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- FILENAME: text_314021-1.txt
- やちよ: …………
- いろは: あれ? 編み物だなんて珍しいですね
- やちよ: ちょっと懐かしくなってね 昔の道具を引っ張りだしたのよ
- いろは: 確かに年季が入ってるような… 昔はよくやっていたんですか?
- やちよ: よくっていうほどじゃないけど…
- やちよ: おばあちゃんに教わって 作ったこともあったのよ
- やちよ: この前、私とみふゆの タイムカプセルを開けたときに
- やちよ: 手編みのマフラーが2本、 出てきたのを覚えてる?
- いろは: マフラー…
- いろは: あっ! 雪の結晶の模様が入ってる…!
- いろは: あれって、やちよさんが 編んだものだったんですね
- やちよ: 不格好だったでしょ?
- やちよ: まだ小学生だった頃で、 編み物も始めたばかりだったから
- いろは: でも、一生懸命 作ったものだったんですよね?
- やちよ: ええ
- やちよ: クリスマスに両親へ プレゼントするつもりだったから
- うい: ただいまー!
- 鶴乃: お邪魔しまーす
- やちよ: おかえりなさい
- さな: おふたりで なんの話をしてたんですか?
- フェリシア: おもしれー話か?
- やちよ: この間タイムカプセルから マフラーが出てきたでしょ?
- やちよ: それにまつわる話だから、 別に面白くなんてないわよ
- 鶴乃: いやいやいやいや!
- 鶴乃: やちよが小学生の頃の話なら むしろ気になるって!
- フェリシア: おう、オレも聞きたい!
- やちよ: そう…?
- やちよ: 話すのは構わないけど この話、たぶん長くなるわよ
- うい: でも、聞いてみたいな
- さな: ね、聞きたいよね…
- やちよ: そこまで言うなら仕方ないわね
- やちよ: でも、まずは 手洗いうがいをしてくること
- みんな: はーい!
- やちよ: ふふっ…
- やちよ: いろは、悪いけど
- やちよ: みんなが手を洗っている間に お茶を淹れてもらえる?
- いろは: はい、もちろん!
- やちよ: 悪いわね
- やちよ: 私は、例のマフラーを 取ってくるわ
- FILENAME: text_314021-2.txt
- フェリシア: …このマフラー マジでやちよが作ったのか?
- やちよ: そうよ 小学生の頃、だけど
- フェリシア: へぇ、意外だな… 幅が揃ってないし…
- やちよ: 初めて編んだものだからね 今なら、もう少し上手にできるわ
- うい: いま編んでるマフラー すっごくキレイだもんね!
- 鶴乃: 元々やちよが器用な証拠だよ
- いろは: ただ、上手じゃなくても…
- いろは: 私はタイムカプセルから 出てきた方のマフラーも
- いろは: 温かみがあっていいと思います
- やちよ: …そうかしら
- いろは: ご両親にあげるために 頑張って作ったんですよね?
- やちよ: ええ
- いろは: なんだか、その気持ちが 詰まっている気がするんです
- やちよ: …………
- さな: …あれ?
- さな: あの…プレゼントなら どうしてここに…?
- やちよ: …………
- やちよ: 簡単に話しても わからないと思うから
- やちよ: 小学生だった頃の 事情から話しましょうか
- やちよ: 『私の両親は転勤族だったの』
- やちよ: 『みかづき荘に預けられることになる前は 両親と一緒に 日本全国いろんなところに行ったわ』
- やちよ: 『両親と一緒に過ごす そんな日々も楽しかった』
- やちよ: 『でも、転校ばかりだったから なかなか友だちはできないし』
- やちよ: 『モデルの仕事を始めて以来 私も忙しくなってしまったから モデル事務所がある神浜市の おばあちゃんのところ…』
- やちよ: 『つまり、みかづき荘に 預けられることになったの』
- やちよの父: うぅ…やちよ やっぱりお父さんたちと一緒に…
- やちよ: もう、何度も話し合ったでしょ
- やちよ: おばあちゃんもいるから 私は大丈夫…!
- やちよの母: でも、慣れない環境だし…
- やちよの母: 明日の転入手続きまでは 一緒にいたいわ…
- やちよ: 転校だって初めてじゃないから 大丈夫だってば
- やちよ: お仕事あるんでしょ?
