Vi_Vi

Sudachi (Valentine's ver.) MSS JP Text

Feb 10th, 2023
83
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Never
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  1. FILENAME: text_311391-1.txt
  2. みかげ: …………あっ!
  3. 月出里: …………むっ!
  4. みかげ: すーたん!
  5. 月出里: ふーむん!
  6. ガシッ
  7. みかげ: 久しぶりだね~!
  8. みかげ: アレ? ちょっと雰囲気変わった?
  9. 月出里: ふむっむむんふ~!
  10. みかげ: そっか! 気のせいかな
  11. 月出里: ふむっ!
  12. みかげ: 急に遊ぼうってメッセージが来て ビックリしちゃった
  13. みかげ: すーたんたち、今は神浜市の 近くでお仕事なんだっけ?
  14. 月出里: うん! 宝崎市だよ!
  15. みかげ: お手伝いはしなくても よかったの?
  16. 月出里: んーとね、明後日から バレンタインでしょ?
  17. 月出里: 調整屋でもいろんなイベントを 予定しててね
  18. 月出里: で、もしかしたら忙しくなるかも しれないから
  19. 月出里: 今の内に遊んどき、って リヴィアさんが休みをくれたんだ
  20. みかげ: そうなんだ! じゃあ今日は
  21. みかげ: お仕事のこと忘れて おもいっきり遊ぼう!
  22. 月出里: うん!
  23. 月出里: あ、あのビル、テラピチに よく載ってるところだよね
  24. みかげ: 1090だね! 栄区のシンボル!
  25. みかげ: オシャレな子はみんな あそこで買い物するんだって~
  26. 月出里: 神浜市を拠点にしてる頃は
  27. 月出里: いつか行きたいな~って 思ってたけど
  28. 月出里: 結局1度も 行くことがなかったなぁ
  29. みかげ: そうだったんだ! なら、今日入っちゃおうよ!
  30. みかげ: ミィもまだ早い気がして 入ったことないけど
  31. みかげ: すーたんは次、いつ来られるか わかんないし!
  32. 月出里: うん、そうだね!
  33. みかげ: わぁ~! なんかすごいね~!
  34. 月出里: キラキラしてて お祭りとかパーティみたいで…
  35. 月出里: うん、買えるものが なんにもないっ!
  36. みかげ: あははっ! そうだね、なんにも買えない!
  37. 月出里: でも、見てるだけで楽しいっ!
  38. みかげ: わかるっ!
  39. みかげ: …あれ? あっちでみんな並んでる
  40. 月出里: …バレンタインの特設ブースって 書いてあるね
  41. みかげ: あー、バレンタインか
  42. みかげ: …………
  43. みかげ: よく見たらいろんなお店で
  44. みかげ: バレンタインのイベントを やってるね
  45. 月出里: そうだねー
  46. みかげ: みんな楽しそうだけど… ミィたちには関係ないかなー
  47. 月出里: そうだね…
  48. みかげ: 好きな子とかいないし
  49. 月出里: わたしも
  50. みかげ: クラスの子たちは、友チョコとか 交換するみたいだけど
  51. 月出里: わたし…そういうのは やったことないなぁ
  52. みかげ: お金ももったいないしねー
  53. キキーーッ!!
  54. 「な、なんだ!? 車が暴走してるぞ!」
  55. 月出里: ふむ…?
  56. みかげ: なんだろ…
  57. 月出里&みかげ: ――っ!?
  58. みかげ: 魔女の反応!
  59. 月出里: じゃあもしかして今の車は 魔女の口づけを受けて…?
  60. みかげ: かもしんない! じゃあ、先に車を止めて…
  61. 月出里: 次に、魔女退治だね!
  62. 月出里: 行こうっ!
  63. みかげ: わ、すーたんのその恰好何!? かわいい!
  64. 月出里: ありがと!
  65. 月出里: 調整屋を宣伝するために 調整してもらったんだよ
  66. みかげ: へ~
  67.  
  68. FILENAME: text_311391-2.txt
  69. みかげ: あ、いた!
  70. みかげ: すーたん!魔女だよ! 一気に倒しちゃおう!
  71. 月出里: …………
  72. みかげ: すーたん?
  73. 月出里: こういうのも なんか久しぶりだね
  74. みかげ: あはは、本当だねっ! 最強小学生コンビ復活!
  75. 月出里: せーの…
  76. 月出里&みかげ: どっかーーーん!!
  77. みかげ: うん、今日は絶好調!
  78. 月出里: わたしも!
  79. う、うぅ…
  80. みかげ: あ、魔女の口づけを受けてた人 起きたみたいだ!
  81. あれ?僕はいったい何を…? というかこの町はどこ…?
  82. みかげ: 神浜市だよ!
  83. 神浜市…?
  84. ああ、そうか ぼんやり思い出してきた
  85. たしかお店で使うお菓子の材料を トラックで運んでる最中で…
  86. みかげ: 運転してたら具合が悪くなって ここで休憩してたんだね!
  87. 月出里: (本当は暴走してるところを わたしたちで止めたんだけど…)
  88. みかげ: それをミィたちが見つけて かいほーしてあげたんだよ!
  89. みかげ: ひとりで寝てて危なかったから!
  90. そうなのかい?
  91. それはお世話になったんだね 何かお礼をしないと…
  92. みかげ: えー!?いいよいいよ
  93. みかげ: そんなつもりで 言ったわけじゃないし
  94. みかげ: あ、でもお菓子を運んでるって おじさん言ってたけど
  95. みかげ: ちょっと気になるなーって 思ってみたり…
  96. 月出里: (ミィちゃん…)
  97. ん?ああ、そうだね…
  98. 正確には お菓子じゃなくて材料だけど…
  99. とりあえず見るかい?
  100. ほら
  101. みかげ: わー!すごい! 段ボールがぎゅうぎゅう詰めー!
  102. 月出里: ふむふんむふむむ…? ふむむふむんふっむふむ?
  103. …え? …………あれ?君、もしかして…
  104. みかげ: あ、えーと お菓子屋さんなの?だって
  105. あ、ああ…そうだね 洋菓子店を経営してて…
  106. まあ、トラックを借りたり ドライバーを雇うお金もないから
  107. 仕入れは自分で運ばなきゃ いけないくらい小さな店だけど
  108. みかげ: すごーい!
  109. そうだ、お礼の話に戻るけど ここにある材料とかどうだろう
  110. 月出里: ふむっ!?
