Vi_Vi

Perenelle/Pernelle Flamel MSS JP Text

Mar 18th, 2022 (edited)
101
0
Never
Not a member of Pastebin yet? Sign Up, it unlocks many cool features!
text 52.22 KB | None | 0 0
  1. FILENAME: text_340291-1.txt
  2. ペレネルの手記: これから記されることは すべて“私”の見解にすぎない
  3. ペレネルの手記: 私がひとりの学究として あるいは知の求道者として この文書を記すのであれば 可能なかぎり偏見を排し、また 可能なかぎり中庸を心がけたことだろう
  4. ペレネルの手記: けれど、これは私という人間の とりとめもない記憶を書き綴った ただの記録だ
  5. ペレネルの手記: そう、ペレネル・フラメルという名の ひとりの錬金術士の…
  6. ペレネルの手記: さて…事のはじまりをいつ頃に いや、何世紀に定めるべきだろう?
  7. ペレネルの手記: さしあたっては 思い出した順に記していくことにしても 特に支障はないと考える
  8. <1427年>
  9. <フランス、パリ>
  10. ニコラ・フラメル: …あっ、おかえり!
  11. ペレネル・フラメル: ただいま戻りました 我が夫よ
  12. ニコラ・フラメル: ネルちゃん、あのね さっき…
  13. ペレネル・フラメル: …コホン 街中でその呼び方は…
  14. ペレネル・フラメル: 何度も言いますが 私たちは一応
  15. ペレネル・フラメル: 隠居した写本業者という体裁で この町に暮らしていますので…
  16. ニコラ・フラメル: ごめん、そうだったね つい…
  17. ニコラ・フラメル: みんなには僕たちが 老夫婦に見えてるんだから
  18. ニコラ・フラメル: もっと気をつけないとね
  19. ペレネルの手記: 外見上、老いることのない我が夫ニコラと私が 人々に怪しまれずに 町の片隅で暮らしていられるのは 人の目をあざむく魔法石のおかげだ
  20. ペレネルの手記: とはいえ、私たちのことを 仔細に至るまで調べれば すでに異常な長寿であることに気づかれるのも 時間の問題…
  21. ペレネルの手記: 妙な噂が立つ前に、住み慣れた我が家を 引き払うことも考えないといけない
  22. ペレネル・フラメル: …それで、何か 言いかけていたようだけど?
  23. ニコラ・フラメル: そうそう! お忍びでお客さんが来たんだ
  24. ペレネル・フラメル: お忍び…王族か貴族… それとも教会の使いかしら?
  25. ペレネル・フラメル: 隠居して久しいというのに 製本の依頼が絶えないわね
  26. ニコラ・フラメル: 製本じゃないよ!
  27. ニコラ・フラメル: うちを訪ねてきたのは 神聖ローマ帝国ドラゴン騎士団の
  28. ニコラ・フラメル: オスヴァルト・フォン ヴォルケンシュタイン様!
  29. ペレネル・フラメル: ああ… そういうことですか
  30. ニコラ・フラメル: あ、もうわかった?
  31. ペレネル・フラメル: ええ
  32. ペレネル・フラメル: 音楽家にして冒険家… 高名なる吟遊詩人にして
  33. ペレネル・フラメル: 神聖ローマ帝国の外交官でもある かのヴォルケンシュタイン様を
  34. ペレネル・フラメル: まるで使い走りのように うちによこすお方と言えば…
  35. ペレネル・フラメル: …あのお嬢様しか考えられないわ
  36.  
  37. FILENAME: text_340291-2.txt
  38. ペレネル・フラメル: …お待たせしたわね エリザ嬢
  39. エリザ・ツェリスカ: よく来てくれましたわ
  40. ペレネル・フラメル: こんな郊外まで呼び出して いったい何事かしら?
  41. エリザ・ツェリスカ: 我ら神聖ローマ帝国 ドラゴン騎士団の旅装は
  42. エリザ・ツェリスカ: 街中では少々目立ちますので
  43. エリザ・ツェリスカ: フランス国内で派手に動くと 厄介なことになりかねませんし
  44. エリザ・ツェリスカ: それで、ヴォル爺をやって
  45. エリザ・ツェリスカ: あなたに 御足労いただいたのですわ
  46. ペレネル・フラメル: (その装束は、どこにいても 目立つと思うのだけれど…)
  47. エリザ・ツェリスカ: …何か?
  48. ペレネル・フラメル: いえ、なんでもないわ
  49. ペレネル・フラメル: …それで、随伴の ヴォルケンシュタイン様は?
  50. エリザ・ツェリスカ: あなたに言伝をしたら
  51. エリザ・ツェリスカ: しばらく自由にしていいと 伝えたので
  52. エリザ・ツェリスカ: 今ごろはパリの友人たちと 旧交をあたためているはずですわ
  53. ペレネル・フラメル: なるほど、それで 私に用というのは…?
  54. エリザ・ツェリスカ: 百聞は一見に如かず
  55. エリザ・ツェリスカ: わたくしの この武器のことですわ
  56. ペレネル・フラメル: …私が冶金した火器ですね 見せてごらんなさい
  57. ペレネル・フラメル: なるほど…
  58. ペレネル・フラメル: 火器として使う分には さしつかえなさそうだけど
  59. ペレネル・フラメル: 斧として使うための 刃が欠けてしまっているわね
  60. エリザ・ツェリスカ: そういうことですわ
  61. エリザ・ツェリスカ: このまま戦えなくもありませんが かなり不便しています
  62. エリザ・ツェリスカ: あなた、この武器を 贈ってくれたときに
  63. エリザ・ツェリスカ: 魔法で冶金した武器だから よほどの使い方をしなければ
  64. エリザ・ツェリスカ: 刃が欠けることはないと 仰いましたわよね?
  65. ペレネル・フラメル: …それは、よほどの使い方を したということではないかしら?
  66. エリザ・ツェリスカ: ………… …………
  67. ペレネル・フラメル: …………
  68. ペレネル・フラメル: 心あたりがありそうね でも、用件は把握したわ
  69. ペレネル・フラメル: 私にこれを 修理してほしいということね?
  70. エリザ・ツェリスカ: ええ… できればあなたのような
  71. エリザ・ツェリスカ: 胡散くさい錬金術士には 頼みたくないのですけれど…
  72. ペレネル・フラメル: あらあら、人を呼びつけておいて あんまりな言い草ね?
  73. ペレネル・フラメル: とはいえ… 私が冶金した武器なのは確かだし
  74. ペレネル・フラメル: 錬金術士としての名誉にかけて 完璧に修理してみせましょう
  75. エリザ・ツェリスカ: では、お願いできまして?
