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- FILENAME: text_310481-1.txt
- <紀元前31年6月…>
- <プトレマイオス朝の女王 クレオパトラの宮殿にて…>
- <深更…>
- エボニー: …………
- エボニー: (クレオパトラ様…)
- エボニー: ―エボニー― (私の人生はあなたのもの…)
- エボニー: ―エボニー― (私の命はあなたのもの…)
- エボニー: ―エボニー― (すべてはあなた次第…)
- エボニー: ―エボニー― …………
- エボニー: ―エボニー― …そう心得るよう、 私は教えられてきました…
- エボニー: ―エボニー― あの場所で…
- エボニー: 私はメトの一族に生まれた
- エボニー: 両親の顔は知らない… 物心ついた頃に、野盗に殺されたと聞かされた
- エボニー: 孤児であった私だが、寂しくはなかった
- エボニー: なぜなら、一族には孤児が何人もいたからだ
- エボニー: そういった子どもたちは集められ 一族全体で養育していた
- エボニー: だから、私が育ってきた環境からすると 決して珍しい生い立ちではない
- エボニー: …とはいえ、今にして思えば 両親は一族のための何らかの任を受けて そのさなかに命を落としたのかもしれない
- エボニー: …しかし、そんなこと 幼い頃の私は微塵も想像しなかった
- エボニー: ともかく、一族の日常が 私のすべての世界であり その中だけで生きてきた
- 長老: 我がメトの一族は 王家に対して絶対服従をしてきた
- 長老: その長年にわたる忠誠心を 認められたからこそ…
- 長老: 『メトの聖地』…つまり、この地 を本拠とすることを許されたのだ
- エボニー: はい
- 長老: 故に、王家を敬え 王家に服すべし
- 長老: 王家があっての我らということを ゆめゆめ忘れてはならぬ
- 長老: …いいな?
- エボニー: はい…!
- エボニー: 王家こそがすべて…
- エボニー: 朝な夕なに叩き込まれた メトの一族にとって絶対の教えだ
- エボニー: まっさらな私の心にそれがばら撒かれると 王家への畏怖と敬意はすぐに芽生え しっかりと根を張った
- エボニー: …やがてある日、私は長老に呼ばれた
- エボニー: お呼びでしょうか?
- 長老: 来たか、エボニーよ
- 長老: 今日は他でもない…お前にしか 頼めないことがあってな
- エボニー: 私にしか…?
- FILENAME: text_310481-2.txt
- エボニー: お呼びでしょうか?
- 長老: 来たか、エボニーよ
- 長老: 今日は他でもない…お前にしか 頼めないことがあってな
- エボニー: 私にしか…?
- 長老: 王家にまつわる栄誉ある仕事だ
- エボニー: え!?そのような…!
- 長老: 戦いの術、生きるための術 世俗の情勢、神々の伝説など…
- 長老: お前には様々な教えを授けてきた
- 長老: それを役立てる時が ようやく巡ってきたのだ
- エボニー: わ、わかりました…! なんなりとお命じ下さい!
- 長老: おうおう 頼もしいな…!ふふふ…
- 長老: …で、仕事とはな…
- 長老: …神との契約だ
- エボニー: …え…?
- エボニー: …神との…契約…と 仰いましたか…?
- エボニー: そ、そのようなことが できるのですか…!?
- 長老: できる メトの一族の少女であるならな
- 長老: そしてその契約こそが 王家への忠節に繋がるのだ
- エボニー: なんと…
- 長老: …こんなことを言われても 半信半疑であろうな
- エボニー: い、いえ、そんな…
- 長老: まあ無理もない…
- 長老: だがな、この契約こそが 我らの秘儀であり、要なのだ
- 長老: 古代王朝より、我が一族は神と 契約した少女を王家に出仕させた
- 長老: そして、一族総出でその少女を 支え、少女は王家に尽くす
- 長老: 王家はその見返りとして 一族を庇護してくださる
- 長老: そうやって我らは生き抜いてきた
- 長老: その身を神に奉じ やがてファラオに仕える…
- 長老: 実に神聖にして貴い務めだぞ
- エボニー: …承知しました!