  111. うーん… あ、これとかどうかな
  112. 業務用プレーンチョコの塊
  113. 手作りチョコの材料になるから 今の時期にいいかも
  114. ドサッ…
  115. みかげ: わ、重たい! こんなにいいの!?やったー!
  116. 月出里: え、受け取ってもいいのかな…? お仕事で使うはずだったのに…
  117. 月出里: お店、大変なことになるんじゃ…
  118. みかげ: 確かに
  119. みかげ: 大丈夫? お店潰れない?
  120. ははは もういいんだよ
  121. みかげ: いいんだ!やったー!
  122. 月出里: ふむ…
  123. 僕にも君たちぐらいの子どもが いたからね
  124.  
  125. FILENAME: text_311391-3.txt
  126. みかげ: 次はどこいく?
  127. 月出里: ふーむ…
  128. ドサッ…
  129. 月出里: ふんむむふむむんふむむ…
  130. 月出里: ふーむんむむ ふっむむふんむ
  131. みかげ: ? 別にいいけど、なんで
  132. 月出里: ふっむむ ふむっむむふむん…
  133. 月出里: ふむむふ…
  134. みかげ: あ! そうだね、それ名案だよ!
  135. 月出里: ふむっ!
  136. みかげ: さっそく出発だ!
  137. みかげの声: ただいまー!
  138. 月出里の声: ふむむふむーん!
  139. みたま: ミィ?もう帰ってきたの?
  140. みかげ: 久しぶりに お家で遊ぼうってなって
  141. 月出里: ふむっ!
  142. みたま: あら、月出里ちゃんも! お久しぶりね、いらっしゃい
  143. 月出里: ふんむむふ!
  144. みたま: って、ふたりとも その荷物はなあに?
  145. みかげ: おじさんがくれたの! チョコ!
  146. みたま: …?
  147. みたま: なるほど、偉いわねふたりとも
  148. みたま: その助けたお礼として 材料をいただいたのね
  149. みかげ: そうそう!
  150. みかげ: それですーたんが 『一緒に友チョコを作ろう』って
  151. みかげ: 完成したらお互いのを 交換するの!
  152. みたま: あらぁ~ それはいい案ね!
  153. 月出里: ふむっ!
  154. みたま: ちょうどわたしも調整屋で配る チョコを作ってたところだし
  155. みたま: 一緒にどうかしら?
  156. 月出里: ふむっ!
  157. みかげ: い、いや、いいよいいよ!
  158. 月出里: ふむ…?
  159. みたま: でも、キッチンは使うでしょ? コンロに土鍋に…
  160. みかげ: コンロも土鍋も使わないから 大丈夫!
  161. みかげ: もう、すーたんとふたりっきりで 作るって決めたんだから
  162. みたま: あら、それもそうね お邪魔しちゃうところだったわ
  163. みかげ: ふぅ…
  164. 月出里: あ、断っちゃうの? 子どもだけだと不安だから
  165. 月出里: お姉さんもいると 安心かなって思ったけど…
  166. みかげ: すーたんは姉ちゃの料理のヤバさ 加減を知らないから言えるんだよ
  167. 月出里: お料理、苦手なんだ
  168. みかげ: 苦手なんてもんじゃないよ
  169. みかげ: 姉ちゃのチョコを食べると 虫歯がね…
  170. 月出里: 増えるの…?
  171. みかげ: 治っちゃうの
  172. 月出里: 治っちゃうの…!?
  173. みかげ: 虫歯菌が死んじゃうの! それぐらい破壊力のある地獄!
  174. 月出里: そうなんだ 怖いね…
  175. みかげ: でもすーたんの言う通り 子どもだけじゃ不安だから
  176. みかげ: もうひとりの名誉姉ちゃに きゅーえんよーせいだ!
  177. 月出里: ふむ?
  178.  
  179. FILENAME: text_311391-4.txt
  180. ラビ: なるほど それで私の知見が必要と…
  181. 月出里: ふむむんふむん
  182. みかげ: ごめんね~
  183. みかげ: 一応ネットで調べたけど わかんないことが多くて…
  184. ラビの声: ネットのレシピと同じ器具や 材料が揃うとは限りませんからね
  185. ラビの声: 意外とレシピ通りに 作るのは難しかったりします
  186. ラビの声: その点、私なら ビデオ通話を通して
  187. ラビの声: 臨機応変な アドバイスができるのでご安心を
  188. みかげ: ラビたん心強い!
  189. 月出里: ふむーっ!
  190. ラビの声: それで、どういったチョコを ご所望でしょうか
  191. 月出里: ふむむふ!
  192. みかげ: うん、それがいいね! テラピチに載ってるようなの!
  193. ラビの声: デコレーション優先で派手な キラキラしたもの、でしょうか
  194. みかげ: そうそう! そんな感じ!
  195. 月出里: ふむっ
  196. ラビ: わかりました お安い御用です
  197. ラビ: 遠隔でも 完璧な指導をしてみせます
  198. 月出里の声: ふむ~!
  199. みかげの声: こう?
  200. ラビ: あっ違います そういう意味じゃないです!
  201. ラビ: 貸してください!
  202. ラビ: 違う、遠隔でした
  203. みかげの声: わぁっ!? 手が滑った!
  204. 月出里の声: ふむむっ!?
  205. ラビ: ほら言わんこっちゃない! 大丈夫ですか
  206. みかげ: ―みかげ― 大丈夫大丈夫 ひっくり返るところだったけど
  207. 月出里: ―月出里― ふむっ! ふむむふむ
  208. ラビの声: ―ラビの声― 跳ねただけ、ですか ならひと安心です
  209. みかげ: ―みかげ― あ、それよりチョコ 結構いい感じだよね?
  210. 月出里: ―月出里― ふむっ!
  211. ラビの声: ―ラビの声― はい、わちゃわちゃはありましたが 思ったよりも上手くいっています
  212. ラビの声: ―ラビの声― おふたりとも、とても手先が器用で 非常にいい素質を持っていますね
  213. 月出里: ―月出里― ふむっ!
  214. ラビの声: ―ラビの声― それに比べて那由他様ときたら…
  215. 那由他の声: ―那由他の声― なんですの~?
  216. ラビの声: ―ラビの声― あっ、大丈夫です 那由他様を呼んだわけではないので
  217. 那由他の声: ―那由他の声― そうでしたの ならいいですの
  218. ラビの声: ひとまずこれで大丈夫です
  219. ラビの声: 次は型に入れて デコレーションですね
  220. ラビの声: 今混ぜたチョコでおおよそ カップチョコ6つ分です
  221. 月出里: ふっむん ふむむふん…!