  76. ペレネル・フラメル: お安い御…あっ
  77. ペレネル・フラメル: ………… …………
  78. ペレネル・フラメル: (そうね、この際…ついでに…)
  79. エリザ・ツェリスカ: …あなた、いま
  80. エリザ・ツェリスカ: ロクでもないことを 思いつきましたわね?
  81. ペレネル・フラメル: …気のせいではないかしら
  82. エリザ・ツェリスカ: 気のせいではないと思いますが ここは不問に付しましょう
  83. エリザ・ツェリスカ: それで結局 引き受けてくれるのですわね?
  84. ペレネル・フラメル: 難しい修理ではないけれど… ひとつ問題があるわ
  85. エリザ・ツェリスカ: 問題…?
  86. ペレネル・フラメル: ええ、実は触媒として必要な 魔法石があって
  87. ペレネル・フラメル: それを手に入れるために 少々、遠出が必要なのよ
  88. エリザ・ツェリスカ: あなたが普段持ち歩いている 魔法石とは違いますの?
  89. ペレネル・フラメル: 魔法石にもいろいろありますので
  90. エリザ・ツェリスカ: ふむ…
  91. エリザ・ツェリスカ: つまり、修理はできるけれど 触媒の調達に手間がかかる?
  92. ペレネル・フラメル: ええ ちょっとした旅になるけれど
  93. ペレネル・フラメル: 私に同行してもらえないかしら?
  94.  
  95. FILENAME: text_340291-3.txt
  96. <フランス、パリ近郊>
  97. エリザ・ツェリスカ: ふぅ…
  98. ペレネル・フラメル: さすがね、エリザ嬢
  99. エリザ・ツェリスカ: 馬は無事…のようですわね 先を急ぎますわよ
  100. パカッ、パカッ…
  101. ペレネル・フラメル: こんな大きな街道沿いにも 魔女や使い魔が現れるなんて
  102. ペレネル・フラメル: 聞いていた以上に 危険な道のりだったわね
  103. ペレネル・フラメル: 一緒に来ていただいて よかったわ
  104. エリザ・ツェリスカ: …あなた、旅に出てこのかた 何かあっても防壁を張るだけで
  105. エリザ・ツェリスカ: 敵を倒すのはわたくしに まかせっきりですけれど…
  106. エリザ・ツェリスカ: あれしきの魔女や使い魔
  107. エリザ・ツェリスカ: そもそもあなたひとりで 撃退できますわよね!?
  108. ペレネル・フラメル: 私の場合、生まれつき 防御魔法は得意なのですけど
  109. ペレネル・フラメル: こと攻撃となると
  110. ペレネル・フラメル: 魔術道具や強化魔法などの 準備もいりますし、少々面倒で…
  111. エリザ・ツェリスカ: いま「面倒で」と はっきり聞こえましたわよ!?
  112. ペレネル・フラメル: …それに加えて、街道荒らしも 活発化しているわ
  113. エリザ・ツェリスカ: 街道荒らし…略奪者と化した 傭兵崩れですわね
  114. エリザ・ツェリスカ: 最近は特に、各地で勢いを増す 魔女の動きに呼応するかのように
  115. エリザ・ツェリスカ: 目に余る略奪を くりかえしている様子…
  116. ペレネル・フラメル: ええ、それもあってエリザ嬢に 同行をお願いしたのよ
  117. エリザ・ツェリスカ: …だいたいわかりました 要はわたくしが一緒の方が
  118. エリザ・ツェリスカ: 面倒な荒事が早く片づくから… ということですわよね!?
  119. ペレネル・フラメル: …………
  120. エリザ・ツェリスカ: その顔は、図星ですわね!
  121. パカッ、パカッ…
  122. エリザ・ツェリスカ: …無駄話をしていたら 暗くなってしまいましたわ
  123. ペレネル・フラメル: 町はもうすぐよ 急ぎましょう
  124. ペレネル・フラメル: 町の様子は、すっかり 変わってしまったけれど…
  125. ペレネル・フラメル: 夜の森は あの頃と変わらないわね
  126. エリザ・ツェリスカ: …前も、夜分に ここを通ったことが?
  127. ペレネル・フラメル: ええ、ずいぶん前だけど… そのときもふたり連れだったわ
  128. ペレネル・フラメル: アウドフレダ嬢…
  129. ペレネル・フラメル: あなたによく似た目をした 魔法少女でした
  130. エリザ・ツェリスカ: 古風な名前ですわね どんな方ですの?
  131. ペレネル・フラメル: 一族の王であった 兄を助けることを願った
  132. ペレネル・フラメル: とても純真で 芯の強い少女だったわ
  133. エリザ・ツェリスカ: …ふむ
  134. ペレネル・フラメル: 燃えるような美しい赤髪に 強い意志を宿した瞳
  135. ペレネル・フラメル: 髪や目の色こそ違いますが
  136. ペレネル・フラメル: 変身した姿は、エリザ嬢と同じ 赤い炎のような色のドレスでした
  137. ペレネル・フラメル: 征服に明け暮れる兄とともに 戦場を駆けめぐる彼女を見て
  138. ペレネル・フラメル: 私は、兄妹のために 武器を冶金してさしあげたの
  139. エリザ・ツェリスカ: 征服に明け暮れる兄… 一族の…王?
  140. エリザ・ツェリスカ: 貴族でも領主でもなく…?
  141. ペレネル・フラメル: ええ、名はクロヴィス…
  142. ペレネル・フラメル: のちにクロヴィス1世と呼ばれて 広大な国の王になった方よ
  143. エリザ・ツェリスカ: ――っ!?
  144. エリザ・ツェリスカ: フランク王国の建国の祖 クロヴィス1世…
  145. エリザ・ツェリスカ: …その妹アウドフレダは 魔法少女でしたの!?
  146. エリザ・ツェリスカ: いえ、そもそも…
  147. エリザ・ツェリスカ: それって1000年も前の話じゃ ありませんの!
  148. ペレネル・フラメル: あら、もう そんなに経つのかしら?
  149. ペレネル・フラメル: とにかく町へ急ぎましょう 宿があるといいのだけれど…
  150. エリザ・ツェリスカ: ――っ!?
  151. エリザ・ツェリスカ: 待ちなさい! 話はまだ終わっていませんわ!
  152.  
  153. FILENAME: text_340291-4.txt
  154. <フランス中部、フィエルボア>
  155. エリザ・ツェリスカ: …やっと着きましたわね
  156. エリザ・ツェリスカ: この町にありますの? 目的の魔法石は
  157. ペレネル・フラメル: ええ、ここに奉納された 剣と一緒に安置されているはずよ
  158. エリザ・ツェリスカ: 剣…?