- 長老: よし、わしも誇らしいぞ
- 長老: …それで、だ… 早速だが、儀式は明後日に行う
- 長老: そして神が降臨なされ お前をお認めになれば契約成立だ
- エボニー: は、はい…!
- エボニー: …ところで 儀式の際、私は何をすれば…?
- 長老: まずは神よりのお言葉を聞け
- 長老: そして…ここが肝心なのだが…
- 長老: 神は願いを何でもひとつ 叶えると仰るだろう
- エボニー: …願いを…?
- 長老: そうだ そこでお前はこう答える
- 長老: 「クレオパトラ様の栄華を」とな
- エボニー: …ファラオの… そういう決まりなのですか…?
- 長老: ああ、決まっている
- 長老: よいか、エボニー これは儀式なのだ
- 長老: 古より伝わる習わしなのだ
- 長老: 決まり事は 絶対に守らねばならぬ
- 長老: …よいな?
- エボニー: …かしこまりました!
- 長老: そして、この儀式を受けることで お前は特別な“力”を授かる
- エボニー: …私に…!?
- 長老: その“力”は王家のために 有益なものだろう
- 長老: ただ、同時に“試練”も授かる ことになる
- エボニー: それは、どのような…?
- 長老: 王家に災いをなす “魔の神”が見えるようになる
- 長老: お前はその“魔の神”と戦う 宿命を背負うことになるのだ
- エボニー: 神と…!? 人間の私が…ですか!?
- 長老: そのために 授けられる“力”でもあるのだ
- 長老: エボニーよ… 儀式を受けて“力”を得よ
- 長老: そして王家に仕え 忍び寄る“魔の神”を退けよ!
- エボニー: …はい!
- エボニー: この時の私はただ、神と邂逅できる喜びと 王家へ忠義を示せる喜びに溢れていた
- エボニー: この儀式というものが いかなるものなのかも知らずに…
- FILENAME: text_310481-3.txt
- エボニー: 私の運命を変えた、儀式の日が訪れた…
- エボニー: …………
- エボニー: …ここで こうして待っていれば…?
- 長老: そうだ
- 長老: 神がお前に興味を示されれば 導いてくださるだろう
- 長老: よいな 願いを聞かれたら…
- エボニー: 『クレオパトラ様の栄華』を…
- 長老: そうだ
- 長老: では、ここからはお前ひとりだ つつがなくやり遂げるのだぞ…
- エボニー: あ、は、はい!
- エボニー: …ふぅ~…
- エボニー: (緊張してきた…)
- エボニー: (神は一体、どのような お姿をしているのか…)
- ???の声: 今回はキミなんだね
- エボニー: え!? ど、どこから声が…?
- ???の声: ボクはキミの願いを何でも ひとつ叶えてあげるよ
- エボニー: え? どこ?
- ???の声: ここだよ
- エボニー: ここって… でも、位置は近いような…?
- ???の声: だから、ここだよ
- エボニー: …ん?
- キュゥべえ: やあ ボクの名前はキュゥべえ
- エボニー: …わぁぁぁぁっ!
- エボニー: け、獣が言葉を…!
- キュゥべえ: キミはメトの一族の エボニーだね
- キュゥべえ: キミたちで言うところの “儀式”を受けにきたんだよね?
- エボニー: …ええっ!?
- エボニー: …………
- エボニー: …ま、まさか…
- エボニー: あなたが…神!?
- キュゥべえ: ボクはキュゥべえ
- キュゥべえ: キミの一族からは 『白き獣の神』と呼ばれているよ
- エボニー: 『白き獣の神』…! おお、なんと神々しい…!
- エボニー: …あ、ああ、そうです! 私の名前はエボニー!
- エボニー: あなたと契約するよう 遣わされました!
- エボニー: 白き獣の神よ! なにとぞ契約を…!
- キュゥべえ: キミたちメトの一族は いつも理解が早くて助かるよ
- キュゥべえ: さっそく、ボクと契約して 魔法少女になってほしいんだ
- エボニー: …え?
- キュゥべえ: 一族の人から聞かなかったかい?
- キュゥべえ: ボクはキミの願いを なんでもひとつ叶えてあげる
- エボニー: そ、そのことは聞いております! 恐れ多いことです…
- キュゥべえ: それと引き換えにボクと契約して 魔法少女になって欲しい
- キュゥべえ: そして、魔女と 戦ってもらいたいんだ
- エボニー: …え?
