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- FILENAME: text_521510-0.txt
- 魔法は 何処にある?
- 感情が 魔法を生むなら、 私の感情は 何処にある?
- 明日からの 私の魔法は、 きっと 過去からやってくる。
- ――あなたを失う、すべての私たちへ――
- 黒江: …ふっ!
- 黒江: これで…最後っ!
- 黒江: …………ふぅ
- あ、ありがとうございます
- あんな恐ろしい魔女を退治して しまうなんてすごいです…
- お強いんですね
- 黒江: 別に…普通
- 黒江: それよりこの電車、危ないから 早く降りたほうがいいよ?
- …それは、できません
- 父を見つけるまでは…
- 黒江: …?
- 黒江: この列車に、あなたの お父さんが乗っているの?
- まだわからないのです…
- この場所にいるのか、それとも この線路が向かう先にいるのか…
- でも、この列車に 乗ってさえいれば
- 必ず見つけられると思うのです
- 黒江: …お父さんだって
- 黒江: あなたが危険な目に遭って欲しい とは思ってないんじゃないかな?
- 黒江: 死んじゃったら なんにもならないよ?
- 黒江: あなたは一度降りてから…
- ごめんなさい それは、無理なんです
- 一度降りてしまったら
- きっともう、ここには 二度と戻って来られない…
- 黒江: そんなことないよ
- 黒江: 生きてさえいれば 何度だって…
- 一度降りてしまったらきっと
- 僕も、あなただって 気付いてしまう
- この旅が 永遠ではないことに…
- それなのに僕はまだ 一番大切だった父に
- ありがとうも さようならも言えてない
- 黒江: …………
- 黒江: じゃあ、私にも一緒に探させて?
- よいのですか?
- 黒江: うん… あなたの気持ち、わかるから
- 黒江: 私にもいるんだ 大切な人…
- 黒江: 空っぽな私に 色んなものをくれたの…
- 黒江: 私もまだ、あの子に伝えられてない
- 黒江: ありがとうも さようならも…
- [From the opening sequence]
- 暗い夜空に迷う、小さな羽根
- 彼女が選び取る“希望”とは…
- [Title card] Last Bird's Hope
- FILENAME: text_521510-1_OWfjt.txt
- たどり着かなかった夢は 蜃気楼に過ぎない
- けれども 失ったものの幻影には 質量がある
- 手をつかんだことがあるなら なおさらに
- 黒江: はぁ…はぁ…
- 黒江: (…休んでちゃダメだ)
- 黒江: (もっともっと魔女を倒さないと いけないのに…)
- 黒江: 環さんはいなくなってしまった
- 黒江: 詳しいことは 最後まで何も話してくれないまま…
- 黒江: …信じていたかった 遠くにいても環さんはずっと みんなを助け続けているんだって…
- 黒江: でも 分かってる
- 黒江: 私なんかが寂しいと思うなんて 傲慢なことくらい…
- 黒江: 私は、環さんが救った たくさんの魔法少女たちの そのうちのたったひとりに過ぎない
- 黒江: 私なんかよりも ずっと悲しい人たちがいる…
- 黒江: 私の中にあるこの傲慢な喪失感は ひとりで解決しなきゃいけない…
- 黒江: …ふぅ…
- 黒江: 少し休んだら 魔女を探さないと…
- 黒江: そうだよね? 環さん…
- …………
- 黒江: 呼びかけても返事なんてない 彼女に何かが届くわけじゃない
- 黒江: でも、私は環さんを忘れたくないから つい呼びかけてしまう
- 黒江: 環さんを忘れるわけなんてないのに 私は、忘れてしまうことに怯えている
- 黒江: 環さんに助けてもらった私が 僅かでも環さんを忘れてしまうなんて 許されるはずがない…
- 黒江: あれから私は、環さんみたいに 魔女を倒して人を助け続けている 環さんがしていたように、私もそうする
- 黒江: 私にとっての魔法少女は 環さんの姿をしているから
- 黒江: ふふ…
- 黒江: 魔法少女の運命は 私には重すぎたはずなのに
- 黒江: 環さんといた時よりも
- 黒江: ひとりになった今の方が 意外と頑張れてる気がする…
- 黒江: そうだよね? 環さん…
- …………
- 黒江: (…さて、休憩終わり)
- 黒江: (パトロールの範囲を 隣駅のほうまで広げてみて…)
- 黒江: (うっ…体が重い…)
- 黒江: (さすがに魔力を 使いすぎた…?)
- 黒江: (…もったいないけど…)
- 黒江: これで、もう少し動ける
- 黒江: 今日はまだ、使い魔しか 退治できてない…
- 黒江: どこかに生みの親の魔女が 隠れてるかも…
- 自分の行動に理由をつけたがるのは 失ったものの大きさに 私の魂が見合っていないからかもしれない
- FILENAME: text_521510-2_OWfjt.txt
- 黒江: ふぅ…………
- 黒江: (この地域にも 魔女の気配はない…)
- 黒江: (いいことなんだけど…)
- 黒江: (これじゃ、環さんみたいに 人助けができない…)
- あらあれ、あの子じゃない? ほら見そほら見そ?
- 最近、よそ様のナワバリで 魔女を狩ってるとお噂の?
- そうそう そうだば
- なるほど この辺りじゃ お初な見た目な魔法少女…
- 黒江: …………
- 黒江: (さすがに目立ち過ぎたかな…)
- 黒江: (でも仕方ないよね)
- 黒江: (魔法少女は 人を助けることが優先だし)
- 黒江: (地域がどうとか 言ってられない…)
- やあ、あなた
- この地域の担当じゃないって 思うんだけど?
- 黒江: …私の地域に 魔女がいなくなっちゃったから
- あらあら びっくり!
- ナワバリのルールすら ご存じない?
- それともグリーフシードを ひとり占め?
- 黒江: そんなつもりはないよ…
- 黒江: ただ、魔女を倒したくて…
- …あらら? あの、それ大丈夫?
- 黒江: え…?
- ソウルジェムが濁ってる? みたく見えたから…
- もしか あなた グリーフシードに困ってたり?
- 話聞こか?
- 黒江: グリーフシードは持ってるけど… 自動浄化システムがあるし
- 黒江: 平気だよ
- 黒江: (環さんが魔法少女のために 用意してくれた希望…)
- 黒江: (本当はもうグリーフシードを 取り合わなくたって…)
- …どして魔女退治に こだわってらっしゃるの?
- 黒江: そんなの、ひとりでも 多くの人を救いたいから…
- 黒江: あの、本当にごめんね 私もう帰るから
- 黒江: それじゃあ…
- あ、待て待て
- 「人助けを頑張ってる 黒いフードの魔法少女」を
- 絶賛捜索中な子がいたんだけど
- それって もしか あなたのことだとか…?
- 黒江: ? 人違いじゃないかな?
- 黒江: 私べつに そんな魔法少女じゃないし…
- 黒江: …………
- 黒江: …はぁ 困ったな…
- 黒江: (魔女を倒したいだけなのに)
- 黒江: (今の方法じゃ限界かも…)
- 黒江: (…あまり現実的じゃないけど)
- 黒江: (魔女が生まれそうな場所を 警戒してみる…?)
- 黒江: でも、どうやって…
- うわ、速報 また強盗事件だって
- 宝崎市で? ここ最近多くない?
- 宝崎治安ヤバ過ぎ?
- 黒江: …………
- 黒江: (宝崎市内で頻繁に起き始めた 詐欺や強盗事件…)
- 黒江: (魔法少女としてできることは 何もないけど)
- 黒江: (いくらなんでも 急に増えすぎてる…)
- 黒江: (もし、魔女が 絡んでるんだとしたら?)
- 黒江: (今まで見逃してしまっていた)
- 黒江: (魔力を隠すことに長けた魔女の 仕業だとしたら…?)
- 黒江: (あたってみる価値は ある…よね)
- FILENAME: text_521510-3_OWfjt.txt
- 黒江: 宝崎市内で頻発する詐欺や強盗事件には 犯罪組織が関わっている …って、報道されていたけど
- 黒江: 実はそれが魔女の仕業だったとしても 今まで見つけられてないものを どうやったら見つけられるんだろう?
- 黒江: ひとまず、治安の悪そうな場所を 回ってみることにした
- 黒江: 魔女の気配を探すんじゃなくて 事件そのものを探す これは案外良い発想かもしれない
- 黒江: …なんて思ったけど
- 黒江: 普通に、無理だよね…
- 黒江: (この3日くらい、色んな場所を 回ってみたけど)
- 黒江: (魔女なんて見つからないし、 私が見て回ってる間も)
- 黒江: (その地域で 事件は起き続けていた)
- 黒江: (たとえ魔女のせいじゃなかった としても)
- 黒江: (事件ひとつ 見つけられないなんて…)
- 黒江: (でもよく考えたら)
- 黒江: (通りすがりでも気が付けるの って強盗くらいかも?)
- 黒江: …………
- 黒江: (魔女の気配じゃなくて 事件の気配を…)
- 黒江: (いや、事件を起こしそうな人が 分かるにはどうしたら…)
- 黒江: …うっ…
- 黒江: (まただ…)
- 黒江: (最近は浄化しても ソウルジェムがすぐ濁ってくる)
- 黒江: (魔力は節約してるのに…)
- 黒江: どうしてなのかな… 環さん…
- 黒江: …………
- 父とは頻繁に会うような 間柄じゃなかったから
- 少しだけ、 再会するのが不安なんです
- まだ何にもなれていない僕を見て
- 父はがっかりしてしまうんじゃ ないかと
- 黒江: そんなことないよ
- 黒江: お父さんは、あなたと会える だけでうれしいに決まってる
- はい…父はきっと
- ただ、喜んでくれるに 違いありません…
- だけれど…
- 残された僕自身が まだ僕のことを許せないんです…
- 黒江: …………
- 黒江: …………
- 黒江: (次に回ってみたい場所は 2駅先か…)
- 黒江: (電車、まだあるよね…)
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (何、この生臭い匂い…!)
- 黒江: (ま、まさか…血…!?)
- はぁっ、はぁっ、うああああ!!
- 黒江: え、え、え…!?
- 黒江: (様子、変だったよね…)
- 黒江: (どうしよう…追いかけた方が いいの…?)
- 黒江: (それともこの匂いの正体を 確かめる…?)
- 黒江: …………
- 黒江: (怖い…………)
- 黒江: (けど…環さんなら 逃げたりしないよね…)
- 黒江: …………
- 黒江: …っ、追いかけよう…!
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (魔女…!ほんとにいた!)
- 黒江: (…あの人も 魔女から逃げてた?)
- 黒江: (考えたくないけど、 あの匂いも?)
- 黒江: (犠牲者が増える前に 倒さなきゃ…!)
- 黒江: (こんな魔女、私ひとりで…!)
- 黒江: うっ…!? こんな時に、また…!
- 黒江: (体が動かない…! どうして…!?)
- 黒江: (私は…魔女を倒さないと いけないの…!)
- 黒江: お願い…!動いて…!
- ザリザリ…▲…◎…
- 黒江: え…!?
- 黒江: 逃げられた…
- 黒江: …………
- 黒江: (…何してるんだろ、私…)
- 黒江: (何もできなかったどころか 魔女にも相手されないなんて…)
- 黒江: …………
- 黒江: (…こんなところで ぼうっとしてられない)
- 黒江: (魔女を追いかけ…)
- 黒江: (…そういえば、 あの生臭い匂い)
- 黒江: …あれ?
- 黒江: 匂いが消えてる…?
- 黒江: (気のせい…じゃなかったはず)
- 黒江: (まさか魔女の口づけで 操られた人たちがどこかで…?)
- 黒江: (わ、わからないけど…)
- 黒江: (さっき逃げて行った男の人も 怪我とかしてるかも…)
- 黒江: (でもあの人、どこに行ったのか 駅を出たのかもわからないし)
- 黒江: (匂いも消えちゃったし…)
- 黒江: (どうしよう?どうしよう?)
- 黒江: (で、でもまずは逃げた魔女を 追いかけなきゃ…!)
- ???の声: 「この件から手を引くのです」
- 黒江: ――っ!?
- FILENAME: text_521510-4_OWfjt.txt
- 黒江: えっと…誰…?
- なぎさ: なぎさはなぎさなのです
- 黒江: なぎさ…さん
- 黒江: (この子も魔法少女なんだ)
- なぎさ: お前はさっさと帰るのです
- 黒江: あ…えっと
- 黒江: さっき魔女に 逃げられちゃってね…?
- 黒江: 怪我をしてるかもしれない 男の人も…!
- 黒江: …あ、それと さっきものすごく変な匂いが…
- なぎさ: 聞こえなかったのですか? お前は、さっさと、帰るのです
- 黒江: えっと…あのね?
- なぎさ: 魔女はなぎさがさっき退治したし 怪しい男なんていないし
- なぎさ: この駅は無味無臭なのです
- なぎさ: だから今すぐ走って帰るのです
- 黒江: …………
- 黒江: 駄目だよ!
- 黒江: 魔女をほっといたら 大変なことに…
- なぎさ: 魔女を倒しといたのは本当なので 安心するのです
- なぎさ: なぎさは強いのです
- 黒江: …魔女“は”?
- なぎさ: な、なぎさは何も知らないのです
- 黒江: …さっきは男の人もいないし
- 黒江: 匂いもしなかったって 断言したじゃない
- 黒江: 気のせいだったらいいけど
- 黒江: 魔女のせいで誰かが大変なことに なってるかもしれないんだよ?
- なぎさ: なぎさは何も知らないけど とにかく手を引くのです
- なぎさ: 知らないけど
- なぎさ: 関わったって良いことなんか ひとつもないのです!
- 黒江: もしかして…何か知ってるの?
- 黒江: 止められないといけないような ことなの?
- なぎさ: なぎさはなぎさの目的があるので 詳細は話せないのです!
- 黒江: それじゃ納得できないよ…
- なぎさ: 強情なのです…
- 黒江: どっちが…?
- なぎさ: はぁ…
- なぎさ: …………
- なぎさ: お前はそうやって
- なぎさ: 環いろはにでもなるつもり なのですか?
- 黒江: !!
- なぎさ: そんな似合わないことやったって うまくいきっこないのです
- なぎさ: 自滅するのがオチなのです
- 黒江: 違う!
- 黒江: 私なんかが 環さんになれるわけな…
- 黒江: え?
- 黒江: あなた…環さんを知ってるの?
- なぎさ: なぎさはただ者じゃないので それくらいわかるのです!
- 黒江: (この子も、環さんに助けて もらったことがあるのかな?)
- なぎさ: 環いろはの代わりは
- なぎさ: 偽物の環いろはじゃ 埋まらないのです
- なぎさ: さっさと他の場所で 新しい大切なことを探すのです
- 黒江: (分かってるよそんなこと…)
- 黒江: 環さんになれるわけないって 言ったでしょ!?
- 黒江: それに人を助けようとすることの 何が悪いの!?
- 黒江: 私たち魔法少女なんだよ? 環さんだって…きっとそうする!
- なぎさ: 本当に間抜けなのです
- なぎさ: 環いろはが助けた自分の命を 軽く見るのは
- なぎさ: 環いろはへの 裏切りじゃないのですか?
- 黒江: …………っ 私は死んだりしない!
- 黒江: 大きなお世話だよ…!
- なぎさ: ………… …………
- なぎさ: ふぅ… やっと帰ってくれたのです
- なぎさ: 黒江の運命を変えちゃった気も するのですが…
- なぎさ: 大きなホツレを修正するためには
- なぎさ: 小さなホツレなんか 気にしてられないのです!
- なぎさ: 一刻も早く、あいつを探して…!
- なぎさ: ――っ!?
- なぎさ: しまったのです…
- なぎさ: …“さっきの死体の山”を 無理に消したせいで
- なぎさ: なぎさが抱える穢れが増幅して しまっているのです…
- なぎさ: とはいえ、なぎさは 「円環の理」の使者…
- なぎさ: グリーフシードに頼らずに なぎさの穢れを浄化するには…
- なぎさ: …ドッペルで放出するしか ないのです…?
- FILENAME: text_521510-5_OWfjt.txt
- 黒江: (…はぁ、私…あんな小さな子に 大人げなかったな…)
- 黒江: (環さんみたいに、 姉弟だっているのに…)
- 黒江: (あたりを探してみたけど)
- 黒江: (さっきの魔女、本当にあの子が ひとりで倒したんだ…)
- 黒江: (あの子、強いんだ…)
- 黒江: …………あ
- 黒江: (そういえば、 終電終わっちゃってる…)
- 黒江: …………
- 黒江: (いいや、2駅くらい歩けるし)
- 黒江: (…ついでに、さっきの男の人も 探してみようかな)
- 黒江: (その辺で倒れたりしてたら 大変だもんね…)
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (何、この魔力…? まるで落下するような感覚…)
- 黒江: (魔女とは…ちょっと違う? でもこれは…!?)
- ???: …………あれ?
- 黒江: あ…えっと…
- 黒江: (ただの女の子…? でもそんな気配じゃなかった…)
- ???: もしかして、あなたも魔法少女?
- 黒江: …えっと、あなたもそうなの?
- ???: そうだよ? あなたとおんなじ魔法少女
- 黒江: (すごく背が高い… どのくらいあるんだろ)
- ???: 奇遇だね! お散歩してたの?
