Not a member of Pastebin yet?
Sign Up,
it unlocks many cool features!
- FILENAME: text_311391-1.txt
- みかげ: …………あっ!
- 月出里: …………むっ!
- みかげ: すーたん!
- 月出里: ふーむん!
- ガシッ
- みかげ: 久しぶりだね~!
- みかげ: アレ? ちょっと雰囲気変わった?
- 月出里: ふむっむむんふ~!
- みかげ: そっか! 気のせいかな
- 月出里: ふむっ!
- みかげ: 急に遊ぼうってメッセージが来て ビックリしちゃった
- みかげ: すーたんたち、今は神浜市の 近くでお仕事なんだっけ?
- 月出里: うん! 宝崎市だよ!
- みかげ: お手伝いはしなくても よかったの?
- 月出里: んーとね、明後日から バレンタインでしょ?
- 月出里: 調整屋でもいろんなイベントを 予定しててね
- 月出里: で、もしかしたら忙しくなるかも しれないから
- 月出里: 今の内に遊んどき、って リヴィアさんが休みをくれたんだ
- みかげ: そうなんだ! じゃあ今日は
- みかげ: お仕事のこと忘れて おもいっきり遊ぼう!
- 月出里: うん!
- 月出里: あ、あのビル、テラピチに よく載ってるところだよね
- みかげ: 1090だね! 栄区のシンボル!
- みかげ: オシャレな子はみんな あそこで買い物するんだって~
- 月出里: 神浜市を拠点にしてる頃は
- 月出里: いつか行きたいな~って 思ってたけど
- 月出里: 結局1度も 行くことがなかったなぁ
- みかげ: そうだったんだ! なら、今日入っちゃおうよ!
- みかげ: ミィもまだ早い気がして 入ったことないけど
- みかげ: すーたんは次、いつ来られるか わかんないし!
- 月出里: うん、そうだね!
- みかげ: わぁ~! なんかすごいね~!
- 月出里: キラキラしてて お祭りとかパーティみたいで…
- 月出里: うん、買えるものが なんにもないっ!
- みかげ: あははっ! そうだね、なんにも買えない!
- 月出里: でも、見てるだけで楽しいっ!
- みかげ: わかるっ!
- みかげ: …あれ? あっちでみんな並んでる
- 月出里: …バレンタインの特設ブースって 書いてあるね
- みかげ: あー、バレンタインか
- みかげ: …………
- みかげ: よく見たらいろんなお店で
- みかげ: バレンタインのイベントを やってるね
- 月出里: そうだねー
- みかげ: みんな楽しそうだけど… ミィたちには関係ないかなー
- 月出里: そうだね…
- みかげ: 好きな子とかいないし
- 月出里: わたしも
- みかげ: クラスの子たちは、友チョコとか 交換するみたいだけど
- 月出里: わたし…そういうのは やったことないなぁ
- みかげ: お金ももったいないしねー
- キキーーッ!!
- 「な、なんだ!? 車が暴走してるぞ!」
- 月出里: ふむ…?
- みかげ: なんだろ…
- 月出里&みかげ: ――っ!?
- みかげ: 魔女の反応!
- 月出里: じゃあもしかして今の車は 魔女の口づけを受けて…?
- みかげ: かもしんない! じゃあ、先に車を止めて…
- 月出里: 次に、魔女退治だね!
- 月出里: 行こうっ!
- みかげ: わ、すーたんのその恰好何!? かわいい!
- 月出里: ありがと!
- 月出里: 調整屋を宣伝するために 調整してもらったんだよ
- みかげ: へ~
- FILENAME: text_311391-2.txt
- みかげ: あ、いた!
- みかげ: すーたん!魔女だよ! 一気に倒しちゃおう!
- 月出里: …………
- みかげ: すーたん?
- 月出里: こういうのも なんか久しぶりだね
- みかげ: あはは、本当だねっ! 最強小学生コンビ復活!
- 月出里: せーの…
- 月出里&みかげ: どっかーーーん!!
- みかげ: うん、今日は絶好調!
- 月出里: わたしも!
- う、うぅ…
- みかげ: あ、魔女の口づけを受けてた人 起きたみたいだ!
- あれ?僕はいったい何を…? というかこの町はどこ…?
- みかげ: 神浜市だよ!
- 神浜市…?
- ああ、そうか ぼんやり思い出してきた
- たしかお店で使うお菓子の材料を トラックで運んでる最中で…
- みかげ: 運転してたら具合が悪くなって ここで休憩してたんだね!
- 月出里: (本当は暴走してるところを わたしたちで止めたんだけど…)
- みかげ: それをミィたちが見つけて かいほーしてあげたんだよ!
- みかげ: ひとりで寝てて危なかったから!
- そうなのかい?
- それはお世話になったんだね 何かお礼をしないと…
- みかげ: えー!?いいよいいよ
- みかげ: そんなつもりで 言ったわけじゃないし
- みかげ: あ、でもお菓子を運んでるって おじさん言ってたけど
- みかげ: ちょっと気になるなーって 思ってみたり…
- 月出里: (ミィちゃん…)
- ん?ああ、そうだね…
- 正確には お菓子じゃなくて材料だけど…
- とりあえず見るかい?
- ほら
- みかげ: わー!すごい! 段ボールがぎゅうぎゅう詰めー!
- 月出里: ふむふんむふむむ…? ふむむふむんふっむふむ?
- …え? …………あれ?君、もしかして…
- みかげ: あ、えーと お菓子屋さんなの?だって
- あ、ああ…そうだね 洋菓子店を経営してて…
- まあ、トラックを借りたり ドライバーを雇うお金もないから
- 仕入れは自分で運ばなきゃ いけないくらい小さな店だけど
- みかげ: すごーい!
- そうだ、お礼の話に戻るけど ここにある材料とかどうだろう
- 月出里: ふむっ!?