- キュゥべえ: 魔女とはキミたちの一族で言う “魔の神”のことさ
- エボニー: あ、ああ、そのことですね! 承知しております!
- キュゥべえ: 早速だけど、エボニー キミの願いを教えてくれるかい?
- エボニー: 私の願いは…
- エボニー: 『クレオパトラ様の栄華』を!
- キュゥべえ: 今のプトレマイオス朝の 女王のことだね
- キュゥべえ: 彼女の栄華というのは 具体的にどういうことだい?
- エボニー: え?具体的に? それは、ちょっと聞いて…
- キュゥべえ: …………
- エボニー: あ、えっと…なんというか…
- エボニー: (ど、どうしよう…! 栄華…栄華…栄華…)
- エボニー: …れ、歴史が女王のことを いつまでも語り継ぐというか…
- エボニー: だから、つまり…あ!
- エボニー: “歴史に名を刻む栄華” と言いますか…!
- キュゥべえ: クレオパトラ女王が 歴史に名を刻む栄華、だね
- キュゥべえ: わかった
- キュゥべえ: キミの願いを叶えよう
- エボニー: え…?
- エボニー: (あ、よかった…)
- キュゥべえ: これで契約は成立だ
- キュゥべえ: 左手を見てごらん?
- エボニー: …手?
- エボニー: ん…指輪…!? いつの間に…
- キュゥべえ: それが魔法少女である ひとつの証…
- キュゥべえ: さっそく変身してみようか
- エボニー: …変身…?
- FILENAME: text_310481-4.txt
- キュゥべえ: 左手を見てごらん?
- エボニー: …手?
- エボニー: ん…指輪…!? いつの間に…
- キュゥべえ: それが魔法少女である ひとつの証…
- キュゥべえ: さっそく変身してみようか
- エボニー: …変身…?
- エボニー: 何を言われているのかさっぱりだった…
- エボニー: しかし、とにかく神の言われるがままに 振舞ってみたところ…
- エボニー: こ、これは…!
- キュゥべえ: それがキミの 魔法少女としての姿さ
- キュゥべえ: これからは魔女と戦う 使命を課されるんだ
- キュゥべえ: キミたちの言う “魔の神”との戦いをね
- エボニー: え、あ…は、はい!
- エボニー: …違う、いや、その!
- キュゥべえ: どうかしたのかい?
- エボニー: …なんというか… 信じられないことばかりで…
- エボニー: ちょっと理解が 追いつかないというか…
- キュゥべえ: 心配はいらないよ
- キュゥべえ: みんな、“状況”が訪れたら 自然と順応していくからね
- エボニー: つまり、“習うより慣れろ”と…
- キュゥべえ: 期待しているよ、エボニー
- エボニー: あっ!
- エボニー: …………
- エボニー: (行ってしまわれた…)
- エボニー: その後、私は長老から 自分に起きた変化について教えてもらった
- エボニー: 以前に比べ、異常に肉体が強化されたのだ
- エボニー: これも神からの恩恵であり 王家へ奉仕するうえでの贈り物だという
- エボニー: この時の私は特別になった我が身に驚き 無邪気に歓喜していた
- エボニー: 寄る辺のなかった孤児の私に こんなことが起きるなんて…と
- エボニー: …しかし、やがて私は知ることになる…
- エボニー: 自分が選択してしまった 道の険しさに…
- エボニー: いよいよ、なのね…
- FILENAME: text_310482-1.txt
- 長老: エボニーよ ついに決まったぞ
- 長老: 王家への出仕が
- エボニー: 本当ですか!?
- エボニー: ようやく…!
- 長老: …ああ、ようやくだな…
- エボニー: 儀式の後、私はクレオパトラ様の 侍女として仕えることが決まった
- エボニー: ただ、それはあくまで表向きの仕事…
- エボニー: 本当の仕事は別にあった
- エボニー: わぁ…!
- エボニー: ここがアレクサンドリア…!
