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- FILENAME: text_311431-1.txt
- <終業式>
- それでは、みなさん 楽しい夏休みにしてくださいね
- 黒江: (楽しい夏休み…)
- 黒江: (楽しい夏休みって いったいなんだろう…)
- 宿題の日記も忘れないように こつこつ書いてきてくださいね
- 黒江: 〇月×日 今日から夏休み。 宿題の一環で出たこの日記も 今日から始めることにする。
- 黒江: …………
- 黒江: (そう思っていたはずなのに)
- 黒江: (想像していたよりも忙しくて 気づけば夏休み最終日…)
- 黒江: (どう書いたらいいか悩むうちに こんなに時間が経っちゃった)
- 黒江: (こうなるくらいなら、最初から 勢いで書いてれば良かったかな)
- 黒江: …………
- 黒江: (日記、どうしよう…)
- 黒江: (思い出しながら 書くしかないよね…)
- 黒江: (日記のフリをした回顧録? …みたいになっちゃうけど)
- 黒江: …………日記だって 実況書記してる訳じゃないんだし
- 黒江: …別にいいか
- 黒江: これから振り返るのは 楽しい夏休みについて考えて私が過ごした 忘れたくない、夏の記憶
- 黒江: その、少しだけ前の話
- 黒江: (楽しい夏休み…)
- 黒江: (学校や宿題のことを気にせずに 涼しい部屋で本が読めたら)
- 黒江: (私は それで楽しいんだけど…)
- ぺらっ
- 黒江: (学校で配られたプリント…)
- 黒江: (挿絵の子たちは みんなで楽しそうに遊んでる…)
- 黒江: (先生に求められているのは そういう夏休みなんだろうな…)
- ピロン♪
- 黒江: …お兄ちゃんから?
- 黒江: …………えっ
- 黒江: 兄からのメッセージに記されていたのは 友人が営む海の家での ちょっとした手伝いを私にしてほしいということ
- 黒江: しかも、すたんどあっぷぱどるぼーど …SUP?というものの 教室も併設しているらしい
- 黒江: (SUPって、サーフィン みたいなやつだっけ…?)
- 黒江: (海とか、私には似合わないと 思うし…)
- 黒江: (お兄ちゃんの友だちじゃ 明るそうで、馴染めないかも)
- 黒江: (…でも私に連絡するってことは 多分…困ってるんだろうな)
- 黒江: (…どのくらい 困ってるんだろう?)
- 黒江: (魔女のことも、少しの間なら 誰かに相談できるかもしれない)
- 黒江: …けど、そもそも 水着なんて持ってないし
- 黒江: お兄ちゃんの友だちも 実はあんまり困ってないのかも
- かさっ
- 黒江: …ん? このチラシって…
- 黒江: …………
- 黒江: 水着調整キャンペーン…
- 黒江: 私は、あるチラシを見て 神浜市へと足を運ぶことにした
- 好きピとバーベキューとか 超アガるくない?
- 手当たり次第に焼きまくるわ!
- マジそれな~!
- 夏休み最強? サマー is 神 of アウトドア
- 今度のお祭りデートにね 新しい浴衣着てこうと思うんだぁ
- マジっすか! そんなん絶対可愛いじゃん…
- 黒江: (いつもよりみんな 浮かれてる気がする…)
- 黒江: (どうして、夏休みってだけで そんなに浮かれられるんだろう)
- みたま: いらっしゃ~い
- みたま: あら、黒江ちゃん久しぶりね 調整が必要かしら?
- 黒江: …えっと チラシを読んで…
- みたま: あぁ、水着調整キャンペーン?
- みたま: 元黒羽根さんたちに チラシを配っておいてよかったわ
- みたま: 可愛くしてあげるから任せて
- みたま: はいっ できたわよ~
- みたま: それで、海の家のお手伝いを するんだったかしら?
- 黒江: はい…でも 断ろうか、まだ悩んでいて…
- 黒江: 調整してもらっておいて …なんですけど
- みたま: あらぁ、どうして?
- 黒江: 私には、海なんて 似合わないし…
- 黒江: 行けば“楽しい夏休み”も わかるかもって思ったけど…
- みたま: 楽しい夏休み?
- 黒江: 先生が、楽しい夏休みに してくださいって…
- 黒江: でも、みんなの言う 楽しい夏休みっていうのが
- 黒江: 私には よくわからない気がして…
- みたま: そうなのねぇ
- みたま: でも、行かないのは もったいないわよぉ
- みたま: 海に行けば新しい出会いだって あるかもしれないし!
- 黒江: …そうですか?
- みたま: まだ知らない夏を過ごせるなんて とってもうらやましいことよ♪
- 黒江: …そうかな
- 黒江: (新しいことに出会うのは いいことだってみんな言うけど)
- 黒江: (…でもそれって)
- 黒江: (悪いこととの出会いも あるってことじゃないのかな)
- 黒江: (それはちょっと…怖い)
- 黒江: (それに、その新しいことが 私を求めてるかなんて…)
- ???の声: みたまっちょー いるー?
- みたま: あら、さっそく 新しい出会いかしら?
- FILENAME: text_311431-2.txt
- 木崎 衣美里: ちゃっす、みたまっちょ! って、あれ、知らない子だ?
- 綾野 梨花: おー、ニューフェイス登場? 最近引っ越してきた子とか?
- みたま: 黒江ちゃんは 宝崎市の魔法少女でね
- みたま: 楽しい夏休みっていうのを 知りたいらしいのよ~
- 木崎 衣美里: え、そんじゃ、あーしらと一緒に 楽しい夏休みしに行かね?
- みたま: あら、いいの?
- 木崎 衣美里: みんなもいいっしょ?
- 綾野 梨花: とーぜん! 友だち増えるの嬉しいし!
- 五十鈴 れん: …ぅん…いいよ…
- 黒江: えぇ…?