- うーん… あ、これとかどうかな
- 業務用プレーンチョコの塊
- 手作りチョコの材料になるから 今の時期にいいかも
- ドサッ…
- みかげ: わ、重たい! こんなにいいの!?やったー!
- 月出里: え、受け取ってもいいのかな…? お仕事で使うはずだったのに…
- 月出里: お店、大変なことになるんじゃ…
- みかげ: 確かに
- みかげ: 大丈夫? お店潰れない?
- ははは もういいんだよ
- みかげ: いいんだ!やったー!
- 月出里: ふむ…
- 僕にも君たちぐらいの子どもが いたからね
- FILENAME: text_311391-3.txt
- みかげ: 次はどこいく?
- 月出里: ふーむ…
- ドサッ…
- 月出里: ふんむむふむむんふむむ…
- 月出里: ふーむんむむ ふっむむふんむ
- みかげ: ? 別にいいけど、なんで
- 月出里: ふっむむ ふむっむむふむん…
- 月出里: ふむむふ…
- みかげ: あ! そうだね、それ名案だよ!
- 月出里: ふむっ!
- みかげ: さっそく出発だ!
- みかげの声: ただいまー!
- 月出里の声: ふむむふむーん!
- みたま: ミィ?もう帰ってきたの?
- みかげ: 久しぶりに お家で遊ぼうってなって
- 月出里: ふむっ!
- みたま: あら、月出里ちゃんも! お久しぶりね、いらっしゃい
- 月出里: ふんむむふ!
- みたま: って、ふたりとも その荷物はなあに?
- みかげ: おじさんがくれたの! チョコ!
- みたま: …?
- みたま: なるほど、偉いわねふたりとも
- みたま: その助けたお礼として 材料をいただいたのね
- みかげ: そうそう!
- みかげ: それですーたんが 『一緒に友チョコを作ろう』って
- みかげ: 完成したらお互いのを 交換するの!
- みたま: あらぁ~ それはいい案ね!
- 月出里: ふむっ!
- みたま: ちょうどわたしも調整屋で配る チョコを作ってたところだし
- みたま: 一緒にどうかしら?
- 月出里: ふむっ!
- みかげ: い、いや、いいよいいよ!
- 月出里: ふむ…?
- みたま: でも、キッチンは使うでしょ? コンロに土鍋に…
- みかげ: コンロも土鍋も使わないから 大丈夫!
- みかげ: もう、すーたんとふたりっきりで 作るって決めたんだから
- みたま: あら、それもそうね お邪魔しちゃうところだったわ
- みかげ: ふぅ…
- 月出里: あ、断っちゃうの? 子どもだけだと不安だから
- 月出里: お姉さんもいると 安心かなって思ったけど…
- みかげ: すーたんは姉ちゃの料理のヤバさ 加減を知らないから言えるんだよ
- 月出里: お料理、苦手なんだ
- みかげ: 苦手なんてもんじゃないよ
- みかげ: 姉ちゃのチョコを食べると 虫歯がね…
- 月出里: 増えるの…?
- みかげ: 治っちゃうの
- 月出里: 治っちゃうの…!?
- みかげ: 虫歯菌が死んじゃうの! それぐらい破壊力のある地獄!
- 月出里: そうなんだ 怖いね…
- みかげ: でもすーたんの言う通り 子どもだけじゃ不安だから
- みかげ: もうひとりの名誉姉ちゃに きゅーえんよーせいだ!
- 月出里: ふむ?
- FILENAME: text_311391-4.txt
- ラビ: なるほど それで私の知見が必要と…
- 月出里: ふむむんふむん
- みかげ: ごめんね~
- みかげ: 一応ネットで調べたけど わかんないことが多くて…
- ラビの声: ネットのレシピと同じ器具や 材料が揃うとは限りませんからね
- ラビの声: 意外とレシピ通りに 作るのは難しかったりします
- ラビの声: その点、私なら ビデオ通話を通して
- ラビの声: 臨機応変な アドバイスができるのでご安心を
- みかげ: ラビたん心強い!
- 月出里: ふむーっ!
- ラビの声: それで、どういったチョコを ご所望でしょうか
- 月出里: ふむむふ!
- みかげ: うん、それがいいね! テラピチに載ってるようなの!
- ラビの声: デコレーション優先で派手な キラキラしたもの、でしょうか
- みかげ: そうそう! そんな感じ!
- 月出里: ふむっ
- ラビ: わかりました お安い御用です
- ラビ: 遠隔でも 完璧な指導をしてみせます
- 月出里の声: ふむ~!
- みかげの声: こう?
- ラビ: あっ違います そういう意味じゃないです!
- ラビ: 貸してください!
- ラビ: 違う、遠隔でした
- みかげの声: わぁっ!? 手が滑った!
- 月出里の声: ふむむっ!?
- ラビ: ほら言わんこっちゃない! 大丈夫ですか
- みかげ: ―みかげ― 大丈夫大丈夫 ひっくり返るところだったけど
- 月出里: ―月出里― ふむっ! ふむむふむ
- ラビの声: ―ラビの声― 跳ねただけ、ですか ならひと安心です
- みかげ: ―みかげ― あ、それよりチョコ 結構いい感じだよね?
- 月出里: ―月出里― ふむっ!
- ラビの声: ―ラビの声― はい、わちゃわちゃはありましたが 思ったよりも上手くいっています
- ラビの声: ―ラビの声― おふたりとも、とても手先が器用で 非常にいい素質を持っていますね
- 月出里: ―月出里― ふむっ!
- ラビの声: ―ラビの声― それに比べて那由他様ときたら…
- 那由他の声: ―那由他の声― なんですの~?
- ラビの声: ―ラビの声― あっ、大丈夫です 那由他様を呼んだわけではないので
- 那由他の声: ―那由他の声― そうでしたの ならいいですの
- ラビの声: ひとまずこれで大丈夫です
- ラビの声: 次は型に入れて デコレーションですね
- ラビの声: 今混ぜたチョコでおおよそ カップチョコ6つ分です
- 月出里: ふっむん ふむむふん…!
