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Kuroe MSS JP Text

Jun 27th, 2022
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  1. FILENAME: text_310431-1.txt
  2. 序文
  3. 彼方の大切な宇宙は ひとつきりしか在りません。
  4. けれども 一度だけ、 時の果ての水面に 其の姿を映しました。
  5. 掌から零れた 彼方の大切な宇宙を、 いつか忘れてしまわぬように。 確かに在ったと、示せるように。
  6. 水面の姿が 例え今と違ってしまっていたとしても、 彼方の大切な宇宙が在ったことを、忘れない為に
  7. …此れより始まるお話は 此処とは違う 水面に映る魔法少女の物語
  8. Kuroe’s magia story for animation
  9. キュゥべえ: 「僕と契約して、魔法少女になってよ」
  10. 黒江: 神様なら 魔法少女のこと 信じられますか? 今日 人間の言葉を喋る猫が 私に魔法少女になって欲しいと言ってきました
  11. 黒江: 魔法少女になれば ひとつだけ願いを叶えてくれる代わりに 魔女と戦って欲しいんだそうです
  12. 黒江: …………
  13. 黒江: 両親や兄姉に話しても 全然通じなくて 私が童話作家になりたいんだと 勘違いされてしまいました
  14. 黒江: 高校も、文系のしっかりしたところを 探さなきゃって…
  15. 黒江: 本当に童話を書かなくちゃいけなくなったら どうしよう…
  16. 黒江: すみません どうでもいい話でした
  17. 黒江: 神様には悪いけど 神様は こう なんて言うか 存在もふわっとしてるし 全体的に曖昧だから、
  18. 黒江: 魔法少女みたいな 非現実的な問題を相談するなら 神様みたいな人のほうがいいかと思い こうして相談しています
  19. 黒江: …………
  20. 黒江: 神様もあの猫みたいに 人間の言葉が喋れたらよかったんですが…
  21. 黒江: 昨日はよく眠れなかったけど いつも通りの時間に起きて いつも通りに学校へ行く
  22. 黒江: …………
  23. 黒江さんって、 家でも毎日お祈りしてるの?
  24. 黒江: ? 毎日じゃないけど…
  25. 黒江: みんなも学校で 毎日お祈りしてるでしょ?
  26. え~~、しないよ~
  27. 先生がいたらやるけど、 あんなのみんな適当だし~
  28. 黒江: そうなの?
  29. 確かに、うちって それ系の学校だけどさ
  30. 黒江さんは、それ系の職業に なりたくて入ったの?
  31. 黒江: そういう訳じゃないんだけど…
  32. 黒江さんにピッタリだし、 いいと思うけどな~
  33. なんか神聖っていうか、清純な?
  34. 黒江さんっぽいよ~
  35. 黒江: そうかな?
  36. 私らには絶対無理だからさ~
  37. 黒江さんみたいに 純粋じゃないっていうか?
  38. 黒江: そうなんだ
  39. 黒江: 私はきっと世の中のことをあまり知らない
  40. 黒江: だからときどき 世の中というフィルターを通して見える 自分の姿に戸惑うことがある
  41. 黒江: 他の人たちには 私はどんな人間に見えているんだろう
  42. ……お前とおれでは、 よっぽど人格がちがうんだよ。
  43. たとえばおれは、青いそらを どこまででも飛んで行く。
  44. おまえは、 くもってうすぐらい日か、
  45. 夜でなくちゃ、出て来ない……
  46. 黒江さんの感想文って なんかいいね
  47. 俺、文章見て感想なんて 全然思いつかないし
  48. 書かれてないこととかも よく分かんないからさ
  49. ちょっと なに口説こうとしてんの?
  50. 私らの黒江さんを 汚さんといてよ!
  51. 褒めてるだけだって
  52. 黒江さんもキモイならキモイって 拳で伝えんといかんよ?
  53. そこ!
  54. グループ学習は 雑談会ではありませんよ?
  55. うげ あんたのせいで怒られたやん
  56. 黒江さんのおすすめの本教えてよ
  57. 黒江: うん…
  58. 黒江: その日、私は感想を褒めてもらった
  59. 黒江: ずれてるとか、変わってるとかじゃなくて いいって言ってもらえた
  60. 黒江: 生まれて初めて、人に本を勧めた
  61. キュゥべえ: 願い事のこと 考えてくれたかい?
  62. キュゥべえ: この周辺地域には今 魔法少女がいないから
  63. キュゥべえ: 僕としては 早い方が助かるんだけど
  64. キュゥべえ: この間も説明した通り 君には願いと引き換えに
  65. キュゥべえ: 魔法少女として魔女と戦う運命を
  66. キュゥべえ: 受け入れてもらうことに なるからね
  67. キュゥべえ: ちゃんと考えた上で
  68. キュゥべえ: 決めてもらうべきだとは 思っているよ
  69. 黒江: 神様 私は自分で物事を 選ばなくちゃいけなくなったとき とても不安な気持ちになります
  70. 黒江: どうやって、どういう気持ちで選んだらいいのか 私には分からないんです
  71. 黒江: 神様には悪いけど お祈りは何も決めなくていいから好きです
  72.  
  73. FILENAME: text_310431-2.txt
  74. 堅雪かんこ、凍み雪しんこ 狐こんこん狐の子、狐の団子は兎のくそ
  75. なんで狐は、四郎とかん子が キビダンゴを食べただけで
  76. こんなに喜んだんだろう?
  77. 狐のキビダンゴを 兎のくそだって言ったの
  78. かん子なんだしさ
  79. 狐からしたら、ほらみろ くそじゃなかっただろ!って
  80. 怒るんじゃないかな?
  81. 黒江: 狐は自分たちが 嘘をついてないことを
  82. 黒江: 信じて欲しかったって 書いた人が思ってるから?
  83. へえ!
  84. キビダンゴ食べさせた だけなのに?
  85. どうして?
  86. 黒江: 書いてあるから?
  87. そうなの? 書いてた?
  88. じゃあこれ書いた人が おんなじ状況になったら
  89. キビダンゴ食べて 躍りあがるってこと?
  90. 黒江: 分からない
  91. 黒江: そうできたら良いとは 思ってるんじゃないかな
  92. 黒江さんはちゃんと考えてて すごいなあ
  93. 俺なんかいっつも適当に 生きてるからさあ
  94. 黒江: そんなことないよ
  95. 黒江: 私の話、家族からも ずれてるって言われるし…
  96. ずれてるかどうかは よく分かんないけど
  97. 黒江さんが考えて話してるのは いいことだと思うけどな
  98. そういえば、黒江さんはもう 志望校が決まってるのね?
  99. 黒江: はい
  100. 黒江: まだ決めないほうが よかったでしょうか?
  101. いろいろ対策だって立てられるし 後で変えてもいいんだから
  102. とりあえず選んでおくのも いいと思うわよ?
