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Amaryllis MSS JP Text

Jul 24th, 2023
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  1. FILENAME: text_310531-1.txt
  2. 乙女は遊戯をたしなむべし そこから芽生える恋もある       ―オウィディウス『恋の技法』第Ⅲ巻
  3. <西暦78年>
  4. <ポンペイ>
  5. アマリュリス: 盤上遊戯に興味を持ったのは 大詩人オウィディウス様の 『恋の技法』がきっかけでした
  6. アマリュリス: コルネリア様も興味をお持ちだと知って わたしは思いました
  7. アマリュリス: 『お近づきになるチャンス…』と!
  8. アマリュリス: コルネリア様はポンペイ随一の名家のお嬢様… 優しくて穏やかで知的なご令嬢!
  9. アマリュリス: ずっと前から憧れの存在でした
  10. アマリュリス: そして2年前…
  11. アマリュリス: ―アマリュリス― とりあえず、いま教えたみたいに 駒を動かしてもらえますか?
  12. コルネリア: ―コルネリア― こ、こう…かな?
  13. アマリュリス: ―アマリュリス― そうですそうです! さすがコルネリア様、覚えが早い…!
  14. コルネリア: ―コルネリア― ありがとう… アマリリ…アマリュリス
  15. アマリュリス: ―アマリュリス― 何度かやって、動かし方に慣れてきたら サイコロの数を増やして遊んでみましょうか?
  16. コルネリア: ―コルネリア― えっ…? 考えることが増えて、難しそう…
  17. アマリュリス: (あの頃はコルネリア様も)
  18. アマリュリス: (少し舌足らずでしたよね…)
  19. アマリュリス: 詩聖ウェルギリウス様の詩にも登場する ギリシャ系の名前“アマリュリス”は 少し発音が難しい
  20. アマリュリス: なので“アマリリス”と口にする人が多いけれど コルネリア様は真面目に “アマリュリス”と呼びつづける
  21. アマリュリス: (そういう誠実なところも 素敵なんですよね…!)
  22. コルネリアの声: アマリュリス…
  23. コルネリアの声: アマリュリス…?
  24. アマリュリス: はっ!?
  25. コルネリア: あなたの番よ
  26. アマリュリス: ――っ!?
  27. アマリュリス: はわ…! そ、そうでした…!
  28. トン…
  29. コルネリア: …えっ? そっちの駒を重ねちゃうの?
  30. アマリュリス: ふふっ… これで守りは完璧ですからね!
  31. コルネリア: 私としては、この塊を一気に 進められる方が痛かったけど
  32. アマリュリス: …?
  33. アマリュリス: …!
  34. アマリュリス: はわ…!?
  35. アマリュリス: たしかに どうでもいいところを防御して
  36. アマリュリス: 絶好の攻めどきを逃してます!
  37. コルネリア: やり直してもいいけど?
  38. アマリュリス: いえ、情けは無用です! 痛いですけど…
  39. アマリュリス: 最初に手ほどきしたのは わたしのはずなのに
  40. アマリュリス: もう、勝てる気がしません…
  41.  
  42. FILENAME: text_310531-2.txt
  43. アマリュリス: わたしは、コルネリア様の 恋を応援しています
  44. アマリュリス: お相手は幼馴染のマリウス様…
  45. アマリュリス: ライバルは、コルネリア様の 双子の妹ユニア様!
  46. アマリュリス: 実は、わたしはその ユニア様お付きの侍女なのです
  47. アマリュリス: ですので… 裏切り者ということになります!
  48. アマリュリス: 隙をみては口実を作って コルネリア様に さまざまな入れ知恵をしにきます
  49. アマリュリス: ルドゥス…知的盤上遊戯は 待ち時間のささやかな愉しみ…
  50. アマリュリス: はぁ… 今日のルドゥスも完敗でした
  51. コルネリア: 部屋へ戻りましょうか
  52. アマリュリス: ですね!
  53. アマリュリス: お昼のあとは、マリウス様が 迎えにいらっしゃいます
  54. アマリュリス: まだ充分、時間がありますけど
  55. アマリュリス: 今のうちに余裕を持って 身支度など始めておいたほうが…
  56. アマリュリス: マリウス様のお父様は このポンペイでも指折りの有力者…
  57. アマリュリス: マリウス様と誰が婚約するかで 都市参事会…町の今後の政策が 大きく様変わりします
  58. アマリュリス: そして、マリウス様の婚約者候補の筆頭が コルネリア様とユニア様のおふたりなのです!
  59. コルネリア: ユニアは遅れてくるのよね?
  60. アマリュリス: はい、円形闘技場へ 直接お越しなさるそうです!
  61. コルネリア: 今日は3人で レースを観られるのね
  62. コルネリア: 楽しみだわ
  63. アマリュリス: ユニア様は幼い頃に養子に出され コルネリア様とは別々に暮らしていますが おふたりはとても仲好しです
  64. アマリュリス: お父様同士も親友の間柄で いずれ劣らぬ大商人ですが… ただ、家業が違います
  65. アマリュリス: つまり、双子の姉妹とはいえ どちらが婚約なさるかで 町の運命が変わってしまうのです…!
  66. アマリュリス: (もし、マリウス様がユニア様と 婚約してしまったら…)
  67. アマリュリス: 来年、この町に降りかかる 逃れえぬ災禍…
  68. アマリュリス: その日、みなさんが逃げ遅れ 町のほとんどの人々が 命を落とす未来が待ち受けています
  69. アマリュリス: 地元の産業にたずさわる有力者の方々が 町を捨てて避難することを 最後までためらった結果でした
  70. アマリュリス: …わたしは、そんな未来からきたんです
  71. アマリュリス: 時を超えて 同じ悲劇を、二度と繰り返さないために
  72. アマリュリス: …………
  73. コルネリア: …未来で起きたことを 思いだしていたの?
  74. アマリュリス: あ…はい
  75. コルネリア: みんなを救うためにすべきことは たくさんあるのに
  76. コルネリア: 私、浮かれてていいのかな…
  77. アマリュリス: 他の案件については 今日できることはありませんし
  78. アマリュリス: コルネリア様のご婚約を 確実なものにするためにも
  79. アマリュリス: 今日はレース観戦でマリウス様と もっと親睦を深めてください!