  159. ペレネル・フラメル: そう…だから夜を待って 教会に忍び込む必要があるわね
  160. エリザ・ツェリスカ: …わたくしに盗賊の真似事まで させるつもりですの?
  161. ペレネル・フラメル: ご心配なく、姿が見えないよう 目くらましの魔法をかけますので
  162. エリザ・ツェリスカ: 答えになっておりませんわ!
  163. コツ…
  164. エリザ・ツェリスカ: …誰にも気づかれずに 入れましたわね
  165. エリザ・ツェリスカ: それで、目的のものは…?
  166. ペレネル・フラメル: 確か、祭壇の後ろのはず…
  167. ペレネル・フラメル: …あったわ、この箱よ
  168. エリザ・ツェリスカ: ずいぶんと古い箱ですのね
  169. ペレネル・フラメル: そうね… 開けてみましょう
  170. エリザ・ツェリスカ: ―エリザ― これが…その剣ですの?
  171. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― ええ、そしてこの箱の中に… 探している魔法石があるはず
  172. ペレネル・フラメル: …あったわ この魔法石が必要だったのよ
  173. ペレネル・フラメル: エリザ嬢、壊れた武器を 貸してもらえるかしら?
  174. エリザ・ツェリスカ: かまいませんけれど… まさかここで直すつもりですの?
  175. ペレネル・フラメル: ええ、この触媒さえあれば 一瞬で直せるわ
  176. ペレネル・フラメル: …………
  177. ペレネル・フラメル: はい、この通り
  178. エリザ・ツェリスカ: もう!?…簡単すぎません?
  179. ペレネル・フラメル: 伊達に長生きはしていないので…
  180. エリザ・ツェリスカ: まあ、その…
  181. エリザ・ツェリスカ: …とりあえず 御礼を申し上げますわ
  182. ペレネル・フラメル: ふふ…エリザ嬢のその義理堅さは 前と変わっていないわね
  183. エリザ・ツェリスカ: ひとこと多いですわ!
  184. エリザ・ツェリスカ: ところで…箱の中にあった ボロボロの剣の方ですけれど…
  185. エリザ・ツェリスカ: こちらには、何かいわれでも?
  186. ペレネル・フラメル: ああ、これは…
  187. ペレネル・フラメル: クロヴィス1世のために 私が冶金した剣よ
  188. エリザ・ツェリスカ: なっ…!
  189. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― 年経りて、ずいぶんと 錆びてしまっているけれど
  190. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― こうしてひと払いすれば…
  191. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― …ほら、この通り
  192. エリザ・ツェリスカ: ―エリザ― ほ…本物ですの!?
  193. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― ええ、もちろん
  194. ペレネル・フラメル: 目的の剣も回収できたことだし… 成果は上々だったわね
  195. エリザ・ツェリスカ: …ん?
  196. エリザ・ツェリスカ: 旅の目的は、わたくしの武器を 修理することだったはず…
  197. エリザ・ツェリスカ: (はっ…)
  198. エリザ・ツェリスカ: では、お願いできまして?
  199. ペレネル・フラメル: お安い御…あっ
  200. ペレネル・フラメル: ………… …………
  201. ペレネル・フラメル: (そうね、この際…ついでに…)
  202. エリザ・ツェリスカ: …あなた、いま
  203. エリザ・ツェリスカ: ロクでもないことを 思いつきましたわね?
  204. エリザ・ツェリスカ: あなた、修理に必要な魔法石が どうとか理由をつけて
  205. エリザ・ツェリスカ: わたくしに危険な道中の 護衛をさせましたわね!?
  206. ペレネル・フラメル: はい…とはいえ触媒としてこの 魔法石が必要だったのも事実
  207. ペレネル・フラメル: ちょうど、ごく私的な理由から この聖剣が必要だったので
  208. ペレネル・フラメル: 教会で剣を取り戻す旅のついでに 壊れてしまったエリザ嬢の武器も
  209. ペレネル・フラメル: 元通りにしてさしあげた… というところね
  210. エリザ・ツェリスカ: こちらが「ついで」ですの!? 本音がだだ洩れですわよ!
  211. ペレネル・フラメル: エリザ嬢、ここは神聖なる教会… 神の御前ですので
  212. ペレネル・フラメル: あまり大きな声は…
  213. エリザ・ツェリスカ: わたくしは無神論者ですわ!!
  214. ペレネルの手記: 魔法石の触媒をめぐる この一見、他愛ない話から 私がこの記録を綴りはじめたのは あるいは偶然ではないのかもしれない
  215. ペレネルの手記: 私がいま名乗っている “ペレネル”という名の語源をたどれば それは、「石」を意味する言葉にたどり着く
  216. ペレネルの手記: 皮肉なことに、魔法少女としての私の実体は ソウルジェムという名の「石」であり…
  217. ペレネルの手記: 錬金術士としての私が、我が夫ニコラとともに 完成を目指す究極の物質の名もまた “賢者の石”と称するものだからだ
  218. ペレネルの手記: この、賢者の石をめぐる探究の物語は 私たち夫婦の人生そのものであり 本来は、私のことを綴る上で 欠かすことのできない構成要素なのだが… この記録では、そのことには踏み込まない
  219. ペレネルの手記: 賢者の石について語りはじめると この記録とは主題を異にする 大いなる叙事詩が始まりかねない…と 私の心が警告しているからだ
  220. ペレネルの手記: 私…今やソウルジェムという名の 「石」にすぎないこの私に 「心」なるものがまだ 宿っているのだとすれば、の話だが
  221. <フランス、パリ>
  222. ニコラ・フラメル: おかえり! ネルちゃ…ペレネル!
  223. ペレネル・フラメル: ただいま戻りました、我が夫よ
  224. ニコラ・フラメル: あれ…? いつもよりあらたまってるね?
  225. ニコラ・フラメル: 周りには誰もいないけど…
  226. ペレネル・フラメル: いえ、“いる”のです… それが
  227. ニコラ・フラメル: ああ、僕には見えないけど… 例の客人がいるんだね
  228. ペレネル・フラメル: はい…
  229. ペレネル・フラメル: しばらくぶりね、キューブ
  230. ペレネル・フラメル: ホントに怪物ね、キューブ あなたがもたらしたものは
  231.  
