Vi_Vi

Mikoto Sena MSS JP Text

Sep 16th, 2022
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  1. FILENAME: text_310441-1.txt
  2. みこと: 私はたくさんの感謝に溢れている
  3. みこと: 学校の友だちは 私がちょっと疲れた顔をしていたら 気遣ってくれたり、心配してくれたりする
  4. みこと: みんなとっても優しくて… みんなといるのがとっても楽しいから 毎日学校に行くのが楽しみで仕方ないの
  5. みこと: そんな私たちにもひとつだけルールがある それは、思ったことは何でも言うこと
  6. みこと: 遠慮なんてダメ 嫌われるかなって思って隠しちゃうのもダメ 全部ぶつけていくの!
  7. みこと: たまにケンカになることもあるけど… すぐに仲直りして、もっといい関係になるから だから、私たちは衝突を恐れないんだ
  8. みこと: こんなにいい友だちに恵まれて 充実した学校生活を送れて… 私は、本当に感謝しかない
  9. みこと: …そして 家では、優しい両親が私を迎えてくれる!
  10. みこと: 学校から帰って玄関のドアを開けると 決まって晩ご飯のいい匂いがするの
  11. みこと: お母さんの料理は本当に美味しいから 私はつまみ食いしたくなるんだけど…
  12. みこと: 私のやりそうなことなんて全部見抜かれてるから コラって叱られちゃうんだ
  13. みこと: それで、そんな様子をお父さんは 楽しそうに眺めているの
  14. みこと: 本当は忙しいのに私との時間を つくりたいから、毎日早く仕事を 切り上げて帰ってきてるんだよ?
  15. みこと: ちょっと過保護だよね~ …でも、うれしいな
  16. みこと: ここには私の欲しいものがすべてある
  17. みこと: もちろん家は裕福じゃないし 私も何でもできたりするわけじゃないから 手に入らないものはいっぱいあるよ?
  18. みこと: それでも、本当に欲しいものは 私を包むようにそこかしこにあって そして、お前が必要だと言ってくれている
  19. みこと: だから私はここに…この神浜に、この世界に 心から感謝しているの 生まれてきて本当によかったと思って…
  20. みことの母の声: もう嫌よ、こんな生活!
  21. みこと: ――っ!?
  22. みことの母の声: 家のことは放り出して お金ばっかり使い込んで!
  23. みことの母の声: こんなんじゃ生きていけない! 私たちのことも考えてよ!
  24. みことの父の声: 仕事で忙しいんだ! 金だって接待で使ってるだけだ!
  25. みことの父の声: 何も知らないくせに ごちゃごちゃ言うんじゃない!
  26. みことの母の声: 嘘を言わないでよ!
  27. みこと: …………
  28. みこと: 響き渡る両親の怒声…
  29. みこと: 私は部屋の片隅でふたりに気づかれないよう 気配を殺し、ここにはいないものとなって ただ時間が過ぎるのを待っている
  30. みこと: せっかく楽しい夢を見ていたのに どうしてこんな嫌な現実に引き戻すのだろう?
  31. みこと: 私はまぶたを閉じ、耳を塞ぎ この世界を拒絶して 幸せの中へ溺れていく…
  32. みこと: それは私自身を失っていくような… 自分が透明になっていく感覚だった
  33. みこと: あるいは、幽霊になるような…
  34. みこと: だとすると私なんていうものは この世には存在しないのかもしれない
  35. みこと: そんな思いは家だけじゃなく 学校でクラスメイトたちと過ごしていても 自然と強まってくる
  36. それ本当?
  37. みこと: ホント、ホント! だから私ね…
  38. みこと: ごく普通の家庭で育った 明るくて元気な女の子… という瀬奈みことを私は演じつづけている
  39. みこと: 奔放な父親に母親はずっと苦しめられ 家計も火の車で私もあまりご飯を食べられず
  40. みこと: ひもじい思いをしながら、それでも 学校に通えることを幸運に感じている…
  41. みこと: そんな本当の自分を知られてしまうと 敬遠されるんじゃないかって 思ってしまったからだった
  42. みこと: だから私は嘘で塗り固めた自分を演じている
  43. みこと: 不思議なもので、ずっと嘘の中にいると それが本当のように思えてくる
  44. あはは、みことは面白いね~
  45. 友だちが多いのもわかるよ
  46. みこと: えーそうかなあ?
  47. みこと: でもこれは 顔色を窺って生きているのと変わらない
  48. みこと: 本当のこと、思ったことは何も言えず 彼女たちが求める私を 鏡のように反射しているだけの…
  49. みこと: そういう、自分を失っていく日常
  50. みこと: はあ…
  51. みこと: 放課後はよくここで時間を潰している
  52. みこと: 極力家にはいたくない ふらっと父親が帰ってきたら嫌だから
  53. みこと: …………
  54. え、帰るの…?
  55. 新しくできたクレープ屋さんに 行こうって話してたんだけど…
  56. 用事があるんだから仕方ないよ みこと、忙しいもん
  57. みこと: 用事なんてないってバレたら 感じ悪いよね…
  58. みこと: ただでさえ いつも断ってるんだから…
  59. みこと: 父親が家にお金を入れない上に 勝手に使い込んだりするから 家にはほとんどお金がなかった
  60. みこと: だから放課後遊びにいこうって 誘われても、断るしかない
  61. みこと: 今でこそ表面上はみんなと 友だち付き合いができているけど 断ってばかりだとそのうち嫌われるかも
  62. みこと: …嫌われるのは、やだ…
  63. みこと: どうして?
  64. みこと: たぶん…
  65. みこと: 「みんなに認めてほしいから」
  66. みこと: …………
  67.  
  68. FILENAME: text_310441-2.txt
  69. みことの母: …………
  70. みこと: あ、お母さん
  71. みことの母: みこと…? 今帰ってきたのね
  72. みこと: どうしたの、ぼんやり立って 家の中に入ろうよ
  73. みことの母: うん…
  74. みこと: お母さんの頬が 赤く腫れていることに気づいた
  75. みこと: …お父さんにやられたんだ
  76. みことの母: ああ、これ? ちょっとケンカしただけだから…
  77. みこと: お父さん、帰ってきてるの?
  78. みことの母: …………
  79. みことの母: ねえ、みこと、これ…
  80. みこと: お母さんが渡してきたのは しわくちゃになった千円札だった
  81. みことの母: お小遣い ずっと渡せてなかったでしょ?
  82. みこと: え、でも…
  83. みことの母: いいから… これくらいで遠慮しないで
  84. みこと: 普通の家と比べたら 確かに「これくらい」なんだろう
  85. みこと: けれどお母さんの頬が腫れているのが きっとこのせいなんだってわかるから 私は死んでも「これくらい」なんて言わない
  86. みこと: …私、働くよ お母さんに楽をさせたいもん
  87. みことの母: そんな歳で働くなんて…!
  88. みこと: だって…
  89. みことの母: そんなことしなくていいの お母さん、頑張るから…!
  90. みこと: …………
  91. みこと: どうしてお母さんが 頑張らないといけないのだろう?
  92. みこと: 悪いのはあの人なのに…
  93. みこと: いつだったか…お母さんに どうしてあの人と別れないのかと 聞いたことがある
  94. みこと: あの人を捨てて、別の町で私と暮らす… そうしたら何もかも解決するんじゃないか と私は思ったのだけど…
  95. みことの母: 「そんなに簡単な話じゃないの」
  96. みこと: その言葉を聞いて、まだお母さんには あの人への情があるのだと知った だから逃げられないし、逃げようともしない
  97. みこと: 不思議で仕方ないけど… 夫婦って、そういうものなのかもしれない
  98. みこと: でも私は あの人がいなくなればいい そう願っている
  99. みこと: …………
  100. みこと: 家が無茶苦茶になったのも 学校で自分を偽ることになったのも 結局はあの人が原因
  101. みこと: あの人がいる限り 私たちは幸せになれない
  102. みこと: それなのにお母さんは あの人と別れてくれない…
  103. みこと: だったらどうすればいい? どうすればここから抜け出せる?
