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1
==Part A==
2
{bg}
3
口前話回想
4
まどかに投げ捨てられ、宙を舞うさやかのソウルジェム。
5
キユウベえoff「君たち魔法少女にとって、もとの身体なんでいうのは外付けのハードウエアでしかないんだ。君たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで安全な姿が与えられてる」
6
まどかの腕の中に倒れ込む、機能停止したさやかの身体。
7
キユウベえ「魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね、君たちの魂を抜き取って、ソウルジエムに変えることなのさ」
8
悪びれた風もなくにこやかに語るキユウベえを前にして、恐怖に顔を引き攣らせるまどかと杏子。
9
{/bg}
10
口さやかの部屋
11
帰宅したさやか。
12
部屋でキユウベえと二人きりになったところで、さやかはソウルジエムを勉強机の上に投げ就き、血相を変えて相手を問い詰める。
13
{bg}さやか「どういうことなの?あたしの身体が、抜け殻って...」
14
キユウベえ「君の魂を物質的存在にシフトさせてあげただけだよ。
15
おかげで君は霊力をエネルギーに変換できるようになったしーー」
16
さやか「そんなこと訊いてるんじゃないのよ!」
17
怒りを爆発させるさやか。 {/bg}
18
さやか「騙してたのね、あたしたちを...」
19
困惑するキュゥベえ。
20
キユウベえ「僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ。実際の姿がどういうものかは、説明を省略したけれど」
21
さやか「なんで教えてくれなかったのよ!?」
22
キユウベえ「訊かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね。事実、あのマミでさえ最後まで気付かなかった」
23
さやかの剣幕に対して、キユウべえは全く悪びれた様子もない。
24
キユウベえ「そもそも君たち人間は、魂の存在なんて最初から自覚できてないんだろう?」
25
キユウべえはさやかの頭を指差し、
26
キユゥべえ「そこは神経細胞の集まりでしかないしーー」
27
続けて今度は胸を指差し、
28
キユウベえ「ーーそこは循環器系の中枢があるだけだ。そのくせ生命が維持できなくなると、人間は精神まで消滅してしまう。そうならないよう、僕は君たちの魂を実体化し、手に取って、きちんと護れる形にしてあげた。少しでも安全に魔女と戦えるように、ね」
29
さやか「大きな...お世話よ!そんな余計なこと...」
30
キユウベえ「君は戦いというものを甘く考えすぎだよ」
31
呆れ果てた、とばかり溜息をつくキユウべえ。
32
キユウベえ「たとえばお腹に槍が刺さった場合、肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかっていうとね...」
33
キユウベえ、机の上に放置されたさやかのソウルジエムに触れて、何らかの魔力を送り込む。
34
さやか「ひっーーツ!!」
35
途端に、腹に物凄い激痛を覚えて身体を折り曲げるさやか。
36
キユウべえ「これが本来の『痛み」だよ。ただの一発でも動けやしないだろう?」
37
さやか「あ...う...」
38
痛みに悶えながら、五話での杏子との戦いを回想するさやか。
39
幾度となく身体に与えられた壊滅的なダメージを思い出し、身震いする。
40
そんなさやかを見つめながら、平然と説明を続けるキユウベぇ。
41
キユウベえ「君が杏子との戦いで最後まで立っていられたのは、強すぎる苦痛がセーブされていたからさ。君の意識が肉体と直結してないからこそ可能なことだ。おかげで君はあの戦闘を生き延びることができた」
42
キユウべえ、ソウルジエムから手を離す。
43
即座に苦痛から解放されるさやか。荒い呼吸で脱力する。
44
キユウベえ「慣れてくれば完全に痛みを遮断することもできるよ。もっとも、それはそれで動きが鈍るから、あまりお勧めはしないけど」
45-
顕から布団を被り、落ち込んでいるさやか。
45+
46
半泣きで訴えかけるさやかに、にっこりと微笑むキユウベえ。
47
キユウベえ「戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう?それは間違いなく実現したじゃないか」
48
49
口学校、教室