- エボニー: 生まれ育った峡谷と砂漠しか 知らない私にとって、初めての大きな街… それも、王都アレクサンドリア
- エボニー: まるで別の世界に迷い込んでしまった かのような興奮を覚えた
- エボニー: だが、それを遥かに凌駕したのが…
- エボニー: クレオパトラ様との初めての謁見だった
- エボニー: …………
- クレオパトラ: …………
- クレオパトラ: ふむ…
- クレオパトラ: そなたがメトのエボニーか?
- エボニー: は、ははーっ!
- クレオパトラ: …ふふっ! なんとも初々しい!
- クレオパトラ: そう堅くなるな… と言っても無理からぬことか
- クレオパトラ: まあ、ともかく しっかりと務め上げるがよい
- クレオパトラ: さっそくだが これより食事をする
- クレオパトラ: 他の侍女のもとで 仕事を覚えるがよい
- クレオパトラ: ついてまいれ
- エボニー: はっ!
- エボニー: 初めてお目にかかったクレオパトラ様は 実に神々しく、美しく、威厳に満ちていた
- エボニー: 幼いころに王家への忠誠を誓って以来 ずっと敬ってきたファラオの本当のお声を聞き 胸の高鳴りが止まらなかった
- エボニー: まさしく長老から聞いていた通り…
- 長老: そう…クレオパトラ様のお声は この上なく甘美…
- 長老: どのような楽器の調べにも 勝るほどだ
- エボニー: そうなのですか…!
- 長老: 古来より、ファラオは 神の化身と言われてきた
- 長老: クレオパトラ様は、まさに その伝承通りのお方
- 長老: あのカエサルさえも 虜にしてしまわれたのだから…
- FILENAME: text_310482-2.txt
- <クレオパトラ7世フィロパトルは プトレマイオス12世アウレテスの 娘として生を受けた>
- <紀元前51年、彼女が18歳の折に 父の遺言に従い弟のプトレマイオス13世と 共に王位に就いた>
- <そして、彼女がカエサルと出会ったのは その3年後と言われている>
- エボニー: その… カエサルという人は何者ですか?
- 長老: ガイウス・ユリウス・カエサル…
- 長老: ローマを牛耳っていた男だ
- 長老: 政務官として 絶大な権力を持っていた
- 長老: しかし、そんなカエサルですら…
- 長老: クレオパトラ様の魅力には 敵わなかったのだ
- <弟プトレマイオス13世、妹アルシノエ4世と 対立していたクレオパトラは、紀元前48年に アレクサンドリアを追放されている>
- <その窮地を救ったのがカエサルだった 最初は彼女たちの戦いを仲裁していたものの やがてクレオパトラと蜜月が始まると プトレマイオス13世とは対立するようになり ついには討ち滅ぼした>
- <さらに、アルシノエ4世も捕ら クレオパトラをエジプトの頂点に据えた>
- <その後、クレオパトラは 紀元前47年にカエサルとの間に 一子カエサリオンをもうけた>
- 長老: カエサルは後に永久独裁官という より巨大な権力を手に入れたが…
- 長老: 暗殺され、この世を去った
- エボニー: …暗殺、ですか…
- <しかし、クレオパトラは、その暗殺を主導した ブルトゥスらの勢力を支援することにした>
- <それは彼らがローマの東部地区を支配した ことによるのだが、結果としてブルトゥス側は 紀元前42年10月に行われたフィリッピの戦い で敗れ、滅亡した>
- <勝利したカエサル後継勢力のある人物は クレオパトラに出頭命令を出した>
- <それが、マルクス・アントニウスだった>
- 長老: クレオパトラ様とは対立されて いたアントニウス様だったが…
- 長老: 瞬く間にクレオパトラ様に 魅了され、お味方となったのだ
- エボニー: すごい…!
- 長老: 後にアントニウス様は クレオパトラ様とご結婚された
- 長老: ローマ人の妻がいたが 離縁までしてな
- 長老: それだけ人を惹き付ける力が お強いのだ、クレオパトラ様は
- エボニー: そしておふたりの間に 3人のお子も生まれ…
- エボニー: 現在に至るわけですね
- 長老: そうだ
- エボニー: …御身ひとつで ローマの実力者たちを…
- エボニー: ああ、どのようなお顔を されているのだろうか…!
- 長老: 王家への忠義を常に心がければ お目にかかる日がくるかもしれん
- 長老: よいか、エボニー 王家が第一ぞ
- 長老: 何よりも、王家が第一ぞ…
- エボニー: はい!