  104. みこと: あ、そっか…
  105. みこと: あの人がいなくなればいいんだ
  106. みこと: …………
  107. みことの母: …みこと?
  108. みこと: ちょっと、用事を思い出したの
  109. みこと: 出かけてくるね
  110. みことの母: あ、みこと…!
  111. みこと: 私があの人を消す
  112. みこと: お母さんからあの人を 無理やり引き剥がす
  113. みこと: そうすれば何もかも きっとうまくいく…
  114. みこと: 幸いにも 今の私は千円札を持っている
  115. みこと: これは幸福へのチケットだ
  116. みこと: このチケットを使って 手に入れるんだ…
  117. みこと: あの人を殺す道具を
  118. みこと: ナイフを買おうと いくつか店を覗いてみたけど 店頭には置いてなかった
  119. みこと: それにカタログを見る限り とても手持ちのお金では買えない…
  120. みこと: 100円ショップで探してみても ナイフはなかった
  121. みこと: でも、包丁はあった
  122. みこと: 切れ味はどうなんだろう? 突き刺せばいいだけなんだから そこまで考えなくてもいい…?
  123. みこと: …とりあえず 買っておこうかな…?
  124. みこと: 透明なプラスチックのケースに入った 万能包丁を手に取る
  125. みこと: これで…たった100円で あの人を殺せる
  126. みこと: 100円で解決する問題に 今まで悩まされていたなんてバカみたい
  127. みこと: …や、やってやる…
  128. みこと: あの人を殺して、幸せになるんだ
  129. みこと: そう思って握り締めたときだった
  130. みこと: どうしてか、昔のことを思い出した
  131. みことの母: みこと、何でも好きなものを 食べていいからね
  132. 幼いみこと: う、うん…
  133. みことの父: …………
  134. みこと: ずっと昔のことだ… 私たちは家族全員で お祭りにやってきていた
  135. みこと: つまらなさそうな顔をしながらも 父親は私たちについてきていた
  136. みこと: どうして一緒に来てくれたのか 理由はわからない
  137. みこと: けど私は、うれしかったんだ 家族3人でお祭りにくるのが はじめてだったから
  138. 幼いみこと: …………
  139. みこと: くじ引きの景品の中に 欲しかったものがあった
  140. みこと: あれは、何だったのだろう? もう覚えていないけど… たぶん学校で流行っていたものだと思う
  141. みことの父: …あれが欲しいのか
  142. 幼いみこと: え、うん…
  143. みことの父: 待ってろ
  144. みこと: あの人はそう言ってくじを引いた
  145. みこと: けど、何度引いても 目当てのものが当たることはなかった
  146. みことの母: …あなた もうお金なくなっちゃうから
  147. みことの父: ああ…
  148. みこと: 結局当たったのは 安っぽくて小さな手鏡だった
  149. みこと: あの人はそれを私に渡し 少しだけ、申し訳なさそうな顔をして…
  150. みことの父の声: ごめんな、みこと
  151. みこと: ――っ!?
  152. みこと: 気づけば、手が震えていた
  153. みこと: ずっと忘れていたことなのに 今になってどうして思い出すの…?
  154. みこと: …あの手鏡はどこに行ったんだっけ…?
  155. あの、お客さん
  156. みこと: え…!?
  157. 何かお探しですか?
  158. みこと: え、えっと…私…
  159. みこと: ごめんなさい…!
  160. みこと: 私は慌てて包丁を戻し 逃げるようにその場から走り去った
  161. みこと: 呼び止める声が聞こえたけど 私は振り返らなかった
  162.  
  163. FILENAME: text_310441-3.txt
  164. みこと: …………
  165. みこと: 結局私は逃げてしまった
  166. みこと: 今から別の店に行って 他の刃物を手に入れる気にはならない
  167. みこと: なぜ逃げたのかと自分自身へ疑問を感じる… 同時に、逃げてきてホッとしている自分が とっても不愉快だった
  168. アナウンス: …行き、最終電車 間もなく発車します
  169. みこと: ――っ!?
  170. みこと: 駅から最終電車の出発を 知らせる声が聞こえてくる…
  171. みこと: それを聞いた人たちが 慌てて駅へ駆け込んでいた
  172. みこと: 電車…
  173. みこと: 手持ちのお金で いけるところまで行ってみようか?
  174. みこと: こんなところなんて捨ててしまって まったく別の土地で、まったく別の生活を送る…
  175. みこと: それは簡単な話じゃないだろう
  176. みこと: でも、ここで自分を失いながら 何の幸せも、何のいいこともなく 耐えるように生きるくらいなら…
  177. みこと: お母さんを捨てるの?
  178. みこと: …それは…
  179. みこと: 本当にここには 捨てたいものしかなかったの?
  180. みこと: …………
  181. 幼いみこと: お母さんは休んでて! 今日は私がお料理するんだから!
  182. みことの母: でも…お友だちと 遊ぶはずだったんじゃないの?
  183. 幼いみこと: いいの!説明したら ちゃんとわかってくれるから
  184. 幼いみこと: お母さん、毎日大変だから 私が…何だっけ?…ね、ねぎ…
  185. みことの母: ねぎらう?
  186. 幼いみこと: そう、ねぎらってあげたいの!
  187. みことの母: みこと…
  188. 幼いみこと: 大丈夫だよ お母さんには私がいるから!
  189. みこと: そう、捨てたいものばかりじゃなくて ちゃんと守りたいものもここにはあった…
  190. みこと: なんでさっきから こんなことばかり思い出すの?
  191. みこと: なんで決心を鈍らせようとする?
  192. みこと: 思い出に浸ったって 何も変わらない
  193. みこと: ただ…私を縛りつけるだけだ
  194. みこと: あの人も、思い出も なくなればいいのに…
  195. みこと: 全部、なくなればいい…
  196. みこと: そうしたら私 自由になれるのに…
  197. ???の声: その願いが叶うって言ったら どうするかな?
  198. みこと: え…?
  199. キュゥべえ: はじめまして、瀬奈みこと ボクの名前はキュゥべえ
  200. みこと: ――っ!?
  201. みこと: その動物のような何かに話しかけられて 私は困惑して、言葉を失っていた
  202. みこと: けれど 何かがはじまる予感は 確かにここにあった
  203.  
  204. FILENAME: text_310441-4.txt
  205. みこと: な~んだ また使い魔だったんだね
  206. $+@!!
  207. みこと: 慌てない慌てない
  208. みこと: どうせあなたは…そこから どこへも行けないんだから
  209. %&・##!?
  210. みこと: ほら…ね?どこへも行けない 動くこともできないでしょ?
  211. みこと: じゃあ、倒しちゃうね?
  212. %・~#*!?
  213. みこと: ふう…これで4体目か
  214. みこと: でも魔女は倒せてないから 頑張らないといけないね!
  215. みこと: 私は、魔法少女になっていた
  216. みこと: …まあ、契約して魔法少女になってほしいって 言われたときは、何を言っているんだろうって 思ったんだけど…
  217. みこと: 願いを叶えてくれるって言うから ふたつ返事で契約した
  218. みこと: テレビか何かのドッキリじゃないかって ちょっと疑いもしていたけど
  219. みこと: 契約したすぐ後に使い魔と戦うことになり キュゥべえの言っていたことが本当なんだと 否が応にも実感した
  220. みこと: だったら…と私は気づいた
  221. みこと: 願いも叶っている?
  222. みこと: お母さん…!!
  223. みこと: ――っ!?