  103. 推薦希望だったわよね?
  104. 黒江: 私は、次の春には 中学3年生になって その次の年には受験があって、高校生になる
  105. 黒江: 同じクラスの人たちは受験する高校なんて まだ分からないと言っていたけど
  106. 黒江: 私は両親に勧められた高校の 推薦入試を受けたいと書いた
  107. 黒江: 私はとくに行きたい高校なんてなかったし この中学校にだって、両親の勧めで入ったから…
  108. 志望理由なんだけど…
  109. ご両親に勧められたことは 良いことね
  110. でも、それだけだと ちょっと消極的に見えてしまうわ
  111. 黒江さん自身が選んだ理由も 合わせて書いてみたら?
  112. 黒江: ない場合は、 どうしたらいいでしょうか?
  113. そうね、実際に願書を書くのは まだまだ先なんだし
  114. いろいろ調べて じっくり考えてみましょうか
  115. 黒江: 行きたくなる理由って、 例えばどんなことでしょう?
  116. まあ…そうね
  117. 相手から選ばれやすい理由を 書くことだって
  118. 悪いことじゃないわ
  119. 黒江: 私以外の人が喜ぶ 私の理由…
  120. 黒江: (難しいな……)
  121. キュゥべえ: 願い事のこと 考えてくれたかい?
  122. キュゥべえ: 急かしているわけじゃないけど こちらにも少し事情があってね
  123. キュゥべえ: なるだけ早いうちに 回答をもらえると助かるよ
  124. 黒江: 神様 なんでもひとつだけ願いが叶うのだとしたら
  125. 黒江: 何を叶えたらよいでしょうか? そんなこと考えたこともありませんでした
  126. 黒江: 私が本当に望んでいることを 叶えてもらうべきでしょうか?
  127. 黒江: でも本当に望んでいることって なんだろう?
  128. 黒江: それとも 誰かから見た私が望んでいそうなことを 叶えてもらった方が
  129. 黒江: 私以外の人たちも喜んでくれるのでしょうか?
  130.  
  131. FILENAME: text_310431-3.txt
  132. 黒江: あのね、もし
  133. 黒江: なんでもひとつだけ 願い事が叶うなら
  134. 黒江: 何をお願いしたいとか、 あったりする?
  135. え? 願い事か~~
  136. 推しと結婚!
  137. 私は5億円欲しいとか
  138. とびきり美人に なりたいとかの方が
  139. いいと思うけどな~~
  140. いんや! お金より何より、推しとの生活!
  141. 彼がいない人生なんか 人生じゃない!
  142. 黒江: そうなんだ
  143. 黒江さんは誰の話も 最後まで聞くから
  144. ほんと偉いよね~
  145. でもこんな話、 真に受けちゃ駄目だよ~?
  146. 黒江: そうなの?
  147. なんッでよ!?
  148. だって黒江さんは
  149. もっと高尚な願いとかが 聞きたかったんじゃないの~?
  150. 黒江: そんなこと…
  151. ほら! そんなことないって!
  152. まだ言ってないでしょ
  153. 黒江: でも、言うつもりだった
  154. そらな!? 黒江さん!
  155. 願いも、目標も、最後は 好きなもんにつながるんよ!
  156. 黒江: そうなの?
  157. 結論が極端だな
  158. 好きなもんのために決めて 好きなもんのために行動する
  159. 人生の基準がそうなんだから 結婚しちゃえば、最!強!
  160. 黒江: そうなんだ
  161. 結婚はまたちょっと違うでしょ
  162. 結婚、それは、新しい世界! 新しい暮らし!
  163. それがどんなだって、 新しいものに出会うことが
  164. 人生ってもんでしょうが!
  165. 黒江: 私は彼女がうらやましいと思った 夢中になれるものがあったら
  166. 黒江: 行きたい学校とか 欲しいものとか  やりたいことも
  167. 黒江: すぐに思いつくようになれるのかな?
  168. 黒江: たこ焼きが焼かれているところを 見てるのが好き
  169. 黒江: なんでもなかったクリーム色の液体が くるくる回転しているうちに たこ焼きになっていく
  170. 黒江: わたしもくるくると考えているうちに いつかたこ焼きみたいに
  171. 黒江: はっきりとした個人になれるのかな?
  172. 黒江: くるくる くるくる
  173. 黒江: 新しい場所へ行くのが苦手でも、 いつか自分の中身を決められる日が来るのかな?
  174. 黒江: 私も誰かと付き合ったりしたら 何か変わるのかな?
  175. キュゥべえ: やあ、願い事は決まったかい?
  176. 黒江: 私は、生まれて初めて 大切なことを 誰かに反対されるかもしれないことを 自分自身で決めた
  177. 黒江: 自分で選んだその運命を手にした瞬間は すべてが輝いて見えて
  178. 黒江: これから戦う恐ろしい魔女のことも 恐ろしくなんてなかった
  179. 黒江: こんなことも叶っちゃうんだ… 魔法少女ってすごい…!
  180.  
  181. FILENAME: text_310432-1.txt
  182. 黒江: キュゥべえと契約をして願い事を叶えてもらった私は 魔法少女となり、魔女と戦うことになった
  183. キュゥべえ: お手柄だよ
  184. キュゥべえ: 少し危なっかしくはあったけれど 無事に魔女を倒せた
  185. 黒江: ねえキュゥべえ 魔女ってあんな怪物ばかりなの?
  186. 黒江: 私、もう魔法少女なんだから 死んじゃったりしないよね?
  187. キュゥべえ: さっきの戦闘で 君が命を落とすことは
  188. キュゥべえ: 十分考えられたよ
  189. キュゥべえ: あの魔女は数週間前から 確認されてはいたんだけれど
  190. キュゥべえ: この周辺には 魔法少女がいなかったから
  191. キュゥべえ: 対処できずに困っていたんだ
  192. キュゥべえ: その間に犠牲者から エネルギーを奪い
  193. キュゥべえ: 力を蓄えていたみたいだけど
  194. キュゥべえ: 君がなんとか倒してくれて 本当によかった
  195. キュゥべえ: 今日倒せなければ 数日のうちにまた
  196. キュゥべえ: 犠牲者は増えただろうしね
  197. 黒江: …あの魔女に襲われた人、 どうなったの?
  198. キュゥべえ: 大半は命を失っているだろうね
  199. 黒江: !?
  200. 黒江: なんでもっと早く 言ってくれなかったの…?
  201. キュゥべえ: 願い事のことだってあるし
  202. キュゥべえ: 君には時間をかけて選ぶ 権利がある
  203. キュゥべえ: 魔法少女の契約は 強制されるものではないからね
  204. 黒江: でも、私がすぐに 契約しなかったから
  205. 黒江: その間に死んじゃった人も いるんじゃないの?
  206. キュゥべえ: いるかもしれないね
  207. 黒江: 私がもし、 契約するのを断っていたら…?