- やちよの母: そうだけど…
- やちよ: 今日、出発しないと 困るのはふたりなんだから
- やちよの母: でも、徹夜でお父さんと 交代で運転すればギリギリ…
- やちよ: 危ないからダメ
- やちよ: もう、これじゃあ 私の方が心配になっちゃうよ…
- やちよ: しっかりして!
- やちよの父: …そうだな
- やちよの父: でも、何かあったら いつでも言うんだぞ
- やちよの母: 毎日電話するからね
- やちよ: 私もお母さんたちも忙しいんだし 毎日はしなくて大丈夫
- やちよ: …週末くらいで
- やちよの祖母: やちよのことは任せて
- やちよの祖母: ふたりも 無理はしないようになさいね
- やちよの父: ああ、頼むよ 母さん…
- やちよの母: よろしくお願いします
- やちよ: はぁ、やっと行ったわね まったく、大丈夫かしら
- やちよ: …………
- やちよ: 『振り返ってみると 両親に心配をかけたくなくて この頃から背伸びばかりしていたわね』
- やちよの祖母: 今日のお夕飯は やちよの好きなものにしようね
- やちよ: …うん
- やちよ: 『きっと大人たちには 強がっていることなんて バレバレだったでしょうけど』
- FILENAME: text_314021-3.txt
- やちよ: 『モデルの仕事がしやすい環境作りと ひとつの学校に落ち着いて友だちを作るために みかづき荘に預けられることになったけど』
- ねぇ、学校が終わったら うちに遊びに来ない?
- やちよ: (遊びのお誘い…!)
- やちよ: …行きたいけど 今日は撮影があって
- あっ、モデルさんなんだっけ?
- やちよ: うん
- そっか…残念だけど お仕事なら仕方ないよね…
- やちよ: ごめんなさい… また今度誘ってね
- やちよ: 『けれど、結局 学校の子たちと放課後遊ぶことは ほとんどなかったわ』
- やちよ: 『みんな親切にしてくれたけど 神浜市に定住したことで モデルの仕事が ますます忙しくなってしまったから…』
- やちよ: 『まぁ、そういう意味では 安定してモデルの仕事をするため っていうもうひとつの目的は 十分達成できたと言えるけど』
- やちよの祖母: やちよ、お母さんから 電話がきたわよ
- やちよ: えっ、今日も!
- やちよ: …週末だけでいいって言ったのに
- やちよの祖母: ふふっ
- やちよ: もしもし…
- やちよの母: やちよ! 元気にしていた?
- やちよ: …昨日も電話したでしょ 元気にしてるよ
- やちよの母: でも、電話だと 顔が見れないんだもの…
- やちよの母: 学校はどう? 困ってることはない?
- やちよ: それも大丈夫
- やちよの母: そう…? いつも大丈夫って言うから…
- やちよ: 本当だよ
- やちよ: えっと…今日だって 放課後遊ぼうって誘われたし…
- やちよ: (遊びにはいけなかったけど…)
- やちよの母: さっそく お友だちができたの?
- やちよの母: よかったわね
- やちよ: う、うん… 学校でもテレビの話とかするよ
- やちよ: (…本当は見てないから 聞いてるだけだったんだけど…)
- やちよの母: へぇ、いいわね そっちだと何が流行ってるの?
- やちよ: えっとね… 変身して戦うやつ、とか…
- やちよの母: 変身…あっ! ティーナちゃんかな?
- やちよの母: “内緒のヒロイン ティピカル☆ティーナ”でしょ!
- やちよ: あ、うん… それ、だよ
- やちよの母: …………
- やちよ: お母さん…?
- やちよの母: んー…じゃあ、次に帰るまでに お母さんも見ておこうかなー!
- やちよ: い、いいよ、わざわざ見なくて! お仕事忙しいんだからっ…!
- やちよ: それに、テレビの話は 友だちとするし…
- やちよの母: そう…?
- ピッ…
- やちよ: (…ふぅ)
- やちよ: (友だちがちゃんとできないこと なんとかごまかせたかな…?)
- やちよ: …………
- やちよの祖母: やちよ
- やちよ: おばあちゃん…
- ギュッ
- やちよ: …心配かけたくないの
- やちよの祖母: そうね… やちよの気持ちもわかるわ
- やちよ: 『強がってばかりだった幼い私は 自分で自分を苦しめてもいたけど…』
- やちよ: 『決して不幸ではなかったのよ』
- FILENAME: text_314021-4.txt
- やちよ: 『学校ではうまく友だちを作れなくて 両親の前では強がってばかりいたけど』
- やちよ: 『幼い頃の私は不幸ではなかったの』
- やちよ: ――っ!?