  224. みこと: 家に帰ると 泣き崩れたお母さんの姿があった
  225. みことの母: みこと…お父さんが…
  226. みこと: あの人がどうしたの!?
  227. みことの母: 出ていったの… 他の女の人と暮らすんだって…
  228. みことの母: 今日帰ってきてたのも 荷物を持っていくためだったの
  229. みこと: …………
  230. みこと: …叶った…
  231. みこと: 願いが、叶った…
  232. みことの母: え…?
  233. みこと: 私の願いは 父親がここからいなくなること
  234. みこと: キュゥべえは本当に叶えてくれたんだ 殺すしかないと思っていたあの人を こんなにもあっさり消してくれた
  235. みこと: やった…これで私もお母さんも苦しまなくていい お金だって放課後遊びにいけるようになる くらいには余裕が生まれるはず
  236. みこと: 生活が変わるんだ!
  237. みこと: それを機に私も生まれ変わろう ちゃんと友だちと向き合って 本音で話せるようになろう
  238. みこと: 勉強だって今よりもっと頑張って 将来、いい会社に入るんだ
  239. みこと: そして、お母さんに恩返しするの!
  240. みこと: …は…は、はは…
  241. みこと: 夢見ていたものが 手の届くところに転がり込んできた
  242. みこと: それもこれも魔法少女になったおかげだ キュゥべえには感謝してもしきれない
  243. みこと: 今の私はたくさんの感謝に溢れている!
  244. みこと: ははは…はははははは…っ!
  245. みこと: 私は笑い崩れながら、幸福に浸った
  246. みこと: いつまでもこの幸福がつづくと 信じて疑わなかった
  247. みこと: 私は、甘かった
  248. みこと: また手紙だけ…
  249. みこと: 『…少し遊びに行ってきます 食費はこれで…』
  250. みこと: …………
  251. みこと: お母さんは何か埋め合わせをするかのように 頻繁に家を空けては、遊び歩くようになった
  252. みこと: 家のお金を使い込み、あの人がいた頃より 少ないお金しか渡してもらえなかったので 私はろくに食事にありつけない状況だった
  253. みこと: あの人がいなくなれば 全部解決するはずだったのに…
  254. みこと: お母さんがあの人みたいになってしまい 私の夢は簡単に崩れ去った
  255. みこと: これが報いだというなら… 皮肉なものだね
  256. みこと: はあ…
  257. みこと: なんだか、もう どうでもいいな…
  258. あら…?
  259. ちょっと あなたみことちゃんじゃないの?
  260. みこと: え…?
  261. 私は同じ団地の…覚えてない? こんな時間まで遊んでたの?
  262. ダメだよ!遊びほうけてると ろくな人間にならないんだから
  263. ウチの旦那がいい証拠! なっはっはっは!
  264. みこと: …………
  265. お母さんとケンカでもした? ウチ来る?佃煮いっぱいあるわよ
  266. みこと: …ふふっ 優しいんですね
  267. みこと: きっとおばさんの家庭は 幸せな家庭なんだろうな…
  268. そんな大層なものじゃないわよ どこにでもある普通の家
  269. みこと: …羨ましい
  270. え、そう?ならウチの子になる? 娘が出てって寂しいからねえ
  271. みこと: じゃあ、そうしようかな?
  272. ――っ!?
  273. みこと: んふふ…驚いた? でも本当に驚くのはこれから…
  274. みこと: 私、不思議な魔法が使えるの 何でも言うことを聞かせる魔法が
  275. みこと: 人には使っちゃダメだと思ってた けど…もういいよね?
  276. あ、あんた、何を…?
  277. みこと: 私をその輪に入れてよ …娘として
  278. …………
  279. あれ…あたし…?
  280. みこと: どうしたの、お母さん? 早く帰ろうよ
  281. そ、そうね…お母さん、ちょっと ぼうっとしてた
  282. 早く帰ろうか、みことちゃん… あれ?…みことちゃんって…
  283. みこと: …お母さん、いつもみことって 呼んでるでしょ?
  284. そう、だったね… それで違和感が…
  285. みこと: んふふ…ほら、帰ろう?
  286. みこと: 魔法少女になってよかったことがある それは、魔法が使えるようになったこと
  287. みこと: 私の場合は…自分の言うことを 結果的に聞かせる魔法が使えるようになった
  288. みこと: 私がこうしてほしいと言えば 相手は必ずそうしてくれる 私の望み通りにしてくれる
  289. みこと: だからこんなふうに 他人の家の娘になるなんて 私の魔法を使えば簡単だった
  290. ほら、いっぱい食べな、みこと!
  291. いいなあ… みことの好きなものばかりだ
  292. みこと: んふふふっ
  293. みこと: 賑やかで楽しい家… 私がずっと欲しかったものが こんなにも簡単に手に入るんだ
  294. みこと: あれ、でも…油っぽいものばかり 私、あんまり…
  295. あんたは昔から、唐揚げとか お肉が好きだったでしょ?
  296. だから いっぱい用意してあげたよ!
  297. やっぱり運動していると そういうのが好きになるんだな
  298. あ、そうだ、この間の大会 どうだった?うまくいったか?
  299. みこと: …………
  300. みこと: この人たちは何の話をしているのだろう
  301. みこと: 娘は私なのに、この人たちはずっと 違う誰かのことを見ている…
  302. たくさんお食べ、みこと
  303. よかったな、みこと
  304. みこと: …うん
  305. みこと: 魔法を使っても満たされることはなかった
  306. みこと: だから…
  307. みこと: ここにも使い魔がいる… さっさと5体目を倒しちゃおう…
  308. みこと: 私は取り憑かれたように 魔法少女として戦うことにのめり込んでいった
  309. みこと: もうそれしかなかったからだ
  310. みこと: 魔法少女という役割すらなくなってしまうと 本当に自分には何もなくなってしまうような そんな気がしていた
  311. みこと: え、あれって…?
  312. ???: あがっ…!
  313. &$・#!
  314. みこと: このとき私は はじめて自分以外の魔法少女を見た
  315. みこと: そっか、私以外にもいるんだ… そりゃそうだよね
  316. みこと: ガッカリしなかったと言えば嘘になるけど そんなつまらない感情なんて 一瞬で消えるほどの希望を抱いた
  317. みこと: あの子に賭けてみよう
  318. みこと: 同じ魔法少女であるあの子なら 私のことをわかってくれるかもしれない 必要としてくれるかもしれない
  319. みこと: 私がここにいてもいい理由に なってくれるかもしれない…
  320. ???: …このぉ~!
  321. みこと: その人を攻撃してはダメ!
  322. みこと: 私は言うことを聞かせる魔法を使い そして一歩踏み出した
  323. みこと: どうしてか、胸が高鳴っていた
  324. みこと: そこから私たちの物語が はじまっていった
  325.  
  326. FILENAME: text_310442-1.txt
  327. みこと: 更紗帆奈… それが彼女の名前だった
  328. みこと: 警戒心が強く、いつも腕を組んで こちらを探るような視線を向けてくる でも、全然嫌な感じはしなかった
  329. みこと: はじめて見つけた私以外の魔法少女… きっといい関係になれる と思っていた
  330. みこと: 帆奈ちゃん、今日こそは 私たちの力で魔女を倒そうね!
  331. 更紗 帆奈: う、うん…
  332. みこと: 帆奈ちゃん、帆奈ちゃん! 使い魔だよ!
  333. 更紗 帆奈: 見たらわかるって…
  334. みこと: え、もしかして帆奈ちゃん 引いてる?私、うざい?