- エボニー: やがて念願叶い、私は女王様へ お目見えすることができた
- エボニー: そればかりか、王家で働けるようにも…
- クレオパトラ: そなたがメトのエボニーか?
- エボニー: は、ははーっ!
- クレオパトラ: …ふふっ! なんとも初々しい!
- クレオパトラ: そう堅くなるな… と言っても無理からぬことか
- クレオパトラ: まあ、ともかく しっかりと務め上げるがよい
- エボニー: この上ない僥倖…
- エボニー: 私にとって素晴らしい日々が始まった
- エボニー: …はず…だったのだが…
- FILENAME: text_310482-3.txt
- エボニー: 念願叶って私は王家へ出仕することになった
- エボニー: 尊崇してやまないクレオパトラ様に お仕えする日々が始まった
- エボニー: …ところが…
- エボニー: …………
- 役人の声: 聞いたか?
- 神官の声: 何をだ?
- 役人の声: アントニウス様のことだ
- 役人の声: オクタウィアヌスとの対決は 避けられないとか…
- 神官の声: ううむ…
- 神官の声: クレオパトラ様もローマでは 大層嫌われているそうな…
- 役人の声: 曰く、『アントニウスを惑わし ローマ人の妻から奪った悪女』…
- 役人の声: …だろ?
- 神官の声: そうだ…
- 神官の声: それもオクタウィアヌスの部下が 喧伝しているともっぱらの噂だ…
- 役人の声: ローマ人同士の権力争いに 我が国が引き込まれてきたな…
- 神官の声: そもそも、クレオパトラ様が ローマを利用しすぎたのだ
- 役人の声: …む、待て
- 役人の声: …あー、何か用か?
- エボニー: い、いえ!なにも…
- 役人の声: そうか では行きなさい
- エボニー: 失礼いたします…
- エボニー: アレクサンドリアの街中でも…
- ローマ入植者の声: そこまでの悪評か…
- ローマ商人の声: かなりのもんだ
- ローマ商人の声: アントニウス様は、もはや ローマでは完全に立場がない
- ローマ商人の声: クレオパトラと出会わなければ こうはならなかったろうに…
- ローマ入植者の声: だな…
- ローマ商人の声: お前もローマに戻ったらどうだ?
- ローマ入植者の声: …こっちの仕事は順調なのだが…
- ローマ商人の声: 俺が思うに、オクタウィアヌスは きっと仕掛けてくる…!
- ローマ商人の声: ここいらも戦場に なるかもしれないだろ?
- ローマ入植者の声: 命あっての…か…
- ローマ商人の声: そうだ
- ローマ商人の声: それにな、こう言うと気を悪く するかもしれないが…
- ローマ商人の声: 俺はどうもエジプトの連中は 気に食わんのだ
- ローマ商人の声: ローマ人とは 相容れんと思っている
- ローマ商人の声: その元凶は やはりクレオパトラだ…
- ローマ商人の声: あいつは人を不幸にする… カエサル様だって…
- エボニー: …………
- エボニー: 王朝に入って以来、私はこういう話が 方々から耳に届くようになった
- エボニー: 王朝第一の教育を受けてきた 私にとって、クレオパトラ様を侮辱する ようなことは度し難いものがあった
- エボニー: 当初は怒りが所作の端々に 出ることもあったが…
- エボニー: クレオパトラ様の側で働くにつれ、それも…
- FILENAME: text_310482-4.txt
- クレオパトラ: オクタウィアヌス…小賢しい
- クレオパトラ: 我が息子、カエサリオンこそが カエサル様の正統後継者…!
- クレオパトラ: それを大甥の分際で すべてをかすめ取ろうと…
- クレオパトラ: …ローマに もっと間者を送りなさい!
- クレオパトラ: 奴の動向を徹底的に探るのよ!
- 兵士: ははっ!
- クレオパトラ: …民衆の様子はどう?
- 側近の声: どうもローマから流入する情報が 市中で騒がしいといいますか…
- クレオパトラ: …くっ…
- クレオパトラ: そちらも何か手を打たないと…
- クレオパトラ: …ええい! イライラとさせてくれる…!