50
朝、HR前。登校した生徒たちの喧嘩。
51
そこに入ってくる早乙女先生。日直が号令をかける。
52
日直「きり~っ、礼~」
53
まどか、心配げに空っぽのさやかの席を見る。今日は登校しないのだろうか。
54
55
口さやかの部屋
56
カーテンを閉め切った暗い部屋。
57
頭から布団を被り、落ち込んでいるさやか。
58
布団の中で自分のソウルジエムを握りしめ、その輝きを見つめている。
59
60
口学校屋上
61
休み時間。フェンスによりかかっているまどかとほむら。
62
まどか「ほむらちゃんは...知ってたの?」
63
無言で領くほむら。
64
まどか「どうして、教えてくれなかったの?」
65
ほむら「前もって話しても、信じてくれた人は、今まで一人もいなかったわ」
66
まどか「...」
67
何故いつもそうやって他人のことを諦めてばかりなのかと問い糾したくなるまどかだが、代わりに違う質問をする。
68
まどか「キユウべえは、どうしてこんな酷いことをするの?」
69
ほむら「あいつは酷いとさえ思つてない。人間の価値観が通用しない生き物だから。何もかも、奇跡の正当な対価だと、そう言い張るだけよ」
70
まどか「ぜんぜん、釣り合ってないよ!」
71
思わず叫ぶまどか。
72
まどか「あんな身体にされちゃうなんて...さやかちゃんは、ただ好きな人の怪我を治したかっただけなのに...」
73
ほむら「奇跡であることに違いはないわ。不可能を可能にしたんだから」
74
あくまで冷静に応じるほむら。
75
ほむら「美樹さやかが一生を費やして介護しても、あの少年が再び演奏できるようになる日は来なかった。奇跡はね、本当なら人の命でさえ贖えるものじゃないのよ。それを売って歩いているのが、あいつ」
76
まどか、悔しいものの反論できない。ややあって、さらに別の質問を。
77
{bg}
78
まどか「さやかちゃんは...もとの暮らしには、戻れないの?」
79
ほむら「...」
80
答え辛そ、つなほむら。
81
まどか「魔法さえ使わなければ、グリーフシードなんでいらないよね?魔女と戦わなくてもいいんだよね?」
82
ほむら「ただ身体を維持するだけでも、少しずつ魔力を消耗していくの。だからやがては、グリーフシードが必要になる。魔女を倒して手に入れるしか、ない」
83
まどか「...」
84
黙り込むまどか。だがさやかのことを諦めきれず、必死に別の活路はないかと考え込む。
85
そんなまどかが見るに忍びず、敢えて冷たい言葉をぶつけるほむら。
86-
杏子「いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ、ボンクラ』
86+
 {/bg}
87
ほむら「...前にも言ったわよね。美樹さやかのことは諦めろって」
88
まどか「さやかちゃんは、私を助けてくれたの」
89
まどか、四話で魔女に襲われたときのことを回想する。
90
まどか「さやかちゃんが魔法少女じゃなかったら、あのときわたしも、仁美ちゃんも、死んでたの...」
91-
杏子「ちょいと面貸しな。話がある』
91+
92
あくまで情に流されることなく、きっぱりと言い切るほむら。
93
ほむら「あなたには彼女を救う手立てなんてない。引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて、そんな出過ぎた考えは捨てなさい」
94
さやかの冷淡さが我慢ならず、身震いするまどか。
95
まどか「...ほむらちゃん、どうしていつも、そんなに冷たいの?」
96
ほむら「そうね...」
97
ほむら、手の中のソウルジエムを見下ろして、自嘲気味に微笑む。
98
ほむら「きっともう、人間じゃないから、かもね」
99
まどか「...」
100
他人だけでなく自分白身に対してさえ冷酷なほむらを、心底哀しく思うまどか。
101
102
口さやかの部屋
103
午後になっても布団から出られないさやか。
104
憂欝な面持ちのまま、恭介のことを思う。
105
さやか「こんな身体になっちゃって...あたし、どんな顔して恭介に会えばいいのかな」
106
そこへ不意に、脳裏に響く杏子からのテレパシー。
107
杏子『いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ、ボンクラ』
108
さやか「...ッ!?」
109
驚き、布団を払い除けて跳び起きるさやか。
110
窓に駆け寄って外を見下ろす。
111
家の前に、林檎を囓りながら佇んでいる杏子。片手には青果店の紙袋を抱えている。
