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Ebony MSS JP Text

Mar 10th, 2023
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  1. FILENAME: text_310481-1.txt
  2. <紀元前31年6月…>
  3. <プトレマイオス朝の女王 クレオパトラの宮殿にて…>
  4. <深更…>
  5. エボニー: …………
  6. エボニー: (クレオパトラ様…)
  7. エボニー: ―エボニー― (私の人生はあなたのもの…)
  8. エボニー: ―エボニー― (私の命はあなたのもの…)
  9. エボニー: ―エボニー― (すべてはあなた次第…)
  10. エボニー: ―エボニー― …………
  11. エボニー: ―エボニー― …そう心得るよう、 私は教えられてきました…
  12. エボニー: ―エボニー― あの場所で…
  13. エボニー: 私はメトの一族に生まれた
  14. エボニー: 両親の顔は知らない… 物心ついた頃に、野盗に殺されたと聞かされた
  15. エボニー: 孤児であった私だが、寂しくはなかった
  16. エボニー: なぜなら、一族には孤児が何人もいたからだ
  17. エボニー: そういった子どもたちは集められ 一族全体で養育していた
  18. エボニー: だから、私が育ってきた環境からすると 決して珍しい生い立ちではない
  19. エボニー: …とはいえ、今にして思えば 両親は一族のための何らかの任を受けて そのさなかに命を落としたのかもしれない
  20. エボニー: …しかし、そんなこと 幼い頃の私は微塵も想像しなかった
  21. エボニー: ともかく、一族の日常が 私のすべての世界であり その中だけで生きてきた
  22. 長老: 我がメトの一族は 王家に対して絶対服従をしてきた
  23. 長老: その長年にわたる忠誠心を 認められたからこそ…
  24. 長老: 『メトの聖地』…つまり、この地 を本拠とすることを許されたのだ
  25. エボニー: はい
  26. 長老: 故に、王家を敬え 王家に服すべし
  27. 長老: 王家があっての我らということを ゆめゆめ忘れてはならぬ
  28. 長老: …いいな?
  29. エボニー: はい…!
  30. エボニー: 王家こそがすべて…
  31. エボニー: 朝な夕なに叩き込まれた メトの一族にとって絶対の教えだ
  32. エボニー: まっさらな私の心にそれがばら撒かれると 王家への畏怖と敬意はすぐに芽生え しっかりと根を張った
  33. エボニー: …やがてある日、私は長老に呼ばれた
  34. エボニー: お呼びでしょうか?
  35. 長老: 来たか、エボニーよ
  36. 長老: 今日は他でもない…お前にしか 頼めないことがあってな
  37. エボニー: 私にしか…?
  38.  
  39. FILENAME: text_310481-2.txt
  40. エボニー: お呼びでしょうか?
  41. 長老: 来たか、エボニーよ
  42. 長老: 今日は他でもない…お前にしか 頼めないことがあってな
  43. エボニー: 私にしか…?
  44. 長老: 王家にまつわる栄誉ある仕事だ
  45. エボニー: え!?そのような…!
  46. 長老: 戦いの術、生きるための術 世俗の情勢、神々の伝説など…
  47. 長老: お前には様々な教えを授けてきた
  48. 長老: それを役立てる時が ようやく巡ってきたのだ
  49. エボニー: わ、わかりました…! なんなりとお命じ下さい!
  50. 長老: おうおう 頼もしいな…!ふふふ…
  51. 長老: …で、仕事とはな…
  52. 長老: …神との契約だ
  53. エボニー: …え…?
  54. エボニー: …神との…契約…と 仰いましたか…?
  55. エボニー: そ、そのようなことが できるのですか…!?
  56. 長老: できる メトの一族の少女であるならな
  57. 長老: そしてその契約こそが 王家への忠節に繋がるのだ
  58. エボニー: なんと…
  59. 長老: …こんなことを言われても 半信半疑であろうな
  60. エボニー: い、いえ、そんな…
  61. 長老: まあ無理もない…
  62. 長老: だがな、この契約こそが 我らの秘儀であり、要なのだ
  63. 長老: 古代王朝より、我が一族は神と 契約した少女を王家に出仕させた
  64. 長老: そして、一族総出でその少女を 支え、少女は王家に尽くす
  65. 長老: 王家はその見返りとして 一族を庇護してくださる
  66. 長老: そうやって我らは生き抜いてきた
  67. 長老: その身を神に奉じ やがてファラオに仕える…
  68. 長老: 実に神聖にして貴い務めだぞ
  69. エボニー: …承知しました!