- クレオパトラ: …エボニー 今日はバラの香油を風呂に入れて
- エボニー: …えっ?ミルク風呂の予定では…
- クレオパトラ: …それが何だというの?
- クレオパトラ: お前はただ言われた 通りにすればいいの!
- エボニー: も、申し訳ありません…!
- クレオパトラ: …まったく、今回の贄は…
- エボニー: …え?
- クレオパトラ: …すぐに支度しなさい
- エボニー: あ、はいっ!
- エボニー: …………
- エボニー: …はぁ~…
- エボニー: このように、クレオパトラ様は ローマとの駆け引きで四苦八苦する日々だった
- エボニー: プトレマイオス王家が置かれている お立場は、それだけ厳しいものがあった
- エボニー: そんな光景を日常的に目の当たりに していると、私の中のプトレマイオス王家への 無邪気な憧憬は色褪せていった
- エボニー: …そんな時だった…
- エボニー: 私は初めて遭遇したのだ
- エボニー: “魔の神の使い”に…
- エボニー: …ん…?
- エボニー: (…何?この感覚…)
- エボニー: …え!?え!?
- エボニー: …どこ、ここ…
- エボニー: …いつの間にこんなところに…!
- エボニー: ひっ!
- エボニー: な、なに、今のは…!?
- ???の声: エボニー
- キュゥべえ: あれがキミの戦う “魔の神の使い”
- キュゥべえ: そのためにキミは “力”を手に入れたんだ
- エボニー: あ、あなたは…!
- キュゥべえ: エボニー
- キュゥべえ: 今こそ魔法少女としての “力”を発揮する時だよ
- エボニー: 私に授けられた力って、一体…?
- FILENAME: text_310483-1.txt
- キュゥべえ: あれがキミの戦う “魔の神の使い”だよ
- キュゥべえ: そのためにキミは “力”を手に入れたんだ
- エボニー: あ、あなたは…!
- キュゥべえ: エボニー
- キュゥべえ: 今こそ魔法少女としての “力”を発揮する時だ
- エボニー: …“力”…
- キュゥべえ: さあ解き放ってごらん
- キュゥべえ: その新しい力を!
- エボニー: こ、これは…!
- キュゥべえ: それがキミの 魔法少女としての姿さ
- キュゥべえ: これからは魔女と戦う 使命を課されるんだ
- キュゥべえ: キミたちの言う “魔の神”との戦いをね
- エボニー: で、では… 先ほどのが魔の神…
- エボニー: いや…あなたは“魔の神の使い” と仰いましたね!?
- キュゥべえ: そう、魔の神にとっては 手下みたいなものさ
- キュゥべえ: 手下を倒して結界内を進めば 奧で魔の神が待っている
- キュゥべえ: 放っておけば魔の神は 人々に厄災を振り撒く
- キュゥべえ: キミにとっては 倒さないといけない敵だよ
- キュゥべえ: キミの敬愛する女王も 被害に遭うかもしれないからね
- エボニー: 女王様…
- クレオパトラ: …ええい! イライラとさせてくれる…!
- クレオパトラ: …エボニー 今日はバラの香油を風呂に入れて
- エボニー: …えっ?ミルク風呂の予定では…
- クレオパトラ: …それが何だというの?
- クレオパトラ: お前はただ言われた 通りにすればいいの!
- エボニー: …うっ…
- 長老: メトの一族は王家に絶対服従…
- 長老: 王家があっての我ら…
- 長老: お前は女王のために働くのだ…
- 長老: それがお前の生きている理由…
- 長老: 他にはなにもない…
- 長老: エボニーよ…女王のために…
- 長老: …命を捧げよ…
- エボニー: ううっ…!
- エボニー: そうだ…私の人生は 王家と共にあるんだ…
- エボニー: 王家に災いをもたらそうと するものは…
- エボニー: 私が滅ぼす…!
- FILENAME: text_310483-2.txt
- …………
- …?
- エボニー: 待ちなさい…
- エボニー: 魔の神の使い…
- エボニー: お前は私が滅する…!
- …………
- エボニー: …それにしても この場所は一体…?
- キュゥべえ: ここは魔の神たちが隠れ潜む “結界”と呼ばれる場所だよ
- エボニー: 結界…
- キュゥべえ: 仲間も出てきたみたいだ
- エボニー: くっ…!
