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- 1
- 00:00:34,455 --> 00:00:49,904
- ♬~
- 2
- 00:00:49,904 --> 00:00:53,808
- (北斎)
- この世は 円と線で出来ている。
- 3
- 00:00:53,808 --> 00:01:00,548
- ほれ
- こうして 円が重なってるだろう。
- 4
- 00:01:00,548 --> 00:01:06,888
- 尾っぽも丸~く
- 尻に巻きついている。
- 5
- 00:01:06,888 --> 00:01:10,224
- これも 円だ。
- 6
- 00:01:10,224 --> 00:01:20,868
- でもって
- 頭に三角を2つ載っけると…。
- 7
- 00:01:20,868 --> 00:01:33,247
- ♬~
- 8
- 00:01:33,247 --> 00:01:39,120
- おっ? おお? お前 まさか…。
- 9
- 00:01:39,120 --> 00:01:42,120
- ええ?
- 10
- 00:01:45,827 --> 00:01:48,262
- (お栄)<私は ただ➡
- 11
- 00:01:48,262 --> 00:01:51,599
- 己の手のひらの中に
- 初めて置かれた筆が➡
- 12
- 00:01:51,599 --> 00:01:54,299
- うれしくて たまらなかった>
- 13
- 00:01:56,938 --> 00:01:59,638
- 14
- 00:02:12,887 --> 00:02:14,822
- (小兎)そ~れ 見た事か。
- 15
- 00:02:14,822 --> 00:02:18,760
- 3年もたたずに夫婦別れなんて。
- ええ?
- 16
- 00:02:18,760 --> 00:02:22,230
- 私はね ず~っと思ってたんだよ。
- いつか 亭主に➡
- 17
- 00:02:22,230 --> 00:02:25,530
- 愛想尽かされるんじゃ
- ないかってねえ…。
- 18
- 00:02:27,101 --> 00:02:31,401
- 勝手気ままをするからだよ。
- 19
- 00:02:33,241 --> 00:02:37,578
- 不器量なくせに
- 化粧もしない 髪はボウボウ➡
- 20
- 00:02:37,578 --> 00:02:40,481
- もう 身を構いもしないでさあ。
- 21
- 00:02:40,481 --> 00:02:42,917
- 大体 世間にゃ➡
- 22
- 00:02:42,917 --> 00:02:45,820
- そりの合わない組み合わせなんか
- ごまんとあるんだよ。
- 23
- 00:02:45,820 --> 00:02:50,792
- 不仲じゃない。 不熟なんだよ
- 近頃の夫婦は。 ええ?
- 24
- 00:02:50,792 --> 00:02:53,561
- (弥助)また始やりやしたね。
- 25
- 00:02:53,561 --> 00:02:57,465
- おい。
- へえ。
- こんな足首で歩けるかい?
- 26
- 00:02:57,465 --> 00:03:02,203
- あっ… へえ 確かに。
- 27
- 00:03:02,203 --> 00:03:04,872
- ま~た ざる耳だよ。
- 28
- 00:03:04,872 --> 00:03:07,775
- そんなとこだきゃ
- お父っつぁんに似ちまって。➡
- 29
- 00:03:07,775 --> 00:03:11,212
- それじゃなくても
- 女だてらに絵筆しか持たない➡
- 30
- 00:03:11,212 --> 00:03:14,549
- 変わり者だとか
- 平気で枕絵を描いてるだとか➡
- 31
- 00:03:14,549 --> 00:03:19,220
- 知れ渡っちまったもんだから
- いずれ様もが尻込みしちまってさ。
- 32
- 00:03:19,220 --> 00:03:22,557
- ようやく決まった縁だってえのに。
- 33
- 00:03:22,557 --> 00:03:26,894
- 言い返さなくていいんですかい?
- 言い返して どうする?
- 34
- 00:03:26,894 --> 00:03:30,231
- 口答えなんかしようもんなら
- かえって 長引かあ。
- 35
- 00:03:30,231 --> 00:03:37,231
- 大体 絵なんか描いて
- 何になろうってんだい? ええ?
- 36
- 00:03:40,241 --> 00:03:44,112
- (ため息)
- なあ! お前さんも悪いんだよ!
- 37
- 00:03:44,112 --> 00:03:46,581
- 小さい頃から 甘い顔して。
- 38
- 00:03:46,581 --> 00:03:49,484
- 「お栄は
- 自分から絵筆を持ちやがった。➡
- 39
- 00:03:49,484 --> 00:03:54,922
- こいつは 見どころがある」なんて
- 目尻下げるもんだからさあ もう。
- 40
- 00:03:54,922 --> 00:03:57,258
- おっ 何しやがんでい いきなり。
- 41
- 00:03:57,258 --> 00:04:01,529
- 見てごらんよ。
- すっかり本意気になっちまって。
- 42
- 00:04:01,529 --> 00:04:06,400
- この子はね 弟子じゃないんだよ。
- 娘なんだよ。
- 43
- 00:04:06,400 --> 00:04:08,402
- こと 絵についちゃ➡
- 44
- 00:04:08,402 --> 00:04:11,873
- どんなに偉いお殿様の言う事も
- 聞かねえ北斎先生でも➡
- 45
- 00:04:11,873 --> 00:04:13,808
- 女房には
- 何にも言えねえってんですから。
- 46
- 00:04:13,808 --> 00:04:16,544
- (笑い声)
- 47
- 00:04:16,544 --> 00:04:20,882
- 男は所詮 女の出がらしだぁな。
- 逆らうまいってね。
- 48
- 00:04:20,882 --> 00:04:22,817
- お~い お栄!
- 49
- 00:04:22,817 --> 00:04:25,219
- 口を動かしてる暇あったら
- とっとと手ぇ動かせ。
- 50
- 00:04:25,219 --> 00:04:28,890
- はい。
- 弟子じゃないって
- 言ってる先から…。
- 51
- 00:04:28,890 --> 00:04:32,560
- …ったく 子が子なら 親も親だよ。
- ええ?
- 52
- 00:04:32,560 --> 00:04:35,463
- 何だい こりゃ。
- よせよ。
- 53
- 00:04:35,463 --> 00:04:38,432
- 何でもかんでも
- 勝手に触るんじゃねえ!
- 54
- 00:04:38,432 --> 00:04:42,904
- 何だよ。 何だい…。
- 55
- 00:04:42,904 --> 00:04:48,776
- <さて ここは 江戸の浮世絵師
- 葛飾北斎の仕事場だ。➡
- 56
- 00:04:48,776 --> 00:04:51,913
- なかなかの散らかりようだろう?
- しかたぁねえ。➡
- 57
- 00:04:51,913 --> 00:04:56,584
- おやじ殿 つまり ここの主が
- 掃除するのを嫌がるんだ。➡
- 58
- 00:04:56,584 --> 00:05:01,189
- ちなみに そこのクモの巣も
- おやじ殿のお気に入りだ。➡
- 59
- 00:05:01,189 --> 00:05:04,859
- 役者絵 枕絵 読み本の挿絵…。➡
- 60
- 00:05:04,859 --> 00:05:07,528
- 何でもやるのが
- おやじ殿の流儀だ。➡
- 61
- 00:05:07,528 --> 00:05:12,867
- おやじ殿が顔姿を描き
- 細かいところは 弟子の仕事。➡
- 62
- 00:05:12,867 --> 00:05:18,206
- そうやって 師匠の画風や筆遣いを
- 目に刻み込む。➡
- 63
- 00:05:18,206 --> 00:05:20,875
- おやじ殿が
- どんなに名が売れようと➡
- 64
- 00:05:20,875 --> 00:05:22,810
- 決して
- 鍛錬を怠らないもんだから➡
- 65
- 00:05:22,810 --> 00:05:25,746
- 私らは 足を引っ張らないよう
- ついていくだけで➡
- 66
- 00:05:25,746 --> 00:05:28,046
- てんてこまいだ>
- 67
- 00:05:32,486 --> 00:05:36,891
- (鐘の音)
- 68
- 00:05:36,891 --> 00:05:40,561
- 半鐘だ。
- 69
- 00:05:40,561 --> 00:05:42,861
- ああ 火事ですね!
- 70
- 00:05:45,233 --> 00:05:48,233
- 私が いっち速えよ!
- 71
- 00:05:55,877 --> 00:05:58,246
- 瀬戸物町じゃねえか?
