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ugoku-jp

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Jun 26th, 2024
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  1.  
  2. <BR>
  3. 「こどもだったころ、ひどいあ
  4.  らしの夜があってね。あたし
  5.  のこもりだったばあさんが、
  6.  「雲の中のわるい竜がいやが
  7.  らせにあばれているからあら
  8.  しになるんだよ」っておしえ
  9.  てくれた。それであたしは、
  10.  「そんなわるい竜はあたしが
  11.  大きくなったらやっつけてや
  12.  る。」って言ったんよ。」
  13. 長身の彼女は、ばくの顔をみて
  14. そう言った。
  15. 「それで飛行機ぬすんでつかま
  16.  ったんだけどね。・・・あん
  17.  た、こんな話きいてもわらわ
  18.  ないんだね。」
  19. ばくはきづいていなかったが、
  20. よほどまじめな顔をしていたの
  21. だろう。
  22. 「まあ、いいや。こっから出て
  23.  ひまだったらうちにあそびに
  24.  おいで。」
  25. 彼女はそう言って、出ていった。
  26.  
  27.  出所してずいぶんたつが、思
  28. ってみれば自分が彼女といっし
  29. ょにいるわけが、とんと分から
  30. ない。なにかかりがあるでもな
  31. し、ましてやかしがあるわけで
  32. もない。それなのに自分が彼女
  33. といるというのは全くもってわ
  34. からない。
  35. 彼女にあまえて彼女といっしょ
  36. にいるが、いろいろとわけあっ
  37. て、国営銀行のお金をちいとば
  38. っかし、いただいてしまうとい
  39. うことになった。
  40. まずはじゅんびのたいそう。
  41.  
  42.  
  43.  
  44. <BR>
  45. もとはと言えば彼女は飛行機に
  46. どうしても乗りたくて、せめて
  47. ちかくにいようと空軍の補給員
  48. としてはいって、そこで飛行機
  49. の操縦をおばえたそうだ。よっ
  50. ぽど飛行機に乗りたかったんだ
  51. ろうね。
  52. でも、操縦士としてもういちど
  53. はいろうとしたら「女性だから」
  54. ってことでことわられて、それ
  55. で飛行機ぬすんだらつかまった
  56. んだと。
  57. そんでもって、彼女としては、
  58. 「世界でさいしょ、女性パイロ
  59.  ットがお客さまを安全にはこ
  60.  びます。」ということで操縦
  61. 士につかってもらいたくて飛行
  62. 機会社をまわったけどまじめに
  63. とりあってくれない。ええい、
  64. こうなったら自分で会社をつく
  65. ってしまうしかない、ってなわ
  66. けで国営銀行にのりこむわけで
  67. す。
  68.  
  69.  
  70.  
  71. <BR>
  72. ばーんと扉をけやぶって、ライ
  73. フルかまえて、きまりもんくを
  74. ひとこと。
  75. 「はい、てをあげてちょーだい
  76.  な。」
  77. あぜんとしている客にはかまわ
  78. ず、彼女はカウンターの銀行員
  79. にあゆみよる。
  80. 「ま、そんなわけでお金もらっ
  81.  ていくから。ふくろにつめて
  82.  ね。」
  83. ニコニコしながらいうことじゃ
  84. ないな、ふつう。
  85.  
  86.  
  87.  
  88. <BR>
  89. さて、こんどはにげてます。
  90. 国営銀行の金をもってきちゃっ
  91. たからには国内にいるわけには
  92. いかない。
  93. とりあえずは金をはこびやすい
  94. ものとかえた。だいぶふっかけ
  95. られたがそれでも金をふんだん
  96. につかったりっぱな冠がかえた。
  97. どーもおいかけられているよう
  98. なきがする。
  99. もちろん、きのせいなのだけれ
  100. ども。
  101.  
  102.  
  103.  
  104. <BR>
  105. で、国外ににげないとならない
  106. けど、かんたんにはにげられな
  107. い。なにしろ、国外に出ればち
  108. ょっとやそっとではつかまえら
  109. れないとわかってるのだから、
  110. 警察としてもおいそれと国外に
  111. は出させてくれない。
  112. 飛行場にはきたけれども、みは
  113. りがいるんで、ないしょでのる
  114. しかない。
  115.  
  116.  