  70. 長老: よし、わしも誇らしいぞ
  71. 長老: …それで、だ… 早速だが、儀式は明後日に行う
  72. 長老: そして神が降臨なされ お前をお認めになれば契約成立だ
  73. エボニー: は、はい…!
  74. エボニー: …ところで 儀式の際、私は何をすれば…?
  75. 長老: まずは神よりのお言葉を聞け
  76. 長老: そして…ここが肝心なのだが…
  77. 長老: 神は願いを何でもひとつ 叶えると仰るだろう
  78. エボニー: …願いを…?
  79. 長老: そうだ そこでお前はこう答える
  80. 長老: 「クレオパトラ様の栄華を」とな
  81. エボニー: …ファラオの… そういう決まりなのですか…?
  82. 長老: ああ、決まっている
  83. 長老: よいか、エボニー これは儀式なのだ
  84. 長老: 古より伝わる習わしなのだ
  85. 長老: 決まり事は 絶対に守らねばならぬ
  86. 長老: …よいな?
  87. エボニー: …かしこまりました!
  88. 長老: そして、この儀式を受けることで お前は特別な“力”を授かる
  89. エボニー: …私に…!?
  90. 長老: その“力”は王家のために 有益なものだろう
  91. 長老: ただ、同時に“試練”も授かる ことになる
  92. エボニー: それは、どのような…?
  93. 長老: 王家に災いをなす “魔の神”が見えるようになる
  94. 長老: お前はその“魔の神”と戦う 宿命を背負うことになるのだ
  95. エボニー: 神と…!? 人間の私が…ですか!?
  96. 長老: そのために 授けられる“力”でもあるのだ
  97. 長老: エボニーよ… 儀式を受けて“力”を得よ
  98. 長老: そして王家に仕え 忍び寄る“魔の神”を退けよ!
  99. エボニー: …はい!
  100. エボニー: この時の私はただ、神と邂逅できる喜びと 王家へ忠義を示せる喜びに溢れていた
  101. エボニー: この儀式というものが いかなるものなのかも知らずに…
  102.  
  103. FILENAME: text_310481-3.txt
  104. エボニー: 私の運命を変えた、儀式の日が訪れた…
  105. エボニー: …………
  106. エボニー: …ここで こうして待っていれば…?
  107. 長老: そうだ
  108. 長老: 神がお前に興味を示されれば 導いてくださるだろう
  109. 長老: よいな 願いを聞かれたら…
  110. エボニー: 『クレオパトラ様の栄華』を…
  111. 長老: そうだ
  112. 長老: では、ここからはお前ひとりだ つつがなくやり遂げるのだぞ…
  113. エボニー: あ、は、はい!
  114. エボニー: …ふぅ~…
  115. エボニー: (緊張してきた…)
  116. エボニー: (神は一体、どのような お姿をしているのか…)
  117. ???の声: 今回はキミなんだね
  118. エボニー: え!? ど、どこから声が…?
  119. ???の声: ボクはキミの願いを何でも ひとつ叶えてあげるよ
  120. エボニー: え? どこ?
  121. ???の声: ここだよ
  122. エボニー: ここって… でも、位置は近いような…?
  123. ???の声: だから、ここだよ
  124. エボニー: …ん?
  125. キュゥべえ: やあ ボクの名前はキュゥべえ
  126. エボニー: …わぁぁぁぁっ!
  127. エボニー: け、獣が言葉を…!
  128. キュゥべえ: キミはメトの一族の エボニーだね
  129. キュゥべえ: キミたちで言うところの “儀式”を受けにきたんだよね?
  130. エボニー: …ええっ!?
  131. エボニー: …………
  132. エボニー: …ま、まさか…
  133. エボニー: あなたが…神!?
  134. キュゥべえ: ボクはキュゥべえ
  135. キュゥべえ: キミの一族からは 『白き獣の神』と呼ばれているよ
  136. エボニー: 『白き獣の神』…! おお、なんと神々しい…!
  137. エボニー: …あ、ああ、そうです! 私の名前はエボニー!
  138. エボニー: あなたと契約するよう 遣わされました!
  139. エボニー: 白き獣の神よ! なにとぞ契約を…!
  140. キュゥべえ: キミたちメトの一族は いつも理解が早くて助かるよ
  141. キュゥべえ: さっそく、ボクと契約して 魔法少女になってほしいんだ
  142. エボニー: …え?
  143. キュゥべえ: 一族の人から聞かなかったかい?
  144. キュゥべえ: ボクはキミの願いを なんでもひとつ叶えてあげる
  145. エボニー: そ、そのことは聞いております! 恐れ多いことです…
  146. キュゥべえ: それと引き換えにボクと契約して 魔法少女になって欲しい
  147. キュゥべえ: そして、魔女と 戦ってもらいたいんだ
  148. エボニー: …え?
