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Kuroe (Swimsuit ver.) MSS JP Text

Jul 29th, 2022
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  1. FILENAME: text_311431-1.txt
  2. <終業式>
  3. それでは、みなさん 楽しい夏休みにしてくださいね
  4. 黒江: (楽しい夏休み…)
  5. 黒江: (楽しい夏休みって いったいなんだろう…)
  6. 宿題の日記も忘れないように こつこつ書いてきてくださいね
  7. 黒江: 〇月×日 今日から夏休み。 宿題の一環で出たこの日記も 今日から始めることにする。
  8. 黒江: …………
  9. 黒江: (そう思っていたはずなのに)
  10. 黒江: (想像していたよりも忙しくて 気づけば夏休み最終日…)
  11. 黒江: (どう書いたらいいか悩むうちに こんなに時間が経っちゃった)
  12. 黒江: (こうなるくらいなら、最初から 勢いで書いてれば良かったかな)
  13. 黒江: …………
  14. 黒江: (日記、どうしよう…)
  15. 黒江: (思い出しながら 書くしかないよね…)
  16. 黒江: (日記のフリをした回顧録? …みたいになっちゃうけど)
  17. 黒江: …………日記だって 実況書記してる訳じゃないんだし
  18. 黒江: …別にいいか
  19. 黒江: これから振り返るのは 楽しい夏休みについて考えて私が過ごした 忘れたくない、夏の記憶
  20. 黒江: その、少しだけ前の話
  21. 黒江: (楽しい夏休み…)
  22. 黒江: (学校や宿題のことを気にせずに 涼しい部屋で本が読めたら)
  23. 黒江: (私は それで楽しいんだけど…)
  24. ぺらっ
  25. 黒江: (学校で配られたプリント…)
  26. 黒江: (挿絵の子たちは みんなで楽しそうに遊んでる…)
  27. 黒江: (先生に求められているのは そういう夏休みなんだろうな…)
  28. ピロン♪
  29. 黒江: …お兄ちゃんから?
  30. 黒江: …………えっ
  31. 黒江: 兄からのメッセージに記されていたのは 友人が営む海の家での ちょっとした手伝いを私にしてほしいということ
  32. 黒江: しかも、すたんどあっぷぱどるぼーど …SUP?というものの 教室も併設しているらしい
  33. 黒江: (SUPって、サーフィン みたいなやつだっけ…?)
  34. 黒江: (海とか、私には似合わないと 思うし…)
  35. 黒江: (お兄ちゃんの友だちじゃ 明るそうで、馴染めないかも)
  36. 黒江: (…でも私に連絡するってことは 多分…困ってるんだろうな)
  37. 黒江: (…どのくらい 困ってるんだろう?)
  38. 黒江: (魔女のことも、少しの間なら 誰かに相談できるかもしれない)
  39. 黒江: …けど、そもそも 水着なんて持ってないし
  40. 黒江: お兄ちゃんの友だちも 実はあんまり困ってないのかも
  41. かさっ
  42. 黒江: …ん? このチラシって…
  43. 黒江: …………
  44. 黒江: 水着調整キャンペーン…
  45. 黒江: 私は、あるチラシを見て 神浜市へと足を運ぶことにした
  46. 好きピとバーベキューとか 超アガるくない?
  47. 手当たり次第に焼きまくるわ!
  48. マジそれな~!
  49. 夏休み最強? サマー is 神 of アウトドア
  50. 今度のお祭りデートにね 新しい浴衣着てこうと思うんだぁ
  51. マジっすか! そんなん絶対可愛いじゃん…
  52. 黒江: (いつもよりみんな 浮かれてる気がする…)
  53. 黒江: (どうして、夏休みってだけで そんなに浮かれられるんだろう)
  54. みたま: いらっしゃ~い
  55. みたま: あら、黒江ちゃん久しぶりね 調整が必要かしら?
  56. 黒江: …えっと チラシを読んで…
  57. みたま: あぁ、水着調整キャンペーン?
  58. みたま: 元黒羽根さんたちに チラシを配っておいてよかったわ
  59. みたま: 可愛くしてあげるから任せて
  60. みたま: はいっ できたわよ~
  61. みたま: それで、海の家のお手伝いを するんだったかしら?
  62. 黒江: はい…でも 断ろうか、まだ悩んでいて…
  63. 黒江: 調整してもらっておいて …なんですけど
  64. みたま: あらぁ、どうして?
  65. 黒江: 私には、海なんて 似合わないし…
  66. 黒江: 行けば“楽しい夏休み”も わかるかもって思ったけど…
  67. みたま: 楽しい夏休み?
  68. 黒江: 先生が、楽しい夏休みに してくださいって…
  69. 黒江: でも、みんなの言う 楽しい夏休みっていうのが
  70. 黒江: 私には よくわからない気がして…
  71. みたま: そうなのねぇ
  72. みたま: でも、行かないのは もったいないわよぉ
  73. みたま: 海に行けば新しい出会いだって あるかもしれないし!
  74. 黒江: …そうですか?
  75. みたま: まだ知らない夏を過ごせるなんて とってもうらやましいことよ♪
  76. 黒江: …そうかな
  77. 黒江: (新しいことに出会うのは いいことだってみんな言うけど)
  78. 黒江: (…でもそれって)
  79. 黒江: (悪いこととの出会いも あるってことじゃないのかな)
  80. 黒江: (それはちょっと…怖い)
  81. 黒江: (それに、その新しいことが 私を求めてるかなんて…)
  82. ???の声: みたまっちょー いるー?
  83. みたま: あら、さっそく 新しい出会いかしら?
  84.  
  85. FILENAME: text_311431-2.txt
  86. 木崎 衣美里: ちゃっす、みたまっちょ! って、あれ、知らない子だ?
  87. 綾野 梨花: おー、ニューフェイス登場? 最近引っ越してきた子とか?
  88. みたま: 黒江ちゃんは 宝崎市の魔法少女でね
  89. みたま: 楽しい夏休みっていうのを 知りたいらしいのよ~
  90. 木崎 衣美里: え、そんじゃ、あーしらと一緒に 楽しい夏休みしに行かね?
  91. みたま: あら、いいの?
  92. 木崎 衣美里: みんなもいいっしょ?