  335. 更紗 帆奈: いいから… 戦いに集中して
  336. みこと: 私はとにかく必死で 帆奈ちゃんと少しでも仲よくなれるように 積極的に距離を詰めようとした
  337. みこと: 結果は言うまでもなく 空回りだったんだけど…
  338. みこと: でも私はめげなかった 共通の好みを探した
  339. みこと: それを糸口に帆奈ちゃんと 仲よくなるのだ
  340. 更紗 帆奈: …あはは…
  341. みこと: 何してるの、帆奈ちゃん?
  342. 更紗 帆奈: 動物がいるんだよ だから撫でてて…
  343. みこと: あ、イヌだ~ 可愛いね~!
  344. 更紗 帆奈: …そうだね…はは…
  345. みこと: ねーねー帆奈ちゃん こっちにはネコがいるよ
  346. みこと: ほら、ネコ~~っ
  347. 更紗 帆奈: うん、可愛いね
  348. みこと: そうだよね~ 私、ネコのほうが好きだな
  349. みこと: 帆奈ちゃんはどっち?
  350. 更紗 帆奈: どっちも可愛いと思うけど…
  351. 更紗 帆奈: あえて言うなら、イヌかな?
  352. みこと: ――っ!?
  353. みこと: ねーねー帆奈ちゃん、あれ
  354. 更紗 帆奈: んー…チョコレートのお菓子?
  355. みこと: そう、どんぐりとくるみの!
  356. みこと: どっちが好きかで 派閥分かれたりしなかった?
  357. 更紗 帆奈: …そういうの くだらないと思うけど
  358. みこと: すうー…はあー…
  359. 更紗 帆奈: え、どうしたの? 深呼吸して
  360. みこと: 勝負の前に 気持ちを落ち着かせてるの
  361. みこと: さて…
  362. みこと: 帆奈ちゃんはどっちが好き!? 私は断然くるみ!!
  363. みこと: 帆奈ちゃんもそうだよねっ!!
  364. 更紗 帆奈: あたしは、どんぐりだけど
  365. みこと: ――っ!?
  366. みことの声: じゃ、じゃあ…
  367. みことの声: あんこといえば つぶあんだよね!
  368. 帆奈の声: こしあん
  369. みことの声: 目玉焼きには、ソース!
  370. 帆奈の声: 醤油
  371. みことの声: 住むなら、持ち家!
  372. 帆奈の声: 賃貸
  373. みこと: ダ、ダメだ… もう終わりだ…
  374. みこと: どうやら私は決定的に帆奈ちゃんと 相性が悪いらしい
  375. みこと: 帆奈ちゃんとなら うまくいくと思ったのに…
  376. みこと: というか、帆奈ちゃんもダメだったら もう私のことをわかってくれる人なんて…
  377. 更紗 帆奈: …ふふ…
  378. みこと: え、笑われた…? 私、何か変だった?
  379. 更紗 帆奈: ずっと変っていうか 空回りしてるんだけど…
  380. 更紗 帆奈: あんた、面白いね
  381. みこと: 面白い?…え、えっと… それって…
  382. 更紗 帆奈: あはは… ほら、いつもの店行くよ、瀬奈!
  383. 更紗 帆奈: わけわかんないことより 魔法について話し合わないと
  384. みこと: あ、待って、帆奈ちゃん! 置いてかないでよ!
  385. みこと: 帆奈ちゃんはさっさと進んでいくんだけど
  386. みこと: なんだか、お互いの距離は 縮まっているような気がした
  387.  
  388. FILENAME: text_310442-2.txt
  389. みこと: 帆奈ちゃんは頭がいい 私が気づかないことを 次々と解き明かしてくれる
  390. みこと: 私の言うことを聞かせる魔法… もとい暗示の魔法が自分自身にも かけられると突き止めたのも帆奈ちゃん
  391. みこと: それにはすっごく感謝している
  392. みこと: だって、想像の中のものだった 優しくて仲睦まじい両親や楽しい学校生活…
  393. みこと: それらすべてが暗示を自分にかけることによって 本物だと、ここにあるものなんだと 信じられるようになったんだから
  394. みこと: お母さん、お父さん ただいま!
  395. みこと: …あれ、誰もいない…?
  396. みこと: …………
  397. みこと: あ…そうか…そうだった… 全部、暗示だったね…
  398. みこと: まあ、家に帰って現実を突きつけられると 暗示も解けちゃって苦しくなるんだけど…
  399. みこと: でも、また暗示をかければ幸せになれる それだけで充分だった
  400. みこと: この日も私は自分に暗示をかけて 出かけていたんだけど…
  401. みこと: それは失敗だった
  402. みこと: あ、いけない そろそろ帰らないと
  403. 更紗 帆奈: もう?
  404. みこと: ごめんね、最近帰りが遅いから 色々と言われてて…
  405. 更紗 帆奈: あ…
  406. みこと: 違う違う! 怒られてるわけじゃないから!
  407. みこと: ただ、お父さんが心配性なだけ 悪い虫がつくんじゃないかって
  408. 更紗 帆奈: 悪い虫ならもうついてるけど?
  409. みこと: 帆奈ちゃんは違うよ~
  410. みこと: まあ、帆奈ちゃんのことを 両親がちゃんと知ってくれたら
  411. みこと: もう何も言わないと思うけどね 理解力はある方だから
  412. 更紗 帆奈: ふーん… じゃあ、挨拶しにいこっか?
  413. みこと: え、悪いよ
  414. 更紗 帆奈: いや…魔女のこともあるからさ…
  415. 更紗 帆奈: 瀬奈には自由の利く状態で いてほしいんだよ
  416. みこと: …で、でも…私の家だよ? 本当にわざわざ来てくれるの?
  417. 更紗 帆奈: なんで疑うの…? 瀬奈はツレが多いんでしょ?
  418. 更紗 帆奈: だったらさ、こんなのは よくあることじゃないの?
  419. 更紗 帆奈: …あたしはあんまり知らないけど
  420. みこと: す、すごい…友だちが家に 来てくれるなんてはじめて…!
  421. 更紗 帆奈: はじめて…?
  422. みこと: あ、でも、今日は外食することに なってるから、また今度でいい?
  423. 更紗 帆奈: 別にいいけど…
  424. みこと: 本当だよ? やっぱなしはなしだよ!
  425. 更紗 帆奈: …なんでそんなに 必死なわけ…?
  426. みこと: だって嬉しいもん
  427. みこと: 一番大切な帆奈ちゃんが家に 来てくれるって思うだけで
  428. みこと: なんかすっごく楽しい…!
  429. 更紗 帆奈: もう、わかったから… 門限なんでしょ?早く帰りなよ
  430. みこと: うん、また明日ね! ちゃんと日取り決めようね!
  431. みこと: いや、日取り決めちゃダメだよ…
  432. みこと: 家に帰ってきて暗示の解けた私は 今さらながら自分がとんでもない約束を してしまったと気づいた
  433. みこと: ど、どうしよう…
  434. みこと: 嘘を吐いていたって白状したら 帆奈ちゃんに嫌われるかもしれない… と思ったら、胸が張り裂けそうになった
  435. みこと: それは帆奈ちゃんが自分にとって 大きな存在になっている証拠でもあった
  436. みこと: だけど 誤魔化す方法なんてないし…
  437. みこと: そうだ、あの人たちがいる
  438. みこと: あの人たちをまた使えば…
  439. みこと: 私が娘だと暗示をかけたあの人たちのところへ 帆奈ちゃんを連れていけば うまく誤魔化せる…
  440. みこと: もうそれしかない 嘘を吐いていたってバレたくないもん
  441. みこと: …準備に取りかからないと
  442.  