  149. キュゥべえ: 魔女とはキミたちの一族で言う “魔の神”のことさ
  150. エボニー: あ、ああ、そのことですね! 承知しております!
  151. キュゥべえ: 早速だけど、エボニー キミの願いを教えてくれるかい?
  152. エボニー: 私の願いは…
  153. エボニー: 『クレオパトラ様の栄華』を!
  154. キュゥべえ: 今のプトレマイオス朝の 女王のことだね
  155. キュゥべえ: 彼女の栄華というのは 具体的にどういうことだい?
  156. エボニー: え?具体的に? それは、ちょっと聞いて…
  157. キュゥべえ: …………
  158. エボニー: あ、えっと…なんというか…
  159. エボニー: (ど、どうしよう…! 栄華…栄華…栄華…)
  160. エボニー: …れ、歴史が女王のことを いつまでも語り継ぐというか…
  161. エボニー: だから、つまり…あ!
  162. エボニー: “歴史に名を刻む栄華” と言いますか…!
  163. キュゥべえ: クレオパトラ女王が 歴史に名を刻む栄華、だね
  164. キュゥべえ: わかった
  165. キュゥべえ: キミの願いを叶えよう
  166. エボニー: え…?
  167. エボニー: (あ、よかった…)
  168. キュゥべえ: これで契約は成立だ
  169. キュゥべえ: 左手を見てごらん?
  170. エボニー: …手?
  171. エボニー: ん…指輪…!? いつの間に…
  172. キュゥべえ: それが魔法少女である ひとつの証…
  173. キュゥべえ: さっそく変身してみようか
  174. エボニー: …変身…?
  175.  
  176. FILENAME: text_310481-4.txt
  177. キュゥべえ: 左手を見てごらん?
  178. エボニー: …手?
  179. エボニー: ん…指輪…!? いつの間に…
  180. キュゥべえ: それが魔法少女である ひとつの証…
  181. キュゥべえ: さっそく変身してみようか
  182. エボニー: …変身…?
  183. エボニー: 何を言われているのかさっぱりだった…
  184. エボニー: しかし、とにかく神の言われるがままに 振舞ってみたところ…
  185. エボニー: こ、これは…!
  186. キュゥべえ: それがキミの 魔法少女としての姿さ
  187. キュゥべえ: これからは魔女と戦う 使命を課されるんだ
  188. キュゥべえ: キミたちの言う “魔の神”との戦いをね
  189. エボニー: え、あ…は、はい!
  190. エボニー: …違う、いや、その!
  191. キュゥべえ: どうかしたのかい?
  192. エボニー: …なんというか… 信じられないことばかりで…
  193. エボニー: ちょっと理解が 追いつかないというか…
  194. キュゥべえ: 心配はいらないよ
  195. キュゥべえ: みんな、“状況”が訪れたら 自然と順応していくからね
  196. エボニー: つまり、“習うより慣れろ”と…
  197. キュゥべえ: 期待しているよ、エボニー
  198. エボニー: あっ!
  199. エボニー: …………
  200. エボニー: (行ってしまわれた…)
  201. エボニー: その後、私は長老から 自分に起きた変化について教えてもらった
  202. エボニー: 以前に比べ、異常に肉体が強化されたのだ
  203. エボニー: これも神からの恩恵であり 王家へ奉仕するうえでの贈り物だという
  204. エボニー: この時の私は特別になった我が身に驚き 無邪気に歓喜していた
  205. エボニー: 寄る辺のなかった孤児の私に こんなことが起きるなんて…と
  206. エボニー: …しかし、やがて私は知ることになる…
  207. エボニー: 自分が選択してしまった 道の険しさに…
  208. エボニー: いよいよ、なのね…
  209.  
  210. FILENAME: text_310482-1.txt
  211. 長老: エボニーよ ついに決まったぞ
  212. 長老: 王家への出仕が
  213. エボニー: 本当ですか!?
  214. エボニー: ようやく…!
  215. 長老: …ああ、ようやくだな…
  216. エボニー: 儀式の後、私はクレオパトラ様の 侍女として仕えることが決まった
  217. エボニー: ただ、それはあくまで表向きの仕事…
  218. エボニー: 本当の仕事は別にあった
  219. エボニー: わぁ…!
  220. エボニー: ここがアレクサンドリア…!
