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- FILENAME: text_310371-1.txt
- 那由他: むにゃ…
- 那由他: へへ…どうですか灯花… 民俗学は最強の学問なんですの…
- ???の声: 「ん~~~~~~~~~」
- 那由他: んぅ…
- 那由他: (な、なんですの この不快な音…)
- 那由他: (気分が悪いですの…)
- ???の声: 「ん~~~~~~~~~」
- ガバッ
- ラビ: ん~~~~~~~~~
- 那由他: ってラビさん!?
- ラビ: おはようございます 那由他様
- 那由他: な、なんですの 今の「ん~」という声は…
- ラビ: 蚊の鳴き真似です 睡眠を妨げる音として有名です
- 那由他: そんなやりかたじゃなくて、 普通に起こして欲しかったですの
- ラビ: 最初はそうしましたが、 那由他様が起きなかったので
- ラビ: さあ、急いで朝食にしましょう
- ラビ: 私も那由他様も、市外の学校に 通ってるんですから
- ラビ: このままでは遅刻してしまいます
- もぐもぐ…
- ラビ: 那由他様、 もう少し急いで食べてください
- 那由他: こ、これでもちゃんと 急いでますの…!
- ラビ: 寝坊した10分を取り戻す気概で お願いします
- 那由他: それはもう丸飲みしないと 間に合わないんですの!
- 那由他: でも、ちゃんと噛まないと 体に悪いんですの…
- もぐもぐもぐもぐ!
- ラビ: 素晴らしいペースですね
- ラビ: それでは、私の方が時間なので 先に出発します
- ラビ: 食べ終わったら食器はシンクに 浸けておいてください
- ラビ: お弁当はここに置いておきます
- 那由他: ありがとうございます… ですの…
- ラビ: …お礼はいいのですが 何か言いたげですね
- 那由他: えっ…それは…
- ラビ: 要望があるのなら聞きますよ 言ってください
- 那由他: …あったかくない、ですの…
- ラビ: え、作りたてのはずですが…
- 那由他: いえ、そうでなくて…
- 那由他: 一緒に暮らし始めて しばらく経ちましたが…
- 那由他: ラビさんは優しいお手伝いさん というより
- 那由他: 厳しい継母の様で 冷たいですの…
- 那由他: だから、もっとこう… 愛のある…温かみを…
- 那由他: せっかく歳も近いことですし…
- ラビ: そんなことでしたか
- 那由他: そんなこと…
- ラビ: だったら厳しくされないように もっとシャキッとしてください
- ラビ: では行ってきます
- 那由他: …いってらっしゃい、ですの
- バタン
- 那由他: …………
- もぐ、もぐ
- 那由他: …………
- FILENAME: text_310371-2.txt
- <宝崎市>
- <学校>
- 今日のロングホームルームでは 自己分析の授業を行います
- 皆さんの中には外部の学校へ 受験する方もいますし
- 将来は就職活動を する人もいるでしょう
- その際、面接で問われるのが 自己分析能力の高さです
- 那由他: (自己分析…自分を調べる 必要なんてあるんですの…?)
- 那由他: (自分のことなんだから 最初から知ってるはずですの)
- では、これからみなさんで 4人のグループを作ってください
- その中で各自、自己分析と一緒に 他己分析をしてもらいます
- グループのメンバーに対する それぞれの印象と
- 自分で考える 自身の印象を
- 紙に書いて 見せ合ってくださいね
- 那由他、一緒にやろ!
- 那由他: ええ、お願いしますの
- 私たちも混ぜて~
- じゃあ、自己分析用の紙を1枚と 他己分析用の紙を3枚
- これみんなに配るね
- これ、あとで見せ合うんだよね?
- うわぁ、マジで恥ずかしいね
- 那由他: で、でも授業なので… やるしかないですの…!
- 那由他: (なんとか書けましたの!)
- 那由他: この子は真面目で優しくて 面白い子ですの
- 那由他: この子は明るくて活発で 多分男の子から1番モテる子ですの
- 那由他: この子は擦れて見えますけど 実は純情で可愛い子ですの
- 那由他: 私自身は… すこしおっとりしてるところがありますの
- 那由他: 後は…勉強が好きで得意なんですの
- 那由他: あ、おっとりしてると言っても しっかり者なんですの
- 那由他: やる時はしっかりやる、そんな女ですの
- 那由他: …これを今からみんなに言われるんですの…? それは…確かにちょっと照れちゃいますの
- はい、そこまで では見せ合ってください
- じゃあ誰の印象からやろっか
- 那由他でいいんじゃね
- 那由他: 私…? ええ、お願いしますの
- 那由他: (照れないように 気を付けないとですの…)
- では僭越ながら私から 那由他の印象は…じゃん!
- 負けず嫌い!
- 那由他: え?
- あ、私が書いたのも ちょっと近いかも
- 私の那由他の印象は…じゃん!
- ハッキリものを言う!
- じゃあ私も一緒だ 那由他の印象は…じゃん!
- 超頑固!
- 那由他: 超…!
- 那由他: みんな…あんまりですの… マジメに私のことを考えて…
- なんで? 大マジメだよ
- 那由他: そう…なんですの? でも実感があまりにもなくて…
- なんで実感ないんだよー
- この前、学祭の ダンス曲決めた時だって
- 男子提案のフザけた曲に なりかけた時に
- ちゃんと流れに逆らって 戦ってくれたじゃん
- 那由他: あれは、私が単に 嫌だっただけで…
- 那由他: 空気は読めてなかったと 反省していますの
- 確かにそうかもだけど そうやって曲がらないのが那由他
- 頑固以外の何者でもないって
- 那由他: (…言われてみれば そうかもしれないですの)
- 那由他: (パパのことをいつまでも 諦めずに捜してることも…)
- 那由他: (頑固だから、と言われたら 認めるしかないですの)
- ところで那由他は、自分のこと なんて書いたの?
