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Sae Kirino MSS JP Text

Jun 4th, 2021 (edited)
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  1. FILENAME: text_330551-1.txt
  2. 都 ひなの: 今日はありがとうな 一緒に来てくれて
  3. 都 ひなの: 実験器具を運ぶのに ひとりじゃ心もとなくてな…
  4. 桐野 紗枝: いえいえ
  5. 桐野 紗枝: わたしが好きで お手伝いしているだけですし
  6. 桐野 紗枝: 今日 実験教室をする学童では
  7. 桐野 紗枝: わたしもたまに真里愛さんと アルバイトをしているので
  8. 都 ひなの: それなら前に 真里愛から聞いたが
  9. 都 ひなの: 紗枝がアルバイトとは 意外だったぞ
  10. 都 ひなの: 学校でも良家の娘だなんだって 何かと有名だからな
  11. 桐野 紗枝: 社会勉強ですよ、ふふ
  12. 桐野 紗枝: 今回は どんな実験をするんですか?
  13. 都 ひなの: 子ども向けだからな 派手でワッと驚けるような実験だ
  14. 桐野 紗枝: もしかして、またドライアイスと シャボン玉の実験ですか?
  15. 都 ひなの: また…って話したことあったか?
  16. 桐野 紗枝: あっ、その…そうっ! 前、弟に話を聞いて…
  17. 都 ひなの: なんだ、お前弟が居たのか
  18. 桐野 紗枝: …え、あっ、はい
  19. 桐野 紗枝: (しまった…)
  20. 桐野 紗枝: (今のひなのさんは私に 弟妹がいるって知らないんだ…)
  21. 都 ひなの: 近ごろ忘れっぽいみたいで 悪いな
  22. 桐野 紗枝: …いえ、わたしの勘違いです 今、初めて言いました
  23. 桐野 紗枝: 実は、可愛い妹と 生意気な弟がふたりいるんです
  24. 桐野 紗枝: (危ない… 気を引き締めなきゃ)
  25. 桐野 紗枝: (気を抜いたら 昔と同じように接しちゃうから)
  26. 由貴 真里愛: 「カメを助けた浦島太郎は 竜宮城でおもてなしを受けました」
  27. 由貴 真里愛: 「お魚たちはひらひら踊り 美味しいご飯もたっくさん 浦島太郎はとっても楽しい時間を過ごします」
  28. 由貴 真里愛: 「けれども浦島太郎は 次第におうちが恋しくなってしまうのです」
  29. 都 ひなの: ちょっと来るのが早かったか
  30. 桐野 紗枝: まだ読み聞かせ中ですね
  31. 都 ひなの: 浦島太郎か…
  32. 都 ひなの: 既視感があると思ったら …あれだ
  33. 都 ひなの: 前に演劇部が パロディをやってたな
  34. 桐野 紗枝: …覚えてるんですか?
  35. 都 ひなの: 失敬だな
  36. 都 ひなの: いくら物忘れが激しいと言っても
  37. 都 ひなの: あの強烈な話は なかなか忘れられないさ
  38. 都 ひなの: 丁度始まるってところに たまたま立ち会わせてな
  39. 都 ひなの: せっかくだからと真里愛と 一緒に観たんだが
  40. 都 ひなの: けっこう面白かったんだ
  41. 都 ひなの: 時代が現代になっていたりと オリジナル要素が強くて
  42. 都 ひなの: 言葉選びなんかも なかなか尖った作品でな
  43. 桐野 紗枝: (…舞台の記憶は ちゃんと残ってるんだ…)
  44. 桐野 紗枝: (観に行った理由以外は… だけど…)
  45. 桐野 紗枝: ギャグ要素も強かったですけど
  46. 桐野 紗枝: あのラストの切なさは 意外でしたね…
  47. 都 ひなの: ん? あれ、切なかった…か?
  48. 桐野 紗枝: え?
  49. 由貴 真里愛: あ、ふたりともいらっしゃい
  50. 都 ひなの: 真里愛、もう読み聞かせは 終わったのか
  51. 由貴 真里愛: ええ 休憩を挟んだら化学実験教室よ
  52. 桐野 紗枝: お疲れ様です
  53. 由貴 真里愛: ふふ、ありがとう
  54. 由貴 真里愛: それで、ふたりは なんのお話をしていたの?
  55. 都 ひなの: あぁ、前に観た演劇部の 舞台のラストについてだよ
  56. 都 ひなの: アタシと紗枝で知ってる 話が違うみたいなんだ
  57. 由貴 真里愛: あ、それなら
  58. 由貴 真里愛: 本番直前に台本の流れが 変更になったって聞いたわよ
  59. 桐野 紗枝: 直前での変更…?
  60. 都 ひなの: そういえば…
  61. 都 ひなの: 確かに、劇作家が舞台後に 壇上の挨拶でそんな話を…
  62. 「み、みなさまご来場いただき ありがとうございました 本日は開演が遅れてしまい 大変申し訳ありませんでした…」
  63. 「そして突然のラスト変更に 対応してくれた演者…照明や音響 裏方のみんなも…本当にありがとう!」
  64. 「みなさまに笑顔をお届けできたのなら 嬉しい限りです」
  65. 都 ひなの: 知らない2年だったが かなり緊張した様子でな
  66. 桐野 紗枝: (知らない2年…か)
  67. 桐野 紗枝: なるほど… そういうことだったんですね
  68. 桐野 紗枝: (あの子からは何も 聞いた覚えはない…)
  69. 桐野 紗枝: 確かに、これまでも話は 見せてもらってきたけど
  70. 桐野 紗枝: 今回の話は あの子にしては珍しく
  71. 桐野 紗枝: ハッピーエンドじゃ なかったですし…
  72. 都 ひなの: なんだ、劇作家の生徒と 知り合いだったのか
  73. 都 ひなの: 内容を見せてもらうくらいの 仲だったんだろう?
  74. 都 ひなの: 本番には行けなかったのか?
  75. 桐野 紗枝: …………
  76. 桐野 紗枝: はい、そうだったんです
  77. 桐野 紗枝: 行く予定、だったんですけどね
  78. 桐野 紗枝: 私が持っている記憶は ひなのさんと真里愛さんが持つ記憶とは 異なっている
  79. 桐野 紗枝: そんな状況を作ってしまったのは 他でもない私のせい… 私が浅はかで傲慢なことを願ったからだった
  80.  
  81. FILENAME: text_330551-2.txt
  82. 桐野 紗枝: 話は、私が願いを叶える前にさかのぼる
  83. 桐野 紗枝: 募金のご協力を お願いいたしまーす!
  84. あらぁ、頑張ってね
  85. 桐野 紗枝: ありがとうございます!
  86. 桐野先輩、チラシが なくなっちゃって…
  87. 桐野 紗枝: あ、予備持ってきてるから ちょっと待っててね
  88. あれ、ここにあった ノートの山って
  89. 桐野 紗枝: あ、さっきわたしが 提出しておいたよ
  90. 日直の俺の仕事だったのに ありがとう…!
  91. え、もしかして 金魚に餌あげてくれたのも!?