  232. FILENAME: text_340292-1.txt
  233. ペレネルの手記: 客人の名はキューブ もっともこれは この時代、この地域での呼び名にすぎない
  234. ペレネルの手記: 初めて出会った頃 私はキューブを別の名で呼んでいたし キューブもまた私のことを “ヘルメスの子”と呼ぶのを好んだ
  235. ペレネルの手記: 魔法少女である以上、キューブとのかかわりを 断つことはできないが このときの私とキューブの間柄は いわば、ある種の共犯関係であったかもしれない
  236. ペレネルの手記: キューブは、私がそのとき強い関心を寄せていた 大いなる“実験”についての 報告に来たのだった
  237. ペレネル・フラメル: …経過報告?
  238. キューブ: うん、これといった動きはない ただ、気になる頃だと思ってね
  239. キューブ: ドンレミ村の“彼女”については 特に進展がないままだ
  240. キューブ: 滅多にない素質を持っているけど 魔法少女になる意志はないらしい
  241. キューブ: 村はリズが守っているから この2年ほどは平穏なままだしね
  242. ペレネル・フラメル: ヴィスコンティ家のリズ…
  243. ペレネル・フラメル: 白き傭兵ジョン・ホークウッドの 孫にあたる彼女もまた
  244. ペレネル・フラメル: “彼女”をとりまく 大いなる因果を担う者のひとり…
  245. キューブ: つい先日までキミと旅をしていた エリザもその候補だ
  246. キューブ: その可能性を感じたからこそ
  247. キューブ: かつてのキミも トランシルヴァニアまで赴いて
  248. キューブ: エリザ・ツェリスカに 接触したんだろう?
  249. ペレネル・フラメル: ………… …………
  250. ペレネル・フラメル: 渦巻きはじめた大いなる因果の
  251. ペレネル・フラメル: その中心に立つことになると 予測される最有力候補が…
  252. ペレネル・フラメル: ローマ皇帝妃の娘である エリザ嬢でもなく
  253. ペレネル・フラメル: かの白き傭兵の子孫である リズでもなく
  254. ペレネル・フラメル: ジャンヌ、あるいはジャネットと 呼ばれる平凡な村娘だというのは
  255. ペレネル・フラメル: …傍目には、とても 奇妙なことだと映るでしょうね
  256. ニコラ・フラメル: …また、例の“実験”の話を しているの?
  257. ペレネル・フラメル: ええ、そうよ そもそも…
  258. ペレネル・フラメル: クロヴィスのために冶金した剣を エリザ嬢と取り戻しに行ったのも
  259. ペレネル・フラメル: その実験の一環とも言えるわね
  260. ニコラ・フラメル: 新たな秘術でその剣を 鍛えなおすって言ってたっけ?
  261. ペレネル・フラメル: そのつもりよ
  262. ペレネル・フラメル: まったく新しい剣ではなく クロヴィスの剣であることに
  263. ペレネル・フラメル: とても大切な意味があるの
  264. ペレネルの手記: フランク王国の初代国王クロヴィス1世は ランスの地で聖別の儀式を執り行ったとされる
  265. ペレネルの手記: 1000年後の現在も、その伝統に則り フランス王はランスで戴冠式を行うことで 初めて真の国王と認められる
  266. ペレネルの手記: つまり、クロヴィス以来の伝統が フランス王の正統性のよりどころとなっている
  267. ニコラ・フラメル: 現在、フランスには ランスで戴冠した王がいない
  268. ニコラ・フラメル: そのことで隣国のイングランドに 王権を脅かされている…
  269. ニコラ・フラメル: フランスをこの状況から救う 救世主となるべき少女が
  270. ニコラ・フラメル: 現在のフランスの礎を築いた クロヴィスの剣を帯びたとしたら
  271. ニコラ・フラメル: “彼女”の因果は より強いものとなるかもしれない
  272. ニコラ・フラメル: そういう理屈になるのかな?
  273. ペレネル・フラメル: ええ、やってみなければ 結果はわからないけれど…
  274. ニコラ・フラメル: だから実験というわけだね?
  275. ペレネル・フラメル: そう
  276. ペレネル・フラメル: 由緒あるこの聖剣も 私にとっては、単なる実験道具
  277. ペレネル・フラメル: その結果、多くの人々の運命が 変わってしまったとしても
  278. ペレネル・フラメル: 私はただ、それを見届けるだけ たぶん、表情ひとつ変えずにね
  279. ペレネル・フラメル: 私は少し、長く生きすぎて しまったのかもしれないわ
  280. ニコラ・フラメル: ペレネル…
  281.  
  282. FILENAME: text_340292-2.txt
  283. ペレネルの手記: キューブたちは有史以前から 私たちの文明に干渉してきたと言う それは真実だ
  284. ペレネルの手記: 歴史に転機を… 社会に変革をもたらした少女たちを 私はこの目と耳で、実際に見聞きしてきた
  285. ペレネルの手記: その中には、詩や芸術の分野で 後世に大きな影響を及ぼした少女もいれば
  286. ペレネルの手記: 一国の支配者となり 故郷に大いなる繁栄をもたらした少女もいた
  287. ペレネルの手記: のちのフランス王国の礎となる版図を 兄とともに広げていったアウドフレダ嬢も それらの列に加えることができるだろう
  288. ペレネルの手記: そして、その祈りのひとつひとつが やがて呪いを生み 彼女たちの抱いた希望を 深い絶望へと変えていったこともまた事実だ
  289. ペレネルの手記: …前世紀のなかば 黒海近くのカッファという港町で起きた とある少女の悲劇を思い出す
  290. ペレネルの手記: 彼女が住むカッファは モンゴル帝国の侵略を受けていた
  291. ペレネルの手記: それを追い払いたいという 少女の切なる祈りは聞き届けられ 彼女は魔法少女となった
  292. ペレネルの手記: 彼女はその魔法の力で モンゴル軍に疫病をもたらすことで 侵略者たちを撃退した
  293. ペレネルの手記: だが、皮肉にもその疫病は 彼女が救いたかった町をも滅ぼし… 絶望した彼女は ヨーロッパ全土に疫病をふりまく魔女となった
  294. ペレネルの手記: 人口の3人にひとりを死に追いやり 無数の町や村を壊滅させたその疫病は ヨーロッパの歴史を根本から変え まさに暗黒時代の到来を告げるものであった
  295. ペレネルの手記: その疫病はペスト… “黒死病”と呼ばれている
  296. ペレネル・フラメル: (…そう 私がニコラと出会ったのも)
  297. ペレネル・フラメル: (かの病が猛威を奮いはじめる 少し前のことだったわね)
  298. <14世紀半ば>
  299. <フランス、ポントワーズ>
  300. ニコラ・フラメル: すごく面白そうな本だね
  301. ニコラ・フラメル: ちょっとだけ、僕にも 読ませてもらっていい?