- ラビの声: それでは 材料が足りませんか?
- みかげ: あ、そうじゃなくてね むしろ余っちゃいそうだなって…
- ラビの声: なるほど、そういった事情が… 確かに全てを使い切ろうとしたら
- ラビの声: カップチョコ換算で100個ほど 作れてしまいそうです
- 月出里: ふむっ!?
- みかげ: そんなにできちゃうんだ
- みかげ: チョコ1個に必要なチョコの量が 全然わかんなかったから…
- 月出里: ふむっふむむ…
- みかげ: ね… 余らせたくないな…
- ラビの声: おふたりがどこまで 労力を割けるかにもよりますが…
- ラビの声: 余らせたくないのであれば 使い切った上で配るのもよいかと
- みかげ: それもそうだね 交換して余ったら配ろうか
- 月出里: ふむ、ふむむ?
- みかげ: 誰にって、そりゃあ………… 誰に?
- ラビの声: 恋人やお友だちに限定する 必要はありませんよ
- ラビの声: 普段お世話になっていると 感じる相手や
- ラビの声: ご自分が大切だと思う人になら 配ってよいと思います
- みかげ: そっか! じゃあラビたんにも配るね
- ラビの声: うっ…さすがみかげさん 今度のおやつは奮発しましょう
- 月出里: …………
- 月出里: (大切な人、かぁ…)
- 月出里: ふんむむむふむふー…
- FILENAME: text_311392-1.txt
- みかげ: チョコを渡す相手は 『お世話になった人』や
- みかげ: 『大切な人』なら お友だちじゃなくてもいいんだね
- みかげ: ミィ、そういう人 たっくさんいるよ!
- みかげ: ラビたんもだし! なゆたんもだし!
- 那由他の声: お電話から私の名前が 聞こえましたの
- ラビの声: ふふふ…さてなんでしょうね お楽しみに…
- みかげ: もちろん姉ちゃに ママにパパに…
- みかげ: じいちゃやばあちゃも大切!
- みかげ: あとは産休でお休み中の 先生とかも!
- みかげ: みんな大切な人だから みんなにチョコ渡したいな!
- 月出里: (そっか、一緒に住んでる人に チョコを渡すのもアリなんだ)
- 月出里: (それなら…リヴィアさんや ヨヅルにも渡したいな…)
- 月出里: (とっても大切な人だし… お世話にもなってるし…)
- 月出里: (他には…)
- 月出里: ミィちゃんが渡すらしいけど
- 月出里: わたしも那由他さんとラビさんに 渡した方がいいのかな…
- 月出里: 何度かお世話になってるし… 神浜市の人の中では比較的よく話す方だし…
- 月出里: 向こうがどう思ってるかはわからないけど 友だちが親しくしてる人ではあるし
- 月出里: これからもミィちゃんをお願いしますって 意味も込めて…渡すべきだよね
- 月出里: そういう意味ではみたまさんにも渡したいな ほとんど話したことないけど…
- 月出里: 妹の友だちから突然チョコを貰ったら ちょっと気持ち悪いかな…?
- 月出里: こういう温度感、わからないや
- 月出里: あとは、あした屋のおばあさんとか そこで知り合ったあの子たちとかも…
- 月出里: あーでもこの人たちに渡すなら 他にも渡すべき魔法少女がいそうな気がする…
- 月出里: 思い返せばいろんな人にお世話になってるから 調整屋として、お店とお客さんの立場だとしても 渡すべきなのかもしれない
- 月出里: あれ? ミィちゃんと半分こしての50個じゃ 足りない気がしてきた…
- 月出里: ふむ~!
- みかげ: あ、すーたん、困ってる?
- 月出里: うんとね、誰に渡せばいいのか わかんなくなってきた
- 月出里: とっても仲のいい人は 数人いるかいないかだけど
- 月出里: ちょっと仲のいい人は 100人くらいいる気がして…
- みかげ: わかる!ミィもそんな感じ
- みかげ: あの人に渡すならこの人にも… って考えたらキリがないよね!
- 月出里: どこかで線引きをしないと いけないのかな…
- みかげ: それは…大切な人ランキングを 作っちゃうとか…?
- 月出里: うん… TOP50に入った人まで渡す…
- みかげ: なんか辛いね…
- 月出里: うん…自分で言ったことだけど これは嫌だな…
- 月出里: 51番目の子が知ったら ショックで立ち直れないよ…
- みかげ: なんであの子には渡して
- みかげ: 同じくらい遊んでる 私にはくれないの?ってなる…
- 月出里: 大切な人には変わりないのにね…
- 月出里: …………
- 月出里: やっぱり人間関係って 複雑で、考えることも多くて
- 月出里: 大変だなぁ…
- FILENAME: text_311392-2.txt
- 月出里: (人間関係は 色んな気を遣って大変…)
- 月出里: (たぶん、全部逃げてチョコは ミィちゃんにだけ渡して)
- 月出里: (残りは自分で食べちゃうのが 1番楽で尾を引かない…)
- 月出里: (でも…)
- 月出里: (わたしはもう、 そういう生き方をしないって)
- 月出里: (誓ったんだ…)
- 月出里: 学校に通っていた頃のわたしは 人間関係の構築に わずらわしさやバカバカしさを感じていて
- 月出里: クラスの誰とも仲良くなろうと していなかった
- 月出里: 結果として誰からもイジメられることはないし 誰かに気を遣うこともないから ストレスは一切なかったんだけど…
- 月出里: クラスの誰にとっても 「大切な人でない」わたしは
- 月出里: この人がクラスのわたしたちを 人質にして立てこもった時
- 月出里: みんなから生贄に選ばれてしまった
- 月出里: これは誰とも仲良くしてこなかった わたしに原因がある…
- 月出里: なんて思えるほど性格が良くないわたしは みんなのことが腹立たしくてイラ立たしくて
- 月出里: わたしは、たまたま目の前にいたキュゥべえに 願いを叶えてもらった
- 月出里: こういうの、逆恨みって言うんだよね?