- 黒江: 私は…うん そんなところ…かな?
- ユゥ: ワタシ、ユゥって言うの あなた、名前は?
- 黒江: …黒江…
- ユゥ: 黒江ちゃん! ちょっと待ってね
- ユゥ: えっと… うんうん…
- ユゥ: 黒江ちゃんはリストに 載ってないから善い人なんだね!
- ユゥ: 黒江ちゃん!よろしくね!
- ユゥ: ワタシ、ユゥって言うの あなたとおんなじ魔法少女
- 黒江: (…ちょっとよく分からないけど 敵意は、ないのか…な?)
- ユゥ: あのね、 ちょっと聞きたいんだけど
- ユゥ: この辺で悪い人見なかった?
- 黒江: ざっくりだね…
- ユゥ: うーんとね、若い男の人? で、とにかく悪い人なの!
- ユゥ: リストに載ってるんだ …えーと、名前はジョン!
- ユゥ: さっき話しかけたんだけどね? 逃げられちゃって困ってたんだ
- 黒江: えっと…その逃げた人かどうかは わからないけど
- 黒江: もしかしたら、見たかもしれない
- ユゥ: ホント!?
- 黒江: うん でも、私も見失っちゃった…
- 黒江: (あの人、 悪い人だったのかな?)
- ユゥ: そっかぁ…
- ユゥ: 困ったナァ、困ったナァ
- ユゥ: もうこの辺りで リストに載ってるのは
- ユゥ: ジョンって人だけなのに…
- ユゥ: あ!そーだった 魔女の結界も探してるんだった!
- ユゥ: 一度にたくさん なくしちゃったから
- ユゥ: 早く捨てちゃわないと いけないんだ!
- 黒江: (…捨てちゃわないと?)
- 黒江: あの…さっき駅にいた魔女なら 他の子がやっつけちゃったみたい
- ユゥ: え!そーなの? 困ったナァ、困ったナァ
- ユゥ: でも魔女がいなくなったのは 良いことだよね?
- 黒江: うん、そうだね
- 黒江: (…ちょっと変わった人だけど)
- 黒江: (困ってるみたいだし 助けてあげた方がいいよね…)
- 黒江: (魔法少女が一般人を追うのも)
- 黒江: (何か事情があるのかも しれないし)
- 黒江: あの…ユゥさん 私もその人を探すのを手伝うよ
- ユゥ: え、いいの!?
- ユゥ: ありがとう、うれしいなぁ! ひとりよりふたりだもんね!
- 黒江: そうだね…
- 黒江: えっと…二手に分かれようか
- 黒江: この近くを探してみて、状況は テレパシーで共有すればいいかな
- ユゥ: うん、わかった
- 黒江: それじゃ、あとで…
- 黒江: はや…!? もういない…
- 黒江: …………
- 黒江: (とりあえず、この辺りを 探して…)
- 黒江: (新しい魔女…!?)
- 黒江: (…ううん、違う この感じは…ドッペル…!)
- 黒江: (しかも、これは駅… なぎささんがいた方向からだ…)
- 黒江: (次から次へと… 理解が追いつかない…)
- 黒江: …………
- 黒江: (…魔女の気配はしてないのに どうしてドッペルを?)
- 黒江: (何か起こってるのかも…)
- 黒江: …………
- 黒江: (環さんなら、魔法少女のことも 見捨てない…)
- 黒江: (あの子とは、もう会わずに 済むならそれがよかったけど…)
- 黒江: …………
- 黒江: あの、ユゥさん…!
- 黒江: ちょっと気になることがあって 少しの間、人探しを中断するね…
- 黒江: …………
- 黒江: (反応ないけど、 ユゥさんを待ってられないし)
- 黒江: (…行ってみよう…!)
- FILENAME: text_521510-6_OWfjt.txt
- 黒江: なぎささん…! いるの…!?
- 黒江: …あ、あれって…!?
- 黒江: ―黒江― なぎささんのドッペル…!?
- 黒江: ―黒江― なんか、様子が変…? なりふり構わず暴れてるような…
- なぎさの声: 「う…」
- なぎさの声: 「うげえ…!」
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (こっちに攻撃してきた! 制御できてないの…!?)
- 黒江: くっ…
- 黒江: うぅ…!
- 黒江: (一瞬でも油断したら あのドッペルに食べられる…!)
- 黒江: きゃっ!
- なぎさの声: 「う…ぁぁ…! 助け…て…」
- 黒江: …………もう…!
- 黒江: 人には手を引けとか 言ったくせに!
- 黒江: …大人しくしてっ!
- 黒江: 消えた…? 終わったの…?
- なぎさ: おぇぇ…
- 黒江: 大丈夫…? …じゃない、よね…
- 黒江: グリーフシードは…
- なぎさ: いらないのです…
- なぎさ: ドッペルを出したことで 一応、穢れは放出できたのです…
- なぎさ: しかし大反省なのです…まさか あんなふうに暴走するなんて…
- なぎさ: 「円環の理」の使者が なんたるしったい
- 黒江: 円環…?
- なぎさ: あ、こっちの話なのです…!
- なぎさ: 黒江には世話になったのです ありがとうなのです
- 黒江: …どういたしまして
- 黒江: (…って、あれ? 私の名前、言ったっけ…)
- 黒江: …落ち着いたならよかったけど 無理しないでね?
- なぎさ: はいなのです… しばらく休ませてもらうのです…
- なぎさ: ――っ!?
- なぎさ: いちなんさってまたいちなん…
- なぎさ: なぎさが不安定になった隙に またあいつらが現れたのです…!
- 黒江: あいつらって…魔女のこと…!?
- …………ぁ…
- 黒江: ――っ!? さっきの人が結界に…!?
- なぎさ: それだけじゃないのです!
- なぎさ: 魔女の口づけを受けた人間たちが おびきよせられてるのです!
- 黒江: 助けなくちゃ…!
- なぎさ: なななっ!?
- なぎさ: 黒江ひとりの手に負える相手じゃ ないのです!待つのです!
- 黒江の声: 危ない!
- 黒江: …っ!
- 黒江: この結界、どうなってるの…? 魔女が複数いるなんて…
- なぎさ: 詳しくは言えないのですが
- なぎさ: なぎさが呼び寄せている というか…
- なぎさ: とにかく、倒さないと ずんずん増えるのです…!
- 黒江: よくわからないけど… ふたりで協力して魔女を…!
- なぎさ: なぎさもそうしたいのは 山々なのですが
- なぎさ: さっきドッペルを出したせいで ヘトヘトなのです…
- なぎさ: 持ち直すまで、黒江ひとりで 持ちこたえてほしいのです…!
- 黒江: えぇ…!?
- 黒江: わ…!
- 黒江: (無理だよ…!)
- 黒江: (ひとりで魔女を何匹も 相手にできっこない…!)
- 黒江: (こんな時、環さんがいたら…)
- 黒江: (環さんだったら…!)
- なぎさ: うわわっ!?
- 黒江: (どうしよう…このままじゃ ふたりともやられちゃう!)
- 黒江: (やっぱり私じゃダメなの…?)
- 黒江: (環さん…!)
- ???の声: 「やっ、やあぁ!!」
- FILENAME: text_521510-7_OWfjt.txt
- 黒江: あなたは…
- 大丈夫ですか!?
- 黒江: あの時の…
- なぎさ: おおぅ… 黒江の知り合いなのです…?
- 黒江: 一応、そう…だけど…
- 黒江: ありがとう…
- 黒江: 魔女の注意が逸れて 助かったよ…
- あわわわ! とんでもないです!
- 黒江: …………
- 黒江: …無事だったんだね、あの後も…
- は、はい!
- あの時は助けていただいて ありがとうございました!
- 私どうしても、もう一度会って お礼を伝えたくて…
- あなたのこと探してたんです!
- はぁ~~でもこうしてようやく 夢が叶いました!
- 黒江: そう、なんだ…
- 黒江: …………
- ――っ!
- はあああっ… …死ぬかと思いました!
- ありがとうございます
- 黒江: …うん
- 黒江: 私は前に、魔女を倒して この子を助けたことがある
- 黒江: でもそれは この子からそう見えていただけで 真実は違った
- 黒江: 魔女と戦ってソウルジェムが濁っていたこの子は グリーフシードを持っていないかと 私に聞いてきたけど 私は…嘘をついて グリーフシードを分けてあげなかった
- 黒江: この子は私よりもずっと弱くて ひとりぼっちで、きっと不安だった
- 黒江: でも、あの時の私は今よりも弱くて 自分のことで精いっぱいで 不安だったから 魔法少女なら自分で何とかしてよって 思ってしまった
- 黒江: 私は、私より弱いこの子を 見殺しにしてしまったも同然…
- 黒江: 自分を変えたくて頑張ってきたけど… 全部環さんのおかげで何とかなっただけで 本当の私はきっと、何も変われてないんだ
- 黒江: 理想には近づけないまま 環さんは幻みたいに消えてしまって この子がまた現れるなんて…
- まさか魔女の結界で会うことに なるとは思わなかったですけど…
- 魔法少女らしいと言えば そうですよね!
- 黒江: 本当、皮肉だよね…
- え…?
- 黒江: ごめん こっちの話
- そうですか?
- いやー、偶然とはいえ 運命とか感じちゃいます!
- この辺におばあちゃんが住んでて たまたま遊びに来てたんですけど
- 弱いなりに、一応パトロールして おこうって外に出ていて!
- …って、すみません! 私のことばっかり…!
- 黒江: えっと…そうだね
- 黒江: ひとまず今は、 魔女に集中したほうがいいかも
- わわっ!? まだいるんですか?
- 黒江: 仕掛けてきそうだね…
- おおお、怯えてばかりじゃ いられません!
- 私あれから少しでも あなたに近づくため
- 毎日放課後に 特訓を重ねたのです!
- おふたりは そこで見ててください!
- 黒江: あ…うん…
- なぎさ: …………
- おりゃあああ!
- FILENAME: text_521510-8_OWfjt.txt
- ぎゃああああ!
- すみませんすみません!
- ちょっと待って!! タイムタイム!
- 黒江: あ、あの… ほんとにひとりで大丈夫…?
- なぎさ: うう~ん… あの魔法少女…
- なぎさ: 弱いけど 根性ある逃げ足なのです…!
- 黒江: 感心してる場合…!?
- 黒江: (まぁ、予想通りでは あるけど…)
- 黒江: (あの時も、この子は 私よりもっと弱かったし…)
- 黒江: ねえ…!
- 黒江: 私がフォローするから 一緒に戦って…!
- ひぃぃ!
- すみませんすみません!! やっぱりこれ無理かもです~~!
- 黒江: …本当にまずいかも…
- …………
- 黒江: …………
- 黒江: (なぎささんは まだ戦える状態じゃないし)
- 黒江: (私も本調子じゃない…)
- 黒江: (あの子をフォローしながら)
- 黒江: (結界におびき寄せられた人も 守って戦うのは相当厳しい…)
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (こんな状況で、魔女を1体倒す だけでも難しいけど…)
- 黒江: (弱音なんて吐けない…)
- 黒江: 大丈夫… 大丈夫…………
- 黒江: 環さんならきっと、どんな ピンチでもみんなを助ける…!
- なぎさ: 落ち着くのです お前は環いろはじゃ…
- 黒江: 知ってる!
- 黒江: 環さんは私みたいに 誰かを見捨てたりしない!
- 黒江: 弱い自分を 言い訳にしたりしない!
- 黒江: 都合が悪いことを 忘れた振りなんかしない!
- 黒江: (環さんは、 私なんかと違う…!)
- 黒江: …やあああっ!
- 黒江: はぁ…はぁ…!
- 黒江: やった…!
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (倒しきれてなかった…!?)
- 黒江たち: きゃあぁっ!!
- なぎさ: あわわわ…! これは…まずいのです…!
- なぎさ: うぐぐっ…!
- なぎさ: 休んでる場合じゃないのです
- なぎさ: なぎさが魔女をひきつけるので 黒江たちは逃げるのです…!
- なぎさ: あぁ…!
- 黒江: なぎささん…!
- …うぅ…
- 黒江: (私じゃ 誰も助けられないの…?)
- 黒江: (やっぱり私には無理なの…?)
- 黒江: え…何が…
- ユゥ: 黒江ちゃん、みーつけた
- FILENAME: text_521510-9_OWfjt.txt
- ユゥ: 黒江ちゃん、みーつけた
- ひ、ひいいい!?
- 黒江: ユゥ、さん…?
- 黒江: (見た目は相当違うけど…)
- 黒江: (これって魔法少女… なんだよね?)
- ユゥ: 戻ってこなかったから 心配で探したんだよ?
- ユゥ: 結界の中にいたんだね よかったよかった
- なぎさ: あ…ああーーーっ!! ついに発見なのです!
- ユゥ: ん?
- ユゥ: あれ?なぎさちゃん! なぎさちゃんだよね?
- ユゥ: わぁ、また会えてうれしいなあ
- 黒江: 知り合いなの…?
- なぎさ: …そんなところなのです
- なぎさ: 今はそれよりも! なぎさの目的が最優先なのです!
- なぎさ: この宇宙のホツレは なぎさが直すのです…!
- ユゥ: どうしちゃったのなぎさちゃん? なんか怖い感じだけど…
- ユゥ: ワタシ、何か 怒らせちゃったりした?
- なぎさ: お前さっき、駅の中に
- なぎさ: 大量のなくしちゃった後の人 ほったらかしにしてたのですね?
- ユゥ: あ! もしかして、あの人たちのこと
- ユゥ: なぎさちゃんが 片付けてくれたの?
- ユゥ: でも違うんだよ?
- ユゥ: ほったらかしに してたんじゃないよ?
- ユゥ: お片付けもするつもり だったんだけど
- ユゥ: 近くに魔女の結界がなくてね?
- なぎさ: あんなの通報されたら どうする気だったのです!
- ユゥ: ひゃっ! 迷惑かけちゃってごめんね?
- ユゥ: なぎさちゃん、まだ怒ってる?
- なぎさ: はぁ… ユゥは相変わらずなのです
- なぎさ: …………
- なぎさ: ユゥ、カラッポは 埋められたのですか?
- ユゥ: ううん!
- ユゥ: ワタシのカラッポ、 どんどんおっきくなって
- ユゥ: ワタシの中のワタシ もう砂粒みたいになっちゃった
- なぎさ: …そうなのですか
- なぎさ: 悪く思うな…なのです…!
- ユゥ: なんでなんでぇぇ! 暴力はんたーい!
- なぎさ: (ユゥは得体の知れない魔法を 使うのです)
- ユゥ: わわ?
- ユゥ: シャボン玉に 閉じ込められちゃった!
- なぎさ: (このまま 何もさせないのです!)
- なぎさ: ――っ!?
- なぎさ: この感覚は…! マズイ…ので……
- おわああ! だだ、大丈夫ですか!?
- 黒江: …気を失ってるみたい
- そ、そして あのオバケみたいな人は?
- 黒江: あの人も、たぶん魔法少女… だと思う
- まっ……!???
- ユゥ: 困ったナァ、困ったナァ
- ユゥ: またワタシのせいかな? どうしよう!
- 黒江: ユゥさん、この子といったい…
- ???の声: う…うわあああ!?
- 黒江: ――っ!?
- 今度は何――ッ!?
- お、お、お前は…!
- 黒江: (気絶してた人… 目が覚めたんだ…)
- ユゥ: んん?
- ユゥ: あ、黒江ちゃんすごい! 見つけてくれてたんだ!
- ユゥ: ワタシの探してる悪い人!
- ユゥ: あなた“ジョン”だよね?
- ジョン: ゆ、許してくれ! 俺は…やらされてただけで!
- ジョン: 本当はイヤだったんだ!
- ジョン: まさかあんなことの 手伝いだったなんて…!
- ユゥ: んー、ワタシに言われてもなぁ
- ユゥ: あんた、リストに載ってんし ちゃんと悪い人なんだから
- ユゥ: なくされちゃおう?
- ジョン: ぎゃっ…!
- 黒江: ユ、ユゥさん!?
- ユゥ: ん?どしたの?
- 黒江: 事情は知らないけど
- 黒江: それ以上やったら、 この人死んじゃう!
- ユゥ: ? うん ちゃんとなくしちゃうよ?
- 黒江: なくしちゃうって…まさか
- ユゥ: あ、もしかして方法のこと? 刺しちゃおうと思ってんの
- 黒江: ――っ!?
- だだだッだめですよ! 私たち、魔法少女なのに…!
- ユゥ: え!?魔法少女って 刺しちゃダメな感じ?
- 黒江: 悪い人なら、とりあえず捕まえて 警察に引き渡そうよ…!
- ユゥ: えーと…そっかそっか
- ユゥ: あのね、黒江ちゃん…
- ユゥ: 実はね…警察の人ってね…
- ユゥ: 悪い人を渡しても、 なくしてくれないの!
- ユゥ: ワタシも初めて知ったとき びっくりしちゃった!
- ユゥ: えっと、だからね?
- ユゥ: 警察の人はなくしてくれないから うまくいかなかったんだよ?
- 黒江: ???
- ジョン: あ、あんたたち! 早く逃げろ!
- ジョン: そいつは狂ってて 先輩たちを皆殺しに…!
- あなたの先輩たちを…? コ、コロ…?