112
杏子『ちょいと面貸しな。話がある』
113
114
口夕刻の街外れ
115
雑木林に覆われた丘の坂道。林檎片手に、先に立って歩く杏子。後からついてくるさやかに、無防備な背中を晒している。
116
さやかは舐められているのか、それとも何かの罠なのか判断がつかず、緊張した面持ちのままついていく。
117
杏子「あんたさあ、やっぱり後悔してるの? こんな身体にされちゃったこと」
118
さやか「...」
119
無言のさやかに構わず、杏子は話を続ける。
120
杏子「あたしはさ、まあいいか、って思ってるんだ。なんだかんだで、この力を手に入れたから好き勝手できてるわけだし。後悔するほどのことでもないってね」
121
さやか「あんたは...自業自得なだけでしょ」
122
杏子「そうだよ。自業自得にしちゃえばいいのさ」
123
あっけらかんと応じる杏子。
124
杏子「自分のためにだけ生きてれば、何もかも自分のせいだ。誰を恨むこともないし、後悔なんであるわけがない。そう思えば、大抵のことは背負えるもんさ」
125
さやか「...」
126
相変わらず杏子の真意が読めないさやか。
127
やがて二人は、丘の頂に。そこには廃墟と化した教会が建っている。
128
129
口教会の廃墟
130
玄関を蹴り開けて、中に入る杏子。後に続くさやか。
131
さやか「...こんな所まで連れてきて、何なのよ?」
132
杏子は手の中の林檎を弄びながら、どう切り出すか思案するかのように、祭壇の辺りをぶらぶら歩く。
133
杏子「ちょっとばかり長い話になる」
134
紙袋の中の林檎のひとつを、さやかへと放ってよこす杏子。
135
杏子「食うかい?」
136
さやか「...」
137
怒りを噛み殺し、投げ渡された林檎を放り捨てるさやか。
138
その途端、いきなり杏子がさやかの間合いに踏み込み、襟首を掴んで締め上げる。杏子はかつてないほどに本気の怒リの形相。
139
杏子「食い物を粗末にするんじゃねえ...殺すぞ?」
140
さやか「...」
141
シニカルなばかりと思っていた杏子の豹変に、驚いてやや気圧されるさやか。
142
杏子はさやかから手を離すと、彼女が捨てた林檎を拾い、丁寧に汚れを拭ってから、袋に戻す。
143
呆気に取られているさやかを余所に、杏子は教会の中をぶらつきながら、想い出に耽る。
144
杏子「...ここはね、あたしの親父の教会だった」
145-
杏子off「...悔しかった。許せなかった。誰もあの人のこと分かってくれないのが、あたしには我慢できなかった」
145+
146
口杏子の回想
147
往年の清潔な教会。古い蝋燭を取り替えて火を点している杏子の父。
148
幼い頃の杏子と妹も、雑巾掛けなどして掃除している。
149
微笑みを交わす父親と姉妹。
150
杏子off「正直すぎて、優しすぎる人だった。每朝、新聞を読むたびに涙浮かべて、どうして世の中がよくならないのか、真剣に悩んでるような人でさ」
151
信徒席に座る信者たちを前にして、説教している父の姿。
152
杏子off「新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。だからあるとき、教義にないことまで信者に説教するようになった」
153
空つぽになった教会。
154
呆然としている杏子の父。
155
杏子off「勿論、信者の足はばったり途絶えたよ。本部からも破門された」
156
次第に荒れ果てて、廃墟じみていく教会。
157
杏子off 「誰も親父の話を聞こうとしなかった。当然だよね。はたから見れば胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しいことを、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃただの鼻つまみものさ」
158
みすぼらしい姿のまま、信徒たちの家を巡回して説教しようとするの杏子と父。だが冷たく門前払いであしらわれる。
159
杏子off「あたしたちは一家揃って、食うモノにも事欠く有様だった」
160
佐倉家の食卓。水のようなスープだけしかない侘びしい夕食。
161
杏子off「納得できなかったよ。親父は間違ったことなんて言つてなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ」
162
夜の街の賑わいの中を、失意のまま歩く父娘。
163
周囲で笑顔の通行人たちは、二人にまったく日もくれない、。
164