  221. エボニー: 生まれ育った峡谷と砂漠しか 知らない私にとって、初めての大きな街… それも、王都アレクサンドリア
  222. エボニー: まるで別の世界に迷い込んでしまった かのような興奮を覚えた
  223. エボニー: だが、それを遥かに凌駕したのが…
  224. エボニー: クレオパトラ様との初めての謁見だった
  225. エボニー: …………
  226. クレオパトラ: …………
  227. クレオパトラ: ふむ…
  228. クレオパトラ: そなたがメトのエボニーか?
  229. エボニー: は、ははーっ!
  230. クレオパトラ: …ふふっ! なんとも初々しい!
  231. クレオパトラ: そう堅くなるな… と言っても無理からぬことか
  232. クレオパトラ: まあ、ともかく しっかりと務め上げるがよい
  233. クレオパトラ: さっそくだが これより食事をする
  234. クレオパトラ: 他の侍女のもとで 仕事を覚えるがよい
  235. クレオパトラ: ついてまいれ
  236. エボニー: はっ!
  237. エボニー: 初めてお目にかかったクレオパトラ様は 実に神々しく、美しく、威厳に満ちていた
  238. エボニー: 幼いころに王家への忠誠を誓って以来 ずっと敬ってきたファラオの本当のお声を聞き 胸の高鳴りが止まらなかった
  239. エボニー: まさしく長老から聞いていた通り…
  240. 長老: そう…クレオパトラ様のお声は この上なく甘美…
  241. 長老: どのような楽器の調べにも 勝るほどだ
  242. エボニー: そうなのですか…!
  243. 長老: 古来より、ファラオは 神の化身と言われてきた
  244. 長老: クレオパトラ様は、まさに その伝承通りのお方
  245. 長老: あのカエサルさえも 虜にしてしまわれたのだから…
  246.  
  247. FILENAME: text_310482-2.txt
  248. <クレオパトラ7世フィロパトルは プトレマイオス12世アウレテスの 娘として生を受けた>
  249. <紀元前51年、彼女が18歳の折に 父の遺言に従い弟のプトレマイオス13世と 共に王位に就いた>
  250. <そして、彼女がカエサルと出会ったのは その3年後と言われている>
  251. エボニー: その… カエサルという人は何者ですか?
  252. 長老: ガイウス・ユリウス・カエサル…
  253. 長老: ローマを牛耳っていた男だ
  254. 長老: 政務官として 絶大な権力を持っていた
  255. 長老: しかし、そんなカエサルですら…
  256. 長老: クレオパトラ様の魅力には 敵わなかったのだ
  257. <弟プトレマイオス13世、妹アルシノエ4世と 対立していたクレオパトラは、紀元前48年に アレクサンドリアを追放されている>
  258. <その窮地を救ったのがカエサルだった 最初は彼女たちの戦いを仲裁していたものの やがてクレオパトラと蜜月が始まると プトレマイオス13世とは対立するようになり ついには討ち滅ぼした>
  259. <さらに、アルシノエ4世も捕ら クレオパトラをエジプトの頂点に据えた>
  260. <その後、クレオパトラは 紀元前47年にカエサルとの間に 一子カエサリオンをもうけた>
  261. 長老: カエサルは後に永久独裁官という より巨大な権力を手に入れたが…
  262. 長老: 暗殺され、この世を去った
  263. エボニー: …暗殺、ですか…
  264. <しかし、クレオパトラは、その暗殺を主導した ブルトゥスらの勢力を支援することにした>
  265. <それは彼らがローマの東部地区を支配した ことによるのだが、結果としてブルトゥス側は 紀元前42年10月に行われたフィリッピの戦い で敗れ、滅亡した>
  266. <勝利したカエサル後継勢力のある人物は クレオパトラに出頭命令を出した>
  267. <それが、マルクス・アントニウスだった>
  268. 長老: クレオパトラ様とは対立されて いたアントニウス様だったが…
  269. 長老: 瞬く間にクレオパトラ様に 魅了され、お味方となったのだ
  270. エボニー: すごい…!
  271. 長老: 後にアントニウス様は クレオパトラ様とご結婚された
  272. 長老: ローマ人の妻がいたが 離縁までしてな
  273. 長老: それだけ人を惹き付ける力が お強いのだ、クレオパトラ様は
  274. エボニー: そしておふたりの間に 3人のお子も生まれ…
  275. エボニー: 現在に至るわけですね
  276. 長老: そうだ
  277. エボニー: …御身ひとつで ローマの実力者たちを…
  278. エボニー: ああ、どのようなお顔を されているのだろうか…!
  279. 長老: 王家への忠義を常に心がければ お目にかかる日がくるかもしれん
  280. 長老: よいか、エボニー 王家が第一ぞ
  281. 長老: 何よりも、王家が第一ぞ…
  282. エボニー: はい!
