Not a member of Pastebin yet?
Sign Up,
it unlocks many cool features!
- FILENAME: text_310461-1.txt
- 玄雲: 年端も行かぬゆえ 見逃してやるつもりもあったが
- 玄雲: 抗うならば、 容赦なく冥府へ送る
- 千鶴: …っ!
- キュゥべえ: 千鶴、迷ってる暇はない 今すぐボクと契約するんだ
- 千鶴: くそっ…アタシはただ… 巧生の職人を 助けたい一心だったんだけどな…
- これで、依頼を頂いた武具は全部 間違いはありませんか
- 山右衛門: おう、数に違いはねぇ
- 山右衛門: 千鶴、質の方はどうだ
- 千鶴: 悪くねぇ 硬さも切れ味も抜群だ
- 千鶴: いつも通りのいい仕事だよ
- 千鶴: 手裏剣ひとつにしても
- シュッ
- トッ
- 千鶴: 重さが均等にできてて 寸分もブレねぇ
- 山右衛門: ふっ、問題はないみてぇだな いつも世話をかける
- 巧生の職人にとって泰党は ご先祖様が暮らした場所
- 力になるのは当然です
- それに、泰党の炭がなけりゃ この武具は作れませんから
- 持ちつ持たれつですよ
- 山右衛門: 確かに俺たちの技が 混然一体となったもんだからな
- 千鶴: ちょっとでも 技術が漏れたら大変だな
- 山右衛門: もしも、俺たちの技術を 漏らすようなヤツが現れたら
- 山右衛門: 生かしちゃおかねぇよ
- 千鶴: うーん…
- 山右衛門: なんだ、難しい顔して
- 千鶴: いや、泰党と巧生の職人は 支え合ってるって話だけどさ
- 千鶴: 実際のところアタシらって アイツらを支えられてんのか…?
- 千鶴: 今日みたいに 取引ばっかしてる気がする
- 山右衛門: ばっかだなぁ、オメエは
- 千鶴: ぁあ?
- 山右衛門: 俺たちが使う武具以外にも あの職人たちは作ってんだろ?
- 千鶴: そりゃな
- 山右衛門: 周りのヤツらにしたら、 巧生の武具っつーのは魅力的だ
- 山右衛門: 国の長たる隅谷だけじゃねぇ 外の領主たちだって同じ
- 山右衛門: テメエたちの兵に使いたいし 外に売って金にもしてぇ
- 山右衛門: ってなると、ならず者だって わんさか出てくんだよ
- 山右衛門: たまたま最近が 平和だったってだけだ
- 千鶴: 立派なもん作ってるのに 解せねぇ話だな
- ドタドタ
- お頭!
- 山右衛門: なんだ、うるせぇな
- こちらから炭を届けに 巧生へ向かった者から報告が…
- 山右衛門: …どうした
- 職人の者たちが襲われて 依頼された品を買い叩かれたと…
- 山右衛門: 噂をすればさっそくだな
- 千鶴: まさか、こんなに早く 力になれると思わなかったよ
- FILENAME: text_310461-2.txt
- 山右衛門: 簡単に状況は聞いたが、 いったい何があったんだ
- 千鶴: ああ、アタシにも聞かせてくれ
- …………
- 思い出しても腹立たしいのですが 武具を買い叩かれました…
- これじゃあ、 材料の元を取るのも難しく…
- 千鶴: 買い叩くって… 抵抗はしたんだろ…?
- もちろんです!
- しかし、相手は険呑としており、 武器もチラつかせる始末…
- 殺されてはかなわないと、 応じざるを得なかったのです…
- 千鶴: 要は強奪じゃねぇか…
- 山右衛門: それで、相手は誰だ
- この相磨の国を治められている 隅谷様の一門…熊井様でした…
- 山右衛門: やっぱ、野郎か…
- 千鶴: やっぱって、 親父は何か知ってたのか…?
- 山右衛門: 隅谷が動いてるっていう話を 耳にしてたんだよ
- 山右衛門: 今年の天候は 飢饉の前触れがあったからな
- 山右衛門: それに乗じたヤツらの侵攻や 農民の蜂起を食い止めたいらしい
- 千鶴: そりゃあ立派な話だけど、 金を払わねぇのは駄目だろ…
- 千鶴: その武具はどこに行ったんだ アタシらが取り戻してやる
- 熊井様の居城となると 恐らく、水名城かと思います
- 千鶴: 行こう、親父!
- 山右衛門: 急くんじゃねぇ 動くのは情報を集めてからだ
- 山右衛門: って、アイツ…
- 山右衛門: 千鶴はどこ行きやがった!