  222. ラビの声: それでは 材料が足りませんか?
  223. みかげ: あ、そうじゃなくてね むしろ余っちゃいそうだなって…
  224. ラビの声: なるほど、そういった事情が… 確かに全てを使い切ろうとしたら
  225. ラビの声: カップチョコ換算で100個ほど 作れてしまいそうです
  226. 月出里: ふむっ!?
  227. みかげ: そんなにできちゃうんだ
  228. みかげ: チョコ1個に必要なチョコの量が 全然わかんなかったから…
  229. 月出里: ふむっふむむ…
  230. みかげ: ね… 余らせたくないな…
  231. ラビの声: おふたりがどこまで 労力を割けるかにもよりますが…
  232. ラビの声: 余らせたくないのであれば 使い切った上で配るのもよいかと
  233. みかげ: それもそうだね 交換して余ったら配ろうか
  234. 月出里: ふむ、ふむむ?
  235. みかげ: 誰にって、そりゃあ………… 誰に?
  236. ラビの声: 恋人やお友だちに限定する 必要はありませんよ
  237. ラビの声: 普段お世話になっていると 感じる相手や
  238. ラビの声: ご自分が大切だと思う人になら 配ってよいと思います
  239. みかげ: そっか! じゃあラビたんにも配るね
  240. ラビの声: うっ…さすがみかげさん 今度のおやつは奮発しましょう
  241. 月出里: …………
  242. 月出里: (大切な人、かぁ…)
  243. 月出里: ふんむむむふむふー…
  244.  
  245. FILENAME: text_311392-1.txt
  246. みかげ: チョコを渡す相手は 『お世話になった人』や
  247. みかげ: 『大切な人』なら お友だちじゃなくてもいいんだね
  248. みかげ: ミィ、そういう人 たっくさんいるよ!
  249. みかげ: ラビたんもだし! なゆたんもだし!
  250. 那由他の声: お電話から私の名前が 聞こえましたの
  251. ラビの声: ふふふ…さてなんでしょうね お楽しみに…
  252. みかげ: もちろん姉ちゃに ママにパパに…
  253. みかげ: じいちゃやばあちゃも大切!
  254. みかげ: あとは産休でお休み中の 先生とかも!
  255. みかげ: みんな大切な人だから みんなにチョコ渡したいな!
  256. 月出里: (そっか、一緒に住んでる人に チョコを渡すのもアリなんだ)
  257. 月出里: (それなら…リヴィアさんや ヨヅルにも渡したいな…)
  258. 月出里: (とっても大切な人だし… お世話にもなってるし…)
  259. 月出里: (他には…)
  260. 月出里: ミィちゃんが渡すらしいけど
  261. 月出里: わたしも那由他さんとラビさんに 渡した方がいいのかな…
  262. 月出里: 何度かお世話になってるし… 神浜市の人の中では比較的よく話す方だし…
  263. 月出里: 向こうがどう思ってるかはわからないけど 友だちが親しくしてる人ではあるし
  264. 月出里: これからもミィちゃんをお願いしますって 意味も込めて…渡すべきだよね
  265. 月出里: そういう意味ではみたまさんにも渡したいな ほとんど話したことないけど…
  266. 月出里: 妹の友だちから突然チョコを貰ったら ちょっと気持ち悪いかな…?
  267. 月出里: こういう温度感、わからないや
  268. 月出里: あとは、あした屋のおばあさんとか そこで知り合ったあの子たちとかも…
  269. 月出里: あーでもこの人たちに渡すなら 他にも渡すべき魔法少女がいそうな気がする…
  270. 月出里: 思い返せばいろんな人にお世話になってるから 調整屋として、お店とお客さんの立場だとしても 渡すべきなのかもしれない
  271. 月出里: あれ? ミィちゃんと半分こしての50個じゃ 足りない気がしてきた…
  272. 月出里: ふむ~!
  273. みかげ: あ、すーたん、困ってる?
  274. 月出里: うんとね、誰に渡せばいいのか わかんなくなってきた
  275. 月出里: とっても仲のいい人は 数人いるかいないかだけど
  276. 月出里: ちょっと仲のいい人は 100人くらいいる気がして…
  277. みかげ: わかる!ミィもそんな感じ
  278. みかげ: あの人に渡すならこの人にも… って考えたらキリがないよね!
  279. 月出里: どこかで線引きをしないと いけないのかな…
  280. みかげ: それは…大切な人ランキングを 作っちゃうとか…?
  281. 月出里: うん… TOP50に入った人まで渡す…
  282. みかげ: なんか辛いね…
  283. 月出里: うん…自分で言ったことだけど これは嫌だな…
  284. 月出里: 51番目の子が知ったら ショックで立ち直れないよ…
  285. みかげ: なんであの子には渡して
  286. みかげ: 同じくらい遊んでる 私にはくれないの?ってなる…
  287. 月出里: 大切な人には変わりないのにね…
  288. 月出里: …………
  289. 月出里: やっぱり人間関係って 複雑で、考えることも多くて
  290. 月出里: 大変だなぁ…
  291.  
  292. FILENAME: text_311392-2.txt
  293. 月出里: (人間関係は 色んな気を遣って大変…)
  294. 月出里: (たぶん、全部逃げてチョコは ミィちゃんにだけ渡して)
  295. 月出里: (残りは自分で食べちゃうのが 1番楽で尾を引かない…)
  296. 月出里: (でも…)
  297. 月出里: (わたしはもう、 そういう生き方をしないって)
  298. 月出里: (誓ったんだ…)
  299. 月出里: 学校に通っていた頃のわたしは 人間関係の構築に わずらわしさやバカバカしさを感じていて
  300. 月出里: クラスの誰とも仲良くなろうと していなかった
  301. 月出里: 結果として誰からもイジメられることはないし 誰かに気を遣うこともないから ストレスは一切なかったんだけど…
  302. 月出里: クラスの誰にとっても 「大切な人でない」わたしは
  303. 月出里: この人がクラスのわたしたちを 人質にして立てこもった時
  304. 月出里: みんなから生贄に選ばれてしまった
  305. 月出里: これは誰とも仲良くしてこなかった わたしに原因がある…
  306. 月出里: なんて思えるほど性格が良くないわたしは みんなのことが腹立たしくてイラ立たしくて
  307. 月出里: わたしは、たまたま目の前にいたキュゥべえに 願いを叶えてもらった
  308. 月出里: こういうの、逆恨みって言うんだよね?