- 那由他: え…? し、知らないですの
- わ、コイツ! 自分で勉強得意って書いてる!
- ハッキリ言うねぇ
- どうでしたか? 意外な結果になったのでは?
- ところでみなさんは
- 「ジョハリの窓」 という言葉を知っていますか?
- 人には4つの側面がある というお話です
- 「具体的には ①自分も他人も知っている側面 ②自分は気付いていないが他人は知っている側面 ③他人は知らないが自分だけが知っている側面 ④自分も他人も知らない側面」
- この4つですね
- これを聞いて気付いている人も いるかもしれませんが
- 自己分析で得られる自身の側面は ①と③の半分だけ
- また③は他人に伝えることが 前提にはなっていないので
- 実際に面接などの場になると 伝えられるのは、ほぼ①だけに
- それは今話した側面の たった4分の1でしかありません
- 那由他: …………
- 那由他: 自分が知らない側面… 自分しか知らない側面…
- FILENAME: text_310371-3.txt
- 那由他: じゃあ私は駅に行くので…
- うん、また明日
- 那由他: …………
- いろはの声: …もしかして、里見さん…?
- 那由他: …? あっ!
- 那由他: 環さん…?
- いろは: 良かった 覚えててくれてたんですね
- いろは: 忘れられてたらどうしようって 声をかけるの不安だったんです
- 那由他: はぁ…
- 那由他: (おとなしそうな子ですし 心配性…なんですの?)
- いろは: でも、どうして宝崎に?
- 那由他: 学校帰りですの
- 那由他: 実は私、神浜に来る前は 宝崎に住んでいまして
- 那由他: 神浜に越してからも同じ学校に 通い続けているんですの
- いろは: あ、だから見たことがある 制服だったんだ
- 那由他: 知っていますの?
- いろは: はい、私も宝崎出身なので…
- 那由他: そうなんですの!?
- いろは: 実は今も、家に届け物がないか 確認しに行った帰りだったんです
- いろは: 宅配便だと転送サービスも ないみたいだから
- 那由他: そうだったんですの
- いろは: でも、あの学校に通うなんて さすが灯花ちゃんの親戚ですね
- いろは: やっぱりみなさん一流大学とか、 海外の大学に行かれるんですか?
- 那由他: そうとも限りませんの
- 那由他: それに、私の場合、 中等部なので油断すると…
- いろは: え、中等部?
- いろは: ごめんなさい 高校生だと思ってました…!
- いろは: あの、学年は…?
- 那由他: 3年ですの
- いろは: じゃあ同い歳? 私も中学3年生
- 那由他: ホントですの!? 同郷で同い年なんて驚きですの!
- いろは: だったら…里見さんじゃなくて 那由他ちゃん、だね
- 那由他: ええ、そうですの よろしく、いろはさん
- 那由他: (おとなしそうな子という 印象でしたが)
- 那由他: (意外とスキンシップは 苦手じゃないようですの)
- 那由他: (これもまた別の側面… というものですの…?)
- いろは: あれから、お父さん捜し うまくいってる…?
- 那由他: あんまりですの… 何も手がかりがなく…
- 那由他: あっ、そうだ!
- 那由他: いろはさん、今日って 七海さんはお家にいますの!?
- いろは: うん、いるよ
- 那由他: お邪魔しても よろしいですの…?
- いろは: 今から?
- 那由他: どうしてもパパのお話を 七海さんに伺いたくて…
- 那由他: ですが先日、調整屋で お会いできた時は…
- 那由他: …今はどこにいるか ご存知じゃないですの…?
- やちよ: ごめんなさい… 会ったのはそれっきりよ…
- 那由他: 私も慌てていて、周りに人もいて 落ち着いて話を聞けなかったので
- 那由他: もっとたくさんお話を 聞きたいと思ってたんですの
- 那由他: なのでお願いしますの!
- 那由他: 七海さんに 会わせて欲しいですの!
- いろは: う、うん、そういうことなら 大丈夫だと思うよ!
- 那由他: ありがとうですの!
- 那由他: …は! またやってしまいましたの…
- 那由他: 今のは少し強引すぎましたの…
- いろは: …一生懸命なんだね お父さん捜しに
- 那由他: 一生懸命と言いますか… …頑固、なんですの…
- いろは: 頑固?
- 那由他: …実は今日、学校で…
- 那由他: …という感じに みんなから頑固と言われて…
- 那由他: 改めねばと思いつつ 今も失礼で厚かましいことを…
- いろは: 失礼なんて思わなかったよ それに私も人のこと言えないから
- 那由他: というと?
- いろは: 私、最初は妹を捜しに 神浜に来たんだけどね
- いろは: 私しか妹の記憶がなかったりして
- いろは: 周りからムリだって 言われたことがあったの
- いろは: それでも自分を信じて 捜し続けちゃったし
- いろは: みかづき荘の中で トラブルがあった時もね
- いろは: 絶対に折れようとは 思わなかったの
- いろは: だから、みんなからは「頑固者」 だって言われてるんだよね
- 那由他: そう、なんですの…?
- いろは: あと、お節介とかも 言われたりして…
- 那由他: …………
- いろは: もしかしたら私たち、 似た者同士かもしれないね
- 那由他: …そうかもしれないですの
- いろは: 宝崎から神浜に大切な人を 捜しに来た15歳の頑固者
- いろは: …共通点が多いね
- 那由他: ふふ、そう言われると
- 那由他: 箇条書きマジックかも しれないですが
- 那由他: パパを捜し続ける身としては とても心強いですの
- FILENAME: text_310371-4.txt
- やちよ: ごめんなさい…
- やちよ: せっかくいらしたのに これといった情報がなくて…
- やちよ: 調整屋の時に慌ただしかったのは 事実だけど
- やちよ: 話せる内容も あれだけだったのよ
- 那由他: そうですの…
- 那由他: ですが、それがわかっただけでも 意味がありますの
- 那由他: ありがとうございましたの!
