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- はじめまして、親愛なるツァラトゥストラ。
- 私はこのオペラを提供するしがない道化。
- 取るに足らない詐欺師の類。
- 名は――そうだな、カリオストロとでも言っておこうか。
- 今宵君に語るのは、私がそう名乗っていた頃に出逢った少女の話。
- 麗しき断頭台の姫君。
- 彼女の成り立ち、そして私との馴れ初めを。
- ごく簡単にだが、君に語ってしんぜよう。
- そも事の始まりは、単に運が悪いという一言ですまされるものだった。そも
- “生まれ”というものは人を縛る。
- たとえどれだけの善行、悪行、愚行を積もうと、そう生まれただけの天然には誰も勝てない。
- これはつまり、そういう話。
- とかくその辺りの機微を解せぬ者が多いゆえに、多少の愚痴から入ることをまず謝罪しておこう。
- 強者、狂者、あるいは弱者……なんでもいいが、突き抜けた個を見たとき、程度の低い者ほどその外れ具合に何らかの理屈を求めるものだ。
- 努力したから?
- 覚悟があるから?
- または何らかのトラウマを持っているから?
- くだらない。
- 感情移入。自己投影。
- きっかけさえあれば、己もそうなったかもしれない。
- いや、なれるだろうという思い込み。
- 異端を手の届く域に堕とし、理解できる範疇に押し込めようとする醜悪なる自慰行為。
- 他者が自分と同じ論理で存在していると盲信せねば、人を愛でることすら出来ぬ蒙昧ども。そういう輩は鏡と話していればよい。
- 君は彼女の生い立ちを苦々しく思うだろうが、その手の野暮を行うほど低俗な魂を持ってはいまい。
- この世には、混じり気のない特別というものが存在する。この世には、混じり気のない特別というものが存在する
- それが彼女だ。
- その異常性は唯一無二。
- 全て生まれつきのものであり、後天的に得たものは一つもない。
- 首の斬痕は消えることなく。
- 紡ぐ言葉は呪いでしかなく。
- 誰とも交われず愛されない。
- 私などでは及びもせぬほど、彼女は奇跡のように外れていた。
- ゆえに、その存在を麗しいと――
- およそ人というものの素晴らしさは、意図せずしてこれだけのものを生み出せるのかと感動したのを覚えている。
- それは、後付けで達することのできない境地。
- 魔道を極めても届かぬ地平。
- 究極と言って差し支えない純粋なる異物。
- 恥を忍んで告白すれば――
- 私は彼女を羨ましいと思っていたのだ。
- 君は滑稽だと笑うだろうがね。
- 徒刑のごとき我が人生で、唯一誇るべきは彼女と出逢ったことだろう。
- それは一つの敗北だったが、打ちのめされる挫折の味はなんと甘美であることだったか。
- 私はその時、確固たる目的を見いだしていた。
- 愛しの君よ、あなたの前に跪こう。
- この全霊をもってして、あなたの魂を救済しよう。
- それこそが、私のオペラだ。
- 法則を破壊する怒りの日だ。
- さあ―
- 主演は君だよツァラトゥストラ。
- 彼女と上手く踊るがいい。
- それが劇的なものになるよう、期待する。
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