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Nayuta Satomi MSS JP Text

Jun 11th, 2021 (edited)
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  1. FILENAME: text_310371-1.txt
  2. 那由他: むにゃ…
  3. 那由他: へへ…どうですか灯花… 民俗学は最強の学問なんですの…
  4. ???の声: 「ん~~~~~~~~~」
  5. 那由他: んぅ…
  6. 那由他: (な、なんですの この不快な音…)
  7. 那由他: (気分が悪いですの…)
  8. ???の声: 「ん~~~~~~~~~」
  9. ガバッ
  10. ラビ: ん~~~~~~~~~
  11. 那由他: ってラビさん!?
  12. ラビ: おはようございます 那由他様
  13. 那由他: な、なんですの 今の「ん~」という声は…
  14. ラビ: 蚊の鳴き真似です 睡眠を妨げる音として有名です
  15. 那由他: そんなやりかたじゃなくて、 普通に起こして欲しかったですの
  16. ラビ: 最初はそうしましたが、 那由他様が起きなかったので
  17. ラビ: さあ、急いで朝食にしましょう
  18. ラビ: 私も那由他様も、市外の学校に 通ってるんですから
  19. ラビ: このままでは遅刻してしまいます
  20. もぐもぐ…
  21. ラビ: 那由他様、 もう少し急いで食べてください
  22. 那由他: こ、これでもちゃんと 急いでますの…!
  23. ラビ: 寝坊した10分を取り戻す気概で お願いします
  24. 那由他: それはもう丸飲みしないと 間に合わないんですの!
  25. 那由他: でも、ちゃんと噛まないと 体に悪いんですの…
  26. もぐもぐもぐもぐ!
  27. ラビ: 素晴らしいペースですね
  28. ラビ: それでは、私の方が時間なので 先に出発します
  29. ラビ: 食べ終わったら食器はシンクに 浸けておいてください
  30. ラビ: お弁当はここに置いておきます
  31. 那由他: ありがとうございます… ですの…
  32. ラビ: …お礼はいいのですが 何か言いたげですね
  33. 那由他: えっ…それは…
  34. ラビ: 要望があるのなら聞きますよ 言ってください
  35. 那由他: …あったかくない、ですの…
  36. ラビ: え、作りたてのはずですが…
  37. 那由他: いえ、そうでなくて…
  38. 那由他: 一緒に暮らし始めて しばらく経ちましたが…
  39. 那由他: ラビさんは優しいお手伝いさん というより
  40. 那由他: 厳しい継母の様で 冷たいですの…
  41. 那由他: だから、もっとこう… 愛のある…温かみを…
  42. 那由他: せっかく歳も近いことですし…
  43. ラビ: そんなことでしたか
  44. 那由他: そんなこと…
  45. ラビ: だったら厳しくされないように もっとシャキッとしてください
  46. ラビ: では行ってきます
  47. 那由他: …いってらっしゃい、ですの
  48. バタン
  49. 那由他: …………
  50. もぐ、もぐ
  51. 那由他: …………
  52.  
  53. FILENAME: text_310371-2.txt
  54. <宝崎市>
  55. <学校>
  56. 今日のロングホームルームでは 自己分析の授業を行います
  57. 皆さんの中には外部の学校へ 受験する方もいますし
  58. 将来は就職活動を する人もいるでしょう
  59. その際、面接で問われるのが 自己分析能力の高さです
  60. 那由他: (自己分析…自分を調べる 必要なんてあるんですの…?)
  61. 那由他: (自分のことなんだから 最初から知ってるはずですの)
  62. では、これからみなさんで 4人のグループを作ってください
  63. その中で各自、自己分析と一緒に 他己分析をしてもらいます
  64. グループのメンバーに対する それぞれの印象と
  65. 自分で考える 自身の印象を
  66. 紙に書いて 見せ合ってくださいね
  67. 那由他、一緒にやろ!
  68. 那由他: ええ、お願いしますの
  69. 私たちも混ぜて~
  70. じゃあ、自己分析用の紙を1枚と 他己分析用の紙を3枚
  71. これみんなに配るね
  72. これ、あとで見せ合うんだよね?
  73. うわぁ、マジで恥ずかしいね
  74. 那由他: で、でも授業なので… やるしかないですの…!
  75. 那由他: (なんとか書けましたの!)
  76. 那由他: この子は真面目で優しくて 面白い子ですの
  77. 那由他: この子は明るくて活発で 多分男の子から1番モテる子ですの
  78. 那由他: この子は擦れて見えますけど 実は純情で可愛い子ですの
  79. 那由他: 私自身は… すこしおっとりしてるところがありますの
  80. 那由他: 後は…勉強が好きで得意なんですの
  81. 那由他: あ、おっとりしてると言っても しっかり者なんですの
  82. 那由他: やる時はしっかりやる、そんな女ですの
  83. 那由他: …これを今からみんなに言われるんですの…? それは…確かにちょっと照れちゃいますの
  84. はい、そこまで では見せ合ってください
  85. じゃあ誰の印象からやろっか
  86. 那由他でいいんじゃね
  87. 那由他: 私…? ええ、お願いしますの
  88. 那由他: (照れないように 気を付けないとですの…)
  89. では僭越ながら私から 那由他の印象は…じゃん!
  90. 負けず嫌い!
  91. 那由他: え?
  92. あ、私が書いたのも ちょっと近いかも
  93. 私の那由他の印象は…じゃん!
  94. ハッキリものを言う!
  95. じゃあ私も一緒だ 那由他の印象は…じゃん!
  96. 超頑固!
  97. 那由他: 超…!
  98. 那由他: みんな…あんまりですの… マジメに私のことを考えて…
  99. なんで? 大マジメだよ
  100. 那由他: そう…なんですの? でも実感があまりにもなくて…
  101. なんで実感ないんだよー
  102. この前、学祭の ダンス曲決めた時だって
  103. 男子提案のフザけた曲に なりかけた時に
  104. ちゃんと流れに逆らって 戦ってくれたじゃん
  105. 那由他: あれは、私が単に 嫌だっただけで…
  106. 那由他: 空気は読めてなかったと 反省していますの
  107. 確かにそうかもだけど そうやって曲がらないのが那由他
  108. 頑固以外の何者でもないって
  109. 那由他: (…言われてみれば そうかもしれないですの)
  110. 那由他: (パパのことをいつまでも 諦めずに捜してることも…)
  111. 那由他: (頑固だから、と言われたら 認めるしかないですの)
  112. ところで那由他は、自分のこと なんて書いたの?
