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- FILENAME: text_310531-1.txt
- 乙女は遊戯をたしなむべし そこから芽生える恋もある ―オウィディウス『恋の技法』第Ⅲ巻
- <西暦78年>
- <ポンペイ>
- アマリュリス: 盤上遊戯に興味を持ったのは 大詩人オウィディウス様の 『恋の技法』がきっかけでした
- アマリュリス: コルネリア様も興味をお持ちだと知って わたしは思いました
- アマリュリス: 『お近づきになるチャンス…』と!
- アマリュリス: コルネリア様はポンペイ随一の名家のお嬢様… 優しくて穏やかで知的なご令嬢!
- アマリュリス: ずっと前から憧れの存在でした
- アマリュリス: そして2年前…
- アマリュリス: ―アマリュリス― とりあえず、いま教えたみたいに 駒を動かしてもらえますか?
- コルネリア: ―コルネリア― こ、こう…かな?
- アマリュリス: ―アマリュリス― そうですそうです! さすがコルネリア様、覚えが早い…!
- コルネリア: ―コルネリア― ありがとう… アマリリ…アマリュリス
- アマリュリス: ―アマリュリス― 何度かやって、動かし方に慣れてきたら サイコロの数を増やして遊んでみましょうか?
- コルネリア: ―コルネリア― えっ…? 考えることが増えて、難しそう…
- アマリュリス: (あの頃はコルネリア様も)
- アマリュリス: (少し舌足らずでしたよね…)
- アマリュリス: 詩聖ウェルギリウス様の詩にも登場する ギリシャ系の名前“アマリュリス”は 少し発音が難しい
- アマリュリス: なので“アマリリス”と口にする人が多いけれど コルネリア様は真面目に “アマリュリス”と呼びつづける
- アマリュリス: (そういう誠実なところも 素敵なんですよね…!)
- コルネリアの声: アマリュリス…
- コルネリアの声: アマリュリス…?
- アマリュリス: はっ!?
- コルネリア: あなたの番よ
- アマリュリス: ――っ!?
- アマリュリス: はわ…! そ、そうでした…!
- トン…
- コルネリア: …えっ? そっちの駒を重ねちゃうの?
- アマリュリス: ふふっ… これで守りは完璧ですからね!
- コルネリア: 私としては、この塊を一気に 進められる方が痛かったけど
- アマリュリス: …?
- アマリュリス: …!
- アマリュリス: はわ…!?
- アマリュリス: たしかに どうでもいいところを防御して
- アマリュリス: 絶好の攻めどきを逃してます!
- コルネリア: やり直してもいいけど?
- アマリュリス: いえ、情けは無用です! 痛いですけど…
- アマリュリス: 最初に手ほどきしたのは わたしのはずなのに
- アマリュリス: もう、勝てる気がしません…
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- アマリュリス: わたしは、コルネリア様の 恋を応援しています
- アマリュリス: お相手は幼馴染のマリウス様…
- アマリュリス: ライバルは、コルネリア様の 双子の妹ユニア様!
- アマリュリス: 実は、わたしはその ユニア様お付きの侍女なのです
- アマリュリス: ですので… 裏切り者ということになります!
- アマリュリス: 隙をみては口実を作って コルネリア様に さまざまな入れ知恵をしにきます
- アマリュリス: ルドゥス…知的盤上遊戯は 待ち時間のささやかな愉しみ…
- アマリュリス: はぁ… 今日のルドゥスも完敗でした
- コルネリア: 部屋へ戻りましょうか
- アマリュリス: ですね!
- アマリュリス: お昼のあとは、マリウス様が 迎えにいらっしゃいます
- アマリュリス: まだ充分、時間がありますけど
- アマリュリス: 今のうちに余裕を持って 身支度など始めておいたほうが…
- アマリュリス: マリウス様のお父様は このポンペイでも指折りの有力者…
- アマリュリス: マリウス様と誰が婚約するかで 都市参事会…町の今後の政策が 大きく様変わりします
- アマリュリス: そして、マリウス様の婚約者候補の筆頭が コルネリア様とユニア様のおふたりなのです!
- コルネリア: ユニアは遅れてくるのよね?
- アマリュリス: はい、円形闘技場へ 直接お越しなさるそうです!
- コルネリア: 今日は3人で レースを観られるのね
- コルネリア: 楽しみだわ
- アマリュリス: ユニア様は幼い頃に養子に出され コルネリア様とは別々に暮らしていますが おふたりはとても仲好しです
- アマリュリス: お父様同士も親友の間柄で いずれ劣らぬ大商人ですが… ただ、家業が違います
- アマリュリス: つまり、双子の姉妹とはいえ どちらが婚約なさるかで 町の運命が変わってしまうのです…!
- アマリュリス: (もし、マリウス様がユニア様と 婚約してしまったら…)
- アマリュリス: 来年、この町に降りかかる 逃れえぬ災禍…
- アマリュリス: その日、みなさんが逃げ遅れ 町のほとんどの人々が 命を落とす未来が待ち受けています
- アマリュリス: 地元の産業にたずさわる有力者の方々が 町を捨てて避難することを 最後までためらった結果でした
- アマリュリス: …わたしは、そんな未来からきたんです
- アマリュリス: 時を超えて 同じ悲劇を、二度と繰り返さないために
- アマリュリス: …………
- コルネリア: …未来で起きたことを 思いだしていたの?
- アマリュリス: あ…はい
- コルネリア: みんなを救うためにすべきことは たくさんあるのに
- コルネリア: 私、浮かれてていいのかな…
- アマリュリス: 他の案件については 今日できることはありませんし
- アマリュリス: コルネリア様のご婚約を 確実なものにするためにも
- アマリュリス: 今日はレース観戦でマリウス様と もっと親睦を深めてください!