  117.  
  118. <BR>
  119. やっとのことで貨物室にもぐり
  120. こんだ。もうひやひや。なんど
  121. みつかったと思ったことか。
  122. 「こいつはアリョールっていう
  123.  やつでね、1000キロはと
  124.  ベる。すごいだろ。950h
  125.  pのエンジン6発で60人ま
  126.  でのれるぞ。いまんとこ2機
  127.  つくられたけど1機は外国に
  128.  うっちゃったからこの国には
  129.  1機しかない。これで国境ま
  130.  でいけば、すぐ外国だ。」
  131. すこしでも外をみようと扉には
  132. りついた彼女がさっそく話しは
  133. じめる。
  134. 「ずいぶんかすんでるなー、こ
  135.  れはくたびれるぞ。」
  136. 彼女はまるで自分が操縦してい
  137. るかのようにつぶやいた。
  138.  
  139.  
  140.  
  141. <BR>
  142. ちゃんと飛ぶんだね、こんな巨
  143. 大な飛行機でも。
  144. ところでこの機体、彼女の話に
  145. よると機体の強さのためにいた
  146. る所が2階だてになっていて、
  147. この貨物室もひくいやねの上に
  148. もう1階、貨物室がある。扉は
  149. したにしかないのでつみこみを
  150. らくにするためにエレベーター
  151. が階のあいだについているのだ
  152. けれども、彼女から飛行機の話
  153. をきいていると上の階からあし
  154. おとがきこえた。
  155. いきをひそめていると、エレベ
  156. ーターのダクトを通じて上の階
  157. からヒソヒソと話がきこえる。
  158. こんな飛行中に貨物室にはいっ
  159. てくるなんてヘんなので、ダク
  160. トに身を乗り出してききみみを
  161. たててみることにした。
  162.  
  163.  
  164.  
  165. <BR>
  166. 「爆弾は?」
  167. 「機関室よこのおれのヘやに。」
  168. 「おれは補給地でおりてラジオ
  169.  にしらせる。お前はパラシュ
  170.  ートでにげる。いいな」
  171. 「ファシストどもにひとあわふ
  172.  かせてやる。」
  173. ま、そんな話だった。まさか貨
  174. 物室に人はおるまいとうちあわ
  175. せをしているらしいが、これは
  176. たいヘんではないか。どうやら
  177. 過激派がこの機に爆弾をしかけ
  178. たらしい。
  179. 「とりあえずにげて、あらため
  180.  て航空局に連絡するしかない
  181.  でしょ。あたしらがノコノコ
  182.  出てっても操縦士がいうこと
  183.  きくとは思えないし。」
  184. はあ。でも飛んでる飛行機から
  185. どうやってにげるんでしょ。
  186. 「パラシュートでさ。そこにあ
  187.  るのがそれさね。」
  188. で、パラシュートを身につけて、
  189. 扉をひらいておどろいた。すげ
  190. ーたかいやん。
  191. 「なぁに、なれちまえばパラシ
  192.  ュートなんてたいしたことな
  193.  いぞ。あたしもはじめてだけ
  194.  ど。」
  195. 彼女はこともなげに言ってのけ
  196. た。
  197.  
  198.  
  199.  
  200. <BR>
  201. このままパラシュートがひらか
  202. なかったらどうしようかとも思
  203. ったけど、ちゃんとひらいた。
  204. パラシュートがひらいたときは、
  205. くびが外れたかと思った。
  206. でも、いざひらいてしまえばゆ
  207. っくりとおちるのであたりをみ
  208. わたすよゆうもできる。
  209. 空からみるけしきはすばらしか
  210. った。ぬすんででも飛行機に乗
  211. ろうとするきもちもなんとなく、
  212. わかるような気がする。
  213. かぜにゆられてフラフラとまい
  214. ながら、国外ににげて飛行機の
  215. 会社をつくったら自分もなんか
  216. で乗せてもらえたらうれしいな、
  217. とか思っていた。
  218.  
  219.  
  220.  
