Not a member of Pastebin yet?
Sign Up,
it unlocks many cool features!
- FILENAME: text_310471-1.txt
- 魔女を倒して、人々を守ること
- それは、ひとつの願いと引き換えに課された 私たち魔法少女の使命
- そこに、いまさら文句を言うつもりはないですが ご存知の通り、魔女って怖くて強いので 魔法少女として生きるのって大変なんですよね
- それでも、弱かった私が生きているのは いろいろな出来事と出会いのおかげなんです
- そのうちのひとつは…そうですね “そっくりさん事件”とでも名づけておきますか
- 事件が起きたのは 私が今よりも弱くて “ひとりで生きること”に執着していた頃でした
- …ここら辺で魔女の 反応があった気がしますが…
- …うん、気のせいですね さて、帰ってSNSの周回を…
- …って、うわぁ!? ここ…魔女の結界!?
- …………
- な、なんとかするしかない… ですよね…!
- あれ、でも 肝心の魔女はどこに…?
- 完全に迷子です…
- 使い魔に遭遇せず いられたことはラッキーですが…
- 気づけば景色も 変わってきちゃいましたし…
- このまま出られなかったら どうなっちゃうんでしょう…
- 「――――!!」
- わわっ!?
- この音は、あっちから…?
- まままま魔女! ついに遭遇してしまいました!
- …って、あれ…?
- …なんだか弱ってる? これなら私でもなんとか…
- 幸い、魔女はまだ私に 気づいていないみたいですし…
- 今のうち…!
- ええっ、倒れないんですかあ!?
- それなら、ダメ押しの一発で!
- …ふぅ、はぁ… なんとか倒せました…
- グリーフシードは 手に入れられたので
- これでもう、今日は ノルマクリアということで…
- あの…!
- ――っ!?
- (もしかして結界に 他の魔法少女が…!?)
- (私、他の方の 担当地域に侵入を…!?)
- いや、そのすみません! 獲物を横取りするつもりはなく…
- グリーフシードはお渡しするので どうか…許してください!
- 助けてくれてありがとう
- …へっ? 私が、助けた…?
- はい、あなたが私を 助けてくれたんですよね?
- 直接、姿は見えなかったけど…
- (もしかして私が倒した魔女に やられそうになっていたとか?)
- (…それ、倒したというより いいとこどりしただけでは…!)
- (ここは、なんかいい感じに 誤魔化さないと…)
- いやぁ、その!はは たまたまです!たまたま!
- また、助けてもらえるなんて びっくりしました…!
- え、また…? 多分それは人違…
- あの、お願いがあるんです!
- へぁ、はい…!
- 私と、チームを 組んでくれませんか?
- え…
- 私、魔法少女になりたてなので まだ仲間とかいなくて…
- 今日だって助けてもらわなければ どうなっていたか…
- でも、あなたみたいに 強い人が一緒なら…!
- あ、あの、勘違いですよ! 私、すっごく弱いので!
- 誰かを助ける余裕なんて 本当、全然ないですし
- 私なんかと組むくらいなら ひとりの方がマシというか!
- …そう、ですか…
- あぁ、いやその決して あなたが嫌とかではなくって…
- お誘い自体は、とっても 嬉しいことなんでしょうけど
- …その、私 “ひとりで生きる”って…
- そう決めてるんです
- 誰にも頼らず、協力せず ひとりで生きていくと
- …どうしてですか?
- えっと…それは…
- 弱い私じゃ迷惑ですし 社交性とかあまりないので…へへ
- そ、それじゃあ 私はここで失礼しますね!
- お詫びにグリーフシードは お渡しするので…
- その、お元気で!
- …はぁ 今日はいろいろありました…
- 明日からは、何も 起きないといいですけど…
- しかし、“そっくりさん事件”は この1回で終わらなかったんですよね
- FILENAME: text_310471-2.txt
- 人違いをされること自体は 特徴の少ない私には何度か経験のあることでした
- ただ、そうそうよく起きることでは ないと思っていたのですが…
- 「前にも助けてくれましたよね」 そんな言葉から始まる人違いは その後も、何度か続いていったんです
- 前にも助けてくれましたよね! その、何かお礼をしたくって…!
- わわわわわ 人違いだと思います…!
- ひぃ…ふぅ…
- こう…何度も人違いを されることってあるんでしょうか
- もしかして、私の そっくりさんがいるとか…?
- …だとしても、そっくりさん 人助けしすぎでは!?
- …って、こんなところに 魔女の結界が…
- ぼーっと歩いていたせいで 全く気づきませんでした…
- 周りに魔法少女は いないようですね
- そっくりさんも 頑張っているようですし
- 私だって、負けてられませんね!