  443. FILENAME: text_310442-3.txt
  444. みこと: あのおばさんとおじさんは 幸いにも暗示にかかったままだった
  445. みこと: 私はふたりに友だちが来ることを伝え 帆奈ちゃんとの待ち合わせの場所へ向かった
  446. 更紗 帆奈: …………
  447. みこと: 約束の時間はまだなのに 帆奈ちゃんは待っていた
  448. みこと: 今日は自分に暗示をかけていない
  449. みこと: 嘘を誤魔化さないといけないんだから やっぱり素面でないと…
  450. みこと: …………
  451. みこと: それでも不安は募る
  452. みこと: 不安を消す暗示をかけようとして… ハッとなってやめた
  453. みこと: さあ、入って入って!
  454. 更紗 帆奈: …おじゃまします
  455. 更紗 帆奈: あ、いい匂い…
  456. みこと: 私がつくるはずだったのに お母さんが勝手にはじめてて…
  457. みこと: ねえ、お母さん! 残りは私がつくるからね!
  458. 更紗 帆奈: …瀬奈も料理するんだ?
  459. みこと: うん、得意なの! もやし料理!
  460. 更紗 帆奈: え、もやし…?
  461. はいはい、残りは任せるから… 帆奈ちゃん、いらっしゃい
  462. 更紗 帆奈: あ…あの、はじめまして…
  463. いやあ…わざわざ挨拶に きてくれるなんて…
  464. みこと: そうだよ これでわかった?
  465. みこと: 私はこんなにちゃんとした 帆奈ちゃんと一緒にいるの
  466. みこと: 変なことなんて するわけないでしょ
  467. そうそう、あんたもいい加減 子離れしなさい!いいわね!
  468. はい…
  469. 更紗 帆奈: …え、えっと…
  470. 帆奈ちゃん、今日は いっぱい食べていきなさいよ
  471. おばさんが腕によりをかけて つくるから!
  472. みこと: だーかーらー! 私がつくるんだって!
  473. みこと: もう行こう、帆奈ちゃん!
  474. みこと: 私は帆奈ちゃんの手を引っ張って 台所へと向かった
  475. みこと: うまく騙せている
  476. みこと: それどころかこれは… 私が夢見ていた光景そのものだった…
  477. みこと: ―みこと― ごめんね、手伝ってもらって
  478. 更紗 帆奈: ―帆奈― いいよ、これくらい… けどさ、たいしたことはできないよ
  479. みこと: 帆奈ちゃんとふたりで料理をつくる…
  480. みこと: テーブルではおばさんとおじさんが 怒鳴り合うわけでも、言い争うわけでもなく 静かに笑みをたたえて私たちを眺めている
  481. みこと: ふたりは本当に私の両親のようだった
  482. みこと: いや、もうふたりが両親でいい そうしたほうが、きっといい
  483. みこと: ―みこと― わっ、帆奈ちゃん! 吹きこぼしてるよー
  484. 更紗 帆奈: ―帆奈― あ、本当だ
  485. みこと: ―みこと― いや、腕組んでないで 早く火を止めて~
  486. みこと: ああ、楽しいな…
  487. みこと: …きっとこれが、幸せというものなんだ
  488. みこと: 私はずっと欲しかった 普通の幸せを手にしつつある
  489. みこと: あのお父さんは暴れ回ったりしない お金だって使い込まない
  490. みこと: 私がそう言い聞かせてあるんだから 絶対に守ってくれる
  491. みこと: 優しくて、家族を大切にしてくれる… 私の欲しかったお父さんでいてくれる
  492. みこと: お母さんだってそう…
  493. みこと: ちゃんと私を見てくれるし 私を放って好き勝手に遊び回ったりもしない
  494. みこと: 私がそう言い聞かせてあるんだから 絶対に守ってくれる
  495. みこと: このちょっと甘めのだし巻き玉子も 私が好きだからって散々言い聞かせた
  496. みこと: だからちゃんと用意してくれている
  497. みこと: 私の望むことを何でもしてくれる…
  498. みこと: こんなにも理想的な家族なら もうこれを本物にしちゃえばいい
  499. みこと: そうすれば嘘が本当になり 帆奈ちゃんに嫌われなくて済む
  500. みこと: もしかしたら クラスメイトとの関係もよくなるかも…
  501. みこと: いいことばかり… まるで夢みたい!
  502. みこと: 今日からこれを本物にしよう 永遠に解けない暗示を自分にかけよう
  503. みこと: これまでの全部を捨て去って…
  504. みこと: ―みこと― ふふふ…楽しいね、帆奈ちゃん
  505. 更紗 帆奈: ―帆奈― ねえ…
  506. みこと: ―みこと― なあに?
  507. 更紗 帆奈: ―帆奈― どうして瀬奈は、そんなに辛そうなの?
  508. みこと: ―みこと― …え、なに? よく聞こえなかったかも
  509. 更紗 帆奈: ―帆奈― たまにあんた家のこととか学校のこととか 話してくれるでしょ?
  510. 更紗 帆奈: ―帆奈― それであんたはいっつも 自分は幸せだって言う…
  511. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしさ、今まで自慢話をされているんだと 思っていたんだけど、違ったんだね
  512. 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈は自分に幸せだって言い聞かせている
  513. 更紗 帆奈: ―帆奈― あんたが何の問題を抱えているのか あたしにはわからないけどさ…
  514. 更紗 帆奈: ―帆奈― …無理してるんじゃない?
  515. みこと: ―みこと― …………
  516. みこと: ―みこと― …無理ってなに? 私、こんなに幸せなんだよ?
  517. 更紗 帆奈: ―帆奈― うん、そうだね…
  518. みこと: ―みこと― みんな、ちゃんと私を見てくれてて… ここにいていいって…言ってくれてるみたいで…
  519. 更紗 帆奈: ―帆奈― うん…
  520. みこと: ―みこと― でも…満たされないの
  521. みこと: ―みこと― 家でも学校でもずっとそうで…なんだか… 自分がどこにもいないような気がして…
  522. みこと: ―みこと― だから見つけてほしかったの
  523. みこと: ―みこと― 私を、捨てないでほしかったの
  524. 更紗 帆奈: ―帆奈― うん…
  525. みこと: ―みこと― …うん、うん、って本当に聞いてるの?
  526. 更紗 帆奈: ―帆奈― 聞いてるって、ちゃんと あたしはわかるから…なんとなくだけど
  527. 更紗 帆奈: ―帆奈― それでもよかったら あたしに話せばいいよ
  528. みこと: 帆奈ちゃんは私のすぐ近くで 何をするわけでもなく ただそばにいてくれた
  529. みこと: いつまでも、そばに…
  530.  
  531. FILENAME: text_310442-4.txt
  532. 更紗 帆奈: はい、これ…
  533. みこと: 一緒につくった料理を食べた後 帆奈ちゃんはすぐに帰ることになった
  534. みこと: 送っていく道すがら 帆奈ちゃんは忘れ物を取り出すかのように 私へ一冊のノートを差し出してきた
  535. みこと: これは…?
  536. 更紗 帆奈: 日記だけど…
  537. みこと: 日記? え、日記ってもしかして…
  538. みこと: 交換する系の日記!?
  539. 更紗 帆奈: そうだけど…悪い?
  540. みこと: わ、悪くないけど、どうして? 帆奈ちゃんこういうの嫌いかと…
  541. 更紗 帆奈: 魔女とかの情報を共有するため それだけ…他に意味はないから
  542. みこと: へ~…ふ~ん…
  543. 更紗 帆奈: …まあ、思ってることがあるなら ついでに書けばいいんじゃない?
  544. 更紗 帆奈: あたしたち一応、コンビだから…
  545. みこと: 帆奈ちゃん… うれしい!一生、大切にするね!
  546. 更紗 帆奈: いや…話聞いてた? ちゃんと書いてよ
  547. みこと: なんだか気恥ずかしいけど こうして私たちは交換日記をすることになった
  548. みこと: はい、書いてきたよ帆奈ちゃん!