  92. 桐野 紗枝: うん やっておいたよ
  93. 女神じゃん… 私、今度何か供物を…
  94. 桐野 紗枝: やだなあ、そんな大げさだよ
  95. 桐野 紗枝: 全部わたしが好きでやっているだけだから
  96. 桐野 紗枝: ほんとに気にしなくていいよ
  97. 桐野 紗枝: あ、でも本当に何かくれるって言うなら… お菓子とかだと弟たちが喜ぶかも、ふふ
  98. まぶしっ…
  99. ガラッ
  100. こらー、みんな席につけ
  101. さっそくだが昨日、学校に 匿名の電話がかかってきてな
  102. げ、クレーム?
  103. いいや、ありがたいことに お褒めの言葉だ
  104. 桐野
  105. 桐野 紗枝: あ…はい
  106. 大荷物で困っていたお年寄りの 荷物を代わりに運んで
  107. 家まで送ってあげたそうだな
  108. その方からお礼の 電話があったんだ
  109. 桐野 紗枝: あ! あの時の…
  110. 桐野 紗枝: え、でも何でわたしのこと…
  111. 桐野、鞄に油性ペンで フルネーム書いてあるだろ
  112. しかも平仮名で
  113. 桐野 紗枝: え、あっ…あー…!
  114. は!? 可愛すぎん!?
  115. 桐野 紗枝: あはは…恥ずかしいなぁ
  116. 桐野 紗枝: 小学生の頃から使ってる 手提げだったから…
  117. しかも物持ち めっちゃいいじゃん!
  118. 腰を痛めていたから とても助かったと仰っていた
  119. いい行いをしたな みんなも桐野を見習えよー
  120. みんな: 「はーい」
  121. ガラッ
  122. あ、紗枝ちゃん お疲れ様~
  123. 桐野 紗枝: …………
  124.  
  125. FILENAME: text_330551-3.txt
  126. ガラッ
  127. あ、紗枝ちゃん お疲れ様~
  128. 桐野 紗枝: …………
  129. 大丈夫、誰もいないよ
  130. 桐野 紗枝: うぅ~~~~~…
  131. 桐野 紗枝: つっかれた…
  132. ふふ、スイッチオフの 紗枝ちゃん
  133. たまにおっさんみたいな 声出すよねぇ
  134. 桐野 紗枝: …うるさい
  135. 桐野 紗枝: ここでくらいしか こんな声出せないんだから
  136. それで 今日はどうだったの?
  137. 桐野 紗枝: いつも通り 首尾は上々よ
  138. 桐野 紗枝: あ、でも前に荷物運びを 手伝ったおばあさんから
  139. 桐野 紗枝: 学校に電話がかかってきたのは 嬉しい誤算だったわ
  140. お、いつも鞄にでっかく 名前書いてるのが役立ったね
  141. 桐野 紗枝: そこは別に狙ってる わけじゃなくて…
  142. 桐野 紗枝: 単に買い替える 余裕がないだけなんだけどね
  143. 紗枝ちゃんはすごいよ 目的のためにたくさん頑張れて
  144. 桐野 紗枝: はぁ… 私が頑張るしかないからね
  145. でも、人脈を作ってお嬢様たちに 取り入って成り上がろうなんて
  146. 漫画の主人公並みの ガッツだと思うよ
  147. 桐野 紗枝: それ褒められてるのよね?
  148. もちろんだよ 今書いてる戯曲の主人公だって
  149. ちょっと紗枝ちゃんをモデルに してるところがあるくらいだもん
  150. 紗枝ちゃん、強くてかっこよくて 主人公みたいだからさ
  151. 桐野 紗枝: 恥ずかしい…
  152. 桐野 紗枝: 原作料みたいなのって とれるのかしら?
  153. がめついなぁ~
  154. 桐野 紗枝: それよりね 今日はいいニュースがあるの
  155. お、新たな 成り上がりルート?
  156. 桐野 紗枝: そうなのよ この前ね…!
  157. ガラッ
  158. 桐野 紗枝: わっ…誰ー?
  159. 都 ひなの: よっ
  160. 由貴 真里愛: うふふっ
  161. 桐野 紗枝: なんだ ひなのさんたちか…
  162. 桐野 紗枝: びっくりさせないで くださいよ…
  163. 都 ひなの: お前のその裏表の激しさは 何度見ても怖いよ
  164. 由貴 真里愛: そーう? 私は可愛くって好きよ?
  165. 紗枝ちゃん、存在自体が 創作のネタって感じで
  166. 筆が捗るよー、ふふ
  167. 桐野 紗枝: …ちょっとひどくない?
  168. 都 ひなの: お、次の舞台の戯曲か!
  169. はい、でも今 ラストで悩んでて…
  170. 由貴 真里愛: 私たち素人で良ければ いつでも相談に乗るわよ
  171. 都 ひなの: そういえば紗枝は最近 バイトでは上手くいってるのか
  172. 桐野 紗枝: そうそう、聞いてくださいよ!
  173. 桐野 紗枝: 実は高給のバイトが決まって 少し前から働きだしたんです
  174. 都 ひなの: …やばい仕事じゃないだろうな
  175. 桐野 紗枝: まさか ただの家庭教師ですよ
  176. 桐野 紗枝: ただ、相手は 学校でも有名な社長令嬢
  177. 桐野 紗枝: ボランティアの活動で たまたま仲良くなったんですよね
  178. 都 ひなの: お前それって…
  179. 桐野 紗枝: はい 令嬢とお近づきになれて
  180. 桐野 紗枝: 更に家庭教師として 良い評価を得られれば…
  181. 校内での評判も うなぎ上りってわけだね!
  182. 桐野 紗枝: その通り
  183. 由貴 真里愛: 策士ねぇ、ふふ
  184. 桐野 紗枝: しかもその時給、なんと…
  185. ごにょごにょごにょ
  186. 都 ひなの: …それは 本当に大丈夫なのか?
  187. 桐野 紗枝: …多分?
  188. 桐野 紗枝: でも、家計が近年まれに見る 火の車…という感じで
  189. 桐野 紗枝: そう悠長にも してられないんですよ
  190. 都 ひなの: そりゃあ大変だとは思うが あんまり無理するなよ?
  191. 桐野 紗枝: じゃあ、疲れてるので 肩もみお願いします
  192. 都 ひなの: おい、調子に乗るな
  193. 都 ひなの: いや、どうせなら しっかりやってやる
  194. 桐野 紗枝: …いや冗談ですよ
  195. 桐野 紗枝: ちょ、ま、くすぐった!
  196. それじゃ私 部活行ってきますね!
  197. 由貴 真里愛: いってらっしゃい 演技、楽しみにしてるわよ
  198. 私は劇作家なので 舞台上には上がりませんよ!
  199. 都 ひなの: 頑張ってるな、あいつも
  200. 桐野 紗枝: そうですね 本番、楽しみです
  201. 都 ひなの: あ、そうだ紗枝 今度、化学実験教室で
  202. 都 ひなの: ドライアイスとシャボン玉の 実験をやるんだが
  203. 都 ひなの: リハーサルに 付き合ってくれないか?
  204. 桐野 紗枝: …またあれですか? 好きですね
  205. 都 ひなの: 良いだろ 派手で子ども受けが良いんだから
  206. 桐野 紗枝: それもそうですね
  207.  