  208. キュゥべえ: その時は、 被害状況を説明した上で
  209. キュゥべえ: あらためてお願いしていた かもしれないね
  210. 黒江: 私は取り返しのつかないことを してしまったのかもしれないと思った
  211. 黒江: けれどそれは 自分の命が危険にさらされることに対してなのか 迷っている間に殺された人がいるかもしれない ことについてなのか
  212. 黒江: 分からなかった
  213. 黒江: 私が魔法少女になる時の願い事は 彼を恋人にすること
  214. おはよう 黒江
  215. 黒江: 恋人同士がどういったものかは よく分からないけど
  216. 黒江: 彼が毎日話しかけてきてくれるだけで 私は嬉しかったし
  217. 黒江: 何かになれたような気がした
  218. どうしたの? 寝不足?
  219. うちの部活も大会前だから やたら気合入っちゃっててさ
  220. 新体操部はどうなの?
  221. でも、黒江が運動してるのって ちょっと意外…
  222. あ、もちろん、いい意味で…
  223. 今度応援しに… あ、黒江は出ないの?
  224. そっかー 去年は出たんだ
  225. もっと早く、 黒江と話せてればよかった
  226. 黒江: 彼の声を通して私のことを聞くたびに ぼやけていた私の輪郭に すこしずつピントが合うようで
  227. 黒江: 恐ろしい魔女のことも 魔女に襲われる人たちすらも その瞬間だけは忘れられるような気がした
  228. 明日、部活休みに なったんだけど…
  229. 黒江が教えてくれた本が 映画になったやつ
  230. 明日から始まるみたいだからさ、 一緒に観に行かない?
  231. 黒江: !
  232. 黒江: うん
  233. 黒江: その日私は彼と二人で電車に乗って 少し離れた映画館へ行った
  234. 黒江: 正直、映画の内容は期待していなかったけれど 思ったよりはずっと面白かった
  235. 黒江: でもそれも、彼と二人だったからかもしれない
  236. 映画、来てよかったね
  237. 黒江: 映画の中では主人公が多くの人たちを救っていた
  238. 黒江: あれはお話の中の出来事だけど 私だって今は魔法が使える
  239. 黒江: 魔女に襲われる人たちだって 私の魔法で、助ければいいんだ
  240. 黒江: !!
  241. どうかした?
  242. 黒江: 私、ちょっと 帰らなきゃ…
  243. 黒江: 今日、映画 すごく楽しかった
  244. 黒江: ご、ごめんキュゥべえ 遅くなっちゃった
  245. 黒江: 魔女は?
  246. キュゥべえ: あの結界の中にいるよ
  247. キュゥべえ: さっき子どもが一人 引き込まれてしまったみたいだね
  248. 黒江: い、急いで助けなきゃ!
  249. 黒江: 子ども…どこ?
  250. 黒江: 誰かいますか!?
  251. 黒江: いるなら返事を…
  252. 黒江: う…
  253. キュゥべえ: 手遅れだったようだね
  254.  
  255. FILENAME: text_310432-2.txt
  256. キュゥべえ: 犠牲者が出てしまったのは 残念だけど
  257. キュゥべえ: 君のおかげで 魔女は無事退治された
  258. 黒江: …………
  259. 黒江: 神様 私はひと時でも 今ある問題から目を背けたかったんです
  260. 黒江: そのせいで 誰かが死んでしまいました
  261. 黒江: 私が彼と映画になんて行かなければ あの子どもは死なずに済んだかもしれない
  262. 黒江: 許して欲しいわけじゃないんです そんな都合が良いことは考えていません
  263. 黒江: ただ私は 祈ることくらいしか思いつきません…
  264. 黒江: 心が沈むとソウルジェムも くすんで見える
  265. 黒江: 魔法を使うために必要なこの宝石は まるで私の心を映しているようだった
  266.  
  267. FILENAME: text_310432-3.txt
  268. 黒江: 倒しても倒しても 魔女は現れる
  269. 黒江: 私はそのたびに 死にかけて
  270. 黒江: 私が殺されかけているうちに
  271. 黒江: 他の誰かが死んでいる
  272. キュゥべえ: 「またその質問かい?」
  273. キュゥべえ: 「この地区に魔法少女の素質がある人間は まだ現れていないよ」
  274. キュゥべえ: 「それに前にも話したけど 新しい魔法少女の数が増えても」
  275. キュゥべえ: 「魔女から得られるグリーフシードの数は 今まで通りひとつきり」
  276. キュゥべえ: 「つまり奪い合いが 起こってしまうということさ」
  277. キュゥべえ: 「なぜかって?」
  278. キュゥべえ: 「グリーフシードが得られないということは ソウルジェムの浄化がままならなくなり 魔力を正常にコントロールすることが 難しくなる」
  279. キュゥべえ: 「そんな状態で魔女と戦っても勝ち目はない」
  280. キュゥべえ: 「つまり、ひとつでも多くの グリーフシードを得られる魔法少女が より長く生き残るんだ」
  281. キュゥべえ: 「それは無理な相談だよ」
  282. キュゥべえ: 「君は願いと引き換えに 魔女と戦う運命を受け入れたんだんだからね」
  283. キュゥべえ: 「それに、君は君自身を 卑下する必要なんてない」
  284. キュゥべえ: 「たとえ強力な魔力をもっていないとはいえ 君が魔女を倒したことで救われた人間は 確実に存在するじゃないか」
  285. キュゥべえ: 「君が戦うことを放棄してしまったら いったい誰が あの人間たちを救うと言うんだい?」
  286. 黒江: 気がつけば、私はもう3年生になっていた
  287. あれ? 黒江も部活だったの?
  288. 黒江: …うん
  289. ここんとこ ずっと元気ないけど
  290. 何かあった?
  291. 部活にも ほとんど行ってないって
  292. 聞いたし…
  293. 黒江: みんな部活好きなのかな
  294. 好きだからやってる人が 多いと思うけど
  295. そうじゃない人だって いるんじゃない?
  296. 黒江: 好きでもないのに
  297. 黒江: 一生懸命やらなきゃ いけないことって
  298. 黒江: どうすればいいんだろう…
  299. 部活とか、勉強の話?
  300. あ、黒江さん まだ残ってたのね
  301. ちょうどよかったわ
  302. 3年生になったし 推薦に備えて
  303. 小論文の課題とかも はじめてみる?
  304. 黒江: (そうだった…推薦入試)
  305. 黒江: あ…………はい
  306. それじゃ、まずはこれね
  307. 小論文: 全ての生徒が平等に学校を楽しむためには 何が出来るか
  308. 黒江: はい…
  309. 提出はそんなに 急がなくて大丈夫だけど
  310. 質問したいことがあったら 遠慮なく聞いてね?
  311. 黒江は真面目過ぎるんだよ
  312. 死ぬわけじゃないんだから
  313. もっと適当にやって 大丈夫じゃない?