- ユゥ: ちゃんとリストに載ってる 悪い人だよ?
- ユゥ: なくさなきゃなんだよ?
- 黒江: (…あの生臭い匂い まさか、本当に…血の…?)
- ユゥ: 大変だったんだよ
- ユゥ: ひとりずつ呼んだのに みんな一緒に来ちゃってね?
- ユゥ: あんなたくさんだったから
- ユゥ: 魔女の結界まで運べなくて 困っちゃった…
- ユゥ: なくしちゃった後のを ほっといちゃうと
- ユゥ: シィからすごく怒られんのに…
- ユゥ: だからね… …あれ? 何の話だっけ?
- ジョン: ほ、ほら、わかったろ!? ヤバい奴なんだよ!
- ジョン: 早く逃げろ!
- 黒江: でもあなた…怪我して…
- ジョン: 俺はなんとかなるからはやく!
- ユゥ: あ、そうそう
- ユゥ: 悪い人をなくしちゃう話 だったっけ?
- ユゥ: だからね、黒江ちゃんたち 危ないからちょっと離れててね?
- 黒江: きゃあっ!
- びゃひいい!?
- ユゥ: えぇぇ!?だからほんとに 危ないんだってば!
- 黒江: 逃げよう!
- はっはい―ッ!
- FILENAME: text_521510-10_OWfjt.txt
- なななな、 なんなんですかあの人!?
- ほんとに魔法少女なんですか?
- 黒江: わかんない…わかんないけど 今はとにかく隠れなきゃ…
- 黒江: ユゥさんが、他の場所に 行ってくれたらいいんだけど…
- ジョン: …待ってくれ
- ジョン: 後は俺ひとりでも平気だ あんたらは早く帰りな
- 黒江: 平気じゃないよ 怪我だって軽くないみたいだし…
- そうですよ!
- さっきの怖い人だって ここまで探しに来るかもですよ?
- ジョン: あんたたちまで 危ない目に遭うことなんかねえよ
- ご心配には及びません! 私はともかく…
- この方は困った人を見捨てたり なんかしないんですよ?
- 黒江: え!?…いや…そんなこと…
- かく言う私も、かつてこの方に 命をお助け頂きました!
- 忘れもしません! あれは私がまだ…
- ジョン: …ありがとよ 気持ちだけ貰っとくな
- やや、まさか疑ってるんですか?
- ジョン: そうじゃねえよ…
- ジョン: 俺は…あいつが言ってた通り 本当に悪人なんだ…
- ジョン: 楽に儲かるって騙されて 取り返しがつかないことを…
- ジョン: だから自業自得なんだよ
- 黒江: …………
- だ、だからって、暴力で 解決されるのは間違ってます!
- 見過ごせません!
- ジョン: いや…あの化け物の方が 正しいんだ
- ジョン: あんたらも本当の俺を知ったら 俺を殺したくなるはずだ…
- な、なんでそんなこと 言うんですか!
- あなたがやった悪いこと 私も許せないかもしれないけど
- でも、だからってあなたが 死ねばいいことにならないです!
- 後悔すればいいじゃないですか!
- 死んだら 後悔出来ないじゃないですか!
- なんでそんな適当なこと 言うんですか!
- 黒江: お、落ち着いて…?
- ジョン: …………
- ジョン: 悪かったよ …………そうだよな
- ジョン: 俺、死なないで ちゃんと自首するよ
- ジョン: 罪は消えねぇけど、少しでも 償うために何ができるか…
- ジョン: 何もできないかもしんねぇけど
- ジョン: 化け物に殺されて終わるだけじゃ それもなんか違うもんな?
- ジョンさん…
- ジョン: まあ、今となっちゃ
- ジョン: 檻の中が一番安全そうでも あるけどな
- 黒江: 朝になったら せめて警察署まで送ります
- 黒江: 他には何もしてあげられないし…
- ジョン: ありがとう、もう十分過ぎるさ…
- ジョン: ぐぁ!?
- ユゥ: 悪い人、みーつけた!
- ああっ!
- 黒江: 待ってユゥさん!
- 黒江: お願い!待って!
- 黒江: どうして悪い人を 殺さなきゃいけないの?
- ユゥ: 魔法少女だからだよ?
- ユゥ: 魔法少女はね
- ユゥ: みんなを困らせる悪者を なくしちゃうような
- ユゥ: とっても良いことをする存在 なんだよ?
- 黒江: ――っ!?
- こ、こんなこと 良いことなんかじゃありません!
- もしジョンさんが 悪人だったとしても
- 良いことなんかじゃないです!
- ユゥ: う~ん…困ったナァ
- ユゥ: やっぱワタシ説明が下手だから ぜんぜん伝わってくんない…
- ジョン: ま、待ってくれ!
- ジョン: 分かった、もう諦める どうせこの傷じゃ逃げられない
- ジョン: だからこの子たちには 何もしないって誓ってくれ!
- ユゥ: えぇぇ…
- ユゥ: なんでワタシが黒江ちゃんに なんかする感じになってんの?
- ユゥ: あ、そーだ
- ユゥ: 黒江ちゃんの隣の子の名前は まだ…
- ユゥ: 刺されちゃった
- ジョン: はあ…はあ… なんもするなって言っただろ!
- ユゥ: も~~ 面倒くさいなぁ…
- ジョン: (こいつ… 刺されても何ともないのか?)
- ジョンさん!
- ジョン: お前ら逃げろ!
- ユゥ: えーと、じゃあ… さよなら?
- 黒江: ――っ!!
- FILENAME: text_521510-11_OWfjt.txt
- 黒江: 環さんみたいにならなきゃ
- 黒江: 魔女を倒して、人を助けて みんなから必要とされる存在に…
- 黒江: そうだ
- 黒江: 魔法少女はすべてを救う
- 黒江: 魔女とは一見、関係なくても 事件があれば助けられた方がいいし 悪い人も捕まえた方がいいに決まってる
- 黒江: 環さんなら、見過ごしたりするはずない
- 黒江: でも
- 黒江: 悪い人だけど、いい人だったら? いい人だけど、悪い人だったら?
- 黒江: 悪い人を殺す魔法少女がいたら どうすればいいんだっけ?
- 黒江: 環さんならどうするだろう?
- 黒江: こんな状態の私を環さんが見たら なんて思うだろう…
- 黒江: 環さんがいなくなって 私なんかが取り残されたのに
- 黒江: 私、魔法少女なのに何もできない 魔法少女なのに何も決められない
- 黒江: このままじゃ 環さんを裏切ったことになっちゃう…
- あ… あぁぁ…!
- 黒江: ユゥさん、どうしてこんなこと…
- ユゥ: あれ?さっき言わなかったっけ? やっぱ言ってないかも?
- ユゥ: 魔法少女だからだよ?
- ユゥ: 魔法少女は 良いことをするんだよ?
- ユゥ: リストに載ってる人だったし
- ユゥ: ほんとに ちゃんと悪い人なんだよ?
- ユゥ: 間違えちゃったりしてないよ? ほんとだよ?
- …ちょっとくらい
- 話を聞いてあげても よかったじゃないですか!
- ユゥ: …だってぇ、お話聞くと 長くなっちゃうんだもん…
- 私にはジョンさんが 悪い人には思えませんでした…!
- 後悔だって してたじゃないですか!
- 何か間違ってしまったって やり直すことも
- 反省することすら 許されないんですか!?
- ユゥ: で、でも、この人が反省してる とか後悔してるとかはとくに…
- ユゥ: ワタシ、裁判官さんじゃないので
- ユゥ: 罪状を決めたりとか 刑を与えてるわけじゃ…
- ユゥ: はっ!
- ユゥ: もしかして、黒江ちゃんたちは 裁判官ちゃん!?
- 黒江: (分からない…私には この人の考えが、分からない)
- ユゥ: あれ… 黒江ちゃん、大丈夫?
- ユゥ: ソウルジェムも濁ってるし このままじゃ危ないよ?
- ――っ!?
- や、やめてください! この人に近づかないで!!
- ユゥ: ―ユゥ― ごめんね! でも限界そうだったし、助けなくちゃって…
- ユゥ: ―ユゥ― ワタシ、こんな時 相談に乗れる人知っててね?
- あ、あなたが相談してる人なんて 絶対めちゃくちゃ怖い人じゃないですか!
- こここ、この人は私が守るので… だ、大丈夫なので退いてください!
- ユゥ: ―ユゥ― うーん…? あ、そーだった!
- ユゥ: ―ユゥ― 悪い人を見つけてくれた黒江ちゃんに ちゃんとお礼もしなきゃ!
- うぅぅぅ…!
- この人は…
- く、黒江さんは 私が守ります…!
- ――っ!?
- 黒江: な…!?
- ユゥ: ご、ごごごごめんなさい!
- ユゥ: ワタシの周りにいる人、 変になっちゃう時があって…!
- ユゥ: でもワタシ、 何もしてないんだよ?
- ユゥ: ほら、動いてもない!
- ユゥ: だから、ね?怖いのはイヤだから もう襲ってこないでね?
- ユゥ: ね?ね?
- 黒江: あなたはどうなりたいの…?
- 黒江: 悪いって理由だけで どうして人を殺すの…?
- ユゥ: 困ってる人がいるからだよ?
- ユゥ: えっと、えっと… 困ってるっていうのは
- ユゥ: 悪い人が夢に出ていてね? うなされちゃうんだって
- ユゥ: あ、もちろん悪い人は夢の中でも 悪いことをするから
- ユゥ: とってもつらくて 困ってるらしいの!
- ユゥ: でもね! その悪い人をなくすと
- ユゥ: 夢には出てこなくなるって わかったんだ!
- ユゥ: だからワタシはリストに載ってる 悪い人をなくして回ってて…
- 黒江: …………
- ユゥ: やっぱり、ワタシの説明 分かりづらかったりしちゃう?
- 黒江: …っ…………
- 黒江: (私が混乱してるから?)
- 黒江: (それだけじゃない…)
- 黒江: (私はこの人を とても理解できそうに…)
- ユゥ: 黒江ちゃんは なんで魔法少女になったの?
- 黒江: !
- 黒江: …私は、取るに足らない願いで 魔法少女になっちゃって
- 黒江: ずっと後悔しながら 魔法少女として生きてた
- 黒江: でも、環さんに出会えて 環さんに救われて
- 黒江: 私は変わりたいと思った
- 黒江: こんな私でも魔法少女として 少しでも多くの人を助けたい…!
- ユゥ: そーなんだ!
- ユゥ: ワタシとおんなじだね? うれしい!
- 黒江: ち、違う! 私は…
- ユゥ: なぎさちゃんが言ってたの
- ユゥ: ワタシたちって 大切なものをなくしちゃって
- ユゥ: そのせいでできたカラッポを 埋めなきゃいけないから
- ユゥ: 魔法少女やってんだよ?
- 黒江: …………!
- 黒江: (どうしたらいいの? どうするのが正しいの?)
- 黒江: (環さんならどうする…?)
- 黒江: (教えて、環さん…!)
- ???: 大丈夫だよ、黒江さん
- ???: 黒江さんなら 黒江さんの答えを選べるよ
- 黒江: 無理だよ…
- 黒江: だって、何が正しいのかも もう…わからない…
- 「黒江ちゃん…」
- 「くろえちゃん…」
- ユゥ: クロエチャン?
- FILENAME: text_521510-12_OWfjt.txt
- 黒江: 意識を失った私は
- 黒江: 沈んでゆく意識の中で
- 黒江: 夢を見た
- 「ユゥを、殺して…」
- 黒江: あたりを満たす
- 黒江: 夜香花と海の匂い
- 「物語はもう終わってんのに」
- 「私を置いて、みんな未来へ行っちゃう」
- 黒江: これは、誰だろう? 誰かの声が、私に話しかける
- 黒江: ユゥさんに とてもよく似た 雰囲気の声
- 「だからお願い」
- 「ユゥを殺して」
- 黒江: あの人を…………私が?
- 「過ぎ去る日々が」
- 「あの子のぜんぶを消しちゃう前に」
- 「ユゥを殺して」
- 黒江: この声はきっと ユゥさんが失った大切な誰かだ
- 黒江: なぜだろう 理由はわからないが 私は そう思った そうとしか 思えなかった
- 「あんたも知ってんでしょ?」
- 「オシマイの先には何もないんだって…」
- 黒江: そうだ、私は知っている
- 黒江: 未来はいつだって ひとりぼっち
- 黒江: 大切なものも、正しかったことも もう 過去にしか現れない
- 黒江: 私の魂よ これ以上
- 黒江: あの人から 遠くならないで…
- FILENAME: text_521520-1_wFS6q.txt
- 黒江: ずっと昔は、猫を飼ってたんだ…
- 黒江: でもあれ以来、 他の猫は飼ってないの
- 黒江: 私には、あの子がいたから
- ほむら: そうなんですね… でも、もうその子は
- ほむら: どんなにあなたのことが心配でも 傍にはいてあげられないんですよ
- 黒江: …………
- ほむら: いけない、もうこんな時間… 次の駅で降りなきゃ…
- 黒江: え…? ここで降りるの?
- ほむら: はい 私は、見滝原のみんなと一緒に
- ほむら: ここで時計の針を進めることに 決めたんです
- ほむら: 見滝原のみんなとなら
- ほむら: 魔法少女として 生きていけるかもって
- ほむら: 思うことが出来たから…
- 黒江: …………
- ほむら: 黒江さんは まだ降りないんですか?
- 黒江: 私は………… でも、降りちゃったら…
- ほむら: この列車は真っすぐに、 どこまでも進む…
- ほむら: どこまでも、どこまでも…
- ほむら: でも、ここから降りなくては 明日へは行けません
- 黒江: …失ったことを 思い知るくらいなら
- 黒江: 昨日の夢を見ながら ずっと過去のままでいたいのは
- 黒江: いけないことなのかな?
- ほむら: …………
- ほむら: 黒江さんの中の思い出を 未来へ連れて行けるのは
- ほむら: 黒江さんだけなんですよ?
- 黒江: …………
- ほむら: 夜香花の香りの方にお会いしたら 謝っておいてもらえますか?
- ほむら: あの人から見たら 私は薄情者なのかも…
- ほむら: では、お先に失礼します また 明日
- FILENAME: text_521520-2_wFS6q.txt
- 黒江: 明日は不安で恐ろしくて ずっと悲しい
- 黒江: 辺りに満ちるのは 夜香花と海の香り
- “何度生まれ変わったって あなたと出会って人生が終わる”
- 私とユゥは、あの日ふたりで 岬から身を投げた
- あの瞬間が私達のオシマイ 私達が生まれた意味のぜんぶ
- なのに、 ユゥだけ生き残っちゃった
- 意味を失った世界に たったひとり…
- だからあんた、ユゥを殺して
- 過ぎ去る日々が あの子の全部を消しちゃう前に…
- 黒江: やっぱりこの人が
- 黒江: ユゥさんが失った大切な人
- ケイ: 私はケイ あの子が背負う、刑
- 黒江: “感情が魔法を生む” 魔法少女は実態に実感を伴って 思い出に呪われる
- 黒江: 私はいつか、偽物の環さんを 魔法で作り出してしまうかもしれない
- 黒江: …………
- 黒江: ここは…?
- ユゥ: お元気? ワタシだよ!
- 黒江: きゃあ!!
- ユゥ: わわわ!
- ユゥ: びっくりしちゃった? そんなことなかった?
- ユゥ: 黒江ちゃん、悩んでてね? そんでね?
- ユゥ: 心配だったから シィんとこ、連れてきたんだよ
- 黒江: ほ、他の人… なぎささんたちは…!?
- ユゥ: みんな寝ちゃったから 置いてきちゃった
- 黒江: …ジョンさんは…?
- ユゥ: 黒江ちゃん運ばなきゃだから 魔女結界に捨てちゃった
- 黒江: 捨て…
- ユゥ: ごめんねシィ 捨てちゃったから中身売れないや
- ユゥ: 他の悪い人も 一度に来ちゃったから
- ユゥ: 誰も運べなかったんだ…
- ユゥ: ごはん、困る?
- ???の声: 大丈夫よ、そんなに急に 貯えがなくなったりしないわ
- ユゥ: そっかー
- ユゥ: あ、もしかして黒江ちゃんも 欲しい部分とかあった?
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: (夢…じゃない…ジョンさんを… 本当に殺して…しかも…)
- ???: ユゥ、黒江さんが困っているわ
- ユゥ: 困っちゃってんの? どっか痛かった?
- ユゥ: 痛いとこ、取っちゃう?
- ???: そうじゃなくて、あなたが色々と 一気に話すものだから
- ユゥ: そうなの?そうだったかも!
- ユゥ: あのね、黒江ちゃんはリストに 載ってないから善い子なんだよ?
- ???: そうね、知ってるわ
- 黒江: あなたは…
- シィ: わたしはシィ
- シィ: 強引に連れてきてしまったようで ごめんなさい
- 黒江: …魔法少女じゃないみたいだけど
- 黒江: あなたも人を殺すの…?
- シィ: …わたしはただの人間
- シィ: でも、あなたたちが使う魔法と 同じような力が使えるの
- シィ: ユゥは、その力でならあなたの 悩みを解決できると思って
- シィ: ここに連れてきたみたい
- 黒江: 人を、殺してるの?