- 72
- 00:05:58,246 --> 00:06:02,246
- いや そこまで南じゃあないね。
- 73
- 00:06:07,054 --> 00:06:10,825
- 代わっとくれ。
- ああ? 何だ。
- 74
- 00:06:10,825 --> 00:06:21,469
- ♬~
- 75
- 00:06:21,469 --> 00:06:27,469
- いや~… なんてえ色だ。
- 76
- 00:06:30,544 --> 00:06:34,415
- (善次郎)ハハハ 世話ねえな。
- 77
- 00:06:34,415 --> 00:06:36,884
- 善さん。
- 78
- 00:06:36,884 --> 00:06:39,787
- どうせ どうやったら あんな色
- 出せんのか 考えてたんだろう。
- 79
- 00:06:39,787 --> 00:06:42,223
- 何してんだい こんなとこで。
- 80
- 00:06:42,223 --> 00:06:48,095
- そりゃ お前と同じ 酔狂さ。
- 酔狂? バカ言え。
- 81
- 00:06:48,095 --> 00:06:50,564
- みんな
- 大変な思いしてるってのに。
- 82
- 00:06:50,564 --> 00:06:53,564
- ああ。 こりゃひでえ。
- 83
- 00:06:56,904 --> 00:07:00,508
- 風の噂で聞いたぜ。
- 誰かさんが➡
- 84
- 00:07:00,508 --> 00:07:03,844
- 旦那が描いた絵を 鼻で笑って
- 出戻ったって。
- 85
- 00:07:03,844 --> 00:07:10,518
- はあ~
- そんな噂が出回ってんのか。
- 86
- 00:07:10,518 --> 00:07:15,389
- まあ 違えねえけど。
- ハハハ! 違えねえのかい!
- 87
- 00:07:15,389 --> 00:07:18,859
- ハハハ お栄らしいや。
- 88
- 00:07:18,859 --> 00:07:20,795
- (笑い声)
- 89
- 00:07:20,795 --> 00:07:22,730
- <この善次郎も➡
- 90
- 00:07:22,730 --> 00:07:25,733
- 前に うちに出入りしていた
- 浮世絵師の一人だ。➡
- 91
- 00:07:25,733 --> 00:07:29,503
- 画号は 溪斎英泉>
- 92
- 00:07:29,503 --> 00:07:32,406
- そっちは近頃 景気いいらしいね。
- 93
- 00:07:32,406 --> 00:07:35,876
- あの馬琴先生に気に入られたって。
- 94
- 00:07:35,876 --> 00:07:39,747
- 昔は 私とおんなじ
- からっ下手だったくせに。
- 95
- 00:07:39,747 --> 00:07:42,750
- ああ? からっ下手?
- 96
- 00:07:42,750 --> 00:07:46,050
- お前の色気のねえ枕絵と
- 一緒にするなよ。
- 97
- 00:07:50,891 --> 00:07:53,561
- なあ 善さん。
- 98
- 00:07:53,561 --> 00:07:56,897
- お前は 何で絵なんか描いてる?
- 99
- 00:07:56,897 --> 00:07:59,233
- 何でえ? いきなり。
- 100
- 00:07:59,233 --> 00:08:02,533
- 名か? それとも 銭か?
- 101
- 00:08:08,042 --> 00:08:10,511
- いい女 抱くためだ。
- 102
- 00:08:10,511 --> 00:08:14,181
- ハハハ ほかに何がある?
- 103
- 00:08:14,181 --> 00:08:17,518
- 何だい
- 人が真面目に話してんのに。
- 104
- 00:08:17,518 --> 00:08:21,818
- ハハハハ! ハハハハハ。
- 105
- 00:08:29,864 --> 00:08:33,534
- オランダ国から 絵の注文?
- (弥助)へえ。
- 106
- 00:08:33,534 --> 00:08:38,205
- それが そのシーボルトって先生は
- 北斎先生の絵が好きで➡
- 107
- 00:08:38,205 --> 00:08:41,876
- 世界一の絵師だって
- 言ってるってんで。
- ふ~ん。
- 108
- 00:08:41,876 --> 00:08:45,546
- …で 江戸の絵なら
- 何でもいいってか?
- 109
- 00:08:45,546 --> 00:08:50,418
- それが 一つ お望みがあるそうで。
- 110
- 00:08:50,418 --> 00:08:54,221
- 蘭画です。
- 蘭画。
- へえ。
- 111
- 00:08:54,221 --> 00:08:58,092
- 蘭画ってえと?
- 西洋の絵だよ。
- えっ?
- 112
- 00:08:58,092 --> 00:09:01,495
- 北斎に 西洋の画法に
- 挑んでほしいんだとよ。
- 113
- 00:09:01,495 --> 00:09:04,165
- 何でえ。
- 114
- 00:09:04,165 --> 00:09:07,835
- 俺の腕を試そうって寸法か。
- 115
- 00:09:07,835 --> 00:09:10,738
- 面白えじゃねえか。
- 116
- 00:09:10,738 --> 00:09:12,706
- <おやじ殿は➡
- 117
- 00:09:12,706 --> 00:09:16,177
- そのオランダからの注文を
- 15枚の絵とし➡
- 118
- 00:09:16,177 --> 00:09:19,080
- そのうち 12枚の下絵を
- あっという間に仕上げ➡
- 119
- 00:09:19,080 --> 00:09:23,851
- 残りは 一番弟子の弥助さんと私が
- 描く事になった。➡
- 120
- 00:09:23,851 --> 00:09:26,754
- 私の画題は 「遊女」だ>
- 121
- 00:09:26,754 --> 00:09:32,193
- 蘭画ってえのは 見えたものを
- そのまま描き写してやがる。
- 122
- 00:09:32,193 --> 00:09:39,493
- あと この色。
- ひとところでも 色が濃く薄く…。
- 123
- 00:09:43,537 --> 00:09:49,410
- (カナリアの鳴き声)
- 124
- 00:09:49,410 --> 00:09:53,547
- いいねえ あんたは。
- 125
- 00:09:53,547 --> 00:09:57,218
- いつ見ても いい色だ。
- 126
- 00:09:57,218 --> 00:10:02,890
- へえ~
- こいつが 噂のカナリア鳥か。
- 127
- 00:10:02,890 --> 00:10:06,760
- おお~ 善さん!
- 久しぶりじゃねえか!
- 128
- 00:10:06,760 --> 00:10:11,232
- おうよ。 みんな
- 壁がパンパン膨れ上がりそうなほど➡
- 129
- 00:10:11,232 --> 00:10:13,901
- 熱入れて取っ組んでるんで
- 入っていいか迷ったぜ。
- 130
- 00:10:13,901 --> 00:10:17,571
- ヘヘヘヘヘ。 驚いたろう それ。
- 131
- 00:10:17,571 --> 00:10:20,474
- 馬琴先生が おやじ殿にってな。
- 132
- 00:10:20,474 --> 00:10:25,246
- ああ。 何せ
- 馬琴先生と北斎おやじといやあ…。
- 133
- 00:10:25,246 --> 00:10:28,916
- [ 回想 ]
- こいつに
- 草履をくわえさせろだと?
- 134
- 00:10:28,916 --> 00:10:34,616
- (馬琴)そうだ!
- 絵師は 黙って言う事を聞け!
- 135
- 00:10:36,257 --> 00:10:39,957
- 誰が そんな汚え図 見て
- 喜ぶってんだい!
- 136
- 00:10:43,931 --> 00:10:49,603
- そうも言うんなら
- てめえが 口にくわえてみやがれ!
- 137
- 00:10:49,603 --> 00:10:53,941
- それ以来 けんか別れで
- 20年 一度も組んでねえ。
- 138
- 00:10:53,941 --> 00:10:56,844
- 今でも 顔合わす度に
- ほえ合う仲だって聞いたのによ。
- 139
- 00:10:56,844 --> 00:11:08,455
- ♬~
- 140
- 00:11:08,455 --> 00:11:13,894
- おやじ殿の絵を見りゃ
- なるほどと思わぁ。
- 141
- 00:11:13,894 --> 00:11:18,566
- けど いざ 蘭画と考えた途端に
- 手出しができなくなるんだ。
- 142
- 00:11:18,566 --> 00:11:23,237
- ざまあねえよ。 遊女なんぞ
- 描き慣れてるはずなのに。
- 143
- 00:11:23,237 --> 00:11:26,140
- そうか?
- 144
- 00:11:26,140 --> 00:11:30,110
- 俺には お前も
- パンパン膨れて見えるぜ。
- 145
- 00:11:30,110 --> 00:11:34,848
- それ また
- 自分で色作ってんだろ。
- 146
- 00:11:34,848 --> 00:11:39,787
- ああ。 私の作る色は
- おやじ殿のお気に入りなのさ。
- 147
- 00:11:39,787 --> 00:11:42,256
- 料理は とんと できなくても➡
- 148
- 00:11:42,256 --> 00:11:44,191
- 石や根っこを
- 干したり煮たりするのは➡
- 149
- 00:11:44,191 --> 00:11:46,594
- 苦にならないからね。
- 150
- 00:11:46,594 --> 00:11:49,930
- 本当か?
- 151
- 00:11:49,930 --> 00:11:52,833
- 本当は 己で思うがまま
- 色を差配してみたいって➡
- 152
- 00:11:52,833 --> 00:11:55,533
- 思ってんじゃねえのか?