  80. アマリュリス: コルネリア様には、すべてをお話して 他の町の人たちもみんな逃げられるように いろいろと協力してもらっています
  81. アマリュリス: 破滅が迫っているという予言を広めたり 避難や移住を考える人たちが 多数派になるよう、有力者に働きかけたり…
  82. アマリュリス: その甲斐あって、空気も変わってきました この趨勢を決定的にするには マリウス様とコルネリア様のご婚約が なによりも大切なんです!
  83. アマリュリス: 最初はユニア様に遠慮してか 恋には消極的だったコルネリア様ですが…
  84. アマリュリス: わたしがさんざん焚きつけた結果 自分の気持ちに正直になってくれました
  85. アマリュリス: ここで、お父様がたのご意向を 動かすためにも
  86. アマリュリス: コルネリア様とマリウス様が いま以上に
  87. アマリュリス: 親密になることが重要です ですので、今日こそは…
  88. コルネリア: えっと… 一緒に戦車競走を観るだけよ?
  89. アマリュリス: 何をおっしゃるんですか!
  90. アマリュリス: レース観戦は、男女がごく自然に 同席できる貴重な機会ですよ!?
  91. アマリュリス: あのオウィディウス様も 『恋の技法』で推奨されている
  92. アマリュリス: 有意義な親睦手段です!
  93. アマリュリス: しかもコルネリア様は特等席! かの人気御者…
  94. アマリュリス: “左利きのヒラルス”様の オーナーの特権です!
  95. アマリュリス: ふたりの気分も最高に 盛り上がろうというもの…!
  96. コルネリア: あなた本当にみゆりんが言ってた れん…なんとかよね?
  97. アマリュリス: …恋愛脳ですか?
  98. コルネリア: そう、それ
  99. アマリュリス: うーん、どうせ誉められるなら “策士”とか呼ばれてみたいです
  100. コルネリア: 誉めてないけど…
  101. アマリュリス: えっ…?
  102. アマリュリス: …そうそう、それはともかく 観戦のあとは、再建工事中の
  103. アマリュリス: 女神ウェヌス様の神殿のあたりに 寄り道しないでくださいね
  104. コルネリア: どうして?
  105. アマリュリス: たしか今日、あのへんで 幽霊騒ぎが起きるはずなので…
  106. コルネリア: あなたの経験した未来では そうだったのね?
  107. アマリュリス: はい…今度も起きるかどうかは わかりませんけど、念のため
  108. コルネリア: ありがとう、わかったわ さて…
  109. コルネリア: これを片づけてきましょうか
  110. コルネリア: マリウス様をお迎えする 準備も始めたいし
  111. アマリュリス: はいっ
  112. アマリュリス: ゲーム盤をしまっておく場所は ここでしたよね?
  113. コルネリア: あなた、よその家の侍女なのに 私よりくわしくない?
  114. アマリュリス: えへ、それはもう…! それじゃ、綺麗に片づけて…
  115. コトッ…
  116. アマリュリス: …? これはなんでしょう…?
  117. コルネリア: …見せて?
  118. ぽわわん
  119. アマリュリス: はわ… 音が出ました!
  120. コルネリア: それだけじゃない…!
  121. コルネリア: なに…これ? 人の顔が映ってる…?
  122.  
  123. FILENAME: text_310531-3.txt
  124. ひめな: キャハッ★
  125. ひめな: お店がいっぱいあって 楽しかったねっ
  126. 時雨: うん…町を歩く時間があって よかったかも
  127. ねむ: 観光に来たんじゃないんだけどね
  128. ミユリ: それより心配です…
  129. ミユリ: ミユはミユは…
  130. ミユリ: スマホをいったいどこで 落としてしまったのでしょう…?
  131. 時雨: 最後に使ったのはいつ…?
  132. ミユリ: 今朝だと思います
  133. ミユリ: さっき、町で記念写真を 撮ろうとしたとき
  134. ミユリ: 手元にないことに気づきました…
  135. ねむ: そもそも、電波も届かない時代に 持ち込もうとする時点で問題だし
  136. ねむ: しかも記念写真を撮ろうとしたり ましてや紛失するなんて
  137. ねむ: 時間旅行者の心がまえとして 大いに問題があるよ…
  138. ミユリ: もしもタイムパトロールがいたら 現行犯逮捕でしょうかぁ…?
  139. ねむ: 逮捕どころじゃない 現代のスマートフォンなんて
  140. ねむ: この時代にあってはならない品 いわゆるオーパーツだからね
  141. ねむ: 2000年後に遺跡で発見されて 現代で大騒ぎになったり
  142. ねむ: いや…最悪の場合 今ごろポンペイの町の誰かが
  143. ねむ: 拾っている可能性も 考えられるし…
  144. ひめな: しぐりんの大きいヘッドフォンも
  145. ひめな: 落とさないように 気をつけないとねっ
  146. 時雨: …う…うん…
  147. コルネリア: あ、帰ってたのね ひめな、みゆりん、しぐりん
  148. アマリュリス: 町の散策はいかがでしたか?
  149. ひめな: あざまる★
  150. ひめな: 活気がある町で めっちゃ楽しかった!
  151. コルネリア: それはよかったわ
  152. アマリュリス: みゆりん様は 少し浮かないお顔ですね
  153. ミユリ: あー、えっと実は スマホを落としまして…
  154. アマリュリス: スマホ…とは?
  155. ミユリ: その、てのひらに載るくらいの 薄くて四角い機械なのですがぁ…
  156. コルネリア: ん…?
  157. コルネリア: それって、さっきの…
  158. コルネリア: 触ったら絵や音が出る 小さな書字板みたいな…?
  159. ねむ: 書字板…タブラとも言うね “タブレット”の語源だよ
  160. ミユリ: それですそれです! どこで見たのですか!?
  161. コルネリア: 物置きがわりに使ってる 空き部屋にあったの
  162. アマリュリス: たしか朝、みゆりん様たちとの 打ち合わせで使った部屋ですね
  163. ミユリ: あ…きっとそのときに 置いたままにしたんですね!