- シィ: …………そうよ、わたしがユゥに リストを渡しているの
- シィ: ユゥ、あとは任せて
- ユゥ: うん! ワタシ、悪い人探してくんね?
- 黒江: 待って! また誰かを殺しに!?
- シィ: ユゥは、良いことを実践して
- シィ: 自分の中のカラッポを 埋めようとしてるの
- シィ: わたしのことが きっかけだったけど
- シィ: 今は本人も夢中になってる…
- 黒江: あんなデタラメなリストで
- 黒江: 人を殺すことが良いことだって 言うの!?
- シィ: 確かに“良いこと”は 言い過ぎかもね
- シィ: “やらないよりマシなこと” くらいかしら?
- シィ: で、ユゥに約束してしまったから
- シィ: 悩みの相談は 受けておきたいのだけど?
- 黒江: あなたたちに解決して欲しい 悩みなんて ない!
- シィ: …………
- シィ: …大切な人が遠くへ 行ってしまって、寂しいのね…?
- 黒江: …………!
- シィ: でも、あなたの大切だった人も
- シィ: あなたを悲しませたくはない はずよ?
- シィ: 時間は、不安も苦しみも 丸く削って溶かしてくれる
- シィ: 大切だった人も、砕けた心も
- シィ: いつの間にか世界と混ざって 思い出に変わっていく
- シィ: 思い出は、あなたの血肉となって 元の色が思い出せなくなっても…
- 黒江: …やめて!
- シィ: …お気に召さないかしら?
- 黒江: 私がいつか大切な人のことを 忘れてしまうみたいな…
- 黒江: 悲しくなくなるみたいな言い方 しないで…!
- 黒江: それじゃまるで
- 黒江: その人を思い出せなくなったら 私が救われるみたいじゃない!!
- シィ: …………
- シィ: …ごめんなさい
- シィ: わたし、あなたがその悩みを 解決したいものだと思ったから…
- シィ: でも、違うのね
- シィ: あなたは、ずっとその傷を 抱えたままでいたいのね
- 黒江: …………
- シィ: あなたの“環さん”が それ望まなかったとしても
- 黒江: ――っ!? あなた、どこでその名前を…
- シィ: “他人の悩みや苦しみが分かる” それが私の持つ力…
- シィ: まあ、解決する力はないから
- シィ: さっきみたいにデタラメな言葉で
- シィ: ごまかすしか 出来ないのだけれど…
- シィ: この力は
- シィ: 私の母親が、魔法少女として 契約する時の願いで
- シィ: 私に与えた力らしいの
- シィ: おかしな話でしょ?
- 黒江: あなた、本当に 魔法少女じゃないの?
- シィ: 魔法少女の資質があるとは キュゥべえから言われたわ
- シィ: でもまだ私は契約していないの
- シィ: わたしには魔法少女たちが
- シィ: 魔女化の悩みを抱えていることも 分かるのに
- シィ: 契約なんてしようと思う?
- シィ: あなたの思考も 以前はそうだったようだけど?
- 黒江: …うん
- シィ: しかも私は母親の願いとやらで この呪われた力を押し付けられた
- シィ: こんなものを押し付けてきた 母の…
- シィ: 魔法少女が、 正しい選択だと思えない
- シィ: …ごめんなさい、あなたに 言うようなことじゃなかったわね
- 黒江: ううん 分かるよ
- 黒江: 私もずっと
- 黒江: 魔法少女になったこと 後悔してたから…
- 黒江: あなたのお母さんも願い事で 後悔してたかも
- シィ: …あなたはとても興味深いわ
- シィ: あなたが今、環さんの喪失感に 支配されていることとは別に
- シィ: 魔法少女の運命に対する恐怖は 過去のものとなりつつある
- 黒江: 環さんが私に教えてくれたの
- 黒江: 私なんかでも魔法少女を 続けていく決意と目標を…
- シィ: そう…
- シィ: わたしにも 教えてもらえないかしら
- シィ: あなたが知る魔法少女の話を…
- シィ: あなたは知ってるんでしょ?
- シィ: 自意識の無力さと魔女化に怯え
- シィ: 自己嫌悪で支配されていた あなたに
- シィ: 希望を与えてくれた魔法少女を…
- FILENAME: text_521520-3_wFS6q.txt
- 黒江: 「もう知ってるみたいだけど…」
- 黒江: 「私みたいに弱い魔法少女は 生きる意志も、願いすら希薄になって 魔女となる恐怖に囚われたまま ただ生きるためグリーフシードを 集める日々を過ごすしかなかった」
- 黒江: 「…でも、環さんのような 確かな希望を胸に秘めた魔法少女たちは 魔法少女とそれ以外のすべての人たちを 魔女から守るために戦っていた」
- 黒江: 「私も環さんたちから 聞かせて貰っただけなんだけど」
- 黒江: 「たとえ魂の在り処が変わっても 強い希望を抱けるなら 魔法少女は人間でいられる 何かになれるんだって思えたの」
- 黒江: 「私は、とてもそうはなれなかったけど」
- 黒江: 「環さんに名前を呼んでもらえたから 私は、私を見失わずにいられた」
- 黒江: 「魔法少女は、本当に人を殺せてしまう 人を殺すことでも、人を救えてしまう」
- 黒江: 「でも、殺されても仕方ないような人すら 環さんは救ってしまうかもしれない」
- 黒江: 「私にはどうしようもない人たちも 環さんは変えてしまうかもしれない」
- 黒江: 「環さんなら救えるかもしれない人を 私は傷つけたくない…」
- シィ: 環いろはさんは気高い理想を 実現した魔法少女だったのね
- 黒江: …そうだよ
- 黒江: ユゥさんと話して気が付いたの
- 黒江: 彼女の中のある空っぽには 私の魂まで引き寄せられちゃう…
- 黒江: 崖から下を覗き込んだみたいな あの吸い込まれる感じ…
- 黒江: 正反対だけど ユゥさんの空っぽと同じように
- 黒江: 環さんの魂が持つ希望に 私は引き寄せられてしまった
- シィ: …わたしたちはそれぞれ
- シィ: 希望と呪いに魅了された 誰でもない者たちなのね
- 黒江: 理屈じゃないの
- 黒江: ユゥさんを知るあなたになら 分かるはず
- 黒江: 私自身が変わったことが 希望の証拠になる
- 黒江: …………
- 黒江: もしかしたら、ジョンさんは
- 黒江: 本当に許されないことを したのかもしれない
- 黒江: でもジョンさんの中にも 弱くて臆病な私が、確かに居たの
- 黒江: 私とあなたに共感できる部分が あるみたいに
- 黒江: 変われるかもしれない希望が 確かに居たんだよ!
- 黒江: 私たちが、そうだったように!
- シィ: …ありがとう
- シィ: あなたと環いろはさんのこと
- シィ: なんとなくだけど 分かったような気がしたわ
- 黒江: …………
- 黒江: どうして こんなことをしているの?
- 黒江: 悪人だと決めつけて殺すことが
- 黒江: 本当に正しいことだと 思ってるの?
- 黒江: 死体を売るだとか言ってたけど
- 黒江: いくらなんでも それが目的じゃないでしょ?
- 黒江: あなたがユゥさんをただ都合よく 利用してるとも思えない
- シィ: …………
- シィ: 買い被り過ぎだわ…
- シィ: わたしはユゥに 一方的に救われている
- シィ: 都合よく利用しているのは 本当のことよ…
- シィ: でもあなたの言う通り 死体を売るのはあくまでオマケ
- シィ: ただ勿体ないから
- シィ: そしてわたしがリストに記す名が 悪人だということも本当
- シィ: その悪人を殺すことで わたし自身が救われることも本当
- シィ: 魔法少女の願いのせいで、悪人を 特定することが出来ると言えば
- シィ: 少しは信ぴょう性があるかしら?
- 黒江: あなたのお母さんの願い…
- シィ: そうね… どこから話そうかしら
- シィ: 少し…長くなるわ
- FILENAME: text_521520-4_wFS6q.txt
- シィ: 「わたしは生まれた日に 病院で起きた爆発事故で、両親を失った」
- シィ: 「物心ついた時、わたしは 自我の覚醒がどうとかいうセミナーを 主催する施設に引き取られていて」
- シィ: 「その時にはもう“他人の悩みを知る”能力が あったんだけど 施設の人間はそれを知ると わたしを使って商売を始めた」
- シィ: 「フフ…そういえば表向きは 商売じゃなくてボランティアだったわね」
- シィ: 「ともかく、内容はさっきあなたに やったみたいなインチキお悩み相談よ」
- シィ: 「相談っていうのは 解決しなくても共感してあげるだけで 相手をコントロール出来てしまうの」
- シィ: 「商売は大成功して 大きな建物に移り住んで いいものも食べられるようになった」
- シィ: 「でも、わたしはどんどん疲弊していた」
- シィ: 「わたしの他人の悩みを知る力が 強くなっていく一方で わたしは毎晩 夢で、どこかの誰かの苦しみを 体験するようになっていたの」
- シィ: 「夢の中のわたしは 自分じゃない誰かの姿になって 見ず知らずの人間に襲われ罵倒され 殴られ焼かれ切り刻まれ殺されてしまう」
- シィ: 「体を裂く痛みと苦しみ、恐怖と怒りが 現実そのものの感覚で入ってくる」
- シィ: 「想像できる?」
- シィ: 「わたしは毎晩 いろんな誰かに殺されるの わたしは毎晩 知らない誰かを憎む」
- シィ: 「わたしを人間とも思わない 上品で優しそうな誰か」
- シィ: 「わたしを生きたまま解体する 地味で純朴そうな誰か」
- シィ: 「悩みもなくわたしを殺す誰か」
- シィ: 「わたしを殺しながら、別の悩みに夢中な誰か」
- シィ: 「わたしはわたし以外の人たちの 誰が善人で誰が悪人なのか 何も分からなくなっていた」
- シィ: 「通りを歩く一見普通の人たちも 次の瞬間にはわたしを殺しに 来るんじゃないかと怯えていたわ」
- シィ: 「そんな日々が続いていた頃よ わたしの前にキュゥべえが現れたのは…」
- キュゥべえ: おそらくキミの持つ能力は
- キュゥべえ: 母親が魔法少女の契約をした時に キミに備わったものだよ
- キュゥべえ: そして、キミにも 魔法少女になる資質がある
- キュゥべえ: 魔法少女になれば
- キュゥべえ: 願いで、その能力を消すことも 可能だよ
- シィ: 少し迷ったけど… 結局、願いは叶えなかった
- 黒江: お母さんのこともあるとは 思うけど
- 黒江: 魔法少女の願いなら、本当に その悪夢を見なくできるとは思う
- 黒江: それに今なら環さんのおかげで 魔女化に怯える必要だって…
- シィ: そうね…でも悪夢を見ることは
- シィ: 他人の悩みを知る力の 副作用みたいなものらしいの
- シィ: 悪夢を消せば、悩みを知る力も なくなるかもしれない
- シィ: 呪いだなんだとは言ったけれど
- シィ: わたしの存在価値は、悩みを 言い当てられることだけだったし
- シィ: 他人の悩みや苦しみを知ることは 苦痛でしかないのだけど
- シィ: その悩みを知ることができてなお
- シィ: 誰が殺人鬼に豹変するかも 分からないのに
- シィ: 相手の考えが 何も知れなくなったら
- シィ: 恐ろし過ぎて、一歩も 外へ出られなくなってしまうわ
- シィ: それに、悪夢のことを 一度だけ施設の人に相談したら
- シィ: “誰かと苦しみを共有し 救うための試練”だ
- シィ: とか言われたのよ? 可笑しいでしょ?
- シィ: もし本当にそうだとしたら 悪夢を拒絶することは
- シィ: 誰かの助けを無視することに なっちゃうのにね?
- シィ: でも、あの頃の私は
- シィ: そんな戯言にも すがってしまっていたから…
- シィ: まぁ…本音を言うと
- シィ: キュゥべえと初めて会ったときは 契約しようかとも考えたんだけど
- シィ: わたしが答える前に キュゥべえが殺されちゃったの
- シィ: ひ…!
- シィ: こ、殺しちゃったの…?
- ユゥ: ありゃ? ダメだったりした?
- ユゥ: なんかちょっと迷惑そうに してたから
- ユゥ: 押し売りされてんのかと思って…
- ユゥ: もしかして契約しようとしてたり しちゃってたとか?
- シィ: …あなた 本当に人間なの?
- ユゥ: どうだろ?たぶん違ったような?
- シィ: 「わたしの能力を使っても ユゥの悩みは分からなかった」
- シィ: 「そもそも悩みがなかったの」
- ユゥ: あ、そうそう キュゥべえ!
- ユゥ: コイツらすぐ湧いてくるから
- ユゥ: 新しいのに頼めば 魔法少女にはなれるけど
- ユゥ: 契約して後悔してる子も たくさんいるから
- ユゥ: ちょっと考えてからの方が良いと 思うよ?
- ユゥ: ワタシ魔法少女になんの 遅かったし
- ユゥ: あんま参考になんないから
- ユゥ: 誰か話が聞ける魔法少女の子 探してあげんね?
- シィ: まさか、あなたも魔法少女なの?
- ユゥ: そーだよ?
- ユゥ: 魔法少女っていうのは 善いことをすんだって聞いたから
- ユゥ: 困ってそうなあなたを 助けたかったんだけど
- ユゥ: 余計なお世話様だった?
- シィ: そんなこと…ないわ
- ユゥ: よかった~ じゃぁ、なんでも言ってね?
- ユゥ: どうにもなんなかったら 一緒に困ってあげんね?
- シィ: 「わたしには、悩みすらない彼女が 嘘をつくようには思えなかった」
- シィ: 「悪意なく嘘をつく人間がいることも 善意や正義で嘘をつく人間も 自分の嘘を認識できない人間も わたしは知っていた」
- シィ: 「それでもわたしの感情だけが 彼女は嘘をつかないと知らせていた」
- ユゥ: ワタシはユゥ
- ユゥ: 魔法少女だから 善いことをするんだよ?
- ユゥ: ワタシ、カラッポで悪い人だから せめて善いことがしたいんだ
- シィ: 「そのうち、わたしから頼んで ユゥと一緒に過ごすようになったの」
- シィ: 「ユゥはどんな話も聞いてくれた わたしの能力のことも そのせいで悪夢にうなされることも 能力が、母の願いのせいらしいことも…」
- ユゥ: シィのお母さんが 願ってくれたことには
- ユゥ: きっと意味があると思うよ?
- ユゥ: 善い意味なのか 悪い意味だったか
- ユゥ: どっちにしたって 人生をかけちゃうお願いだったら
- ユゥ: シィが特別な子だったことに 違いはないって思うよ?
- ユゥ: シィが怖い夢をみた朝は
- ユゥ: なるだけ傍にいて 怖くない歌を歌ってあげる
- シィ: 「魔法少女の契約について 悩まない日はなかったわ…」
- シィ: 「けれど、わたしは初めて まず悪夢と向き合うことにしたの」
- シィ: 「怖くても、辛くても、苦しくても… 毎晩の夢の内容を日記につけ始めた」
- シィ: それが…ユゥの “リスト”の原形よ
- FILENAME: text_521520-5_wFS6q.txt
- シィ: 「襲われるだけの夢でも 日記に書けることはけっこうあったわ」
- シィ: 「容姿の特徴はもちろん、些細な悩みからでも 相手の職種や生活環境は分かるし 被害者の顔見知りだった場合は 相手の名前がわたしの中にも浮かぶから」
- シィ: 「それである日、たまたま見た事件の報道と わたしの夢の詳細が一致することに 気が付いたのよ」
- シィ: 「薄々そんな気はしていたんだけど わたしが見る悪夢は現実の誰かの体験」
- シィ: 「わたしが夢で体験した苦しみを 実際に受けた誰かがいる…」
- シィ: 「ところが毎晩うなされていた悪夢を 日記につけるようになってから 次第に、悪夢を見る回数が減っていったの」
- シィ: 「その理由はわからなかったけど ユゥと出会ってから 事態が好転したのは確かだった」
- シィ: 「すべてはユゥのおかげ…」
- シィ: 「いつだってユゥは答えてくれる」
- シィ: 「誰も信じられないとつぶやけば そうなんだとだけ言った」
- シィ: 「ユゥの見た目が怖いと言えば シーツをかぶって座っていた」
- シィ: 「ひとりで生きる術をもっていないと嘆いたら それはもちたくないの? まだもってないってことなの? と不思議そうだった」
- シィ: 「ユゥはわたしを理解してくれる」
- シィ: わたし、自由が欲しい
- ユゥ: シィは不自由なの?
- シィ: この施設にいる限り わたしは何処へも行けないわ
- ユゥ: 困ったナァ、困ったナァ
- シィ: あなたがわたしを連れ出して
- シィ: もう二度と、わたしが 嘘をつかなくて良いように
- ユゥ: いいよ 一緒にいろんな場所へ行こうね
- ユゥ: シィがもし忘れちゃっても
- ユゥ: ワタシが何度だって シィは自由だって言ってあげんね
- シィ: 「その日… 施設の人たちはみんな、ユゥに殺された」
- シィ: ここまでしなくてよかったのに…
- ユゥ: ちゃんとお話したんだけど 全然聞いてくれなかったんだよ?
