラビ: (つくづく私は甘いと感じる)
- ラビ: (“午前0時”が到来すれば 決して訪れない未来)
- ラビ: (決断の時はいつか来る)
- ラビ: (その時、私は…?)
- ラビ: けれど、今はまだ “その時”ではないから…
- 那由他: すぅ…すぅ… ラビしゃ…おかわり…ですの…
- ラビ: ふふ…
- ラビ: まったく、那由他様は…
- ラビ: …………
- ラビ: (だからもう少し もう少しだけは)
- ラビ: この愛おしい日常を、共に…
- ラビ: 結論が出ないうちは、まだ…
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