- 昼頃に居たのは 他の者も目撃しているんだが…
- 山右衛門: あのヤロウ… ひとりで突っ走りやがったか…?
- 山右衛門: …まあいい ここに集まったヤツで始めるか…
- 山右衛門: まず状況についてだが
- 山右衛門: 水名城に武具が運び込まれたか 確認はとれてねぇ
- 山右衛門: だが、アイツらの蔵を破って 金品を奪える算段はついてる
- 山右衛門: 水名城に着いたら 先に向かったヤツらと合流
- 山右衛門: ソイツらの手引きで侵入して 金目のものを手に入れるぞ
- 手に入れたものについては いつもの流れで?
- 山右衛門: ああ、足がつかねぇように流して 他のもんに変える
- 山右衛門: それで巧生のヤツらも いくらか足しにできるだろう
- わかった
- 千鶴の声: ちょっと待ってくれ!
- 山右衛門: 待ってくれだぁ?
- 山右衛門: テメエ! どこをほっつき歩いてやがった!
- 山右衛門: 頭数に入ってんだぞ!
- 千鶴: 待てって親父!
- 千鶴: 熊井に変な動きがあるって聞いて 調べもんをしてたんだよ!
- 山右衛門: なにぃ?
- 千鶴: アイツ、手に入れた武具を 水徳寺に依頼して保管してやがる
- 山右衛門: ――っ!?
- 山右衛門: …独断で動いたのは許せねえが 帳消しにしてやる
- 千鶴: ごめん…親父…
- 千鶴: でも、熊井と隅谷のヤツらは それで白を切るつもりだ
- 千鶴: 城のどこを捜しても 証拠のブツはねぇんだから
- 山右衛門: 盗みに入る手前、 相手が何を言おうが構わねぇさ
- 山右衛門: ただ、買い叩いた武具がねぇのに 盗むってのは流儀に反する
- 山右衛門: 物があるかは確認しておきてぇ
- 千鶴: じゃあ何人か貸してくれ アタシが水徳寺に行く
- 山右衛門: …よし、わかった
- 山右衛門: 俺たちはテメエらの報告まで 水名城の近くで待機だ
- FILENAME: text_310461-3.txt
- 千鶴: 寺の坊主たちは寝静まってる
- 千鶴: 見たところ見回りも少ない 今なら手分けして入れそうだ
- 手はず通り 武具の確認が先決だ
- 千鶴: わあってるよ
- 千鶴: さすがに買ったもんすらねぇのに 盗みを働くのは良心が傷付く
- 巧生の職人を疑るわけじゃないが 念には念を入れておかねえとな
- 千鶴: おう
- 千鶴: なんだ…人の気配がない…
- 千鶴: (寝静まっていると思ったら… こりゃ違うな…)
- 千鶴: (そもそも、人の気配がねぇんだ…)
- 「ぐぁあっ!」
- 千鶴: (まさか…)
- 千鶴: (アタシらが誘い込まれたのか!?)
- 千鶴: 「ウゥッ!」
- 千鶴: グッ…!
- 玄雲: ここにも泰党を名乗る 盗っ人が忍び込んでおったか
- 千鶴: ――っ!?
- 玄雲: その足では動けまい
- 玄雲: 連れて入った仲間も捕まえるゆえ しばし待たれるが良い
- 千鶴: (千鶴様を舐めんなよ… 足がやられたぐらいで…)
- 千鶴: う…
- 千鶴: (めまい… くっそ…毒か…)
- キュゥべえ: 助けが必要かい? 千鶴
- 千鶴: (なんだ…コイツ…)
- キュゥべえ: ボクの名前はキュゥべえ
- キュゥべえ: キミがボクと契約して 魔法少女になってくれるなら
- キュゥべえ: 何でもひとつ 願いを叶えてあげるよ
- 千鶴: (何、言ってんだ…コイツ…)
- 千鶴: (毒が回って… 変なもんでも見えてるのか…)
- 千鶴: くっ…
- ゴクッ…
- 千鶴: 幻覚なんかに、救われなくても… これで大体…解毒…できる…!
- 千鶴: 『はぁ…はぁ…』
- 「気をつけろ! この坊主、分散して武装…」
- 千鶴: 『ぐ…うごけ…』
- 「グァアアッ!」
- 千鶴: 『毒なんかにやられるような… 鍛えかたじゃ…ねぇだろ…!』
- 「武具は見つけた…! 誰か…お頭に伝えてくれ…!!」
- 千鶴: いける…動ける…
- 千鶴: …っ!
