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Memory Drops JP Text

Dec 18th, 2023 (edited)
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  1. FILENAME: text_520510-0.txt
  2. <かつて神浜には、ヴィランがいた>
  3. <そのヴィランは暗示の魔法を使って 多くの人たちを…果ては魔女までをも操り 哄笑とともに厄災をばら撒いたのである>
  4. <その名は…更紗帆奈(サラサハンナ) 彼女もまた魔法少女だった…>
  5. <彼女、あるいは彼女の操る魔女によって 運命を翻弄されることになった少女は多くいた 常盤ななか…彼女もその中のひとりである>
  6. <代々華心流の宗家を受け継いできた常盤家 しかし、魔女の口づけを受けた弟子たちにより 常盤家はすべてを失い、かわりに彼女は 宿命を背負わされることになった…>
  7. <それでも…同じ魔女に操られた者により 実家の古書店が放火された夏目かこや 魔女によって繋がった他の少女たちと 盟約を結び、真相を追うななか>
  8. <すべては復讐を果たすという宿命のために>
  9. <施設「つつじの家」で育った彼女たちも 自分たちを嘲笑するかのような事件に 翻弄されながら、それでも手がかりを追い…>
  10. <大東団地で起きた事件を調べる彼女たちも すべての元凶である更紗帆奈を追っていく>
  11. <運命は複雑に絡み合い 多くの困難に行く手を阻まれようと 彼女たちは手を取り合い、その壁を乗り越える>
  12. <そして、すべての事件に終止符が打たれた… 更紗帆奈が自らのソウルジェムを砕く という形で…>
  13. <享楽的にひとり厄災を振り撒きつづけた… 誰もが更紗帆奈のことをそう思っていた だが、「ひとり」ではなかった>
  14. <帆奈のそばには瀬奈みことなる魔法少女がいて すべてを台なしにするべく 更紗帆奈と行動をともにしていたのである>
  15. <…とはいっても瀬奈みことは 魔女になってすでに肉体を失い 意識体として更紗帆奈の中にいたのではあるが… 神浜を滅ぼすという魔女の影響を多分に受けて>
  16. <更紗帆奈がやりたかったことは 瀬奈みことが憎むもの、彼女を縛るものを壊し 滅びの意思に囚われないようにすること>
  17. <そして巨悪となった自分の死をもって 憎しみや絶望に呑まれ、悪に堕ちると 行く着くところは敗北しかない そう瀬奈みことに教えることだった>
  18. <だから最後に更紗帆奈は 瀬奈みことが生まれ変わって生きていけるよう 祈りに似た希望の明かりを神浜に灯した>
  19. <瀬奈みことはその光を受けいれることが どうしてもできずに世界を滅ぼす戦いに 身を投じたが…それも終わり すべては過去へ、思い出へとなっていく…>
  20. みこと: 『それでも帆奈ちゃん 私という存在をいつも見つけてくれた たったひとりのあなたを… 私は、追い求めつづける』
  21. みこと: 『たとえ何が再び立ちはだかっても…』
  22.  
  23. FILENAME: text_520510-1_bXUCP.txt
  24. みこと: あの頃、放課後が待ち遠しかった
  25. みこと: 学校の授業が終わると教室から飛び出して 落ちていく太陽に照らされた町を走る… この瞬間ばかりは 目に映るものすべてがきらきらと輝いていた
  26. みこと: お店のガラスに映った私を見つけると ちょっとだけ前髪を直して ああでもなんか違うなってもう1回直して いつもの喫茶店へ向かってまた走り出す
  27. みこと: 呼吸は切れ、鼓動は高鳴る 待っている人のこと以外、何も考えられない でもそれだけで十分だった…この夕焼けの一瞬は 私と彼女だけで成立しているのだから
  28. みこと: …私はここにいた
  29. みこと: はあ、はあ…
  30. みこと: 息を整えながら、勝手に使っちゃってる お母さんのコンパクトを取り出して 鏡に映る自分を見るんだけど… ああやっぱり前髪が気になる
  31. みこと: なんでかな…コンパクトには魔法が宿っていて なりたい自分になれるものだって 相場が決まっているのに 鏡を見れば見るほどそれから遠ざかる気がする
  32. みこと: でも…いつまでも髪を弄っている暇はない きっと彼女はいつものように もう席について私を待っているはずだから
  33. みこと: 窓際の、私たちの指定席で 帆奈ちゃんは待ってくれていた
  34. みこと: いつもそう…私の方が近いはずなのに 帆奈ちゃんが必ず先に着いていて 注文もせずに待ってくれている
  35. みこと: 本を読んでいるみたい…何の本だろう? 伏せられた帆奈ちゃんの視線がやけに優しくて 私は声をかけるのも忘れて じっと見つめつづけた
  36. みこと: ふと…帆奈ちゃんはこちらを見た まるで最初から私がここにいるのを わかっていたみたいに何の驚きもなく 小さく笑って…
  37. みこと: 「見つけた」と口だけ動かした
  38. みこと: いつでも…どこに私がいたって 帆奈ちゃんは私を見つけてくれたよね?
  39. みこと: 私が魔女になってしまって 移植の魔法を使って自分の人格だけを そばにいた帆奈ちゃんの中へ移したときも やっぱり私の存在に気づいてくれた
  40. みこと: 消耗しきっていて話すこともできず 消えかけの幽霊みたいだった私を 暗闇の中から見つけ出して 魔力を分け与えて助けてくれたんだ…
  41. 更紗 帆奈: 瀬奈はあたしにとってさ 命の恩人だよー
  42. みこと: 命の?魔力をくれて、私を助けて くれたのは帆奈ちゃんじゃ…
  43. 更紗 帆奈: 実はあたしさー 死のうとしてたんだよねー
  44. みこと: ――っ!?
  45. 更紗 帆奈: あたし、わかってるからさー ソウルジェムのこと
  46. 更紗 帆奈: 派手に死ぬつもりで、魔力で ソウルジェムを砕こうとしたら
  47. 更紗 帆奈: なんか失敗して…っていうか この場合は成功?まあ、ともかく
  48. 更紗 帆奈: 結果的に瀬奈へ魔力が渡って… あたしのもとへ帰ってきてくれた
  49. 更紗 帆奈: 瀬奈がここにいるなら もう、死のうとしなくていい
  50. 更紗 帆奈: だからー 瀬奈は命の恩人ってわけ!
  51. みこと: 帆奈ちゃん…
  52. 更紗 帆奈: ホント、死ななくてよかった~
  53. 更紗 帆奈: …お願いだから、もうやめてよ あたしを置いていくのは
  54. みこと: 置いていったのは 帆奈ちゃんの方じゃない
  55. みこと: …世界への希望を残すんじゃなくて 帆奈ちゃんが残ってほしかったのに…
  56. みこと: ねえ帆奈ちゃん… 私は帆奈ちゃんがいてくれたら それでよかったの
  57. みこと: だって帆奈ちゃんがいなかったら いくら鏡の魔女のエネルギーが この星を包む皮膜になって 自動浄化システムが機能していたところで…
  58. みこと: 私が生きている意味はない
  59. みこと: 何もかも終わって…魔法少女の未来への希望も 解決して…ううん、解決したからこそ 魔女ではない私自身の問題が浮き上がってきて 強くそう思うようになったんだ、きっと…
  60. みこと: 帆奈ちゃん…
  61. みこと: 会いたいよ、帆奈ちゃん…
  62. みこと: ここには何にもないよ…
  63. みこと: …私が私であったのは 帆奈ちゃんと過ごしたあの日々だけ… あの日々は…私の幸せの飽和点 私の希望なんだ
  64. みこと: いつまで私はこんなところにいさせられる? 人格だけという存在で、帆奈ちゃんのいない 希望のない世界で…ひとりぼっちで…
  65. みこと: …帆奈ちゃんにひと目会いたい 今度こそ帆奈ちゃんに触れたい 私の手を取って連れていってほしい 誰もいない私たちだけの、きれいな世界へ…
  66. みこと: ねえ帆奈ちゃん… もう耐えられないよ
  67. みこと: 私、十分頑張ったよね? 十分、やれたよね?
  68. みこと: 『だから…もう、いいよね?』
  69. みこと: 心を決めてからの日々はあっという間だった 季節は冬になり、すでに雪が降っている クリスマスもまだだというのに
  70. みこと: …ねえ環さんたちは クリスマスどうするの?
  71. いろは: え、みことさん…?
  72. いろは: よかった…全然お話しして くれないから心配して…
  73. やちよ: どうしたの?
  74. いろは: あ、いえ、みことさんが 久し振りに話しかけてくれて
  75. うい: お姉ちゃんの中にみことさんが いるのってまだ慣れないね…
  76. みこと: 私はクリスマスパーティーの話を切り出した 大勢を集めて盛大にお祝いしようと
  77. みこと: 大きなツリーに飾りつけして 料理もたくさん用意して プレゼント交換もして… 楽しいクリスマスにしようと
  78. みこと: 私、ずっとひとりだったから クリスマスにいい思い出がないの
  79. みこと: だから今年は いいクリスマスにしたいなって…
  80. みこと: …これは本当に思っている
  81. みこと: ともかく…やちよさんたちにも 今言ったこと伝えてくれる…?
  82. みんな: …………
  83. やちよ: …急に何かと思ったら そういうこと
  84. いろは: …はい、今年は いいクリスマスにしましょうよ
  85. うい: みんなにも声をかけないとね
  86. やちよ: …準備が大変そうね
  87. みこと: どうせなら専門のお店でツリーの 飾りを買おうって伝えて
  88. みこと: 遠くまで行けば きっとあるはずだから
  89. みこと: はじめてだから本格的なクリスマスをしたいと ダメ押しで伝えてもらうとみんな快諾してくれた
  90. みこと: もちろん忘れずに、荷物が多くなるから 次の休みにみんなで買い出しに行った方が いいと伝えてもらい、みかづき荘の面々は その通りにしてくれることになった
  91. いろは: それなのに、どうして 私だけマギアレコードに…
  92. みこと: 急に別行動することになったの いやだった?
  93. いろは: いやじゃないけど… なにも買い出し当日じゃなくても
  94. ねむ: …あれ、お姉さん?
  95. いろは: あ、ねむちゃんひとり?
  96. ねむ: そうだよ…前にも言わなかった?
  97. ねむ: 灯花は今日みふゆのところにいる 実家には戻っていないようだけど
  98. みこと: そう…前にも言っていた 私は覚えていたから今日を買い出しの日に 指定して他の人たちを遠くへやった
  99. ねむ: それより…今日はツリーの飾りを 買いにいくんじゃなかった?
  100. いろは: そうなんだけど…みことさんが ここに用事があるって…
  101. みこと: んふふ…ごめんね環さん
  102. いろは: え…?
  103. みこと: いいクリスマスにしたいのは本当だけど… あなたたちとそんな思い出を つくりたいわけじゃないの
  104. みこと: 私が欲しい思い出はいつだって 帆奈ちゃんとの思い出…
  105. みこと: 『だから…取り戻すことにしたの』
  106. ねむ: ――っ!?
  107. ねむ: ぐっ…!
  108. いろは: ねむちゃん!
  109. ねむ: …………
  110. いろは: よ、よかった…何ともない? 急に倒れたからびっくりして…
  111. ねむ?: …んふふ うまくいった
  112. いろは: ――っ!?
  113. いろは: そ、その喋り方… まさか…みこと、さん?
  114. みこと: そう、正解~ 移植の魔法で乗っ取っちゃった
  115. いろは: 移植の、魔法…まだ使えたの…?
  116. みこと: 魔法は消えたりしないよ 私という人格がある限り
  117. みこと: 『まあ、あなたに気づかれたら面倒くさいから こっそり魔力を溜めていたんだけどね 大変だったなあ、本当に…これで柊ねむを 乗っ取れなかったら最悪だよね、んふふ…』
  118. みこと: …柊ねむじゃないと 実行できないんだから…
  119. いろは: え…?
  120. みこと: それじゃあ、取り戻しちゃうね
  121. みこと: …私の希望を
  122.  
  123. FILENAME: text_520510-2_bXUCP.txt
  124. いろは: …はじめからねむちゃんを 乗っ取るつもりでここへ?
  125. みこと: 他に何があるの?
  126. いろは: …クリスマスは?
  127. みこと: 買い出しのことなら、あなたの 仲間にすぐ駆けつけられるとね…
  128. みこと: ほら…困っちゃうでしょう? だから遠くへ行ってほしくて
  129. いろは: …また、戦いを はじめるつもりなの?
  130. いろは: 私が約束を果たせなかったことに もし不満があるのなら…
  131. みこと: そんなの、どうでもいい
  132. いろは: ど、どうでもいいって…
  133. みこと: ねえ環さん、絶望に呑まれずに 希望を持つのはいいことだよね?
  134. いろは: えっ…う、うん
  135. みこと: 私、あなたとは色々とあったけど それでも協力してあげたよね?
  136. みこと: 随分、いい子でいたよね?
  137. みこと: …ならサンタさんがプレゼントを 持ってきてくれてもいいと思うの
  138. みこと: でも、サンタさんは きっと私を見つけてくれない
  139. いろは: あの…何の話を…?
  140. みこと: この世界には 私の希望がないって話
  141. みこと: だから、ね?サンタさんも 世界も何もしてくれないなら…
  142. みこと: 『私が自分の手で取り戻すしかないでしょう? 私の希望を…帆奈ちゃんを』
  143. いろは: ――っ!?
  144. みこと: んふふ…ようやく… ようやく会えるよ、帆奈ちゃん!
  145. みこと: 帆奈ちゃん…大好きな帆奈ちゃん 私のすべての帆奈ちゃん…
  146. みこと: 透明な存在だった私を どこにいても見つけてくれた 帆奈ちゃん…
  147. みこと: 帆奈ちゃんがいてくれるから 私も自分がここにいるんだと思えた
  148. みこと: だから…今度は私の番
  149. みこと: それがどんなに理から外れたものであっても 帆奈ちゃんを世界から消えさせはしない 帆奈ちゃんはここにいる…ここにいるんだ! それを証明してみせる!
  150. みこと: 帆奈ちゃんに証明してもらったこの私が…!
  151. 更紗 帆奈: …見つけた
  152. 更紗 帆奈: ずっと捜してたよ、瀬奈
  153. 更紗 帆奈: …あ
  154. 更紗 帆奈: 瀬奈
  155. みこと: 待ってて、帆奈ちゃん 今度は私が見つけてみせるから!
  156. いろは: み、みことさん…! 何を…!?
  157. みこと: 『ああ…』
  158. みこと: 『…見つけた、帆奈ちゃん!』
  159. 更紗 帆奈: …………
  160. 更紗 帆奈: こ…ここは?
  161. みこと: 帆奈ちゃん…
  162. 更紗 帆奈: え…?
  163. みこと: うっ…うう…
  164. みこと: 帆奈ちゃあああん!!
  165. 更紗 帆奈: わっ!? ちょ、ちょっと…!
  166. いろは: …ねむちゃんの力で帆奈さんを ウワサとして、具現化させた…?
  167. みこと: …あんまり帆奈ちゃんの名前 口にしないでくれる?
  168. いろは: え、名前を…?
  169. みこと: いいから、ともかくあなたは そこで大人しく見ていて
  170. みこと: さもないとこの体… 大変なことになっちゃうよ?
  171. いろは: 落ち着いてみことさん
  172. いろは: あなたがしているのは 失った命を復元するようなもの…
  173. いろは: 過去を認めずに縋っていたら 私たちは未来に進めなくなる…
  174. いろは: それに、目の前にいるのは 記録から生まれたコピーだよ…
  175. みこと: コピー? 違うよ、これは帆奈ちゃん
  176. いろは: 本物の帆奈さんじゃないよ
  177. みこと: だから私以外が帆奈ちゃんの 名前を口にするなッ!
  178. いろは: ――っ!?
  179. みこと: さてと…次は 私用のウワサをつくらないと
  180. 更紗 帆奈: え…?
  181. ウワサ: …………
  182. 更紗 帆奈: …っ
  183. 更紗 帆奈: え…なんで、涙…?
  184. みこと: あ、ごめんね帆奈ちゃん こんな体でべたべたして…
  185. みこと: 今すぐもとの私に戻るから 待ってて
  186. 更紗 帆奈: 待つのはそっち! さっきからわけわかんなくて…
  187. みこと: えー帆奈ちゃんなら すぐ察してくれると思ったのに…
  188. みこと: 『まあ、ちゃんと説明すると… 帆奈ちゃんは私が蘇らせてね…それで私も この体で帆奈ちゃんにベタベタしたくないから ウワサをつくったってわけ…』
  189. みこと: …私の体にするために
  190. ねむ: …っ…
  191. みこと: …………
  192. みこと: んふふ…移植の魔法は成功
  193. みこと: ウワサの人格はまだ覚醒してない …完全に支配できたみたい
  194. みこと: まあ、そういうふうに つくったから、当たり前だけど
  195. 更紗 帆奈: …あんた…
  196. みこと: 帆奈ちゃん、迎えにきたよ 一緒にふたりだけの世界へ行こう
  197. みこと: 何があっても今度は私が 帆奈ちゃんを守ってみせる
  198. 更紗 帆奈: あたしを、守る?
  199. みこと: そう、それが私の… なりたい自分だから
  200.  
  201. FILENAME: text_520510-3_bXUCP.txt
  202. いろは: みことさんもうわさを…?
  203. ねむ: …そうみたい、だね
  204. いろは: ねむちゃん、大丈夫!?
  205. ねむ: 僕は大丈夫…と言いたいけど かなり消耗している
  206. ねむ: うわさを連続で つくらされたからね…
  207. ねむ: もっとも…なぜ僕の体を乗っ取り つづけなかったのか不可解だけど
  208. 更紗 帆奈: …あたしは、あのとき ソウルジェムを砕いたはず…
  209. みこと: さあ、こんなところから さっさと逃げよう、帆奈ちゃん
  210. 更紗 帆奈: あんたは… うっ…!