- 鶴乃: はい質問! お父さんはどんな人なのかな?
- 那由他: カッコいい人ですの
- 鶴乃: そ、そういう 抽象的な話じゃなくて…
- いろは: 見た目っていうこと?
- 鶴乃: そうそう、人相を聞くだけでも 何か思い出すかもしれないし
- うい: 実は知らない間に すれ違ってるかもしれないもんね
- さな: 写真とかないんですか…?
- 那由他: スマホの中にありますの
- 那由他: …はい、こちらですの
- 鶴乃: ふんふん
- やちよ: これ本当に最近の画像? 取材の時と格好が変わらないけど
- 那由他: フィールドワークがしやすい服で コーディネートしてるだけですの
- 那由他: それに元の素材がいいから 着飾らなくてもいいんですの
- 鶴乃: 髪型は…長さがミディアムで… これはパーマをあててるのかな?
- 那由他: ただの癖毛ですの
- 那由他: ちなみに私もその遺伝で 少し癖毛なところがありますの
- さな: あ、私も癖毛です…
- 那由他: お互い苦労しますの
- さな: 雨の日とか…
- 那由他: あ、ごわごわしますの 別人になりますの
- やちよ: ちょっと癖毛トークに 脱線しつつあるわね
- さな: あ、す、すみません…
- やちよ: いいのよ
- うい: この眼鏡は丸眼鏡っていうのかな
- フェリシア: すげぇ、昆虫博士みたいだな
- 那由他: 昆虫博士…
- フェリシア: 昆虫博士カッコいいだろ
- 那由他: そういう 見た目の評価はいいんですの…!
- 那由他: それより、見たことがあるか 教えてほしいですの
- いろは: …ごめんね、私はないかも
- 鶴乃: そうだね、見かけたら 割と目立つ方だと思うし…
- やちよ: 記憶にない…ということは 見てないということかしらね…
- うい: 灯花ちゃんの病院にずっと いたけど…見たことないかなぁ…
- さな: 私もちょっと、記憶には…
- フェリシア: オレもわかんねーな
- 那由他: そうですか みなさん、ありがとうですの
- さな: すみません、役に立てなくて…
- フェリシア: つーかさ、 灯花に聞けばいいじゃん
- フェリシア: 親戚なんだろ?
- 那由他: 灯花…!
- フェリシア: あ?
- やちよ: 本当にこの子は 言いづらいところにズケズケと…
- やちよ: でも一理あるわ
- やちよ: ここは多少の軋轢があっても 目を瞑って頼るべきだと思う
- 那由他: …すみません それは何度も考えたんですの
- 那由他: でもやっぱり 頼れませんの
- 那由他: 頼ったところで得た情報を 私は信用できませんの
- やちよ: そう…
- 那由他: 頑固で…申し訳ありませんの
- いろは: 那由他ちゃん…
- 那由他: 灯花と伯父様のことは キライですの
- FILENAME: text_310372-1.txt
- ラビ: 朝ですよー
- ガバッ
- 那由他: …………おはようございます
- ラビ: おはようございます よく眠れましたか?
- 那由他: 浅くしか眠れなかったんですの
- ラビ: …それはいけませんね 元気の出る朝食を用意します
- もぐもぐ
- 那由他: …………
- ラビ: …何やらプリプリしてますが それが眠れなかった原因ですか?
- ラビ: 思い起こせば昨日帰宅されてから ずっとその調子ですし
- ラビ: このままだと お顔にシワができますよ
- 那由他: 仕方ないですの
- 那由他: 昨日うっかり、灯花のことを 思い浮かべてしまったから…
- ラビ: それが原因ですか…
- ラビ: 那由他様にとって灯花様は相当な ストレッサーなのですね
- 那由他: 考えないようにすればするほど 余計に頭の中を巡るんですの…!
- ピンポーン
- ラビ: こんな朝早くから 近所の方でしょうか
- ラビ: …………
- ラビ: …いえ、みかげさんですね
- 那由他: チャイムを鳴らすなんて 珍しいんですの
- ラビ: どうぞ、お入りください
- みかげ: …………
- ラビ: …またプリプリした人が 増えました
- みかげ: ミィだって怒るよ
- みかげ: だってすーたんが 悪いんだもん!
- 那由他: みかげさんは いったい何があったんですの?
- みかげ: んー…
- みかげ: 昨日からすーたんと擦れ違って ケンカしてるの
- みかげ: 始まりは、公園で話を してただけなんだけどね…
- 月出里: …ねえ、ミィちゃん 今のわたしの話聞いてた?
- みかげ: …………ふぇ!?
- みかげ: あ…ごめん ちょっと寝ちゃってた
- 月出里: ええぇ~ 疲れてるの?
- みかげ: うん…今日は5時間目が体育で その後が算数で…もうヘトヘト…
- みかげ: 宿題もいっぱい出たし そろそろ魔女も倒さないとだし
- みかげ: もう疲れて死んじゃうよ~…
- みかげ: 学校がないと楽なんだけどな~
- 月出里: 学校…自由に通えるの… 少し羨ましいな
- 月出里: わたしはやり直したくても、 もうムリだから…
- みかげ: そうかな…?
- みかげ: ミィ…学校にあんまり友だち いないからつまんないし…
- みかげ: 学校に行かなくても怒られない すーたんの方が羨ましいよ
- 月出里: そんなことない! ミィちゃんの方が羨ましい!
