Guest User

Untitled

a guest
Oct 20th, 2017
69
0
Never
Not a member of Pastebin yet? Sign Up, it unlocks many cool features!
text 4.40 KB | None | 0 0
  1. 初めての遊園地デート(前夜)
  2.  
  3. いかん……全く眠れない。
  4.  
  5. 明日のことを考えるだけで心臓が破裂しそうになる。オレは布団の中で身悶るように寝返りを何度もうった。頭の中では雲雀の可愛らしい声が響く。
  6.  
  7. 「柳生ちゃん、明日、遊園地に行かない?」
  8.  
  9. 雲雀からオレを誘ってくるとは。しかも、デートの定番である遊園地に。
  10.  
  11. 「むっ?」
  12.  
  13. 閉じていた目を開け自分の鼻に手をやる。
  14.  
  15. 「鼻血だと?!」
  16.  
  17. オレは布団の脇に置いてあったディッシュに手を伸ばした。
  18.  
  19. 「くっ。オレは何を興奮している」
  20.  
  21. ディッシュを鼻に詰めると、オレは小さく息を吐いた。そもそもこれはデー
  22. トだというよこしまなものではない。オレと雲雀はたった2人の新入生
  23. だが、まだお互いのことをよく知らない。そこで気を遣った雲雀が「一緒に
  24. 遊んでもっと親密になろうよ」と言い出したのだ.
  25.  
  26. 全くその通り。学生生活で最も重要なのが、仲間のことをよく知ることであ
  27. る。さすがはオレが一目惚れした雲雀だ。学生というものをよくわかっている。
  28.  
  29. というわけで、明日は絶対に2人の仲を深めなければならない。これはいき
  30. なり大きなミッションだ。成功させるためには十分な睡眠が不可欠だった。
  31.  
  32. それなのに目を閉じると、いろいろなことを想像して、むしろ意識が覚醒し
  33. てしまう。
  34.  
  35. こうなったら仕方がない。眠れないのなら持ち物チェックでもするとしよう。
  36.  
  37. まずは……ディッシュ。お出かけ時の基本中の基本だ。それに雲雀は花粉
  38. 症かもしれない。
  39.  
  40. よし、頭の中でシミュレートしてみよう。
  41.  
  42. 「柳生ちゃん、鼻がムズムズするよ!」
  43.  
  44. 「まかせろ、ひばり。これでチーンするんだ」
  45.  
  46. 「チーン!」
  47.  
  48. 「いっぱい出たか?」
  49.  
  50. 「えへ。ありがとう、柳生ちゃん! 柳生ちゃん、だーい好き!」
  51.  
  52. ……うむ。完璧だ。申し分ない。
  53.  
  54. 次は各種薬だ。遊園地は楽しいところだが、危険もいっぱいだ。事故を未
  55. 然に防ぐためのシミュレートが必要だ。
  56.  
  57. 「いたーい! 柳生ちゃん、転んじゃったよ」
  58.  
  59. 「雲雀、安心しろ。オレが調合した傷薬だ。」
  60.  
  61. 「わあ! 柳生ちゃんって傷薬も作れるんだ! すごーい!」
  62.  
  63. ……うむ。パーフェクト。一分の隙もない。
  64.  
  65. 飲み薬はすべて子供用の甘いシロップを用意した。きっと雲雀は粉薬が苦手
  66. なはずだ。さらに万が一に備え、簡単な外科手術を行えるくらいの道具も
  67. 用意した。
  68.  
  69. あとは、レジャーシートにお手拭い、冷たい麦茶とジュースも用意してある。
  70. このくらい準備をしておけば問題ないはずだ。
  71.  
  72. 遊園地に着いたら周囲に目を光らせ、雲雀を狙う不埒な輩どもを近づかせ
  73. ないようにしなければ。着ぐるみにだって気を許してはならない。
  74.  
  75. ……む?
  76.  
  77. いかん!?
  78.  
  79. 窓の外からチュンチュンと鳥の声が聞こえてきた。
  80.  
  81. もうそんな時間なのか?
  82.  
  83. 少しでも睡眠をとっておかねば、遊園地で居眠りをしかねない。
  84.  
  85. ……いや、ちょっと待て。
  86.  
  87. お菓子は足りているのか?
  88.  
  89. 一通り用意したつもりだったが、雲雀の胃袋を甘く見ることはできない。
  90.  
  91. よし。用意した菓子の数を再確認だ。
  92.  
  93. うさちゃんせんべいが1枚。
  94.  
  95. うさちゃんせんべいが2枚。
  96.  
  97. うさちゃん……せんべいが3枚……。
  98.  
  99. ……うさちゃん……せんべいが……4枚……。
  100.  
  101. ……う。
  102.  
  103. ……。
  104.  
  105. 「うさちゃんせんべいが!」
  106.  
  107. オレはいきなり飛び起きた。
  108.  
  109. いつの間にか眠ってしまっていたようだ。嫌な予感がざわざわとする。
  110. 怒る怒る窓を見ると、外がやけに明るい。
  111.  
  112. オレは枕元の時計を手にした。
  113.  
  114. 「バ、バカな!?」
  115.  
  116. 待ち合わせの時間まであと3分だった。
  117.  
  118. 「うおおおっ! 雲雀を待たせるわけにはいかん!」
  119.  
  120. オレは寝巻きのまま何も持たずに部屋を飛び出した。
Add Comment
Please, Sign In to add comment