- 月出里: その逆恨みによる願いは ただわたしが生贄にされた状態より 何倍も悲惨な結果になった
- 月出里: クラスメイトはわたしを残して 全員が死んだ
- 月出里: しかも願いや魔法を知らない周りに人たちは わたしをただ運よく生き残った被害者として 慰めて、優しくしてくれている…
- 月出里: もしわたしが人間関係を ちゃんと築けていたら 生贄には選ばれなかったに違いない
- 月出里: わたしが生贄に選ばれていなかったら あんな願いを叶えることもなくて クラスの全員が死ぬなんてこともなかった
- 月出里: それどころか、もっと正しい願いを叶えて みんなが幸せになる結末になったはず
- 月出里: (だから、そんなわたしが)
- 月出里: (この期に及んで 人間関係を面倒くさがって)
- 月出里: (チョコを配らないなんてのは 絶対に許されないことなんだ…)
- みかげ: ケンカになったり 誰かが悲しむのはイヤだな…
- 月出里: ふむぅ…
- みたま: ちょっとふたりの会話が 聞こえてきたんだけど
- みたま: ふたりとも真剣に悩みすぎよぉ もっと気楽でいいのに
- 月出里: ふむ?
- みかげ: ミィたちは姉ちゃみたいな テキトーな人間じゃないの!
- みたま: ふーん せっかくいい案があったのに
- みかげ: 教えて!
- みたま: 大切な魔法少女に順位を つけたくないなら
- みたま: 魔法少女のよく来る場所に 置いておけばいいの
- みたま: 配るのはやめて
- みたま: 「ご自由にお取りください」って ひとこと添えてね
- みかげ: …あ、そっか! それなら早い者勝ちだから!
- みたま: ええ、後腐れはない それでいてちゃんと想いは伝わる
- 月出里: …………!
- みかげ: じゃあ特別に大切な人の分と あした屋さんに置く分を分けて
- みかげ: 残りは全部姉ちゃの調整屋さんに 置いちゃおっか
- 月出里: ふむむー!
- みたま: 月出里ちゃん…
- みたま: あなたに何があったのか 正確なことは知らないけど…
- みたま: わたしも学校生活で苦労してね
- みたま: そういうときほど 極端な考えにいきがちだった
- みたま: でもね、本当はテキトーな方が うまくいったりするの
- みたま: 世の中そんなに 悪い人ばかりじゃないし
- みたま: 何より疲れちゃうわ
- 月出里: …………
- 月出里: (そっか…わたし 極端だったんだ)
- 月出里: (独りでいようとし続けた 反省をしたつもりだったけど…)
- 月出里: (それはそれで 普通になれてなかった…)
- 月出里: …ふむむふん ふむむふ!
- みたま: ええ、どういたしまして
- ラビの声: おふたりとも大変失礼しました
- ラビの声: 私のひとことで 混乱させてしまい…
- みかげ: そんなことないよ! ラビたんが言ってくれなかったら
- みかげ: なゆたんやじいちゃたちに 渡すことも思いつかなかったし!
- ラビの声: そう言っていただければ 何よりです
- ラビの声: さて、そろそろデコレーションの 工程になりますが…
- ラビの声: 何か盛りたい材料はありますか?
- みかげ: しまった、チョコはあるけど デコレーションの材料はない!
- 月出里: ふむむふん!
- みたま: それならわたしが使ってるのを あげるわよ
- みかげ: そういえば姉ちゃも チョコ作ってるんだっけ
- みかげ: 何があるの?
- みたま: 卵と油でできたテンペラとか
- みかげ: 何それ おいしそう!
- ラビの声: あ、ダメですよ それは絵具の一種です
- みかげ: ミ、ミィ…今年はちょっと 絵具の気分じゃないかな~
- みたま: そう? なら他には…
- ラビの声: もっとこう…普通の…
- ラビの声: カラフルシュガーなどは ないのでしょうか
- みたま: それなら、お正月にお雑煮の 材料として買ったのが余ってるわ
- ラビの声: お雑煮に…?なぜ…? で、でもそちらは使えますね
- ラビの声: あとはドライフルーツなども 酸味が効いてよいのですが…
- みたま: それなら、おせちの煮干しに 買ったのが余ってるわ
- ラビの声: 煮干しに…?なぜ…? ま、まあいいでしょう…
- みかげ: 奇跡的になんとかなりそうだね!
- 月出里: ふむっ!
- ピロン♪
- 月出里: ふむ?
- FILENAME: text_311392-3.txt
- <2月14日・バレンタイン当日>
- <現・ピュエラケアの拠点 宝崎市>
- ザワザワ…
- 月出里: …………
- リヴィアの声: す、月出里~!
- リヴィアの声: ちょっとこっちで 調整手伝ってくれへんか!?
- 月出里: ふ、ふむっ!
- ヨヅルの声: そ、そんな!
- ヨヅルの声: 月出里には盛り付けを 頼もうと思っていたのですが…!
- 月出里: ふ、ふむっ!?
- ヨヅルの声: …先生の用事が終わり次第 私の協力もお願いします
- 月出里: ふむ!
- 月出里: い、忙しいね…
- リヴィア: こんなに人が来るとはな… 想定外すぎて準備不足や…!
- 月出里: わたしの宣伝、 全然うまくいかなかったのにね…
- リヴィア: …………
- リヴィア: ほれ、順番待ちしとる あの客さん見てみい
- 月出里: ん…?
- リヴィアの声: あれ、宣伝担当の月出里が 作って配ったチラシやろ?
- 月出里の声: ふむ…!
- リヴィアの声: まだ調整を受けることには 警戒があるようやけど
- リヴィアの声: 常連の子をキッカケに 評判を知ったせいか
- リヴィアの声: もろたチラシに書いてある キャンペーンにやったら
- リヴィアの声: 参加してもええかなって 思って来とる雰囲気や
- 月出里の声: ふむ…?