  211. みこと: は、帆奈ちゃん…!
  212. みこと: …お前、帆奈ちゃんに何かした?
  213. ねむ: 君の好きなようにやらせると どうして思えるんだい?
  214. みこと: 許さない…!
  215. ねむ: うっ…!
  216. いろは: や、やめて、みことさん!
  217. みこと: 私たちのことは放っておいて!
  218. ねむ: …今の君を放っておくことは できないよ…何をすることか…
  219. みこと: 私は帆奈ちゃんに そばにいてほしいだけ…!
  220. ねむ: それでうわさを? 無意味な慰めでしかないよ
  221. ねむ: 「僕の本で確認する限り…彼女は マギアレコードで保管する1冊の本から生まれた …確かに少し特異ではあるけれど それでもウワサに過ぎず、本人ではない」
  222. ねむ: 「名前は混沌のヴィランのウワサ… 随分と似せてつくったようだね これなら本人と同じ行動を取るかもしれないけど それは自由意思によって生まれたものではない」
  223. ねむ: ウワサとしての役割を まっとうしているだけなんだ
  224. みこと: だから帆奈ちゃんじゃないって? そんなわけない…!
  225. みこと: 『あの日々を帆奈ちゃんが覚えている限り 帆奈ちゃんは帆奈ちゃんなの 偽物なんかじゃない… 幽霊なんかでもない…!』
  226. みこと: 帆奈ちゃんは帆奈ちゃんとして ここにいる…!
  227. みこと: 大切な友だちに生きていてほしい 私の望みはそれだけなの…ッ!
  228. 更紗 帆奈: ――っ!?
  229. ねむ: …ともかく、うわさは 消させてもらうよ
  230. いろは: 消す…?
  231. ねむ: うわさの本のページを破るんだよ その結果、瀬奈みことは
  232. ねむ: また人格をお姉さんなり僕なりに 移さないといけなくなるけど
  233. ねむ: うわさと一緒に消えてしまうより よっぽどいいはずだよ
  234. いろは: でもそれをしてしまうと 帆奈さんは…
  235. ねむ: もちろん、消えてなくなる ウワサだからね
  236. いろは: …私は、みことさんの希望を 簡単に摘みたくないよ
  237. いろは: それに、帆奈さんを失ったら 今のみことさんはきっと…
  238. いろは: 私に人格を戻さないで 死を選んでしまうと思う
  239. ねむ: それは…そうかもしれないけれど
  240. みこと: …帆奈ちゃん、あいつらが 揉めてるうちに逃げよう
  241. いろは: 待って、みことさ…!
  242. いろは: …え?
  243. いろは: ――っ!?
  244. いろは: こ、ここは…結界?
  245. ねむ: …迂闊だったね…今のでも “捜す”に該当するのか
  246. いろは: え…?
  247. ねむ: 館の主…瀬奈みことを捜すと 捕らえられる果てなし鏡のうわさ
  248. ねむ: …逃げられると厄介だね
  249. いろは&ねむ: ――っ!?
  250. ???: …っ!
  251. いろは: くっ…!
  252. ねむ: お姉さん!
  253. ねむ: 悪いけど、もう…
  254. いろは: ダメだよねむちゃん ページを破ったら
  255. ねむ: けど…
  256. いろは: …手下のウワサ、かな?
  257. ねむ: …………
  258. ねむ: はあ…そうだよ、あれは 瀬奈みことを捜す者を捕まえて
  259. ねむ: この果てなし鏡に連れてくる 役目を負っている
  260. いろは: …私たちがそうされたように
  261. みこと: やっぱり 分けておいてよかった…
  262. 更紗 帆奈: 何を、分けたの…?
  263. みこと: うわさとウワサを
  264. みこと: 『本当はお揃いにしたかったから 帆奈ちゃんみたいにうわさとウワサを 兼ねたかったんだけどね…』
  265. みこと: 『でも、あとのことを考えたら 分けておいた方がいいかもって思ったの』
  266. みこと: …こんなふうに使えるから
  267. 更紗 帆奈: そ、そう…なんだ
  268. みこと: …帆奈ちゃん ちょっと様子がおかしいけど…
  269. みこと: 私のこと わかってる、よね…?
  270. 更紗 帆奈: え…
  271. みこと: わ、わからないなんてないよね? 帆奈ちゃんに忘れられたら、私…
  272. 更紗 帆奈: …………
  273. みこと: ねえ瀬奈だよ…瀬奈みこと 帆奈ちゃんの相棒の…!
  274. みこと: …名前、教えてもらえないかな?
  275. 更紗 帆奈: …………
  276. 更紗 帆奈: …更紗帆奈
  277. みこと: え?帆奈っていうの!?
  278. 更紗 帆奈: …そ、そうだけど…
  279. みこと: わー!響きが似てるね! 帆奈と瀬奈!
  280. みこと: 私がその瀬奈だよ!
  281. みこと: ああっ…!
  282. 更紗 帆奈: ――っ!?
  283. いろは: ねむちゃん 攻撃するのは…
  284. ねむ: どうも彼女は更紗帆奈絡みだと まともに会話ができなくなる
  285. ねむ: 彼女の暴走を止めるには 力を消耗させるしかないよ
  286. いろは: …つまりねむちゃんからの 力の供給はもう断っている…?
  287. ねむ: とっくにね…瀬奈みことは すでにじり貧だよ
  288. ねむ: 本を破らないのなら こうするしかない
  289. いろは: …………
  290. いろは: みことさん…希望の叶え方は あとで一緒に考えよう
  291. いろは: だから、今は…!
  292. いろは: うっ…!
  293. 更紗 帆奈: …させないって
  294. いろは: …帆奈、さん…?
  295. 更紗 帆奈: ようやく事情が呑み込めてきて 整理もついたんだけどさ
  296. 更紗 帆奈: ひとつだけ 言いたいことがあるの
  297. 更紗 帆奈: 帆奈と瀬奈って響きは似てないよ 似てるのはたぶん、字面
  298. みこと: ――っ!?
  299. みこと: は、帆奈ちゃん…っ!
  300. 更紗 帆奈: さて、と… これ以上、瀬奈に手を出すなら
  301. 更紗 帆奈: …あたしが許さない
  302.  
  303. FILENAME: text_520510-4_bXUCP.txt
  304. ねむ: 混沌のヴィラン…
  305. ねむ: 「暗示を使って意のままに人を操り 社会や世界に対する鬱憤をもとに すべてに逆らっていくが それには秘密の理由がある…といううわさ」
  306. ねむ: …簡単にまとめるとそうなるけど この書き振りでは…
  307. ねむ: …まずいことになる前に 決着をつける必要がある
  308. ねむ: だけど…あの相手に対して それが可能なんだろうか…?
  309. いろは: 足を狙えば…!
  310. 更紗 帆奈: ――っ!?
  311. いろは: 当たらない!?
  312. 更紗 帆奈: そんな腑抜けた攻撃じゃあね!
  313. いろは: ああ…っ!
  314. 更紗 帆奈: …はあ、はあ…
  315. みこと: すご~い! 帆奈ちゃん、つよ~い!
  316. 更紗 帆奈: …ま、まだ 倒したわけじゃないから…
  317. 更紗 帆奈: ――っ!?
  318. みこと: 帆奈ちゃん!
  319. ねむ: 避けた…!?
  320. ねむ: うっ…!
  321. 更紗 帆奈: 回復してないのに よくやるよ
  322. ねむ: …教えてほしいんだけど、君は なぜ瀬奈みことの味方をする?
  323. ねむ: いや…なぜ今の君に それができるんだい…?
  324. 更紗 帆奈: そんなの、あたしが更紗帆奈 だからに決まってるでしょ!
  325. ねむ: くっ…!
  326. 更紗 帆奈: …………
  327. みこと: どうしたの、帆奈ちゃん?
  328. 更紗 帆奈: い、いや…なんでこいつら こんなに強いのかな、って…
  329. みこと: えー帆奈ちゃんが それ言う~?
  330. 更紗 帆奈: こ、こっちが優位、なのは こいつらが手を抜いてる…から
  331. 更紗 帆奈: 正直、動きが速くて… 暗示の魔法を使う暇もなかったし
  332. みこと: 暗示の魔法…? 上書きの魔法じゃなくて?
  333. 更紗 帆奈: …まあ、瀬奈なら 知ってる…よね
  334. みこと: そりゃそうだよ 暗示はもともと私の魔法…
  335. みこと: あ、きっと私の思いが伝わって 帆奈ちゃんの魔法が暗示に…
  336. いろは: くっ…そういううわさだから… そうなっているだけ、だよ
  337. 更紗 帆奈: やっぱり立ち上がるか…
  338. みこと: …何なの? 今楽しいのに…
  339. いろは: …私たちから逃げても 袋小路なのは変わらない…
  340. いろは: …それに、帆奈さんだって あなたの都合で生み出して…
  341. いろは: それは、人の気持ちを 踏みにじる行為だよ
  342. みこと: うるさい! 何にも知らないくせに!!
  343. いろは: 私なりに知ってるつもりだよ?
  344. みこと: …覗き見女が
  345. 更紗 帆奈: あのさフード頭
  346. いろは: えっ、はい…?
  347. 更紗 帆奈: 自分で選んで生まれるやつなんて この世には誰もいないの
  348. 更紗 帆奈: それに、気持ち?はん!施設の やつらも似たようなこと言ってた
  349. いろは: それは、つまり…?
  350. 更紗 帆奈: クソッタレってこと
  351. いろは: ――っ!?
  352. みこと: そいつを足止めしておいて
  353. いろは: 数が多い…
  354. 更紗 帆奈: フード頭、勘違いしないでよ? あたしは同情なんか欲しくない
  355. 更紗 帆奈: 敵意が欲しい
  356. 更紗 帆奈: はは…忘れた? あたしはあんたらの敵…
  357. 更紗 帆奈: …ヴィランなんだから
  358. いろは: …っ
  359. みこと: それじゃあ、ばいば~い 追いかけてこないでね
  360. いろは: みことさん!帆奈さん!
  361. いろは: …くっ ねむちゃんは気を失ってる…
  362. いろは: 私が守りきらないと
  363. 常盤 ななか: ――っ!?
  364. 常盤 ななか: …………
  365. 夏目 かこ: あ、見つけましたよ ななかさん!
  366. 夏目 かこ: あのお店がトゥクパっていう 麺料理を出してくれるみたいで…
  367. 常盤 ななか: …すみませんが、かこさん 未体験麺料理ツアーは中止です
  368. 夏目 かこ: えっ…そんな…
  369. 常盤 ななか: 本当に申し訳ありません ですが、いやな胸騒ぎがして…
  370. 常盤 ななか: …また戦いが起きるような…
  371.  
  372. FILENAME: text_520510-5_bXUCP.txt
  373. みこと: …ここまで来たら 見つからないよね?
  374. 更紗 帆奈: たぶんね
  375. みこと: あ、でも、この格好だと 目立っちゃうね
  376. みこと: ひとまず、こうしておこっか
  377. 更紗 帆奈: …大東…
  378. みこと: どうかしたの?
  379. 更紗 帆奈: あ、えっと…
  380. 更紗 帆奈: な、な、懐かしいなって…
  381. みこと: この制服が?
  382. みこと: んふふ、そうだよね… この格好でよく会ってたもんね
  383. 更紗 帆奈: …………
  384. みこと: ほらー、帆奈ちゃんも
  385. 更紗 帆奈: わ、わかってる…
  386. 更紗 帆奈: …これでいい?
  387. みこと: うんうん、帆奈ちゃんの学生服も 懐かしいなあ…
  388. 更紗 帆奈: …ねえ、これから どうする?
  389. みこと: 帆奈ちゃんと楽しいクリスマスを 過ごしたいなあ…
  390. 更紗 帆奈: クリスマス…?
  391. みこと: そう…誰もいない世界で、私たち ふたりでクリスマスを過ごすの
  392. みこと: ―みこと― 折り紙を輪つなぎにして…あ、普通のじゃなくて きらきら光る色とりどりの折り紙で部屋を飾って
  393. みこと: ―みこと― それで…私は一度も食べたことないけど 七面鳥を用意して一緒に食べるの
  394. みこと: ―みこと― サンタに扮した帆奈ちゃんからプレゼントも もらって、私もお返しのプレゼントをして…
  395. みこと: ―みこと― そんなきらきらとした思い出を 最後につくりたいなあ…
  396. 更紗 帆奈: ―帆奈― …なら、クリスマスが終わるまでは あいつらに消されるわけにはいかないね…
  397. みこと: 私も、きっと帆奈ちゃんも この逃避行が私たちの思い出の最後であることを 直感的にわかっている
  398. みこと: 帆奈ちゃんの存在はきっと認められない
  399. みこと: しかも、本のページを破られると 消滅してしまうような危うい状態… いつあの人たちの気が変わるかわからない
  400. みこと: …私たちがふたりでいるのは 最初からムリだってわかっている
  401. みこと: それでも…一緒にいたい
  402. みこと: 逃げなくちゃ…あいつらに見つからない場所へ この世界の果てにでも逃げれば大丈夫かな?
  403. みこと: そこに逃げれば、少しはこの時間を 長引かせられるかな…?
  404. 更紗 帆奈: ―帆奈― 連れていくよ
  405. みこと: ―みこと― え…?
  406. 更紗 帆奈: ―帆奈― 誰にも見つからない、誰もいない世界で クリスマスを過ごすんでしょ?
  407. 更紗 帆奈: ―帆奈― いい、と思う…あたしも行きたかったんだ そんな世界にさ
  408. 更紗 帆奈: …幽霊じゃなくて、ウワサって やつになれば行けるなんてね…
  409. みこと: …置いてったりしない?
  410. 更紗 帆奈: 置いていったこと…ないでしょ?
  411. みこと: あるよ!お、覚えてないの…!?
  412. 更紗 帆奈: あー…じょ、冗談
  413. みこと: もー!もー!もー!
  414. 更紗 帆奈: あはは…牛?
  415. みこと: 怒ってるの!
  416. みこと: いくら帆奈ちゃんでも冗談に しちゃダメなことがあるんだから
  417. みこと: 待って、帆奈ちゃん!
  418. みこと: 私を置いていかないで!!
  419. 更紗 帆奈: んじゃ…いい感じなんで…
  420. 更紗 帆奈: …お先~!
  421. みこと: ――っ!?
  422. 常盤 ななか: …あっ!!
  423. 更紗 帆奈: …あっは…笑えるじゃない…
  424. 更紗 帆奈: …あたしの…人生…
  425. みこと: 帆奈ちゃああああんッ!!
  426. みこと: …そうやってソウルジェムを 砕いたことを冗談にするなんて
  427. 更紗 帆奈: …いたんだ…
  428. みこと: え…?
  429. 更紗 帆奈: いや…常盤ななかも あそこにいたなって
  430. みこと: はい出た、常盤ななかー!
  431. 更紗 帆奈: な、なに、その反応…
  432. みこと: 別に~、何でもないよ
  433. 更紗 帆奈: …ねえ瀬奈、この町を離れる前に 思い出の場所を巡ってみない?
  434. 更紗 帆奈: あたしが死んでからどうなったか この目で見ておきたいから
  435. みこと: う、うん、いいけど… 急だね…
  436. 更紗 帆奈: …まあ、とにかく 早い、うちに…
  437. 更紗 帆奈: …………
  438. みこと: ど、どうしたの?
  439. 更紗 帆奈: ちょっと、立ちくらみ… 何でもない
  440. みこと: …本当に大丈夫?
  441. 更紗 帆奈: 心配いらないって…それより 最初はどこに行く?
  442. みこと: 最初は…
  443. みこと: ここがよく来ていた喫茶店!
  444. みこと: 懐かしいよ~ ここで色んなことを話したよ~
  445. 更紗 帆奈: そ、そうだね…
  446. みこと: …帆奈ちゃんはいつも私より 先に来てて、本とか読んでたね
  447. みこと: どんな本だったっけ?確か、私が 苦手な難しい本だったと思うけど
  448. 更紗 帆奈: いや…せ、瀬奈は どんな本なら読めるの?
  449. みこと: あー…それはね…まあ、ね?
  450. ご注文はお決まりですか?
  451. みこと: 私、ミルクティー
  452. 更紗 帆奈: …あたしはホットコーヒー
  453. かしこまりました
  454. みこと: 帆奈ちゃんは お砂糖いらないんだよね?
  455. 更紗 帆奈: …もちろん?
  456. みこと: すごいな~ やっぱり帆奈ちゃんは大人だなあ
  457. 更紗 帆奈: ミルクもいらないから
  458. みこと: わかってるって、んふふ
  459. 更紗 帆奈: …………
  460.  
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  462. みこと: それで、ここが私の学校!
  463. みこと: みんなに合わせるので必死で いい思い出なんてなかったけど…
  464. みこと: でも帆奈ちゃんと一緒にここを 台なしにしたのは、いい思い出
  465. 更紗 帆奈: うん…
  466. みこと: もう落書き、残ってないね
  467. みこと: 黒板に書いた 私たちの名前も…
  468. みこと: まあ、当たり前だよね…あはは
  469. 更紗 帆奈: …帆奈と瀬奈 そう書いたんだよね?
  470. みこと: そうだよ 覚えててくれてうれしいなあ…
  471. 更紗 帆奈: …そうだと思った
  472. みこと: え、私がうれしいことが?