- 都 ひなの: おい、そんな急に誘って 相手も困るだろ…
- 黒江: そうして私は 今日初めて会った知らない人たちと一緒に フードコートで楽しい夏を探すことになった
- 木崎 衣美里: 夏はやっぱ涼しい店で ダベるに限るっしょ!
- 黒江: …そうなんだ
- 都 ひなの: 無理にこいつに 合わせなくてもいいぞ?
- 木崎 衣美里: 「んじゃ、聞いてみよー! みゃーこ先輩は夏って言ったらズバリ何?」
- 都 ひなの: 「アタシは、そうだな… 花火大会で並んで花火を見るとか 海でかけっこをしながらきゃっきゃするとか…」
- 綾野 梨花: 「みゃこ先輩のチョイス なんかデートっぽくない?」
- 都 ひなの: 「当然だろう? アタシはお前たちとはひと味違う 大人の夏というものを知ってるからな」
- 黒江: …そうなんだ
- 綾野 梨花: 「おぉー!? じゃあ、ナイトプールとかも行ってたり?」
- 都 ひなの: 「ふふ…も、もちろんだ うん、なんか…キラキラした感じのあれだな?」
- 綾野 梨花: 「そそ、あれ行ってみたいんだよね~! めっちゃ映えスポットって感じだし 夜だから日焼けもしないし 女子会専用ナイトとかあるんだよね?」
- 木崎 衣美里: 「あーしもあーしも! フラミンゴとかユニコーンの浮き輪とか あるらしいじゃん、やばくね?」
- 五十鈴 れん: 「…へぇ… 遊園地みたいで…面白そぅ…かも…」
- 綾野 梨花: 「だよね~! 真珠のフロートとか乗って みんなで写真撮りたい!」
- 都 ひなの: 「ふふ、今度アタシが連れて行ってやろう」
- 綾野 梨花: 「ほんと、やったー! みんなで女子会しよっ!」
- 木崎 衣美里: 「んんん??…大丈夫…かな…?」
- 綾野 梨花: 「えみりん、どしたの?」
- 木崎 衣美里: 「夜7時とかになったら、小さい子だけ 先に帰されたりしないかなって…」
- 綾野 梨花: 「あ…みゃこ先輩のこと?」
- 都 ひなの: 「アタシは!花も恥じらう!18歳だーっ!」
- 黒江: あ…そうなんだ
- 木崎 衣美里: あ、今くろぴちょっと 驚いたっしょ?
- 黒江: くろぴ…?
- 木崎 衣美里: くろぴのあだな! いい感じっしょ?
- 黒江: …そうなんだ
- 木崎 衣美里: そだ、聞いてなかった! れんぱすはどんな夏が好き?
- 五十鈴 れん: わ、私…ですか…? …ぇ…えっと…
- 黒江: (言葉がすごい勢いで 飛び交ってる…)
- 黒江: (こんなに話さなきゃ いけないんだったら)
- 黒江: (ダベル?っていうのも なんか大変なのかも…)
- 黒江: (…それに、あの人)
- 黒江: (いつもこの人たちと 一緒にいるみたいだけど)
- 黒江: (もしかして… 振り回されてる?)
- 黒江: (私なら、ずっと一緒なのは 疲れちゃうかも…)
- 五十鈴 れん: …ぁ…あの…
- 黒江: え…
- 五十鈴 れん: …黒江さん…は、えっと 大丈夫…ですか…?
- 黒江: なんのこと…?
- 五十鈴 れん: …ぅ…その、みんな…あんな感じ …だから…
- 五十鈴 れん: 疲れちゃってないかなって… 思って…はぃ…
- 黒江: (…あ、心配させちゃってる…)
- 黒江: …ありがとう 大丈夫
- 衣美里の声: えーっ! それマジ!?
- 木崎 衣美里: 今日、近所で夏祭り やってんだって!
- 木崎 衣美里: これは行くしかないっしょ! ね、くろぴ!
- 綾野 梨花: 楽しい夏休みの 王道だもんね!
- 黒江: …そうなんだ
- 木崎 衣美里: そうと決まったら 夏祭りへレッツゴー!
- FILENAME: text_311431-3.txt
- 黒江: 彼女たちに連れて行かれた夏祭りは 人混みが激しくて、いろんな声が交じり合って 私には合わないところかもって、すぐに思った
- 黒江: だけど、きっと私の楽しい夏休み探しのために してくれていることだから 少し、楽しんでみようと思った
- 黒江: …………
- 綾野 梨花: 「れんちゃん チョコバナナ1本あげる!」
- 五十鈴 れん: 「ぇ…いいの…?」
- 綾野 梨花: 「うん、じゃんけんで勝って 2本もらえたから、おすそわけ!」
- 五十鈴 れん: 「…ぁ、ありがとう…」
- 木崎 衣美里: 「みゃーこ先輩! あーし、ヨーヨー釣りやりたい!」
- 都 ひなの: 「ちょ、オイ待て、衣美里! ひとりで走ったら迷子になるぞ!」
- 木崎 衣美里: 「わかってるってー!」
- 木崎 衣美里: ねぇ、くろぴも 一緒にやろうよ!
- 黒江: あ…うん
- 木崎 衣美里: 「じゃーん!!! ヨーヨー両手持ち!これヤバくね?」
- 都 ひなの: 「わかったわかった 危ないから目の前で振り回すな」
- 木崎 衣美里: 「あ、そうだ!次は射的行こ!! マジ、バンバン当てまくるから」
- 都 ひなの: 「…小遣いはちゃんと考えろよ?」
- 黒江: (あ、たこ焼き屋さんだ…)
- 黒江: …………
- くるっ
- じゅわぁ~…
- 黒江: (たこ焼きが焼かれるのって なんか、ずっと見てられる…)
- 嬢ちゃん、たこ焼き 買ってくかい?