  314. 少しくらいやらなくなったって、 誰も怒ったりしないって
  315. 黒江: …そうだね
  316. 黒江: 次の日、私は新体操部をやめた
  317. 黒江: 私は大会に出るような選手じゃなかったし みんなは私が受験勉強でやめたんだと思ってる でも、本当は違う
  318. 黒江: 私が魔法少女だから
  319.  
  320. FILENAME: text_310432-4.txt
  321. 黒江: 神様 魔女と戦わなくてもいい生活 私のせいで誰かが死なない生活
  322. 黒江: あんなに悩んでいた願い事が いまはこんなにすぐ いくつも出てくるなんて とても皮肉なことだと思います
  323. どうしたの? 考えごと?
  324. 黒江: …他の誰かのために、 命ってかけられる?
  325. 黒江: ●●●●が噛み砕かれるときの音は?
  326. 黒江のためなら? みたいなこと?
  327. 黒江: そうじゃないの 知らない誰か
  328. 黒江: 皮膚の下の●●●●の色は?
  329. 難しいなあ…
  330. 相手が美人か子どもとかなら 命かけられるかも?
  331. 黒江: どうして?
  332. 例えば、黒江を助けるためなら 命はかけられるけどさ
  333. 知らない人のために そうする理由って
  334. なんか適当な感情とかじゃ ないのかなあ
  335. 黒江: もし、命懸けなら 助けられたかもしれない人を
  336. 黒江: 足がすくんで助けられなかったら
  337. 黒江: どれくらいの罰を 受けなきゃいけないと思う?
  338. 黒江: 潰されて飛び散った●●●●の匂いは?
  339. それで罰なんて受けてたら
  340. 誰も人助けなんてしようと 思わなくなるんじゃない?
  341. 自分に出来ることをやるだけでも 十分じゃない?
  342. 黒江: 出来るはずのことを やらなかったら?
  343. 黒江: もう助からない●●●●の温もりは?
  344. なんか悩んでたりするの?
  345. 黒江: …………
  346. 話してみてよ
  347. 黒江: わたし、すぐ死んじゃうかもしれないの
  348. え? なんで!?
  349. 黒江: 生きてる自信がない
  350. 黒江は大丈夫だよ
  351. 黒江: ●●●●●
  352. え?  魔法?
  353. 黒江が?
  354. 黒江: ●●●●●
  355. ふふ、ごめんごめん 真面目に聞いてるって
  356. 俺にはよくわからないけど
  357. 黒江がやりたいことなら なんだって応援するよ?
  358. 黒江: ●●●●●
  359. 黒江はなんだって出来るさ
  360. 黒江: ●●●●●
  361. 黒江の好きなところ?
  362. 黒江: ●●●●●
  363. 黒江が黒江らしいところかな?
  364. 黒江: ●●●●●
  365. え?
  366. 俺が黒江の魔法で、 そう思い込まされてる?
  367. ははは
  368. だとしても、今のままでいいよ
  369. それに、魔法が解けたって
  370. 黒江が変わっちゃうわけじゃ ないだろ?
  371. それなら何度でも 黒江を好きになれるよ
  372.  
  373. FILENAME: text_310432-5.txt
  374. 黒江: その日、彼と別れることにした
  375. 黒江: 理由は
  376. 黒江: 私が魔法少女だから
  377. 黒江: 違うな
  378. 黒江: 私が彼を騙してしまったから
  379. 黒江: 魔法少女になる前の自分がどんな人間だったのか すこしも思い出せない
  380. 黒江: 私はもう魔法少女になってしまって 普通の人たちがいる場所には 戻れなくなってしまった
  381. 黒江: あの場所の全部を裏切ってしまった
  382. 黒江: …魔女
  383. 黒江: !?
  384. わーーっ!
  385. 黒江: 大丈夫!?
  386. あわわわわわ
  387. 黒江: 私が出会った魔法少女は 私よりもずっと弱かった
  388.  
  389. FILENAME: text_310432-6.txt
  390. ――っ!
  391. はあああっ… …死ぬかと思いました!
  392. ありがとうございます
  393. 黒江: …うん
  394. ニャー
  395. 行っちゃった…
  396. 黒江: 見ない顔だけど…新人?
  397. あ、はい この近所じゃないんですけど…
  398. 黒江: そう…
  399. 黒江: ここら辺、一応、 私が担当してる地域で…
  400. 黒江: 他の魔法少女が担当してる場所で 勝手に魔女と戦うの
  401. 黒江: あんまり良くないらしいし…
  402. うわぁああ! ごごごごごめんなさい!
  403. 猫ちゃんが魔女の結界に 入っちゃったのが見えて!
  404. 許してください! もうしません!
  405. 黒江: いいよ 別に
  406. 黒江: しょうがないし そういうの
  407. ほほほ、本当ですか?
  408. 黒江: うん それじゃ…
  409. あ、あのぉ…
  410. 黒江: 何…?
  411. その…グリーフシード、とか… 余ってたりしませんか…?
  412. 黒江: え…?
  413. 「い、今ので、ソウルジェム だいぶ濁っちゃって…」
  414. 「もし、あったら、なんて… え、えへへ」
  415. 黒江: …………ごめん
  416. そ、そうですよね!
  417. グリーフシード余ってるとか ないですよね!
  418. なんでもないです!
  419. 変なこと聞いちゃって ごめんなさい!
  420. 黒江: 私も…手持ちがないの…
  421. 黒江: さっきの魔女にも 逃げられちゃったし
  422. 黒江: 私、そんなに強い訳じゃないし…
  423. あ…
  424. 黒江: ごめん…
  425. あああ、あやまらないで下さい!
  426. 私が無理言っただけですから! ごめんなさい!
  427. 黒江: でも…ごめん…
  428. 「とんでもないです!」
  429. 「私の方こそ、たくさん 持ってたらよかったのに…」
  430. 「今日は、ありがとうございました 助けてくれて!」
  431. 「あのままだと、私も猫ちゃんも どうなってたか…」
  432. 黒江: うん…
  433. 私、まだまだですけど
  434. 早く一人前の魔法少女に なれるように、頑張ります!
  435. みなさんの分のグリーフシードも 取れるように頑張ります!
  436. 黒江: うん…、お互い、頑張ろう
  437. はい! お互い、頑張りましょう!
  438. 黒江: 私達は、名前も聞かず 連絡先も交換しないまま、別れた
  439. 黒江: あの子とは、あれきり一度も会っていない
  440. 黒江: なにかに本気で殺されかけたことはある?
  441. 黒江: 自分のせいで誰かが死んでしまったことはある?
  442. 黒江: それが毎日続くとしたら、どう思う?
