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- https://s.maho.jp/book/509620bc151b39e7/4445811001/
- 【童話の森で】
- ・主人公末永郁美(スエナガイクミ)が働く喫茶店での出来事から始まるストーリー。
- いつからだろう…
- 貴女と目が合うようになったのは。
- 私の働く小さな喫茶店の窓際はある女性の特等席だった。
- と、言うよりも、私が案内を任されてるのを良い事に、その女性が来そうな時間になると、窓際へは誰も座らせないようにしていたのだが…。
- 12時を過ぎると、長くて艶やかな髪をなびかせ貴方は入ってくる。
- 『いらっしゃいませ。』
- 銀のトレーに氷の入った水、そして湯気の立つおしぼりを乗せて彼女に届けた。
- 「ありがとう。」
- 笑顔を向けられ、こちらも笑顔を返す。
- 「いつもの、お願いします。」
- 彼女の定番メニューは、苺ジャムをたっぷり入れたアールグレイと、マスターが作る自家製のバタークッキー。
- 紫の鞄から本を取出し、ゆったりとした時間を過ごす彼女。
- 私はそれを見ているのが好きだ。
- 開いた本に夢中になりながら、クッキーを少しずつ口にする姿。
- 丁度日の光が彼女に当たり、まるで一枚の絵のように見える。
- 大して上手い絵が描けるわけではないが、この柔らかい時間をキャンバスに留めたいと思った。
- この喫茶店に勤めて1年、最近は常連さんと話したりする事もあり、今では店の看板になっていた私。
- でも、彼女は他の人とは違った。
- 決して距離を縮めず、あくまでお客と従業員の姿勢を崩させない。
- 初めはそれも心地好かったが、あの日を境にその感情は変化した。
- ーガチャンッ!ー
- 突然店内に響いたグラスの割れる音…
- 『ごめんなさい!』
- 席を立とうとした彼女は、鞄をグラスに引っ掛け床に落としてしまった。
- 私が急いでほうきとちりとりを持ち駆け付けると、彼女は素手で割れたグラスの破片を集めていた。
- 『お客様、危ないですからお任せ下さい。』
- 実際グラスは刃物のように尖って割れていたので、こちらとしてはヒヤヒヤしてしまった。
- テキパキと片付ける私を見ながら、彼女は申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
- 「あの、本当にすみません。グラスは弁償致しますから。」
- これが切っ掛けで大事な常連様が店に来られなくなるのは困る…私とマスターは一瞬顔を見合わせ悟った。
- 『いいんですよ、お気になさらずに。』
- 「でも…」
- 口籠もる彼女に、すかさずマスターもフォローに入った。
- 「いやいや、本当に大丈夫ですから。こんなグラス1つ位何でもありませんよ。なぁ?郁美。」
- それを聞いて彼女は苦笑しながら頷いた。
- とりあえず気まずさが無くなったと安心した私は、せっかく集めた破片を再び床に落としてしまった。
- 『あぁ、失礼致しました!』
- 私のドジっぷりに他の常連がクスクスと笑う。
- 恥ずかしくなって、急いで破片を拾うと、さらなるドジを引き起こしてしまった。
- 『痛い!』
- 鋭い痛みと共に右手の親指から血が滴れた。その瞬間、彼女は血相を変え私の親指をくわえた。
- 一瞬の出来事だったにも関わらず、ほんの数秒、私の時間は止まった…。
- その姿に見惚れてしまったのだ。
- 「大丈夫!?ごめんなさい、私のせいで…。」
- 慌てる彼女に私は見当違いな事を言った。
- 『ええ、綺麗です。』
- 思いがけず出た言葉に、今度は私が慌てた。
- 『あ、あの、何か綺麗だなって…!』
- 彼女はキョトンとした顔をした後、急に笑いだした。
- 「貴方って面白いのね。」
- 顔が熱くなって又変な事を口ばしる。
- 『きょ、恐縮ですっ!』
- 今度は店中に大笑いされた…。
- 彼女もうっすらと涙を流すほど笑い、先程の空気は一辺した。
- 「ありがとう、嬉しいわ。怪我させて本当にごめんなさいね?今日はもう時間が無いから、今度ちゃんとお詫びするわ。」
- そう言って綺麗なピンク色の名刺をくれた。
- お会計を済ませ、彼女はお辞儀をして店を出る。
- 私も外まで見送り、深々と頭を下げた。
- 店内に戻ると、マスターが手当てしてこいと言わんばかりに救急箱を差し出してきた。
- 良く見たら意外に傷が深かったのか、また血が滲んでいる。
- 「ついでに休憩してきて良いよ。」
- ランチタイムが終わってしまえば割と店は暇になるので、マスターの優しさに甘え、私は奥の別室に引っ込んだ。
- 休憩室には仮眠出来る程の大きさのベージュのソファがある。
- 私はソファに腰を下ろし親指を見つめた。
- 『本当に綺麗だったんだよね…あの人。』
- 無意識に血の滲んだ親指をくわえている事に気付き、同時にさっき彼女が同じ事をしたのを思い出した。
- 『あ、これって…間接キス…。』
- そう思った瞬間、一気に心臓が脈を打った。
- 『あれ…?何かドキドキする。』
- エプロンのポケットにしまった名刺を取出し眺めた。ピンクの上質紙と微かに香る甘い匂い。
- 『青木 涼子さんか…。』
- この日以来、私は涼子さんに対して名前のつけられない感情が生まれた。 なぜか早く明日になれば良いと思っている事。
- そうすればまた…
- 少し笑いながら首を振った。
- この時、私はまだ自分の変化に気付いていなかったんだ…。
- 更新開始 2005/12/16
- 更新終了日 2005/12/21
- ZACK
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