- アマリュリス: コルネリア様には、すべてをお話して 他の町の人たちもみんな逃げられるように いろいろと協力してもらっています
- アマリュリス: 破滅が迫っているという予言を広めたり 避難や移住を考える人たちが 多数派になるよう、有力者に働きかけたり…
- アマリュリス: その甲斐あって、空気も変わってきました この趨勢を決定的にするには マリウス様とコルネリア様のご婚約が なによりも大切なんです!
- アマリュリス: 最初はユニア様に遠慮してか 恋には消極的だったコルネリア様ですが…
- アマリュリス: わたしがさんざん焚きつけた結果 自分の気持ちに正直になってくれました
- アマリュリス: ここで、お父様がたのご意向を 動かすためにも
- アマリュリス: コルネリア様とマリウス様が いま以上に
- アマリュリス: 親密になることが重要です ですので、今日こそは…
- コルネリア: えっと… 一緒に戦車競走を観るだけよ?
- アマリュリス: 何をおっしゃるんですか!
- アマリュリス: レース観戦は、男女がごく自然に 同席できる貴重な機会ですよ!?
- アマリュリス: あのオウィディウス様も 『恋の技法』で推奨されている
- アマリュリス: 有意義な親睦手段です!
- アマリュリス: しかもコルネリア様は特等席! かの人気御者…
- アマリュリス: “左利きのヒラルス”様の オーナーの特権です!
- アマリュリス: ふたりの気分も最高に 盛り上がろうというもの…!
- コルネリア: あなた本当にみゆりんが言ってた れん…なんとかよね?
- アマリュリス: …恋愛脳ですか?
- コルネリア: そう、それ
- アマリュリス: うーん、どうせ誉められるなら “策士”とか呼ばれてみたいです
- コルネリア: 誉めてないけど…
- アマリュリス: えっ…?
- アマリュリス: …そうそう、それはともかく 観戦のあとは、再建工事中の
- アマリュリス: 女神ウェヌス様の神殿のあたりに 寄り道しないでくださいね
- コルネリア: どうして?
- アマリュリス: たしか今日、あのへんで 幽霊騒ぎが起きるはずなので…
- コルネリア: あなたの経験した未来では そうだったのね?
- アマリュリス: はい…今度も起きるかどうかは わかりませんけど、念のため
- コルネリア: ありがとう、わかったわ さて…
- コルネリア: これを片づけてきましょうか
- コルネリア: マリウス様をお迎えする 準備も始めたいし
- アマリュリス: はいっ
- アマリュリス: ゲーム盤をしまっておく場所は ここでしたよね?
- コルネリア: あなた、よその家の侍女なのに 私よりくわしくない?
- アマリュリス: えへ、それはもう…! それじゃ、綺麗に片づけて…
- コトッ…
- アマリュリス: …? これはなんでしょう…?
- コルネリア: …見せて?
- ぽわわん
- アマリュリス: はわ… 音が出ました!
- コルネリア: それだけじゃない…!
- コルネリア: なに…これ? 人の顔が映ってる…?
- FILENAME: text_310531-3.txt
- ひめな: キャハッ★
- ひめな: お店がいっぱいあって 楽しかったねっ
- 時雨: うん…町を歩く時間があって よかったかも
- ねむ: 観光に来たんじゃないんだけどね
- ミユリ: それより心配です…
- ミユリ: ミユはミユは…
- ミユリ: スマホをいったいどこで 落としてしまったのでしょう…?
- 時雨: 最後に使ったのはいつ…?
- ミユリ: 今朝だと思います
- ミユリ: さっき、町で記念写真を 撮ろうとしたとき
- ミユリ: 手元にないことに気づきました…
- ねむ: そもそも、電波も届かない時代に 持ち込もうとする時点で問題だし
- ねむ: しかも記念写真を撮ろうとしたり ましてや紛失するなんて
- ねむ: 時間旅行者の心がまえとして 大いに問題があるよ…
- ミユリ: もしもタイムパトロールがいたら 現行犯逮捕でしょうかぁ…?
- ねむ: 逮捕どころじゃない 現代のスマートフォンなんて
- ねむ: この時代にあってはならない品 いわゆるオーパーツだからね
- ねむ: 2000年後に遺跡で発見されて 現代で大騒ぎになったり
- ねむ: いや…最悪の場合 今ごろポンペイの町の誰かが
- ねむ: 拾っている可能性も 考えられるし…
- ひめな: しぐりんの大きいヘッドフォンも
- ひめな: 落とさないように 気をつけないとねっ
- 時雨: …う…うん…
- コルネリア: あ、帰ってたのね ひめな、みゆりん、しぐりん
- アマリュリス: 町の散策はいかがでしたか?
- ひめな: あざまる★
- ひめな: 活気がある町で めっちゃ楽しかった!
- コルネリア: それはよかったわ
- アマリュリス: みゆりん様は 少し浮かないお顔ですね
- ミユリ: あー、えっと実は スマホを落としまして…
- アマリュリス: スマホ…とは?
- ミユリ: その、てのひらに載るくらいの 薄くて四角い機械なのですがぁ…
- コルネリア: ん…?
- コルネリア: それって、さっきの…
- コルネリア: 触ったら絵や音が出る 小さな書字板みたいな…?
- ねむ: 書字板…タブラとも言うね “タブレット”の語源だよ
- ミユリ: それですそれです! どこで見たのですか!?
- コルネリア: 物置きがわりに使ってる 空き部屋にあったの
- アマリュリス: たしか朝、みゆりん様たちとの 打ち合わせで使った部屋ですね
- ミユリ: あ…きっとそのときに 置いたままにしたんですね!