  443. 黒江: 私、そんなこと考えたこともなかったから おどろいてしまって もうこの世界には 私ひとりきりなんだって思ってしまって
  444. 黒江: 怖かったんだ
  445. 黒江: ずっと怖かった
  446. 黒江: だから あの子の声に 耳を傾けることができなかった
  447. 黒江: 魔法少女なら、自分でなんとかしてよって 思ってしまった
  448. 黒江: 私だって 魔法少女なのに
  449. 黒江: 私だって ひとりぼっちなのに
  450. 黒江: 別れるとき、あの子はずっと手を振っていた
  451. 黒江: あの子は 不安だったんだ
  452. 黒江: 私も それを 知っていた きっと 誰よりも 分かっていた
  453. 黒江: 逃げるように別れた私は ひとりきりのホームで
  454. 黒江: 私は自分のソウルジェムに
  455. 黒江: 隠し持っていたグリーフシードを使った
  456. 黒江: 好きだった小説が映画になったけど 観ている間に また誰かが魔女に殺されるかもしれない
  457. 黒江: 好きだった作家の新刊が出たけど 自分勝手な理由で彼を傷つけた私は もう楽しめない
  458. 黒江: コンビニに新しいサンドイッチが並んでも 美味し過ぎるものなんて、私には相応しくない
  459. 黒江: 何も出来ない私は、誰かと会話する資格もない
  460. 黒江: 私には 本当に何もなくなった
  461. 黒江: …………
  462. 黒江: 彼から教えてもらった動画配信 知らない町を 電車に乗って紹介してる
  463. 黒江: 見たいものもない私は ただずっと それを繰り返し聞いている
  464. 黒江: 私はいつの間にか夢の中…
  465. うい: 「神浜市へ来て そうすれば 魔法少女は救われる」
  466. 黒江: 私…これから どうなっちゃうのかな…
  467.  
  468. FILENAME: text_310433-1.txt
  469. 小論文: 全ての生徒が平等に学校を楽しむためには 何が出来るか
  470. 黒江: そういえば、小論文書いて 先生に提出しなきゃいけないんだった
  471. 黒江: でも 何のために提出するんだっけ?
  472. 黒江: あ、そうか 推薦入試の準備だ
  473. 黒江: 明日生きているかも分からないのに?
  474. 黒江: 変なの
  475. …借りてた本、返すよ
  476. 黒江: …うん
  477. 黒江: その日の魔女は いつもよりほんの少しだけ強くて
  478. 黒江: 私は、ほんの少しだけ気落ちしていたから
  479. 黒江: なにもかもがうまくいかなくて
  480. 黒江: 魔法少女が死ぬ日は こんな日なのかもしれないと思った
  481. 黒江: あっ!!
  482. 黒江: …!
  483. 黒江: 私、なんでこんなに頑張ってたんだっけ? なんでこんなことになってたんだっけ?
  484. 黒江: もう、べつにどうでもいっか…
  485. いろはの声: えーーーいっ!
  486.  
  487. FILENAME: text_310433-2.txt
  488. いろは: 怪我とかありませんか!?
  489. 黒江: う、うん
  490. いろは: あ、さっきの魔女が グリーフシード落としたんで
  491. いろは: ちょうどよかったです!
  492. 黒江: え?
  493. 黒江: 私、あんまり何もできなかったし
  494. 黒江: そのグリーフシードは あなたが使って
  495. いろは: そんなのいいです! 困ったときはお互い様ですよ!
  496. 黒江: でも…他にグリーフシード 持ってるの?
  497. いろは: 持ってはないですけど
  498. いろは: 私のソウルジェム、まだそんなに 濁ってるふうでもないし…
  499. いろは: いつかおすそ分けして もらえたら、それで大丈夫です
  500. いろは: これ、私の連絡先です
  501. 黒江: 必ず返しに行くね…
  502. いろは: いえ、グリーフシードは いつでも大丈夫です
  503. いろは: それもあるけど 魔法少女のことなんて
  504. いろは: 誰かに相談しても信じて もらえないじゃないですか?
  505. いろは: だから、お互い何かあったら 連絡し合いませんか?
  506. 黒江: 連絡?
  507. いろは: 魔女のこととかグリーフシードの ことじゃなくても
  508. いろは: 不安ってたくさんあるから…
  509. いろは: 私、本当に ひとりぼっちになっちゃう
  510. 黒江: 同じ魔法少女なのに、彼女はそう言って笑った
  511. 黒江: …うん
  512. 黒江: …………
  513. 黒江: あの魔法少女にも、今なら…
  514. 黒江: なにか分けてあげられるかもしれない
  515. 黒江: 今更そんなことを、わずかに思ったけれど
  516. 黒江: 私は彼女の連絡先はおろか 名前すら知らなかった
  517. 黒江: …………
  518. 黒江: 彼から教えてもらった動画配信 知らない町を紹介してる
  519. 黒江: 電車に乗って 私はいつの間にか夢の中…
  520. うい: 「神浜市へ来て そうすれば 魔法少女は救われる」
  521.  
  522. FILENAME: text_310433-3.txt
  523. 黒江: あれから、環さんには数回会いに行った
  524. 黒江: もちろんグリーフシードは返したけど 何度か一緒に魔女退治をした
  525. いろは: 手伝ってもらって助かりました!
  526. いろは: 今度、黒江さんの方へも お手伝いに行きますね!
  527. 黒江: 私のとこは大丈夫
  528. 黒江: 先週から魔女も 見かけなくなったし…
  529. 黒江: その頃から、魔女の数が減り始めた
  530. 黒江: グリーフシードの不安はあったけど 魔女が増えるよりはずっとよかった
  531. 黒江: 魔女さえいなければ 魔力の消費だって微々たるものだ
  532. うい: 「神浜市へ来て そうすれば 魔法少女は救われる」
  533. うい: 「神浜市に来て」
  534. うい: 「魔法少女は救われる」
  535. 黒江: 魔法少女になってから、頻繁に同じ夢を見る
  536. 黒江: 夢の中で、知らない女の子が喋りかけてくる 「神浜市に来て そうすれば 魔法少女は救われる」って
  537. 黒江: 壊れた動画みたいに 何度も 何度も
  538. 黒江: そういえば、魔女が減り始めたのは あの夢を見始めたあたりからかもしれない
  539. 黒江: そのことを検索しようと思ったのも なんとなくだった
  540. 検索[ 神浜市 夢 救われる ]
  541. [魔法を持つ人達への伝言。 あの夢の噂は本当みたい。 あちこちで魔女が減ってきてるでしょ? あれは良くない兆候だって噂になってる。 救われるためには、神浜に行くしかないの]
  542. [私も夢で見た。 私は神浜市へ行ってみるつもり。 救われるなら、なんだってかまわない]
  543. [私たちはまだ声を上げられないけれど、 神浜市で会いましょう。 あの夢を信じて、みんな一緒に救われよう。]
  544. [願いと引き換えに 魔法を押しつけられた人たちへ。 みんな夢でお告げを聞いてる。噂は本当。 神浜市にはきっと、 私たちが救われるための何かがある]
  545. 黒江: 一見すると要領を得ず 取り留めのないメッセージたち
  546. 黒江: でも、今の私には分かる これは魔法少女たちの声 そして彼女たちもみんな、あの夢を見ている
  547. 黒江: 来てくれてありがとう
  548. 黒江: 昨日も会ったばっかりなのに、 迷惑だったかな?