  473. 更紗 帆奈: いや、そうじゃなくて…
  474. 更紗 帆奈: あたしたちの言いたいことなんて それだけで充分だろうなって
  475. みこと: う、うん…そうだね
  476. みこと: それから私たちは色んな場所を巡った
  477. みこと: 思い出を辿るというより 犯行記録を辿っているようで… なんだかとっても、私たちに相応しかった
  478. みこと: 私たちは多くの悪事を働き 多くの人たちを不幸にした
  479. みこと: だから…ひどい結末を迎えるべきなんだろう 破滅するべきなんだろう
  480. みこと: それでも、もし 少しだけわがままを許してもらえて きれいな終わり方にしてくれるなら…
  481. みこと: 誰もいない世界の果てで 帆奈ちゃんと一緒に思い出に埋もれて 窒息したい
  482. みこと: そんな、素敵なクリスマスに 私たちは終わりたい
  483. みこと: …そうだよ、クリスマスにいいことなんて ひとつもなかったんだから これくらい許してもらえるよね…?
  484. みことの母親の声: 「…見つけた、みこと」
  485. みこと: ――っ!?
  486. 更紗 帆奈: ど、どうしたの? 急に立ち止まって…
  487. みこと: …団地?
  488. 更紗 帆奈: ああ、あれのこと?
  489. みこと: …なんで、来ちゃうかな そんなつもり、なかったのに…
  490. 更紗 帆奈: …瀬奈?
  491. みこと: ううん、何でも… あの団地には私の家があるの
  492. みこと: ほら、前に帆奈ちゃんも 来たことあるでしょ?
  493. 更紗 帆奈: えっと…
  494. みこと: …あ、そっか…私の家には ちゃんと案内してなかったね
  495. 更紗 帆奈: …………
  496. みこと: ねえ帆奈ちゃん… 帆奈ちゃんはクリスマス、好き?
  497. みこと: …私は嫌い
  498. 更紗 帆奈: あたしも…嫌いだよ
  499. 更紗 帆奈: 両親がどうしようもなかったから いい思い出なんて何もない
  500. 更紗 帆奈: 一緒だね、瀬奈
  501. みこと: 帆奈ちゃん…
  502. 更紗 帆奈: 町を離れる前に…最後に 言いたいこと言ってやりなよ
  503. みこと: いいよ、もうあそこに お母さんはいないから
  504. みこと: それにお母さんは 私のこと死んだと思って…
  505. 更紗 帆奈: …あ…ごめん…ちょっと…
  506. 更紗 帆奈: …うっ!
  507. みこと: 帆奈ちゃん?
  508. 更紗 帆奈: 何かが…流れて、きて…
  509. みこと: 帆奈ちゃん!
  510. みこと: 急な事態に頭が追いつかない 帆奈ちゃんが魔女になってしまう? 違う、そもそも私たちはウワサだ そんなものは関係がない
  511. みこと: 帆奈ちゃんは気を失って倒れている… 何かいやなものが辺りに漂っていて それが帆奈ちゃんへ流れ込んでいるようだった
  512. みこと: もしかして… 帆奈ちゃんのうわさのせい?
  513. みこと: 社会や世界に対する鬱憤をもとに反抗する みたいなうわさにしたけど 鬱憤を『もとに』というのが 怒りや憎しみを取り込むという意味になってる?
  514. みこと: ち、ちが…そんなつもりじゃ… 私たちの思い出を表すつもりで…
  515. みこと: どうしよう、私のせいだ… 私のせいで、帆奈ちゃんが…!
  516. みこと: いやだ…どうすればいいの…!?
  517. みこと: …待って、ひとつだけあるじゃない 今までこんな使い方できなかったけど ウワサの力を利用できる今なら…
  518. みこと: そう、帆奈ちゃんを苦しめる怒りや憎しみを 私へ移植させるの
  519. みこと: …っ、うう…っ!
  520. みこと: ドロドロとしたいやなものが入ってくる… 穢れが溜まったときとはまた違う感覚だ これはむしろ…私が魔女の影響で滅びの意思に 染まっていったときの感覚と似ている
  521. みこと: だとするなら…よかった、私が引き受けて 帆奈ちゃんには 私みたいな思いをしてほしくないもん
  522. みこと: いやなものがウワサの中で溜まっていく… 怒りや憎しみ…それら悪意はある種の力なのか 抑えきれない活力が湧いてきたけど ふいにそれは吸い取られるように消えて…
  523. ???: これ…私の力にさせてもらうね
  524. ???: “ウワサの人格”である 私の力に…
  525. 更紗 帆奈: ――っ!?
  526. みこと: あ、気づいたんだね
  527. 更紗 帆奈: ここって…
  528. みこと: 団地の屋上 ここなら人目につかないの
  529. みこと: 大変だったんだよ~ 帆奈ちゃんを背負って運ぶの
  530. 更紗 帆奈: …瀬奈、何かした?
  531. みこと: 何かって?
  532. 更紗 帆奈: …………
  533. 更紗 帆奈: …瀬奈が言わないなら あたしは何も聞かない
  534. 更紗 帆奈: けど…ひとりでは抱えきれなく なったら、ちゃんとあたしに…
  535. みこと: なに言ってるの、私は平気 平気じゃないのは帆奈ちゃんの方
  536. みこと: じっとしてるのは慣れてるから 帆奈ちゃんは寝てて
  537. 更紗 帆奈: ごめん…あたし、まだ 辛くて…
  538. みこと: もー! それならさっさと寝なさい
  539. 更紗 帆奈: う、うん…
  540. みこと: …………
  541. 更紗 帆奈: …………
  542. みこと: …おーい、帆奈ちゃーん
  543. みこと: …本当に寝てる…よっぽど 辛かったんだね…
  544. みこと: 帆奈ちゃんの役に立てて うれしい…でも…
  545. みこと: 『なんで私、ここにいるんだっけ?』
  546. みこと: ――っ!?
  547. みこと: 思い出した…思い出巡りをしてて 偶然、団地を通りがかって…
  548. みこと: …記憶があやふやになる瞬間がある きっとこれはウワサ自身の人格が 目を覚ましてしまったからだ
  549. みこと: 帆奈ちゃんがそうであるように 私を移植したこのウワサにも人格はあるけど まだ目覚めていなかったし、それに…
  550. みこと: 環いろはの中で蓄えていた分 魔力が上回っていたから 私がウワサの体を支配できていた
  551. みこと: けれど、帆奈ちゃんの魔力とも言える悪意を この体の中に移植したとき 力に触発されてウワサの人格が目覚めてしまった
  552. みこと: ウワサの人格は支配権を取り戻そうと この今も抵抗している…それを押さえるには 魔力を消耗しなければならない
  553. みこと: もちろん“果てなし鏡のうわさ”にいる 環いろはたちを足止めしつづけていると 魔力は消耗する…それだけならよかったんだけど 魔力の消耗が重なった結果…
  554. みこと: 私自身が弱体化してしまい ウワサの人格に引っ張られて 記憶が混濁を起こしてしまっている …たぶん、そんなところだろう
  555. みこと: いつか何もかも…帆奈ちゃんとの思い出すら わからなくなるかもしれない
  556. みこと: わからなくなる…それはつまり 忘れることと同じ…
  557. みこと: …怖い…怖いよ、帆奈ちゃん…
  558. みこと: 他のことだったら何でもいい 帆奈ちゃんのことだけは忘れさせないで
  559. みこと: 忘れたくない、帆奈ちゃんのことだけは… いやだ、いやだ…忘れたくない…!
  560. みこと: でも私は…今も帆奈ちゃんに集まる悪意を 私の中へと移植させつづけている…
  561. みこと: それは、昔の私のように滅びに取り憑かれて 何もわからなくなってしまって… 私のことを帆奈ちゃんが忘れてしまうのが もっと怖かったから…
  562.  
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  564. みこと: 駅に着くの遅くなっちゃったね
  565. 更紗 帆奈: …あたしがモタモタしてたから…
  566. みこと: 帆奈ちゃんは悪くないよ! 私が取りこぼしてたからで…
  567. 更紗 帆奈: 取りこぼす…?
  568. みこと: あ、ううん、何でもなくて それより…
  569. みこと: じゃ~ん、お金~!
  570. 更紗 帆奈: …瀬奈
  571. みこと: 違うよ、ドロボーなんてしないよ これ、私の宝箱に入ってたの
  572. 更紗 帆奈: あの貯水槽の下に隠してたやつ?
  573. みこと: そう、あの人に盗られないように 大切なものはそこに入れてたの
  574. みこと: この皺だらけの千円札は 私の幸福へのチケット…
  575. 更紗 帆奈: …その千円で電車に乗るんだ?
  576. みこと: うん、魔力は節約しないと いけないから
  577. 更紗 帆奈: ああ、そっか…ウワサってつねに 魔力を消費してるんだったね
  578. みこと: 魔力が尽きると私たちは そこで終わり…
  579. みこと: だから なるべく節約しないといけない
  580. 更紗 帆奈: …瀬奈はそれでいいんだね? まだ引き返せるけど
  581. みこと: 戻ったら、帆奈ちゃんが どうなるかわからない
  582. みこと: そんなとこへ帆奈ちゃんを 連れて帰るわけにはいかないよ
  583. 更紗 帆奈: あたしのせいで迷惑をかけるね
  584. みこと: そんなことないよ!
  585. 更紗 帆奈: 瀬奈…
  586. みこと: あ、そうだ、千円で どこまで行けるか見てくるね!
  587. 更紗 帆奈: あっ…
  588. みこと: 大丈夫、帆奈ちゃんには気づかれていない… うまく隠し通さないと… 自分が悪意を集めてしまううわさなんだって 知ったら、きっと帆奈ちゃんは戻ってしまう
  589. みこと: 環いろはたちのもとへ戻っても 帆奈ちゃんはきっと認められない 何のかんの理由をつけて消そうとするはず… 今の帆奈ちゃんの状態なら、なおさら
  590. みこと: …そんなこと、させるものか 私が帆奈ちゃんを守るんだ 何を犠牲にしてでも
  591. みこと: あ…ふたり分だと あんまり遠くに行けない…
  592. みこと: でも、まあ、買っちゃおう…早く ここから出ていかないと誰かに…
  593. ???の声: …瀬奈君?
  594. みこと: ――っ!?
  595. 十七夜: やはり、瀬奈みこと君じゃないか
  596. みこと: …ああ、和泉…十七夜さん 何をしているんですか?
  597. 十七夜: 見ての通り、慌てている
  598. みこと: …………
  599. 十七夜: 環君や柊君の行方がわからない… そんな連絡があれば、な
  600. みこと: (…里見灯花辺りが気づいたな 思ってたより、遅かったけど…)
  601. 十七夜: …瀬奈君、君は何を企んでいる? 正直に話してくれれば自分は…
  602. みこと: たとえば死んだ人を蘇らせるのは やっていいことだと思いますか?
  603. 十七夜: え?…それは、難しい問題だが… やっていいことではないと思う
  604. みこと: じゃあ、あなたはいらない
  605. 十七夜: いらない? それはどういうことだ…?
  606. 帆奈の声: あんたは面倒くさいってことだよ
  607. 十七夜: ――っ!?
  608. 十七夜: さ、更紗…帆奈…君…?
  609. 更紗 帆奈: あたしたちのこと、忘れな
  610. 十七夜: しま…っ!?
  611. 十七夜: …ぅ…っ…
  612. 更紗 帆奈: 瀬奈、逃げるよ!
  613. みこと: は、帆奈ちゃん!これ、切符! 無賃乗車はダメだよ!
  614. 更紗 帆奈: ああもう、わかったから!
  615. みこと: 大慌てで切符を渡して 私たちは改札を抜ける
  616. みこと: 私たちはここではないどこかへ ふたりだけの世界へ行くんだ
  617. 駆け込み乗車はご遠慮ください
  618. みこと: 帆奈ちゃん、電車が来てるよ! 早く、早く!
  619. 更紗 帆奈: 瀬奈、階段のところで 靴落ちてたよ!
  620. みこと: え、シンデレラ…
  621. みこと: なら、帆奈ちゃんも靴落として! 私が拾ってあげる!
  622. 更紗 帆奈: そんなことしてる場合!? 早く履いて!
  623. みこと: 不安はたくさんある このまま逃げたところで そのうち魔力が尽きてしまうし 私の記憶もいつまで保つかわからない
  624. みこと: 私たちはいつもどん詰まりだね
  625. みこと: それなのに…なんでこんなにも 今が輝いて見えるんだろう なんでこんなにも私は幸せなんだろう
  626. みこと: 帆奈ちゃんも同じ気持ちだったらいいのに… それだけで私は、どんな苦痛にも耐えられる
  627. …行き各駅停車、出発します
  628. 更紗 帆奈: ふう、間に合ったね
  629. みこと: うん…
  630. みこと: …ねえ帆奈ちゃん
  631. 更紗 帆奈: うん?
  632. みこと: …………
  633. みこと: …夕日がきれいだね
  634. 更紗 帆奈: …………
  635. 更紗 帆奈: あたし、幸せだよ… 瀬奈とこんな世界から抜け出せて
  636. みこと: え…?
  637. 更紗 帆奈: …不安なんでしょ、この先が
  638. 更紗 帆奈: あたしを連れてるせいでさ 逃げ回ることになっちゃって…
  639. 更紗 帆奈: でもあたし…ああ、いやだな こんなこと言いながらうれしい…
  640. 更紗 帆奈: あんたと一緒にいられるのが
  641. みこと: 帆奈ちゃん…
  642. 更紗 帆奈: …ねえ、思い出の場所を巡って 昔の話を聞かせてくれたよね?
  643. みこと: え?うん…
  644. 更紗 帆奈: 更紗帆奈(あたし)がどれだけ あんたを必要としていたか…
  645. 更紗 帆奈: それはもう、自明だよ
  646. 更紗 帆奈: …だからあたしも あんただけの味方でいい
  647. 更紗 帆奈: 正義の味方になんて 今さらなれないしね…
  648. みこと: 帆奈ちゃん…手、繋ご?前は 触れることもできなかったから
  649. 更紗 帆奈: えっ…う、うん
  650. みこと: きれいな手
  651. 更紗 帆奈: あたしの手は汚れてるよ 願いを叶えたときから
  652. みこと: 世界がそう思っていても 私にはきれいに見える
  653. みこと: 帆奈ちゃんの手は 私にだけ、きれいなの
  654. みこと: …うれしいな
  655. みこと: 電車のガタンゴトンという音が やけに懐かしく聞こえる 流れていく景色がバカみたいに懐かしく思える
  656. みこと: 私はここから出ていく 大切な帆奈ちゃんと一緒に…
  657. 夏目 かこ: ここで美雨さんたちと合流する ことになっているんですか?
  658. 常盤 ななか: ええ…環さんが行方不明になって いるとの情報が入ってきた以上
  659. 常盤 ななか: 人手を増やして早く手がかりを 見つける必要がありますから
  660. 夏目 かこ: なるほど…あれ? あそこにいるのは…
  661. 常盤 ななか: 十七夜さん?
  662.  
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  664. みこと: また帆奈ちゃんの負け~
  665. 更紗 帆奈: 瀬奈はトランプ強いね …罰ゲームがあるんだっけ?
  666. みこと: んふふ…わざと負けるような 帆奈ちゃんにはとびきりのを…
  667. 更紗 帆奈: 何のことかわかんないけど… どんな罰ゲームでもいいよ
  668. みこと: じゃあ、タケノコ踊りして
  669. 更紗 帆奈: …はあ?
  670. みこと: だからあ、こうやって…
  671. みこと: タケノコ!タケノコ!
  672. みこと: にょっきにょっき~~っ!
  673. 更紗 帆奈: …………
  674. 更紗 帆奈: あ、そろそろ時間だ
  675. みこと: えええええ…
  676. 更紗 帆奈: いや、本当にそろそろ… ここの家のやつらが帰ってくる
  677. みこと: 暗示で旅行させてる人たち? ここに来たの2日前だよ?
  678. 更紗 帆奈: 長くは不在にさせられないよ あやしまれる
  679. みこと: ふーん…考えてるんだね
  680. 更紗 帆奈: とにかく行こう、瀬奈 次の町へ
  681. みこと: タケノコ踊り…
  682. みこと: お金がなくなってからは 私たちは歩いて北へ向かっている
  683. みこと: 歩き疲れれば近くの町に立ち寄り 暗示を使って家を一時的に借りる… そういったことを繰り返し 町を転々としている
  684. みこと: けどそろそろどこかの町で 働いてお金を貯めるのもいいかもしれない お金があれば電車にだって乗れるし 帆奈ちゃんに好きなものを買ってあげられる
  685. みこと: そう、クリスマスプレゼント 帆奈ちゃんにクリスマスプレゼントをあげるんだ ふたりで楽しいクリスマスを過ごすために
  686. みこと: どこも雇ってもらえない…
  687. みこと: 身元を明かすことができず 履歴書さえ用意することのできない私は どこに行っても面接すらしてもらえなかった
  688. みこと: どうしたらいいんだろう… せっかくのふたりのクリスマスなのに プレゼントを渡せなかったら がっかりされちゃう…
  689. みこと: 今の手持ちは百円と少し… 1駅、しかもひとり分のお金しかない こんなお金でプレゼントなんて…
  690. みこと: …いや…そうだ…
  691. みこと: あ、それとね… 日記のお礼にこれを買ってきたの
  692. みこと: お揃いのペン!
  693. みこと: そうだ、あのペンなら買える ふたつはムリだけど 帆奈ちゃんの分だけなら…
  694. みこと: 帆奈ちゃんのペンは 星のデザインで、色は紫… よかった、しっかり覚えている
  695. みこと: あの思い出の詰まったペンを 帆奈ちゃんにプレゼントしよう んふふ、絶対よろこんでくれる!
  696. 更紗 帆奈: 瀬奈
  697. みこと: わっ…! は、帆奈ちゃん!?