- みかげ: すーたんが羨ましい!
- 月出里: ミィちゃん!
- みかげ: すーたん!
- みかげ: それでケンカが始まって
- みかげ: 途中でテラピチの発売日だって 思い出したから
- みかげ: ケンカはやめて一緒に買いに 行ったんだけど
- みかげ: 今度はどっちが先に読むかで ケンカしちゃって
- みかげ: その後も100均に行って わー!ってなって
- みかげ: とにかくすーたんは 間違ってるの!
- 那由他: …途中から感情があふれすぎて 内容が理解できませんでしたが
- 那由他: わかる範囲で言うなら、どちらも 灯花と比べて心優しいですの
- 那由他: あの子なんて、いきなり科学の 問題を出してきたと思ったら
- 那由他: 私が問題の意味を理解しようと 慌てている間に
- 那由他: ぷふーって笑って煽るんですの そのあとは人格攻撃なんですの!
- 那由他: 昨日はそれを思い出して 夜も眠れなくて
- みかげ: そうなんだ
- みかげ: …って、あれッ!?
- みかげ: いつの間にかミィがなゆたんの 愚痴を聞いてる!?
- みかげ: 今はミィが愚痴ってたのにぃ!
- 那由他: こっちだって愚痴を 言いたいですの!
- 那由他: 聞くのばっかりは しんどいですの!
- みかげ: え~~~!?
- ラビ: はい、おふたりとも プリンの用意ができましたよ
- 那由他&みかげ: …………プリン…
- みかげ: わーい! 食べるー!
- 那由他: …はぁ、お菓子で解消される ぐらい単純になりたいですの
- ラビ: ふう、やれやれですね
- FILENAME: text_310372-2.txt
- みかげ: ごちそうさま!
- 那由他: おいしかったですの
- 那由他: …あ、みかげさん、お口の周りに カラメルが付いてますの
- 那由他: タオルタオル…
- みかげ: あ、いいよいいよ ハンカチ持ってるし
- ガサゴソ…
- みかげ: …あれ? ない…?
- 那由他: なかったですの? ならやっぱりタオルを…
- みかげ: うん、ありがと…
- みかげ: でも…なんでないんだろ…
- みかげ: 昨日100均で一目惚れして 買ったばかりだったのに
- 那由他: お家に置いてきただけじゃ ないですの?
- みかげ: んー…
- みかげ: 昨日はケンカして帰ったあと
- みかげ: ご飯食べてお風呂入って すぐ寝ちゃったし…
- みかげ: …うん、家では 一度もバッグから出してないよ
- 那由他: では、 どこかに置き忘れたとか…?
- みかげ: 100均のお店に寄った後で あした屋に行ったから…
- 那由他: 行って探した方がいいですの
- ラビ: 私たちも付き添います 元々買い物に行く予定だったので
- みかげ: こんにちはー
- 月出里: ふむっ!?
- みかげ: あ…すーたん…
- 月出里: ふむ…
- みかげ: ん? すーたんが手に持ってるそれ…
- みかげ: あーー!! ミィの失くしたハンカチ!?
- みかげ: なんですーたんが 持ってるの!?
- 月出里: ふ、ふむふ…
- みかげ: まさか…すーたん…
- 月出里: ふむっ!? ふ、ふむんふ!!
- みかげ: 違うって、何が…? まだミィ、何も言ってないよ…?
- みかげ: もしかして、すーたん… ぬす…
- 月出里: …ふんふふんむふむふむふ… ふむふむふーむんふふむ…
- 月出里: ふむっふ! ふむふむーふんむふむむふ!
- みかげ: なんでミィが罠なんて 仕掛けるの!?
- 那由他: はい!ストップ! ストップですの!!
- 月出里&みかげ: ――っ!?
- 那由他: おふたり共、 冷静になるんですの!
- 那由他: きっとその… もっと考えるべきですの!
- 那由他: お互い、相手を悪者に しようとしてますの!
- みかげ: どういうこと? ハッキリ言ってよ
- みかげ: なゆたんの言いたいこと 意味わかんないよ
- ラビ: いいえ、那由他様の言葉は 的を射ています
- ラビ: おふたり共、ケンカしたばかり ということもあり
- ラビ: 相手が悪い子であればいい、と 思っているのではないでしょうか
- ラビ: その方がケンカの件でも 自分の正当性が高まりますからね
- ラビ: 相手に対しネガティブな感情や 先入観を抱いている時は
- ラビ: どんな行動もネガティブに 見えてしまいます
- ラビ: その逆もまた同じです
- 月出里&みかげ: …………
- 那由他: そうですの
- 那由他: 相手の子のしていることを 表面だけ見ても
- 那由他: その人の本当の側面は 見えてこないですの
- 那由他: ちゃんと落ち着いて相手の話を 聞くことが大事ですの
- 那由他: もしかしたら一見悪いことを していたと思っても
- 那由他: 実は良いことかも しれませんの
- 那由他: 「ジョハリの窓」ですの
- みかげ: …………
- FILENAME: text_310372-3.txt
- みかげ: えっ!? 本当に返しに来ただけなの!?
- 月出里: うん…
- 月出里: 家に帰ってからわたしのバッグに 入ってるのに気づいて…
- みかげ: だ、だったらメッセージで 教えてくれればいいのに…
- 月出里: でも、ケンカしてたから メッセージが送りづらくて
- 月出里: だから、あした屋のお婆ちゃんに 渡してね
- 月出里: ミィちゃんが取りにきたら 返してもらおうと思ってたの…
- みかげ: それでわざわざ 持って来てくれたんだ…
- 月出里: うん…
- みかげ: そうだよね、本当に盗んだなら ここに持ってくるわけないしね
- みかげ: うん、信じるよ ありがとう…
- 月出里: うん
- みかげ: それにしても…
- みかげ: なんで入れるバッグ すーたんのと間違えたんだろ
- 月出里: お揃いだからじゃないかな?