  309. 月出里: その逆恨みによる願いは ただわたしが生贄にされた状態より 何倍も悲惨な結果になった
  310. 月出里: クラスメイトはわたしを残して 全員が死んだ
  311. 月出里: しかも願いや魔法を知らない周りに人たちは わたしをただ運よく生き残った被害者として 慰めて、優しくしてくれている…
  312. 月出里: もしわたしが人間関係を ちゃんと築けていたら 生贄には選ばれなかったに違いない
  313. 月出里: わたしが生贄に選ばれていなかったら あんな願いを叶えることもなくて クラスの全員が死ぬなんてこともなかった
  314. 月出里: それどころか、もっと正しい願いを叶えて みんなが幸せになる結末になったはず
  315. 月出里: (だから、そんなわたしが)
  316. 月出里: (この期に及んで 人間関係を面倒くさがって)
  317. 月出里: (チョコを配らないなんてのは 絶対に許されないことなんだ…)
  318. みかげ: ケンカになったり 誰かが悲しむのはイヤだな…
  319. 月出里: ふむぅ…
  320. みたま: ちょっとふたりの会話が 聞こえてきたんだけど
  321. みたま: ふたりとも真剣に悩みすぎよぉ もっと気楽でいいのに
  322. 月出里: ふむ?
  323. みかげ: ミィたちは姉ちゃみたいな テキトーな人間じゃないの!
  324. みたま: ふーん せっかくいい案があったのに
  325. みかげ: 教えて!
  326. みたま: 大切な魔法少女に順位を つけたくないなら
  327. みたま: 魔法少女のよく来る場所に 置いておけばいいの
  328. みたま: 配るのはやめて
  329. みたま: 「ご自由にお取りください」って ひとこと添えてね
  330. みかげ: …あ、そっか! それなら早い者勝ちだから!
  331. みたま: ええ、後腐れはない それでいてちゃんと想いは伝わる
  332. 月出里: …………!
  333. みかげ: じゃあ特別に大切な人の分と あした屋さんに置く分を分けて
  334. みかげ: 残りは全部姉ちゃの調整屋さんに 置いちゃおっか
  335. 月出里: ふむむー!
  336. みたま: 月出里ちゃん…
  337. みたま: あなたに何があったのか 正確なことは知らないけど…
  338. みたま: わたしも学校生活で苦労してね
  339. みたま: そういうときほど 極端な考えにいきがちだった
  340. みたま: でもね、本当はテキトーな方が うまくいったりするの
  341. みたま: 世の中そんなに 悪い人ばかりじゃないし
  342. みたま: 何より疲れちゃうわ
  343. 月出里: …………
  344. 月出里: (そっか…わたし 極端だったんだ)
  345. 月出里: (独りでいようとし続けた 反省をしたつもりだったけど…)
  346. 月出里: (それはそれで 普通になれてなかった…)
  347. 月出里: …ふむむふん ふむむふ!
  348. みたま: ええ、どういたしまして
  349. ラビの声: おふたりとも大変失礼しました
  350. ラビの声: 私のひとことで 混乱させてしまい…
  351. みかげ: そんなことないよ! ラビたんが言ってくれなかったら
  352. みかげ: なゆたんやじいちゃたちに 渡すことも思いつかなかったし!
  353. ラビの声: そう言っていただければ 何よりです
  354. ラビの声: さて、そろそろデコレーションの 工程になりますが…
  355. ラビの声: 何か盛りたい材料はありますか?
  356. みかげ: しまった、チョコはあるけど デコレーションの材料はない!
  357. 月出里: ふむむふん!
  358. みたま: それならわたしが使ってるのを あげるわよ
  359. みかげ: そういえば姉ちゃも チョコ作ってるんだっけ
  360. みかげ: 何があるの?
  361. みたま: 卵と油でできたテンペラとか
  362. みかげ: 何それ おいしそう!
  363. ラビの声: あ、ダメですよ それは絵具の一種です
  364. みかげ: ミ、ミィ…今年はちょっと 絵具の気分じゃないかな~
  365. みたま: そう? なら他には…
  366. ラビの声: もっとこう…普通の…
  367. ラビの声: カラフルシュガーなどは ないのでしょうか
  368. みたま: それなら、お正月にお雑煮の 材料として買ったのが余ってるわ
  369. ラビの声: お雑煮に…?なぜ…? で、でもそちらは使えますね
  370. ラビの声: あとはドライフルーツなども 酸味が効いてよいのですが…
  371. みたま: それなら、おせちの煮干しに 買ったのが余ってるわ
  372. ラビの声: 煮干しに…?なぜ…? ま、まあいいでしょう…
  373. みかげ: 奇跡的になんとかなりそうだね!
  374. 月出里: ふむっ!
  375. ピロン♪
  376. 月出里: ふむ?
  377.  
  378. FILENAME: text_311392-3.txt
  379. <2月14日・バレンタイン当日>
  380. <現・ピュエラケアの拠点 宝崎市>
  381. ザワザワ…
  382. 月出里: …………
  383. リヴィアの声: す、月出里~!
  384. リヴィアの声: ちょっとこっちで 調整手伝ってくれへんか!?
  385. 月出里: ふ、ふむっ!
  386. ヨヅルの声: そ、そんな!
  387. ヨヅルの声: 月出里には盛り付けを 頼もうと思っていたのですが…!
  388. 月出里: ふ、ふむっ!?
  389. ヨヅルの声: …先生の用事が終わり次第 私の協力もお願いします
  390. 月出里: ふむ!
  391. 月出里: い、忙しいね…
  392. リヴィア: こんなに人が来るとはな… 想定外すぎて準備不足や…!
  393. 月出里: わたしの宣伝、 全然うまくいかなかったのにね…
  394. リヴィア: …………
  395. リヴィア: ほれ、順番待ちしとる あの客さん見てみい
  396. 月出里: ん…?
  397. リヴィアの声: あれ、宣伝担当の月出里が 作って配ったチラシやろ?
  398. 月出里の声: ふむ…!
  399. リヴィアの声: まだ調整を受けることには 警戒があるようやけど
  400. リヴィアの声: 常連の子をキッカケに 評判を知ったせいか
  401. リヴィアの声: もろたチラシに書いてある キャンペーンにやったら
  402. リヴィアの声: 参加してもええかなって 思って来とる雰囲気や
  403. 月出里の声: ふむ…?
