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Nov 23rd, 2019
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  1. 美綺「いーよ。その取り引き乗った! その代わり、これからの一挙手一踏足を 記録させてもらうからね?」
  2.  
  3. 司「いいだろう。取り引き成立だ!」
  4.  
  5. 僕は相沢に頷きかけると作業台から飛び降りた。
  6.  
  7. 美綺「んで、どういうきっかけで始まったの?」
  8.  
  9. 格納庫の表に置きっぱなしの資材に腰掛けた相沢が、メモ帳片手にペンをマイクのように僕に突きつけた。
  10.  
  11. 彼女の右隣に座った僕はそれに応えて1つずつ順番に話していった。
  12.  
  13. 司「そうだなぁ、初めはあの時だよ。 夏の頭の美術週間」
  14.  
  15. 美綺「美術週間? ズイブン前だね」
  16.  
  17. 司「そう。 殿子と八乙女の居場所をチェックしに来た時に、 その近くで大砲を見つけたんだ」
  18.  
  19. 殿子。
  20.  
  21. その言葉を口にした時に少しだけ胸が痛んだが、僕はそれを無視して続けた。
  22.  
  23. 美綺「大砲?! そんなのもあるの?」
  24.  
  25. 司「ああ。風雨にさらされてボロボロだったんだが、 ちゃんと大砲の形をしていてさ」
  26.  
  27. 司「ちなみにどうしてこんなものがここに有るのかの 詳しい話は八乙女に訊けば詳しく教えてくれるぞ」
  28.  
  29. 美綺「由来はしのしのに、っと」
  30.  
  31. 相沢は手馴れた様子でメモ帳に書き込んでいく。僕はこの時初めて相沢が報道マンに見えた。
  32.  
  33. 司「……で、その時一緒に居た殿子に訊いたら、 他にもこういうものが有るって言うんだ」
  34.  
  35. 美綺「こういうもの?」
  36.  
  37. 司「ああ。戦車とか戦闘機とかな」
  38.  
  39. 美綺「へぇ………それで?」
  40.  
  41. 司「戦車には興味がなかったんで、 戦闘機が見たいって言ったら、 殿子はここに案内してくれたんだ」
  42.  
  43. 僕はそう言って背後の格納庫を手で示した。
  44.  
  45. 司「中に入ったらボロボロの飛行機が3機。 でもコンテナの中に保存状態のいい パーツが一式見つかってさ」
  46.  
  47. 美綺「それで熱いパトスに突き動かされて、 思わず組み立て始めたんだ? でも、普通しないって」
  48.  
  49. 相沢は顔を上げて笑い出した。上原もその向こうで口元を押えて笑っている。
  50.  
  51. 司「そういう事だ。 最初、僕は殿子にも内緒で作業を始めたんだ」
  52.  
  53. 美綺「どうして殿ちんにも内緒にしたの?」
  54.  
  55. 相沢は不思議そうだった。
  56.  
  57. 司「そりゃあ、危ないからさ。 流石の僕にもそういう自覚はある」
  58.  
  59. みやび「馬鹿だから危険だと解っていても 実行してしまうんだがな」
  60.  
  61. そこへ理事長の声が割り込んでくる。いつの間にか理事長は僕の右側に座っていた。
  62.  
  63. 司「痛い所を突きますね、理事長」
  64.  
  65. みやび「危ない事は往々にして楽しいんだ。 別に怒ってはいない。もし怒ってるなら、 私がここに居る筈もなかろう?」
  66.  
  67. 美綺「あははっ、そうだねっ」
  68.  
  69. 理事長と相沢は顔を見合わせて笑い合う。
  70.  
  71. その笑いが途切れるのを待って、僕は説明を続けた。
  72.  
  73. 司「……でも設計図が無かったら、僕はまず、 比較的ちゃんとしていた1機を 解体するところから始めたんだ」
  74.  
  75. 美綺「なんで?」
  76.  
  77. 司「解体作業を順番に記録していけば、 逆に読むと設計図になる気がしないか?」
  78.  
  79. 美綺「あっ、そうか! なるへそ」
  80.  