- はひぃ…かっこつけてみたけど 無理なものは無理でした…
- ソウルジェムも濁ってきたし…
- これはまずいのでは…!?
- ???の声: いっけーっ!
- ――っ!?
- (この攻撃… いったいどこから…!)
- いろは: 大丈夫ですか!?
- いろは: えっと、とりあえず これ使ってください!
- え、いや私は他人の力を 借りるわけには…!
- (問答無用…!?)
- いろは: …なんとか倒せましたね 大丈夫でしたか?
- その…ありがとうございました なんだか助けてもらっちゃって…
- いろは: あ、ううん全然!
- …あれ、もしかしてどこかで 会ったことあります…?
- いろは: へっ?
- ああ違うんですナンパとか そういうのじゃなくて
- 学校で見かけたことが あるかもって思って…
- (掃除を押しつけられていたのを 見たことがあるような…)
- いろは: 確かにすれ違ってるかも…
- いろは: あなたが着てる制服 私も転校前に着てたんです
- やっぱり同じ学校でしたか
- でも、転校したんですか?
- (…そういえば、制服が違う)
- いろは: はい、でも寮生活みたいなもので 実家はこっちにあって
- いろは: それで、今はちょうど 帰ってきていたところなんです
- そういうことだったんですね
- いろは: だから、魔女と戦うときも 縄張り争いにならないようにって
- いろは: できるだけ他の魔法少女の お手伝いに留めるようにしていて
- いろは: …あ、もしかして私 あなたの担当地域に…!
- ああ、いえ それは気にしないで大丈夫です
- …それより今、お手伝いって 言ってましたけど
- もしかして、最近 何人か魔法少女を助けました?
- いろは: 助けたって程じゃないけど… 一緒に魔女は倒したかも?
- …………
- …なんだか私たちって 見た目、ちょっと似てますよね
- ほら、この姿…
- いろは: ほんとだ!
- いろは: フードもついてて似てるかも!
- そっくりさんの正体って…
- いろは: …?
- いろは: ご、ごめんなさい! 迷惑をかけちゃったみたいで
- ああそんな!
- それより、あなたも 私に間違われていたなんて…
- こちらこそご迷惑を…
- …………
- ただでさえ、フード付きの 魔法少女は勘違いされるのに…
- いろは: 勘違い…?
- 神浜市にフード付きローブの 怪しい集団がいるじゃないですか
- 私もそれで 何度か勘違いされまして…
- いろは: あ、あぁ…それは…すみません
- (え、あれ、反応が…)
- ご、ごめんなさい…!
- もしかしてあなたも その集団に入ってたとか…
- いろは: そうじゃないんですけど…その…
- すみません、ずかずかと 聞くようなことじゃないですね!
- そ、それにそれに…あなたも 私みたいな陰キャと
- 勘違いされるなんて とんだ災難ですよね
- ご迷惑をかけてすみません!
- いろは: それは、私もなので…!
- …………
- (気まずくなっちゃった…!)
- FILENAME: text_310471-3.txt
- 話題のチョイスが悪かったようで 場はどんどん耐えられない空気になりまして
- 私は、これ以上空気がおかしくなる前に…と 一刻も早くその場を去ろうとしていました
- えっと…それじゃあ 私はここら辺で…
- いろは: あの聞きたいことが あるんですけど…
- …?
- いろは: あなたは、いつもひとりで 魔女退治を…?
- …ええ、まぁ
- まだ弱いので 魔女退治は特訓中ですが…
- いろは: …それなら、あなたの特訓を お手伝いさせてください
- いろは: その、人違いで 迷惑をかけちゃったから…
- 気持ちはありがたいですけど 気にしなくて大丈夫です!
- 私は、誰にも頼らず ひとりで生きると決めてるんです
- …まぁ、まだ全然 弱いんですけどね…へへ
- ただ、今は独学で特訓しつつ 魔女退治に励んでいるので
- 少しずつ成果は出ているかなって
- だから、ありがたい話ですが 気遣いは不要です
- いろは: そうなんですね…
- (う…こうしょんぼりされると 心が痛みますけど…)
- …では、私はこれで
- いろは: あ、あの…! 私、環いろはって言います!
- …?
- いろは: えっと、連絡先だけ 交換しませんか…!
- いろは: 何か困ったことがあれば いつでも言ってください!
- えっと…あ、はい…
- 環さん…思っていたより 押しが強かったな…
- 前に学校で見かけたときは あんなじゃなかったような…
- あの…もしかして 前に助けてくれた方ですよね!
- …その、私に魔法少女としての 生き方を教え…
- ひえぇ! 人違いなんですってば…!