- 千鶴: よりによって足を狙いやがって…
- 玄雲: 動けるようになったか、小娘
- 千鶴: (くっそ、 逃げられると思ったのに…)
- 玄雲: お主の仲間は片づいた
- 玄雲: 盗みを働こうとした罪は、 仲間とともに悔い改めてもらう
- 千鶴: この寺が預かった武具は… 隅谷が奪ったようなもんだ…!
- 玄雲: 知らぬ
- 玄雲: 年端も行かぬゆえ 見逃してやるつもりもあったが
- 玄雲: 抗うならば、 容赦なく冥府へ送る
- 千鶴: …っ!
- キュゥべえ: 千鶴、迷ってる暇はない 今すぐボクと契約するんだ
- 千鶴: …………
- 千鶴: 今のアタシに 救いなんていらねぇ…
- 千鶴: 「ただ、この坊主に勝つ力をくれ」
- FILENAME: text_310461-4.txt
- 千鶴: すげえ、なんだこれ… 体から力が沸いてくるみてぇだ…
- 玄雲: これは… まさか戦神子では…
- 千鶴: 戦神子…?
- 千鶴: なんかわかんねぇけど、 坊主がビビるぐらいの力を得れば
- 千鶴: 少なくともこの場は 突破できそうな気がするな
- FILENAME: text_310461-5.txt
- 玄雲: ぬぅっ! 薙刀を折るだと…!?
- 千鶴: はぁ…競り勝った…!
- 千鶴: 巧生の武器がなけりゃあ 厳しかったかもしれねぇな…
- 玄雲: まだ…行かせぬ…! 仲間を見殺しにするつもりか…!
- 千鶴: はぁ?
- 千鶴: アタシは犠牲になった意味まで 殺すつもりはねぇんだよ
- 千鶴: ちなみに、預かった武具は 渡すなり捨てるなり自由にしろ
- 千鶴: こっちはあくまで流儀の問題 武具が見つかりゃいい話だからな
- それで自分たちが作ったもんは 水徳寺からどこへ…
- 山右衛門: さぁな…
- 山右衛門: 水徳寺からすれば好意で預かって 泰党の侵入に遭ったんだ
- 山右衛門: 隅谷に従った熊井はともかく 隅谷への心象は悪くなったろうし
- 山右衛門: 被害にあった分の見返りで 多少は巻き上げてるかもなぁ
- 千鶴: ま、作ったもんは戻らねぇけど 金はちゃんと用意してきた
- 千鶴: ほら、 買い叩かれた分の差額だ
- ありがたい… これでしばらくやっていけます
- 山右衛門: その手に入れた金だがな 手をつけずに蓄えておけ
- と、言いますと?
- 山右衛門: 来年は恐らく凶作になる
- 山右衛門: 今のうちに備えておかねぇと 互いに首が絞まるかもしれねぇ
- 千鶴: 親父には、お天道様の言葉でも わかるってのか?
- 山右衛門: わかるんだよ 長く生きてるとな
- 千鶴: 負けて願いを叶えるなんざ、 ちょっと恥ずかしいよな
- FILENAME: text_310462-1.txt
- 千鶴: なんか、 城の近くって面白いよなぁ
- 露: そうかしら? 別に普通の町だと思うけど
- 千鶴: 露は城に住んでるから よくわかんねぇと思うけど
- 千鶴: 住んでる人間が多いからか 土地の状況がわかりやすいんだよ
- 露: ああ、そういうこと 言いたいことがわかったわ
- 露: 確かに人が多い町だと 空気の変化に気づきやすいもの
- 千鶴: そうそう
- 千鶴: 飢饉で追い詰められてたときは こんな活気なかったからなぁ
- ガヤガヤ…
- 露: ふふっ、そうね
- 露: あの頃と比べると みんなの表情が明るくなったわ
- 露: 最近は妖魔の数も減ったし 姫としては嬉しい限りね
- 千鶴: また、くらーい感じに ならねぇといいな
- 露: そうね
- 戦神子のおふたり!
- 千鶴: ――っ!?
- 露: あなたは…
- 露: あ、この町で 薬師をしている方の娘さんよね
- はい、その通りです…!
- 不躾なのは 承知しているのですがお願いが!
- 露: 私にできることなら なんでも言って
- それならお願いです!
- 一刻で結構ですので、 この子の面倒を見てください!
- 赤ん坊の声: 「あ~ぅ」
- 千鶴: うぉっ!?赤ん坊!?
- 露: ま、待って待って!