  81. 司「結構時間がかかったんだが、 それで何とか基本的な構造は解ったんだ」
  82.  
  83. 美綺「ね、ね、その時の手書きの設計図ってある?」
  84.  
  85. 司「ああ、あるぞ。八乙女に頼んで出してもらえ。 資料の管理とかはあの子の管轄なんだ」
  86.  
  87. 美綺「だってさ! しのしのっ、後で見せてね?」
  88.  
  89. 梓乃「は、はいっ」
  90.  
  91. 背後から八乙女の声。振り返ると八乙女の姿もそこにあった。
  92.  
  93. 目が合うと彼女は少し頬を赤くして目をそらした。
  94.  
  95. なんだ、勢ぞろいじゃないか。僕は小さく笑うと正面に向き直った。
  96.  
  97. 司「んでだね、解体作業が終わった頃、殿子にバレた」
  98.  
  99. 僕は苦笑しながら両手を上げ、お手上げのポーズを作った。
  100.  
  101. みやび「あっはっはっはっは!」
  102.  
  103. 美綺「にゃははははははっ、 で、そっ、それ、いつ頃!?」
  104.  
  105. 理事長と相沢の馬鹿笑い。
  106.  
  107. 相沢は記者根性でそれを堪えて、笑いの中に質問を挟み込んでくる。
  108.  
  109. 司「海水浴の後ぐらいだな」
  110.  
  111. 美綺「あっ、そういえばあの頃に 殿ちんにセンセの情報 訊かれたような覚えがあるよっ」
  112.  
  113. 司「そうだったのか?」
  114.  
  115. 美綺「うん。 センセが度々居なくなるんだって心配してたよ」
  116.  
  117. 司「そっかぁ………」
  118.  
  119. カリカリ
  120.  
  121. 僕は右手で頭を掻いた。
  122.  
  123. 司「………格納庫にやって来た殿子はさ、 危ない事するなってえらく怒ってさ」
  124.  
  125. みやび「だろうな。 お前が溺れた時の殿子の様子からするに、 怒るだろうそれは」
  126.  
  127. 司「危うくここから引きずり出される所だったんだ」
  128.  
  129. 美綺「それでどうなったどうなった?」
  130.  
  131. 苦笑する理事長と目を輝かせる相沢。
  132.  
  133. 反応は違ったが2人とも話には興味があるようだった。
  134.  
  135. 司「殿子が一緒に居る時だけ作業するって約束で、 なんとか続行させてもらえる事になったんだ」
  136.  
  137. そうだ、殿子。
  138.  
  139. お前が一緒の時だけって約束だったじゃないか。なのにどうして来てくれない?
  140.  
  141. 美綺「それでセンセと殿ちんが 一緒に居なくなるようになったんだね」
  142.  
  143. 相沢は納得したように首をコクコクと縦に振った。
  144.  
  145. 奏「一時は滝沢先生と鷹月さんが お付き合いしているって噂さえ ありましたありました」
  146.  
  147. 上原も相沢の向こうで、納得の表情で微笑んでいる。
  148.  
  149. みやび「まさかこんな馬鹿なものを作っているとは、 誰も思わんわな?」
  150.  
  151. 理事長は悪戯っ子の顔でニヤリと口元を歪めた。
  152.  
  153. 美綺「それで2人でずっと?」
  154.  
  155. 司「ああ。八乙女が嗅ぎつけるまでな?」
  156.  
  157. 僕は背後を振り返ると、八乙女は軽く頬を染めて俯いてしまった。
  158.  
  159. 美綺「それはいつ頃?」
  160.  
  161. 司「どうだったっけ、八乙女」
  162.  
  163. 梓乃「はい……その、中間試験明けだった筈ですから、 10月の半ば、だったと」
  164.  
  165. 彼女は俯いたままそう言った。
  166.  
  167. 美綺「じゃあそこから3人に?」
  168.  
  169. 司「うん。八乙女は学院史編纂委員を やってる事もあって、ここの事に興味が あったみたいでさ。な? 八乙女?」
  170.  
  171. 梓乃「はい………」
  172.  
  173. 美綺「じゃあ哀れしのしのは、 仲間に引きずり込まれたってクチってワケだ」
  174.  