  549. いろは: いえ、情報交換は大切ですから 何かあったんですか?
  550. 黒江: …………
  551. いろは: 昨日は魔女に会えましたけど
  552. いろは: 最近は本当に 魔女も減ってきましたよね
  553. いろは: 私たちの活躍のおかげかな? なんて
  554. いろは: グリーフシードが手に 入らなくなるのは困りますけど
  555. いろは: 魔女の被害が出るより ずっといいですし
  556. いろは: 私なんかでも 人の役に立ててるのかなって
  557. 黒江: …環さんはこんな話、 聞いたことある?
  558. 黒江: 神浜市に行けば、 魔法少女は救われる…って
  559. 黒江: そこから私と環さんは図らずも 神浜市に入り、現地の魔女と戦うことになる
  560.  
  561. FILENAME: text_310433-4.txt
  562. 黒江: 結果は散々だった
  563. 黒江: 神浜市の魔女は宝崎市よりもずっと強くて
  564. 黒江: 私たちは殺されそうになったところを 神浜の魔法少女に助けてもらった
  565. 黒江: あのとき助けてもらえなかったら 間違いなく二人とも死んでいたと思う
  566. 黒江: もし、あの噂が本当だったとしても
  567. 黒江: 私なんかより、もっと強い魔法少女達のための話 なのかもしれない…
  568. いろは: あ、あの…
  569. いろは: さっきの魔法少女さん、 すごく強かったですね
  570. いろは: 神浜って、魔法少女も強くないと やっていけないんだなぁ
  571. いろは: もう来るなって 言われちゃいましたね
  572. いろは: 確かに私たちには 危険かもですけど…
  573. いろは: 『神浜へ来れば 魔法少女は救われる』って
  574. いろは: なんだったんでしょう
  575. いろは: 変な噂でしたね
  576. 黒江: ●●●●●
  577. いろは: そ、そんなことないですよ…
  578. 黒江: ●●●●●
  579. いろは: たしかに魔法少女を続けるのって 大変だけど
  580. いろは: 今日だって電車の中で
  581. いろは: 魔女に連れ去られている 人たちを!
  582. いろは: 神浜市の魔法少女さんに 助けてもらわなかったら
  583. いろは: 危ないところだったのは 事実ですが
  584. いろは: 結局、みんな助けることは 出来た訳ですし…
  585. 黒江: ●●●●●
  586. いろは: 私も、今まで 自分から決められたことって
  587. いろは: あんまりなくて…
  588. いろは: でも、魔法少女になれたから
  589. いろは: こうして黒江さんとも お話しできてるじゃないですか?
  590. いろは: 魔法少女だったからってことも やっぱりあると思いますし…
  591. 黒江: ●●●●●
  592. いろは: 黒江さん
  593. いろは: 神浜市のうわさのことは 残念でしたけど
  594. いろは: また何かあったら 連絡くださいね?
  595. 黒江: ●●●●●
  596. 黒江の母: おかえり
  597. 黒江の母: 遅いから先に 夕飯食べちゃったよ?
  598. 黒江の母: あなたも早く…
  599. 黒江: ●●●●●
  600. 黒江の兄: 最近、帰ってきたら すぐ引きこもるよな
  601. 黒江の姉: あんたと違って、 勉強してんじゃない?
  602. 黒江の弟: 最近ぜーんぜん話してない
  603. 黒江の姉: 思春期だからじゃない?
  604. 黒江の父: 前に魔法がどうとか 言ってなかったか?
  605. 黒江の兄: ああ、魔法
  606. 黒江の姉: どうせ本の話でしょ?
  607. 黒江の母: 今までも一人が好きな子 だったけど
  608. 黒江の母: 最近とくに酷くなったみたい
  609. 黒江の父: 反抗期かな?
  610. 黒江の兄: 学校でなんかあったとか?
  611. 黒江の母: 今日も帰りが遅かったし、 まさか悪い友達が?
  612. 黒江の弟: 姉ちゃん、不良になるの?
  613. 黒江の父: でも、あいつは しっかりしてるから
  614. 黒江の姉: 大丈夫だって
  615. 黒江の父: そうだな 見守ることにしよう
  616. 黒江の兄: あいつなら自分で 決められるだろうし
  617. 黒江の姉: 今はそっとしとこう
  618. 黒江の母: あの子はきっと大丈夫
  619. 黒江: …………
  620. 黒江: 教えてもらった動画配信 知らない町を紹介してる
  621. 黒江: 電車に乗って…………
  622. 黒江: 電車に…………
  623. 黒江: 私は…………
  624. 黒江: いつのまにか 知らない動画が 再生されている 知らない動画では 知らない少女が喋っている 魔法少女のことを…?
  625. 灯花: 魔法少女のみんな
  626. 灯花: 魔法少女だけど、 人一倍頑張って
  627. 灯花: 魔法少女なのに、 誰よりも優しく
  628. 灯花: 魔女と戦い、 名前も知らない人たちを救う 
  629. 灯花: 魔法少女のみんな!
  630. 灯花: もう嫌だって、 逃げ出したいって怯えながら
  631. 灯花: どうしてこんなことにって 歯を食いしばって
  632. 灯花: ひとりぼっちで泣きながら 魔女と戦い
  633. 灯花: その運命を誰にも知られず 理解もされないまま
  634. 灯花: 魂を濁らせ 消えてしまいそうな
  635. 灯花: 魔法少女たちよ!
  636. 灯花: 逃げ出したい、 救われたいと渇望するその心は
  637. 灯花: 間違ったものだと思う?
  638. 灯花: その感情に目を背け我慢すれば あなたの日常は戻ってくる?
  639. 灯花: 今までの悲しみが なかったことになる?
  640. 灯花: そうじゃないよね?
  641. 灯花: わたくし達の胸に渦巻く このどす黒い感情の原因は
  642. 灯花: わたくし達を騙し 搾取している奴のせいだよね?
  643. 灯花: あいつらを許す理由なんてないし
  644. 灯花: わたくし達が受け入れる必要も ないんだよ!
  645. 灯花: わたくし達は騙され、 奪われ、隠され続けている!
  646. 灯花: わたし達は、 救われなくちゃいけない!
  647. 灯花: マギウスは ドッペルシステムによって
  648. 灯花: 運命を変え、 魔法少女を解放する!
  649. 灯花: そうなれば、 もう魔女に怯えることはない!