  93. 綾野 梨花: とーぜん! 友だち増えるの嬉しいし!
  94. 五十鈴 れん: …ぅん…いいよ…
  95. 黒江: えぇ…?
  96. 都 ひなの: おい、そんな急に誘って 相手も困るだろ…
  97. 黒江: そうして私は 今日初めて会った知らない人たちと一緒に フードコートで楽しい夏を探すことになった
  98. 木崎 衣美里: 夏はやっぱ涼しい店で ダベるに限るっしょ!
  99. 黒江: …そうなんだ
  100. 都 ひなの: 無理にこいつに 合わせなくてもいいぞ?
  101. 木崎 衣美里: 「んじゃ、聞いてみよー! みゃーこ先輩は夏って言ったらズバリ何?」
  102. 都 ひなの: 「アタシは、そうだな… 花火大会で並んで花火を見るとか 海でかけっこをしながらきゃっきゃするとか…」
  103. 綾野 梨花: 「みゃこ先輩のチョイス なんかデートっぽくない?」
  104. 都 ひなの: 「当然だろう? アタシはお前たちとはひと味違う 大人の夏というものを知ってるからな」
  105. 黒江: …そうなんだ
  106. 綾野 梨花: 「おぉー!? じゃあ、ナイトプールとかも行ってたり?」
  107. 都 ひなの: 「ふふ…も、もちろんだ うん、なんか…キラキラした感じのあれだな?」
  108. 綾野 梨花: 「そそ、あれ行ってみたいんだよね~! めっちゃ映えスポットって感じだし 夜だから日焼けもしないし 女子会専用ナイトとかあるんだよね?」
  109. 木崎 衣美里: 「あーしもあーしも! フラミンゴとかユニコーンの浮き輪とか あるらしいじゃん、やばくね?」
  110. 五十鈴 れん: 「…へぇ… 遊園地みたいで…面白そぅ…かも…」
  111. 綾野 梨花: 「だよね~! 真珠のフロートとか乗って みんなで写真撮りたい!」
  112. 都 ひなの: 「ふふ、今度アタシが連れて行ってやろう」
  113. 綾野 梨花: 「ほんと、やったー! みんなで女子会しよっ!」
  114. 木崎 衣美里: 「んんん??…大丈夫…かな…?」
  115. 綾野 梨花: 「えみりん、どしたの?」
  116. 木崎 衣美里: 「夜7時とかになったら、小さい子だけ 先に帰されたりしないかなって…」
  117. 綾野 梨花: 「あ…みゃこ先輩のこと?」
  118. 都 ひなの: 「アタシは!花も恥じらう!18歳だーっ!」
  119. 黒江: あ…そうなんだ
  120. 木崎 衣美里: あ、今くろぴちょっと 驚いたっしょ?
  121. 黒江: くろぴ…?
  122. 木崎 衣美里: くろぴのあだな! いい感じっしょ?
  123. 黒江: …そうなんだ
  124. 木崎 衣美里: そだ、聞いてなかった! れんぱすはどんな夏が好き?
  125. 五十鈴 れん: わ、私…ですか…? …ぇ…えっと…
  126. 黒江: (言葉がすごい勢いで 飛び交ってる…)
  127. 黒江: (こんなに話さなきゃ いけないんだったら)
  128. 黒江: (ダベル?っていうのも なんか大変なのかも…)
  129. 黒江: (…それに、あの人)
  130. 黒江: (いつもこの人たちと 一緒にいるみたいだけど)
  131. 黒江: (もしかして… 振り回されてる?)
  132. 黒江: (私なら、ずっと一緒なのは 疲れちゃうかも…)
  133. 五十鈴 れん: …ぁ…あの…
  134. 黒江: え…
  135. 五十鈴 れん: …黒江さん…は、えっと 大丈夫…ですか…?
  136. 黒江: なんのこと…?
  137. 五十鈴 れん: …ぅ…その、みんな…あんな感じ …だから…
  138. 五十鈴 れん: 疲れちゃってないかなって… 思って…はぃ…
  139. 黒江: (…あ、心配させちゃってる…)
  140. 黒江: …ありがとう 大丈夫
  141. 衣美里の声: えーっ! それマジ!?
  142. 木崎 衣美里: 今日、近所で夏祭り やってんだって!
  143. 木崎 衣美里: これは行くしかないっしょ! ね、くろぴ!
  144. 綾野 梨花: 楽しい夏休みの 王道だもんね!
  145. 黒江: …そうなんだ
  146. 木崎 衣美里: そうと決まったら 夏祭りへレッツゴー!
  147.  
  148. FILENAME: text_311431-3.txt
  149. 黒江: 彼女たちに連れて行かれた夏祭りは 人混みが激しくて、いろんな声が交じり合って 私には合わないところかもって、すぐに思った
  150. 黒江: だけど、きっと私の楽しい夏休み探しのために してくれていることだから 少し、楽しんでみようと思った
  151. 黒江: …………
  152. 綾野 梨花: 「れんちゃん チョコバナナ1本あげる!」
  153. 五十鈴 れん: 「ぇ…いいの…?」
  154. 綾野 梨花: 「うん、じゃんけんで勝って 2本もらえたから、おすそわけ!」
  155. 五十鈴 れん: 「…ぁ、ありがとう…」
  156. 木崎 衣美里: 「みゃーこ先輩! あーし、ヨーヨー釣りやりたい!」
  157. 都 ひなの: 「ちょ、オイ待て、衣美里! ひとりで走ったら迷子になるぞ!」
  158. 木崎 衣美里: 「わかってるってー!」
  159. 木崎 衣美里: ねぇ、くろぴも 一緒にやろうよ!
  160. 黒江: あ…うん
  161. 木崎 衣美里: 「じゃーん!!! ヨーヨー両手持ち!これヤバくね?」
  162. 都 ひなの: 「わかったわかった 危ないから目の前で振り回すな」
  163. 木崎 衣美里: 「あ、そうだ!次は射的行こ!! マジ、バンバン当てまくるから」
  164. 都 ひなの: 「…小遣いはちゃんと考えろよ?」
  165. 黒江: (あ、たこ焼き屋さんだ…)
  166. 黒江: …………
  167. くるっ
  168. じゅわぁ~…
  169. 黒江: (たこ焼きが焼かれるのって なんか、ずっと見てられる…)
  170. 嬢ちゃん、たこ焼き 買ってくかい?