- あーあ まだ調整を受けるのは怖いけど
- 他の子も来てるみたいだし
- せっかくのキャンペーンだから 私も来ちゃった
- リヴィアの声: 口にも出しとるやん
- 月出里の声: ふんふむ
- リヴィア: ちゃんと月出里の宣伝に 意味はあったんや
- リヴィア: 今からでも頑張れば もっともっと常連は増えて
- リヴィア: 調整の依頼も絶対に増える!
- 月出里: ふむっ!
- リヴィア: そもそもな、一度失敗した からって
- リヴィア: 全部が台無しになるわけでも ないんやで
- リヴィア: ほら、ヨヅルの方におる子 見てみ
- 月出里: ふむ?
- ヨヅル: あなたは…
- ヨヅル: 宝崎市に来る前に 拠点にしていた町の…
- 来ちゃった
- もう渡すチョコを 用意しちゃってたからね
- ほんと、バレンタイン前に 出て行くなんて思わなかった
- ヨヅル: それは大変なご迷惑を おかけしました
- ヨヅル: 遠方からはるばるのご足労 ありがとうございます
- ヨヅル: どうぞゆっくり おくつろぎください
- 言われなくても そうしまーす
- リヴィア: な?
- リヴィア: 積み上げて来たもんがあれば それがきっと助けてくれる
- 月出里: ふむ…!
- みかげ: すーたん! 遊びに来たよ!
- みかげ: わ、すごい人!
- 月出里: ミィちゃん!
- 月出里: ミィちゃんも 助けに来てくれたの?
- みかげ: ううん、遊びに来たんだよ!
- 月出里: それでも助かるの! ありがとう!
- 真井 あかり: ピュエラケアのみなさん お久しぶりです、こんにちは!
- 由良 蛍: おやすみなさい…
- 智珠 らんか: ほら、 冷やかしに来てやったよ
- 恵 萌花: もう、らんかちゃん お礼を言いに来たんだよ
- 智珠 らんか: (萌花なんかに怒られた…)
- リヴィア: お礼?
- 真井 あかり: みたまさんの調整屋に行ったら
- 真井 あかり: 月出里さんとみかげさんの 作ったチョコが置いてあって
- 真井 あかり: とてもおいしかったので そのお礼と言いますか…
- 真井 あかり: 色々話を聞いてる内に
- 真井 あかり: となりの宝崎市にいるって知って 顔を出そうってなったんです
- リヴィア: 状況説明ありがとうな えらいしっかりしとるわ
- 真井 あかり: えへへ~
- 恵 萌花: でも、なんだかお店は 大変そうだね
- 真井 あかり: うん… お邪魔でしたか…?
- リヴィア: いやいや、そんな…
- 恵 萌花: 私にできることがあったら なんでも手伝いますよ!
- 恵 萌花: うんとこどっこいしょ
- 由良 蛍: …………
- 由良 蛍: 萌花だけじゃ危なっかしいから 私も手伝うね~…
- 真井 あかり: ――っ!?
- 真井 あかり: ほ、蛍が自分から動くなんて… 嵐が訪れる前触れかも…!
- 真井 あかり: いや、それを引き出した萌花さん いったい何者なの…!?
- 智珠 らんか: 本格的に驚きすぎでしょ
- 智珠 らんか: (…なんかアタシ、すっかり こっちの魔法少女になってんな)
- リヴィア: なんもせんでええよ
- リヴィア: 顔が見れただけでも 嬉しいわ
- リヴィア: この人らが来てくれたのも 月出里のおかげやな
- 月出里: ふむっ!
- ヨヅル: 先生、この空間は今ほぼ全て 月出里が中心の繋がりです
- リヴィア: そうやなぁ
- リヴィア: 少し前ならこんなことは ありえへんかった
- リヴィア: 最近は人と関わっても、悪夢を 見る頻度は減っとるらしいし…
- ヨヅル: 少しずつ 変わっているのですね
- FILENAME: text_311392-4.txt
- 真井 あかり: ピュエラケアのみなさん ありがとうございました!
- 恵 萌花: また来ますね!
- みかげ: 夜になったら メッセージ送るから!
- リヴィア: やっと閉店や~~!
- 月出里: ふむぅ~~…
- ヨヅル: さすがの私もヘトヘトです
- リヴィア: …………
- 月出里: …………
- ヨヅル: …………
- リヴィア: いかんいかん このままやと寝てまう
- ヨヅル: 食事を用意します
- リヴィア: ん~ヨヅルも疲れとるし
- リヴィア: 今日は缶詰とかお菓子で 済ませてもええんちゃう?
- 月出里: あ、それなら!
- 月出里: 夜ごはんの 代わりになるかわからないけど…
- 月出里: これ! ヨヅルとリヴィアさんに!
- ヨヅル: おお、バレンタインチョコですね ありがとうございます
- ヨヅル: 月出里の手作りですか 素晴らしい…
- リヴィア: ありがとう
- リヴィア: さっき神浜市の子らが 言っとったやつやな
- 月出里: うん、ミィちゃんと一緒に 作ったんだ
- 月出里: ラビさんから アドバイスも貰って
- ヨヅル: では私からも おふたりに
- リヴィア: じゃあ私からも ふたりに
- リヴィア&ヨヅル: あれ?
- 月出里: みんなで交換会だね!
- ヨヅル: ―ヨヅル― こうして並べると 三者三様ですね
- リヴィア: ―リヴィア― 月出里のはきゃぴきゃぴして かわええなぁ
- 月出里: ―月出里― テラピチに載ってたのを イメージしましたっ!
- ヨヅル: ―ヨヅル― なるほど、私にない引き出しですね
- リヴィア: ―リヴィア― 爪楊枝で刺せばええんか? たこ焼きみたいでええな
- ヨヅル: ―ヨヅル― あ、今のは少し失礼では…?
- リヴィア: ―リヴィア― ど、どういう意味や!