  302. ペレネル: …構わない、けれど
  303. ペレネル: これは、アラビア語の書物で…
  304. ニコラ・フラメル: うーんと、これは…
  305. ニコラ・フラメル: 硫酸と硝酸の量を ある一定の比率で…?
  306. ニコラ・フラメル: あっ、金も溶かすことのできる 水の作り方だよね?
  307. ペレネル: ――っ!?
  308. ニコラ・フラメル: 他の本も 読ませてもらっていいかな?
  309. ニコラ・フラメル: …この水銀って
  310. ニコラ・フラメル: 東洋での使われ方からすると 違った見方になるはずだけど
  311. ニコラ・フラメル: これは他の金属と合わせて 柔らかい形にしてあげれば
  312. ニコラ・フラメル: 欠けた歯とかを埋めるのにも 使えるかもしれないね…
  313. ニコラ・フラメル: あ、でも 溶け出してしまうと危ないかな
  314. ペレネル: …………
  315. ペレネル: なぜ、あなたは
  316. ペレネル: そんなにいろいろなことについて 詳しいのかしら?
  317. ニコラ・フラメル: えっ?
  318. ニコラ・フラメル: 本が大好きで、いろいろな本を 毎日読ませてもらってるだけだよ
  319. ニコラ・フラメル: ただ、僕は知りたいんだ この世界の色々なことを
  320. ペレネル: ………… …………
  321. ペレネル: (…ああ)
  322. ペレネル: (…私と同じなのね、この子は)
  323. ペレネルの手記: それが、私とニコラの運命の出会いだった
  324. ペレネルの手記: とりとめもなく話が逸れてゆくことを 少しのあいだ許してほしい
  325. ペレネルの手記: これまで私が 気の向くままに記してきた“実験”の話も 黒死病のことも、ニコラとの出会いも…
  326. ペレネルの手記: すべてはひとつの主題へと 収束してゆくことになるのだから
  327. ペレネルの手記: そう、人の営みが織り成す 大いなる因果の流れのごとく
  328.  
  329. FILENAME: text_340292-3.txt
  330. ペレネルの手記: それまでの私は ただ「知る」ことを続けたかった 合理をもって、効率的に できるかぎり探究を続けたかった
  331. ペレネルの手記: …でも今は、「共に」知り続けたい この分かち難い魂を持つ、愛すべき少年と
  332. ペレネルの手記: そう気づいたのは 黒死病の猛威に襲われたポントワーズの町から ニコラを救い出した日のことだった
  333. <フランス、ポントワーズ>
  334. ペレネル: …ニコラ、無事だった!?
  335. ニコラ・フラメル: うん… あの…その姿は…?
  336. ペレネル: 魔女を退治したのよ
  337. ペレネル: この町に黒死病を振りまいた 呪われた存在を…
  338. ニコラ・フラメル: 魔女…?
  339. ペレネル: ええ、話せば長くなるわ それより、この地を離れましょう
  340. ペレネル: 黒死病の猛威は 当分収まりそうもないわ
  341. ニコラ・フラメル: でも、どこへ…?
  342. ニコラ・フラメル: ヨーロッパにはもう 安全な場所なんてないよ
  343. ペレネル: うーん、そうね…
  344. ペレネル: …………
  345. ペレネル: …ねえ、ニコラ 前から思っていたのだけど
  346. ペレネル: この際、パリにある私の家に
  347. ペレネル: 一緒に住んでみるというのは どうかしら?
  348. ペレネル: たぶん私の家が
  349. ペレネル: フランス…いえヨーロッパで 一番安全な場所だと思うの
  350. ニコラ・フラメル: えっ、それは ど…どういう意味で…
  351. ペレネル: (あ…!)
  352. ペレネル: (これじゃ、私がニコラに 求婚しているも同然じゃない)
  353. ペレネル: あ、あのっ 別にその、変な意味じゃなくて
  354. ペレネル: …えっと、こういうときは なんて言えばいいのかしら
  355. ニコラ・フラメル: ………… …そうだね
  356. ニコラ・フラメル: 君と初めて公園で 出会ったときから考えていたんだ
  357. ニコラ・フラメル: 僕は、君と一生を過ごすことに なるかもしれないなって
  358. ペレネル: ふぇっ?
  359. ニコラ・フラメル: 君と会ってわかったんだ
  360. ニコラ・フラメル: こんなにも魂が分かち難い存在が いるんだっていうことを
  361. ペレネル: えっ…あの… その…
  362. ニコラ・フラメル: 結婚してください
  363. ペレネル: …………
  364. ペレネルの手記: こうして私たちはパリに移り住み 平穏ながらも充実した日々が始まった
  365. ペレネルの手記: 私たちは表向き、写本業を営む夫婦を装いつつ パリの一角で静かな研究生活に入った
  366. ペレネルの手記: もしもこの記録が、錬金術士としての 私たちふたりの業績を書き記す目的であったなら その後の数十年間の記録にこそ 最も多くの頁を割くことになったに違いない
  367. ペレネルの手記: 魔法石の力を借りて 年齢を偽って暮らしていたものの ニコラが私の前で見せる姿は 外見も中身も、純真な少年のままだった
  368. ペレネルの手記: …やがて、大いなる転機が訪れる
  369. ペレネルの手記: それは私たち夫妻だけではなく ヨーロッパそのものの命運を左右する 災禍の訪れを告げるものだった
  370. <1389年8月20日>
  371. <フランス、パリ>
  372. <イザボー王妃、即位式>
  373. ワァッ
  374. ペレネル・フラメル: …すごい歓声ね
  375. ニコラ・フラメル: 4年前、国王陛下が
  376. ニコラ・フラメル: バイエルン公国から お迎えしたイザボー様が
  377. ニコラ・フラメル: いよいよ正式な王妃として パリに入城する日だからね
  378. ニコラ・フラメル: …あっ、あっちだよ! サン=ドニ門から!
  379. イザボー: …………
  380. ペレネル・フラメル: ――っ!?
  381. ペレネル・フラメル: (これは… この感覚は…?)
  382. ペレネル・フラメル: (…闇…)
  383. ペレネル・フラメル: (底知れない… 完全なる…闇…)
  384. ニコラの声: …ネル?
  385. ニコラの声: …ペレネル、どうしたの…?
  386. ニコラ・フラメル: ねえ、どうしたの? ペレネル!
  387. ペレネル・フラメル: …………!
  388. ペレネル・フラメル: …ええ、ちょっと めまいが…
  389. イザボー: …………
  390. ペレネル・フラメル: 彼女も…魔法少女…?
