Advertisement
Not a member of Pastebin yet?
Sign Up,
it unlocks many cool features!
- 七星剣武祭二日目。
- Cブロック第二試合、黒鉄一輝 対 城ヶ崎白夜。
- 一回戦で《七星剣王》を打ち破った新進気鋭のFランク騎士と、昨年度七星剣武祭準優勝者の勝負は、誰もが予想をしなかった決着を迎えた。
- 一輝の開幕《一刀羅刹》という奇襲によって、城ヶ崎白夜は開始線から一歩も動くことが出来ないまま、リングに沈んだのだ。
- あまりに一方的な決着に主審もしばし呆然としていたが、
- 「主審」
- と判断を急かす一輝の声にすぐに自分の仕事を思いだし、倒れた白夜の元へ駆け寄る。
- そして彼が完全に意識を失っているのを確認してから、試合終了の宣言をした。
- この結果に、会場中が響めいた。
- 『な、なななな! なんということでしょう! 《落第騎士》黒鉄一輝選手! 試合開始のコールがされた瞬間! 一瞬にして《天眼》城ヶ崎白夜選手との間合いを詰めるや斬って落としたァァッ!』
- 『お、おいなんだよ今の!?』
- 『今何やったか見えたか?』
- 『い、いや、ぜんぜん。試合が始まったと思ったら、いつの間にか……』
- 試合が終わっていた。
- 観客達は一様に何が何だかわからないといった表情。
- しかし彼らが混乱するのも無理はない。
- なぜなら──、今一輝が使用した技は、一般人の動体視力で追い切れる次元を完全に超越した一撃なのだから。
- 『今のは彼が《雷切》戦で用いた、研ぎ澄ました集中力と肉体制御力で自身の全ての力を一分間で使い切る《一刀修羅》の強化版ですね。それを《比翼》の剣と合わせて最速の開幕速攻をかける。……なるほどたいへん合理的かと』
- 事態が飲み込めていない観客達に今一輝が何をしたのかを説明するのは、牟呂渡プロに代わって実況席に入った、眼鏡をかけたスーツ姿の妙齢の女性。八乙女プロだ。
- そんな彼女に、引き続き実況を務める飯田が尋ねる。
- 『その二つの組み合わせはそんなに合理的なのですか?』
- 『ええ。というのも《無冠の剣王》の伐刀絶技も《比翼》の剣術も、その理念は同じなのです。
- 一瞬に全ての力を振り絞る。
- どちらもその理念に基づいた瞬発力に長けた技。
- 故に組み合わせると相乗効果が発生します。
- それがどれほどのものかは、試合時間をご覧になれば一目瞭然かと』
- そう言われ、改めて試合時間を確認した飯田は目を剝く。
- 『こ、これは……! す、すごい数字が出ています! なんと試合時間わずか0コンマ8秒ォ! 黒鉄一輝選手! 前大会二位を大会最速記録にて粉砕ィィィ!』
- 『い、一秒かかってないやんか!』
- 『おい! 今までの大会記録っていくつだっけ?』
- 『たしか、二十秒くらいだったはず』
- 『20分の1以下にまで縮めたのかよ…………!』
- 『か、かっこいい……っ』
- 『すげえぞ兄ちゃん! このまま優勝まで一気に行っちまえーッ!』
- 『がんばってー! イッキくーんっ!』
- 『歓声を受けながら、前大会準優勝者を記録的圧勝にて下した黒鉄選手が控え室へと引き上げて行きます! Fランクという魔法適正の不利を超人的な瞬発力で乗り越え、堂々の三回戦進出! 強い! 本当に強いぞ《落第騎士》! このまま七星の頂まで駆け上がることが出来るのか! 午後からの三回戦も目が離せませんッッ!』
- 七星剣武祭始まって以来の劣等生でありながら、前大会の一位と二位を打ち破る快進撃を見せる一輝の活躍に沸き上がる会場。
- ただその中で、八乙女は眼鏡の奥から抜け目ない視線でリングを去る勝者の背中を見つめ、思う。