- ミユリ: もしも町で落としていたら
- ミユリ: 新たなタイムパラドクス案件に なるところでした…
- ねむ: 最悪の事態を避けたというだけで 現状でも相当な綱渡りだよ…
- ミユリ: それでそれで、ミユのスマホは 今どこにあるのでしょう?
- コルネリア: 見つけた空き部屋に置いてあるわ
- コルネリア: お父様の骨董品に紛れていたから
- コルネリア: 勝手に持ち出しては いけないと思って
- コルネリア: ひょっとしたら…と思ったけど ひめなたちのものだったのね
- アマリュリス: とりあえず 例の部屋まで行きましょうか!
- アマリュリス: …あれっ? 見あたらないですね
- アマリュリス: たしか部屋の隅にあった かごの中に入れたはずですが
- コルネリア: かご自体なくなってる… 侍女の誰かが片づけたのかしら
- アマリュリス: お父様がお持ちになったのかも
- 時雨: それって、まずい…?
- ねむ: まずいね、だってさっきの コルネリアたちの口ぶりだと
- ねむ: 電源が入る上に、アプリも 使える状態だったわけだから
- ひめな: 普通、ロックとかかけない?
- ミユリ: ゲームのオート周回中に 勝手に止まると困りますので…
- 時雨: そんなガチ勢だったの…?
- ミユリ: ちなみにアマリュリスさんたちは どのアプリを見たんでしょう?
- ミユリ: ネットにつながらないので
- ミユリ: 動かないアプリが多かったと 思うのですがぁ…
- アマリュリス: えっと、説明が難しいのですが…
- アマリュリス: 綺麗な足がたくさん描かれた 絵が見えました
- コルネリア: タブラに手で触るたびに 別の絵に変わってたわね
- ミユリ: ああああ、そそそ…それは!!! 電子版の薄い本ですぅ…!
- ねむ: 電子書籍のデータに 厚いも薄いもないけどね…
- ひめな: ねえ…これって ヤバヤバのヤバじゃない?
- ひめな: コルネリアたちに 見られただけならいいけど
- ひめな: いま、誰が持ってるのか わかんないんだよねっ?
- ねむ: うん、その通り だいぶ感覚が麻痺してるけど
- ねむ: コルネリアたちに見られた時点で 猛省すべき事案だよ…
- ねむ: 他の人に渡ったりしたら
- ねむ: 予期せぬタイムパラドクスを 惹起しかねない
- ひめな: でも私チャンたち、もう 歴史に干渉してるよねっ?
- ねむ: うん、あくまで正しい歴史を 取り戻すためにね
- ねむ: でも、古代ローマ時代の人々が
- ねむ: 先端技術の塊である スマホの現物に触れることは
- ねむ: どう考えてみても 正しい歴史とは言えない
- ミユリ: ミ、ミユのせいで新たな危機が…
- ねむ: …少し脅かしすぎたようだね 謝罪するよ
- ねむ: この時代に来てから、僕自身も 過失を重ねてしまっているしね…
- ねむ: あくまでも、危機を引き起こす “可能性がある”というだけだよ
- コルネリア: …誰が持っていったのか 侍女たちに聞いてみるわ
- アマリュリス: わ、わたしも…!
- FILENAME: text_310531-4.txt
- わたしが得意とするのはメタモルフォセス… “なりすまし”の魔法です
- その魔法を駆使して、コルネリア様のお屋敷内で 聞き込みをした結果…
- アマリュリス: …わかりましたよ!
- アマリュリス: みゆりん様のタブラ… いえ、スマホが入ったかごを
- アマリュリス: 部屋から持ち出したのは コルネリア様のお父様です
- ミユリ: それでそれで! どうなったのでしょう?
- アマリュリス: かごには、旅先でお集めになった 古い宝飾品を入れていたそうで
- アマリュリス: 鑑定のため、宝石商の方に まとめてお渡しすべく
- アマリュリス: さきほど出かけられたそうです
- ねむ: 貴重品をそんな無造作に 保管していたなんて
- ねむ: 本当に資産家なんだね…
- コルネリア: とにかく行方はわかったのね ありがとう、アマリュリス
- コルネリア: でもあなた、ユニアのところへ 戻らなくてもいいの?
- アマリュリス: だいぶよくないですけど… 事態が事態のようですし
- アマリュリス: 最悪、ユニア様の侍女としての
- アマリュリス: わたしの立場が 悪化するだけですので…
- アマリュリス: ところでコルネリア様は お食事の時間では…?
- コルネリア: それどころじゃないでしょ?
- ひめな: 午後からはマリウスと デートなんだよね?
- アマリュリス: はい、もうすぐマリウス様が いらっしゃるころです
- アマリュリス: コルネリア様は出発準備を なさらないと…
- コルネリアの父の声: おっ、コルネリア
- コルネリア: あ、お父様…
- コルネリア: 宝石商のところへ出向いたと 伺っていましたが
- コルネリアの父: ああ、溜まっていた骨董品の 鑑定を依頼してきた
- コルネリアの父: どこで買ったか思いだせないが かなりの珍品が混じっていてね
- コルネリアの父: 居合わせた若い客のひとりが 買い取りたいと言ってきたよ
- コルネリア: 珍品って…もしかして
- アマリュリス: イヤな予感は的中しました… 珍品とは、みゆりん様のスマホのことでした
- アマリュリス: …ちなみに、買い取りたいと おっしゃってるお方とは…?
- コルネリアの父: ガイウスという若者で
- コルネリアの父: ローマ海軍のプリニウス提督の 甥にあたる方だそうだ
- アマリュリスたち: ――っ!?