- やちよ: これ、おいしい…!
- やちよちゃんも それ気に入ったの?
- ささみときゅうりの梅肉和えって 言うんだよ
- やちよ: 私も、ってことは お姉さんも好きなの?
- うん、大好き!
- やちよちゃん、 こっちも食べてみて
- あっ、お味噌汁のおかわりいる? ついでによそってくるよ
- やちよ: …………
- 宿題やっているの? 偉いね
- やちよ: やらないといけないことを してるだけだし偉くはないよ…?
- 言われる前に自分から やってるだけで十分偉い!
- やちよ: …うん、ありがとう
- 隣で課題やっていい?
- やちよ: うん、いいよ
- あ、わからないところあったら 聞いてね
- やちよ: (大学生は 宿題じゃなくて課題なんだ…)
- やちよ: (なんか、いいな…)
- やちよ: (私も早くお姉さんたちみたいに 大人になりたい)
- やちよ: (そうすれば)
- やちよ: (お父さんとお母さんも 心配しなくなるだろうし…)
- やちよ: 『今ならね 大学生が大人かって聞かれると 迷っちゃうんだけど…』
- やちよ: 『小学生だった頃の私にとっては 十分大人に見えたの』
- やちよ: 『早くお姉さんたちの仲間入りをして 両親に心配をかけない自分になりたいって 思っていたわ』
- 次の撮影まで 15分休憩になりまーす!
- やちよ: …ふぅ
- やちよ: (今日はかなり いい感じにできてるかも…!)
- やちよのマネージャー: やちよ、 お父さんが見に来てくれたよ
- やちよ: えっ…!
- やちよの父: やちよ!すごいな! とっても可愛かったよ!
- やちよ: あ、あれくらい普通だよ… 私だってプロだもん
- やちよの父: うん、そうだな 頑張ってるもんな
- やちよ: …じゃなくて! どうして、ここにいるの!?
- やちよの父: 出張だよ 近くでやる打ち合わせがあるんだ
- やちよの父: でも、始まるまで 少し時間があるから抜けてきた
- やちよ: ダメじゃない!
- やちよの父: サボりじゃないぞ ちょっと遅いお昼休みだから
- やちよ: それなら…
- やちよ: 待って、お昼ご飯は食べたの?
- やちよの父: …………
- やちよ: 食べてないの…?
- やちよ: もう、食べないと身体に悪いし お仕事頑張れないでしょ?
- やちよの父: だって、少しでも やちよに会いたくて…
- やちよ: 私は大丈夫だって いつも言ってるじゃない
- やちよ: お仕事を優先して
- やちよの父: でも、お父さんが寂しいんだ…
- やちよ: …………
- やちよ: 私が休憩の間だけだからね
- やちよ: その後はちゃんとお昼を食べて お仕事に戻って
- やちよ: 『忙しいのに時間を作って会いに来てくれて 本当は嬉しかったの』
- やちよ: 『でも、父の仕事の邪魔には なりたくなかったし』
- やちよ: 何より、我慢することが 大人への近道だと思っていたから
- やちよ: 素直に甘えられなかったのよね…
- いろは: ちょっとわかるかも…
- うい: わたしは…甘えちゃうけど…
- やちよ: それでいいのよ、ういちゃん 私の両親がそうだったように
- やちよ: ふたりの両親も、きっと 甘えてほしいって思ってるから
- やちよ: 私は背伸びしたかったんだけど、 両親は甘やかしたかったみたいね
- FILENAME: text_314022-1.txt
- やちよ: …さて、小学生だった頃の私が どんな子だったかはこの辺にして
- やちよ: ここからは、 マフラーの話をしましょうか
- やちよ: 『あれは… 私が魔法少女になって みふゆとも仲良くなったあとのことだったわ』
- やちよの父: うぅ…今日は冷えるなぁ…
- やちよの母: もう12月だものね
- やちよの父: やちよ、風邪ひかないように 温かくして過ごすんだぞ
- やちよ: うん、わかってる
- やちよ: お父さんとお母さんも 風邪ひかないでね
- やちよの母: ありがとう
- やちよの母: …しばらくは来られないけど 電話はするからね
- やちよ: 12月は毎年忙しいって わかってるから大丈夫
- やちよ: それよりお仕事に集中して
- やちよの母: …うん
- やちよの母: でも、クリスマスくらい 一緒に過ごしたいわね
- やちよ: 無理しないでいいってば
- やちよ: (クリスマス、か…)
- みふゆ: クリスマスプレゼントですか…?