- 確かに結果だけ見れば一輝の圧勝だが──
- (果たしてこの試合、『圧勝』と言えるようなものでしょうか)
- ◆◇◆◇◆
- 「っ…………!」
- ゲートを潜り、観客の目から見え無い場所まで戻ってきた一輝は、肩で息をしながら通路の壁に寄りかかる。
- 額からは夥しい量の汗。
- ポタポタと足元に滴るは……血の雫。
- 《一刀羅刹》は《一刀修羅》の十倍の瞬間出力を誇る技だ。
- それは鍛え抜いている一輝の肉体をしても、耐えることの出来ない負荷を産む。
- ほとんど自爆技なのだ。
- 本来なら一輝としてもあまり使いたい技ではない。
- でも……これでいいと彼は確信していた。
- なぜなら、
- (……普通に試合を進めてたら、最短二十三手目で僕が《天眼》に捕まっていた)
- 試合前白夜が《天眼》と称される洞察力をもって想像していたこの戦いの棋譜。それと全く同じモノを、一輝もまた照魔鏡と賛美される洞察眼で見抜いていたからだ。
- 白夜が一輝の開幕《一刀羅刹》からの速攻を考慮していないことも、すべて。
- ならばそこを突く。
- より確実な勝利のために。
- そしてそれはこれ以上ない形ではまり、見事に功を奏した。
- だが……
- (見た目ほど、景気のいい圧勝じゃないな)
- 一輝はそれを自覚していた。
- 当然だ。
- なぜ試合前に試合の流れの全てを見透かす《天眼》ともあろうものが、こんな初歩的なミスを犯したのか。
- それは……今の開幕速攻がそれほどにあり得ない選択だったからだ。
- 今日は試合スケジュールの都合上、午後に三回戦が行われる。しかも相手は……《剣士殺し》を圧倒的な力で下した《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリー。描いたモノを具現化し、魔導騎士の固有の伐刀絶技すらも再現して見せた暁学園の隠し球だ。
- そんな怪物を相手にする前に、一日一回限りの切り札を切る。
- それはトータルで見れば勝率を著しく下げる行為に他ならない。
- 難敵とはいえ、白夜を相手に切り札を温存しながら工夫して立ち回った方が、よっぽど理にかなっていると言えるだろう。
- だが一輝は切り札を切った。
- いや、正確に言えば……切るしかなかった。
- 後の試合のことを考えていられるような相手ではなかったから。
- すなわちこの試合、一輝はそれほどに追い詰められていたのだ。
- (やっぱり、ステラの前では強がって見せたけど、連戦はきっついなぁ)
- 一輝の内に勝利の喜びなどは欠片もなかった。
- あるのはただ、不安ばかり。
- 日本最高の学生騎士達が集まる七星剣武祭での、一日二連戦。
- しかも三回戦で戦う相手は、一輝自身の伐刀絶技である《一刀修羅》はもちろん、彼の剣技すら再現して見せたサラの伐刀絶技《幻想戯画》。
- その気になればおそらく今一輝が白夜を下したのと同じ合わせ技を、彼女も使えるだろう。
- (彼女を《一刀修羅》無しで攻略出来るのだろうか……)
- そんなサラの能力に加えて一輝の気分を重くするのは……彼女の執着だ。
- どういうわけか彼女は自分にヌードモデルになれと執拗に迫ってくる。
- 昨日はそのせいで兄の部屋で寝ることになった。
- ……負けでもしたら、リングの上で裸にされるのではあるまいか。
- そんなことになったらもう表に出られない。
- なにしろ今年の七星剣武祭は世界規模で放送されているのだから。
- 「うぅ……胃が……身体以上に胃が痛い…………」
- 三回戦は色んな意味で、一輝にとって気の重い試合になりそうだった。
Advertisement
Add Comment
Please, Sign In to add comment
Advertisement