- リヴィア: ―リヴィア― ソウルフードで例えられるなんて これ以上ないほめ言葉やろ!
- リヴィア: ―リヴィア― 私の魂に匹敵するもんやって 言ったようなもんやで?
- ヨヅル: ―ヨヅル― …なるほど、失礼しました
- ヨヅル: ―ヨヅル― あ、先生のチョコも とても高価そうでオシャレです
- リヴィア: ―リヴィア― せやねん!めっちゃ高かってん!
- 月出里: ―月出里― おいしい! 香りだけでもうおいしい!
- リヴィア: ―リヴィア― 奮発したかいあったわ
- 月出里: ―月出里― ヨヅルのは私と同じで手作り? キレイなハートだけど…
- ヨヅル: ―ヨヅル― はい、ネットにはこれがもっとも 大切な人への想いが伝わるとあったので
- リヴィア: ―リヴィア― これ、今日のお客さんにも 配ってたよな?
- ヨヅル: ―ヨヅル― はい みなさん大切なお客様なので
- リヴィア: ―リヴィア― 不特定多数にハート型の手作りチョコか…
- 月出里: ―月出里― ヨヅル… いつか刺されるよ…
- ヨヅル: ―ヨヅル― ええっ!? なぜ!?
- リヴィア: ―リヴィア― そんな表現を使う月出里にも びっくりやなぁ
- 月出里: (ふぅ…)
- 月出里: (今年のバレンタインは 色々あったけど…)
- 月出里: (今までで1番 楽しかったかな…)
- 月出里: (だからこれ以上を望むのは… 欲張り…なのかな…)
- ヨヅル: どうされましたか、月出里
- リヴィア: なんや、さっきまでの 元気がないなぁ
- リヴィア: やり残したことあるんか?
- 月出里: ふむっ!?
- 月出里: (なんでわかるの…?)
- ヨヅル: 実は気になっていたのですが…
- ヨヅル: 月出里が先ほどチョコを 取り出した紙袋…
- ヨヅル: まだ中身がありますよね?
- 月出里: …………
- リヴィア: ん、配り忘れか?
- リヴィア: 那由他ちゃんのとこか… あした屋さんとかか?
- 月出里: ううん 両方とも渡してきたよ
- リヴィア: じゃあ…?
- 月出里: このチョコはね… お母さんとお父さんの分…
- 月出里: ちょうどミィちゃんと 誰に渡すか、を話してたとき…
- 月出里: わたしにとって誰が大切な人か 考えてたときにね…
- みかげ: 奇跡的になんとかなりそうだね!
- 月出里: ふむっ!
- ピロン♪
- 月出里: ふむ?
- 月出里: (お母さんからだ…)
- 月出里、お元気ですか お母さんたちは元気です 次はいつ会えますでしょうか
- ちょっとメッセージじゃ伝えづらい 大事な話もあって… もし気が向いたら、また顔を見せてください
- 月出里: …………
- 月出里: そのときは「行けたら行く」と だけ返事して
- 月出里: ふたりの分の チョコは用意しといたんだ
- 月出里: バレンタインの日に暇だったら 行けばいいかなって考えて
- 月出里: でも、今日は思った以上に 忙しくて…
- ヨヅル: 言い出せなかった、と
- リヴィア: なんや、そんなことかいな
- 月出里: ふむっ?
- リヴィア: 外は暗いけど…今何時や?
- ヨヅル: 冬は日が沈むのが早いので 実はまだ19時です
- リヴィア: 今から走らせれば余裕やんか
- 月出里: む…?
- リヴィア: 今から行けば日付をまたぐ前… 2月14日中に間に合う
- ヨヅル: …行きましょうか 月出里のお家に
- 月出里: ええっ!?
- リヴィア: 月出里、お母さんに
- リヴィア: “これから行く”って メッセージし
- 月出里: で、でもリヴィアさん 今日はもうヘトヘトだし…
- 月出里: 明日もこっちでお仕事だから 夜中に運転してすぐ働くことに…
- リヴィア: かめへんよ だって女の子はな…
- リヴィア: 甘いチョコを食べれば 体力が完全に回復するんや
- リヴィア: 夜中まで運転したる 寝不足上等や!
- 月出里: …………!
- 月出里: ふむんむむ、ふむんむん
- FILENAME: text_311393-1.txt
- キキッ
- リヴィア: …アカン、こっから先は 住宅街で道が狭いな…
- リヴィア: もうすぐなんやけどな…
- ヨヅル: このトレーラーで進めるかは… 引き返すのも難しそうですね
- 月出里: ここから家までは歩いてすぐだし わたしひとりで行くよ
- リヴィア: …………ほうか 付き添いは…必要ないか?
- 月出里: うん、わたしのことだし ここまで送ってくれてありがとう
- ヨヅル: 家族水入らずの夜を どうかお楽しみください
- 月出里: うん!
- 月出里: …………
- 月出里: …………
- 月出里: …………
- ぐすっ…ぐすっ… ずび…
- 月出里: ――っ!?
- 月出里: (な、何…? 誰かいるの…?)
- うぅ… ぐすっ…
- 月出里: (男の人が…泣いてる…? どうしたんだろ…)
- 月出里: ――っ!?
- 月出里: (この人…)
- ん…?
- 君は…確か神浜市で 助けてくれた…
- 月出里: ふ、ふむ…!
- こんなことあるんだね
- あんなに離れた町の子と 再会するなんて…
- 僕はこっちの町の人間 なんだけど…
- 月出里: ふ、ふむむん
- え? 君もなのかい?
- 月出里: ふむ…
- ――っ!?
- …そうだ 助けてもらったときも
- もっと以前に、 どこかで君を見た気がしたんだ
- 思い出した…! 君は、佐和月出里ちゃん…
- 娘の同級生だね…?
- 月出里: ――っ!?