- やちよ: お父さんもお母さんも お仕事頑張ってるから
- やちよ: 何かしてあげたくて…
- いいね きっと喜ぶよ!
- 何をあげるか決めた?
- やちよ: …ううん
- やちよ: それが思いつかなくて みんなに相談しようと思ったの
- やちよ: みふゆやお姉さんたちは 何かあげたことある…?
- みふゆ: ワタシは…
- みふゆ: お稽古事で結果を残すことが 一番の贈り物だって言われました
- やちよ: あ、ごめん…
- みふゆ: だ、だから…!
- みふゆ: こうやって贈り物を考えるのは わくわくします…!
- みふゆ: 一緒に素敵なプレゼントを 考えましょう…!
- やちよ: みふゆ… ありがとう
- 何をあげようか 迷ってるみたいだけど
- どういう感じがいいとかある?
- やちよ: えっと…
- 漠然とでもいいよ そこからアイデア広げてこ!
- やちよ: …クリスマスらしいもの?
- みふゆ: クリスマス…クリスマス… クリスマスらしい小物とかです?
- やちよ: …小物 いいと思うけど…
- やちよ: ふたりは仕事で家を空けることが 多いから
- やちよ: 飾っても見る機会が あんまりないかも…
- みふゆ: それは悲しいですね…
- それなら 持ち運べるものとかかな?
- みふゆ: 持ち運び… 身につけるってことですか…?
- やちよ: 身につける…
- やちよ: あっ! マフラー!
- みふゆ: マフラー…?
- やちよ: さっきお見送りした時 ふたりとも寒そうだったから
- それいいかもね! お仕事のときにもつけていけるし
- みふゆ: 手編みマフラーは クリスマスの定番だって
- みふゆ: クラスの子が言っているのを 聞いたことがあります…!
- やちよ: て、手編み…?
- みふゆ: 違いました?
- やちよ: (編み物はしたこと ないんだけど…)
- やちよ&みふゆ: ううん
- やちよ: おばあちゃんに教わって やってみようかな
- FILENAME: text_314022-2.txt
- やちよ: (えっと…模様をつけるから ここで糸を変えるんだっけ…)
- やちよ: 『お仕事を頑張っている両親に クリスマスプレゼントとして 手編みのマフラーを贈ろうと決めた私は おばあちゃんに教わって 初めての編み物に挑戦したの』
- やちよ: …あれ?
- やちよ: (これでちゃんと 模様になるのかな…?)
- やちよの祖母: やちよ そろそろお夕飯の時間だよ
- やちよ: えっ、もうっ!? ごめん、お手伝いできなくて…
- やちよの祖母: クリスマスまでは お手伝いはしなくていいわよ
- クリスマスまでにマフラー2本 編んじゃいたいんでしょ?
- やちよ: うん…
- やちよ: 忙しくて会えるかわからないけど ちゃんと間に合わせたい
- だったら、お手伝いのことは 気にしてないでいいから
- 編み物に集中しよ?
- やちよ: …ありがとう
- それより、どう? 順調?
- やちよ: えっと…
- やちよ: 模様を入れるところなんだけど ちゃんとできてる…?
- やちよの祖母: 見せてごらん
- やちよ: 『初めてだったから わからないことだらけだったし 編む速度も遅かったけど みんなが助けてくれたのよ』
- やちよの祖母: …うん これで大丈夫
- やちよ: 糸、切らなくていいんだよね…?
- やちよの祖母: ええ、むしろ切っちゃダメよ
- やちよ: 『それからずっと編み続けて 一週間後…』
- やちよ: …………
- やちよ: …よ、よし 糸…切る、わよ…?
- みふゆ: は、はい…!
- やちよ: うっ…本当に… 大丈夫、よね…?
- やちよの祖母: ふふ、大丈夫よ ちゃんと編めてるわ
- やちよ: じゃあ…
- パチンッ
- やちよ: できた…
- みふゆ: すごいです、やっちゃん!
- みふゆ: 1本目のマフラー 編み終わりましたね!
- やちよ: えへへ…
- やちよ: あ、まだできてないわ 糸の処理をしないと…
- やちよの祖母: とじ針を持ってくるわね
- やちよ: …………
- やちよ: (マフラー、編めちゃった)
- やちよ: (…幅が揃ってないし 糸も寄ったところがあるけど)
- やちよ: (初めてにしては よくできた、かも…)
- やちよの祖母: やちよ
- やちよ: おばあちゃん どうしたの?