- ~~♪~~♪
- え、あ…環さんから…?
- あぁ、ちょうどよかったです また人違いをされていて…!
- いろは: え、そっちもですか!?
- そっちも…ってことは
- …はぁ まだ近くにいますよね
- それなら、合流して 説明しちゃいましょう
- …なんとか誤解は 解けたみたいですね
- いろは: はい、すみません また迷惑かけちゃって
- それは、あの お互いさまではあるんですけど
- …ただ、今後も同じように 人違いされると困りますね
- 特に私の場合は 他の方を手伝う余裕はないので…
- いろは: うーん…それならっ!
- いろは: 私が宝崎市から出るまでの間 一緒に行動しませんか?
- いろは: そうしたら、私たちが 別人だってわかるかなと
- なるほど…確かに それはいい考えかもしれません
- いろは: せっかくなので、その中で 魔女退治の特訓もできたら…
- あれ、もしかして そっちが目的だったり…?
- いろは: ああ、いえそんな! あはは
- (…でもまあ、背に腹は 代えられないですもんね)
- …じゃあ、少しの間ですが よろしくお願いします
- あ、えっと…あくまで 誤解を解くために…ですけど
- いろは: はいっ! じゃあさっそく魔女退治に…
- ぐぅ~~~~…
- いろは: あっ…ごめんなさい お腹が空いちゃったみたいで
- たしかに、私も 疲れたせいかぺこぺこです
- いろは: じゃあ…ご飯でも 食べていきますか…?
- FILENAME: text_310471-4.txt
- ざわざわざわ…
- (環さんと、ご飯を 食べに来たのはいいものの…)
- いろは: あ、ティッシュ使いますか? ケチャップついちゃってますよ
- え、ああ ありがとうございます
- (なんか私…さっきから お世話をされているような)
- …環さん、面倒見がいいって よく言われませんか?
- いろは: え? そうですか?
- はい、出会ったときも 見ず知らずの私を助けてくれたし
- 他の魔法少女のことも たくさん助けてたじゃないですか
- いろは: そんな、助けたってほどじゃ…
- どうして、知らない人のこと 助けようって思うんですか?
- あ、別に環さんのことを 否定しているわけじゃなくて
- 単純に気になるっていうか…
- 私は、生きるだけで精一杯で そんな余裕がないので…
- いろは: うーん…
- いろは: 私も、同じように 誰かに助けられてきたからかな
- いろは: 「最初は、私も魔法少女として すっごく弱くて何も知らなかったけど みんなに助けてもらったり、優しさをもらって そうして、今の私がいると思うから…」
- いろは: だから私も、同じように 誰かを助けられたらなって
- …いったい、どんな環境で どのように育ったら
- そんな聖人君子みたいな 模範解答が…?
- いろは: 聖人君子だなんて 大げさですよ…!
- いろは: でも…もし、そう見えるのなら
- いろは: それは、私自身が 周りの人に恵まれたからかな
- いろは: 優しい両親に育ててもらって 可愛い妹もいて…
- いろは: それに今は、家族同然の仲間と 楽しく過ごしているから…
- いろは: だけど、それだけじゃないかも
- いろは: 魔法少女になってできた友だちも たくさんいて…
- いろは: みんなが 私に優しさをくれたから
- …やっぱり 仲間っていいものですか?
- いろは: うん、もちろん
- いろは: ぶつかりあうこともあるけど みんなで支え合えるからね!
- そうですか…
- いろは: あ、でもだからって仲間を 作らなきゃいけないってことも
- いろは: 多分、ないんだと思う
- いろは: どうやって生きるかの選択は きっと人それぞれだから…
- いろは: でも、もしひとりで生きよう って思ったきっかけが
- いろは: マイナスのものなら 相談くらいは乗れるかな、なんて
- …………
- ~~♪~~♪
- いろは: あ、やちよさんから電話… ちょっと出てきますね…!
- …………
- ひとりで生きようと思った きっかけ…ですか
- いろいろあった気はするけど なんだったっけ
- (私は、どんな環境で どんな風に育って…)
- (どうして、ひとりで生きると 決めたんだったっけ…)
- ひとりで生きること
- それ自体は固く決意していましたが どうしてそうなったのか… 思えば、あまり考えたことがなかったんです
- だから私は ひとりで生きると決めた理由を知るために 幼い頃を思い返すことにしました
- 私、弱いので…
- FILENAME: text_310472-1.txt
- どうして私は ひとりで生きることを決めたのか
- その理由を知るために 私は、過去のことを思い返していました
- 私が育ったのは ごくごく普通の一般家庭でした
- あら、テストの結果が よくなかったの?