  391. ニコラ・フラメル: …そうなんだ?
  392. ペレネル・フラメル: ええ…ただ… それだけじゃない…
  393. ペレネル・フラメル: (そう… この気配、まるで…)
  394. ペレネル・フラメル: 悪魔(インキューブ)…
  395. ニコラ・フラメル: えっ…?
  396. ペレネル・フラメル: ニコラ、このままでは…
  397. ペレネル・フラメル: フランスが… 世界が闇に包まれてしまうわ
  398. キューブ: …ずいぶん長い時間 もの思いにふけっていたね
  399. ペレネル・フラメル: ええ…思い出していたのよ キューブ
  400. ペレネル・フラメル: この国に暗雲をもたらした
  401. ペレネル・フラメル: あなたと同じ力を持つ 最悪の魔法少女
  402. ペレネル・フラメル: イザボー・ド・バヴィエールと 出会った日のことを
  403.  
  404. FILENAME: text_340292-4.txt
  405. ペレネルの手記: イザボー・ド・バヴィエール…
  406. ペレネルの手記: わずか14歳にして、国王との婚礼のために フランスにやって来た彼女は たぐいまれな才能を持つ少女だった
  407. ペレネルの手記: 彼女は契約を持ちかけたキューブに 様々なことを問いただし その仕組みのすべてを理解した上で 魔法少女となることを決めた
  408. ペレネルの手記: そしてその力をもって フランスを、そしてあらゆる国を 自分のものにするという野望を抱いていた
  409. ペレネルの手記: 「あなたの全てが欲しい」…
  410. ペレネルの手記: キューブにそう願ったイザボーは 魔法少女でありながら キューブと同じ力を持つ存在となった
  411. ペレネルの手記: やがて彼女は“魔女”となり さらに手に負えない怪物と化してゆく
  412. ペレネルの手記: それこそが、やがてフランス全土を包み込む 圧倒的な闇の根源だった
  413. ペレネル・フラメル: キューブと同じように
  414. ペレネル・フラメル: 魔法少女と契約して 願いを叶える力を持つ…
  415. ペレネル・フラメル: キューブが 「有害」と断定するほどに
  416. ペレネル・フラメル: 恐ろしい魔法少女が 誕生したのが
  417. ペレネル・フラメル: フランスにとっての 悪夢のはじまりだったわね
  418. キューブ: ボクたちにとって有害なのは それが理由じゃない
  419. キューブ: 彼女が生み出す魔法少女からは エネルギーの回収が
  420. キューブ: 見込めないことが 判明したからだよ
  421. キューブ: 彼女が世界のすべてを手に入れ 闇が世界を覆えば
  422. キューブ: この星はボクたちにとって 価値のない星になってしまう
  423. ペレネル・フラメル: …それは、私にとっても 研究対象の喪失を意味する
  424. ペレネル・フラメル: だから、あなたに 協力することにしたのよ
  425. ペレネル・フラメル: キューブ、あなたの計画に… いえ…“実験”に
  426. ペレネルの手記: キューブと同等の存在であるイザボーは 魔法少女の潜在力を決める “因果”の何たるかを知悉している
  427. ペレネルの手記: 私が彼女の存在を知った時点で フランス王妃イザボーに集まる因果は もはや誰の手にも負えないほどに増大していた
  428. ペレネルの手記: 果てなき権勢を求める怪物と化したイザボーは ついにはフランスの王権を売り渡し イングランド・フランス二重王国を誕生させた
  429. ペレネルの手記: 両国の実質的な支配者として君臨する彼女を 人々はこう呼んだ
  430. ペレネルの手記: …“売国妃”イザボー、と
  431. キューブ: 生まれながらに背負い込んだ 因果の量ということなら
  432. キューブ: かつてヘルメス神ゆかりの洞窟に 生を受けたキミだって
  433. キューブ: 稀に見る因果の 持ち主と言えるわけだけどね
  434. ペレネル・フラメル: あいにくだけど私は
  435. ペレネル・フラメル: 今のイザボーを凌駕するほどの 因果は持ち合わせていない
  436. ペレネル・フラメル: 仮に戦えば、倒されずに 立っていることができたとしても
  437. ペレネル・フラメル: 「倒す」ことはできない …違うかしら?
  438. キューブ: …………
  439. ペレネル・フラメル: 勝算は未知数…
  440. ペレネル・フラメル: でも…いえ、だからこそ キューブ、あなたに協力したのよ
  441. ペレネル・フラメル: かかる人智を超えた脅威に 人は打ち勝つことができるか
  442. ペレネル・フラメル: そのような魔法少女を見いだし
  443. ペレネル・フラメル: 導くことができるか、という “実験”に…
  444. ニコラ・フラメル: …………
  445. ペレネル・フラメル: 考えてみれば、おかしな話ね
  446. ペレネル・フラメル: この世界を守ろうとしている 私とキューブを動かすものは
  447. ペレネル・フラメル: 崇高な使命感とはほど遠い 純粋な利害や探究心なのだから
  448. ペレネル・フラメル: 長い歳月を生きるうちに 人間としての私の心は摩耗して
  449. ペレネル・フラメル: キューブと同じになって しまったのかもしれないわね
  450. キューブ: …………
  451. ニコラ・フラメル: …ペレネル
  452. ニコラ・フラメル: 本当はこんなことを言っちゃ いけないのかもしれないし…
  453. ニコラ・フラメル: もしかすると、神の教えにも 反することかもしれないけれど
  454. ニコラ・フラメル: 僕には、よくわかるよ 「知りたい」という気持ちが
  455. ニコラ・フラメル: …だからと言って、何をしても いいということにはならないけど
  456. ニコラ・フラメル: ただ知的興味が 人一倍強いからという理由で
  457. ニコラ・フラメル: ペレネルが人としての心を 失くしてしまったということには
  458. ニコラ・フラメル: ならないんじゃないかな?