  113. 那由他: え…? し、知らないですの
  114. わ、コイツ! 自分で勉強得意って書いてる!
  115. ハッキリ言うねぇ
  116. どうでしたか? 意外な結果になったのでは?
  117. ところでみなさんは
  118. 「ジョハリの窓」 という言葉を知っていますか?
  119. 人には4つの側面がある というお話です
  120. 「具体的には ①自分も他人も知っている側面 ②自分は気付いていないが他人は知っている側面 ③他人は知らないが自分だけが知っている側面 ④自分も他人も知らない側面」
  121. この4つですね
  122. これを聞いて気付いている人も いるかもしれませんが
  123. 自己分析で得られる自身の側面は ①と③の半分だけ
  124. また③は他人に伝えることが 前提にはなっていないので
  125. 実際に面接などの場になると 伝えられるのは、ほぼ①だけに
  126. それは今話した側面の たった4分の1でしかありません
  127. 那由他: …………
  128. 那由他: 自分が知らない側面… 自分しか知らない側面…
  129.  
  130. FILENAME: text_310371-3.txt
  131. 那由他: じゃあ私は駅に行くので…
  132. うん、また明日
  133. 那由他: …………
  134. いろはの声: …もしかして、里見さん…?
  135. 那由他: …? あっ!
  136. 那由他: 環さん…?
  137. いろは: 良かった 覚えててくれてたんですね
  138. いろは: 忘れられてたらどうしようって 声をかけるの不安だったんです
  139. 那由他: はぁ…
  140. 那由他: (おとなしそうな子ですし 心配性…なんですの?)
  141. いろは: でも、どうして宝崎に?
  142. 那由他: 学校帰りですの
  143. 那由他: 実は私、神浜に来る前は 宝崎に住んでいまして
  144. 那由他: 神浜に越してからも同じ学校に 通い続けているんですの
  145. いろは: あ、だから見たことがある 制服だったんだ
  146. 那由他: 知っていますの?
  147. いろは: はい、私も宝崎出身なので…
  148. 那由他: そうなんですの!?
  149. いろは: 実は今も、家に届け物がないか 確認しに行った帰りだったんです
  150. いろは: 宅配便だと転送サービスも ないみたいだから
  151. 那由他: そうだったんですの
  152. いろは: でも、あの学校に通うなんて さすが灯花ちゃんの親戚ですね
  153. いろは: やっぱりみなさん一流大学とか、 海外の大学に行かれるんですか?
  154. 那由他: そうとも限りませんの
  155. 那由他: それに、私の場合、 中等部なので油断すると…
  156. いろは: え、中等部?
  157. いろは: ごめんなさい 高校生だと思ってました…!
  158. いろは: あの、学年は…?
  159. 那由他: 3年ですの
  160. いろは: じゃあ同い歳? 私も中学3年生
  161. 那由他: ホントですの!? 同郷で同い年なんて驚きですの!
  162. いろは: だったら…里見さんじゃなくて 那由他ちゃん、だね
  163. 那由他: ええ、そうですの よろしく、いろはさん
  164. 那由他: (おとなしそうな子という 印象でしたが)
  165. 那由他: (意外とスキンシップは 苦手じゃないようですの)
  166. 那由他: (これもまた別の側面… というものですの…?)
  167. いろは: あれから、お父さん捜し うまくいってる…?
  168. 那由他: あんまりですの… 何も手がかりがなく…
  169. 那由他: あっ、そうだ!
  170. 那由他: いろはさん、今日って 七海さんはお家にいますの!?
  171. いろは: うん、いるよ
  172. 那由他: お邪魔しても よろしいですの…?
  173. いろは: 今から?
  174. 那由他: どうしてもパパのお話を 七海さんに伺いたくて…
  175. 那由他: ですが先日、調整屋で お会いできた時は…
  176. 那由他: …今はどこにいるか ご存知じゃないですの…?
  177. やちよ: ごめんなさい… 会ったのはそれっきりよ…
  178. 那由他: 私も慌てていて、周りに人もいて 落ち着いて話を聞けなかったので
  179. 那由他: もっとたくさんお話を 聞きたいと思ってたんですの
  180. 那由他: なのでお願いしますの!
  181. 那由他: 七海さんに 会わせて欲しいですの!
  182. いろは: う、うん、そういうことなら 大丈夫だと思うよ!
  183. 那由他: ありがとうですの!
  184. 那由他: …は! またやってしまいましたの…
  185. 那由他: 今のは少し強引すぎましたの…
  186. いろは: …一生懸命なんだね お父さん捜しに
  187. 那由他: 一生懸命と言いますか… …頑固、なんですの…
  188. いろは: 頑固?
  189. 那由他: …実は今日、学校で…
  190. 那由他: …という感じに みんなから頑固と言われて…
  191. 那由他: 改めねばと思いつつ 今も失礼で厚かましいことを…
  192. いろは: 失礼なんて思わなかったよ それに私も人のこと言えないから
  193. 那由他: というと?
  194. いろは: 私、最初は妹を捜しに 神浜に来たんだけどね
  195. いろは: 私しか妹の記憶がなかったりして
  196. いろは: 周りからムリだって 言われたことがあったの
  197. いろは: それでも自分を信じて 捜し続けちゃったし
  198. いろは: みかづき荘の中で トラブルがあった時もね
  199. いろは: 絶対に折れようとは 思わなかったの
  200. いろは: だから、みんなからは「頑固者」 だって言われてるんだよね
  201. 那由他: そう、なんですの…?
  202. いろは: あと、お節介とかも 言われたりして…
  203. 那由他: …………
  204. いろは: もしかしたら私たち、 似た者同士かもしれないね
  205. 那由他: …そうかもしれないですの
  206. いろは: 宝崎から神浜に大切な人を 捜しに来た15歳の頑固者
  207. いろは: …共通点が多いね
  208. 那由他: ふふ、そう言われると
  209. 那由他: 箇条書きマジックかも しれないですが
  210. 那由他: パパを捜し続ける身としては とても心強いですの
  211.  