- 露: そんな、いきなり 他人の赤ん坊を見るなんて…!
- 父に代わって、急いで薬の調合に 向かわねばならないのですが
- 息子を預けられる身寄りがなく 困っていたんです…!
- 戦神子のおふたりなら 信用できます!
- 千鶴: うぇええ…?
- 露: 薬の知識があれば代わりたいけど さすがに力仕事以外できないし…
- 急いでますので 息子をお願いします!
- お礼にあぶり餅を 置いていきますから…!
- 露: ちょっとぉ!
- 千鶴: こういう便利屋として 頼られるのは不本意だなぁ
- 赤ん坊の声: 「うぁ~、キャッキャ」
- 露: 見て、千鶴 私の手遊びで笑ったわよ
- 千鶴: 今のはアタシの お手玉を見てたんだよ
- 露: ええ? 私だと思うけど
- 千鶴: いいや、アタシだね
- 千鶴: これでも里の中じゃあ 子どもに稽古をつけてんだ
- 千鶴: 千鶴姉さんの子どもの扱いを 舐めてもらっちゃあ困る
- 露: 私だって親族の子と 遊んだり…したわよ…!
- 千鶴: 露はお姫様だから 周りに面倒見てもらう方だろ?
- 露: 人を子どもみたいに…!
- 千鶴: そこまでムキになるなら、 ひとつ勝負してみるか?
- 露: いいわ、内容は?
- 千鶴: 赤ん坊ってのは、 なぜかしんねぇけどな
- 千鶴: 顔を隠して急に見せると 喜ぶような節がある
- 露: あー…あれね…? もちろん知ってるわ
- 千鶴: ほんとか…?
- 千鶴: まあいいや
- 千鶴: それで勝負して、 より子どもが笑った方の勝ちだ
- 露: 要は…
- 露の声: 「こう隠して」
- 露: こう、見せればいいのね
- 千鶴: そういうことだ
- 千鶴: んじゃ、さっそくやるぞ
- 露: ええ
- 赤ん坊の声: 「あ~ぁぅ」
- 露&千鶴の声: 『「せーのっ!」』
- 露: ばあっ!
- 千鶴: やあっ!
- 露: …………
- 千鶴: …………
- 露: 赤ちゃんが消えた!?
- 千鶴: んなこたあ、わかってるよ!
- FILENAME: text_310462-2.txt
- 千鶴: もぐっ…
- 露: あむっ…
- 千鶴: あぶり餅を置いてくとか 前じゃ考えらんねぇな
- 露: 串についたお餅まで食べないと もったいないわ
- 千鶴: なーんて食べちまった手前 責任はアタシらにある…
- 露: そして解決できなければ 私たちもただでは済まないわ…
- 露: 戦神子の評判は地に落ちて 私たちが争いの火種になるかも…
- 露: 早く捜しにいきましょう
- 露: もしも人さらいだとしたら、 売られてるかもしれないわ…!
- 千鶴: いや、もうさらわれてるって
- 千鶴: アタシらが顔を隠した 一瞬の隙をつきやがったんだ
- 露: 物音ひとつしなかったけど…?
- 千鶴: それができるヤツらが、 この相磨の国にはいるだろ…
- 露: …まさか、泰党?
- 千鶴: だろうよ
- 千鶴: 身内の行動を考えりゃあ まだこの辺りにいるはずだ
- 千鶴: アタシらが捜し始めて消えた頃に この場を離れるだろうからな
- 露: 気配はある…?
- 千鶴: どうだろうな…
- 千鶴: …………
- 露: …………
- 赤ん坊の声: 「ぁああああ゙!うぁああああ゙ん!」
- 千鶴: 赤ん坊の声!
- チッ、見つかっちまったか
- って、誰かと思ったら千鶴か でかくなったなぁ
- 露: 誰…?
- 千鶴: アタシがちっさい頃にいた クズ野郎だ
- 千鶴: 親父がぶっ殺そうとしたけど 逃げ足だけは速くてな
- 覚えてくれてたなんて嬉しいね
- 千鶴: うるせぇ いいから赤ん坊を返せ
- 千鶴: 今ならなんも咎めねぇよ
- 金を脅し取るのもわかってたか さすがは山右衛門の娘
- だけど、提案されたところで 聞く耳はない
- 千鶴: アイツ!
- 露: 追いかけるわよ!
- はぁ…はっ…はぁ… 振り切れねえ…
- オレは何を相手してんだ… 化け物か…!?
- 露: いいえ、あなたが相手してるのは 西と東の戦神子よ
- 千鶴: これで挟み撃ち成功ってな
- まさか、巷で噂になってる 戦神子ってお前らのことかぁ!?