  698. 更紗 帆奈: 捜したよ ここで何してたの?
  699. みこと: ううん、ちょっと考えごと… 帆奈ちゃんはどうだった?
  700. 更紗 帆奈: 家なら確保したよ ああ、それと…
  701. 更紗 帆奈: これ、瀬奈にあげる
  702. みこと: 花の種?
  703. 更紗 帆奈: この町のことを聞いて回ってたら 花屋の店員からもったんだ
  704. 更紗 帆奈: あたしは花なんて柄じゃないから 瀬奈にあげるよ
  705. みこと: あ、ありがとう… 私、お花好きだからうれしい…
  706. 更紗 帆奈: スノードロップなんだって、それ
  707. みこと: …雪が溶ける頃に咲く花だよ
  708. 更紗 帆奈: じゃあ、時季外れ? いや、まくならちょうどいいのか
  709. みこと: …ねえ帆奈ちゃん 今すぐこの町を出よう
  710. 更紗 帆奈: …………
  711. 更紗 帆奈: いいよ、すぐ出よう こんな町
  712. 更紗 帆奈: でも…もう夜も遅いから 今晩は用意したところで眠ろう?
  713. みこと: …うん
  714. みこと: 私は情けない気持ちでいっぱいだった 帆奈ちゃんは上手にやっているのに 私のこのザマは何なんだろう…?
  715. みこと: 早くプレゼントを見つけないと… この町にはなかったから…あれ? なかったんだっけ?というか… この町で私、何してたんだっけ?
  716. 更紗 帆奈: ―帆奈― 瀬奈、待って 置いていかないでよ
  717. みこと: ―みこと― え…? あれ…もう、夕方…?
  718. みこと: ―みこと― …あれから私 どうしてたんだっけ…?
  719. 更紗 帆奈: ―帆奈― どうしてたって… 大丈夫、瀬奈?
  720. みこと: ―みこと― う、うん、大丈夫… ちょっと寝不足なのかな?
  721. みこと: ―みこと― …まあ、それより、せっかくだから スノードロップの種をまいてみようよ
  722. 更紗 帆奈: ―帆奈― ここに?
  723. みこと: ―みこと― 雪が溶けて、何もかも消え去ったあと 私たちの歩んだ道にその花が咲いてたら
  724. みこと: ―みこと― …なんだか、素敵でしょう?
  725. みこと: そうして私たちは種をまきながら 北へ、北へと逃げていく
  726. みこと: 誰もいないところへ行けば 私たちは幸せになれる…そんな夢を信じて
  727.  
  728. FILENAME: text_520510-9_bXUCP.txt
  729. みこと: 町を転々としながら 私たちは北へと向かう
  730. みこと: どこへ行っても私は不審がられ 警察を呼ばれることもあれば トラブルに巻き込まれることもあった
  731. みこと: 私たちが安穏と過ごすには やっぱり、世界が滅びないといけないみたい
  732. みこと: でももう、それはいい…逃げればいい そこに労力は割きたくない
  733. 鏡のみこと: …まだ、抵抗するんだ?
  734. みこと: ウワサの人格に主導権を渡したくないから
  735. 鏡のみこと: どうしてそんなに頑張るの?
  736. みこと: 帆奈ちゃんと楽しいクリスマスを 過ごすため
  737. みこと: …私にだってそんなクリスマスが あっていいと思うの
  738. みこと: 私の家にはずっとクリスマスがなかった 父親…あの人は家からお金を持って どこかへ行ってしまうし お母さんは遅くまでパートをしていたから
  739. みこと: 私はそれが恥ずかしくて仕方がなかった
  740. みこと: 7歳のとき、朝から家を飛び出して 団地の屋上で何時間も隠れたことがあった なんだかもう全部がいやになってしまったからだ
  741. みこと: どうせ私なんていてもいなくても変わらない… クリスマスパーティーをしてもらえないのも 私にそれだけの価値がないからだ
  742. みこと: 普通のことを…普通のものを 私に与えてくれないのも それだけの価値がないからだ
  743. みこと: そんな私はいなくなればいい どうせ誰も私を見つけてくれないから…
  744. みことの母親: 「…見つけた、みこと」
  745. みこと: でもあのとき… お母さんは見つけてくれた
  746. みこと: お母さんはムリしてパートを休み あの人も連れてきて その日、はじめてわが家で クリスマスパーティーをした
  747. みこと: お母さんとあの人がスーパーで買ってくれた フライドチキンはべちゃべちゃしていたし バタークリームのケーキは なんだか安っぽい甘さだったけど
  748. みこと: 私はうれしくて涙が出た
  749. みこと: 隠れたら捜してくれる、見つけてくれる… そう思った私は8歳のときも9歳のときも 10歳のときも11歳のときも、ずっとずっと クリスマスは屋上で隠れつづけた
  750. みこと: お母さんが見つけてくれたのは 7歳のときの一度だけだった
  751. みこと: だから…7歳のクリスマスの思い出は 一番いやな思い出
  752. みこと: …でも帆奈ちゃんはお母さんと違って こんな私をいつだって見つけてくれる 価値のない私に笑いかけてくれる
  753. みこと: 私を絶対に見捨てたりしないんだ 帆奈ちゃんは私のヒーローなんだ…!
  754. みこと: ああ…ペンを手に入れないと 帆奈ちゃんによろこんでもらわないと…
  755. 鏡のみこと: だったら魔力をたくさん使って 手下たちをコピーすればいい
  756. 鏡のみこと: それで探すの、ペンを
  757. みこと: そうだね…帆奈ちゃんをよろこばすためだもん 魔力くらい使わないとダメだよね…
  758. みこと: あれ…でもあなた、誰だっけ?
  759. 鏡のみこと: 私は…やがてあなたになる私
  760. みこと: ――っ!?
  761. みこと: あ、あれ…私、寝てた…? 最近よく意識が飛ぶような…
  762. みこと: …帆奈ちゃん? 帆奈ちゃーん…?
  763. みこと: い、いない…どこにもいないよ… 帆奈ちゃん、出ていったの…?
  764. みこと: は、帆奈ちゃん…ううっ… 帆奈ちゃん…っ
  765. 更紗 帆奈: …ただいま
  766. みこと: 帆奈ちゃん!
  767. 更紗 帆奈: ど、どうしたの? 泣いてた?
  768. みこと: だって 帆奈ちゃんがいないんだもん
  769. 更紗 帆奈: そんな子どもみたいな…
  770. みこと: …どうせ私は子どもだよ 大人になんかなりたくないし
  771. 更紗 帆奈: あ…ごめんね、瀬奈 もう勝手に出ていかないよ
  772. みこと: 本当に? ひとりでいなくならない?
  773. 更紗 帆奈: うん、約束する
  774. みこと: …えへへ
  775. 更紗 帆奈: …お詫びと言っては何だけど 瀬奈に靴をあげるよ
  776. みこと: え…?
  777. 更紗 帆奈: 前に駅で靴を落としてたでしょ? 危ないなと思って靴屋を見てたら
  778. 更紗 帆奈: 瀬奈によく似合いそうな靴を 見つけてね…
  779. 更紗 帆奈: は、はは…ク、クリスマス プレゼントってやつ
  780. みこと: 帆奈ちゃんがクリスマスプレゼントをくれる? 私はまだあのペンを見つけられていないのに?
  781. 更紗 帆奈: お金は大丈夫、頼み込んだんだ 手伝うかわりにこの靴をくれって
  782. 更紗 帆奈: そしたら、案外うまくいってさ
  783. みこと: そ、そうなんだ 靴屋さんのお手伝いを…
  784. テレビの声: …市の歓楽街で若い女性が 意識不明の重体で発見されました
  785. テレビの声: 警察は事件と事故の両面から 捜査を進めており…
  786. 更紗 帆奈: 意識不明の重体…
  787. 更紗 帆奈: …昨日もこんなの なかったけ…?
  788. みこと: うん…最近多いよね
  789. みこと: いやだなあ、クリスマスまで もう少しなのに
  790. みこと: そうだ…もう少しでクリスマスになる 早くプレゼントを見つけないと…! 帆奈ちゃんが用意してくれるのに 私は何もないなんてあり得ない!
  791. みこと: もっと…もっとたくさん手下をコピーしよう それでコピーたちを町に放って あのペンを手に入れるんだ…!
  792. みこと: ああ…楽しいクリスマスになるよ、きっと よろこぶ帆奈ちゃんの顔を早く見たいなあ…
  793. いろは: …退いて!
  794. いろは: …ねむちゃん、みことさんは 大丈夫なんだよね…?
  795. ねむ: 直接苦しんだり 痛がることはないよ
  796. ねむ: ただ、ここまで複製を乱造すると そのうち乗っ取られてしまう
  797. いろは: 乗っ取られる? 何に…?
  798. ねむ: ウワサの人格に…もっとも 目覚めていればの話だけど
  799. いろは: ――っ!?
  800. 常盤 ななか: よかった 無事のようですね
  801. いろは: な、ななかさん…!? どうしてここに…?
  802. 常盤 ななか: 理由はねむさんの方が 詳しいのではありませんか?
  803. ねむ: …説明した方がいい?
  804. 常盤 ななか: いえ、その前にこちらも 確認したいことがあります
  805. 常盤 ななか: 「…更紗帆奈は生きているのですね?」
  806.  
  807. FILENAME: text_520510-10_bXUCP.txt
  808. <Side:帆奈>
  809. 帆奈の父親: 親になんて目えしやがる! 生意気なガキが!!
  810. 更紗 帆奈: 肌着姿のまま父親に ベランダに放り出され あたしはガタガタと震えていた…
  811. 更紗 帆奈: どこからかクリスマスソングが聞こえてきて 今日がそうなんだったと気づいた …サイテーのクリスマスだ
  812. 帆奈の母親: 「…………」
  813. 更紗 帆奈: 背後に気配を感じたと思ったら 母親が温かな部屋から 悲しそうな顔で私を見ていた
  814. 更紗 帆奈: けれど、あたしが助けを求めようとした そのとき…
  815. 更紗 帆奈: 母親はぷいと視線を逸らして 部屋の奥へ逃げていった
  816. 更紗 帆奈: そのとき、あたしは強く思ったんだ あんなふうには…母親にはなりたくないと
  817. 更紗 帆奈: そうだ、見て見ぬ振りをする人間にはならない 困っている人がいれば進んで手を貸そう そうすればきっと、こんな世の中だって…
  818. なっ、何するのよ!
  819. 更紗 帆奈: あんたらこそ寄ってたかって ひとりをいじめてるんじゃないよ
  820. くっ…
  821. …………
  822. 更紗 帆奈: あたしの靴が…
  823. どうしたの?靴、ボロボロだよ? 施設では買ってもらえないの?
  824. 更紗 帆奈: あんたがやったの…? 仕返しのつもり!?
  825. あ、ごめ~ん!あなたの体操着 ビリビリにしちゃった!
  826. 更紗 帆奈: なっ…!
  827. ほら…行きなよ
  828. …きょ、教科書も ビリビリにしちゃったよ~
  829. 更紗 帆奈: あんたまで…
  830. 更紗 帆奈: その日から、あたしはいじめの標的になった
  831. 更紗 帆奈: あいつらはあたしの生まれを持ち出して いじめが正当なもののように振る舞ったけど そんなものに正当性なんかあるわけない
  832. 更紗 帆奈: なのに…誰にもあたしの言い分は通じなかった 助けたあの生徒にさえも…
  833. 更紗 帆奈: …学校であたしを イラつかせる連中がいるの…
  834. 更紗 帆奈: そいつらを…消して!
  835. キュゥべえ: …消す?
  836. 更紗 帆奈: この世から消してよ!
  837. 更紗 帆奈: だからあたしは、あんなことを願ってしまった
  838. 更紗 帆奈: もうあたしはテレビに出てくるヒーローみたいに 誰かを救う資格なんてない… むしろ、そのヒーローに倒される側になった
  839. 更紗 帆奈: そんなあたしを…
  840. みこと: 大切な友だちに生きていてほしい 私の望みはそれだけなの…ッ!
  841. 更紗 帆奈: そんなあたしを大切な友だちだと言って 必要としてくれる人がいるのなら…
  842. みこと: …怖い…怖いよ、帆奈ちゃん…
  843. 更紗 帆奈: (…瀬奈…)
  844. 更紗 帆奈: その人が助けを求めているのなら…
  845. 更紗 帆奈: たとえ無力であったとしても あたしは、その人の味方でいたい
  846. 更紗 帆奈: 見て見ぬ振りだけは 死んでもしてやらない
  847. 更紗 帆奈: …絶対に母親みたいには…
  848. 更紗 帆奈: …………
  849. 更紗 帆奈: …瀬奈、遅いな
  850. 更紗 帆奈: 瀬奈は勝手だ ひとりにするなって言っておいて あたしのことは平気でひとりにする
  851. 更紗 帆奈: 店長にクリスマスケーキをもらったから ちょっと早いパーティーをふたりでしようと 思って準備してたのに…
  852. 更紗 帆奈: でも…瀬奈が何かしたいことがあるなら あたしは何も言えない…その資格がない
  853. 更紗 帆奈: …ただでさえあたしのせいで この旅に付き合わせてるんだから
  854. 更紗 帆奈: そう…瀬奈はあたしを守るために 破滅へ向かう旅に付き合ってくれている 逃げなくちゃいけないのも 全部、あたしがここにいるせい…
  855. 更紗 帆奈: それなのに瀬奈の味方でいたいだなんて 何様のつもりなんだろう… 純粋な瀬奈の優しさにつけ込んで あたしは卑怯者だ
  856. 更紗 帆奈: でも…
  857. 更紗 帆奈: 瀬奈…ひとりは、寂しいよ …うっ…うう…
  858. 更紗 帆奈: 瀬奈といればどんな日々でも輝いて見える 忌まわしさしか感じなかった明日に きらきらとした希望を見出すことができる
  859. 更紗 帆奈: ごめんね瀬奈… あたし、あんたがいないとダメみたいなんだ だから置いていかないで…あたしのとなりで ずっと笑っていて…
  860. テレビの声: 臨時ニュースです、先ほど…
  861. 更紗 帆奈: え…?
  862. テレビの声: …市の路上で倒れている男性が 発見され、意識不明の重体と…
  863. 更紗 帆奈: それってこの町…? ここでもまた事件が…
  864. 更紗 帆奈: せ、瀬奈は…!? 瀬奈は大丈夫なの!?
  865. 更紗 帆奈: 瀬奈!瀬奈!
  866. 更紗 帆奈: 瀬奈はきっと大丈夫… 一般人の体とは違うんだ あの事件が通り魔の仕業だったとしても きっと…きっと大丈夫
  867. 更紗 帆奈: …なのになんで こんなに胸がざわつくんだろう…?
  868. 更紗 帆奈: ――っ!?
  869. 更紗 帆奈: あ、あんた…
  870. 鏡のみこと: …………
  871. 更紗 帆奈: …ついてこいって、言ってるの?
  872. 更紗 帆奈: あ、ちょ、ちょっと! どこに行くの!
  873. 更紗 帆奈: はあ、はあ…ここに、いるの…?
  874. 更紗 帆奈: そのフロアは、一歩踏み入れただけで 異変をあたしに感じさせた
  875. 更紗 帆奈: 暗がりのところで何かが蠢いている… すり切れるような声が下の方から聞こえてくる… 本能が止まれ、引き返せと警告していた
  876. 鏡のみこと: …………
  877. 更紗 帆奈: 瀬奈は!瀬奈は無事なの!? もし瀬奈に何かしてたら…
  878. みことの声: 誰かいるの…?
  879. 更紗 帆奈: ――っ!?
  880. みこと: …………
  881. 更紗 帆奈: 文具コーナーには べったりとした何かを全身に浴びた 瀬奈が立っていた
  882. 更紗 帆奈: そのとき、あたしは理解した 瀬奈はこいつら手下に何かされたわけではない むしろ…
  883. 更紗 帆奈: せ、瀬奈…
  884. みこと: あっ…帆奈ちゃんだったの?
  885. みこと: おかしいなあ… 一瞬誰かわからなくて…
  886. みこと: もう忘れないように帆奈ちゃんの 名前書いとこっと…腕にしよう
  887. 更紗 帆奈: 書く?
  888. みこと: うん、これを見て
  889. 更紗 帆奈: これ…ペン?
  890. みこと: 本当はね、あのお揃いのペンを あげようと思って探してたの
  891. みこと: なのに…一生懸命探したのに こんな紛い物しか見つからなくて
  892. みこと: これ、デザインが星じゃなくて 三日月なの…偽物なんだ
  893. 更紗 帆奈: …あたしの、ために? あたしのために…これを?
  894. みこと: そう!私、帆奈ちゃんをね よろこばせたかったの!
  895. 更紗 帆奈: 目の前が真っ暗になる… 瀬奈は取り返しのつかない一線を越えてしまった この町の…いや、この世界の 敵になってしまったんだ…
  896. 更紗 帆奈: あの一連の事件も瀬奈が起こしたのだろう 考えてみればあたしたちの行く先々で 事件が起きていた …もっと早くに気がつくべきだった
  897. 更紗 帆奈: どうする?瀬奈を連れて警察に…? いや、そんなところに連れていったって何になる 瀬奈を止められるわけがない
  898. 更紗 帆奈: こんなふうになってしまった瀬奈は もう、もとには戻らないだろう… 魔力が少ないのにムリをさせすぎたんだ そのせいで瀬奈は様子がおかしくなって…
  899. 更紗 帆奈: …なら、どうすることもできない? 魔力は減っていく一方なんだから おそらく瀬奈はもっとおかしくなって 何度も同じ過ちを犯すはず…
  900. 更紗 帆奈: 止めるには、瀬奈を終わらせるしかない
  901. 更紗 帆奈: …あたしは瀬奈を死なせるつもりはなかった もし追ってくるやつらに捕まったとしても あたしだけが死ぬつもりだった でも…こうなってしまったら、もう…
  902. 更紗 帆奈: 瀬奈…寂しくはないよ あたしもすぐ追いかけるから
  903. みこと: 追いかけっこするの? でも、ペンを探さないと
  904. みこと: 私、帆奈ちゃんにもクリスマスを 楽しく過ごしてほしいの
  905. みこと: 『いい思い出なんてなかった、なんて もう帆奈ちゃんには言ってほしくないもん』
  906. みこと: 帆奈ちゃんのいやな思い出は 私が全部、塗り替えてあげるね
  907. 更紗 帆奈: …なんで、そこまで…?