  208. FILENAME: text_330551-4.txt
  209. 桐野 紗枝: …はぁ
  210. 桐野 紗枝: 今日のバイトの客 マジでなんなの…
  211. 桐野 紗枝: あ~…思い出しただけで ムカついてきた…
  212. 桐野 紗枝: たんすの角に小指ぶつけて 苦しめばいいのに…
  213. 桐野 紗枝: …でも、家族のためには これくらい…
  214. キュゥべえ: お疲れのようだね 桐野紗枝
  215. 桐野 紗枝: …またあんた?
  216. 桐野 紗枝: 白ダヌキが喋ってる件については 驚ききったんだけど
  217. 桐野 紗枝: いつもの勧誘?
  218. キュゥべえ: キミは魔法少女になれる 素質があるからね
  219. 桐野 紗枝: それは分かったけど
  220. 桐野 紗枝: 魔法少女とかいう 非現実的なものに興味ないし
  221. 桐野 紗枝: 何でも願いが叶う…とか うさん臭すぎるにも程があるわ
  222. 桐野 紗枝: 悪徳セールスに引っかかるのは 母親だけで十分なの
  223. 桐野 紗枝: …そういうことだから 他をあたってもらえる?
  224. キュゥべえ: わかった タイミングが悪かったようだね
  225. キュゥべえ: キミが興味を示してくれるまで ボクは何度でも来るつもりだよ
  226. キュゥべえ: じゃあ、またね
  227. 桐野 紗枝: …こりないわね
  228. 桐野 紗枝: ただい…
  229. 桐野 紗枝: うわっ
  230. 桐野 紗枝: (…また借金取り…?)
  231. 紗枝の母の声: 「どうしましょう…」
  232. 桐野 紗枝: (隣の部屋で何か 話してる…?)
  233. 紗枝の父の声: 「大丈夫さ、きっと何とかなるよ」
  234. 紗枝の母の声: 「そんなこと言ったって… 給料の差し押さえってそんなの…」
  235. 桐野 紗枝: (は?)
  236. 桐野 紗枝: お父さん、お母さん
  237. 紗枝の父: 紗枝…!
  238. 紗枝の母: もう帰ってたのね おかえりなさい
  239. 桐野 紗枝: …それより今の話何? 差し押さえとか聞こえたけど
  240. 桐野 紗枝: 差し押さえなら督促状とか そういうのなかったの…?
  241. 紗枝の母: …前から来てはいたのよ
  242. 紗枝の母: だけど心配させたくなくて…
  243. 紗枝の父: ごめんな
  244. 桐野 紗枝: いや、いやいやいやぁ…
  245. 桐野 紗枝: そういうのは隠さないでって 何回かお願いしなかったっけ…?
  246. 紗枝の父: …………
  247. 桐野 紗枝: (この人たちはどうして いつもこんなに楽観的なの…)
  248. 桐野 紗枝: うちは4人姉弟の6人家族 家計は私のバイトと 小さい工場で働くお父さんのふたりで 支えてるっていうのに…
  249. 桐野 紗枝: お父さんの給料を差し押さえられたら 私たちはやっていけない…
  250. 桐野 紗枝: お父さんもお母さんも 家族が一緒なら良いって考えてるみたいだけど お金がなかったら一緒に居られなくなるんだよ
  251. 桐野 紗枝: 本当にいつも ふたりが「良い人」であるのは分かってるの それでも、それだけじゃ この世界は生きることを許してはくれない
  252. 桐野 紗枝: お金がなくちゃ 家族が一緒に居られなくなるなんて 少し考えれば分かるはずなのに
  253. 紗枝の母: 本当にいつもごめんね
  254. 桐野 紗枝: …………
  255. 桐野 紗枝: 大丈夫、心配しないで
  256. 桐野 紗枝: さすがに明日 …とかじゃないでしょ?
  257. 紗枝の父: ああ、猶予はあるって言ってた
  258. 桐野 紗枝: じゃあ、大丈夫! わたしが何とかするよ!
  259. 桐野 紗枝: 最近新しく始めた バイトがあってね
  260. 桐野 紗枝: 今月いっぱい働いたら
  261. 桐野 紗枝: とりあえずは大丈夫になる 金額が入ると思うから!
  262. 紗枝の母: いつもごめんね 紗枝にばっかり…
  263. 桐野 紗枝: ううん
  264. 桐野 紗枝: わたしだって 家族と一緒に居たいから
  265. 紗枝の弟: …どういうことだよ
  266. 紗枝の弟: オレたち 離れ離れになんのかよ
  267. 紗枝の弟: オレ、そんなのイヤだ…
  268. 桐野 紗枝: 大丈夫だよ、ね 泣かない泣かない
  269. 紗枝の弟: …ぐす 泣いてねぇもん…
  270. 桐野 紗枝: そうだね、強いね
  271. 桐野 紗枝: お姉ちゃんが全部 なんとかするから
  272. 桐野 紗枝: ねっ、だから大丈夫!
  273. 桐野 紗枝: 私が家族を守ってみせる… そう決めたの
  274.  
  275. FILENAME: text_330552-1.txt
  276. 桐野 紗枝: …というわけで 一家離散の危機です
  277. 桐野 紗枝: ほんと差し押さえとか…
  278. 桐野 紗枝: 夜逃げした時は自己破産して 乗り切ったみたいだけど
  279. 桐野 紗枝: 最早ファンタジーよ… 1周回って笑えてくるわ
  280. 都 ひなの: 紗枝、お前 夜逃げ経験してるのか…
  281. 都 ひなの: 苦労人だな…
  282. 桐野 紗枝: まぁ、可愛い弟や妹のためなら 頑張れますよ
  283. 都 ひなの: 前から弟たち含め、小さな子は 好きだったよなあ
  284. 桐野 紗枝: はい、だから ひなのさんも大好きですよ
  285. 都 ひなの: ぐぬ…
  286. 由貴 真里愛: …でも、本当に大丈夫なの? 差し押さえ…だなんて…
  287. 桐野 紗枝: 正直、かなりまずいんですけど
  288. 桐野 紗枝: 今月いっぱい働いて お金が入れば、とりあえずは…
  289. 由貴 真里愛: そうなの? あんまり無茶はダメよ?
  290. 明日の舞台、 きつかったら大丈夫だからね
  291. 優先すべきは お家のことだと思うし…
  292. 桐野 紗枝: え、行くけど?
  293. 桐野 紗枝: だってあなたが書いた 戯曲の初舞台よ?
  294. 桐野 紗枝: 私、ファンタジーは 嫌いだけど
  295. 絶賛ファンタジー書きながら
  296. 後輩に進捗詰め寄られて 死にかけてる人の前で言う?
  297. 桐野 紗枝: もう、最後まで聞きなさいよ
  298. 桐野 紗枝: …あなたの作品だけは 好きだって言おうとしたんだから
  299. 紗枝ちゃんがデレた!
  300. 桐野 紗枝: …だ、だから私だって 楽しみにしてるってこと!