- 153
- 00:11:57,271 --> 00:12:00,541
- お前は 昔っから色に目がねえ。
- 154
- 00:12:00,541 --> 00:12:02,476
- どうやったら 蘭画みてえな
- 見た事もねえ色みが➡
- 155
- 00:12:02,476 --> 00:12:07,476
- 自分に出せんのか 試したくて
- 描きたくて しかたがねえんだ。
- 156
- 00:12:09,883 --> 00:12:15,883
- 違うよ。 私は ただ
- おやじ殿の役に立とうと…。
- 157
- 00:12:17,758 --> 00:12:22,463
- 俺相手に しらは切れねえぜ。
- 158
- 00:12:22,463 --> 00:12:25,899
- お前は 前から 描きたい絵を
- ず~っと胸の中で温めてる。
- 159
- 00:12:25,899 --> 00:12:30,237
- その ちっこい胸によ。
- 「ちっこい」は余計だ。
- 160
- 00:12:30,237 --> 00:12:35,109
- フフッ やけるねえ…。
- 161
- 00:12:35,109 --> 00:12:38,409
- お前は
- 目指すべきものを持ってる。
- 162
- 00:12:41,582 --> 00:12:44,485
- 何 訳の分かんねえ事
- 言ってんだい。
- 163
- 00:12:44,485 --> 00:12:47,254
- ちょっと売れたからって
- 上から もの言いやがって。
- 164
- 00:12:47,254 --> 00:12:51,925
- ハハハハ。 俺が 今 何て いわれてるか
- 知ってるか?
- 165
- 00:12:51,925 --> 00:12:55,796
- 「溪斎英泉は 北斎の再来か」だぜ。
- 166
- 00:12:55,796 --> 00:12:58,265
- 豪儀じゃねえか。
- 167
- 00:12:58,265 --> 00:13:02,870
- ああ おやじ殿も
- よく言い暮らしてたな。
- 168
- 00:13:02,870 --> 00:13:06,740
- 「技を磨きてえなら まねて まねて
- 体の中にたたき込め。➡
- 169
- 00:13:06,740 --> 00:13:09,743
- 技もねえのに 画風がどうのと
- よそ見をすりゃあ➡
- 170
- 00:13:09,743 --> 00:13:12,880
- 先は行き止まりだ」ってね。
- 171
- 00:13:12,880 --> 00:13:20,754
- けどよ… フフフ 再来じゃあな。
- 172
- 00:13:20,754 --> 00:13:24,224
- 私は まだ そんなとこ
- 行き着いてもいない。
- 173
- 00:13:24,224 --> 00:13:28,095
- どうしたら もっと おやじ殿が
- 思うように描けるのか➡
- 174
- 00:13:28,095 --> 00:13:31,795
- おやじ殿の絵の役に立てんのか…。
- 175
- 00:13:34,568 --> 00:13:38,238
- よし。
- 176
- 00:13:38,238 --> 00:13:40,574
- いいとこ 連れてってやる。
- 177
- 00:13:40,574 --> 00:13:43,243
- まだ 仕事だ。
- ああ?
- 178
- 00:13:43,243 --> 00:13:46,146
- たまには 仕事なんか
- うっちゃるもんだ。
- 179
- 00:13:46,146 --> 00:13:48,446
- ほら。
- えっ ちょ…。
- 180
- 00:13:52,920 --> 00:13:56,620
- (弥助)どうした?
- ちょっと そこまで。
- 181
- 00:13:58,258 --> 00:14:08,535
- ♬「とんび からすに
- ならるるならば」
- 182
- 00:14:08,535 --> 00:14:19,179
- ♬「はあ 飛んで行きたや 主の側」
- 183
- 00:14:19,179 --> 00:14:26,086
- ハハハ。 ♬「つるつるつん」
- ♬「はあ つるつるつん」
- 184
- 00:14:26,086 --> 00:14:29,823
- ♬「はあ」
- ♬「ちりちりちん」
- 185
- 00:14:29,823 --> 00:14:39,900
- ♬~
- 186
- 00:14:39,900 --> 00:14:41,835
- ♬「ちりちりちん」
- ♬「はっ」
- 187
- 00:14:41,835 --> 00:14:44,238
- ♬「つるつるつん」
- ♬「よっ」
- 188
- 00:14:44,238 --> 00:14:51,578
- ♬「とんび からすに
- ならるるならば」
- 189
- 00:14:51,578 --> 00:14:55,249
- ♬「飛んで行きたや」
- 190
- 00:14:55,249 --> 00:14:58,152
- よっ 善さん。
- よう。 調子は どうでえ?
- 191
- 00:14:58,152 --> 00:15:00,852
- 見てのとおりですよ。
- 192
- 00:15:10,731 --> 00:15:14,735
- <善さんは かつては
- 二本差しのお侍だったと➡
- 193
- 00:15:14,735 --> 00:15:16,870
- 誰かに聞いた事がある。➡
- 194
- 00:15:16,870 --> 00:15:20,207
- それ以上は 何も知らない>
- 195
- 00:15:20,207 --> 00:15:31,218
- ♬~
- 196
- 00:15:31,218 --> 00:15:34,888
- (お滝)吉原一の合奏です。
- 197
- 00:15:34,888 --> 00:15:38,559
- すげえ…。
- 198
- 00:15:38,559 --> 00:15:45,232
- ♬~
- 199
- 00:15:45,232 --> 00:15:52,105
- 俺の妹だよ。 3人とも。
- 200
- 00:15:52,105 --> 00:15:56,243
- 俺が養いきれずに
- 芸者の置き屋に預けた。
- 201
- 00:15:56,243 --> 00:16:01,515
- それを恨みもせず
- こうして 芸を身につけてくれた。
- 202
- 00:16:01,515 --> 00:16:15,529
- ♬~
- 203
- 00:16:15,529 --> 00:16:17,865
- はっ。
- 204
- 00:16:17,865 --> 00:16:41,889
- ♬~
- 205
- 00:16:41,889 --> 00:16:43,824
- はっ。
- 206
- 00:16:43,824 --> 00:16:47,761
- ♬~
- 207
- 00:16:47,761 --> 00:16:52,533
- おい お栄も来い。
- どうぞ どうぞ。
- 208
- 00:16:52,533 --> 00:16:54,468
- ああ… いいよ 私は。
- 209
- 00:16:54,468 --> 00:16:56,904
- ほらほらほら!
- 210
- 00:16:56,904 --> 00:17:11,418
- ♬~
- 211
- 00:17:11,418 --> 00:17:13,854
- <目を凝らせば➡
- 212
- 00:17:13,854 --> 00:17:19,526
- この世の どこもかしこもが
- 色の濃い淡いで出来ている>
- 213
- 00:17:19,526 --> 00:17:45,218
- ♬~
- 214
- 00:17:45,218 --> 00:17:49,556
- <人の顔も体も
- 光の当たり方で色が違う。➡
- 215
- 00:17:49,556 --> 00:17:51,892
- 一色じゃない。➡
- 216
- 00:17:51,892 --> 00:17:55,228
- 光が強く当たっているところは
- 色が薄く➡
- 217
- 00:17:55,228 --> 00:17:59,900
- 暗い場では 色は沈む>
- 218
- 00:17:59,900 --> 00:18:05,900
- そうか。 光だ…。
- 219
- 00:18:07,708 --> 00:18:10,510
- 光が…➡
- 220
- 00:18:10,510 --> 00:18:16,383
- 光と影が 色や形を作ってるんだ。
- 221
- 00:18:16,383 --> 00:18:35,083
- ♬~
- 222
- 00:18:45,412 --> 00:18:55,088
- 辛うじて 遠い近いはある。
- 影もついてる。
- 223
- 00:18:55,088 --> 00:19:01,795
- けれど まるで コクがねえや。
- 224
- 00:19:01,795 --> 00:19:06,166
- あの~…
- 描き直させてやもらえやせんか。
- 225
- 00:19:06,166 --> 00:19:09,503
- このままじゃ
- おやじ殿の名折れになりやす。
- 226
- 00:19:09,503 --> 00:19:12,172
- 明日 納めるぞ。
- 227
- 00:19:12,172 --> 00:19:16,843
- ちょっと待っとくれよ。
- こんな代物 納められねえよ。
- 228
- 00:19:16,843 --> 00:19:19,179
- なら お前ら いつ 満足する!?
- 229
- 00:19:19,179 --> 00:19:24,851
- あと3日か? それとも 30日か?
- 230
- 00:19:24,851 --> 00:19:28,551
- 3年かければ きっと できると
- 言い切れんのかい!
- 231
- 00:19:31,191 --> 00:19:38,532
- 三流の玄人でも
- 一流の素人に勝る。
- 232
- 00:19:38,532 --> 00:19:43,403
- なぜだか分かるか?
- 233
- 00:19:43,403 --> 00:19:48,208
- こうして 恥を忍ぶからだ!
- 234
- 00:19:48,208 --> 00:19:50,877
- 己が満足できねえもんでも➡
- 235
- 00:19:50,877 --> 00:19:55,749
- 歯ぁ食いしばって
- 世間の目にさらす!