  171. 黒江: へ…?
  172. ずっと見てたろ?
  173. 黒江: (あ…どうしよう)
  174. 綾野 梨花: おじさーん、たこ焼き ひとつくださいっ
  175. お、友だちかい? 毎度あり!
  176. 黒江: あ…
  177. 黒江: あの…ごめんなさい お金、払うから
  178. 綾野 梨花: 別に、あたしとれんちゃんが 食べたかったんだし
  179. 綾野 梨花: 全然気にしなくていーよ
  180. 五十鈴 れん: …ぁ…黒江さんも たこ焼き…良ければ…はぃ
  181. 黒江: …気にしないで
  182. 綾野 梨花: …あのさ、黒江ちゃん
  183. 衣美里の声: おーい! りかっぺ~!!
  184. 木崎 衣美里: あ、くろぴもここだったんだ!
  185. 木崎 衣美里: 気づいたらいなかったから 探しちゃったよ
  186. 黒江: あ…ごめん…
  187. 木崎 衣美里: くろぴ、楽しい夏休み 見つけられそ?
  188. 黒江: ちょっと、まだわかんない…かも
  189. 木崎 衣美里: そかそかー
  190. 木崎 衣美里: あ、じゃあさじゃあさ!
  191. 木崎 衣美里: あーしと輪投げで ガチンコ勝負やんね!?
  192. 黒江: …わかった
  193. 木崎 衣美里: よっしゃ、行こ行こーっ!
  194. 黒江: うん…
  195. 黒江: (気を遣わせてるのかな… なんか気まずい…)
  196. 黒江: (優しくしてくれてるけど ここに私の居場所はないし)
  197. 黒江: (私がいることで きっと困らせてる…)
  198. 黒江: (こんなことなら、家で じっとしていれば良かったかな)
  199.  
  200. FILENAME: text_311431-4.txt
  201. 都 ひなの: そろそろ遅いし もうお開きにするか
  202. 綾野 梨花: まぁ、そうだねー
  203. 木崎 衣美里: え~、まだ遊びたかった~
  204. 五十鈴 れん: …ぁ、また…来ましょう…はぃ…
  205. 木崎 衣美里: たしかに! 夏祭りは他にもあるしね!
  206. 木崎 衣美里: 次は、浴衣とかもありじゃね?
  207. 綾野 梨花: うん、ありあり!
  208. 木崎 衣美里: くろぴも、また一緒に 夏祭り来ようよ!
  209. 木崎 衣美里: あーし、今日くろぴと遊べて めちゃ楽しかったし!!!
  210. 黒江: え…あ…
  211. 黒江: 私、神浜市って そんなに来ないし…
  212. 木崎 衣美里: あ…
  213. 木崎 衣美里: そ、そっかーそっかー そうだよねー!
  214. 木崎 衣美里: そういえば、くろぴ 宝崎市の子だったもんね!
  215. 都 ひなの: それなら 仕方ないかもしれないな
  216. 綾野 梨花: …………
  217. 綾野 梨花: んー、あのさ黒江ちゃん
  218. 綾野 梨花: 黒江ちゃんって、こういう 賑やかなとこ苦手だった?
  219. 黒江: あ…えっと…
  220. 綾野 梨花: もし楽しめてなかったなら 無理に誘っちゃってごめんね?
  221. 木崎 衣美里: えっえっ、マジ?
  222. 木崎 衣美里: そうだったんなら あーしも迷惑だったよね!?
  223. 黒江: その、こういうところは …得意じゃない…けど
  224. 黒江: 別に、迷惑…とかじゃ
  225. 五十鈴 れん: ………… …ぇっ…と…
  226. 黒江: …………
  227. 黒江: (…私のせいで、気まずい空気に させちゃったかも…)
  228. 黒江: (もう、ここにいない方が きっといいよね…)
  229. 黒江: えっと… それじゃ、私…そろそろ…
  230. 都 ひなの: …なぁ
  231. 都 ひなの: もしかして共通の趣味がある 友だち相手の方が
  232. 都 ひなの: 話がしやすいってタイプか?
  233. 黒江: え…あ… そうかな…そうかも…
  234. 黒江: 趣味も…ないわけじゃないし…
  235. 都 ひなの: それなら、これに 行ってみるといいかもしれないぞ
  236. 黒江: イベントの…チラシ?
  237. 黒江: (メイドカフェに、映画カフェ それからボードゲームカフェ…)
  238. 都 ひなの: いろいろなカフェの 合同イベントってところだな
  239. 黒江: (童話カフェっていうのも あるんだ…ちょっと面白そう)
  240. 都 ひなの: これなら同じ魔法少女も 何人か参加しているらしいし
  241. 都 ひなの: いろんな趣味のやつが 来るらしいから
  242. 都 ひなの: 黒江と話の合うやつも いるんじゃないか?
  243. 都 ひなの: 後輩が行くって言ってたから よかったら案内させるぞ?
  244. 黒江: えっと… ありがとうございます
  245. 黒江: (また、気を遣わせちゃった)
  246. 黒江: (本当は、もう外に 出たくないけど…)
  247. 黒江: (なんか、断っちゃったら 良く思われない…よね)
  248. 黒江: (それに、このイベントなら)
  249. 黒江: (少しは 馴染めるかもしれないし…)
  250. 黒江: 夏ってだけで、そんなに はしゃいだりできるのかな?
  251.  