  650. 灯花: グリーフシードの奪い合いも しなくていい!
  651. 灯花: マギウスは誰も 孤独にしたりしない!
  652. 灯花: 神浜に来て マギウスの翼となれば
  653. 灯花: 魔法少女の真実と ドッペルシステムの意味を
  654. 灯花: 教えてあげる!
  655. 灯花: けれど、それでも
  656. 灯花: 心優しいあなたは こうも思うはず
  657. 灯花: 自分がいなくなったら、 誰がこの町の魔女を倒すの?
  658. 灯花: わたくし達が騙されたとき、 魔法少女じゃない誰かは
  659. 灯花: それを知らなかった
  660. 灯花: わたくし達が苦しいとき、 魔法少女じゃない誰かは
  661. 灯花: それを見なかった
  662. 灯花: 魔法少女じゃない誰かの中に、 わたくし達はいない!
  663. 灯花: 今はまず、 魔法少女であるあなたが
  664. 灯花: 救われることが大事なの
  665. 灯花: そのために 神浜市に来て!
  666. 灯花: 今、この動画で、 わたくしの姿を目にしているのは
  667. 灯花: 魔法少女だけ!
  668. 灯花: この声は、電波にはのらない! 呟かれもしない!
  669. 灯花: 偽善者どもの欺瞞に 隠されることだってない!
  670. 灯花: わたくしが伝えるメッセージが まぎれもない、魔法少女の声!
  671. 灯花: 耐え忍び、搾取される様を 美談にしてはいけない!
  672. 灯花: 言い訳と慰みのために 作られた美しさに騙されるな!
  673. 灯花: わたくし達の怒りは、孤独は すべて正しい! 
  674. 灯花: やがて消えゆく魔法少女たちよ
  675. 灯花: 砕け散った仲間の悔しさは 誰が憶えていてあげられる?
  676. 灯花: 騙され奪われ 残り僅かとなった時間のうちに
  677. 灯花: 何を叫ぶ?
  678. 灯花: まだ生きているなら 何をする?
  679. 灯花: わたくし達を救えるのは 私たちだけ!
  680. 灯花: 魔法少女よ! 神浜に集え!
  681. 灯花: この神浜で、 魔法少女は解放される!
  682. 黒江: その動画を見ながら 私は、 安心してしまった
  683. 黒江: 今までのことは 私だけの話じゃなかった
  684. 黒江: 今までのことは 私のせいじゃないのかもしれない
  685. 黒江: あれも、これも、 もしかしたら 私のせいじゃなくて いいのかもしれない
  686. 黒江: 私は 自分のためだけのことを考えたって よくない感情を抱いたって 仕方がないのかもしれない
  687. 十七夜: たいした子どもだな あの演説も君の指示か?
  688. ねむ: マギウスは 灯花と僕の作品だよ
  689. 十七夜: 君は、自分が 何をしようとしているか
  690. 十七夜: どこまで理解しているんだ?
  691. 十七夜: なぜ、キュゥべえだけに 怒りを集中させない?
  692. ねむ: …そんなつもりは ないんだけどね?
  693. 十七夜: それは、嘘だな?
  694. ねむ: …………
  695. ねむ: …ドッペルシステムの完成には
  696. ねむ: 一般人から生命エネルギーを 奪う必要があることがひとつ
  697. ねむ: そしてもうひとつ
  698. ねむ: 僕らは、すでにライ麦畑から 落ちてしまった子ども達を
  699. ねむ: 拾う係でもある
  700. 十七夜: …どういう意味だ?
  701. ねむ: 魔法少女が魔女化克服に 成功したら
  702. ねむ: 次はどうなると思う?
  703. 十七夜: 魔法少女が 消費されなくなることで
  704. 十七夜: 新たな問題が生まれると 言いたいのか?
  705. ねむ: 僕と灯花はドッペルシステムを 完成させるまでしか存在しない
  706. ねむ: だから今のうちから種を蒔き
  707. ねむ: この問題を理解できる 君にも協力してもらいたいんだ
  708. 十七夜: 賢き幼子よ、残念だが君たちに 力を貸すことはできないな
  709. 十七夜: この世界を 魔法少女側の理屈だけで
  710. 十七夜: 測れるものか
  711. ねむ: それでも僕らの物語は、 魔法少女の物語
  712. ねむ: そして物語には 表紙があった方がいい
  713. ねむ: マギウスなら それに成り得る
  714.  
  715. FILENAME: text_310433-5.txt
  716. 黒江さん、提出してもらった 小論文なんだけど…
  717. 小論文: 全ての生徒が平等に学校を楽しむためには 何が出来るか
  718. 内容のことなんだけどね…
  719. ちょっと極端というか、 黒江さんの主張もわかるんだけど
  720. 今の内容は、 最後の項目の問題提起として
  721. 書くくらいの方が いいんじゃないかしら?
  722. 黒江: どうしてですか?
  723. 学校を楽しめる私たちと、 学校を楽しめない私たちは
  724. お互いが抱えている前提条件が すでに不平等であり
  725. そこからくる 問題意識のギャップから
  726. 悪意の有無に関わらず
  727. 互いに傷つけ 通じ合えることはない
  728. そのため学校を楽しめない生徒の コミュニティを新たに作り
  729. 楽しめているコミュニティからは 分けるべき…………と
  730. 黒江: はい
  731. う~ん…でもこれだと
  732. お互いの間にある溝を 大きくするだけだし
  733. なにより、この小論文のテーマは
  734. 平等に楽しむためには どうするか、よ?
  735. 双方否定から入らず 共感できるポイントを探せば
  736. 今はお互いに 理解できないことだって
  737. 少しずつでも分かり合えたり するんじゃないかしら?
  738. 黒江: 私には…分からないんです
  739. 黒江: 様々な事情があって
  740. 黒江: 学校を楽しむことが 出来ない人たちは
  741. 黒江: どうすれば 今までとこれからのことを
  742. 黒江: 忘れられるんでしょうか?
  743. 黒江: どうすれば 楽しめている振りが
  744. 黒江: 出来るんでしょうか?
  745. …?
  746. …せ、先生はね、あなたの考えを 否定したいわけじゃないのよ?
  747. 小論文には目的があって
  748. まずはあなたが 推薦で合格すること
  749. それには、あなたの内面が 正しく評価してもらうこと
  750. あなたが誤解されてしまったり
  751. 合格出来ない小論文じゃ 意味なんかないでしょ?
  752. みんなに共感してもらえて
  753. 本当のあなたを 知ってもらえるような…
  754. 黒江: 平気なふりをして 生きていることでしか
  755. 黒江: 本当の私になれないのなら
  756. 黒江: この感情は、 どこへ捨てれば良いんですか?
  757. …ど、どうしちゃったの? 黒江さん?
  758. 最近様子がおかしいから 先生も心配して…
  759. 黒江: みんなから理解してもらわないと 私には価値がないんでしょうか?