杏子off「5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいことを言ってるって、誰にでも分かったはずなんだ。...なのに誰も相手をしてくれなかった。真面目に取り合ってくれなかった」
165
寂れた教会の信徒席に、肩を落として立っている杏子の父。
166
杏子off「カラツポの教会に、ただ一人ポツンと座って、誰かが来るのを待ってる親父は、なんだかピエロみたいでき...悔しかった。許せなかった。誰もあの人のこと分かってくれないのが、あたしには我慢できなかった」
167
やせ衰えて、街を歩く杏子。ふと目に留めた果物屋で、飾つである林檎に我慢が出来ず、万引きしようとする。
168
あっさり見つかり、店員に手ひどく殴られる杏子。
169
170
口廃墟の教会・現在
171
手にした林檎を見つめている杏子。
172
杏子「だから、キユウべえに頼んだんだよ。...みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますように、って」
173
さやか「...」
174
意外すぎる真相に、驚きを隠せないさやか。
175
176
口杏子の回想
177
いきなり大勢の信徒が列を成している教会。
178
杏子off「翌朝には、親父の教会は押しかけた人でごった返してた。毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えてった」
179
夜の街、颯爽と魔女たちを狩っている魔法少女スタイルの杏子。
180
杏子off「あたしはあたしで、晴れて魔法少女の仲間入りさ」
181
満場の信徒を前にして、意気揚々と説教する杏子の父。
182
杏子off「いくら親父の説教が正しくたって、それで魔女が退治できるわけじゃない。だからそこはあたしの出番だって、パカみたいに意気込んでたよ。あたしと親父で、表と裏から、この世界を救うんだって...」
183
184
口廃墟の教会・現在
185
ザク、と林檎を囓ってから、ニヒルに笑う杏子。
186
杏子「でもね、あるとき、ヵラクリが親父にばれた」
187
さやか「...」
188
杏子「大勢の信者が、ただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだと知ったとき、親父はブチ切れたよ。娘のあたしを、人の心を惑わす魔女だって罵った。笑っちゃうよね。あたしは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに」
189
190
口杏子の回想
191
佐倉家のダイニングキッチン。飛び散った血痕。
192
首を吊った父の足先が宙で揺れている。
193
部屋の入口で、それを呆然と眺めている杏子。
194
杏子off「それで親父は壊れちまった。最後は惨めだったよ。酒に溺れて、頭がイカして、とうとう家族道連れに無理心中さ。あたし一人を置き去リにして、れ。 
195
196
口廃墟の教会・現在
197
食べ終わった林檎の芯を、ぽいと床に放リ捨てる杏子。
198
杏子「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ」
199-
杏子が完全な悪人ではないと理解し、微笑するさやか。
199+
200-
少しだけ皮肉を込めて言い返す。
200+
201
杏子「他人の都合を知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、けっきょく誰もが不幸になった。ーーそのとき心に誓ったんだよ。もう二度と、他人のために魔法を使ったりしない。この力は、すべて自分のためだけに使い切る、って」
202
203
==Part B==
204
205-
さやか、ようやく向き直り、.正面から杏子を見つめる。
205+
206
【Aパート】より継続。
207
杏子はさやかの方へと向き直り、穏やかに語り聞かせる。
208
杏子「奇跡つてのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じぷんだけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立つてるんだよ」
209
さやか「...なんでそんな話を、あたしに?」
210
床を見つめたまま問うさやか。
211
杏子「...」
212
やや気恥ずかしいのを誤魔化すために、いったん黙る杏子。
213
袋から新しい林檎を取り出す。
214
杏子「これ以上、後悔するような生き方を続けるべきじゃない。
