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- (今日は、ユニット結成記念ポスターのお渡し会だ)
- (CDを買ってくれた人に、アイドルが直接、
- 記念ポスターを手渡しするというものだが……)
- 「はぁ……」
- 「どうしたんだ、ため息なんかついて」
- 「いや、こんなフツーの場所でさ、
- フツーにファンの人たちと会うのって……」
- 「なんか、フツーすぎて、ちょっと……
- 落ち着かないってゆーか」
- 「……フツーだらけで、よくわからないぞ。
- まあ、俺なりに推理すると……」
- 「普通の、普段のジュリアとしてファンに
- 接するのが、はずかしいってことか?」
- 「は、はずかしい、とか……。
- あたしは、別に、そんな……」
- (はずかしいんだな?)
- 「だ、だいたいさ!
- こういうのって、アレじゃない?」
- 「よろしくお願いしま~す なんて、きゃぴるんして
- ポスター渡されるから、ファンの人は嬉しいんだろ?」
- 「まあ、きゃぴるんはともかく、笑顔は重要だな」
- 「だったら、あたし、いない方がいいって。
- 自分で言うのもなんだけど、無愛想だし!」
- (どうも、しり込みしてるらしい。
- ここはひとつ、俺が背中を押してやらなくては!)
- 逆に考えろ!
- 無愛想でOK!
- どすこい!
- 「ジュリア、逆の立場で考えてみたらどうだ?
- 例えば、そうだな……」
- 「ジュリアが好きなバンドのサイン会に行って、
- 目当てのメンバーがいなかったとしたら、どう思う?」
- 「えっ? そりゃ……。
- がっかり、する」
- 「だろ? お渡し会にジュリアがいなかったら、
- がっかりするファンの人も、いるんじゃないかな」
- 「それに、何より、来てくれた人に失礼だろう?」
- 「う、うん……。いや、わかってるよ?
- ちょっと、言ってみただけだもん」
- (よし、大事なことは、ちゃんと
- 思い出してくれたみたいだ)
- 「別に、無愛想でいいんだよ。
- それでこそ、ジュリアなんだから」
- 「えっ? そうなの?」
- 「こういう交流っぽいイベントで、ぶすっとしてる
- のって……。やっぱ、悪い気がするんだけど」
- 「なら、ズル休みはもっと悪い気がするだろ?」
- 「うっ。ま、まあ……。いや、わかってるけどね。
- ちょっと、言ってみただけだし」
- 「そうか? なら、いいんだけどな」
- 「どすこい! プッシュ、プッシュ!!」
- 「どわあっ、あぶなっ……!
- なんだよ、なんでいきなり、つき飛ばすんだよ?」
- 「いや、しり込みしてるみたいだから、
- 背中を押してやろうかと……」
- 「脳みそカビてんのか、この真性バカ!
- そういうときは、言葉で押せよ! 手で押すなよ!」
- 「そ、それもそうだな。
- すまん、俺としたことが、つい……」
- 「しかも、完全に正面から押したし……。それじゃ、
- ただのつっぱりだろ、バカ! つっぱりバカP!」
- (くっ、なんだか言われたい放題だが、
- 言われても仕方がない気がする……)
- 「あれ? でも、怒鳴ったら、なんか……。
- 今日の仕事も、どうってことない気がしてきた」
- 「ははっ、なんか、あんたのバカっぷりが、
- 役に立ったかも?」
- 「そ、そうか?
- それは、よかったよ……」
- 「にしても、こういうポスター渡すイベントって、
- どんなファンサービスすればいいの?」
- 「ん? どういうことだ?」
- 「だって、歌も歌わないし。本当に『はい』って感じで、
- フツーに渡すだけじゃ、つまんなくない?」
- 「うーん、ポスターの渡し方か……」
- 普通でいいよ
- ハートを込めて
- ロックに決めろ
- 「普通に渡せばいいよ。
- むしろ、普通だから、いいんじゃないかな」
- 「それ、どういうコト?」
- 「ファンの人にとっては、ステージの上とは違う、
- アイドルの素顔に近づけることが重要なんだ」
- 「だから、なるべく普通に、自然に接して、
- その上で……」
- 「いつもありがとうとか、ジュリア自身の
- 言葉を伝えれば、いいと思う」
- 「ん……、そっか……。
- うん、OK! なんか、イメージできた気がする」
- 「あんたって、たま~にいいコト言うよね。
- んじゃ、フツーにお礼言いながら、渡してみるよ!」
- 「俺としては、常にいい事を言ってるつもりなんだが、
- それはともかく、その意気だ!」
- (その後のお渡し会で、ジュリアが見せた
- フランクなファン対応ぶりは……)
- (集まってくれたファンにも、すこぶる好評だった)
- 男性ファン
- 「ジュリアちゃん、これからも応援してるから!」
- 女性ファン
- 「が、がんばってくださいね!」
- (よかった。アドバイスをした甲斐があったな……!)
- 「ハートを込めて、つまり心を込めて渡せば
- いいんじゃないか?」
- 「だから、どんな心を込めればいいのかって
- 聞いてんのっ」
- 「もちろん、応援してくれてることへの感謝とか、
- 真心とか、ファンへの愛情とか、そういうもんだよ」
- 「な、なんか、いろいろ混ぜるんだな……。
- ま、やってみるっきゃないか」
- 「ああ、とにかく、やってみれば何とかなる!」
- (その後のお渡し会で、ジュリアはジュリアなりに
- 心を込めて、ポスターを渡していたが……)
- (ポスターを握りしめて離さないまま、目を閉じて
- ブツブツと念を送るジュリアの姿は……)
- (正直、ちょっと怖かった)
- 困ったファン
- 「あ、あの……。もう、いいですか?」
- (……くっ、すまない、ジュリア。
- まさか、そこまでやるとは……)
- 「ジュリアらしく、ロックに決めつつ
- ポスターを渡せばいいんじゃないか?」
- 「ロックに決めつつ……。
- って、なんか全然、イメージできないんだけど?」
- 「そこは、ジュリアのロックなソウルで、
- いい感じに解釈してもらうとして……」
- 「とにかく、そういうジュリアらしさが
- 出せればいいと思うんだ」
- 「ちぇ、肝心なトコで適当だな、もう。
- いいよ、自分で考えるから!」
- (その後のお渡し会で、ジュリアはジュリアなりの、
- ロックな渡し方を試みた)
- (しかしファンの人は、だいたい、
- 不思議そうな顔をするだけだった)
- 戸惑うファン
- 「あは、あはは……。
- あ、それじゃ、次の人もいるんで、これで……」
- (どうやら、余計なアドバイスをしてしまったらしい。
- すまなかった、ジュリア……)
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