  549. 更紗 帆奈: え、もう? 昨日渡したところなのに…
  550. みこと: 書くことがいっぱいあるんだもん 仕方ないよ
  551. みこと: あ、それとね… 日記のお礼にこれを買ってきたの
  552. みこと: お揃いのペン! 日記を書くときはこれを使って!
  553. 更紗 帆奈: …あたしの趣味とは違うんだけど
  554. みこと: え、なんで?可愛くない? ほら持ってみて
  555. 更紗 帆奈: こう…?
  556. みこと: わ~、ファンシーなペンを 持ってる帆奈ちゃんかわいい~!
  557. 更紗 帆奈: …捨てる
  558. みこと: やめてやめて!嘘だから!
  559. みこと: 正直なところ 日記に何を書くかすごく迷った…
  560. みこと: でもそれは、私が自分を偽ってきた証拠… たくさん嘘を重ねてきたから自分を見失い 書くべきものを見つけられなくなっている
  561. みこと: でもね…私は気づいたんだ
  562. みこと: 自分で自分を見失ってしまったのなら 誰かに見つけてもらえばいいって…
  563. みこと: 帆奈ちゃん… 今はまだ勇気がないから 真実をすべて明かすことはできないけど
  564. みこと: けどいつか…それができるようになればいい
  565. みこと: …心から、そう思う
  566. みこと: でも私は、偽りの世界しか 映していなかった
  567.  
  568. FILENAME: text_310443-1.txt
  569. 更紗 帆奈: 瀬奈へ
  570. 更紗 帆奈: 瀬奈の家に呼ばれてから… 親御さんに許してもらったけど それでも…
  571. 更紗 帆奈: 帰りが遅くならないように 団地の周辺で結界を探してるでしょ?
  572. 更紗 帆奈: そんな理由で決めた割に 使い魔はたくさん見つかる
  573. 更紗 帆奈: これってさ 瀬奈の団地に魔女が いるってことなのかな?
  574. 更紗 帆奈: とりあえず、今度 徹底的に調べてみようよ
  575. 更紗 帆奈: 本当に魔女がいたら あんたも不安でしょ?
  576. みこと: 帆奈ちゃんへ
  577. みこと: 心配してくれてありがとー! 帆奈ちゃんはやっぱり優しいなあ
  578. みこと: あ、そういえばね、学校の帰りに クレープ屋さんを通りがかったの
  579. みこと: クラスメイトがよく行ってるんだけど 今度、私たちも行ってみない?
  580. みこと: 美味しいらしいから 帆奈ちゃんも気に入ると思うな!
  581. みこと: ああ、楽しみだなあ… お金貯めておかないと
  582. 更紗 帆奈: 瀬奈へ いや、魔女探そうよ
  583. みこと: えー、日記それだけ!? もっと色々書いてほしいな…
  584. みこと: これを機に帆奈ちゃんのこと いっぱい知りたいからね
  585. みこと: たとえば…帆奈ちゃんって 学校ではどんな感じなの?
  586. 更紗 帆奈: …そんなことより 魔女の話しようよ
  587. みこと: もー…教えてくれても いいのに~…
  588. みこと: あ、そういえば、うちの家族がまた 帆奈ちゃんを連れてこいって うるさいの
  589. みこと: 帆奈ちゃんの家はどんな感じ? 私も挨拶した方がいい?
  590. 更紗 帆奈: 別にいいよ、そんなの
  591. みこと: なんか冷たいなあ…
  592. みこと: 魔女の話じゃないと 書いてくれないの?
  593. みこと: そうだな…魔女かあ…
  594. みこと: というか、魔女ってどれくらい ここにいるんだろうね
  595. みこと: 魔法少女も 他にどれだけいるんだろう?
  596. みこと: 私たち以外にもきっといるはず どんな人たちなんだろう…
  597. 更紗 帆奈: 会ってみたいの?
  598. みこと: 会いたくないの?
  599. 更紗 帆奈: 他の魔法少女なんて 要は競争相手だからね
  600. みこと: グリーフシードのこと? そっか…そういう考え方も できるんだ…
  601. 更紗 帆奈: とりあえず、他のやつらの動きには 注意しておこうか
  602. 更紗 帆奈: 魔力を回復させられなくて 魔法が使えなくなることも 考えられるからさ…
  603. みこと: 暗示が使えなくなる…
  604. みこと: そんなこともあり得るのかと気づくのと同時に 私は言いようのない不安に支配された
  605. みこと: 『しばらく遊びに行ってきます 食費は前の分で…』
  606. みこと: お母さん…
  607. みこと: 暗示をかけていれば手紙だけで姿を見せない お母さんのことや辛いことも忘れられる…
  608. みこと: でも今の私には帆奈ちゃんがいるから 自分に暗示をかけなくても耐えられる
  609. みこと: 問題なのは、暗示が使えなくなると 私が何の役にも立てなくなること
  610. みこと: 私は暗示に頼り切った戦い方をしているから 使えなくなったら魔法少女として 満足に戦えなくなる
  611. みこと: そうなってしまったら…きっと帆奈ちゃんは 私のそばから離れてしまう
  612. みこと: それが何より不安だった
  613. みこと: …知ってるんだ、帆奈ちゃんが 私のそばにいてくれるのは…
  614. みこと: 私が使い道のある魔法少女だからって
  615. みこと: 帆奈ちゃんにとって私は 競争相手ではない、協力し合える魔法少女… しかも無条件に
  616. みこと: だから帆奈ちゃんは私といてくれる というか、そうでなきゃ私なんかのそばに いてくれるはずがないんだ
  617. みこと: 嫌だよ…帆奈ちゃんに 置いていかれたくない…
  618. みこと: もうこの現実世界の中で 私を必要としてくれるのは 帆奈ちゃんしかいないから…
  619. みこと: そこに打算があったっていい 裏の事情があっても何でもいい
  620. みこと: 帆奈ちゃんがここにいてくれるなら何でも…
  621.  
  622. FILENAME: text_310443-2.txt
  623. 更紗 帆奈: 今日も空振り… 使い魔ばっかりだったね…
  624. みこと: 帆奈ちゃん 次の場所を探そう
  625. みこと: 魔女を倒さないと
  626. 更紗 帆奈: …いや…もう遅いし…
  627. みこと: そんなこと言ってられないよ!
  628. みこと: 魔法少女は魔女を 倒さないといけないんだから!
  629. 更紗 帆奈: う、うん…
  630. 更紗 帆奈: 瀬奈へ
  631. 更紗 帆奈: 最近、すごく熱心に 魔女を探してるけど、何かあった?
  632. 更紗 帆奈: …他の魔法少女に会って 何か言われた、とか…
  633. みこと: ううん、会ってないよ
  634. みこと: ただ…ほら、魔女がみんなを 苦しめてるんだから
  635. みこと: 魔法少女として 何とかしたいだけ
  636. みこと: それが私たちの仕事だからね
  637. 更紗 帆奈: そう… それならいいんだけど
  638. みこと: もちろん私は そんな立派なことは思っていない
  639. みこと: 自分のために必死… ううん、焦っていた
  640. 十七夜: まずは一段落だな
  641. みこと: 和泉…十七夜さん…! ありがとうございました!