  404. あーあ まだ調整を受けるのは怖いけど
  405. 他の子も来てるみたいだし
  406. せっかくのキャンペーンだから 私も来ちゃった
  407. リヴィアの声: 口にも出しとるやん
  408. 月出里の声: ふんふむ
  409. リヴィア: ちゃんと月出里の宣伝に 意味はあったんや
  410. リヴィア: 今からでも頑張れば もっともっと常連は増えて
  411. リヴィア: 調整の依頼も絶対に増える!
  412. 月出里: ふむっ!
  413. リヴィア: そもそもな、一度失敗した からって
  414. リヴィア: 全部が台無しになるわけでも ないんやで
  415. リヴィア: ほら、ヨヅルの方におる子 見てみ
  416. 月出里: ふむ?
  417. ヨヅル: あなたは…
  418. ヨヅル: 宝崎市に来る前に 拠点にしていた町の…
  419. 来ちゃった
  420. もう渡すチョコを 用意しちゃってたからね
  421. ほんと、バレンタイン前に 出て行くなんて思わなかった
  422. ヨヅル: それは大変なご迷惑を おかけしました
  423. ヨヅル: 遠方からはるばるのご足労 ありがとうございます
  424. ヨヅル: どうぞゆっくり おくつろぎください
  425. 言われなくても そうしまーす
  426. リヴィア: な?
  427. リヴィア: 積み上げて来たもんがあれば それがきっと助けてくれる
  428. 月出里: ふむ…!
  429. みかげ: すーたん! 遊びに来たよ!
  430. みかげ: わ、すごい人!
  431. 月出里: ミィちゃん!
  432. 月出里: ミィちゃんも 助けに来てくれたの?
  433. みかげ: ううん、遊びに来たんだよ!
  434. 月出里: それでも助かるの! ありがとう!
  435. 真井 あかり: ピュエラケアのみなさん お久しぶりです、こんにちは!
  436. 由良 蛍: おやすみなさい…
  437. 智珠 らんか: ほら、 冷やかしに来てやったよ
  438. 恵 萌花: もう、らんかちゃん お礼を言いに来たんだよ
  439. 智珠 らんか: (萌花なんかに怒られた…)
  440. リヴィア: お礼?
  441. 真井 あかり: みたまさんの調整屋に行ったら
  442. 真井 あかり: 月出里さんとみかげさんの 作ったチョコが置いてあって
  443. 真井 あかり: とてもおいしかったので そのお礼と言いますか…
  444. 真井 あかり: 色々話を聞いてる内に
  445. 真井 あかり: となりの宝崎市にいるって知って 顔を出そうってなったんです
  446. リヴィア: 状況説明ありがとうな えらいしっかりしとるわ
  447. 真井 あかり: えへへ~
  448. 恵 萌花: でも、なんだかお店は 大変そうだね
  449. 真井 あかり: うん… お邪魔でしたか…?
  450. リヴィア: いやいや、そんな…
  451. 恵 萌花: 私にできることがあったら なんでも手伝いますよ!
  452. 恵 萌花: うんとこどっこいしょ
  453. 由良 蛍: …………
  454. 由良 蛍: 萌花だけじゃ危なっかしいから 私も手伝うね~…
  455. 真井 あかり: ――っ!?
  456. 真井 あかり: ほ、蛍が自分から動くなんて… 嵐が訪れる前触れかも…!
  457. 真井 あかり: いや、それを引き出した萌花さん いったい何者なの…!?
  458. 智珠 らんか: 本格的に驚きすぎでしょ
  459. 智珠 らんか: (…なんかアタシ、すっかり こっちの魔法少女になってんな)
  460. リヴィア: なんもせんでええよ
  461. リヴィア: 顔が見れただけでも 嬉しいわ
  462. リヴィア: この人らが来てくれたのも 月出里のおかげやな
  463. 月出里: ふむっ!
  464. ヨヅル: 先生、この空間は今ほぼ全て 月出里が中心の繋がりです
  465. リヴィア: そうやなぁ
  466. リヴィア: 少し前ならこんなことは ありえへんかった
  467. リヴィア: 最近は人と関わっても、悪夢を 見る頻度は減っとるらしいし…
  468. ヨヅル: 少しずつ 変わっているのですね
  469.  
  470. FILENAME: text_311392-4.txt
  471. 真井 あかり: ピュエラケアのみなさん ありがとうございました!
  472. 恵 萌花: また来ますね!
  473. みかげ: 夜になったら メッセージ送るから!
  474. リヴィア: やっと閉店や~~!
  475. 月出里: ふむぅ~~…
  476. ヨヅル: さすがの私もヘトヘトです
  477. リヴィア: …………
  478. 月出里: …………
  479. ヨヅル: …………
  480. リヴィア: いかんいかん このままやと寝てまう
  481. ヨヅル: 食事を用意します
  482. リヴィア: ん~ヨヅルも疲れとるし
  483. リヴィア: 今日は缶詰とかお菓子で 済ませてもええんちゃう?
  484. 月出里: あ、それなら!
  485. 月出里: 夜ごはんの 代わりになるかわからないけど…
  486. 月出里: これ! ヨヅルとリヴィアさんに!
  487. ヨヅル: おお、バレンタインチョコですね ありがとうございます
  488. ヨヅル: 月出里の手作りですか 素晴らしい…
  489. リヴィア: ありがとう
  490. リヴィア: さっき神浜市の子らが 言っとったやつやな
  491. 月出里: うん、ミィちゃんと一緒に 作ったんだ
  492. 月出里: ラビさんから アドバイスも貰って
  493. ヨヅル: では私からも おふたりに
  494. リヴィア: じゃあ私からも ふたりに
  495. リヴィア&ヨヅル: あれ?
  496. 月出里: みんなで交換会だね!
  497. ヨヅル: ―ヨヅル― こうして並べると 三者三様ですね
  498. リヴィア: ―リヴィア― 月出里のはきゃぴきゃぴして かわええなぁ
  499. 月出里: ―月出里― テラピチに載ってたのを イメージしましたっ!
  500. ヨヅル: ―ヨヅル― なるほど、私にない引き出しですね
  501. リヴィア: ―リヴィア― 爪楊枝で刺せばええんか? たこ焼きみたいでええな
  502. ヨヅル: ―ヨヅル― あ、今のは少し失礼では…?