  283. エボニー: やがて念願叶い、私は女王様へ お目見えすることができた
  284. エボニー: そればかりか、王家で働けるようにも…
  285. クレオパトラ: そなたがメトのエボニーか?
  286. エボニー: は、ははーっ!
  287. クレオパトラ: …ふふっ! なんとも初々しい!
  288. クレオパトラ: そう堅くなるな… と言っても無理からぬことか
  289. クレオパトラ: まあ、ともかく しっかりと務め上げるがよい
  290. エボニー: この上ない僥倖…
  291. エボニー: 私にとって素晴らしい日々が始まった
  292. エボニー: …はず…だったのだが…
  293.  
  294. FILENAME: text_310482-3.txt
  295. エボニー: 念願叶って私は王家へ出仕することになった
  296. エボニー: 尊崇してやまないクレオパトラ様に お仕えする日々が始まった
  297. エボニー: …ところが…
  298. エボニー: …………
  299. 役人の声: 聞いたか?
  300. 神官の声: 何をだ?
  301. 役人の声: アントニウス様のことだ
  302. 役人の声: オクタウィアヌスとの対決は 避けられないとか…
  303. 神官の声: ううむ…
  304. 神官の声: クレオパトラ様もローマでは 大層嫌われているそうな…
  305. 役人の声: 曰く、『アントニウスを惑わし ローマ人の妻から奪った悪女』…
  306. 役人の声: …だろ?
  307. 神官の声: そうだ…
  308. 神官の声: それもオクタウィアヌスの部下が 喧伝しているともっぱらの噂だ…
  309. 役人の声: ローマ人同士の権力争いに 我が国が引き込まれてきたな…
  310. 神官の声: そもそも、クレオパトラ様が ローマを利用しすぎたのだ
  311. 役人の声: …む、待て
  312. 役人の声: …あー、何か用か?
  313. エボニー: い、いえ!なにも…
  314. 役人の声: そうか では行きなさい
  315. エボニー: 失礼いたします…
  316. エボニー: アレクサンドリアの街中でも…
  317. ローマ入植者の声: そこまでの悪評か…
  318. ローマ商人の声: かなりのもんだ
  319. ローマ商人の声: アントニウス様は、もはや ローマでは完全に立場がない
  320. ローマ商人の声: クレオパトラと出会わなければ こうはならなかったろうに…
  321. ローマ入植者の声: だな…
  322. ローマ商人の声: お前もローマに戻ったらどうだ?
  323. ローマ入植者の声: …こっちの仕事は順調なのだが…
  324. ローマ商人の声: 俺が思うに、オクタウィアヌスは きっと仕掛けてくる…!
  325. ローマ商人の声: ここいらも戦場に なるかもしれないだろ?
  326. ローマ入植者の声: 命あっての…か…
  327. ローマ商人の声: そうだ
  328. ローマ商人の声: それにな、こう言うと気を悪く するかもしれないが…
  329. ローマ商人の声: 俺はどうもエジプトの連中は 気に食わんのだ
  330. ローマ商人の声: ローマ人とは 相容れんと思っている
  331. ローマ商人の声: その元凶は やはりクレオパトラだ…
  332. ローマ商人の声: あいつは人を不幸にする… カエサル様だって…
  333. エボニー: …………
  334. エボニー: 王朝に入って以来、私はこういう話が 方々から耳に届くようになった
  335. エボニー: 王朝第一の教育を受けてきた 私にとって、クレオパトラ様を侮辱する ようなことは度し難いものがあった
  336. エボニー: 当初は怒りが所作の端々に 出ることもあったが…
  337. エボニー: クレオパトラ様の側で働くにつれ、それも…
  338.  
  339. FILENAME: text_310482-4.txt
  340. クレオパトラ: オクタウィアヌス…小賢しい
  341. クレオパトラ: 我が息子、カエサリオンこそが カエサル様の正統後継者…!
  342. クレオパトラ: それを大甥の分際で すべてをかすめ取ろうと…
  343. クレオパトラ: …ローマに もっと間者を送りなさい!
  344. クレオパトラ: 奴の動向を徹底的に探るのよ!
  345. 兵士: ははっ!
  346. クレオパトラ: …民衆の様子はどう?
  347. 側近の声: どうもローマから流入する情報が 市中で騒がしいといいますか…
  348. クレオパトラ: …くっ…
  349. クレオパトラ: そちらも何か手を打たないと…
  350. クレオパトラ: …ええい! イライラとさせてくれる…!