  252. FILENAME: text_311432-1.txt
  253. 黒江: 〇月×日 神浜市で出会った人たちに フードコートや夏祭りへと 連れて行ってもらった。
  254. 黒江: だけど、それでも私には 楽しい夏休みがよくわからなかったし なんだか馴染めない気がした。
  255. 黒江: あの人たちが悪いわけじゃないけど 私がいてもきっと迷惑だし、 楽しくないだろうなって…。
  256. 黒江: そんな私に渡されたチラシには あるイベントの詳細が書いてあった。
  257. 黒江: メイドカフェに映画カフェ ボードゲームカフェに童話カフェなど いろいろなカフェが合同でプールで開催している 夏のイベントということらしい。
  258. 黒江: 都さんの後輩がいるから、と 待ち合わせ場所に指定された場所は なぜかメイドカフェの近くで
  259. 黒江: その場所は、私にとっては なんだか不思議な空間だったし どう考えても場違いだった
  260. 黒江: …………
  261. 「オムライスに魔法をかけちゃいまぁす! それじゃあ、一緒に~ おいしくな~れ!おいしくな~れ!」
  262. 「うっ…尊い…語彙が、語彙が終わった… チェキ…チェキいいっすか…自分…」
  263. 「ねっ、さっき なぎたんのファンサもらったでしょ!?」
  264. 「あわ、あぁ…マジでキュン死した… 超好き過ぎる…ビッグラブ…フォーエバー…」
  265. 黒江: (なんか…すごいな…)
  266. 黒江: (だけど、誰かをあんなに 好きになれるのって)
  267. 黒江: (ちょっとだけ… うらやましい…な…)
  268. ざわざわざわ…
  269. 黒江: (でも、私にはこの雰囲気 さすがに合わないかも…)
  270. 黒江: (せっかく紹介してもらった イベントだけど…)
  271. 黒江: (童話カフェだけ 少し覗いてから帰ろう…)
  272. 黒江: (いや…雰囲気で疲れたし それも行かなくていいかな)
  273. ドンッ
  274. 黒江: あ…すみませ…
  275. 観鳥 令: あぁ、こっちこそごめんね
  276. 観鳥 令: …って、もしかしてキミ ひなのさんが言ってた…?
  277. 黒江: え?
  278. 観鳥 令: 宝崎市から来た魔法少女の 黒江さんって子が
  279. 観鳥 令: イベントに顔を出すかもだから 会ったら案内してやれ、って
  280. 観鳥 令: ひなのさんに頼まれてたんだ
  281. 観鳥 令: …それに
  282. 観鳥 令: ひょっとするとキミ 元黒羽根だったりしない?
  283. 黒江: あ…はい…
  284. 観鳥 令: あぁ、やっぱり
  285. 観鳥 令: 観鳥さんも羽根のひとりでさ 声に聞き覚えがあったんだ
  286. 黒江: (あの人が言ってた魔法少女 って…この人のことだったんだ)
  287. 観鳥 令: たしか、楽しい夏休みってのを 探してるんだよね?
  288. 黒江: あ…はい…
  289. 観鳥 令: それじゃ、ちょっと ついてきてもらえる?
  290. 観鳥 令: 紹介したい人がいるし… 多分、楽しい人たちだと思うから
  291. 牧野 郁美: あ、令ちゃん おかえり~っ!
  292. 観鳥 令: あれ、牧野チャン休憩?
  293. 牧野 郁美: うんっ♪ …って、あれ?
  294. 牧野 郁美: もしかして、その子 ひなのさんが言ってた…?
  295. 観鳥 令: うん、黒江さん 元黒羽根なんだって
  296. 牧野 郁美: えー、そうなの!? くみもだよぉ!
  297. 牧野 郁美: あ、私はみんなのアイドル いくみんこと、牧野郁美だよ!
  298. 牧野 郁美: ご主人様、よろしくね♪
  299. 黒江: …あ…黒江です よろしくお願いします
  300. 観鳥 令: そういえば桜子さんは? 手伝いに来てたよね
  301. 万年桜のウワサ: |ここにいるよ|
  302. 観鳥 令: あぁ、気づかなかったよ
  303. 万年桜のウワサ: |…驚かせたかったのに 令、全然びっくりしない|
  304. 万年桜のウワサ: |…それより、この人は?|
  305. 観鳥 令: あぁ、それがね…
  306. 万年桜のウワサ: |楽しい夏休み…|
  307. 万年桜のウワサ: |それならまた私の力で アクアリウムを…|
  308. 観鳥 令: それは当分禁止って ことになったよね
  309. 黒江: (不思議な人… この人も魔法少女…なのかな)
  310. ???の声: あー! いくみんここにいたのー!
  311.  
  312. FILENAME: text_311432-2.txt
  313. ???の声: あー! いくみんここにいたのー!
  314. 牧野 郁美: ん?
  315. 牧野 郁美: 「かりんちゃんと十七夜ちゃん… あっ、そっちのお店も休憩っ?」
  316. 十七夜: 「いや、画伯が牧野君の店にも 行ってみたいと言うのでな… ならば自分も挨拶にと」
  317. 十七夜: 「それでは、自分はまた店に戻る 申し訳ないが画伯のことは 牧野君に任せていいだろうか」
  318. 黒江: (この人も、メイドなんだ…)
  319. 牧野 郁美: 「もちろん!くみにお任せだよっ!」
  320. 御園 かりん: 「なんだかわたしを 保育園に預けるみたいな言い方なの…」
  321. 十七夜: 「失礼した、そんなつもりはないのだが それでは画伯、またあとで」
  322. 御園 かりん: 「うん、待ってるの! なぎたん、お仕事頑張るの!」
  323. 牧野 郁美: 「じゃあ、かりんちゃん 十七夜ちゃんが帰ってくるまで くみたちとお話しよっ」
  324. 御園 かりん: 「わかったの!」
  325. 御園 かりん: …あ、そっちの人は?
  326. 黒江: あ…私、黒江…
  327. 御園 かりん: わたしは御園かりん! よろしくなの!
  328. 万年桜のウワサ: |黒江は宝崎市の魔法少女で|
  329. 万年桜のウワサ: |楽しい夏休みを 探してるんだって|
  330. 御園 かりん: 他の市の魔法少女って あんまり会わないから新鮮なの!
  331. 黒江: あなたも魔法少女…?
  332. 御園 かりん: そうっ、ハロウィンが生んだ 魔法少女なの!
  333. 黒江: …そうなんだ?
  334. 御園 かりん: 黒江先輩は 楽しい夏休みを探してるの?
  335. 黒江: うん
  336. 御園 かりん: それなら、わたしが いいことを教えてあげるの!
  337. 黒江: …?
  338. 御園 かりん: そう、それは 「怪盗少女マジカルきりん」の
  339. 御園 かりん: 夏の特別号に掲載された お話なの!
  340. 御園 かりん: あ、「怪盗少女マジカルきりん」 っていうのは
  341. 御園 かりん: 昔から、わたしが 大好きな少女漫画で…!