- ユゥ: “シィにはこうして欲しい” ばっかりで
- ユゥ: シィが苦しいことなんか あんま興味なかったみたい
- ユゥ: だからもういいかなって シィもいらなそうだったし
- シィ: 決して善い人たちでは なかったけど
- シィ: 表向きだけでも優しかったのよ…
- シィ: 殺したって何にもならないわ…
- ユゥ: そんなことないよ
- ユゥ: シィが見る怖い夢の数だって 減ったでしょ?
- ユゥ: やっぱり悪い人を みんな殺しちゃえば
- ユゥ: 解決しちゃうんじゃないかな?
- シィ: …………
- シィ: ――っ!?
- シィ: まさか、夢に出てくる人たちも…
- シィ: 「わたしはそれまで あまり不思議に思わなかった」
- シィ: 「自分の心が強くなれたからだなんて 都合が良い解釈をしていた」
- シィ: 「なぜ、わたしが日記に書いた悪夢は 二度と見なくなったのか なぜ、ユゥは夜毎に出かけるのか」
- ユゥ: 悪い人のとこに
- ユゥ: 夢に出るのはやめてって お願いに行ったんだけど
- ユゥ: 刃物とか持ってくる人がいてね?
- ユゥ: やめてってやってたら、 死んじゃった
- ユゥ: でね?何回か続けたらね
- ユゥ: うっかり 殺しちゃった人たちだけが
- ユゥ: シィの日記に書かれなくなったの
- シィ: 「わたしの悪夢は ユゥが悪人を殺すことで解決していた」
- シィ: 「しかもわたしは それに希望を感じてしまっていたのよ」
- シィ: 「わたしを見て効果を確信したユゥは 施設の人たちもそうすればいいと思ったの」
- シィ: どうして… 言ってくれなかったの?
- ユゥ: だってシィは、 法律とかルールとか
- ユゥ: 気にしちゃうんじゃないかと 思って
- シィ: わたしたちは人間なのよ? 人間を裁いていいのは法律だけよ
- ユゥ: ワタシ、裁いちゃったり してないよ?
- ユゥ: シィが苦しい思いをしなくって いいようにお願いしてたら
- ユゥ: 殺しちゃっただけだよ?
- シィ: 楽になりたいとか助かりたいとか たとえその願いが叶ったって
- シィ: 方法が間違ってたら 意味がないのよ
- ユゥ: 意味ならあるよ
- ユゥ: シィの苦しさが ちょっとでも減ったなら
- シィ: 人間は、衝動で動いては いけないの
- シィ: 本能が正しいと感じることだって
- シィ: 本当に正しいか 考えなくちゃいけないのよ!
- シィ: 考えることだけが 人間の意味じゃないの!?
- ユゥ: 人間は、考えたりしないよ? “脳髄ハ物ヲ考エル処ニ非ズ”
- シィ: え?
- ユゥ: ワタシたちの人格は、思考は 心に空いた底のないカラッポに
- ユゥ: ただ落ち続ける細胞たちの 悲鳴がつくる輪郭に過ぎないの
- ユゥ: 思考が感情を生むんじゃなくて
- ユゥ: 感情の言い訳のためだけに 思考は存在するんじゃないかな?
- ユゥ: ワタシ、何も分かんないけど
- ユゥ: あの人たちよりもシィのことを 助けたいと思ったんだ
- ユゥ: だから選んだの
- ユゥ: 夢の中でシィが体験する人たちも
- ユゥ: 誰かに助けてほしかったんじゃ ないかな?
- ユゥ: 夢の中で助けてもらいたい 誰かとシィ
- ユゥ: 相手を傷つけることを 手放せない人
- ユゥ: シィは、どっちを選びたい?
- シィ: わたしは…わたしを選べない 選べるような理由がないわ
- ユゥ: 理由なんてなくても シィが苦しそうなのは、やだよ?
- ユゥ: 正しくなくたって ワタシは助けたい人を助けるよ
- ユゥ: シィが選べなくても、 ワタシがシィを選ぶよ
- ユゥ: それにね
- ユゥ: シィが苦しいのは、 誰かが苦しかったこと
- ユゥ: きっとそれって 理由にできんじゃないかな?
- シィ: …………
- シィ: …………ユゥ
- シィ: 魔女結界は、普通の人には 見つからない場所なんだよね?
- ユゥ: うん そうだよ?
- シィ: …今から ふたりで 施設のみんなを捨ててこよう
- FILENAME: text_521520-6_wFS6q.txt
- 黒江: …………
- シィ: 最後にわたしたちは ルールを作った
- シィ: せめて曖昧な情報で 人を殺さないため
- シィ: 殺すのは、相手の名前を手に入れ 身元を確定できてから
- シィ: 言い訳するつもりはないわ…
- シィ: あなたが出会った ジョンという男だけど
- シィ: 彼が何をしたか知ってる?
- シィ: 彼は犯罪グループの下っ端で 彼はあまりにも不運だった…
- シィ: 無理やり同行させられた窃盗先で
- シィ: 鉢合わせしてしまった女性を 殴り殺し、その娘を突き飛ばした
- シィ: 頭を打った娘は意識を失ったまま 今も目を覚ましていない…
- シィ: それでも わたしはね
- シィ: 彼が悪人じゃなかったことを 知ってるわ…
- シィ: あの時、 彼がどれほど怯えていたか
- シィ: 必死だったのか知ってるのよ?
- シィ: だって、わたしは夢の中で 彼に突き飛ばされた娘になって
- シィ: 一か月以上毎日、母を殺され
- シィ: 自分の未来を 奪われ続けたんだもの
- シィ: 彼が私を突き飛ばす瞬間 泣いてたことだって知ってる
- シィ: 彼はずっと震えてた…
- シィ: けれど、そうね…
- シィ: ある朝、急にどうでもよくなって リストに名前を書いたの
- シィ: だから、彼はユゥに殺された
- シィ: 彼の名前を書いたのは “どうでもよくなったから”
- シィ: それ以上でも以下でもない
- シィ: 救うために殺すのでも 正しいから殺すのでもない
- シィ: 思考で言い訳を付けようと思えば いくらだって付けられるけど
- シィ: そんなこと虚しいだけだわ…
- シィ: 代弁者っていうのはね
- シィ: 場合によっては 正しさから最も遠いのよ?
- シィ: わたしがリストに名を記すのは 誰かと私の感情だけが理由
- 黒江: …………
- シィ: 施設の人はすべて殺したのに
- シィ: わたしはいつまでも この施設から出られずにいる
- シィ: 自由な場所へは、行けなかった… でもいいの
- シィ: 不自由なことを わたしが選んだから
- シィ: 正しくないことが わたしとユゥの繋がりだから
- シィ: あなたは、どう思う?
- 黒江: …私は
- ドン!!
- ユゥ: わわわわっ!
- 黒江: ユゥさん!?
- シィ: 襲撃?
- なぎさ: 不意打ち成功なのです…!
- なぎさ: ユゥ… もう逃がさないのです!
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- なぎさ: ユゥ… もう逃がさないのです!
- …あ! 黒江さん!!
- 黒江: なんでここに…?
- いやいや、探したんですよ!?
- 私たちが目を覚ました時には 黒江さんが消えてたので…!
- 黒江: あ…そうだよね…
- なぎささんがユゥさんを探すのに ついてきて正解でした!
- ご無事みたいでなによりです!
- 黒江: えっと…ごめんね 心配かけて…
- なぎさ: 観念するのです ユゥ…
- なぎさ: いえ、夢乃夕乍!
- ユゥ: 誰のこと?
- シィ: ?
- 黒江: !
- なぎさ: お前の本名は、夢乃夕乍
- なぎさ: 世都佳と共に岬から身を投げて ひとり生き残ってしまった女
- ユゥ: ユゥはユゥだよ?
- 黒江: (夢でみたケイさんは やっぱり本物だったの?)
- なぎさ: 前に会ってから、お前のことを 調べ上げるのに苦労したのです
- なぎさ: (なぎさもほむらから話を 聞いただけなのですが…)
- 黒江: ユゥさんは 記憶喪失ってことなの?
- なぎさ: そうなのです
- なぎさ: 記憶をなくした夢乃夕乍は
- なぎさ: 夢遊の亡霊ユゥと 成り果てると共に
- なぎさ: この宇宙のホツレと なってしまったのです
- なぎさ: ホツレてしまったものは 二度と元には戻らない
- なぎさ: ホツレは 断ち切るしかないのですが
- なぎさ: それでも、 ユゥが記憶を取り戻せば
- なぎさ: 夢遊の亡霊でなくなりさえすれば 或いは…なのです
- あの…ここに来る前にも 聞きましたけど
- “ホツレ”ってなんなんですか?
- なぎさ: ホツレとは…
- なぎさ: 『「円環の理」から分離してしまった この宇宙においてだけイレギュラーに発生する 取り返しのつかない 最悪の未来に繋がる因子のことを なぎさはホツレと呼んでいるのです』
- エンガワのオコトワリ?
- 黒江: 最悪の未来…?
- ユゥ: うーん、よくわかんないけど…
- ユゥ: ワタシ、悪い人を なくさなきゃだし
- ユゥ: あとでもいい?
- なぎさ: ダメなのです!
- なぎさ: (ユゥの魔法の正体が まだよく分かんないのですが)
- なぎさ: (なぎさの精神が 押し負けなければ)
- なぎさ: (魔法にもかからない… はずなのです)
- なぎさ: ユゥは何を願って魔法少女に なったのですか?
- ユゥ: う~ん、忘れちゃった
- なぎさ: ひとり生き残ったお前が 願いを叶えるとしても
- なぎさ: おしまいに固執する世都佳は 生き返りなんて望まない
- なぎさ: だからお前は願いによって
- なぎさ: 自分の正気を 失うことにしたのです
- ユゥ: そうなの?そうかなぁ?
- なぎさ: それでも自死を願わなかったのは
- なぎさ: 自分の記憶の中にいる 本当の世都佳が
- なぎさ: この世から消えてしまうことに きっと耐えられなかったのです
- シィ: …………
- なぎさ: 誰かの綺麗ごとで 書き換えられていない
- なぎさ: 本当の世都佳の思い出は もうお前の中にしかないのです!
- なぎさ: 夢乃夕乍の魂に空いた 空っぽの中から
- なぎさ: 世都佳を見つけるのです!
- なぎさ: 自分を思い出して 明日へ行くのです
- なぎさ: おしまいを越えていくことは 裏切りじゃないのです
- なぎさ: 失ったものを忘れていくことも 薄情だからじゃないのです
- ユゥ: うーん…なんも分かんない 困ったナァ、困ったナァ
- シィ: ユゥ!耳を貸しちゃだめ! あなたの名前はユゥよ!
- なぎさ: のああ! お前誰なのです!? 邪魔すんななのです!
- シィ: 夢乃夕乍なんて もうどこにもいない!
- シィ: ここにいるのはユゥよ!
- ???の声: いいぞ嬢ちゃんたち
- ???の声: なにが原因かは知らんが ぶつかり合うって青春だなあ
- ユゥ: んん?
- まさか本当に
- 君らみたいなお嬢さんたちが 死体屋の正体だなんてな…
- おじさんは放課後の部室に 迷い込んだ気分だよ
- なぎさ: 誰なのですこいつら? ガスの検針なのですか?
- ユゥ: 神様のご本をくれるひと?
- シィ: 知らないお客様よ? ずいぶん下品なお召し物だけど
- シィ: あなた、どなた?
- 君たちにお世話になった うちのバイトくんたちの上の者さ
- まあ、うちの社員も過去に何人か 君たちに加工されたみたいだが…
- ユゥ: バイトくん?しゃいん?
- シィ: ユゥがなくした人たちのこと じゃない?
- ユゥ: あ!そっかー 悪い人たちのお友だち?
- なぎさ: そんなことより
- なぎさ: なぎさたちまでユゥの仲間だと 思われてんじゃないのですか?
- ユゥ: えー? なぎさちゃんはお友だちだよう
- なぎさ: お前らと一緒にするななのです! 黒江もなんか言ってやるのです!
- 黒江: わ、私?…え? 何言えばいいの?
- ブルブル (すっごい怖い人たち)
- ははは 若い子は賑やかでいいねえ
- それでなんだけど
- 本当に君たちが 死体屋さんをしているのかな?
- ユゥ: うん! 悪い人も なくすだけだともったいないから
- ユゥ: 欲しい人にあげてんの!
- てめえ!わけわかんねぇこと 言ってんじゃ…
- なるほど“悪い人”…か 悪い人なら仕方ないかなあ?
- ユゥ: そうだよ? 悪い人は 悪いことをしちゃうんだよ?
- でもね、君らが殺したのは… 彼らはただの一般人だよ?
- ユゥ: いっぱんじん?
- 利用されていただけの一般人…
- ちょっとしたお願い事を 叶えてもらった代わりに
- 怖い人たちから一生こき使われる とても可哀そうな奴らさ
- 少なくとも 悪人なんかじゃ、なかった
- ユゥ: そうなの? そうかなあ?
- ユゥ: 人に頼まれて誰かを傷つけたら 悪くない人なのかな?
- ユゥ: 仕方ない理由があったりしたら
- ユゥ: 誰かから奪っちゃっても いいのかな?
- ユゥ: それに可哀そうでも 悪い人は悪い人だよ?
- …そうだね、確かに彼らは実際に
- 間違いを犯してしまった かもしれない
- しかしだからといって あいつらから罪を償う機会まで
- 取り上げていいわけじゃない だろう?
- 法律上、私刑は禁止…なんて 野暮なことを言う気はないが
- 君らのおかげで
- 哀れなあいつらは 永遠に犯罪者のままだ
- シィ: 改心できるなら、もっと前に
- シィ: 改心すれば よかったんじゃないかしら?
- ユゥ: 悪い人たちなのに 刑まで欲しいなんて
- ユゥ: わがままはよくないよ?
- つれないなぁ
- 悪党を処刑したいなら
- もっと模範的な善人で あるべきじゃないのかい?
- ユゥ: えっとね、 勘違いしてるかもなんだけど…
- ユゥ: ワタシ、善い人じゃないよ?
- ユゥ: シィからお願いされたし、 理由もあるけど
- ユゥ: 悪いことは、 悪いことのままだよ?
- ユゥ: ワタシの悪いことを 勝手に許さないでよ
- …………
- (どれだけ死体屋を洗っても)
- (集団失踪した 怪しいセミナー団体の情報しか)
- (出てこない)
- (上から聞いたのも)
- (『ケツ持ちを 割る必要はない』)
- (『ポリに気づかれる前に消せ すべて埋めろ』、だけ)
- (そしてこの度胸とイカレ具合)
- (経験則だが、 たぶん嘘はついていない)
- (まさかこいつら)
- (死体売ってるどころじゃなく ヤバい奴らなのか?)
- まだ信じられないな…
- 映画でしか観ないような 殺人鬼共だ…
- シィ: あなたは今、わたしたちの態度に 困惑し悩んでいる
- シィ: いい気なものね、わたしが夢で
- シィ: あなたに何度殺されたかも 知らないくせに…
- はははは
- 俺があと20年若けりゃ 恋に落ちてたようなセリフだ
- おい、お前ら お嬢さん方を生きて帰すな
- オス!
- FILENAME: text_521520-8_wFS6q.txt
- おい、お前ら お嬢さん方を生きて帰すな
- オス!
- 俺にも 君らと同じくらいの娘がいるんだ
- 心が痛むよ
- !!
- ユゥ: んんん??
- は!? 今、当たっただろ…
- シィ: ユゥ、大丈夫?
- ユゥ: うん
- ユゥ: でも腕は折れちゃったから 取り換えちゃった方が早いかも
- メリ…メリメリギチチチ
- ブヂッ
- ズリュッ
- !!!!!!?
- え゛?????
- ううう、腕がもげて 新しいのが生えた?
- なぎさ: (やっぱりユゥは)
- なぎさ: (自分の体を物としてしか 認識していないのです)
- なぎさ: (だからこそ簡単に生やして 取り換えたりが出来る…)
- ユゥ: シィ、この人たちって、 悪い人かな?
- シィ: …みんな ろくな悩みを持っていないし
- シィ: たぶん悪い人じゃないかしら?
- ユゥ: もう、悪いことしちゃダメだよ
- ギャ!!
- 化け物め…!
- 黒江: や、やめて! そんなことしても…!
- ユゥ: ひどいしあぶない!
- ユゥ: みんなに当たっちゃったら どーすんの?
- …………マジかよ
- ユゥ: えい
- グチャ
- う、うわああああ!!!!
- ヒィィィィ…
- シィ: ユゥ、出来ればでいいけど
- シィ: 前腕かふくらはぎを狙って 無力化してくれると
- シィ: 後でまだお話が聞けると思うわ
- ユゥ: うん!わかったー
- ぎゃっっ
- ボギッ ブチッ
- や、やめろ!やめて!
- ユゥ: えっと、えっと
- ユゥ: これが頭で… これが太ももだから…
- メキ バキ ブチチ
- あ…あわわぁ…
- ガクッ
- ギギャァアアアア!!!!!!!
- なぎさ: …………はぁ
- べキャ ブツッ
- 黒江: う゛っ…うぇ…………
- ズルュ ベリベリベリベリ
- シィ: …………
- シィ: わたしの伝え方が悪かったわね…
- シィ: ユゥ、あのね
- シィ: さっき言った場所を千切って 欲しかったわけじゃないのよ…
- シィ: そんなことしたら、死んじゃうわ
- ユゥ: あ、あれ!?そーなの?