  164. ミユリ: もしも町で落としていたら
  165. ミユリ: 新たなタイムパラドクス案件に なるところでした…
  166. ねむ: 最悪の事態を避けたというだけで 現状でも相当な綱渡りだよ…
  167. ミユリ: それでそれで、ミユのスマホは 今どこにあるのでしょう?
  168. コルネリア: 見つけた空き部屋に置いてあるわ
  169. コルネリア: お父様の骨董品に紛れていたから
  170. コルネリア: 勝手に持ち出しては いけないと思って
  171. コルネリア: ひょっとしたら…と思ったけど ひめなたちのものだったのね
  172. アマリュリス: とりあえず 例の部屋まで行きましょうか!
  173. アマリュリス: …あれっ? 見あたらないですね
  174. アマリュリス: たしか部屋の隅にあった かごの中に入れたはずですが
  175. コルネリア: かご自体なくなってる… 侍女の誰かが片づけたのかしら
  176. アマリュリス: お父様がお持ちになったのかも
  177. 時雨: それって、まずい…?
  178. ねむ: まずいね、だってさっきの コルネリアたちの口ぶりだと
  179. ねむ: 電源が入る上に、アプリも 使える状態だったわけだから
  180. ひめな: 普通、ロックとかかけない?
  181. ミユリ: ゲームのオート周回中に 勝手に止まると困りますので…
  182. 時雨: そんなガチ勢だったの…?
  183. ミユリ: ちなみにアマリュリスさんたちは どのアプリを見たんでしょう?
  184. ミユリ: ネットにつながらないので
  185. ミユリ: 動かないアプリが多かったと 思うのですがぁ…
  186. アマリュリス: えっと、説明が難しいのですが…
  187. アマリュリス: 綺麗な足がたくさん描かれた 絵が見えました
  188. コルネリア: タブラに手で触るたびに 別の絵に変わってたわね
  189. ミユリ: ああああ、そそそ…それは!!! 電子版の薄い本ですぅ…!
  190. ねむ: 電子書籍のデータに 厚いも薄いもないけどね…
  191. ひめな: ねえ…これって ヤバヤバのヤバじゃない?
  192. ひめな: コルネリアたちに 見られただけならいいけど
  193. ひめな: いま、誰が持ってるのか わかんないんだよねっ?
  194. ねむ: うん、その通り だいぶ感覚が麻痺してるけど
  195. ねむ: コルネリアたちに見られた時点で 猛省すべき事案だよ…
  196. ねむ: 他の人に渡ったりしたら
  197. ねむ: 予期せぬタイムパラドクスを 惹起しかねない
  198. ひめな: でも私チャンたち、もう 歴史に干渉してるよねっ?
  199. ねむ: うん、あくまで正しい歴史を 取り戻すためにね
  200. ねむ: でも、古代ローマ時代の人々が
  201. ねむ: 先端技術の塊である スマホの現物に触れることは
  202. ねむ: どう考えてみても 正しい歴史とは言えない
  203. ミユリ: ミ、ミユのせいで新たな危機が…
  204. ねむ: …少し脅かしすぎたようだね 謝罪するよ
  205. ねむ: この時代に来てから、僕自身も 過失を重ねてしまっているしね…
  206. ねむ: あくまでも、危機を引き起こす “可能性がある”というだけだよ
  207. コルネリア: …誰が持っていったのか 侍女たちに聞いてみるわ
  208. アマリュリス: わ、わたしも…!
  209.  
  210. FILENAME: text_310531-4.txt
  211. わたしが得意とするのはメタモルフォセス… “なりすまし”の魔法です
  212. その魔法を駆使して、コルネリア様のお屋敷内で 聞き込みをした結果…
  213. アマリュリス: …わかりましたよ!
  214. アマリュリス: みゆりん様のタブラ… いえ、スマホが入ったかごを
  215. アマリュリス: 部屋から持ち出したのは コルネリア様のお父様です
  216. ミユリ: それでそれで! どうなったのでしょう?
  217. アマリュリス: かごには、旅先でお集めになった 古い宝飾品を入れていたそうで
  218. アマリュリス: 鑑定のため、宝石商の方に まとめてお渡しすべく
  219. アマリュリス: さきほど出かけられたそうです
  220. ねむ: 貴重品をそんな無造作に 保管していたなんて
  221. ねむ: 本当に資産家なんだね…
  222. コルネリア: とにかく行方はわかったのね ありがとう、アマリュリス
  223. コルネリア: でもあなた、ユニアのところへ 戻らなくてもいいの?
  224. アマリュリス: だいぶよくないですけど… 事態が事態のようですし
  225. アマリュリス: 最悪、ユニア様の侍女としての
  226. アマリュリス: わたしの立場が 悪化するだけですので…
  227. アマリュリス: ところでコルネリア様は お食事の時間では…?
  228. コルネリア: それどころじゃないでしょ?
  229. ひめな: 午後からはマリウスと デートなんだよね?
  230. アマリュリス: はい、もうすぐマリウス様が いらっしゃるころです
  231. アマリュリス: コルネリア様は出発準備を なさらないと…
  232. コルネリアの父の声: おっ、コルネリア
  233. コルネリア: あ、お父様…
  234. コルネリア: 宝石商のところへ出向いたと 伺っていましたが
  235. コルネリアの父: ああ、溜まっていた骨董品の 鑑定を依頼してきた
  236. コルネリアの父: どこで買ったか思いだせないが かなりの珍品が混じっていてね
  237. コルネリアの父: 居合わせた若い客のひとりが 買い取りたいと言ってきたよ
  238. コルネリア: 珍品って…もしかして
  239. アマリュリス: イヤな予感は的中しました… 珍品とは、みゆりん様のスマホのことでした
  240. アマリュリス: …ちなみに、買い取りたいと おっしゃってるお方とは…?
  241. コルネリアの父: ガイウスという若者で
  242. コルネリアの父: ローマ海軍のプリニウス提督の 甥にあたる方だそうだ
  243. アマリュリスたち: ――っ!?
