Not a member of Pastebin yet?
Sign Up,
it unlocks many cool features!
- <BR>
- 「こどもだったころ、ひどいあ
- らしの夜があってね。あたし
- のこもりだったばあさんが、
- 「雲の中のわるい竜がいやが
- らせにあばれているからあら
- しになるんだよ」っておしえ
- てくれた。それであたしは、
- 「そんなわるい竜はあたしが
- 大きくなったらやっつけてや
- る。」って言ったんよ。」
- 長身の彼女は、ばくの顔をみて
- そう言った。
- 「それで飛行機ぬすんでつかま
- ったんだけどね。・・・あん
- た、こんな話きいてもわらわ
- ないんだね。」
- ばくはきづいていなかったが、
- よほどまじめな顔をしていたの
- だろう。
- 「まあ、いいや。こっから出て
- ひまだったらうちにあそびに
- おいで。」
- 彼女はそう言って、出ていった。
- 出所してずいぶんたつが、思
- ってみれば自分が彼女といっし
- ょにいるわけが、とんと分から
- ない。なにかかりがあるでもな
- し、ましてやかしがあるわけで
- もない。それなのに自分が彼女
- といるというのは全くもってわ
- からない。
- 彼女にあまえて彼女といっしょ
- にいるが、いろいろとわけあっ
- て、国営銀行のお金をちいとば
- っかし、いただいてしまうとい
- うことになった。
- まずはじゅんびのたいそう。
- <BR>
- もとはと言えば彼女は飛行機に
- どうしても乗りたくて、せめて
- ちかくにいようと空軍の補給員
- としてはいって、そこで飛行機
- の操縦をおばえたそうだ。よっ
- ぽど飛行機に乗りたかったんだ
- ろうね。
- でも、操縦士としてもういちど
- はいろうとしたら「女性だから」
- ってことでことわられて、それ
- で飛行機ぬすんだらつかまった
- んだと。
- そんでもって、彼女としては、
- 「世界でさいしょ、女性パイロ
- ットがお客さまを安全にはこ
- びます。」ということで操縦
- 士につかってもらいたくて飛行
- 機会社をまわったけどまじめに
- とりあってくれない。ええい、
- こうなったら自分で会社をつく
- ってしまうしかない、ってなわ
- けで国営銀行にのりこむわけで
- す。
- <BR>
- ばーんと扉をけやぶって、ライ
- フルかまえて、きまりもんくを
- ひとこと。
- 「はい、てをあげてちょーだい
- な。」
- あぜんとしている客にはかまわ
- ず、彼女はカウンターの銀行員
- にあゆみよる。
- 「ま、そんなわけでお金もらっ
- ていくから。ふくろにつめて
- ね。」
- ニコニコしながらいうことじゃ
- ないな、ふつう。
- <BR>
- さて、こんどはにげてます。
- 国営銀行の金をもってきちゃっ
- たからには国内にいるわけには
- いかない。
- とりあえずは金をはこびやすい
- ものとかえた。だいぶふっかけ
- られたがそれでも金をふんだん
- につかったりっぱな冠がかえた。
- どーもおいかけられているよう
- なきがする。
- もちろん、きのせいなのだけれ
- ども。
- <BR>
- で、国外ににげないとならない
- けど、かんたんにはにげられな
- い。なにしろ、国外に出ればち
- ょっとやそっとではつかまえら
- れないとわかってるのだから、
- 警察としてもおいそれと国外に
- は出させてくれない。
- 飛行場にはきたけれども、みは
- りがいるんで、ないしょでのる
- しかない。
- <BR>
- やっとのことで貨物室にもぐり
- こんだ。もうひやひや。なんど
- みつかったと思ったことか。
- 「こいつはアリョールっていう
- やつでね、1000キロはと
- ベる。すごいだろ。950h
- pのエンジン6発で60人ま
- でのれるぞ。いまんとこ2機
- つくられたけど1機は外国に
- うっちゃったからこの国には
- 1機しかない。これで国境ま
- でいけば、すぐ外国だ。」