  503. リヴィア: ―リヴィア― ど、どういう意味や!
  504. リヴィア: ―リヴィア― ソウルフードで例えられるなんて これ以上ないほめ言葉やろ!
  505. リヴィア: ―リヴィア― 私の魂に匹敵するもんやって 言ったようなもんやで?
  506. ヨヅル: ―ヨヅル― …なるほど、失礼しました
  507. ヨヅル: ―ヨヅル― あ、先生のチョコも とても高価そうでオシャレです
  508. リヴィア: ―リヴィア― せやねん!めっちゃ高かってん!
  509. 月出里: ―月出里― おいしい! 香りだけでもうおいしい!
  510. リヴィア: ―リヴィア― 奮発したかいあったわ
  511. 月出里: ―月出里― ヨヅルのは私と同じで手作り? キレイなハートだけど…
  512. ヨヅル: ―ヨヅル― はい、ネットにはこれがもっとも 大切な人への想いが伝わるとあったので
  513. リヴィア: ―リヴィア― これ、今日のお客さんにも 配ってたよな?
  514. ヨヅル: ―ヨヅル― はい みなさん大切なお客様なので
  515. リヴィア: ―リヴィア― 不特定多数にハート型の手作りチョコか…
  516. 月出里: ―月出里― ヨヅル… いつか刺されるよ…
  517. ヨヅル: ―ヨヅル― ええっ!? なぜ!?
  518. リヴィア: ―リヴィア― そんな表現を使う月出里にも びっくりやなぁ
  519. 月出里: (ふぅ…)
  520. 月出里: (今年のバレンタインは 色々あったけど…)
  521. 月出里: (今までで1番 楽しかったかな…)
  522. 月出里: (だからこれ以上を望むのは… 欲張り…なのかな…)
  523. ヨヅル: どうされましたか、月出里
  524. リヴィア: なんや、さっきまでの 元気がないなぁ
  525. リヴィア: やり残したことあるんか?
  526. 月出里: ふむっ!?
  527. 月出里: (なんでわかるの…?)
  528. ヨヅル: 実は気になっていたのですが…
  529. ヨヅル: 月出里が先ほどチョコを 取り出した紙袋…
  530. ヨヅル: まだ中身がありますよね?
  531. 月出里: …………
  532. リヴィア: ん、配り忘れか?
  533. リヴィア: 那由他ちゃんのとこか… あした屋さんとかか?
  534. 月出里: ううん 両方とも渡してきたよ
  535. リヴィア: じゃあ…?
  536. 月出里: このチョコはね… お母さんとお父さんの分…
  537. 月出里: ちょうどミィちゃんと 誰に渡すか、を話してたとき…
  538. 月出里: わたしにとって誰が大切な人か 考えてたときにね…
  539. みかげ: 奇跡的になんとかなりそうだね!
  540. 月出里: ふむっ!
  541. ピロン♪
  542. 月出里: ふむ?
  543. 月出里: (お母さんからだ…)
  544. 月出里、お元気ですか お母さんたちは元気です 次はいつ会えますでしょうか
  545. ちょっとメッセージじゃ伝えづらい 大事な話もあって… もし気が向いたら、また顔を見せてください
  546. 月出里: …………
  547. 月出里: そのときは「行けたら行く」と だけ返事して
  548. 月出里: ふたりの分の チョコは用意しといたんだ
  549. 月出里: バレンタインの日に暇だったら 行けばいいかなって考えて
  550. 月出里: でも、今日は思った以上に 忙しくて…
  551. ヨヅル: 言い出せなかった、と
  552. リヴィア: なんや、そんなことかいな
  553. 月出里: ふむっ?
  554. リヴィア: 外は暗いけど…今何時や?
  555. ヨヅル: 冬は日が沈むのが早いので 実はまだ19時です
  556. リヴィア: 今から走らせれば余裕やんか
  557. 月出里: む…?
  558. リヴィア: 今から行けば日付をまたぐ前… 2月14日中に間に合う
  559. ヨヅル: …行きましょうか 月出里のお家に
  560. 月出里: ええっ!?
  561. リヴィア: 月出里、お母さんに
  562. リヴィア: “これから行く”って メッセージし
  563. 月出里: で、でもリヴィアさん 今日はもうヘトヘトだし…
  564. 月出里: 明日もこっちでお仕事だから 夜中に運転してすぐ働くことに…
  565. リヴィア: かめへんよ だって女の子はな…
  566. リヴィア: 甘いチョコを食べれば 体力が完全に回復するんや
  567. リヴィア: 夜中まで運転したる 寝不足上等や!
  568. 月出里: …………!
  569. 月出里: ふむんむむ、ふむんむん
  570.  
  571. FILENAME: text_311393-1.txt
  572. キキッ
  573. リヴィア: …アカン、こっから先は 住宅街で道が狭いな…
  574. リヴィア: もうすぐなんやけどな…
  575. ヨヅル: このトレーラーで進めるかは… 引き返すのも難しそうですね
  576. 月出里: ここから家までは歩いてすぐだし わたしひとりで行くよ
  577. リヴィア: …………ほうか 付き添いは…必要ないか?
  578. 月出里: うん、わたしのことだし ここまで送ってくれてありがとう
  579. ヨヅル: 家族水入らずの夜を どうかお楽しみください
  580. 月出里: うん!
  581. 月出里: …………
  582. 月出里: …………
  583. 月出里: …………
  584. ぐすっ…ぐすっ… ずび…
  585. 月出里: ――っ!?
  586. 月出里: (な、何…? 誰かいるの…?)
  587. うぅ… ぐすっ…
  588. 月出里: (男の人が…泣いてる…? どうしたんだろ…)
  589. 月出里: ――っ!?
  590. 月出里: (この人…)
  591. ん…?
  592. 君は…確か神浜市で 助けてくれた…
  593. 月出里: ふ、ふむ…!
  594. こんなことあるんだね
  595. あんなに離れた町の子と 再会するなんて…
  596. 僕はこっちの町の人間 なんだけど…
  597. 月出里: ふ、ふむむん
  598. え? 君もなのかい?
  599. 月出里: ふむ…
  600. ――っ!?
  601. …そうだ 助けてもらったときも
  602. もっと以前に、 どこかで君を見た気がしたんだ
  603. 思い出した…! 君は、佐和月出里ちゃん…
  604. 娘の同級生だね…?
  605. 月出里: ――っ!?
