Advertisement
Not a member of Pastebin yet?
Sign Up,
it unlocks many cool features!
- 00000001 この日記は、後に帝国当局により発禁処分を受けることになるが、この日はまた宇宙暦が廃され、帝国暦一年とされた日でもあった。
- 00000002 「長征一万光年」の終結は帝国暦二一八年のことであったが、専制政治の軛を脱した人々は、帝国暦を廃して宇宙暦を復活させることを決定した。
- 00000003 その「何とかなってほしいが何となりようもない」状況が一変するのはヴァルハラ系第三惑星オーディン――古代ゲルマン神話の主神の名を持つルドルフが遷都した銀河帝国の首都星に、ひとりの若者が出現してからである。
- 00000004 同盟軍は四万隻の艦隊を組織して、それを迎撃することになった。
- 00000005 「それがわが軍を三方から包囲しようとしております」
- 00000006 それを意に介せず、ラインハルトは答えた。
- 00000007 「わかっているのなら実行しろ。この会戦が終わって帝国首都に帰還したら、お前自身が閣下になるのだから」
- 00000008 それだけ言って、またヤンを観察する。
- 00000009 ヤンは平然としている、
- 00000010 ヤンは反論しなかった。
- 00000011 この戦闘ではヤンは何もしなかった。
- 00000012 三〇〇万人の民間人を保護して後方星域に到着したヤンを、歓呼が待っていた。
- 00000013 その後、ヤンは戦闘に参加すると、二度に一度は奇功をたてた、それにともなって、中佐、大佐と昇進し、二九歳で准将となった。
- 00000014 その書類はヤンが提出した作戦案だった。
- 00000015 ヤンの表情も声も淡々としていた。
- 00000016 「とにかく戦場に急行して第四艦隊を救援しなくてはならん。うまく行けば、帝国軍の側背を突くことも可能だろう。そうすれば一挙に戦局は有利になる」
- 00000017 ヤンの声はやはり淡々としていたので、パエッタ中将は危うく聞き流してしまうところだった。
- 00000018 「……すると、君は、第四艦隊を見殺しにしろと言うのか?」
- 00000019 旗艦パトロクロスの艦橋を鷲づかみした緊張に、ヤンは感応しなかった。
- 00000020 司令官はそれを理解しているのかな、とヤンは疑った。
- 00000021 ほとんど立つ者のないありさまになった艦橋内を見わたし、スペース・スーツの通信装置が機能していることを確認すると、ヤンは指示を下し始めた。
- 00000022 その声は帝国軍にも傍受されていた。
- 00000023 彼は外見ほど平然としていたわけではなかった。
- 00000024 我が強く、ヤンごとき若輩に従うのを潔しとしない部隊指揮官もいるに違いないが、彼らとしても他に有効な作戦案を持たない以上、ヤンの指令をいれるしかないのであろう。
- 00000025 ヤンはそう諒解した。
- 00000026 「しかし、ここまで状況が変化すれば、帝国軍の勝利はほとんど完全なものとなっているはずだ。この段階から同盟軍が劣勢を挽回するのは容易ではないぞ。全軍崩壊、敗走という事態になって当然だ。同盟軍の第三部隊は誰が指揮していた?」
- 00000027 それもフェザーンを巻き込んだりすることなくだ。
- 00000028 彼自身の身長を一カイゼル・ファーデン、彼自身の体重を一カイゼル・セントナーとしてすべての単位の基準にしようとしたのである。
- 00000029 やや声を大きくしてオーベルシュタインは言ったが、それでもささやき以上のものにはならなかった。
- 00000030 一瞬、鼻白んだキルヒアイスが、何か言おうとしたとき、入室して来るラインハルトの姿が彼の視界に映った。
- 00000031 自分ながら可愛気のない応答だ、とヤンは自覚している。
- 00000032 しかしヤンはここで円熟したおとなとして行動する気になれなかった。
- 00000033 ヤンは返答しなかった。
- 00000034 自分は一体、いまどんな表情をしているのだろうとヤンは思った。
- 00000035 ヤンは反論しなかった。
