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- ……その手紙が届いたのは、ある晴れた日の午後のことだった。
- 家族はみんな出掛けていて、家には自分一人。
- 何をするでもなく、ただぼんやりと外の景色を見て過ごしていた日……。
- 家の前に止まったバイクの音に、おそらく郵便だろうと思って出て行くと、案の定ポストに一通の封書が届けられていた。
- ――入学案内……?
- 『久我満琉 様』
- 確かに自分宛だった。
- でも差出人である学園の名前にはまるで心当たりがない。
- 首を傾げながらも、封を切ってみる。
- 『私立天秤瑠璃学園』
- 『LibraLapisLazuli』と記されたマークが表紙に印刷されている、学園の校舎らしき建物を写したパンフレット。
- 入学手続きのための書類。
- 一見普通の案内書のようだけど……。
- ――これは……?
- 書類の間に、小さく折りたたまれた手紙が差し込まれている。
- 望み――ふと兄の顔が脳裏をよぎる。
- 他に望みなんて無い。
- 何故なら、自分のせいで今も病院に……。
- ――あっ……
- ふわりと、いい匂いが鼻先をくすぐったと思うと、手紙からあふれ出した淡い光が青い鳥に姿を変えた。
- 青い鳥たちはくるり、くるりと頭上で弧を描く。
- ……………………。
- そして、やがて遠い空の向こうへと飛び去って行った……。
- ――望み………
- 叶えてくれる、とでも言うのだろうか。
- あの鳥たちは望みが心に浮かんだ途端、それに応えるように現れたように見えた。
- そうであって欲しい、という、それは幻想だったのかもしれない。
- だけど……。
- ――この学園に行けば……本当に……?
- ……すがってみたかった。
- 本当だったら、もし本当に叶えてくれると言うのだったら。
- ――……どこにだって行く。
- もう一度空を見上げてみたけれど、鳥たちの姿は空の向こうに溶けるように消えていた。
- 「……あれ、あった」
- その学園は、唐突に姿を現した。
- 山道を延々と歩いている途中で、突然視界が開けたと思ったらいきなり目の前に出現したという感じだ。
- 入学案内といい、突然降って湧くのが趣味なのか。
- 「けっこうでかいな……」
- 呟きながら、校門に近づいてみる。
- 「ここだよなぁ…?」
- 胸ポケットから生徒手帳を取り出して見る。
- 表記されている学園名も間違いない。
- ――久我満琉
- ページを開くと、氏名と学籍番号が並んでいた。
- あんな風にいきなり送りつけられた案内書だけで本当に入学出来るのかと半信半疑だったが、申し込むとすぐに入学を受理した旨の返信が来た。
- 生徒手帳もその返信に入っていたものだ。
- (受験も面接も何もなしって、怪しすぎるだろ……)
- とはいえ、それが俺にとって都合が良かったのも確かなんだが。
- (おかげで面倒な手続きなんかはせずにすんだもんな)
- ぱたん、と閉じて胸ポケットにしまう。
- 「しかし、こんな簡単に着くとはなぁ……」
- 早く着きすぎたな。
- とんでもない山奥みたいだから、迷うかもしれないと思って早く出たんだが……。
- (あんな変な入学案内をよこすわりには、見た目は意外と普通の学校だな)
- (色々詳しく調べてみたい気もするが、のっけから目立つのもな……)
- 校庭でも、ぶらついてみよう。
- 暇つぶしくらいにはなるだろ。
- 「あれは……時計塔か?」
- 校舎の中でひときわ存在感を放っている尖塔。
- その先端部分には鈍く光る鐘が見えた。
- どんな音がするんだろう。
- なんとなく、その鐘を見上げながら俺は学園内へと足を踏み入れた。
- どこか古めかしい雰囲気の校舎をぐるりと周り、ずいぶん端っこまで来てしまった。
- 時間が早いせいか、生徒の数もまだまばらだ。
- のんびりと歩きながら、あちこち見回す。
- 「……なんだあれ?」
- 校舎の前に、ぽつんと銅像が建っている。
- 創立者か何かかな。
- 他に見る物もないので、何気なく近づいてみた。
- (見たことない顔だな。さすがに見た目から言って創立者じゃないだろうけど……)
- 間近まで来て、銅像の顔をのぞき込む。
- 「迂闊に触るべきでは、ありませんね」
- 「え?」
- 不意に頭の上から声がした。
- 見上げると、校舎の渡り廊下から女生徒が一人顔を出し、こちらを見ている。
- 長い髪が、さらりと風に揺れた。
- (上級生――かな……?)