  244. アマリュリス: プリニウス様… 大著『博物誌』を上梓なさった 著名な軍人にして博物学者
  245. アマリュリス: 実はわたしたちとも ちょっとしたご縁があるのですが それはまた別のお話
  246. アマリュリス: その甥のガイウス様は… まだマリウス様と同じくらいのお歳ですが
  247. アマリュリス: 将来、“小プリニウス”と呼ばれ 2000年先の未来にまで その名を残すさだめなのだとか…
  248. ねむ: これは本当に由々しき事態に なってきたかもしれない…
  249. アマリュリス: そんな感じですね…
  250. ねむ: 甥のガイウスは 忙しいプリニウスにかわって
  251. ねむ: 立ち寄った先の港で、珍しい 事物を物色しているんだろう
  252. ミユリ: …つまりその途中で
  253. ミユリ: ミユのスマホの中身も その人に見られたんですよね?
  254. ねむ: うん、それだけでもすでに
  255. ねむ: 僕が想像していた最悪の事態に 迫ってるんだけど…
  256. ねむ: このままでは、この時代で 最高の著名人のひとりである
  257. ねむ: プリニウスの手に 現代のスマホが渡ることになる
  258. ねむ: まさか、これほど急速に 危機のレベルが跳ねあがるとは
  259. ねむ: 僕も予期していなかったよ
  260. ミユリ: …ミユはもう消えたいですぅ
  261. 時雨: そんなにまずいの…?
  262. ねむ: …『博物誌』は現在もまだ 続刊が書きつづけられているはず
  263. ねむ: 仮に、スマホに関する記述が 『博物誌』に記されたら
  264. ねむ: 僕達の知ってる未来にはなかった 記録が出現することになる
  265. ねむ: すなわち…2000年単位の 巨大なタイムパラドクスが起きる
  266. ねむ: それにガイウスこと 小プリニウスも著名な文人だ
  267. ねむ: 彼自身がスマホに関する 記述を残してしまうのもまずい
  268. ミユリ: やばいにやばいが重なって 超やばい感じでしょうか…
  269. ひめな: どれくらいのやばみなの?
  270. ねむ: わからない…タイムパラドクスで 宇宙が消し飛ぶかもしれないし…
  271. アマリュリス: はわ… そんな大惨事に!?
  272. ねむ: 逆に、もし仮にスマホに 関する記述がなされたとしても
  273. ねむ: 他の内容に埋もれてしまって 影響が出ない可能性もある
  274. ねむ: 『博物誌』には、スマホより よほど不思議な事物のことが
  275. ねむ: たくさん書かれているからね
  276. ねむ: 僕の杞憂で終わる可能性もあるし そうなってほしいところだけど…
  277. ひめな: とりま最悪の事態も 考えて動いたほうがいいよね?
  278. アマリュリス: で、ですよね…?
  279. アマリュリス: ただ…
  280. アマリュリス: もうすぐマリウス様も いらっしゃいますし
  281. アマリュリス: いったいどうすれば…!?
  282. コルネリア: 落ち着いて、焦ったら負けよ ルドゥスと同じ
  283. コルネリア: もう後がない、というときこそ 優雅に…ね?
  284. アマリュリス: コルネリア様…!
  285. アマリュリス: はわ… まずいことになりましたね…
  286.  
  287. FILENAME: text_310532-1.txt
  288. 戦車の競走場も、剣闘士の闘技場も 燃えあがる恋の火種となる      ―オウィディウス『恋の技法』第Ⅰ巻
  289. コルネリア: それでは…
  290. コルネリア: まずは、最も優先すべきことから 考えましょうか
  291. ひめな: コルネリアとマリウスのデート! これは絶対だよっ
  292. アマリュリス: はい、これまでの努力を ここでふいにはできません
  293. アマリュリス: なので、コルネリア様は予定通り レース観戦におでかけください!
  294. ミユリ: それからそれから! ミユのスマホも取り戻さないと…
  295. アマリュリス: みゆりん様のスマホがあるのは 宝石商の方のところですね…
  296. アマリュリス: プリニウス様の甥であるガイウス様は 必要なお代を用立ててから 取引所を訪れる予定だとか
  297. アマリュリス: コルネリア様のお父様もその場に赴き 問題の品…みゆりん様のスマホを お譲りすることになっています
  298. コルネリア: …私が、みゆりんのスマホを どうしても欲しいとおねだりして
  299. コルネリア: ガイウス様にお譲りしないよう 働きかければいいんじゃない?
  300. ミユリ: なるほどです!
  301. アマリュリス: コルネリア様のお父様は コルネリア様に甘いですからね
  302. コルネリア: …善は急げね お父様に話をしてくるわ
  303. アマリュリス: …どうでしたか?
  304. コルネリア: おねだり自体は いちおう認めてもらえたわ
  305. コルネリア: ただし条件があるそうよ
  306. コルネリア: 一度はした約束を 反故にしようというのだから
  307. コルネリア: 夕方、宝石商と会うときに 私も同席して
  308. コルネリア: ガイウス様に謝罪しなさいって
  309. ミユリ: なんだか、すみません…
  310. コルネリア: それと、先方の出方しだいでは やはりお譲りすることになるかも
  311. ひめな: えっ…?
  312. ねむ: 彼はすでに、アプリが起動する スマホを目にしたわけだろう?
  313. ねむ: 伯父のプリニウスのために なんとしても手に入れたいはずだ
  314. コルネリア: ええ、10倍のお代を積むから ぜひ欲しいなんて言われたら…
  315. アマリュリス: 軍の偉い方のお身内ですしね お父様も無下にはできません
  316. 時雨: …どうしよう…?
  317. コルネリア: アマリュリスの魔法で どうにかできないかな…
  318. ひめな: あ…
  319. ひめな: ヒコ君がね いいこと思いついたみたい!
  320. ひめな: みんなを騙すことになるから あまり気が進まないみたいだけど
  321. ミユリ: 歴史上の偉人の手に、ミユの スマホが渡るよりマシです!
  322. アマリュリス: どんな策なんでしょう?
  323. ひめな: 今から説明するねっ
  324. コルネリア: …仕方ないわ その作戦でいきましょう
  325. コルネリア: たしかに気が咎めるけれど… 絶対に失敗できないのよね?