- 00000036 「お前の保護者を過小評価するなよ。それぐらいの貯蓄はある。第一、そんなに早く卒業する必要はないんだ。もう少し遊んでたらどうだ?」
- 00000037 「はい、そうします。でも、准将、ニュースで言ってましたけど、ローエングラム伯が軍務についたのは一五歳のときですってね」
- 00000038 なるほど、とヤンは納得した。
- 00000039 ヤンは唖然とした。
- 00000040 「どうした、何とか、言ったらどうだ。返答がなければもう一度……」
- 00000041 けろりとしてヤンは言い、元帥をふたたび苦笑させた。
- 00000042 ヤンは微笑したが、愉快そうには見えなかった。
- 00000043 ヤンは沈黙していた。
- 00000044 半個艦隊でイゼルローンを攻略できるはずがないし、作戦が失敗すればシトレとヤンを公然と排除することができるからだ。
- 00000045 この場を通ることなく同盟から帝国へ赴くには別のルートからフェザーン自治領を経由しなくてはならず、むろんそれを軍事行動に使用するわけにはいかない。
- 00000046 イゼルローンを攻略するには外からではだめだ、と敗走する艦隊のなかでヤンは思った。
- 00000047 「では帝国軍の軍艦を一隻、これはかつて鹵獲したものがあるはずです。それに軍服を二〇〇着ほど用意していただきましょう」
- 00000048 すぐ手配しよう、と返答してから、キャゼルヌは思い出したように、あらためてヤンを見た。
- 00000049 今度の作戦に関して成功を危惧しない者がいるとしたらよほど楽天的な人物だろう、と、ヤン自身ですら思う。
- 00000050 ただひとり、ヤンを弁護してくれたのは第五艦隊司令官ビュコック中将だった。
- 00000051 ヤンなどが敬礼すると、「どこの青二才だ」と言わんばかりのうさん臭げな目つきで面白くもなさそうに答礼する。
- 00000052 奇妙なことと自覚はしながらも、ヤンはそう問わずにいられなかった。
- 00000053 一三という数からして不吉だ、奴はいつか必ず七人目の裏切者になるぞ――そう主張する者がいる。
- 00000054 ヤンの返答は淡々としていて、むしろ他人事のようだった。
- 00000055 「三〇歳前で閣下呼ばわりされれば、もう充分だ。第一、この作戦が終わって生きていたら私は退役するつもりだから」
- 00000056 「やはりイゼルローンは同盟軍、いや叛乱軍に占拠されています。その指揮官ヤン少将の名で言っております、これ以上の流血は無益である、降伏せよ、と」
- 00000057 元帥府を開設し、帝国宇宙艦隊の半数を指揮下に収めたラインハルトは、人事に腐心する毎日だった。
- 00000058 「よいではありませんか。キルヒアイス少将はローエングラム伯の腹心中の腹心です。討伐に成功したときには褒賞を与えて恩を売っておけば、後日、何かと益になりましょう。また失敗したところで、それは彼を推挙したローエングラム伯の責任ということになります。改めて伯に討伐を命じればすむことですし、一度は部下が失敗したとなれば、伯も功を誇ってばかりはいられますまい」
- 00000059 この動乱でキルヒアイスが示した用兵の才能は非凡なもので、ラインハルトは満足し、彼の元帥府の提督たちはうなずき、門閥貴族たちは驚愕した。
- 00000060 ラインハルトはオーベルシュタインを凝視したまま、ブラスターを収めるようキルヒアイスに合図した。
- 00000061 「どうした、キルヒアイス、何か言いたいことがありそうだな」
- 00000062 他人のいないとき、ラインハルトはときどきこのようなことをする。
- 00000063 予想外のことではないが、やはり落胆せずにはいられない。
- 00000064 二〇という数字を、ヤンは強調した。
- 00000065 「第一三艦隊をどうする?」
- 00000066 結局、辞表を置いてヤンは本部長の前から退出したが、それが受理されないことは明白だった。
- 00000067 たまには外で食事をするのもいいじゃないか、話しておきたいこともあるし――ヤンはそれだけしか言わなかった。
- 00000068 「ところで、ヤン、君はまだ結婚する予定はないのかね」
- 00000069 まさか成功するまい、とも思ったし、ヤンの智略を見てみたい気分もあった。