  908. みこと: 帆奈ちゃんは 私のヒーローだから!
  909. 更紗 帆奈: …っ
  910. 更紗 帆奈: ああ…なんでこうなるんだろう
  911. 更紗 帆奈: 願いであいつらを消してから、心の底では ずっと後悔していて…自分自身を、そして この悪意に塗れた世界を否定するために 一度は死んだっていうのに…
  912. 更紗 帆奈: あたしは…本当は正義を信じている その正義を証明できる存在になれれば クソッタレな世界でも愛することができると 願いを叶えるまでは思っていた
  913. 更紗 帆奈: その夢の未練を、今ここではっきりと断とう
  914. 更紗 帆奈: あたしは…瀬奈だけの味方でいる
  915. 更紗 帆奈: 瀬奈…
  916. みこと: …なあに、帆奈ちゃん
  917. 更紗 帆奈: あたし、なりたい自分になるよ
  918. 更紗 帆奈: それがたぶん 魔法少女であることの意味だから
  919. 更紗 帆奈: …まあ、もうウワサなんだけどさ
  920. みこと: どういうこと? 難しいの、わかんない
  921. 更紗 帆奈: …瀬奈はあたしが守るってこと
  922. 更紗 帆奈: そう、たとえあたしが 瀬奈のことを何も覚えていなくても
  923. 更紗 帆奈: …手、冷えたんじゃない? あたしが温めてあげる
  924. みこと: え…い、いいの?でも私、砂遊び してたから、手が汚れちゃって…
  925. 更紗 帆奈: へえ、砂遊びしてたんだ…
  926. みこと: そうそう、砂の山が崩れてきて それでこのペンを見つけたの
  927. 更紗 帆奈: そっか… でも、瀬奈の手はきれいだよ
  928. 更紗 帆奈: 誰が何と言ったって あたしにはきれいに見える…
  929. 更紗 帆奈: あたしは瀬奈のことを何も思い出せないまま 瀬奈のために完全な悪になると心に決めた
  930.  
  931. FILENAME: text_520520-1_LNbJr.txt
  932. <Side:帆奈>
  933. 更紗 帆奈: はぁ~…
  934. 更紗 帆奈: (あたしもちょい休憩っと…)
  935. 更紗 帆奈: …………
  936. 更紗 帆奈: (そうそう…ここだった)
  937. 更紗 帆奈: (和泉十七夜と会ったのは…)
  938. 更紗 帆奈: (…瀬奈はここの夕方の景色が 好きだって言ってたけど…)
  939. 更紗 帆奈: …ん~…
  940. 更紗 帆奈: (…あたしは夜だね…!)
  941. 更紗 帆奈: あっは…
  942. 更紗 帆奈: あたしの記憶ではこうなっている けれど実際は…
  943. 更紗 帆奈: はぁ~…
  944. みこと: 数が多いから疲れちゃったね 私、ちょっと休憩しようっと
  945. 更紗 帆奈: (あたしもちょい休憩っと…)
  946. みこと: …帆奈ちゃん、もしかして わざと見つかるようにしてた?
  947. 更紗 帆奈: …………
  948. みこと: …まあ、でも十七夜さんに使った 暗示が解かれちゃったみたいだし
  949. みこと: ここで十七夜さんと会った過去 そのものを消さないと
  950. みこと: …どの道、バレちゃうか
  951. 更紗 帆奈: (そうそう…ここだった)
  952. 更紗 帆奈: (和泉十七夜と会ったのは…)
  953. みこと: あのときは夕方だったけどね
  954. 更紗 帆奈: (…瀬奈はここの夕方の景色が 好きだって言ってたけど…)
  955. 更紗 帆奈: …ん~…
  956. 更紗 帆奈: (…あたしは夜だね…!)
  957. みこと: あー話、逸らしたー!
  958. 更紗 帆奈: あっは…
  959. 更紗 帆奈: 本当はこうだったらしい…
  960. 更紗 帆奈: あたしが自分のソウルジェムを 砕くときだって瀬奈はそばにいた… というか…
  961. みこと: 要約すると…帆奈ちゃんだけに 見える意識体、かな…?
  962. 更紗 帆奈: ん~…? つまり、幽霊ってこと?
  963. みこと: 幽霊…?
  964. 更紗 帆奈: あー、やっぱりそうなんだ!
  965. 更紗 帆奈: あのね!あたし、ずっと瀬奈が どこかにいるような気がしてたの
  966. 更紗 帆奈: 瀬奈は幽霊になって あたしの中にいてくれていたみたい
  967. 更紗 帆奈: なんでそうなったのかというと…
  968. みこと: 帆奈…ちゃん…! わ、私…どうした…の!?
  969. 更紗 帆奈: 瀬奈!瀬奈!
  970. みこと: …帆奈ちゃん…!
  971. 更紗 帆奈: 瀬奈ーっ!
  972. 更紗 帆奈: …瀬奈が魔女になってしまったことが原因
  973. 更紗 帆奈: 探りを入れれば入れるほど 瀬奈の口からあたしたちの 数奇な運命を聞かされる…
  974. 更紗 帆奈: けれど、あたしは何も覚えていない
  975. 更紗 帆奈: まだ、ボロは出ていないと思う うまくやれているはず… 瀬奈のことを覚えていないなんて 悟られるわけにはいない
  976. 更紗 帆奈: それがどんなに瀬奈を傷つけるか 思い出を失っていてもわかるから…
  977. みこと: ―みこと― 帆奈ちゃん! ぼんやりしてると置いてっちゃうよ!
  978. 更紗 帆奈: ―帆奈― あー…はいはい
  979. 更紗 帆奈: …どうして瀬奈なんだろう? 覚えていなくても瀬奈が自分にとってどれだけ 大切な存在だったかわかる…そんな相手をなぜ?
  980. 更紗 帆奈: いや、そんなのわかりきっているか
  981. ねむ: …教えてほしいんだけど、君は なぜ瀬奈みことの味方をする?
  982. ねむ: いや…なぜ今の君に それができるんだい…?
  983. 更紗 帆奈: あいつにやられたからだ
  984. 更紗 帆奈: おおかた 瀬奈に対する記憶を封じることで あたしが瀬奈に従う理由を なくそうとしたんだろう
  985. 更紗 帆奈: 実際、あたしは瀬奈に関する記憶がないけど …それでも、私は瀬奈の味方でいる たぶん、きっと…これからも味方でいる
  986. 更紗 帆奈: あたしが気づいていないだけで 実はそういううわさにされている? これはあたしの意思ではなく、仕組まれたもの?
  987. 更紗 帆奈: いや、そうじゃないはず… そうだったら説明がつかないことが 多く起きている
  988. 更紗 帆奈: たとえば…瀬奈と一緒にいるだけで このクソッタレな世界が きらきらと輝いて見えることとか…
  989. みこと: ―みこと― ねえ帆奈ちゃん ところどころ雪が積もってるよ
  990. 更紗 帆奈: ―帆奈― …この辺りは 昨日、雪が降ってたみたいだから
  991. みこと: ―みこと― ふーん…そうなんだ
  992. 更紗 帆奈: ―帆奈― 町に立ち寄る回数を減らしたいのに… この様子じゃしばらくムリだね
  993. みこと: ―みこと― 警察のこと、心配してるの?失礼だよね 私たちを通り魔だと間違えるなんて
  994. 更紗 帆奈: ―帆奈― …そうだね
  995. 更紗 帆奈: 警察にもあたしたちの行動がバレてきている… そのうち指名手配だってされるかもしれないし 瀬奈がよくなる見込みはない もう本当に、どん詰まりだ
  996. みこと: ―みこと― あとどれくらいで誰もいない場所へ着くかな?
  997. 更紗 帆奈: ―帆奈― ちょうど…クリスマス当日だと思う
  998. 更紗 帆奈: それでも瀬奈… たとえあんたが過ちを犯しつづけても あたしは絶対に見捨てないよ
  999. 更紗 帆奈: ―帆奈― …………
  1000. 更紗 帆奈: …罪はあたしが全部、持っていくから だから…安心して、瀬奈
  1001.  
  1002. FILENAME: text_520520-2_LNbJr.txt
  1003. <Side:ななか>
  1004. 常盤 ななか: 「違和感を覚えたのはすぐでした」
  1005. 十七夜: 常盤君、君のところにも 連絡があったのか?
  1006. 常盤 ななか: ええ…環さんたちが 行方不明になったと…
  1007. 十七夜: そうだ…そのため自分は 見ての通り慌ててやってきた
  1008. 常盤 ななか: …………
  1009. 夏目 かこ: …ななかさんは瀬奈みことさんを 気にしてましたけど…
  1010. 常盤 ななか: ええ、おそらく彼女が 関係していると…
  1011. 十七夜: …瀬奈みこと? 誰だ、それは
  1012. 常盤 ななか: ――っ!?
  1013. 夏目 かこ: お、覚えていないんですか…!?
  1014. 十七夜: 自分と会ったことがあるのか?
  1015. 常盤 ななか: …………
  1016. 常盤 ななか: …既視感があります
  1017. 十七夜: なに…?
  1018. 常盤 ななか: 更紗帆奈さんについては どうですか?
  1019. 十七夜: どうと言われても… 自分は知らないが
  1020. 常盤 ななか: やはり、そうですか
  1021. 夏目 かこ: これって…
  1022. 常盤 ななか: はい、暗示の魔法です
  1023. 常盤 ななか: …更紗帆奈が生きている
  1024. 夏目 かこ: ――っ!?
  1025. 常盤 ななか: かこさんは十七夜さんを連れて みたまさんのもとへ
  1026. 常盤 ななか: 私は瀬奈みことさんが 何か言っていなかったか調べに
  1027. 常盤 ななか: ――っ!?
  1028. 常盤 ななか: 「突然、私のもとへ何かが現れたと思ったら 次の瞬間にはこの空間に放り込まれていました」
  1029. 常盤 ななか: 「…おそらく引き金になったのは 瀬奈みことさんを捜そうとしたこと…」
  1030. 常盤 ななか: …合っていますか?
  1031. ねむ: 合っているよ
  1032. ねむ: 瀬奈みことを捜そうとすると ここへ強制的に連れてこられる
  1033. いろは: 私とねむちゃんはみことさんを 極力傷つけないように
  1034. いろは: 消耗させて戦えない状態にする ためにここに残っているんです
  1035. ねむ: それに力を発揮できない 状態にしておかないと
  1036. ねむ: 瀬奈みことを捜しにいく度に ここへ連れ戻されてしまうからね
  1037. 常盤 ななか: とすると…他の方も集めて 対処した方がよさそうですね
  1038. 常盤 ななか: 早く消耗してもらわないと 捜しにいけませんから
  1039. ねむ: 君が捜しに…?
  1040. 常盤 ななか: ええ…
  1041. 常盤 ななか: 「1発、ぶん殴りにいくんです」
  1042. 常盤 ななか: …それで、私の他にも殴りに いきたいのが、皆さんですか
  1043. 純 美雨: 結局このメンツネ
  1044. 志伸 あきら: まあ、仕方ないんじゃないかな
  1045. 夏目 かこ: みんな、因縁がありますから…
  1046. 静海 このは: …そんな暗い話ではなく もっと前向きな話にしましょう
  1047. 遊佐 葉月: そうだね そもそもアタシらは
  1048. 遊佐 葉月: アイツを1発ぶん殴るために また集まったんだから
  1049. 伊吹 れいら: それは本当に 前向きなんですか…?
  1050. 常盤 ななか: やちよさんこそいいんですか?
  1051. 常盤 ななか: 他の方は環さんの 協力をしにいきましたが
  1052. やちよ: …私も無関係ではないもの 同行するわ、見届けるために
  1053. 鶴乃: わたしも!
  1054. 純 美雨: …手がかりはあるネ?
  1055. 常盤 ななか: はい、この地図を見てください
  1056. 夏目 かこ: …東北地方の地図ですね
  1057. 遊佐 葉月: このバツ印は?
  1058. 常盤 ななか: …最近頻発する 通り魔事件の発生現場です
  1059. 志伸 あきら: どんどん北上している…
  1060. やちよ: まさか…
  1061. 常盤 ななか: 事件はふたりが逃亡してから 発生するようになりました
  1062. 常盤 ななか: もうすでに警察も動いている… 急がないといけません
  1063. 夏目 かこ: …ふたりが犯人なんですか?
  1064. 常盤 ななか: もしそうなら、湯国市での惨劇が 神浜市でも再現されてしまう
  1065. みんな: …………
  1066. 常盤 ななか: では…作戦を説明します
  1067.  
  1068. FILENAME: text_520520-3_LNbJr.txt
  1069. <Side:みこと>
  1070. みこと: もうすぐクリスマス! 楽しい楽しいクリスマス!
  1071. みこと: そうだよね!
  1072. 鏡のみこと: …………
  1073. みこと: さあ、 プレゼントを探しにいこう!
  1074. みこと: 大型のショッピングモールって どこも同じに見えるなあ…
  1075. みこと: あれ…前はどこで見たんだっけ?
  1076. みこと: まあ、いっか
  1077. みこと: んふふ、ほら探して そこらにいっぱいあるから
  1078. みこと: 私も早く探さないと…
  1079. みこと: …何を探すんだっけ…? というか…誰に渡すものだっけ?
  1080. 帆奈の声: 瀬奈!
  1081. みこと: うん…?
  1082. 更紗 帆奈: はあ、はあ…
  1083. みこと: なあに、あなたもプレゼントを 探したいの?
  1084. 更紗 帆奈: 瀬奈、あたしだよ 帆奈…更紗帆奈!
  1085. みこと: 更紗帆奈…更紗帆奈… それって誰だっけ…? 最近、物忘れが多いなあ…
  1086. みこと: いや、違う…帆奈ちゃんだ 帆奈ちゃんをどうして忘れていた…? 私が帆奈ちゃんを忘れるなんて あり得ないのに…なんで…?
  1087. みこと: …ここ、どこ…? 私、ここで何を…
  1088. 更紗 帆奈: 見なくていい!
  1089. みこと: ふいに私の視界は真っ暗になった 帆奈ちゃんの手で目を覆われてしまったみたい
  1090. みこと: 帆奈ちゃん、これなに? いたずら?
  1091. 更紗 帆奈: いや…ちょっとここ、汚いから 瀬奈は見ない方がいいよ
  1092. みこと: うん、帆奈ちゃんがそう言うなら そうするね
  1093. みこと: でも…ずっとこのまま?
  1094. 更紗 帆奈: こ、このまま…出口に行けるか 遊ぼうよ
  1095. みこと: わー楽しそう!
  1096. みこと: 帆奈ちゃん、私ね いっぱい遊びたいの
  1097. みこと: だってもうすぐ クリスマスなんだから!
  1098. みこと: 『クリスマスにはね 楽しいことがいっぱいあるの 色んなゲームをして、色んなお料理を食べて ケーキだってあるんだよ!』
  1099. みこと: 『それにね、お父さんがサンタさんの振りをして プレゼントを届けにきてくれたり… その日はいつもより遅くまでお母さんが 絵本を読んでくれて、それでね…』
  1100. みこと: 『愛してるって言って 私を優しく寝かしつけてくれるんだから!』
  1101. 更紗 帆奈: それは…た…たの…
  1102. 更紗 帆奈: …楽しみだね
  1103. みこと: うん!
  1104. みこと: …あれ?もう遊びは終わり?
  1105. 更紗 帆奈: とっくに、外に出てたから…
  1106. みこと: あれ?帆奈ちゃん…悲しいの?
  1107. 更紗 帆奈: …悲しくなんかないよ
  1108. みこと: でも、泣いてたんじゃないの?
  1109. 更紗 帆奈: なっ、泣いてなんか…
  1110. 常盤 ななか: ――っ!?
  1111. 更紗 帆奈: ――っ!?
  1112. 更紗 帆奈: なんであんたが、ここに…
  1113. 常盤 ななか: 捜していたからです …ようやく見つけましたよ
  1114. 常盤 ななか: 更紗帆奈…!
  1115.  
  1116. FILENAME: text_520520-4_LNbJr.txt
  1117. <Side:ななか>
  1118. やちよ: 今のところ、うまく果てなし鏡に 連れていかれずに済んでいるわね
  1119. 常盤 ななか: 環さんたちのおかげです 気になりますか?
  1120. やちよ: 気にならないって言ったら嘘ね けれど…いるんでしょう?
  1121. 常盤 ななか: ええ、あのふたりは この町にいるはずです
  1122. 純 美雨: …どこにいるネ?
  1123. 夏目 かこ: 手分けして捜しましょう
  1124. 志伸 あきら: …………
  1125. 常盤 ななか: どうかしましたか?
  1126. 志伸 あきら: …本当にあのショッピングモール ふたりがやったのかな…?
  1127. 常盤 ななか: …会って確かめるしかありません
  1128. 鶴乃の声: た、大変だー!!
  1129. 常盤 ななか: ――っ!?
  1130. 常盤 ななか: 何がありました!?
  1131. 鶴乃: この町のショッピングモールでも また同じ事件が…!!
