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- ふと、先程のティアの言葉を思い出し、苦笑する。
- ……ま、別に飲むわけじゃない。
- 入口の扉を叩く。
- 「はーい、どちら様ですか?」
- ノックをすると、のんびりとした返事があった。
- 「俺だ」
- 「あ、カイム様!?」
- 「コレット、カイム様が来たわよ」
- 「ほら、早く服着て」
- ……何をやっているんだ、こいつらは。
- ここだけが、殺伐とした牢獄とは別世界だ。
- 「こんにちは、カイム様」
- 「おう、二人とも元気にしてるか」
- 「もちろんです」
- ラヴィが血色のよい顔で微笑んだ。
- 一時は命も危ぶまれたが、ジークがよく面倒を見てくれているのか、体力は回復してきているようだ。
- 「服がどうこう言ってたが、何してた?」
- 「別に、殿方が喜ばれるようなことはしていません」
- 「ふしだらな想像をなさらぬように」
- 全くしていないが……
- どうでもいい。
- 「生憎お酒がございませんので、お茶を召し上がりますか?」
- 「ああ、いや、茶でいいんだ」
- ラヴィリアに促されて椅子に座る。
- すぐに茶が出た。
- 「聖女様、手ずからとは痛み入ります」
- 「元聖女です、しかも出来損ないの」
- 「上層の生活で、上品な嫌味も身についたようですね」
- コレットが笑う。
- 「どうだ、牢獄にも慣れたか?」
- 「ええ、買物程度は問題なくできるようになりました」
- 「仕事はまだ見つかっていませんが」
- 「まあ、慣れるまでは無理するな」
- 「牢獄では何があるかわからない」
- 「ここまでは進める、と思ったところの2歩手前で止まるくらいが丁度いい」
- 「心に留めておきます」
- 「とにかく、空気が澱んだ路地には入らないことですよ、コレット」
- 「ラヴィに言われることではありません」
- 「だってあなた、こっちの道の方が近そうだ、などと言って細い道に入ろうとするでしょう?」
- 「そのようなことはありません」
- 「あの時は雨が降って来そうだったから」
- 「昔は、ラヴィも危ない道に入り込んでたがな」
- 「あ、あの時は牢獄に慣れていませんでしたから、仕方ありません」
- ま、仲良く生活しているようで何よりだ。
- 茶を一口飲んで、本題に入る。
- 「で、用件は何だ?」
- 「ええ……」
- ひと呼吸置いて、コレットが姿勢を正す。
- 「単刀直入に申しますと……また天使様の御声が聞こえました」
- 「その報告をと思いまして」
- 「ほう」
- 「天使様は何と言っていた?」
- 「それが、不明瞭でよくわからなかったのです」
- 「相変わらず頼りない夢だな」
- 「お黙りなさい」
- 軽く咳払いをして、聖女が居住まいを正す。
- 「ですが、今までの御声とは違いました」
- 「何か助けを求められているような、深い悲しみに満ちた御声だったのです」
- 「夢を見たのはいつだ?」
- 「一昨日の日の高いうちです」
- 「うたた寝をしていて夢を見ました」
- 「……一昨日の昼か」
- ティアが天使を見て倒れたのもその頃だ。
- 以前から、コレットは、ティアに何かあった時に天使の声を聞くことがあった。
- とすれば、今回の声もティアの件が原因かもしれない。
- 「何か?」
- 「いや」
- 天使のことをコレットに打ち明けるのはまずい。
- 信仰に篤いコレットのことだ。
- 天使のことを知ったら何をするかわかったものではない。
- 「もしや、御子の身に何かありましたか?」
- どういう勘をしてるんだこいつは。
- 「いや、元気だ」
- 「ならば良いのですが……」
- コレットが少し考え込む。
- ラヴィリアに水を向けてみよう。
- 「どうだ、最近の生活は?」
- 「やりくりは楽ではないですが、自由に生活させていただいております」
- 「何よりだな」
- 「家事は全部お前が押し付けられているのか?」
- 「押し付けられてはいませんが、適材適所と申しますか」
- 「……適材適所?」
- 「ああ、料理は割と見所があるかもしれません」
- 「それは、上から目線でありがとう」
- 「まあ、これからは聖職者でもなく、ましてや聖女ではありませんから、自分のことは自分でできるようにならねばなりません」
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