- 黒江: 魔女を倒せば人を助けられる
- 黒江: 私にはそれだけでよかったのに
- 黒江: のろまな私が考えるスピードより もっともっと早い速度で 悪いことの塊が どっと押し寄せてきて
- 黒江: 巻き込まれた私は どうすることもできない
- 黒江: (私は、どうしよう?)
- 黒江: (誰を助ければいいんだろう?)
- 黒江: (どうやって 助ければいいんだろう?)
- 黒江: (どうすれば、環さんみたいに 正しくいられるの?)
- 黒江: (私には何もわからないよ… どうしよう…環さん…)
- なぎさ: …最ッ悪なのです!
- なぎさ: 本格的に一般人と問題を 起こしはじめやがったのです!
- シィ: ごめんなさい
- シィ: ユゥはわたしを 守ろうとしてくれたの
- ユゥ: 悪い人はあぶないんだよ?
- シィ: それにあの人たちは 自分たちのことを
- シィ: 一般的な人間だとは 思っていなかったわ
- なぎさ: ええい… 屁理屈をうだうだとなのです
- なぎさ: でも、お前らが“ホツレ”となる 要因が分かったのです
- 黒江: ?
- なぎさ: 今はお前らだけの問題なのですが このまま放っておくと
- なぎさ: 魔法少女全体の問題になる 可能性があるのです…
- 黒江: …どういうこと?
- なぎさ: よく考えるのです
- なぎさ: 魔法少女の力で 法律を誤魔化す奴は
- なぎさ: すでにいっぱいいるのです
- なぎさ: でも、もしそれが “悪党を殺したい”という
- なぎさ: シンプルで正しそうな感情を 肯定する思想が伝播し
- なぎさ: 多くの魔法少女たちが 共感してしまったら…
- 黒江: みんなそんなことしたくないよ
- 黒江: そんなことに共感できるなら もっと正しい意見にだって…!
- なぎさ: 自由な暴力を手にしても 悪党を退治したくない人間は
- なぎさ: 黒江が思っているよりは たぶん少ないのです
- なぎさ: (この宇宙は マギアレコードの実現により)
- なぎさ: (グリーフシードの奪い合いが 徐々に減少していくのです…)
- なぎさ: (「円環の理」に比べて)
- なぎさ: (マギアレコードは、魔法少女の 生存期間が大きく延びる…)
- なぎさ: (リソースに余裕ができた 一部の魔法少女たちの間で)
- なぎさ: (魔女以外の新しい矛先が 常態化されてしまう危険性は)
- なぎさ: (十分考えられるのです)
- シィ: あなたの言うことは最もだけれど 魔法少女の長い歴史の中では
- シィ: わたしたちと同じ考えの人だって 大勢いたんじゃない?
- なぎさ: 中世の頃はまだ、 世界中の人間から
- なぎさ: 共感を得られる方法なんて なかったのです
- なぎさ: 近代になっても、 メッセージを発信して
- なぎさ: 世界中で キャッチしてもらうのが限界
- なぎさ: お前たちが、社会の欲求に 答えるような相互理解を
- なぎさ: 実時間で進めていったら
- なぎさ: 魔法少女は社会の…
- なぎさ: いえ、 人類の敵にされてしまうのです
- シィ: …………なるほど
- シィ: けれど それっていずれは来る 未来なんじゃないかしら?
- シィ: 生きることを満たした人間は
- シィ: 周囲の環境も良くしたいと 考えるものよ?
- シィ: その考えは健全なものでしょう?
- なぎさ: それは…………
- なぎさ: 暴力に頼らなければの話 なのです!
- ユゥ: わわわっ! 暴力はんたーい!
- なぎさ: ユゥ…明日へ行かず 昨日に引きこもったままなら
- なぎさ: お前をここで処分せざるを 得ないのです
- ユゥ: そんなこと言われても、ユゥは 明日に行っちゃいけないんだよ?
- ユゥ: あっ そーだ!
- ユゥ: ワタシは明日なんか 欲しくないけど
- ユゥ: なぎさちゃんは欲しいんでしょ?
- ユゥ: なぎさちゃんが言うホツレ? の未来?
- ユゥ: なぎさちゃんにあげっから そんで許してくんないかなぁ?
- なぎさ: そんな未来いらねえって話を なぎさはしているのです!
- ユゥ: えぇ~?明日に行けって言ったり 行くなって言ったり…
- ユゥ: やっぱり明日なんて ロクデモナイ!
- ユゥ: 明日が来るから みんな困っちゃうんだ!
- なぎさ: ぐぬううう!
- なぎさ: ユゥの魔法の影響で 論破されテしまいそうナノデス!
- なぎさ: 黒江も何か言ってやるのです!
- 黒江: わ、私!? 急に言われても…
- 黒江: ケ、ケンカはよくないよ!
- ユゥ: そーだそーだ!
- 黒江: あ、あれ?
- なぎさ: う…!
- なぎさ: また、コノ感覚… ユゥの魔法でなぎさの精神ガ…!
- なぎさ: ええい!ヤブれカブれなのです!
- なぎさ: 全包囲シャボン爆弾!!!!
- ユゥ: わわっ! そんなのちょっと困るかもー!
- シィ: ――っ!?
- 黒江: あぶないっ!!
- 黒江: ああ…!!
- シィ: 黒江さん…!?
- 黒江: (私ダッテ…本当ハ 明日ニなんか行きたくナイ)
- 黒江: (明日にハ、 環さんがいないカラ…)
- 黒江: (ソレなのニ…知らない問題ガ 押し寄せてキテ)
- 黒江: (私が明日へ、 押し出されチャウ…)
- 黒江: …ッ、ア”ァア”アア!!
- ユゥ: なんかアブナイかも!? シィ!一回逃げちゃおう!
- シィ: あ…待って…!
- なぎさ: たたた大変なことに なってるのです!
- なぎさ: やっちまったのです!
- なぎさ: お前もいつまで寝てるのです!
- う…うう~~ん……
- って、ななぁっ!?
- なぎさ: 黒江が自分のドッペルに 呑み込まれそうなのです!
- …!
- 黒江さん、黒江さん…! 返事をしてください!!
- FILENAME: text_521520-9_wFS6q.txt
- 黒江: ………… どうしてだろう
- 黒江: どうしてみんな 分からないことばかり聞くんだろう
- 黒江: どうして私には 正しいことが分からないんだろう
- 黒江: 環さんが魔法少女を救ってくれたのに どうして余計なことばかり始めるんだろう
- 黒江: …そうだ、考えてみれば 当たり前のことだった
- 黒江: 環さんのいない明日には 価値なんてなかったんだ…
- 黒江: 環さんがいなくなったあの日 あの日がきっと、私のオシマイ
- 黒江: どうして私はオシマイの向こうまで
- 黒江: 生きていかなきゃいけないの?
- お姉さんの探していた人は 見つかりましたか?
- 黒江: ううん
- 黒江: あの人はもう、 どこにもいないんだった
- 黒江: …あなたのお父さんは 見つかったの?
- いいえ
- 僕もあなたと 同じなのかもしれません…
- 父とは会えませんでしたが
- 僕は次の駅で 降りようかと思います
- 黒江: え…本当にそれでいいの?
- いいんです
- 僕はまだ誰でもないけれど
- 僕が父の息子であったことだけは なくなったりしません
- 日々の積み重ねで どれだけ思い出が希釈されようと
- 僕の過去には、確かに父がいる
- 何もなくなったりはしないんです
- 黒江: でも、今日は、明日にも お父さんはいないんだよ?
- 明日に持っていけるのは 父との記憶の欠片だけ…
- それすらも、いつかきっと 溶けてしまう
- だからせめて この列車を降りてしまうその前に
- お別れくらいは決心しなくちゃ…
- 「…黒江さんッ!」
- 黒江: え…
- よかった、黒江さ…
- うぐ…!
- 黒江: どうして、あなたが…?
- 黒江さんがドッペルに 呑み込まれそうだったから
- 助けようと思ったんですが…
- 私も巻き込まれちゃって え、えへへ…
- ぐぅ…
- 黒江: 大丈夫…?
- ここ、なんだか息苦しくって… 早く出ましょう…!
- 黒江: …………
- 黒江さん…?
- 黒江: …私は、出なくていいよ
- え?
- 黒江: ここを出たら…明日に 行かなきゃいけなくなっちゃう
- ほ??
- 黒江: …私ね、私…
- 黒江: あなたが思ってるような 魔法少女じゃないんだ
- へ??? きゅ、急にどうしたんですか?
- 黒江: 本当の私は何も決められないの
- 黒江: 私が憧れた人みたいに
- 黒江: 誰かを助けてみたかった 希望を分けてみたかった
- 黒江: 魔法少女に…なりたかった
- 黒江: でも、なれなかった…
- 何言ってるんですか!
- 黒江さんは私を! 助けてくれたじゃないですか!
- 黒江: 違うの…そんなことないの
- 黒江: あなたのことは 運よくそうなっただけ…
- 黒江: 私はあの時、グリーフシードを あなたに分けてあげられなかった
- 黒江: 環さんなら、絶対に渡してた…
- 黒江: 私はずっと…怖くて震えてるだけ 迷って足踏みしてるだけ
- 黒江: 誰かを助けられる力なんて 持たなきゃよかった…
- 黒江: せっかく魔法少女の魔法で
- 黒江: 誰かを助けられるように なったのに
- 黒江: 助けられなかった人と
- 黒江: 助けないことにした人の ことばかり思い出しちゃう
- 黒江: 今までは仕方なかったことが 正しくないことに変わっちゃう…
- 黒江: 私は環さんみたいに すべての魔法少女を選ぶどころか
- 黒江: ユゥさんやなぎささんみたいに
- 黒江: 選ばない人を 決めることも出来ない
- 黒江: 魔法少女になんか ならなきゃよかった…
- 黒江: 初めから誰かを助けられる 魔法なんてなければ
- 黒江: こんなことで 悩まずに済んだのに…
- 私は…
- 私は魔法少女になれて よかったです!
- 私、魔法少女じゃなくても 何もできなかったから
- 何も選んだりできなかったから
- 魔法少女になった今なら
- いつかひとつくらい 選べるかもしれない
- 選べなかったことは 過ちじゃなくて
- ただの失敗なんですよ?
- 私のろまだから 失敗することには慣れてるんです
- ママが言ってました
- 失敗は別のことでも 取り返せるって
- 出来なかったことは全部
- 過ちじゃなくて、 失敗にしときなさいって
- 誰かを助けられなかったことを 後悔する人に過ちが…
- 罪があっていいはずない じゃないですか!
- 黒江: …………
- …黒江さんの苦しみが 続いてしまうなら
- 私がその… 環さんみたいになります!
- 明日の私は すごい魔法少女になって――
- …っ!
- 黒江さんから貰えなくたって
- 両手いっぱいの グリーフシードを…!
- 黒江さんの過去にいる私のことを
- 過ちじゃなくて ただの失敗にしてみせます!
- 黒江: (…ああ、そうか、そうなんだ)
- 黒江: (この子はどこか、 環さんに似てる…)
- 黒江: (羨ましいな…)
- ???: あなたも本当は 分かってるでしょ?
- ???: あなたは環いろはを 崇拝しているけど
- ???: あなたの魂が共感できるのは ユゥやシィなんだよ
- ???: あなたの狭くて臆病な魂は
- ???: 人一倍正しさに怯えるくせに 正しさに反発してしまう
- ???: 自身の感情の希薄さを 嫌悪する癖に
- ???: 道理より感情を優先する
- ???: あなたの感情は ちっぽけだからこそ妥協できない
- ???: あなたが逃げたすべては 罪悪の因果であり
- ???: 背徳と裏切りに他ならない
- ???: あなたは 魔法少女になれるどころか
- ???: 本来は 魔法少女に殺される側の人間…
- ???: だからもう 明日へ行く必要なんかないよ?
- ???: この宇宙であなただけは あなたの魂を許してはいけない
- ???: あなたの本質は
- ???: 空に届かぬ
- ???: 真っ黒な星
- FILENAME: text_521520-10_wFS6q.txt
- 黒江: 環さんはもういない
- 黒江: 環さんは正しいまま 私だけが、どんどんみじめになっていく
- 黒江: 環さん、どうしよう 私、私のこと 誰に聞いたらいいのかもわからない
- 黒江: 私の中身が漏れ出していく
- 黒江: 環さんは、どうして私を助けたの?
- 黒江: もしもあの時、諦めていてくれたら こんな思いは しなくて済んだ
- FILENAME: text_521520-11_wFS6q.txt
- シィ: はぁ…はぁ…!
- シィ: (ここまで来れば… 大丈夫だと思うけど…)
- シィ: …ユゥとはぐれちゃった…
- シィ: (なぎさって子を撒くために あえてわたしと離れたのかな…)
- シィ: (…わたしが一緒にいても 何もしてあげられないけれど…)
- シィ: …………
- シィ: (…黒江さんから現れた ドッペル…)
- シィ: (ユゥは知らないみたい だったけど)
- シィ: (あれが魔法少女の可能性…)
- ???: やあ、シィ
- ???: そろそろ魔法少女の契約を する気になったかい?
- シィ: キュゥべえ… 久しぶりね
- シィ: 相変わらずあなたにも 悩みがないのね…
- シィ: やっぱり信用できないわ
- キュゥべえ: 悩みか… 問題なら山積みではあるんだけど
- キュゥべえ: あいにくボクらには 感情がないからね
- キュゥべえ: それはそうと
- キュゥべえ: 夢遊の亡霊が戻ってくる前に 以前の続きといこう
- キュゥべえ: キミが魔法少女として契約し 願いを叶えさえすれば
- キュゥべえ: キミの悪夢は終わる
- シィ: …………
- キュゥべえ: 先刻の反社会勢力との 無益な抗争も
- キュゥべえ: キミの悪夢が消え去れば 起こり得ないことだ
- キュゥべえ: それに今のまま人類相手に 自己満足の制裁を加えるよりも
- キュゥべえ: 魔女の脅威から 善良な市民を守る方が
- キュゥべえ: よほど有益だとは思わないかい?
- シィ: …………
- キュゥべえ: それにしても意外だよ
- キュゥべえ: なぜキミは夢遊の亡霊に 殺人行為を続けさせるんだい?
- キュゥべえ: キミの能力と証言から推察するに
- キュゥべえ: 夢遊の亡霊もキミの悪夢には 現れているんだろう?
- シィ: …………
- ユゥ: もしワタシが シィの夢に出てきたら言ってね?
- ユゥ: ワタシ悪い人だから いつか夢に出ちゃうと思うんだ
- ユゥ: そん時は ワタシのこともなくさなきゃ
- シィ: うん…分かった その時は、必ず伝えるわ…
- シィ: わたしは、あなたに ひとつだけ嘘をついた
- シィ: わたしは、あなたになら 何度殺されたって構わないのよ
- シィ: 夢の中でどれだけ恐怖し あなたを憎んでしまっても
- シィ: それすらも わたしとあなたの繋がりだから…
- シィ: それなのにわたしには あなたに報いる方法が何もない
- シィ: …わたし、ユゥを守りたい
- キュゥべえ: 夢遊の亡霊の…かい?
- シィ: 今までも、今も、ユゥは わたしのことを見てくれた
- シィ: “先生”でも“氏子様”でもない わたしの名前を呼んでくれた
- シィ: ユゥが手を引いてくれたから
- シィ: わたしは生まれた意味を 考えることができた
- シィ: その答えが間違っていたとしても ユゥは、わたしの希望なの…
- シィ: それなのにわたしは あの人の好意に甘え
- シィ: ユゥにまで罪を背負わせている
- シィ: 魔法少女になって せめてユゥと罪を共にしたい…
- シィ: 魔法少女になれば ユゥを守ることは可能かしら?
- キュゥべえ: キミの意図は理解しかねるけれど 造作もないだろうね
- キュゥべえ: キミがボクと契約して 魔法少女になればね
- キュゥべえ: さあ、キミの願いを 聞かせてくれるかい?
- シィ: …………
- シィ: わたしは…誰かの悩みや苦しみを 知るだけじゃなくて
- シィ: 相手の希望や喜びを知りたい
- シィ: わたしの中にあるような
- シィ: ちっぽけで 薄っぺらなものじゃない
- シィ: 黒江さんが聞かせてくれた
- シィ: 善人も悪人も 分け隔てなく救ってしまう
- シィ: 人の心の愛を知りたい
- キュゥべえ: キミの能力で得られる情報の幅を 広げたいということかい?
- キュゥべえ: キミはその能力が見せる悪夢に 悩まされていたはずだけど?