- 警告のようなことを口にする割に、理知的な瞳には、何の感情も浮かんでいない。
- ――ように見えた。
- 「これ何の像ですか?」
- 「さきほどの主語は、『その像に』です。その像に触らない方がいい。と、いう忠告は聞こえていましたね?」
- 「へ? ……あ、ちょっと?」
- ……行っちまった。
- 別に触る気もなかったけど、触ったら何が起きるんだろう?
- 単に先生に怒られるとか、そういう意味かな。
- 首を傾げつつ、女生徒が消えた窓をそのまま眺めていると、今度は小柄な男子生徒がひょっこり現れた。
- 何か捜しているのか、窓から身を乗り出して外をきょろきょろ見回している。
- おい、それ以上乗り出したら落ちそうなんだが。
- 「なあ……」
- 声を掛けるより早く、どたどたと派手な足音が俺の声をかき消してしまう。
- 「おーい、前見えねえから避けてくれよー」
- 大荷物を抱えて走ってきた別の生徒を避けようとして、小柄な男子生徒が見事にバランスを崩す。
- その身体は、ぐらりと窓枠の外へ傾いた。
- 「え? ……うわあぁ!?」
- 「げっ……!」
- 「――――ッ!!」
- やばい、と思う前に身体が動く。
- 「わ、ああぁああっ……!?」
- 地を蹴り、目の前にあった銅像に飛び乗る。
- 尾を引いて落ちてくる悲鳴が近づく。
- 更に宙へと飛び出し手を伸ばし――
- 「くっ……届いた!!」
- 「うわ、え、ええ!?」
- 両腕に力を込め、小柄な身体を抱え込んだ。
- 着地と同時に膝をつかってどうにか衝撃を和らげる。
- が、足の裏から痺れるような衝撃が全身に伝わってきた。
- 「……いっ、てぇ………」
- 強引に抱きかかえた身体はどうにか落とさずにすんだ。
- 小柄な奴で助かった……。
- 「ふわぁ……い、生きてた……」
- 「だな……」
- 緊張が解けたせいか、ため息と共にどっと汗が噴き出す。
- 身体中の関節が軋んで鈍い痛みを訴えたが、どうやらどこも折れてはいないようだ。
- (筋も……大丈夫そうだな)
- 「え、えと、あの……」
- 「え?」
- 「……す、すみません……けど、あの」
- 「あ」
- ……気づけば、思いっきりお姫様抱っこだった……。
- せめて女の子だったらまだマシだったのかもしれないが、男同士ではしている方もされている方も気まずい。
- 「あー、降ろすわ。すまん」
- 「い、いえ」
- 「うわぁっ!?」
- 「おわ、なんだよ!?」
- 慌てて降ろそうとしたのに、今度は地面が揺れた。
- 「じ、地震か?」
- 「わわわわわあああああ」
- 降ろすに降ろせなくなった男子生徒が、また必死にしがみついてくる。
- 踏ん張っていると、どうにか揺れは小さくなり徐々に治まっていった……。
- 「……………………」
- 「治まった、か?」
- 「……みたい、です……」
- ふう、やれやれ……。
- ため息をついて、しがみついてる奴をやっと降ろす。
- 「あ、あああ、ありがとうございます!」
- よろけながら地面に降りると、小柄な男子はぺこんと頭を下げた。
- 「いや、無事でよかったな」
- 「はいっ!」
- 「あ、おれ、一年の烏丸小太郎っていいます。……先輩は?」
- 「先輩?」
- 「はい」
- 「……俺、一年だけど」
- 「えっ!?」
- 「久我満琉。一年。今日、入学した」
- 「……え、お、同い年!?」
- 「俺……そんなに老け顔か……?」
- 「あああ、いや、別にそんな! ごめん…っていうか、えーっと、お、大人っぽくていいんじゃないかな!?」
- あたふた手を振って、半笑いになる烏丸。
- ……とりあえずいい奴っぽい。
- 「うん、ほら、おれ童顔だし……」
- 「それは見ればわかる」
- 「…………………」
- 「制服じゃなかったら絶対年下だと思ったな」
- 「…………………」