  212. FILENAME: text_310371-4.txt
  213. やちよ: ごめんなさい…
  214. やちよ: せっかくいらしたのに これといった情報がなくて…
  215. やちよ: 調整屋の時に慌ただしかったのは 事実だけど
  216. やちよ: 話せる内容も あれだけだったのよ
  217. 那由他: そうですの…
  218. 那由他: ですが、それがわかっただけでも 意味がありますの
  219. 那由他: ありがとうございましたの!
  220. 鶴乃: はい質問! お父さんはどんな人なのかな?
  221. 那由他: カッコいい人ですの
  222. 鶴乃: そ、そういう 抽象的な話じゃなくて…
  223. いろは: 見た目っていうこと?
  224. 鶴乃: そうそう、人相を聞くだけでも 何か思い出すかもしれないし
  225. うい: 実は知らない間に すれ違ってるかもしれないもんね
  226. さな: 写真とかないんですか…?
  227. 那由他: スマホの中にありますの
  228. 那由他: …はい、こちらですの
  229. 鶴乃: ふんふん
  230. やちよ: これ本当に最近の画像? 取材の時と格好が変わらないけど
  231. 那由他: フィールドワークがしやすい服で コーディネートしてるだけですの
  232. 那由他: それに元の素材がいいから 着飾らなくてもいいんですの
  233. 鶴乃: 髪型は…長さがミディアムで… これはパーマをあててるのかな?
  234. 那由他: ただの癖毛ですの
  235. 那由他: ちなみに私もその遺伝で 少し癖毛なところがありますの
  236. さな: あ、私も癖毛です…
  237. 那由他: お互い苦労しますの
  238. さな: 雨の日とか…
  239. 那由他: あ、ごわごわしますの 別人になりますの
  240. やちよ: ちょっと癖毛トークに 脱線しつつあるわね
  241. さな: あ、す、すみません…
  242. やちよ: いいのよ
  243. うい: この眼鏡は丸眼鏡っていうのかな
  244. フェリシア: すげぇ、昆虫博士みたいだな
  245. 那由他: 昆虫博士…
  246. フェリシア: 昆虫博士カッコいいだろ
  247. 那由他: そういう 見た目の評価はいいんですの…!
  248. 那由他: それより、見たことがあるか 教えてほしいですの
  249. いろは: …ごめんね、私はないかも
  250. 鶴乃: そうだね、見かけたら 割と目立つ方だと思うし…
  251. やちよ: 記憶にない…ということは 見てないということかしらね…
  252. うい: 灯花ちゃんの病院にずっと いたけど…見たことないかなぁ…
  253. さな: 私もちょっと、記憶には…
  254. フェリシア: オレもわかんねーな
  255. 那由他: そうですか みなさん、ありがとうですの
  256. さな: すみません、役に立てなくて…
  257. フェリシア: つーかさ、 灯花に聞けばいいじゃん
  258. フェリシア: 親戚なんだろ?
  259. 那由他: 灯花…!
  260. フェリシア: あ?
  261. やちよ: 本当にこの子は 言いづらいところにズケズケと…
  262. やちよ: でも一理あるわ
  263. やちよ: ここは多少の軋轢があっても 目を瞑って頼るべきだと思う
  264. 那由他: …すみません それは何度も考えたんですの
  265. 那由他: でもやっぱり 頼れませんの
  266. 那由他: 頼ったところで得た情報を 私は信用できませんの
  267. やちよ: そう…
  268. 那由他: 頑固で…申し訳ありませんの
  269. いろは: 那由他ちゃん…
  270. 那由他: 灯花と伯父様のことは キライですの
  271.  
  272. FILENAME: text_310372-1.txt
  273. ラビ: 朝ですよー
  274. ガバッ
  275. 那由他: …………おはようございます
  276. ラビ: おはようございます よく眠れましたか?
  277. 那由他: 浅くしか眠れなかったんですの
  278. ラビ: …それはいけませんね 元気の出る朝食を用意します
  279. もぐもぐ
  280. 那由他: …………
  281. ラビ: …何やらプリプリしてますが それが眠れなかった原因ですか?
  282. ラビ: 思い起こせば昨日帰宅されてから ずっとその調子ですし
  283. ラビ: このままだと お顔にシワができますよ
  284. 那由他: 仕方ないですの
  285. 那由他: 昨日うっかり、灯花のことを 思い浮かべてしまったから…
  286. ラビ: それが原因ですか…
  287. ラビ: 那由他様にとって灯花様は相当な ストレッサーなのですね
  288. 那由他: 考えないようにすればするほど 余計に頭の中を巡るんですの…!
  289. ピンポーン
  290. ラビ: こんな朝早くから 近所の方でしょうか
  291. ラビ: …………
  292. ラビ: …いえ、みかげさんですね
  293. 那由他: チャイムを鳴らすなんて 珍しいんですの
  294. ラビ: どうぞ、お入りください
  295. みかげ: …………
  296. ラビ: …またプリプリした人が 増えました
  297. みかげ: ミィだって怒るよ
  298. みかげ: だってすーたんが 悪いんだもん!
  299. 那由他: みかげさんは いったい何があったんですの?
  300. みかげ: んー…
  301. みかげ: 昨日からすーたんと擦れ違って ケンカしてるの
  302. みかげ: 始まりは、公園で話を してただけなんだけどね…
  303. 月出里: …ねえ、ミィちゃん 今のわたしの話聞いてた?
  304. みかげ: …………ふぇ!?
  305. みかげ: あ…ごめん ちょっと寝ちゃってた
  306. 月出里: ええぇ~ 疲れてるの?
  307. みかげ: うん…今日は5時間目が体育で その後が算数で…もうヘトヘト…
  308. みかげ: 宿題もいっぱい出たし そろそろ魔女も倒さないとだし
  309. みかげ: もう疲れて死んじゃうよ~…
  310. みかげ: 学校がないと楽なんだけどな~
  311. 月出里: 学校…自由に通えるの… 少し羨ましいな
  312. 月出里: わたしはやり直したくても、 もうムリだから…
  313. みかげ: そうかな…?