  342. 御園 かりん: っていうことだから 黒江先輩もマジきりを読んだら
  343. 御園 かりん: きっと夏の楽しみ方が わかると思うの!
  344. 黒江: そうなんだ
  345. 観鳥 令: 熱の入った紹介だったけど
  346. 観鳥 令: 結局、楽しい夏の答えを知るには 全巻読まないとダメそうだね
  347. 牧野 郁美: それだと漫画を読むだけで 夏休みが終わっちゃうかもぉ?
  348. 御園 かりん: それは、良くないの…
  349. 万年桜のウワサ: |私は、ねむが電子書籍で 持ってたから何巻か読んだけど|
  350. 万年桜のウワサ: |そんなに時間かかるもの?|
  351. 観鳥 令: 桜子さんと他の人とじゃ ちょっと違うからねぇ…
  352. 御園 かりん: そうなの… マジきりは結構長いの
  353. 御園 かりん: でも、それがいいところなの
  354. 御園 かりん: あと電子書籍も便利だし いいと思うんだけど…
  355. 御園 かりん: わたしとしては紙で ぺらぺら読んでほしいの…
  356. 黒江: (…少し、わかるかも)
  357. 御園 かりん: マジきりはわたしの 心のバイブルなの!
  358. 御園 かりん: 今日も、読み切りのを 持ってきてるから
  359. 御園 かりん: みんなで見るの!
  360. 黒江: (こんなに何かを好きに なれるってすごいな…)
  361. 黒江: (マジきり…これだけ語られると 少し興味が湧いてきたかも)
  362. 御園 かりん: あ、特にこのシーンとか 夏を感じられると思うの!
  363. 御園 かりん: この雲は紙の色合いを活かしてて すごい迫力があるの!
  364. 観鳥 令: お、入道雲の描写だね
  365. 観鳥 令: たしかに、この構図は 写真にも取り入れられそうだ
  366. 牧野 郁美: くみは、こんな雲をバックに 写真を撮ってもらいたいなっ
  367. 牧野 郁美: そしたら、きゅるんきゅるんな 写真になりそうじゃない?
  368. 観鳥 令: 今度やってみようか
  369. 牧野 郁美: やったぁ!
  370. 観鳥 令: 黒江さんは…うーん 線香花火とかが似合いそうかな
  371. 牧野 郁美: あ、わかる! 綺麗で儚い雰囲気みたいな?
  372. 御園 かりん: あとから仲間になる ブラックっていうイメージなの
  373. 御園 かりん: クールで大人っぽくて かっこいい感じなの!
  374. 牧野 郁美: うんうんっ!
  375. 黒江: …そうなんだ 何か、恥ずかしいな…
  376. 御園 かりん: 夏の構図と言ったら このコマもいいと思うの!
  377. 観鳥 令: ん~、どれどれ…?
  378. 黒江: (この人は写真が趣味 …なのかな)
  379. 黒江: (夏を通じて、みんな違う趣味 なのにひとつのことを話してる)
  380. 黒江: (なんだか不思議な感じだけど 少し楽しい…かも)
  381.  
  382. FILENAME: text_311432-3.txt
  383. 牧野 郁美: ねぇねぇ、黒江ちゃんって 何か趣味とかあるの~?
  384. 黒江: 私…?
  385. 御園 かりん: たしかに、わたしも聞きたいの!
  386. 御園 かりん: また、わたしの話ばっかり しちゃってごめんなの!
  387. 黒江: ううん 聞いてるの楽しかったし…
  388. 黒江: …………
  389. 黒江: …私、読書が好きなんだ
  390. 万年桜のウワサ: |ねむと一緒|
  391. 牧野 郁美: そうだねっ
  392. 御園 かりん: 漫画が好きなわたしとも ちょっとだけ似てるの!
  393. 黒江: うん…そうかも
  394. 観鳥 令: 黒江さんは どんな本を読むの?
  395. 黒江: いろいろ読むけど
  396. 黒江: …うーん、たとえば 宮沢賢治、とか
  397. 御園 かりん: 名前は知ってるけど、あんまり 読んだことがない気がするの…
  398. 黒江: 『注文の多い料理店』とかは 読みやすいと思う…
  399. 御園 かりん: それなら知ってるの! こわーいやつなの!
  400. 黒江: うん…そう
  401. 御園 かりん: 本好きなら他にも いっぱいいるの!
  402. 御園 かりん: 入名先輩も宮沢賢治が 好きって言ってたの
  403. 牧野 郁美: クシュちゃんはそうだよね 児童書と童話が大好きみたい
  404. 御園 かりん: あとは夏目書房ってとこにも! 本好きの魔法少女がいるの!
  405. 御園 かりん: 今度みんなで会うの!
  406. 黒江: …いいね
  407. 牧野 郁美: そのときは、くみの働いてる メイドカフェに集まるのはどお?
  408. 観鳥 令: それもいいかもしれないけど
  409. 観鳥 令: 本を読むならメイドカフェより 保澄ちゃんちの喫茶店かな
  410. 牧野 郁美: それはそうかも…!
  411. 牧野 郁美: 雫ちゃんちの喫茶店って 静かで本も読みやすそうだもんね
  412. 観鳥 令: あとはブレンドが絶品だよ
  413. 観鳥 令: まぁ観鳥さんはお小遣い的に それしか飲めないんだけどね
  414. 黒江: ブレンド…
  415. 観鳥 令: あとで場所を教えるよ
  416. 黒江: …ありがとう
  417. 御園 かりん: そしたら、魔法少女 本好き倶楽部ができるの!
  418. 牧野 郁美: 確かに雫ちゃんも含めて みんな魔法少女だもんね
  419. 黒江: …そうなんだ
  420. 黒江: (そっか…この人たちも みんな魔法少女…)
  421. 黒江: (マギウスの翼にいたふたりは 特に気が合うのかも…)
  422. 黒江: (御園さんだって、私と同じで あんまり強くなさそうだし…)
  423. 黒江: (それに、魔法少女同士なら 同じ境遇を分かち合える)
  424. 黒江: (遊んでいる途中で魔女が 現れても対処できる…)
  425. 黒江: …………
  426. 黒江: (こういう人たちとなら もしかしたら…)
  427. 黒江: (仲良くなって一緒に 楽しい夏休みを)
  428. 黒江: (過ごしたりできるのかな)
  429.  