  326. ねむ: この規模のタイムパラドクスが 起きたら、終わりだからね…
  327. ミユリ: ミユの不始末からこんなことに… なんでも協力しますぅ
  328. アマリュリス: すべきことをまとめますと…
  329. アマリュリス: まず、コルネリア様はそのまま 戦車競走を楽しんでいただく…
  330. アマリュリス: その間に、わたしと ひめな様たちで
  331. アマリュリス: 町のどこかにいるはずの ガイウス様を見つける…
  332. アマリュリス: 夕方になったらコルネリア様は
  333. アマリュリス: お父様と一緒に 宝石商の方が待つ取引所へと赴く
  334. アマリュリス: あとはヒコ様の作戦通りにやれば うまくいくはずです!
  335. ねむ: 夕方までにガイウスを 見つけないと成立しないけどね
  336. 時雨: ぼくたちとアマリュリスとで 手分けして探すしかないね…
  337. アマリュリス: みなさん ありがとうございます…!
  338. ねむ: 感謝は不要だよ 僕達のマッチポンプなんだから
  339. アマリュリス: あっ…マリウス様がおいでです!
  340. マリウス: お待たせ、コルネリア! 今日のレース、楽しみだね
  341. コルネリア: マリウス様…! お迎え、ありがとうございます
  342.  
  343. FILENAME: text_310532-2.txt
  344. <ポンペイ市街>
  345. ひめな: コルネリアはマリウスと レース観戦でデートかぁ
  346. 時雨: 戦車競走って デートの定番なの…?
  347. アマリュリス: 定番かどうかはわかりませんが
  348. アマリュリス: 『恋の技法』でも 再三おすすめされてますね!
  349. アマリュリス: 男女の距離が近いので 仲がぐっと深まりますし…
  350. アマリュリス: そういう場に出ていかないと せっかくの美貌も持ち腐れだとか
  351. ミユリ: 意外と俗っぽい本なんです…?
  352. アマリュリス: 男性向けにはこう書いてあります 自分のひいきは脇に置いて
  353. アマリュリス: 同伴の女性がひいきする御者を 応援しなさい…と
  354. マリウス: 誕生日おめでとう コルネリア
  355. マリウス: 今日、左利きのヒラルスが 勝ってくれたら最高だね
  356. アマリュリス: 前にコルネリア様の誕生日に 観戦したとき…
  357. アマリュリス: マリウス様は、無意識に それをやっておられましたね
  358. ミユリ: 天然たらしですぅ…
  359. ひめな: でもさ、今日ってユニアも 一緒なんじゃなかった?
  360. ひめな: そんな距離が近いんだったら
  361. ひめな: コルネリアにめっちゃ ハグしてきそうなんだけど
  362. アマリュリス: …それもそうですね
  363. ミユリ: そういえばユニアさんって
  364. ミユリ: 隙あらばコルネリアさんに 甘えてくるんでしたっけ…?
  365. アマリュリス: …今からでも円形闘技場へ行って ユニア様に自重をお願いしないと
  366. 時雨: ガイウスって人を 探すのが先だよね…?
  367. ひめな: とりま、そっち優先だよね 心あたりとかある?
  368. アマリュリス: 見当もつきません…
  369. アマリュリス: 最後に会った宝石商の方も ご存じないそうですし
  370. アマリュリス: 手分けして町を探すしか…
  371. ひめな: じゃあ、一時解散だねっ
  372.  
  373. FILENAME: text_310532-3.txt
  374. <円形闘技場前>
  375. ユニア: お姉様、マリウス様! 今日は楽しかったです…!
  376. コルネリア: ふふっ、ユニアも一緒に 見られてよかったわ
  377. マリウス: レースも“左利きのヒラルス”の 見事な逃げ切りだったね
  378. マリウス: さすが、コルネリアの選んだ 御者だよ
  379. コルネリア: ありがとうございます マリウス様
  380. ユニア: お姉様はこのあと お父様とお会いになるの?
  381. コルネリア: ええ、宝石商の方と お会いする用事があって…
  382. マリウス: 僕が送っていくよ
  383. コルネリア: 私は大丈夫です お父様が迎えにきますので
  384. コルネリア: マリウス様は ユニアを送ってあげてください
  385. コルネリア: お屋敷もそちらのほうが 近いですし…
  386. コルネリアの父: 待たせたな、コルネリア レースはどうだった?
  387. コルネリア: お父様! とても楽しめました
  388. ユニア: お姉様たちにいっぱい 甘えちゃいました…!
  389. コルネリアの父: ハハハ、それは何よりだ
  390. コルネリアの父: …すまんが、時間がなくてな コルネリアを連れていくぞ
  391. マリウス: はい、プブリウス様
  392. マリウス: 行先は取引所でしたね
  393. コルネリアの父: ああ、港のほう… 西の門の近くだ
  394. ざわざわ…
  395. コルネリア: (西の門のあたりって…)
  396. コルネリア: (たしか、ウェヌス神殿の すぐ近くよね?)
  397. 「また出たらしいぞ…」
  398. 「例の、ウェヌス神殿の幽霊か?」
  399. コルネリア: ………… …………
  400. コルネリア: (お父様も一緒だし… 大丈夫…よね?)
  401.  
  402. FILENAME: text_310532-4.txt
  403. <ポンペイ市街>
  404. アマリュリス: …だめです 全然、見つかりません!
  405. ミユリ: こっちも同じくですぅ…
  406. ミユリ: いったいガイウスさんは どこにいるのでしょうか…?
  407. ねむ: 資金調達のために、両替商の どれかを訪れるかと思ったけど
  408. ねむ: 最後のあても外れたね…
  409. アマリュリス: でも、ガイウス様が
  410. アマリュリス: 確実に姿を見せる場所が ひとつあります
  411. アマリュリス: 宝石商の方と会う予定の 取引所です!
  412. ねむ: たしかに約束の時間になれば 間違いなく来る理屈だ
  413. ねむ: そんなギリギリのタイミングで あれこれ細工するのは
  414. ねむ: かなり難易度が高いけど…
  415. ひめな: もう時間もないし 行くしかなくない?
  416. 時雨: …ぼくもそう思う
  417. ミユリ: あのあの、その取引所って どっちの方角でしたっけ…?
  418. アマリュリス: 西の門のほうです! 近くに女神ウェヌス様の…]あっ!
  419. ひめな: ん、どうかした?
  420. アマリュリス: 迂闊でした…! 幽霊騒ぎが起きる場所です!