  314. みかげ: ミィ…学校にあんまり友だち いないからつまんないし…
  315. みかげ: 学校に行かなくても怒られない すーたんの方が羨ましいよ
  316. 月出里: そんなことない! ミィちゃんの方が羨ましい!
  317. みかげ: すーたんが羨ましい!
  318. 月出里: ミィちゃん!
  319. みかげ: すーたん!
  320. みかげ: それでケンカが始まって
  321. みかげ: 途中でテラピチの発売日だって 思い出したから
  322. みかげ: ケンカはやめて一緒に買いに 行ったんだけど
  323. みかげ: 今度はどっちが先に読むかで ケンカしちゃって
  324. みかげ: その後も100均に行って わー!ってなって
  325. みかげ: とにかくすーたんは 間違ってるの!
  326. 那由他: …途中から感情があふれすぎて 内容が理解できませんでしたが
  327. 那由他: わかる範囲で言うなら、どちらも 灯花と比べて心優しいですの
  328. 那由他: あの子なんて、いきなり科学の 問題を出してきたと思ったら
  329. 那由他: 私が問題の意味を理解しようと 慌てている間に
  330. 那由他: ぷふーって笑って煽るんですの そのあとは人格攻撃なんですの!
  331. 那由他: 昨日はそれを思い出して 夜も眠れなくて
  332. みかげ: そうなんだ
  333. みかげ: …って、あれッ!?
  334. みかげ: いつの間にかミィがなゆたんの 愚痴を聞いてる!?
  335. みかげ: 今はミィが愚痴ってたのにぃ!
  336. 那由他: こっちだって愚痴を 言いたいですの!
  337. 那由他: 聞くのばっかりは しんどいですの!
  338. みかげ: え~~~!?
  339. ラビ: はい、おふたりとも プリンの用意ができましたよ
  340. 那由他&みかげ: …………プリン…
  341. みかげ: わーい! 食べるー!
  342. 那由他: …はぁ、お菓子で解消される ぐらい単純になりたいですの
  343. ラビ: ふう、やれやれですね
  344.  
  345. FILENAME: text_310372-2.txt
  346. みかげ: ごちそうさま!
  347. 那由他: おいしかったですの
  348. 那由他: …あ、みかげさん、お口の周りに カラメルが付いてますの
  349. 那由他: タオルタオル…
  350. みかげ: あ、いいよいいよ ハンカチ持ってるし
  351. ガサゴソ…
  352. みかげ: …あれ? ない…?
  353. 那由他: なかったですの? ならやっぱりタオルを…
  354. みかげ: うん、ありがと…
  355. みかげ: でも…なんでないんだろ…
  356. みかげ: 昨日100均で一目惚れして 買ったばかりだったのに
  357. 那由他: お家に置いてきただけじゃ ないですの?
  358. みかげ: んー…
  359. みかげ: 昨日はケンカして帰ったあと
  360. みかげ: ご飯食べてお風呂入って すぐ寝ちゃったし…
  361. みかげ: …うん、家では 一度もバッグから出してないよ
  362. 那由他: では、 どこかに置き忘れたとか…?
  363. みかげ: 100均のお店に寄った後で あした屋に行ったから…
  364. 那由他: 行って探した方がいいですの
  365. ラビ: 私たちも付き添います 元々買い物に行く予定だったので
  366. みかげ: こんにちはー
  367. 月出里: ふむっ!?
  368. みかげ: あ…すーたん…
  369. 月出里: ふむ…
  370. みかげ: ん? すーたんが手に持ってるそれ…
  371. みかげ: あーー!! ミィの失くしたハンカチ!?
  372. みかげ: なんですーたんが 持ってるの!?
  373. 月出里: ふ、ふむふ…
  374. みかげ: まさか…すーたん…
  375. 月出里: ふむっ!? ふ、ふむんふ!!
  376. みかげ: 違うって、何が…? まだミィ、何も言ってないよ…?
  377. みかげ: もしかして、すーたん… ぬす…
  378. 月出里: …ふんふふんむふむふむふ… ふむふむふーむんふふむ…
  379. 月出里: ふむっふ! ふむふむーふんむふむむふ!
  380. みかげ: なんでミィが罠なんて 仕掛けるの!?
  381. 那由他: はい!ストップ! ストップですの!!
  382. 月出里&みかげ: ――っ!?
  383. 那由他: おふたり共、 冷静になるんですの!
  384. 那由他: きっとその… もっと考えるべきですの!
  385. 那由他: お互い、相手を悪者に しようとしてますの!
  386. みかげ: どういうこと? ハッキリ言ってよ
  387. みかげ: なゆたんの言いたいこと 意味わかんないよ
  388. ラビ: いいえ、那由他様の言葉は 的を射ています
  389. ラビ: おふたり共、ケンカしたばかり ということもあり
  390. ラビ: 相手が悪い子であればいい、と 思っているのではないでしょうか
  391. ラビ: その方がケンカの件でも 自分の正当性が高まりますからね
  392. ラビ: 相手に対しネガティブな感情や 先入観を抱いている時は
  393. ラビ: どんな行動もネガティブに 見えてしまいます
  394. ラビ: その逆もまた同じです
  395. 月出里&みかげ: …………
  396. 那由他: そうですの
  397. 那由他: 相手の子のしていることを 表面だけ見ても
  398. 那由他: その人の本当の側面は 見えてこないですの
  399. 那由他: ちゃんと落ち着いて相手の話を 聞くことが大事ですの
  400. 那由他: もしかしたら一見悪いことを していたと思っても
  401. 那由他: 実は良いことかも しれませんの
  402. 那由他: 「ジョハリの窓」ですの
  403. みかげ: …………
  404.  
  405. FILENAME: text_310372-3.txt
  406. みかげ: えっ!? 本当に返しに来ただけなの!?
  407. 月出里: うん…
  408. 月出里: 家に帰ってからわたしのバッグに 入ってるのに気づいて…
  409. みかげ: だ、だったらメッセージで 教えてくれればいいのに…
  410. 月出里: でも、ケンカしてたから メッセージが送りづらくて
  411. 月出里: だから、あした屋のお婆ちゃんに 渡してね
  412. 月出里: ミィちゃんが取りにきたら 返してもらおうと思ってたの…
  413. みかげ: それでわざわざ 持って来てくれたんだ…
  414. 月出里: うん…
  415. みかげ: そうだよね、本当に盗んだなら ここに持ってくるわけないしね
  416. みかげ: うん、信じるよ ありがとう…
  417. 月出里: うん
  418. みかげ: それにしても…
  419. みかげ: なんで入れるバッグ すーたんのと間違えたんだろ
  420. 月出里: お揃いだからじゃないかな?