- 算数は苦手だったもんな それなら仕方ないよ
- 得意不得意くらいあるんだから 気にしなくても大丈夫!
- ええ、きっとそれが あなたの個性なのよ
- 幼い頃から、私は苦手が多い子どもでしたが 優しい両親は、私が失敗しても叱らず それが私の個性だと言って育ててくれました
- 決して、悪い環境ではありませんでしたし むしろ恵まれていたと思います
- ただ… 苦手なものは仕方ないから、やらない 得意なことも、あまりない…
- 個性を認められて育った私はいつの間にか 没個性で、何かにそそぐ情熱もないような そんな人間になっていたんですよね
- 自分で頑張るということが苦手だったので 幼い頃は、なんとなく生きていました それで、許される環境だったので
- ただ、それはいつまでも続きませんでした
- 環境がガラリと変わったのは 中学に進学してからでしょうか
- 両親の仕事の関係で、私は引っ越し 小学校の知り合いがいない中学校に進みました
- てかマジ掃除だるくない? サボっちゃう?
- えっと…私は…その…
- …なんか、ノリ悪いよねー いい子なのは別にいいけど
- 会話にもあんま入ってこないし 黙ってられると…ね?
- ちょっとはしゃべったら? もしかして話すの苦手?
- あ、えと…頑張ります…!
- そう?
- 中学校は、小学校とは雰囲気が違っていて そのままの私では馴染めなかったんです
- 少し前までは かけっこをするだけで仲良くなれたはずなのに 中学生になって、みんなが大人になって…
- 友だちがひとりもいない私は 自分自身を変える必要があったんです…
- 中学校は、もう幼い頃のように なんとなく生きているだけでは 生き抜けない世界だったんですよね
- だから 上手く喋れるように、話題についていけるように みんなに置いていかれないように…
- 私は、取り繕って生きることを覚えました
- 話題のドラマを見て…それから SNSのチェックと投稿…
- あ、あとは笑顔… 印象の良い笑顔で検索…と
- でも、まぁ…お察しの通り あんまり上手くはいかなくって
- どうにか孤立しないように生きていましたけど なんとなく浮いてるというか…
- 明らかに避けられることはなくても ふたり一組になるときは少し困るというか… まあ、そういう感じでしたね
- でも、人と関わるのが下手なだけで 人が嫌いとかではなかったはずなので
- これは「ひとりで生きる」ことの 直接の理由ではなさそうでした
- そこで、もっと別のところに ひとりで生きると決めた理由が ありそうだと思った当時の私は
- 取り繕うことを覚えた後の 苦い思い出を振り返ることにしました
- ねえ、宿題やってきた? 写させてほしいんだけど…
- ああはい、もちろん
- 一応、確認しましたけど 間違ってたらごめんなさい…!
- 大丈夫大丈夫~ いやー、マジいつも感謝だわ!
- へへ…お役に立てたなら 何よりです
- てかぁ、日直の仕事あんだけど ウチ、放課後は用事がさぁ
- それなら、私がやりますよ どうせヒマなので…へへ
- ガチ?超たすかるわぁ いつもありがとねぇ
- ねー、放課後のカラオケ 行けるんだよねー?
- あっは、ちょっとさぁ タイミング悪いんだけどぉ~
- (カラオケ…も まあ立派な用事ですよね)
- …ねぇ、ちょっと
- へあ、はい なんでしょう?
- 最近、あいつらに パシられてない?
- え…いやいや そんなんじゃないですよ
- 私は、みなさんみたいに 放課後の用事もないですし
- それなら、ヒマな私がした方が いいかなーと思いまして
- あ、あなた方も 宿題が終わってないなら…
- …いいよ、別に ちゃんと自分でやるから
- …あのさ、嫌なら嫌って ちゃんと言った方がいいよ
- 黙ってると、ああいうのって どんどんつけあがるから
- へ…あ、はい… でも大丈夫ですよ、へへ
- 取り繕って人にすり寄っていた頃 一緒にいた人たちって
- 思い返せば、私をパシリにしていたり 引き立て役にしていたり まあまあいいように利用してたんですよね
- いま考えるとあれってイジメだったのでは? ということも結構ありますけど 当時の私は必死で、全然気づけませんでした
- 「もしかしたら、この誰かに利用された心の傷が ひとりで生きようと思う 最初のきっかけだったかもしれない」
- 昔を振り返ることで あの時の私はようやく気づいたんです
- 答えが見つかりそうになってきた私は 魔法少女になってからも 似たようなことがあったのを思い出しました
- いやあ、いま思い返しても 苦くてつらい記憶ですね…
- FILENAME: text_310472-2.txt
- 魔法少女になってから 実は私、頑張って何度か チームに入ったことがあったんです
- …というか、最初は優しい人が誘ってくれたので チームで活動ができていたんですけど…
- …こんな感じの陣形で 戦おうと思うけどどうかな?