- みかげ: あ、そっか
- みかげ: バッグ、お揃いだった
- みかげ: ミィたち、仲良しすぎるね!
- 月出里: そうだね!
- みかげ&月出里: あの…
- みかげ&月出里: ――っ!?
- みかげ: す、すーたんからどうぞ…
- 月出里: 昨日のケンカ… 謝りたくて…
- みかげ: えっ!?
- 月出里: わたしも、学校に通えてた頃は 行きたくないって日もあったのに
- 月出里: そのことをすっかり忘れて
- 月出里: ミィちゃんの愚痴を 自慢されたみたいに受け取ってた
- 月出里: ごめんね、ミィちゃん
- みかげ: そんな、ミィの方こそ…
- みかげ: すーたんにどんな事があって 学校に行けなくなったか
- みかげ: 全く知らないわけじゃないのに 学校の愚痴なんて言っちゃって
- みかげ: なんにも考えてなかったよ… ごめんね、すーたん
- 月出里: …………仲直り
- みかげ: うん、したい
- みかげ: じゃあ、握手
- 月出里: うん!
- 那由他: 丸く収まったようですの
- ラビ: 邪魔者の私たちは コッソリ去るとしましょうか
- 那由他: 先ほどは ありがとうございましたの
- ラビ: どの話でしょう
- 那由他: あのふたりがケンカしてた時
- 那由他: つたない私の仲裁を フォローしてくれたですの
- 那由他: その前にお家でみかげさんと私が ケンカしかけた時だって
- 那由他: ラビさんがプリンを出してくれた おかげで丸く収まったですの
- ラビ: そのことですか
- 那由他: さすがラビさんですの
- ラビ: …ですが私も那由他様に 感心していたのですよ
- 那由他: と言いますと?
- ラビ: いえ、一緒に住み始めて まだ日も浅いため
- ラビ: 今朝、家でのおふたりの姿を見て 那由他様のことを
- ラビ: 小5と同調して愚痴を言い合う 子どもっぽい方と認識しましたが
- 那由他: 酷い言われようですの
- ラビ: ふたりを仲裁する姿を見て 存外しっかり者だと驚きました
- 那由他: …まあ、そう思って いただけるのは悪くないですの
- 那由他: …………
- ラビ: どうなさいました?
- 那由他: い、いえ…
- FILENAME: text_310372-4.txt
- 那由他: ただいまですの
- ラビ: ただいまですね さて私は昼食の準備を…
- 那由他: …うっ、グスッ…
- ラビ: 那由他様!?
- 那由他: ―那由他― ラビさん、今まで 申し訳ありませんでしたの…
- ラビ: ―ラビ― 待ってください 唐突すぎてなんのことだか…
- 那由他: ―那由他― 人間…関係の話ですの…!
- 那由他: ―那由他― 振り返ると失敗ばっかりで… やり直したいですの…
- ラビ: ―ラビ― え、ええと…
- 那由他: ―那由他― はっ…また困らせて… すぐ泣き止むんですの
- ラビ: まあ…聞きますよ
- 那由他: 昨日学校で「ジョハリの窓」 について授業でやったんですの
- ラビ: さっき言ってましたね 確か社会心理学の用語だったかと
- 那由他: その時にクラスの子たちと 互いの性格を言い合う話になって
- 那由他: 私は、頑固者という 評価だったんですの
- ラビ: …まあ、はい… …不服だったんですか?
- 那由他: 抵抗感はありましたの
- 那由他: でもよくよく考えれば その分析は正しいんですの
- 那由他: 正しいからこそ 自分の人生を振り返ってみると
- 那由他: 頑固だからこそ良くない結果に 繋がっていたと気付いたんですの
- ラビ: 後悔していることが あるんですか?
- ラビ: あるいは、何か重大な失敗に 気付かれたのですか?
- 那由他: そうですの 人間関係ですの
- 那由他: 私はこれまで他人を「そうだ」と 1度でも評価したら
- 那由他: 決してその思い込みを 変えてこなかったんですの
- 那由他: 昨日の学校の話を踏まえて みかげさんたちを見た時…
- 那由他: 昔の自分がしでかしたことに 気付いたんですの
- 那由他: それが辛くて仲裁したんですの
- ラビ: 立派でしたよ それでいいじゃないですか
- 那由他: 違うんですの 実際に仲直りする姿を見て
- 那由他: 自分がいかにダメだったかを 余計に痛感したんですの
- 那由他: それに今日、あの瞬間まで 気付けなかった
- 那由他: だからきっとラビさんにも 迷惑をかけてたんですの
- 那由他: ラビさんは私のために 厳しくすることもあるのに
- 那由他: それを愛がないだとか生意気な ことを言ってしまいましたの
- 那由他: ラビさんはしっかりしてると 言ってくれましたが
- 那由他: 実際はみかげさんたちと 何も変わらないんですの
- ラビ: 私に対する認識は特に 気遣う必要はありませんが
- ラビ: 今、那由他様の頭の中には それ以上の後悔があるのですね?
- ラビ: 那由他様は先ほどやり直したいと そう言っていました
- ラビ: やり直したい、そう思う 人間関係があるんですね?
- ラビ: …どなたとのお話でしょうか
- 那由他: …………パパと、ママですの
- 那由他: 私も少し自分を振り返った方が いいんですの
- FILENAME: text_310373-1.txt
- 那由他: ただいまですの ママ
- 那由他: 私はママが大嫌いでしたの 厳しいママが大嫌いでしたの
- 那由他: 「血のつながった家族なんだから 母親のことを悪く言うんじゃない」 と言ってくる人がいますけど
- 那由他: 母親は母親でも 嫌いなものは嫌いなんですの
- 那由他の母: おかえりなさい、那由他 今日はテストの返却日よね?