  421. みかげ: あ、そっか
  422. みかげ: バッグ、お揃いだった
  423. みかげ: ミィたち、仲良しすぎるね!
  424. 月出里: そうだね!
  425. みかげ&月出里: あの…
  426. みかげ&月出里: ――っ!?
  427. みかげ: す、すーたんからどうぞ…
  428. 月出里: 昨日のケンカ… 謝りたくて…
  429. みかげ: えっ!?
  430. 月出里: わたしも、学校に通えてた頃は 行きたくないって日もあったのに
  431. 月出里: そのことをすっかり忘れて
  432. 月出里: ミィちゃんの愚痴を 自慢されたみたいに受け取ってた
  433. 月出里: ごめんね、ミィちゃん
  434. みかげ: そんな、ミィの方こそ…
  435. みかげ: すーたんにどんな事があって 学校に行けなくなったか
  436. みかげ: 全く知らないわけじゃないのに 学校の愚痴なんて言っちゃって
  437. みかげ: なんにも考えてなかったよ… ごめんね、すーたん
  438. 月出里: …………仲直り
  439. みかげ: うん、したい
  440. みかげ: じゃあ、握手
  441. 月出里: うん!
  442. 那由他: 丸く収まったようですの
  443. ラビ: 邪魔者の私たちは コッソリ去るとしましょうか
  444. 那由他: 先ほどは ありがとうございましたの
  445. ラビ: どの話でしょう
  446. 那由他: あのふたりがケンカしてた時
  447. 那由他: つたない私の仲裁を フォローしてくれたですの
  448. 那由他: その前にお家でみかげさんと私が ケンカしかけた時だって
  449. 那由他: ラビさんがプリンを出してくれた おかげで丸く収まったですの
  450. ラビ: そのことですか
  451. 那由他: さすがラビさんですの
  452. ラビ: …ですが私も那由他様に 感心していたのですよ
  453. 那由他: と言いますと?
  454. ラビ: いえ、一緒に住み始めて まだ日も浅いため
  455. ラビ: 今朝、家でのおふたりの姿を見て 那由他様のことを
  456. ラビ: 小5と同調して愚痴を言い合う 子どもっぽい方と認識しましたが
  457. 那由他: 酷い言われようですの
  458. ラビ: ふたりを仲裁する姿を見て 存外しっかり者だと驚きました
  459. 那由他: …まあ、そう思って いただけるのは悪くないですの
  460. 那由他: …………
  461. ラビ: どうなさいました?
  462. 那由他: い、いえ…
  463.  
  464. FILENAME: text_310372-4.txt
  465. 那由他: ただいまですの
  466. ラビ: ただいまですね さて私は昼食の準備を…
  467. 那由他: …うっ、グスッ…
  468. ラビ: 那由他様!?
  469. 那由他: ―那由他― ラビさん、今まで 申し訳ありませんでしたの…
  470. ラビ: ―ラビ― 待ってください 唐突すぎてなんのことだか…
  471. 那由他: ―那由他― 人間…関係の話ですの…!
  472. 那由他: ―那由他― 振り返ると失敗ばっかりで… やり直したいですの…
  473. ラビ: ―ラビ― え、ええと…
  474. 那由他: ―那由他― はっ…また困らせて… すぐ泣き止むんですの
  475. ラビ: まあ…聞きますよ
  476. 那由他: 昨日学校で「ジョハリの窓」 について授業でやったんですの
  477. ラビ: さっき言ってましたね 確か社会心理学の用語だったかと
  478. 那由他: その時にクラスの子たちと 互いの性格を言い合う話になって
  479. 那由他: 私は、頑固者という 評価だったんですの
  480. ラビ: …まあ、はい… …不服だったんですか?
  481. 那由他: 抵抗感はありましたの
  482. 那由他: でもよくよく考えれば その分析は正しいんですの
  483. 那由他: 正しいからこそ 自分の人生を振り返ってみると
  484. 那由他: 頑固だからこそ良くない結果に 繋がっていたと気付いたんですの
  485. ラビ: 後悔していることが あるんですか?
  486. ラビ: あるいは、何か重大な失敗に 気付かれたのですか?
  487. 那由他: そうですの 人間関係ですの
  488. 那由他: 私はこれまで他人を「そうだ」と 1度でも評価したら
  489. 那由他: 決してその思い込みを 変えてこなかったんですの
  490. 那由他: 昨日の学校の話を踏まえて みかげさんたちを見た時…
  491. 那由他: 昔の自分がしでかしたことに 気付いたんですの
  492. 那由他: それが辛くて仲裁したんですの
  493. ラビ: 立派でしたよ それでいいじゃないですか
  494. 那由他: 違うんですの 実際に仲直りする姿を見て
  495. 那由他: 自分がいかにダメだったかを 余計に痛感したんですの
  496. 那由他: それに今日、あの瞬間まで 気付けなかった
  497. 那由他: だからきっとラビさんにも 迷惑をかけてたんですの
  498. 那由他: ラビさんは私のために 厳しくすることもあるのに
  499. 那由他: それを愛がないだとか生意気な ことを言ってしまいましたの
  500. 那由他: ラビさんはしっかりしてると 言ってくれましたが
  501. 那由他: 実際はみかげさんたちと 何も変わらないんですの
  502. ラビ: 私に対する認識は特に 気遣う必要はありませんが
  503. ラビ: 今、那由他様の頭の中には それ以上の後悔があるのですね?
  504. ラビ: 那由他様は先ほどやり直したいと そう言っていました
  505. ラビ: やり直したい、そう思う 人間関係があるんですね?
  506. ラビ: …どなたとのお話でしょうか
  507. 那由他: …………パパと、ママですの
  508. 那由他: 私も少し自分を振り返った方が いいんですの
  509.  