  421. アマリュリス: 噂は前からあって…たしか今日 ちょっとした騒ぎになるんです
  422. ひめな: コルネリアたちも そっちへ向かってるんだよね?
  423. アマリュリス: もっと早く気づくべきでした… イヤな予感がします!
  424. ザザァ…
  425. ???: うーん…
  426. ???: 港近くの神殿で 幽霊が出るとの噂を聞いて
  427. ???: 門を出て、海岸まで 散策してみましたが
  428. ???: 何も出る様子がありませんね…
  429. <取引所前>
  430. ミユリ: 取引所の前まで来ましたけど…
  431. ミユリ: ガイウスさんらしい人は 見あたりません
  432. ひめな: というか私チャンたち その人の顔知らなくない?
  433. アマリュリス: 最悪、目的の建物に入るところを つかまえましょう
  434. 時雨: あれっ…あの人…
  435. ???: …うーん、好事家の伯父への
  436. ???: よいみやげ話になるかと 思ったのですが…
  437. ???: 幽霊探しはあきらめて 例の品を引き取りにいきますか
  438. ひめな: あの人、ガイウスさんじゃない?
  439. ねむ: 取引所のほうへ向かってるし 聞いていた話と背格好も一致する
  440. ねむ: 伯父へのみやげ話のために ここで幽霊を探していたんだね
  441. アマリュリス: 盲点でした…!
  442. アマリュリス: 待ち合わせ場所の近くに ずっといらっしゃったとは…!
  443. 時雨: 時間がない… 作戦を始めよう
  444. アマリュリス: ですね!
  445. アマリュリス: ここで、ヒコ様の作戦の内容です!
  446. アマリュリス: まずはわたしが 魔法でガイウス様に“なりすまし”て 取引所へ入ってしまいます
  447. アマリュリス: その間、ひめな様たちにお願いして 本物のガイウス様が取引所へ入らないように 工作していただきます
  448. アマリュリス: くわしいことはわかりませんが ひめな様の“合成”の魔法を使えば わたしと同じように なりすましの魔法を使うことができるそうで…
  449. ひめな: 宝石商の人になりすますとかして
  450. ひめな: 別の場所に引き留めておけば いいんだよね?
  451. アマリュリス: はい、それで大丈夫です!
  452. ざわざわ…
  453. ミユリ: あのあの… なんだか様子が変です
  454. ひめな: ちょっと騒がしいね
  455. ひめな&ミユリ: ――っ!?
  456. ミユリ: あれって… 結界ですよね!?
  457. アマリュリス: はわ… もしかして幽霊騒ぎの正体って
  458. 時雨: うん…あれが原因かも
  459. アマリュリス: どど… どうしましょう?
  460. アマリュリス: さて、この局面は どう切り抜けましょう…?
  461.  
  462. FILENAME: text_310533-1.txt
  463. いわば、恋は戦争である 闘志なき者は立ち去るべし      ―オウィディウス『恋の技法』第Ⅱ巻
  464. ミユリ: あれって… 結界ですよね!?
  465. アマリュリス: はわ… もしかして幽霊騒ぎの正体って
  466. 時雨: うん…あれが原因かも
  467. アマリュリス: どど… どうしましょう?
  468. ガイウス: ………… …………
  469. アマリュリス: ガイウス様…?
  470. アマリュリス: もしかして、怪物に 魅入られてしまっている…?
  471. ミユリ: アマリュリスさん! あれは!
  472. アマリュリス: コルネリア様!?
  473. ねむ: そろそろ待ち合わせ時間だからね 来る頃だとは思ってたけど
  474. ミユリ: タイミングが最悪なのですがぁ なんかもうグダグダです…
  475. 時雨: そんなに強い魔力じゃない… 使い魔の結界だと思う
  476. ひめな: とにかくやっつけよっ!
  477. アマリュリス: はいっ!
  478. ひめな: 前にも似たようなのと戦ったよね
  479. ひめな: 私チャンたちが来たせいで 増殖した使い魔…?
  480. ねむ: どうだろう…? アマリュリスの話だと
  481. ねむ: もともと、この日この場所で 幽霊騒ぎが起きるみたいだったし
  482. 時雨: ぼくたちとは関係なく 発生する騒動だった…?
  483. ねむ: 小プリニウスやコルネリアが この時間に居合わせたのは
  484. ねむ: あのスマホが 直接的な原因だけどね
  485. ミユリ: もう、この世の中の悪いことは だいたいミユのせいです…
  486. ミユリ: ガイウスさんやコルネリアさんに もしも何かあったら…?
  487. ねむ: 言わなくてもわかるだろう?
  488. ねむ: どちらも、この先の歴史で 重要な役割を果たす人たちだ
  489. アマリュリス: 絶対に、お守りしてみせますっ!
  490.  
  491. FILENAME: text_310533-2.txt
  492. アマリュリス: みなさん ありがとうございました!
  493. アマリュリス: コルネリア様たちは…?
  494. 時雨: 無事みたい…
  495. パカラッ、パカラッ…
  496. ミユリ: あれっ お馬さんの足音です…?
  497. マリウス: コルネリアっ!
  498. マリウス: コルネリア…
  499. マリウス: コルネリアっ!
  500. コルネリア: …………
  501. マリウス: コルネリア…!
  502. コルネリア: マリウス…様? どうして…?
  503. マリウス: よかった、目が覚めた…!
  504. マリウス: ウェヌス神殿のあたりに 幽霊が出るって噂を聞いて
  505. マリウス: イヤな予感がして駆けつけたんだ
  506. ヒヒーン!
  507. コルネリア: あれっ…えっと もしかして、馬で…?
  508. マリウス: ヒラルスさんの馬だよ
  509. 左利きのヒラルス: ちょうど馬を引いて 町を移動していたら
  510. 左利きのヒラルス: 馬を貸してほしいと言われまして
  511. 左利きのヒラルス: わが主、コルネリア様が ご無事でよかったです
  512. マリウス: うん…本当によかった
  513. マリウス: もしも何かあったら 一生後悔するところだったよ…
  514. コルネリア: マリウス様…
  515. ひめな: ピンチを察して駆けつけるなんて めちゃイケメンかも!