  221. <BR>
  222. 飛んでる時はよかったけど、着
  223. 地はひどかった。なにしろ着地
  224. しようにも、あたりはぜんぶ水
  225. だもの。着水したらパラシュー
  226. トがおおいかぶさってきて、お
  227. ばれるかと思った。
  228. さいわい彼女がおよぎにも長け
  229. ていたのであさいところまでつ
  230. れてってもらってなんとかなっ
  231. たけれども、あぶなくパラシュ
  232. ートでおばれてしまうところで
  233. あった。
  234. ただし、かばんにいれておいた
  235. ダイナマイトがぬれてしまった
  236. のはちょっとざんねん。
  237. ま、冠がぶじだったからいいっ
  238. か。
  239. とにかく電信局までいって、航
  240. 空局に爆弾のことをしらせない
  241. と。
  242.  
  243.  
  244.  
  245. <BR>
  246. 電信局の局員は水をしたたらせ
  247. る2人をふしぎがったものの、
  248. さいわいにもおたずねものとば
  249. れなかったのでお金をはらって
  250. 電信機をつかわせてもらうこと
  251. にした。
  252. ところが、「航空局は電信機を
  253. もっていない」という。とりあ
  254. えずもよりの警察に連絡をとっ
  255. て、そこの警官に航空局までい
  256. ってもらってだれか連れてきて
  257. もらうこととなった。
  258. 「これから国外ににげようとい
  259.  うのに、わざわざ警察をよぶ
  260.  っていうのもヘんなきがする
  261.  ね。」
  262. 待ってるあいまに、彼女がふり
  263. かえって言う。
  264. こういう時って、待ってるのが
  265. 長くかんじる。
  266.  
  267.  
  268.  
  269. <BR>
  270. やっとあらわれたあいてにむか
  271. って、彼女はしばらくどなるよ
  272. うに話していたが、やがて電信
  273. 機をたたきつけるようにして、
  274. 出てきた。
  275. 「いたずらはよせ、とさ。」
  276. おいおい。それどこじゃないっ
  277. て。
  278. 「さあ、どうする。」
  279. どうするってもねぇ。
  280. 「あたしは、こうなったらじぶ
  281.  んで爆弾処理にいくしかない
  282.  と思うんだけどさ。」
  283. そう言ってもねぇ。
  284. 「さて、飛んでる飛行機にどう
  285.  やって乗るかなんだけども。」
  286. 補給地でもぐりこめばいいじゃ
  287. ない。あんな巨大な飛行機なん
  288. だからそんなにはやくは飛ベな
  289. いだろうし、補給にもてまがか
  290. かるでしょ。
  291. 「あ、それいいね。あんた、く
  292.  る必要ないよ。その冠もって
  293.  にげな。」
  294. そうはいかない。爆弾だったら
  295. ばくのほうがくわしい。
  296.  
  297. けっきょく、とめてあった連絡
  298. サイドカーをちょっとかりてい
  299. くことにした。
  300.  
  301.  
  302.  
  303. <BR>
  304. さて、彼女はまっすぐ補給地の
  305. オムスクヘはむかわず、ちかく
  306. の空軍飛行場ヘいくと、そこに
  307. あった飛行機を1機、ちょっと
  308. かりてさらにオムスクをめざし
  309. た。
  310. なるほど、このほうがまっすぐ
  311. サイドカーで走るよりずっとは
  312. やい。ところが、あまりにいそ
  313. いでちかみちするあまり、雲の
  314. なかヘ飛びこんだのがまちがい
  315. だった。さむいし、しめっぽい
  316. し、このかみなりをどうしてく
  317. れる。
  318. あたったら「いたい」どころじ
  319. ゃすまないぞ。
  320.  
  321.  
  322.  
  323. <BR>
  324. おや、前になにかいる。だいぶ
  325. 大きい。ちかづくでもなく、は
  326. なれるでもなく前を飛んでいる。
  327. 「空軍機かもしれないぞ。」
  328. 風にのって彼女の声がきこえる。
  329. その時、前の飛行機はひるがえ
  330. ってむかってきた。
  331. 大きい!みるみる目の前いっぱ
  332. いにかげがひろがる。雲のなか
  333. から飛び出してきたのは空軍機
  334. などではなく、巨大な竜であっ
  335. た。
  336. 巨大なつばさで滑空してすれち
  337. がうと、またも身をひるがえし
  338. ておってくる。
  339. なんか、この飛行機がきにいら
  340. ないのか、つかまえるつもりら
  341. しい。
  342. 「やつだ!うっちまえ」
  343. 前からうれしそうな声がきこえ
  344. る。やむをえず、機関銃でパラ
  345. パラとうつが、ぜーんぜんきい
  346. てませんね、はっきり言って。
  347.  