  1132. 夏目 かこ: そ、そんな…!
  1133. 純 美雨: …ともかく急いで向かうヨ
  1134. 常盤 ななか: …今行っても ふたりはもうそこにいないはず
  1135. やちよ: そうでしょうね
  1136. 常盤 ななか: ならここで網を張っている方が… いや、わざと抜け道をつくって…
  1137. やちよ: 何か作戦があるの…?
  1138. 常盤 ななか: …やちよさん 頼まれてくれますか?
  1139. やちよ: え…?
  1140. 常盤 ななか: …という形にしてもらえれば
  1141. やちよ: ええ、わかったわ
  1142. 常盤 ななか: …………
  1143. 常盤 ななか: …どこかで私は甘く見ていたのかもしれない 彼女の事情を知って、同情していた? あんな目に遭わされておきながら…?
  1144. 常盤 ななか: 私だけではなく、多くの人が 弄ばれたというのに…?
  1145. 常盤 ななか: ――っ!?
  1146. 常盤 ななか: (声が、聞こえる…)
  1147. 常盤 ななか: (…この声は!)
  1148. みこと: でも、泣いてたんじゃないの?
  1149. 更紗 帆奈: なっ、泣いてなんか…
  1150. 常盤 ななか: ――っ!?
  1151. 更紗 帆奈: ――っ!?
  1152. 常盤 ななか: …ようやく見つけましたよ
  1153. 常盤 ななか: 更紗帆奈…!
  1154. 更紗 帆奈: ちっ、思ったより早い
  1155. 常盤 ななか: …………
  1156. 更紗 帆奈: …なに、やらないの?
  1157. 常盤 ななか: あなたは更紗帆奈で いいんですよね…?
  1158. 更紗 帆奈: あたしがウワサだから 偽物だって?
  1159. 常盤 ななか: …つまらないことを聞きました あなたがあの過去を覚えてるなら
  1160. 常盤 ななか: 私にとってあなたは更紗帆奈 以外の何者でもありません
  1161. 更紗 帆奈: …は、はは…まさかあんたに 認めてもらえるなんてね
  1162. 常盤 ななか: あなたの行動は認めません
  1163. 常盤 ななか: …ショッピングモールの事件は ふたりでやったんですか?
  1164. みこと: ショッピングモールの事件?
  1165. 更紗 帆奈: ――っ!?
  1166. 更紗 帆奈: そう! あたしが全部やったんだよ
  1167. 常盤 ななか: …………
  1168. 更紗 帆奈: ショッピングモールだけじゃない 他も全部だよ、もちろん
  1169. みこと: ねえ帆奈ちゃん この人、なに?
  1170. 更紗 帆奈: え、常盤ななかっていう… まあ、あたしたちの敵だよ
  1171. みこと: ああ、そっか…この人が 帆奈ちゃんをいじめたんだ
  1172. みこと: 無茶苦茶にしてあげて
  1173. 更紗 帆奈: 瀬奈、あんまり力を使ったら…!
  1174. みこと: 平気だよ、こんなの
  1175. 常盤 ななか: くっ…!
  1176. みこと: あははは…そんなものなの?
  1177. 常盤 ななか: そんなわけ…!
  1178. 鏡のみこと: …!
  1179. 常盤 ななか: この数…倒してもキリがない…
  1180. 更紗 帆奈: 瀬奈、逃げるよ!
  1181. みこと: え…逃げるの? こんなやつここで壊せばいいのに
  1182. 更紗 帆奈: きっと他にも仲間がいる 今は戦ってる場合じゃない
  1183. みこと: えーでもー
  1184. 更紗 帆奈: 誰もいない世界へ行くんでしょ!
  1185. みこと: あ、そうだね じゃあ行こっか
  1186. 常盤 ななか: 待ちなさい、更紗帆奈!
  1187. 更紗 帆奈: …ふん
  1188. 常盤 ななか: 更紗帆奈ッ!
  1189. 常盤 ななか: …………
  1190. 常盤 ななか: …なんて、負け犬の遠吠えを すると思いましたか…?
  1191.  
  1192. FILENAME: text_520520-5_LNbJr.txt
  1193. <Side:みこと>
  1194. やちよ: そっちにはいかせない!
  1195. 更紗 帆奈: よっと
  1196. みこと: 帆奈ちゃん、こっち!
  1197. 鶴乃: 待て!
  1198. みこと: 私たちが逃げる先には 必ずと言っていいほど あいつらの姿があった
  1199. 帆奈の声: あいつらが待ち構えている場所へ 誘導させられているんだ
  1200. 帆奈の声: 仕留められなかったら
  1201. 帆奈の声: 次の場所でって あいつらはリレーをしてる
  1202. 更紗 帆奈: まったく、いやな女だよ 常盤ななか…
  1203. みこと: …どうして帆奈ちゃん そんなに楽しそうなの…?
  1204. 更紗 帆奈: 楽しくなんかないって
  1205. みこと: ふーん…ふーん
  1206. 更紗 帆奈: …おっと 次の相手だ
  1207. 夏目 かこ: こ、ここは通しません!
  1208. 更紗 帆奈: どきな!
  1209. 夏目 かこ: わわっ!
  1210. 夏目 かこ: ううっ…
  1211. 更紗 帆奈: 暗示を使うまでもない
  1212. 夏目 かこ: と、突破されてしまいました…
  1213. 常盤 ななか: 問題ありませんよ、かこさん
  1214. 夏目 かこ: ななかさん!
  1215. 常盤 ななか: 葉月さんたちにも 先回りしてもらっています
  1216. 常盤 ななか: 彼女たちはもう 袋のネズミです…
  1217. みこと: それから…どうしただろう 戦っては逃げ…戦っては逃げ それを繰り返しているうちに 夜が明けていた…
  1218. 更紗 帆奈: はあ、はあ…
  1219. みこと: …すごい…
  1220. みこと: 山道を転がるように下ってきた 私たちの視線の先には 真っ白な世界が広がっていた
  1221. みこと: ずっと向こうの向こうまで雪に覆われ すべてがきれいに隠された世界…
  1222. みこと: …誰もいない世界 ねえ、ようやく…えっと…
  1223. 更紗 帆奈: 帆奈…更紗帆奈
  1224. みこと: …ごめんね帆奈ちゃん…なんで 私、思い出せなくなるんだろう
  1225. みこと: よりにもよって帆奈ちゃんを!
  1226. 更紗 帆奈: 気にしないでいいよ…
  1227. 更紗 帆奈: あ、というより… 新しい思い出をつくろう
  1228. みこと: 新しい、思い出…?
  1229. 更紗 帆奈: そう…楽しい思い出をつくるの
  1230. 更紗 帆奈: クリスマスに寂しい思い出しか ないの、いやでしょ
  1231. 更紗 帆奈: だから…
  1232. 更紗 帆奈: 「あたしたちのきらきらとした思い出を このクリスマスに降り積もらせるんだよ」
  1233. 更紗 帆奈: 「羨んでばかりの過去は捨てて あたしたちこそ誰もが羨むような そんなクリスマスの思い出をつくる」
  1234. 更紗 帆奈: 「あたしたちは決してみじめなんかじゃない そう、誰にもみじめだって言わせない だってあたしたちは明日がいらないほど幸せに 思い出をつくるんだから」
  1235. みこと: うん、そうだね… いっぱい思い出をつくろう
  1236. みこと: 追っ手が向かってきているのをわかりながら 私たちは最後の時間を楽しい思い出にするために 雪合戦をして遊び出す…
  1237. みこと: あはは、ほらー!
  1238. 更紗 帆奈: やったなー!
  1239. みこと: 私たちはどうしてここにいるんだっけ? どうして追われているんだっけ…? もうよく思い出せなくなっているけど この時間をやりきりたい
  1240. みこと: だから次は、雪だるま 帆奈ちゃんと私とで どっちが可愛い雪だるまをつくれるか 競争をするの
  1241. 更紗 帆奈: よいしょ、よいしょ
  1242. みこと: …えっと…帆奈ちゃん それ、雪だるま?
  1243. 更紗 帆奈: そうだけど…
  1244. みこと: …苦手、だった? アート系
  1245. 更紗 帆奈: え、そんなに変?
  1246. みこと: でもやっぱり私たちで競争するのは なんだか違う気がしたから 一緒にふたつの雪だるまをつくることにした
  1247. みこと: 帆奈ちゃんの雪だるまはちょっとすごかったから 形を整えるうちに小さくなっちゃったけど 最終的には可愛くできたと思う
  1248. みこと: …これでよし
  1249. みこと: 山小屋でみつけた長いマフラーを ふたつの雪だるまに巻いてあげる 解けないようにかたく結んで…
  1250. みこと: あとは、かまくらをつくって… ソリもしたいなあ
  1251. 更紗 帆奈: いいよ、もっと遊ぼう
  1252. みこと: ああ、楽しいなあ…
  1253. みこと: でもこの楽しい思い出すら すでに忘れていっている…
  1254. みこと: 帆奈ちゃんのことですら 気を抜くと全部忘れてしまいそうになる
  1255. みこと: 忘れたくない…忘れたくない…! 帆奈ちゃんことだけは忘れたくない…ッ!
  1256. みこと: でも、いくら願ったって 帆奈ちゃんとの思い出が 溶けて消えていく…
  1257. みこと: なんでこんなことになるのかな…? 私は帆奈ちゃんと一緒にいたかっただけなのに
  1258. みこと: それはそんなに、悪いことなの…?
  1259. みこと: 気がつけば、夕焼けになっていた
  1260. みこと: 私はここで何をしていたのだろう… 何か大切で、とても愛おしくて 忘れてはいけないことをしていたはずなのに
  1261. みこと: もう、何も思い出せない
  1262. 更紗 帆奈: …瀬奈、ちょっといい?
  1263. みこと: え…? ええと…
  1264. 更紗 帆奈: …思い出さなくて大丈夫 ちょっとこっちにおいで
  1265. みこと: う、うん…
  1266. 更紗 帆奈: この先には集落がある 瀬奈は今からそこに行って
  1267. 更紗 帆奈: 全部、更紗帆奈がやりました って言うの…いいね?
  1268. みこと: 更紗帆奈…?
  1269. 更紗 帆奈: とっても悪いやつさ あんたを人質にしてたんだ
  1270. 更紗 帆奈: でももう大丈夫、あんたは 解放されたの…何も心配いらない
  1271. みこと: わかった 集落に行ってそう言えば…
  1272. みこと: …違う、そんなの言っちゃダメ 帆奈ちゃんは私の友だち…!
  1273. 更紗 帆奈: …………
  1274. みこと: なんで、帆奈ちゃん…? なんでそんなことを私に…!
  1275. 更紗 帆奈: …あんたといられて 本当に楽しかったよ
  1276. 更紗 帆奈: たぶんあたしは、何度あたしを やり直してもあんたの味方になる
  1277. みこと: 帆奈ちゃん…何をする気…!?
  1278. 更紗 帆奈: …瀬奈
  1279. 更紗 帆奈: あたしのこと、忘れて
  1280. みこと: ――っ!?
  1281. みこと: …あ、暗示の…魔法…
  1282. みこと: い、いや…忘れたく… 帆奈ちゃんを、忘れたく、ない…
  1283. みこと: 帆奈…帆奈ちゃああんッ…!
  1284. 更紗 帆奈: …さようなら、瀬奈
  1285. みこと: …………
  1286. みこと: …え、あなたは…誰?
  1287. 更紗 帆奈: …っ
  1288. 更紗 帆奈: 「…誰でもないよ」
  1289. 更紗 帆奈: …………
  1290. 更紗 帆奈: …遅かったね
  1291. 常盤 ななか: 瀬奈みことさんは?
  1292. 更紗 帆奈: …ふふ
  1293. 更紗 帆奈: 思い出の中だよ
  1294.  
  1295. FILENAME: text_520520-6_LNbJr.txt
  1296. <Side:帆奈>
  1297. 更紗 帆奈: こっちだよ!
  1298. 夏目 かこ: そ、そこなら…!
  1299. 夏目 かこ: あれ…木?
  1300. 更紗 帆奈: どこ見てんのさ
  1301. 夏目 かこ: きゃあっ!
  1302. 更紗 帆奈: 地形は活かさないとね
  1303. 鶴乃: この…!
  1304. 更紗 帆奈: あんたは休…
  1305. 更紗 帆奈: がっ!
  1306. 鶴乃: 暗示は対策済みだよ!
  1307. 更紗 帆奈: …そりゃよかった
  1308. 鶴乃: え…?
  1309. 鶴乃: ああっ!
  1310. やちよ: 鶴乃!
  1311. 純 美雨: …今のは…?
  1312. 更紗 帆奈: くっ…あたしの、新しい力だよ
  1313. 更紗 帆奈: 瀬奈を逃がしてから 怒りや憎しみ…すべての悪意が あたしの中へ急激に入ってくる
  1314. 更紗 帆奈: そう…瀬奈があたしのかわりに この悪意を引き受けてくれていたんだ だから瀬奈はあんなことに…
  1315. 更紗 帆奈: なんで、黙ってたの…? もっとあたしを… 頼ってよ、バカ…!
  1316. 更紗 帆奈: あ、ああ…ああああッ!
  1317. 静海 このは: …うぐっ!
  1318. 更紗 帆奈: どうやらあたしは悪意を力にできるらしい 便利な体になったもんだ…なった? 違う、あたしは最初からウワサで…
  1319. 更紗 帆奈: 力を使う度に自分が自分でなくなるような 何かに侵食されていくような感覚に陥る 同時に、自分を証明する記憶が薄らいでいき 不要なものから思い出せなくなる
  1320. 更紗 帆奈: これはもうダメだね あたしはきっと助からない
  1321. 更紗 帆奈: だったら…瀬奈を忘れる前に 燃え尽きてやる
  1322. 常盤 ななか: これ以上力を使えば、あなたは あなたでなくなりますよ!
  1323. 更紗 帆奈: あの創造主から聞いたの…? でもそんなのどうでもいい
  1324. 更紗 帆奈: 瀬奈のために何かできるなら あたしはそれだけでいいんだよ!
  1325. 相野 みと: …な、なんでこの数で 勝てないの…!?
  1326. 更紗 帆奈: はあ、はあ…
  1327. 桑水 せいか: でも…消耗してる?
  1328. 常盤 ななか: 相手のペースに 乗せられてはいけません
  1329. 常盤 ななか: 攻撃を加えては離れる… それを延々と繰り返してください
  1330. 更紗 帆奈: (いやな真似を…)
  1331. 純 美雨: はあっ!
  1332. 更紗 帆奈: ぐぅ!
  1333. 志伸 あきら: やあっ!
  1334. 更紗 帆奈: ああっ!
  1335. 夏目 かこ: もう降参してもらえませんか…? こんなこと、無意味ですよ…
  1336. 夏目 かこ: それに…そもそもあなたは今 何のために戦っているんですか
  1337. 更紗 帆奈: 何のため…?
  1338. 更紗 帆奈: 何だったっけ…とても大切なもののために 戦っていたような気がする…
  1339. 更紗 帆奈: この人は誰だっけ…? あたしは、この人のために… この人に笑っていてほしくて 戦っていたと思う…
  1340. 更紗 帆奈: なんで覚えてないんだろう…バカだな、あたし こんなにも大事な人のことを忘れてしまうなんて 侵食されようと何があろうとこの人のことは 覚えていないといけないのに…
  1341. 更紗 帆奈: …だって、この人は…
  1342. みこと: 帆奈ちゃん…ッ!
  1343. 更紗 帆奈: …………
  1344. 更紗 帆奈: な、なんで…
  1345. 更紗 帆奈: なんで思い出しちゃうんだよッ!
  1346. 更紗 帆奈: この人は… …あたしの大好きな、瀬奈みこと
  1347. <Side:みこと>
  1348. 更紗 帆奈: 瀬奈、どうして… 暗示は…?
  1349. みこと: 帆奈ちゃんの名前、見たから ほら…腕に書いてあって…
  1350. 更紗 帆奈: それは…
  1351. みこと: もう忘れないように帆奈ちゃんの 名前書いとこっと…腕にしよう
  1352. 更紗 帆奈: それ、だけで…? それだけであたしのことを…?
  1353. みこと: これだけで十分だよ…
  1354. みこと: 『たとえ得体の知れない摂理が 私から何度も帆奈ちゃんを奪おうとも 私はその度に抗って、取り戻してみせる』
  1355. みこと: 帆奈ちゃんは、私の希望だから!
  1356. 更紗 帆奈: 瀬奈…
  1357. 常盤 ななか: …やはり、更紗帆奈のもとへ 戻ってきましたか
  1358. みこと: だからあ…帆奈ちゃんの名前を 私以外が口にするな!
  1359. みこと: (あの空間に送る力は残ってない それなら、数で押すしか…)
  1360. 更紗 帆奈: せ、瀬奈!
  1361. 更紗 帆奈: あんただけはあたしが必ず守る だからもう力は使わないで
  1362. 更紗 帆奈: あんたの力だって そんなには…
  1363. みこと: ここでムリしないとダメ だってそうじゃないと…
  1364. みこと: そうじゃないと帆奈ちゃんが 私を守るために死んじゃうもん… それも、私を置いてけぼりにして
  1365. みこと: そんなことは、させない…!
  1366. みこと: くう…ッ!
  1367. 更紗 帆奈: せ、瀬奈…!何を!?
  1368. みこと: この体をもうひとりの私… ウワサの人格に明け渡すの
  1369. みこと: 私に残った少ない魔力じゃない ウワサの魔力をすべて使えるから
  1370. 更紗 帆奈: なに、言ってるの…? あたしには、意味が…
  1371. 常盤 ななか: やめなさい、瀬奈さん! そんなことをすればあなたは…!
