Advertisement
Guest User

Untitled

a guest
Feb 8th, 2016
60
0
Never
Not a member of Pastebin yet? Sign Up, it unlocks many cool features!
text 4.80 KB | None | 0 0
  1. ふと、先程のティアの言葉を思い出し、苦笑する。
  2.  
  3. ……ま、別に飲むわけじゃない。
  4.  
  5. 入口の扉を叩く。
  6.  
  7. 「はーい、どちら様ですか?」
  8.  
  9. ノックをすると、のんびりとした返事があった。
  10.  
  11. 「俺だ」
  12.  
  13. 「あ、カイム様!?」
  14.  
  15. 「コレット、カイム様が来たわよ」
  16.  
  17. 「ほら、早く服着て」
  18.  
  19. ……何をやっているんだ、こいつらは。
  20.  
  21. ここだけが、殺伐とした牢獄とは別世界だ。
  22.  
  23. 「こんにちは、カイム様」
  24.  
  25. 「おう、二人とも元気にしてるか」
  26.  
  27. 「もちろんです」
  28.  
  29. ラヴィが血色のよい顔で微笑んだ。
  30.  
  31. 一時は命も危ぶまれたが、ジークがよく面倒を見てくれているのか、体力は回復してきているようだ。
  32.  
  33. 「服がどうこう言ってたが、何してた?」
  34.  
  35. 「別に、殿方が喜ばれるようなことはしていません」
  36.  
  37. 「ふしだらな想像をなさらぬように」
  38.  
  39. 全くしていないが……
  40.  
  41. どうでもいい。
  42.  
  43. 「生憎お酒がございませんので、お茶を召し上がりますか?」
  44.  
  45. 「ああ、いや、茶でいいんだ」
  46.  
  47. ラヴィリアに促されて椅子に座る。
  48.  
  49. すぐに茶が出た。
  50.  
  51. 「聖女様、手ずからとは痛み入ります」
  52.  
  53. 「元聖女です、しかも出来損ないの」
  54.  
  55. 「上層の生活で、上品な嫌味も身についたようですね」
  56.  
  57. コレットが笑う。
  58.  
  59. 「どうだ、牢獄にも慣れたか?」
  60.  
  61. 「ええ、買物程度は問題なくできるようになりました」
  62.  
  63. 「仕事はまだ見つかっていませんが」
  64.  
  65. 「まあ、慣れるまでは無理するな」
  66.  
  67. 「牢獄では何があるかわからない」
  68.  
  69. 「ここまでは進める、と思ったところの2歩手前で止まるくらいが丁度いい」
  70.  
  71. 「心に留めておきます」
  72.  
  73. 「とにかく、空気が澱んだ路地には入らないことですよ、コレット」
  74.  
  75. 「ラヴィに言われることではありません」
  76.  
  77. 「だってあなた、こっちの道の方が近そうだ、などと言って細い道に入ろうとするでしょう?」
  78.  
  79. 「そのようなことはありません」
  80.  
  81. 「あの時は雨が降って来そうだったから」
  82.  
  83. 「昔は、ラヴィも危ない道に入り込んでたがな」
  84.  
  85. 「あ、あの時は牢獄に慣れていませんでしたから、仕方ありません」
  86.  
  87. ま、仲良く生活しているようで何よりだ。
  88.  
  89. 茶を一口飲んで、本題に入る。
  90.  
  91. 「で、用件は何だ?」
  92.  
  93. 「ええ……」
  94.  
  95. ひと呼吸置いて、コレットが姿勢を正す。
  96.  
  97. 「単刀直入に申しますと……また天使様の御声が聞こえました」
  98.  
  99. 「その報告をと思いまして」
  100.  
  101. 「ほう」
  102.  
  103. 「天使様は何と言っていた?」
  104.  
  105. 「それが、不明瞭でよくわからなかったのです」
  106.  
  107. 「相変わらず頼りない夢だな」
  108.  
  109. 「お黙りなさい」
  110.  
  111. 軽く咳払いをして、聖女が居住まいを正す。
  112.  
  113. 「ですが、今までの御声とは違いました」
  114.  
  115. 「何か助けを求められているような、深い悲しみに満ちた御声だったのです」
  116.  
  117. 「夢を見たのはいつだ?」
  118.  
  119. 「一昨日の日の高いうちです」
  120.  
  121. 「うたた寝をしていて夢を見ました」
  122.  
  123. 「……一昨日の昼か」
  124.  
  125. ティアが天使を見て倒れたのもその頃だ。
  126.  
  127. 以前から、コレットは、ティアに何かあった時に天使の声を聞くことがあった。
  128.  
  129. とすれば、今回の声もティアの件が原因かもしれない。
  130.  
  131. 「何か?」
  132.  
  133. 「いや」
  134.  
  135. 天使のことをコレットに打ち明けるのはまずい。
  136.  
  137. 信仰に篤いコレットのことだ。
  138.  
  139. 天使のことを知ったら何をするかわかったものではない。
  140.  
  141. 「もしや、御子の身に何かありましたか?」
  142.  
  143. どういう勘をしてるんだこいつは。
  144.  
  145. 「いや、元気だ」
  146.  
  147. 「ならば良いのですが……」
  148.  
  149. コレットが少し考え込む。
  150.  
  151. ラヴィリアに水を向けてみよう。
  152.  
  153. 「どうだ、最近の生活は?」
  154.  
  155. 「やりくりは楽ではないですが、自由に生活させていただいております」
  156.  
  157. 「何よりだな」
  158.  
  159. 「家事は全部お前が押し付けられているのか?」
  160.  
  161. 「押し付けられてはいませんが、適材適所と申しますか」
  162.  
  163. 「……適材適所?」
  164.  
  165. 「ああ、料理は割と見所があるかもしれません」
  166.  
  167. 「それは、上から目線でありがとう」
  168.  
  169. 「まあ、これからは聖職者でもなく、ましてや聖女ではありませんから、自分のことは自分でできるようにならねばなりません」
Advertisement
Add Comment
Please, Sign In to add comment
Advertisement