- 那由他: あ、そうですの 返ってきましたの
- 那由他: はい、95点でしたの
- 那由他の母: …平均点は?
- 那由他: え、あ… 75点でしたの
- 那由他の母: たったの20点しか 差がないの…?
- 那由他: で、でもクラスで5番目でしたの これでも過去最高ですの
- 那由他の母: 上がったり下がったりしても 一向に1番は見えてこない
- 那由他: これより上の子たちは とても頭がいいんですの…
- 那由他の母: その子たちの親は学者なの?
- 那由他: …違いますの
- 那由他の母: なら、負けてたらダメじゃない
- 那由他の母: 学者のパパを持つ那由他は 勉強が誰よりもできて当然で
- 那由他の母: みんなからも そう見られてる
- 那由他の母: なのに那由他が 1番じゃなかったら
- 那由他の母: 那由他の努力が足りないのか ママがダメだからって思われるの
- 那由他: …………
- 那由他の母: ママに恥をかかせたいの? 全部ママのせいだと言いたいの?
- 那由他: ち、違いますの…
- 那由他の母: じゃあ、誰が悪いの?
- 那由他: 私ですの…
- 那由他の母: そう、だったら頑張りなさい
- 那由他の母: さ、そろそろ絵画教室の時間 急いで準備しないと
- 那由他: あ、でも週末はピアノの コンクールだから
- 那由他: 今日は、絵の方は おやすみしたいですの
- 那由他の母: そうして何かを理由に怠けるのは 決して許されることじゃないわ
- 那由他の父の声: ただいま…
- 那由他: パパ! 帰ってきましたの!
- 那由他: 私はパパが大好きですの
- 那由他: 優しくて穏やかで 仕事に一生懸命で そんなパパが大好きですの
- 那由他: 10日ぶりですの! おかえりなさいですの!
- 那由他の父: うん、ただいま いやぁ今回は疲れたよ
- 那由他の母: ちょっと、那由他 まだ話は途中…
- 那由他の母: はぁ…もういいわ
- 那由他: ん? この荷物はなんですの?
- 那由他の父: ああ、お土産だよ 取材先で現地の人がくれたんだ
- 那由他の父: 郷土料理の出汁を元に作った 調味料の瓶詰なんだって
- 那由他: おいしそうですの! 今日の晩御飯に添えてみますの
- 那由他の母: はぁ!? 何言ってるのよ
- 那由他の母: こっちは色々考えて 献立を決めてるのに
- 那由他の母: だいたいこれ、 なんの料理に合うの?
- 那由他の父: 旅館では鍋に入れてたけど 刺身にも合うし
- 那由他の父: だいたいなんにでも合うよ
- 那由他の母: いい加減なことばっかり 言わないでよ
- 那由他の母: そもそもこれ、なんの素材で できた調味料なの?
- 那由他の母: 郷土料理の出汁とは言ってるけど お酒とか入ってないでしょうね
- 那由他の父: …お酒は…ちょっと入ってるな 影響はないと思うが…
- 那由他の母: …賞味期限も書いてない 開封してどれくらいもつの?
- 那由他の父: 決まりはなくて…現地の人も 香りで判断するみたいだ
- 那由他の母: それ私にはできないわよ
- 那由他の母: 本当に何も考えてないのね…! 私がどれだけ那由他のために…!
- 那由他の父: ご、ごめん…
- 那由他の母: あなたがそんなだから 那由他も勉強をしないのよ
- 那由他の母: 「学者である父」としての 風格がないの
- 那由他の母: 那由他が勉強する人を 尊敬できなくなってるの
- 那由他の母: だからこの子はいつまでも 勉強しないの
- 那由他の父: 那由他は頑張ってると 思うけどな
- 那由他の母: またそうやって甘やかす…!
- 那由他: パ、パパは悪くないですの 私が頑張りますの
- 那由他: パパを怒るのは違うと思いますの
- 那由他の母: あなたは黙ってて これは私とパパの問題だから
- 那由他: 両親はいつもケンカしていたんですの ケンカと言ってもママがパパを一方的に責めて パパはただ謝るだけでしたの
- 那由他: だから私はパパを守るために ママに反論したりしてましたの だけど、ママはそれが嫌だったみたいですの
- 那由他: それがこの家の日常でしたの
- 那由他: そんな日常を重ねていくうちに 私はこの家族を壊してしまいましたの
- FILENAME: text_310373-2.txt
- 那由他: さて、今日もしっかり お勉強しますの
- 那由他: 打倒灯花ですの
- 那由他の母の声: なんであなたは いつもそうなのっ!!!
- 那由他: ――っ!?
- 那由他: …び、びっくりした… ママの怒鳴り声ですの…?
- 那由他: 私のお家は自慢じゃないですが とても大きくて、壁も分厚いんですの
- 那由他: 部屋の外の音は ほとんど聞こえないんですの
- 那由他: それでもママがパパを叱る声だけは よく聞こえたんですの
- 那由他: その声が日に日に厳しいものになっているのは 手に取るようにわかったんですの
- 那由他: そしてある日…
- 那由他: …………
- 那由他の母: ハァ…
- 那由他の母: コンクール…まさか入賞すら しないなんて…
- 那由他の母: 相変わらずダメね…
- 那由他: れ、練習する時間がなくて… 他の習い事も忙しくて…
- 那由他の母: …………
- 那由他: ご、ごめんなさいですの… もっともっと頑張りますの…
- 那由他の母: …なんか、あなた段々 パパに似てきたわね
- 那由他: え…?
