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Puella Historia: Rakshasi of Tibet JP Text

May 19th, 2023 (edited)
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  1. [From the opening sequence in 519110-0]
  2. たとえ私たちに意味がなくても、
  3. ここにいた価値なら
  4. きっとありますから
  5.  
  6. FILENAME: text_519110-1_JJ7AF.txt
  7. ヘルカ: 何をしているときが一番好きだったのかなって 考えてみたのですが、あんまり思いつきません
  8. ヘルカ: 私はよくヤクのお乳を搾って バターをつくっていましたが 別に好きだからやっていたわけではありません
  9. ヘルカ: 仕事だから、なんとなくやっていただけです 思い入れなんてありません 動物の世話だってそんなに好きではありません
  10. ヘルカ: でも…もうできないんだなって思うと なんだか、寂しいような気もします
  11. ヘルカ: 『…お待たせしました、もういいです 遺灰は全部集めましたから』
  12. ヘルカ: 焼け残った品の中で一番きれいだった陶器に みんなの灰を入れました…といっても 荼毘に付したわけではないので 黒ずんでいて、ちゃんと灰になっていません
  13. ヘルカ: 燃やしてきれいにしてあげたかったけど 風葬が慣習のこの集落に焼き場などなく 仕方なくそのまま集めたのでした
  14. ヘルカ: この陶器の中でみんなが混ざり合っています お父さんやお母さんも、たぶん…きっと
  15. ラマ: 「…モンゴル帝国が憎いですか? あなたの故郷をこんなふうにした彼らが」
  16. ヘルカ: 私たちを助けてくれた高僧の方… 尼僧院というところで多くの僧から 師と仰がれていたラマは そう悲しそうに聞いてきました
  17. ヘルカ: 『わかりません』と答えると よりラマは悲しそうにしました
  18. ドルマ: 「ヘルカちゃん…」
  19. ヘルカ: そう声をかけてきたのは 私と一緒に生き残ったドルマでした
  20. ヘルカ: 私の幼馴染みで、同じ日に生まれ ずっと一緒に暮らしてきて、そして…
  21. ヘルカ: 私が助けられた唯一の人
  22. ドルマ: 「あたし、モンゴルが憎い…!」
  23. ヘルカ: 憎い? それはどういう気持ちなのでしょうか
  24. ドルマ: 近いうちに モンゴルは攻めてくるわ
  25. ドルマ: 必ずあたしたちの手で モンゴルを打ち破るのよ!
  26. 少女僧たち: そうだ、 憎きモンゴルに復讐を!
  27. ヘルカ: …………
  28. ヘルカ: …あれから、随分とたちましたが いまだに私は相手を憎むという気持ちが よくわからないでいます
  29. ヘルカ: たとえそれが 私の家族や故郷を奪った相手だとしても そして…
  30. 少女僧: でもどうやれば モンゴルに勝てるのかな?
  31. 少女僧: 大丈夫よ、私たちには ヘルカさんがいるもの
  32. 少女僧: ラクシャーシーのヘルカさんが
  33. ヘルカ: そして私が モンゴルを倒し、このチベットの地に シャンバラをもたらす救世主…
  34. ヘルカ: ラクシャーシーなのだとしても
  35. 少女僧: 大変です、ドルマ院長!
  36. ドルマ: どうしたの?
  37. 少女僧: あやしいやつが… モンゴルの手先かも!
  38. ドルマ: ――っ!?
  39.  
  40. FILENAME: text_519110-2_JJ7AF.txt
  41. <Side:ラビ>
  42. ラビ: …ここが ラクシャーシーのいる尼僧院?
  43. ねむ: そうなんだけど… なんだか、取り囲まれたようだね
  44. ラビ: (…サーシャたちがいると 思ったけど一向に見つからない)
  45. ラビ: ここに環さんの概念の欠片が…?
  46. アレクサンドラ: のどかなところですね
  47. ねむ: 雰囲気はそうかもしれない
  48. ねむ: けれど… ここは13世紀のチベット
  49. ねむ: モンゴル帝国に侵略されている 最中なんだよ
  50. うらら: 侵略…
  51. アレクサンドラ: モンゴル帝国って、あの?
  52. ねむ: そう、全人類の半数以上を 支配するに至る世界帝国…
  53. ねむ: 歴史の上ではこのチベットも モンゴルに支配されることになる
  54. ねむ: そして、大勢の人が 亡くなることにも…
  55. アレクサンドラ: 大勢の人が…
  56. アレクサンドラ: あの…少しでも 助けてあげることは…
  57. ねむ: 気持ちはわかるけれど 過度な干渉は避けないと駄目だよ
  58. ねむ: 大きく歴史を変えることになれば 僕達の未来も変わるからね
  59. ラビ: それで、あなたの宿る本に従えば 私たちは何をするべき?
  60. ねむ: ラクシャーシーに会いに行く
  61. うらら: ラクシャーシー?
  62. ねむ: チベットとモンゴルの戦いを 終わらせた人物のことだよ
  63. ねむ: ラクシャーシーというのは 何かの称号みたいだね
  64. アレクサンドラ: え…ですがチベットは モンゴルに支配されるのでは?
  65. ねむ: そうだね、正確に言うと…
  66. ねむ: 「モンゴルとチベットの戦い自体は ラクシャーシーによって止められ チベットはモンゴルに下る形になる…」
  67. ねむ: 「けれどそれは平和的に…被害が最小限に 済むように取りはかられた上に チベットの文化は尊重されることになるんだ」
  68. ねむ: 「…むしろ文化ではチベットが モンゴルを支配してしまうほどにね」
  69. アレクサンドラ: そうなんですか…!
  70. ラビ: ラクシャーシーがいなかったら そうはならなかった?
  71. ねむ: 間違いないよ…お姉さんの たどった歴史が証明してるからね
  72. ねむ: …ともかくラクシャーシーと この激動の時代を歩んでいけば
  73. アレクサンドラ: “回収”されるんですね
  74. ねむ: そう…記録では…
  75. ねむ: 「モンゴルとの戦いが終わったあと 彼女はラクシャーシーとしての結末を迎える」
  76. ねむ: …とあるから、一連の顛末を 見届ける必要がある
  77. ラビ: この時代の魔法少女の結末… それはつまり…
  78. ねむ: おそらく想像の通りだよ
  79. ねむ: 平和をもたらした上での 最期だから
  80. ねむ: 絶望に染まったものではない …と信じたいけど…
  81. ラビ: …………
  82. うらら: と、とりあえず そのラクシャーシーを捜すんよ
  83. アレクサンドラ: そうですね… どこにいるんですか?
  84. ねむ: この先の尼僧院のはずだよ
  85. ラビ: …その人の名前は?
  86. ねむ: それが、わからないんだ 名前は記されてなくて…
  87. ラビ: ――っ!?
  88. ラビ: ちょっと待って… あれは…騎兵?
  89. アレクサンドラ: モ、モンゴル軍でしょうか?
  90. ラビ: わからないけど…
  91. うらら: うう…旭さんがいてくれれば どこの軍かわかったはずなんよ
  92. ラビ: ミリタリーが好きとはいっても この時代は関係ないはず…
  93. アレクサンドラ: それに、旭ちゃんは 他に大事な用事がありますし…
  94. ねむ: あの人たちはモンゴル軍で 間違いないよ
  95. ねむ: でも慌てなくて大丈夫だよ 前に伝えた通り
  96. ねむ: 僕から極端に離れない限りは 好印象をもたれる補助が働くし
  97. ねむ: 当然、言語も通じるからね
  98. ねむ: つまり、敵対されるおそれは ないに等しいはずだよ
  99. うらら: あ、じゃあ身構えなくても…
  100. うらら: …って、うわあ!
  101. アレクサンドラ: 矢!?
  102. うらら: 射ってきたんよ! いきなり敵対的なんよ!
  103. ねむ: おかしいね…さすがにここまで 敵意剥き出しなのは…
  104. アレクサンドラ: こっちに向かってきます!
  105. ラビ: ひとまず、離れて…
  106. ラビ: ――っ!?
  107. アレクサンドラ: これって…
  108. ラビ: …魔女
  109. モンゴル兵: ラクシャーシーが!!
  110. みんな: ――っ!?
  111. ラビ: (…結局あのあと、私たちは 散り散りになってしまった)
  112. ラビ: (魔女もよくわからずじまい… みんな無事だといいけど)
  113. 少女僧: あ、あの~…
  114. ラビ: うん?
  115. 少女僧: モンゴルの手先かと思ったんです けど…違いますよね?
  116. ラビ: ええ、違う
  117. 少女僧: な~んだ、よかった~ 緊張して損した
  118. ねむ: 好意的な印象を持ってくれている みたいだね
  119. ラビ: (…けれどモンゴル兵は違った)
  120. ラビ: (あのとき魔女の気配があった… ひょっとして…)
  121. ドルマ: いやでも 明らかにあやしいでしょ
  122. 少女僧: あ、ドルマさん!
  123. ラビ: ドルマ?
  124. ドルマ: そうよ、あたしが この尼僧院の代表をしているわ
  125. ドルマ: あんたは?
  126. ラビ: 私は、氷室ラビ はぐれた仲間を捜していて…
  127. ドルマ: …はぐれた仲間あ~? モンゴル兵がうろついてるのに?
  128. ドルマ: なんか、すんごいあやしいから とりあえず牢屋行きで
  129. ラビ: え?
  130. ラビ: …話が違う…
  131. ねむ: まあ、相手が好意的であっても 完全に警戒を解くのは難しいよ
  132. ねむ: 大変な時代だからね…
  133. ラビ: …サーシャとうららは 大丈夫だろうか
  134. ドロアダイ: この先の町に例の尼僧院が?
  135. モンゴル兵: 御意に、ドロアダイ将軍
  136. ドロアダイ: ふむ…貴様らの力が 役に立つかもしれんな?
  137. ふたり: あわわわ…
  138. うらら: 捕まってしまったんよ…
  139.  
  140. FILENAME: text_519110-3_JJ7AF.txt
  141. ラビ: これでよし、と
  142. ねむ: 簡単に壊せたね
  143. ラビ: 鉄格子とかじゃなくて 木の扉だったから…
  144. ラビ: ひとまず、ここから抜け出して サーシャたちを捜さないと
  145. ???の声: …やっぱり 壊してしまえるのね
  146. ラビ: ――っ!?
  147. ドルマ: こんにちは
  148. ラビ: えっと、これは…
  149. ドルマ: …ここはね もともと武器庫だったの
  150. ドルマ: 便宜的に牢屋として使ってるだけ だから造りは簡単なんだけど…
  151. ドルマ: あたしたちのような女、子どもが 壊せるような代物じゃない
  152. ラビ: …もしかして、試した?
  153. ドルマ: そう…あんたがモンゴルの 手先ではないのは見たらわかる
  154. ドルマ: というか、あたしたちの言葉が わかる時点でその可能性は低い
  155. ドルマ: にも関わらずあんたはひとりで モンゴル兵がいる中やってきた…
  156. ドルマ: …ラクシャーシーでしょ、あんた
  157. ラビ: 私が? どうして?
  158. ドルマ: どうしてって…どうして?
  159. ラビ&ドルマ: え?
  160. ドルマ: …あんた、別のところの 少女僧じゃないの?
  161. ラビ: 少女僧?
  162. ドルマ: はあ…そこからなわけ…?
  163. ドルマ: …まあ、先に見てもらった方が 話は早いか…
  164. 少女僧: やあ!
  165. 先生役の少女僧: ダメね、矢を放つ最後まで しっかり構えてないと
  166. 少女僧: え~、難しいよ~
  167. ドルマ: これは教練…あたしたちは 毎日訓練してるのよ
  168. ラビ: (モンゴルと戦うためにか…)
  169. ドルマ: ほら、他も案内するわ
  170. 少女僧: こらこら、ケンカはやめなさい!
  171. ドルマ: 見回りをしながら町の揉めごとを 仲裁したりもするわ
  172. ドルマ: まあ、尼僧院というより自警団 そのものね、今は
  173. 少女僧: じゃあお互いに謝って! はい、これで一件落着!
  174. ラビ: …もう解決した
  175. ドルマ: こんなのすぐ収められるわ 町の人はみんな…
  176. ドルマ: あたしたちに逆らったら バチが当たるって信じてるから
  177. ラビ: (この町で彼女たちは特別な 存在だと思われてる…?)
  178. 先生役の少女僧: いいですか、ラクシャーシーとは 救世主という意味です
  179. 先生役の少女僧: 悪しきモンゴルを打ち払い、 この地にシャンバラをもたらす者
  180. 先生役の少女僧: けれどモンゴルでは ラクシャーシーという言葉を
  181. 先生役の少女僧: 羅刹女つまり悪鬼という意味で 使っているんですね
  182. ドルマ: 一応、座学もやっているの 先生役も少女僧がやってるけど
  183. ラビ: さっきも言っていたけど 少女僧って?
  184. ドルマ: あたしたちのことよ
  185. ドルマ: 見習いの僧って意味だけど 戒は何も課されていないわ
  186. ねむ: 変だね…少女僧なんてお姉さんの 記録にないんだけど
  187. ラビ: まさか、環さんが空から見ていた 尼僧院は、ここじゃない…?
  188. ねむ: というより…正しい歴史から ズレが生まれてるおそれがあるね
  189. ラビ: ――っ!?
  190. 少女僧: ねーねー、なんでモンゴルの 言葉がわかるの?
  191. 先生役の少女僧: ヘルカさんから聞いたからよ モンゴル語を調べてるみたい
  192. 少女僧: あ~、ヘルカさん毎日 何か読んでるもんね
  193. ラビ: (…ヘルカさん?)
  194. ドルマ: …とまあ、こんなふうに 毎日を過ごしているわけ
  195. ラビ: モンゴルと戦うために…?
  196. ドルマ: というより…モンゴルを打ち払う ラクシャーシーになるために…
  197. ドルマ: 「修行を積めばジャータカ様という 高僧に選ばれて、御仏の力を宿す ラクシャーシーにしてもらえる… あたしたちはそう教わり今も修行をつづけてる」
  198. ドルマ: 「まあ、そうは言ってもジャータカ様のことを 誰も知らないし、あたしたちを指導していた 大人たちもなんにも知らなかったし…本当に ラクシャーシーになれるのかあやしいんだけど」
  199. ラビ: 大人たち…尼僧院には大人が いないけど…逃げたの?
  200. ドルマ: 追放したのよ、ラクシャーシーの 儀を中止しようとしたから
  201. ラビ: 中止…?
  202. ドルマ: 「尼僧院はここだけじゃなく他にもあって それぞれの尼僧院からラクシャーシーが 選ばれていたみたいなんだけど…」
  203. ドルマ: 「ここ以外の尼僧院が全部モンゴルに やられてしまって…ラクシャーシーも 戦ったのに敵わなかった」
  204. ドルマ: 「僧たちの中心人物だったラマは 次々と尼僧院が落とされて、ラクシャーシーが モンゴルの前に何の役にも立たない現実に 怖れをなして、こう宣言したのよ」
  205. ドルマ: 「ラクシャーシーの儀の実行より 全員でここから逃げる…って」
  206. ドルマ: だからあたしは行動を起こして ラマたちを尼僧院から追放した
  207. ドルマ: 「もちろん、あたしひとりでやったんじゃなく 賛成してくれた子たちと一緒にやったの 大抵の子はモンゴルに故郷を奪われていたから 結構な数になってね… それで大人たちを追放できたってわけ」
  208. ラビ: …つまり、あなたも他の人たちも 復讐するために修行している…
  209. ラビ: 力を宿すラクシャーシーになって モンゴルを倒そうと…
  210. ドルマ: みんなはそうかもしれないけど… あたしはヘルカを守りたいだけ
  211. ドルマ: …ねえ、あんたもヘルカを守るの 手伝ってよ
  212.  
  213. FILENAME: text_519110-4_JJ7AF.txt
  214. ラビ: ラクシャーシー
  215. ラビ: 人々を幸福の地…シャンバラへ導く 救世主であり、このチベットの大地の下に 横たわっているらしい
  216. ラビ: もともとラクシャーシーには 悪鬼羅刹の意味があるそうだけど チベットにおいてはすべての礎となり 人々がここで暮らしていけるようにしたから…
  217. ラビ: シャンバラへ導く救世主と 解釈されるようになったらしい
  218. ラビ: けれど転生を果たすかのように この時代にもラクシャーシーと呼ばれる 特別な力を持った少女が、それも複数誕生した
  219. ラビ: みんな、ジャータカ様なる謎の人物と 特別な儀式を交わすことでラクシャーシーに 選ばれたそうだ…
  220. ラビ: 加えて言うと、この尼僧院はもともと ラクシャーシーの候補を育成する機関で 同様の僧院が他にもあったらしい…
  221. ラビ: (…尼僧院の人たちから話を 聞いてわかったのはこれだけ…)
  222. ラビ: (それでもわかる… ラクシャーシーとは…)
  223. ラビ: 魔法少女のこと
  224. ラビ: (そうなるとジャータカ様は キュゥべえになるけど…)
  225. ドルマ: そろそろ来るわよ
  226. ラビ: あ、ええと…?
  227. ドルマ: だからヘルカがそろそろ来るの! 見てみたいんでしょ?
  228. 少女僧: 今日の教練、やばかったねー
  229. 少女僧: うんうん、やばいやばい
  230. ???の声: うわあああああ!!
  231. 少女僧たち: ――っ!?
  232. ヘルカ: はあ、はあ…寝坊しました… けどギリギリ間に合ったのでは?
  233. 少女僧: いやもう今日は終わりだけど
  234. 少女僧: やばい寝坊…
  235. ドルマ: あれがヘルカよ
  236. ラビ: …結構、抜けてる?
  237. ドルマ: ヘルカをよく知らなかったら そう見えるかもしれないけど…
  238. ドルマ: でもヘルカはね、すごいの! あたし、何度も救われて…
  239. ドルマ: 洞穴に閉じ込められたときも モンゴルに襲われたときも
  240. ドルマ: ヘルカがいなかったら あたしは生きていないわ
  241. ラビ: (とてもそんなふうには 見えないけど…)
  242. ドルマ: 疑ってるみたいだから言うけど ヘルカは普段手を抜いてるだけよ
  243. ドルマ: 危機が迫ると覚醒して 真の力を発揮するの!
  244. ドルマ: 故郷でも、奇跡を起こした ラクシャーシーって呼ばれてたし
  245. ドルマ: 本当は…そういう特別な存在には なってほしくないんだけど…
  246. ラビ: …故郷でも?
  247. ドルマ: ああ、違う違う…単純に救世主 って意味で使われてたの
  248. ラビ: (すでに魔法少女になっている のかと思ったけど…違うのか)
  249. ドルマ: だけど、特別な存在にさせられた ヘルカは…いつも辛そうだった
  250. ドルマ: 故郷を救えなかったのも自分の せいだと思っているみたいだし
  251. ラビ: だから、守りたい?
  252. ドルマ: そう…放っておいたらきっと ヘルカはラクシャーシーになる
  253. ドルマ: 今までずっとそうだった…まるで 宿命のようにその道を進まされる
  254. ドルマ: …ヘルカちゃんだけそんな道を… 許さない…阻止してやるわ
  255. ヘルカ: よいしょ…よいしょ…
  256. ラビ: 意気込みはわかったけど… 当のヘルカさんは何しているの?
  257. ドルマ: 花の世話よ
  258. ドルマ: 尼僧院には青い花がたくさん 咲いているでしょ?
  259. ドルマ: あれ、全部ヘルカが世話してるの あたしもたまに手伝うけど
  260. ラビ: 青い花って…
  261. ラビ: (…これ)
  262. ねむ: 青いケシの花だね この地域ではよく咲くみたいだ
  263. ラビ: ケシ…
  264. ヘルカ: そういえば、 水は朝あげたんでした
  265. ヘルカ: あげすぎてもよくないですから 今日はもうやめておきましょう
  266. ヘルカ: って、うわああ!!これ底が 抜けて水がダダ漏れに!!
  267. ドルマ: …………
  268. ラビ: …………
  269. ドルマ: そう…ヘルカがラクシャーシーに なってしまうのは宿命…
  270. ドルマ: あたしはこの宿命に抗いたい! だから、力を貸して!
  271. ラビ: あれでも…?
  272. ねむ: …まったく信じられないね
  273.  
  274. FILENAME: text_519110-5_JJ7AF.txt
  275. ねむ: ちゃんとした部屋を 用意してもらえてよかったね
  276. ラビ: 変なお願いもされたけど…
  277. ドルマ: 身元を隠してるラクシャーシーの 生き残りかと最初は思ってたけど
  278. ドルマ: 本当に何も知らないみたいだし… きっと違うのよね?
  279. ドルマ: …けれど、あんたの力は伝え聞く ラクシャーシーの力そのもの…
  280. ドルマ: モンゴル軍に襲われて怪我ひとつ しないなんてあり得ないもの
  281. ドルマ: あたしひとりではムリだったけど あんたが協力してくれたらできる
  282. ラビ: …何を?
