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- 初めての遊園地デート(前夜)
- いかん……全く眠れない。
- 明日のことを考えるだけで心臓が破裂しそうになる。オレは布団の中で身悶るように寝返りを何度もうった。頭の中では雲雀の可愛らしい声が響く。
- 「柳生ちゃん、明日、遊園地に行かない?」
- 雲雀からオレを誘ってくるとは。しかも、デートの定番である遊園地に。
- 「むっ?」
- 閉じていた目を開け自分の鼻に手をやる。
- 「鼻血だと?!」
- オレは布団の脇に置いてあったディッシュに手を伸ばした。
- 「くっ。オレは何を興奮している」
- ディッシュを鼻に詰めると、オレは小さく息を吐いた。そもそもこれはデー
- トだというよこしまなものではない。オレと雲雀はたった2人の新入生
- だが、まだお互いのことをよく知らない。そこで気を遣った雲雀が「一緒に
- 遊んでもっと親密になろうよ」と言い出したのだ.
- 全くその通り。学生生活で最も重要なのが、仲間のことをよく知ることであ
- る。さすがはオレが一目惚れした雲雀だ。学生というものをよくわかっている。
- というわけで、明日は絶対に2人の仲を深めなければならない。これはいき
- なり大きなミッションだ。成功させるためには十分な睡眠が不可欠だった。
- それなのに目を閉じると、いろいろなことを想像して、むしろ意識が覚醒し
- てしまう。
- こうなったら仕方がない。眠れないのなら持ち物チェックでもするとしよう。
- まずは……ディッシュ。お出かけ時の基本中の基本だ。それに雲雀は花粉
- 症かもしれない。
- よし、頭の中でシミュレートしてみよう。
- 「柳生ちゃん、鼻がムズムズするよ!」
- 「まかせろ、ひばり。これでチーンするんだ」
- 「チーン!」
- 「いっぱい出たか?」
- 「えへ。ありがとう、柳生ちゃん! 柳生ちゃん、だーい好き!」
- ……うむ。完璧だ。申し分ない。
- 次は各種薬だ。遊園地は楽しいところだが、危険もいっぱいだ。事故を未
- 然に防ぐためのシミュレートが必要だ。
- 「いたーい! 柳生ちゃん、転んじゃったよ」
- 「雲雀、安心しろ。オレが調合した傷薬だ。」
- 「わあ! 柳生ちゃんって傷薬も作れるんだ! すごーい!」
- ……うむ。パーフェクト。一分の隙もない。
- 飲み薬はすべて子供用の甘いシロップを用意した。きっと雲雀は粉薬が苦手
- なはずだ。さらに万が一に備え、簡単な外科手術を行えるくらいの道具も
- 用意した。
- あとは、レジャーシートにお手拭い、冷たい麦茶とジュースも用意してある。
- このくらい準備をしておけば問題ないはずだ。
- 遊園地に着いたら周囲に目を光らせ、雲雀を狙う不埒な輩どもを近づかせ
- ないようにしなければ。着ぐるみにだって気を許してはならない。
- ……む?
- いかん!?
- 窓の外からチュンチュンと鳥の声が聞こえてきた。
- もうそんな時間なのか?
- 少しでも睡眠をとっておかねば、遊園地で居眠りをしかねない。
- ……いや、ちょっと待て。
- お菓子は足りているのか?
- 一通り用意したつもりだったが、雲雀の胃袋を甘く見ることはできない。
- よし。用意した菓子の数を再確認だ。
- うさちゃんせんべいが1枚。
- うさちゃんせんべいが2枚。
- うさちゃん……せんべいが3枚……。
- ……うさちゃん……せんべいが……4枚……。
- ……う。
- ……。
- 「うさちゃんせんべいが!」
- オレはいきなり飛び起きた。
- いつの間にか眠ってしまっていたようだ。嫌な予感がざわざわとする。
- 怒る怒る窓を見ると、外がやけに明るい。
- オレは枕元の時計を手にした。
- 「バ、バカな!?」
- 待ち合わせの時間まであと3分だった。
- 「うおおおっ! 雲雀を待たせるわけにはいかん!」
- オレは寝巻きのまま何も持たずに部屋を飛び出した。
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