- 那由他の母: そうやって私の顔色うかがってさ よくないわよ、そういうの
- 那由他の母: 自分の意思がないのと 同じなんだから
- 那由他: わ、私はちゃんと…
- 那由他の父の声: ただいま…
- 那由他の母: あっ!! あなた!!
- 那由他の母: この間言った例のアレ!! やっぱり違ったじゃない!!
- 那由他の父の声: い、いきなりどうしたんだ…
- 那由他: (標的が移りましたの…)
- 那由他: この家にいる時、ママはいつも怒ってましたの 標的は…私の時もあるけど パパがいればまずだいたいパパでしたの
- 那由他: 私はママに怒られることが大嫌いでしたの
- 那由他: でもパパが怒られるのを見るのは もっと大嫌いでしたの
- 那由他: ママが大嫌いでしたの
- 那由他: パパは大好きでしたが もう少しママに反論してほしいと 思ったくらいですの
- 那由他: もう、うんざりでしたの この家に居たくないとさえ思ったんですの
- 那由他: その時、部屋にアレが現れたんですの
- 那由他: どんな願いでも…
- 那由他: (私ができる子になれば 怒られないで済みますの…)
- 那由他: (でもそれだと、パパはずっと 怒られたままですの)
- 那由他: (ママに反論できるくらい パパを強くしてもらう…?)
- 那由他: (いやですの!)
- 那由他: (パパにはパパのままで いてほしいですの)
- 那由他: …………あ、そうだ!
- 那由他: 私はたったひとつの願いで 全ての問題を解決させられる 最高の方法を思いついたんですの
- 那由他: (ママは、ママのままじゃなくて いいですの!)
- 那由他: (だから…)
- 那由他: ママをパパと同じくらい 穏やかにしてほしいですの
- キュゥべえ: わかった キミの願いを叶えてあげるよ
- 那由他: ありがとうですの
- 那由他: これで我が家の雰囲気も穏やかになり みんなで笑って平穏に暮らせる そう思ったんですの
- 那由他: だけど、ほどなくして… 両親は離婚したんですの
- FILENAME: text_310373-3.txt
- 那由他の父: むしろ君の方が変わってしまった 穏やかな性格になったんだ…
- 那由他の母: それはわかってるわ 自分でも不思議で仕方ないわよ
- 那由他の母: 前のようにあなたに当たらない 頭ごなしに否定したりしない
- 那由他の母: 世間体を気にしてた昔の自分が 浅ましく思えるほど変わったわ
- 那由他の母: でも、前の方が私たち、 いがみ合っても噛み合ってた
- 那由他の母: 大嫌いだったあなたの方が 好きだったのよ…!
- 那由他の父: それでも変わってしまったものは もう元には戻らないんだ…
- 那由他の母: どうしてそんな冷静でいられるの 私はこんなに変わったのに…!
- 那由他の父: 私には理由がわかるからだよ
- 那由他の母: なに…? 原因は何だって言うの!?
- 那由他の父: 魔法少女の願いだよ
- 那由他の母: 馬鹿言わないで!
- 那由他: …………
- 那由他: 私の両親は 私の思ってるところより もっと深いところで噛み合っていた …ということだったんですの
- 那由他: いがみ合うふたりの表面だけをさらい 一方を悪と決めつけ、一方を不幸と決めつけ キレイな形であった本当の姿を見ないまま それを壊してしまったんですの
- 那由他: もしかしたら、私の教育に関しても 放任主義すぎるパパとバランスが取れていて…
- 那由他: そうなんですの
- 那由他: もしママが居なかったら 私はもっと奔放でデキが悪い上に 好きなことも見つけられないような子に なってたはずですの
- 那由他: ママは何も悪くない…
- 那由他: もう少し両親の見方を変えようとしていれば 別の角度からいいものを見つけられて ふたりの本当の想いに気付けたはずですの
- 那由他: 全部全部ぜーんぶ 浅はかな思い込みで 相手のことを知った気になった私のせいですの
- 那由他: うぅ…うぅ… バカですの、私は…
- ラビ: …そのことを、あのふたりを見て 思い出したのですか
- ラビ: だとすれば上出来かと 立派に導いてましたよ
- 那由他: うぅ…うぅ… でも…私のパパとママは…
- ラビ: まあ、気の済むまで 自身を卑下するのもいいでしょう
- ラビ: 那由他様は当時失敗して 後悔した
- ラビ: 後悔したのに、また同じことを 無意識におこなっていた
- ラビ: それに気付き反省するだけでも 偉いですが
- ラビ: しかし変わらなければ 意味がないとも気付くべきです
- 那由他: 変わったところでもう 意味なんかないですの…
- ラビ: …ときに那由他様は
- ラビ: 「船に刻みて剣を求む」 という言葉を知っていますか?
- 那由他: …知ってますの
- 那由他: 古いしきたりに捉われて 時代の変化に気付かない事ですの
- 那由他: それがなんなんですの そんなのはただの言葉ですの
- ラビ: そう、ただの言葉です
- ラビ: この世の真理というわけでもない 昔の人のあるあるです
- 那由他: 今ここでそれを言われる意味が わからないですの
- 那由他: 全然この状況と関係ないですの
- ラビ: …この言葉の元となった 逸話を知っていますか?