  283. ドルマ: モンゴル軍を倒すことを
  284. ラビ: そんなの…
  285. ドルマ: …無茶を言ってるのはわかる 不可能に近いことも知ってる
  286. ドルマ: でも…何もしないと ヘルカひとりに全部背負わされる
  287. ドルマ: いやなの…それだけは
  288. ラビ: …モンゴル軍を倒してって 言われても…
  289. ねむ: それだけ特別な力を持っていると 思われたということだね
  290. ねむ: それより、 待たせているみたいだけど
  291. ラビ: え…?
  292. 少女僧: あ、あの… ご飯を持ってきたんだけど
  293. 少女僧: …さっきからひとりで なにブツブツ言ってるの…?
  294. ねむ: あ、僕は他の人に見えないからね 取り繕った方がいいよ
  295. ラビ: …フォローをしろって?
  296. 少女僧: はらはら…
  297. ラビ: 私がブツブツ言うのは… そう…趣味
  298. 少女僧: 趣味…!?
  299. ラビ: ええ、趣味…これからも頻繁に ブツブツ言うけど、気にしないで
  300. 少女僧: う、うん…わかった… じゃあ、あの…もう行くね?
  301. ねむ: …変に思われただろうけど 実際ブツブツ言っていたからね…
  302. ラビ: 人がいるとわかっていたら テレパシーを使ってた…
  303. ラビ: それより、気になってたことが… 今は本来の歴史からズレている?
  304. ねむ: そうだね…お姉さんのたどった 歴史を簡単にまとめると…
  305. ねむ: 「この尼僧院にラクシャーシーと のちに呼ばれる人物がいて…」
  306. ねむ: 「その人はチベットとモンゴルの 戦いを終わらせ、そして…」
  307. ねむ: 「ラクシャーシーとしての結末を迎える」
  308. ねむ: …これが正しい歴史 少女僧なんて言葉は出てこない
  309. ラビ: 環さんが見ていた歴史では 尼僧院はどんな扱い?
  310. ねむ: 身寄りのない子どもたちが集まる 僧院という扱いだよ
  311. ラビ: 全然違う… やっぱり歴史がズレている
  312. ねむ: あと気になるのは ラクシャーシーのこと
  313. ねむ: どうしてお姉さんは名前を 残さなかったんだろう?
  314. ラビ: ドルマさんの話が本当なら…
  315. ラビ: ラクシャーシーは ヘルカさんだと思う
  316. ラビ: そう考えると…私はドルマさんに 協力するべきではない
  317. ねむ: 歴史が余計に 変わってしまうからね
  318. ラビ: …………
  319. ねむ: …ヘルカを魔法少女にさせない なんて思ってはいけないよ
  320. ねむ: それは歴史の改編であり やってはいけないことだからね
  321. ラビ: …わかっている
  322. ねむ: ならいいんだけど
  323. ラビ: (…結局私たちは 傍観者にならざるを得ない)
  324. ラビ: (もういやだと 思ったはずなのに…)
  325. ねむ: けれど何が原因でズレが起きたか 謎だけが残るね
  326. ラビ: 尼僧院が別物になっている時点で 私たちが来る前からズレている…
  327. ラビ: 何かイレギュラーを生み出すもの として考えられるのは…魔女?
  328. ねむ: 魔女?
  329. ラビ: モンゴル軍に襲われたときに 魔女の気配を感じた
  330. ラビ: もしかしたらこの歴史に何か 悪い影響を与えているのかも
  331. ねむ: 魔女にそこまでできるか 疑問だよ
  332. ラビ: …そう わからないことだらけ…
  333. ラビ: (サーシャたちの行方も そしてヘルカさんについても…)
  334.  
  335. FILENAME: text_519110-6_JJ7AF.txt
  336. <Side:ヘルカ>
  337. ドルマ: でも…何もしないと ヘルカひとりに全部背負わされる
  338. ドルマ: いやなの…それだけは
  339. ヘルカ: (…また、そんなことを)
  340. ヘルカ: ドルマが私を特別な存在にさせないように 色々と手を尽くしているのは知っています
  341. ヘルカ: けれどそんなのは杞憂にすぎません そもそも私はなれなかったのです みんなを守れなかった不完全な存在なのです
  342. ヘルカ: そんな私がおめおめと生き延びているのも すべては、ドルマが生きているから
  343. ヘルカ: 私が唯一救えた命を奪わせないため
  344. ドルマ: …それと、ここにいる間は 座学や教練にも出てもらうわよ
  345. ラビ: なぜ?
  346. ドルマ: なぜって…あんた、 戦いが終わったらどうするの?
  347. ドルマ: ちゃーんと勉強はしておきなさい あんたのためになるんだから
  348. ドルマ: 教練だってそうよ 集団行動はそこから学べるの
  349. ヘルカ: そんな気遣いまでできるなんて やっぱりドルマは優しい…
  350. ヘルカ: でもその優しさのせいで ドルマは進んで危険な役割を担おうとします
  351. ヘルカ: …そんなのは認められません 私が守らないといけないのです
  352. ヘルカ: これ以上ドルマが 悪い夢に苦しまないためにも…
  353. ドルマ: ――っ!?
  354. ドルマ: はあ…はあ…
  355. ヘルカ: ドルマ… また悪夢を見たんですか?
  356. ドルマ: う、うん…ごめんね 起こしちゃって…
  357. ヘルカ: 今さら何を言うんですか ここに来てからずっと同室なのに
  358. ドルマ: …うん
  359. ヘルカ: 手、握りましょうか?
  360. ドルマ: 握って…
  361. ヘルカ: はい
  362. ヘルカ: 大丈夫ですよ 私が守りますから
  363. ヘルカ: 私は何度か尼僧院へ攻めてきた モンゴル軍を打ち破ったことがあります
  364. ヘルカ: とはいっても、相手は斥候兵 運で勝てるのもここまでが限界です 本隊が攻めてきたらどうにもならないでしょう
  365. ヘルカ: だから…
  366. ヘルカ: ラビさん…でしたよね? 新しく尼僧院に入った
  367. ラビ: え?…ええ
  368. ヘルカ: よかったら町を案内しますよ お願いもありますし
  369. ヘルカ: だから、ドルマだけでも助けてもらう 私のかわりに…
  370. ドルマ: え、遊びにいくの?それなら バター茶でも飲みにいこうよ
  371. ヘルカ: (ドルマ…!?)
  372. ラビ: バター茶?
  373. ドルマ: ヘルカが好きなのよ あたしも好きだけど
  374. ヘルカ: そうなんですか?ドルマって いつも不味そうに飲んでますが…
  375. ドルマ: 好きって言ったら好きなの あー、飲みたい!ほら行こう!
  376. ヘルカ: …仕方ありませんね
  377. ヘルカ: “モンゴル軍が攻めてきたらドルマを連れて 尼僧院から逃げてほしい” そうお願いするつもりでしたが 別の機会にした方がよさそうです…
  378. ヘルカ: ただ…情勢を考えると モンゴル軍もそろそろ動くはず…
  379. ヘルカ: (そう、猶予はほぼない… 隙を見てラビさんに言わないと)
  380. ヘルカ: バター茶最高~!
  381. ヘルカ: いやあ、何杯飲んでも飽きません いっそハシゴバター茶でも…
  382. ドルマ: ははは…本当、好きね…
  383. ヘルカ: (しまった… まったく隙を窺ってなかった…)
  384. ヘルカ: くっ…私ってやつは! 私ってやつは!
  385. ドルマ: …何なのよ、急に ねえ、ラビ?
  386. ラビ: うう…
  387. ドルマ: どうしたの? バター茶苦手だった?
  388. ラビ: というより印象と違っていた…
  389. ラビ: 甘いのかと思ってたら すごくしょっぱい…
  390. ドルマ: はじめて飲んだの? チベットじゃよく飲まれてるのに
  391. ラビ: えっと…まあ、 なかなか飲む機会がなくて
  392. ラビ: うう…まだしょっぱい
  393. ヘルカ: 甘いですよ、バター茶は
  394. ラビ: え?
  395. ヘルカ: そう信じてみてください そうすれば、甘くなります
  396. ラビ: …そういうもの?
  397. ヘルカ: はい…信じていれば それが本当になりますから
  398. ヘルカ: この世はそういうふうに できているんです
  399. ドルマ: …そろそろ戻る?
  400. ヘルカ: 名残惜しいですね…
  401. ヘルカ: バター茶を飲んで、 楽しくお喋りをして…
  402. ヘルカ: こういう時間だけが私たちに 与えられていたらいいのに…
  403. ヘルカ: (…じゃない! ラビさんにお願いをしないと…)
  404. デキー: あ!!ここにいた!!
  405. ドルマ: なによ、デキー もうちょっと声を落として
  406. デキー: それよりも、今度こそ本当に モンゴルの手先を捕まえたよ!!
  407. みんな: ――!?
  408.  
  409. FILENAME: text_519110-7_JJ7AF.txt
  410. <Side:ラビ>
  411. モンゴル兵: くっ…
  412. デキー: こいつだよ!!尼僧院の中に 忍び込んでいたの!!
  413. デキー: でも…本当はふたりいたんだけど もうひとりは舌を噛んで…
  414. ドルマ: 充分よ、お手柄だわ
  415. ヘルカ: …縄は痛くありませんか?
  416. モンゴル兵: お前、モンゴルの言葉が わかるのか?
  417. ヘルカ: 発音には自信がありませんけど
  418. ラビ: ヘルカさん、 モンゴル語が話せるんだ
  419. ドルマ: そうよ、だから来てもらったの
  420. ドルマ: …本当はこんなことに 関わらせたくないんだけど
  421. モンゴル兵: ふん…だからといって 俺は何も喋らんぞ
  422. ヘルカ: あんまり驚かないんですね 私が話せることに
  423. ヘルカ: それともどこかで会いました? 他にモンゴル語を話せる少女僧と
  424. ラビ: ――っ!?
  425. ヘルカ: …図星ですか
  426. ラビ: (モンゴル語を話せる少女僧って もしかして…)
  427. ねむ: あのふたりのことかもしれないね
  428. モンゴル兵: …………
  429. ドルマ: ねえヘルカ、こいつ何の目的で 尼僧院に忍び込んできたの?
  430. ヘルカ: なぜ尼僧院に?
  431. モンゴル兵: …………
  432. ヘルカ: おおかた、井戸に毒でも 入れにきたんでしょう?
  433. モンゴル兵: な、なぜそれを?
  434. ヘルカ: やっぱりそうだったんですね
  435. モンゴル兵: カマをかけやがったな…
  436. ドルマ: 何て言ったの?
  437. ヘルカ: やりそうなことを勘で言った だけです…当たったようですが
  438. モンゴル兵: ちっ…確かにそうだ、井戸に毒を 入れるつもりで忍び込んだ
  439. ヘルカ: 卑劣な真似をしますね
  440. モンゴル兵: 卑劣だと…? よくも言えたな、そんなことが
  441. ヘルカ: …どういうことですか?
  442. モンゴル兵: 我々を騙し討ちした貴様らに 卑劣などと言われたくない!!
  443. ヘルカ: わ、私たちが…?
  444. モンゴル兵: 何をとぼけている!
  445. モンゴル兵: 「お前らラクシャーシーが 最初に攻めてきたんじゃないか!」
  446. モンゴル兵: 「何の通達もなく突然攻めてきて 無辜の民を大勢殺した… 忘れたとは言わさんぞ!」
  447. ヘルカ: …嘘、ではないようですね…
  448. ラビ: 確かなの?
  449. ねむ: そんな記録はない
  450. ねむ: モンゴル軍が勢力を広げるために 侵略してきたとしか…
  451. ドルマ: ねえ、どうかしたの、ヘルカ? こいつにひどいこと言われた?
  452. ヘルカ: いえ、そうではなく…
  453. モンゴル兵: …なんだお前、知らなかったのか まあ、それもそうか
  454. モンゴル兵: 「ラクシャーシーなど所詮捨て駒 戦のための道具だからな! 何も知らないまま邪術を施され 命じられるまま人々を殺す…」
  455. モンゴル兵: まさに羅刹女、悪鬼! 恥を知れ、ラクシャーシー!
  456. ドルマ: …こいつ、何を騒いで…
  457. ラビ: 待って、その人を止めて!
  458. デキー: こいつ、舌を…!!
  459. モンゴル兵: …くっ…
  460. デキー: …もうダメみたい
  461. ドルマ: そう…デキー、運ぶわ 手伝って
  462. ヘルカ: …ラビさん、 今の話は黙っていてください
  463. ヘルカ: あなたもモンゴルの言葉が わかるんでしょう?
  464. ラビ: ――っ!?
  465. ヘルカ: モンゴル語を話せる少女僧…
  466. ヘルカ: その話が出たとき、 目が泳いでいましたよ
  467. ヘルカ: …はぐれた仲間、ですか?
  468. ラビ: …たぶん
  469. ヘルカ: 短慮を起こさないでくださいね
  470. ヘルカ: 敵陣に飛び込んでも ムダ死にするだけです
  471. ラビ: …無事かどうかを確かめるだけ 私ひとりで行けば…
  472. ヘルカ: 自分を特別だと過信しては いけませんよ
  473. ヘルカ: それは必ず あなたを滅ぼす
  474. ラビ: …そんなふうに思っている わけじゃない…ただ…
  475. ヘルカ: はあ…わかりました 今回だけですよ?
  476. ラビ: え、どういうこと?
  477. ヘルカ: だから、無事かどうか 確認しにいくんでしょう?
  478. ヘルカ: 幸い、2着ありますからね
  479.  
  480. FILENAME: text_519110-8_JJ7AF.txt
  481. <Side:アレクサンドラ>
  482. アレクサンドラ: ラビちゃんと 離れ離れになったあと…
  483. モンゴル兵: そこだ!
  484. モンゴル兵: 追いつめろ!
  485. うらら: す、すごい数なんよ
  486. アレクサンドラ: 取り囲まれてしまいました… このままでは…
  487. ドロアダイの声: やめろ
  488. ドロアダイ: その不思議な力…貴様ら ラクシャーシーだな?
  489. うらら: ラクシャーシー?
  490. アレクサンドラ: いえ、私たちは… 何と言いますか…
  491. うらら: た、旅の一座なんよ 大道芸をしてるんよ
  492. アレクサンドラ: (いい言い訳…それなら)
  493. アレクサンドラ: はいこの通り! 種も仕掛けもありますよ
  494. ドロアダイ: 興味深い奇術だな
  495. ドロアダイ: だが我々の攻撃をことごとく かわせたのはなぜだ?
  496. アレクサンドラ: そ、それは… 日々の努力と言いますか…
  497. うらら: 大道芸の一種なんよ
  498. ドロアダイ: よくわからぬが… しかし、それより…
  499. ドロアダイ: 貴様ら、言葉が通じるのだな?
  500. アレクサンドラ: (確かに…ねむちゃんの効果が つづいているのでしょうか?)
  501. アレクサンドラ: (でしたらラビちゃんは まだ近くにいるはず…)
  502. ドロアダイ: この者どもを捕らえよ 殺してはならん!
  503. ふたり: ――っ!?
  504. アレクサンドラ: (そのまま捕まってモンゴル軍に 同行することになりましたが…)
  505. ドロアダイ: そろそろ我々に力を 貸してくれる気にならんか?
  506. ドロアダイ: 褒美なら望みのままに与えよう
  507. アレクサンドラ: ですが…あの尼僧院の人たちと 戦えって言うんですよね…?
  508. ドロアダイ: そうだ、邪術には邪術をもって あたるのがよい
  509. ドロアダイ: 前に…ここより北の尼僧院を 襲ったときには苦戦したからな
  510. アレクサンドラ: まるで、尼僧院を狙って 襲っているかのような口調ですね
  511. ドロアダイ: 当たり前だろう これはそのための戦なのだから
  512. うらら: ど、どういうことなんよ
  513. ドロアダイ: 「我々はもともとチベットなど興味なかった 攻めたところでたいした利にならんし チベットは平和を愛する国だと聞いていた だから、無益な殺生は避けていたのだ」
  514. ドロアダイ: 「しかし…貴様らは攻めてきた」
  515. ドロアダイ: 「我々モンゴルを脅威に感じての奇襲 だったのだろうが…貴様らラクシャーシーは 奇妙な妖術で民をあやめたのだ」
  516. ドロアダイ: 「我々はその復讐と… ラクシャーシーなる脅威を取り除くため こうして本格的に遠征へ乗り出したのだ」
  517. ドロアダイ: 我々が尼僧院を 優先して襲うのもそのためだ
  518. アレクサンドラ: で、ですが…侵略を…
  519. ドロアダイ: 貴様らが攻めてきたから 我々も攻めているに過ぎん
  520. うらら: なんだか、思ってたより 複雑なんよ…
  521. ドロアダイ: 「いずれにせよ、あの羅刹女の巣窟を叩けば チベットの戦力は著しく下がる…いや 我々に抵抗することはできなくなるだろう」
  522. ドロアダイ: 「そうなれば…戦いは終わる 最小限の犠牲で平和が訪れるというわけだ」
  523. ドロアダイ: しかし尼僧院に対抗するには 我々にも特別が必要となる…
  524. ドロアダイ: …貴様らの力を借りたいのも そのためだ
  525. ドロアダイ: 戦いを早期に終わらせるため どうだ、手を組まないか?
  526. アレクサンドラ: …そうですね それが最善ですね…
  527. うらら: 手を組むのん!?
  528. アレクサンドラ: 違います、モンゴル側の情報を 掴みたいんです
  529. うらら: よかった…嘘だったんよ でも、情報って?
  530. アレクサンドラ: ラビちゃんはこの近くにいます そして、この近くといえば…
  531. うらら: 尼僧院?
  532. アレクサンドラ: はい…ですから、モンゴルが いつ攻めるつもりなのか探り
  533. アレクサンドラ: ラビちゃんを助け出したいんです
  534. うらら: …わかったんよ ウチも手伝うんよ
  535. うらら: サーシャさんひとりに 危険な思いをさせられないんよ
  536. アレクサンドラ: うららちゃん…!
  537. ドロアダイ: …どうした、黙り込んで
  538. アレクサンドラ: いえ…何でもありません 協力しますから、ご安心を
  539. うらら: ウチも手伝うんよ
  540. ドロアダイ: ふむ…味方を裏切るのだ、 暗くなるのもわかる
  541. ドロアダイ: だがこれも太平の世のため… 気持ちは切り替えていけ
  542. うらら: どこに行くのん?
  543. ドロアダイ: これでもわしは全軍を預かる身
  544. ドロアダイ: 貴様らだけに かかずらってはいられんのだ
  545. うらら: そんなに悪い人じゃなかったんよ
  546. アレクサンドラ: はい…チベットとモンゴルの 戦いも結局は善悪ではなく…
  547. アレクサンドラ: 立場の違いで 生まれたものなんでしょうね…
  548. モンゴル兵たち: …………
  549. アレクサンドラ: え…な、何ですか?
  550. うらら: ひょっとして安心させたところを 襲撃するつもりだったのん!?
  551. モンゴル兵?: そうじゃない
  552. アレクサンドラ: その声…?
  553. ラビ: よかった、無事で
  554. アレクサンドラ: ラビちゃん!
  555. うらら: じゃあ、そっちの人は?
  556. ヘルカ: はじめまして 尼僧院のヘルカです
  557. うらら: ヘルカさん…?
  558. アレクサンドラ: …そうでしたか 歴史にズレが…
  559. うらら: 結局、何が正しくて 何が違ってるのん?
  560. ねむ: 何かが違うというより…
  561. ねむ: 「モンゴルとチベットの戦いが ラクシャーシーによって引き起こされていたり 尼僧院がラクシャーシーの育成機関だったり」
  562. ねむ: 「根本的なところから異なっている」
  563. ねむ: …ここまで来ると僕達も 干渉する必要があるかもしれない
  564. ねむ: せめてラクシャーシーが 戦いを終わらせるようにしないと
  565. ねむ: 未来の存在である僕達が 消える可能性も充分にあるからね
  566. アレクサンドラ: そんな可能性が…!?
  567. ねむ: それほど歴史が歪んでるんだよ…
  568. ヘルカ: あの、お話は 終わりましたか?
  569. ヘルカ: 見回りの交代がはじまって いるので、そろそろ…
  570. ラビ: わかった
  571. ラビ: けど…本当に 一緒に来ないで大丈夫?
  572. アレクサンドラ: はい、話を聞いてなおさら モンゴルの動向を
  573. アレクサンドラ: 探っておく必要があると 思いましたし…
  574. うらら: ウチらが見張ってるから 原因を調べてほしいんよ
  575. アレクサンドラ: …ひとりにしてしまって 申し訳ないんですけど
  576. ラビ: それは心配しないでいい そっちもムリはしないように
  577. アレクサンドラ: ええ、ラビちゃんも
  578. ラビ: それじゃあ、また
  579. アレクサンドラ: はい!