  430. FILENAME: text_311432-4.txt
  431. 牧野 郁美: 結局、楽しい夏休みが 何かは見つけられてないね
  432. 黒江: うん…
  433. 御園 かりん: あっ…ごめんなさいなの 忘れちゃってたの…
  434. 万年桜のウワサ: |私は、ねむたちといたら それで十分楽しい|
  435. 観鳥 令: 観鳥さんは夏も冬も 炎上案件を探してるから
  436. 観鳥 令: 季節はあまり関係ないかもね
  437. 牧野 郁美: くみはぁ、夏も冬も くみのきゅんきゅんな笑顔で
  438. 牧野 郁美: みーんなを笑顔にすることが 一番の幸せだよっ♪
  439. 御園 かりん: あんまり参考にならないの…
  440. 御園 かりん: こうなったら黒江先輩が 絶対に楽しめる夏休みを
  441. 御園 かりん: わたしたちで考えてみるの!
  442. 牧野 郁美: うーん、なんだろうねぇ
  443. 御園 かりん: あっ! わたし、思いついたの!
  444. 黒江: …?
  445. 御園 かりん: 黒江先輩は本が好きだから 本にまつわるものがいいと思うの
  446. 御園 かりん: でも、ひとりで読むのは 夏休みっぽくないの…
  447. 御園 かりん: だから、みんなで好きな 作品をおすすめし合うの!
  448. 御園 かりん: 好きなものを教え合えば きっと世界が広がるし
  449. 御園 かりん: 仲良くもなれると思うの
  450. 御園 かりん: そしてそれは、楽しい夏休み って言える気がするの!
  451. 黒江: そうなんだ
  452. 御園 かりん: やったことはないから どうなるかわからないけど…
  453. 御園 かりん: 手始めにマジきりの 読み切りのやつを貸すの!
  454. 御園 かりん: 絶対に黒江先輩も 好きになると思うの!
  455. 黒江: 絶対…
  456. 黒江: (私、この人みたいに 好きになれるのかな…)
  457. 黒江: (あの人たちみたいに…)
  458. 「オムライスに魔法をかけちゃいまぁす! それじゃあ、一緒に~ おいしくな~れ!おいしくな~れ!」
  459. 「うっ…尊い…語彙が、語彙が終わった… チェキ…チェキいいっすか…自分…」
  460. 「ねっ、さっき なぎたんのファンサもらったでしょ!?」
  461. 「あわ、あぁ…マジでキュン死した… 超好き過ぎる…ビッグラブ…フォーエバー…」
  462. 御園 かりん: あ、「怪盗少女マジカルきりん」 っていうのは
  463. 御園 かりん: 昔から、わたしが 大好きな少女漫画で…!
  464. 黒江: (何かをあんなに好きに…)
  465. 黒江: その時の私には、自信がなかった
  466. 黒江: 彼女があんなに良いと勧めるものを 私も、同じような熱量で 好きになれるかわからない
  467. 黒江: もし、好きになれなかったら… そのとき私は、どう思われるんだろう 自分の好きなものを好きになれないなんて 嫌なやつだって思われるかもしれない
  468. 黒江: 相手の好きなものを好きにならないと 仲良くなれないのなら 誰かと仲良くなるのは面倒だと思ってしまった
  469. 黒江: …………
  470. 御園 かりん: 「黒江先輩? ぼーっとしてるの?」
  471. 黒江: あ…えっと…
  472. 黒江: いまは本持ってないし それはまた…いつか…
  473. 黒江: 私、そろそろ帰らないとだから もう、帰るね
  474. 黒江: 私は、御園さんからの誘いを有耶無耶にして 逃げるようにその場を去った
  475. 黒江: 私のために考えてくれたその案を 面倒臭いと思って逃げた自分の気持ちが どうかあの人たちに バレていませんようになんて思いながら…
  476. 黒江: いい人たちだと思った きっと優しいし、同じような境遇にいて 弱さだって共有できたはずだった
  477. 黒江: それに、御園さんと仲良くしていたら 本が好きな他の知り合いもできたかもしれない
  478. 黒江: それでも私は 御園さんたちの連絡先も聞かずに別れた
  479. 黒江: どこにも馴染めない 馴染もうとしない私は きっとこのまま、ひとりでいい
  480. 黒江: あれ?私、なんで こんなことになってるんだっけ?
  481.  
  482. FILENAME: text_311433-1.txt
  483. 黒江: 〇月×日 みんなが想像する楽しい夏休みは、 思っていたよりずっときらきらしていて 誰もが誰かと一緒に過ごしていた。
  484. 黒江: そこは、なんだか程遠い世界に感じられて 私には到底、馴染めない場所だと思った。 だから、あれからしばらくは、 本を読んで過ごしていた。
  485. 黒江: それから、何冊かの物語を終えた今日。
  486. 黒江: 前から気になっていた本を探しに 神浜市の図書館へと足を運んだ私は 帰りに、以前おすすめされた喫茶店へ立ち寄り
  487. 黒江: そこで、ある人と出会った。
  488. 観鳥 令: 本を読むならメイドカフェより 保澄ちゃんちの喫茶店かな
  489. 牧野 郁美: それはそうかも…!
  490. 牧野 郁美: 雫ちゃんちの喫茶店って 静かで本も読みやすそうだもんね
  491. 観鳥 令: あとはブレンドが絶品だよ
  492. 観鳥 令: まぁ観鳥さんはお小遣い的に それしか飲めないんだけどね
  493. 黒江: (たしかにあの人たちの言う通り 静かな純喫茶のイメージ)
  494. 黒江: (今はお客さんも あまりいないみたいだし)
  495. 黒江: (こういうところ 私は結構好きかも…)
  496. 黒江: (本は家で読むのが 一番落ち着くと思ってたけど)
  497. 黒江: (たまには こういうのもいいな…)
  498. 保澄 雫: お待たせしました ブレンドコーヒーです
  499. 黒江: …ありがとうございます
  500. 黒江: (わ…いい香り…)
  501. こくっ
  502. 黒江: 美味しい…
  503. 保澄 雫: ありがとう、初めてのお客さんに そう言ってもらえると嬉しいな
  504. 黒江: あ…すみません 声に…
  505. 保澄 雫: …ふふ
  506. 保澄 雫: …あ、その本
  507. 黒江: …読んだことある?