- やちよの祖母: お父さんとお母さんね
- やちよの祖母: クリスマスの日、 午後からお休みが取れたそうよ
- やちよ: …えっ…………?
- やちよ: えっ!うそ!?
- やちよの祖母: 本当よ やちよと一緒に過ごしたいって
- やちよ: もう、また無理して 残業したんでしょ…
- やちよ: それに、なんでおばあちゃんに? 直接私に言えばいいのに…
- やちよの祖母: ふふ、お友だちと約束があったら 悪いと思ったみたいね
- やちよ: わざわざ休みを取ったなら 私だって時間くらい作るわよ…
- やちよ: 『強がりばっかり言ってしまったけど 本当はすっごく嬉しかったの』
- やちよ: (…クリスマス 一緒に過ごせるなんて)
- やちよ: (もう1本のマフラーも 頑張って作らなきゃ…!)
- FILENAME: text_314022-3.txt
- やちよ: ふぅ…完成まであとちょっと…
- やちよ: (…幅が広かったり狭かったり しないように編んでたら)
- やちよ: (1本目より 少し編む速度が落ちたけど…)
- やちよ: (前より上手に編めるように なってきたかも…!)
- やちよ: 『初めてのマフラーを完成させた私は 2本目のマフラー作りに挑んだわ』
- やちよ: 『何より私をやる気にさせたのは 両親と一緒にクリスマスを過ごせるってこと』
- やちよ: 『強がって背伸びしていても 両親と過ごせるっていうだけで とても嬉しかったのよ…』
- ~♪~♪~♪
- やちよの父: クリスマスは明後日だな
- やちよの父: お父さん もう楽しみでしかたないよ
- やちよ: 楽しみにするのはいいけど 本当に無理してない…?
- やちよの母: してないわ
- やちよの母: 明後日は、仕事が終わったら すぐに行くからね
- やちよ: …うん、待ってる
- やちよ: 『両親もクリスマス当日を 楽しみにしてくれててね そのせいか、私も普段より浮かれてたみたい』
- やちよ: …………
- やちよちゃん、楽しそうだね
- なんだか、私も クリスマス楽しみになってきた~
- やちよ: 『お姉さんたちにバレちゃうくらいにはね』
- やちよ: 『そして、クリスマス前日…』
- やちよ: で、できた!
- おおっ! おめでとう、やちよちゃん!
- やちよ: ちょっと 失敗しちゃったとこもあるけど…
- そういうの味があるって 言うんだよ
- そうそう 手編みならではだからね
- やちよ: ふふ、なんだか そんな気がしてきた…
- やちよ: うん、悪くないできだよね
- じゃあ、ラッピングしちゃおうか
- やちよ: あっ、どうしよう…
- やちよ: ラッピングのこと 考えてなかったから用意が…
- 大丈夫だよ
- じゃーん! ラッピング用品!
- 勝手ながらこちらで 用意させていただきましたー!
- やちよ: ありがとう!
- 喜んでくれるといいね
- やちよ: うんっ…!
- やちよ: 『無事マフラーを編み終わって お姉さんたちのおかげで ラッピングも済ませた私は 翌日のクリスマスを心待ちにして 眠りについたの…』
- やちよ: あっ、雪…
- 天気予報の通りだね
- このまま降り続ければ 夜にはホワイトクリスマスかも
- やちよ: 『だけどね クリスマス当日になって…』
- やちよ: えっ… トラブル…?
- やちよ: 『両親は来ることが できなくなってしまったの』
- FILENAME: text_314022-4.txt
- やちよ: 『だけどね クリスマス当日になって…』
- やちよ: えっ… トラブル…?
- やちよ: 『両親は来ることが できなくなってしまったの』
- やちよの母: ごめんね…
- やちよの母: 雪で交通網がやられたせいで
- やちよの母: 今日納品予定の物が 届かなくて…
- やちよ: えっ、それって大変なんじゃ…?
- やちよの母: …それで穴埋めのために 駆り出されちゃったの
- やちよの母: 午後半休、取ってたのに!
- やちよ: お父さんも…?
- やちよの母: そう… 同じ部署の人全員だから…
- やちよ: …………
- やちよの母: ごめんね、予定より 遅くなっちゃうけど
- やちよの母: お仕事が終わったら すぐに行くから…!