  459. ペレネル・フラメル: ありがとう、ニコラ
  460. ペレネル・フラメル: やっぱりあなたは 私にとって“分かち難い魂”ね
  461. ペレネルの手記: 『フランスはひとりの女によって滅び ひとりの少女によって救われる』…
  462. ペレネルの手記: フランスには 古の賢者が発したとされる予言がある
  463. ペレネルの手記: “ひとりの女”イザボーによって 滅びの時を迎えたフランスに 光をもたらす“ひとりの少女”…
  464. ペレネルの手記: そんな救世主を待望する フランスの人々の心が生む巨大な因果…
  465. ペレネルの手記: その中心となりうる資質を持つ 魔法少女の候補を探すところから 私とキューブの“実験”は始まった
  466. ペレネルの手記: その過程で、私はエリザ嬢と出会い キューブは白き傭兵の血を引く少女リズとともに 救世主候補を探してヨーロッパ中を旅した
  467. ペレネルの手記: この記録の最初に言及した クロヴィスの剣を冶金しなおしたことも 救世主の因果を強化するための計画の一環だ
  468. ペレネルの手記: 途中、不測の事態は何度も起きたし そのたびに私たちは 計画の変更を余儀なくされた
  469. ペレネルの手記: 時間は限られていた 売国妃イザボーはすでに、フランスを手中に収め その権勢はヨーロッパ全域へと 拡大しつつあったからだ
  470. ペレネルの手記: 彼女がその過程を ゆっくりと「楽しむ」ことをせず ただ結果だけを追求していたら 私たちのこの計画は 芽吹く前にすり潰されていたことだろう
  471. ペレネルの手記: やがてリズが出会った 巨大な因果を持つドンレミ村の少女… ジャネットをその最有力候補と見定め キューブは村の監視を続けた
  472. ペレネルの手記: キューブが“タルト”と呼ぶその少女こそ のちに“オルレアンの乙女”と謳われ フランスの救世主となる魔法少女 ジャンヌ・ラ・ピュセルだった
  473. ペレネルの手記: やがて彼女は魔法少女となり リズとキューブとともにフランスを救う旅に出る
  474. ペレネルの手記: 私が初めて“乙女”と言葉を交わしたのは 彼女が包囲されたオルレアンを救う旅の途中… 神に認められし“乙女”が現れたとの噂が フランス全土に広がっていく、そのさなか
  475. ペレネルの手記: 1429年4月のことだった
  476. ペレネル・フラメル: 私はあなたたちと 意志を同じにする者
  477. ペレネル・フラメル: そして…同一の敵を持つ者
  478.  
  479. FILENAME: text_340293-1.txt
  480. <1429年4月>
  481. <フランス中部、フィエルボア>
  482. ペレネル・フラメル: 私はあなたたちと 意志を同じにする者
  483. ペレネル・フラメル: そして…同一の敵を持つ者
  484. ペレネル・フラメル: さぁ、これを
  485. タルト: ―タルト― …剣?
  486. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― 魔力を込め 振るってみなさい
  487. タルト: …………!
  488. タルト: すごい… 軽く振っただけで…
  489. タルト: それにいつもより、魔力の消費が 抑えられているような…
  490. ペレネル・フラメル: あなたのように魔力の制御が うまくいかないうちは
  491. ペレネル・フラメル: 何かを媒介にした方が 効率がいいかと思って
  492. ペレネル・フラメル: “クロヴィスの剣”
  493. ペレネル・フラメル: もとはこの聖カトリーヌ教会で 眠っていたものですが
  494. ペレネル・フラメル: それを魔力で冶金したものです
  495. ペレネル・フラメル: あなたの妹の 名の元となった聖カトリーヌ
  496. ペレネル・フラメル: 縁深き場所で得られたその剣は
  497. ペレネル・フラメル: まだ魔法少女として未熟な あなたの助けになることでしょう
  498. みんな: …………
  499. キューブ: タルトはこの国にとって
  500. キューブ: 嘆きを覆す唯一の存在になると 言えるだろうね
  501. ペレネル・フラメル: そう…
  502. ペレネル・フラメル: “乙女”…あなたが 今から向かうオルレアン
  503. ペレネル・フラメル: そして その先に立ちはだかる者たち
  504. ペレネル・フラメル: あなたはそれを 打ち払っていく運命になる
  505. ペレネル・フラメル: しかしそれは あまりにも険しい道のり…
  506. ペレネルの声: どうかその道程に 幸あらんことを…
  507. タルト: 消え…た?
  508.  
  509. FILENAME: text_340293-2.txt
  510. ペレネルの手記: その後、“乙女”は イングランドに包囲され、陥落寸前だった 要衝オルレアンを解放し フランスの救世主としてその名を轟かせたのちも 連戦連勝の快進撃を続け…
  511. ペレネルの手記: ついには、クロヴィスゆかりの地ランスにて フランス国王シャルル7世の戴冠を実現し 救国の聖女として歴史に名を刻む
  512. ペレネルの手記: そこへ至る道のりは 決して平坦なものではなかったが 無機物の実験対象を観察するのと同じ 冷徹なまなざしで 私はその道程を見守り続けた
  513. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― 最愛の妹を戦禍で失い フランスに光をもたらす力を願った少女の祈りは
  514. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― やがてフランスの人々の希望を求める心の 因果の力をひとつにまとめ…
  515. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― イングランドの侵攻にさらされて 絶体絶命だったフランスを解放へと導き
  516. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― 不可能を可能にする いくつもの奇跡を起こしていった
  517. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― そして“乙女”はついに 売国妃イザボーの野望をくじき
  518. ペレネル・フラメル: ―ペレネル― フランスを覆う闇を討ち祓う
  519. ペレネル・フラメル: しかし…
  520. <1431年5月30日>
  521. <フランス北部、ルーアン>
  522. 「…以上の理由により、教会は」
  523. 「ジャンヌ・ラ・ピュセルと名乗る者を 異端者と認め」
  524. 「火刑に処す」
  525. タルト: …………
  526. メリッサ・ド・ヴィニョル: 早く… 急がないと
  527. エリザ・ツェリスカ: あの広場ですわね!!
  528. タルト: …………
  529. エリザ・ツェリスカ: ――っ!?
  530. エリザ・ツェリスカ: もう火がっ!!
  531. メリッサ・ド・ヴィニョル: タルト! タルトっ!!
  532. タルト: ………… …………
  533. ペレネルの手記: 自身が魔女になる運命が 決して避けられぬと知った“乙女”は 戦友たちの命と引き換えに みずからは火刑となる道を選んだ
  534. ペレネルの手記: キューブは言った 彼女の巨大すぎる因果から生まれる魔女は おそらくヨーロッパ中に 数百年に渡り大きな災いをもたらす、と
  535. ペレネルの手記: “乙女”の選択は、みずからが魔女となり 暗黒時代を招来してしまうことを 望まぬゆえになされたものだった
  536. ペレネルの手記: …先に私は言った これは、イザボーのような人智を超えた脅威に 人が打ち勝つことができるかを 見定めるための実験であったと
  537. ペレネルの手記: しかし、その問いは そもそも前提からして間違っていた
  538. ペレネルの手記: 大切な人との別れに 深く傷つき、絶望しながらも 苦難を乗り越え、不可能を可能にする…
  539. ペレネルの手記: それは人にしか…人の持つ “心”にしか成しえない奇跡だったことを 私は“乙女”から学んだ
  540.  