- アマリュリス: プリニウス様… 大著『博物誌』を上梓なさった 著名な軍人にして博物学者
- アマリュリス: 実はわたしたちとも ちょっとしたご縁があるのですが それはまた別のお話
- アマリュリス: その甥のガイウス様は… まだマリウス様と同じくらいのお歳ですが
- アマリュリス: 将来、“小プリニウス”と呼ばれ 2000年先の未来にまで その名を残すさだめなのだとか…
- ねむ: これは本当に由々しき事態に なってきたかもしれない…
- アマリュリス: そんな感じですね…
- ねむ: 甥のガイウスは 忙しいプリニウスにかわって
- ねむ: 立ち寄った先の港で、珍しい 事物を物色しているんだろう
- ミユリ: …つまりその途中で
- ミユリ: ミユのスマホの中身も その人に見られたんですよね?
- ねむ: うん、それだけでもすでに
- ねむ: 僕が想像していた最悪の事態に 迫ってるんだけど…
- ねむ: このままでは、この時代で 最高の著名人のひとりである
- ねむ: プリニウスの手に 現代のスマホが渡ることになる
- ねむ: まさか、これほど急速に 危機のレベルが跳ねあがるとは
- ねむ: 僕も予期していなかったよ
- ミユリ: …ミユはもう消えたいですぅ
- 時雨: そんなにまずいの…?
- ねむ: …『博物誌』は現在もまだ 続刊が書きつづけられているはず
- ねむ: 仮に、スマホに関する記述が 『博物誌』に記されたら
- ねむ: 僕達の知ってる未来にはなかった 記録が出現することになる
- ねむ: すなわち…2000年単位の 巨大なタイムパラドクスが起きる
- ねむ: それにガイウスこと 小プリニウスも著名な文人だ
- ねむ: 彼自身がスマホに関する 記述を残してしまうのもまずい
- ミユリ: やばいにやばいが重なって 超やばい感じでしょうか…
- ひめな: どれくらいのやばみなの?
- ねむ: わからない…タイムパラドクスで 宇宙が消し飛ぶかもしれないし…
- アマリュリス: はわ… そんな大惨事に!?
- ねむ: 逆に、もし仮にスマホに 関する記述がなされたとしても
- ねむ: 他の内容に埋もれてしまって 影響が出ない可能性もある
- ねむ: 『博物誌』には、スマホより よほど不思議な事物のことが
- ねむ: たくさん書かれているからね
- ねむ: 僕の杞憂で終わる可能性もあるし そうなってほしいところだけど…
- ひめな: とりま最悪の事態も 考えて動いたほうがいいよね?
- アマリュリス: で、ですよね…?
- アマリュリス: ただ…
- アマリュリス: もうすぐマリウス様も いらっしゃいますし
- アマリュリス: いったいどうすれば…!?
- コルネリア: 落ち着いて、焦ったら負けよ ルドゥスと同じ
- コルネリア: もう後がない、というときこそ 優雅に…ね?
- アマリュリス: コルネリア様…!
- アマリュリス: はわ… まずいことになりましたね…
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- 戦車の競走場も、剣闘士の闘技場も 燃えあがる恋の火種となる ―オウィディウス『恋の技法』第Ⅰ巻
- コルネリア: それでは…
- コルネリア: まずは、最も優先すべきことから 考えましょうか
- ひめな: コルネリアとマリウスのデート! これは絶対だよっ
- アマリュリス: はい、これまでの努力を ここでふいにはできません
- アマリュリス: なので、コルネリア様は予定通り レース観戦におでかけください!
- ミユリ: それからそれから! ミユのスマホも取り戻さないと…
- アマリュリス: みゆりん様のスマホがあるのは 宝石商の方のところですね…
- アマリュリス: プリニウス様の甥であるガイウス様は 必要なお代を用立ててから 取引所を訪れる予定だとか
- アマリュリス: コルネリア様のお父様もその場に赴き 問題の品…みゆりん様のスマホを お譲りすることになっています
- コルネリア: …私が、みゆりんのスマホを どうしても欲しいとおねだりして
- コルネリア: ガイウス様にお譲りしないよう 働きかければいいんじゃない?
- ミユリ: なるほどです!
- アマリュリス: コルネリア様のお父様は コルネリア様に甘いですからね
- コルネリア: …善は急げね お父様に話をしてくるわ
- アマリュリス: …どうでしたか?
- コルネリア: おねだり自体は いちおう認めてもらえたわ
- コルネリア: ただし条件があるそうよ
- コルネリア: 一度はした約束を 反故にしようというのだから
- コルネリア: 夕方、宝石商と会うときに 私も同席して
- コルネリア: ガイウス様に謝罪しなさいって
- ミユリ: なんだか、すみません…
- コルネリア: それと、先方の出方しだいでは やはりお譲りすることになるかも
- ひめな: えっ…?
- ねむ: 彼はすでに、アプリが起動する スマホを目にしたわけだろう?
- ねむ: 伯父のプリニウスのために なんとしても手に入れたいはずだ
- コルネリア: ええ、10倍のお代を積むから ぜひ欲しいなんて言われたら…
- アマリュリス: 軍の偉い方のお身内ですしね お父様も無下にはできません
- 時雨: …どうしよう…?
- コルネリア: アマリュリスの魔法で どうにかできないかな…
- ひめな: あ…
- ひめな: ヒコ君がね いいこと思いついたみたい!
- ひめな: みんなを騙すことになるから あまり気が進まないみたいだけど
- ミユリ: 歴史上の偉人の手に、ミユの スマホが渡るよりマシです!
- アマリュリス: どんな策なんでしょう?
- ひめな: 今から説明するねっ
- コルネリア: …仕方ないわ その作戦でいきましょう
- コルネリア: たしかに気が咎めるけれど… 絶対に失敗できないのよね?