- 「……そ、そこまでショックだったか?」
- 「…………………あ、あれ」
- 「へ?」
- よく見ると、烏丸の視線は俺ではなく、俺の更に後ろの方を見ていた。
- しかも見る間に顔から血の気が引いていく。
- 「おい、何が………」
- 「………………」
- 「お、折れてる……よね?」
- どう見ても折れてる。
- あれ、確実に俺が踏み台にした所……だなぁ……。
- (もしかして……)
- さっきの女生徒の忠告は、壊れやすいから触るなって事だったんだろうか。
- いや触る気なかったし、触ったどころか思いっきり踏んだんだけどさ。
- 「……あ、あの、でも、さっきの地震で壊れたのかもしれないよ!?」
- 「そ、そうか! そうだよな!?」
- 「そうだよ、きっとそうだよ!」
- 「俺、思いっきり踏んだけど! とどめは地震だよな!?」
- 「そっ……そう、だといいな……」
- 「お前なぁっ!? 自分で言い出したんだから、最後まで貫けよ!」
- 「ご、ごめんっ! うん、地震だよ!!」
- 「地震だな!」
- 「地震だよ!!」
- もはや自己暗示だった……。
- けど、きっと地震がとどめを刺したんだ。
- そうに違いない。
- 「うわ、なんか鳴ってる!?」
- 「え、もうそんな時間かよ」
- けっこう早く来たはずだったのに。
- 「始業式、始業式! 早く行こう!」
- 「お、おう!」
- 「厄介な仕事が増える予感……ですか。当たらなければいいのですが」
- 「夜までに何とか――は、都合が良すぎますね。ふむ……」
- 「はー、終わったー」
- (しかし、チャイムって、あの時計塔の鐘じゃないのか……)
- あんなでかい鐘があるのに、なんでだろう。
- (飾りなのかな。まあいいけど)
- とりあえず始業式もホームルームも何事もなく無事に終わってくれて助かった。
- 壊れた銅像について何か言われたらどうしようかと、内心気が気じゃなかったが大丈夫だったな。
- (単に、まだ壊れたの誰も気づいてないのか……)
- 「一年生の久我満琉くん。学園長がお呼びです。至急学園長室まで来て下さい……」
- ……全然大丈夫じゃねえ。
- 甘かったか。
- 名指しって事は、俺が踏み折ったの完全にバレてんだろうなぁ……。
- まあ、名前間違って呼んでたけど。正しくは『みちる』であって『みつる』ではない。
- いかにも女子のような名前だが、まあ仕方がない。
- 「しょーがねえか……」
- とりあえず行って謝ろう。
- 弁償出来る額だといいけど……。
- (いきなり退学だったら洒落にならんな…)
- 何しに来たのかわからない。
- ひたすら謝って、分割ででも弁償出来るならしますって言うしかないか。
- 覚悟を決めて、学園長室とやらの前まで来た。
- 深呼吸してノックを……
- 「待ってー!!」
- 「え? 烏丸?」
- 駆け寄ってきた烏丸は、息を切らしながら俺の服の袖をつかむ。
- 「待って、久我君! おれも行くから……」
- 「行くってどこへ?」
- 「学園長に謝るんじゃないの? おれも行くよ」
- 「ああ……」
- それで慌てて追いかけてきたのか。
- 律儀な奴だな。
- 「いいよ、別に。踏んで壊したの俺だし」
- 「何言ってんのさ! それは、おれが窓から落ちたからだろ?」
- 「おれにも責任あるよ、一緒に謝るよ」
- 「……………そうか?」
- まあ、気になる気持ちはわかる。
- 俺が逆の立場でも、しらばっくれるのは寝覚めが悪いだろうな。
- 「うん、一緒に行こう」
- 「わかった。サンキュな」
- 「こっちこそ。助けてくれてありがとう」
- 「学園長も事情話せばわかってくれるよ」
- 「だといいな……」
- 苦笑しつつ、学園長室の扉を叩く。
- 「どうぞ、入りたまえ!」
- 女の子の声だった。
- 秘書か何かか?