- シィ: 魔法少女が抱く希望が持つ意味を
- シィ: 感情のすべてを 知ることができたら
- シィ: わたしは二度と、諦めや 誰かのせいにするんじゃなくて
- シィ: わたしの意思で ユゥと共に罪を重ねられるわ
- シィ: わたしは夢の中で
- シィ: 虐げられた誰かと
- シィ: 過ちを犯した誰かの 希望と絶望のすべてと同化して
- シィ: わたしかもしれなかった誰かを わたしが殺せる
- キュゥべえ: ボクとしては 人間なんかじゃなくて
- キュゥべえ: 魔女を倒して もらいたいんだけどね
- キュゥべえ: それにキミは
- キュゥべえ: あれほど悪夢のことを 嫌っていたじゃないか
- シィ: たとえ悪夢が終わらなくても
- シィ: わたしにも 正しい希望が見えたら…
- シィ: あの人の心の中にある愛が 見えたら
- シィ: わたしの巨大で醜い希望を あの人に伝える術があれば
- シィ: どれほど虚しく 呪われた道だとしても
- シィ: わたしは自分自身の力で あの人の手を引いて明日へ行ける
- シィ: ユゥと共に間違い続けられる
- キュゥべえ: 願いは叶えてあげられるけど
- キュゥべえ: キミのそれは 魔法少女の義務ではない
- キュゥべえ: キミはまだ、どんな魔法少女に だってなれるんだ
- シィ: …………
- シィ: あなたには 理解できないだろうけど
- シィ: わたしたちはもう手遅れなの
- シィ: 叶えてよ、キュゥべえ わたしの願いは
- シィ: 「相手の心と繋がりたい」
- キュゥべえ: わかった 契約は成立だ
- シィ: 「わたしは…間違い続けるために 心が知りたい…」
- シィ: これで… 願いは叶ったの…?
- キュゥべえ: ああ
- キュゥべえ: どんな形で叶ったのかは ボクにもわからないけどね
- シィ: それなら…試させて まずはあなたで…
- FILENAME: text_521520-12_wFS6q.txt
- シィ: これで… 願いは叶ったの…?
- キュゥべえ: ああ
- キュゥべえ: どんな形で叶ったのかは ボクにもわからないけどね
- シィ: それなら…試させて まずはあなたで…
- シィ: 「うっ…!?」
- シィ: キュゥべえの膨大な記憶が わたしに流れ込んでくる…?
- シィ: ユゥからも前に聞いた、魔法少女と魔女の関係性 宇宙を維持するためのエネルギーは 魔法少女が魔女になる時に回収されていること
- シィ: でも、この宇宙には魔法少女の穢れを浄化する 自動浄化システムが存在していて ドッペルはそのための仕組み…
- シィ: 魔法少女の真実も、キュゥべえの中には ただの情報として入ってる…
- シィ: それにしても膨大な量ね あまり繋がり過ぎると危険…
- シィ: …他にも流れ込んでくる?
- シィ: キュゥべえがこれまでに契約してきた 魔法少女たちの記憶と感情…!
- シィ: 黒江さん…環いろは…百江なぎさ…
- シィ: この記憶は…
- シィ: ここは…病院…?
- シィ: 赤ん坊…?
- ???: ―???― お願い、キュゥべえ
- ???: ―???― このままじゃ病院の人たちも、私も、この子も 魔女に取り込まれて死んじゃう
- ???: ―???― 魔法少女の契約をさせて…!
- キュゥべえ: ―キュゥべえ― 魔法少女に適した精神年齢は過ぎているし
- キュゥべえ: ―キュゥべえ― 資質が弱まっているキミが魔法少女になっても 魔女には勝てないよ?
- ???: ―???― それでも、ほんの少しでも この子が生き残る可能性があるなら…
- キュゥべえ: ―キュゥべえ― …わかったよ 願いはどうするんだい?
- ???: ―???― 願いは…
- ???: ―???― 「この子が人の痛みを、苦しみを わかる人になりますように」
- ???: ―???― ママはそれがわからずに いろんな人を傷つけちゃったから…
- ???: ―???― ごめんね、思惟(しゆい)…
- ???: ―???― あなたはママみたいにならないで…
- ???: ―???― キュゥべえ
- ???: ―???― この子の未来を選ばせてくれて ありがとう
- シィ: ………… …………
- シィ: 思惟… わたしの、名前…
- キュゥべえ: 「“対象と記憶を同期する” これがキミの魔法のようだね」
- キュゥべえ: 「キミには何が見えたんだい?」
- シィ: …魔法少女に関する記憶
- シィ: それから…わたしのお母さんが 契約した時の記憶…
- シィ: …………
- シィ: お母さんは… わたしのために願っていた…
- シィ: わたしの人生のはじまりは
- シィ: 決して 憎しみや絶望じゃなかった…
- シィ: わたしはこれから 道を踏み外すけど
- シィ: その前に知れてよかったわ
- シィ: ありがとう キュゥべえ
- ユゥの声: シィ!シィ?
- シィ: ユゥ…!
- ユゥ: よかった! 無事だったんだ!
- ユゥ: なぎさちゃんから逃げんのに 時間掛かっちゃった
- ユゥ: …んん?もしかして魔法少女? お願い事、見つかったんだ!
- シィ: うん… やっと覚悟が決まったの
- シィ: これからはユゥと一緒に
- シィ: わたしも魔法少女として 生きていける
- ユゥ: うんうん シィはもっと悪い人に
- ユゥ: いなくなって もらいたかったんだね
- シィ: これからも、わたしと一緒に 罪を重ねてくれる?
- ユゥ: うん!シィは善い子だから なんだって手伝ってあげんね?
- ユゥ: 本当は黒江ちゃんたちを 助けてあげたいんだけど
- ユゥ: なぎさちゃんに 追いつかれちゃうかもだし
- ユゥ: 困ったナァ、困ったナァ…
- シィ: ねえ、ユゥ
- ユゥ: うん?
- シィ: わたしには、 あなただけが希望なの
- シィ: あなたがくれたものが、 わたしを変えてくれた
- シィ: あなたが 名前を呼んでくれたことが
- シィ: わたしにわたしの意思をくれた
- ユゥ: ? そーなの?そーかも?
- シィ: 好きよ、ユゥ
- ユゥ: うんうん ワタシもシィのこと好きだよ?
- シィ: わたしたちの行く末が どれだけ呪われていようと
- シィ: あなたを ひとりにしたりしないわ…
- ユゥ: ワタシも寂しいの嫌だから シィと一緒にいれたらいいなぁ
- シィ: あなたの顔、もっとよく見せて
- シィ: あなたのこと、あなたの愛を もっとわたしに教えて
- シィ: わたしに勇気を分けて
- ユゥ: ………… …………
- シィ: ………… …………
- ユゥ: ??? ?????
- シィ: ……………………
- ユゥ: 今、なんか あった? なかったかも?
- シィ: …うそ
- FILENAME: text_521520-13_wFS6q.txt
- シィ: …うそ
- シィ: …………ユゥ
- シィ: ごめんね
- シィ: ごめんね、ユゥ…
- シィ: ごめんなさい…………
- シィ: 「相手の心と繋がりたい」
- シィ: ユゥがわたしをどう思っているのか もし愛してくれていたなら………… ただ知りたかった
- シィ: もしそれが愛ではなかったとしても 別によかった 構わなかった
- シィ: けれど…
- シィ: ユゥの心は、空っぽだった
- シィ: 本当に、そこにはなにひとつ、入っていなかった
- シィ: 蔑みも、同情も、愛も、何も、なかった
- シィ: がらんどうの心に、人から聞いたであろう 「魔法少女は良いことをする」という言葉が たったひとつ、落ちていた
- シィ: ユゥはただ優しい魔法少女で わたしが困っていたから、悪人を殺した わたしが望んだから、施設の人間を殺した
- シィ: わたしは自分に都合のいい姿を彼女に投影して まるでユゥが、わたしのために人を殺している ように錯覚していた
- シィ: 引き返せないところまで彼女を連れ出したのは わたしだったんだ…
- シィ: わたしが、そうさせてしまった…
- シィ: 何が 罪を共にだ… ユゥには初めから咎なんてない
- シィ: 無邪気なお人よしを、わたしが勝手に巻き込んだ 罪人は、初めからわたしひとり
- シィ: 今までありがとう、ユゥ…………
- シィ: ごめんなさいユゥ…
- シィ: わたしがあなたの美しい魂を 捻じ曲げ、穢してしまった…
- シィ: ここがきっと わたしのオシマイ これより先は、必要ない
- シィ: 必要ないのに わたしはまだ生きている
- シィ: どうしてだろう?
- シィ: わたしは… わたしは…………
- シィ: …………そうだ
- シィ: 母がわたしに託した想い… 「人の痛み、苦しみがわかるように」 わたしが生きるためじゃなく 夢で見る誰かのために生きよう
- シィ: わたしがユゥに希望をもらったように わたしが誰かの希望になろう
- シィ: たとえそれが幻だったとしても 正しい輝きではなかったとしても
- シィ: わたしがユゥになれば もっとたくさんのわたしを救える
- FILENAME: text_521520-14_wFS6q.txt
- なぎさ: やっと見つけたのです!
- シィ: …………
- なぎさ: おわっ ユゥはなんで寝て――
- なぎさ: …!
- なぎさ: …………
- なぎさ: …お前が、ユゥを殺したのです?
- シィ: …ユゥのソウルジェムは 胃の内壁にあるんだ
- シィ: 僕はそれを知っていたせいで 彼女を、殺せてしまった
- なぎさ: …理由はよくわからないのですが
- なぎさ: ホツレを修正する手間が 省けたのです
- なぎさ: なぎさは黒江たちのところに 向かうのです
- シィ: …君は
- なぎさ: …?
- シィ: 何処からやって来たんだい?
- シィ: 宇宙のホツレなんて話は 君の妄想ではないのかい?
- なぎさ: ム…! 妄想とは心外な…
- シィ: 説明はいらない 君と同期させてもらうよ
- シィ: …………
- なぎさ: な、何なのです…!?
- なぎさ: 今の記憶は…シィの…?
- シィ: 言葉通り 君と僕を同期したんだ
- シィ: しかし…そうか これが君の記憶
- シィ: こことは違う宇宙 「円環の理」…
- なぎさ: (…なぎさ、もしかして)
- なぎさ: (ヤバいレベルの じょうほうろうえいを)
- なぎさ: (やらかしたのでわ?)
- シィ: …何が宇宙のホツレだ
- シィ: 結局、他の宇宙から来た君の
- シィ: イレギュラーさが 招いたものだろ?
- シィ: ユゥがあんな状態で 生き延びたことも
- シィ: 君の残骸のような魔女が 幾度も現れたことも
- シィ: 全て、君がこの宇宙に 留まった事が原因……
- なぎさ: うぐぐ…! バレちゃあしょうがねえのです
- なぎさ: でも今更なぎさが おめおめ還っても
- なぎさ: ホツレは直ったりしないのです
- なぎさ: それにまぁ…なぎさのせいで 酷いことになった人もいますが
- なぎさ: なぎさのおかげで良くなった ことだってあるはずなのです
- なぎさ: 人生っていうのはそういうことの 繰り返しだと思うのです
- シィ: …それには賛同するよ
- シィ: しかし、それなら聞こう
- シィ: 君の言う、ホツレが生む “悪因”というものは
- シィ: どの視点からの“悪”に なるんだい?
- シィ: 悪意の程度?犠牲者の数? それとも被害総額かい?
- なぎさ: …………
- なぎさ: なぎさから情報を抜いたなら 知っているはずなのです
- なぎさ: “悪因”の部分は
- なぎさ: なぎさがそう言っているだけ なのです…
- シィ: “「円環の理」が悲しむ事態に 繋がる要因”
- シィ: 君はそれを悪因だと定義している
- シィ: 「円環の理」というシステムが
- シィ: ひとりの魔法少女由来なのも 驚きだが
- シィ: そこから脱走した君が そんなことを気にするなんてね
- なぎさ: なぎさは「円環の理」を 困らせている自覚はあっても
- なぎさ: 「円環の理」を悲しませるほど 恩知らずじゃないのです
- シィ: そして君は、「円環の理」ならば
- シィ: 「はじめから悪くなると 決まった運命なんてない」
- シィ: と考えるのではとも思っている
- なぎさ: なぎさ自身は
- なぎさ: そんな甘っちょろいこと 考えちゃいないのです!
- なぎさ: 最悪の未来は必ず なぎさが改ざんするのです!
- シィ: …たとえお互いの全てが 分かっても
- シィ: 理解し合えるかどうかは こんなにも違うんだね?
- なぎさ: いまさらそんなことに 気が付くなんて
- なぎさ: 人間一年目かなんかなのですか?
- なぎさ: そんなだから…
- なぎさ: お前は…
- なぎさ: …………
- なぎさ: どうしてユゥを殺したのです!
- なぎさ: ユゥは確かに空っぽだけど
- なぎさ: そのまま明日へ 連れていくことだって…
- なぎさ: なぎさがやるならともかく なんでお前が…!
- シィ: 君も、僕の心は知ったはずだ
- シィ: これ以上、 僕の浅ましく醜い希望で
- シィ: ユゥを塗り替えてしまうことは 最も唾棄すべきこと
- なぎさ: なぎさはお前みたいな
- なぎさ: 妥協できない奴が 大嫌いなのです!
- シィ: フフフ…………そうだったね
- シィ: 僕はもう行くよ
- なぎさ: …!!
- なぎさ: どこに行くのですか…?
- シィ: 分かっているだろう?
- シィ: 僕は…誰かのために生きる
- シィ: 誰かの無念、怒りを晴らす そういう魔法少女になりたいんだ
- シィ: 僕自身、自分の能力の全容は 理解できてはいなかったけれど
- シィ: キュゥべえからの情報で 推察できた
- シィ: 僕が夢で体験することの大半は
- シィ: 魔法少女の資質がある者の 感情の影響
- シィ: なぎさ
- シィ: 君が母親から受けた仕打ちを 僕が夢で体験したことも
- シィ: 君の感情が遠因だったんだ
- なぎさ: …だったらなんなのです!
- なぎさ: お礼でも 言って欲しいのですか!?
- シィ: 故意に魔法少女を 選択する訳ではないけど
- シィ: 僕は黒江さんから聞いたような
- シィ: 優しく弱い者たちの為だけに 生きようと思っている
- シィ: 僕にはもう“個”は必要ない
- シィ: 声なき声に耳を傾け 誰かの代弁者を続けよう
- シィ: 君が恐れていたような
- シィ: 新しい方法で人を救う 魔法少女だよ
- シィ: それが、僕の選んだ魔法少女
- なぎさ: 誰かの復讐をしたって そんなの手遅れなだけなのです!
- なぎさ: そんなの なぎさが許さないのです!
- シィ: そうだね、 僕は許されたりしない
- シィ: けれど今の僕は魔法少女だ
- シィ: 手段を選ばなければ救える者を 救わずにいることは
- シィ: 僕が納得し諦めることで 誰かの心が踏みにじられるのは
- シィ: 見捨てることと同義だと 思わないか?
- なぎさ: 救われたりしないって 言ってんのです!
- なぎさ: お前はなんのために
- なぎさ: 希望を、幸せを、他人と 共有したいと願ったのですか!?
- なぎさ: こんなことは呪いと絶望だけ あればやれることなのです!
- シィ: …………そうだね 君の言う通りかもしれない
- シィ: けれどユゥならきっと
- シィ: 間違ったまま 最後のひとりまで救おうとする…
- シィ: ユゥならきっと、自分のために
- シィ: ひとりでも多くの自分を 救おうとする
- シィ: そうだろ? ユゥ…
- なぎさ: わわっ!?ドッペルと 一体化したのです…!?
- なぎさ: (これは…なんだかマズイものな 気がするのです…!)
- なぎさ: 大玉シャボン連弾!
- なぎさ: やっ!
- なぎさ: 外した…!?
- なぎさ: ど、どこに?
- シィの声: 「さようなら、百江なぎさ」
- シィの声: 「僕の時間はもう動くことはないだろう 僕は昨日の世界から 明日を目指す君を見ている」
- シィの声: 「さようなら、オシマイの先を目指す魔法少女」
- なぎさ: シィ! よく聞くのです!
- なぎさ: 悪因とは最悪の未来!
- なぎさ: でもホツレはホツレ! 良いも悪いもないのです!
- なぎさ: 明日のことなんて、なにひとつ 決まっちゃいないのです!
- なぎさ: そんなの明日のお前が 勝手に決めればいいのです!
- なぎさ: でもお前の所業は しっかり通報しとくので
- なぎさ: せいぜい逃げ回る生活を 満喫するといいのです!
- なぎさ: 負け惜しみじゃないのですよ!? バーカバーカ!
- なぎさ: ザマーミロなのです!
- なぎさ: …………
- FILENAME: text_521520-15_wFS6q.txt
- ぐぅ…
- (地面がドロドロで… 動けない…!?)
- 黒江さん…!
- (ど、どうにかして ここを出なきゃ…)
- 黒江: …………
- ???: お前は何も分からない お前は何も決められない
- 黒江: …………
- ???: お前は、いつか その優しさのせいで間違いを選び
- ???: 出来ることを、やってしまう
- ???: お前はいつか その優しさすらも疑ってしまう
- ???: 戦うべきことからも逃げ出し
- ???: 受け入れるべきことを 拒絶してしまう
- ???: お前は、魔法少女失格なんだ
- 黒江: …………
- ???: お前は、必ず 環さんとは違う魔法少女になる
- ???: お前の魂は
- ???: 今と未来において 魔法少女失格
- ???: だから、お前はここで 黒い星となろう
- ???: それがきっと、最善のオシマイ
- 黒江: ぐっ…!
- 黒江さん!? 何か見えてるんですか…!?