- 黒江: へ…?
- ずっと見てたろ?
- 黒江: (あ…どうしよう)
- 綾野 梨花: おじさーん、たこ焼き ひとつくださいっ
- お、友だちかい? 毎度あり!
- 黒江: あ…
- 黒江: あの…ごめんなさい お金、払うから
- 綾野 梨花: 別に、あたしとれんちゃんが 食べたかったんだし
- 綾野 梨花: 全然気にしなくていーよ
- 五十鈴 れん: …ぁ…黒江さんも たこ焼き…良ければ…はぃ
- 黒江: …気にしないで
- 綾野 梨花: …あのさ、黒江ちゃん
- 衣美里の声: おーい! りかっぺ~!!
- 木崎 衣美里: あ、くろぴもここだったんだ!
- 木崎 衣美里: 気づいたらいなかったから 探しちゃったよ
- 黒江: あ…ごめん…
- 木崎 衣美里: くろぴ、楽しい夏休み 見つけられそ?
- 黒江: ちょっと、まだわかんない…かも
- 木崎 衣美里: そかそかー
- 木崎 衣美里: あ、じゃあさじゃあさ!
- 木崎 衣美里: あーしと輪投げで ガチンコ勝負やんね!?
- 黒江: …わかった
- 木崎 衣美里: よっしゃ、行こ行こーっ!
- 黒江: うん…
- 黒江: (気を遣わせてるのかな… なんか気まずい…)
- 黒江: (優しくしてくれてるけど ここに私の居場所はないし)
- 黒江: (私がいることで きっと困らせてる…)
- 黒江: (こんなことなら、家で じっとしていれば良かったかな)
- FILENAME: text_311431-4.txt
- 都 ひなの: そろそろ遅いし もうお開きにするか
- 綾野 梨花: まぁ、そうだねー
- 木崎 衣美里: え~、まだ遊びたかった~
- 五十鈴 れん: …ぁ、また…来ましょう…はぃ…
- 木崎 衣美里: たしかに! 夏祭りは他にもあるしね!
- 木崎 衣美里: 次は、浴衣とかもありじゃね?
- 綾野 梨花: うん、ありあり!
- 木崎 衣美里: くろぴも、また一緒に 夏祭り来ようよ!
- 木崎 衣美里: あーし、今日くろぴと遊べて めちゃ楽しかったし!!!
- 黒江: え…あ…
- 黒江: 私、神浜市って そんなに来ないし…
- 木崎 衣美里: あ…
- 木崎 衣美里: そ、そっかーそっかー そうだよねー!
- 木崎 衣美里: そういえば、くろぴ 宝崎市の子だったもんね!
- 都 ひなの: それなら 仕方ないかもしれないな
- 綾野 梨花: …………
- 綾野 梨花: んー、あのさ黒江ちゃん
- 綾野 梨花: 黒江ちゃんって、こういう 賑やかなとこ苦手だった?
- 黒江: あ…えっと…
- 綾野 梨花: もし楽しめてなかったなら 無理に誘っちゃってごめんね?
- 木崎 衣美里: えっえっ、マジ?
- 木崎 衣美里: そうだったんなら あーしも迷惑だったよね!?
- 黒江: その、こういうところは …得意じゃない…けど
- 黒江: 別に、迷惑…とかじゃ
- 五十鈴 れん: ………… …ぇっ…と…
- 黒江: …………
- 黒江: (…私のせいで、気まずい空気に させちゃったかも…)
- 黒江: (もう、ここにいない方が きっといいよね…)
- 黒江: えっと… それじゃ、私…そろそろ…
- 都 ひなの: …なぁ
- 都 ひなの: もしかして共通の趣味がある 友だち相手の方が
- 都 ひなの: 話がしやすいってタイプか?
- 黒江: え…あ… そうかな…そうかも…
- 黒江: 趣味も…ないわけじゃないし…
- 都 ひなの: それなら、これに 行ってみるといいかもしれないぞ
- 黒江: イベントの…チラシ?
- 黒江: (メイドカフェに、映画カフェ それからボードゲームカフェ…)
- 都 ひなの: いろいろなカフェの 合同イベントってところだな
- 黒江: (童話カフェっていうのも あるんだ…ちょっと面白そう)
- 都 ひなの: これなら同じ魔法少女も 何人か参加しているらしいし
- 都 ひなの: いろんな趣味のやつが 来るらしいから
- 都 ひなの: 黒江と話の合うやつも いるんじゃないか?
- 都 ひなの: 後輩が行くって言ってたから よかったら案内させるぞ?
- 黒江: えっと… ありがとうございます
- 黒江: (また、気を遣わせちゃった)
- 黒江: (本当は、もう外に 出たくないけど…)
- 黒江: (なんか、断っちゃったら 良く思われない…よね)
- 黒江: (それに、このイベントなら)
- 黒江: (少しは 馴染めるかもしれないし…)
- 黒江: 夏ってだけで、そんなに はしゃいだりできるのかな?