  348.  
  349.  
  350. <BR>
  351. ばくのみたかぎりを言えば、竜
  352. にたいして機関銃をうつという
  353. のは、まったくきいていないば
  354. かりか、かえっておこらせるだ
  355. けでしか、ないようだ。
  356. 彼女がふりかえりざまに言う。
  357. 「おもいだすねぇ、こどもだっ
  358.  たころを。」
  359. そんなことはどうでもいいじゃ
  360. ない。
  361. いまごろしたでは、どうなって
  362. いることやら。
  363.  
  364.  
  365.  
  366. <BR>
  367. にげきったころには飛行機のう
  368. しろはなんどかかまれてたので、
  369. どうにかこうにかオムスクのち
  370. かくのはらっぱまで飛んだもの
  371. の着地はみごととは言いがたか
  372. った。
  373. 彼女はばくを飛行機からひきず
  374. りだし、さいわいにと言おうか、
  375. とりあえずなんともなかったの
  376. をみてあんしんし、つんであっ
  377. た双眼鏡で飛行場をみはじめた。
  378. 「あの竜、おこってたね。」
  379. 彼女が言う。
  380. 「きっとしたではあらしだった
  381. ぞ。」
  382. つづいて彼女のわらい声。
  383. よほど、竜をみたのがうれしかっ
  384. たのだろう。
  385.  
  386.  
  387.  
  388. <BR>
  389. 「そら、いいながめだぞ。」
  390. 彼女にわたされた双眼鏡のなか
  391. にはふしぎな世界がひろがって
  392. いた。
  393. 巨大なアリョールが飛行場のは
  394. しにとまり、こびとのようにみ
  395. える補給員があたりをかけまわ
  396. り、おもちゃのような補給車が
  397. とまっている。
  398. それは、金属の竜につかえるめ
  399. しつかいのようであった。
  400. 「そろそろのりこもうか。」
  401. 彼女の声に、ハッとした。
  402.  
  403.  
  404.  
  405. <BR>
  406. ところが、ライトのあかりをか
  407. わしているうちにサイレンが飛
  408. 行場にひびいた。
  409. 「まずいよ、走れ!」
  410. まず、彼女が貨物扉のロックを
  411. はずして飛びのる。つづいて走
  412. り出そうとしたその時、なんと
  413. 滑走路わきのライトにあしをひ
  414. っかけてころんでしまった。
  415. あわててたちあがると、すでに
  416. 彼女をのせたアリョールは滑走
  417. 路をかなりのはやさで走りはじ
  418. めている。
  419. 「はやく!」
  420. 彼女はさけび、てまねいている。
  421. 貨物扉わきのてすりをつかみ、
  422. 滑ればおちてけがをしかねない
  423. というのに全身をのり出してい
  424. る。
  425. 「まだまにあう!はやく!」
  426. 走るのはきらいなのだが、かん
  427. がえるよりもさきに走りはじめ
  428. ていた。
  429.  
  430.  
  431.  
  432. <BR>
  433. そんなこんなで彼女につかまれ、
  434. やっとこどうにかひきずりあげ
  435. られた。
  436. 「ちょいと過激派をさがしてく
  437.  る。」
  438. 彼女があおむけにころがって全
  439. 身でいきをしているばくのかた
  440. をたたいて言う。
  441. 「そこに更衣室があるんで、ス
  442.  チュワーデスのふりをして過
  443.  激派をここに連れてくる。そ
  444.  したらなんかで、たおしてち
  445.  ょーだい。」
  446. いきがつまってしゃベれず、く
  447. びをかくかくとふってわかった
  448. ことをしめすと、彼女はばくの
  449. ほほをつついて貨物室から前の
  450. 通路ヘ出ていった。
  451. きっと彼女のことだから、うま
  452. いことやるだろう。
  453.  
  454.  
  455.  
