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kusugu-chan

しのぶハウス

May 28th, 2014
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  1. しのぶハウス
  2. 000
  3. 忍野忍が不機嫌そうに登場したのは、戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦のカップル、そしてファイヤーシスターズ. 阿良々木火憐と阿良々木月火の計四人による、後に『ガ?ラサミット』と呼ばれる阿良々木家リビングにおける会合が終了したその日の夜のことである。
  4.  夜行性とはいえ、別に夜になれば必ず登場するというわけではない忍なのだが、この日はあまりにも当たり前みたいに登場した。
  5.  僕としては非常にハードな会合を終えて、まあそれも上首尾に終わったということで胸を撫で下ろす気持ちもあって、部屋のベッドにぐったりと倒れようと思っていたのだが、そのタイミングを見計らったかのように、
  6.  「あーあ」
  7.  と、だるそうに影から這い出してきた。
  8.  なんだその声。
  9.  いかにも構って欲しそうなその態度。
  10. 「んったく、見ちゃおれんわ。仲良しごっこの家族ごっこ。ああいうのが儂は一番嫌いじゃ」
  11.  「うわあ……」
  12.  参ったなあ。
  13.  これはまた厄介な性格のお嬢さまが現れたぜ。
  14.  あの重要会談を終えた僕に、こんなボーナスイベントが侍ち構えていようとは思いもしなかった。
  15.  「我があるじ様も困ったような振りをしながら、恋人と妹御達の間をにこにこと取り持つたりしおって。あー、やっておれんやっておれん」
  16.  肩を竦めて、両手を広げるというオーバーリアクションで僕を,独り言という形を装うことで、直接的ではなく間接的に批難してくる忍。
  17.  ねちねちと。ぐちぐちと。
  18.  「かつて儂をあそこまで追い詰めた戦士が、ぬっるい奴になったもんじゃのう。そのままなんかホームドラマでもやっておれよ。妖怪譚とかもういいじゃろ。あの女どもと、ずっとなんかぬるいこと言っておれよ」
  19.  「危険な発言だな……」
  20.  っていうか春休みにしても、僕はお前をそこまで追い詰めてはいないのだが。僕を責めたいためだけに、過去を捏造までし始めたぞ、この幼女。
  21.  「あー、もうなんかのー。結局なんか、お前様も、家族とか恋人とかが大事な奴なんじゃのー」
  22.  忍は更に言う。僕を見ずに、まるで本当に独り言みたいに、しかし確実に僕に聞こえるように言う。こんな吸血鬼がいるのかというくらいに、因縁をつけるように言う。
  23.  「なんじゃったかのー、言っておったのー。お前様、そうそう、何か格好いいことを言っておったのー。いやー、あれはときめく台詞じゃったのー、恋人とか家族とかが大事な奴の台詞だったとは思えないくらいにときめく台詞じゃったのー」
  24. 「な、何をだよ」
  25.  「お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいいとかなんとか、調子のいいことを儂に言っておったのー」
  26.  質問に対する答があったところを見ると、やはり独り言ではなかったらしい。ただし忍は絶対に僕のほうを見ない。
  27.  「しかしまあ、さっきの会談で確信したが、絶対にそんなことはないな。儂が死のうと関係なく、お前様はその後もふっつーに生き続けるな。確実じゃな、鉄板じゃな」
  28.  「いや、あの、忍さん。決してそんなことは……」
  29.  「じゃあ今死ねよ。儂今から病気で死ぬから、お前様さっさと死ねよ。死ねないのか?死ねないじゃろ?はい嘘つきー」
  30.  「…………」
  31.  見た目通りの八歳児だ。
  32.  いやこれはこれで、想像以上に来るものがあるな……。
  33.  「あのなー、忍。そういうことじゃなくってな。いや,確かに今日の僕は見るに堪えなかったかもしれないけれど、決してお前をないがしろにしたわけでは……」
  34.  なぜか忍の機嫌取りを始める、始めなければならない僕。どうしてこんなことになってしまったのだろう。
  35.  「決まっているじゃないか。僕にとって一番大切なのはお前との絆であって――」
  36.  「はっ。浮気男の常套句じゃのう。まったく上等なもんじゃ。現代の好色一代男とは、まさしくお前様のことじゃのう」
  37.  「絶対原典知らないだろ? 言葉のイメージだけで言ってるだろう?」
  38.  まあ。
  39.  それについては原典を知らなくとも、タイトルだけで十分その意味は伝わりそうなものだけれども。
  40.  というか、金髪幼女の忍ちゃんが、井原西鶴の名作タイトルを知ってい るというだけでも、もうなんだか面白い。今のこいつの知識は、どこから仕入れて来るものなのだろう。
  41.  普段は影の中に潜む忍だが、その影の中は結構広い空間になっていて、忍は本を読んだりゲームをやったりしているらしいが……忍の読書傾向が気になった。
  42.  「いやじゃあお前様、こういう話をしようぞ。もしも、儂と、恋人と、巨大な妹御と、極小妹御とが崖にぶら下がっていたとして、四名のうちどれか一名しか助けられないとしたら、誰に手をばす?」
  43.  「………」
  44.  うぜー!