  301. 桐野 紗枝: 当日はバイトも いれてないから
  302. でも前はそう言って 来られなかった…
  303. 桐野 紗枝: うっ…
  304. 桐野 紗枝: でも今回は絶対に行く 約束する
  305. …うん、わかった ありがとう
  306. 由貴 真里愛: それにしてもタイミングよく バイトが決まってて良かったわね
  307. 桐野 紗枝: はい、今回は 本当に運が良かったんですよ
  308. なんだか悪い顔してるよ 紗枝ちゃん
  309. 桐野 紗枝: フフフ… ほんっとちょろかったわ
  310. 桐野 紗枝: 令嬢か何だか知らないけど
  311. 桐野 紗枝: 家柄目当てに近づかれた なんて気付かずに
  312. 桐野 紗枝: こんな貧乏人に 仕事まで与えてくれちゃって
  313. 桐野 紗枝: ふふっ
  314. ガタッ
  315. 桐野 紗枝: ――っ!?
  316. 桐野 紗枝: 誰か外に…?
  317. あ、ごめん私の荷物が 落っこちた音かも
  318. 桐野 紗枝: はぁ…びっくりした
  319. それにしても すごい演技だったよ!
  320. 成り上がり悪役令嬢の役で 大抜擢したいくらい!
  321. 由貴 真里愛: …あぁ、良かった 演技だったのね…
  322. 桐野 紗枝: 私、そんな人間に 見られてたんですか?
  323. 桐野 紗枝: さすがにそこまで 悪女じゃないんだけど…
  324. 都 ひなの: すまん…
  325. 都 ひなの: お前なら言いかねんと 一瞬思ってしまった自分がいる
  326. でも紗枝ちゃん、これで意外と お人好しクソ真面目だからね
  327. 桐野 紗枝: お人好しクソ真面目って…
  328. 桐野 紗枝: あんたの方が 大概な性格してると思うけど
  329. ね、今度本当に 悪役で舞台に出てみない?
  330. 桐野 紗枝: 嫌よ せめて良い印象の役にして
  331. 都 ひなの: …ったく
  332. 都 ひなの: いくら人の寄り付かない 空き教室とは言っても
  333. 都 ひなの: どこで誰が聞いてるか 分からないんだから
  334. 都 ひなの: 演技にしたって ほどほどにしとけよ?
  335. 桐野 紗枝: わかってますよ
  336. 桐野 紗枝: それに令嬢の子は 普通に良い子でしたし
  337. 桐野 紗枝: まぁ、お金はもちろん 嬉しいけど
  338. 桐野 紗枝: 家庭教師って初めてだから 結構楽しいんですよね
  339.  
  340. FILENAME: text_330552-2.txt
  341. ガヤガヤガヤ…
  342. 都 ひなの: ついに発表会当日だな
  343. 由貴 真里愛: なんだかこっちが ドキドキしちゃうわね
  344. 桐野 紗枝: お疲れ様です
  345. 都 ひなの: お、来られたのか
  346. 由貴 真里愛: 家のことは 大丈夫なの?
  347. 桐野 紗枝: はい 今のところは
  348. ~~♪~~♪
  349. 桐野 紗枝: ん、電話…?
  350. 桐野 紗枝: え… この番号って…
  351. 桐野 紗枝: はい、桐野です
  352. 家庭教師の件だけど 明日からもう来なくていいわ
  353. 桐野 紗枝: …え?
  354. 桐野 紗枝: いや、何でそんな… 至らぬ点があったなら…
  355. 話はそれだけよ
  356. 桐野 紗枝: そんなっ、待っ…
  357. 桐野 紗枝: …切られた
  358. 都 ひなの: おい、大丈夫か…?
  359. 桐野 紗枝: 家庭教師… 明日から来なくていいって…
  360. 由貴 真里愛: えぇっ! そんな、どうして…!
  361. 桐野 紗枝: すみません、ちょっと 直談判に行ってきます
  362. 都 ひなの: …公演開始は1時間後だぞ
  363. 桐野 紗枝: それまでには帰ってくるので!
  364. 都 ひなの: なっ…おい紗枝!
  365. 由貴 真里愛: …大丈夫かしら 心配だわ…
  366. 都 ひなの: あいつになんて伝えよう…
  367. 由貴 真里愛: 紗枝ちゃんが観に来るの 楽しみにしていたものね…
  368. 都 ひなの: …ああ 今日が最後の舞台だからな
  369. 都 ひなの: ただ、紗枝はそのことを 伝えられていない…
  370. 由貴 真里愛: 負担になりたくないって言う あの子の気持ちもわかるけど
  371. 由貴 真里愛: …もどかしいわね
  372. 家まで来るなんて…
  373. 桐野 紗枝: 申し訳ありません… でも、どうしても理由を…
  374. 何も話すことはないわ お引き取り願える?
  375. 新しい家庭教師を 探さないといけないの
  376. 桐野 紗枝: そんな… どうして…
  377. どうしてもこうしても ありませんよ
  378. 桐野 紗枝: あっ…
  379. 桐野 紗枝: あなたからも何か 言ってもらえないかな…?
  380. 桐野 紗枝: 何か誤解が あるみたいだから…
  381. 私が言ったんです 先輩を家庭教師から外したいって
  382. 桐野 紗枝: なっ… どうして…?
  383. 私、見たんです 先輩が空き教室で話していたのを
  384. 桐野 紗枝: 空き…教室…?
  385. 桐野 紗枝: (まさか…っ)
  386. ガタッ
  387. 桐野 紗枝: ――っ!?
  388. 桐野 紗枝: 誰か外に…?
  389. 私、桐野先輩も 同じような家柄だと思ってました
  390. でも、本当はそうじゃなくって…
  391. 私の家柄を知って 近付いてきただけだったんですね
  392. お母さんが言ってたけど
  393. 貧乏人は心も貧しいっていうのは 本当だった…
  394. それに、あんな風に 思われてたなんて…悲しいです
  395. 桐野 紗枝: それは、ちが… 誤解があって…
  396. 桐野 紗枝: その…あれは本当に演技で… 冗談…っていうか…
  397. 桐野 紗枝: いえ、冗談でも言っていいことと 悪いことがあるよね…
  398. 桐野 紗枝: 本当にごめんなさい…
  399. 信じられません…
  400. それに、もしそうだとして 家のことは本当なんですよね
  401. 桐野 紗枝: っ…それは…
  402. 悪いのは私たちを騙そうとした あなたなのよ
  403.  
  404. FILENAME: text_330552-3.txt
  405. 桐野 紗枝: 騙そうだなんて…
  406. それに、そんな家の子を 我が家に入れたくないのよ
  407. 何か盗られるんじゃないかって 気が気じゃないもの
  408. 桐野 紗枝: なっ…
  409. 桐野 紗枝: そんなことは考えてません!
  410. どうかしらねぇ
  411. 桐野 紗枝: (あぁ…そうだ、そうだった)
  412. 桐野 紗枝: (貧乏人は信じてもらえない)
  413. 桐野 紗枝: (だから、私は…)
  414. ねえ、この子の キーホルダーなくなったんだけど
  415. 桐野さん、なにか 知らない?
  416. 桐野 紗枝: えっ… ううん、なんにも…
  417. えー、だって桐野さんち ビンボーだって聞いたよ
  418. 買ってもらえないから 盗んだんじゃないのー?