- すこしでも外をみようと扉には
- りついた彼女がさっそく話しは
- じめる。
- 「ずいぶんかすんでるなー、こ
- れはくたびれるぞ。」
- 彼女はまるで自分が操縦してい
- るかのようにつぶやいた。
- <BR>
- ちゃんと飛ぶんだね、こんな巨
- 大な飛行機でも。
- ところでこの機体、彼女の話に
- よると機体の強さのためにいた
- る所が2階だてになっていて、
- この貨物室もひくいやねの上に
- もう1階、貨物室がある。扉は
- したにしかないのでつみこみを
- らくにするためにエレベーター
- が階のあいだについているのだ
- けれども、彼女から飛行機の話
- をきいていると上の階からあし
- おとがきこえた。
- いきをひそめていると、エレベ
- ーターのダクトを通じて上の階
- からヒソヒソと話がきこえる。
- こんな飛行中に貨物室にはいっ
- てくるなんてヘんなので、ダク
- トに身を乗り出してききみみを
- たててみることにした。
- <BR>
- 「爆弾は?」
- 「機関室よこのおれのヘやに。」
- 「おれは補給地でおりてラジオ
- にしらせる。お前はパラシュ
- ートでにげる。いいな」
- 「ファシストどもにひとあわふ
- かせてやる。」
- ま、そんな話だった。まさか貨
- 物室に人はおるまいとうちあわ
- せをしているらしいが、これは
- たいヘんではないか。どうやら
- 過激派がこの機に爆弾をしかけ
- たらしい。
- 「とりあえずにげて、あらため
- て航空局に連絡するしかない
- でしょ。あたしらがノコノコ
- 出てっても操縦士がいうこと
- きくとは思えないし。」
- はあ。でも飛んでる飛行機から
- どうやってにげるんでしょ。
- 「パラシュートでさ。そこにあ
- るのがそれさね。」
- で、パラシュートを身につけて、
- 扉をひらいておどろいた。すげ
- ーたかいやん。
- 「なぁに、なれちまえばパラシ
- ュートなんてたいしたことな
- いぞ。あたしもはじめてだけ
- ど。」
- 彼女はこともなげに言ってのけ
- た。
- <BR>
- このままパラシュートがひらか
- なかったらどうしようかとも思
- ったけど、ちゃんとひらいた。
- パラシュートがひらいたときは、
- くびが外れたかと思った。
- でも、いざひらいてしまえばゆ
- っくりとおちるのであたりをみ
- わたすよゆうもできる。
- 空からみるけしきはすばらしか
- った。ぬすんででも飛行機に乗
- ろうとするきもちもなんとなく、
- わかるような気がする。
- かぜにゆられてフラフラとまい
- ながら、国外ににげて飛行機の
- 会社をつくったら自分もなんか
- で乗せてもらえたらうれしいな、
- とか思っていた。
- <BR>
- 飛んでる時はよかったけど、着
- 地はひどかった。なにしろ着地
- しようにも、あたりはぜんぶ水
- だもの。着水したらパラシュー
- トがおおいかぶさってきて、お
- ばれるかと思った。
- さいわい彼女がおよぎにも長け
- ていたのであさいところまでつ
- れてってもらってなんとかなっ
- たけれども、あぶなくパラシュ
- ートでおばれてしまうところで
- あった。
- ただし、かばんにいれておいた
- ダイナマイトがぬれてしまった
- のはちょっとざんねん。
- ま、冠がぶじだったからいいっ
- か。
- とにかく電信局までいって、航
- 空局に爆弾のことをしらせない
- と。
- <BR>
- 電信局の局員は水をしたたらせ
- る2人をふしぎがったものの、
- さいわいにもおたずねものとば
- れなかったのでお金をはらって
- 電信機をつかわせてもらうこと
- にした。
- ところが、「航空局は電信機を
- もっていない」という。とりあ
- えずもよりの警察に連絡をとっ
- て、そこの警官に航空局までい
- ってもらってだれか連れてきて
- もらうこととなった。
- 「これから国外ににげようとい
- うのに、わざわざ警察をよぶ