- …私、こんな責任重大な ポジションで大丈夫ですか?
- ああ、やりたくないわけではなく ただ力不足ではないかと思って…
- 大丈夫だよ、自信持って
- う…はい
- ねー、このあとみんなで ご飯行こうよー
- …まぁ、話し合いも終わったし みんなで行こっか
- いい店知らないー?
- じゃあ私、調べておきますね
- …おー、さんきゅー
- 必死に取り繕って 少しでも使える仲間になれるように 私なりに頑張ってはいたんですけど…
- どれだけ日常で役に立とうと頑張っても 魔女退治で役に立たなければ 魔法少女のチームとしてはお荷物なんですよね
- そっち行ったよ!
- は、はいぃ…!
- え、えい!
- わ、わわ…どうしよ…
- やぁーっ!
- ご、ごめんなさ…
- いいから、下がっててー こっちは私が片づけるから
- は、はい…
- あの…私…
- その子、外した方が いいんじゃないのー?
- えっと…次からは、陣形 ちょっと変えようか
- ごめんなさい…
- ううん、私の采配ミスでも あるから気にしないで
- …………
- そうして、いたたまれなくなった私は 追い出される前に…と チームから抜けることにしました
- そんなことを繰り返していくうちに 何度か、ここならやっていけるかも と思えるようなチームもありましたが…
- 私が、あなたを おとりにしたって言いたいの?
- いや…でも、はは そう見えちゃったというか…
- 私が助けにいかなかったら やられてた気もするけど
- え、えっと、それは そもそも…
- …別に、チームを抜けたいなら 勝手にして構わないけど
- あなた、弱いのに ひとりで生きていけるの?
- それ…は…
- あの頃の私は、ひとりで生きることより 利用されてでも人といることを選んでいました
- だから、失敗を重ねるごとに どんどん取り繕うようになっていって 取り繕うほどに利用されやすくなっていって… という繰り返しでした
- そんな扱いを何度も受けたことは 今でも苦くてつらい思い出です
- ああ、でも勘違いしないでください あの人たちを恨んだりはしていないんです
- いや、まぁ…急いでいる日に限って 全部信号が赤続きになってくれればいいのに… くらいの気持ちすらないと言えば ウソになりますが…はは
- 実際、目的はどうであれ 仲間にしてくれたから私は救われて 今も生きている だから、感謝はしているんです
- …それに、本を正せば 実力がない私が悪いってわかっていたので 私にとって本当に苦しかったのは 環境ではなく自分自身のことだったんです
- 取り繕って生き続けることの方が 苦しかった
- 私は自分のせいで自分の素を失い その上、利用されるような人になっていたんです
- そんな、自虐的な過去を振り返った私は ある答えにたどりついたんです
- FILENAME: text_310472-3.txt
- 私は自分のせいで自分の素を失い その上、利用されるような人になっていたんです
- そんな、自虐的な過去を振り返った私は ある答えにたどりついたんです
- (今まで、過去のことを あまり振り返らなかったけど)
- (これは、確かに 目を背けたくなる日々ですね)
- …………
- (取り繕って生きる中で 私は自分の素が見えなくなった)
- (あれだけ頑張って得たのものは 曖昧になってしまった自分と)
- (歪な人間関係…)
- (…そこまで努力してもダメなら 最初からひとりの方がいい)
- (その方が傷つかないし 誰にも迷惑をかけない…)
- (ああ、そっか…)
- (こうした過去の経験が 私がひとりでいる理由…)
- (過去のすべてが 今の私を形作ってたんですね)
- (他人に期待して依存せず ひとりで生きる私を…)
- …………
- (あれ、でもなんだか 他にも理由があったような…)
- いろは: すみません お待たせしました…!
- あ、環さん 電話は大丈夫でした?