- FILENAME: text_311432-1.txt
- 黒江: 〇月×日 神浜市で出会った人たちに フードコートや夏祭りへと 連れて行ってもらった。
- 黒江: だけど、それでも私には 楽しい夏休みがよくわからなかったし なんだか馴染めない気がした。
- 黒江: あの人たちが悪いわけじゃないけど 私がいてもきっと迷惑だし、 楽しくないだろうなって…。
- 黒江: そんな私に渡されたチラシには あるイベントの詳細が書いてあった。
- 黒江: メイドカフェに映画カフェ ボードゲームカフェに童話カフェなど いろいろなカフェが合同でプールで開催している 夏のイベントということらしい。
- 黒江: 都さんの後輩がいるから、と 待ち合わせ場所に指定された場所は なぜかメイドカフェの近くで
- 黒江: その場所は、私にとっては なんだか不思議な空間だったし どう考えても場違いだった
- 黒江: …………
- 「オムライスに魔法をかけちゃいまぁす! それじゃあ、一緒に~ おいしくな~れ!おいしくな~れ!」
- 「うっ…尊い…語彙が、語彙が終わった… チェキ…チェキいいっすか…自分…」
- 「ねっ、さっき なぎたんのファンサもらったでしょ!?」
- 「あわ、あぁ…マジでキュン死した… 超好き過ぎる…ビッグラブ…フォーエバー…」
- 黒江: (なんか…すごいな…)
- 黒江: (だけど、誰かをあんなに 好きになれるのって)
- 黒江: (ちょっとだけ… うらやましい…な…)
- ざわざわざわ…
- 黒江: (でも、私にはこの雰囲気 さすがに合わないかも…)
- 黒江: (せっかく紹介してもらった イベントだけど…)
- 黒江: (童話カフェだけ 少し覗いてから帰ろう…)
- 黒江: (いや…雰囲気で疲れたし それも行かなくていいかな)
- ドンッ
- 黒江: あ…すみませ…
- 観鳥 令: あぁ、こっちこそごめんね
- 観鳥 令: …って、もしかしてキミ ひなのさんが言ってた…?
- 黒江: え?
- 観鳥 令: 宝崎市から来た魔法少女の 黒江さんって子が
- 観鳥 令: イベントに顔を出すかもだから 会ったら案内してやれ、って
- 観鳥 令: ひなのさんに頼まれてたんだ
- 観鳥 令: …それに
- 観鳥 令: ひょっとするとキミ 元黒羽根だったりしない?
- 黒江: あ…はい…
- 観鳥 令: あぁ、やっぱり
- 観鳥 令: 観鳥さんも羽根のひとりでさ 声に聞き覚えがあったんだ
- 黒江: (あの人が言ってた魔法少女 って…この人のことだったんだ)
- 観鳥 令: たしか、楽しい夏休みってのを 探してるんだよね?
- 黒江: あ…はい…
- 観鳥 令: それじゃ、ちょっと ついてきてもらえる?
- 観鳥 令: 紹介したい人がいるし… 多分、楽しい人たちだと思うから
- 牧野 郁美: あ、令ちゃん おかえり~っ!
- 観鳥 令: あれ、牧野チャン休憩?
- 牧野 郁美: うんっ♪ …って、あれ?
- 牧野 郁美: もしかして、その子 ひなのさんが言ってた…?
- 観鳥 令: うん、黒江さん 元黒羽根なんだって
- 牧野 郁美: えー、そうなの!? くみもだよぉ!
- 牧野 郁美: あ、私はみんなのアイドル いくみんこと、牧野郁美だよ!
- 牧野 郁美: ご主人様、よろしくね♪
- 黒江: …あ…黒江です よろしくお願いします
- 観鳥 令: そういえば桜子さんは? 手伝いに来てたよね
- 万年桜のウワサ: |ここにいるよ|
- 観鳥 令: あぁ、気づかなかったよ
- 万年桜のウワサ: |…驚かせたかったのに 令、全然びっくりしない|
- 万年桜のウワサ: |…それより、この人は?|
- 観鳥 令: あぁ、それがね…
- 万年桜のウワサ: |楽しい夏休み…|
- 万年桜のウワサ: |それならまた私の力で アクアリウムを…|
- 観鳥 令: それは当分禁止って ことになったよね
- 黒江: (不思議な人… この人も魔法少女…なのかな)
- ???の声: あー! いくみんここにいたのー!
- FILENAME: text_311432-2.txt
- ???の声: あー! いくみんここにいたのー!
- 牧野 郁美: ん?
- 牧野 郁美: 「かりんちゃんと十七夜ちゃん… あっ、そっちのお店も休憩っ?」
- 十七夜: 「いや、画伯が牧野君の店にも 行ってみたいと言うのでな… ならば自分も挨拶にと」
- 十七夜: 「それでは、自分はまた店に戻る 申し訳ないが画伯のことは 牧野君に任せていいだろうか」
- 黒江: (この人も、メイドなんだ…)
- 牧野 郁美: 「もちろん!くみにお任せだよっ!」
- 御園 かりん: 「なんだかわたしを 保育園に預けるみたいな言い方なの…」
- 十七夜: 「失礼した、そんなつもりはないのだが それでは画伯、またあとで」
- 御園 かりん: 「うん、待ってるの! なぎたん、お仕事頑張るの!」
- 牧野 郁美: 「じゃあ、かりんちゃん 十七夜ちゃんが帰ってくるまで くみたちとお話しよっ」
- 御園 かりん: 「わかったの!」
- 御園 かりん: …あ、そっちの人は?
- 黒江: あ…私、黒江…
- 御園 かりん: わたしは御園かりん! よろしくなの!
- 万年桜のウワサ: |黒江は宝崎市の魔法少女で|
- 万年桜のウワサ: |楽しい夏休みを 探してるんだって|
- 御園 かりん: 他の市の魔法少女って あんまり会わないから新鮮なの!
- 黒江: あなたも魔法少女…?
- 御園 かりん: そうっ、ハロウィンが生んだ 魔法少女なの!
- 黒江: …そうなんだ?
- 御園 かりん: 黒江先輩は 楽しい夏休みを探してるの?
- 黒江: うん
- 御園 かりん: それなら、わたしが いいことを教えてあげるの!
- 黒江: …?
- 御園 かりん: そう、それは 「怪盗少女マジカルきりん」の
- 御園 かりん: 夏の特別号に掲載された お話なの!
- 御園 かりん: あ、「怪盗少女マジカルきりん」 っていうのは
- 御園 かりん: 昔から、わたしが 大好きな少女漫画で…!
- 御園 かりん: っていうことだから 黒江先輩もマジきりを読んだら
- 御園 かりん: きっと夏の楽しみ方が わかると思うの!