- っていうのもヘんなきがする
- ね。」
- 待ってるあいまに、彼女がふり
- かえって言う。
- こういう時って、待ってるのが
- 長くかんじる。
- <BR>
- やっとあらわれたあいてにむか
- って、彼女はしばらくどなるよ
- うに話していたが、やがて電信
- 機をたたきつけるようにして、
- 出てきた。
- 「いたずらはよせ、とさ。」
- おいおい。それどこじゃないっ
- て。
- 「さあ、どうする。」
- どうするってもねぇ。
- 「あたしは、こうなったらじぶ
- んで爆弾処理にいくしかない
- と思うんだけどさ。」
- そう言ってもねぇ。
- 「さて、飛んでる飛行機にどう
- やって乗るかなんだけども。」
- 補給地でもぐりこめばいいじゃ
- ない。あんな巨大な飛行機なん
- だからそんなにはやくは飛ベな
- いだろうし、補給にもてまがか
- かるでしょ。
- 「あ、それいいね。あんた、く
- る必要ないよ。その冠もって
- にげな。」
- そうはいかない。爆弾だったら
- ばくのほうがくわしい。
- けっきょく、とめてあった連絡
- サイドカーをちょっとかりてい
- くことにした。
- <BR>
- さて、彼女はまっすぐ補給地の
- オムスクヘはむかわず、ちかく
- の空軍飛行場ヘいくと、そこに
- あった飛行機を1機、ちょっと
- かりてさらにオムスクをめざし
- た。
- なるほど、このほうがまっすぐ
- サイドカーで走るよりずっとは
- やい。ところが、あまりにいそ
- いでちかみちするあまり、雲の
- なかヘ飛びこんだのがまちがい
- だった。さむいし、しめっぽい
- し、このかみなりをどうしてく
- れる。
- あたったら「いたい」どころじ
- ゃすまないぞ。
- <BR>
- おや、前になにかいる。だいぶ
- 大きい。ちかづくでもなく、は
- なれるでもなく前を飛んでいる。
- 「空軍機かもしれないぞ。」
- 風にのって彼女の声がきこえる。
- その時、前の飛行機はひるがえ
- ってむかってきた。
- 大きい!みるみる目の前いっぱ
- いにかげがひろがる。雲のなか
- から飛び出してきたのは空軍機
- などではなく、巨大な竜であっ
- た。
- 巨大なつばさで滑空してすれち
- がうと、またも身をひるがえし
- ておってくる。
- なんか、この飛行機がきにいら
- ないのか、つかまえるつもりら
- しい。
- 「やつだ!うっちまえ」
- 前からうれしそうな声がきこえ
- る。やむをえず、機関銃でパラ
- パラとうつが、ぜーんぜんきい
- てませんね、はっきり言って。
- <BR>
- ばくのみたかぎりを言えば、竜
- にたいして機関銃をうつという
- のは、まったくきいていないば
- かりか、かえっておこらせるだ
- けでしか、ないようだ。
- 彼女がふりかえりざまに言う。
- 「おもいだすねぇ、こどもだっ
- たころを。」
- そんなことはどうでもいいじゃ
- ない。
- いまごろしたでは、どうなって
- いることやら。
- <BR>
- にげきったころには飛行機のう
- しろはなんどかかまれてたので、
- どうにかこうにかオムスクのち
- かくのはらっぱまで飛んだもの
- の着地はみごととは言いがたか
- った。
- 彼女はばくを飛行機からひきず
- りだし、さいわいにと言おうか、
- とりあえずなんともなかったの
- をみてあんしんし、つんであっ
- た双眼鏡で飛行場をみはじめた。
- 「あの竜、おこってたね。」
- 彼女が言う。
- 「きっとしたではあらしだった
- ぞ。」
- つづいて彼女のわらい声。
- よほど、竜をみたのがうれしかっ
- たのだろう。
- <BR>
- 「そら、いいながめだぞ。」
- 彼女にわたされた双眼鏡のなか
- にはふしぎな世界がひろがって
- いた。
- 巨大なアリョールが飛行場のは
- しにとまり、こびとのようにみ
- える補給員があたりをかけまわ
- り、おもちゃのような補給車が
- とまっている。
- それは、金属の竜につかえるめ