  351. クレオパトラ: …エボニー 今日はバラの香油を風呂に入れて
  352. エボニー: …えっ?ミルク風呂の予定では…
  353. クレオパトラ: …それが何だというの?
  354. クレオパトラ: お前はただ言われた 通りにすればいいの!
  355. エボニー: も、申し訳ありません…!
  356. クレオパトラ: …まったく、今回の贄は…
  357. エボニー: …え?
  358. クレオパトラ: …すぐに支度しなさい
  359. エボニー: あ、はいっ!
  360. エボニー: …………
  361. エボニー: …はぁ~…
  362. エボニー: このように、クレオパトラ様は ローマとの駆け引きで四苦八苦する日々だった
  363. エボニー: プトレマイオス王家が置かれている お立場は、それだけ厳しいものがあった
  364. エボニー: そんな光景を日常的に目の当たりに していると、私の中のプトレマイオス王家への 無邪気な憧憬は色褪せていった
  365. エボニー: …そんな時だった…
  366. エボニー: 私は初めて遭遇したのだ
  367. エボニー: “魔の神の使い”に…
  368. エボニー: …ん…?
  369. エボニー: (…何?この感覚…)
  370. エボニー: …え!?え!?
  371. エボニー: …どこ、ここ…
  372. エボニー: …いつの間にこんなところに…!
  373. エボニー: ひっ!
  374. エボニー: な、なに、今のは…!?
  375. ???の声: エボニー
  376. キュゥべえ: あれがキミの戦う “魔の神の使い”
  377. キュゥべえ: そのためにキミは “力”を手に入れたんだ
  378. エボニー: あ、あなたは…!
  379. キュゥべえ: エボニー
  380. キュゥべえ: 今こそ魔法少女としての “力”を発揮する時だよ
  381. エボニー: 私に授けられた力って、一体…?
  382.  
  383. FILENAME: text_310483-1.txt
  384. キュゥべえ: あれがキミの戦う “魔の神の使い”だよ
  385. キュゥべえ: そのためにキミは “力”を手に入れたんだ
  386. エボニー: あ、あなたは…!
  387. キュゥべえ: エボニー
  388. キュゥべえ: 今こそ魔法少女としての “力”を発揮する時だ
  389. エボニー: …“力”…
  390. キュゥべえ: さあ解き放ってごらん
  391. キュゥべえ: その新しい力を!
  392. エボニー: こ、これは…!
  393. キュゥべえ: それがキミの 魔法少女としての姿さ
  394. キュゥべえ: これからは魔女と戦う 使命を課されるんだ
  395. キュゥべえ: キミたちの言う “魔の神”との戦いをね
  396. エボニー: で、では… 先ほどのが魔の神…
  397. エボニー: いや…あなたは“魔の神の使い” と仰いましたね!?
  398. キュゥべえ: そう、魔の神にとっては 手下みたいなものさ
  399. キュゥべえ: 手下を倒して結界内を進めば 奧で魔の神が待っている
  400. キュゥべえ: 放っておけば魔の神は 人々に厄災を振り撒く
  401. キュゥべえ: キミにとっては 倒さないといけない敵だよ
  402. キュゥべえ: キミの敬愛する女王も 被害に遭うかもしれないからね
  403. エボニー: 女王様…
  404. クレオパトラ: …ええい! イライラとさせてくれる…!
  405. クレオパトラ: …エボニー 今日はバラの香油を風呂に入れて
  406. エボニー: …えっ?ミルク風呂の予定では…
  407. クレオパトラ: …それが何だというの?
  408. クレオパトラ: お前はただ言われた 通りにすればいいの!
  409. エボニー: …うっ…
  410. 長老: メトの一族は王家に絶対服従…
  411. 長老: 王家があっての我ら…
  412. 長老: お前は女王のために働くのだ…
  413. 長老: それがお前の生きている理由…
  414. 長老: 他にはなにもない…
  415. 長老: エボニーよ…女王のために…
  416. 長老: …命を捧げよ…
  417. エボニー: ううっ…!
  418. エボニー: そうだ…私の人生は 王家と共にあるんだ…
  419. エボニー: 王家に災いをもたらそうと するものは…
  420. エボニー: 私が滅ぼす…!
  421.  
  422. FILENAME: text_310483-2.txt
  423. …………
  424. …?
  425. エボニー: 待ちなさい…
  426. エボニー: 魔の神の使い…
  427. エボニー: お前は私が滅する…!
  428. …………
  429. エボニー: …それにしても この場所は一体…?
  430. キュゥべえ: ここは魔の神たちが隠れ潜む “結界”と呼ばれる場所だよ
  431. エボニー: 結界…
  432. キュゥべえ: 仲間も出てきたみたいだ
  433. エボニー: くっ…!