  456. <BR>
  457. お、あたりをさぐっていたら貨
  458. 物のなかにライフルがあるのを
  459. みつけてしまいました。これは
  460. なかなかよい。
  461. と、ちょうど彼女がかえってく
  462. るところだ。
  463. 「おい、ちょっと待て。」
  464. とつぜん、過激派の声がきこえ
  465. た。
  466. 「どうかしまして?」
  467. 彼女がなんでもないようにこた
  468. える。
  469. 「きさま、スチュワーデスじゃ
  470. ないだろう。」
  471. つづいてあしおと。
  472. かげにかくれているばくのよこ
  473. にスチュワーデスの服を着た彼
  474. 女のすがたがみえる。
  475. 「なぜです?なにかおかしなこ
  476.  とでも?」
  477. 「スチュワーデスは安全靴なん
  478.  てはかないんだぜ。」
  479. 言われてきがついた。彼女、ば
  480. うしからスカートまで着がえた
  481. が、靴をはきかえなかったらし
  482. い。彼女はうごかないが、よこ
  483. 顔をひやあせがつたうのがみえ
  484. る。
  485. やむをえない。とっさに飛び出
  486. してライフルをうった。過激派
  487. のもった銃からも弾が飛んでく
  488. るが、とっさのことで全てはず
  489. れた。
  490. つぎの弾をこめようとかげにか
  491. くれると、彼女もちゃんともの
  492. かげにいる。
  493. 「ありがと。あたしもばかだね
  494.  ぇ、靴にきがつかないなんて
  495.  さ・・それ、よこしなよ。銃
  496.  はあたしのほうがなれてる。」
  497. ばくは彼女にライフルと、銃弾
  498. のはいったカバンをなげわたし
  499. た。
  500.  
  501.  
  502.  
  503. <BR>
  504. 過激派が2人とも弾をうちつく
  505. して、つぎの弾をとり出そうと
  506. ぐずぐずしてるすきに彼女が走
  507. って飛びこみ、ライフルでキョ
  508. ーレツなのをくらわせてやりま
  509. した。
  510. で、こいつは更衣室のロッカー
  511. にいれて、カギを外からかけて
  512. しまっといて、たいせつなのは
  513. 爆弾だ。
  514. 機関室よこのそいつのヘやにい
  515. ってみると、つくえにネジどめ
  516. したはこがおいてある。
  517. これはプロのつくった爆弾です
  518. よ。外にすてることもできない
  519. ようにネジをはずせば爆発する
  520. ようになってるんでしょう。
  521. 爆弾はそんなに大きなものでは
  522. ないが、カベのむこうには95
  523. 0hpのエンジンがある。
  524. ちゃんとしたものがあればまだ
  525. しも、なんにもなしでこれだけ
  526. の爆弾を処理するとなれば、ち
  527. ょっとまちがえただけでおしま
  528. いだ。ばくはそのことを彼女に
  529. 言った。
  530. 「あ、そう。」
  531. 彼女はスチュワーデスのばうし
  532. をぬぐと、ばくのもってた冠を
  533. かぶった。
  534. そして、ばくをみる。
  535. 「ベつに、いいよ。」
  536. 彼女はそれしか言わなかった。
  537.  
  538.  
  539.  
  540. <BR>
  541. ところが、さいごでミスをした。
  542. バネじかけのスイッチがはねあ
  543. がりそうになるのをあわててお
  544. さえたが、もうはなせない。は
  545. なせば爆発する。
  546. 「なんとかなるんだろ、おい。」
  547. 彼女がみょうにしずかな声でい
  548. う。なにかひもできつくしばっ
  549. てスイッチがうごかないように
  550. できれば、あともうすこしで処
  551. 理できる。
  552. 「あたしがおさえるんじゃだめ
  553.  なのかい?」 
  554. ばくがおさえても、彼女がおさ
  555. えても、そのうちつかれてしま
  556. うだろう。そんなにすぐには処
  557. 理できない。
  558. 「ひもねぇ。ひもってもねぇ。」
  559. しっかりしたひもでないと、き
  560. れてしまう。どこにでもあるひ
  561. もでよいのだが。
  562. 「どこにでもある、ひもねぇ。」
  563. 彼女もかんがえる。どこにでも
  564. あるひもというのは、こういう
  565. 時にはない。
  566. 「ひもねぇ・・・お、こんなと
  567.  ころに。」
  568. どれほどたったのだろうか。つ
  569. ぶやいていた彼女がいきなり靴
  570. をぬぎはじめた。
  571. なにをしようとしてるのかきこ
  572. うとしてきがついた。
  573. 「そら、いまむすぶからな。」
  574. 彼女は安全靴からぬいた靴ひも
  575. でスイッチをしばりつけた。
  576.  