- 00000070 帝国領内に侵入し、敵と一戦を交えてそれで可とするのか。
- 00000071 「それは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかと思います」
- 00000072 確認するのもばかばかしい気がしたが、ヤンはそう訊ねた。
- 00000073 反論するヤンの口調は熱を帯びたが、これは彼の本心とは必ずしも一致しない。
- 00000074 フォークの楽観論はヤンを疲労させた。
- 00000075 勝手にしろ、と言いたいのをこらえて、ヤンはさらに反論した。
- 00000076 ヤンにとっては何の成果もないまま会議が終了した。
- 00000077 言うべき言葉を見失って、ヤンは沈黙していた。
- 00000078 「第一、ないものをどうやって調達しろというのだ」
- 00000079 それらのごうごうたる声にヤンは唱和しなかったが、思いは同じである。
- 00000080 「これはわがままいっぱいに育って自我が異常拡大した幼児にときとして見られる症状です。したがって善悪が問題ではありません。自我と欲望が充足されることだけが重要なのです。したがって、提督方が非礼を謝罪なさり、粉骨砕身して彼の作戦を実行し、勝利をえて彼が賞賛の的となる……そうなって初めて、病気の原因が取り去られることになります」
- 00000081 感情を抑制した声が老提督の口から発せられたのは、ゆうに一分間を経過してからだった。
- 00000082 ヤンも時機を同じくして多数の敵に攻撃されており、第一〇艦隊を救援する余裕はないだろう、とウランフは思う。
- 00000083 ヤンは沈黙したまま、艦隊の作戦指揮という自分の職務に没頭している。
- 00000084 敵が退くのを見たヤンは、それにつけこんで攻勢に出ようとはしなかった。
- 00000085 ヤンは命令した。
- 00000086 だが、ヤンはラインハルトと共通する長所を持っていた。
- 00000087 数分後、D4宙域の帝国軍は、一転して敗北に直面することになったのだ。
- 00000088 しかし、ここで幸運がヤンに味方した。
- 00000089 このためキルヒアイスは艦隊を再編するのにてまどり、それはヤンに貴重な時間を与えることになった。
- 00000090 彼がキルヒアイスの動きに注意していれば、ラインハルトとの通信が途絶していても、ヤンの意図を察して、その退路を効果的に絶つことができたかもしれない。
- 00000091 こうして確保した退路から、ヤンの率いる同盟軍第一三艦隊は次々と戦場を離脱して行った。
- 00000092 キルヒアイスが、寛恕の意を伝えた場合、ラインハルトに叱責されたビッテンフェルトは、ラインハルトを怨む一方でキルヒアイスに感謝するようになるだろう。
- 00000093 「人命や金銭を多く費消したと言うが、それ以上に尊重すべきものがあるのだ。感情的な厭戦主義に陥るべきではない」
- 00000094 宇宙艦隊司令長官に就任したのはビュコックで、当然、それにともなって大将に昇進した。
- 00000095 ビュコックは、ヤンに宇宙艦隊総参謀長の席を用意すると言明した。
- 00000096 とにかく、ヤンはイゼルローンに赴任し、国防の第一線における総指揮をとることとなった。
- 00000097 これでキャゼルヌが事務面を担当してくれたら、と、ヤンは思い、可能なかぎり早く彼を呼ぶことにしようと考えるのだった。
- 00000098 ローエングラム侯となったラインハルトは、ジークフリード・キルヒアイスを一挙に上級大将に昇進させ、宇宙艦隊副司令長官に任命した。
- 00000099 彼は中将に昇進し、宇宙艦隊総参謀長とローエングラム元帥府事務長を兼任することになったが、一日、ラインハルトに面会して苦言を呈した。
- 00000100 ブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム侯が暴発するのを期待する点では、彼はラインハルトと同様であった。
Advertisement
Add Comment
Please, Sign In to add comment
Advertisement