  510. FILENAME: text_310373-1.txt
  511. 那由他: ただいまですの ママ
  512. 那由他: 私はママが大嫌いでしたの 厳しいママが大嫌いでしたの
  513. 那由他: 「血のつながった家族なんだから 母親のことを悪く言うんじゃない」 と言ってくる人がいますけど
  514. 那由他: 母親は母親でも 嫌いなものは嫌いなんですの
  515. 那由他の母: おかえりなさい、那由他 今日はテストの返却日よね?
  516. 那由他: あ、そうですの 返ってきましたの
  517. 那由他: はい、95点でしたの
  518. 那由他の母: …平均点は?
  519. 那由他: え、あ… 75点でしたの
  520. 那由他の母: たったの20点しか 差がないの…?
  521. 那由他: で、でもクラスで5番目でしたの これでも過去最高ですの
  522. 那由他の母: 上がったり下がったりしても 一向に1番は見えてこない
  523. 那由他: これより上の子たちは とても頭がいいんですの…
  524. 那由他の母: その子たちの親は学者なの?
  525. 那由他: …違いますの
  526. 那由他の母: なら、負けてたらダメじゃない
  527. 那由他の母: 学者のパパを持つ那由他は 勉強が誰よりもできて当然で
  528. 那由他の母: みんなからも そう見られてる
  529. 那由他の母: なのに那由他が 1番じゃなかったら
  530. 那由他の母: 那由他の努力が足りないのか ママがダメだからって思われるの
  531. 那由他: …………
  532. 那由他の母: ママに恥をかかせたいの? 全部ママのせいだと言いたいの?
  533. 那由他: ち、違いますの…
  534. 那由他の母: じゃあ、誰が悪いの?
  535. 那由他: 私ですの…
  536. 那由他の母: そう、だったら頑張りなさい
  537. 那由他の母: さ、そろそろ絵画教室の時間 急いで準備しないと
  538. 那由他: あ、でも週末はピアノの コンクールだから
  539. 那由他: 今日は、絵の方は おやすみしたいですの
  540. 那由他の母: そうして何かを理由に怠けるのは 決して許されることじゃないわ
  541. 那由他の父の声: ただいま…
  542. 那由他: パパ! 帰ってきましたの!
  543. 那由他: 私はパパが大好きですの
  544. 那由他: 優しくて穏やかで 仕事に一生懸命で そんなパパが大好きですの
  545. 那由他: 10日ぶりですの! おかえりなさいですの!
  546. 那由他の父: うん、ただいま いやぁ今回は疲れたよ
  547. 那由他の母: ちょっと、那由他 まだ話は途中…
  548. 那由他の母: はぁ…もういいわ
  549. 那由他: ん? この荷物はなんですの?
  550. 那由他の父: ああ、お土産だよ 取材先で現地の人がくれたんだ
  551. 那由他の父: 郷土料理の出汁を元に作った 調味料の瓶詰なんだって
  552. 那由他: おいしそうですの! 今日の晩御飯に添えてみますの
  553. 那由他の母: はぁ!? 何言ってるのよ
  554. 那由他の母: こっちは色々考えて 献立を決めてるのに
  555. 那由他の母: だいたいこれ、 なんの料理に合うの?
  556. 那由他の父: 旅館では鍋に入れてたけど 刺身にも合うし
  557. 那由他の父: だいたいなんにでも合うよ
  558. 那由他の母: いい加減なことばっかり 言わないでよ
  559. 那由他の母: そもそもこれ、なんの素材で できた調味料なの?
  560. 那由他の母: 郷土料理の出汁とは言ってるけど お酒とか入ってないでしょうね
  561. 那由他の父: …お酒は…ちょっと入ってるな 影響はないと思うが…
  562. 那由他の母: …賞味期限も書いてない 開封してどれくらいもつの?
  563. 那由他の父: 決まりはなくて…現地の人も 香りで判断するみたいだ
  564. 那由他の母: それ私にはできないわよ
  565. 那由他の母: 本当に何も考えてないのね…! 私がどれだけ那由他のために…!
  566. 那由他の父: ご、ごめん…
  567. 那由他の母: あなたがそんなだから 那由他も勉強をしないのよ
  568. 那由他の母: 「学者である父」としての 風格がないの
  569. 那由他の母: 那由他が勉強する人を 尊敬できなくなってるの
  570. 那由他の母: だからこの子はいつまでも 勉強しないの
  571. 那由他の父: 那由他は頑張ってると 思うけどな
  572. 那由他の母: またそうやって甘やかす…!
  573. 那由他: パ、パパは悪くないですの 私が頑張りますの
  574. 那由他: パパを怒るのは違うと思いますの
  575. 那由他の母: あなたは黙ってて これは私とパパの問題だから
  576. 那由他: 両親はいつもケンカしていたんですの ケンカと言ってもママがパパを一方的に責めて パパはただ謝るだけでしたの
  577. 那由他: だから私はパパを守るために ママに反論したりしてましたの だけど、ママはそれが嫌だったみたいですの
  578. 那由他: それがこの家の日常でしたの
  579. 那由他: そんな日常を重ねていくうちに 私はこの家族を壊してしまいましたの
  580.  
  581. FILENAME: text_310373-2.txt
  582. 那由他: さて、今日もしっかり お勉強しますの
  583. 那由他: 打倒灯花ですの
  584. 那由他の母の声: なんであなたは いつもそうなのっ!!!
  585. 那由他: ――っ!?
  586. 那由他: …び、びっくりした… ママの怒鳴り声ですの…?
  587. 那由他: 私のお家は自慢じゃないですが とても大きくて、壁も分厚いんですの
  588. 那由他: 部屋の外の音は ほとんど聞こえないんですの
  589. 那由他: それでもママがパパを叱る声だけは よく聞こえたんですの
  590. 那由他: その声が日に日に厳しいものになっているのは 手に取るようにわかったんですの
  591. 那由他: そしてある日…
  592. 那由他: …………
  593. 那由他の母: ハァ…
  594. 那由他の母: コンクール…まさか入賞すら しないなんて…
  595. 那由他の母: 相変わらずダメね…
  596. 那由他: れ、練習する時間がなくて… 他の習い事も忙しくて…
  597. 那由他の母: …………
  598. 那由他: ご、ごめんなさいですの… もっともっと頑張りますの…
  599. 那由他の母: …なんか、あなた段々 パパに似てきたわね
  600. 那由他: え…?