  419. それに、前にわたしの キーホルダー見て
  420. 可愛いって言ってたし…
  421. 桐野 紗枝: それは可愛いって思ったから 言っただけで…
  422. えーほんとかなー? 桐野さんが盗ったんじゃないの?
  423. ビンボー人は嘘つきだって お母さん言ってたよー?
  424. っ!
  425. ガタッ
  426. きゃー 桐野さん暴力反対ー!
  427. 桐野 紗枝: なっ
  428. 桐野さん、ちょっと
  429. 桐野 紗枝: 先生、私、なんにも…!
  430. 桐野さんが盗んだくせに! 嘘ばっかり!
  431. 桐野さん…
  432. 桐野 紗枝: 違う…私、違うのに…
  433. 桐野 紗枝: その後、私は先生から厳しく叱られた
  434. 桐野 紗枝: 盗みの濡れ衣を着せられ クラスの子に暴力まで振るったとされて 両親は学校に呼び出された
  435. 桐野 紗枝: 何度も何度も頭を下げて 謝っていた両親は、帰り道に 弟たちには内緒と言ってアイスを買ってくれた
  436. 桐野 紗枝: 私…盗んでなんかいない… 暴力だってしてないのに…
  437. 紗枝の父: 紗枝はそんなことしないって お父さんたちは分かってるよ
  438. 紗枝の母: だから、頑張ったご褒美の アイスなのよぉ
  439. 桐野 紗枝: …信じてくれるの?
  440. 紗枝の母: えぇ、もちろんよ
  441. 紗枝の父: お父さんたちの可愛い娘を 信じないわけがないだろう?
  442. 桐野 紗枝: じゃあ、なんで謝ったの…
  443. 紗枝の父: 貧乏人はな、信じてもらえない
  444. 紗枝の父: それは仕方のないことなんだ
  445. 桐野 紗枝: そう言って 諦めを含んだ笑みを浮かべた父親の顔を 私は今も忘れられないでいる
  446. 桐野 紗枝: 貧乏人は相手にされない だから、私は仮面を被った
  447. 桐野 紗枝: いつか成り上がるため そのスタートラインに立つために
  448. 桐野 紗枝: 「貧乏人」であることは邪魔だったから
  449. 桐野 紗枝: (それでも)
  450. 桐野 紗枝: (結局それは 偽りの仮面に過ぎない)
  451.  
  452. FILENAME: text_330552-4.txt
  453. 言い返す言葉もないようね
  454. 桐野 紗枝: …………
  455. 桐野 紗枝: (あぁ…公演時間まで あともう少し…)
  456. 桐野 紗枝: (絶対行くって言ったのに)
  457. 桐野 紗枝: (家族のことも…)
  458. 桐野 紗枝: (このバイトが出来なければ 差し押さえも始まって…)
  459. 桐野 紗枝: (最悪、もう家族一緒に いられなくなるかも…)
  460. 桐野 紗枝: (…そっか、仮面を被ると 決めた時点で)
  461. 桐野 紗枝: (家族以外の他の全部は 諦めなきゃいけなかった)
  462. 桐野 紗枝: 成り上がるのに 仮面を被るということに対して 私はきっと覚悟が足りなかった
  463. 桐野 紗枝: 親友たちだけになら、と素顔を晒して 普通の青春を過ごそうだなんて傲慢だった
  464. 桐野 紗枝: ひなのさんたちと過ごす あの放課後の空き教室だけが 私が唯一、ありのままで居られる場所だった
  465. 桐野 紗枝: だけど、それが私の甘えだった
  466. 桐野 紗枝: 本気で家族のために生きるのなら その他の一切は求めるべきじゃなかったのね
  467. 桐野 紗枝: 仮面を被ると決めたのなら ひなのさんたちと居るときだって ちゃんと仮面を被っておくべきだった
  468. 桐野 紗枝: そうしてたなら偽りの仮面が剥がれて こんな危機に陥ることだってなかったんだから
  469. 都 ひなの: 紗枝、来ないな
  470. 由貴 真里愛: えぇ… もう幕が上がるわね
  471. ひなのさんたち! もうすぐ始まるので…って
  472. 紗枝ちゃんは 来てないんですか?
  473. 都 ひなの: それが…
  474. そうでしたか…
  475. 由貴 真里愛: でも、本当に間に合わせる つもりだったと思うのよ
  476. 分かってますよ
  477. ふふ、でも最後の舞台なこと 内緒にしておいてよかった
  478. もし言ってたらきっと 紗枝ちゃんを困らせてた…
  479. 私、家族のために頑張る 紗枝ちゃんが好きだから
  480. 足なんて引っ張りたくないもん
  481. 由貴 真里愛: でも…
  482. いや…でも、間に合わせるって 言ってたんですよね?
  483. 由貴 真里愛: ええ…
  484. それなら、きっと来ますよ
  485. …うん、きっと紗枝ちゃんなら あの戯曲の主人公なら…
  486. 都 ひなの: ん?
  487. ひなのさん、今回の戯曲のラスト どう思いますか?
  488. 都 ひなの: あぁ、切なくて悲しいな お前にしては珍しいよ
  489. そうですよね
  490. ラスト、変えてきます!
  491. 都 ひなの: ハァ!?
  492. 舞台、楽しみにしていてください
  493. 私はちょっと…いやかなり 後輩に怒られてくるので
  494. 都 ひなの: お、おう…
  495. みんなちょっといいかな!
  496. 直前で悪いんだけど…
  497. 桐野 紗枝: (もう始まっちゃうな… あの子の舞台)
  498. 桐野 紗枝: (二兎追う者は一兎も得ず なんて…)
  499. 桐野 紗枝: (本当にその通りだった)
  500. 桐野 紗枝: (きっと雇い主の家の 子どもから)
  501. 桐野 紗枝: (私が貧乏だということは 学校中に知れ渡る…)
  502. 桐野 紗枝: (後輩は令嬢として有名で 顔も広いからこそ)
  503. 桐野 紗枝: (良い評判も 広がりやすいと思っていたけど)
  504. 桐野 紗枝: (まさかそれが 裏目に出るだなんてね…)
  505. 桐野 紗枝: (…これからどうしよう)
  506. キュゥべえ: 困っているようだね 桐野紗枝
  507. 桐野 紗枝: 全部全部、私の甘えのせい… 私には覚悟が足りなかった
  508.  
  509. FILENAME: text_330553-1.txt
  510. 桐野 紗枝: もしも、問題なくこのバイトを続けられたのなら
  511. 桐野 紗枝: 愛情たっぷりの両親と 可愛い弟たちや妹と一緒に
  512. 桐野 紗枝: きっとこれからも、小さな家の中 苦しい日々ではあるだろうけど それでも家族一緒に笑って暮らしていける
  513. 桐野 紗枝: それから、約束通りあの子の舞台を観に行って
  514. 桐野 紗枝: 照れ隠しに、ほんの少し茶化しながら あなたの書く作品が好きだと伝えるの
  515. 桐野 紗枝: 劇作家としていつか大物になるあなたに そのときは有名人を紹介してねなんて 軽口を叩いて…
  516. 桐野 紗枝: 家族のために生きていくのなら これからは、あそこでの時間は 減っていくのかもしれないけれど
  517. 桐野 紗枝: それでもたまに集まっては くだらない時間を過ごして笑い合う
  518. 桐野 紗枝: それが、今の私が考える幸せ
  519. 桐野 紗枝: (だけど、このままじゃ)
  520. 桐野 紗枝: (最悪、一家離散 なんてこともあり得る)
  521. 桐野 紗枝: (友だちも家族も 全部失ってしまう)
  522. 桐野 紗枝: (それなら…)
  523. キュゥべえ: ボクと契約する気になったかい?