- ぬぁああ…ついてねぇ…
- 千鶴: さ、しょうもない 追いかけっこは終わりだ
- 露: 赤ん坊を返しなさい
- …今、返しても許してくれる?
- 露: な、わけないでしょ!!
- FILENAME: text_310462-3.txt
- 露: 赤ん坊を返しなさい
- …今、返しても許してくれる?
- 露: な、わけないでしょ!!
- んじゃあ、逃げるまでだ!
- 千鶴: ――っ!?
- 千鶴: 露!クナイだ!
- 露: エッ!?
- 露: …っ!
- 隙さえできれば十分だ!
- 千鶴: ケガは!?
- 露: ないけど、アイツが!
- はぁっ…はぁ…!
- 千鶴: やべっ、また町に戻る 隠れられると厄介だ!
- 露: 一か八かだけど任せて!
- 露: ふっ!
- ぎゃっ!
- 露: 赤ちゃんは無事よ!
- 千鶴: よしっ、コイツも確保した
- いっでぇええッ!
- 千鶴: 赤ちゃんはもっと つれぇ思いをしたんだよ
- ぬぅぅ…
- 千鶴: しっかし、驚いたな
- 千鶴: あぶり餅が刺さってた串を 投げて仕留めるなんて…
- 露: ふふっ
- 露: 戦神子の強化された体じゃないと できない芸当でしょ?
- 千鶴: ああ、驚いた
- すみません本当に 面倒を見て頂いちゃって
- 露: いえいえ そちらは無事に終わりましたか?
- はい
- ひどい咳の方だったんですけど 無事に落ち着きました
- 父が留守だったので、私の知識で 対応できて良かったです
- って、あら?
- 千鶴: な、なんかあったか…? 赤ん坊なら元気元気!
- じゃなくて
- おふたりとも なんだか疲れてそうだなって…
- お薬出しましょうか…?
- 露: いえいえ、そんな!
- 千鶴: そうそう、あやし方勝負をして 疲れただけだから
- 露: ええ、力が入ったわね!
- 千鶴: なっ
- 露: あはは
- 千鶴: あはは
- …………?
- FILENAME: text_310462-4.txt
- 露: はぁ… 今日は変な疲れ方をしたわ…
- 千鶴: 助けを求められるっつっても 赤ん坊の面倒は予想外だったなぁ
- 千鶴: ただ、アタシとしては 露の攻撃も十分驚いたけどな
- 露: もしかして串の話?
- 千鶴: そうそう、だって串だろ? 前の露だったら考えられねぇよ
- 露: 串を使ってまで攻撃をするように 私を変えたのはあなたじゃない
- 千鶴: は?アタシ?
- 露: ほら、千鶴たちと一緒に 修練した時があったじゃない
- 露: この、一太刀で終わらせる!
- 露: はぁああッ!
- 露: いたッ!
- 千鶴: ニッ、これで1回死んだな
- 露: えっえっ? 腕に何かぶつかってきたわ
- 千鶴: 単純な話だよ 露に石ころを投げたんだ
- 露: 石!?
- 千鶴: 卑怯とは言えねぇだろ?
- 千鶴: 実戦じゃあ 武器が失われる恐れがある以上
- 千鶴: 身の周りにあるもので戦う方法も 会得しとく必要があるんだよ
- 露: なるほど…
- 露: 確かに私の戦い方って 自分の武器がある前提だわ
- 露: 不測の事態を想定できていない…
- 露: まさか石ころを投げただけで 形勢を逆転されるなんて…
- 千鶴: 隙を作ることが目的だからな
- 千鶴: さっき、露の首に当てたのも 細い木の枝だぞ
- 露: むぅ…
- 露: 今のところ 10勝10敗とは言っても
- 露: なんだか悔しいわ…
- 千鶴: 言われてみれば そんなこともあったな
- 千鶴: んで、悔しいから こっそり訓練を積んでたわけか
- 露: まぁ…そうね…
- 露: 悔しさもあるけど 年齢は私の方が上でしょ?
- 千鶴: あん…?