  508. 保澄 雫: まだ最初の数ページしか 読めてないんだけど…
  509. 保澄 雫: 主人公の実家が喫茶店だから なんか親近感があって
  510. 黒江: そうなんだ 本はよく読むの…?
  511. 保澄 雫: どうだろう… 読書家ってほどじゃないけど
  512. 保澄 雫: 旅行記とかは好きかも
  513. 黒江: そうなんだ…えっと… ここのお店の…人だよね?
  514. 保澄 雫: あ、ここはお父さんのお店なの 私は、雫…保澄雫
  515. 黒江: …あ…私、黒江
  516. 保澄 雫: 黒江さん…って見ない制服だけど ここら辺の人じゃない?
  517. 黒江: うん…宝崎市
  518. 黒江: このお店も神浜市の人に 教えてもらって…
  519. 黒江: ブレンドしか 飲んでない人…なんだけど
  520. 保澄 雫: あっ、もしかして 令さんのことかな?
  521. 黒江: …そう、かも
  522. 保澄 雫: なんだ、そうだったんだ…
  523. 保澄 雫: …ということは元羽根の?
  524. 黒江: …どうしてわかったの?
  525. 保澄 雫: 令さんがね 黒江さんのこと、話してたの
  526. 保澄 雫: 肝心の名前を言ってなかったから 全然気づかなかった
  527. 黒江: …あの人たちと仲いいんだね
  528. 保澄 雫: 仲がいいっていうか…
  529. 保澄 雫: 令さんと郁美さんには …昔、助けられたから
  530. 黒江: そうなんだ…
  531. カランカラン
  532. 保澄 雫: あ、ごめん お客さん来たから、また
  533. 黒江: …うん
  534. 黒江: (あの人たちに助けられた って言ってたし)
  535. 黒江: (私のことも元羽根って 呼び方をするってことは)
  536. 黒江: (保澄さんもマギウスの翼に いたことがあるのかな…)
  537. 黒江: …………
  538. 黒江: (最近あった人の中で 一番、話しやすかったな…)
  539.  
  540. FILENAME: text_311433-2.txt
  541. 保澄 雫: はい、ご注文おうかがいします
  542. 黒江: (保澄さんって どんな人なんだろう…)
  543. 黒江: (マギウスの翼にいた頃が あるんだとしたら)
  544. 黒江: (気が合うところも あるかもしれないし…)
  545. 黒江: (もう少し話してみたいけど 忙しそうだな…)
  546. 黒江: (それに、保澄さんもきっと 私と同じように)
  547. 黒江: (ひとりでいることが 多そうな感じだし…)
  548. 黒江: (ゆっくりでも…いっか)
  549. 黒江: そのときの私は 保澄さんのことを“同類”だと思っていた
  550. 黒江: マギウスの翼に入るような弱い魔法少女で 誰かに救われるのを待っている私のような
  551. 黒江: どこにも馴染まない、馴染もうとしない そんな私と同じだと思った
  552. 黒江: だけど、それが大きな誤りだと気づくのは 案外すぐのことだった
  553. 黒江: …ふぅ
  554. 黒江: (そろそろ帰ろうかな)
  555. 黒江: (ここのお店には…また そのうち来よう…)
  556. カランカラン
  557. ???の声: しーずくちゃんっ! あーそびーましょー!
  558. 黒江: ――っ!?
  559. 黒江: (なに、あの人…?)
  560. 黒江: (迷惑客…? でも、今…雫ちゃんって…)
  561. 黒江: (保澄さんの知り合い…?)
  562. 黒江: 私は、その時 保澄さんがさぞ迷惑そうな顔をしているだろうと そう思って彼女の方を見た
  563. 保澄 雫: ちょっとあやか… 声が大きいよ
  564. 毬子 あやか: あ、ごめんね!
  565. 毬子 あやか: それより雫ちゃん! 遊びに行こうよ!
  566. 毬子 あやか: 今日ね、ライブがあるんだよ!
  567. 保澄 雫: え、またお笑いの?
  568. 毬子 あやか: でも夏の特別なやつだよ! ね、行こうよ!いいでしょ?
  569. 保澄 雫: 私、まだ お店の手伝いがあるんだけど?
  570. 雫の父: あとはいいから 行っておいで
  571. 保澄 雫: え、ほんとに…?
  572. 雫の父: 心配しなくていいよ
  573. 保澄 雫: …わかった
  574. 毬子 あやか: やったー!
  575. 保澄 雫: もう…お店の中なんだから 静かに…
  576. 毬子 あやか: あわわ! ごめんね!
  577. 保澄 雫: …ほら、行くなら早く行くよ
  578. 毬子 あやか: うん! 先に外で待ってるね!
  579. 黒江: (…笑ってる)
  580. 黒江: (…なんだ)
  581. 黒江: (保澄さんは私と違って)
  582. 黒江: (一緒に楽しい夏休みを 過ごせる相手がいるんだ)
  583. 黒江: …………
  584. 黒江: (あれ、私…今 がっかりした…?)
  585. 黒江: (私、保澄さんが自分と 同じくらい)
  586. 黒江: (周りと馴染めないような子で あればいいって…)
  587. 黒江: (そう思って…?)
  588. 黒江: 保澄さんが迷惑そうな顔をしながらも その子に手を引かれて、少し微笑んだのを見て 私は、がっかりしてしまった
  589. 黒江: 誰とも馴染めないばかりか 自分と同じようにみんなも不幸であればいいと そう思ってしまった自分自身に 心底嫌気がさした
  590. 黒江: 手を引かれて 連れ出してもらえる彼女が 私は、うらやましかった
  591.  