- いろは: はい、どうやら宝崎市で セールをやっているらしく
- いろは: おつかいを頼まれまして…
- ふふ、なんだか本当に 家族みたいです
- …仲間って、いいですね
- いろは: えっと、じゃあ…
- あ、でも、私はやっぱり ひとりで生きます
- いろは: そっか…
- 考えてみたんです どうして今の自分になったのか
- どうして ひとりで生きることにしたのか…
- 明確にこの出来事が… ってことではなかったみたいで
- いろは: …………
- 私、環さんほどではないですが 環境にも人にも恵まれていました
- だけど、どうやら環境以前に 私は生きるのが下手みたいで
- どうにか取り繕って 頑張ってみたんですけど、駄目で
- 周りの人に迷惑をかけたり 利用されてしまったり…
- 思い出すのも苦しいことが いくつもありました
- でも、原因は すべて弱い私なんです
- ひとりが嫌だからと 取り繕うから迷惑をかけるし
- 好かれようと無理をするから いいように使われてしまう
- …だから、私は ひとりで生きると決めたんです
- ひとりでいることが 自分と周りのためだから
- …あー、いえ…大体は 自分を守るためですね
- だって、期待するのは怖いんです
- もう、素がわからなくなった 自分の本音は曖昧ですけど
- 期待して、落胆して… 裏切られた…なんて思いたくない
- だから私は、傷つかないために ひとりで生きると決めたんです
- いろは: …そう、なんですね
- …仲間は素敵だなって思います 本当に、いいものだなあって
- でも、それは 私とは縁遠いものなんです
- FILENAME: text_310472-4.txt
- いろは: ひとりで生きていく… その決意は固いんですね
- はい
- いろは: そっか…それならやっぱり 意思は否定できない
- いろは: だけど私、思うんです
- いろは: あなたにもきっと、いつか 信じられる人が
- いろは: 期待してもいいかなって 思える人が現れる…って
- いろは: 無責任な発言だっていうのは わかってるんだけど
- いろは: 周りも、自分自身も… 人って変わるものだから
- …………
- …確かに、環さんって 昔と印象が変わりましたよね
- いろは: え、私ですか…?
- 掃除を押しつけられてたときは もっと弱々しく見えたというか
- なんとなく、意思が 見えなかったっていうか…
- でも、今の環さんは どちらかというと我が強くて
- 見た目の割には頑固…というか
- あ!その、悪く聴こえたら ごめんなさい…!
- ただ、うん…人は変わるって それはわかるかもしれないです
- いろは: そっか…確かに私 結構変わったかも…
- いろは: その、いろいろあったし たくさんの人に出会ったから
- いろいろ…って 何があったんですか?
- あ、その… 差し支えなければ…ですけど
- いろは: えっと…
- いろは: ちょっと長くなっちゃうんだけど 大丈夫ですか…?
- とんでもないことに なってしまいました
- FILENAME: text_310473-1.txt
- 彼女から聞いた話は なんというか…波乱万丈でした
- いろいろと省略しているところや あえて話していないこともありそうでしたが
- それでも、その話を聞いたときに やっぱり私とは縁遠い話だって思ったんです
- なんだか、ものすごい 経験をしてきたんですね
- 私の人生には、そんな劇的なこと 一生、起こらなそうですけど
- いろは: えっと…うーん 確かに、いろいろあったけど
- いろは: 私を変えたのは その出来事だけじゃなくて
- いろは: どっちかと言うと 出会いだったって話をしたくて
- 出会い…ですか?
- いろは: はい
- いろは: たくさんの困難を乗り越えて 今の私がいるのはみんなのおかげ
- いろは: だから、いつかあなたにも 新しい出会いがあったとき
- いろは: ひとりで生きるからって 拒むのはもったいないなって…
- いろは: えっと、だから…今の選択を 否定するつもりはないんだけどね
- いろは: 未来まで、決めなくても いいんじゃないかな…なんて
- 未来…
- いろは: …なんか、説教臭いですよね 言葉にするのって難しいな…
- …ちょっと、言いたいことは わかったような気もします
- 未来がどうなるかは 確かにわかりませんからね…
- 当分は、ひとりの予定ですけど 未来のことは保留にしてみます
- いろは: はい…っ!
- (…環さんって なんだか不思議な人ですね)
- (最初は、少しだけ 私と近い人かと思ったけど)
- (多分、全然違う)
- (でも、だからこそ この人といたら私は…)
- (何かが 変わったりするのかもしれない)
- (ちょっと、打算的な考えだから 気が引けるところはあるけど)
- (環さんから、何か 学べることがあるのなら)
- (少しだけ、身を任せても いいのかもしれない)
- (それに…)
- いろは: あなたにもきっと、いつか 信じられる人が
- いろは: 期待してもいいかなって 思える人が現れる…って
- (私にもいつか そんな出会いがあるなら…)
- (それは 今なのかもしれないですし…)
- いろは: えっと、じゃあさっそくですけど
- いろは: このあと、魔女退治に 行きませんか?
- いろは: 一緒に特訓…とか
- はい、そうですね よろしくお願いします!
- FILENAME: text_310473-2.txt
- いろは: はっ!
- いろは: そっちに行きました!