  1372. みこと: うるさいッ!帆奈ちゃんとの 間に他人が割り込むなッ!!
  1373. みこと: ねえ帆奈ちゃん、大丈夫だから 何も心配いらないよ
  1374. みこと: 大好きだから、帆奈ちゃん それは絶対に忘れない…
  1375. みこと: …忘れないでね?
  1376. 更紗 帆奈: ま、待って…なんで そんなこと言うの…?
  1377. 更紗 帆奈: そんなお別れみたいなこと!
  1378. みこと: あ、あああああああ!
  1379. 更紗 帆奈: 瀬奈!?
  1380. みこと: は、帆奈ちゃん!
  1381. 更紗 帆奈: 瀬奈!瀬奈!
  1382. みこと: あ、あああああああ!
  1383. 更紗 帆奈: 瀬奈!?
  1384. みこと: は、帆奈ちゃん! ど、どうしよう!?
  1385. みこと: 苦しいよ…!! た、助け…て…!!
  1386. 更紗 帆奈: 瀬奈!瀬奈!
  1387. みこと: …帆奈ちゃん…!
  1388. 更紗 帆奈: 瀬奈ーっ!
  1389. 更紗 帆奈: 瀬奈ああああッ!
  1390. みこと: え…?
  1391. 更紗 帆奈: あ、あたしを もう置いていかないで!
  1392. 更紗 帆奈: 最後まであたしに 守らせてよ…ッ!
  1393. みこと: 帆奈、ちゃん…?
  1394. 鏡のみこと: これで、私が私になれる…
  1395. 鏡のみこと: …っ、うう…く、苦しい? どうして…?
  1396. みこと: 『誰も瀬奈みことの人格を 明け渡すなんて言ってないよ』
  1397. みこと: 明け渡すのはあくまでウワサの体 まあ、その体も暗示で操るけどね
  1398. 鏡のみこと: 暗示…まさか…!?
  1399. みこと: そう、帆奈ちゃんの暗示を 私に移植しちゃった~
  1400. みこと: 大抵のものは移植できるって 悪意の移植でわかってたからね
  1401. 鏡のみこと: 私を“力”として利用するって? そんなこと、させるものか…!
  1402. みこと: 私だってそうだよ 命を懸けてあなたを支配する
  1403. みこと: 帆奈ちゃんに証明してもらった “瀬奈みこと”を奪わせるものか
  1404. みこと: 私が…本物の私だあああッ!
  1405. 更紗 帆奈: せ、瀬奈…?
  1406. 常盤 ななか: その姿は…
  1407. みこと: 『あなたたちの行動が魔法少女として 正しい行いだとするのなら… 私はそのすべてに背き 情け容赦なく叩きのめしてみせる』
  1408. みこと: それでもと言うのなら 見せてちょうだい
  1409. みこと: 未来に希望を紡ぐ姿を
  1410.  
  1411. FILENAME: text_520520-7_LNbJr.txt
  1412. 静海 このは: みんな、いったん下がって! これは…
  1413. 静海 このは: く、ああ…っ!
  1414. 三栗 あやめ: このはー!
  1415. 夏目 かこ: 危ない、あやめちゃん!
  1416. あやめ&かこ: きゃああっ!
  1417. みこと: んふふ…そこに隠れてるの だーれだ?
  1418. 純 美雨: くっ…!
  1419. 志伸 あきら: 美雨!
  1420. 純 美雨: あ、あきら…来ては…
  1421. みこと: ふたりとも送ってあげる
  1422. 美雨&あきら: があ…っ!
  1423. みこと: んふふ…
  1424. みこと: …熱い
  1425. みこと: 意識がドロドロと溶けていくような心地で ひどく気分が悪い…その上、力を使う度に 刃物で突き刺されたような痛みが全身に走り 何も考えられなくなる…
  1426. みこと: …熱い…熱い…ッ!
  1427. 常盤 ななか: あれは…拒絶反応?
  1428. やちよ: いえ、というより… 何かが抵抗してる…?
  1429. みこと: ああああああっ!
  1430. 更紗 帆奈: 瀬奈!
  1431. みこと: だ、大丈夫、帆奈ちゃん… クリスマス、楽しいね
  1432. 更紗 帆奈: え…?
  1433. みこと: 今日はクリスマスなんだよ 覚えてないの、帆奈ちゃん
  1434. みこと: 私ね、帆奈ちゃんにプレゼントを 用意してたんだ、お揃いのペンを
  1435. みこと: あれ…ここにないな…あのペンね みんな欲しがって横取りするの
  1436. みこと: だから取り返しにいかないと!
  1437. 更紗 帆奈: …そう、だね またショッピングモールに行こう
  1438. 常盤 ななか: ――っ!?
  1439. 常盤 ななか: …予想はしてましたが やはり犯人はあなたではなく…
  1440. 更紗 帆奈: なに勘違いしてるの あたしがやったんだよ
  1441. 常盤 ななか: …彼女をかばう前に 止めるべきではないのですか
  1442. 常盤 ななか: これ以上 彼女に罪を重ねさせるのは…
  1443. 更紗 帆奈: 瀬奈は何も汚れていないよ 罪は全部あたしが引き受けるから
  1444. 更紗 帆奈: だから…瀬奈はきれいなままだ
  1445. やちよ: あなたは、何を言って…
  1446. 更紗 帆奈: …瀬奈、こいつらを倒そう! それで誰もいない場所へ行こう!
  1447. 更紗 帆奈: そこで…もう一度雪だるまを つくるんだ…もっと大きいやつを
  1448. みこと: 雪だるまって?
  1449. 更紗 帆奈: …うん、そうだね あとでちゃんと教えるよ…
  1450. 常盤 ななか: そんな状態の瀬奈さんを連れて あなたは何をしたいのですか!
  1451. 更紗 帆奈: あんたらこそ 瀬奈をどうするつもり!
  1452. 更紗 帆奈: ここであたしたちを捕まえて それで…そのあとは!?
  1453. 常盤 ななか: …適切な状態に戻します
  1454. 更紗 帆奈: もっとわかりやすく言いなよ 殺すってさ!
  1455. 常盤 ななか: そんなことは…!
  1456. 更紗 帆奈: 嘘を吐くなッ!!
  1457. 更紗 帆奈: あんたらはとっくに瀬奈を 見捨ててるから…切り捨てる
  1458. 更紗 帆奈: …あたしはそうじゃない 絶対に、見捨てたりしない…!
  1459. 更紗 帆奈: それをすれば、あたしは あたしではなくなるから!
  1460. やちよ: うっ!
  1461. 更紗 帆奈: 瀬奈!もう派手にいこう! こいつら全員ぶっ壊そう!
  1462. みこと: うん!
  1463. みと&れいら: うああ…っ!
  1464. みこと: あはは、この遊び楽しいね 帆奈ちゃん!
  1465. 桑水 せいか: …っ!!
  1466. 更紗 帆奈: 強い!さすが瀬奈! もうこのふたりしか残ってないよ
  1467. みこと: えへへ…
  1468. やちよ: くっ…
  1469. 更紗 帆奈: …あんた、そろそろ 本気を出したら…?
  1470. やちよ: …………
  1471. 更紗 帆奈: 何を隠してるのか知らないけど このままだとあんた…
  1472. みこと: あ…ああ…
  1473. 更紗 帆奈: せ、瀬奈、どうしたの…?
  1474. みこと: 力が、急に…なくなって…
  1475. 更紗 帆奈: ――っ!?
  1476. 更紗 帆奈: どうせあんただろ… 何をした、常盤ななか!!
  1477. 常盤 ななか: …時間は稼ぎました 頼みますよ、皆さん
  1478. いろは: 攻撃をつづけて 消耗を強いてください!
  1479. 十七夜: 凄まじい数だが… 想定通りなのだろう?
  1480. ねむ: 「これは、ウワサを無理に利用している証拠 瀬奈みことが消耗しきるより前に ウワサが消耗しきったら肉体は瓦解する…」
  1481. ねむ: 宿主を失う彼女の人格は 新たな宿主へ移る必要がある
  1482. 灯花: そう、こっちから強制的に 移植させようってわけ
  1483. うい: お姉ちゃん!
  1484. いろは: うん…行こう、うい!
  1485. みこと: あ、ああああ…ッ!!
  1486. 更紗 帆奈: 瀬奈!!
  1487. 常盤 ななか: …ウワサはもう保たない 移植の魔法を使わせなさい
  1488. 更紗 帆奈: なに、勝った気でいるの…?
  1489. 常盤 ななか: ええ すでに勝敗は決しています
  1490. 常盤 ななか: …あなたの相手は 私が務めるのですから
  1491.  
  1492. FILENAME: text_520520-8_LNbJr.txt
  1493. <Side:帆奈>
  1494. 常盤 ななか: そこ…っ!
  1495. 更紗 帆奈: ぐう…っ!
  1496. 更紗 帆奈: この!
  1497. 常盤 ななか: また、雪を…!?
  1498. 更紗 帆奈: 遅いっ!
  1499. 常盤 ななか: うっ!
  1500. 更紗 帆奈: 急所を狙ったのに、体を捻った?
  1501. 更紗 帆奈: ちいっ…!
  1502. 更紗 帆奈: はあ、はあ…
  1503. 更紗 帆奈: もう限界だ…立っているのでやっとだ 前のときもそうだった いつもあたしの戦いはボロボロだ
  1504. 更紗 帆奈: だけど、それは仕方がない あたしは別に才能に恵まれているわけでも 何でもない…もしかしたら平均よりやや下の 力しか持っていないかもしれない
  1505. 更紗 帆奈: それを暗示と小細工で誤魔化しながら 他のやつらと渡り合ってきた でも、もう…策がない
  1506. ななかの声: 瀬奈さんを 置き去りにしていいのですか?
  1507. 常盤 ななか: …あまり時間もかけられません そろそろ決着をつけましょう
  1508. やちよ: 本当に見ているだけでいいのね?
  1509. 常盤 ななか: これは、私闘ですから
  1510. 更紗 帆奈: 何かないか…暗示は散々使った もう通じるような相手じゃない 地形も利用した…他には…
  1511. 更紗 帆奈: 光は?雪は光を反射する 目くらましに使えるんじゃ… いや、その光をどうやって用意する! ええい、考えがまとまらない
  1512. 常盤 ななか: …行きます
  1513. 更紗 帆奈: ――っ!?
  1514. 常盤 ななか: 一閃!
  1515. 更紗 帆奈: がああ…っ!
  1516. 帆奈の声: …っ、あ、ああ…
  1517. 更紗 帆奈: 夕焼けに染まった空が遠くに見える もう体はびくとも動かない どうやらあたしはここまでのようだ
  1518. 更紗 帆奈: ごめんね瀬奈…あんたを守れなかった きっとあんたは先に行っちゃうね? 移植を使って生きながらえようとは 決してしないと思うから…
  1519. 更紗 帆奈: あんたのことを覚えていなくても それくらいはあたしにだってわかるよ わからないこいつらがどうかしてる
  1520. 更紗 帆奈: でもね瀬奈、ひとりじゃないよ? あたしもきっとすぐあとを追う… だから、許してくれるでしょ? 寂しくはないね
  1521. ななかの声: …立ちなさい
  1522. 更紗 帆奈: なに言ってんの…あたしはもうムリ どうせあんたはとどめを刺さないんでしょ? じゃあもう放っておいてよ
  1523. ななかの声: 立ちなさい!
  1524. 常盤 ななか: あなたの意地は その程度だったのですか!
  1525. 帆奈の声: ――っ!?
  1526. 常盤 ななか: 私はそんなものに抗うため復讐へ 身を捧げたわけではありません!
  1527. 帆奈の声: あ、あんた、何を…?
  1528. 常盤 ななか: …私は清廉潔白ではありません
  1529. 常盤 ななか: 目的を達成するために ひどい真似も行いました
  1530. 常盤 ななか: それら業は私が人生を懸けて 償っていく…
  1531. 常盤 ななか: もう一度言います 立て、更紗帆奈!
  1532. 常盤 ななか: 今のお前は私の償うべき 尊いものを貶めている
  1533. 帆奈の声: …は…はは…
  1534. 更紗 帆奈: ―帆奈― 何だよ、それ
  1535. 常盤 ななか: ―ななか― ――っ!?
  1536. 更紗 帆奈: こいつが何を言っていたのか 全然わからない だけど、今のあたしがこいつに 相応しい敵ではないことはわかる
  1537. 更紗 帆奈: …それは、ダメだよね
  1538. 更紗 帆奈: あたしは神浜を混乱のどん底に陥れたヴィラン ここで立ち上がらなきゃ名が廃る
  1539. 更紗 帆奈: 小細工の用意はもうない 使えそうなものもない でも、ひとつだけ忘れていた
  1540. 更紗 帆奈: ヴィランの心意気だ
  1541. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしは混沌のヴィラン あんたたちに厄災を振り撒く者さ!
  1542. 更紗 帆奈: もっとだ、もっと悪意を集めろ… 肉体が壊れても動かせられるように 命が燃え尽きようと戦えるように!
  1543. 更紗 帆奈: 諦めようとするな、弱さを見せるな お前は何も意に介さないように不敵に笑い 完全なる悪として立ちはだかるんだ
  1544. 更紗 帆奈: お前が不幸に叩き落とした者たちが 何の迷いもなくお前を討てるように… それがヴィランの心意気だろ、更紗帆奈!
  1545. 更紗 帆奈: ―帆奈― …あっは!
  1546. 更紗 帆奈: 守り抜いてみせろ、瀬奈みことを 瀬奈がどんなに悪事を働いていても どんなに取り返しのつかない罪を犯しても お前だけは瀬奈の味方でいろ!
  1547. 更紗 帆奈: …できるな?
  1548. 更紗 帆奈: 当たり前だろ
  1549. 更紗 帆奈: ―帆奈― そのためにあたしはヴィランになったんだ…!
  1550. 常盤 ななか: ―ななか― …………
  1551. 常盤 ななか: ―ななか― …顔つきが変わりましたね まるで、昔のようです
  1552. 更紗 帆奈: ―帆奈― 偉そうに上からモノ言わないでくれるー?
  1553. 更紗 帆奈: ―帆奈― その澄ました顔、ぐっしゃぐしゃに したくなるからさ!あっは!
  1554. 常盤 ななか: ―ななか― …あなたにとどめを刺さなかったこと 一度も後悔はしていません
  1555. 更紗 帆奈: ―帆奈― なに、今回も寸止めするって?
  1556. 常盤 ななか: ―ななか― ええ、あなたには生きて償ってもらいます 瀬奈みことさんと一緒に
  1557. 常盤 ななか: ―ななか― ですがその前に、1発ぶん殴らせてもらいます
  1558. 更紗 帆奈: ―帆奈― 甘ちゃんだなあ… こんなやつらは死ななきゃ治らないよ?
  1559. 更紗 帆奈: ―帆奈― …ね、瀬奈!
  1560. みこと: ―みこと― んふふ、死んでも治らないかも
  1561. 常盤 ななか: ―ななか― あなた…
  1562. 更紗 帆奈: 瀬奈がそばにいてくれるおかげだろうか? 視界も意識も明瞭になっていく それどころか記憶さえも これまで薄らかかっていたもやが晴れていく
  1563. 更紗 帆奈: 激しい痛みが襲う…記憶がせきを切ったように 流れ込んできて胃袋を鷲づかみにされたような 異様な不快感を覚える
  1564. 更紗 帆奈: …見つけた
  1565. みこと: え…?
  1566. 更紗 帆奈: 最後に会えてよかったよ、瀬奈
  1567. 更紗 帆奈: これは…何だ?
  1568. 更紗 帆奈: こんなやり取りをしたなんて 瀬奈からは聞いていないのに…
  1569. みこと: ―みこと― どうしたの、帆奈ちゃん…?
  1570. 更紗 帆奈: ―帆奈― ううん、何でもー
  1571. 更紗 帆奈: …あたしの頭は回路でも焼き切れたのかな? ありもしない幻覚を見せてくる…
  1572. 更紗 帆奈: もしかしたら…瀬奈に関する記憶が 封印から解かれようとしている…? いや、違う…全然別のところから 瀬奈との記憶が、瀬奈への思いが出てくる
  1573. 更紗 帆奈: まるで更紗帆奈の心が 自分が何者であるか思い出せと訴えるように
  1574. 更紗 帆奈: ―帆奈― …っ
  1575. 更紗 帆奈: 頭に衝撃が走るような痛みを覚える …今、あたしは何をしているんだった? いや…そうだ、思い出した…まだ大丈夫
  1576. 更紗 帆奈: だけどそのうち、大丈夫じゃなくなるんだろうな 何もかもわからなくなって…
  1577. 更紗 帆奈: それでも…まあ、いっか
  1578. 更紗 帆奈: あたしは錆びついた明日より 輝く今が欲しい
  1579. 更紗 帆奈: 瀬奈だってきっと同じ気持ち… だから、死にそうなのを堪えて立っている
  1580. 更紗 帆奈: …もう、準備は万全だ
  1581. 更紗 帆奈: ―帆奈― そんじゃ、改めて…
  1582. 更紗 帆奈: ―帆奈― じゃじゃーん! どーもどーも!
  1583. 常盤 ななか: ―ななか― ――っ!?
  1584. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしがお目当ての… 更紗帆奈だよ~っと!
  1585. みこと: ―みこと― 相棒の瀬奈みことだよ~!
  1586. みこと&帆奈: ―みこと&帆奈― あっはー!
  1587.  
  1588. FILENAME: text_520520-9_LNbJr.txt
  1589. <Side:みこと>
  1590. みこと: 降ってくる雪が頬で溶けて 涙のように流れた 意識はまだぼんやりとしている
  1591. みこと: あれから私たちは…どうなったんだっけ…?
