Yogiri was falling in darkness. He remembered that the distance between the levels of the Underworld was about a kilometer. Calculating roughly, if the acceleration due to gravity in this world was about 10m/s2, ignoring the factor of air resistance, he’d have about fourteen seconds before he hit the ground. A few seconds had already passed, so he probably had less than ten left.

If what had happened was a natural accident then it was only natural he should die. But Yogiri had promised to get Tomochika home safely. He couldn’t die here and leave her alone. Besides, it was hard to chalk this up to a natural event. It seemed likely that someone had set the whole thing up.

But while stuck in what Yogiri called “Phase One,” he couldn’t deal with the situation properly. He would need to unlock his powers. If Tomochika were around, she would probably have snarked about it, but Yogiri still considered himself human. He felt that his abilities to sense danger and inflict death were merely powers he had gained by chance. Just by wishing it, his opponents died. He could see any potential for his own death and therefore avoid it. These abilities seemed entirely unrelated from the outside, and while saying he had received them purely by chance was a bit of a stretch, it was technically possible. However, the power needed to fix the current situation was not a human one.

Well, this world has magic, right? he considered. There were humans out there who could do things of a similar nature. Yogiri wanted to stay as human as possible, so once that thought crossed his mind, he felt more comfortable about unlocking Phase Two.

Within his mind were a number of doors, and by imagining them opening, he could release more of his powers one by one. From the second gate onwards, those doors would automatically close after a certain period of time. The reason he would go through this bothersome process was because a single mistake could easily destroy the world. Using anything from the second gate up required careful consideration.

So, making up his mind, Yogiri opened the second gate. He only wanted to stop falling, but if he wasn’t careful, he could erase gravity from the entire world as well. When erasing formless phenomena or concepts, limiting the area of effect was incredibly difficult. That was why he had hesitated to try killing the “space” back in the Garula Canyon tower.

Furthermore, he wasn’t sure if he could really call the force that brought objects down to the ground “gravity” in this world. And even back home, people weren’t yet sure if gravity operated based on some physical particle like a graviton. Would killing something so vague be safe? And besides all of that, even if he killed “gravity,” he would simply continue to fall at a uniform speed instead of accelerating.

After a brief hesitation, he gave up. It was something he had done unconsciously before, so thinking about it too much was a waste of time.

“Man, this is annoying. I’ll just kill my momentum.”

It was practically playing with words at that point, but for Yogiri, once he had reached Phase Two, such a thing was possible. In an instant, he eliminated the energy causing him to fall. It didn’t matter what precise force was at work...what “died,” and the resulting phenomenon, was all dependent on his own perception.

As soon as he unleashed his power, he began to decelerate. By the time he had reached the ground, still gripping David in his arms, his speed had almost dropped to zero. As he landed, the gate automatically closed, and Yogiri returned to Phase One.

He felt a bit relieved. He didn’t like having the gate open for too long.