- いろは: カバーするので 攻撃してください!
- は、はいっ!
- やぁ!
- ぜ、全然効いてないみたいです! どうしましょう…!
- いろはの声: じゃあ一旦退いて 体勢を整えましょう!
- わ、わかりました!
- はぁ…すみません 弱いですね、私…
- いろは: そんなことないです!
- いろは: …あと、もしかしたら
- いろは: 遠距離攻撃の方が 合ってるのかもしれないです
- え…そうですか?
- いろは: はい、近距離のときは ちょっと焦って見えたんですけど
- いろは: 遠距離のときは落ち着いて 狙いを定められていたので
- (すごい…細かいところまで 見てくれていたんですね…)
- いろは: 今後もソロでやっていくのなら 無理に突っ込むよりも
- いろは: 遠くから攻撃ができた方が 危険も少ないと思うし…
- (押しが強いと思っていたけど)
- (ちゃんと私の 意思も尊重してくれてる…)
- いろは: じゃあ、次は私が前衛へ行くので 後ろからカバーお願いできますか
- はい!
- いろは: やっ!
- いろは: 今です!
- いっけーっ!
- いろは: いい感じです!
- いろは: 最後! たたみかけましょう!
- はい!
- (なんか、すごい… いつもより戦いやすい…)
- (人と一緒だから…?)
- (ううん、チームで戦ったことは 何度もあるはず…)
- (でも、そのどれよりも 今が1番動きやすい…!)
- (もしかして… 相手が環さんだから…?)
- (あっちは環さんが 攻撃してるから大丈夫そう…)
- (私は後ろから回って…)
- いろはの声: そっち行きました! 距離を…!
- ――っ!?
- あ…あ…
- (今、私…気を抜いて…)
- (ああ…終わった…)
- ――っ!?
- (まずい、このままじゃ 環さんまで一緒に…!)
- いろは: たぁっ!
- いろは: だ、大丈夫でした!?
- (…一撃で…?)
- (私よりは強いと思っていたけど 環さんってそんなに…)
- いろは: すみません、助けに行くのが 遅くなっちゃって
- いろは: 怖かったですよね…
- いろは: 私が一緒に特訓したいとか 言っておきながら
- いろは: 全然、上手く立ち回れなくて…
- (あれで、上手く 立ち回れてない…?)
- (あ、そっか… 私、勘違いしてたんですね)
- そこで私は、気づいたんです
- 昔の私も、そのときの私も 仲間ができればなんとかなると 心のどこかで思っていたってことに
- けれど、仲間を作ることは 弱いままで良い言い訳にはならない
- 最初から私は、わかっていたはずなんです 仲間ができたって自分が強くなければ そこに意味はないってこと
- 私は、仲間を作るより先に 自分自身が強くなる必要があったんです
- そして、それは誰かに期待せず 頼らず生きないといけないということ
- 結局は、そこに帰ってくるんです
- …私は、傷つかないために ひとりで生きるんじゃなくて
- 自分の力で生きられるように ならなくちゃいけなかったんです
- FILENAME: text_310473-3.txt
- (私が期待するのを やめた理由って)
- (期待することで傷ついたり 人に迷惑をかけないためだって)
- (そう、答えを 出したはずだったけど)
- (本当の理由は それだけじゃなかったのかも)
- いろは: …?
- (確かに、環さんと一緒に 戦うのはやりやすかったし)
- (とても心強くて 仲間っていいなと思えた)
- (きっと、ひとりじゃ 魔女を倒せなかった)
- (でも戦っているときに感じた 動きやすさは)
- (単純に、環さんが 強かったから)
- (多分、今の弱い私は ひとりじゃ生きていけない…)
- …………
- (だから、ひとりで生きられる そんな私になりたかったんだ)
- (誰かに頼らず仲間がいなくても ひとりで頑張れる自分に…!)
- そうして私は 「ひとりで生きる」と決めたことについて ひとつの答えにたどりつきました
- 私が、期待して依存せずに生きようとしたのは
- 誰かに利用されたりせず 他人でなく自分自身に期待できるように
- ひとりで生きられるように なりたかったからなんだって
- いろは: あの…大丈夫ですか? もしかしてケガとか…!
- あ、いえ大丈夫ですよ
- 環さん、助けてくれて 本当にありがとうございました
- いろは: ううん、私なんて全然
- …私、環さんのおかげで 少し変われそうな気がします
- いろは: え…?
- 私の得意な攻撃方法を 見つけてくれたり
- 仲間の良さを 教えてくれたり…
- (ひとりで生きたい理由にも 気づかせてもらえたし…)
- (それに…)
- ――っ!?