- やちよ: (…ぅ…泣いちゃダメ…)
- やちよ: (泣いたら、きっとお仕事 放り出して来ちゃうから…)
- やちよ: …大丈夫だよ 忙しいのはわかってたもの
- やちよの母: でも…!
- やちよ: それよりお仕事をちゃんとして
- やちよ: じゃないとたくさんの人が 困っちゃうでしょ?
- やちよの母: …やちよ
- やちよ: おばあちゃんたちがいるから 私は大丈夫
- やちよ: だから、無理しないでね
- ピッ
- やちよ: …うぅ…………
- やちよの祖母: やちよ…
- やちよ: おばあちゃん…
- やちよ: お母さんたち、お仕事… 入っちゃったって…
- やちよ: でも…それはしかたないから…
- やちよの祖母: やちよ、おいで
- やちよ: ぅ…うわぁああん…!
- やちよ: 『両親の前では 物分かりがいいふりをしていたけど おばあちゃんとふたりの時は こうしてよく泣いていたわ…』
- いろは: やちよさん…
- やちよ: あの日、結局 両親は来られなくて
- やちよ: 翌日、手紙と一緒に プレゼントが届いたの
- フェリシア: ちょっとだけでも 来られなかったのかよ…
- やちよ: その日は、徹夜だったらしいし
- やちよ: 最終的に年明けまで、 対応に追われていたらしいわ
- やちよ: 本当は、私に電話している 時間だってなかったんだと思う…
- さな: …恨んで、ないんですね
- やちよ: ええ、まったく
- 鶴乃: ねぇ、やちよ
- 鶴乃: マフラーがタイムカプセルから 出てきたってことは…
- やちよ: ええ、渡さなかったの
- やちよ: 会えないってわかってから改めて 自分が編んだマフラーを見たら
- やちよ: できが悪く感じてしまって
- やちよ: 隠すようにタイムカプセルに 入れちゃったのよね…
- うい: すごく悲しかったんだね…
- やちよ: そうね とても悲しかった
- やちよ: でも、それ以上に 強がりたかったのね
- やちよ: こっそり泣いてたなんて… 今知られても恥ずかしいんだけど
- FILENAME: text_314023-1.txt
- やちよ: あの年のクリスマスは…
- やちよ: 両親に仕事が入って 一緒に過ごせなくなったせいか
- やちよ: 自分で編んだマフラーが 途端にみずほらしく感じられて
- やちよ: 渡しもせずに タイムカプセルに隠してしまった
- いろは: …………
- やちよ: だけど、不思議ね いい思い出とは言えないのに
- やちよ: 昔、編んだマフラーを見ていたら 懐かしくなってしまったの
- いろは: だから、編み物を…
- やちよ: たまにはやってみようかなって
- やちよ: それに…
- フェリシア: …………
- やちよ: どうしたの?
- フェリシア: …別に
- フェリシア: ただ、ちょっとだけ 側にいてやろーかなって…
- やちよ: フェリシア…
- 鶴乃: …強がっちゃう気持ち わたしもわかるけどさー…
- 鶴乃: 客観的に見ると 強がり過ぎるのってよくないね…
- やちよ: そうね
- やちよ: …もし、 小学生の頃の私に会ったら
- やちよ: いいから甘えておきなさい って言ってやりたいわ
- 鶴乃: あはは…
- 鶴乃: でも、小さい頃のやちよは 聞く耳持たなそう
- やちよ: …まぁ、そうでしょうね
- さな: 私は…みかづき荘の 居心地がいい理由が…
- さな: わかった気がします…
- やちよ: えっ?
- さな: やちよさんが…ご両親やおばあ様 みかづき荘のお姉さんたち…
- さな: いろんな人に 大切にされてきたから…
- さな: 私たちのことも 大切にしてくれるのかなって…
- やちよ: …!
- やちよ: な、なんか照れるわね…
- 鶴乃: …せっかくだし、思ったこと 素直に言っておけば?
- やちよ: …私だけじゃなくて
- やちよ: 私の大切な人を褒めてくれて とても嬉しいわ
- やちよ: …ありがとう
- さな: …はいっ…!
- うい: あっ、もしかして 今、マフラーを編んでるのって
- うい: 改めて、お父さんとお母さんに あげるため…?
- やちよ: ううん
- やちよ: これは今みかづき荘に住んでいる 子たちにあげるつもりよ
- うい: …それって わたしたち…?
- やちよ: そう 今度はちゃんと渡すからね
- いろは: …………
- いろは: あの、やちよさん
- やちよ: ん?