- ねむ: この規模のタイムパラドクスが 起きたら、終わりだからね…
- ミユリ: ミユの不始末からこんなことに… なんでも協力しますぅ
- アマリュリス: すべきことをまとめますと…
- アマリュリス: まず、コルネリア様はそのまま 戦車競走を楽しんでいただく…
- アマリュリス: その間に、わたしと ひめな様たちで
- アマリュリス: 町のどこかにいるはずの ガイウス様を見つける…
- アマリュリス: 夕方になったらコルネリア様は
- アマリュリス: お父様と一緒に 宝石商の方が待つ取引所へと赴く
- アマリュリス: あとはヒコ様の作戦通りにやれば うまくいくはずです!
- ねむ: 夕方までにガイウスを 見つけないと成立しないけどね
- 時雨: ぼくたちとアマリュリスとで 手分けして探すしかないね…
- アマリュリス: みなさん ありがとうございます…!
- ねむ: 感謝は不要だよ 僕達のマッチポンプなんだから
- アマリュリス: あっ…マリウス様がおいでです!
- マリウス: お待たせ、コルネリア! 今日のレース、楽しみだね
- コルネリア: マリウス様…! お迎え、ありがとうございます
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- <ポンペイ市街>
- ひめな: コルネリアはマリウスと レース観戦でデートかぁ
- 時雨: 戦車競走って デートの定番なの…?
- アマリュリス: 定番かどうかはわかりませんが
- アマリュリス: 『恋の技法』でも 再三おすすめされてますね!
- アマリュリス: 男女の距離が近いので 仲がぐっと深まりますし…
- アマリュリス: そういう場に出ていかないと せっかくの美貌も持ち腐れだとか
- ミユリ: 意外と俗っぽい本なんです…?
- アマリュリス: 男性向けにはこう書いてあります 自分のひいきは脇に置いて
- アマリュリス: 同伴の女性がひいきする御者を 応援しなさい…と
- マリウス: 誕生日おめでとう コルネリア
- マリウス: 今日、左利きのヒラルスが 勝ってくれたら最高だね
- アマリュリス: 前にコルネリア様の誕生日に 観戦したとき…
- アマリュリス: マリウス様は、無意識に それをやっておられましたね
- ミユリ: 天然たらしですぅ…
- ひめな: でもさ、今日ってユニアも 一緒なんじゃなかった?
- ひめな: そんな距離が近いんだったら
- ひめな: コルネリアにめっちゃ ハグしてきそうなんだけど
- アマリュリス: …それもそうですね
- ミユリ: そういえばユニアさんって
- ミユリ: 隙あらばコルネリアさんに 甘えてくるんでしたっけ…?
- アマリュリス: …今からでも円形闘技場へ行って ユニア様に自重をお願いしないと
- 時雨: ガイウスって人を 探すのが先だよね…?
- ひめな: とりま、そっち優先だよね 心あたりとかある?
- アマリュリス: 見当もつきません…
- アマリュリス: 最後に会った宝石商の方も ご存じないそうですし
- アマリュリス: 手分けして町を探すしか…
- ひめな: じゃあ、一時解散だねっ
- FILENAME: text_310532-3.txt
- <円形闘技場前>
- ユニア: お姉様、マリウス様! 今日は楽しかったです…!
- コルネリア: ふふっ、ユニアも一緒に 見られてよかったわ
- マリウス: レースも“左利きのヒラルス”の 見事な逃げ切りだったね
- マリウス: さすが、コルネリアの選んだ 御者だよ
- コルネリア: ありがとうございます マリウス様
- ユニア: お姉様はこのあと お父様とお会いになるの?
- コルネリア: ええ、宝石商の方と お会いする用事があって…
- マリウス: 僕が送っていくよ
- コルネリア: 私は大丈夫です お父様が迎えにきますので
- コルネリア: マリウス様は ユニアを送ってあげてください
- コルネリア: お屋敷もそちらのほうが 近いですし…
- コルネリアの父: 待たせたな、コルネリア レースはどうだった?
- コルネリア: お父様! とても楽しめました
- ユニア: お姉様たちにいっぱい 甘えちゃいました…!
- コルネリアの父: ハハハ、それは何よりだ
- コルネリアの父: …すまんが、時間がなくてな コルネリアを連れていくぞ
- マリウス: はい、プブリウス様
- マリウス: 行先は取引所でしたね
- コルネリアの父: ああ、港のほう… 西の門の近くだ
- ざわざわ…
- コルネリア: (西の門のあたりって…)
- コルネリア: (たしか、ウェヌス神殿の すぐ近くよね?)
- 「また出たらしいぞ…」
- 「例の、ウェヌス神殿の幽霊か?」
- コルネリア: ………… …………
- コルネリア: (お父様も一緒だし… 大丈夫…よね?)
- FILENAME: text_310532-4.txt
- <ポンペイ市街>
- アマリュリス: …だめです 全然、見つかりません!
- ミユリ: こっちも同じくですぅ…
- ミユリ: いったいガイウスさんは どこにいるのでしょうか…?
- ねむ: 資金調達のために、両替商の どれかを訪れるかと思ったけど
- ねむ: 最後のあても外れたね…
- アマリュリス: でも、ガイウス様が
- アマリュリス: 確実に姿を見せる場所が ひとつあります
- アマリュリス: 宝石商の方と会う予定の 取引所です!
- ねむ: たしかに約束の時間になれば 間違いなく来る理屈だ
- ねむ: そんなギリギリのタイミングで あれこれ細工するのは
- ねむ: かなり難易度が高いけど…
- ひめな: もう時間もないし 行くしかなくない?
- 時雨: …ぼくもそう思う
- ミユリ: あのあの、その取引所って どっちの方角でしたっけ…?
- アマリュリス: 西の門のほうです! 近くに女神ウェヌス様の…]あっ!
- ひめな: ん、どうかした?
- アマリュリス: 迂闊でした…! 幽霊騒ぎが起きる場所です!