- それにしては若い声だったな……。
- 何となく烏丸と顔を見合わせつつ、扉を開けた。
- 「失礼しまーす」
- 「失礼しま………え?」
- 「Dobry den!!」
- 「はあ……?」
- 「やあやあやあ! よく来てくれたね!」
- でかい机の向こうから、ちんまりした少女が満面の笑みで俺達を迎えてくれた。
- 「ドブ……なんだって?」
- 「Dobry den、だ。チェコ語だよ、こんにちはという意味だ」
- 「チェコ語……」
- なんなんだ、この子。
- どう見ても下級生どころか、ここの生徒と考えるにも幼すぎる年に見えるんだが。
- 「えっと、君……誰……?」
- 「んん? 君達は誰に呼ばれてここへ来た?」
- 「学園長だけど……」
- 「そう、その通りだよ! おや? 君達まだわからないのかね? はっはっはっは! いやはや鈍いなあ!」
- 少女は大げさに手を打って笑い、こほん、と咳払いすると満面の笑顔で言った。
- 「私が、この私立天秤瑠璃学園、学園長の九折坂二人だ!」
- 「ええええええ!?」
- 「が、学園長……?」
- 何の冗談だ。
- しかし室内にはいくら見回しても、他に誰もいない。
- 学園長の娘さんか何かが、ふざけてるのかと思ったんだが……。
- 「驚いたかね?」
- 「は、はい」
- 「そりゃ、まあ……」
- 「そうだろうそうだろう、うん、無理もない。たいていの人間はそういう反応だとも。あっはっはっはっは!」
- 「とてもそうは見えないかもしれないねえ。だが、それが間違いなく事実なのだよ」
- 「そしてこちらが、お友達のオコジョのニノマエ君だ」
- 「ぢー」
- 「うわ、生きてた!?」
- 学園長を名乗る少女の首に巻き付いていた襟巻きのような生き物が鳴いた。
- 烏丸は悲鳴を上げて俺に飛びついてくる。
- 「おや、君は……烏丸君だったかな?」
- 「あ、は、はい」
- 「なぜ君まで?」
- 「えっと、あの、銅像が壊れたのは、実は僕のせいなんです!」
- 「いや、こいつのせいってわけでも」
- 「だっておれが窓から落ちそうになったから!」
- 「それで咄嗟に、こいつ拾うのに踏み台にしちゃいました。すみません」
- 「すみませんでしたっ!」
- 「えーと、弁償します。分割にしてもらえれば……」
- 「僕も! 僕もします!」
- 学園長――未だにそうは見えなくて困る――は、交互に喋る俺達をきょとんと見ていたが……。
- 「あっはっはっは! なるほど、なるほど! はははは! これは面白い!」
- 「は?」
- 「え?」
- 「それで怒られるものと思って、二人揃って出頭したというわけか!」
- 「いやいや、美しい友情だね! 嫌いじゃない、嫌いじゃないよ!」
- 「……え、じゃあ……」
- 「銅像の件じゃないんですか?」
- 「いやもちろん、その件だ」
- 「じゃあ今の爆笑は何すか!?」
- 「いやいや、すまんすまん。正直なのはいいことだね、うん」
- 「ぢぃ」
- 「ああ、まったくだよニノマエ君! はっはっはっは!」
- 学園長――もういいや――は、一人で納得したように何度も頷いてみせる。
- 「まあ、その件で呼んだのは確かだがね。別に弁償しろだとか退学だとかいう話ではないから安心したまえよ」
- 「あ、ち、違うんですか」
- 「うん、どうせ君達に弁償出来るようなシロモノではないからね」
- 「え……」
- 「……そんなに高いんですか……」
- 「ああ、この学園の創立者が建てた非常に高価な物だからねえ。末代まで借金を背負いたいなら別だが。んふふ」
- 思わず横目で烏丸と目を合わせる。
- 青くなってる。
- 多分俺もなんだろうな……。
- 「まあ、そういうわけだから弁償などと無理なことは考えなくてよろしい」
- 「そ、そうですか」
- 「その代わりと言ってはなんだが、君を見込んでやってもらいたい事があるのだよ」
- 「へ? やってもらいたい事?」
- 「うん、そうだ。久我君、ちょっとこちらへ」
- 「え、あ、はい」
- 手招きされて、俺は学園長の机に近づく。
- 学園長は引き出しの中から、なにやら香水のような高級そうな瓶を取り出した。「手を出してくれたまえ。手のひらを上に」
- 「こうですか?」
- 「そうだ、そのままじっとしていてくれ」
- 「はあ」
- その瓶を傾け、中の液体を俺の手のひらに一滴。
- 「…………………」
- 「……?」
- 「…………うん?」
- 首を傾げると、更にもう一滴落とした。
- 「…………………」
- 「あの?」
- 「…………何か、変わった気分にならないかな?」
- 「いえ別に」
- 「何かを我慢してみているとか」
- 「何もしてませんが」
- 「………ふむ、おかしいな」
- 「は…?」
- 俺の手のひらの雫をじーっと見つめたまま、学園長は怪訝な顔をする。
- 「……反応無し、だね」
- 「なんなんです?」
- 「……???」
- 烏丸もきょとんとしている所を見ると、この学園長の行為がなんなのかコイツも知らないようだ。