215
あんたはもう、対価としては高すぎるモンを支払っちまってるんだ。だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ」
216
さやか「...あんたみたいに?」
217
杏子「そうさ」
218
杏子は手にした林檎に口をつけず、さやかを見つめている。もう一度、さやかにそれを受け取って欲しいと思っている。
219
杏子「あんたも開き直って、好き勝手にやればいい。自業自得の人生を、さ」
220
杏子が完全な悪人ではないと理解し、微笑するさやか。少しだけ皮肉を込めて言い返す。
221
さやか「...それって、変じゃない?あんたは自分のことだけ考えて生きてるはずなのに、どうしてあたしの心配なんかしてくれるわけ?」
222
杏子「...」
223
鼻白むものの、杏子は言い返さない。あくまで真摯に本題を続ける。
224
杏子「あんたもあたしも、同じ間違いから始まった。...あたしはそれを弁えてるが、アンタは今も間違え続けてる。見てられないんだよ。そいつが」
225
さやか、ようやく向き直り、正面から杏子を見つめる。
226
さやか「あんたのこと、色々と誤解してた。そのことはごめん。謝るよ」
227
杏子「...」
228
むょっとだけ嬉しそうに微笑みそうになる杏子。だが、さやかは真顔で先を続ける。
229
さやか「でもね、あたしは人のために祈ったことを、後悔してない。その気持ちを嘘にしないために、後悔だけはしないって決めたの。これからも」
230
杏子「何でアンタは...」
231
分からないんだ?と言いたくなる杏子だが、さやかの言葉を遮れない。
232
さやか「あたしはね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。この力は、使い方次第で、いくらでも素晴らしいモノにできるはずだから」
233
杏子「...」
234
さやか「それからさーー」
235
さやか、杏子から目を逸らし、やや口調を硬くして、
236
さやか「あんた、その林檎はどうやって手に入れたの?お店で払ったお金はどうしたの?」
237
杏子「...」
238
当然、合法的ではないので言いよどむ杏子。
239
さやか「...言えないんだね。ならあたし、その林檎は食べられない。もらっても嬉しくない」
240
さやか、杏子に背を向けて、教会の廃墟を出て行こうとする。
241
たまらず、その背中に向けて叫ぶ杏子。
242
杏子「パカヤロウ! あたしたち魔法少女だぞ! 他に同類なんていないんだぞ!」
243
足を止め、やや悔しそうに俯くさやか。
244
さやか「あたしは、あたしのやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい。あたしは負けないし、もう恨んだりもしないよ」
245
そう言い残し、教会を出て行くさやか。
246
杏子、悔しさに歯噛みしつつ、八つ当たりのように林檎に噛みつく。
247
248
口朝の通学路
249
一人、とぼとぼと歩いて登校途中のさやか。
250
その後ろからまどかと仁美が追いつく。
251
まどか「さやかちゃん、おはよ!」
252
仁美「おはようございます。さやかさん」
253
さやか「ぁ、ああ。ーーおはよっ」
254
普段の元気を取り繕って、挨拶を返すさやか。
255
その空元気を見透かして、少しだけ心配になるまどか。
256
仁美「昨日はどうかしたんですの?」
257
さやか「ん~、ちょっとばかり風邪っぽくてね」
258
まどか「さやかちゃん...」
259
大丈夫? と言いかけるまどかに、念話で先回りするさやか。
260
さやか『大丈夫だよ。もう平気。心配いらないから』
261
まどか「...」
262
さやか「さーて、今日も張り切ってーー」
263
言いかけるさやかだが、松葉杖をつきながら登校途中の恭介の姿を見つけ、思わず硬直する。
264
仁美「あら...上条くん、退院なさったんですの?」
265
驚く仁美。
266
恭介は杖での歩行に苦労しつつも、行き合うクラスメイトたちと朗らかに挨拶を交わしている。
267
さやか「...」
268
喜びよりも気まずさが先に立っさやかの表情。それを見咎めたまどかの顔も、やや曇る。
269
270
口学校・教室
271
HR前の賑わい。
272
久々に登校してきた恭介の机の周りに、クラスメイトたちが集まっている。
273
中沢「上条...もう怪我はいいのかよ?」
274
恭介「ああ。家に籠もってたんじゃリハビリにならないしね。
275