- 露: 姉である私としては、 妹より強くありたいわけよ
- 千鶴: いや、姉でも妹でもねぇよ
- 千鶴: でもまあ… 姉ちゃんぽいとは思うけど…
- 千鶴: つか、得意不得意なんて あってもいいだろ
- 千鶴: 露は頭が良くて 色々教えられるんだからさ
- 千鶴: ちょっとぐらい妹のアタシにも 自慢できることを残しといてくれ
- 露: ふふ、わかったわ
- 露: …ちなみに今回の技って 泰党の技のひとつにできるかしら
- 千鶴: …戦神子の馬鹿力が必要だから 絶対に技のひとつにはならねぇよ
- 千鶴: 腕力だけで鉄砲みたいに 串を飛ばすって言われてもな…
- 露: …まあ、そうよね
- 千鶴: ほんと、気を抜いた瞬間こそ、 一番気をつけるべきだよな
- FILENAME: text_310463-1.txt
- 露: うーん…
- 露: 森に自生する樹木も うまく使えば武器になるのね…
- 千鶴: そうそう
- 千鶴: 特にアタシらは 隊列を組んだりとかしねぇで
- 千鶴: 木の上を 跳び回ることが多いだろ?
- 千鶴: だから、追手を追い払うために 枝をしならせてムチにするとか
- 千鶴: けっこう応用が利くんだよ
- 露: 私たち戦神子の力があれば、 もっと応用できるかしら
- 千鶴: 力が強ぇから 幅は広がるかもしれねぇな
- 露: 例えば…そうね…
- 露: 枝じゃなくて 樹木だってしなるじゃない?
- 千鶴: ん、まぁ…
- 露: それを私たちの力でしならせて 泰党の人たちを乗せれば
- 千鶴: うん
- 露: 戻る時の勢いで飛ばせるから 簡単に城へ入られるかも
- 露: ほら、泰党の人たちが 木から木に移る時に使う滑空術
- 露: あれを使えば きっとできると思うのよね
- 千鶴: ムササビみたいに飛べるのは 否定しねぇけどよ
- 千鶴: うちの里の連中を なんだと思ってんだよ…
- 千鶴: 大砲の弾を人間にしようとか 言いかねないな…
- 露: そんな危険なこと 言うわけないでしょ…!
- 千鶴、ちょっといいか
- 千鶴: ああ、今日の修練も終わったから いつでも大丈夫だ
- 露: ええ、そうね
- 露: それじゃあ、 私は城に帰らせてもらうわね
- 千鶴: ああ、またな
- 露: うん
- 千鶴: で、何か用か?
- 水名とは手を結んでいる だが、あまり連れてくるな
- 千鶴: はぁ?なんでだよ… 今までも連れて来てただろ…
- あまりにも頻繁すぎる上に 奧まで連れ込みすぎだ
- 我々が秘匿したい話などが 露姫の耳に入るのは敵わない…
- 千鶴: そりゃなんだよ 露が裏切るとでも言いてぇのか?
- その恐れは常に付きまとう そういう世の中だ
- 千鶴: 肝っ玉の小せぇヤツだな
- なっ
- 千鶴: 冗談だ 以後、気をつけるよ
- 千鶴: (さ、そろそろ 軽く仮眠でもとっかな…)
- ――――
- 千鶴: なんか騒がしいな… 親父…?
- 笑い事じゃないでしょう
- 何百年も我々が耐えられたのは 門戸を閉ざしていたから…
- それが開いた今、 秘密は漏れると考えた方がいい
- 山右衛門: だけどよ、 千鶴は露を信用してるんだろ?
- 山右衛門: 戦神子同士で通じ合うもんが あるってんなら否定はしねぇよ
- くう、こういう時に限って お頭は娘に甘い…!
- 山右衛門: それなら、 こうするのは名案じゃねぇか?
- なんです…
- 山右衛門: 千鶴を水名の親族と 祝言させるんだ
- 山右衛門: 繋がりが深くなれば お前の悩みも少しは晴れるだろ
- ははっ それは面白い話だ
- 千鶴: へ…え…
- 千鶴: (アタシが祝言だと…!?)
- FILENAME: text_310463-2.txt
- 千鶴: …………
- 千鶴: はぁ~あ…
- 千鶴: 祝言なんて 微塵も考えてなかったな…
- 千鶴: ん?
- 露: はぁ…
- 千鶴: なーに 辛気くさい顔してんだよ
- 露: あら、千鶴 まさかこんな所で会うなんてね
- 千鶴: ここで偶然会うのは 初めて会った時以来かもな
- 露: ふふっ、そうね
- 露: ん?
- 千鶴: ん?
- 露: 千鶴も浮かない顔ね もしかして何かあった?
- 千鶴: 露の気のせいだよ 別になんもねぇ
- 千鶴: それより、露は露骨に しんどそうな顔をしてたぞ?