- アマリュリス: 噂は前からあって…たしか今日 ちょっとした騒ぎになるんです
- ひめな: コルネリアたちも そっちへ向かってるんだよね?
- アマリュリス: もっと早く気づくべきでした… イヤな予感がします!
- ザザァ…
- ???: うーん…
- ???: 港近くの神殿で 幽霊が出るとの噂を聞いて
- ???: 門を出て、海岸まで 散策してみましたが
- ???: 何も出る様子がありませんね…
- <取引所前>
- ミユリ: 取引所の前まで来ましたけど…
- ミユリ: ガイウスさんらしい人は 見あたりません
- ひめな: というか私チャンたち その人の顔知らなくない?
- アマリュリス: 最悪、目的の建物に入るところを つかまえましょう
- 時雨: あれっ…あの人…
- ???: …うーん、好事家の伯父への
- ???: よいみやげ話になるかと 思ったのですが…
- ???: 幽霊探しはあきらめて 例の品を引き取りにいきますか
- ひめな: あの人、ガイウスさんじゃない?
- ねむ: 取引所のほうへ向かってるし 聞いていた話と背格好も一致する
- ねむ: 伯父へのみやげ話のために ここで幽霊を探していたんだね
- アマリュリス: 盲点でした…!
- アマリュリス: 待ち合わせ場所の近くに ずっといらっしゃったとは…!
- 時雨: 時間がない… 作戦を始めよう
- アマリュリス: ですね!
- アマリュリス: ここで、ヒコ様の作戦の内容です!
- アマリュリス: まずはわたしが 魔法でガイウス様に“なりすまし”て 取引所へ入ってしまいます
- アマリュリス: その間、ひめな様たちにお願いして 本物のガイウス様が取引所へ入らないように 工作していただきます
- アマリュリス: くわしいことはわかりませんが ひめな様の“合成”の魔法を使えば わたしと同じように なりすましの魔法を使うことができるそうで…
- ひめな: 宝石商の人になりすますとかして
- ひめな: 別の場所に引き留めておけば いいんだよね?
- アマリュリス: はい、それで大丈夫です!
- ざわざわ…
- ミユリ: あのあの… なんだか様子が変です
- ひめな: ちょっと騒がしいね
- ひめな&ミユリ: ――っ!?
- ミユリ: あれって… 結界ですよね!?
- アマリュリス: はわ… もしかして幽霊騒ぎの正体って
- 時雨: うん…あれが原因かも
- アマリュリス: どど… どうしましょう?
- アマリュリス: さて、この局面は どう切り抜けましょう…?
- FILENAME: text_310533-1.txt
- いわば、恋は戦争である 闘志なき者は立ち去るべし ―オウィディウス『恋の技法』第Ⅱ巻
- ミユリ: あれって… 結界ですよね!?
- アマリュリス: はわ… もしかして幽霊騒ぎの正体って
- 時雨: うん…あれが原因かも
- アマリュリス: どど… どうしましょう?
- ガイウス: ………… …………
- アマリュリス: ガイウス様…?
- アマリュリス: もしかして、怪物に 魅入られてしまっている…?
- ミユリ: アマリュリスさん! あれは!
- アマリュリス: コルネリア様!?
- ねむ: そろそろ待ち合わせ時間だからね 来る頃だとは思ってたけど
- ミユリ: タイミングが最悪なのですがぁ なんかもうグダグダです…
- 時雨: そんなに強い魔力じゃない… 使い魔の結界だと思う
- ひめな: とにかくやっつけよっ!
- アマリュリス: はいっ!
- ひめな: 前にも似たようなのと戦ったよね
- ひめな: 私チャンたちが来たせいで 増殖した使い魔…?
- ねむ: どうだろう…? アマリュリスの話だと
- ねむ: もともと、この日この場所で 幽霊騒ぎが起きるみたいだったし
- 時雨: ぼくたちとは関係なく 発生する騒動だった…?
- ねむ: 小プリニウスやコルネリアが この時間に居合わせたのは
- ねむ: あのスマホが 直接的な原因だけどね
- ミユリ: もう、この世の中の悪いことは だいたいミユのせいです…
- ミユリ: ガイウスさんやコルネリアさんに もしも何かあったら…?
- ねむ: 言わなくてもわかるだろう?
- ねむ: どちらも、この先の歴史で 重要な役割を果たす人たちだ
- アマリュリス: 絶対に、お守りしてみせますっ!
- FILENAME: text_310533-2.txt
- アマリュリス: みなさん ありがとうございました!
- アマリュリス: コルネリア様たちは…?
- 時雨: 無事みたい…
- パカラッ、パカラッ…
- ミユリ: あれっ お馬さんの足音です…?
- マリウス: コルネリアっ!
- マリウス: コルネリア…
- マリウス: コルネリアっ!
- コルネリア: …………
- マリウス: コルネリア…!
- コルネリア: マリウス…様? どうして…?
- マリウス: よかった、目が覚めた…!
- マリウス: ウェヌス神殿のあたりに 幽霊が出るって噂を聞いて
- マリウス: イヤな予感がして駆けつけたんだ
- ヒヒーン!
- コルネリア: あれっ…えっと もしかして、馬で…?
- マリウス: ヒラルスさんの馬だよ
- 左利きのヒラルス: ちょうど馬を引いて 町を移動していたら
- 左利きのヒラルス: 馬を貸してほしいと言われまして
- 左利きのヒラルス: わが主、コルネリア様が ご無事でよかったです
- マリウス: うん…本当によかった
- マリウス: もしも何かあったら 一生後悔するところだったよ…
- コルネリア: マリウス様…
- ひめな: ピンチを察して駆けつけるなんて めちゃイケメンかも!
- ミユリ: 恋が始まってしまいますぅ
- アマリュリス: あっ…コルネリア様のお父様も 目を覚まされたようです
- アマリュリス: 予定通り、ヒコ様の計画を!