  541. FILENAME: text_340293-3.txt
  542. ペレネルの手記: 穢れが限界を超えたソウルジェムは魔女を生む… これは魔法少女の逃れられない宿命であり
  543. ペレネルの手記: “乙女”が負うことになった 巨大すぎる因果を考えれば この悲劇は起きるべくして起きた
  544. ペレネルの手記: そしてその因果が 彼女に集中するように仕向けたのは 他ならぬこの私である そのことだけでも充分に非難に値するだろう
  545. ペレネルの手記: それどころか私は 自身のもっと大きな罪について口を閉ざしたまま この記録を終えようとしている
  546. ペレネルの手記: 私とキューブが知ることの中には、露見すれば 新たなる戦乱の火種になりかねないことが 数多く含まれているからだ
  547. ペレネルの手記: もっともこの記録は 私とニコラにしかわからない符牒で記されており これを記すこと自体が すでに意味のない行為なのだが…
  548. ペレネルの手記: それでも私は 書き残さずにはいられなかった
  549. ペレネルの手記: 「私の中に、人としての心は まだ残っているのだろうか…?」 “乙女”が最期を迎えたとき… 私はその答えを知ったからだ
  550. <1431年5月30日>
  551. <フランス北部、ルーアン>
  552. タルト: ………… …………
  553. キューブ: 自らを犠牲にしても
  554. キューブ: 己の内包する 魔女の可能性を消し去る…
  555. キューブ: 理解に苦しむよ 彼女にとっては最悪の結末だろう
  556. ペレネル・フラメル: それでもあなたは タルトの決意を止めはしなかった
  557. ペレネル・フラメル: 彼女が魔女になる
  558. ペレネル・フラメル: それはあなたにとって 好都合であったにも関わらずね
  559. ペレネル・フラメル: どういう風の吹き回しかしら?
  560. キューブ: …深い意味はないよ
  561. キューブ: タルトは今まで 良くやってくれた
  562. キューブ: ボクの望んだ通り
  563. キューブ: イザボーを倒してくれたんだ
  564. キューブ: だから代わりに 彼女の望みに従ってみたのさ
  565. キューブ: キミたちからすると
  566. キューブ: 「感謝のお礼」とでも 言うのかい?
  567. ペレネル・フラメル: …それを「祈り」と言うのよ
  568. ペレネル・フラメル: 感謝すべきもの、愛すべきもの 畏怖すべきもの
  569. ペレネル・フラメル: 尊い様々なものに対して抱く思い
  570. キューブ: …キミたち人類の感情は 本当に…訳が分からないよ
  571. ペレネル・フラメル: 私も…祈りましょう
  572. ペレネル・フラメル: 聖女の… “乙女”の伝説の最後に…
  573. タルト: ………… …………
  574. バサッ…
  575. メリッサ・ド・ヴィニョル: …………
  576. タルト: ―タルト― すべてのことに…
  577. タルト: ―タルト― ありがとう(メルシー・ヴレモン)
  578.  
  579. FILENAME: text_340293-4.txt
  580. <1431年>
  581. <フランス、パリ>
  582. ニコラ・フラメル: …………
  583. ザッ…
  584. ニコラ・フラメル: …あ! おかえり、ペレネル!
  585. ペレネル・フラメル: ………… …………
  586. ペレネル・フラメル: ただいま、ニコラ ルーアンから戻りました
  587. ニコラ・フラメル: …ペレネル 泣いてるの?
  588. ペレネル・フラメル: えっ…?
  589. ペレネル・フラメル: (これは、涙…?)
  590. ペレネル・フラメル: 私…泣いていた…?
  591. ニコラ・フラメル: …………
  592. ニコラ・フラメル: …今は何も言わないで
  593. ニコラ・フラメル: 落ち着いたら、何があったのか 話してくれればいいよ
  594. ペレネル・フラメル: …ありがとう、ニコラ
  595. ペレネル・フラメル: ………… …………
  596. ニコラ・フラメル: …そう いろんなことがあったんだね
  597. ニコラ・フラメル: 話してくれてありがとう
  598. ニコラ・フラメル: 哀しかったんだね ペレネルは
  599. ペレネル・フラメル: えっ…?
  600. ペレネル・フラメル: ああ… 私は哀しかったんだ
  601. ペレネル・フラメル: (私にも… まだ、心はあったのね)
  602. ペレネル・フラメル: ………… …………
  603. バサッ…
  604. ペレネル・フラメル: あ…
  605. ペレネル・フラメル: (“乙女”…)
  606. ペレネルの手記: 我が夫以外の誰かに ここまで感情を動かされ 感銘を受けたのは初めてだった
  607. ペレネルの手記: 誰ひとり恨むことなく すべてのことに… この私にすら感謝をささげて 天に召された無垢な少女を思うとき 私の心は大いにかき乱された
  608. ペレネルの手記: それはおそらく、私が初めて抱く 悔恨の情だった
  609. ペレネルの手記: 私はニコラに問いかけたかった
  610. ペレネルの手記: 「彼女を救うことは 本当にできなかったのかしら?」
  611. ペレネルの手記: 「私はなんのために『知る』ことを 続けてきたのかしら…?」
  612. ペレネルの手記: 「“賢者の石”の生成に成功していれば 違った未来もあったのかしら…」と
  613. ペレネルの手記: でも、今になってそれを言っても ニコラを困らせるだけだ
  614. ペレネルの手記: だから、湧きあがる感情を抑え込んで 私は静かにこう言った
  615. ペレネル・フラメル: …ニコラ
  616. ニコラ・フラメル: なぁに、ペレネル?
  617. ペレネル・フラメル: ふたりでいつか成功させましょう
  618. ペレネル・フラメル: 不可能を可能にする物質… 真なる“賢者の石”の生成を
  619. ニコラ・フラメル: そうだね できるといいね
  620. ペレネル・フラメル: ええ、必ず
  621. ニコラ・フラメル: …………
  622. ニコラ・フラメル: …だけど、僕はもう手に入れたよ 僕だけの賢者の石を
  623. ペレネル・フラメル: えっ…?
  624. ニコラ・フラメル: ふふっ… その可愛い石はね
  625. ニコラ・フラメル: いま、僕の目の前で 目を白黒させているよ
  626. ペレネル・フラメル: 私も…祈りましょう
  627. ペレネル・フラメル: 聖女の… “乙女”の伝説の最後に…
Add Comment
Please, Sign In to add comment