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- 美綺「いーよ。その取り引き乗った! その代わり、これからの一挙手一踏足を 記録させてもらうからね?」
- 司「いいだろう。取り引き成立だ!」
- 僕は相沢に頷きかけると作業台から飛び降りた。
- 美綺「んで、どういうきっかけで始まったの?」
- 格納庫の表に置きっぱなしの資材に腰掛けた相沢が、メモ帳片手にペンをマイクのように僕に突きつけた。
- 彼女の右隣に座った僕はそれに応えて1つずつ順番に話していった。
- 司「そうだなぁ、初めはあの時だよ。 夏の頭の美術週間」
- 美綺「美術週間? ズイブン前だね」
- 司「そう。 殿子と八乙女の居場所をチェックしに来た時に、 その近くで大砲を見つけたんだ」
- 殿子。
- その言葉を口にした時に少しだけ胸が痛んだが、僕はそれを無視して続けた。
- 美綺「大砲?! そんなのもあるの?」
- 司「ああ。風雨にさらされてボロボロだったんだが、 ちゃんと大砲の形をしていてさ」
- 司「ちなみにどうしてこんなものがここに有るのかの 詳しい話は八乙女に訊けば詳しく教えてくれるぞ」
- 美綺「由来はしのしのに、っと」
- 相沢は手馴れた様子でメモ帳に書き込んでいく。僕はこの時初めて相沢が報道マンに見えた。
- 司「……で、その時一緒に居た殿子に訊いたら、 他にもこういうものが有るって言うんだ」
- 美綺「こういうもの?」
- 司「ああ。戦車とか戦闘機とかな」
- 美綺「へぇ………それで?」
- 司「戦車には興味がなかったんで、 戦闘機が見たいって言ったら、 殿子はここに案内してくれたんだ」
- 僕はそう言って背後の格納庫を手で示した。
- 司「中に入ったらボロボロの飛行機が3機。 でもコンテナの中に保存状態のいい パーツが一式見つかってさ」
- 美綺「それで熱いパトスに突き動かされて、 思わず組み立て始めたんだ? でも、普通しないって」
- 相沢は顔を上げて笑い出した。上原もその向こうで口元を押えて笑っている。
- 司「そういう事だ。 最初、僕は殿子にも内緒で作業を始めたんだ」
- 美綺「どうして殿ちんにも内緒にしたの?」
- 相沢は不思議そうだった。
- 司「そりゃあ、危ないからさ。 流石の僕にもそういう自覚はある」
- みやび「馬鹿だから危険だと解っていても 実行してしまうんだがな」
- そこへ理事長の声が割り込んでくる。いつの間にか理事長は僕の右側に座っていた。
- 司「痛い所を突きますね、理事長」
- みやび「危ない事は往々にして楽しいんだ。 別に怒ってはいない。もし怒ってるなら、 私がここに居る筈もなかろう?」
- 美綺「あははっ、そうだねっ」
- 理事長と相沢は顔を見合わせて笑い合う。
- その笑いが途切れるのを待って、僕は説明を続けた。
- 司「……でも設計図が無かったら、僕はまず、 比較的ちゃんとしていた1機を 解体するところから始めたんだ」
- 美綺「なんで?」
- 司「解体作業を順番に記録していけば、 逆に読むと設計図になる気がしないか?」
- 美綺「あっ、そうか! なるへそ」
- 司「結構時間がかかったんだが、 それで何とか基本的な構造は解ったんだ」
- 美綺「ね、ね、その時の手書きの設計図ってある?」
- 司「ああ、あるぞ。八乙女に頼んで出してもらえ。 資料の管理とかはあの子の管轄なんだ」
- 美綺「だってさ! しのしのっ、後で見せてね?」
- 梓乃「は、はいっ」
- 背後から八乙女の声。振り返ると八乙女の姿もそこにあった。
- 目が合うと彼女は少し頬を赤くして目をそらした。
- なんだ、勢ぞろいじゃないか。僕は小さく笑うと正面に向き直った。
- 司「んでだね、解体作業が終わった頃、殿子にバレた」
- 僕は苦笑しながら両手を上げ、お手上げのポーズを作った。
- みやび「あっはっはっはっは!」
- 美綺「にゃははははははっ、 で、そっ、それ、いつ頃!?」
- 理事長と相沢の馬鹿笑い。
- 相沢は記者根性でそれを堪えて、笑いの中に質問を挟み込んでくる。
- 司「海水浴の後ぐらいだな」
- 美綺「あっ、そういえばあの頃に 殿ちんにセンセの情報 訊かれたような覚えがあるよっ」
- 司「そうだったのか?」
- 美綺「うん。 センセが度々居なくなるんだって心配してたよ」
- 司「そっかぁ………」
- カリカリ
- 僕は右手で頭を掻いた。
- 司「………格納庫にやって来た殿子はさ、 危ない事するなってえらく怒ってさ」
- みやび「だろうな。 お前が溺れた時の殿子の様子からするに、 怒るだろうそれは」
- 司「危うくここから引きずり出される所だったんだ」
- 美綺「それでどうなったどうなった?」
- 苦笑する理事長と目を輝かせる相沢。
- 反応は違ったが2人とも話には興味があるようだった。
- 司「殿子が一緒に居る時だけ作業するって約束で、 なんとか続行させてもらえる事になったんだ」
- そうだ、殿子。
- お前が一緒の時だけって約束だったじゃないか。なのにどうして来てくれない?