- アマリュリス: ガイウス様には申し訳ありませんが…
- アマリュリス: 気を失っておられるうちに わたしがガイウス様になりすまして 取引所に向かいます
- アマリュリス: ひめな様、あとはよろしく お願いします!
- ひめな: おけまる★
- ミユリ: 本物のガイウスさんを あっちへ運びましょう!
- 時雨: 使い魔が暴れたおかげで 少し手間が省けちゃったね…
- ひめな: そうだね、あとはしばらくの間 どこかに引き留めておいて
- ひめな: コルネリアたちの取引が 終わるのを待てばいいんだよね?
- FILENAME: text_310533-3.txt
- <翌朝…>
- アマリュリス: …と、いうわけで
- アマリュリス: みゆりん様のスマホは 無事に帰ってきました
- コルネリア: よかったわね
- ミユリ: たいへんご迷惑を おかけしましたが
- ミユリ: タイムパラドクスはなんとか 回避されたのです…!
- ミユリ: しかもしかも! 結果的にではありますが
- ミユリ: コルネリアさんとマリウスさんの 仲を深める上で
- ミユリ: 少しはお役に立てた気がします!
- ねむ: 僕達のマッチポンプの結果だし 誇るべきではないと思うよ…
- アマリュリス: わたしはあの場所で起きる 幽霊騒ぎのことを知っていたのに
- アマリュリス: 迂闊にもコルネリア様とお父様を 危険にさらしてしまいました…
- コルネリア: でも、助けてくれたんでしょう? マリウス様が駆けつける前に
- アマリュリス: えっ…あ、それは そうなんですけど…
- コルネリア: ウェヌス神殿の近くだと気づいて 少し危ないかも、と思ったけど
- コルネリア: 何かあったらアマリュリスたちが 来てくれるって信じてたわよ
- アマリュリス: コルネリア様…!
- 時雨: 取引所ではどんな話をしたの…?
- アマリュリス: ガイウス様になりすまして 適当なことを言っただけです!
- アマリュリス: お嬢さんが そこまでおっしゃるなら
- アマリュリス: 無理に譲ってほしいなどと 言うつもりはありません
- アマリュリス: どうか私のことは お気になさらず…!
- アマリュリス: そんな感じでコルネリア様の手に スマホが渡るよう仕向けました!
- コルネリア: ガイウス様には 申し訳ないことをしたわ
- アマリュリス: …そうそう、本物のガイウス様は どんな反応だったんでしょう?
- ひめな: 宝石商の人になりすまして 近くで介抱してあげたんだよね
- ひめな: 幽霊騒ぎに巻き込まれて 気を失ってる間に
- ひめな: 取引が中止になったって言って ごまかしておいたよ
- ねむ: そのあとの様子も 観察していたけど
- ねむ: 本物の宝石商に会って だいぶ混乱していたよ
- ガイウス: えっ…取引はもう 終わったというのですか?
- 宝石商: ええ…私が立ち会いましたよ? というか、ガイウス様ご自身も
- 宝石商: さきほどまで取引所に いらっしゃいましたよね…?
- ガイウス: ………… …………
- ガイウス: …まるで、記憶にありません
- ガイウス: 私はさっきまでその道端で
- ガイウス: あなたに介抱されていた はずなのですが
- 宝石商: はて…どういうことでしょう?
- ガイウス: もうひとりの私が 取引所で勝手に話をした…?
- ガイウス: もしや、いたずら好きの幽霊の 仕業だとでも言うのでしょうか…
- ミユリ: みなさん昨日のことは全部 幽霊のせいだと思ってくれるので
- ミユリ: その点は助かりました…
- コルネリア: 悪いことをしてしまったわ
- ねむ: でも、伯父のプリニウスに いいみやげ話ができたと言って
- ねむ: むしろ喜んでいたけどね
- ねむ: ただの幽霊話が伝わるだけなら タイムパラドクスの問題もない
- 時雨: でも、その人… 一度はスマホに触ってるんだよね
- 時雨: 動くスマホを 1回でも見ちゃったら
- 時雨: あとでやっぱり欲しいって 思わない…かな?
- ミユリ: ああ、そのことなんですがぁ…
- ミユリ: すでにバッテリーが切れて 電源も落ちていました
- ミユリ: もしかするとすでに 文鎮化してたのではないかと…
- 時雨: え…バッテリー切れ!?
- ひめな: いつから落ちてたの?
- コルネリア: お父様も、あれが動くのは 見ていない口ぶりだったから
- コルネリア: 私たちが触った直後には 今と同じ状態だったのかも
- アマリュリス: …だと思います
- アマリュリス: 宝石商の方も、コルネリア様の お父様も…
- アマリュリス: ものすごく綺麗に磨かれた
- アマリュリス: 小さな鏡だと思い込んで いらっしゃいましたので…
- ねむ: 言われてみれば、銀や錫に ガラスを貼りあわせた
- ねむ: 小さな鏡のようなものに 見えるのかもしれないね
- ミユリ: つまりつまり
- ミユリ: ミユのスマホはもはや ただの鏡か文鎮になったので
- ミユリ: このあと紛失しても タイムパラドクスは起きません!
- ねむ: 古代ローマの鏡は こんな形状をしていないし
- ねむ: 使われてる合金や 研磨技術だけでも
- ねむ: この時代においては オーバーテクノロジーだよ
- ねむ: 紛失事故が二度と起きないよう おたがい注意したいね
- ひめな: …コルネリアは今日も マリウスとデートだっけ?