  524. キュゥべえ: 今の状況を解決したいのなら ボクはそれを叶えてあげられるよ
  525. 桐野 紗枝: …別に あんたを信じたわけじゃない
  526. 桐野 紗枝: だけど…
  527. 何ぶつくさ言っているの?
  528. そろそろうちから 出て行ってくれないかしら
  529. 桐野 紗枝: ねぇ、キュゥべえ
  530. 桐野 紗枝: この際、なんだっていい 本当に今の状況を打破できるなら
  531. 桐野 紗枝: 神様だろうと悪魔だろうと 何にだって縋ってやるから
  532. 桐野 紗枝: 出来るもんなら 叶えてみせなさいよ…!
  533. 桐野 紗枝: (貧乏人は相手にされない)
  534. 桐野 紗枝: (そのために被った私の仮面は ひどくもろかった)
  535. 桐野 紗枝: (だから…もう一度やり直そう)
  536. 桐野 紗枝: キュゥべえ!
  537. 桐野 紗枝: 「学校のみんなが知る私を 良家のお嬢様にして!」
  538. 桐野 紗枝: …………
  539. 桐野 紗枝: (どうせ、 叶いっこないんだけど)
  540. あら桐野さん どうしたのぼーっとして
  541. 桐野 紗枝: へ…?
  542. 明日は来られる… でいいのよね?
  543. 桐野 紗枝: え…私 クビになったんじゃ…
  544. やだぁ! そんなわけないじゃない!
  545. 桐野 紗枝: でも…家のこととか 空き教室のこととか…
  546. 空き教室…? なんのことですか?
  547. 桐野さんは良家のお子さんだから 信用できるし
  548. 学校でも優等生だって 有名なあなたに
  549. 家庭教師をして頂けるなんて こんないい話ないんだから
  550. はい、よろしくおねがいします! 桐野先輩!
  551. 桐野 紗枝: えっ、あ、はい…!
  552. 桐野 紗枝: (家のことも空き教室でのことも なかったことに…?)
  553. 桐野 紗枝: (もしかして、願いが…!)
  554. 桐野 紗枝: 本当に願いが叶うだなんて とんだファンタジーね…
  555. キュゥべえ: ボクは最初からそう 言っているだろう?
  556. キュゥべえ: じゃあ早速 魔法少女について…
  557. 桐野 紗枝: あー、それ明日でもいい? ちょっと急用があるから
  558. キュゥべえ: …それじゃ、近いうちに また説明させてもらうよ
  559. 桐野 紗枝: 私の願いは学校での自身への認識を変えただけ…
  560. 桐野 紗枝: だから家計が火の車であることは変わらないし 多分これからも苦しい生活は続いていく
  561. 桐野 紗枝: だけど、しばらくはこれで 家族一緒に居られる…
  562. 桐野 紗枝: 魔法少女なんて得体の知れないものには なってしまったけど
  563. 桐野 紗枝: それでも、私は 大切な家族を守ることが出来た
  564.  
  565. FILENAME: text_330553-2.txt
  566. 桐野 紗枝: (もう舞台は終わっちゃったかも しれないけど…)
  567. 桐野 紗枝: (あの子に一言 謝らなきゃ…)
  568. ガラッ
  569. 桐野 紗枝: 遅くなってごめん…ね?
  570. 桐野 紗枝: あれ…
  571. 桐野 紗枝: みんな舞台が終わったら ここに来ると思ったけど
  572. 桐野 紗枝: 打ち上げ…とかかな
  573. 桐野 紗枝: グループチャットは…
  574. 桐野 紗枝: …って お母さんがまた詐欺に!?
  575. 桐野 紗枝: 急いで帰らないと…
  576. 桐野 紗枝: ひなのさんたちのことは…
  577. 桐野 紗枝: …まぁ、また明日も
  578. 桐野 紗枝: どうせ放課後、 この教室で会うんだし
  579. 桐野 紗枝: そのときに謝ればいいよね…
  580. 桐野 紗枝: (この時間ならもうきっと 全員ここに居るはず…)
  581. 桐野 紗枝: …よし
  582. ガラッ
  583. 桐野 紗枝: あ、あの…
  584. 桐野 紗枝: …え? 誰も来てない…
  585. 桐野 紗枝: (怒って誰も来なかった…?)
  586. 桐野 紗枝: (いや、そんなことを するような人たちじゃない)
  587. 桐野 紗枝: (怒っているなら直接…)
  588. 桐野 紗枝: (予定があったとしても 連絡がきてた…)
  589. 桐野 紗枝: …そうだ グループチャット!
  590. 桐野 紗枝: …………
  591. 桐野 紗枝: え… グループがなくなってる
  592. 桐野 紗枝: …………
  593. 桐野 紗枝: そうだ 教室においてあるノート…
  594. 桐野 紗枝: なにかあったなら きっと書置きが…
  595. 桐野 紗枝: …………
  596. 桐野 紗枝: ノートも、 一緒にあったお菓子もない
  597. 桐野 紗枝: 何にもない…
  598. 桐野 紗枝: 誰かが持って帰った…?
  599. 桐野 紗枝: …………
  600. 由貴 真里愛: グループチャットを 作らない?
  601. 都 ひなの: お、良いな 名前は何にしようか
  602. 放課後だけの関係だからー
  603. 桐野 紗枝: …聞こえが悪い
  604. 黄昏…逢魔が時… うーん…
  605. 桐野 紗枝: …中学生じゃないんだから ほら貸して
  606. あっ、ちょっと!
  607. ピロン♪
  608. 由貴 真里愛: 放課後グループ…
  609. 地味!つまんない!
  610. 都 ひなの: だな… じゃあアイコンはこれにしよう
  611. ピロン♪
  612. 桐野 紗枝: …は!?
  613. 桐野 紗枝: ちょっと私のこの写真 いつ撮ったんですか!?
  614. 由貴 真里愛: あらぁ、可愛い寝顔ね ふふふ
  615. 桐野 紗枝: もう! 恥ずかしいからやめてください!
  616. みんなで交換ノートが したいです!
  617. 桐野 紗枝: …めんどくさい
  618. えーっ!
  619. だってさ、私たちよく考えたら お互いのことあまり知らないから
  620. 都 ひなの: 確かに、紗枝のヤバい顔を 知ってて、ここでだべってる
  621. 都 ひなの: ってことくらいしか アタシらは共通点ないもんな
  622. 都 ひなの: ここで関わらなかったら 他人同士のままだったかもしれん
  623. そんな寂しいこと 言わないでくださいよー…
  624. 由貴 真里愛: そうだ、みんなのノートに するのはどうかしら?