  606. 僕にも君たちぐらいの子どもが いたからね
  607. 月出里: (「いるから」じゃなくて 「いたから」…)
  608. 月出里: (そうだった… この町に帰ってくるなら)
  609. 月出里: (こういう出会いがあることも 覚悟してないといけなかった…)
  610. 月出里: (この人は…わたしの願いが 殺してしまった子の…)
  611. 月出里: (遺された家族なんだ…)
  612.  
  613. FILENAME: text_311393-2.txt
  614. 僕はね…叶えたい夢があったり 何者かになりたいわけじゃない
  615. 娘が…ただアイツだけが 生きる理由だったんだ
  616. そのために仕事もたくさんして アイツのために頑張ってきた…
  617. 月出里: …………
  618. 生きる理由を 失ったようなものでね
  619. 月出里: (そんな絶望した状態で 魔女の口づけを受けた…)
  620. 月出里: (助けた後もどこか落ち着いてた のは、それが理由…?)
  621. それで、アイツの痕跡が残る あの家に帰るのは億劫で
  622. 夜な夜な公園で 時間を潰してるってわけさ
  623. ダメな大人だろう?
  624. 月出里: ふ…む…
  625. そういえば君は家を離れて この町を出たんだっけ?
  626. 月出里: ふむ…
  627. ムリもないよ
  628. あんな悲惨な事件を 目の当たりにしたんだ
  629. 月出里: (違う… ただ見たわけじゃない…)
  630. 君もたくさんの友だちを失って 傷ついたんだろう…
  631. 言葉まで失って… この町にいるのは辛いよね…
  632. 月出里: (違う…! そんな同情はしないで…!)
  633. 月出里: (わたしは思われてるほど キレイな被害者じゃない!)
  634. 今日はバレンタインだから ご両親に会いに来たのかな?
  635. 月出里: ふ、ふむ…
  636. あ、もしかして そのチョコって…
  637. 月出里: む…
  638. やっぱり
  639. 僕があげた材料から 作ったんだね
  640. とても素晴らしいことだと思うよ
  641. 月出里: …………
  642. 月出里: (この人が子どもから してもらえないことを…)
  643. 月出里: (今からわたしはお父さんたちに しようとしてる…)
  644. …はは 気まずくなる必要はないよ
  645. ちょっとでも助けになったなら あげて正解だった
  646. 月出里: …………
  647. 月出里: (例えば、今ここで この人にチョコを半分渡したら)
  648. 月出里: (この人は少し励まされた 気がして、元気になるのかな…)
  649. 月出里: (けどそれって 本当にいいこと…?)
  650. 月出里: (きっと、違うよね…)
  651. 月出里: (嫌味にもなっちゃいそうだし 自己満足って感じ…)
  652. 月出里: (そうだよ…)
  653. 月出里: (そもそもわたしがこの人に 何かしようってのが)
  654. 月出里: (おこがましいんだ…!)
  655. 月出里: (今わたしにできる償いは… この人と離れて…)
  656. 月出里: (お母さんたちと会わずに 帰るだけ…)
  657. 会わずに帰ろうとしてない?
  658. 月出里: …!
  659. ダメだよ、会ってあげなさい 僕のことを気にする必要はない
  660. 月出里: ふむ…
  661. 生き残ったからには…………
  662. “罪を背負って死ね”
  663. あの事件を忘れて 生き抜いてほしい
  664. 月出里: (違う!)
  665. 月出里: (そんなわたしにとって都合の いい言葉を言っちゃダメっ!)
  666. 月出里: (何も知らないから… しょうがないんだけど…)
  667. スッ…スッ…
  668. ん?スマホ…?
  669. ありがとう お仕事、これからも頑張って
  670. さようなら
  671. はは…うん、そうだね 『これからも』頑張るよ
  672. 月出里: (わたしにできるのは ここまで…)
  673. じゃあ、またね
  674. …見抜かれちゃってたのかな 全部、投げ出そうとしてるの
  675. 月出里: …………
  676. 月出里: (あの人はわたしに 優しくしてくれたけど…)
  677. 月出里: (それはわたしを キレイな被害者と思ってるから)
  678. 月出里: (もし事件の真相を知ったら きっとあの人も…)
  679. 月出里: …………
  680. 月出里: (あの人が誰のお父さんなのか わからないけど…)
  681. 月出里: (とっても大切にされてた子 だったんだね…)
  682. 月出里: …………
  683. 月出里: (生き残ったのがわたしで ごめんなさい…)
  684.  
  685. FILENAME: text_311393-3.txt
  686. 月出里の母: 月出里おかえり~!
  687. 月出里の父: おかえり、月出里
  688. 月出里: ふむっ
  689. 月出里の母: さっそく持ってきてくれたチョコ みんなで食べようか
  690. 月出里の母: 今準備するから
  691. 月出里の父: そうだ月出里 これ見て
  692. スッ…
  693. 月出里の父: 「わたしは、月出里の お父さん、です」
  694. 月出里: ――っ!?
  695. 月出里: 『手話だ! すっごく上手になったね』
  696. 月出里の母: 「お母さんも、 ちゃんと、上達、してるのよ」
  697. 月出里: 『すごい! まあ、わたしに比べたらまだまだだけど』
  698. 月出里の父: ははは、そうだな
  699. 月出里の父: 3人一緒に習い始めたのに 月出里はすぐマスターしちゃって
  700. 月出里の母: 月出里は昔から 物覚えがいいから
  701. 月出里の母: それに比べて私たちは… ほんと、歳を取ったわね
  702. 月出里: 『でも、そこまでできるなら 十分だよ』
  703. 月出里の父: ということで、伝える方は 少したどたどしいけど
  704. 月出里の父: 人の手話を読む方は スラスラできるようになったから
  705. 月出里の母: いつまでも筆談じゃ 大変でしょ?
  706. 月出里の母: これからは手話を使って 話してくれていいから
  707. 月出里: 『ありがとう これでだいぶ話しやすい』
  708. 月出里の母: 月出里は何を飲む?
  709. 月出里: 『ロースタリーラテ・ウィズモカシロップ』
  710. 月出里の母: ははーん …ココアね
  711. 月出里の父: お父さんたちも まだまだ修行が足りんな!
  712. 月出里: むふふっ!
  713. 月出里の母: はい、用意できたよ
  714. 月出里の父: じゃあ、せーの…
  715. みんな: 「かんぱーい」
  716. 月出里の父: さっそくお父さんは 月出里の作ったチョコを…
  717. パクッ
  718. 月出里の父: ん!うまい! よくできてるよこれ!