  434. キュゥべえ: 魔の神は結界の奥にいる
  435. キュゥべえ: だから結界の戦いには 慣れないといけないよ
  436. エボニー: …はい!
  437. エボニー: …あ…
  438. エボニー: …でも、そういえば私 力の使い方がまだよく…
  439. キュゥべえ: キミに備わっているものを よく見るんだ
  440. エボニー: 備わっているもの…?
  441. エボニー: ―エボニー― …香炉…?
  442. キュゥべえ: ―キュゥべえ― ボクがアドバイスできるのは それだけさ
  443. エボニー: …………
  444. エボニー: (やるんだ…私… やるしかないんだ…!)
  445. エボニー: …ええええええい!
  446. …………
  447. …!?
  448. エボニー: …あれ…?
  449. エボニー: なかば破れかぶれで念じた私だったが…
  450. エボニー: 結果、備わった力を出すことができた
  451. エボニー: 私の得た力は、ひとことで言えば「魅了」…
  452. エボニー: 香炉の煙にまかれた 周囲にいる対象を操ることができる
  453. エボニー: 抵抗力が低ければ 自死も同士討ちも思うがまま…
  454. エボニー: こ、こんなことが私に できるなんて…!
  455. エボニー: …戦える…!
  456. エボニー: 私は魔の神の使いに何もさせないまま すべて討ち滅ぼした…
  457. エボニー: はぁ…はぁ…
  458. エボニー: …やった…
  459. エボニー: や、やりました…
  460. エボニー: 神よ、私はやりまし…!
  461. エボニー: …あれ?… いない…
  462. ???の声: その姿は…
  463. エボニー: …え?
  464. 兵士: お前…
  465. エボニー: …あ、ああっ!
  466. エボニー: いや…これは…理由が…!
  467. 兵士: ああ、待て!安心しろ!
  468. 兵士: …俺はメトの一族の者だ… お前の事情は知っている
  469. エボニー: …い、一族の…!?
  470. 兵士: そうか…お前、力を使ったな
  471. エボニー: …そのことも…!
  472. 兵士: 知っている
  473. 兵士: 俺はお前を補佐する役目を 仰せつかっている
  474. エボニー: 私の…?
  475. 兵士: …今、戦ってたわけだな?
  476. エボニー: え、ええ… 魔の神の使いと…
  477. 兵士: そうか…となると 次は魔の神が出てくるぞ
  478. エボニー: …魔の、神が…
  479. 兵士: ところで、お前の力は どういうものなんだ?
  480. エボニー: え…?あ、それは…
  481. 兵士: 香炉の煙で! そうか…!
  482. 兵士: うむ…これはクレオパトラ様の お役にたちそうだな!
  483. 兵士: さっそくご報告せねば…!
  484. エボニー: クレオパトラ様に!? 私の契約のことはご承知で…!?
  485. 兵士: ああ、もちろんだ その上で側にお前を置かれている
  486. 兵士: …よし、ようやくこの段階まで 到達したな
  487. 兵士: 改めてお前の役目を伝える
  488. 兵士: お前のその力は 女王のために役立てるのだ
  489. 兵士: そして女王の盾となれ 時には矛となれ
  490. 兵士: お前の本当の仕事は 侍女を装った護衛…
  491. 兵士: そして、“道具”だ
  492. エボニー: …“道具”…
  493.  
  494. FILENAME: text_310483-3.txt
  495. 兵士: 改めてお前の役目を伝える
  496. 兵士: お前のその力は 女王のために役立てるのだ
  497. 兵士: そして女王の盾となれ 時には矛となれ
  498. 兵士: お前の本当の仕事は 侍女を装った護衛…
  499. 兵士: そして、“道具”だ
  500. エボニー: 私はようやく理解した
  501. エボニー: 神との契約は王朝へ出仕するための 儀式などではなかった
  502. エボニー: すべてはクレオパトラ様に この身をすべて差し出すための儀式だったのだ
  503. エボニー: もっとも、それは神の思惑とは違うものの 双方で利害が一致している
  504. エボニー: 共通していることは 私が“道具”であるということ…
  505. エボニー: クレオパトラ様のための道具… 魔の神を倒すための道具…
  506. エボニー: それが私なのだ
  507. エボニー: そして、魔の神の使いを倒した翌日…
  508. エボニー: う…くっ…うう… かはっ…!
  509. 兵士: 倒したか、魔の神を
  510. 兵士: “宝物”は手に入れたか?
  511. エボニー: …はぁ…はぁ…ここに…
  512. 兵士: …今持っているんだな?