- 236
- 00:19:55,749 --> 00:20:02,222
- 悔いてる暇あったら
- とっとと次の仕事にかかれ。
- 237
- 00:20:02,222 --> 00:20:05,125
- お栄。
- 238
- 00:20:05,125 --> 00:20:09,425
- お前が持ってけ。
- 239
- 00:20:17,237 --> 00:20:19,906
- へえ。
- 240
- 00:20:19,906 --> 00:20:31,251
- ♬~
- 241
- 00:20:31,251 --> 00:20:33,587
- お待ちしておりました。
- 242
- 00:20:33,587 --> 00:20:37,287
- さあ こちらでございます。
- どうぞ。
- 243
- 00:20:41,928 --> 00:20:47,601
- いやあ よか絵ば
- ありがとうございました。
- 244
- 00:20:47,601 --> 00:20:50,937
- どうぞ。
- 245
- 00:20:50,937 --> 00:20:55,809
- 残りの金は 明日お届けすると
- 言うとらしたです。
- 246
- 00:20:55,809 --> 00:20:59,613
- へえ…。
- 247
- 00:20:59,613 --> 00:21:03,483
- あっ… 本当にいいんですか?
- あの絵で。
- 248
- 00:21:03,483 --> 00:21:08,221
- ああ もちろんですたい。
- さすがは北斎先生だって➡
- 249
- 00:21:08,221 --> 00:21:11,892
- シーボルト先生も
- 死ぬほど喜んでおられました。
- 250
- 00:21:11,892 --> 00:21:15,562
- そうですか…。
- 251
- 00:21:15,562 --> 00:21:18,899
- あなた様は
- ご覧になったんですか?
- 252
- 00:21:18,899 --> 00:21:24,571
- ええ 拝見しましたばい。
- いかがでした?
- 253
- 00:21:24,571 --> 00:21:32,913
- う~ん…
- あっ 遊女の絵は気になったです。
- 254
- 00:21:32,913 --> 00:21:36,583
- 気になった?
- 255
- 00:21:36,583 --> 00:21:40,253
- あいは きっと
- 北斎先生の筆じゃなかと。
- 256
- 00:21:40,253 --> 00:21:44,591
- 息ばしとらん
- へったくそな絵です。
- 257
- 00:21:44,591 --> 00:21:47,260
- 何か描こうとして➡
- 258
- 00:21:47,260 --> 00:21:52,132
- 思いに 手のついてっとらんと
- でしょうな。 うん。
- 259
- 00:21:52,132 --> 00:21:56,269
- へったくそだと…?
- 260
- 00:21:56,269 --> 00:21:59,940
- 思いに
- 手がついてっていないなんてな!
- 261
- 00:21:59,940 --> 00:22:03,543
- そんな事は
- 己で一番分かってんだよ!
- 262
- 00:22:03,543 --> 00:22:06,843
- こんちくしょう…。
- 263
- 00:22:14,187 --> 00:22:18,091
- お~い 何してんだ? お栄。
- 264
- 00:22:18,091 --> 00:22:22,091
- 己の腕に腹が立つのさ。
- 265
- 00:22:24,831 --> 00:22:29,569
- わ~っ!
- 266
- 00:22:29,569 --> 00:22:31,869
- はあ…。
- 267
- 00:22:34,241 --> 00:22:39,913
- 何で 私は 絵なんてもんに
- 魅入られちまったんだろうね。
- 268
- 00:22:39,913 --> 00:22:42,613
- 苦しいばっかりだ。
- 269
- 00:22:44,251 --> 00:23:00,533
- ♬~
- 270
- 00:23:00,533 --> 00:23:08,233
- 俺だって お前
- 満足なんざしてねえよ。
- 271
- 00:23:12,545 --> 00:23:19,886
- ああ もっとうまく
- もっと もっとって➡
- 272
- 00:23:19,886 --> 00:23:24,557
- いつも願うのに➡
- 273
- 00:23:24,557 --> 00:23:31,557
- 思う先から
- 描きてえもんが逃げていきやがる。
- 274
- 00:23:33,566 --> 00:23:36,236
- おやじ殿でもか?
- 275
- 00:23:36,236 --> 00:23:38,936
- あったぼうよ。
- 276
- 00:23:42,909 --> 00:23:47,209
- お前なんかに満足されて
- たまるかい。
- 277
- 00:23:49,582 --> 00:23:52,485
- よ~し。
- 278
- 00:23:52,485 --> 00:23:56,456
- この橋を渡ったら 忘れるぞ。
- 279
- 00:23:56,456 --> 00:24:03,863
- 忘れて 俺たちは また
- 性根入れて あがいて あがいて➡
- 280
- 00:24:03,863 --> 00:24:08,163
- ヘヘ あがきまくるんだ!
- あっ!
- 281
- 00:24:14,207 --> 00:24:17,110
- <あがいて あがいて➡
- 282
- 00:24:17,110 --> 00:24:21,548
- あがいて あがいて…>
- 283
- 00:24:21,548 --> 00:24:38,898
- ♬~
- 284
- 00:24:38,898 --> 00:24:41,568
- あっ。
- 285
- 00:24:41,568 --> 00:24:45,438
- ああ。 食わねえかい。
- 286
- 00:24:45,438 --> 00:24:49,909
- ≪(小兎)なあ 善さん
- 来てくれないかね うちに。
- 287
- 00:24:49,909 --> 00:24:54,581
- ああ?
- お栄の婿に
- 入ってもらうって事だよ。➡
- 288
- 00:24:54,581 --> 00:24:58,451
- そしたら お前さんだって
- 安心して隠居できるし…。
- 289
- 00:24:58,451 --> 00:25:03,857
- はっ 俺は隠居なんかしねえよ。
- 婿養子なんか要るかい。
- 290
- 00:25:03,857 --> 00:25:07,727
- ちょいと おっ母さん。
- 何 勝手に話してんだい。
- 291
- 00:25:07,727 --> 00:25:10,196
- だってさあ お前…。➡
- 292
- 00:25:10,196 --> 00:25:15,535
- あら? 善さん。
- 今の聞かれちまったかね?
- 293
- 00:25:15,535 --> 00:25:18,835
- ハハハハ。
- いつもいつも余計な事を…。
- 294
- 00:25:20,407 --> 00:25:23,877
- おやじ殿?
- 295
- 00:25:23,877 --> 00:25:27,547
- 大丈夫か?
- おおお… お前さん!
- 296
- 00:25:27,547 --> 00:25:30,450
- おやじ殿? おやじ殿!?
- 297
- 00:25:30,450 --> 00:25:33,219
- (弥助)おやじ殿!? おやじ殿!
- 298
- 00:25:33,219 --> 00:25:36,122
- 弥助。 医者だ。 医者だよ 医者。
- 299
- 00:25:36,122 --> 00:25:42,562
- おやじ殿… しっかりしとくれよ!
- 後生だからさ!
- 300
- 00:25:42,562 --> 00:26:11,724
- ♬~
- 301
- 00:26:11,724 --> 00:26:16,863
- あのしるしは 中気でござろう。
- 302
- 00:26:16,863 --> 00:26:23,563
- 一たび寝ついてしまえば
- いずれ ここも呆ける。
- 303
- 00:26:31,211 --> 00:26:34,547
- <おやじ殿が倒れたという噂は➡
- 304
- 00:26:34,547 --> 00:26:40,887
- すぐに 江戸だけではなく
- 諸国の版元や絵師に知れ渡った>
- 305
- 00:26:40,887 --> 00:26:43,556
- どうも ありがとうございました。
- 306
- 00:26:43,556 --> 00:26:46,556
- 五助。
- へえ。
- 307
- 00:26:48,228 --> 00:26:51,898
- ああ… は~い。
- 308
- 00:26:51,898 --> 00:26:56,198
- は~い 気持ちいいね。
- 309
- 00:27:01,708 --> 00:27:06,412
- お栄さん。 ここは あっしらが
- なんとか しのぎやすから➡
- 310
- 00:27:06,412 --> 00:27:09,849
- おやじ殿の介抱に専念して下さい。
- 311
- 00:27:09,849 --> 00:27:14,149
- うん… ありがとう。
- 312
- 00:27:15,722 --> 00:27:17,724
- おい ちょうさん。
- へえ。
- 313
- 00:27:17,724 --> 00:27:22,428
- こっち 頼まあ。
- はいよ。 何でもやりますぜ。
- 314
- 00:27:22,428 --> 00:27:28,535
- (小兎)ああ~ うまくのめたねえ。
- 315
- 00:27:28,535 --> 00:27:32,872
- お栄が作ってくれたのさ。 ねえ。
- 316
- 00:27:32,872 --> 00:27:35,208
- ああ ちょうどよかった。
- 317
- 00:27:35,208 --> 00:27:38,545
- 下帯をきれいに洗っといとくれ。
- もう替えがないんだ。
- 318
- 00:27:38,545 --> 00:27:42,545
- なあ おっ母さん…。
- (小兎)ん? 何だい?
- 319
- 00:27:44,217 --> 00:27:46,886
- もう10日だ。
- 320
- 00:27:46,886 --> 00:27:52,886
- おやじ殿 そろそろ
- 筆を持つ修練 始めてみても…。
- 321
- 00:27:55,895 --> 00:27:58,565
- 何だって?
- 322
- 00:27:58,565 --> 00:28:02,835
- 養生してる最中の親に向かって
- よくも そんな…。
- 323
- 00:28:02,835 --> 00:28:06,172
- でも… これじゃ まるで赤ん坊だ。
- 324
- 00:28:06,172 --> 00:28:08,841
- なあ おっ母さん。
- 325
- 00:28:08,841 --> 00:28:13,713
- おやじ殿は… おやじ殿にとって
- 絵を描くって事は…。
- 326
- 00:28:13,713 --> 00:28:15,715
- ご覧よ!