  1592. やちよ: 気がついたようね
  1593. みこと: この人は誰だっけ…? 思い出せない それより、帆奈ちゃんは…?
  1594. みこと: は、はん…帆奈、ちゃん…!
  1595. 常盤 ななか: 更紗、帆奈なら… 気を失って、います…
  1596. やちよ: まだ動かないで あなたも危ない状態なのよ
  1597. 常盤 ななか: い、いえ…やちよさん、は… 他の皆さんの手当を…私は…
  1598. 常盤 ななか: このふたりを、連れて、帰ります
  1599. やちよ: でも、もうふたりは…
  1600. 常盤 ななか: 聞きたく、ありません…!
  1601. 常盤 ななか: 私は必ず、ふたりを… 生きて、帰さないと…
  1602. やちよ: …わかったわ けれど、ムリはしないで
  1603. 常盤 ななか: ありがとう、ございます…
  1604. 常盤 ななか: ほ、ほら…行きます、よ
  1605. みこと: どこへ…?
  1606. 常盤 ななか: 帰るんです、神浜へ… ここは、バカに寒くて、いやです
  1607. 常盤 ななか: さあ、手伝ってくだ、さい… 彼女を、背負わないと
  1608. みこと: …どうして、そこまでするの?
  1609. 常盤 ななか: このまま、おふたりを見捨てたら …負けたみたいじゃないですか
  1610. 常盤 ななか: 私自身の、悪意に…
  1611. 常盤 ななか: 私は、そんなものに 負けたくないんです
  1612. 帆奈の声: …あたしには、ムリだったな
  1613. 常盤 ななか: え…?
  1614. 更紗 帆奈: あんたを選んでよかったよ
  1615. 更紗 帆奈: まあ、あんたにとっては 災難でしかなかっただろうけど
  1616. 常盤 ななか: あなた、立って…
  1617. 更紗 帆奈: もうムリせず、眠り…
  1618. 更紗 帆奈: って、痛っ!
  1619. 常盤 ななか: はあ、はあ…暗示は私には 通用しません
  1620. みこと: …もう気はすんだ? なら、眠ってて
  1621. 常盤 ななか: え…あなた…!?
  1622. 更紗 帆奈: 瀬奈~、あたしから盗ったね
  1623. みこと: 違う違う、借りてるだけ 返そっか?
  1624. 更紗 帆奈: もういいよ、それより行こう あいつらが戻ってくる前に…
  1625. 更紗 帆奈: あたしがまだ覚えているうちに…
  1626. みこと: うん…行こう、帆奈ちゃん
  1627. 常盤 ななか: ま、待ちな、さい…!
  1628. 更紗 帆奈: …………
  1629. 常盤 ななか: ま、待て… 待てって、言ってるだろ…ッ!
  1630. ななかの声: 更紗帆奈あああ…ッ!
  1631. みこと: それから私たちは… 体を支え合いながら ともかく、歩きつづけた
  1632. みこと: 私たちの旅の終着地はもうすぐそこだった
  1633. みこと: 降り積もった雪をかき分けて進むのは 想像以上に体力を使い、足ももつれ出す
  1634. みこと: あっ…と思った瞬間 私は倒れ込んでしまった 支え合っていた帆奈ちゃんも倒れる
  1635. みこと: 何か、沈んでいくような感覚だった 体はもう何も動かなくなり 頭の中が溶け出すように思い出がなくなっていく
  1636. みこと: 止めようとしてもムダだった もう私という思い出を記憶する媒体は限界なんだ
  1637. みこと: 思い出が私から見えなくなっていく… それを悲しく思うのに 何を忘れてしまったのかがわからない それがなおさら悲しかった
  1638. みこと: ああ…ここはどこなんだろう? とっても寒い…とっても寂しい…
  1639. みこと: 私は気力を振り絞って手を動かした 体勢も頑張って変えてみたりして そこにあるはずの何かを探す
  1640. みこと: 何を探しているの? わからないけど… そこにあるはずなの
  1641. みこと: 私の大切な思い出が
  1642. みこと: 涙かと思ったら、頬に触れた雪だった いつの間にか、雪が降っていたんだ… だからここはこんなに寒くて…悲しいんだ
  1643. 更紗 帆奈: 「…見つけた」
  1644. みこと: 私の手に誰かの手が当たった その手はとても温かくて 優しい感じがする…
  1645. みこと: ―みこと― 帆奈…ちゃん…?
  1646. 更紗 帆奈: ―帆奈― …そうだよ
  1647. みこと: ―みこと― こんなに近くにいたんだね… 私、もう全然、動けなくて…
  1648. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしも…
  1649. みこと: 帆奈ちゃん…私の大切な人、大好きな人 それは知識としてわかっている
  1650. みこと: でも…帆奈ちゃんとの思い出が もう何も思い出せない
  1651. みこと: …そんなこと、帆奈ちゃんには言えない 言ったらたぶん傷つくと思う そうだよね…?合っているよね…? 私だけ忘れてしまっているなんて、そんなこと…
  1652. 更紗 帆奈: ―帆奈― ねえ…あの…えっと…
  1653. 更紗 帆奈: ―帆奈― みこと?
  1654. みこと: どうしてか、名前を呼ばれただけで 胸がいっぱいになった
  1655. みこと: 私が帆奈ちゃんって呼んでるんだから 帆奈ちゃんだって私のことを いつも名前で呼んでるんじゃないの…? 合ってるはずなのに、なんで…
  1656. みこと: なんでこんなに、うれしいの…?
  1657. 更紗 帆奈: ―帆奈― …みこと?
  1658. みこと: ―みこと― う、ううん!どうしたの?
  1659. 更紗 帆奈: ―帆奈― あ、えっと…ク、クリスマス 楽しかったよね?
  1660. みこと: クリスマス…いつだったっけ?
  1661. みこと: あ、そうだ、私は帆奈ちゃんと一緒に クリスマスパーティーをしたんだった きらきら光る色とりどりの折り紙で 部屋を目一杯飾って、色んな料理を用意して…
  1662. みこと: ―みこと― 楽しかったけど、帆奈ちゃん 輪つなぎ下手すぎだよ…結局私が全部したもん
  1663. 更紗 帆奈: ―帆奈― ああ…そうだったね あたしなんでこんなに不器用なんだろう?
  1664. 更紗 帆奈: ―帆奈― でもさ、サンタの格好してあげたでしょ
  1665. みこと: ―みこと― そうそう!サンタさんからプレゼントもらうの はじめてだったからすごくうれしかった
  1666. 更紗 帆奈: ―帆奈― みこともプレゼント、ありがとう あのペン、大切にしまっておくよ
  1667. みこと: ―みこと― ちゃんと使ってよー
  1668. 更紗 帆奈: ―帆奈― あっはは…
  1669. みこと: あのクリスマスは本当に楽しかった はじめて食べる七面鳥はおいしかったし ケーキだって一緒に食べたし…
  1670. みこと: ああ…まぶしい 世界がきらきらして見える
  1671. みこと: きっと私たちの思い出を雪が乱反射させて まばゆく輝かせているからだ
  1672. みこと: ―みこと― ねえ帆奈ちゃん…雪がきれいだよ 色とりどりに輝いている
  1673. みこと: ―みこと― あれは私たちの思い出なんだ 思い出がこの世界に降っている…
  1674. 更紗 帆奈: ―帆奈― 見えるよ…みこと
  1675. みこと: 雪がドロップのような… 色とりどりのきれいな欠片に変わる
  1676. みこと: ここは 私たちふたりだけの世界だ
  1677. みこと: 優しさと温かさに満ち溢れていて ここなら安心して眠れるはずなのに
  1678. みこと: …どうして私は、こんなにも怖いんだろう
  1679. みこと: ああ、そうだ…誰も私を見つけてくれないからだ 私はひとりぼっちで、どれだけ泣いても 誰も私を捜してくれない…
  1680. みこと: 私はただ、温もりが欲しかったのに…
  1681. みこと: 愛してほしかっただけなのに
  1682. みこと: …そんなことを思っちゃいけなかったのかな…
  1683. みこと: ―みこと― お母さん…
  1684. 更紗 帆奈: ―帆奈― …心配いらないよ…もう大丈夫…
  1685. 更紗 帆奈: ―帆奈― あたしがいつまでも一緒にいるから…
  1686. 更紗 帆奈: ―帆奈― みことのそばには…いつも、あたしが…
  1687. みこと: ああ、そうだ… 帆奈ちゃんがいれば大丈夫だ 帆奈ちゃんがいれば何も怖いことなんてないんだ
  1688. みこと: 帆奈ちゃんは私のヒーローで 格好よくて、強くて、絶対に諦めなくて そして、必ず私を見つけて…
  1689. みこと: …絶対に味方でいてくれるんだ!
  1690. みこと: 世界はとっても怖くて汚いけれど 帆奈ちゃんと一緒にいれば不安はないよ
  1691. みこと: そう、帆奈ちゃんがいるから私も強くなれる 帆奈ちゃんがいるから…
  1692. みこと: 私は何にでもなれる
  1693. みこと: まるで…魔法だね
  1694. みこと: …ねえ帆奈ちゃん 私、帆奈ちゃんみたいになりたいなあ… ううん、絶対になるんだ
  1695. みこと: だって…
  1696. みこと: きっと大切な人を幸せにできると思うから!
  1697.  
  1698. FILENAME: text_520520-10_LNbJr.txt
  1699. <Side:ななか>
  1700. 常盤 ななか: あれから…クリスマスが過ぎ 平穏な日々が戻ってきました
  1701. 常盤 ななか: 私はふと思い立って電車に飛び乗り 更紗帆奈と瀬奈みこと… ふたりが消えた場所へ向かっています
  1702. 常盤 ななか: きっと今日見た、夢のせいです
  1703. 常盤 ななか: うっ、くうっ…!
  1704. やちよ: ム、ムリしないで 暗示の魔法が解けたばかりなのよ
  1705. 常盤 ななか: そうは言っていられません 更紗帆奈はどこに…
  1706. 常盤 ななか: …これは?
  1707. やちよ: 誰かがここで寝ていたのかしら… そんな跡よね
  1708. 常盤 ななか: こんな雪の中にですか? しかもこれはふたり分…
  1709. やちよ: つまり… そういうことなんじゃないかしら
  1710. 常盤 ななか: …………
  1711. やちよ: 足跡らしきものはここまでに いくつかあったけれど…
  1712. やちよ: ここから先にはないわ
  1713. 常盤 ななか: …ここが終着地
  1714. やちよ: わからないけれどね…雪が足跡を 隠してしまったかもしれない
  1715. 常盤 ななか: …………
  1716. 常盤 ななか: …バカ
  1717. 常盤 ななか: …本当にバカですよ、そんなの
  1718. 常盤 ななか: ねむさんが物語の経緯を本で確認した限りだと 瀬奈みことはウワサの魔力に呑まれかけたり 自身の魔力を消耗していく中で
  1719. 常盤 ななか: 意識を呑まれるように記憶が 見えなくなっていったそうです
  1720. 常盤 ななか: 最後の瞬間…ふたりはお互いのことを 何も覚えていないのに… 並んで咲く2輪の花のように寄り添っていた…
  1721. 常盤 ななか: それは世間的には悲しい結末になるのでしょうが ふたりの姿を想像すると…どうしてか それでよかったのではないかと思うのです 憎らしいくらいに
  1722. 常盤 ななか: …一応あのふたりは 表向きは行方不明になっていますが 実際のところ、もう戻ってくることはありません
  1723. 常盤 ななか: ねむさんがふたりのうわさのページを 破り捨ててしまったからです
  1724. 常盤 ななか: なぜ、そんなことを…?
  1725. ねむ: ふたりの物語はここで おしまいにしてあげたい
  1726. ねむ: あのふたりは互いの存在のため もう、十分すぎるほど戦ったよ…
  1727. 常盤 ななか: ねむさんが何を言っているのか私には わかりませんでしたが…不思議なものです わかっていないくせに破くという行為が とても正しいことのように思えたのです…
  1728. 常盤 ななか: ふたりは、思い出の中で…永遠に
  1729. 常盤 ななか: …………
  1730. 常盤 ななか: …はあ、いい加減 こっちに来たらどうですか?
  1731. 夏目 かこ: えっ!? き、気づいてたんですか
  1732. 常盤 ななか: そりゃ気づきますよ… なぜ私についてきたんです
  1733. 夏目 かこ: え、えっと…ちょっとだけ 心配だなって…あはは
  1734. 常盤 ななか: …私は大丈夫ですよ
  1735. 常盤 ななか: 大丈夫になれるんです
  1736. 夏目 かこ: そう、ですか…
  1737. 常盤 ななか: …やはり冷えますね、ここは
  1738. 夏目 かこ: あの、ななかさん
  1739. 常盤 ななか: 何ですか?
  1740. 夏目 かこ: 気になっていたんですけど… 自動浄化システムは無事ですか?
  1741. 夏目 かこ: 瀬奈みことさんが いなくなってしまいましたから…
  1742. 常盤 ななか: ああ、それなら心配いりません
  1743. 常盤 ななか: 自動浄化システムは 何の問題もなく機能しています
  1744. いろは: 実は、私の中に時空を繋ぐ力が 残されているんです
  1745. 常盤 ななか: 瀬奈みことが残していったと…? できたんですね、そんなことが
  1746. いろは: 私もみことさんが離れるまで 知らなくて…
  1747. ねむ: 彼女が移植したのは あくまで自分の人格だけ
  1748. ねむ: 持っていくこともできたかも しれないけど、そうしなかった
  1749. 常盤 ななか: …瀬奈みことは未来への希望を 信じていないわけではなかった…
  1750. ねむ: さあ、どうだろうね…
  1751. ねむ: 単に更紗帆奈以外に 興味がなかっただけかもね
  1752. いろは: そんなことないよ
  1753. いろは: みことさんはやっぱりどこかで 期待してるんだと思う
  1754. いろは: 私たちの未来を
  1755. 夏目 かこ: そんなことが…
  1756. 常盤 ななか: 実際私はその力を借りて 鏡の世界から戻ってきたので
  1757. 常盤 ななか: その実在性は きちんと確認しています
  1758. 夏目 かこ: 時空を繋ぐって…あの鏡ですか?
  1759. 常盤 ななか: ええ、そうです 他に出る方法がなかったので
  1760. 夏目 かこ: そうだったんですね…
  1761. 常盤 ななか: …それで、本当にかこさんも 見るんですか?
  1762. 夏目 かこ: はい、一度ちゃんと 見ておきたいなって…
  1763. 夏目 かこ: ななかさんはどうしてですか?
  1764. 常盤 ななか: 何となくです、何となく…
  1765. 夏目 かこ: …………
  1766. 夏目 かこ: …ななかさんはおふたりのことを どう思っていますか…?
  1767. 夏目 かこ: もう、許した…とか?
  1768. 常盤 ななか: いいえ、許すわけがありません
  1769. 常盤 ななか: ふたりの環境も事情も調べました 話も皆さんから聞きました
  1770. 常盤 ななか: けれど、それはそれです 今でもムカついて仕方ありません
  1771. 常盤 ななか: クソッタレ、というやつです
  1772. 夏目 かこ: そ、そうですか…あはは…
  1773. 常盤 ななか: 私は、同情もしていない
  1774. 常盤 ななか: ただ… 後悔はあります
  1775. 夏目 かこ: ――っ!?
  1776. 常盤 ななか: …かこさんはどうですか?
  1777. 夏目 かこ: わ、私は… 願いで元通りにしましたし…
  1778. 夏目 かこ: それに魔法少女になって いいことだってあるんですよ?
  1779. 常盤 ななか: え…?
  1780. 夏目 かこ: 勇気を持つ自分…そう、 なりたい自分になれたんです
  1781. 常盤 ななか: …っ、く…
  1782. 夏目 かこ: え、ど、どうしたんですか? 私、変なこと言いました…?
  1783. 常盤 ななか: …いえ、申し訳ありません 本当に…
  1784. 常盤 ななか: あっ…あそこ、見えますか? あの辺りでふたりが…
  1785. 夏目 かこ: あれ…? お花が咲いてますよ
  1786. 常盤 ななか: え…?
  1787. 夏目 かこ: なんていうお花なんですか?
  1788. 常盤 ななか: ―ななか― …スノードロップ 雪が溶ける頃…ちょうど今頃に咲く花です
  1789. 夏目 かこ: ―かこ― そういえば…ここに来るまでに このお花、他の場所でも咲いてましたよ
  1790. 常盤 ななか: ―ななか― そうなんですか?
  1791. 夏目 かこ: ―かこ― はい、何度か見ましたから!
  1792. 夏目 かこ: ―かこ― えっと…ここでおふたりが いなくなったんですよね?
  1793. 夏目 かこ: ―かこ― ちょうど2輪咲いて…可愛いですね
  1794. 常盤 ななか: ―ななか― これがふたりの証…というわけですか
  1795. 常盤 ななか: あれから何度もあのふたりのことを 考えてみたのですが 私にはふたりが何を思っていたのか どうしてもわかりません
  1796. 常盤 ななか: ふたりがなぜ逃げていたのかも そしてなぜここで消え その後どうなったのかも…
  1797. 常盤 ななか: きっと、この花を見る度に 私はふたりを思い出し、また考え込むのでしょう
  1798. 常盤 ななか: 他の皆さんがふたりを忘れてしまっても 私は何度も何度も思い出すことでしょう
  1799. 常盤 ななか: そして私は、明日へ進んでいく
  1800. 夏目 かこ: ―かこ― ななかさん、そろそろ行きましょう
  1801. 常盤 ななか: ―ななか― はい…
  1802. 常盤 ななか: ―ななか― …いつかまた、どこかで
  1803. 常盤 ななか: このクソッタレの思い出に 持てる限りの愛を込めて…
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