- 那由他: …それは…よく知らないですの
- ラビ: 「むかしむかしの話です 川の上を進みゆく船から 大事な剣を落としてしまった人がいました」
- ラビ: 「後で川から回収するために 落としたポイントを示す目印を とっさの判断で残したのですが」
- ラビ: 「その方は慌てていたのでしょうね」
- ラビ: 「川のどこで落としたかを地図に記すべきなのに 船のどこで落としたかを船体に刻んでしまった」
- ラビ: 「進みゆく船のどこで落としたかは 回収する上でなんの参考にもならないのに」
- ラビ: …という、なんとも おっちょこちょいな話が元です
- 那由他: ふふふ、おっちょこちょいですの
- ラビ: いえ、小話でちょっと元気に なってる場合ではなく…
- ラビ: この逸話がどうして、あのような 意味になったのか、考えて下さい
- ラビ: 那由他様にとって、 失くした剣はなんですか?
- ラビ: 目印はどこに付けましたか?
- ラビ: 那由他様の変わりゆく世界と 古いしきたりとはなんですか?
- 那由他: …………
- 那由他: …失くした剣は いっぱいありますの
- 那由他: 船は進んで 私もどんどん変わっていますの
- 那由他: でも川も流れて、みんなも どんどん変わっていきますの
- 那由他: 状況だってどんどん 変わっていきますの
- 那由他: 私は、おっちょこちょいで 他人の変化に気付く以前に
- 那由他: 状況が変化することにすら 気付かなかったんですの
- 那由他: みんなの言う通り 頑固者だったんですの
- ラビ: それに気付けばまだ間に合います まずは身近なところから…
- 那由他: …………
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- 灯花: …………
- 那由他: …………
- いろは: あ…これ… お茶、用意したから…
- 那由他: ありがとうですの
- いろは: ご、ごゆっくり…
- 灯花: あ、お姉さま…
- 灯花: い、いきなりなーにー? わざわざ呼び出して
- 灯花: お姉さまにお願いされたから 仕方なくきたけど…
- 那由他: 私と会うのは イヤだったんですの?
- 灯花: だって、この前…調整屋で…
- パンッ
- 灯花: イタッ! 手…なんで…?
- 灯花: 思いっきり叩かれたし…
- 灯花: あ、でも! 怖がってるわけじゃないよ!?
- 灯花: 那由他のことなんか 全然怖くないんだから!
- 那由他: そう、以前私は灯花があまりに 憎くて叩いてしまいましたの
- 那由他: その時、少しスッキリしたのも 事実ですの
- 灯花: …………
- 那由他: ごめんなさいですの
- 灯花: え?
- 那由他: この謝罪は叩いたこと だけじゃなく
- 那由他: 灯花への認識を幼い頃からずっと 変えてなかったことへ、ですの
- 那由他: 私が成長し変わるように、 灯花も成長し、変わるはずなのに
- 那由他: それに目を向けようとも していなかったんですの
- 那由他: ずっと表面ばかりみて、深層にも 時の変化にも目を向けてなかった
- 那由他: それを謝りましたの
- 灯花: …そっか すごいね
- 灯花: 昔は酷いことも言ったから
- 灯花: もうわたくしが見直されることは ありえないと思ってたよ
- 灯花: でも那由他の言う通り わたくしもこの数年で変わった
- 灯花: まあ、だいたい魔法少女に なったからなんだけどね
- 灯花: でも、それ以上に色んな仲間と 出会って、心も成長したんだよ
- 那由他: やっぱり、そうですの…
- 灯花: 1番変わったのは 叔父様への評価かも
- 灯花: 民俗学は人々を救う 夢のある学問だと思ったし
- 灯花: その研究を批判されながらも 続ける叔父様は立派だって思う
- 灯花: 那由他が私への評価を見直して くれたように
- 灯花: わたくしも、叔父様や那由他を 見直してるんだから
- 那由他: ええ、これからも よろしくお願いしますの
- ラビ: お帰りなさいませ 那由他様
- 那由他: …………
- ラビ: えっ!?
- ラビ: もしかしてプリプリして らっしゃいますか
- 那由他: ええ、プリプリしてますの
- ラビ: 灯花様に会われたのですよね…?
- ラビ: そして語り合い、かつて抱いた 固定観念を払拭してきて…
- 那由他: あんな人間の再評価を試みた私が バカだったですの
- ラビ: え…
- 那由他: 上っ面どころか深層まで… そして過去も現在も未来も永久に
- 那由他: 灯花の人間性は修正不能で どうしようもないんですの!
- 灯花: 叔父様は相変わらず?
- 那由他: 半年近く会えてませんが 失踪前も調査を続けてましたの
- 那由他: ただ、未だに魔法少女の話を 広げる術は見つかってませんの…
- 灯花: ふーん
- 灯花: どうせならイメチェンくらい すればいいのにね
- 那由他: イメチェン?
- 灯花: 何事も世間に受け入れられるには イメージが大事でしょー?
- 那由他: そんなの必要ありませんの!
- 那由他: パパは素材がいいですし、 今の時点で十分完璧なんですの!
- 灯花: 身びいきせずに客観的に 考えた方がいいよ、那由他
- 灯花: 印象をよくするなら 清潔感って1番大事だよね
- 灯花: その点、叔父様って 髪は伸ばし放題になってるし
- 灯花: 服装だってフィールドワークの ための作業着みたいで
- 灯花: ボロボロでドロドロだったり してるんだもん
- 灯花: それはもう清潔感とは真逆!
- 灯花: わたくし、叔父様の前では 息止めてたもん
- 灯花: もしかして
- 灯花: 叔父様の立派な研究が 世間に受け入れられないのは
- 灯花: 叔父様のイメージが悪いからじゃ ないかにゃー?
- パンッ
- 灯花: イタッ!
- 那由他: …………
- 那由他: あんな人間に見直す箇所なんて ありませんの
- ラビ: なるほど、それで怒りのあまり 叩いて帰ってきてしまったと
- ラビ: 那由他様…
- ラビ: グッジョブです
- 那由他: ラビさんとは気が合いますの!
- 那由他: 良い人たちと出会えて 良かったんですの
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