- 黒江: そうなんだ
- 観鳥 令: 熱の入った紹介だったけど
- 観鳥 令: 結局、楽しい夏の答えを知るには 全巻読まないとダメそうだね
- 牧野 郁美: それだと漫画を読むだけで 夏休みが終わっちゃうかもぉ?
- 御園 かりん: それは、良くないの…
- 万年桜のウワサ: |私は、ねむが電子書籍で 持ってたから何巻か読んだけど|
- 万年桜のウワサ: |そんなに時間かかるもの?|
- 観鳥 令: 桜子さんと他の人とじゃ ちょっと違うからねぇ…
- 御園 かりん: そうなの… マジきりは結構長いの
- 御園 かりん: でも、それがいいところなの
- 御園 かりん: あと電子書籍も便利だし いいと思うんだけど…
- 御園 かりん: わたしとしては紙で ぺらぺら読んでほしいの…
- 黒江: (…少し、わかるかも)
- 御園 かりん: マジきりはわたしの 心のバイブルなの!
- 御園 かりん: 今日も、読み切りのを 持ってきてるから
- 御園 かりん: みんなで見るの!
- 黒江: (こんなに何かを好きに なれるってすごいな…)
- 黒江: (マジきり…これだけ語られると 少し興味が湧いてきたかも)
- 御園 かりん: あ、特にこのシーンとか 夏を感じられると思うの!
- 御園 かりん: この雲は紙の色合いを活かしてて すごい迫力があるの!
- 観鳥 令: お、入道雲の描写だね
- 観鳥 令: たしかに、この構図は 写真にも取り入れられそうだ
- 牧野 郁美: くみは、こんな雲をバックに 写真を撮ってもらいたいなっ
- 牧野 郁美: そしたら、きゅるんきゅるんな 写真になりそうじゃない?
- 観鳥 令: 今度やってみようか
- 牧野 郁美: やったぁ!
- 観鳥 令: 黒江さんは…うーん 線香花火とかが似合いそうかな
- 牧野 郁美: あ、わかる! 綺麗で儚い雰囲気みたいな?
- 御園 かりん: あとから仲間になる ブラックっていうイメージなの
- 御園 かりん: クールで大人っぽくて かっこいい感じなの!
- 牧野 郁美: うんうんっ!
- 黒江: …そうなんだ 何か、恥ずかしいな…
- 御園 かりん: 夏の構図と言ったら このコマもいいと思うの!
- 観鳥 令: ん~、どれどれ…?
- 黒江: (この人は写真が趣味 …なのかな)
- 黒江: (夏を通じて、みんな違う趣味 なのにひとつのことを話してる)
- 黒江: (なんだか不思議な感じだけど 少し楽しい…かも)
- FILENAME: text_311432-3.txt
- 牧野 郁美: ねぇねぇ、黒江ちゃんって 何か趣味とかあるの~?
- 黒江: 私…?
- 御園 かりん: たしかに、わたしも聞きたいの!
- 御園 かりん: また、わたしの話ばっかり しちゃってごめんなの!
- 黒江: ううん 聞いてるの楽しかったし…
- 黒江: …………
- 黒江: …私、読書が好きなんだ
- 万年桜のウワサ: |ねむと一緒|
- 牧野 郁美: そうだねっ
- 御園 かりん: 漫画が好きなわたしとも ちょっとだけ似てるの!
- 黒江: うん…そうかも
- 観鳥 令: 黒江さんは どんな本を読むの?
- 黒江: いろいろ読むけど
- 黒江: …うーん、たとえば 宮沢賢治、とか
- 御園 かりん: 名前は知ってるけど、あんまり 読んだことがない気がするの…
- 黒江: 『注文の多い料理店』とかは 読みやすいと思う…
- 御園 かりん: それなら知ってるの! こわーいやつなの!
- 黒江: うん…そう
- 御園 かりん: 本好きなら他にも いっぱいいるの!
- 御園 かりん: 入名先輩も宮沢賢治が 好きって言ってたの
- 牧野 郁美: クシュちゃんはそうだよね 児童書と童話が大好きみたい
- 御園 かりん: あとは夏目書房ってとこにも! 本好きの魔法少女がいるの!
- 御園 かりん: 今度みんなで会うの!
- 黒江: …いいね
- 牧野 郁美: そのときは、くみの働いてる メイドカフェに集まるのはどお?
- 観鳥 令: それもいいかもしれないけど
- 観鳥 令: 本を読むならメイドカフェより 保澄ちゃんちの喫茶店かな
- 牧野 郁美: それはそうかも…!
- 牧野 郁美: 雫ちゃんちの喫茶店って 静かで本も読みやすそうだもんね
- 観鳥 令: あとはブレンドが絶品だよ
- 観鳥 令: まぁ観鳥さんはお小遣い的に それしか飲めないんだけどね
- 黒江: ブレンド…
- 観鳥 令: あとで場所を教えるよ
- 黒江: …ありがとう
- 御園 かりん: そしたら、魔法少女 本好き倶楽部ができるの!