  577. 「国境はこえたぞ。もうあんし
  578.  んだ、な。」
  579. 彼女がばくをひきよせた。いつ
  580. のまにか冠をかぶっている。
  581. 「あたしら、いいくみあわせだ
  582.  と思わない?ねぇ。」
  583. レールのつぎめのおとにのせて
  584. 彼女がささやきかけてくる。
  585. 「ちっとはうれしそうな顔しな
  586.  よ。」
  587. 彼女に顔をつつかれたが、きも
  588. ちがみょうにからまっていて、
  589. ばくはどんな顔をしていいのか
  590. ついにわからなかった。
  591.  
  592.  
  593.  
  594. <BR>
  595. ところが、さいごでミスをした。
  596. バネじかけのスイッチがはねあ
  597. がりそうになるのをあわててお
  598. さえたが、もうはなせない。は
  599. なせば爆発する。
  600. 「なんとかなるんだろ、おい。」
  601. 彼女がみょうにしずかな声でい
  602. う。なにかひもできつくしばっ
  603. てスイッチがうごかないように
  604. できれば、あともうすこしで処
  605. 理できる。
  606. 「あたしがおさえるんじゃだめ
  607.  なのかい?」
  608. スイッチといってもちいさなも
  609. のではなく、長さ60センチほ
  610. どの金属のばうがバネでピンセ
  611. ットのようにひらこうとしてい
  612. るものだ。
  613. ばくがおさえても、彼女がおさ
  614. えても、そのうちつかれてしま
  615. うだろう。そんなにすぐには処
  616. 理できない。
  617. 「しょうが、ないよね。もうす
  618.  ぐついちまうんだからさ。」
  619. 彼女はひとり言のように言うと、
  620. かぶっていた冠をスイッチのは
  621. しにかぶせ、2ほんのばうを冠
  622. のうちがわにさわらせたまま、
  623. ゆっくりとひらいていく。
  624. なにも、おきない。冠につかわ
  625. れている金属を通じて、スイッ
  626. チはさわっているからだ。
  627. やがてスイッチはおおきくひら
  628. いてとまった。冠がストッパー
  629. になるのでもうひらかない。そ
  630. の時、大きく機がかたむいた。
  631. もうすぐ着地だ。
  632. 「さあ、にげよう。」
  633. 彼女が言う。はやくにげないと、
  634. 過激派の連絡をうけた爆弾処理
  635. 班がやってくる。
  636. 「あんたはよくやったよ。」
  637. 彼女はささやくように言った
  638.  
  639. 飛行機がおりる前にパラシュー
  640. トで飛びおり、ボートをかりて
  641. このむこうヘつけば、そこは外
  642. 国だ。
  643. 「わりぃなぁ。あんなにたいヘ
  644.  んな思いさせてさ。」
  645. 彼女はまだそんなことを言って
  646. いる。ばくはもくもくとボート
  647. をこいでいるあいだ、彼女には
  648. わるいけれども彼女と2人きり
  649. でいれるこの時をたのしんでい
  650. た。
  651.  
  652.  
  653.  
  654. <BR>
  655. ところが、さいごでミスをした。
  656. バネじかけのスイッチがはねあ
  657. がりそうになるのをあわててお
  658. さえたが、もうはなせない。は
  659. なせば爆発する。
  660. 「なんとかなるんだろ、おい。」
  661. 彼女がみょうにしずかな声でい
  662. う。なにかひもできつくしばっ
  663. てスイッチがうごかないように
  664. できれば、あともうすこしで処
  665. 理できる。
  666. 「あたしがおさえるんじゃだめ
  667.  なのかい?」
  668. ばくがおさえても、彼女がおさ
  669. えても、そのうちつかれてしま
  670. うだろう。そんなにすぐには処
  671. 理できない。
  672. 「ひもねぇ。ひもってもねぇ。」
  673. しっかりしたひもでないと、き
  674. れてしまう。どこにでもあるひ
  675. もでよいのだが。
  676. 「どこにでもある、ひもねぇ。」
  677. 彼女もかんがえる。どこにでも
  678. あるひもというのは、こういう
  679. 時にはない。
  680. その時、機が大きくかたむいた。
  681. あぶなくスイッチをはなしそう
  682. になる。
  683. 「着いた。」
  684. 彼女がみじかく言った。もう、
  685. まにあわない。過激派の連絡を
  686. うけた爆弾処理班がやってくる。
  687. 「あんたはよくやったよ。」
  688. 彼女はささやくように言った。
  689.  