  601. 那由他の母: そうやって私の顔色うかがってさ よくないわよ、そういうの
  602. 那由他の母: 自分の意思がないのと 同じなんだから
  603. 那由他: わ、私はちゃんと…
  604. 那由他の父の声: ただいま…
  605. 那由他の母: あっ!! あなた!!
  606. 那由他の母: この間言った例のアレ!! やっぱり違ったじゃない!!
  607. 那由他の父の声: い、いきなりどうしたんだ…
  608. 那由他: (標的が移りましたの…)
  609. 那由他: この家にいる時、ママはいつも怒ってましたの 標的は…私の時もあるけど パパがいればまずだいたいパパでしたの
  610. 那由他: 私はママに怒られることが大嫌いでしたの
  611. 那由他: でもパパが怒られるのを見るのは もっと大嫌いでしたの
  612. 那由他: ママが大嫌いでしたの
  613. 那由他: パパは大好きでしたが もう少しママに反論してほしいと 思ったくらいですの
  614. 那由他: もう、うんざりでしたの この家に居たくないとさえ思ったんですの
  615. 那由他: その時、部屋にアレが現れたんですの
  616. 那由他: どんな願いでも…
  617. 那由他: (私ができる子になれば 怒られないで済みますの…)
  618. 那由他: (でもそれだと、パパはずっと 怒られたままですの)
  619. 那由他: (ママに反論できるくらい パパを強くしてもらう…?)
  620. 那由他: (いやですの!)
  621. 那由他: (パパにはパパのままで いてほしいですの)
  622. 那由他: …………あ、そうだ!
  623. 那由他: 私はたったひとつの願いで 全ての問題を解決させられる 最高の方法を思いついたんですの
  624. 那由他: (ママは、ママのままじゃなくて いいですの!)
  625. 那由他: (だから…)
  626. 那由他: ママをパパと同じくらい 穏やかにしてほしいですの
  627. キュゥべえ: わかった キミの願いを叶えてあげるよ
  628. 那由他: ありがとうですの
  629. 那由他: これで我が家の雰囲気も穏やかになり みんなで笑って平穏に暮らせる そう思ったんですの
  630. 那由他: だけど、ほどなくして… 両親は離婚したんですの
  631.  
  632. FILENAME: text_310373-3.txt
  633. 那由他の父: むしろ君の方が変わってしまった 穏やかな性格になったんだ…
  634. 那由他の母: それはわかってるわ 自分でも不思議で仕方ないわよ
  635. 那由他の母: 前のようにあなたに当たらない 頭ごなしに否定したりしない
  636. 那由他の母: 世間体を気にしてた昔の自分が 浅ましく思えるほど変わったわ
  637. 那由他の母: でも、前の方が私たち、 いがみ合っても噛み合ってた
  638. 那由他の母: 大嫌いだったあなたの方が 好きだったのよ…!
  639. 那由他の父: それでも変わってしまったものは もう元には戻らないんだ…
  640. 那由他の母: どうしてそんな冷静でいられるの 私はこんなに変わったのに…!
  641. 那由他の父: 私には理由がわかるからだよ
  642. 那由他の母: なに…? 原因は何だって言うの!?
  643. 那由他の父: 魔法少女の願いだよ
  644. 那由他の母: 馬鹿言わないで!
  645. 那由他: …………
  646. 那由他: 私の両親は 私の思ってるところより もっと深いところで噛み合っていた …ということだったんですの
  647. 那由他: いがみ合うふたりの表面だけをさらい 一方を悪と決めつけ、一方を不幸と決めつけ キレイな形であった本当の姿を見ないまま それを壊してしまったんですの
  648. 那由他: もしかしたら、私の教育に関しても 放任主義すぎるパパとバランスが取れていて…
  649. 那由他: そうなんですの
  650. 那由他: もしママが居なかったら 私はもっと奔放でデキが悪い上に 好きなことも見つけられないような子に なってたはずですの
  651. 那由他: ママは何も悪くない…
  652. 那由他: もう少し両親の見方を変えようとしていれば 別の角度からいいものを見つけられて ふたりの本当の想いに気付けたはずですの
  653. 那由他: 全部全部ぜーんぶ 浅はかな思い込みで 相手のことを知った気になった私のせいですの
  654. 那由他: うぅ…うぅ… バカですの、私は…
  655. ラビ: …そのことを、あのふたりを見て 思い出したのですか
  656. ラビ: だとすれば上出来かと 立派に導いてましたよ
  657. 那由他: うぅ…うぅ… でも…私のパパとママは…
  658. ラビ: まあ、気の済むまで 自身を卑下するのもいいでしょう
  659. ラビ: 那由他様は当時失敗して 後悔した
  660. ラビ: 後悔したのに、また同じことを 無意識におこなっていた
  661. ラビ: それに気付き反省するだけでも 偉いですが
  662. ラビ: しかし変わらなければ 意味がないとも気付くべきです
  663. 那由他: 変わったところでもう 意味なんかないですの…
  664. ラビ: …ときに那由他様は
  665. ラビ: 「船に刻みて剣を求む」 という言葉を知っていますか?
  666. 那由他: …知ってますの
  667. 那由他: 古いしきたりに捉われて 時代の変化に気付かない事ですの
  668. 那由他: それがなんなんですの そんなのはただの言葉ですの
  669. ラビ: そう、ただの言葉です
  670. ラビ: この世の真理というわけでもない 昔の人のあるあるです
  671. 那由他: 今ここでそれを言われる意味が わからないですの
  672. 那由他: 全然この状況と関係ないですの
  673. ラビ: …この言葉の元となった 逸話を知っていますか?