  760. えっとね…黒江さん
  761. どんな、悩みだって、 自分以外の誰かと共有することで
  762. たとえ今はまだ解決出来なくても
  763. 自分が持てる程度の重さに なったりはするものなのよ?
  764. どうしても人に話したくない 悩みだって
  765. 神様になら話せるでしょう?
  766. なぜ お祈りが必要なのか分かる?
  767. 私たちが どうしようもなくなったとき
  768. 神様に見つけていただく ためなのよ
  769. 私は助けてもらいたいんだって 神様に知らせるの
  770. そんなことしたって
  771. なにも解決は しないかもしれないけれど
  772. 私はここにいるって、 神様に伝えるの
  773. 誰かに相談するには とりとめがなさ過ぎることだって
  774. 神様に 居場所を知らせるくらいなら
  775. 出来るかもしれないでしょ?
  776. あなたのなかにある 大きな不安も怒りも
  777. 先生でもいいし 神様でもいい…
  778. 黒江: 先生
  779. 黒江: 私、みんなと同じじゃ なくなってしまった途端
  780. 黒江: いろんなことに嘘をつかなきゃ いけなくなっちゃった…
  781. 黒江: なにも大丈夫じゃないのに
  782. 黒江: みんなと同じふりをしなくちゃ いけなくなっちゃった…
  783. みんな、本当は誰ひとり 同じなんかじゃないのよ
  784. それでも問題は分け合えば
  785. みんなで共有して 受け入れることだってできるわ
  786. 黒江: 私が明日死んでしまったり
  787. 黒江: 私のせいで 誰かが不幸になってしまうことも
  788. 黒江: 先生は受け入れてくれますか?
  789. そんなこと、放っておけないわ
  790. 黒江: 家族は血のつながった人たち
  791. 黒江: 学校は学生のもので 社会はそこに住む人たちのもの
  792. 黒江: その全部に 私は含まれているはずなのに
  793. 黒江: 私だけそこにいられなくなったら
  794. 黒江: どこへ行けばいいんですか?
  795. 先生には黒江さんの悩みは 分からないけど
  796. 学校は黒江さんの場所になれるわ
  797. 黒江: ●●●●●
  798. そんなことない
  799. 黒江: ●●●●●
  800. 本当よ?
  801. みんなだって、 きっと同じ気持ちのはず
  802. 黒江: ●●●●●
  803. …教師として 放っておけないわ
  804. !?
  805. く、黒江さん? どこなの?
  806. 黒江の声: ●●●●●
  807. ち、違うわ! 黒江さん!
  808. 黒江の声: ●●●●●
  809. 違うのよ 黒江さん!
  810. 黒江の声: ●●●●●
  811. わ、私が、私が心配なの!
  812. ここが学校だからとか、 私が教師だからじゃなくて
  813. 私があなたを心配してるのよ!?
  814. 間違えちゃったの…
  815. 嘘じゃないのよ…
  816. 黒江さん…
  817. あの日以来 黒江さんは学校に来なくなった
  818.  
  819. FILENAME: text_310433-6.txt
  820. 黒江: わたしは神様に祈ることはやめた
  821. 黒江: 祈ることをやめて、 神浜へ…
  822. 黒江: 運命を変えるために
  823. 黒江: さようなら 私の部屋にいた神様
  824. 黒江: さようなら 学校にいた神様
  825. 黒江: さようなら 魔法少女以外の人たちのための神様
  826. 黒江: 私はもう、祈ったりしません
  827. 黒江: さようなら 魔法少女以外の人たちのための神様
  828. 黒江: 私は、 私と同じ人たちのところへ行こう
  829. 黒江: 最後に神様 もし、あなたが少しでも奇跡が起こせるなら
  830. 黒江: 宝崎にまた魔女が増えたりしませんように…
  831. 黒江: 本当はどうするのが 正解だったのかな…
  832.  
  833. FILENAME: text_310434-1.txt
  834. Kuroe’s doppel story for application
  835. 黒江: 私は夢を見ていた
  836. 黒江: ここではない 私の夢
  837. 黒江: 私なんだけど 私じゃない
  838. 黒江: 不思議な夢
  839. いろは: 〇〇〇〇〇〇
  840. 黒江: 環さん?
  841. 黒江: 環さんとは、キャンプ場で…
  842. いろは: 〇〇〇〇〇〇
  843. 黒江: 不思議だな 環さんとは出会ったばかりなのに 夢の中でも会うなんて…
  844.  
  845. FILENAME: text_310434-2.txt
  846. いろは: 〇〇〇〇〇〇
  847. 黒江: ?
  848. いろは: 〇〇〇〇〇〇
  849. 黒江: 環さん?
  850. いろは: 〇〇〇〇〇〇
  851. 黒江: ごめんね 環さん 私もう、環さんがなんて言ってるのか よくわからなくなっちゃった
  852. 黒江: でも今、とても安心してるの
  853. 黒江: ここでならきっと
  854. 黒江: 私はもう、誰からも救われない…
  855. 黒江: 私はもう、誰の事も救わなくていい…
  856. 黒江: 私はもう……魔法少女をやめられる
  857.  
  858. FILENAME: text_310434-3.txt
  859. ???: 契約によって、 私が得た魔法は“存在肯定”
  860. ???: 私は、私が誰でもないことと 引き換えに
  861. ???: 私は存在を肯定される
  862. ???: 私の家族は、私がどこにいても
  863. ???: 私の彼は、 私との関係性が変わっても
  864. ???: 私の現状に順応する
  865. ???: 私は誰からも恨まれない 私は誰からも依存されない
  866. ???: 私は…誰なんだろう? 誰になれば、よかったのかな?
  867.  
  868. FILENAME: text_310434-4.txt
  869. いろは: 黒江さんが誰かになる必要なんて ない!
  870. いろは: だから、私に黒江さんのことを 教えて!
  871. いろは: 強くないあなたを
  872. いろは: マギウスの翼じゃないあなたを
  873. いろは: 魔法少女じゃない あなたのことを!
  874. 黒江: どうしよう環さん… どうすればいいの?
  875. いろは: 私に、あなたを分けてください!
  876. 黒江: 私にはそんなもの…
  877. いろは: 黒江さんは、何になりたくない? 何がこわい?
  878. 黒江: 私は…………
  879. 黒江: 魔法少女になんてなりたくなかった
  880. 黒江: 誰かを助けなきゃいけなくて 誰も助けられずに失敗することが怖い…
  881. 黒江: それでも、魔法少女は続けなくちゃいけなくて もし、魔法少女のまま 生きていくことが出来るなら
  882. 黒江: 私はどんな魔法少女になるんだろう
  883. 黒江: …………夢?
  884. 黒江: キャンプの時の夢?
  885. 黒江: なんでこんな夢を…
  886. 黒江: 環さん、今何してるのかな?
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