- 327
- 00:28:15,715 --> 00:28:18,715
- これ以上 どこに
- かじる すねがあるってんだい!
- 328
- 00:28:20,453 --> 00:28:24,153
- ひどいよ お前は ひどいよ…。
- 329
- 00:28:46,212 --> 00:29:30,723
- ♬~
- 330
- 00:29:30,723 --> 00:29:35,194
- <絵師としての おやじ殿を
- 失いたくない。➡
- 331
- 00:29:35,194 --> 00:29:41,067
- これは 私の欲なんだろうか>
- 332
- 00:29:41,067 --> 00:29:55,515
- ♬~
- 333
- 00:29:55,515 --> 00:29:58,217
- ≪御免!
- 334
- 00:29:58,217 --> 00:30:00,917
- 何だい…。
- 335
- 00:30:04,557 --> 00:30:07,226
- ああ 滝沢と申す。
- 336
- 00:30:07,226 --> 00:30:11,898
- 付近をたまたま…
- たまたま 通りすがった故に➡
- 337
- 00:30:11,898 --> 00:30:14,233
- 北斎翁にお取り次ぎを願いたい。
- 338
- 00:30:14,233 --> 00:30:16,169
- 滝沢様?
- 339
- 00:30:16,169 --> 00:30:20,573
- 鳥を逃がしてしもうたそうな。
- 340
- 00:30:20,573 --> 00:30:24,444
- あれほどのカナリアは
- おらんというのに もう➡
- 341
- 00:30:24,444 --> 00:30:28,915
- 粗忽 軽率 愚の骨頂
- 極まりないわ。
- 342
- 00:30:28,915 --> 00:30:32,915
- 滝沢馬琴先生…。
- 343
- 00:30:47,934 --> 00:30:51,270
- 無様よのう!
- 344
- 00:30:51,270 --> 00:31:00,570
- 葛飾北斎が…
- こんな掃きだめで恍惚としおって。
- 345
- 00:31:05,218 --> 00:31:10,890
- 絵師風情が このまま
- 枯れ木のごとく枯れ果てようと➡
- 346
- 00:31:10,890 --> 00:31:13,793
- わしには 何の痛痒もござらん。
- 347
- 00:31:13,793 --> 00:31:19,899
- 人並みの往生を望もうとも
- わしの知ったこっちゃない。
- 348
- 00:31:19,899 --> 00:31:23,599
- だが…。
- 349
- 00:31:28,241 --> 00:31:37,541
- わしは かような往生は望まぬな!
- 350
- 00:31:39,252 --> 00:31:45,925
- たとえ右腕が動かずとも
- この目が見えぬ仕儀に至りても➡
- 351
- 00:31:45,925 --> 00:31:50,263
- わしは 必ずや戯作を続ける。
- 352
- 00:31:50,263 --> 00:31:52,198
- まだ何も書いておらぬ。
- 353
- 00:31:52,198 --> 00:31:57,603
- 己の思うように書けた事などは
- ただの一度もござらぬ。
- 354
- 00:31:57,603 --> 00:32:04,603
- その方も…
- さようではなかったのか?
- 355
- 00:32:11,551 --> 00:32:18,424
- 葛飾北斎!
- いつまで養生しておるつもりぞ!
- 356
- 00:32:18,424 --> 00:32:22,562
- ここで もう満ち足りたのか!
- 357
- 00:32:22,562 --> 00:32:29,862
- 描きたき事 挑みたき事は まだ
- 山とあるのではなかったのか!
- 358
- 00:32:34,173 --> 00:32:36,873
- あの野郎…。
- 359
- 00:32:44,250 --> 00:32:47,587
- そなたが お栄さんか。
- 360
- 00:32:47,587 --> 00:32:50,923
- 拙宅で取れた柚子だ。
- 361
- 00:32:50,923 --> 00:32:55,595
- これを細かく刻んで酒を加え
- 焦がさぬように煮詰めろ。
- 362
- 00:32:55,595 --> 00:32:58,264
- 水あめのごとき様子にならば
- 火から下ろし➡
- 363
- 00:32:58,264 --> 00:33:01,167
- 白湯で割って 口に含ませてやれ。
- 364
- 00:33:01,167 --> 00:33:03,870
- 柚子と酒?
- さよう。
- 365
- 00:33:03,870 --> 00:33:08,541
- 酒の毒は 煮詰めれば とぶ。
- 366
- 00:33:08,541 --> 00:33:14,241
- 柚子を刻むは 竹べら。
- 煮るは 土鍋に限る。
- 367
- 00:33:17,884 --> 00:33:20,786
- ≪おおお…。
- 368
- 00:33:20,786 --> 00:33:23,786
- おやじ殿…。
- 369
- 00:33:25,758 --> 00:33:29,228
- ああ…。
- ああ… どうした どうした!
- 370
- 00:33:29,228 --> 00:33:33,099
- どっか痛むのかい?
- おお… お栄 お栄。
- 371
- 00:33:33,099 --> 00:33:35,902
- 無茶しないどくれよ!
- 骨でも折れたら…。
- 372
- 00:33:35,902 --> 00:33:38,902
- お栄…。
- ああ… うわっ!
- 373
- 00:33:41,774 --> 00:33:44,074
- お栄…。
- 374
- 00:33:46,245 --> 00:33:55,545
- 養生は… もう… 飽いた。
- 375
- 00:34:01,727 --> 00:34:04,530
- はっ…。
- 376
- 00:34:04,530 --> 00:34:07,867
- よし。
- 377
- 00:34:07,867 --> 00:34:39,799
- ♬~
- 378
- 00:34:39,799 --> 00:34:44,236
- <私は 柚子を刻み続けた。➡
- 379
- 00:34:44,236 --> 00:34:47,573
- これさえ飲んだら
- 必ず 元に戻れる。➡
- 380
- 00:34:47,573 --> 00:34:52,573
- おやじ殿は
- そう信じているようだった>
- 381
- 00:35:18,204 --> 00:35:21,204
- お栄 帰ったよ。
- 382
- 00:35:29,215 --> 00:35:34,553
- また 作ってるのかえ。
- ああ。 もう無くなると思うと➡
- 383
- 00:35:34,553 --> 00:35:37,223
- 見計らったみたいに
- 届けてくれんだよ。
- 384
- 00:35:37,223 --> 00:35:39,923
- ありがたいよ。
- 385
- 00:35:52,238 --> 00:35:55,141
- お栄。
- あっ?
- 386
- 00:35:55,141 --> 00:35:57,841
- (小兎)お父っつぁんを頼んだよ。
- 387
- 00:36:20,399 --> 00:36:24,170
- <季節が変わった頃➡
- 388
- 00:36:24,170 --> 00:36:28,074
- おやじ殿は
- 絵こそ まだ描けないものの➡
- 389
- 00:36:28,074 --> 00:36:33,074
- 筆を持っても
- 落とさないところまでは回復した>
- 390
- 00:36:41,887 --> 00:36:46,887
- <亡くなったのは
- おっ母さんだった>
- 391
- 00:36:59,238 --> 00:37:01,507
- どうも お待たせしました。
- 392
- 00:37:01,507 --> 00:37:04,207
- ありがとうございました。
- 393
- 00:37:14,520 --> 00:37:17,189
- よう。
- 394
- 00:37:17,189 --> 00:37:21,060
- どうした? こんな所で。
- 乙粋じゃねえか。
- 395
- 00:37:21,060 --> 00:37:25,531
- 西村屋に品を納めた帰りだよ。
- 396
- 00:37:25,531 --> 00:37:29,201
- おやじ殿の安茶と大福餅さ。
- 397
- 00:37:29,201 --> 00:37:33,072
- もう描いてるらしいじゃねえか。
- 398
- 00:37:33,072 --> 00:37:36,542
- ああ お医者も目ぇ丸くしてる。
- 399
- 00:37:36,542 --> 00:37:42,842
- もう二度と描く事を
- 手放すまいって思ってんだろうな。
- 400
- 00:37:45,885 --> 00:37:48,788
- お前は?
- 401
- 00:37:48,788 --> 00:37:51,488
- お前も描いてんだろ?