  175. みやび「違うぞ。 引きずり込まれたのは あたしみたいなのを言うんだ」
  176.  
  177. 美綺「あぁ、みやびーは巻き込まれたよね、完全に」
  178.  
  179. クスクス。
  180.  
  181. 憮然とする理事長。そして喉を鳴らす相沢。2人の顔は好対照だった。
  182.  
  183. 美綺「ねえセンセ、どうしてみやびーを 巻き込む必要があったの?」
  184.  
  185. 司「それがだね、 丁度飛行機っぽいシルエットになった頃に、 手書きの設計図じゃ難しい問題が浮び上がってね」
  186.  
  187. 美綺「問題点? どんな?」
  188.  
  189. 司「それはな、 パーツ同士をどう連携させるかって事さ」
  190.  
  191. 司「手書きの設計図でも、 形通りに繋ぐ事は出来たんだ。 でもただ繋いだだけでは駄目だったんだ」
  192.  
  193. 美綺「? どういうコト?」
  194.  
  195. よく解らない様子で相沢は首を傾げる。
  196.  
  197. 司「そうだなぁ………解りやすい所だと………。 例えばエンジンオイル。 種類が沢山あるのは解るよな?」
  198.  
  199. 美綺「うん」
  200.  
  201. 司「分解しただけでどれを使っているか 解ると思うか?」
  202.  
  203. 美綺「わかんないだろうね……あ、なるほど」
  204.  
  205. 司「それだけじゃなく、他にもペダルの固さとか、 ワイヤーに必要な強さとかいろいろとね。 今は動くんだけど、最初舵とか動かなかったんだ」
  206.  
  207. 美綺「そこは判った。 でも、それがどうしてみやびーに繋がるの?」
  208.  
  209. 司「それはだね、実はここの地下に地下道が有るんだ。 戦争中に作られた秘密基地らしいんだけど」
  210.  
  211. 美綺「ああ、知ってる知ってる。 その穴なら通ったコトあるもん」
  212.  
  213. 司「そ、そうなのか!?」
  214.  
  215. 今度は僕が驚く番だった。
  216.  
  217. 美綺「うん。ちょっとだけど探検した事もあるよ」
  218.  
  219. 司「そ、そうだったのか」
  220.  
  221. どうやら僕らは相沢を仲間にするタイミングを誤ったらしい。
  222.  
  223. 司「ともかく、僕らは設計図を求めて 地下を探検する事にしたんだ」
  224.  
  225. 美綺「どうして?」
  226.  
  227. 司「ホラ、ここが半地下の格納庫で、 下には秘密の基地。
  228.  
  229. 司「そうしたらここが秘密基地の 格納庫だったって気がしないか?」
  230.  
  231. 美綺「ああ、するする」
  232.  
  233. 司「なら、下に研究室や資料室があったりして、 そこに整備用の資料とかありそうな 気がしないか?」
  234.  
  235. 美綺「なるほど!」
  236.  
  237. ぽむっ
  238.  
  239. 相沢は笑顔で両手を合わせた。
  240.  
  241. 司「それで僕と殿子は 地下を探検する事に決めたんだ」
  242.  
  243. 美綺「ふむふむ」
  244.  
  245. 司「でも相沢、お前も知っているだろうが、 地下は馬鹿みたいに広いだろう?」
  246.  
  247. 美綺「うんうん。 アタシも迷いたくないから、 解り易い所にしか入ってない」
  248.  
  249. 司「だからどうしても地下の地図が欲しかったんだ。 あのまま殿子と2人で無策に探索していたら、 何年かかるか解ったもんじゃなかったから」
  250.  
  251. みやび「で、アタシを引きずり込んだワケか。 2号書庫の地図を狙って」
  252.  
  253. 司「そんなところです。 とまあ、大体こんな所かな。 その後は順調に進んでる。御覧の通りだ」
  254.  
  255. 美綺「アリガトさんきゅーべりまっち。 よーくわかったよ、センセっ」
  256.  
  257. パタン
  258.  
  259. 納得したのか、相沢はペンを胸のポケットにしまってメモ帳を閉じた。
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