  580. うらら: 行っちゃったんよ
  581. アレクサンドラ: そうですね…でも
  582. アレクサンドラ: 私たちは私たちに できることをやらないと
  583.  
  584. FILENAME: text_519110-9_JJ7AF.txt
  585. <Side:ラビ>
  586. ヘルカ: ここまで来ればもう平気です
  587. ヘルカ: とりあえず、お友だちが 無事でよかったですね
  588. ラビ: ありがとう、手伝ってくれて
  589. ラビ: …あれ、どこ行くの?
  590. ヘルカ: 夜襲に備えて 門は閉ざしてあるんです
  591. ヘルカ: だからこっちの裏口を使います
  592. ラビ: あ、こんなところに…
  593. ヘルカ: 普段は見つからないように 隠しているんですよ
  594. ヘルカ: さあ、早く行きましょう 今頃ドルマが心配してます
  595. ヘルカ: なんて言い訳しようかな…
  596. ラビ: …ラクシャーシーが戦いを 仕掛けたって黙っていていいの?
  597. ヘルカ: まあ…知らなくてもいいことって あるじゃないですか
  598. ヘルカ: 一方的に憎めるから自分たちが 正しいと信じられるんです
  599. ヘルカ: …それでいいじゃないですか
  600. ヘルカ: どうせ近いうちに私たちは 全員死ぬんですから
  601. ラビ: ――っ!?
  602. ヘルカ: そんなに驚く必要がありますか? 敵はあの大帝国…勝てないですよ
  603. ヘルカ: そう…何をやったところで無意味 憎んだり争ったりするのも…
  604. ヘルカ: だから、みんな楽しいことだけを していればいいんですよ
  605. ヘルカ: みんなと毎日、この尼僧院で 最後の瞬間まで楽しく過ごす…
  606. ヘルカ: それこそ、バター茶でも飲んで ふふ、本当に楽しそう
  607. ラビ: …………
  608. ヘルカ: …でもひとりだけ 仲間外れにしたい人がいるんです
  609. ヘルカ: ラビさん…モンゴル軍が来たら ドルマを連れて逃げてください
  610. ラビ: あなたはどうするつもり?
  611. ヘルカ: 私?…私ですか…?
  612. ヘルカ: ああ、いえ、そういえば とくに考えてなかったので…
  613. ヘルカ: まあ、私に期待する人がいるので 戦ってみますよ
  614. ヘルカ: …結果は目に見えてますが 希望を見せた責任は取らないと
  615. ラビ: 全員で逃げる手もあるはず
  616. ヘルカ: ムリですね…そんなことをすれば 追っ手を差し向けられる
  617. ヘルカ: でもごく少数なら…ああ、いえ ダメです、どん詰まりです
  618. ラビ: …たとえそうだとしても それはあなたがするべきだと思う
  619. ラビ: 私に任せるんじゃなく
  620. ヘルカ: …どうしてですか?
  621. ラビ: あなたは簡単にやってのけたけど 敵陣に忍び込むのは難しい
  622. ラビ: ドルマさんが言うようにやっぱり あなたには特別な何かが…
  623. ヘルカ: ありませんよ、そんなもの
  624. ヘルカ: むしろ、特別なのは ラビさんの方でしょう?
  625. ラビ: え…?
  626. ヘルカ: 知っているんです、あなたに 仏力が備わっていることを
  627. ヘルカ: 私にはそんなものは何もない
  628. ヘルカ: 故郷がモンゴルに襲われたときも 逃げ出すことしかできなかった
  629. ヘルカ: 本当に何もない…こんな私では もうドルマを守れない…
  630. ヘルカ: だから私のかわりに ドルマを守ってほしいんです
  631. ヘルカ: そう、私のかわりに ドルマの救いとなる特別な存在に
  632. ヘルカ: ラクシャーシーならそれくらい やってみせてくださいよ…
  633. ラビ: …ドルマさんはあなたを 救おうとしている…
  634. ラビ: そして、あなたもドルマさんを…
  635. ラビ: …なら、ふたりで助け合えばいい きっとできるはず
  636. ヘルカ: モンゴル軍相手にそんなこと できるわけありません
  637. ヘルカ: …私は現実を知っているんです
  638. ラビ: あ、ヘルカさん…
  639. モンゴル兵: …あんなところに裏口が
  640. ドロアダイ: …そうか、餌に食いついたか
  641. モンゴル兵: はい、これで町中にも 簡単に入れるかと
  642. ドロアダイ: 被害は最小限に抑えたいからな
  643. モンゴル兵: そのことですが…放った間者は ふたりとも…
  644. ドロアダイ: …ラクシャーシーどもも 同じ目に遭わせてやる、必ず
  645.  
  646. FILENAME: text_519110-10_JJ7AF.txt
  647. <Side:ヘルカ>
  648. アレクサンドラ: 尼僧院を攻める!?
  649. ドロアダイ: 不服か?
  650. アレクサンドラ: ああ、いえ…
  651. うらら: けど、急なんよ
  652. ドロアダイ: 急ではない戦など あまり聞かんな
  653. ドロアダイ: 明朝には出発する 貴様らも準備をしておけ
  654. うらら: とうとう動き出すんよ!
  655. アレクサンドラ: ラビさんに 知らせにいきましょう
  656. うらら: あれ…? ゲル…テントの外を見るんよ
  657. アレクサンドラ: モンゴル兵がいませんね…
  658. うらら: 戦いの準備をしてるとか…?
  659. アレクサンドラ: わかりませんけど… 抜け出すにはちょうどいいです
  660. うらら: うん、それもそうなんよ さっそく知らせにいくんよ!
  661. ドルマ: それは本当なの!?
  662. うらら: 本当なんよ
  663. アレクサンドラ: だから急いで知らせにきたんです
  664. ドルマ: …このふたりはあんたの 仲間なのよね?
  665. ラビ: そう、モンゴルの動向を 調べてもらっていた
  666. ドルマ: なら…本当か…
  667. ラビ: …どうする?
  668. ドルマ: …ヘルカは…?
  669. ドルマ: ヘルカならこんなとき すぐに解決策を…
  670. ドルマ: あ、いや…違う あたしが考えないと…
  671. ラビ: 守りを固める?
  672. ドルマ: 固めるって言ったって 何をどう固めるのよ
  673. うらら: みんなで寝ずの番をするんよ!
  674. アレクサンドラ: 武器を用意するとか…
  675. ドルマ: そんなの当たり前
  676. アレクサンドラ: あ… すみません、お役に立てず…
  677. うらら: ごめんなんよ
  678. ドルマ: え?違う…そうじゃなくて…
  679. ドルマ: ああ、もう!なんであたしは こんなふうなのよ!
  680. ラビ: …ヘルカさんを呼んでくる?
  681. ドルマ: それはダメ
  682. 少女僧: …………
  683. ヘルカ: そうですか…では町の人を 尼僧院に避難させてください
  684. 少女僧: はい
  685. ヘルカ: それから…細かいことは ドルマに任せますが
  686. ヘルカ: 「町の門はもう閉ざして、交代制で警戒すること あとは食料をすべて尼僧院に集めてください 町の人の分も今後は尼僧院が管理するように」
  687. ヘルカ: ああ、そうだ、家畜も処分して おいてください、可哀想ですが
  688. 少女僧: わかりました
  689. ヘルカ: …最後に決死隊を募ってください 打って出ます
  690. 少女僧: 籠城しないんですか?
  691. ヘルカ: 救援が望めないのに 立て籠もっても仕方ありませんし
  692. ヘルカ: それにおそらく モンゴル側の情報は嘘です
  693. 少女僧: 彼女たちが私たちを騙そうと?
  694. ヘルカ: 違います、わざと偽の情報を 掴まされたと考えるべきです
  695. ヘルカ: 出陣の時刻をわざわざ伝える 必要なんてありません
  696. ヘルカ: その時刻に強引に連れていけば それで済む話ですから
  697. 少女僧: …とすると敵は朝駆けではなく…
  698. ヘルカ: 狙いは夜討ち…私たちの不意を 突くつもりなんでしょう
  699. 少女僧: なるほど…
  700. ヘルカ: 私たちは待ち伏せし、 彼らを襲います
  701. ヘルカ: きっと通常より簡単に不意を 突けると思います
  702. 少女僧: 敵自身が不意を突くつもりで いますからね
  703. ヘルカ: …では、お願いしていいですか?
  704. 少女僧: お任せください!
  705. ヘルカ: …あはは…こういう事態になると 途端に頭が回る…
  706. ヘルカ: …でも、それでいい ドルマ…あなたを守れるなら…
  707.  
  708. FILENAME: text_519110-11_JJ7AF.txt
  709. ヘルカ: …なんでドルマまで 来るんですか?
  710. ドルマ: あんたが危ない真似しようと してるのに放っておけないでしょ
  711. ヘルカ: それに…あなたまで
  712. ラビ: ふたりが心配だから
  713. ヘルカ: (ドルマに危険な思いを させたくありませんが…)
  714. ヘルカ: (ここにいれば私の目も届くし ラビさんの力も頼れる…)
  715. ヘルカ: …案外ここが安全なのかも…
  716. ドルマ: どうしたの?
  717. ヘルカ: 尼僧院が心配だと言ったんです
  718. ラビ: 念のためサーシャたちに残って もらったから、大丈夫だと思う
  719. ヘルカ: …おふたりもあなたのように 仏力が使えるんですよね?
  720. ドルマ: 結局、あんたって何なのよ? ラクシャーシーじゃないんでしょ
  721. ラビ: 魔法少女 希望を信じて戦う者のこと
  722. ヘルカ: 魔法、少女…?
  723. ドルマ: 聞いたことないわね
  724. ヘルカ: ――っ!?
  725. ドルマ: やつらの声…近くまできてる
  726. ヘルカ: …みなさん、準備はいいですか?
  727. デキー: ドキドキするね!!
  728. ドルマ: 声を落として
  729. ドルマ: …来た
  730. ヘルカ: 今です
  731. モンゴル兵: ぐっ!
  732. モンゴル兵: ちいっ…伏兵だ! 矢を射ってくるぞ!
  733. ラビ: はあ…っ!
  734. モンゴル兵: があ…!
  735. ラビ: (大丈夫…気を失ってるだけ)
  736. ドルマ: ラビに当てないように射るのよ!
  737. ヘルカ: このまま押し込みます ラビさん!
  738. ラビ: そこ!
  739. モンゴル兵: くっ…
  740. ドルマ: うまくいきそうね! さっすがヘルカ!
  741. ヘルカ: いえ…うまくいきすぎです というより…
  742. ヘルカ: 本隊にしてはやけに薄い…?
  743. 指揮官: 下がれ!もっと下がれ!
  744. ドルマ: 敵が逃げてく…? 追い打ちをかけるわよ
  745. ラビ: 待って、変な感じがする
  746. ドルマ: 変な感じ?
  747. ラビ: うまく言えないけど わざと逃げてるような…
  748. ヘルカ: ――っ!?
  749. ヘルカ: ぜ、前方のみなさん! 今すぐ逃げ…
  750. 少女僧: きゃあ…っ!
  751. ドルマ: 伏兵…?
  752. デキー: 逃げてた敵が戻ってくる!!
  753. ヘルカ: …そうか、これが彼らの狙い
  754. ドルマ: ど、どういうこと?
  755. ヘルカ: 退却を装って私たちを誘い込み 伏兵で攻撃してきたんです
  756. ヘルカ: とにかく、態勢を立て直さないと いったん下がります
  757. ドルマ: 下がるって言っても…
  758. デキー: 敵が食いついてくるよ!!
  759. ヘルカ: なんでそんなに…
  760. ドルマ: ――っ!?
  761. ドルマ: み、見て、町の方…
  762. ヘルカ: …………
  763. ヘルカ: …やられた
  764. 住民たち: 「モ、モンゴル兵が町の中に!」 「なんで…町の門は閉ざしてるはずだろ!」
  765. ドロアダイ: 火を放て!我らの憎しみで すべて燃やし尽くせ!
  766. ドルマ: 尼僧院の町に火が…
  767. ラビ: ここは私が引き受ける みんなは早く戻って
  768. ドルマ: ひとりで大丈夫なの!?
  769. ラビ: 大丈夫じゃない… けど、諦めるのはもういや
  770. ヘルカ: …いえ、諦めるべきですよ
  771. ドルマ: ヘルカ…
  772. ヘルカ: こんなの、どうやったって ムダじゃないですか
  773. ヘルカ: 何もかも無意味です… どうやっても生き延びられない
  774. ヘルカ: だったら、苦しいことはやめて 早く楽に…
  775. ラビ: …それはできないと思う
  776. ヘルカ: え…?
  777. ラビ: 少しでも生きるつもりがあるなら 楽なんてできない
  778. ラビ: ムダな努力だと、無意味だと わかっていても、抗ってしまう
  779. ラビ: それができなくなるのは、 本当に何もかも諦めたときだけ
  780. ラビ: 完全に希望を捨ててしまえれば それは確かに楽だけど…
  781. ラビ: あなたはきっと そこまで諦めていない
  782. ラビ: 諦めようとしているのに 諦めきれていない…
  783. ラビ: 単純に失敗を怖れているだけ
  784. ヘルカ: 私が… 失敗を、怖れている…?
  785. ドルマ: …行くわよ
  786. ヘルカ: え?
  787. ドルマ: ラビ、ここは頼んだわ
  788. ドルマ: みんな、退却! 町に引き返すわ!
  789. ヘルカ: ドルマ、私は…
  790. ラビ: やあっ!
  791. モンゴル兵: くっ…
  792. ラビ: 早く行って!
  793. ドルマ: 絶対に死なないで
  794. モンゴル兵: があっ!
  795. ラビ: …そのつもり
  796. ドルマ: ふん、格好つけて 走るわよ、ヘルカ
  797. ヘルカ: …………
  798.  
  799. FILENAME: text_519110-12_JJ7AF.txt
  800. ヘルカ: 町に火が… みんな…倒れてる…
  801. ヘルカ: やっぱり、どうやったってムリなんです… この光景が何よりの証拠
  802. ヘルカ: 一緒なんですから 私がラクシャーシーになれなかった あのときと…
  803. ドルマ: 尼僧院への避難が 間に合わなかったのね
  804. うらら: ドルマさん、ヘルカさん!
  805. アレクサンドラ: ラビちゃんは!?
  806. ヘルカ: ラビさんは私たちを逃がすために 殿を務めてくれて…
  807. アレクサンドラ: ――っ!?
  808. うらら: ひとりでまだ戦ってるのん…?
  809. ヘルカ: ごめんなさい、私のせいです
  810. ヘルカ: ラビさんにそんな役割を 任せることになったのも…
  811. ヘルカ: 町がこんなことになって しまったのも、全部…
  812. アレクサンドラ: ヘルカさんのせいってわけでは…
  813. ヘルカ: 私のせいなんです!
  814. ヘルカ: 私が迎え撃とうとしたから… 侵入を許したのだってきっと私が
  815. 住民: 「少女僧がいるぞ…!」
  816. ヘルカ: ――っ!?
  817. 住民たち: 「ああ、どうか…どうかお助けください!」 「私たちをシャンバラへ…」
  818. ヘルカ: あ…その…みなさんは尼僧院へ…
  819. うらら: ――っ!?
  820. アレクサンドラ: いますね
  821. うらら: うん、魔女なんよ
  822. アレクサンドラ: ヘルカさんたちは早く町の人と 一緒に尼僧院へ!
  823. うらら: ここにいると危ないんよ!
  824. ヘルカ: 危ない?
  825. うらら: ともかく、早くなんよ!
  826. ドルマ: みんな、尼僧院へ逃げるわ! ついてきて!
  827. ヘルカ: 『はあ…はあ…』
  828. ヘルカ: 私はただ 何もわからないまま走るだけ
  829. ヘルカ: モンゴル兵が現れる度に倒れる人たち… 守ることなんてできません 私には…何もできないんです…
  830. ヘルカ: …………
  831. ヘルカ: 震えている大勢の人たちが私を見ています…
  832. 住民たち: 「お助けください…!」 「どうか…なにとぞ…!」
  833. ドルマ: ちょっと、あんたたち…!
  834. ヘルカ: それでも…
  835. ヘルカ: …大丈夫です、私たちには 御仏がついてくださいます
  836. ヘルカ: モンゴル軍が攻めてきても 心配いりません
  837. ヘルカ: 御仏のお力によって 私たちは救われるでしょう
  838. ドルマ: ヘルカ…
  839. ヘルカ: こんな心にもないことを いつか喋った気がします
  840. ヘルカ: あれは、いつだっただろう… いや、違う…思えば私は ずっとそんなことを喋っていました
  841. ヘルカ: あの奇跡を起こしたとされた日から…
  842.  
  843. FILENAME: text_519110-13_JJ7AF.txt
  844. ヘルカ: 幼いとき、土砂崩れのせいで私とドルマが 洞穴の中に取り残されたことがありました
  845. ヘルカ: 私は運よく小さな穴を見つけ ドルマと一緒に脱出することができたのですが 故郷の人たちはそれを偶然とは見做さず…
  846. ヘルカ: 私を特別な存在… ラクシャーシーだと信じるようになりました
  847. ヘルカ: モンゴル軍が迫っていたので、何かの希望に 縋らないと生きていけなかったのだと思います
  848. 人々: 「ラクシャーシー様 どうか私たちをお救いください…」
  849. ヘルカ: みんな、そう言って私に縋りつきました けれど私には特別な力なんてありません ドルマを助けた奇跡だって偶然の産物です
  850. ヘルカ: 私には何にもできない! 何もかも投げ出して両親に泣きついて しまいたかったのですが…
  851. ヘルカ: 「どうか私たちをお導きください」 と両親も私に縋りつき 私が特別であることをやめさせませんでした
  852. ヘルカ: けれど、そんな希望はまやかしです モンゴル軍が攻めてくると、何の奇跡も起こらず 故郷の人々はあっという間に死にました
  853. ヘルカ: ああ…ごめんなさい 私は特別じゃありません
  854. ヘルカ: 特別になろうとしましたが なりきれませんでした
  855. ヘルカ: ごめんなさい、特別じゃなくて ごめんなさい…ごめんなさい…
  856. ヘルカ: そんなときです、生き残っている ドルマを見つけたのは
  857. ヘルカ: いえ…私が希望を見つけたのは
  858. ヘルカ: ドルマは私が唯一守れた人… 私の特別な人…
  859. ヘルカ: だから…生き延びさせようと思ったのです 何があっても守り抜こうと心に決めたのです
  860. ヘルカ: 絶対に…!
  861. 住民たち: 「ラクシャーシー様、どうか救いを…!」
  862. ドルマ: いい加減にしてよ!
  863. ヘルカ: ――っ!?
  864. ヘルカ: ドルマは私から人々を引き離します それも、ひどく怒った様子で
  865. ドルマ: そんなに縋りついて… 助けてくれって勝手すぎるわよ!
  866. ドルマ: あんたたちはいいわよ? 縋るだけでいいんだから
  867. ドルマ: でもヘルカは?
  868. ドルマ: こんな状況で助けてって言われて ヘルカはどうしたらいいのよ!
  869. ドルマ: それともなに、死んでこいって? それが人を救うってことなら
  870. ドルマ: あたしはヘルカに救わせない!
  871. ヘルカ: ドルマ…
  872. ドルマ: …もういいんだよ、ヘルカちゃん
  873. ドルマ: そんなに頑張らなくて… 期待に応えようとしなくていい
  874. ドルマ: 寝坊して、抜けたこと言って バター茶飲んでる…
  875. ドルマ: そんなヘルカちゃんが一番いい
  876. ヘルカ: ――っ!?
  877. ラビ: あなたはきっと そこまで諦めていない
  878. ラビ: 諦めようとしているのに 諦めきれていない…
  879. ラビ: 単純に失敗を怖れているだけ
  880. ヘルカ: 私が… 失敗を、怖れている…?
  881. ヘルカ: 私は気づいてしまったのです
  882. ヘルカ: 確かに私は怖れていました また失敗することに…ではなく
  883. ヘルカ: ドルマを失うかもしれないことに
  884. ヘルカ: 怖れていては何も守れない
  885. ヘルカ: …ドルマは今、怖い?
  886. ドルマ: 怖いよ… 夜になるだけで怖い
  887. ドルマ: 故郷が焼かれた夜のことを 思い出すから
  888. ドルマ: けど…もう大丈夫 ヘルカちゃんがいるから
  889. ヘルカ: …ありがとう、ドルマちゃん そんなふうに私を思ってくれて
  890. ヘルカ: 私なんか無価値だと思っていましたけど ドルマを守ることができたなら 自分の生にも価値があります
  891. ヘルカ: たとえ間違いだらけでも、失敗だらけでも この価値を踏みにじらせはしない
  892. ヘルカ: …きっと私以外の人にも そう思える特別な存在がいる…
  893. ヘルカ: 戦いがそれを踏みにじろうとするなら そんなものは否定しないといけない
  894. ヘルカ: そんなものに弄ばれて、奪われて… 何かに縋りつかなければならないほど 打ち負かされていいわけがない!
