大人になったらああだとかこうだとか、そんなことはもう九つの時から知っていた。はたちだのになってまだそんな事を語っている人たちが余程気持ち悪く思えた。この人たちはどうして今更そんなことを話しているんだろうか、三千年前から人々がそういった風に考えることを嘲笑してきた、ということを私は知っているのに、この人たちはどうしてこう浅はかで何も考えずに自分の人生を知ったかぶって笑いながら生きていられるのだろうかと思い、最大限の嘲りを持って彼らを大人と呼んでいた。

私は他人を心から信用できたことがなかった。家においては親に服従を強いられた。無論虐待などではなく、より静かに私を隷属化させる、危険な種類の支配者である。学校ではクラスメイトと笑うふりをしながら、勉強するふりをし、遊ぶふりをした。自分より強いものには阿り、弱いものには権威による静かな隷属化を試みた。こうして私は他人を信用すること無く大学に入って、また空虚に働く振り、勉強する振りをした。

あの女、私の脳内であの女と言って指す人物は今でも一人しかおらぬ。
あの女に会うことはもう出来ない。私はあの女の幸せを考えてしまったのだ。利己主義者は他人の幸せなどに口を出してはならぬものが。その過ちを二度と繰り返してはなるものかと何度も唱えてはいるが、それでも尚再びあの女から呼び出されたらばのこのこ出てゆくだろうこの悲しき奴隷よ・・・
人は肉体においてよりも先に、精神に於いて、自分の精神の支配を他人に譲り渡したりそこらに放ったりすることで自らを他人や世界の奴隷とするのであると、私はあの女に語って、また自らその運命に隷属する人形を演じたのである。