  642. 十七夜: うむ
  643. みこと: その魔法少女…十七夜さんは 私たちよりよっぽど戦いに慣れた 雰囲気があった
  644. みこと: 私は、魔法少女の知り合いが増えてうれしい といった自分を演じながら、彼女に探りを入れた
  645. みこと: 結論としては…彼女とは仲間になれない
  646. みこと: 魔女探索をしているとき… 色々と話しかけて情報を得ようとしていたら 私はあることに気づいた
  647. みこと: それは、私が情報を聞き出そうとしても 未然に防がれてしまうこと
  648. みこと: 偶然なんかじゃなかった
  649. みこと: 私がこれを聞こうと思ったことを 何度も会話で先回りして 回避するのだから
  650. みこと: …魔法だと直感した
  651. みこと: 私は暗示をかけて言うことを聞かせられる… 帆奈ちゃんは誰かの魔法をコピーして 自分の魔法にすることができる…
  652. みこと: そんなふうに何でもありなんだ 人の心が読める魔法くらいあるはず
  653. 十七夜: …………
  654. みこと: …………
  655. みこと: 私がたくさん嘘を吐いているって この人は気づいているかもしれない
  656. みこと: もしそうだったら、危険だ
  657. みこと: 帆奈ちゃんにも伝わってしまうかもしれない
  658. みこと: だから私は、十七夜さんの記憶を消すことにした
  659. みこと: もう私に関わってほしくない 私のことをすっかり忘れてもらうんだ
  660. みこと: 大丈夫、暗示を使えばきっとできるはず…
  661. みこと: そう思って十七夜さんを追いかけると すでにそこには帆奈ちゃんの姿があった
  662. 更紗 帆奈: あたしたちのことは もう忘れてください…
  663. 十七夜: …なぜだ?
  664. 更紗 帆奈: …あんた…面倒くさそうだから
  665. みこと: ――っ!?
  666. みこと: (帆奈ちゃん もしかして十七夜さんの記憶を)
  667. 更紗 帆奈: あたしが消してあげるから!
  668. 十七夜: なっ…!?
  669. 十七夜: …………
  670. 十七夜: …ん…
  671. 十七夜: …?
  672. みこと: 十七夜さんは小首を傾げながらも 何ごともなかったかのように去っていった
  673. みこと: まるで、これまでのことが 彼女の中で「なかったこと」になったように
  674. 更紗 帆奈: …………
  675. 更紗 帆奈: …あっは…
  676. みこと: 帆奈ちゃんの魔法は上書きの魔法… 誰かの魔法をコピーすることができる
  677. みこと: といっても帆奈ちゃんは私の暗示の魔法を 気に入って、ずっとそれを使っていた
  678. みこと: そう…帆奈ちゃんは私と同じ魔法を使える
  679. みこと: つまり、これは…
  680. みこと: 私がやろうとしていたように 帆奈ちゃんも暗示を使って十七夜さんの記憶から 私たちの存在を消したってこと
  681. みこと: 彼女は私たちと出会っていない 少なくとも彼女の中ではそうなっている
  682. みこと: たぶん、私が警戒しているのを見て そういうふうに処理してくれたんだ
  683. みこと: 帆奈ちゃんは本当に優しい…
  684. みこと: どうせならグリーフシードに関することも きれいさっぱり消して、競争から脱落させれば よかったのに、それをしなかったんだもん
  685. みこと: …本当に優しい
  686. みこと: でも、大丈夫だよ
  687. みこと: そう…大丈夫
  688. みこと: 心優しい帆奈ちゃんのかわりに 私がいっぱいグリーフシードを 手に入れればいいだけなんだから
  689. みこと: …………
  690. みこと: ソウルジェムがひどく濁っている
  691. みこと: 私は起きている間はずっと魔法を 使っているようなものだったから 魔力の消費が激しい
  692. みこと: もっと手に入れないと…って思った
  693. みこと: そして私は 魔女退治に没頭していく…
  694. みこと: どうせなら私が役に立つことも 帆奈ちゃんにアピールしておこうと思って 本当にたくさん戦った
  695. みこと: 帆奈ちゃんと一緒にいたい… そればかり考えて
  696.  
  697. FILENAME: text_310443-3.txt
  698. みこと: 帆奈ちゃんへ
  699. みこと: 明日はどこから探そっか? また団地の方で探す?
  700. みこと: 一段落ついたって言ってたけど 本当にそうかな?って思うの
  701. みこと: それとも遠出して探しにいく? それもいいね!
  702. 更紗 帆奈: 瀬奈へ
  703. 更紗 帆奈: 魔女のこともいいけど 最近さ…そればっかりじゃない?
  704. 更紗 帆奈: 学校には行ってる? 家にもちゃんと帰ってる?
  705. 更紗 帆奈: 根を詰めないで ほどほどにした方がいいと思う…
  706. みこと: なに言ってるの、帆奈ちゃん
  707. みこと: 手を抜いたらそれだけ みんなが困ることになるでしょ?
  708. みこと: 私、みんなのために魔女と戦って 平和を守るのはやりがいを感じて …すごく充実してるの
  709. みこと: 私は今、とっても幸せ だからやめたりしないよ
  710. みこと: 交換日記をはじめた頃は 帆奈ちゃんが魔女の話ばかりしていたけど 今では立場が逆になっている
  711. みこと: 帆奈ちゃんは、戸惑っていた
  712. みこと: でも本当のことを話すわけにはいかない …浅ましい自分を見せたくなかったから
  713. 更紗 帆奈: …ねえ、瀬奈…実はあたし 言ってないことがあるの
  714. みこと: 何かな、改まって… そんなふうに言われると 緊張しちゃうかもー
  715. 更紗 帆奈: あたし 学校でいじめられてたんだ
  716. 更紗 帆奈: …その上、両親はクズで 結局両方死んでさ… 施設送りになったんだけど…
  717. みこと: 帆奈ちゃんはこれまでどんな人生を 送ってきたのか赤裸々に書いてくれた
  718. みこと: それは私が体験したものより壮絶で 読んでいるだけで辛くなるものだった
  719. 更紗 帆奈: いいことなんて何もなくて 気の許せる人もいなくて みんな敵だった
  720. 更紗 帆奈: 真っ暗だったんだ あたしの人生
  721. 更紗 帆奈: けど瀬奈と出会って…
  722. 更紗 帆奈: ふたりで時間を忘れて 話したり…色んな場所へ 行ったりしたよね?
  723. 更紗 帆奈: なんか、そういうのがさ
  724. 更紗 帆奈: 私の中できらきらしてる
  725. 更紗 帆奈: これからもずっと真っ暗 なんだって思ってたから 余計にまぶしく思える…
  726. 更紗 帆奈: あたしなんかにも そんなものが手に入るんだ
  727. 更紗 帆奈: …そう瀬奈が教えてくれた
  728. 更紗 帆奈: だからもし 瀬奈が何かに苦しんでたり もうムリだってなってたりしたら…
  729. 更紗 帆奈: あたしを頼ってよ
  730. 更紗 帆奈: あたしに、何でも言ってよ
  731. みこと: 何でも、言う…? それって…本当のことも…?
  732. みこと: …今が、そのときなのかな…
  733. 鏡のみこと: 「もう打ち明けようよ」
  734. みこと: でも…嫌われるんじゃ…
  735. 鏡のみこと: 嫌われるわけない!
  736. みこと: ――っ!?
  737. 鏡のみこと: ずっと一緒にいたんだから わかるでしょう?
  738. 鏡のみこと: 帆奈ちゃんなら 嘘を吐いていたことだって
  739. 鏡のみこと: 許してくれる
  740. 鏡のみこと: 嫌わずにいてくれる
  741. 鏡のみこと: 私が役に立たなくなったって 置いていったりしない
  742. 鏡のみこと: それくらいわかってるでしょう? ずっと一緒にいたんだから
  743. みこと: …そう、わかっていた
  744. みこと: わかっていたけど、怖かった
  745. みこと: 何かを信じると 裏切られるような気がして…
  746. 鏡のみこと: 大丈夫…帆奈ちゃんは 私を裏切ったりはしない
  747. 鏡のみこと: 信じようよ、帆奈ちゃんを
  748. みこと: 帆奈ちゃん…
  749. みこと: 私は、これまで隠していたことを全部書いた
  750. みこと: 学校のことも、家のことも 帆奈ちゃんに偽の家族を紹介したことも、全部
  751. みこと: そして、ごめんなさいと謝った
  752. みこと: 結局私は、何も持ってないの
  753. みこと: だから偽りで埋めていた
  754. みこと: 空っぽなんだ、私は
  755. みこと: 帆奈ちゃんは私と過ごした日々を きらきらしたものだって言ってくれたけど
  756. みこと: それは偽りの私との日々…
  757. みこと: でも、もし…こんな私を許してくれて 一緒にいてくれるのなら
  758. みこと: 空っぽの私でも そういうきらきらとしたものを 手に入れられるかな…?