  895. ヘルカ: ドルマ…この世では私たちなど 路傍の石にすぎないんでしょうね
  896. ドルマ: え…?
  897. ヘルカ: 特別なんかじゃないんです
  898. ヘルカ: それでも…私たちは特別だと 思える相手を見つけられる…
  899. ヘルカ: なら…ここにいる価値は きっと、ありますね…?
  900. ドルマ: ヘルカ? それってどういう…
  901. ヘルカ: みなさん…
  902. ヘルカ: 『心配しなくていいですよ 私についてくれば、きっと大丈夫ですから』
  903. ドルマ: ――っ!?
  904. 住民たち: 「ああ、ついていきます!」 「どうか私たちをシャンバラへ!」 「ラクシャーシー様!」
  905. ヘルカ: では…そこにいるドルマを 押さえていてください
  906. ヘルカ: 私の邪魔をさせないために
  907. ドルマ: ちょ、ちょっと待って!
  908. ヘルカ: 私は私のやるべきことを 果たしてきます
  909. ヘルカ: 希望のために
  910. ドルマ: ヘルカ…ッ!!
  911. ヘルカ: はあ…はあ…
  912. ヘルカ: …っ、これといった武器はない
  913. ヘルカ: 弓も剣もうまく扱えませんし やっぱり私には何もできませんね
  914. ヘルカ: でも…私は立ち向かわないといけないんです ドルマを守り抜くために こんな戦いなんて終わらせてやるんです!
  915. ヘルカ: 何か、起死回生の一手は…!
  916. ???の声: それはキミの魂を差し出すに 足る願いかい?
  917. ヘルカ: え…? あ、あなたは…
  918. キュゥべえ: はじめまして、ヘルカ ボクの名前はキュゥべえ
  919. キュゥべえ: キミたちがジャータカ様って 呼ぶ存在さ
  920. ヘルカ: ジャータカ様… なぜ、ここに…?
  921. キュゥべえ: キミにお願いがあって来たんだ
  922. キュゥべえ: ボクと契約して、 魔法少女になってほしいんだ
  923.  
  924. FILENAME: text_519110-14_JJ7AF.txt
  925. ヘルカ: 魔法、少女…?
  926. ヘルカ: それが、ラクシャーシーの 本当の名前…なんですか…
  927. ヘルカ: …やっぱり、ラビさんたちも ラクシャーシーだった…
  928. ヘルカ: 薄々そうだろうなとは思っていました というより、ラクシャーシー以外に 説明がつきません
  929. ヘルカ: どうして彼女たちは隠していたのだろう 私たちを騙すため…?
  930. モンゴル兵: がはっ!
  931. うらら: 倒しても倒しても あらわれるんよ
  932. アレクサンドラ: キリがないですね…魔女も まだ見つけられていないのに
  933. アレクサンドラ: うっ…!
  934. うらら: サーシャさん! 矢が…!
  935. モンゴル兵: やああ!
  936. うらら: この…っ!
  937. うらら: 大丈夫、サーシャさん?
  938. アレクサンドラ: はい、これくらい… みんなを守らないと
  939. モンゴル兵: いくらラクシャーシーとはいえ 相手はたったのひとりだぞ!
  940. モンゴル兵: さっさと突破して 町の本隊と合流する!
  941. ラビ: …そうはさせない
  942. ヘルカ: いや…あの人たちが 私たちを騙すわけがない
  943. ヘルカ: そうしなくてはならない事情が あったのでしょう
  944. ドロアダイ: 尼僧院にはまだ突入できんのか!
  945. モンゴル兵: 思いの外、扉が厚く… 破城槌もありませんから
  946. ドロアダイ: ちい…攻撃を緩めるな!
  947. ヘルカ: モンゴル兵たちの声が聞こえてきます もうあまり時間はないようです
  948. ヘルカ: でも…何を願えば…
  949. ヘルカ: モンゴル軍を撤退させることでしょうか? それともこの戦い自体を終結させること? いや、それではダメです
  950. ヘルカ: そもそもの原因を取り除かなくては 再び戦いがはじまってしまう
  951. ヘルカ: …そうか…暴悪の根源を消せば 平穏な暮らしを得られるはず
  952. ヘルカ: ラクシャーシーがその根源なら 私の願いは…
  953. ヘルカ: 『みんなの記憶から ラクシャーシーのことを消してください』
  954. うらら: ん…?
  955. アレクサンドラ: あれ…?私たちは… 魔女を捜していて…
  956. ふたり: …………
  957. うらら: わああっ、そうだったんよ! モンゴル軍が攻めてきてるんよ!
  958. アレクサンドラ: こんな普通の僧院に攻めてくる なんて…!
  959. モンゴル兵: な、なあ…もうやめないか?
  960. モンゴル兵: そうだな…相手は女、子ども いくら命令とはいえ…
  961. ドロアダイ: …何のために我々は こんな戦いを…
  962. ドロアダイ: ん…? 何だ、あの光は…?
  963. ヘルカ: 人にはみんな価値があって未来がある だからそれを奪う戦いはなくさないといけない…
  964. ヘルカ: 私はそんなきれいごとを信じます 特別な人がきれいな世で生きてもらうために
  965. ヘルカ: もし戦いが憎しみから生まれるのであれば 憎しみも乗り越えられると信じます
  966. ヘルカ: そう…憎しみくらい私たちなら乗り越えられる… そんなものに屈してはいけないんです
  967. ヘルカ: 負けてはいけないんです
  968. ヘルカ: それでも、膝を屈しそうになったら…
  969. ヘルカ: その憎しみは私に向けてください
  970. ヘルカ: すべての悪意は私に向けてください
  971. ヘルカ: 私が一切を引き受けます
  972. ヘルカ: だからどうか お互いに傷つけ合うことのないように
  973. ヘルカ: お互いを認め、信じ合えますように
  974. ヘルカ: そのために…そのためだけに 私は私であることを捧げます
  975. ヘルカ: だって…ようやくなれたんですから 私は、本物のラクシャーシーに
  976. ドロアダイ: これは、いったい…
  977. 住民たち: 「あ、ああ…なんとまばゆい… 菩薩様…いや、救世主様だ」 「我々を済度しにいらっしゃったんだ…」
  978. ドロアダイ: 救世主…? 未来仏のことか…?
  979. モンゴル兵: そんなお方に弓を引けば… ぶ、仏罰を受ける…!
  980. ドロアダイ: 貴様、どこへ行く!?
  981. モンゴル兵: 将軍、勝手に離脱する者が 多数出ています
  982. ドロアダイ: …こうなってはやむを得ぬか こんなものを見せられてはな
  983. ドロアダイ: 撤退する
  984. モンゴル兵: よろしいのですか
  985. ドロアダイ: 我らに最早戦意なし 仏罰を怖れてやまぬ
  986. ドロアダイ: 主にはそう伝えよ
  987. うらら: モンゴル軍が退いていくんよ
  988. アレクサンドラ: 戦いが終わった… ということなんでしょうね
  989. ラビ: そうみたい
  990. アレクサンドラ: ラビちゃん…! よかったです、無事で…
  991. うらら: 心配してたんよ!
  992. ラビ: 私は大丈夫だけど この状況は…?
  993. アレクサンドラ: おそらく、ヘルカさんが 願いを叶えたのだと…
  994. ラビ: そう… キュゥべえと契約を…
  995. 少女僧: もしかしてヘルカさんは… ヘルカ様は未来仏の菩薩様…?
  996. 少女僧: この世を救うためにあらわれる あの救世主様?
  997. 少女僧: どうなんだろう…けど…
  998. ドルマ: …きれい
  999. キュゥべえ: どうやらキミに宿った力は 人の心を穏やかにするものらしい
  1000. キュゥべえ: ただ、これで終わりじゃない
  1001. ヘルカ: はい、ジャータカ様
  1002. ヘルカ: (モンゴルとチベットの戦いを 必ず終わらせてみせる…)
  1003. ヘルカ: (私の特別な人を守るために)
  1004. ヘルカ: …そう、私にならできるはず 特別な力を得た今なら…
  1005. ヘルカ: 私はもう、それだけでいい そのためだけに生きられれば…
  1006. ヘルカ: …なんて幸せなんでしょう
  1007. ヘルカ: 日が昇ったあと モンゴル帝国は国境付近にまで 兵を撤退させていきました
  1008. ヘルカ: 長くつづいた戦いは その朝、停戦を迎えたのです
  1009.  
  1010. FILENAME: text_519110-15_JJ7AF.txt
  1011. <Side:ヘルカ>
  1012. ヘルカ: …よいしょ、よいしょ…
  1013. ヘルカ: モンゴルの脅威が一時的に去ったその日 私は大切にしまっておいた陶器から 故郷の人たちの灰を土に撒きました
  1014. ヘルカ: 灰はやがて土に還り そして、青い花を養う源となるのでしょう
  1015. ヘルカ: この日の花はいつもより なんだか、とってもきれいです
  1016. ヘルカ: あれから…
  1017. ヘルカ: 私の願いによってラクシャーシーが みんなの記憶から消えたせいか
  1018. ヘルカ: 尼僧院は戦災孤児の集まる僧院 として長くつづいている…そんなふうに みんなの認識が変わっていました
  1019. ヘルカ: たぶんラクシャーシーに関するものは 連鎖的に影響が及んでしまったのでしょう 少女僧という言葉や概念も、そして… ジャータカ様のことも、みんな忘れていました
  1020. ヘルカ: それでも過去の文献や経典などには ラクシャーシーの記録は残っています
  1021. ヘルカ: 私が消したのはあくまでも 戦いの源になったラクシャーシー… 魔法少女に関する“記憶”だけです
  1022. 少女の僧: ヘルカ様~!バター茶の 差し入れです!飲んでください
  1023. ヘルカ: ごくごく…
  1024. ヘルカ: ぷはー、甘い!
  1025. 少女の僧: お~、見事な飲みっぷり!
  1026. ヘルカ: 私へのみなさんの態度は随分変わりましたが もうそれについてあれこれ悩んだりしません
  1027. ヘルカ: 私は覚悟を決めたのです ラクシャーシーとして最後まで生きていこうと
  1028. ヘルカ: それから…ラビさんたちは しばらく尼僧院に滞在することになりました
  1029. うらら: もうしばらく お世話になっていいのん?
  1030. うらら: ラクシャーシーについて もっと調べたいんよ
  1031. アレクサンドラ: そうですね…そこ以外はすべて 記録通りなんですけど…
  1032. ヘルカ: 何の話ですか?
  1033. アレクサンドラ: あ、えっと…あはは… こっちの話です
  1034. ラビ: …ヘルカさん、魔法少女になって よかったと思ってる?
  1035. ヘルカ: …代償があるんですよね?
  1036. ラビ: …聞いたの?
  1037. ヘルカ: いいえ、何も ですがわかりますよ
  1038. ヘルカ: 素晴らしい力を授かったのです 相応の代償は当然かと
  1039. ラビ: それはあなたが思っているより 重い代償かもしれない
  1040. ラビ: それでも…後悔はない?
  1041. ヘルカ: はい、まったく
  1042. ヘルカ: 同じラクシャーシー…ではないですね 魔法少女の先輩がそばにいてくれて 私はとっても心強いです
  1043. ヘルカ: けれど… 別れもあります
  1044. ドルマ: …ここまででいいのに
  1045. ヘルカ: うん、でも… もうちょっとだけ
  1046. ヘルカ: 尼僧院の復旧が一通り終わると ドルマは尼僧院から出ていくと 言い出したのです
  1047. ヘルカ: 白い丘の教団…このチベットでは 有数の教団に入るつもりなんだそうです
  1048. ドルマ: あの教団に入れたら尼僧院へ 支援できないか必ずかけ合うわ
  1049. ドルマ: 私たちだけで生活するのは 楽しいけど…難しいもの
  1050. ヘルカ: でも、ドルマじゃなくても…
  1051. ドルマ: 寝ぼすけのあんたにできる? デキーは?他の子は?
  1052. ヘルカ: ああ…人材難…
  1053. ドルマ: あたしがちょうどいいのよ
  1054. ドルマ: それに…あんたを助けるには これが一番いいって思うの
  1055. ヘルカ: 助けてもらってばかりなのは 私の方なので…せめてこれを
  1056. ドルマ: …これは?
  1057. ヘルカ: ラマからもらった貝葉の写本です モンゴル語について学べます
  1058. ドルマ: 逃げてったあいつの?
  1059. ヘルカ: でも…ドルマの助けになるはず 私も充分助けられましたから
  1060. ドルマ: …モンゴルについて知れば 別の見方が生まれるって?
  1061. ヘルカ: それはドルマ次第だと思います
  1062. ドルマ: そうかもね…まあ、 もらっておくわ
  1063. ドルマ: さて…そろそろ行かないと もうちょっとついてくるのよね?
  1064. ヘルカ: うん…
  1065. ヘルカ: …ねえ、ドルマ まだ夜は怖いですか?
  1066. ドルマ: とっても怖い けど…
  1067. ドルマ: ひとりで乗り越える
  1068. ヘルカ: そうして私たちは町から出て これまで行ったことのなかった 知らない坂を並んで下っていきます
  1069. ヘルカ: そこには知らない景色が 広がっているはずなのに いつも見ている景色と 何も変わらないように思えます
  1070. ヘルカ: ただ、太陽の光で草葉がきらきらと 輝いていて…とってもきれいです
  1071. ヘルカ: 私たちは思い出話なんかをして 笑ったり、ちょっと悲しくなったりしながら 手を握り合い、長い坂を下っていきます
  1072. ヘルカ: 希望を信じよう 信じる私を示しつづけよう、と思いました
  1073. ヘルカ: 失敗しても、間違いだらけでも 諦めずに生きるということは きっとそういうことで…
  1074. ヘルカ: それは本当に素晴らしいことなんですから
  1075. ヘルカ: ドルマの手を強く握ります たとえ離れ離れになっても 私たちはずっと繋がっている…
  1076. ヘルカ: 戦いを終わらせ、ドルマを守り抜こう そう思える私は、とっても幸せなのでしょう
  1077. [Part 1 end]
  1078. -----
  1079. [Part 2 start]
  1080. FILENAME: text_519120-1_pKgJT.txt
  1081. <Side:ラビ>
  1082. モンゴル兵: はあ…気が重い
  1083. 指揮官: どうした、故郷が恋しくなったか
  1084. モンゴル兵: そりゃ遠征つづきですから 恋しくもなりますけど…
  1085. モンゴル兵: それよりも、こっち方面に 回されたのがいやなんですよ
  1086. 指揮官: …お前も惑わされているのか 例の邪教に
  1087. モンゴル兵: い、いえ!決してそんなことは
  1088. 指揮官: うん?待て 何だ…あいつらは…
  1089. ヘルカ教徒たち: 救いを得るため…
  1090. ヘルカ教徒たち: この地にシャンバラを もたらすため…
  1091. ヘルカ: …あれは、モンゴル兵
  1092. ヘルカ: 皆はここに留まるように これより先は私ひとりで行きます
  1093. モンゴル兵: ヘ、ヘルカ教のやつらだ!
  1094. 指揮官: ちっ…最近は行動が活発だな
  1095. 指揮官: 矢を放て! やつらを一網打尽にする!
  1096. モンゴル兵: し、しかし、そんなことすれば 仏罰が下るって…
  1097. 指揮官: そんなものは迷信だ! 早くしろ!
  1098. モンゴル兵: は、はい…
  1099. ヘルカ: …っ
  1100. ヘルカ教徒: ヘルカ様…!?
  1101. ヘルカ: …危ないではありませんか なぜ来たのですか
  1102. ヘルカ教徒: 皆、ヘルカ様が心配で…
  1103. ヘルカ: 私には仏様がついています 皆さんも何度も見てきたはず
  1104. ヘルカ: …私を信じなさい
  1105. 指揮官: …何とも、ないのか…? あんなに矢を受けたのに?
  1106. モンゴル兵: あ、ああ…これが奇跡… 噂は本当だったんだ
  1107. モンゴル兵たち: 「帰依せぬ者に罰を与え 信じる者に救済を与える… かのお方は如来様の化身 …救世主ヘルカ」
  1108. 指揮官: お、おい、お前たち なぜ武器を捨てる!?
  1109. モンゴル兵: これ以上弓を引いて仏罰が 当たったらどうするんです!?
  1110. モンゴル兵: 俺たちだって極楽に… シャンバラに行きたいんです!
  1111. 指揮官: うちの隊でも、こんなことに… くっ…将軍にお知らせせねば
  1112. ヘルカ教徒: モンゴル兵が武器を捨てています これで何度目か…
  1113. ヘルカ教徒たち: やはりヘルカ様は 救世主でいらっしゃる
  1114. ヘルカ: 衆生救済、極楽浄土…
  1115. ヘルカ: …もう戦う意思はありませんね?
  1116. モンゴル兵: はい…我々はあなた様を信じます
  1117. モンゴル兵: どうか我々もお救いください…
  1118. ヘルカ: …心配しなくていいですよ
  1119. ヘルカ: 私についてくれば きっと大丈夫ですから…
  1120. アレクサンドラ: モンゴルの人たちに教えを広めて 戦いをやめさせる…
  1121. アレクサンドラ: …驚くくらいに成功していますね
  1122. うらら: でも、なんか… ヘルカさんが怖いんよ
  1123. ラビ: …………
  1124. ヘルカ: …さあ皆さん、歩みを再開します 地平線の向こうへ行くのです
  1125. ヘルカ: 戦いのないシャンバラを この世にもたらすために
  1126.  
  1127. FILENAME: text_519120-2_pKgJT.txt
  1128. ヘルカ教徒: 皆、時が来たのだ
  1129. 住民たち: 「この町もヘルカ様につづいて 立ち上がるのよ!」
  1130. 住民たち: 「そうだ!憎きモンゴルを追い払え!」
  1131. モンゴル兵: こ、この!
  1132. ヘルカ教徒: ああ…っ!
  1133. ヘルカ教徒: 衆生救済、極楽浄土…
  1134. モンゴル兵: 来るな!
  1135. モンゴル兵: な、何なんだこいつら… 倒してもキリがない!
  1136. モンゴル兵: もう俺はいやだ! こんな戦い、どうかしている!
  1137. モンゴル兵: ぐあっ!
  1138. ヘルカ教のモンゴル兵: ヘルカ様に仇なす者は 全員敵だ!
  1139. ヘルカ教のモンゴル兵: …なっ!
  1140. モンゴル兵: 味方同士で 殺し合うことになるとは…
  1141. モンゴル兵: …というようなありさまです
  1142. ドロアダイ: そうか…我が軍は泥沼に足を 踏み入れてしまったようだな…
  1143. ドロアダイ: もっとも、わしが尼僧院を 落としていればよかったのだが…
  1144. モンゴル兵: …撤退しただけで将軍が こんなところに入れられるなんて
  1145. ドロアダイ: 仕方のないことだ
  1146. ドロアダイ: …で、わしの沙汰はどうなった? 近況報告だけではあるまい
  1147. モンゴル兵: 将軍が処罰を受けることは ありませんが…
  1148. モンゴル兵: ただ…モンゴルの力を見せるため 遠征を再開し
  1149. モンゴル兵: ヘルカ教徒どもの巣くう村を すべて焼き払え…とのことです
  1150. ドロアダイ: …離反者が大勢出るぞ
  1151. モンゴル兵: 主様のご命令です もし、逆らえば…
  1152. ドロアダイ: わしだけでなく お前たちも処刑されるか
  1153. ドロアダイ: …すまないな わしの部下になったばかりに
  1154. モンゴル兵: いえ…
  1155. ドロアダイ: 事ここに至っては是非もなし
  1156. ドロアダイ: どうせやるなら 徹底的にやってやるさ
  1157. ドロアダイ: …わしとて同胞を失った憎しみを 忘れたわけではないからな
  1158. うらら: よいしょっと…
  1159. アレクサンドラ: 結界の中にいたのは 使い魔だけでしたね
  1160. ラビ: 最近頻発するようになった… 何か仕掛けてきているのかも
  1161. ヘルカ: …………
  1162. ラビ: 疲れた、ヘルカさん?
  1163. ヘルカ: 魔女はもともと魔法少女 だったのですよね?
  1164. うらら: あ、うん…そうなんよ…
  1165. アレクサンドラ: ですが…ソウルジェムの穢れを とるためにも…
  1166. ヘルカ: ああ、はい、わかっています… いやだと言いたいんじゃなく
  1167. ヘルカ: 少なくともこの地では私を 最後の魔法少女にしないと…
  1168. みんな: …………
  1169. ヘルカ: …今日はここまでにしましょう
  1170. ヘルカ: 帰ってきたばかりなのに 手伝ってもらってすみません
  1171. アレクサンドラ: いえ、そんな…
  1172. うらら: あんまりムリしちゃダメなんよ?