- キュゥべえ: 魔の神は結界の奥にいる
- キュゥべえ: だから結界の戦いには 慣れないといけないよ
- エボニー: …はい!
- エボニー: …あ…
- エボニー: …でも、そういえば私 力の使い方がまだよく…
- キュゥべえ: キミに備わっているものを よく見るんだ
- エボニー: 備わっているもの…?
- エボニー: ―エボニー― …香炉…?
- キュゥべえ: ―キュゥべえ― ボクがアドバイスできるのは それだけさ
- エボニー: …………
- エボニー: (やるんだ…私… やるしかないんだ…!)
- エボニー: …ええええええい!
- …………
- …!?
- エボニー: …あれ…?
- エボニー: なかば破れかぶれで念じた私だったが…
- エボニー: 結果、備わった力を出すことができた
- エボニー: 私の得た力は、ひとことで言えば「魅了」…
- エボニー: 香炉の煙にまかれた 周囲にいる対象を操ることができる
- エボニー: 抵抗力が低ければ 自死も同士討ちも思うがまま…
- エボニー: こ、こんなことが私に できるなんて…!
- エボニー: …戦える…!
- エボニー: 私は魔の神の使いに何もさせないまま すべて討ち滅ぼした…
- エボニー: はぁ…はぁ…
- エボニー: …やった…
- エボニー: や、やりました…
- エボニー: 神よ、私はやりまし…!
- エボニー: …あれ?… いない…
- ???の声: その姿は…
- エボニー: …え?
- 兵士: お前…
- エボニー: …あ、ああっ!
- エボニー: いや…これは…理由が…!
- 兵士: ああ、待て!安心しろ!
- 兵士: …俺はメトの一族の者だ… お前の事情は知っている
- エボニー: …い、一族の…!?
- 兵士: そうか…お前、力を使ったな
- エボニー: …そのことも…!
- 兵士: 知っている
- 兵士: 俺はお前を補佐する役目を 仰せつかっている
- エボニー: 私の…?
- 兵士: …今、戦ってたわけだな?
- エボニー: え、ええ… 魔の神の使いと…
- 兵士: そうか…となると 次は魔の神が出てくるぞ
- エボニー: …魔の、神が…
- 兵士: ところで、お前の力は どういうものなんだ?
- エボニー: え…?あ、それは…
- 兵士: 香炉の煙で! そうか…!
- 兵士: うむ…これはクレオパトラ様の お役にたちそうだな!
- 兵士: さっそくご報告せねば…!
- エボニー: クレオパトラ様に!? 私の契約のことはご承知で…!?
- 兵士: ああ、もちろんだ その上で側にお前を置かれている
- 兵士: …よし、ようやくこの段階まで 到達したな
- 兵士: 改めてお前の役目を伝える
- 兵士: お前のその力は 女王のために役立てるのだ
- 兵士: そして女王の盾となれ 時には矛となれ
- 兵士: お前の本当の仕事は 侍女を装った護衛…
- 兵士: そして、“道具”だ
- エボニー: …“道具”…
- FILENAME: text_310483-3.txt
- 兵士: 改めてお前の役目を伝える
- 兵士: お前のその力は 女王のために役立てるのだ
- 兵士: そして女王の盾となれ 時には矛となれ
- 兵士: お前の本当の仕事は 侍女を装った護衛…
- 兵士: そして、“道具”だ
- エボニー: 私はようやく理解した
- エボニー: 神との契約は王朝へ出仕するための 儀式などではなかった
- エボニー: すべてはクレオパトラ様に この身をすべて差し出すための儀式だったのだ
- エボニー: もっとも、それは神の思惑とは違うものの 双方で利害が一致している
- エボニー: 共通していることは 私が“道具”であるということ…
- エボニー: クレオパトラ様のための道具… 魔の神を倒すための道具…
- エボニー: それが私なのだ
- エボニー: そして、魔の神の使いを倒した翌日…
- エボニー: う…くっ…うう… かはっ…!
- 兵士: 倒したか、魔の神を
- 兵士: “宝物”は手に入れたか?
- エボニー: …はぁ…はぁ…ここに…
- 兵士: …今持っているんだな?