- 牧野 郁美: 確かに雫ちゃんも含めて みんな魔法少女だもんね
- 黒江: …そうなんだ
- 黒江: (そっか…この人たちも みんな魔法少女…)
- 黒江: (マギウスの翼にいたふたりは 特に気が合うのかも…)
- 黒江: (御園さんだって、私と同じで あんまり強くなさそうだし…)
- 黒江: (それに、魔法少女同士なら 同じ境遇を分かち合える)
- 黒江: (遊んでいる途中で魔女が 現れても対処できる…)
- 黒江: …………
- 黒江: (こういう人たちとなら もしかしたら…)
- 黒江: (仲良くなって一緒に 楽しい夏休みを)
- 黒江: (過ごしたりできるのかな)
- FILENAME: text_311432-4.txt
- 牧野 郁美: 結局、楽しい夏休みが 何かは見つけられてないね
- 黒江: うん…
- 御園 かりん: あっ…ごめんなさいなの 忘れちゃってたの…
- 万年桜のウワサ: |私は、ねむたちといたら それで十分楽しい|
- 観鳥 令: 観鳥さんは夏も冬も 炎上案件を探してるから
- 観鳥 令: 季節はあまり関係ないかもね
- 牧野 郁美: くみはぁ、夏も冬も くみのきゅんきゅんな笑顔で
- 牧野 郁美: みーんなを笑顔にすることが 一番の幸せだよっ♪
- 御園 かりん: あんまり参考にならないの…
- 御園 かりん: こうなったら黒江先輩が 絶対に楽しめる夏休みを
- 御園 かりん: わたしたちで考えてみるの!
- 牧野 郁美: うーん、なんだろうねぇ
- 御園 かりん: あっ! わたし、思いついたの!
- 黒江: …?
- 御園 かりん: 黒江先輩は本が好きだから 本にまつわるものがいいと思うの
- 御園 かりん: でも、ひとりで読むのは 夏休みっぽくないの…
- 御園 かりん: だから、みんなで好きな 作品をおすすめし合うの!
- 御園 かりん: 好きなものを教え合えば きっと世界が広がるし
- 御園 かりん: 仲良くもなれると思うの
- 御園 かりん: そしてそれは、楽しい夏休み って言える気がするの!
- 黒江: そうなんだ
- 御園 かりん: やったことはないから どうなるかわからないけど…
- 御園 かりん: 手始めにマジきりの 読み切りのやつを貸すの!
- 御園 かりん: 絶対に黒江先輩も 好きになると思うの!
- 黒江: 絶対…
- 黒江: (私、この人みたいに 好きになれるのかな…)
- 黒江: (あの人たちみたいに…)
- 「オムライスに魔法をかけちゃいまぁす! それじゃあ、一緒に~ おいしくな~れ!おいしくな~れ!」
- 「うっ…尊い…語彙が、語彙が終わった… チェキ…チェキいいっすか…自分…」
- 「ねっ、さっき なぎたんのファンサもらったでしょ!?」
- 「あわ、あぁ…マジでキュン死した… 超好き過ぎる…ビッグラブ…フォーエバー…」
- 御園 かりん: あ、「怪盗少女マジカルきりん」 っていうのは
- 御園 かりん: 昔から、わたしが 大好きな少女漫画で…!
- 黒江: (何かをあんなに好きに…)
- 黒江: その時の私には、自信がなかった
- 黒江: 彼女があんなに良いと勧めるものを 私も、同じような熱量で 好きになれるかわからない
- 黒江: もし、好きになれなかったら… そのとき私は、どう思われるんだろう 自分の好きなものを好きになれないなんて 嫌なやつだって思われるかもしれない
- 黒江: 相手の好きなものを好きにならないと 仲良くなれないのなら 誰かと仲良くなるのは面倒だと思ってしまった
- 黒江: …………
- 御園 かりん: 「黒江先輩? ぼーっとしてるの?」
- 黒江: あ…えっと…
- 黒江: いまは本持ってないし それはまた…いつか…
- 黒江: 私、そろそろ帰らないとだから もう、帰るね
- 黒江: 私は、御園さんからの誘いを有耶無耶にして 逃げるようにその場を去った
- 黒江: 私のために考えてくれたその案を 面倒臭いと思って逃げた自分の気持ちが どうかあの人たちに バレていませんようになんて思いながら…
- 黒江: いい人たちだと思った きっと優しいし、同じような境遇にいて 弱さだって共有できたはずだった
- 黒江: それに、御園さんと仲良くしていたら 本が好きな他の知り合いもできたかもしれない
- 黒江: それでも私は 御園さんたちの連絡先も聞かずに別れた
- 黒江: どこにも馴染めない 馴染もうとしない私は きっとこのまま、ひとりでいい
- 黒江: あれ?私、なんで こんなことになってるんだっけ?
- FILENAME: text_311433-1.txt
- 黒江: 〇月×日 みんなが想像する楽しい夏休みは、 思っていたよりずっときらきらしていて 誰もが誰かと一緒に過ごしていた。
- 黒江: そこは、なんだか程遠い世界に感じられて 私には到底、馴染めない場所だと思った。 だから、あれからしばらくは、 本を読んで過ごしていた。
- 黒江: それから、何冊かの物語を終えた今日。
- 黒江: 前から気になっていた本を探しに 神浜市の図書館へと足を運んだ私は 帰りに、以前おすすめされた喫茶店へ立ち寄り
- 黒江: そこで、ある人と出会った。
- 観鳥 令: 本を読むならメイドカフェより 保澄ちゃんちの喫茶店かな
- 牧野 郁美: それはそうかも…!
- 牧野 郁美: 雫ちゃんちの喫茶店って 静かで本も読みやすそうだもんね
- 観鳥 令: あとはブレンドが絶品だよ
- 観鳥 令: まぁ観鳥さんはお小遣い的に それしか飲めないんだけどね
- 黒江: (たしかにあの人たちの言う通り 静かな純喫茶のイメージ)
- 黒江: (今はお客さんも あまりいないみたいだし)
- 黒江: (こういうところ 私は結構好きかも…)
- 黒江: (本は家で読むのが 一番落ち着くと思ってたけど)
- 黒江: (たまには こういうのもいいな…)
- 保澄 雫: お待たせしました ブレンドコーヒーです
- 黒江: …ありがとうございます
- 黒江: (わ…いい香り…)
- こくっ
- 黒江: 美味しい…
- 保澄 雫: ありがとう、初めてのお客さんに そう言ってもらえると嬉しいな
- 黒江: あ…すみません 声に…
- 保澄 雫: …ふふ
- 保澄 雫: …あ、その本
- 黒江: …読んだことある?