- 402
- 00:37:53,225 --> 00:37:56,225
- 私か…。
- 403
- 00:37:57,897 --> 00:38:01,897
- 私 何なんだろうな…。
- 404
- 00:38:04,703 --> 00:38:09,842
- おやじ殿の事ばっかり考えて…➡
- 405
- 00:38:09,842 --> 00:38:14,542
- 私 ちっともおっ母さんの事なんか
- 思いもつかなかった。
- 406
- 00:38:18,184 --> 00:38:21,854
- そうさ…。
- 407
- 00:38:21,854 --> 00:38:30,196
- 私は おやじ殿を… おやじ殿の
- 絵を失うのが怖かったんだよ。
- 408
- 00:38:30,196 --> 00:38:37,196
- 親よりも絵が大事なんて
- 私ってやつは…。
- 409
- 00:38:39,205 --> 00:38:42,107
- 大丈夫だよ。
- 410
- 00:38:42,107 --> 00:38:45,107
- おっ母さん
- きっと 全部分かってる。
- 411
- 00:38:47,880 --> 00:38:53,580
- 分かってるさ。 大丈夫。
- 412
- 00:39:00,226 --> 00:39:04,496
- 善さんにも
- いろいろ世話になったな。
- 413
- 00:39:04,496 --> 00:39:08,167
- おっ母さんの野辺送りには
- 妹さんたちや…➡
- 414
- 00:39:08,167 --> 00:39:13,038
- あの お滝さんだっけ。
- あの人も来てくれて。
- 415
- 00:39:13,038 --> 00:39:17,176
- 本当 ありがたかったよ。
- 416
- 00:39:17,176 --> 00:39:22,176
- そうか お滝も行ったのか。
- 417
- 00:39:23,849 --> 00:39:26,185
- あいつ
- 毎日 顔突き合わせてんのに➡
- 418
- 00:39:26,185 --> 00:39:29,485
- そんな事
- ひと言も言いやがらねえから。
- 419
- 00:39:31,523 --> 00:39:35,194
- 毎日?
- 420
- 00:39:35,194 --> 00:39:40,494
- ああ 今 一緒に住んでる。
- 421
- 00:39:49,208 --> 00:39:53,078
- おっ そうだった。
- 422
- 00:39:53,078 --> 00:39:57,378
- これ これ。 これ どうだ?
- 423
- 00:40:06,558 --> 00:40:10,896
- 何? この青。
- ヘヘッ。 ベロよ。
- 424
- 00:40:10,896 --> 00:40:14,566
- 浮世絵で このベロ使ったの
- 俺が初めてなんだぜ。
- 425
- 00:40:14,566 --> 00:40:18,237
- おやじ殿に見てもらいてえと
- 思ってよ。
- 426
- 00:40:18,237 --> 00:40:21,573
- うん… 深い青だ。
- 427
- 00:40:21,573 --> 00:40:24,243
- 普通の藍じゃないね これ。
- 428
- 00:40:24,243 --> 00:40:27,943
- おうよ。 さすが お栄だ。
- 429
- 00:40:29,581 --> 00:40:34,453
- あ~ お前に
- 先に見せるんじゃなかったな。
- 430
- 00:40:34,453 --> 00:40:36,455
- 親子ともども➡
- 431
- 00:40:36,455 --> 00:40:40,592
- あっと のけぞらせてやるつもり
- だったのによ。
- 432
- 00:40:40,592 --> 00:40:42,592
- ああ?
- 433
- 00:40:44,463 --> 00:40:47,463
- どうした?
- 434
- 00:40:50,602 --> 00:40:53,939
- 具合でも悪いのか?
- 435
- 00:40:53,939 --> 00:41:49,928
- ♬~
- 436
- 00:41:49,928 --> 00:41:53,799
- <善さんの優しさは 毒だ。➡
- 437
- 00:41:53,799 --> 00:41:59,099
- 私は とうとう 毒を食らう>
- 438
- 00:42:00,873 --> 00:42:03,542
- 439
- 00:42:03,542 --> 00:42:21,093
- ♬~
- 440
- 00:42:21,093 --> 00:42:24,563
- <一度限りと思ってたのに…➡
- 441
- 00:42:24,563 --> 00:42:29,435
- こんな事になっちまって
- お滝さんに気が差さないのかい?>
- 442
- 00:42:29,435 --> 00:42:33,906
- 差すよ。
- あっし あの人 嫌いじゃない。
- 443
- 00:42:33,906 --> 00:42:36,575
- <本当かね?➡
- 444
- 00:42:36,575 --> 00:42:38,911
- いっそ奪っちまいたいって
- 思ってるんだろう>
- 445
- 00:42:38,911 --> 00:42:40,846
- うるさい うるさい。
- 446
- 00:42:40,846 --> 00:42:43,782
- 私は きっと
- 相手は 誰だってよかったんだよ。
- 447
- 00:42:43,782 --> 00:42:47,920
- たまさか 気の合う男が
- そばにいただけの事。
- 448
- 00:42:47,920 --> 00:42:50,589
- これから先 どうなるかなんて
- 思案に暮れるのは➡
- 449
- 00:42:50,589 --> 00:42:53,289
- 真っ平ごめんだよ。
- 450
- 00:42:57,463 --> 00:43:00,265
- はあ いいじゃないか。
- 451
- 00:43:00,265 --> 00:43:04,870
- 朝になれば
- 家に帰っていくんだから。
- 452
- 00:43:04,870 --> 00:43:08,540
- (小声で)
- あれ 誰としゃべってんですかい?
- 453
- 00:43:08,540 --> 00:43:11,443
- 知るかい。
- 454
- 00:43:11,443 --> 00:43:16,143
- じゃあ あっしは これで。
- 455
- 00:43:18,217 --> 00:43:22,087
- ほら 行こう。
- 気ぃ付けて。
- 456
- 00:43:22,087 --> 00:43:24,556
- こいつは また。
- おう。
- 457
- 00:43:24,556 --> 00:43:27,856
- <弥助さんは
- 独り立ちする事になった>
- 458
- 00:43:31,897 --> 00:43:36,897
- 459
- 00:43:59,591 --> 00:44:03,195
- おやじ殿! 火事ですぜ!
- 佐久間町の辺りだって!➡
- 460
- 00:44:03,195 --> 00:44:05,531
- もう 京橋辺りまで
- 火が来てるって。
- 461
- 00:44:05,531 --> 00:44:09,401
- そりゃあ 芝まで火にのまれるぞ。
- 462
- 00:44:09,401 --> 00:44:12,204
- じゃ 善さんの住む惣十郎町も…。
- 463
- 00:44:12,204 --> 00:44:32,524
- ♬~
- 464
- 00:44:32,524 --> 00:44:37,229
- <昼夜を問わず
- 江戸は よく燃える>
- 465
- 00:44:37,229 --> 00:44:41,567
- 善さん…。
- 466
- 00:44:41,567 --> 00:44:43,502
- <天を焦がし➡
- 467
- 00:44:43,502 --> 00:44:47,906
- 朝焼けでも夕焼けでもない色を
- 見せる。➡
- 468
- 00:44:47,906 --> 00:44:52,578
- 善さんの家は 焼け落ち
- それから3年➡
- 469
- 00:44:52,578 --> 00:44:58,578
- 生きていると噂は聞くものの
- 姿を見せる事はなかった>
- 470
- 00:45:22,207 --> 00:45:24,876
- (与八)あの己丑の大火で➡
- 471
- 00:45:24,876 --> 00:45:31,550
- 手前ども西村屋は
- 大事な版木の全てを失いました。
- 472
- 00:45:31,550 --> 00:45:33,885
- うちだけじゃない。
- 473
- 00:45:33,885 --> 00:45:39,224
- 江戸の版元のほとんどが
- 同様のありさまです。
- 474
- 00:45:39,224 --> 00:45:48,567
- でも うちは だからこそ
- やってやりたいんです。
- 475
- 00:45:48,567 --> 00:45:52,267
- こいつは 大博打になるな。
- 476
- 00:45:53,905 --> 00:45:58,905
- ねえ おやじ殿は 何を描く?
- 477
- 00:46:01,513 --> 00:46:04,513
- そりゃあもう決まってる。
- 478
- 00:46:11,857 --> 00:46:14,557
- お待たせ致しやした。
- 479
- 00:46:20,198 --> 00:46:22,534
- これは…。
- 480
- 00:46:22,534 --> 00:46:26,204
- <おやじ殿は
- どんどん富士を描き➡
- 481
- 00:46:26,204 --> 00:46:29,541
- 西村屋は
- 「富嶽三十六景」と名付け➡
- 482
- 00:46:29,541 --> 00:46:31,877
- 鳴り物入りで売り出した。➡
- 483
- 00:46:31,877 --> 00:46:35,177
- ほかの仕事は
- 一切 私が引き受けた>
- 484
- 00:46:39,551 --> 00:46:42,888
- <「富嶽三十六景」は
- 売れに売れまくって➡
- 485
- 00:46:42,888 --> 00:46:45,557
- 新しい名所絵の流行りを
- 作り出し➡
- 486
- 00:46:45,557 --> 00:46:49,227
- 日本諸国
- 北は松前 南は薩州まで➡
- 487
- 00:46:49,227 --> 00:46:53,565
- あらゆる所で おやじ殿の富士が
- 拝まれるようになった。➡
- 488
- 00:46:53,565 --> 00:46:58,236
- 北斎の名を知らぬ者は
- いなくなった>
- 489
- 00:46:58,236 --> 00:47:02,107
- 途中で落とすんじゃねえぞ。
- はい。 ねえさん 頂いていきます!