- しつかいのようであった。
- 「そろそろのりこもうか。」
- 彼女の声に、ハッとした。
- <BR>
- ところが、ライトのあかりをか
- わしているうちにサイレンが飛
- 行場にひびいた。
- 「まずいよ、走れ!」
- まず、彼女が貨物扉のロックを
- はずして飛びのる。つづいて走
- り出そうとしたその時、なんと
- 滑走路わきのライトにあしをひ
- っかけてころんでしまった。
- あわててたちあがると、すでに
- 彼女をのせたアリョールは滑走
- 路をかなりのはやさで走りはじ
- めている。
- 「はやく!」
- 彼女はさけび、てまねいている。
- 貨物扉わきのてすりをつかみ、
- 滑ればおちてけがをしかねない
- というのに全身をのり出してい
- る。
- 「まだまにあう!はやく!」
- 走るのはきらいなのだが、かん
- がえるよりもさきに走りはじめ
- ていた。
- <BR>
- そんなこんなで彼女につかまれ、
- やっとこどうにかひきずりあげ
- られた。
- 「ちょいと過激派をさがしてく
- る。」
- 彼女があおむけにころがって全
- 身でいきをしているばくのかた
- をたたいて言う。
- 「そこに更衣室があるんで、ス
- チュワーデスのふりをして過
- 激派をここに連れてくる。そ
- したらなんかで、たおしてち
- ょーだい。」
- いきがつまってしゃベれず、く
- びをかくかくとふってわかった
- ことをしめすと、彼女はばくの
- ほほをつついて貨物室から前の
- 通路ヘ出ていった。
- きっと彼女のことだから、うま
- いことやるだろう。
- <BR>
- お、あたりをさぐっていたら貨
- 物のなかにライフルがあるのを
- みつけてしまいました。これは
- なかなかよい。
- と、ちょうど彼女がかえってく
- るところだ。
- 「おい、ちょっと待て。」
- とつぜん、過激派の声がきこえ
- た。
- 「どうかしまして?」
- 彼女がなんでもないようにこた
- える。
- 「きさま、スチュワーデスじゃ
- ないだろう。」
- つづいてあしおと。
- かげにかくれているばくのよこ
- にスチュワーデスの服を着た彼
- 女のすがたがみえる。
- 「なぜです?なにかおかしなこ
- とでも?」
- 「スチュワーデスは安全靴なん
- てはかないんだぜ。」
- 言われてきがついた。彼女、ば
- うしからスカートまで着がえた
- が、靴をはきかえなかったらし
- い。彼女はうごかないが、よこ
- 顔をひやあせがつたうのがみえ
- る。
- やむをえない。とっさに飛び出
- してライフルをうった。過激派
- のもった銃からも弾が飛んでく
- るが、とっさのことで全てはず
- れた。
- つぎの弾をこめようとかげにか
- くれると、彼女もちゃんともの
- かげにいる。
- 「ありがと。あたしもばかだね
- ぇ、靴にきがつかないなんて
- さ・・それ、よこしなよ。銃
- はあたしのほうがなれてる。」
- ばくは彼女にライフルと、銃弾
- のはいったカバンをなげわたし
- た。
- <BR>
- 過激派が2人とも弾をうちつく
- して、つぎの弾をとり出そうと
- ぐずぐずしてるすきに彼女が走
- って飛びこみ、ライフルでキョ
- ーレツなのをくらわせてやりま
- した。
- で、こいつは更衣室のロッカー
- にいれて、カギを外からかけて
- しまっといて、たいせつなのは
- 爆弾だ。
- 機関室よこのそいつのヘやにい
- ってみると、つくえにネジどめ
- したはこがおいてある。
- これはプロのつくった爆弾です
- よ。外にすてることもできない
- ようにネジをはずせば爆発する
- ようになってるんでしょう。
- 爆弾はそんなに大きなものでは
- ないが、カベのむこうには95
- 0hpのエンジンがある。
- ちゃんとしたものがあればまだ
- しも、なんにもなしでこれだけ
- の爆弾を処理するとなれば、ち
- ょっとまちがえただけでおしま
- いだ。ばくはそのことを彼女に
- 言った。
- 「あ、そう。」