- 美綺「それでセンセと殿ちんが 一緒に居なくなるようになったんだね」
- 相沢は納得したように首をコクコクと縦に振った。
- 奏「一時は滝沢先生と鷹月さんが お付き合いしているって噂さえ ありましたありました」
- 上原も相沢の向こうで、納得の表情で微笑んでいる。
- みやび「まさかこんな馬鹿なものを作っているとは、 誰も思わんわな?」
- 理事長は悪戯っ子の顔でニヤリと口元を歪めた。
- 美綺「それで2人でずっと?」
- 司「ああ。八乙女が嗅ぎつけるまでな?」
- 僕は背後を振り返ると、八乙女は軽く頬を染めて俯いてしまった。
- 美綺「それはいつ頃?」
- 司「どうだったっけ、八乙女」
- 梓乃「はい……その、中間試験明けだった筈ですから、 10月の半ば、だったと」
- 彼女は俯いたままそう言った。
- 美綺「じゃあそこから3人に?」
- 司「うん。八乙女は学院史編纂委員を やってる事もあって、ここの事に興味が あったみたいでさ。な? 八乙女?」
- 梓乃「はい………」
- 美綺「じゃあ哀れしのしのは、 仲間に引きずり込まれたってクチってワケだ」
- みやび「違うぞ。 引きずり込まれたのは あたしみたいなのを言うんだ」
- 美綺「あぁ、みやびーは巻き込まれたよね、完全に」
- クスクス。
- 憮然とする理事長。そして喉を鳴らす相沢。2人の顔は好対照だった。
- 美綺「ねえセンセ、どうしてみやびーを 巻き込む必要があったの?」
- 司「それがだね、 丁度飛行機っぽいシルエットになった頃に、 手書きの設計図じゃ難しい問題が浮び上がってね」
- 美綺「問題点? どんな?」
- 司「それはな、 パーツ同士をどう連携させるかって事さ」
- 司「手書きの設計図でも、 形通りに繋ぐ事は出来たんだ。 でもただ繋いだだけでは駄目だったんだ」
- 美綺「? どういうコト?」
- よく解らない様子で相沢は首を傾げる。
- 司「そうだなぁ………解りやすい所だと………。 例えばエンジンオイル。 種類が沢山あるのは解るよな?」
- 美綺「うん」
- 司「分解しただけでどれを使っているか 解ると思うか?」
- 美綺「わかんないだろうね……あ、なるほど」
- 司「それだけじゃなく、他にもペダルの固さとか、 ワイヤーに必要な強さとかいろいろとね。 今は動くんだけど、最初舵とか動かなかったんだ」
- 美綺「そこは判った。 でも、それがどうしてみやびーに繋がるの?」
- 司「それはだね、実はここの地下に地下道が有るんだ。 戦争中に作られた秘密基地らしいんだけど」
- 美綺「ああ、知ってる知ってる。 その穴なら通ったコトあるもん」
- 司「そ、そうなのか!?」
- 今度は僕が驚く番だった。
- 美綺「うん。ちょっとだけど探検した事もあるよ」
- 司「そ、そうだったのか」
- どうやら僕らは相沢を仲間にするタイミングを誤ったらしい。
- 司「ともかく、僕らは設計図を求めて 地下を探検する事にしたんだ」
- 美綺「どうして?」
- 司「ホラ、ここが半地下の格納庫で、 下には秘密の基地。
- 司「そうしたらここが秘密基地の 格納庫だったって気がしないか?」
- 美綺「ああ、するする」
- 司「なら、下に研究室や資料室があったりして、 そこに整備用の資料とかありそうな 気がしないか?」
- 美綺「なるほど!」
- ぽむっ
- 相沢は笑顔で両手を合わせた。
- 司「それで僕と殿子は 地下を探検する事に決めたんだ」
- 美綺「ふむふむ」
- 司「でも相沢、お前も知っているだろうが、 地下は馬鹿みたいに広いだろう?」
- 美綺「うんうん。 アタシも迷いたくないから、 解り易い所にしか入ってない」
- 司「だからどうしても地下の地図が欲しかったんだ。 あのまま殿子と2人で無策に探索していたら、 何年かかるか解ったもんじゃなかったから」
- みやび「で、アタシを引きずり込んだワケか。 2号書庫の地図を狙って」
- 司「そんなところです。 とまあ、大体こんな所かな。 その後は順調に進んでる。御覧の通りだ」
- 美綺「アリガトさんきゅーべりまっち。 よーくわかったよ、センセっ」
- パタン
- 納得したのか、相沢はペンを胸のポケットにしまってメモ帳を閉じた。
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