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- ライオンが生まれた時、彼は何故、ガゼルを殺して喰ったのだろう。
- サバンナの強い光をうけて、一面を緑に染める。
- あの草木を食べて生きながらえるという選択は、無かったのだろうか?
- それでもライオンはガゼルを、またインパラを、時には同じ猫科であるもっとも美しいチーターすらも喰い殺す。
- ガゼルのその愛くるしい瞳も、その美しい毛並みも、ライオンにとってはさほど重要では無い。
- 外見など、彼にとってはただ肉と血の詰まった袋でしかない。
- だから、彼は、その美しい毛皮を切り裂き、頭蓋骨を割り、その中身を平らげたのだろう。
- 彼にとっては、草木を喰らうなどという選択肢は最初っからあり得ず、美しいガゼルの群れから、か弱い、もっとも弱く、可愛らしい子を喰らう事が自明の理であった。
- その事を誰も不思議に思わない。
- 何故ならば、それは必然であり、当然の帰結であり、そして自然であるからだ。
- 私が何故、同性を愛したのか。
- そういったものに理由づけなど無かった。
- 肉食獣が、必然の様に弱い動物の肉を喰らう様に、私もまた、同性を愛した。
- 私にとっては、男を愛するという選択肢は最初っからあり得ず、美しい女の子の群れから、か弱い、もっとも弱く、可愛らしい子を愛する事が自明の理であった。
- そういう私であるから、理由なんてなく、最初から女の子が好きであった。
- そのことに気がつき始めたのは、いつだっただろう。
- 自覚したというその時すら思い出せない。
- ただ私は、当たり前の様に、幼稚園の女の先生に恋をしたし、ブラウン管の向こう側では、必ず女性のアイドルに想いをはせた。
- 私は女の子が好きだ。
- ただそれだけ。
- それでも世間はそれを許してはくれないらしい。
- 否、許されなくても良い。
- 無視してくれれば。
- だが、無視を決め込めるほど世間は寛容ではないらしい。
- 理由を求められるだけで不快にすら思う。
- 私が女の子を好きな事に理由などない。
- それでも尋ねられる。
- ――何故?
- お前らが、単に偶然、異性を好むだけなものを、それが大多数だからといって、まるでそれが自然であり、すべてがそうならなければいけないかの様に考えずにはいられない、阿呆頭ども。
- 彼らの頭は、独創性も想像力もなく、単に自分達がそうであるからという理由だけで、それを正解とする。
- ――気持ちが悪い。
- 特に、その疑問の言葉が、男から発せられた時には、身の毛もよだつ。
- 彼らだったら、ちょっとした想像で簡単に理解できるはずだ。
- あの身の毛もよだつような臭い。まるで泥をこねて作り上げたような、無骨な手。陰毛の様な縮れ毛でくるまれたその醜い身体。
- おまえ達が、その身体で犯される事を想像すれば良い。
- 少なくとも、私はその様なものに耐えられない。
- 男に抱かれるという事は、私にとってはそういう事だった。
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