- 保澄 雫: まだ最初の数ページしか 読めてないんだけど…
- 保澄 雫: 主人公の実家が喫茶店だから なんか親近感があって
- 黒江: そうなんだ 本はよく読むの…?
- 保澄 雫: どうだろう… 読書家ってほどじゃないけど
- 保澄 雫: 旅行記とかは好きかも
- 黒江: そうなんだ…えっと… ここのお店の…人だよね?
- 保澄 雫: あ、ここはお父さんのお店なの 私は、雫…保澄雫
- 黒江: …あ…私、黒江
- 保澄 雫: 黒江さん…って見ない制服だけど ここら辺の人じゃない?
- 黒江: うん…宝崎市
- 黒江: このお店も神浜市の人に 教えてもらって…
- 黒江: ブレンドしか 飲んでない人…なんだけど
- 保澄 雫: あっ、もしかして 令さんのことかな?
- 黒江: …そう、かも
- 保澄 雫: なんだ、そうだったんだ…
- 保澄 雫: …ということは元羽根の?
- 黒江: …どうしてわかったの?
- 保澄 雫: 令さんがね 黒江さんのこと、話してたの
- 保澄 雫: 肝心の名前を言ってなかったから 全然気づかなかった
- 黒江: …あの人たちと仲いいんだね
- 保澄 雫: 仲がいいっていうか…
- 保澄 雫: 令さんと郁美さんには …昔、助けられたから
- 黒江: そうなんだ…
- カランカラン
- 保澄 雫: あ、ごめん お客さん来たから、また
- 黒江: …うん
- 黒江: (あの人たちに助けられた って言ってたし)
- 黒江: (私のことも元羽根って 呼び方をするってことは)
- 黒江: (保澄さんもマギウスの翼に いたことがあるのかな…)
- 黒江: …………
- 黒江: (最近あった人の中で 一番、話しやすかったな…)
- FILENAME: text_311433-2.txt
- 保澄 雫: はい、ご注文おうかがいします
- 黒江: (保澄さんって どんな人なんだろう…)
- 黒江: (マギウスの翼にいた頃が あるんだとしたら)
- 黒江: (気が合うところも あるかもしれないし…)
- 黒江: (もう少し話してみたいけど 忙しそうだな…)
- 黒江: (それに、保澄さんもきっと 私と同じように)
- 黒江: (ひとりでいることが 多そうな感じだし…)
- 黒江: (ゆっくりでも…いっか)
- 黒江: そのときの私は 保澄さんのことを“同類”だと思っていた
- 黒江: マギウスの翼に入るような弱い魔法少女で 誰かに救われるのを待っている私のような
- 黒江: どこにも馴染まない、馴染もうとしない そんな私と同じだと思った
- 黒江: だけど、それが大きな誤りだと気づくのは 案外すぐのことだった
- 黒江: …ふぅ
- 黒江: (そろそろ帰ろうかな)
- 黒江: (ここのお店には…また そのうち来よう…)
- カランカラン
- ???の声: しーずくちゃんっ! あーそびーましょー!
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (なに、あの人…?)
- 黒江: (迷惑客…? でも、今…雫ちゃんって…)
- 黒江: (保澄さんの知り合い…?)
- 黒江: 私は、その時 保澄さんがさぞ迷惑そうな顔をしているだろうと そう思って彼女の方を見た
- 保澄 雫: ちょっとあやか… 声が大きいよ
- 毬子 あやか: あ、ごめんね!
- 毬子 あやか: それより雫ちゃん! 遊びに行こうよ!
- 毬子 あやか: 今日ね、ライブがあるんだよ!
- 保澄 雫: え、またお笑いの?
- 毬子 あやか: でも夏の特別なやつだよ! ね、行こうよ!いいでしょ?
- 保澄 雫: 私、まだ お店の手伝いがあるんだけど?
- 雫の父: あとはいいから 行っておいで
- 保澄 雫: え、ほんとに…?
- 雫の父: 心配しなくていいよ
- 保澄 雫: …わかった
- 毬子 あやか: やったー!
- 保澄 雫: もう…お店の中なんだから 静かに…
- 毬子 あやか: あわわ! ごめんね!
- 保澄 雫: …ほら、行くなら早く行くよ
- 毬子 あやか: うん! 先に外で待ってるね!
- 黒江: (…笑ってる)
- 黒江: (…なんだ)
- 黒江: (保澄さんは私と違って)
- 黒江: (一緒に楽しい夏休みを 過ごせる相手がいるんだ)
- 黒江: …………
- 黒江: (あれ、私…今 がっかりした…?)
- 黒江: (私、保澄さんが自分と 同じくらい)
- 黒江: (周りと馴染めないような子で あればいいって…)
- 黒江: (そう思って…?)