- 露: だって 誰もいないと思ってたもの
- 千鶴: ってことは、 そっちはなんかあったのか
- 露: …ちょっとね 稽古が嫌になって出てきたの
- 「ちょっと露姫様! まだ稽古は終わってませんよ!」
- 正綱: また、稽古から逃げたそうだな
- 露: 逃げたのではありません
- 露: 不必要なことに時間を割かず 必要なことに心血を注いだのです
- 正綱: ふむ…
- 正綱: もちろん、戦神子としての戦いが 重要なのは承知しているが
- 正綱: そなたは嫁入り前 嫁ぐ準備をせねばならんのだ
- 露: お言葉ですけど父上
- 露: これでも和歌には精通してますし 連歌会での私の歌は評判です
- 正綱: それは、そうだが…
- 露: 計算も家臣より優れているという 自負があります
- 露: もしも、戦になるようでしたら 戦費の試算をしましょうか?
- 露: 星の動きや距離に合わせて 行軍の計画をしても構いません
- 正綱: いや、露…そうではなくてな…
- 露: ほら、どこへ嫁に行っても 恥じることなどありません…!
- 正綱: 茶や華などといった わびさびを知るのもまた…
- 露: 結構です!
- 露: 世にはまだ腹を空かせている子が いるというのに…!
- 正綱: …………そうか
- 露: というわけよ
- 千鶴: 露の場合は物臭で さぼってるわけじゃねぇもんな
- 千鶴: そういうところ、尊敬する
- 露: 何よ急に ちょっと照れるじゃない
- 露: …やっぱりおかしい 千鶴も何かあったんでしょ?
- 千鶴: …………
- 千鶴: 露はさ…嫁入りするために 色々とやってるけど
- 千鶴: なんか… 理想の恋愛ってあるのか…?
- 露: いえ、別に
- 露: いつか父上が決めてくるから もう、私には縁のない話よ
- 千鶴: そうだよな… 親父が決めるよな…
- 露: ええ、そんなものよ
- 千鶴: …………
- 露: ――っ!?
- 露: もしかして、好きな人がいるの? 泰党の誰か…?
- 千鶴: はぁっ!?
- 露: まさか… いつも付いてきてるお目付役…?
- 露: あれはダメよ 主に対しても金魚の糞だから
- 千鶴: いや、ちがっ、そうじゃない!
- 露: …そうなの?
- 千鶴: もう、この話はやめ!
- 千鶴: 妖魔の気配も感じるし 気持ちを切り替えていこう!
- 露: ええ…
- FILENAME: text_310463-3.txt
- 露: 少し手強かったけど ふたりでかかれば楽勝だったわね
- 千鶴: だなっ
- 千鶴: なにしてんだよ
- 千鶴: アタシはまだ大丈夫だって そんな穢れも溜まってねぇしさ
- 露: 今日、浜辺で会った時と比べると 濁ってたから心配になったの
- 千鶴: あぁ…そっか…
- 露: ふん…
- 露: ねえ、ちょっと付いてきて
- 千鶴: えっ?
- 千鶴: なんだここ…すげぇ…
- 露: この間、妖魔を捜していて 偶然見つけたのよ
- 千鶴: へぇ~…
- 露: ねぇ、千鶴 蒸し返すようで悪いんだけど
- 千鶴: ん?
- 露: 恋愛の話
- 露: 別に千鶴が誰かを好きになった わけじゃないのよね?
- 千鶴: ああ、関係ねぇよ
- 露: 何に悩んでるのか知らないけど それなら今を楽しんだ方がいいわ
- 露: 私、戦神子としてみんなを救えて 本当に良かったと思ってるけど
- 露: それと同じぐらいね こうして得た自由が大好きなのよ
- 千鶴: …………
- 露: 城の中にずっといて 誰かがいないと外に出られなくて
- 露: 外に出たとしても 危険がそこら中にあって
- 露: 武勇に秀でていたとしても、 安心することはできない世の中
- 露: だけど、今の私は自由に外に出て こんな素敵な場所も見つけられる
- 千鶴: …考えもしなかった
- 千鶴: アタシも露と出会うまでは ほとんど里の中にいた…
- 露: そう思うと、世界が広がった今は 最高の時間だと思わない?
