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- 初回限定SS『弟王子とゲームの世界』
- ウィルフレッド・ローズブレイド。
- それが、この世界に生まれたオレに与えられた名前だ。
- ──この世界が乙女ゲーであることに気づいたのは、生まれてすぐの話だった。
- 気づいた時には、なんて素敵な世界に生まれたんだろうって喜んだ。だってオレは前世で、このゲームをプレイしていたのだ。
- え? 男なのに乙女ゲーなんておかしい?
- 何を言う。最近のオタクはギャルゲーも乙女ゲーも両方嗜むのが基本だぞ。
- ギャルゲーの壮大さも好きだが、乙女ゲーの繊細な恋愛模様も楽しめてこそ真のオタク。
- しかも転生した世界は、めちゃくちゃやりこんだゲームの世界だったから、オレの勝利は決まったようなものだった。
- 「よっし。せっかくゲームの世界に転生したんだから、推しにハッピーエンドになってもらおうっと」
- 推し──一番好きなキャラのことなのだが、それがオレの場合は、攻略キャラである『アラン第一王子』だったのだ。
- 今世のオレは、攻略キャラの一人、しかもアラン王子の弟という立ち位置だったので、彼に助言を与え、ヒロインと幸せになってもらうには、ベストポジションにいると言えた。
- 「アラン王子か。オレ、すっげー好きだったんだよなあ。ヒロインはすごく良い子だから、絶対アランにはヒロインと幸せになってもらいたいなあ」
- イベントの発生条件などは全部覚えているから、上手く兄を誘導して、ヒロインに兄とのルートを開いてもらうのだ。
- ヒロインの結婚式のシーンで、兄のルートは終わる。
- あの感動的なラストシーンをこの目で見られるのかと思うと俄然やる気が湧いてきた。
- 「よし、頑張るぞ!」
- オレはいわゆるお手伝いキャラになりきるのだ。時にアランを導き、時にヒロインを手伝う。二人のキューピッドになるのだ!
- そう決意したオレは、覚えている限りのイベントを日記に書き起こした。
- 「ヒロインのデビュタントがオープニングだったよな……。それまでにアランは確か……そうそう、悪役令嬢と婚約するんだった」
- ブツブツと呟く。
- ──悪役令嬢。ヒロインの恋の邪魔をする典型的な悪役のことだ。彼女、リズ・ベルトランは公爵令嬢という身分から、第一王子アランの婚約者となるのだが、その我が儘さ、傲慢さは、婚約者の王子が辟易してさじを投げてしまうほど。
- 「兄上……可哀想。でもなあ、リズ・ベルトランと婚約していないと多分、イベント発生しないと思うし、あとで幸せになれるんだから我慢してもらうしかないよな」
- 兄には気の毒だが、回避するわけにはいかないのだ。
- 仕方なく目を瞑る。そうして、婚約時期が来て、兄は予定通り悪役令嬢であるリズ・ベルトランと婚約した。
- よし、これで原作通り。
- あとはヒロインのデビュタントを待てば、ゲームは始まるはずだ。
- そう思っていたのに、話は予想外な方向へと動き出した。
- 何故か、兄が婚約者のリズ・ベルトランに対し、非常に好意的な態度を見せているのだ。
- オレがいくら説明しても「ヒロインなんていらない。僕にはリリがいるから」の一点張り。
- リリ。リズ・ベルトランの愛称だが、まさか兄がそれを口にするとは思わなかった。
- ゲームのアランは、いつだって婚約者のリズ・ベルトランに対し、一歩退いた感じで、心の中では彼女に愛想を尽かしていたのだから。もちろん、愛称で呼び合うなんてとんでもない。
- ──何かがおかしい。
- だけどそのおかしさが何なのか、オレには分からなかった。だって、この世界はゲームなのだ。何か予定外
- 何故か、兄が婚約者のリズ・ベルトランに対し、非常に好意的な態度を見せているのだ。
- オレがいくら説明しても「ヒロインなんていらない。僕にはリリがいるから」の一点張り。
- リリ。リズ・ベルトランの愛称だが、まさか兄がそれを口にするとは思わなかった。
- ゲームのアランは、いつだって婚約者のリズ・ベルトランに対し、一歩退いた感じで、心の中では彼女に愛想を尽かしていたのだから。もちろん、愛称で呼び合うなんてとんでもない。
- ──何かがおかしい。
- だけどそのおかしさが何なのか、オレには分からなかった。だって、この世界はゲームなのだ。何か予定外のことが起こっても、いわゆる原作補正というものが働き、元の流れに戻るはず。この違和感は、だから気のせいで、オレが考える必要はないのだとずっと思っていた。
- ──だけど。
- リズ・ベルトランのデビュタントが行われた日、兄は満面の笑みを浮かべ、彼女をエスコートし、ファーストダンスを踊った。
- 初めて見た『悪役令嬢』であるはずのリズ・ベルトランは、『悪役令嬢』らしい、必要以上に金をかけた派手なドレスも着ていなければ、眉を顰めたくなるようなけばけばしい化粧もしていなかった。
- 楚々とした姿は美しく、これがあの『悪役令嬢』かと目を疑ったくらいだ。
- ──あれ、おかしいな。
- オレの知っている話と違う。そこで一つの可能性に気がついた。リズ・ベルトランも、オレと同じでゲーム経験者の転生者ではないのかということだ。
- それなら彼女の雰囲気がガラリと変わったことも理解できる。なんとか原作から離れたいと努力したのだろう。
- そう思ったから、オレは彼女に声をかけた。転生仲間だというのなら仲良くしたかったのだ。
- だけど、彼女は否定した。オレの話を、意味が分からないと首を傾げていた。それを見て、ようやく理解したのだ。
- ──別に、転生者でなくても原作を変えることはできるのだ、と。
- 何らかの切っかけさえあれば、変わることはできる。彼女はそうして『悪役令嬢』からいつの間にか脱却していたのだ。
- ──なんだ、悪役令嬢でなくなったのか。
- それならまあ、兄上とくっついてもいいかな。
- 兄には幸せになってもらいたかったからヒロインと是非にと思っていたが、その兄自身がリズ・ベルトランが良いと言うのだ。悪役令嬢でなくなったというのなら、まあ、悪くないのかもしれない。そして、それならと思う。
- ヒロインの相手役は兄ではなくなった。
- じゃあ、オレが立候補しても良いんじゃないか、と。
- ──うん。自分がプレイヤーになるというのは新鮮だ。
- そしてオレは、この世界がゲームだと信じ込んだまま、次の目標に向かって邁進することを決めたのだった。
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