- 490
- 00:47:02,107 --> 00:47:04,509
- ご苦労さん。
- 491
- 00:47:04,509 --> 00:47:06,845
- じゃあ ねえさん
- あっしらは これで。
- ああ。
- 492
- 00:47:06,845 --> 00:47:09,845
- これ。
- へえ。
- 493
- 00:47:14,186 --> 00:47:17,186
- ありがとよ。
- 494
- 00:47:22,060 --> 00:47:26,060
- あっしも これで。
- 失礼しやす。
- ご苦労さん。
- 495
- 00:47:41,413 --> 00:47:44,413
- よう。
- 496
- 00:47:47,886 --> 00:47:50,586
- 変わりはねえか?
- 497
- 00:47:53,225 --> 00:47:55,925
- 変わりねえみてえだな。
- 498
- 00:47:57,896 --> 00:48:03,502
- 何だよ その面。
- びっくりし過ぎだろう。
- 499
- 00:48:03,502 --> 00:48:09,841
- 変わりねえ訳ねえだろ。
- 何年たってると思ってんだい。
- 500
- 00:48:09,841 --> 00:48:15,514
- ご挨拶だな。
- 桜餅買ってきたのによ。
- 501
- 00:48:15,514 --> 00:48:18,183
- おやじ殿は?
- 502
- 00:48:18,183 --> 00:48:22,854
- 絵 描きに出かけちまったよ。
- そっちは?
- 503
- 00:48:22,854 --> 00:48:24,790
- ん?
- 504
- 00:48:24,790 --> 00:48:31,863
- 根津で女楼屋してるなんてえ
- 聞いたけど うそだろ?
- 505
- 00:48:31,863 --> 00:48:34,766
- ああ 本当さ。
- 506
- 00:48:34,766 --> 00:48:38,537
- 所帯持って女楼屋始めた。
- 507
- 00:48:38,537 --> 00:48:41,873
- そうか。
- 508
- 00:48:41,873 --> 00:48:47,212
- ハハッ! しっかし…➡
- 509
- 00:48:47,212 --> 00:48:50,549
- ますます売れっ子だってえのに
- 本当に変わりねえな。
- 510
- 00:48:50,549 --> 00:48:53,218
- もうちっと いい暮らし
- できそうなもんだ。
- 511
- 00:48:53,218 --> 00:48:56,555
- 食って寝られりゃ上等だよ。
- 512
- 00:48:56,555 --> 00:49:02,255
- おかげさまで 酒も煙草も
- 好きな時に好きなだけ味わえる。
- 513
- 00:49:06,364 --> 00:49:10,664
- 私は 描いてさえいれば幸せさ。
- 514
- 00:49:14,039 --> 00:49:19,177
- この間の「菊に虻」
- あれ お前の筆だろ。
- 515
- 00:49:19,177 --> 00:49:24,049
- 虻は おやじ殿。 でも 菊はお前だ。
- 516
- 00:49:24,049 --> 00:49:27,519
- それから 「牡丹に蝶」。
- 517
- 00:49:27,519 --> 00:49:31,857
- あっちは 花が おやじ殿で
- 蝶がお前。
- 518
- 00:49:31,857 --> 00:49:34,192
- 当たりか?
- 519
- 00:49:34,192 --> 00:49:40,065
- 分かっちまうのかい。
- そりゃ よくねえな。
- 520
- 00:49:40,065 --> 00:49:44,365
- お前の絵には 色気がねえからな。
- ほっとけ。
- 521
- 00:49:47,739 --> 00:49:51,543
- お前も もう てめえの名前で
- 注文が来てるらしいじゃねえか。
- 522
- 00:49:51,543 --> 00:49:54,543
- これからは もっと
- 己の名前で描きゃあいい。
- 523
- 00:49:57,883 --> 00:50:03,883
- おやじ殿は 私にとっちゃ光だよ。
- 524
- 00:50:05,557 --> 00:50:09,427
- 眩すぎて 到底届かない。
- 525
- 00:50:09,427 --> 00:50:16,127
- それに おやじ殿の名で描いた方が
- よっぽど高く売れるってのにさ。
- 526
- 00:50:19,905 --> 00:50:22,574
- これ 桜か?
- 527
- 00:50:22,574 --> 00:50:28,274
- ああ。
- 向島の料理屋から受けた注文でね。
- 528
- 00:50:30,448 --> 00:50:37,589
- 灯籠と こっちも灯籠って事は
- これ 夜桜か?
- 529
- 00:50:37,589 --> 00:50:42,260
- 座敷に飾って
- お客の目に触れるのは夜の宴だろ。
- 530
- 00:50:42,260 --> 00:50:46,131
- ぼんぼりをともした
- 薄闇の床の間には➡
- 531
- 00:50:46,131 --> 00:50:49,935
- こういうのもいいかと思ってさ。
- 532
- 00:50:49,935 --> 00:50:53,605
- 夜に夜の景色 見せんのか。
- 533
- 00:50:53,605 --> 00:51:00,305
- 夜の闇の中にも
- いくらだって 光と影があるだろ。
- 534
- 00:51:01,880 --> 00:51:06,880
- 闇のおかげで
- 光も いろんな色を見せる。
- 535
- 00:51:08,753 --> 00:51:15,226
- この子は今 灯籠の明かりを頼りに
- 歌を詠もうとしてるんだ。
- 536
- 00:51:15,226 --> 00:51:21,526
- 夜には きっと
- 昼には書けない歌が詠める。
- 537
- 00:51:27,806 --> 00:51:31,106
- 本当 お前ってやつは…。
- 538
- 00:51:32,777 --> 00:51:36,247
- お前は 本当
- 己の腕を分かっちゃいねえんだよ。
- 539
- 00:51:36,247 --> 00:51:38,947
- あきれるほど。
- 540
- 00:51:41,920 --> 00:51:46,620
- どういう意味だ?
- 意味が分からねえ。
- 541
- 00:51:48,259 --> 00:51:51,930
- 俺にとっちゃ お前も光って事よ。
- 542
- 00:51:51,930 --> 00:51:57,230
- くらくらする 眩しい光だ。
- 543
- 00:51:59,804 --> 00:52:02,540
- ハハッ…。
- 544
- 00:52:02,540 --> 00:52:07,412
- 俺は もう 絵は描かねえ。
- 545
- 00:52:07,412 --> 00:52:10,882
- お前は描き続けろ。
- 546
- 00:52:10,882 --> 00:53:15,182
- ♬~
- 547
- 00:53:27,225 --> 00:53:31,525
- (笑い声)
- 548
- 00:53:37,235 --> 00:53:40,905
- 家移りは
- これっきりにしてもらうからね。
- 549
- 00:53:40,905 --> 00:53:44,576
- もう ごめんだよ…。
- 550
- 00:53:44,576 --> 00:53:47,276
- 奥だぞ。
- 551
- 00:53:50,248 --> 00:53:53,548
- じゃあ あっしは これで。
- ああ。
- 552
- 00:53:56,121 --> 00:53:59,257
- <おやじ殿は 80を過ぎた頃から➡
- 553
- 00:53:59,257 --> 00:54:03,957
- 徐々に一点物の絵に
- 力を注ぐようになった>
- 554
- 00:54:15,740 --> 00:54:18,543
- 帰ったよ。
- 555
- 00:54:18,543 --> 00:54:25,543
- おや 珍しい。 起きてたのかえ。
- お栄…。
- 556
- 00:54:45,770 --> 00:54:48,907
- 西村屋さんに スイカもらったけど➡
- 557
- 00:54:48,907 --> 00:54:52,243
- 長屋の女将さんに
- あげちゃっていいよね。
- 558
- 00:54:52,243 --> 00:54:54,913
- 私 こんなの切るの面倒くさくて。
- 559
- 00:54:54,913 --> 00:54:58,583
- お栄。
- えっ?
- 560
- 00:54:58,583 --> 00:55:01,883
- 善次郎が死んだ。
- 561
- 00:55:06,858 --> 00:55:12,730
- 寝ぼけてんのかえ?