  625. 由貴 真里愛: 思ったことを書いたり 書置きをしてみたり
  626. 都 ひなの: たまに飯屋のトイレに そういうのあるよな
  627. じゃあ、まずは 絵しりとりでもしましょう
  628. はい、ひなのさん これなーんだ
  629. 都 ひなの: あ…? これは何の化学式だ?
  630. 桐野 紗枝: いや、これ芋虫ですよね
  631. 由貴 真里愛: うーん…アリさん?
  632. …ドーナツの詰め合わせです…
  633. 都 ひなの: なぜ詰め合わせた
  634. 桐野 紗枝: …………
  635. 桐野 紗枝: (何か、おかしい…)
  636. 桐野 紗枝: 真里愛さん!
  637. 由貴 真里愛: あら? どうかしたの?
  638. 桐野 紗枝: その、舞台の件… ごめんなさい
  639. 桐野 紗枝: それで、今日誰も教室に 来なかったから
  640. 桐野 紗枝: 怒らせちゃったのかなって
  641. 由貴 真里愛: …えっと?
  642. 由貴 真里愛: 私、今日なにか紗枝ちゃんと 約束してたかしら?
  643. 桐野 紗枝: え…
  644. 由貴 真里愛: 学童のアルバイトの件…?
  645. 桐野 紗枝: い、いやそうじゃなくて 確かに約束はしてないけど
  646. 由貴 真里愛: ごめんなさい… ちょっと分からないわ…
  647. 由貴 真里愛: 私、何か忘れてるかしら…?
  648. 桐野 紗枝: いや…その… ごめんなさい…!
  649. 桐野 紗枝: (どうなってるの…?)
  650. ドンッ
  651. 都 ひなの: いったた…
  652. 桐野 紗枝: あ…ひなのさん…! その…
  653. 都 ひなの: …ん?
  654. 都 ひなの: あぁ、お前、真里愛と 一緒にバイトしてる2年か
  655. 桐野 紗枝: え…何、言って
  656. 都 ひなの: どうした? 顔色が悪いが…
  657. 桐野 紗枝: 嫌だな…いくらなんでも 趣味が悪いですよ…
  658. 桐野 紗枝: 怒らせたなら 謝りますから…
  659. 都 ひなの: …なんのことだ?
  660. 桐野 紗枝: っ!
  661. 桐野 紗枝: なに、なんなの… もう嫌…家に帰ろう…
  662. カサッ
  663. 桐野 紗枝: 下駄箱から手紙が…?
  664. 桐野 紗枝: ――っ!?
  665. 桐野 紗枝: これ、あの子の字だ…
  666.  
  667. FILENAME: text_330553-3.txt
  668. 桐野 紗枝: これ、あの子の字だ…
  669. 桐野さんへ
  670. 本当は直接お話がしたかったんだけど 今日の舞台が最後の登校日だったから 手紙になってしまってごめんね
  671. いつも周りのことを気にかけていて 誰にでも優しくって いつだってにこにこしている桐野さんが とってもかっこいいなって思ってました
  672. お嬢様ってイメージが強かったから あんまり話しかけられなかったのが ちょっと残念…
  673. 引っ越しする前にもう少し 話しておけばよかったなあ
  674. またいつかどこかで会えたら そのときはお話しできたら嬉しいな
  675. 桐野 紗枝: …は?
  676. 桐野 紗枝: 桐野さんって何… 引っ越しって何よ…
  677. 桐野 紗枝: 聞いてない なんにも知らない…
  678. 桐野 紗枝: もう、嫌…
  679. キュゥべえ: ここにいたんだね 紗枝
  680. 桐野 紗枝: キュゥべえ…
  681. キュゥべえ: ソウルジェムが 濁り始めているようだ
  682. 桐野 紗枝: ソウルジェム…?
  683. キュゥべえ: そろそろ 魔女を狩りに行こうか
  684. キュゥべえ: どうやら近くに 魔女の反応があるみたいだからね
  685. 桐野 紗枝: …そう、分かったわ
  686. キュゥべえ: その手紙はどうしたんだい
  687. 桐野 紗枝: …なんだかおかしいの
  688. 桐野 紗枝: 親友なのに まるで他人からみたいな手紙
  689. 桐野 紗枝: ひなのさんたちも… みんなの態度がおかしくて
  690. キュゥべえ: もしかしたら
  691. キュゥべえ: それはキミの願いの 影響かもしれないね
  692. 桐野 紗枝: え…?
  693. キュゥべえ: 学校のみんなが知るキミを 良家のお嬢様にすること
  694. キュゥべえ: それがキミの願いだったよね
  695. キュゥべえ: それなら学校の生徒全員に キミの願いは影響しているはずだ
  696. キュゥべえ: その結果として
  697. キュゥべえ: キミの友人との関係に 変化が起きていたとしても
  698. キュゥべえ: おかしくはないよ
  699. 桐野 紗枝: …そう なるほどね
  700. 桐野 紗枝: 校内での認識を変えた影響 …ってわけ…
  701. 桐野 紗枝: あー…ほんと馬鹿みたい
  702. 桐野 紗枝: もういいわ…
  703. 桐野 紗枝: ちょっと立ち寄りたい ところがあるから
  704. 桐野 紗枝: その用事が終わったら ちゃんと説明してもらうわよ
  705. 桐野 紗枝: 魔女とかソウルジェムとか 気になることを言ってたからね
  706. キュゥべえ: もちろん、そうするつもりだよ
  707. 桐野 紗枝: (もう、ここには 誰も来ない…)
  708. 桐野 紗枝: 元々、ここに集まっていたことに 深い理由なんてなかった
  709. 桐野 紗枝: そこにいたみんなの共通点はただ 「私の素顔を知っている」ことだけ
  710. 都 ひなの: 確かに、紗枝のヤバい顔を 知ってて、ここでだべってる
  711. 都 ひなの: ってことくらいしか アタシらは共通点ないもんな
  712. 都 ひなの: ここで関わらなかったら 他人同士のままだったかもしれん
  713. 桐野 紗枝: 貧乏という私のほんとうの姿がなければ 繋がることもなかった関係で ひなのさんの言う通り他人同士のはずの私たち
  714. 桐野 紗枝: ほんとうの私が学校から すっかり消えてしまった今 私とみんなを繋ぐものは何もない
  715. 桐野 紗枝: 私の願いは 今までのみんなとの関係を消してしまった みんなが覚えているのは 「良家の娘」である偽りの「わたし」だけ
  716. 桐野 紗枝: 魔法がどんなものか私にはまだわからないけど きっと色々うまいこと捏造された結果 放課後のこの教室での関係は すっかりなかったことになってしまったらしい
  717. 桐野 紗枝: 何が家族も友人も大事にしよう…よ 私は家族のことしか見ていなかった 私にはひとつしか守れなかった
  718. 桐野 紗枝: 結局、私はなにも見えてなかった
  719. 桐野 紗枝: みんな、私のことを理解し 応援してくれていたのに
  720. 桐野 紗枝: 一番近くで私を支えてくれていた みんなの大切さに気付けずにいた
  721. 桐野 紗枝: (だから、これはきっと そんな馬鹿な私への罰…)
  722. キュゥべえ: それにしても キミの願いは予想外だったよ
  723. 桐野 紗枝: どういうこと?