来週までに松葉杖なしで歩くのが目標なんだ」
276
そんな恭介を巡る話の輪に、さやかは気後れして入っていけず、遠巻きに眺めている。隣にはまどかと仁美。
277
まどか「良かったね、上条くん」
278
さやか「うん...」
279
まどか「さやかちゃんも、行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょう?」
280
さやか「あたしは...いいよ」
281
仁美「...」
282
普段と違って元気のないさやかが、心配になるまどか。
283
仁美は仁美で、そんなさやかを見つめながら、何やら考え込んでいる。
284
285
口ファーストフード店
286
放課後の寄り道。仁美とさやかが差し向かいに座っている。そこはかとなく緊張した空気。
287
さやか「...それで、話って、なに?」
288
仁美「恋の、相談ですわ」
289
思い詰めた風に告げる仁美。つられて緊張の面持ちのさやか。
290
仁美「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんですの」
291
さやか「え?うん...」
292
仁美「ずっと前から...私、上条恭介くんのことお慕いしてましたのよ」
293
衝撃を受けて日を見張るさやか。
294-
夜、悄然としながらも、魔女探しのために外に出てくるさやか。その後に続くキユウベえ。
294+
295
ともかく動揺を押し隠そうとするさやかだが、上手くいかない。
296
さやか「あ、ハハ...まさか仁美がねえ。な~んだ、恭介のヤツも隅に置けないなあ」
297
すべて見透かしている仁美は真顔のまま。
298
仁美「さやかさんは、上条くんとは幼馴染みでしたわね」
299
さやか「んん、まあ、その...腐れ縁っていうか、何ていうか...」
300
仁美「本当に、それだけ?」
301-
まどか「さやかちゃんに、独りぼっちになってほしくないの。
301+
302-
だから...」
302+
303
仁美「私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって。あなたはどうですか?さやかさん、あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
304-
さやか「あんた、何で...何でそんなに、優しいかなあ...
304+
305-
あたしには、そんな価値なんてないのに...」
305+
306
毅然と言い放つ仁美に気圧されて、声も山せないさやか。
307
仁美「上条くんのことを見つめていた時間は、私より、さやかさんの方が上ですわ。だからあなたには私の先を越す権利があるべきです」
308
さやか「仁美...」
309
仁美「私、明日の放課後に上条くんに告白します。丸一日だけお待ちしますわ。その問に...さやかさんは後悔なさらないよう、決めて下さい。上条くんに気持ちを伝えるべきかどうか」
310
さやか「ぁ、あたしは...」
311
仁美は席を立ち、さやかに一礼して去っていく。
312
313
口さやかの部屋。
314
夜、部屋の明かりを務とし、勉強机のスタンドだけを点して、椅子にかけたまま俯いているさやか。
315
机の上には、彼女を催促するかのように輝いているソウルジエム。
316
暗い部屋の片隅に座ったキユウべえが、さやかの背中に戸をかける。
317
キュゥベえ「今夜は、どうするんだい?」
318
さやか「...分かってるわよ。そろそろ行くから」
319
さやか、ソルジエムを掴み取って立ち上がる。
320
321
口美樹家のアパートの前
322
悄然としながらも、魔女探しのために外に出てくるさやか。その後に続くキユウベえ。
323
すると五話のときと同様に、まどかが街灯の下で待っている。
324
それに気付いて、やや驚くさやか。
325
さやか「まどか...」
326
まどか「ついてって、いいかな?」
327
さやか「...」
328
全てに見捨てられたかのような気分で、自分の価値を見失いつつあるさやかは、まどかの優しさに戸惑うしかない。
329
まどか「さやかちゃんに、独りぼっちになってほしくないの。だから...」
330
上手く言えないまどか。だがさやかの目から涙が溢れ出る。
331
さやか「あんた、何で...何でそんなに、優しいかなあ...あたしには、そんな価値なんてないのに...」
332
まどか「そんなーー」
333
とめどなく泣くさやか。自責の念に歯止めが利かない。
334