  719. 月出里: ふむぅっ!
  720. 月出里の母: 飾りつけもとってもキレイで 見るだけで楽しいよ
  721. 月出里の父: 丁寧な仕事するよな 手先、器用だもんな
  722. 月出里の父: でもごめんな…
  723. 月出里の父: こっちが用意したのは コンビニのスイーツで…
  724. 月出里: 『しょうがないよ 急に連絡したんだし』
  725. 月出里: 『まさかリヴィアさんに 連れてってもらえるとは思ってなかったし』
  726. 月出里の母: そうだ、リヴィアさんたちにも お礼を言わないとね
  727. 月出里の父: それでな、月出里…
  728. 月出里: ふむ?
  729. 月出里の母: メッセージでも伝えたでしょ? 大事な話があるって
  730. 月出里: ふむ…
  731. 月出里の父: これはあくまで提案でな 決めるのは月出里でいい
  732. 月出里の父: もう…この家を売って みんなで引っ越さないか?
  733. 月出里: ――っ!?
  734. 月出里の母: 実は前々からふたりで 引っ越そうかって話はしててね…
  735. 月出里の母: お金もちょっとずつ 貯めてたの
  736. 月出里の父: この間のボーナスを合わせて ギリギリの目処はついたんだ
  737. 月出里の父: 家のローンはまだまだあるから 売り手を見つけるのは難しいけど
  738. 月出里の父: 決して不可能でもない
  739. 月出里の母: ねえ、月出里は どうしたい?
  740. 月出里: …………
  741.  
  742. FILENAME: text_311393-4.txt
  743. 月出里: (いつか引っ越すのは なんとなく予感してた…)
  744. 月出里: (でも、いざその話をされると びっくりしちゃうな…)
  745. 月出里の父: 月出里はもう十分苦しんだ…
  746. 月出里の父: 辛いことを 嫌でも思い出すこの町に
  747. 月出里の父: 住所を残す必要もないと思う
  748. 月出里の母: 登校を再開するにしても 別の学校の方が通いやすいはず
  749. 月出里の母: ねえ、もう全部忘れて 別の町で再スタートしよう?
  750. 月出里: …………
  751. あの事件を忘れて 生き抜いてほしい
  752. 月出里: …………
  753. 月出里: (お母さんたちの言葉は とっても耳障りがよくて)
  754. 月出里: (つい 甘えてしまいたくなるけど…)
  755. 月出里: (それはあくまで 真相を知らない人の意見だ…)
  756. 月出里: (それにお父さんたちは “このこと”を忘れてる…)
  757. 月出里: (だから…)
  758. 月出里: 『ごめん 引っ越したくない』
  759. 月出里の父: …………!
  760. 月出里の父: そう、か…
  761. 月出里の母: まだ、背負い続けるの…?
  762. 月出里: 『うん… 忘れられないし… 忘れちゃいけないことだと思ってる』
  763. 月出里: 『だから、完全になかったことにして 引っ越しちゃうのは』
  764. 月出里: 『わたしがわたしを許せない』
  765. 月出里の母: …………
  766. 月出里: 『でもね 理由はそれだけじゃないんだ』
  767. 月出里の父: …なにかな
  768. 月出里: 『今、わたしはリヴィアさんたちとね “旅”をしてるの』
  769. 月出里の父: 旅…? それは何かの喩えで…?
  770. 月出里: 『うーん、半分はそうかも…』
  771. 月出里: 『とにかくわたしは旅をしていて でも旅には、いつか終わりが来る』
  772. 月出里の母: まあ…そうよね…
  773. 月出里: 『その旅の終わった帰る場所として この家を、残していてほしいな』
  774. 月出里: 『だってこの家にもこの町にも わたしがこれまで生きてきた たくさんの思い出があるから』
  775. 月出里の父: …!
  776. 月出里: 『わたしの帰ってくる場所は ここしかありえないよ』
  777. 月出里の父: ああ、そう…だったか… お父さんたちうっかりしてた…
  778. 月出里の母: そうね…
  779. 月出里の母: 月出里の人生は あの事件だけが全てじゃない
  780. 月出里の父: 生まれた頃からずっと… 10年以上も
  781. 月出里の父: この町で、色んなことを 経験して生きてきたんだ…
  782. 月出里の母: この子からすれば それは人生の9割以上だものね…
  783. 月出里の父: この町にも 大切な思い出はあるよな
  784. 月出里: 『うん 辛いこともたくさんあるけど わたしはこのお家、大好きだよ』
  785. 月出里: 『“このこと”は忘れないで欲しい』
  786. あの事件に引っ張られて そのことを無視してた
  787. 月出里の母: 私たちの方が事件に 囚われすぎてたのかもね…
  788. 月出里の父: ああ…忘れられないことと 囚われることは違う…
  789. 月出里の父: 月出里は事件を忘れない つもりのようだけど
  790. 月出里の父: でもちゃんと囚われずに 前にも進んでるんだな
  791. 月出里: 『ごめんね… お母さんもお父さんも この町にいるのは わたしと同じくらい辛いと思うし…』
  792. 月出里: 『せっかくお金も貯めてたみたいだけど…』
  793. 月出里の母: ふふ、気にしないで 使わないなら使わないで…
  794. 月出里の父: 新車に
  795. 月出里の母: 進学費用とか老後の蓄えにも 回せるから
  796. 月出里の父: そういうことだ
  797. 月出里: むふっ!
  798. 月出里の母: 本当に月出里は大きくなったね あ、それも旅の影響…?
  799. 月出里: …………
  800. 月出里: (そうなのかもしれない… たぶん今の言葉が出たのも…)
  801. 月出里: (前にヨヅルやリヴィアさんの 過去を聞いたからで…)
  802. 月出里: (全部の経験が今のわたしを 作ってるんだ)
  803. 月出里の母: そう もう行くのね
  804. 月出里: 『うん 明日も早いから』
  805. 月出里の父: 頑張れよ
  806. 月出里の父: いつでも帰ってきて いいんだからな
  807. 月出里の母: ここは月出里の帰ってくるところ
  808. 月出里の母: お母さんたち、“このこと”は 絶対に忘れない
  809. 月出里: ふむ!
  810. 月出里の母&父: 月出里、いってらっしゃい
  811. 月出里: 『お父さん、お母さん』
  812. 月出里: 『いってきます』
  813. 月出里: ふむむっむふむんむ、ふんむんむ
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