- 「久我君は我が校から入学案内を受け取ったと思うが、そのときに何か変わったことはなかったかね?」
- 「たとえば、鳥のような光が見えた、とか」
- 「……うーん、見たような気もするし、見てないような気も…」
- 「ふむ……まさか暴発か…?」
- 「あの……」
- 「いやいやはっはっはっは! 気にしなくてよろしい!」
- 「ないものは仕方がないな。うん、もういいよ」
- と、言って学園長はさっとティッシュを一枚渡してくれた。
- 「………………」
- 手を拭きながら、さり気なく液体のついた手を鼻先に近づけてみた。
- 特に変わった匂いもしない。
- 雫を落とされた手のひらの方にも、もちろん何の異常もなかった。
- (……鳥のような光、って言ったな、学園長)
- 飛び立った青い鳥については適当に誤魔化したが、やはりあの入学案内はこの学園から送られてきたもので間違いなさそうだ。
- スッと疑問に答えてくれるような人ではなさそうだが、とりあえず聞いてみるか。
- 「何を試したんです?」
- 「……ほう?」
- 尋ねると、学園長は何故かにやりと笑みを浮かべた。
- 「なぜ試したと思った?」
- 「なんとなく、予想したのと違う結果になったように見えたので」
- 「ふむ、なるほど。なるほどなぁ! はははは、そうかそうか」
- うんうん、と少し感心したような顔をしたが、結局それ以上は語らずさっさと瓶を片付ける。
- 「なんだったんです、今のは?」
- 「もう一度言うが、気にしなくてよろしい!」
- 説明してくれる気はないらしい。
- (なんなんだ、一体……)
- 「……ふーむ、それでは……」
- 学園長は独りごちながら腕を組んだ。
- 「ちー」
- 「うむ、そうだな。どうしたもんかな。いやいやそれは早計だよ。まだわからない」
- ……いや、一人じゃなかった。
- オコジョと会話してる。
- (……会話なんだろうか)
- よくわからないが意味不明なことを呟き、たまにオコジョに相づちを打っている。
- そして何やら考え込むように、視線をあちこちに巡らせた。
- 「……あのー、それでやってもらいたい事とか言うのは……」
- 「それ、僕も手伝えるんですか?」
- 「……ああ、そうか。うん、そうだな!」
- 「はい?」
- 「そうしよう!」
- 「何を!?」
- 何故か唐突に、勝手に納得したように頷くと、学園長は目の前の電話に手を伸ばした。
- 「あの、学園長……?」
- 「ああ、君か。私だ!」
- 烏丸が話しかけるより早く、相手が出たのか受話器に向かって一気にまくし立てる。
- 「おめでとう! 君達は今日からスリーマンセルだ!」
- 「はあ? ではないよ。突然だがそちらに増員を送ることにしたよ! ……ん? もう決まった、たった今」
- 「そう、これは決定事項だよ! はっはっはっはっはっは!!」
- 「なに、遠慮することはない! すぐそちらに向かわせるよ、それでは、よろしく頼む!」
- ちん、と受話器を置く学園長。
- 恐ろしく一方的に何か決めやがった、という事だけはわかったけど……。
- 「それでは向かってくれたまえ」
- 「どこへですか!?」
- 「な、何しに……?」
- 「ああ、場所はえーと……ここだ」
- 引き出しをあさって、紙切れを取り出すとそれを机の上を滑らせて俺の方へ寄越した。
- 「……なんです、これ」
- 拾い上げてみたが、なんだかわからない。
- 謎の記号的な何かが書いてある。
- 「何って、地図だよ?」
- 「地図?」
- 「……よ、よく見たら、そうだね」
- 「うむ。詳しいことはそこで聞いてくれたまえ、君達の先輩がいるから」
- 「どこなんです、ここ?」
- 「行けばわかる」
- 説明するってことを知らんらしいな、この人は。
- 「僕も行っていいんですよね?」
- 「ああ、もちろんだとも!」
- 「わかりました。じゃ、じゃあ……行こ?」
- 「あっはっはっは、よろしく頼むよ!」
- 「……はい」
- 怪しいことこの上ないが、従うしかなかった。
- じゃあやっぱり銅像を弁償してくれたまえーとか言い出されたら、どうしようもないしな……。
- 「それじゃあ、失礼しま……」
- 「ああ、そうそう!」
- 辞去しようとした俺達に、学園長はまた突然に手を叩いて声を掛けた。
- 「夜になったら、面白い物がみられるよ」
- 「おもしろいもの……?」
- 「………夜に?」
- 「ああ、楽しみにしておきたまえ! ははははははははっ!!」
- その笑顔は、今までで一番何かを企んでいるような含みのある笑みだった。
- 俺達は、首を傾げながら学園長室を出た……。
- 「ふぅむ、おかしな事だねニノマエ君」
- 「ちー」
- 「何の反応もなかったよ。どういうことだろうね?」
- 「ぢぃ」
- 「彼があの像を壊してくれたのは実に好都合だと思ったのだが。人生そう上手くはいかないものだね」
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