倭王武の上表文
興死して弟武立つ。自ら使持節・都督倭・百済・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓七国諸軍事・安東大将軍倭国王と称す。順帝の昇明二年に使いを遣わして上表す。曰く「臣が国は、僻遠にして、藩を大宋に作すも、朝宗あい至らず。…（中略）…東は毛人を征すること五十五国、西のかた諸国を征すること六十六国、渡りて海中の諸国を平らぐること九十五国…（後略）…」『宋書』倭国伝
① 七支刀、② 広開土王碑文との比較検討から、倭の五王の記事はかなり信頼できることがわかる。③「渡りて海中の諸国」とは朝鮮半島のことか。④「父祖」とは倭の五王のこと。⑤「東は毛人を征すること五十五国、西は衆夷を服すること六十六国、渡りて海中の九十五国を平らぐ」とある。『宋書』倭国伝（原文）をみると、倭・百済・新羅の三国を示すという説と、倭人そのものを描いたという説がある。⑥『宋書』は南朝宋の歴史書。
【図】竪穴式石室の模式図
（図の内容）
竪穴式石室
棺
（副葬品）
天井石
壁石
川原石・割石積
粘土床
【表】
[宋書] 倭国伝
（倭）讃 → 珍 → 済 → 興 → 武
[日本書紀]
応神 → 仁徳 → 履中反正 → 允恭 → 安康 → 雄略
「宋書」倭国伝に倭の五王の名が記されている。例えば武は雄略天皇にあたるとする説が有力であるが、讃は応神・仁徳・履中天皇をあてる諸説があり、ほかにも倭・反正天皇をあてる2説がある。
【本文】
紀にかけてのことである。高句麗(こうくり)の好太王(こうたいおう)の碑文(ひぶん)①には、倭(わ)が朝鮮(ちょうせん)半島に進出し高句麗(こうくり)と交戦(こうせん)したことが記しるされている。これは、大和(やまと)政権が朝鮮(ちょうせん)半島の進(すす)んだ技術(ぎじゅつ)や鉄資源(てつしげん)を獲得(かくとく)するために加羅から（任那(みまな)）に進出し、そこを拠点きょてん)として高句麗(こうくり)の勢力(せいりょく)と対抗(たいこう)したことを物語(ものがた)っている。
「宋書(そうじょ)」などには、5世紀(せいき)初めからほぼ1世紀(せいき)の間あいだ、倭(わ)の五王(ごおう)が中国(ちゅうごく)の南朝(なんちょう)に朝貢(ちょうこう)し、高(たかい)称号(しょうごう)を与(あたえ)ようとしたことが記(しる)されている。これは中国(ちゅうごく)の皇帝(こうてい)の権威(けんい)を利用(りよう)して、朝鮮(ちょうせん)諸国(しょこく)に対(たい)する政治的(せいじてき)立場(たちば)を有利(ゆうり)にしようとしたものと考(かんが)えられる。
朝鮮(ちょうせん)半島・中国(ちゅうごく)南朝(なんちょう)との交渉(こうしょう)をつうじて、大和(やまと)政権は大陸(たいりく)の進(すすんだ)技術(ぎじゅつ)と文化(ぶんか)をとりいれ、勢い(きおい)を強(つよ)めた。4世紀(せいき)末(すえ)から5世紀(せいき)にかけての中期(ちゅうき)の古墳(こふん)は急激(きゅうげき)に巨大化(きょだいか)し、大和(やまと)政権の最高(さいこう)の首長(しゅちょう)である大王(おおきみ)②の権力(けんりょく)が強大化(きょうだいか)したことを物語(ものがた)っている。
【脚注】
① 好太王（広開土王）一代の事業を記した石碑で、高句麗の都のあった中国吉林省集安市にある。当時の朝鮮半島の情勢を知るための貴重な史料で、そのなかに「百済（百残）・新羅は旧是属民なり。由来朝貢す。而るに倭、辛卯の年（391年）よりこのかた、海を渡りて百残□□□羅を破り、以って臣民と為す」とあって、日本の朝鮮半島への進出を伝えている。
② 熊本県玉名郡菊水町の江田船山古墳出土の大刀銘には「治天下」の文字と「獲□□□大王世……」とあり、埼玉県行田市の稲荷山古墳出土の鉄剣銘（→p.26図版）にも「獲加多支鹵大王」とある。「大王」は、倭の五王の1人武、記紀（「古事記」「日本書紀」）にワカタケルの名で記録された雄略天皇をさすと考えられる。これらの大刀や鉄剣をもつ古墳の被葬者は、大和政権と密接な関係にあったと推測される。