  592. FILENAME: text_311433-3.txt
  593. 黒江: 家までの帰り道 夏休みにはしゃぐ周りの人の声や音が ひどく遠く、煩わしく感じて 自分ひとりだけが違うところにいるように感じた
  594. 黒江: そう思うのが嫌で 私は、持っていたイヤホンをつけて 大きな音で音楽を流したけれど
  595. 黒江: シャッフル再生で流れたのは、爽やかな夏の歌で なんだか、全部が嫌になってしまいそうだった
  596. 黒江: …………
  597. 黒江: (みんな楽しそうに話してる)
  598. 黒江: (いつ、喋ることを 考えているんだろう…)
  599. 黒江: (私はのろまだから…)
  600. 黒江: (考えてるうちに 話が終わっちゃう…)
  601. 黒江: 私は、夏休みに浮かれる人たちを遠巻きに見て どうしてあんなにはしゃげるんだろうなんて 冷めたふりをしながら
  602. 黒江: 本当は、心のどこかで あんな風に楽しめる人たちが うらやましかったのかもしれない
  603. 黒江: …たしか、こんな寓話があった 狙っていたブドウに手が届かなかったキツネが あのブドウは酸っぱいに違いないと決めつけて 負け惜しみをする…そんなお話
  604. 黒江: 私はきっと、あのキツネと同じ
  605. 黒江: 浮かれる人を冷めた目で見ながら 本当は、うらやましがって 負け惜しみをしていたのかもしれない
  606. 黒江: …あのブドウが 本当に酸っぱければ どれほど救われたことだろう
  607. 黒江: 神浜市で起きたことを 思い出せば思い出すほど苦しくなる
  608. 黒江: 私は、なにひとつうまくやれない
  609. 黒江: みんなが優しくしてくれたことは 私にだって、わかっていた
  610. 黒江: 私が楽しい夏休みを見つけられるように いろんなことを提案してくれた
  611. 黒江: こんな私に気を遣って 優しくしてくれていた
  612. 黒江: 他の人のようにはしゃげないのならと 私に合いそうな違う道だって提案してくれてた
  613. 黒江: それなのに私は 何にも応えられないまま ただ内心でブドウの酸っぱさを願う卑しい人間…
  614. 黒江: みんなが親切にしてくれて 私には、何度もチャンスがあったはずだった
  615. 黒江: (差し出してくれたその手を 自分から掴んでいたら)
  616. 黒江: (何かが、変わっていたのかな)
  617. 黒江: (どこかで一歩 踏み出せていたのなら)
  618. 黒江: (私は、変われたのかな…)
  619. 黒江: …ううん、私には無理
  620. 黒江: だって、手の掴み方も 足の踏み出し方も
  621. 黒江: 私にはわからないから
  622. ピロン♪
  623. 黒江: …あ、海の家での 手伝いの話…
  624. 黒江: どうしよう…
  625. 黒江: なんとか断れたり …しないかな
  626.  
  627. FILENAME: text_311433-4.txt
  628. 黒江: …………
  629. 黒江: 結局、私は 海の家の手伝いをすることになっていた
  630. 黒江: 断ろうともしたけれど 代わりがいないと困るとかで 行かない方が面倒臭いことになりそうだったから
  631. あのー…海の家の店員さん?
  632. 黒江: あ…はい…
  633. SUPのボードって どこで借りられますか?
  634. 黒江: あ…このお店で… えと…
  635. お客さんですね こちらに案内します!
  636. ありがとうございまーす!
  637. 黒江ちゃん リラックスだよ
  638. 黒江: あ…はい…
  639. スマイルスマイル!
  640. 黒江: (スマイル…)
  641. 黒江: (みんな笑ってる…)
  642. 黒江: (それはそうだよね…)
  643. 黒江: (海にいる人なんてみんな)
  644. 黒江: (私と違って楽しい夏休みを 過ごしてるんだし…)
  645. 黒江: 楽しそうに笑う人たちを見て あのブドウはちゃんと甘かったのだと そう思い知らされた
  646. 黒江: 酸っぱいと決めつけて届かないブドウより 甘いことを知ってしまったブドウの方が 何倍も遠く、手が届かないように 感じてしまうのはなぜだろう
  647. 黒江: (…環さんならきっと)
  648. 黒江: (こんなことで 悩んだりしないんだろうな)
  649. 黒江: (でも、どうしてだろう…)
  650. 黒江: …………
  651. 黒江: (私は、環さんじゃないから よくわかんないや)
  652. 黒江: あのときの私は、どこかで願っていた
  653. 黒江: ぼんやりとしているうちに いつか白馬に乗った誰かが
  654. 黒江: 「友だちになりましょう」 「一緒に楽しい夏休みにしましょう」 なんて言って、来てくれたらいいのにって
  655. 黒江: 自分では足を踏み出せない 私の手を無理やり掴んで 引っ張り出してくれる人が…
  656. 黒江: そんな夢みたいな話を想像して 退屈な時間を過ごしていた私の前に
  657. 黒江: その人は現れた
  658. 黒江: …ふぅ 疲れたな…
  659. いろはの声: あれ? もしかして黒江さん!?
  660. 黒江: …………環さん?
  661. 黒江: 〇月×日 今日が夏休み最後の日。 思い返すと…私の夏休みが変わっていったのは あの出会いがきっかけだった。
  662. 黒江: そう、海の家を手伝いはじめてすぐの あのときの出会いから始まったんだ。
  663. 黒江: いいことばかりではなかったし、 すごく疲れたし、散々な目にも遭った。
  664. 黒江: それでも 思い返せば「楽しかった」って言えると思う。
  665. 黒江: 思いもよらないことや 自分ではやらないこと
  666. 黒江: それらを、私はどこかで怖がっていた。 だけどきっと、そこで失敗することを恐れず 勇気を出せば良かったんだと思う。
  667. 黒江: 私の夏休みが、みんなの言うような 楽しい夏休みだったかどうかはわからないけど、
  668. 黒江: きっと、一生忘れられない そんな夏休みだった。
  669. 黒江: …日記、こんな感じでいいかな
  670. 黒江: これだとやっぱり 回顧録になっちゃうかも…
  671. 黒江: もっと簡潔に 項目化した方がいいのかな?
  672. 黒江: …………
  673. 黒江: 夏休みに読もうと思ってた本 全然読めなかった…
  674. 黒江: …だけど
  675. 黒江: …私にとっては 楽しい夏休み…だったかも
  676. 黒江: 宝崎のことお願いした人に お礼言わなくちゃ…
  677. 黒江: 神浜の人たちにも 今度はちゃんと…
  678. 黒江: 伝えたいことが たくさんありすぎて
  679. 黒江: 気がついたらまた夏になってそう
  680. 黒江: …来年は どんな夏休みになるのかな
  681. 黒江: 冬の方が好きだけど、夏も、 海も、そこまで悪くないかも…
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