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- 018.07.31 Updated.
- 世界は、嘘と虚構でできていた。ねじまげられた歴史のせいで、多くの人が犠牲になった。
- 子供たちがこれから学ぶのは、世界の真実と未来の物語。
- だから、語り継いでいこう。
- 今まで起きたすべてと、心に秘めた決意のことを。
- 壁に囲まれた、小さな世界。その片隅に、牧場を改装した孤児院がある。
- そこで慎ましやかに「先生」として生きている少女ヒストリアに、子供たちが声をかけた
- 「ねえ、ヒストリア先生。エレンってやつ、本当に巨人になれるの?」
- 「僕、知ってるよ。オルブド区では巨人になって、街の人を守ったんだって!」
- 「うそだあ。あいつ、手伝いもしないで、ボーッとしてるの、おれ見たもん」
- 男の子たちがうわさをする横で、小さな女の子がヒストリアの手を掴んだ。
- 「……巨人のエレンは、誰かを食べるの?」
- 声はわずかに震えている。無理もない。巨人といえば、人を食らって殺す絶対悪だと、この壁の中の人間はみなそう思っていた。
- 「彼は人を食べたりしないの。巨人の力で、戦ってくれるんだよ」
- そうなのかな、頼りになるのかな、無邪気な声。
- 「少しボーッとしてるかも。だけど、信じてあげてね」
- おだやかに笑って、ヒストリアは遠く南の空を見上げた。
- 「へえ……子供たちが、そんな話を」
- 孤児院には、ヒストリアと同期で兵士になった者たちが手伝いに訪れる。
- 子供たちが寝静まったあと、彼らと簡素な夜食をとりながら、彼女は昼間にあったことを話して聞かせた。
- 「オレは……『みんなを守って戦ってくれる良い巨人』ってことになってるのか」
- 話の張本人は、どこか戸惑った様子だ。
- 「それ以外にどう説明するってんだ。あてにならないヤツだと思われちゃ、兵団全員が困るんだよ」
- 憎まれ口のようでいて、大局を見据えたジャンの発言に、ヒストリアはうなずく。少しだけ、エレンに申し訳なさそうに。
- 「エレンのこと、疑ってほしくなかったから。背負わせてごめんね」
- 孤児院の「先生」としてのヒストリアは、エレンを調査兵団の兵器、人類を守る英雄として紹介した。それは、いまの壁の中を治める女王として必要な判断だ。
- 「……わかってるよ」
- エレンもそれは重々承知しているようで、しかし、どこか納得のいかない顔だった。
- 夜更け
- 何かと用事の多いアルミンが宿舎に戻ると、エレンはまだ起きていた。
- 「ヒストリアの話を気にしてるの?」
- 幼馴染の表情から、ただならぬものを感じる。ままならない世の中への、怒りにも似た、やり場のない感情。
- 「オレは英雄なんかじゃねえよ」
- 「そんなの、みんな知ってるよ。だけど、戦うつもりだよね」
- 「自分のために戦ってるだけだ……敵を倒して、自由になるために……」
- エレンを動かすのは、自由への渇望と、それを許さない者への怒りだ。
- アルミンたち、調査兵団の仲間は当然のように共感し、ともに戦ってきたが、果たしてそれは人類普遍のものだと言えるだろうか。
- 「壁の中の人たちは、エレンの自由がみんなの自由につながるって信じてる。エレンは違うの?」
- 「……どうだろうな」
- このとき、エレンの瞳は、海よりも遠い、夜空の果てを眺めているとアルミンは感じた。
- 朝になって、アルミンは真っ先にヒストリアのところへ向かった。胸騒ぎがしてならなかった。
- 「ヒストリア。この先、エレンが何をしても……やっぱり、みんなを守る英雄だって言う……?」
- 「エレンが戦ってくれる限りは、そう言おうと思ってる。どうして?」
- 「……なんでもない。ヒストリアにも立場があるのは知ってるから」
- アルミンには、エレンの未来にある道が、英雄的なものだとは思えなかった。飢えた獣のような感情が、あまねく人々の幸福になるとは限らないと、そう思われて仕方なかった。ただ、今は何もはっきり言うことができず、言葉を飲み込む。
- 「……私は、私の見方を伝えただけ。それにね」
- ヒストリアは柔らかく、しかし毅然と言った。
- 「ここの子供たちはエレンを直接、見ているから。今はわからなくても、いつかは自分と同じ、迷ったり悩んだりする『人間』だって、理解できると思うの」
- 未来に生きる子供たちなら、エレンという人物のことを冷静に見られるだろうと、ヒストリアは信じているのだ。
- 「……そうだね。そうだといいな……」
- 牧場の朝のけだるい風は、アルミンの不安をただ揺らすだけで、答えを出してはくれなかった。
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