- 縁起でもない夢…。
- 562
- 00:55:12,730 --> 00:55:17,030
- さっき 女房から使えが来た。
- 563
- 00:55:19,204 --> 00:55:23,204
- 今夜 野辺送りだそうだ。
- 564
- 00:55:30,548 --> 00:55:33,248
- あっ そう。
- 565
- 00:55:34,886 --> 00:55:38,556
- 嘉永元年 夏➡
- 566
- 00:55:38,556 --> 00:55:43,856
- 溪斎英泉こと 池田善次郎
- 死んじまうってね…。
- 567
- 00:55:46,231 --> 00:55:53,231
- あんな ずうずうしいのが
- 風邪なんぞで逝っちまうとは…。
- 568
- 00:56:02,180 --> 00:56:12,180
- ちゃんと見送らねえと
- いつまでも尾を引くぞ。
- 569
- 00:56:15,526 --> 00:56:19,526
- 今からなら
- まだ間に合うかもしれねえ。
- 570
- 00:57:09,514 --> 00:57:58,563
- ♬~
- 571
- 00:57:58,563 --> 00:58:02,863
- あばえ… 善さん。
- 572
- 00:58:08,373 --> 00:58:11,142
- <真ん中は 若い遊女だ。➡
- 573
- 00:58:11,142 --> 00:58:14,512
- きっと まだ
- 閨の事は好きじゃない。➡
- 574
- 00:58:14,512 --> 00:58:17,181
- いつか 自分も
- 花魁のようになれるかどうか➡
- 575
- 00:58:17,181 --> 00:58:19,117
- 不安でたまらない。➡
- 576
- 00:58:19,117 --> 00:58:24,856
- でも わちきも琴は好きだ。
- お客が喜んでくれる。➡
- 577
- 00:58:24,856 --> 00:58:30,528
- 右手には 婀娜な女芸者。
- 年は 25か26か。➡
- 578
- 00:58:30,528 --> 00:58:33,865
- 心底ほれた男が
- これまでに1人いる。➡
- 579
- 00:58:33,865 --> 00:58:36,200
- けれど
- その恋は かなわなかった。➡
- 580
- 00:58:36,200 --> 00:58:40,538
- 今は 親子ほど年の離れた
- 旦那がいる。➡
- 581
- 00:58:40,538 --> 00:58:45,410
- もの足りなくもあるけれど
- 私には 三味線の腕がある。➡
- 582
- 00:58:45,410 --> 00:58:49,213
- 左で胡弓を弾く娘は 町娘だ。➡
- 583
- 00:58:49,213 --> 00:58:51,149
- 商家の一人娘で➡
- 584
- 00:58:51,149 --> 00:58:56,087
- いずれ 遠縁から婿を迎える事が
- 幼い頃から決まっている。➡
- 585
- 00:58:56,087 --> 00:58:59,557
- 許嫁は 洒落者を気取って
- 「芝居を見よう。➡
- 586
- 00:58:59,557 --> 00:59:03,161
- 菊細工見物は どうだ」と
- 誘ってきて煩わしい。➡
- 587
- 00:59:03,161 --> 00:59:06,497
- 本当は
- 若い手代の一人が気になる。➡
- 588
- 00:59:06,497 --> 00:59:11,797
- ふとした拍子に目が合えば
- 胸がどきついて…>
- 589
- 00:59:37,195 --> 01:00:58,943
- ♬~
- 590
- 01:00:58,943 --> 01:01:01,943
- 酔女?
- 591
- 01:01:04,549 --> 01:01:09,220
- 世を捨てたような画号だな。
- 592
- 01:01:09,220 --> 01:01:12,890
- お栄の栄と 酔うっていう字は➡
- 593
- 01:01:12,890 --> 01:01:15,560
- おんなじ音だからな。
- 594
- 01:01:15,560 --> 01:01:29,106
- ♬~
- 595
- 01:01:29,106 --> 01:01:32,406
- 私らしいだろ?
- 596
- 01:01:44,255 --> 01:01:46,924
- ああ こいつは軽い。
- 597
- 01:01:46,924 --> 01:01:53,598
- 藍群青に子持ち縞たあ 乙粋だ。
- 598
- 01:01:53,598 --> 01:01:58,469
- 卒寿の祝いだから 紫群青が
- いいって言ったんですけどね➡
- 599
- 01:01:58,469 --> 01:02:03,207
- うちのかかあが こっちの方が
- 顔写りがいいからっつって➡
- 600
- 01:02:03,207 --> 01:02:05,507
- 聞かねえんでさ。
- 601
- 01:02:12,550 --> 01:02:17,421
- この墨絵 お栄さんですかい?
- ああ。
- 602
- 01:02:17,421 --> 01:02:22,893
- おやじ殿が 正月に富士の絵を
- やりたいって言いだしてね。
- 603
- 01:02:22,893 --> 01:02:28,766
- う~ん… このままじゃ
- 絵組みがさみしい気もするけど…。
- 604
- 01:02:28,766 --> 01:02:32,066
- う~ん…。
- 605
- 01:02:33,904 --> 01:02:37,775
- お栄。
- ん?
- 606
- 01:02:37,775 --> 01:02:42,580
- 富士を仕上げるぞ。
- 607
- 01:02:42,580 --> 01:03:10,741
- ♬~
- 608
- 01:03:10,741 --> 01:03:13,878
- 刷毛 筆。
- 609
- 01:03:13,878 --> 01:04:12,069
- ♬~
- 610
- 01:04:12,069 --> 01:04:14,538
- 水。
- 611
- 01:04:14,538 --> 01:05:08,838
- ♬~
- 612
- 01:05:10,528 --> 01:05:14,828
- (弥助)はあ~…。
- 613
- 01:05:28,546 --> 01:05:32,546
- はあ~… すげえ。
- 614
- 01:05:37,555 --> 01:05:41,225
- すげえ。
- 615
- 01:05:41,225 --> 01:05:48,925
- ああ… うまくなりてえ…。
- 616
- 01:05:57,575 --> 01:06:10,521
- 天が あと10年… いや 5年
- 命をくれるなら➡
- 617
- 01:06:10,521 --> 01:06:17,521
- 俺は
- 本当の絵描きになってみせる。
- 618
- 01:06:19,864 --> 01:06:26,737
- きっと なってみせる。
- 619
- 01:06:26,737 --> 01:06:48,225
- ♬~
- 620
- 01:06:48,225 --> 01:06:51,525
- 621
- 01:06:53,898 --> 01:06:59,198
- 622
- 01:07:03,507 --> 01:07:06,207
- (猫の鳴き声)
- 623
- 01:07:14,151 --> 01:07:17,054
- (鳴き声)
- 624
- 01:07:17,054 --> 01:07:39,354
- ♬~
- 625
- 01:07:54,224 --> 01:08:07,771
- (泣き声)
- 626
- 01:08:07,771 --> 01:08:12,176
- 私も うまくなりてえなあ…。
- 627
- 01:08:12,176 --> 01:08:24,755
- (泣き声)
- 628
- 01:08:24,755 --> 01:08:27,725
- なりてえなあ…。
- 629
- 01:08:27,725 --> 01:08:56,553
- ♬~
- 630
- 01:08:56,553 --> 01:09:01,853
- 631
- 01:09:04,828 --> 01:09:09,500
- <黒船が来て 地揺れが起きて…➡
- 632
- 01:09:09,500 --> 01:09:14,200
- 弟の家に やっかいになった>
- 633
- 01:09:21,111 --> 01:09:25,849
- (弥生)義姉上
- また黙ってお出かけになって。
- 634
- 01:09:25,849 --> 01:09:29,520
- 新吉原へ行ってたんだよ。
- (崎十郎)そうですか。
- 635
- 01:09:29,520 --> 01:09:32,189
- 大変な
- にぎわいだったでしょうね。
- 636
- 01:09:32,189 --> 01:09:37,861
- 供も連れずに。 私たちが
- いかほど案じていた事か。
- 637
- 01:09:37,861 --> 01:09:42,199
- それは 心配をかけて
- 申し訳のない事だったね。
- 638
- 01:09:42,199 --> 01:09:46,070
- また そうやって
- 口先だけで わびられる。
- 639
- 01:09:46,070 --> 01:09:48,872
- 武家にとって
- あらぬ噂を立てられる事が➡
- 640
- 01:09:48,872 --> 01:09:50,808
- いかほど不面目か。
- 641
- 01:09:50,808 --> 01:09:53,744
- 笑われるのは
- あなた様の弟君と私です。
- 642
- 01:09:53,744 --> 01:09:56,547
- そう お盆の頃だって…。
- もう分かったから➡
- 643
- 01:09:56,547 --> 01:10:00,217
- くどくど言うんじゃないよ。
- 644
- 01:10:00,217 --> 01:10:15,566
- ♬~
- 645
- 01:10:15,566 --> 01:10:19,236
- (弥生)ほんに 義姉上ほど
- 気随気ままな方はいません。
- 646
- 01:10:19,236 --> 01:10:22,573
- まあまあ。
- 石や草 木の実まで
- 家の中に持ち込んで…。
- 647
- 01:10:22,573 --> 01:10:29,246
- それが 父上や姉上の生業だ。
- 目くじらを立てるな。
- 648
- 01:10:29,246 --> 01:10:32,246
- はあ…。
- 649
- 01:10:34,918 --> 01:10:37,588
- ほ~れ。
- 650
- 01:10:37,588 --> 01:10:42,588
- こうして ここに
- 深~い黒を落とすだろう。
- 651
- 01:10:45,929 --> 01:10:56,229
- そうすると こっちの明かりが
- 余計強く宿って…。
- 652
- 01:11:03,213 --> 01:11:06,213
- そう…。
- 653
- 01:11:07,885 --> 01:11:13,223
- これが光さ。
- 654
- 01:11:13,223 --> 01:11:18,223
- 655
- 01:11:19,897 --> 01:11:27,597
- <影が万事を形づけ
- 光が それを浮かび上がらせる>
- 656
- 01:11:29,573 --> 01:11:40,217
- ♬「とんび からすに
- ならるるならば」
- 657
- 01:11:40,217 --> 01:11:42,517
- (笑い声)
- 658
- 01:11:44,121 --> 01:11:58,421
- ♬「飛んで行きたや 主の側」
- 659
- 01:12:00,871 --> 01:12:05,542
- ♬「はっ ちりちりちん」
- 660
- 01:12:05,542 --> 01:12:08,879
- ♬「つるつるつん」
- 661
- 01:12:08,879 --> 01:12:57,579
- ♬~
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