- 黒江: 保澄さんが迷惑そうな顔をしながらも その子に手を引かれて、少し微笑んだのを見て 私は、がっかりしてしまった
- 黒江: 誰とも馴染めないばかりか 自分と同じようにみんなも不幸であればいいと そう思ってしまった自分自身に 心底嫌気がさした
- 黒江: 手を引かれて 連れ出してもらえる彼女が 私は、うらやましかった
- FILENAME: text_311433-3.txt
- 黒江: 家までの帰り道 夏休みにはしゃぐ周りの人の声や音が ひどく遠く、煩わしく感じて 自分ひとりだけが違うところにいるように感じた
- 黒江: そう思うのが嫌で 私は、持っていたイヤホンをつけて 大きな音で音楽を流したけれど
- 黒江: シャッフル再生で流れたのは、爽やかな夏の歌で なんだか、全部が嫌になってしまいそうだった
- 黒江: …………
- 黒江: (みんな楽しそうに話してる)
- 黒江: (いつ、喋ることを 考えているんだろう…)
- 黒江: (私はのろまだから…)
- 黒江: (考えてるうちに 話が終わっちゃう…)
- 黒江: 私は、夏休みに浮かれる人たちを遠巻きに見て どうしてあんなにはしゃげるんだろうなんて 冷めたふりをしながら
- 黒江: 本当は、心のどこかで あんな風に楽しめる人たちが うらやましかったのかもしれない
- 黒江: …たしか、こんな寓話があった 狙っていたブドウに手が届かなかったキツネが あのブドウは酸っぱいに違いないと決めつけて 負け惜しみをする…そんなお話
- 黒江: 私はきっと、あのキツネと同じ
- 黒江: 浮かれる人を冷めた目で見ながら 本当は、うらやましがって 負け惜しみをしていたのかもしれない
- 黒江: …あのブドウが 本当に酸っぱければ どれほど救われたことだろう
- 黒江: 神浜市で起きたことを 思い出せば思い出すほど苦しくなる
- 黒江: 私は、なにひとつうまくやれない
- 黒江: みんなが優しくしてくれたことは 私にだって、わかっていた
- 黒江: 私が楽しい夏休みを見つけられるように いろんなことを提案してくれた
- 黒江: こんな私に気を遣って 優しくしてくれていた
- 黒江: 他の人のようにはしゃげないのならと 私に合いそうな違う道だって提案してくれてた
- 黒江: それなのに私は 何にも応えられないまま ただ内心でブドウの酸っぱさを願う卑しい人間…
- 黒江: みんなが親切にしてくれて 私には、何度もチャンスがあったはずだった
- 黒江: (差し出してくれたその手を 自分から掴んでいたら)
- 黒江: (何かが、変わっていたのかな)
- 黒江: (どこかで一歩 踏み出せていたのなら)
- 黒江: (私は、変われたのかな…)
- 黒江: …ううん、私には無理
- 黒江: だって、手の掴み方も 足の踏み出し方も
- 黒江: 私にはわからないから
- ピロン♪
- 黒江: …あ、海の家での 手伝いの話…
- 黒江: どうしよう…
- 黒江: なんとか断れたり …しないかな
- FILENAME: text_311433-4.txt
- 黒江: …………
- 黒江: 結局、私は 海の家の手伝いをすることになっていた
- 黒江: 断ろうともしたけれど 代わりがいないと困るとかで 行かない方が面倒臭いことになりそうだったから
- あのー…海の家の店員さん?
- 黒江: あ…はい…
- SUPのボードって どこで借りられますか?
- 黒江: あ…このお店で… えと…
- お客さんですね こちらに案内します!
- ありがとうございまーす!
- 黒江ちゃん リラックスだよ
- 黒江: あ…はい…
- スマイルスマイル!
- 黒江: (スマイル…)
- 黒江: (みんな笑ってる…)
- 黒江: (それはそうだよね…)
- 黒江: (海にいる人なんてみんな)
- 黒江: (私と違って楽しい夏休みを 過ごしてるんだし…)
- 黒江: 楽しそうに笑う人たちを見て あのブドウはちゃんと甘かったのだと そう思い知らされた
- 黒江: 酸っぱいと決めつけて届かないブドウより 甘いことを知ってしまったブドウの方が 何倍も遠く、手が届かないように 感じてしまうのはなぜだろう
- 黒江: (…環さんならきっと)
- 黒江: (こんなことで 悩んだりしないんだろうな)
- 黒江: (でも、どうしてだろう…)
- 黒江: …………
- 黒江: (私は、環さんじゃないから よくわかんないや)
- 黒江: あのときの私は、どこかで願っていた
- 黒江: ぼんやりとしているうちに いつか白馬に乗った誰かが
- 黒江: 「友だちになりましょう」 「一緒に楽しい夏休みにしましょう」 なんて言って、来てくれたらいいのにって
- 黒江: 自分では足を踏み出せない 私の手を無理やり掴んで 引っ張り出してくれる人が…
- 黒江: そんな夢みたいな話を想像して 退屈な時間を過ごしていた私の前に
- 黒江: その人は現れた
- 黒江: …ふぅ 疲れたな…
- いろはの声: あれ? もしかして黒江さん!?
- 黒江: …………環さん?
- 黒江: 〇月×日 今日が夏休み最後の日。 思い返すと…私の夏休みが変わっていったのは あの出会いがきっかけだった。
- 黒江: そう、海の家を手伝いはじめてすぐの あのときの出会いから始まったんだ。
- 黒江: いいことばかりではなかったし、 すごく疲れたし、散々な目にも遭った。
- 黒江: それでも 思い返せば「楽しかった」って言えると思う。
- 黒江: 思いもよらないことや 自分ではやらないこと
- 黒江: それらを、私はどこかで怖がっていた。 だけどきっと、そこで失敗することを恐れず 勇気を出せば良かったんだと思う。
- 黒江: 私の夏休みが、みんなの言うような 楽しい夏休みだったかどうかはわからないけど、
- 黒江: きっと、一生忘れられない そんな夏休みだった。
- 黒江: …日記、こんな感じでいいかな
- 黒江: これだとやっぱり 回顧録になっちゃうかも…
- 黒江: もっと簡潔に 項目化した方がいいのかな?
- 黒江: …………
- 黒江: 夏休みに読もうと思ってた本 全然読めなかった…
- 黒江: …だけど
- 黒江: …私にとっては 楽しい夏休み…だったかも
- 黒江: 宝崎のことお願いした人に お礼言わなくちゃ…
- 黒江: 神浜の人たちにも 今度はちゃんと…
- 黒江: 伝えたいことが たくさんありすぎて
- 黒江: 気がついたらまた夏になってそう
- 黒江: …来年は どんな夏休みになるのかな
- 黒江: 冬の方が好きだけど、夏も、 海も、そこまで悪くないかも…
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