  724. キュゥべえ: キミの家庭事情を鑑みれば
  725. キュゥべえ: 当然、経済状況の改善を 直接願うと思っていたからね
  726. 桐野 紗枝: …………あー…
  727. 桐野 紗枝: その通りね 何でそう願わなかったかな…
  728. 桐野 紗枝: あんたもあんたよ
  729. 桐野 紗枝: そう提案してくれても 良かったじゃない
  730. キュゥべえ: キミ自身の願いだ
  731. キュゥべえ: ボクが提案する なんてことはしないよ
  732. 桐野 紗枝: あ、そう そういうスタンスなのね
  733. 桐野 紗枝: あんたも悪徳セールス ってわけ
  734. キュゥべえ: キミの願いは叶えられた
  735. キュゥべえ: 魔法少女としての 使命は果たしてもらわないと
  736. 桐野 紗枝: ショックすぎて色々と 冷静になってきたわ
  737. 桐野 紗枝: もういい、自力で 成り上がってみせるから
  738. 桐野 紗枝: (だからもう、みんなのことは 諦めるしかないんだ…)
  739. キュゥべえ: 紗枝、もう結界が近いよ 変身した方がいい
  740. 桐野 紗枝: …ん
  741. 桐野 紗枝: (魔法少女になったなんて あの子に教えたら)
  742. 桐野 紗枝: (ネタになる…とか言って 目を輝かせたんだろうけど…)
  743. キュゥべえ: 驚いたよ、紗枝
  744. キュゥべえ: まさか初戦でこうも簡単に 魔女を倒してしまうとはね
  745. 桐野 紗枝: はぁ…これで終わり?
  746. 桐野 紗枝: これを定期的に倒すのは骨が折れるけど 運動能力が飛躍的に向上するのは良いわね
  747. 桐野 紗枝: 前より肉体労働ができるようになって バイトの幅が広がりそうだから
  748. 桐野 紗枝: …ふぅ
  749. ひなのの声: おかしいな、確かにこっちで 魔力の反応があったはずだが
  750. 都 ひなの: ん、お前さっきの…
  751. 桐野 紗枝: あ…
  752. 桐野 紗枝: …こんばんは
  753. 由貴 真里愛: あら、あなたも 魔法少女だったのね…!
  754.  
  755. FILENAME: text_330553-4.txt
  756. 桐野 紗枝: あの後、ひなのさんと真里愛さんとは 魔法少女の先輩後輩として 再び交流を始めた
  757. 桐野 紗枝: 仲良くなるのに時間はかからなかったけど もちろんふたりに あの放課後の教室での記憶はなく 私たちは以前とは違う関係性の中にいる
  758. 桐野 紗枝: 私だけが知っている記憶 その記憶が本当のものだと 証明してくれるものはもうない
  759. 桐野 紗枝: そしてあの子は、ただの同級生として 引っ越していった
  760. 桐野 紗枝: ひなのさんと真里愛さんは あの子が引っ越したことも知らなければ あの子の名前すら、もう覚えていない
  761. 桐野 紗枝: 彼女はもう、たまたま鑑賞した劇で見かけた 知らない2年生の劇作家という存在 …私の願いがそうさせてしまった
  762. 都 ひなの: そういえば、紗枝が言っていた 切ないラストってのは
  763. 都 ひなの: どんなのだったんだ?
  764. 由貴 真里愛: それ、私も気になるわ
  765. 桐野 紗枝: あ、はい
  766. 桐野 紗枝: わたしが聞いていたラストは 悲しいものでした
  767. 桐野 紗枝: 主人公は家族が恋しくなって 家に帰ったんですけど
  768. 桐野 紗枝: それが切っ掛けでヒロインへの 恋心に気付いたんです
  769. 桐野 紗枝: だけどその時にはもうヒロインと 連絡する手段はなく
  770. 桐野 紗枝: ふたりは二度と 会えなくなってしまうんです
  771. 桐野 紗枝: 主人公は後悔するんですけど 諦めて悲しみに暮れるっていう
  772. 桐野 紗枝: …悲恋の結末でした
  773. 桐野 紗枝: そっちはどんな終わり方 だったんですか?
  774. 都 ひなの: アタシらが見たのは
  775. 都 ひなの: その後に主人公がなんやかんや 根性でヒロインを迎えに行って
  776. 都 ひなの: 会えなかったはずのふたりが 再会を果たし、幸せに暮らす話…
  777. 都 ひなの: だったんだが かなりギャグめいていたな
  778. 由貴 真里愛: ふふ、そうね
  779. 由貴 真里愛: だけどとっても 幸せで、素敵なお話だったわ
  780. 都 ひなの: そうだな
  781. 都 ひなの: 主人公は傲慢にも思えたが 最後まで諦めないその姿勢は
  782. 都 ひなの: さながら漫画の 主人公のようだったな
  783. 桐野 紗枝: でも、どうして直前で ラストの変更なんて…
  784. 由貴 真里愛: 何か伝えたい想いが あったのかもしれないわね
  785. 桐野 紗枝: 想い…?
  786. 都 ひなの: そういや劇作家のあいさつには こんな続きがあったんだ
  787. 「み、みなさまご来場いただき ありがとうございました 本日は開演が遅れてしまい 大変申し訳ありませんでした…」
  788. 「そして突然のラスト変更に 対応してくれた演者…照明や音響 裏方のみんなも…本当にありがとう!」
  789. 「みなさまに笑顔をお届けできたのなら 嬉しい限りです」
  790. 「…欲しいものがあるのなら 全部、全力で掴みに行かなくちゃって 主人公なら、そう言うと思ったんです」
  791. 「…そう、ド根性があったなら きっとどんな物語だってひっくり返せる」
  792. 「私はそんな力を信じて これからも作品を作り続けていきます!」
  793. 桐野 紗枝: …………
  794. もちろんだよ 今書いてる戯曲の主人公だって
  795. ちょっと紗枝ちゃんを参考に してるところがあるくらいだもん
  796. 紗枝ちゃん、強くてかっこよくて 主人公みたいだからさ
  797. 桐野 紗枝: (私との記憶は消えても)
  798. 桐野 紗枝: (あの子が作品に込めた 想いは消えなかった…)
  799. 桐野 紗枝: (でも、あの子が信じてくれた 私のド根性は)
  800. 桐野 紗枝: (最後の最後で 折れてしまった…)
  801. 桐野 紗枝: …………
  802. 桐野 紗枝: (でも、いつか ひっくり返して)
  803. 桐野 紗枝: (ハッピーエンドを 迎えられたりするのかな)
  804. 桐野 紗枝: (あの子の舞台の 主人公みたいに…なんて)
  805. 由貴 真里愛: 紗枝ちゃん?
  806. 桐野 紗枝: …いえ なんだかあの子らしいなって
  807. 都 ひなの: 紗枝はその劇作家と 本当に仲が良かったんだな
  808. 桐野 紗枝: …………はい
  809. 桐野 紗枝: とても大切な 私の友人たちでした
  810. 桐野 紗枝: もう…引き返せないから
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