- 彼女はスチュワーデスのばうし
- をぬぐと、ばくのもってた冠を
- かぶった。
- そして、ばくをみる。
- 「ベつに、いいよ。」
- 彼女はそれしか言わなかった。
- <BR>
- ところが、さいごでミスをした。
- バネじかけのスイッチがはねあ
- がりそうになるのをあわててお
- さえたが、もうはなせない。は
- なせば爆発する。
- 「なんとかなるんだろ、おい。」
- 彼女がみょうにしずかな声でい
- う。なにかひもできつくしばっ
- てスイッチがうごかないように
- できれば、あともうすこしで処
- 理できる。
- 「あたしがおさえるんじゃだめ
- なのかい?」
- ばくがおさえても、彼女がおさ
- えても、そのうちつかれてしま
- うだろう。そんなにすぐには処
- 理できない。
- 「ひもねぇ。ひもってもねぇ。」
- しっかりしたひもでないと、き
- れてしまう。どこにでもあるひ
- もでよいのだが。
- 「どこにでもある、ひもねぇ。」
- 彼女もかんがえる。どこにでも
- あるひもというのは、こういう
- 時にはない。
- 「ひもねぇ・・・お、こんなと
- ころに。」
- どれほどたったのだろうか。つ
- ぶやいていた彼女がいきなり靴
- をぬぎはじめた。
- なにをしようとしてるのかきこ
- うとしてきがついた。
- 「そら、いまむすぶからな。」
- 彼女は安全靴からぬいた靴ひも
- でスイッチをしばりつけた。
- 「国境はこえたぞ。もうあんし
- んだ、な。」
- 彼女がばくをひきよせた。いつ
- のまにか冠をかぶっている。
- 「あたしら、いいくみあわせだ
- と思わない?ねぇ。」
- レールのつぎめのおとにのせて
- 彼女がささやきかけてくる。
- 「ちっとはうれしそうな顔しな
- よ。」
- 彼女に顔をつつかれたが、きも
- ちがみょうにからまっていて、
- ばくはどんな顔をしていいのか
- ついにわからなかった。
- <BR>
- ところが、さいごでミスをした。
- バネじかけのスイッチがはねあ
- がりそうになるのをあわててお
- さえたが、もうはなせない。は
- なせば爆発する。
- 「なんとかなるんだろ、おい。」
- 彼女がみょうにしずかな声でい
- う。なにかひもできつくしばっ
- てスイッチがうごかないように
- できれば、あともうすこしで処
- 理できる。
- 「あたしがおさえるんじゃだめ
- なのかい?」
- スイッチといってもちいさなも
- のではなく、長さ60センチほ
- どの金属のばうがバネでピンセ
- ットのようにひらこうとしてい
- るものだ。
- ばくがおさえても、彼女がおさ
- えても、そのうちつかれてしま
- うだろう。そんなにすぐには処
- 理できない。
- 「しょうが、ないよね。もうす
- ぐついちまうんだからさ。」
- 彼女はひとり言のように言うと、
- かぶっていた冠をスイッチのは
- しにかぶせ、2ほんのばうを冠
- のうちがわにさわらせたまま、
- ゆっくりとひらいていく。
- なにも、おきない。冠につかわ
- れている金属を通じて、スイッ
- チはさわっているからだ。
- やがてスイッチはおおきくひら
- いてとまった。冠がストッパー
- になるのでもうひらかない。そ
- の時、大きく機がかたむいた。
- もうすぐ着地だ。
- 「さあ、にげよう。」
- 彼女が言う。はやくにげないと、
- 過激派の連絡をうけた爆弾処理
- 班がやってくる。
- 「あんたはよくやったよ。」
- 彼女はささやくように言った
- 飛行機がおりる前にパラシュー
- トで飛びおり、ボートをかりて
- このむこうヘつけば、そこは外
- 国だ。
- 「わりぃなぁ。あんなにたいヘ
- んな思いさせてさ。」
- 彼女はまだそんなことを言って
- いる。ばくはもくもくとボート
- をこいでいるあいだ、彼女には
- わるいけれども彼女と2人きり
- でいれるこの時をたのしんでい
- た。
- <BR>
- ところが、さいごでミスをした。
- バネじかけのスイッチがはねあ