  513. エボニー: …見えないの?
  514. 兵士: ああ 契約をした者のみ見えるそうだ
  515. 兵士: ともかく、それを使うことで お前の力は回復する
  516. 兵士: 回復できなくなったら…
  517. 兵士: お前は死ぬ
  518. エボニー: …ええっ!?
  519. 兵士: だから、倒し続けるんだ 決して負けるな
  520. 兵士: 生きて女王様に尽くし続けるのだ
  521. 兵士: それがお前の生きる道なのだ
  522. エボニー: …………
  523. エボニー: 一方、私の力を知ったクレオパトラ様は…
  524. クレオパトラ: どう、エボニー? アレクサンドリアの民心は?
  525. エボニー: はい… どうにか落ち着いております…
  526. クレオパトラ: …くっくっくっ…
  527. クレオパトラ: 政治においては なんとも便利な力ねぇ!
  528. クレオパトラ: 不穏分子を処分せず 心変わりをさせる…
  529. クレオパトラ: そうやって点を潰していけば 全体は馴染んでいく…
  530. クレオパトラ: 素晴らしい!今の情勢下において お前の力は実に有益よ!
  531. クレオパトラ: これからも存分に 働いてもらうから…
  532. クレオパトラ: “私の香炉”よ…
  533. エボニー: …はい…
  534. エボニー: …………
  535. エボニー: そして、時は過ぎていった…
  536.  
  537. FILENAME: text_310483-4.txt
  538. <紀元前31年6月…>
  539. <プトレマイオス朝の女王 クレオパトラの宮殿にて…>
  540. <深更…>
  541. エボニー: …………
  542. エボニー: (クレオパトラ様…)
  543. エボニー: ―エボニー― (私の人生はあなたのもの…)
  544. エボニー: ―エボニー― (私の命はあなたのもの…)
  545. エボニー: ―エボニー― (すべてはあなた次第…)
  546. エボニー: ―エボニー― …………
  547. エボニー: ―エボニー― …そう心得るよう、 私は教えられてきました…
  548. エボニー: ―エボニー― あの場所で…
  549. キュゥべえ: こんなところでどうしたんだい?
  550. エボニー: …白き獣の神…!?
  551. エボニー: …お久しぶり、ですね…
  552. キュゥべえ: やあ
  553. エボニー: …私の様子を見に来たのですか?
  554. キュゥべえ: それもあるけど、今の時点で 確認をしておきたかったんだ
  555. エボニー: …何を?
  556. キュゥべえ: 王家を信奉する気持ちに 変わりはないのかをね
  557. エボニー: …………
  558. エボニー: …そう尋ねられますと…
  559. エボニー: …変化は、あります…
  560. エボニー: 今と昔とでは… 私の心の輝きが違います…
  561. エボニー: 昔はキラキラしていた…
  562. エボニー: でも、今は…
  563. キュゥべえ: だったら、王室から 出奔するというのはどうだい?
  564. エボニー: …え?
  565. キュゥべえ: ボクとしては、キミが魔の神と 戦い続けてくれればいいんだけど
  566. キュゥべえ: そしてキミは戦い続けざるを えない身の上でもある
  567. エボニー: …………
  568. キュゥべえ: ボクの立場からすると 戦いに専念してもらいたいんだ
  569. キュゥべえ: 女王のための仕事は ハッキリ言って負荷でしかない
  570. キュゥべえ: また、ボクとメトの一族の間に なんの取り決めもない
  571. キュゥべえ: ボクとしては彼らとの交流は 契約者を得るための一環なんだ
  572. キュゥべえ: だから、キミに出奔を勧めたい
  573. キュゥべえ: どうだい?
  574. エボニー: …………
  575. エボニー: …それは…
  576. エボニー: …しません
  577. エボニー: 王家のために生まれ 王家のために死ぬ…
  578. エボニー: それが私の生きる道だと ずっと教えられてきました…
  579. エボニー: ここで逃げ出したら 私は…私は…!
  580. エボニー: 何もなくなってしまいます…!
  581. エボニー: そんなこと…恐ろしくて…
  582. キュゥべえ: なら、これまで通りなんだね?
  583. エボニー: …はい…
  584. キュゥべえ: わかった
  585. エボニー: …………
  586. エボニー: …ふふ…ふふふ…
  587. エボニー: なんて人生になってしまったの…
  588. エボニー: …でも、歩き続けなければ
  589. エボニー: 本当に無意味になってしまう…
  590. エボニー: 私は…私は…!
  591. エボニー: 足を止めなど、しない…!
  592. エボニー: そうよ…私の生きる道は、 ここにしかない…
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