- うーん、うーん…! 私にできることは…
- このドロドロを消して 黒江さんをここから連れ出す…!
- 私だってそれぐらいは…!
- やああっ!
- ???: あなたからは明日の匂いがする 気持ち悪いやつ…
- びゃああっ!!
- …ううぅ…!
- 黒江さん…
- 私はきっと、ここで あなたを助けるために
- 魔法少女になったんです…!
- でやあっ!
- ぐっ、ぐぅ…!
- 黒江: もういいよ…もういいの
- 黒江: あなたが生きていてくれて 私、うれしかった…
- 黒江: ほっとしちゃった…
- 黒江: だからお願い あなたは、私なんかと違う…
- 黒江さん!手を!
- 私は諦めません! 無理かもしれないけど 無理じゃないかもしれない!
- ごめんなさい黒江さん あの時私がもっと強ければ 余計なお願いをしなければ…
- 私、失敗しちゃったけど
- 今度こそちゃんと ありがとうって伝わるまで 絶対に手を離しません!
- 黒江: ―黒江― なんで…どうしてそんな…
- 黒江さんも私だからです! 何も分からないから 優しくなりたくて必死なんです!
- 私は私を諦めたりしない!
- ???: 本当に気持ち悪い…
- ああっ!
- 黒江…さ…
- 黒江: …ごめん、ごめんなさい
- 黒江: やっぱり私、魔法少女になんか なっちゃいけなかった…
- 黒江: 環さんがいないと 何もできない…誰も助けられない
- 黒江: 魔法少女にさえならなかったら
- 黒江: 助けてもらうことに 感謝してさえいればよかったのに
- 黒江: どうして…………
- 黒江: ああ、そっか、私もう
- ???の声: 「黒江さん」
- 黒江: ――っ!?
- だ、誰…?
- ???の声: 「教えてくれるかな?」
- ???の声: 「あなたは、誰のために魔法を使う?」
- 私はっ!
- 私の魔法で困ってる人を 目の前の人を助けたい!
- 私たちは不幸じゃないって 証明したい!
- ???の声: 「うん、任せて」
- いろは: ―いろは― 黒江さん
- 黒江: ―黒江― 環さ…!
- 黒江: ―黒江― …………
- 黒江: ―黒江― やっぱり私は、環さんを…
- 黒江: ―黒江― ごめんね、環さん
- 黒江: ―黒江― 私はあなたにすがりたくて あなたの幻まで作っちゃった
- 黒江: ―黒江― ごめんなさい…
- 黒江: ―黒江― 私はあなたが救った、たくさんの 魔法少女のひとりに過ぎないのに
- 黒江: ―黒江― あなたには私なんかより 大切な人たちがいっぱいいるのに
- 黒江: ―黒江― ごめんなさい…
- いろは: ―いろは― どうしてあやまるの?
- 黒江: ―黒江― 環さんがいなくなって 私、何も分からなくなっちゃったの
- 黒江: ―黒江― ある日突然 私の中身がなくなっちゃったみたいな
- 黒江: ―黒江― 大好きだった歌がこの世から消えてしまって
- 黒江: ―黒江― あんなに口ずさんだメロディを 思い出せなくなっちゃうような
- 黒江: ―黒江― 大好きだった物語がこの世から消えてしまって
- 黒江: ―黒江― あの日感動した私の心まで一緒に この世界からなくなっちゃったような
- 黒江: ―黒江― 今までの感情が全部 気のせいだったのかもって…
- いろは: ―いろは― 哀しい思いをさせちゃってごめんね…
- いろは: ―いろは― …私のわがままだけど 私は黒江さんには、笑顔でいてほしい
- いろは: ―いろは― そのためなら 私、いくらでも頑張れるんだよ?
- いろは: ―いろは― 優しい黒江さんが 悲しい思いをしなくて済むような…
- 黒江: ―黒江― 私だって!
- 黒江: ―黒江― あなたが生きるための理由になれるなら 私のことなんかどうでもよかった!
- 黒江: ―黒江― 環さんが生き続けなきゃいけない 理由になれるんだったら!
- 黒江: ―黒江― あなたじゃなくて私だったら! 死んじゃっても、魔女になったって!
- いろは: ―いろは― そんなこと言わないで
- いろは: ―いろは― 言わないでよ、黒江さん
- いろは: ―いろは― そんなことは、二度と言っちゃいやだよ
- いろは: …黒江さん、私、幻じゃないよ?
- いろは: 黒江さんが私を 信じてくれたから…
- いろは: 少しだけど、 また奇跡が起こせたの
- 黒江: 環さん…
- 黒江: …せっかく あなたが助けてくれた私は
- 黒江: 何も分からなかったの 何にもなれなかったの
- 黒江: 魔法少女なのに なにが正しかったのかも…
- いろは: いいんだよ、黒江さん 正しくなくたっていいんだよ?
- いろは: 魔法少女だとか、正しくあること なんて関係なくて…
- いろは: 黒江さんは黒江さんだよ 何も変わったりしないし
- いろは: 変わらなくたって ひとりぼっちじゃない
- いろは: 私たちは おんなじ魔法少女
- いろは: 私も黒江さんなんだよ 弱虫だから優しくなりたい女の子
- いろは: 私たちはいつも 何も分からないから必死なの…
- いろは: 優しくありたくて… それしかできなくて…
- 黒江: (あの子も同じこと、言ってた… でも私はきっと…)
- いろは: 黒江さん、 私に黒江さんのことを呼ばせて?
- いろは: あなたが 黒江さんじゃなくなったら
- いろは: あなたを呼べなくなっちゃう
- 黒江: …………
- 黒江: …環さん、ありがとう
- 黒江: 私を見つけてくれて
- 黒江: あなたの名前を、呼ばせてくれて ありがとう…
- 黒江: 私は…私になりたい…!
- 黒江: 私が私であることを忘れなければ 環さんは、消えない
- 黒江: 環さんがいたことを… 私が…………
- 黒江: たとえそれが あなたとは違ってしまっても…
- いろは: うん…
- いろは: 黒江さん 私を明日へ連れて行って…
- 黒江: うん…!
- 黒江: 環さんが知っている私…
- 黒江: 環さんを知っている私…
- 黒江: この私なら、 間違ってたって怖くない…!
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- いろは: 黒江さん! 手を!
- 黒江: うん…!
- 黒江: 私は… 魔法少女失格でも構わない…!
- 黒江: 私は私のまま…!
- 黒江&いろは: 明日へ!!
- 黒江: …………はぁ…
- いろは: 黒江さんの穢れは 浄化できたみたいだね
- 黒江: ありがとう…環さん…
- いろは: 私は黒江さんに 寄り添っただけだよ
- いろは: それにもし この子の体を借りられなかったら
- いろは: なにもできなかったんだから
- いろは: 黒江さんとこの子が 自分で助かったんだよ…
- 黒江: …………
- 黒江: …………これで 本当にお別れ、なのかな…
- いろは: …うん
- 黒江: …あのね、私…
- 黒江: やっぱり私… 環さんを過去にしたくない…!
- 黒江: いつかこの気持ちを 忘れちゃうことが怖い!
- 黒江: それなのに…どんどん環さんが 過去になっちゃう!
- 黒江: もし私がずっと生きられたって
- 黒江: 未来の私が“環さんのことは 良い思い出だった”なんて
- 黒江: そんなの許せない 許せないの…
- 黒江: いつか終わりが来ちゃうことを 受け入れなきゃいけないの?
- 黒江: やっぱり過去は呪いで、 未来は希望なの?
- 黒江: 過去にしか、 環さんはいないのに…!
- いろは: 私はね、悲しみを無理に忘れて ほしいとは思ってないよ
- 黒江: ほんと…?
- 黒江: ほんとに、忘れないまま、 いられるかな?
- いろは: 忘れられなくても 寂しさを埋められなくても
- いろは: その上に新しい思い出を 少しずつ重ねることはできるから
- いろは: 梅干しが酸っぱかったり
- いろは: そよ風にのって来た 猫の匂いを感じたり
- いろは: 昔好きだった飴が、またお店に 並ぶのをわくわくして待ったり
- いろは: そんな些細でも温かな出来事を 感じながら
- いろは: 悲しくても
- いろは: まだ生きていられる理由を とぼとぼ探しているうちに
- いろは: 大切だった人も、傷の輪郭も わからなくなっていく…
- 黒江: 嫌だよ! そんなの嫌…!
- 黒江: 私が弱いから そんなことを言うの…!?
- 黒江: 私は環さんを憶えていたい…!
- 黒江: 忘れなくて良いって 言ったじゃない!
- いろは: 今は受け入れられなくても 時間は、あなたの味方だよ
- 黒江: ――っ!?
- 黒江: 環さん…!?
- いろは: どうか、優しいままでいて 約束だよ、黒江さん
- 黒江: た…まきさん…!
- いろは: いつか、思い出になった頃に
- いろは: もう一度だけ 私を思い出して
- 黒江: …………
- 黒江: 環さん…
- …黒江さん!? 気がついたんですね!
- は~~~、よかったぁ…
- 黒江: …………
- 黒江: ―黒江― なんで…どうしてそんな…
- 黒江さんも私だからです! 何も分からないから 優しくなりたくて必死なんです!
- 黒江: …………
- 黒江: えっと…体調とか大丈夫?
- へ?私ですか?
- 必死だったので なんかよく覚えてないんですが…
- 黒江さんが無事なようで よかったです!
- 黒江: …そっか
- すみません、黒江さんを 助けたかったのに
- ずっと役立たずでしたね…
- 黒江: そんなことないよ
- 黒江: あなたがいてくれたから 私、ここに帰ってこれた
- …………!
- ふぇ?うぉへへ… そ、そんな、照れちゃいます!
- 黒江: …ありがとう
- …!
- 黒江: あなたが知ってくれてた私のこと 本当だと思えなくて、ごめん
- 黒江: でも、もう大丈夫だと思う
- 黒江: あなたが知っていた私のことを 教えてくれたおかげで
- 黒江: 正しくいられない日が来ても…
- 黒江: 魔法少女失格のまま 生きていける気がするの
- 黒江: だから…ありがとう
- …………
- …どういたしまして!
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- 魔法で紡がれた物語は 何処にも残らない
- あなたの声も 掌の温度も
- あなたが見つけてくれた私以外
- いつかすべて この世界に溶けてしまう
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- 黒江: ユゥさんとシィさん、そしてジョンさん 他の死んじゃった人たちも見当たらなくて 私たちは魔法にかけられたような気分だった
- 黒江: なぎささんとはテレパシーが繋がって 合流することができたけど…
- 黒江: …つまり…
- ユゥさんもシィさんも 逃げちゃったってことですか!?
- なぎさ: ま、まあ、そんなところ? なのです!
- なぎさ: いやぁ~なぎさとしたことが だいしったい?なのです!
- 黒江: …ユゥさんが起こした事件は どうなっちゃうのかな…
- なぎさ: ユゥとシィがやったことは
- なぎさ: 魔法少女がどうとか 関係ないのです
- なぎさ: あれは普通の連続殺人事件
- なぎさ: なぎさたちの出る幕じゃ ないのです
- なぎさ: たぶんそのうち捕まるのです
- 黒江: …………
- 黒江: (ユゥさんたちは魔女の結界に 証拠を捨てているはず…)
- 黒江: (それになぎささんが言っていた ホツレの話だと)
- 黒江: (魔法少女が表立って トラブルを起こすのは…)
- 黒江: (なぎささんはふたりが 捕まらないと思ってるんだ)
- 黒江: ユゥさんとシィさんは 理由があって事件を起こしてた
- 黒江: これからも、繰り返すよね…?
- ひぃ…止めないと 大変なことになっちゃいます…!
- なぎさ: き、きっと大丈夫なのです、よ?
- 黒江: どうして…?
- なぎさ: えぇと、えーと…
- なぎさ: 実は、あのあとシィが 魔法少女の契約をしたのです
- なぎさ: 悪人を更生させる力が欲しい だとか、なんだとかを願って…
- なぎさ: そりゃそうなのです
- なぎさ: 悪人は更生させた方が コスパが良いのです!
- 黒江: …………
- なぎさ: な、何なのです…?
- 黒江: …そう
- なぎさ: むむむむ…
- なぎさ: (疑われているのです…?)
- いや~、それを聞いて 安心しました!
- 魔法少女になることで、改心して くれたのかもしれませんね!
- 黒江: …あ、うん そうだね……
- なぎさ: 黒江も不安はあると思うのですが
- なぎさ: ユゥとシィのことは、なぎさが 責任を持って監視しとくので
- なぎさ: 黒江たちは今まで通りに 生きていけばいいのです!
- はぁ、でもさすがに 全部お任せするのは…
- なぎさ: なぎさはお前の500倍強いので 心配無用なのです
- なぎさ: もし何かあったら ちゃんとこき使ってやるのです!
- う~ん、 まあそこまで言うのでしたら…
- なぎさ: そんなに心配いらないのです
- なぎさ: (…この宇宙でなら)
- なぎさ: (呪いと共に生きたって それも自由かもしれないのです)
- なぎさ: …黒江
- 黒江: なに?
- なぎさ: 魔法少女だって まず自分のために生きるのです
- なぎさ: 人のことがどうとかは
- なぎさ: 心に余裕がある奴に 任せとけばいいのです
- 黒江: …うん
- なぎさ: それから――
- なぎさ: 誰かを助けるっていうのは
- なぎさ: チーズを分け与える程度で いいのですよ?
- なぎさ: 運命だとか使命っていうのは なんか窮屈で自由じゃないのです
- 黒江: …うん?そうかもね? どうしちゃったの?
- なぎさ: …………
- なぎさ: …黒江 お前だけは、逃げ続けるのです
- なぎさ: 明日の先が終わるまで
- なぎさ: どんな試練からも 逃げ切って欲しいのです
- 黒江: ううん 大丈夫だよ?
- 黒江: 環さんはきっと 立ち向かったと思うから…
- 黒江: 私はもう、逃げずにいられる たとえそれが…
- なぎさ: …………
- 還るべき者たちは残り
- 希望と絶望の境界は混じり合って 宇宙は、ゆっくりと衰弱していく
- ホツレた因果は元には戻らない
- それでも、もつれながら生きていく 寄せ集めた糸で不恰好に取り繕いながら…
- なぎさ: (やっぱり妥協できない奴は)
- なぎさ: (面倒くさいから 好きじゃないのです…)
- なぎさ: それじゃあサラバなのです
- なぎさ: こんな辛気臭いとこは さっさと後にして
- なぎさ: マミの家でチーズを貰うのです
- 黒江: うん…さよなら
- またお会いしましょう!
- さてと
- いろいろなことが あり過ぎましたけど
- それでも私は今まで通りに 生きるしかありません!
- 黒江: 今まで通りに…
- 黒江: …そうだね、それが環さんに 望まれたことでもあるし…
- あ!もちろん向上心を 忘れたわけではありませんよ!
- 自分が どれだけちっぽけで弱いのか
- この度あらためて実感しました
- 私も早く一人前になって 魔女退治を頑張ります!
- 黒江: …………
- 黒江: …環さん…
- 黒江: (みじめでも、情けなくても)
- 黒江: (これからも私は今まで通りに… 私らしく生きていくよ)
- 黒江: (正しくあろうなんて もう考えない)
- 黒江: (私は私のまま…)
- 黒江: (環さんたちが教えてくれた 私のままでいるね)
- 黒江: …………
- 黒江: …あ
- 黒江: (結局、お別れ 言えなかったな…)
- 黒江: ……………
- 黒江: ありがとう環さん さようなら環さん
- 黒江: 私、まだ本当は、新しい何かで 環さんの思い出が埋まっていくことに 我慢できる自信がないの
- 黒江: でも生きてみるよ
- 黒江: あなたが去ったおしまいの向こう あなたがいない世界の始まりの先
- 黒江: 環さん…
- 黒江: いつかあなたの顔も声も 思い出せなくなる頃に
- 黒江: きっと思い出すよ
- 黒江: あなたのかけらが少しづつ無くなって それなのに世の中は全然平気で
- 黒江: いつか魔法少女たちですら 本当と童話の区別もつかなくなった頃
- 黒江: 私、必ずあなたを思い出して
- 黒江: もう一度だけ、泣くね
- see you
- ありがとう
- …………
- …………
- …………
- さようなら
- …………
- …………
- おしまい
- …………
- …………
- …………
- …………
- …………
- …………
- …………
- オシマイ
- …………
- …………
- …………
- 荒々しい頂は丸く削られ お庭の小石たちの母となり
- 昨日芽吹いた新芽たちが 立派なお社に姿を変える頃
- 「ねえねえ聞いた?」
- 「ねえ見ちゃった!」
- 「ヨダカ様のその噂!」
- 「ええ~それって 恐ろしい暴走ドッペルの話?」
- 「なにをおっしゃる!ヨダカ様は この世の魔法少女が如何に救われたか」
- 「遥か昔に誕生したマギアレコードと ひとりの少女の伝説を哀れな我らに伝えたもう いにしえからの使徒ぞ?」
- 「いやいやそんなこといって 鳥のバケモノだって話じゃない?」
- 「いやいやちゃんと人間だよ? 名前だって教えてくれるんだから!」
- 「信仰と同じその名前は」
- 「×××イ××」
- Not continue. This is the last.
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