- (まずい、このままじゃ 環さんまで一緒に…!)
- (あの時、私は仲間を 失う恐怖に気づいちゃいました)
- (当たり前ですけど…)
- (仲間ができれば 失う恐怖も生まれてしまう)
- (…今の弱い私じゃ きっと何も守れない)
- (だから、もし仲間を作るなら もっと強い私になってから…)
- あ…そっか、だから 環さんは強いんですね
- (守るべき 大切な仲間たちがいるから…)
- いろは: へっ? そんな、私なんてまだまだ…
- 環さん、本当に 今までありがとうございました
- いろは: え…あの…?
- 私、やっぱり ひとりで生きることにします
- いろは: えっと、私… 何かしちゃったかな…
- ああいえ、そういうわけでは
- むしろ環さんのおかげで この生き方を選べました
- …でも、安心してください 決してマイナスな気持ちではなく
- 未来のために 自分で選んだことなので
- いろは: そっか…うん それなら何も言わないよ
- ありがとうございます、環さん 私、ちゃんと頑張ります
- じゃあ、私はここで
- いろは: あ、あの!
- …?
- いろは: その、またいつか 一緒にご飯行きましょう!
- …はいっ!
- いつかまた! 環さん!
- FILENAME: text_310473-4.txt
- …と、まあそんな感じで そっくりさん事件は幕を閉じ
- あー、そうは言ってもあれから 何度か人違いはされたわけですが
- とりあえず一件落着…
- …って、すみません つい自分語りを…!
- いえいえ!
- それより、助けてくれて 本当にありがとうございました!
- それで、なんですけど 結局、今って仲間は…?
- それが、まあ人間 性格はすぐに変わらないもので
- 取り繕っちゃうクセも 期待してしまう怖さも
- 少し良くなってはいても 簡単には治らなかったので
- 仲間という仲間は できませんでしたね
- ただ、調整屋さんに出会って 調整をしてもらったり
- ひとりで魔女退治の 特訓も頑張ったり…
- あと、まあいろいろと 強くなれる機会もあって
- ある程度ひとりで 生きられるようにもなったので
- 無理に仲間を作る 必要もないかなと
- あ、そうなんですね
- でも、協力関係…くらいの 魔法少女さんは増えましたよ
- 調整屋さんもそうですし
- まあ、仲良し…と言える人は 恥ずかしながらあまりいませんが
- でも、ひとりで生きているなんて すごいです!
- 今も、ひとりで生きたいって 気持ちは変わってないんですか?
- そうですね…
- まあ、この考えに至ったのも さっき話したこと以外にも
- 魔法やらなんやら いろいろあったんですけど
- …うん、やっぱり その意思は変わらないですね
- 他人に期待することも 時としてありますし
- 協力することも いいことだって思います
- でも、誰かに寄りかからずに ひとりで生きられることも
- 多分、大事なんだろうなって
- すごいな…
- 私は弱いから そんな風に思えないです…
- いえいえ、私だって 最初はへっぽこでしたよ
- まあ、今もですけど…へへ
- …あ、そうだ もし良かったらなんですけど
- …?
- 連絡先、交換しませんか?
- ああ、そのナンパとかじゃ ないんですよ!
- その、困っていることがあれば 力になりたいなって…
- 私で良ければ魔女退治の 特訓なんかも付き合いますし
- え…
- あ、それからグリーフシードは ちゃんと足りてますか?
- ソウルジェムが濁ってしまうと 力が出ませんからね!
- あ、あの…
- …って、すみません 次から次にお節介ですよね
- でも、その…少しでも 助けになれたら嬉しいなって…
- いえ、そうじゃなくて
- どうしてそんなに 気にかけてくれるんだろうって…
- 私なんて、さっき会ったばかりの 弱い魔法少女なのに…
- …………
- 私も同じように 誰かに助けられてきたから…
- …なんて、受け売りですけど へへへ…
- もらった優しさを 次は、また別の誰かに…
- そうできたらいいなって 思うんですよね
- じゃあ、私もいつか 誰かを助けられるような
- そんな魔法少女に なれるんでしょうか
- ええ、きっとなれますよ
- あ、私にそんなこと 言われてもですよね、あはは
- あ…
- …………
- (この魔力…今、あそこに)
- (黒いフードのあの子が いた、ような…)
- どうかしました?
- ああ、いえなんでも
- (きっと、気のせい)
- (環さんも、あの子も 元気にしているでしょうか…)
- (いつか、どこかで また会えるかな…)
- (…うん、生きてさえいれば きっと会えますよね)
- また会えたら嬉しいです
Add Comment
Please, Sign In to add comment