  674. 那由他: …それは…よく知らないですの
  675. ラビ: 「むかしむかしの話です 川の上を進みゆく船から 大事な剣を落としてしまった人がいました」
  676. ラビ: 「後で川から回収するために 落としたポイントを示す目印を とっさの判断で残したのですが」
  677. ラビ: 「その方は慌てていたのでしょうね」
  678. ラビ: 「川のどこで落としたかを地図に記すべきなのに 船のどこで落としたかを船体に刻んでしまった」
  679. ラビ: 「進みゆく船のどこで落としたかは 回収する上でなんの参考にもならないのに」
  680. ラビ: …という、なんとも おっちょこちょいな話が元です
  681. 那由他: ふふふ、おっちょこちょいですの
  682. ラビ: いえ、小話でちょっと元気に なってる場合ではなく…
  683. ラビ: この逸話がどうして、あのような 意味になったのか、考えて下さい
  684. ラビ: 那由他様にとって、 失くした剣はなんですか?
  685. ラビ: 目印はどこに付けましたか?
  686. ラビ: 那由他様の変わりゆく世界と 古いしきたりとはなんですか?
  687. 那由他: …………
  688. 那由他: …失くした剣は いっぱいありますの
  689. 那由他: 船は進んで 私もどんどん変わっていますの
  690. 那由他: でも川も流れて、みんなも どんどん変わっていきますの
  691. 那由他: 状況だってどんどん 変わっていきますの
  692. 那由他: 私は、おっちょこちょいで 他人の変化に気付く以前に
  693. 那由他: 状況が変化することにすら 気付かなかったんですの
  694. 那由他: みんなの言う通り 頑固者だったんですの
  695. ラビ: それに気付けばまだ間に合います まずは身近なところから…
  696. 那由他: …………
  697.  
  698. FILENAME: text_310373-4.txt
  699. 灯花: …………
  700. 那由他: …………
  701. いろは: あ…これ… お茶、用意したから…
  702. 那由他: ありがとうですの
  703. いろは: ご、ごゆっくり…
  704. 灯花: あ、お姉さま…
  705. 灯花: い、いきなりなーにー? わざわざ呼び出して
  706. 灯花: お姉さまにお願いされたから 仕方なくきたけど…
  707. 那由他: 私と会うのは イヤだったんですの?
  708. 灯花: だって、この前…調整屋で…
  709. パンッ
  710. 灯花: イタッ! 手…なんで…?
  711. 灯花: 思いっきり叩かれたし…
  712. 灯花: あ、でも! 怖がってるわけじゃないよ!?
  713. 灯花: 那由他のことなんか 全然怖くないんだから!
  714. 那由他: そう、以前私は灯花があまりに 憎くて叩いてしまいましたの
  715. 那由他: その時、少しスッキリしたのも 事実ですの
  716. 灯花: …………
  717. 那由他: ごめんなさいですの
  718. 灯花: え?
  719. 那由他: この謝罪は叩いたこと だけじゃなく
  720. 那由他: 灯花への認識を幼い頃からずっと 変えてなかったことへ、ですの
  721. 那由他: 私が成長し変わるように、 灯花も成長し、変わるはずなのに
  722. 那由他: それに目を向けようとも していなかったんですの
  723. 那由他: ずっと表面ばかりみて、深層にも 時の変化にも目を向けてなかった
  724. 那由他: それを謝りましたの
  725. 灯花: …そっか すごいね
  726. 灯花: 昔は酷いことも言ったから
  727. 灯花: もうわたくしが見直されることは ありえないと思ってたよ
  728. 灯花: でも那由他の言う通り わたくしもこの数年で変わった
  729. 灯花: まあ、だいたい魔法少女に なったからなんだけどね
  730. 灯花: でも、それ以上に色んな仲間と 出会って、心も成長したんだよ
  731. 那由他: やっぱり、そうですの…
  732. 灯花: 1番変わったのは 叔父様への評価かも
  733. 灯花: 民俗学は人々を救う 夢のある学問だと思ったし
  734. 灯花: その研究を批判されながらも 続ける叔父様は立派だって思う
  735. 灯花: 那由他が私への評価を見直して くれたように
  736. 灯花: わたくしも、叔父様や那由他を 見直してるんだから
  737. 那由他: ええ、これからも よろしくお願いしますの
  738. ラビ: お帰りなさいませ 那由他様
  739. 那由他: …………
  740. ラビ: えっ!?
  741. ラビ: もしかしてプリプリして らっしゃいますか
  742. 那由他: ええ、プリプリしてますの
  743. ラビ: 灯花様に会われたのですよね…?
  744. ラビ: そして語り合い、かつて抱いた 固定観念を払拭してきて…
  745. 那由他: あんな人間の再評価を試みた私が バカだったですの
  746. ラビ: え…
  747. 那由他: 上っ面どころか深層まで… そして過去も現在も未来も永久に
  748. 那由他: 灯花の人間性は修正不能で どうしようもないんですの!
  749. 灯花: 叔父様は相変わらず?
  750. 那由他: 半年近く会えてませんが 失踪前も調査を続けてましたの
  751. 那由他: ただ、未だに魔法少女の話を 広げる術は見つかってませんの…
  752. 灯花: ふーん
  753. 灯花: どうせならイメチェンくらい すればいいのにね
  754. 那由他: イメチェン?
  755. 灯花: 何事も世間に受け入れられるには イメージが大事でしょー?
  756. 那由他: そんなの必要ありませんの!
  757. 那由他: パパは素材がいいですし、 今の時点で十分完璧なんですの!
  758. 灯花: 身びいきせずに客観的に 考えた方がいいよ、那由他
  759. 灯花: 印象をよくするなら 清潔感って1番大事だよね
  760. 灯花: その点、叔父様って 髪は伸ばし放題になってるし
  761. 灯花: 服装だってフィールドワークの ための作業着みたいで
  762. 灯花: ボロボロでドロドロだったり してるんだもん
  763. 灯花: それはもう清潔感とは真逆!
  764. 灯花: わたくし、叔父様の前では 息止めてたもん
  765. 灯花: もしかして
  766. 灯花: 叔父様の立派な研究が 世間に受け入れられないのは
  767. 灯花: 叔父様のイメージが悪いからじゃ ないかにゃー?
  768. パンッ
  769. 灯花: イタッ!
  770. 那由他: …………
  771. 那由他: あんな人間に見直す箇所なんて ありませんの
  772. ラビ: なるほど、それで怒りのあまり 叩いて帰ってきてしまったと
  773. ラビ: 那由他様…
  774. ラビ: グッジョブです
  775. 那由他: ラビさんとは気が合いますの!
  776. 那由他: 良い人たちと出会えて 良かったんですの
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