  1173. ヘルカ: わかっています
  1174. ラビ: (…わかってない…)
  1175. うらら: はあ… やっと落ち着けるんよ
  1176. アレクサンドラ: 教えを広めるために転々と移動 したあと魔女退治でしたからね…
  1177. ラビ: …こんなふうに歴史に干渉して 大丈夫なもの?
  1178. ねむ: この程度なら問題はないよ それに…
  1179. ねむ: 「この尼僧院から誕生したラクシャーシー… 彼女がモンゴルとチベットの戦いを 終わらせることになる」
  1180. ねむ: 「ラクシャーシーが何なのかはわからないけど ヘルカのことを指しているのはまず間違いない」
  1181. ねむ: 「だから僕達は、モンゴルとの戦いが 終わったあと、彼女がラクシャーシーとしての 結末を迎えるまで見届ける必要がある」
  1182. ねむ: そうすれば無事、 お姉さんの概念は回収されるよ
  1183. アレクサンドラ: 本当に何なんでしょうね ラクシャーシーって…
  1184. うらら: ラクシャーシーとしての結末 っていうのも意味深なんよ
  1185. ラビ: わからないのはそこだけ… あとはすべて“記録の通り”
  1186. ねむ: そうだね、この尼僧院についても お姉さんがたどった通りだった
  1187. ねむ: だからなおさら、そこだけ わからないのが気になるね
  1188. ラビ: (ヘルカさんは何か知ってるふう だったけど…)
  1189. ラビ: (あの戦いのあと聞いてみても はぐらかされるだけだった…)
  1190. ラビ: (…どうして?)
  1191. アレクサンドラ: もしかして、禁句だったり…? 宗教的な理由で口にできないとか
  1192. うらら: うーん…そういえば経典とかは あんまり調べてなかったんよ
  1193. アレクサンドラ: 結構な量になりそうですからね…
  1194. アレクサンドラ: ですが、他に手がかりもないので 一度調べてみませんか?
  1195. ねむ: それはいいと思う
  1196. ねむ: 僕もすべてを把握している わけではないからね
  1197. うらら: そうなのん?
  1198. ねむ: 特定の宗派や僧院のみ伝わる 教えなどがあったら
  1199. ねむ: さすがに知りようがないから
  1200. うらら: そんなのがここにあるのん? 普通のお寺なんよ?
  1201. ラビ: 前のラマは色々と収集していた みたいだから、あるかもしれない
  1202. アレクサンドラ: ヘルカさんが そう言っていたんですか?
  1203. ラビ: ええ…モンゴルの風土や文化に ついて書かれたものもあるって
  1204. アレクサンドラ: 相手を知ろうとしていたんですね
  1205. ラビ: …逃げてしまったら意味はない
  1206. アレクサンドラ: そうですね…
  1207. うらら: とりあえず、読んでみるんよ ウチら文字も読めるんよね?
  1208. ねむ: もちろん
  1209. ラビ: (…何かわかるといいけど)
  1210.  
  1211. FILENAME: text_519120-3_pKgJT.txt
  1212. <Side:ドルマ>
  1213. ドルマ: …これでよし、と
  1214. 見習い僧: すっご~い 本当にモンゴル語で書けちゃった
  1215. ドルマ: モンゴル語っていっても 文字自体は別の国の文字よ
  1216. ドルマ: それを輸入して モンゴル式にしてるみたい
  1217. 見習い僧: 詳しい…さすが白い丘の教団 きってのモンゴル通…
  1218. ドルマ: もらった写本に事細かに 解説されてたから…それだけ
  1219. 見習い僧: へー、そんな写本があるなんて 知らなかった
  1220. ドルマ: ないわよ、そんなもの
  1221. 見習い僧: へ?
  1222. ドルマ: どうせラマ本人が書いたのよ 何が写本なんだか
  1223. 見習い僧: よくわかんないけど… もう持っていっていいのよね?
  1224. 見習い僧: このモンゴル宛ての交渉文
  1225. ドルマ: 来てもらって悪いけど あたしが直接持っていくわ
  1226. ドルマ: 座主に用があるって 呼ばれてるの
  1227. ドルマ: ヘルカのこと?
  1228. 座主: ああ、ここに来る前同じ尼僧院で 修行を積んでいたんだろう?
  1229. 座主: …あのヘルカ・ラマと
  1230. ドルマ: 修行なんてほどじゃないわよ
  1231. ドルマ: あの尼僧院は親を失った子が 保護されていただけの場所で
  1232. ドルマ: 特別な何かが行われていた わけではないの
  1233. 座主: ふむ…しかし師は自らの教えを モンゴルに広めることで
  1234. 座主: チベットへの侵攻再開を 大幅に遅らせている
  1235. ドルマ: モンゴル兵の中にもヘルカを 信仰する人が増えてるそうよ
  1236. 座主: ああ、そうだ…
  1237. 座主: 「そんなことを実現させてしまう人物が 特別な修行を積んでいないとなると… 生まれながらに師は特別だったと 認めなくてはならなくなる…」
  1238. ドルマ: 認めたくないの?
  1239. 座主: これは感情の話ではない… それを認めるということは
  1240. 座主: 師がこの世をお救いなさる 未来仏様だと認めることになる
  1241. ドルマ: …ちなみに巷ではヘルカは如来の 化身って言われるみたい
  1242. 座主: 意味するところは同じだ… やはり師は救世主なのだろうか?
  1243. ドルマ: ヘルカが特別であるのは 間違いないわ
  1244. ドルマ: でも、あたしにとっては ヘルカは、ヘルカのまま
  1245. ドルマ: 寝ぼすけでおっちょこちょいで そして、とっても優しい…
  1246. 座主: …いずれ君にはあの尼僧院へ 行ってもらうことになるだろう
  1247. ドルマ: ――っ!?
  1248. ドルマ: あたしが?
  1249. 座主: モンゴルとの和睦を進めるには 尼僧院との繋がりが不可欠だ
  1250. 座主: 君と師には交友があるようだし 適任だろう?
  1251. ドルマ: (こいつ…ヘルカを 利用しようっていうの?)
  1252. ドルマ: (とりあえずぶん殴っときたい けど…これは待ちに待った好機)
  1253. ドルマ: …ひとつ条件があるわ
  1254. 座主: ほう、条件とは?
  1255. ドルマ: 尼僧院への支援をお願いしたいの
  1256. ドルマ: やった!やったわ! ついにあたしは成功したのよ!
  1257. 見習い僧: 成功って?
  1258. ドルマ: 尼僧院にお金の援助を してもらえるの
  1259. ドルマ: ほら白い丘の教団ってたくさん 教団もあってお金もあるでしょ?
  1260. ドルマ: これでみんなも 安心して暮らしていけるわ
  1261. 見習い僧: …ねえドルマ、 前から言いたかったんだけど
  1262. 見習い僧: あなたはもううちの僧なのよ? それも座主に重用されてる…
  1263. 見習い僧: 育った場所を大切に思うのも わかるけど、使命を忘れないで
  1264. ドルマ: …使命?
  1265. 見習い僧: モンゴルと和睦を結んで 戦いを終わらせること
  1266. 見習い僧: ヘルカ教は正直、 その反対のことをしているわ
  1267. ドルマ: そんなわけないわよ…
  1268. ドルマ: ヘルカはね、みんなを守ろうと しているの、自分の身も顧みず
  1269. ドルマ: そのヘルカが戦いを煽るわけ ないじゃない
  1270. 見習い僧: 私は結果的にそうなっているって 言っているだけで…
  1271. 見習い僧: はあ…本当にドルマは ヘルカ・ラマを敬愛してるのね
  1272. ドルマ: ヘルカの話、聞きたい?
  1273. 見習い僧: え…そんなこと言ってない…
  1274. ドルマ: あのね、ヘルカはね…
  1275. 見習い僧: えええ…話し出した…
  1276.  
  1277. FILENAME: text_519120-4_pKgJT.txt
  1278. ドルマ: 故郷で暮らしていた頃…
  1279. ドルマ: その頃のあたしは引っ込み思案で 何をするにも自信が持てなかった
  1280. ドルマ: まあ、それは今も あんまり変わってないんだけど…
  1281. ドルマ: あたしと違ってヘルカは いつも確信に満ちていた
  1282. ドルマ: 早熟で、頭もよくて 同年代の中で一番背も高くて…
  1283. ドルマ: まあ、今じゃあたしの方が 背は高いんだけどね、ふふ…
  1284. ドルマ: とにかく…カリスマみたいなのが ヘルカにはあってね
  1285. ドルマ: だから同年代の子はみんな ヘルカについて回ったし…
  1286. ドルマ: あたしもそうだった ついていける自分が好きだったの
  1287. ドルマ: でも…正直に言うと 妬みもあったわ
  1288. ドルマ: 同じ日に生まれずっと一緒なのに どうしてこうも違うんだろう
  1289. ドルマ: ヘルカちゃんが羨ましい…!
  1290. ドルマ: いやだったなあ…そんな感情を 大好きなヘルカちゃんに持つのは
  1291. ドルマ: そんなとき、あたしはヘルカに連れられて 青い花が一面に咲く場所へ行ったの
  1292. ドルマ: この辺りじゃあの花は別にめずらしくないし そもそもあの花ってよく見たら不格好だし あたしは一度もきれいって思ったことないのに
  1293. ドルマ: あの景色は本当に、きれいだった…
  1294. ドルマ: 一輪一輪は不格好でも、きれいじゃなくても それでもあんなふうに きれいになれる場所があるんだって思えて…
  1295. ドルマ: 特別でも何でもないあたしでも 何かになれるような気がしたの
  1296. ドルマ: …あの青い花畑は どこにあったんだろう…?
  1297. ドルマ: あれから探しているのに 一度も見つからない
  1298. ドルマ: まあ、もう二度と見つからない 気がしてるんだけどね…
  1299. ドルマ: そういう場所だと思うから
  1300. ドルマ: とにかく…ヘルカは あたしにとって特別な存在
  1301. ドルマ: いつでも何度でも私を 助けてくれる本当に特別な…
  1302. ドルマ: …そんなふうに思ったのは あたしだけじゃなかったみたい
  1303. ドルマ: 昔、ヘルカと一緒に洞穴に行って 土砂崩れに巻き込まれてね 洞穴の中に取り残されたことがあったの
  1304. ドルマ: でも、偶然ヘルカが隙間を見つけて 指示されるまま泥や岩を取り除いたら そこから抜け出せたわ
  1305. ドルマ: そうしたら故郷のみんなはヘルカを 自分たちをモンゴル軍から救ってくれる 救世主だと、特別な存在だと言ったわ
  1306. ドルマ: あたしはそれがいやだった
  1307. ドルマ: ヘルカがみんなの特別なのはいや あたしだけの特別であってほしい
  1308. ドルマ: 救世主なんかに なってほしくない
  1309. ドルマ: あたしの大好きな ヘルカちゃんのままでいてほしい
  1310. ドルマ: あたしの言う特別は あんたたちの特別とは違うの!
  1311. ドルマ: …それなのに… あたしはダメなんだ…
  1312. ドルマ: 頭のどこかではヘルカのことを 救世主だと…
  1313. ドルマ: そういう意味での特別な存在だと 理解してしまっているのよ
  1314. ドルマ: あたしはそれを認めたくなくて かわりに特別になろうとしたの
  1315. ドルマ: あたしが特別であればヘルカが 特別になる必要はないでしょ?
  1316. ドルマ: けど全部失敗して…
  1317. 見習い僧: …ぐう…ぐう…
  1318. ドルマ: えええ…寝てる…
  1319. ドルマ: でもまあ…寝てくれてた方が いいか…喋りすぎたものね…
  1320. ドルマ: はあ、もう夜か…
  1321. ドルマ: 夜はいまだに怖い 故郷を燃やされたのが夜だったせい? 何にもできなかった自分を思い出すせい?
  1322. ドルマ: 違う…真っ暗闇にいると まるで信者になったかのように ヘルカに縋りつきそうになるから、怖い
  1323. ドルマ: ヘルカの友だちでいられなくなるのが怖いの
  1324.  
  1325. FILENAME: text_519120-5_pKgJT.txt
  1326. <Side:ヘルカ>
  1327. ラビ: ふう…
  1328. ねむ: どうだった?
  1329. ラビ: とくに何も…
  1330. うらら: ねえねえ、見つけたんよ!
  1331. うらら: この葉っぱにラクシャーシー のことが書いてあるんよ!
  1332. ねむ: それは葉っぱではなく貝葉だね 紙のかわりに…
  1333. うらら: うんちくはいいから ここを読んでみるんよ
  1334. ラビ: 「チベットの大地の下には ラクシャーシーが横たわっている」
  1335. うらら: ま、まあ…これだけなんよ…
  1336. ラビ: それでも充分…今まで何の 手がかりもなかったから
  1337. ねむ: …これはチベットの歴史について 書かれたものだね
  1338. ねむ: おそらく… 建国神話の記述だと思う
  1339. うらら: 悪いやつを倒して 平和な国をつくった…とか?
  1340. ねむ: そう…そういう類いのものだね
  1341. アレクサンドラ: …………
  1342. ラビ: サーシャ、何か見つけた?
  1343. アレクサンドラ: えっ…あ、いえ… …見つけたというほどでは
  1344. ラビ: そう?
  1345. ヘルカ: 皆さんここにいらしたんですね
  1346. ラビ: ヘルカさん
  1347. ヘルカ: 何をしているのですか?
  1348. うらら: あ、えっと…チベットのことを 色々勉強しようと思ったんよ
  1349. ヘルカ: そうでしたか…すみませんが 勉強は中断してもらえますか?
  1350. ラビ: 何かあった?
  1351. ヘルカ: はい…
  1352. ラビ: 村が…
  1353. ヘルカ: モンゴル軍に襲われたんです ここだけでなく他の村も…
  1354. ラビ: 尼僧院での戦い以降、向こうから 仕掛けてくることはなかったのに
  1355. ヘルカ: つまり、彼らは侵攻を 再開したのでしょう
  1356. うらら: よかった 生きてる人がいるんよ!
  1357. アレクサンドラ: 今手当を…
  1358. 住民たち: 「手当より…ああ、あなた様は救世主様…!」
  1359. 住民たち: 「家族の仇をとってください! 憎きモンゴルに復讐を…!」
  1360. ヘルカ: 皆さん…
  1361. 住民たち: 「モンゴルを倒してください どうかあの者たちにも地獄を…」
  1362. ヘルカ: …………
  1363. ヘルカ教徒: ヘルカ様、た、大変です!
  1364. ヘルカ: …また、モンゴル軍ですか?
  1365. ヘルカ教徒: はい、それも… 尼僧院に…!
  1366. ヘルカ: ――っ!?
  1367. 住民: 「早く火を消せ!」 「動ける者はいるか!?」
  1368. ラビ: ひどい…
  1369. ヘルカ: 私たちが空けている隙に…
  1370. モンゴル兵: ぐ、あ…
  1371. うらら: モ、モンゴル兵なんよ!
  1372. モンゴル兵: 救世主様、お逃げください… 将軍は、とうとう…羅刹に…
  1373. ラビ: 敵…ではない?
  1374. アレクサンドラ: おそらくモンゴル軍の中の 信者かと…
  1375. ヘルカ: ひどい怪我…辛かったですね
  1376. モンゴル兵: 戦わねば、命はないと…ですが どうしても、弓を引けず…ぐっ
  1377. モンゴル兵: こんな襲撃をこれから何度も 将軍は…だから、どうか…
  1378. ヘルカ: 心配はいりません 私を信じてください
  1379. ヘルカ: …あなたに安息が訪れますように
  1380. モンゴル兵: ありが、とう…
  1381. うらら: これから何度も襲ってくるって…
  1382. アレクサンドラ: そうやって私たちを消耗させる つもりなんでしょう
  1383. ヘルカ: 高く評価されたものですね… いえ、というより…
  1384. ヘルカ: もうなり振り構っていられなく なったのでしょうね
  1385. デキー: ヘ、ヘルカ様!!
  1386. ヘルカ: デキー…今度は…
  1387. ヘルカ: ――っ!?
  1388. デキー: ヘルカ様と入れ違いで来て 戦いに巻き込まれて…!!
  1389. ドルマ: …っ…あ…
  1390. ヘルカ: ドルマ…
  1391.  
  1392. FILENAME: text_519120-6_pKgJT.txt
  1393. <Side:ドルマ>
  1394. 座主: くれぐれも頼みましたよ
  1395. ドルマ: わかってるわよ、もう わかってるわかってる
  1396. ドルマ: あたしは尼僧院への支援を取りつけたかわりに 教団とヘルカの橋渡しをすることになった
  1397. ドルマ: 教団…白い丘の教団はモンゴルに勝てないと知り 和睦できないかと交渉を進めている あたしもそこに通訳として一枚噛んでいる
  1398. ドルマ: モンゴルへの憎しみがなくなったわけではない でも、教団からもたらされるモンゴルの情報を 知っていく中で勝利が現実的ではないと思った
  1399. ドルマ: だって今チベットを襲っているのは カーン…皇帝の次男が抱える4将のうちの1将 ドロアダイの軍だけ…他は別のところを攻めてる
  1400. ドルマ: モンゴル全軍でも皇帝直属の大軍でもない 本当にモンゴル軍のごく一部に過ぎない…
  1401. ドルマ: そんなごく一部によって あたしたちは滅亡の危機に瀕してたってわけ …勝てやしないわよ、そんな相手に
  1402. ドルマ: だから、モンゴルの動きが鈍い今のうちに 何とか和睦に持ち込めないかと 色々と考えていたのだけれど…
  1403. ドルマ: この村も、こんなに…
  1404. ドルマ: モンゴルの侵攻が再開し 至るところで村が襲われていた
  1405. ドルマ: この青い花…
  1406. 住民: 「救世主様の象徴です…私たちは その花に祈りを捧げているのです」
  1407. 住民: 「どうかモンゴルを打ち破り 私たちをお救いくださいと…」
  1408. ドルマ: 残念だけどモンゴルには勝てない 和睦して戦いを終わらせるしか…
  1409. 住民: 「そんなことはあり得ません!」
  1410. 住民: 「私たちは多くのものを やつらに奪われた… どうやってもやつらを 許すことはできない…!」
  1411. 住民: 「たとえ和睦しても私たちは 死ぬまで戦いつづけます! そこに私たちの救いがある!」
  1412. ドルマ: そんな…
  1413. ドルマ: ――っ!?
  1414. モンゴル兵: おっ、生き残りか みんな、こっちだ!
  1415. ドルマ: ま、待って… 戦う意思はないの
  1416. ドルマ: あたしの言葉、わかるわよね? あたしたち和睦を考えて…
  1417. ドルマ: きゃっ…!
  1418. モンゴル兵: つまらんことをベラベラと… 先にお前から始末しようか?
  1419. ドルマ: …くっ
  1420. モンゴル兵: なっ…待て!
  1421. ドルマ: 言葉がわかればどうにかなる 相手だって戦いをやめたがっているはず 和睦だってできるはず
  1422. ドルマ: 甘かった…きっとここまで来てしまったら とことん命を削り合わないと 戦いは終わらないんだ…
  1423. ドルマ: はあ…はあ…っ!
  1424. ドルマ: モンゴル兵に追われて逃げる… 故郷から逃げ出すときもそうだった
  1425. ドルマ: でも、あのときは ヘルカが手を握っていてくれた…
  1426. ドルマ: そう…どんなときにでもヘルカは あたしに手を差し伸ばしてくれて 私についてくれば大丈夫と言ってくれた…
  1427. ドルマ: ヘルカはあたしの光だった あたしだけの特別な希望…
  1428. ドルマ: だからそれはとってもきれいで どんなことがあっても大切にしなきゃって 守っていかなきゃって思ってたのに…
  1429. ドルマ: あ…ああ…
  1430. ドルマ: ようやく戻ってこれたと思ったのに あたしの大切な場所は炎に包まれていた
  1431. ドルマ: ヘルカが大事に育てていた青い花も あたしたちの思い出が刻まれた風景も またモンゴルによって汚されている
  1432. ドルマ: ヘルカ…! ヘルカちゃん!!
  1433. デキー: ド、ドルマ!? 帰ってきてたの!?
  1434. ドルマ: ヘルカちゃんは!?
  1435. デキー: ヘルカ様なら町の外!! 入れ違いだったんだね!!
  1436. ドルマ: そうなの…よかった…
  1437. モンゴル兵: 見つけたぞ、 尼僧院のやつらだ!
  1438. モンゴル兵: だ、大丈夫なんだろうな… 仏罰を受けるんじゃ…
  1439. モンゴル兵: やらなきゃ仏罰を受ける前に 処刑されるだけだぞ
  1440. ドルマ: …お前らか、こんなことをして あたしたちが何をしたって?
  1441. ドルマ: ただ生きてるだけなのに それがそんなに不満なの?