  516. ミユリ: 恋が始まってしまいますぅ
  517. アマリュリス: あっ…コルネリア様のお父様も 目を覚まされたようです
  518. アマリュリス: 予定通り、ヒコ様の計画を!
  519. アマリュリス: ガイウス様には申し訳ありませんが…
  520. アマリュリス: 気を失っておられるうちに わたしがガイウス様になりすまして 取引所に向かいます
  521. アマリュリス: ひめな様、あとはよろしく お願いします!
  522. ひめな: おけまる★
  523. ミユリ: 本物のガイウスさんを あっちへ運びましょう!
  524. 時雨: 使い魔が暴れたおかげで 少し手間が省けちゃったね…
  525. ひめな: そうだね、あとはしばらくの間 どこかに引き留めておいて
  526. ひめな: コルネリアたちの取引が 終わるのを待てばいいんだよね?
  527.  
  528. FILENAME: text_310533-3.txt
  529. <翌朝…>
  530. アマリュリス: …と、いうわけで
  531. アマリュリス: みゆりん様のスマホは 無事に帰ってきました
  532. コルネリア: よかったわね
  533. ミユリ: たいへんご迷惑を おかけしましたが
  534. ミユリ: タイムパラドクスはなんとか 回避されたのです…!
  535. ミユリ: しかもしかも! 結果的にではありますが
  536. ミユリ: コルネリアさんとマリウスさんの 仲を深める上で
  537. ミユリ: 少しはお役に立てた気がします!
  538. ねむ: 僕達のマッチポンプの結果だし 誇るべきではないと思うよ…
  539. アマリュリス: わたしはあの場所で起きる 幽霊騒ぎのことを知っていたのに
  540. アマリュリス: 迂闊にもコルネリア様とお父様を 危険にさらしてしまいました…
  541. コルネリア: でも、助けてくれたんでしょう? マリウス様が駆けつける前に
  542. アマリュリス: えっ…あ、それは そうなんですけど…
  543. コルネリア: ウェヌス神殿の近くだと気づいて 少し危ないかも、と思ったけど
  544. コルネリア: 何かあったらアマリュリスたちが 来てくれるって信じてたわよ
  545. アマリュリス: コルネリア様…!
  546. 時雨: 取引所ではどんな話をしたの…?
  547. アマリュリス: ガイウス様になりすまして 適当なことを言っただけです!
  548. アマリュリス: お嬢さんが そこまでおっしゃるなら
  549. アマリュリス: 無理に譲ってほしいなどと 言うつもりはありません
  550. アマリュリス: どうか私のことは お気になさらず…!
  551. アマリュリス: そんな感じでコルネリア様の手に スマホが渡るよう仕向けました!
  552. コルネリア: ガイウス様には 申し訳ないことをしたわ
  553. アマリュリス: …そうそう、本物のガイウス様は どんな反応だったんでしょう?
  554. ひめな: 宝石商の人になりすまして 近くで介抱してあげたんだよね
  555. ひめな: 幽霊騒ぎに巻き込まれて 気を失ってる間に
  556. ひめな: 取引が中止になったって言って ごまかしておいたよ
  557. ねむ: そのあとの様子も 観察していたけど
  558. ねむ: 本物の宝石商に会って だいぶ混乱していたよ
  559. ガイウス: えっ…取引はもう 終わったというのですか?
  560. 宝石商: ええ…私が立ち会いましたよ? というか、ガイウス様ご自身も
  561. 宝石商: さきほどまで取引所に いらっしゃいましたよね…?
  562. ガイウス: ………… …………
  563. ガイウス: …まるで、記憶にありません
  564. ガイウス: 私はさっきまでその道端で
  565. ガイウス: あなたに介抱されていた はずなのですが
  566. 宝石商: はて…どういうことでしょう?
  567. ガイウス: もうひとりの私が 取引所で勝手に話をした…?
  568. ガイウス: もしや、いたずら好きの幽霊の 仕業だとでも言うのでしょうか…
  569. ミユリ: みなさん昨日のことは全部 幽霊のせいだと思ってくれるので
  570. ミユリ: その点は助かりました…
  571. コルネリア: 悪いことをしてしまったわ
  572. ねむ: でも、伯父のプリニウスに いいみやげ話ができたと言って
  573. ねむ: むしろ喜んでいたけどね
  574. ねむ: ただの幽霊話が伝わるだけなら タイムパラドクスの問題もない
  575. 時雨: でも、その人… 一度はスマホに触ってるんだよね
  576. 時雨: 動くスマホを 1回でも見ちゃったら
  577. 時雨: あとでやっぱり欲しいって 思わない…かな?
  578. ミユリ: ああ、そのことなんですがぁ…
  579. ミユリ: すでにバッテリーが切れて 電源も落ちていました
  580. ミユリ: もしかするとすでに 文鎮化してたのではないかと…
  581. 時雨: え…バッテリー切れ!?
  582. ひめな: いつから落ちてたの?
  583. コルネリア: お父様も、あれが動くのは 見ていない口ぶりだったから
  584. コルネリア: 私たちが触った直後には 今と同じ状態だったのかも
  585. アマリュリス: …だと思います
  586. アマリュリス: 宝石商の方も、コルネリア様の お父様も…
  587. アマリュリス: ものすごく綺麗に磨かれた
  588. アマリュリス: 小さな鏡だと思い込んで いらっしゃいましたので…
  589. ねむ: 言われてみれば、銀や錫に ガラスを貼りあわせた
  590. ねむ: 小さな鏡のようなものに 見えるのかもしれないね
  591. ミユリ: つまりつまり
  592. ミユリ: ミユのスマホはもはや ただの鏡か文鎮になったので
  593. ミユリ: このあと紛失しても タイムパラドクスは起きません!
  594. ねむ: 古代ローマの鏡は こんな形状をしていないし
  595. ねむ: 使われてる合金や 研磨技術だけでも
  596. ねむ: この時代においては オーバーテクノロジーだよ
  597. ねむ: 紛失事故が二度と起きないよう おたがい注意したいね
  598. ひめな: …コルネリアは今日も マリウスとデートだっけ?
  599. アマリュリス: ユニア様と3人で ピクニックですね
  600. アマリュリス: その前に、重要な会合が ひとつ控えていますが…
  601. ねむ: 相変わらず多忙なようだね
  602. コルネリア: うん でも、がんばらなきゃ
  603.  