さやか「あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった」
335
まどか「...」
336
さやか「あのとき仁美を助けなければって...ほんの一瞬だけ、思っちゃった...正義の味方、失格だよ...:マミさんに、顔向けできない...」
337
見ていられなくなって、さやかを抱きしめるまどか。
338
さやか「仁美に、恭介を取られちゃうよ...でもあたし、何もできない...」
339
まどかの腕の中で、泣きじゃくるさやか。
340
さやか「だってあたし、もう死んでるんだもん、ゾンピだもん...こんな身体で、抱きしめてなんて言えない...キスしてなんて、言えない...」
341-
魔女と織烈な戦いを演じているさやか。その後ろで見守っているまどかとキユウベえ。
341+
342
まどかも釣られて泣きながら、それでも慰めの言葉ひとつ言えない。
343
二人はしばしの間、抱き合ったまま、ただ涙を流し続ける。
344
x x x 
345
ややあって、ようやく泣きやむさやか。まどかの腕の中から身を離す。
346
さやか「...ありがと。ごめんね」
347
まどか「さやかちゃん...」
348
さやか「もう大丈夫。すっきりしたから」
349
涙を拭ぃ、気丈に微笑むさやか。
350
さやか「さあ、行こ。今夜も魔女をやっつけないと」
351
まどか「...うん」
352
353
口倉庫街
354
誰もいないコンテナの谷間に、魔女の結界を示す空間のゆらぎがある。
355
結界内の激しい戦いを暗示するかのように、時折、小さな放電が散っている。
356
その様子を、頭上に聳えるクレーンの上に腰掛けて眺めている杏子。暗鬱な無表情のまま、アイスキャンデーを食べている。
357
さらにそこにほむらが姿を現し、杏子の背後に立つ。
358
ほむら「黙って見てるだけだなんて、意外だわ」
359
杏子「...今日のあいつは使い魔じゃなくて魔女と戦ってる。ちゃんとグリーフシードも落とすだろ。無駄な狩りじゃないよ」
360
ほむら「そんな理由で、あなたが獲物を譲るなんてね」
361
杏子「...」
362
杏子が言い返そうとしたとき、結界の歪みが、ひときわ激しく脈動する。舌打ちする杏子。
363
杏子「あの馬鹿、手こずりゃがって...」
364
365
口結界内部
366
魔女と熾烈な戦いを演じているさやか。その後ろで見守っているまどかとキユウベえ。
367
使い魔よりはるかに強力な魔女との戦いは久々で、さやかは苦戦を強いられる。見守るまどかも気が気ではない。
368
さやか「くッ...」
369
さやか、ついに強力な攻撃を立て続けに食らい、膝をつく。無防備なその隙に、とどめの一撃を浴びせようとする魔女。
370
まどか「さやかちゃん、危ない...!」
371
だがそこに、横合いから割リ込んだ杏子の一撃が炸裂する。吹き飛ばされる魔女。
372
杏子「まったく...見てらんねーつつーの」
373
アイスキャンデーを咥えたまま、鼻を鳴らす杏子。
374
杏子「いいからもう、すっこんでなよ。手本を見せてやるからさ...」
375
さやかを背後に庇ったまま、槍を構える杏子。
376
だが立ち上がったさやかは、ゆっくりと杏子を押しのけて前に出る。
377
杏子「おいーー」
378
さやか「邪魔しないで。一人でやれるわ」
379
再び攻撃を仕掛けてくる魔女。だがさやかは避けようともせず真っ向から無防備に突進する。
380
両者、相打ち。さやかの剣は魔女を扶るが、彼女もまた大ダメージを受ける。
381
まどか「さやかちゃん!?」
382
悲鳴を上げるまどか。
383
だが魔女が苦悶に身を捩る一方で、さやかの方は傷など意に介さず笑っている。
384
さやか「はは...あはは...」
385
杏子「アン夕、まさか...」
386
息を呑む杏子。
387
魔女、苦し紛れの反撃。今度もまたそれを避けず、クロスカウンターの剣撃を叩き込むさやか。
388
見るも無惨なほど血にまみれながら、それでもカラカラと笑っているさやか。
389
さやか「あははっ、本当だあ...その気になれば、痛みなんて...完全に消しちゃ、えるんだあ...」
390
笑いながら魔女に追い打ちをかけるさやか。どんな反撃を食らおうとお構いなしに、ただ相手を切り刻むことにのみ専念する。
391
あまりにも無惨な光景に、ただ言葉もなく息を呑む杏子。
392
まどかは正視できずに目を逸らす。
393
まどか「やめて...もう、やめて...」
394
まどかの声など耳に届かず、笑いながら剣を振り続けるさやか。その狂おしい声は泣いているようにさえ聞こえる。