  1442. ドルマ: だったらもうムリじゃない 戦いをやめるなんてさ
  1443. モンゴル兵: こいつ、話せるのか
  1444. モンゴル兵: 聞くな、所詮たわごとだ
  1445. ドルマ: たわごとだと!!
  1446. モンゴル兵: なっ…無意味な真似はやめろ!
  1447. ドルマ: うるさいうるさい!!
  1448. ドルマ: お前たちはみんないなくなれ! お前たちみたいなのがいるから…
  1449. ドルマ: いるからさあ…!
  1450. ドルマ: ヘルカちゃんに 縋っちゃうんだろ…ッ!
  1451. デキー: ドルマ!!
  1452. ドルマ: ねえ、ヘルカちゃん
  1453. ドルマ: ここはいやだよ 怖くて汚いことばかりだから
  1454. ドルマ: 助けて、ヘルカちゃん こんな世界から救い出して…
  1455. ドルマ: …ヘルカちゃん
  1456. ドルマ: あたしやっぱり汚いね
  1457. ヘルカ: あ… 気がつきましたか、ドルマ
  1458. ドルマ: ヘルカちゃん…?
  1459. ヘルカ: はい、そうですよ…少し見ない 間に大人っぽくなりましたね
  1460. ドルマ: そんなことない あたし、何にも成長してない
  1461. ドルマ: …何度もさ、ヘルカちゃんを 助けたいって言ってたけど
  1462. ドルマ: あたし結局 助けられたかったみたい
  1463. ヘルカ: …………
  1464. ドルマ: だってさ、もう… どうしたらいいの?
  1465. ドルマ: ヘルカちゃんはわかるんでしょ? きっと解決できちゃうんでしょ?
  1466. ドルマ: ごめんね…こんなこと言われるの いやだって知ってるんだけど…
  1467. ドルマ: あの…ええと…
  1468. ヘルカ: …助けられたいのはドルマだけの 話ではありません
  1469. ヘルカ: 誰だってそうなんです
  1470. ドルマ: ヘルカちゃんは…?
  1471. ヘルカ: 私は…もういいんです ドルマに散々助けられましたから
  1472. ドルマ: あたしが?嘘よ、そんなの
  1473. ヘルカ: 嘘じゃないです
  1474. ヘルカ: また私が辛い思いをしないで済む ように手を焼いてくれていて…
  1475. ヘルカ: 私はそこにずっと甘えていた 過去の罪から逃げていた
  1476. ドルマ: 罪?故郷のことを言っているなら それはヘルカちゃんのせいじゃ…
  1477. ヘルカ: 少なくとも 私には希望を見せた責任がある
  1478. ドルマ: ――っ!?
  1479. ヘルカ: それは途中でやめてはならない 最後まで貫かないとならない
  1480. ドルマ: なんで…そこまで?
  1481. ヘルカ: 「私はそのためだけに生まれたからです」
  1482. ヘルカ: 「私は戦いを終わらせ、人々に安息をもたらす それだけを目指して生き、そのためだけに死ぬ そういうものになろうと心に決めたのです」
  1483. ドルマ: そんなの、悲しいじゃない
  1484. ヘルカ: いいえ… 私はとっても幸せなんですよ?
  1485. ヘルカ: ドルマを…大切なドルマちゃんを この手で守れるんですから
  1486. ドルマ: ヘルカちゃん…
  1487. ヘルカ: だから…つづきを言ってください
  1488. ドルマ: え、それは…
  1489. ヘルカ: 私に願おうとした言葉を 言ってください
  1490. ドルマ: …………
  1491. ヘルカ: 私なら、平気ですから
  1492. ドルマ: …ごめん…ごめんね…
  1493. ドルマ: …戦いを終わらせてください 救世主様…
  1494. ヘルカ: …………
  1495. ヘルカ: …大丈夫です、 私に任せてください
  1496. ドルマ: ほ、本当…?
  1497. ヘルカ: はい、 実はずっと策を進めていて
  1498. ヘルカ: あとは踏ん切りを つけるだけだったんです
  1499. ドルマ: 危険ってこと?
  1500. ヘルカ: いいえ、私なら大丈夫です 信じてください
  1501. ドルマ: うん、信じる
  1502. ドルマ: ヘルカちゃんの両親が両親であることをやめ 救世主を信じてるただの信徒になったとき ヘルカちゃんはとても傷ついていた
  1503. ドルマ: あたしはそれを知っていたのに ヘルカちゃんに縋りついてしまった
  1504. ドルマ: それはたぶん希望というものが あんまりにもまぶしかったせいだ
  1505.  
  1506. FILENAME: text_519120-7_pKgJT.txt
  1507. <Side:ヘルカ>
  1508. 元ラマ: …モンゴル軍がまた各地で 無法を行っているようです
  1509. 元尼僧院僧: モンゴル軍の中にもヘルカ教徒が 大勢いたのでは?
  1510. 元ラマ: 命に背けば家族もろとも… そう脅されては仕方ありません
  1511. 元尼僧院僧: …なぜそこまで…
  1512. 元ラマ: 簡単な話ですよ
  1513. 元ラマ: ヘルカがそこまでモンゴルを 追いつめたからです
  1514. ヘルカ: それだけではありません
  1515. 元ラマ: ――っ!?
  1516. ヘルカ: 私も最初はモンゴルが本気に なったのだと思いましたが
  1517. ヘルカ: …どうも別の要因が 絡んでいるようです
  1518. 元ラマ: ヘ、ヘルカ… ああいや、ヘルカ・ラマ
  1519. ヘルカ: 勝手に皆さんがそう呼ぶだけです どうぞ名前で呼んでください
  1520. ヘルカ: 尼僧院にいた頃のように
  1521. 元ラマ: …どうして、ここが?
  1522. ヘルカ: ずっと先生方を捜していたんです
  1523. ヘルカ: 間に合わないかと思いましたが なんとか網にかかってくれた…
  1524. 元ラマ: 我々を処罰しにきたのですか?
  1525. ヘルカ: 処罰?
  1526. 元尼僧院僧: モンゴル兵が怖くなり尼僧院から 君たちを置いて逃げたのです…
  1527. 元ラマ: 恨まれて当然だと思っています
  1528. ヘルカ: ああ、そうか…そういうふうに 変わっていたんでしたね
  1529. ヘルカ: 安心してください、そんなことで ここへ来たのではありません
  1530. ヘルカ: ともに重いものを 背負ってもらえるのが
  1531. ヘルカ: ラマ…あなたしか 思い浮かばなかったのです
  1532. 元ラマ: 重いもの…?
  1533. ヘルカ: はい…おそらく私はこのために モンゴル語が話せるようになった
  1534. ヘルカ: その共犯になってほしいのです
  1535. ヘルカ: あなたには私にモンゴル語を 教えた責任があるのですから
  1536. 座主: モンゴルと雌雄を決する!?
  1537. ドルマ: そう…それが尼僧院の回答
  1538. 座主: 和睦は、不可能だと?
  1539. ドルマ: …向こうにその気がないもの
  1540. ドルマ: 座主、腹を決めましょう モンゴルと決戦に臨むの!
  1541. ドルマ: きっと大丈夫、 ヘルカが救ってくれるから
  1542. 座主: しかし…
  1543. ドルマ: じゃあ他にどうすればいい?
  1544. ドルマ: どうすれば あたしたちは生き残れる?
  1545. 座主: …勝てるのでしょうか
  1546. ドルマ: ヘルカの奇跡で勝つ あたし、そう信じるようにしたの
  1547. ドルマ: 色々考えてたけど…今はもう 素直にヘルカを信じてたい
  1548. ドロアダイ: あの尼僧院で動きが…?
  1549. モンゴル兵: はっ、兵を集め こちらへ向かおうとしていると
  1550. ドロアダイ: 兵といってもやつらは 素人の寄せ集めではないか
  1551. ドロアダイ: もはや自棄だな
  1552. モンゴル兵: 尼僧院を攻めたのが 効いているのでありましょう
  1553. ドロアダイ: …我が方の離反者は?
  1554. モンゴル兵: 無視できない数が… 皆、沙汰を受けました…
  1555. ドロアダイ: …そうか…つまらんことに 巻き込んでしまった
  1556. ドロアダイ: 早くやつらを討ち、 戦いを終わらせねばな
  1557. モンゴル兵: しょ、将軍…! 尼僧院から使いが…
  1558. うらら: ごめんくださいなんよ
  1559. アレクサンドラ: あの…お久し振りです
  1560. ドロアダイ: 貴様らは…あのときの…
  1561. うらら: 大道芸師なんよ
  1562. アレクサンドラ: あ、はい…旅の一座の者です
  1563. モンゴル兵: 将軍、この者たちは?
  1564. ドロアダイ: あの尼僧院出身の奇術師だ 人質にしていたことがある
  1565. アレクサンドラ: はい、その節はどうも
  1566. ドロアダイ: それで…今さら何の用だ?
  1567. ラビ: 明日、尼僧院は人々を連れ ここにやってくる
  1568. ラビ: 決戦の前に会談がしたい …とのこと
  1569. ドロアダイ: 会談… いいだろう、引き受けてやる
  1570. モンゴル兵: 将軍、危ないのでは?
  1571. ドロアダイ: 一度、ヘルカ・ラマと話して みたいと思っていたのだ
  1572. ドロアダイ: それで…はじめて見るな そいつがはぐれていた仲間か?
  1573. アレクサンドラ: あ、はい…抜け出してから 合流できて…
  1574. ドロアダイ: そうか、わしが言うのも妙だが 無事でよかったな
  1575. ラビ: …そんなふうに言えるのに なぜ戦う?なぜあんな真似を?
  1576. ラビ: あなただってそれが正しくないと 知っているはず
  1577. ドロアダイ: …子ども染みたことを
  1578. ドロアダイ: ともかく、決戦は承知したが 場所と日時は変えさせてもらう
  1579. ラビ: え?
  1580. ドロアダイ: モンゴルに… 我らが草原に来い
  1581. ラビ: ――っ!?
  1582. ドロアダイ: 何か策を練っていたのだろうが そんなものに付き合う義理はない
  1583. ドロアダイ: 我らの地で勝敗を決しよう 正々堂々と、な
  1584.  
  1585. FILENAME: text_519120-8_pKgJT.txt
  1586. みんな: かんぱ~い!
  1587. ヘルカ: ごくごく…
  1588. ヘルカ: ぷはー!甘い! もう一杯!
  1589. うらら: えええ…これ、 すごくしょっぱいんよ
  1590. アレクサンドラ: バター茶という飲み物ですね チベットではよく飲まれてます
  1591. うらら: ふーん…戦いばっかりで 飲む時間が全然なかったんよ
  1592. アレクサンドラ: そうですね…
  1593. ヘルカ: といっても、明日からモンゴルへ 遠征することになりますけどね~
  1594. ヘルカ: だから今日はとことん飲みますよ みんなも無礼講ですよ~
  1595. ラビ: (ヘルカさん、楽しそう…)
  1596. ヘルカ: ぷっは~!あま~い!
  1597. うらら: もしかしてバター茶の飲みすぎで 味覚がおかしくなってるんじゃ…
  1598. ヘルカ: あはは…味覚は正常ですよ 本当はバター茶はしょっぱいです
  1599. ヘルカ: でも私は、甘いと信じるように しているんです
  1600. ラビ: どういうこと?
  1601. ヘルカ: 小さい頃の話なんですけど…
  1602. ヘルカ: 「私はバター茶を甘い飲み物だと信じていて ずっと飲みたいって思っていたんですね… 母がバター茶嫌いで家では出なかったので」
  1603. ヘルカ: 「甘い飲み物なんて飲んだことがないから 本当に欲しくてほしくて…駄々をこねてたら おばあちゃんがバター茶を淹れてくれたんです とっても甘いバター茶を」
  1604. ラビ: それは本当に甘いってこと?
  1605. ヘルカ: はい、 砂糖を入れてくれてたんです
  1606. ヘルカ: 私の夢を守るために身の回りの ものを売ってあの高価な砂糖を…
  1607. ヘルカ: 「おばあちゃんは最期まで私の夢を 守ってくれました…いいえ、私の夢を 現実にしようとしてくれていたのです」
  1608. ヘルカ: 「だから私も、最期まで信じようと思ったんです それが遺された私の唯一の弔いになりますし…」
  1609. ヘルカ: 「おばあちゃんが一生懸命してくれたことを 無意味なものにしたくなかったんです」
  1610. アレクサンドラ: …それで頑なに甘いと 信じてるわけなんですね
  1611. うらら: ヘルカさん… もっと飲むんよ
  1612. ヘルカ: わっとっと…えへへ なみなみ注がれてます
  1613. ヘルカ: 私、こうやっている間が 一番好きなんです
  1614. ヘルカ: みんなでお喋りして バター茶飲んで
  1615. ヘルカ: ずっとこういうのが つづけばいいのに
  1616. アレクサンドラ: ずっと飲んでいたらお腹が たぷたぷになりますよ
  1617. ヘルカ: ひええ…それは大変です
  1618. みんな: あはははは
  1619. ラビ: …ふふ
  1620. ラビ: …異常はなし
  1621. ねむ: 見回りなんてせずにみんなと 楽しんでいればよかったのに
  1622. ラビ: そういうわけにもいかない
  1623. ねむ: 損な性格だね…
  1624. ラビ: モンゴルと決戦をするって ヘルカさんは言っているけど…
  1625. ラビ: 環さんのたどった歴史だと チベットはどうなるの?
  1626. ねむ: 決戦については 何も記録はないけど
  1627. ねむ: 他の記録を見るに おそらく敗れたと思うよ
  1628. ラビ: …やっぱりこの戦いのあと 尼僧院のみんなは…
  1629. ヘルカ: 見回りですか?
  1630. ラビ: …ヘルカさん
  1631. ヘルカ: そんなのしなくても大丈夫 戻りましょうよ
  1632. ラビ: 余裕なんだ
  1633. ヘルカ: 余裕っていうか、彼らの将軍は 決闘状を叩きつけられて
  1634. ヘルカ: 夜襲を仕掛けるような人物では ないはずですから
  1635. ラビ: …よくわかる
  1636. ヘルカ: こういうの得意なんですよ、私
  1637. ヘルカ: ほら、誰にだって得意なものが あると思うんですけど
  1638. ヘルカ: 私の場合それは人を騙したり、 意表を突いたりすることなんです
  1639. ヘルカ: 小さい頃から本当に得意で… よく男の子を泣かしたものです
  1640. ラビ: そ、そう…
  1641. ヘルカ: …それが今や救世主 ふふ…もしかすると…
  1642. ヘルカ: 救世主というのは稀代の 詐欺師のことかもしれませんね
  1643. ラビ: …今夜は本当に上機嫌
  1644. ヘルカ: いいじゃないですか、今夜くらい
  1645. ヘルカ: …………
  1646. ヘルカ: …私、よくやりましたよね?
  1647. ラビ: なんで私に聞く?
  1648. ヘルカ: 近くで見ていてくれましたし… 背中も押してくれましたから
  1649. ラビ: たいしたことはできてない
  1650. ヘルカ: …そうでもないですよ
  1651. ヘルカ: きっとみんな何かの因果があって ここにいる
  1652. ヘルカ: 誰かが欠けていたら ここまでやってこれなかったはず
  1653. ラビ: …私たちもそこに含まれる?
  1654. ヘルカ: 当たり前じゃないですか
  1655. ヘルカ: 本当にありがとうございました 心から感謝しています
  1656. ラビ: …これで最後じゃない だから、お別れみたいなことは…
  1657. ヘルカ: いいえ、それは違います
  1658. ヘルカ: 「これで最後にするんです」
  1659. ヘルカ: ようこそいらっしゃいました
  1660. 座主: これは…ヘルカ・ラマ お目にかかれて光栄です
  1661. ヘルカ: いえ、こちらこそ資金の援助を いただき、ありがとうございます
  1662. 座主: 戦費もかさみましょう… いくらでもお使いください
  1663. ヘルカ: ああ、いただいた資金はすべて 尼僧院の運営に回します
  1664. ヘルカ: 戦いでは使いません
  1665. 座主: そう、なんですか…?
  1666. ヘルカ: ともかく、白い丘の教団は 大きな教団…皆を先導できる立場
  1667. ヘルカ: なので…これからのチベットを よろしくお願いします
  1668. 座主: ――っ!?
  1669. ドルマ: ヘルカ、準備はできた?
  1670. ヘルカ: はいはい、大丈夫ですよ
  1671. ドルマ: 座主も本当についてくるの?
  1672. ヘルカ: はい、私が見届けてもらうよう お願いしていましたので
  1673. ドルマ: どうして、また…
  1674. ヘルカ: これも必要なことなんです 信じられませんか?
  1675. ドルマ: うん、まったく
  1676. ヘルカ: なっ、ななな…っ!
  1677. ドルマ: 嘘だって!信じてるから
  1678. ヘルカ: か、からかったのですか? 許せません!
  1679. ヘルカ: ぷんすかー!ぷんすかー!
  1680. ドルマ: なによ、それ…
  1681. ヘルカ: もう、行きますよ ラビさんを待たせてるんですから
  1682. 座主: ドルマ、行かないのか?
  1683. ドルマ: 行くけど…
  1684. ドルマ: ヘルカ、なんであんなに 浮き足立ってるんだろう…
  1685.  
  1686. FILENAME: text_519120-9_pKgJT.txt
  1687. ヘルカ: チベットを発ってから 何日も歩きましたが…
  1688. ヘルカ: ようやくモンゴルの地に 足を踏み入れましたね
  1689. ヘルカ教徒たち: こ、ここが…モンゴル 憎き者たちの地…
  1690. ヘルカ: (はじめて来たとは思えないほど チベットに似た景色…)
  1691. ヘルカ: (モンゴルが支配してるだけで チベットに近い文化なのかも…)
  1692. ヘルカ: (それとも、ここも もとはチベットだったのか…)
  1693. ドルマ: ねえ、これでもあたし通訳なの
  1694. ドルマ: 会談でもバシバシ訳すから 安心してていいわよ
  1695. うらら: あ、あー、でも…別に 大丈夫かもしれないんよ
  1696. ドルマ: 水くさいわね、遠慮しないの あたしが完璧に訳してあげるから
  1697. ドルマ: 大船に乗った気持ちでいなさい! わはは
  1698. アレクサンドラ: あの…張り切ってもらってるのに 本当に申し訳ないんですが…
  1699. うらら: 実は、ウチらも モンゴル語わかるんよ
  1700. ドルマ: は?
  1701. ラビ: 通訳は必要ない
  1702. 座主: それで言うと私も 会話くらいなら…
  1703. ドルマ: え、ちょ…ちょっと待って だったらあたし、誰の通訳…?
  1704. ヘルカ: …あとでもうひとり来ます その方の通訳をお願いします
  1705. ドルマ: もうひとり?
  1706. モンゴル兵: 止まれ!止まれ!
  1707. モンゴル兵: ここからは代表団だけで来い 妙な真似はするなよ
  1708. ヘルカ: ここからも何も… ゲルはすぐそこでは?
  1709. モンゴル兵: 会談場所は別に用意してある
  1710. ヘルカ: ――っ!?
  1711. ドルマ: ヘルカ?
  1712. ヘルカ: と、ともかく… お断りします
  1713. モンゴル兵: な、なに?
  1714. ヘルカ: 私たちは一蓮托生、 決して離れません
  1715. ヘルカ: …さあ私たち全員を 案内してください
  1716. モンゴル兵: …………
  1717. モンゴル兵: 大人しくはしていてくれ… 俺の責任になる
  1718. ヘルカ: 大丈夫です、あなたが責任を 取ることはまずありません
  1719. ヘルカ: (この数の相手が暴れ出したら たまらなかったのでしょう)
  1720. ヘルカ: (受け入れがたい様子でしたが 要求を呑んでくれましたね)
  1721. ヘルカ: ここは…
  1722. ドルマ: …チベットの僧院そっくりね
  1723. ドロアダイ: この辺りは貴様らの教えが 前々から広まっていたからな
  1724. ドロアダイ: 貴様らの行く末を示すにちょうど いいと思い、場所に選んだのだ
  1725. ヘルカ: くだらないことをするんですね
  1726. ドロアダイ: それは貴様らもだ… ぞろぞろと連れてきよって
  1727. ドロアダイ: …ここで戦う気か?
  1728. ヘルカ: そんなつもりはありません ただの手土産ですよ
  1729. ドロアダイ: 手土産?
  1730. ヘルカ: あ、そうです、自己紹介が… どうも、尼僧院のヘルカです
  1731. ドロアダイ: 知っている…遠目ではあるが 貴様の顔を見たことがあるからな
  1732. ヘルカ: ふむ…
  1733. ヘルカ: (まさか場所を変えられるとは… ですが、どうにかなりました)
  1734. ヘルカ: (これだけ人を入れられたのです …目的は達成されるでしょう)
  1735. ドロアダイ: …貴様とは一度話してみたいと 思っていた
  1736. ヘルカ: 光栄です
  1737. ドロアダイ: 世辞ではない…貴様によって モンゴル軍に亀裂が入っている
  1738. ドロアダイ: 貴様は決戦を申し出て、尼僧院の 被害を抑えたつもりだろうが
  1739. ドロアダイ: 一番抑えているのは モンゴル軍の被害なのだ
  1740. ドロアダイ: …離反や反乱が多発してな 攻めるほど我が方が危険だった
  1741. モンゴル兵: 将軍、余計なことは…!