- アマリュリス: ユニア様と3人で ピクニックですね
- アマリュリス: その前に、重要な会合が ひとつ控えていますが…
- ねむ: 相変わらず多忙なようだね
- コルネリア: うん でも、がんばらなきゃ
- FILENAME: text_310533-4.txt
- <数日後…>
- アマリュリス: ひめな様たちは例のごとく 忽然と姿を消してしまいましたが…
- アマリュリス: 次はまた来年、お会いできるんじゃないかと わたしは思います
- アマリュリス: いままでも、そうだったので…!
- アマリュリス: 一方… わたしたちは次の計画へ向けて 着々と準備を進めています
- アマリュリス: 空いた時間には、こうして ルドゥスをたしなんだりもしますが…
- アマリュリス: はわ…! どうしても1が出ません!
- アマリュリス: このサイコロは どうなってるんでしょう?
- アマリュリス: こんなに偏ることってあります?
- コルネリア: たしかにあまりないかもね
- ころん
- コルネリア: 私はまだまだ劣勢だから とにかく駒を進めるわ
- アマリュリス: おかしいです…さっきまで 一方的にわたしが勝ってたのに…
- アマリュリス: なんだか、雲ゆきがあやしく…
- ころん
- アマリュリス: はわ…!? また…!
- アマリュリス: 幸運の女神様に 見放されてます…!
- ころん
- コルネリア: あ…いい目かも 追いつけそうな気がしてきた
- アマリュリス: サイコロもコルネリア様に 味方してますよね?
- アマリュリス: わたしなんて、さっきから ろくに駒を動かせてませんし…
- コルネリア: その状態になると 運頼みになるから不利なのよね
- コルネリア: 結果論かもしれないけど 6つ前の手番のときに
- コルネリア: こことここへ分散して置けば あなたの勝ちだったんじゃない?
- アマリュリス: えっ…
- アマリュリス: コルネリア様、そんな前の手番の
- アマリュリス: 相手のサイコロの目まで 覚えてるんですか!?
- コルネリア: 自分だったらどう置くかな?って 注意して見てたから…
- アマリュリス: 見てる世界が違いすぎます…
- アマリュリス: ルドゥスをコルネリア様に 教えたのはわたしなのに…
- アマリュリス: ネコだと思って育ててた動物が
- アマリュリス: ライオンの子どもだったような 気分です…
- コルネリア: ふふっ
- アマリュリス: 何か可笑しいですか…?
- コルネリア: たしかアマリュリスって
- コルネリア: 『恋の技法』でルドゥスに興味を 持ったって言ってたわよね?
- アマリュリス: はい、そうですけど…
- コルネリア: それで私も読んでみたんだけど…
- コルネリア: 駒の動かし方なんか 気にしなくていいから
- コルネリア: 決して感情を剥き出しにせずに 優雅にたしなむべし…って
- コルネリア: そんなふうに書いてあったから
- アマリュリス: …!
- アマリュリス: わたしの遊び方と真逆です!
- コルネリア: やっぱり、そうよね…?
- アマリュリス: …たしかにオウィディウス様は
- アマリュリス: あくまで恋のきっかけとして 盤上ゲームを紹介されています
- アマリュリス: わたしみたいに勝敗にこだわって 一喜一憂するのでなく
- アマリュリス: コルネリア様のような
- アマリュリス: 優雅なたしなみ方こそが 推奨されていたはず…
- アマリュリス: オウィディウス様の金言を忘れて いつのまに真逆の遊び方に…?
- コルネリア: …のめり込みやすい 性質なのかしら?
- アマリュリス: 戦車競走もそうですよね… オウィディウス様は
- アマリュリス: 出会いと親睦の場として ご紹介されているだけなのに
- アマリュリス: わたし、ひいきの御者の 応援ばかりしてますし
- アマリュリス: …完敗です
- アマリュリス: ルドゥスの勝敗どころか 娯楽のたしなみ方すら
- アマリュリス: コルネリア様のようにできません
- コルネリア: あなたはそれでいいんじゃない? 楽しんでる感じがして好きよ
- アマリュリス: あ、ありがとうございます…
- アマリュリス: …それにしてもコルネリア様は いつも落ち着いていますよね
- アマリュリス: みゆりん様のスマホの一件も
- アマリュリス: すべきことを冷静に考えて 優雅に対処されましたし…
- コルネリア: 作戦を考えたのは 私じゃないでしょ?
- アマリュリス: たしかに考案されたのは ヒコ様ですが
- アマリュリス: コルネリア様に落ち着いて 方針を整理していただかなければ
- アマリュリス: わたしはあわてるばかりで 何もできなかったと思います…
- アマリュリス: コルネリア様って
- アマリュリス: 歩き方ひとつとっても おっとりして気品がありますし
- アマリュリス: 人としての器が違うんでしょうか
- コルネリア: …私、走るとすぐに転ぶのよ
- コルネリア: だから絶対に 走らないようにしてるの
- アマリュリス: え!? そうなんですか?
- コルネリア: ユニアもよく転んでるのよね 双子だから似てるのかも
- アマリュリス: ああ…たしかに…
- アマリュリス: ちょっと親しみが 湧いてきました!
- コルネリア: 落ち着いてるっていえば 聞こえはいいけれど…
- コルネリア: ひとより慎重っていうか …たぶん臆病なだけ
- コルネリア: だから私はね… あなたに感謝しているの
- アマリュリス: えっ… わたしに?
- コルネリア: そうよ
- アマリュリス: わたしがコルネリア様に 感謝されるようなことなんて
- アマリュリス: 何も…
- コルネリア: ううん…だって、あなたが 背中を押してくれなかったら
- コルネリア: ルドゥスの愉しみだって 知らないままだったし
- コルネリア: それに、ゲームの盤上に あがることもなかったんだから
- コルネリア: …恋のゲームの、ね
- アマリュリス: …………
- アマリュリス: コルネリア様…!
- アマリュリス: つ、次の勝負は負けませんので!
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