  604. FILENAME: text_310533-4.txt
  605. <数日後…>
  606. アマリュリス: ひめな様たちは例のごとく 忽然と姿を消してしまいましたが…
  607. アマリュリス: 次はまた来年、お会いできるんじゃないかと わたしは思います
  608. アマリュリス: いままでも、そうだったので…!
  609. アマリュリス: 一方… わたしたちは次の計画へ向けて 着々と準備を進めています
  610. アマリュリス: 空いた時間には、こうして ルドゥスをたしなんだりもしますが…
  611. アマリュリス: はわ…! どうしても1が出ません!
  612. アマリュリス: このサイコロは どうなってるんでしょう?
  613. アマリュリス: こんなに偏ることってあります?
  614. コルネリア: たしかにあまりないかもね
  615. ころん
  616. コルネリア: 私はまだまだ劣勢だから とにかく駒を進めるわ
  617. アマリュリス: おかしいです…さっきまで 一方的にわたしが勝ってたのに…
  618. アマリュリス: なんだか、雲ゆきがあやしく…
  619. ころん
  620. アマリュリス: はわ…!? また…!
  621. アマリュリス: 幸運の女神様に 見放されてます…!
  622. ころん
  623. コルネリア: あ…いい目かも 追いつけそうな気がしてきた
  624. アマリュリス: サイコロもコルネリア様に 味方してますよね?
  625. アマリュリス: わたしなんて、さっきから ろくに駒を動かせてませんし…
  626. コルネリア: その状態になると 運頼みになるから不利なのよね
  627. コルネリア: 結果論かもしれないけど 6つ前の手番のときに
  628. コルネリア: こことここへ分散して置けば あなたの勝ちだったんじゃない?
  629. アマリュリス: えっ…
  630. アマリュリス: コルネリア様、そんな前の手番の
  631. アマリュリス: 相手のサイコロの目まで 覚えてるんですか!?
  632. コルネリア: 自分だったらどう置くかな?って 注意して見てたから…
  633. アマリュリス: 見てる世界が違いすぎます…
  634. アマリュリス: ルドゥスをコルネリア様に 教えたのはわたしなのに…
  635. アマリュリス: ネコだと思って育ててた動物が
  636. アマリュリス: ライオンの子どもだったような 気分です…
  637. コルネリア: ふふっ
  638. アマリュリス: 何か可笑しいですか…?
  639. コルネリア: たしかアマリュリスって
  640. コルネリア: 『恋の技法』でルドゥスに興味を 持ったって言ってたわよね?
  641. アマリュリス: はい、そうですけど…
  642. コルネリア: それで私も読んでみたんだけど…
  643. コルネリア: 駒の動かし方なんか 気にしなくていいから
  644. コルネリア: 決して感情を剥き出しにせずに 優雅にたしなむべし…って
  645. コルネリア: そんなふうに書いてあったから
  646. アマリュリス: …!
  647. アマリュリス: わたしの遊び方と真逆です!
  648. コルネリア: やっぱり、そうよね…?
  649. アマリュリス: …たしかにオウィディウス様は
  650. アマリュリス: あくまで恋のきっかけとして 盤上ゲームを紹介されています
  651. アマリュリス: わたしみたいに勝敗にこだわって 一喜一憂するのでなく
  652. アマリュリス: コルネリア様のような
  653. アマリュリス: 優雅なたしなみ方こそが 推奨されていたはず…
  654. アマリュリス: オウィディウス様の金言を忘れて いつのまに真逆の遊び方に…?
  655. コルネリア: …のめり込みやすい 性質なのかしら?
  656. アマリュリス: 戦車競走もそうですよね… オウィディウス様は
  657. アマリュリス: 出会いと親睦の場として ご紹介されているだけなのに
  658. アマリュリス: わたし、ひいきの御者の 応援ばかりしてますし
  659. アマリュリス: …完敗です
  660. アマリュリス: ルドゥスの勝敗どころか 娯楽のたしなみ方すら
  661. アマリュリス: コルネリア様のようにできません
  662. コルネリア: あなたはそれでいいんじゃない? 楽しんでる感じがして好きよ
  663. アマリュリス: あ、ありがとうございます…
  664. アマリュリス: …それにしてもコルネリア様は いつも落ち着いていますよね
  665. アマリュリス: みゆりん様のスマホの一件も
  666. アマリュリス: すべきことを冷静に考えて 優雅に対処されましたし…
  667. コルネリア: 作戦を考えたのは 私じゃないでしょ?
  668. アマリュリス: たしかに考案されたのは ヒコ様ですが
  669. アマリュリス: コルネリア様に落ち着いて 方針を整理していただかなければ
  670. アマリュリス: わたしはあわてるばかりで 何もできなかったと思います…
  671. アマリュリス: コルネリア様って
  672. アマリュリス: 歩き方ひとつとっても おっとりして気品がありますし
  673. アマリュリス: 人としての器が違うんでしょうか
  674. コルネリア: …私、走るとすぐに転ぶのよ
  675. コルネリア: だから絶対に 走らないようにしてるの
  676. アマリュリス: え!? そうなんですか?
  677. コルネリア: ユニアもよく転んでるのよね 双子だから似てるのかも
  678. アマリュリス: ああ…たしかに…
  679. アマリュリス: ちょっと親しみが 湧いてきました!
  680. コルネリア: 落ち着いてるっていえば 聞こえはいいけれど…
  681. コルネリア: ひとより慎重っていうか …たぶん臆病なだけ
  682. コルネリア: だから私はね… あなたに感謝しているの
  683. アマリュリス: えっ… わたしに?
  684. コルネリア: そうよ
  685. アマリュリス: わたしがコルネリア様に 感謝されるようなことなんて
  686. アマリュリス: 何も…
  687. コルネリア: ううん…だって、あなたが 背中を押してくれなかったら
  688. コルネリア: ルドゥスの愉しみだって 知らないままだったし
  689. コルネリア: それに、ゲームの盤上に あがることもなかったんだから
  690. コルネリア: …恋のゲームの、ね
  691. アマリュリス: …………
  692. アマリュリス: コルネリア様…!
  693. アマリュリス: つ、次の勝負は負けませんので!
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