- いろは: 私にもマフラーの編み方 教えてくれませんか…?
- FILENAME: text_314023-2.txt
- いろは: 私にもマフラーの編み方 教えてくれませんか…?
- やちよ: 教えるのは構わないけど…
- やちよ: 急にどうしたの?
- いろは: プレゼントしたい人がいるんです
- やちよ: …手編みマフラーを?
- やちよ: あ、もしかしてご両親に?
- いろは: 違います でも、同じくらい大切な人ですよ
- 鶴乃: あっ! わかった!
- 鶴乃: ししょー! わたしも編み物したい!
- やちよ: 鶴乃まで…?
- さな: …あっ! そ、それなら私も…!
- うい: わたしも!
- やちよ: ふたりも?
- フェリシア: ん~…?んん~…?
- 鶴乃: わたしたちの家族と言えば…?
- フェリシア: 家族…あっ! それならオレもやるぞ!
- フェリシア: やちよにすっげーマフラー 作ってやる!
- 鶴乃: あっ、言っちゃった…
- やちよ: えっ…! まさか、みんな私に…?
- いろは: やちよさんの話を聞いたら プレゼントしたくなったんです
- いろは: あっ、でもみんなで それぞれ編んだら5本に…
- うい: …わたし ひとりで編めるかな…?
- フェリシア: じゃあ、一緒に編もうぜ その方が強そうなのできそうだし
- さな: あっ…私もいいですか…? 自信ないので…
- フェリシア: おうっ! スゲーの作ろうぜ!
- 鶴乃: 人数が多ければすごいのできる ってわけじゃないけど…
- 鶴乃: 3人なら助け合えていいかもね
- いろは: フェリシアちゃんも 飽きずにできそうだよね
- いろは: やちよさん、 3本ならいいですか…?
- やちよ: …何本だっていいわよ 気持ち、なんでしょ?
- いろは: はいっ!
- やちよ: …じゃあ、 道具を出してくるわね
- やちよ: 毛糸は… みんなで買いに行きましょうか
- うい: 何色がいいかな?
- さな: やちよさんなら 青系が似合いそうですが…
- 鶴乃: うんうん わたしは模様もいれたいな
- フェリシア: ドラゴンとか 入れたら強そうだよな!
- 鶴乃: それ、すごく難しいと思うよ
- やちよ: …ふふ
- いろは: 楽しそうですね
- やちよ: ええ
- やちよ: それに、おばあちゃんと一緒に
- やちよ: 毛糸を買いに来た時のことを 思い出しちゃった
- やちよ: 毛糸にもいろいろあるから どれが編みやすいとか
- やちよ: マフラーなら何玉くらい 必要とか教えてくれたのよね…
- いろは: 今日は、やちよさんが 教えてくれるんですよね?
- やちよ: うん 任せて
- やちよ: (…あの日も今日も 同じくらいわくわくしてる)
- やちよ: (誰かのために何かを作るって それだけで幸せなことなのかも)
- FILENAME: text_314023-3.txt
- やちよ: みんな、棒針は行き渡った?
- 鶴乃: オッケーだよ!
- フェリシア: よっしゃー! 3人でスゲーの作るぞ!
- うい: おーっ!
- さな: が、頑張ります…!
- いろは: じゃあ、やちよ先生 お願いします
- やちよ: 先生って… 照れるからいつ通りに呼んで…
- やちよ: コホン…
- やちよ: さて、改めて始めましょうか
- みんな: …………
- 鶴乃: …………
- いろは: …………
- やちよ: …………
- やちよ: (静かね)
- やちよ: (みんな、集中して 黙々と編んでる)
- いろは: あ、あぁあっ…! やっちゃった…どうしよ…
- いろは: やちよさん…!
- やちよ: どうしたの?
- いろは: いつの間にか、1目減ってて…
- やちよ: ちょっと見せて
- やちよ: 時々わからないところを聞かれて 教えてることはあるけど…
- やちよ: みんなで一緒にいて 同じことをしているのに こんなに静かなことはあまりない
- やちよ: (でも、嫌じゃないのよね…)
- やちよ: …ふふ
- やちよ: 沈黙が続くだけの時間が こんなに穏やかなんてね
- やちよ: (強がっちゃうくせ… ちょっとだけ直ったかな)
- ピロン♪
- やちよ: …ん? 私のスマホね
- やちよ: …………
- やちよ: えぇっ!?
- いろは: どうしたんですか…!?