- 千鶴: うん、そうかもしれねぇ
- 露: 少なくとも私は、戦神子になって 祝言のことを考えるのはやめたわ
- 露: 祝言する時は天に任せて
- 露: 今は使命を果たしながら 全力で自由を楽しむって決めたの
- 千鶴: 自由が短かったとしても 今は楽しんだ者勝ちなのかもなぁ
- 千鶴: …うしっ! アタシも考えるのはやめるよ
- 千鶴: そして露との時間を楽しむ
- 千鶴: もちろん、戦神子としての使命も 果たすけどな
- 千鶴: それに、 悩んでる時間がもったいない
- 露: そうそう
- 露: 今の私たちは、 ならず者ぐらいへっちゃらだしね
- 千鶴: 軽くひねって ちょっと散歩にでも繰り出すか
- FILENAME: text_310463-4.txt
- 千鶴: ふぅ…
- 露: まさか、あれからまた 妖魔の気配を感知するなんて…
- 露: さすがに疲れたから 今日は帰りましょうか
- 露: …千鶴?
- 千鶴: …………
- 露: ん…?
- 千鶴: …………
- 露: あの… ちょっと袖…放して…
- 千鶴: …………かも
- 露: なに…?
- 千鶴: アタシ…嫁入りするかもぉ…!
- 露: ぇえっ!?
- 露: もしかして… ずっと悩んでたのって…それ…?
- 千鶴: うん…
- 露: 嫁入りするかもって… 自由を楽しむどころじゃない…
- 千鶴: そうなんだよ…!
- 露: それで、相手は…?
- 千鶴: 露のところかもしんねぇけど わかんない…
- 露: 水名の誰かなのね まあ今の関係なら…そっか…
- 千鶴: …アタシさぁ
- 千鶴: 体ばっかり鍛えてきて、 人を殺す練習ばっかしてきて
- 千鶴: 露みたいに嫁に行くための 稽古なんてしたことねぇんだよ…
- 千鶴: ぜってぇ無理だ… うまくいきっこねぇ…
- 露: そっか…
- 露: うーん…
- 露: そういう悩みなら 私で解決できるかもしれない
- 露: もし、必要なことがあれば いくらでも稽古の相手になるわ
- 千鶴: じゃなくてさ! ごめん、ウソついた!
- 露: ま、まってどこから!? 嫁入りの話から!?
- 千鶴: 違う…それは本当で… 稽古の話は関係ねぇんだよ…
- 露: じゃあ、いったい何…?
- 千鶴: 知らないヤツと 急に一緒になるのが…怖い…
- 千鶴: 話を聞いてさ… 寝ようとして…
- 千鶴: 現実味がねぇから ちょっと想像してみたら
- 千鶴: 相手のことわかんねぇし… なんか怖くなってきて…
- 露: 可愛いこと言うわね…
- 千鶴: だって、そうだろ! 露は怖くねぇのかよ!
- 千鶴: 急に知らない男とツラを合わせて はい、コイツが夫ですって
- 千鶴: クソみたいなヤツだったら アタシ、どうすりゃいいんだよ!
- 露: 言いたいことはわかるけど… そういうものじゃない…
- 千鶴: アタシは嫌だぁ!
- 千鶴: せめて知ってるヤツがいい!
- 千鶴: ひっ…ひぃぃぃん…
- 露: ちょっと、千鶴!
- 露: …………
- 千鶴: …………
- 露: 落ち着いた?
- 千鶴: ゔん…ごべん…
- 千鶴: …ほんとさ 露が男だったら楽だったのに…
- 露: それを言われたら 私だって同じ
- 露: 千鶴が男だったら 人となりもわかるし嬉しいわ
- 露: けど…
- 露: 私たちは戦神子同士じゃないと 出会えてないはずよ
- 千鶴: ん… なら、女同士で良かった…
- 露: とりあえず、悩んでいるよりかは きちんと父上に聞いてみなさい
- 千鶴: わかった…そうする…
- 山右衛門: はぁ? オメェが祝言する?
- 山右衛門: 何言ってんだか 無理に決まってんだろぅが
- 千鶴: …は?
- 千鶴: ぁあっ!? 昨日話してただろ!
- 山右衛門: 昨日だぁ…?
- 山右衛門: …あれか
- 千鶴: その、あれだよ! 夜中にしゃべってただろ!
- 山右衛門: んなもん冗談だ
- 山右衛門: 今の泰党にはお前が必要だ 嫁になんてやれるかよ
- 山右衛門: 少なくともあと2・3年は しっかり働いてもらうつもりだ
- 千鶴: んだよ! 本気で悩んだのにぃ!
- 山右衛門: な、珍しい…
- 山右衛門: おい、みんなこっち来い! 千鶴のヤツが泣いてんぞ!
- 千鶴: ぜってぇ許さねぇ! 覚えてろよ、親父ぃ!
- 千鶴: もしかしてアタシって、 そそっかしいところがあんのかな
Advertisement
Add Comment
Please, Sign In to add comment