  45.  この幼女うぜー!
  46.  そうざさに追いやられたぼくは、
  47.  「そういうのは僕には選べないな。命の価値は誰しも平等なんだから。それを較べることなんてできない!」
  48.  と奇麗ごとを言って格好つけて誤魔化そうとしたが、それは忍に、
  49.  「奇麗ごとを言って格好つけて誤魔化すな」
  50.  と駄目出しをされてしまった。
  51.  こうもあっけなく目論見を完膚なきまでに見抜かれて、正面から否定されてしまうと、言葉がないな……。
  52.  「さあ誰じゃ。誰を助けるのじゃ。その返答次第にょっては、儂はこの影から出て行かせてもらうぞ」
  53.  「出て行けるものなのか……?」
  54.  「出て行けるとも。所詮お前様の影など、儂にとっては、うっかり迷い込んでしまった仮の住まいのようなものじゃ。妖怪で言えば迷い家じゃ」
  55. 「そりや色んな本が揃ってるわけだ……」
  56.  実際は、僕の本棚から勝手に持ち出した、ものなのだが――しかしもしも、読んでも読んでも減らない本棚があるとすれば、そんな天国は、本読みにとってはこの上無かろう――さておき、
  57.  ううむ。
  58.  どうしよう。
  59.  とにかくここでは、「忍、お前を助けるに決まっているじゃないか。戦場ヶ原を、火憐ちゃんを月火ちゃんを見捨ててでも、いや、あいつらを盾にしてでも、僕はお前を助けるよ!」と言ってその場を凌げばいいのだろうか……、いや、でもなあ。
  60.  このモードに入っている奴相手に、そういうことを言っても、それもまた奇麗ごとというか、格好つけているというか、誤魔化そうとしているだけというか……、「は! またそんな調子のいいことを言いおってからに!」などと、看破され……、もとい、言いがかりをつけられるに決まっている。
  61.  となると、どうだ。
  62.  ここでの模範解答はひとつではなかろうか。
  63.  「僕が手を伸ばすのは」
  64.  僕は言った。
  65.  僕は決め顔でそう言った。
  66. 「・・・・・・」
  67.  忍はその答にしばし呆れたような顔をして、しかしその後、
  68.  「かかっ」
  69.  と笑った。
  70.  ようやく笑った。
  71.  「その名前を出されたら、確かに納得するしかないか―――便利な名前じゃの」
  72.  それもまたその場しのぎでしかないだろうし、助ける助けないで言えば、誰の力を借りようと、人は一人で勝手に助かるだけで、誰かは誰かを助けることなんてできなくて、僕は四名、いや五名のち、誰も助けることなんてできないのかもしれないけれど―――とりあえす、忍には出て行かれずに 済むようだった――忍はこれからも。
  73.  僕の影に住むようだった。
  74.  
  75. ====
  76. Shinobu House
  77. Chapter 000
  78. Oshino Shinobu looked sullen. This was thanks to the couple, Araragi Koyomi and Senjougahara Hitagi, as well as the Fire Sisters, Araragi Tsukihi and Araragi Karen. The four of them together had eventually finished a meeting they called the “Gahara Summit”.
  79. While Shinobu was admittedly nocturnal, there was nothing that said once night fell, she absolutely had to appear. Even so, today she appeared as if it was completely routine for her to do so.
  80. It was a particularly hard meeting for me, but it was also a meeting that once a successful outcome was reached I could breathe a sigh of relief. Just as I was about to flop into bed with timing clearly deliberately chosen,
  81. “Aah-ah.”
  82. Shinobu sighed lazily as she rose from my shadow.
  83. Where was this going?
  84. Her attitude reeked of wanting attention.
  85. “My, I can’t bear to watch. Pretending to be family, pretending to get along. It’s precisely the kind of thing I hate most”
  86. Oh boy.
  87. This promised to be a nuisance.
  88. Right after finishing up one important conversation, I would never have thought I was to be treated to a bonus event.
  89. “To see my master act as if he’s troubled while mediating between his lover and his sisters with a forced smile upon his face. Ah, it is simply too much, much too much. ”
  90. She said it as if I wasn’t there, with arms wide and palms turned up in an exaggerated shrug. It was in this indirect rather than direct way that Shinobu criticized me. Persistently. Continually.
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