  759. みこと: 自分さえない私でも ここにいていいんだって思える… そういう、きらきらとした美しいものを
  760. みこと: 帆奈ちゃんと一緒なら 手に入れられそうな気がする
  761. みこと: そうだったらいいな…
  762. みこと: そこまで書いて 私はそのページを本音と一緒に破り捨てた
  763. みこと: そして…偽りを書き綴る
  764. みこと: そうなんだ…帆奈ちゃんにも 大変なことがあったんだね…
  765. みこと: でも、大丈夫 これからは私が守ってあげる
  766. みこと: 話してくれてありがとう
  767. 更紗 帆奈: そういうことじゃなくて…
  768. 更紗 帆奈: あのさ、はっきり言うけど あたしは魔女のことなんて 知ったこっちゃないのよ
  769. 更紗 帆奈: 瀬奈が大丈夫なのか それだけが気がかりなの!
  770. 更紗 帆奈: もし瀬奈が色んなことに がんじがらめになって…
  771. 更紗 帆奈: 自分自身でもどうしようも なくなっていたら
  772. 更紗 帆奈: いっそ… あたしと一緒にどこかへ…
  773. 更紗 帆奈: …いや…パーッとどこかで 遊ぶのもいいかもって…
  774. みこと: 私はそんなことはしない… どこにも行ったりしないよ
  775. みこと: ここで守りたいものが… ここでしか得られない 幸せがあるから
  776. みこと: だから私はここで 魔法少女として戦うの
  777. 更紗 帆奈: …そっか
  778. みこと: うん
  779. みこと: 私は大丈夫だから
  780. みこと: ここで全部打ち明けるのは… 許してくれるとわかっている相手に泣きつくのは
  781. みこと: 甘えでしかない
  782. みこと: 私は立ち向かわなくてはならない
  783. みこと: いじけて、殻にこもるのではなく 状況を変えるため行動を起こさなくてはならない
  784. みこと: 自分を取り巻くすべてから 逃げていてはダメなんだ
  785. みこと: まず私にはやるべきことがある
  786. みこと: それを果たしてから 今度こそ帆奈ちゃんと向かい合おう
  787. みこと: …とそのときの私は思った
  788. みこと: けど、もう手遅れだったんだ
  789. みこと: あ、あああああああ!
  790. 更紗 帆奈: 瀬奈!?
  791. みこと: 報いの時間は目前に迫っていたのだから
  792.  
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  794. みこと: は、帆奈ちゃん! ど、どうしよう!?
  795. みこと: 苦しいよ…!! た、助け…て…!!
  796. みこと: 私は無理をしすぎていた
  797. みこと: そのおかげでソウルジェムには 穢れが溜まりきってしまい…
  798. みこと: この団地の屋上で…私は 私ではない何かに成り果てようとしていた
  799. 更紗 帆奈: 無理してんじゃないの…? 時々、しんどそうな顔してるよ?
  800. みこと: 魔女探しに向かう前 帆奈ちゃんは私にそう言った
  801. みこと: 前に、私の偽の家に招いたときも 無理してるんじゃないかって言われたけど… やっぱり帆奈ちゃんに隠しごとはできないね
  802. みこと: ねえ、本当は何もかも気づいている? 気づいた上で帆奈ちゃんは気づいていないふりを してくれていたの…?
  803. みこと: どうなんだろう… 今となってはもう確かめる術がない…
  804. 更紗 帆奈: 瀬奈!瀬奈!
  805. みこと: 帆奈ちゃんがひどく取り乱して 私の名を呼んでいる…
  806. みこと: 私のせいで帆奈ちゃんにそんな顔を させてしまうのは、すごく嫌だった
  807. みこと: どうせなら、笑っていてほしい
  808. みこと: 私はあのときはじめて ここにいていいんだって思えた
  809. みこと: そう、私はここに… この神浜に、この世界にいたかった
  810. みこと: 私を産んでくれた両親のもとで 私に話しかけてくれたクラスメイトたちと そして、一番の友だちの帆奈ちゃんと一緒に…
  811. みこと: …みんなで、幸せになりたかった
  812. みこと: けど私は傷つくのが怖くて 別の世界に逃げ込んでしまった
  813. みこと: お父さんやお母さんにも何かしてあげられた はず…こんなの本当の家族ではないって 思い込むより先に…そう…
  814. みこと: 勇気を出して立ち向かうべきだったんだ
  815. みこと: クラスメイトたちにも自分を偽らず 勇気を出して本当の自分をさらけ出すべきだった
  816. みこと: 帆奈ちゃんにも何でも伝えるべきだった
  817. みこと: 自分から踏み出せば… 傷つくのを恐れなければ きっと何もかもうまくいったはずなんだ
  818. みこと: …そういったことをこの前、理解したのに…
  819. みこと: どうして希望はいつも私を裏切るの…?
  820. みこと: 意識が持っていかれそうになる
  821. みこと: これから私はどうなるんだろう? それはまったくわからないけど…
  822. みこと: 夕日がきれいなのはよくわかった
  823. みこと: ああ…辛くて悲しいことばかりでも 世界はこんなにきれいに見えるんだ…
  824. みこと: 私はいったい何を見ていたんだろう…? こんなにもきれいだって どうして知ろうとしなかったんだろう
  825. みこと: バカだよ…何にも知ろうとせずに お父さんを消しちゃうなんて…
  826. みこと: 報いを受けて当然だ
  827. みこと: …帆奈ちゃん…!
  828. みこと: でも、私はたくさんの感謝に溢れている
  829. みこと: 本当にどうしようもないくらい 感謝に満ち溢れている
  830. みこと: だってここに帆奈ちゃんがいてくれるんだもん
  831. 更紗 帆奈: 瀬奈ーっ!
  832. みこと: 帆奈ちゃんの向こう側で 夕日がきらきらと輝いていた
  833. みこと: それはあんまりにもきれいで 思わず涙がこぼれてしまう
  834. みこと: 私はそれを、伝えたかった…
  835. 更紗 帆奈: …………
  836. 更紗 帆奈: …よし…こんなもんかなー?
  837. 更紗 帆奈: …あっは…変なペン…
  838. 更紗 帆奈: 瀬奈、聞こえてる? あっは!聞こえないか
  839. 更紗 帆奈: まー、どーでもいいんだけどさー とりあえずさー
  840. 更紗 帆奈: あんたがあのとき 何を言おうとしたのか
  841. 更紗 帆奈: なんとなーくだけど 伝わってきたんだよね~
  842. 更紗 帆奈: んで、あたしとしてはさ
  843. 更紗 帆奈: …その気持ちをあんたに 忘れてほしくないわけ
  844. 更紗 帆奈: なんでかなー? なんでだろうねー?
  845. 更紗 帆奈: …ま、きれいなものは きれいなままでいてほしいでしょ
  846. 更紗 帆奈: そういうこと…あっは…
  847. 更紗 帆奈: …………
  848. 更紗 帆奈: 待ってて、瀬奈
  849. 更紗 帆奈: あんたが本当に 欲しがってたものは…
  850. 更紗 帆奈: あたしがここに用意してあげるからさ
  851. みこと: 本当に欲しかったものは 何だったんだろう?
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