- やちよ: 仕事で近くに来たから 今から会いに来るって…
- フェリシア: 誰がだよ?
- やちよ: お父さんとお母さん…
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- やちよ: 仕事で近くに来たから 今から会いに来るって…
- フェリシア: 誰がだよ?
- やちよ: お父さんとお母さん…
- 鶴乃: えっ!? 今から?
- うい: 突然、だね…
- さな: あっ…編み物…片づけた方が いいでしょうか…?
- いろは: うん、ひとまず中断して…
- やちよの母: やちよ! 元気にしてる?
- やちよの父: しばらく会いに来れてなくて ごめんな…
- やちよ: …今って 本当に今じゃない…!
- やちよ: もう少し早く連絡してよ…
- やちよの母: だって、さっき会議が終わって 飛び出してきたところなんだもん
- やちよの父: 出張だったんだが、 運よく早く終わったから
- やちよの父: 可愛い娘に会いに来たんだ!
- やちよ: ちょっと…みんなの前で 恥ずかしいから…
- やちよの母: ああ、ごめんなさい
- やちよの母: みかづき荘のみんなに 挨拶がまだだったわね
- やちよの母: やちよの母です
- やちよの父: 父です いつも娘がお世話になっています
- やちよの母: これからもよろしくね
- いろは: あっ、こちらこそ!
- やちよ: …はぁ、来るなら せめてもう少し早く言って
- やちよの父: もしかして忙しくしてたか? それなら悪かった…
- やちよ: そうじゃないけど… ご飯とか作るし…
- やちよの父: やちよのご飯か! 久しぶりだな…!
- やちよの母: あら?もしかして みんなで編み物をしていたの?
- いろは: そうなんです やちよさんに教えてもらって
- やちよの母: へぇ、楽しく過ごせてるのね よかったわ
- やちよの母: …ん? このマフラー…
- いろは: あっ…!
- やちよ: ああっ!?
- やちよ: (しまった!)
- やちよ: (昔編んだマフラー しまっておくの忘れてた…!)
- やちよ: (い、いえ…大丈夫…)
- やちよ: (ふたりはマフラーのこと 知らないはず)
- やちよの父: …これは
- やちよの母: もしかして、やっとプレゼント してくれる気になったのね?
- やちよ: …えっ?
- やちよの母: 何年越しかしら…?
- やちよの父: やちよが小学生の頃からだから 7年くらいか?
- やちよ: ちょ、ちょっと待って!
- やちよ: どうして、ソレの存在を ふたりが知ってるの…?
- やちよ: というか『やっと』って何!?
- やちよの父: おばあちゃんに聞いて くれるのをずっと待ってたんだ
- やちよの母: 無理に、とは言えなかったものね
- やちよ: か、返して…! それ上手にできてないから!
- やちよの父: お夕飯、ご馳走様
- やちよの母: 急に来たのにありがとうね
- いろは: いえ!
- いろは: 私たちもおふたりと お話できて楽しかったです
- うい: 本当に、泊まっていかないの…?
- やちよの母: そうしたいんだけど… 明日は本社で仕事なの
- 鶴乃: それならしかたないね… やちよも残念だろうけど
- やちよ: …………
- さな: あの…やちよさん… ご両親…帰っちゃいますよ…?
- フェリシア: つーか、 いつまでふくれてんだ…?
- やちよの母: …あのね
- やちよの母: あの子、昔から 甘えてくれないの
- やちよの母: だから、おばあちゃんが 亡くなったあとは
- やちよの母: 心配してたんだけど
- やちよ: 何…?
- やちよの母: 今は、もう大丈夫みたいね
- いろは: そうだと嬉しいです
- やちよの母: これからもやちよのこと よろしく
- いろは: はいっ!
- やちよ: …ほら、そろそろ行かないと 今日は電車で帰るんでしょ?
- やちよ: 間に合わなくなるわよ
- やちよの母: …うん
- やちよの母: じゃあ、また みんなと仲良くね
- やちよの父: 寒くなってきたから 風邪にも気をつけるんだぞ
- やちよ: わかってる
- やちよ: …ふたりも気をつけてね
- やちよ: …………
- いろは: 帰っちゃいましたね
- やちよ: そうね…
- うい: …あっ、雪
- さな: おふたり… 大丈夫でしょうか…?
- やちよ: …寒くないでしょ
- やちよ: 私が編んだマフラーが あるんだから
- やちよ: もう大学生だって言ってるのに… 心配し過ぎなのよ…!
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