  1742. ドロアダイ: わしは事実を言っているだけだ
  1743. ドロアダイ: それも、たったひとりのおなごに よってもたらされた事実を!
  1744. ヘルカ: 強迫されて戦っているのです もともと士気は高くなかったのでしょうが そこまでモンゴルを追いつめていたとは 思いもしませんでした
  1745. ヘルカ: 計画を変更してモンゴルに徹底抗戦する? いや、それで戦いに勝利したとしても 多くの人は傷つき、倒れ、国土も荒れ果てる…
  1746. ヘルカ: そんな状態では自立してやっていくことが きっとできないでしょう
  1747. ヘルカ: そもそも戦いの勝利など、つまらないです 私はそんなつまらないもののために 自分の生を懸けるつもりはありません
  1748. ヘルカ: 私は、戦いをなくしたいのです
  1749. ヘルカ: 随分私を 評価してくれているんですね?
  1750. ドロアダイ: ここまで無様な戦いを強いられた のは貴様がはじめてだからな
  1751. ドロアダイ: その不可解な力抜きにしても 貴様の知謀は怖れに値する
  1752. ヘルカ: …そこまで褒められると なんだかむず痒いですが…
  1753. ヘルカ: しかし、よかったです
  1754. ドロアダイ: 褒められてか?
  1755. ヘルカ: いいえ…うまくいきそうなので
  1756. ヘルカ: そろそろ、はじめましょうか 戦いをなくすための戦いを
  1757. ヘルカ: さて将軍、私をモンゴルの将に してもらえませんか?
  1758. みんな: ――っ!?
  1759.  
  1760. FILENAME: text_519120-10_pKgJT.txt
  1761. ヘルカ: みんな、私が何を言っているのか わからないといった様子ですね
  1762. ヘルカ: (…大丈夫、うまくやれる)
  1763. ヘルカ: ここに集めた者たちは現在 モンゴルに逆らう指導者たち…
  1764. ヘルカ: それに反徒が丸ごと 揃っています
  1765. ヘルカ: 全員、差し上げますよ
  1766. 座主: 差し上げる…? ラマは我々を売るつもりか!
  1767. ヘルカ: 他にどう聞こえるんですか? 少しは頭を使ってくださいよ
  1768. 座主: なっ…
  1769. ヘルカ: すみませんね将軍、この者たちは ずっとこんな調子で…
  1770. ヘルカ: まったく、使えない
  1771. ヘルカ: 胸にずきっとした痛みが走っても ここでやめるわけにはいきません
  1772. ヘルカ: 乗ってきなさい… 種は撒いてあげますから
  1773. ドロアダイ: …それは何の芝居だ?
  1774. ヘルカ: 芝居?いや、芝居をしてたのは むしろ今まで
  1775. ヘルカ: こんな使えないやつらと 心から笑えるわけないでしょう?
  1776. うらら: ヘルカさん、 なんでそんなこと言うのん…?
  1777. アレクサンドラ: 嘘…ですよね?
  1778. ヘルカ: ほら、この期に及んでも まだこんなことを言う…
  1779. ヘルカ: あなた方は裏切られたんです いい加減、理解してくださいよ
  1780. ラビ: …どういうこと? さっきからどうして嘘を?
  1781. ヘルカ: 嘘じゃなくて本当なんですがね
  1782. ラビ: 信じられない…
  1783. ヘルカ: 顔に出すな 心に羅刹を宿しなさい
  1784. ヘルカ: さあ将軍、 この者たちを捕らえてください
  1785. ヘルカ: そしてあとは私にお任せを
  1786. ヘルカ: チベットなど私が数日のうちに 攻略してみせますよ
  1787. ヘルカ: 早く…早く乗ってきなさい モンゴルも相当痛手を被っていたと 言っていたではありませんか?
  1788. ヘルカ: 戦いを終わらせるちょうどいい口実が 目の前にぶら下がっているではないですか?
  1789. ヘルカ: その幕の裏にいるあなた… あなたには私の意図が通じるはずです
  1790. ヘルカ: 皇族ならこの手の駆け引きは お手のものでしょう?
  1791. ???の声: …捕らえるのはお前の方だ ヘルカ・ラマ
  1792. ヘルカ: 乗ってきた…!
  1793. うらら: だ、誰なんよ?
  1794. アレクサンドラ: あの幕から声がしたような…
  1795. ドロアダイ: 無礼であるぞ!
  1796. ドロアダイ: あちらにおわすお方は チベット遠征軍の総大将にして
  1797. ドロアダイ: モンゴル帝国第2皇子 コデン様でいらっしゃる!
  1798. ラビ: モンゴル帝国の…
  1799. アレクサンドラ: …皇子
  1800. コデン: 「ドロアダイ、余はこれでも教えを 信仰していてな、経典も毎夜読むのだ」
  1801. コデン: 「昨夜読んだところに 人を惑わす魔の女が出てきたが…」
  1802. コデン: 「ヘルカはまさにそれだ 羅刹女…ラクシャーシーだ」
  1803. ラビ: ――っ!?
  1804. ドロアダイ: ラクシャーシー…そんなものが
  1805. コデン: 「この戦いの元凶はラクシャーシーにある… ラクシャーシーが人々を惑わせ 多くの命を奪ったのだ」
  1806. コデン: 「チベットの者たちよ! ともにラクシャーシーを討とうではないか」
  1807. コデン: 「我々は戦友に礼儀は尽くす… これまでと変わらぬ統治も確約しよう」
  1808. 座主: つまり…チベットの 内政に口は出さないと…?
  1809. コデン: 「帝国という連合体をともにつくる …それくらいの認識でよい」
  1810. ドロアダイ: ほ、本当によろしいのですか?
  1811. ドロアダイ: 確かに我らは元来、内政には口を あまり出してきませんでしたが…
  1812. ドロアダイ: お話ではまるでチベットを我らと 対等のように扱うと聞こえ…
  1813. コデン: 「そう言っている」
  1814. コデン: 「悪を討ってめでたしめでたし…」
  1815. コデン: 「それでよいではないか」
  1816. ヘルカ: (ふっ…)
  1817. ヘルカ: 期待した流れだからといって 笑ってはいけません
  1818. ヘルカ: そう…モンゴルからすれば面倒な教徒を 黙らせるための理由がほしい
  1819. ヘルカ: 私が救世主ではなく魔の者だったなど 彼らからすれば最高の理由だったはず いや、間違いなくそうなんでしょう
  1820. ヘルカ: だからコデンはかなり譲歩した条件を 私に提案してきている
  1821. ヘルカ: このまま私が大人しく死んでくれれば チベットは助けてやる、と…
  1822. ヘルカ: ああ、よかった… 私はうまくやれたみたいです
  1823. ラビ: ラクシャーシーが 戦いを終わらせ…
  1824. ラビ: ラクシャーシーとしての 結末を迎える…
  1825. ラビ: …まさか、それって…!
  1826. アレクサンドラ: …………
  1827. ラビ: …気づいてたの?
  1828. アレクサンドラ: 経典を調べていたときに 出てきて…
  1829. アレクサンドラ: ですが… こんなふうになるなんて…
  1830. ドルマ: いい加減にしてよ!!
  1831. ラビ: ドルマさん…
  1832. ドルマ: ラクシャーシーだか何だか 知らないけど
  1833. ドルマ: ヘルカがそんなもののわけ ないじゃない!
  1834. 座主: しかし、彼女が不可解な力を 持っているのも事実
  1835. 座主: 救世主ではなくラクシャーシー だったと考える方が納得がいく
  1836. ドルマ: 座主、あんた…
  1837. ドルマ: ヘルカがいなくなれば 自分の教団がチベットを導ける…
  1838. ドルマ: そう思っているんでしょ?
  1839. 座主: …………
  1840. ドルマ: そうよ、白い丘の教団からすれば モンゴルよりヘルカの方が脅威
  1841. ドルマ: だからか…だからなのよね? ヘルカが座主をここに呼んだのは
  1842. ドルマ: 自分を悪にするチベット側の声が ほしかったんでしょ?
  1843. ドルマ: あたしたちを守るために!
  1844. ヘルカ: …………
  1845. ドルマ: ねえ…それのどこが、悪なのよ そんなのって…
  1846. ヘルカ: ドルマ…あなたがそうやって抵抗するのは 最初からわかっていました
  1847. ヘルカ: だから、手は打っています あなたを黙らせるための…
  1848. モンゴル兵: 失礼します! 証人が到着しました
  1849. ドロアダイ: 証人?何のだ?
  1850. モンゴル兵: そこのヘルカの悪行を皆様に お伝えする証人です
  1851. ドルマ: あ、あんた…
  1852. 元ラマ: 私は尼僧院でラマと 呼ばれていた者です
  1853. 元ラマ: ヘルカに命を狙われる 前までは…ですが
  1854.  
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  1856. ドルマ: あんた、何を言って…
  1857. 元ラマ: 私はヘルカが人ではない何かだと 随分前から気づいていました
  1858. 元ラマ: そこで彼女を調べましたら… 夜な夜な異形の姿になっており…
  1859. 元ラマ: ラクシャーシーの前では私など 赤子の手を捻るようなもので…
  1860. 元ラマ: 他の僧たちも戦いましたが 残念ながら敗れてしまいました
  1861. 元ラマ: そして私たちは命からがら 落ち延びたというわけです
  1862. ドロアダイ: …そこの者は誰だ? 何と言っている?
  1863. ヘルカ: ドルマ、訳してください
  1864. ドルマ: いやよ…なんであたしが、そんな 嘘を言わなくちゃいけないの
  1865. ドルマ: それにあんた、 本当は話せるじゃない
  1866. ドルマ: あたしたちにモンゴル語を 教えたのはあんたじゃない
  1867. 元ラマ: …そんな覚えはありません 私は写本を渡しただけ
  1868. 元ラマ: ヘルカの悪行をモンゴルの方々に 伝え届けるために!
  1869. ドルマ: 嘘ばっかり言わないで!
  1870. ヘルカ: 早く訳しなさい!
  1871. ドルマ: なんでよ…なんであたしに 言わせようとするの…?
  1872. ドルマ: ねえ、ヘルカちゃん… なんであたしなのよ!!
  1873. 座主: ドルマ、あなたは通訳として この場にいます
  1874. 座主: その責務が果たせないのなら あなたがこの場にいる資格はない
  1875. ドルマ: ――っ!?
  1876. ドルマ: こ、これ…?このために ラマまで呼んだの…?
  1877. ヘルカ: そう、ドルマは放っておけば きっと私を守ろうとする…
  1878. ヘルカ: ただでさえ同じ故郷で 双子のように育ったのです
  1879. ヘルカ: そんな立ち振る舞いをしてしまえば… ドルマまでラクシャーシーだと思われる
  1880. ヘルカ: そんなことは絶対にさせません 私は、守るんです…ドルマを!
  1881. ヘルカ: はっ…こんな証人が出てきたら お手上げですね
  1882. ドロアダイ: どういうことだ?
  1883. ヘルカ: この坊主は前のラマでしてね… 私の正体を見てしまったんです
  1884. ヘルカ: だから消えてもらおうと 思ったんですが逃がしてしまい…
  1885. ドロアダイ: …ほう、正体を見たと
  1886. ドロアダイ: そこの通訳、 貴様は同じ尼僧院にいたな?
  1887. ドロアダイ: 貴様も見たことがあるのか?
  1888. ドルマ: ないわよ、そんなの! 全部でたらめなんだから…!
  1889. ドロアダイ: 貴様は随分とヘルカを 擁護しているようだが…
  1890. ドルマ: ヘルカが嘘をついているからよ
  1891. ドルマ: この子はみんなを守るために 自分を犠牲にしようとしてるの!
  1892. ドロアダイ: そんなことをすれば処刑される… 命を投げ打ってまで普通はしない
  1893. ドロアダイ: いや、命だけならまだしも 悪名としてその名が歴史に刻まれ
  1894. ドロアダイ: 未来永劫 蔑まれることになるんだぞ!
  1895. ドルマ: ヘルカは普通じゃないの、 特別なのよ!
  1896. ドロアダイ: 特別であったとしても、家族まで 累が及ぶことになる…あり得ない
  1897. ドルマ: ヘルカに家族はいないわ あんたたちがそうしたもの!
  1898. ドロアダイ: なに…?
  1899. ドルマ: あたしたちの故郷は あんたたちに燃やされたのよ!
  1900. ドロアダイ: …同郷というわけか そして同じ尼僧院に…
  1901. ドロアダイ: 随分と庇い立てをするなと 思っていたが、貴様…
  1902. ドロアダイ: ラクシャーシーなのか?
  1903. ヘルカ: まずい…!
  1904. ヘルカ: こんな出来損ないが ラクシャーシーなわけないですよ
  1905. ヘルカ: こいつはね、小さい頃から 私の足を引っ張ってばかりで…
  1906. ヘルカ: それなのに変に懐かれて まったく、めいわ…
  1907. ヘルカ: …っ 苦しい…これ以上の言葉を ドルマに対してつづけたくない…
  1908. ヘルカ: だけど…自分に鞭を打て、ヘルカ…! ここでやめてしまっては台なしです
  1909. ヘルカ: さあ言うんです、沈黙は誤解を生む 言うんだ…!
  1910. ヘルカ: お前はドルマを救うんだろう?
  1911. ヘルカ: そのために特別になったんだろう…ッ!
  1912. ヘルカ: ドルマは…迷惑でしかなかった 嫌いだったんです、心から
  1913. ドルマ: ヘ、ヘルカ…
  1914. ヘルカ教徒: ドルマさんにあんなことを…
  1915. ヘルカ教徒: ドルマさんは誰よりあんたに 尽くしていたじゃない!
  1916. ドルマ: やめて、みんな!
  1917. ドルマ: わかってる、嘘だって ちゃんとわかってるから…
  1918. ドルマ: けど… 嘘でもそんなこと言わないでよ…
  1919. ヘルカ: …っ
  1920. ヘルカ: …おめでたいですね そんなふうだから騙されるんです
  1921. ヘルカ: 故郷のみんなを殺したのは 私なのに
  1922. ヘルカ: ドルマのお母さんを殺したのも 全部私なのに!
  1923. ドルマ: そ、それは… ヘルカのせいじゃないでしょ!
  1924. ドロアダイ: ヘルカのせい?
  1925. ドルマ: あっ、ちが…違うの!
  1926. ヘルカ: 何にも違いませんよ!
  1927. ヘルカ: 故郷のみんなを 殺したのは私なんです
  1928. ヘルカ: ちょっとした実験でしてね
  1929. ヘルカ: 術でどこまで 人を操れるか試したんです
  1930. ヘルカ: あなた方から逃げるために 囮に使ってね
  1931. ヘルカ: そう、私に利用されていただけ… ドルマだけじゃなくみんなも そうなんだと信じさせないと…
  1932. ヘルカ: 「尼僧院に行ったのだって 都合がよかったからです」
  1933. ヘルカ: 「あそこに集まっている子どもなら ひとりふたりいなくなったって」
  1934. ヘルカ: 「大ごとにはならないですからね」
  1935. ヘルカ: ここのみんなも私に欺されていただけ ラクシャーシーとは無関係… そういうことにすればみんなを守れる
  1936. ヘルカ: そこのやつらも同じ… 都合がよかった
  1937. ヘルカ: すぐに私を信じるから 駒として使いやすかったです
  1938. ヘルカ: 私の力で みんなを救うことができる
  1939. ヘルカ: こいつらも適当な村を 略奪させようと思ったんですが…
  1940. ヘルカ: 要領が悪くて何の役にも立たない
  1941. ヘルカ: 金にならないんなら こんなやつらなんていりませんよ
  1942. ヘルカ: そう、金です!世の中金なんです 何が救世だ、バカバカしい
  1943. ヘルカ: うれしくって仕方がありません みんなを守ることができて
  1944. ヘルカ: いいんでしょうか…? 私なんかがこんなに報われて… こんなに価値のある生を送れて…
  1945. モンゴル兵: 自分の同胞を そこまでこけにするとは…
  1946. モンゴル兵: こんなやつに御仏の加護など あるわけがない…!
  1947. ヘルカ教徒: …前から裏があると思ってた 自分のことを救世主なんて言って
  1948. ヘルカ教徒: ラマだって勝手に名乗ってたのよ 私たちを欺そうとして…!
  1949. ドロアダイ: そう、すべて邪術… こいつはラクシャーシーだ!
  1950. 人々: 「ラクシャーシー! 悪しきラクシャーシー!!」
  1951. ヘルカ: 憎しみが増幅していく… まるでそうせざるを得ないかのように
  1952. ヘルカ: …やはり来ているんですね
  1953. ドロアダイ: こやつの処断を求めるか! それとも、寛容を示すか!
  1954. 人々: 「処断を!処断を!」
  1955. ドロアダイ: チベットの民の総意を得た ラクシャーシーを処断する!
  1956. ドルマ: 待って、なんでそうなるの!
  1957. モンゴル兵: …お前もいい加減目を覚ませ これがやつの本性なんだ
  1958. ヘルカ: 兵たちがドルマを哀れんでいる… これなら、問題はないでしょう
  1959. ヘルカ: ドルマは私に騙された哀れな被害者 ラクシャーシーだと疑われることはない
  1960. ドロアダイ: ついてこい!
  1961. ドルマ: 待ってヘルカ!
  1962. モンゴル兵: よさないか!
  1963. ドルマ: ヘルカちゃん…ッ!
  1964. ヘルカ: ドルマ… 泣かないでください…
  1965. ヘルカ: まだ戦いは終わっていないのですから
  1966. ヘルカ: ようやく会えますね…魔女
  1967. モンゴル兵: こ、こいつ化けたぞ!
  1968. モンゴル兵: ラクシャーシーが逃げた! 追え、追え!
  1969. ヘルカ: 倒してみせる… あなたをおびき出すために ここまでしたのですから
  1970. ヘルカ: 魔女、すべての元凶…!
  1971.  
  1972. FILENAME: text_519120-12_pKgJT.txt
  1973. ヘルカ教徒: この…!
  1974. モンゴル兵: 貴様…っ!
  1975. ヘルカ: …争いが起きている
  1976. ヘルカ: 混沌とした場面でよくあらわれていたこと 私の魔法と対極であること それらから魔女は戦いを生み出す 力があるのかと考えたときもありました
  1977. ヘルカ: けれど、私がラクシャーシーになった日… 尼僧院が戦いに巻き込まれたときを思い出すと 間違いに気づいたんです
  1978. ヘルカ: 魔女は人の憎しみを増幅させている だから、戦わずにはいられなくなる…
  1979. ヘルカ: つまるところ、どれだけモンゴルと話をつけても 魔女がいる限り憎しみは増幅されるので 戦いはなくならないのです
  1980. ヘルカ: 私は、魔女を倒さねばなりませんでした
  1981. ヘルカ: 結界はあそこですか…
  1982. ヘルカ: そのためには 魔女をおびき出す必要がありました
  1983. ヘルカ: …ここまでやったかいが ありましたよ
  1984. ヘルカ: 憎しみが生まれやすい場をつくれば きっとあらわれると信じていました
  1985. ヘルカ: だから私は、魔女…お前を倒すために この状況をつくり出したのです
  1986. アレクサンドラ: 待ってください、ヘルカさん! 私たちも戦います
  1987. ラビ: 回収が関係なかったとしても あなたを止めることはできない…
  1988. ラビ: その思いを無碍にはできないから でも…
  1989. うらら: ウチら、少しでもヘルカさんの 負担を減らしたいんよ…
  1990. ねむ: あくまで協力の範囲なら 過度な干渉にはならない
  1991. ねむ: それに 魔女は放っておけないからね
  1992. アレクサンドラ: ですからヘルカさん、一緒に…
  1993. ヘルカ: そんなことさせるわけがありません 魔法少女になってしまったら 彼女たちまでラクシャーシーだと思われる
  1994. ヘルカ: 衆生救済、極楽浄土…
  1995. ヘルカ: すべての人たちに安息を 戦うことのないシャンバラを…
  1996. ヘルカ教徒: あ、ああ…どうして急に… こんな、救われた思いに…
  1997. モンゴル兵: 心が、安らかだ…母の腕の中に いる、よう…で…
  1998. ラビ: みんなが…眠っていく? これって…
  1999. アレクサンドラ: はい…ヘルカさんは私の魔法と 似ているようです…
  2000. アレクサンドラ: ですが、癒しとはまるで違う… 意思が砕かれるような…
  2001. ヘルカ: …………
  2002. ラビ: ヘルカさん! 追いかけないと
  2003. うらら: でもウチ…心地よくて…
  2004. ラビ: うらら…!