-Volume 4 pages 109-111

夜霧 は 闇 の 中 を 落ち て い た。 　 ─ ─ 魔界 の 階層 の 高 さは 一 キロメートル ほど って 言っ て た な。 　 概算 する。 この 世界 の 重力加速度 を 大雑把 に 十 ｍ／ s 2 と し、 空気 抵抗 を 無視 する なら 地面 に 激突 する までは 十 四 秒 程度 だろ う。 　 この 時点 で すでに 数 秒 は 経過 し て いる ので、 残り は 十 秒 も ない 状況 だ。 　 ─ ─ これ が、 本当に 自然発生 し た 災害 だって いう ん なら、 この まま 死ぬ のも 仕方 ない ん だ けど。 　 だが、 夜霧 は 知 千 佳 を 元 の 世界 に 連れ帰る と 誓っ て いる。 ここ で 死ぬ わけ には いか ない の だ。 　 それに、 この 状況 は 自然災害 とは 言い 難く、 何者 かの 策略 で ある 可能性 が 高い。 　 どうにか する と 決め た なら、 力 を 解放 する 必要 が あっ た。夜霧 が フェイズ １ と 呼ん で いる 力 では、 この 局面 に 対応 でき ない から だ。 　 知 千 佳 あたり が 聞け ば 大げさ に ツッコミ そう では ある が、 夜霧 は 自分 が 人間 の 範疇 に ある と 思っ て いる。 危機 感知 と 即死 の 力 について は、 偶然 そう なっ た で 説明 が つく 範囲 だ と 思っ て いる から だ。 　 死ね と 思っ たら、 相手 が 死ぬ。 死 の 危険 が わかっ て 回避 できる。 そこ に 客観的 な 因果関係 は なく、 ただ の 偶然 と 言い張る こと は 無理矢理 では ある が 可能 だっ た。 　 だが、 今 の 状況 を 打開 できる 存在 は、 明らか に 普通 の 人間 では ない。 　 ─ ─ この 世界 には 魔法 なんて もの も ある し な。 これ ぐらい の こと が できる 人間 も いる だろ う。 　 できるだけ 人間 で あり たい 夜霧 は、 そう 己 を 納得 さ せ て 数 秒 間 の フェイズ ２ 使用 を 容認 する。 　 心 の 中 に 鍵 を かけ た 門 が いくつ か あり、 段階 的 に 門 を 開い て 力 を 解放 する イメージ だ。 　 なお、 第二 門 以降 は、 あらかじめ 決め た 時間 で 自動的 に 閉まる よう に なっ て いる。 　 この よう な 面倒 な プロセス を 踏ん で いる のは、 一つ 間違えれ ば 簡単 に 世界 が 滅ぶ から だ。 第二 門 以降 の 運用 には 慎重 に なる 必要 が ある。 　 覚悟 を 決め て、 夜霧 は 二つ 目 の 門 を 開い た。 　 ─ ─ 落下 を 止める。 けど、 うまく 限定 し ない と この 世界 全体 の 重力 が 消える な。 　 形 の ない 現象 や 概念 を 消そ う と する と、 範囲 の 限定 が 非常 に 難しく なる。 魔神 を 封印 し て い た 塔 で〝 空間〟 を 殺す のを 躊躇 し た のも それ が 原因 だ。それに、 この 世界 において 物体 が 地面 に 引き寄せ られる 現象 を 重力 と 断定 し て いい もの か。 　 重力子 など という 存在 すら 定か では ない もの を 殺し て いい のか。 　 重力 を 殺し ても 等加速度運動 が 等速運動 に なる だけなのでは ない か。 　 迷い は し た ものの、 夜霧 は すぐ に 開き直っ た。 以前 は 無意識 に やっ て い た こと で あり、 考え た ところ で 時間 の 無駄 だ。 「めんどくさい な。 だっ たら〝 俺 の 勢い〟 を 殺す」 　 こんな もの ただ の 言葉 遊び では ある。 だが、 フェイズ ２ に いたっ た 夜霧 には それ が 可能 だっ た。 　 この 瞬間、 自分 に かかっ て いる 落下 エネルギー を 殺す。 この 際、 実際 に どの よう な 力 が 働い て いる かは 関係 が ない。 何 が 死ん で、 どんな 現象 が 起こる のか。 それ は、 夜霧 の 認識 に 依存 する の だ。 　 力 が 発動 し、 途端 に 減速 し はじめる。 　 隣 を 落ちる デイヴィッド を 抱き 抱え 地面 に 着地 する ころ には、 落下 速度 は ほぼ ゼロ に なっ て い た。 　 着地 し た ところ で 門 が 自動的 に 閉じ、 フェイズ １ へと 移行 する。 夜霧 は 少し ばかり ほっと し た。 あまり 長時間 開け て おく べき もの では ない から だ。

-Volume 4 pages 168-170