- がりそうになるのをあわててお
- さえたが、もうはなせない。は
- なせば爆発する。
- 「なんとかなるんだろ、おい。」
- 彼女がみょうにしずかな声でい
- う。なにかひもできつくしばっ
- てスイッチがうごかないように
- できれば、あともうすこしで処
- 理できる。
- 「あたしがおさえるんじゃだめ
- なのかい?」
- ばくがおさえても、彼女がおさ
- えても、そのうちつかれてしま
- うだろう。そんなにすぐには処
- 理できない。
- 「ひもねぇ。ひもってもねぇ。」
- しっかりしたひもでないと、き
- れてしまう。どこにでもあるひ
- もでよいのだが。
- 「どこにでもある、ひもねぇ。」
- 彼女もかんがえる。どこにでも
- あるひもというのは、こういう
- 時にはない。
- その時、機が大きくかたむいた。
- あぶなくスイッチをはなしそう
- になる。
- 「着いた。」
- 彼女がみじかく言った。もう、
- まにあわない。過激派の連絡を
- うけた爆弾処理班がやってくる。
- 「あんたはよくやったよ。」
- 彼女はささやくように言った。
- ばくらはにげようとすればにげ
- られたのに、客をたすけるため
- につかまったということでなん
- か、ヒーローになってしまった。
- 記者が飛行場で待ちかまえてい
- る。
- もし、爆弾を処理しようなんて
- 思わずにまっすぐにげていれば、
- いまごろは国境をこえていたか
- もしれない。なんとなく、彼女
- にそのことをいってみた。
- 「ばか言うなよ。たかがあそん
- でくらせるようなはした金の
- ために60人もの人がころせ
- るか。」
- 彼女はそれだけ言うとみじかく、
- こごえでわらった。
- 記者のフラッシュが、その顔を
- てらした。
- <BR>
- 航空局発表
- 航空機「アリョール」に
- おいて爆弾が爆発せり。
- 乗員、乗客60人は
- 全員が絶望的。
- 警察局によると爆弾は
- 過激派のしかけたものなり。
- <BR>
- 昔。そんなに昔ではない昔。
- まだ
- エンジンが1000hpを
- こえられなかったころ。
- そんなよわいエンジンで
- 空をおおう
- 伝説の竜のような巨大機を
- つくっている人たちがいた。
- <BR>
- やがて、客はスピードをもとめ、
- 大きいだけの巨大機は
- やくにたたなくなっていった。
- それでも
- 巨大機はつくりつづけられた。
- <BR>
- そんな巨大機の時代、
- たった2機だけ
- つくられた伝説的巨大機
- その2機目、「アリョール」
- これは、そのアリョールに
- まつわる話である。
- <BR>
- 冠をうったお金で彼女は飛行機
- を1機かい、飛行機1機、社員
- 2人のちいさい会社をつくった。
- いろいろとくろうはあったもの
- の、いまでは世界でもめずらし
- い女性操縦士とそのてつだいと
- してがんばってます。
- ちなみに、彼女は会社が大きく
- なったらアリョールをかいとる
- つもりだそうで。
- わらっちゃだめだよ。まじめな
- 話なんだから。
- <BR>
- 国境はこえたけど、お金はない。
- でも彼女はいたってきらくなも
- ので、
- 「なあに、また国境をこえても
- どって、国営銀行からちいと
- ちょろまかしてくるわ。」
- と、いきまいてます。
- 彼女といると、たのしいね。
- <BR>
- やっと出てきた刑務所にまたは
- いることになった。
- こんどは彼女とベつの所にいれ
- られたので、彼女とはあってい
- ない。またあえるかどうかもわ
- からない。
- あらしがくるたびに、彼女のこ
- とを思い出す。
- <BR>
- さて、とりあえずはここでおし
- まいです。
- このあと、なにがおこるのか、
- 爆弾処理はまにあうのか、
- きになる人は、ぜひともノーマ
- ルでもういちどあそんでくださ
- い。
- <BR>
Add Comment
Please, Sign In to add comment