  2005. アレクサンドラ: ラビちゃんは 平気なんですか…?
  2006. ラビ: 平気ではないけど なんとか戦える
  2007. アレクサンドラ: 私は…ムリみたいです… 眠たいのではなく
  2008. アレクサンドラ: 戦うということが何だったか ひどく曖昧な気分なんです…
  2009. ラビ: ――っ!?
  2010. アレクサンドラ: ヘルカさんを追ってください 彼女はきっとひとりで…
  2011. ラビ: …わかった そこで帰りを待ってて
  2012. アレクサンドラ: …みんな 子どものように眠って…
  2013. アレクサンドラ: 戦いのない 安らかな地…
  2014. アレクサンドラ: …これが…シャンバラ…?
  2015. ラビ: この先に、ヘルカさんが…
  2016. ラビ: ――っ!?
  2017. ラビ: 使い魔も眠っている…?
  2018. ラビ: うん…?
  2019. ラビ: くっ… 急に起きて…
  2020. ラビ: …こんなにたくさん
  2021. ラビ: (もしかして…わざと? 私が追ってくるとわかって…)
  2022. ヘルカ: …追ってこない 捕まっているようですね
  2023. ヘルカ: ラビさんはおそらく 転がった末に立ち上がった人…
  2024. ヘルカ: 仏様やこの世の摂理や あるいはもっと別の大きな意思へ対して 抗う心を持てた人なんだと思っています
  2025. ヘルカ: そういう人には おそらく私の魔法は あまり効果がない…
  2026. ヘルカ: …だから 足止めさせてもらいました
  2027. ヘルカ: 危険な思いをするのは 私だけでいい
  2028.  
  2029. FILENAME: text_519120-13_pKgJT.txt
  2030. ヘルカ: ふん…!
  2031. ヘルカ: ――っ!?
  2032. ヘルカ: 私の魔法は相殺されてしまいました 思っていた通り、私の力とは 対極のものを持っているようです
  2033. ヘルカ: よりはっきり言うと…憎しみ
  2034. ヘルカ: だからあなたが現れる度に 憎しみが増幅されていた…
  2035. ヘルカ: ぐ、ぅ…っ! それなら…!
  2036. ヘルカ: …効かない
  2037. ヘルカ: があ…っ!
  2038. ヘルカ: 使えそうなものは何もない 結界の中では地形を利用することもできない 単純に力比べの状況
  2039. ヘルカ: こうなると私は不利です 私はうまく戦えない…
  2040. ヘルカ: 策を弄することならできます… 欺くことも… でも、力比べになってしまうと…
  2041. ヘルカ: う…っ!
  2042. ヘルカ: それでも…
  2043. ヘルカ: やあ…っ!
  2044. ヘルカ: ぐっ!
  2045. ヘルカ: 何度転がり回ろうと 何度力の差を思い知らされても
  2046. ヘルカ: 私は絶対に負けない 負けてはならない
  2047. ヘルカ: 守るんだ…私が…!
  2048. ヘルカ: ――っ!?
  2049. ヘルカ: …なんで… なんで…来てしまうんですか
  2050. ラビ: あなたを守るため
  2051. ラビ: 私だって…みんなだって あなたを守りたいと思っている
  2052. ヘルカ: いけない、魔女が…! ラビさん避けて!
  2053. ラビ: ――っ!?
  2054. アレクサンドラ: 隙ができました!
  2055. うらら: なんよ!
  2056. ヘルカ: みんな… どうやってここまで…
  2057. アレクサンドラ: …魔法の効果はとくに 弱まってはいなんですけど…
  2058. アレクサンドラ: あなたを守りたいと思ったら 自然と立ち上がれたんです…
  2059. うらら: ウチも夢うつつで思ったんよ
  2060. アレクサンドラ: さあヘルカさん、 一緒に魔女の気力を削ぎましょう
  2061. アレクサンドラ: ひとりではムリでも 力を合わせれば!
  2062. ヘルカ: …こんなことをして…
  2063. ヘルカ: あなたたちもラクシャーシーだと 思われてしまいます
  2064. ラビ: 私たちは問題ない この時代の人間じゃないから
  2065. ヘルカ: え…?
  2066. ラビ: 信じなくていい…ただ、 平気なんだと思ってくれれば
  2067. ラビ: …というのは、建前 本当は…
  2068. アレクサンドラ: もし私たちがこの時代の人間でも やっぱりあなたを守りますよ
  2069. ラビ: その結果どんな扱いを受けようと
  2070. うらら: 早く!防ぎきれないんよ!
  2071. ラビ: …よし、強化した
  2072. アレクサンドラ: 行きましょう、ヘルカさん 私たちと一緒に
  2073. ヘルカ: …そうですか…あなたたちなら そりゃ立ち向かいますよね…
  2074. ヘルカ: 希望を信じているから
  2075. ヘルカ: …サーシャさんは私に合わせて 魔法を使ってください
  2076. アレクサンドラ: ヘルカさん!
  2077. ヘルカ: その間にラビさんは回り込んで 隙ができた瞬間に攻撃を!
  2078. ラビ: ええ
  2079. ヘルカ: うららさん!魔女が弱ったら とどめはあなたが!
  2080. うらら: わかったんよ!
  2081. ヘルカ: …反撃しましょう
  2082. ヘルカ: 私たちが 決して負けないことを示すために
  2083.  
  2084. FILENAME: text_519120-14_pKgJT.txt
  2085. ラビ: …魔女を倒せた
  2086. アレクサンドラ: 戻ってこられましたね
  2087. モンゴル兵: 突然、姿をあらわした…
  2088. 人々: 「化け物だ! ラクシャーシーだ!」
  2089. ヘルカ: ぐっ!
  2090. うらら: 急に石を投げるなんて ひどいんよ!
  2091. ヘルカ: 人々が目を覚まして 私たちを見るなり怯えているのは きっと私の魔力が尽きかけているから…
  2092. ヘルカ: あっ…!
  2093. モンゴル兵: こいつ、案外弱いぞ 倒れやがった!
  2094. ヘルカ教徒: 袋叩きにしてやる!
  2095. うらら: やめ、やめるんよ! ヘルカさんは今まで戦って…
  2096. モンゴル兵: こいつ…何だ?
  2097. ドロアダイ: こいつらもヘルカの仲間だ! ラクシャーシーだ!
  2098. ドロアダイ: ラクシャーシーは 全員処刑しろ!
  2099. ドルマ: あたしもラクシャーシーよ
  2100. ドロアダイ: ――っ!?
  2101. ドルマ: 来ないで!近づいたら… 術を使うわよ!
  2102. モンゴル兵: 術…? また、眠らされるのか…?
  2103. ドルマ: ヘルカ、あたしに掴まって 逃げるわよ!
  2104. ヘルカ: 逃げません…私は…
  2105. ドルマ: いや!ヘルカは私と逃げるの!
  2106. アレクサンドラ: ここは私たちが食い止めます その間に遠くへ
  2107. ヘルカ: …な、何を言って… 私は逃げません…
  2108. ドルマ: ムリにでも連れていくわ! ほら!
  2109. ヘルカ: ド、ドルマ…
  2110. モンゴル兵: なっ…ラクシャーシーが 逃げたぞ!追え!
  2111. うらら: そうはさせないんよ
  2112. アレクサンドラ: はい、食い止めます
  2113. ねむ: …歴史を改編させるつもり? 彼女を逃がすなんて
  2114. ラビ: 歴史は、変わらない… ヘルカさんは戻ってくる
  2115. ラビ: …そういう人だと思う
  2116. ねむ: じゃあ、どうして?
  2117. アレクサンドラ: ドルマさんの好きに させてあげたいんです
  2118. うらら: このままお別れなんて あんまりなんよ…
  2119. ねむ: …………
  2120. ラビ: ヘルカさん…
  2121. ドルマ: はあ…はあ… こっちよ!
  2122. ヘルカ: どこへ行こうと言うんです?
  2123. ドルマ: わからないわよ でも、もっと遠くへ…
  2124. ヘルカ: 私を支えて懸命に歩いたところで このモンゴルの地に逃げ場などない… そんなことはドルマだって知っているはず
  2125. ヘルカ: それに…そもそも私に逃げる気がないことも
  2126. ヘルカ: あっ…
  2127. ドルマ: ヘルカ! 大丈夫!?
  2128. ヘルカ: …ちょっと転んだだけです
  2129. ヘルカ: 本当は立っていられないだけです 広範囲に魔法を使い、魔女とも戦い… 私はもうボロボロだったのです
  2130. ヘルカ: もっと私が強ければこんなことには ならなかったのでしょうが…まあ、いいです 弱くても、すべてやり遂げたのですから
  2131. ドルマ: 満足そうな顔をして… 逃げ切るつもりがないんでしょ?
  2132. ヘルカ: ドルマは逃げ切れると 思っているんですか?
  2133. ヘルカ: …本当はわかっているはず 逃げ切れないって
  2134. ヘルカ: それに… 逃げ切ってはいけないことも
  2135. ドルマ: …………
  2136. ドルマ: …もう変な嘘つかないのね?
  2137. ヘルカ: 誰も見ていませんから
  2138. ドルマ: だったら、もっと遠くへ行こう 誰もいない場所へ
  2139. ドルマ: あたし、ヘルカにあんな嘘を つかれたくないもの
  2140. ドルマ: さあ行くわよ 支えてるからちゃんと歩いて
  2141. ヘルカ: …わかりましたよ
  2142. ヘルカ: そう、私たちは逃げ切れないことも 逃げ切ってもいけないことも ちゃんと理解しています
  2143. ヘルカ: それでもふたりで歩きつづけるのは
  2144. ヘルカ: ただ…時間の許す限り 一緒にいたいと思っているから
  2145. ヘルカ: モンゴル兵の声が微かに聞こえてきます そのうち追いつかれ、捕まることでしょう
  2146. ヘルカ: そのときまではドルマと一緒に… これくらいのわがままなら 許してもらえますよね…?
  2147. ドルマ: 森を抜けたわね、ヘルカ
  2148. ドルマ: え…?
  2149. ヘルカ: どうしたんですかドルマ
  2150. ヘルカ: …っ!
  2151. ヘルカ: モンゴルの大地一面に あの尼僧院の青い花が咲いている
  2152. ヘルカ: 青い花は私たちの暮らす地域では よく咲いていますが、この辺りでは 自然に咲くことなんてないのに
  2153. ヘルカ: それが、どうして…?
  2154. ドルマ: ―ドルマ― 覚えてる、ずっと昔にも青い花が一面に 咲いている場所へ行ったことあったね…?
  2155. ヘルカ: ―ヘルカ― はい、覚えています…懐かしいですね
  2156. ドルマ: ―ドルマ― あの頃にはそんな意味はなかったんだけど この青い花…今はヘルカの象徴なんだって
  2157. ヘルカ: ―ヘルカ― 私の、象徴? 私がずっと育てていたから…?
  2158. ドルマ: ―ドルマ― うん…それでヘルカを信じる人たちは この花に祈りを捧げているんだって
  2159. ドルマ: ―ドルマ― 平和のために
  2160. ドルマ: ―ドルマ― それがこんなにも… モンゴルでも咲いてるよ
  2161. ヘルカ: ―ヘルカ― …きっと燃やされてしまいますよ 私はラクシャーシーなんですから…
  2162. ドルマ: ―ドルマ― たとえそうだとしても…平和への願いを… 希望を抱かせたのはヘルカに他ならないわ
  2163. ドルマ: ―ドルマ― 意味、ちゃんとあったじゃない? ヘルカが生きてきた意味が、ここに
  2164. ヘルカ: ―ヘルカ― ここに…
  2165. ドルマ: ―ドルマ― そう…ここがシャンバラよ
  2166. ヘルカ: ―ヘルカ― …ねえ、ドルマ… 私、あなたの願いを叶えられましたよね?
  2167. ヘルカ: ―ヘルカ― 戦いは…これで終わりますよね?
  2168. ドルマ: ―ドルマ― あ…あたしのためなの? 全部あたしのために、ヘルカは…
  2169. ヘルカ: ―ヘルカ― えへへ…もちろん、みんなを守るためだったり 何だったら自分のためだったりしますが…
  2170. ヘルカ: ―ヘルカ― 一番の理由は ドルマが辛そうだったからです…
  2171. ヘルカ: あのとき、戦いを終わらせてほしいと 縋りついてきたドルマは辛そうに見えました だから、助けになりたいと思ったのです
  2172. ヘルカ: 何かに縋らなくてはならない世を ドルマに生きていてほしくなかったのです
  2173. ヘルカ: ―ヘルカ― うれしいですか…ドルマ? 私、頑張ったんです
  2174. ドルマ: ―ドルマ― …………
  2175. ヘルカ: ―ヘルカ― …うれしくないんですか?
  2176. ドルマ: ―ドルマ― あ、あんたは…なんでよ… なんで、そういうとこは…
  2177. ドルマ: ―ドルマ― …バカなのよ…
  2178. ヘルカ: ドルマは必死に何かを堪えるようにしてから 私に笑みを向けました それでも目尻には涙が溜まっています
  2179. ヘルカ: おかしいなあ… ドルマを笑顔にするはずだったのに どうして私は泣かせてしまうんだろう…?
  2180. ドルマ: ―ドルマ― あたし、ヘルカがいればそれでよかったのに みんながやられて、もうどうにもならなくなって
  2181. ドルマ: ―ドルマ― それでヘルカに縋ってしまったの ごめんね…あたしのせいで…
  2182. ヘルカ: ―ヘルカ― ドルマのせいではありませんよ… どの道、私はこうするつもりでしたから
  2183. ヘルカ: ―ヘルカ― モンゴルは強大です…戦いでは勝てません それが私ひとりの命で、みんなが助かるんです
  2184. ヘルカ: ―ヘルカ― こんなにいいことはないじゃないですか あはは…
  2185. ヘルカ: モンゴル兵の声が近づいてきました
  2186. ヘルカ: もうすぐ私は捕まります そして処刑され、命を落とすことになる…
  2187. ヘルカ: 気づけば私は震えていました 抑えようとしてもどうにもなりません
  2188. ヘルカ: ―ヘルカ― あ、あはは…おかしいなあ…覚悟なんて とっくに決めていたはずなのに…
  2189. ヘルカ: ―ヘルカ― ド、ドルマちゃん…私、怖いみたい
  2190. ドルマ: ―ドルマ― …うん
  2191. ヘルカ: ―ヘルカ― これじゃあ、私…なんだか 普通の子みたいだね…あはは…
  2192. ドルマ: ―ドルマ― うん…大丈夫…それでいいの ほら、ぎゅってしてあげる…
  2193. ヘルカ: ―ヘルカ― ドルマちゃん、ごめんね…こんなの なんで?おかしいね…えへへ…
  2194. ドルマ: ―ドルマ― うん…おかしいね、ヘルカちゃん
  2195. ヘルカ: そうして私たちは笑い合いました モンゴル兵の気配を背後で感じました
  2196. ヘルカ: それでも最後まで私たちは笑い合いました…
  2197.  
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  2199. <Side:ドルマ>
  2200. ドルマ: それから どれくらいたったのかな…
  2201. ドルマ: ヘルカの死を聞かされたのは あたしが自殺に失敗した3日後だった
  2202. ドルマ: おかしいわよ、こんな世の中
  2203. ドルマ: なんであたしみたいなのが 生き残って、ヘルカが死ぬの?
  2204. みんな: …………
  2205. ドルマ: あ、そっか…これはあれだ 復讐しろってことなのよ
  2206. ドルマ: ヘルカを奪ったあいつらと戦って 恨みを果たせってことよ!
  2207. ラビ: …そんなわけない
  2208. ドルマ: わかってるわよ、 そんなこと…ッ!
  2209. ドルマ: …でも、許せないのよ みんなヘルカの悪口ばかり言って
  2210. ドルマ: きっと歴史ではヘルカの名は 悪女の代名詞になるんでしょうね
  2211. ドルマ: あんまりよ、そんなの…
  2212. ラビ: だったらドルマさんが 真実を記していけばいい
  2213. ドルマ: え…?
  2214. ラビ: 実は…私たちは預言書みたいな ものを持っていて
  2215. ラビ: そこにヘルカさんのことが 書かれていたから尼僧院に来た
  2216. ラビ: けれど、ヘルカさんの名前自体は 一切記されていなかった…
  2217. ラビ: 記されていたのは ラクシャーシーという言葉だけ
  2218. ラビ: なぜなのかずっと疑問だったけど ようやく私は答えがわかった
  2219. ラビ: これは…違った解釈を生める ということ
  2220. ラビ: ラクシャーシーの意味だって 大きく変えられるということ
  2221. ラビ: チベットを救った 救世主としての意味に
  2222. ドルマ: …それを、あたしにしろって?
  2223. ラビ: ええ、たぶんこのことを伝える ために私たちはここに来たから
  2224. ドルマ: よく、わからないけど…
  2225. ドルマ: あたしがモンゴル語を使える ことに意味があるなら
  2226. ドルマ: きっと真実を伝えるため… になるんでしょうね
  2227. ドルマ: そのあとラビたちはチベットを去った 遠いところへ行くらしい
  2228. ドルマ: あたし同様、座主が取り計らってくれたから 処罰こそなかったものの… モンゴル軍にはラビたちを疑っている節がある 逃げられるなら、逃げた方がいい
  2229. ラビ: 「…それでも私たちは ここに来られて、ヘルカさんと過ごせて よかったと思っている」
  2230. ドルマ: それが旅立ち際の、ラビの最後の言葉だった
  2231. ドルマ: あたしが、モンゴルに…?
  2232. ドルマ: 座主が言うには、チベットの文字を少し変え モンゴルの新たな文字にする計画が 進んでいるらしい
  2233. ドルマ: というのも、モンゴルでも教えが広まり 多くの経典を翻訳する必要が生まれたのだが そもそもモンゴルの文字は輸入されたもので 正確に表記できなかったため、この際新たに 共通の文字をつくることになったそうだ
  2234. ドルマ: あたしはその新たな文字を モンゴルに広めるのが役目らしい
  2235. 座主: …君が我々を憎んでいるのは 知っているが、適任者が他に…
  2236. ドルマ: 憎んでなんかないわ あたしを庇ってくれたんでしょ?
  2237. 座主: …しかし我々はヘルカ・ラマを 庇おうとはしなかった
  2238. ドルマ: そうね…けど、引き受けてあげる
  2239. 座主: いいのか?
  2240. ドルマ: ええ、あたし モンゴルへ行く
  2241. ドルマ: それからというもの あたしはモンゴルの寺院で 考案された文字を広めつつ 使用者の意見も集めている
  2242. 僧: 改善案もまとまってきたし 正式採用される日も近いな
  2243. 僧: あれ、ドルマさんは?
  2244. 僧: 今は出ていらっしゃる 碑文を書くために
  2245. 僧: 暇があれば書いてますが… 何の碑文なんですか?
  2246. 僧: 昔、見たそうなんだよ ドルマさんは救世主を
  2247. 僧: …その思い出話だそうだ
  2248. ドルマ: よし…できた
  2249. ドルマ: あたしはモンゴルの各地で碑文を建て そこに真実を書きつづけている
  2250. ドルマ: とはいっても直截すぎる表現だと モンゴルの役人にとやかく言われるから 少し回りくどい表現をしているけど…
  2251. ドルマ: でもまあ 書き出しのところはすごく気に入っている
  2252. ドルマ: 「この大地の下には ラクシャーシーが横たわっている」
  2253. ドルマ: …この場所に建てるとなると 頑張っちゃうわよね
  2254. ドルマ: せっかくだから、見ていこうかな
  2255. ドルマ: いつかここに書いてあるヘルカの記録が 真実だとわかってもらえる日は来る
  2256. ドルマ: あたしはそう信じている そう…希望をあたしは絶対に捨てない なぜなら…
  2257. ドルマ: まだ、咲いてる…
  2258. ドルマ: ヘルカと最後に見たあの一面の青い花… それがまだ残っているからだった
  2259. ドルマ: ここに立っているだけで ヘルカが隣にいるような気がしてくる…
  2260. ドルマ: そう…ヘルカと一緒に この花を眺めているような…
  2261. ドルマ: …ねえ、ヘルカ あんたのおかげで全部救われたよ
  2262. ドルマ: 尼僧院はまだつづいている デキーのこと覚えてる? あの子が今は院長をやっているの
  2263. ドルマ: 町も昔と変わらずに活気があるし ヘルカが守りたかったものは全部残ってる
  2264. ドルマ: そして、ヘルカの思いも…
  2265. ドルマ: あたしは絶望なんかに負けないよ ひとりでも乗り越えてみせる もう夜だって怖くないんだ
  2266. ドルマ: ヘルカの記録を…あたしたちの記録を この世に残すため、必死になって生きてやる
  2267. ドルマ: あたしたちは決して負けることなく 最後まで笑い合っていたって 世界中のみんなに伝えたいから…
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