- 僕にも君たちぐらいの子どもが いたからね
- 月出里: (「いるから」じゃなくて 「いたから」…)
- 月出里: (そうだった… この町に帰ってくるなら)
- 月出里: (こういう出会いがあることも 覚悟してないといけなかった…)
- 月出里: (この人は…わたしの願いが 殺してしまった子の…)
- 月出里: (遺された家族なんだ…)
- FILENAME: text_311393-2.txt
- 僕はね…叶えたい夢があったり 何者かになりたいわけじゃない
- 娘が…ただアイツだけが 生きる理由だったんだ
- そのために仕事もたくさんして アイツのために頑張ってきた…
- 月出里: …………
- 生きる理由を 失ったようなものでね
- 月出里: (そんな絶望した状態で 魔女の口づけを受けた…)
- 月出里: (助けた後もどこか落ち着いてた のは、それが理由…?)
- それで、アイツの痕跡が残る あの家に帰るのは億劫で
- 夜な夜な公園で 時間を潰してるってわけさ
- ダメな大人だろう?
- 月出里: ふ…む…
- そういえば君は家を離れて この町を出たんだっけ?
- 月出里: ふむ…
- ムリもないよ
- あんな悲惨な事件を 目の当たりにしたんだ
- 月出里: (違う… ただ見たわけじゃない…)
- 君もたくさんの友だちを失って 傷ついたんだろう…
- 言葉まで失って… この町にいるのは辛いよね…
- 月出里: (違う…! そんな同情はしないで…!)
- 月出里: (わたしは思われてるほど キレイな被害者じゃない!)
- 今日はバレンタインだから ご両親に会いに来たのかな?
- 月出里: ふ、ふむ…
- あ、もしかして そのチョコって…
- 月出里: む…
- やっぱり
- 僕があげた材料から 作ったんだね
- とても素晴らしいことだと思うよ
- 月出里: …………
- 月出里: (この人が子どもから してもらえないことを…)
- 月出里: (今からわたしはお父さんたちに しようとしてる…)
- …はは 気まずくなる必要はないよ
- ちょっとでも助けになったなら あげて正解だった
- 月出里: …………
- 月出里: (例えば、今ここで この人にチョコを半分渡したら)
- 月出里: (この人は少し励まされた 気がして、元気になるのかな…)
- 月出里: (けどそれって 本当にいいこと…?)
- 月出里: (きっと、違うよね…)
- 月出里: (嫌味にもなっちゃいそうだし 自己満足って感じ…)
- 月出里: (そうだよ…)
- 月出里: (そもそもわたしがこの人に 何かしようってのが)
- 月出里: (おこがましいんだ…!)
- 月出里: (今わたしにできる償いは… この人と離れて…)
- 月出里: (お母さんたちと会わずに 帰るだけ…)
- 会わずに帰ろうとしてない?
- 月出里: …!
- ダメだよ、会ってあげなさい 僕のことを気にする必要はない
- 月出里: ふむ…
- 生き残ったからには…………
- “罪を背負って死ね”
- あの事件を忘れて 生き抜いてほしい
- 月出里: (違う!)
- 月出里: (そんなわたしにとって都合の いい言葉を言っちゃダメっ!)
- 月出里: (何も知らないから… しょうがないんだけど…)
- スッ…スッ…
- ん?スマホ…?
- ありがとう お仕事、これからも頑張って
- さようなら
- はは…うん、そうだね 『これからも』頑張るよ
- 月出里: (わたしにできるのは ここまで…)
- じゃあ、またね
- …見抜かれちゃってたのかな 全部、投げ出そうとしてるの
- 月出里: …………
- 月出里: (あの人はわたしに 優しくしてくれたけど…)
- 月出里: (それはわたしを キレイな被害者と思ってるから)
- 月出里: (もし事件の真相を知ったら きっとあの人も…)
- 月出里: …………
- 月出里: (あの人が誰のお父さんなのか わからないけど…)
- 月出里: (とっても大切にされてた子 だったんだね…)
- 月出里: …………
- 月出里: (生き残ったのがわたしで ごめんなさい…)
- FILENAME: text_311393-3.txt
- 月出里の母: 月出里おかえり~!
- 月出里の父: おかえり、月出里
- 月出里: ふむっ
- 月出里の母: さっそく持ってきてくれたチョコ みんなで食べようか
- 月出里の母: 今準備するから
- 月出里の父: そうだ月出里 これ見て
- スッ…
- 月出里の父: 「わたしは、月出里の お父さん、です」
- 月出里: ――っ!?
- 月出里: 『手話だ! すっごく上手になったね』
- 月出里の母: 「お母さんも、 ちゃんと、上達、してるのよ」
- 月出里: 『すごい! まあ、わたしに比べたらまだまだだけど』
- 月出里の父: ははは、そうだな
- 月出里の父: 3人一緒に習い始めたのに 月出里はすぐマスターしちゃって
- 月出里の母: 月出里は昔から 物覚えがいいから
- 月出里の母: それに比べて私たちは… ほんと、歳を取ったわね
- 月出里: 『でも、そこまでできるなら 十分だよ』
- 月出里の父: ということで、伝える方は 少したどたどしいけど
- 月出里の父: 人の手話を読む方は スラスラできるようになったから
- 月出里の母: いつまでも筆談じゃ 大変でしょ?
- 月出里の母: これからは手話を使って 話してくれていいから
- 月出里: 『ありがとう これでだいぶ話しやすい』
- 月出里の母: 月出里は何を飲む?
- 月出里: 『ロースタリーラテ・ウィズモカシロップ』
- 月出里の母: ははーん …ココアね
- 月出里の父: お父さんたちも まだまだ修行が足りんな!
- 月出里: むふふっ!
- 月出里の母: はい、用意できたよ
- 月出里の父: じゃあ、せーの…
- みんな: 「かんぱーい」
- 月出里の父: さっそくお父さんは 月出里の作ったチョコを…
- パクッ
- 月出里の父: ん!うまい! よくできてるよこれ!
- 月出里: ふむぅっ!