- エボニー: …見えないの?
- 兵士: ああ 契約をした者のみ見えるそうだ
- 兵士: ともかく、それを使うことで お前の力は回復する
- 兵士: 回復できなくなったら…
- 兵士: お前は死ぬ
- エボニー: …ええっ!?
- 兵士: だから、倒し続けるんだ 決して負けるな
- 兵士: 生きて女王様に尽くし続けるのだ
- 兵士: それがお前の生きる道なのだ
- エボニー: …………
- エボニー: 一方、私の力を知ったクレオパトラ様は…
- クレオパトラ: どう、エボニー? アレクサンドリアの民心は?
- エボニー: はい… どうにか落ち着いております…
- クレオパトラ: …くっくっくっ…
- クレオパトラ: 政治においては なんとも便利な力ねぇ!
- クレオパトラ: 不穏分子を処分せず 心変わりをさせる…
- クレオパトラ: そうやって点を潰していけば 全体は馴染んでいく…
- クレオパトラ: 素晴らしい!今の情勢下において お前の力は実に有益よ!
- クレオパトラ: これからも存分に 働いてもらうから…
- クレオパトラ: “私の香炉”よ…
- エボニー: …はい…
- エボニー: …………
- エボニー: そして、時は過ぎていった…
- FILENAME: text_310483-4.txt
- <紀元前31年6月…>
- <プトレマイオス朝の女王 クレオパトラの宮殿にて…>
- <深更…>
- エボニー: …………
- エボニー: (クレオパトラ様…)
- エボニー: ―エボニー― (私の人生はあなたのもの…)
- エボニー: ―エボニー― (私の命はあなたのもの…)
- エボニー: ―エボニー― (すべてはあなた次第…)
- エボニー: ―エボニー― …………
- エボニー: ―エボニー― …そう心得るよう、 私は教えられてきました…
- エボニー: ―エボニー― あの場所で…
- キュゥべえ: こんなところでどうしたんだい?
- エボニー: …白き獣の神…!?
- エボニー: …お久しぶり、ですね…
- キュゥべえ: やあ
- エボニー: …私の様子を見に来たのですか?
- キュゥべえ: それもあるけど、今の時点で 確認をしておきたかったんだ
- エボニー: …何を?
- キュゥべえ: 王家を信奉する気持ちに 変わりはないのかをね
- エボニー: …………
- エボニー: …そう尋ねられますと…
- エボニー: …変化は、あります…
- エボニー: 今と昔とでは… 私の心の輝きが違います…
- エボニー: 昔はキラキラしていた…
- エボニー: でも、今は…
- キュゥべえ: だったら、王室から 出奔するというのはどうだい?
- エボニー: …え?
- キュゥべえ: ボクとしては、キミが魔の神と 戦い続けてくれればいいんだけど
- キュゥべえ: そしてキミは戦い続けざるを えない身の上でもある
- エボニー: …………
- キュゥべえ: ボクの立場からすると 戦いに専念してもらいたいんだ
- キュゥべえ: 女王のための仕事は ハッキリ言って負荷でしかない
- キュゥべえ: また、ボクとメトの一族の間に なんの取り決めもない
- キュゥべえ: ボクとしては彼らとの交流は 契約者を得るための一環なんだ
- キュゥべえ: だから、キミに出奔を勧めたい
- キュゥべえ: どうだい?
- エボニー: …………
- エボニー: …それは…
- エボニー: …しません
- エボニー: 王家のために生まれ 王家のために死ぬ…
- エボニー: それが私の生きる道だと ずっと教えられてきました…
- エボニー: ここで逃げ出したら 私は…私は…!
- エボニー: 何もなくなってしまいます…!
- エボニー: そんなこと…恐ろしくて…
- キュゥべえ: なら、これまで通りなんだね?
- エボニー: …はい…
- キュゥべえ: わかった
- エボニー: …………
- エボニー: …ふふ…ふふふ…
- エボニー: なんて人生になってしまったの…
- エボニー: …でも、歩き続けなければ
- エボニー: 本当に無意味になってしまう…
- エボニー: 私は…私は…!
- エボニー: 足を止めなど、しない…!
- エボニー: そうよ…私の生きる道は、 ここにしかない…
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