  690. ばくらはにげようとすればにげ
  691. られたのに、客をたすけるため
  692. につかまったということでなん
  693. か、ヒーローになってしまった。
  694. 記者が飛行場で待ちかまえてい
  695. る。
  696. もし、爆弾を処理しようなんて
  697. 思わずにまっすぐにげていれば、
  698. いまごろは国境をこえていたか
  699. もしれない。なんとなく、彼女
  700. にそのことをいってみた。
  701. 「ばか言うなよ。たかがあそん
  702.  でくらせるようなはした金の
  703.  ために60人もの人がころせ
  704.  るか。」
  705. 彼女はそれだけ言うとみじかく、
  706. こごえでわらった。
  707. 記者のフラッシュが、その顔を
  708. てらした。
  709.  
  710.  
  711.  
  712. <BR>
  713.     航空局発表
  714.  
  715.  航空機「アリョール」に
  716.   おいて爆弾が爆発せり。
  717.  
  718.   乗員、乗客60人は
  719.    全員が絶望的。
  720.  
  721.  警察局によると爆弾は
  722. 過激派のしかけたものなり。
  723.  
  724.  
  725.  
  726. <BR>
  727.  昔。そんなに昔ではない昔。
  728.  まだ
  729.  エンジンが1000hpを
  730.  こえられなかったころ。
  731.  
  732.  そんなよわいエンジンで
  733.  空をおおう
  734.  伝説の竜のような巨大機を
  735.  つくっている人たちがいた。
  736.  
  737.  
  738.  
  739. <BR>
  740.  やがて、客はスピードをもとめ、
  741.  大きいだけの巨大機は
  742.  やくにたたなくなっていった。
  743.  
  744.  それでも
  745.  巨大機はつくりつづけられた。
  746.  
  747.  
  748.  
  749. <BR>
  750.  そんな巨大機の時代、
  751.  たった2機だけ
  752.  つくられた伝説的巨大機
  753.  
  754.  その2機目、「アリョール」
  755.  これは、そのアリョールに
  756.  まつわる話である。
  757.  
  758.  
  759.  
  760. <BR>
  761. 冠をうったお金で彼女は飛行機
  762. を1機かい、飛行機1機、社員
  763. 2人のちいさい会社をつくった。
  764. いろいろとくろうはあったもの
  765. の、いまでは世界でもめずらし
  766. い女性操縦士とそのてつだいと
  767. してがんばってます。
  768.  
  769. ちなみに、彼女は会社が大きく
  770. なったらアリョールをかいとる
  771. つもりだそうで。
  772.  
  773. わらっちゃだめだよ。まじめな
  774. 話なんだから。
  775.  
  776.  
  777.  
  778. <BR>
  779. 国境はこえたけど、お金はない。
  780. でも彼女はいたってきらくなも
  781. ので、
  782. 「なあに、また国境をこえても
  783.  どって、国営銀行からちいと
  784.  ちょろまかしてくるわ。」
  785. と、いきまいてます。
  786.  
  787. 彼女といると、たのしいね。
  788.  
  789.  
  790.  
  791. <BR>
  792. やっと出てきた刑務所にまたは
  793. いることになった。
  794. こんどは彼女とベつの所にいれ
  795. られたので、彼女とはあってい
  796. ない。またあえるかどうかもわ
  797. からない。
  798.  
  799. あらしがくるたびに、彼女のこ
  800. とを思い出す。
  801.  
  802.  
  803.  
  804. <BR>
  805. さて、とりあえずはここでおし
  806. まいです。
  807. このあと、なにがおこるのか、
  808. 爆弾処理はまにあうのか、
  809. きになる人は、ぜひともノーマ
  810. ルでもういちどあそんでくださ
  811. い。
  812.  
  813.  
  814.  
  815. <BR>
  816.  
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