- 月出里の母: 飾りつけもとってもキレイで 見るだけで楽しいよ
- 月出里の父: 丁寧な仕事するよな 手先、器用だもんな
- 月出里の父: でもごめんな…
- 月出里の父: こっちが用意したのは コンビニのスイーツで…
- 月出里: 『しょうがないよ 急に連絡したんだし』
- 月出里: 『まさかリヴィアさんに 連れてってもらえるとは思ってなかったし』
- 月出里の母: そうだ、リヴィアさんたちにも お礼を言わないとね
- 月出里の父: それでな、月出里…
- 月出里: ふむ?
- 月出里の母: メッセージでも伝えたでしょ? 大事な話があるって
- 月出里: ふむ…
- 月出里の父: これはあくまで提案でな 決めるのは月出里でいい
- 月出里の父: もう…この家を売って みんなで引っ越さないか?
- 月出里: ――っ!?
- 月出里の母: 実は前々からふたりで 引っ越そうかって話はしててね…
- 月出里の母: お金もちょっとずつ 貯めてたの
- 月出里の父: この間のボーナスを合わせて ギリギリの目処はついたんだ
- 月出里の父: 家のローンはまだまだあるから 売り手を見つけるのは難しいけど
- 月出里の父: 決して不可能でもない
- 月出里の母: ねえ、月出里は どうしたい?
- 月出里: …………
- FILENAME: text_311393-4.txt
- 月出里: (いつか引っ越すのは なんとなく予感してた…)
- 月出里: (でも、いざその話をされると びっくりしちゃうな…)
- 月出里の父: 月出里はもう十分苦しんだ…
- 月出里の父: 辛いことを 嫌でも思い出すこの町に
- 月出里の父: 住所を残す必要もないと思う
- 月出里の母: 登校を再開するにしても 別の学校の方が通いやすいはず
- 月出里の母: ねえ、もう全部忘れて 別の町で再スタートしよう?
- 月出里: …………
- あの事件を忘れて 生き抜いてほしい
- 月出里: …………
- 月出里: (お母さんたちの言葉は とっても耳障りがよくて)
- 月出里: (つい 甘えてしまいたくなるけど…)
- 月出里: (それはあくまで 真相を知らない人の意見だ…)
- 月出里: (それにお父さんたちは “このこと”を忘れてる…)
- 月出里: (だから…)
- 月出里: 『ごめん 引っ越したくない』
- 月出里の父: …………!
- 月出里の父: そう、か…
- 月出里の母: まだ、背負い続けるの…?
- 月出里: 『うん… 忘れられないし… 忘れちゃいけないことだと思ってる』
- 月出里: 『だから、完全になかったことにして 引っ越しちゃうのは』
- 月出里: 『わたしがわたしを許せない』
- 月出里の母: …………
- 月出里: 『でもね 理由はそれだけじゃないんだ』
- 月出里の父: …なにかな
- 月出里: 『今、わたしはリヴィアさんたちとね “旅”をしてるの』
- 月出里の父: 旅…? それは何かの喩えで…?
- 月出里: 『うーん、半分はそうかも…』
- 月出里: 『とにかくわたしは旅をしていて でも旅には、いつか終わりが来る』
- 月出里の母: まあ…そうよね…
- 月出里: 『その旅の終わった帰る場所として この家を、残していてほしいな』
- 月出里: 『だってこの家にもこの町にも わたしがこれまで生きてきた たくさんの思い出があるから』
- 月出里の父: …!
- 月出里: 『わたしの帰ってくる場所は ここしかありえないよ』
- 月出里の父: ああ、そう…だったか… お父さんたちうっかりしてた…
- 月出里の母: そうね…
- 月出里の母: 月出里の人生は あの事件だけが全てじゃない
- 月出里の父: 生まれた頃からずっと… 10年以上も
- 月出里の父: この町で、色んなことを 経験して生きてきたんだ…
- 月出里の母: この子からすれば それは人生の9割以上だものね…
- 月出里の父: この町にも 大切な思い出はあるよな
- 月出里: 『うん 辛いこともたくさんあるけど わたしはこのお家、大好きだよ』
- 月出里: 『“このこと”は忘れないで欲しい』
- あの事件に引っ張られて そのことを無視してた
- 月出里の母: 私たちの方が事件に 囚われすぎてたのかもね…
- 月出里の父: ああ…忘れられないことと 囚われることは違う…
- 月出里の父: 月出里は事件を忘れない つもりのようだけど
- 月出里の父: でもちゃんと囚われずに 前にも進んでるんだな
- 月出里: 『ごめんね… お母さんもお父さんも この町にいるのは わたしと同じくらい辛いと思うし…』
- 月出里: 『せっかくお金も貯めてたみたいだけど…』
- 月出里の母: ふふ、気にしないで 使わないなら使わないで…
- 月出里の父: 新車に
- 月出里の母: 進学費用とか老後の蓄えにも 回せるから
- 月出里の父: そういうことだ
- 月出里: むふっ!
- 月出里の母: 本当に月出里は大きくなったね あ、それも旅の影響…?
- 月出里: …………
- 月出里: (そうなのかもしれない… たぶん今の言葉が出たのも…)
- 月出里: (前にヨヅルやリヴィアさんの 過去を聞いたからで…)
- 月出里: (全部の経験が今のわたしを 作ってるんだ)
- 月出里の母: そう もう行くのね
- 月出里: 『うん 明日も早いから』
- 月出里の父: 頑張れよ
- 月出里の父: いつでも帰ってきて いいんだからな
- 月出里の母: ここは月出里の帰ってくるところ
- 月出里の母: お母さんたち、“このこと”は 絶対に忘れない
- 月出里: ふむ!
- 月出里の母&父: 月出里、いってらっしゃい
- 月出里: 『お父さん、お母さん』
- 月出里: 『いってきます』
- 月出里: ふむむっむふむんむ、ふんむんむ
Add Comment
Please, Sign In to add comment