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- 『握手や写真はいいけど、贈り物は鎮守府を通してね♪』
- これは川内型三姉妹の末っ子、艦隊のアイドル那珂ちゃんの言葉である。
- そんなこと言われると『また那珂ちゃんはしょうがないなあ』などと思う人が大半だと思うが、那珂ちゃんの名誉のために一つ言っておこう。
- ファンレターは来るのだ。
- 艦娘たちは深海棲艦と戦っているわけだが、何故戦っているのかと言われると『人々を護るため』である。まあ艦娘にも色んな――本当に色んな娘がいるので一概には言いきれないかもしれないが、それでも彼女たちが人々を護っていることは事実である。そんなわけで助けた人やその家族からお礼の手紙がくることもあるし、その活躍を聞きつけた人から応援の手紙が来たりもする。前者はちょっと違う気もするけど、後者はファンレターと言っても間違いではあるまい。もちろん両方ありがたいものであることに違いはないが。
- かくして鎮守府には艦娘宛の手紙が届き、艦娘はそれを読む。そこに軍上層部の『艦娘と鎮守府を利用して民間からの支持を得ておこう』という思惑が絡んでいたとしても、手紙を送る側と受け取る側に罪はあるまい。そんなわけで今日も鎮守府には結構な枚数の手紙が届き――
- 「で、なんで私まで手伝わされてるんですかね」
- 「そんな面倒くさそうな顔をせずに!」
- 「実際に面倒なものので」
- 「頼むよ、大井っち。今回は枚数多くて俺一人じゃ捌き切れそうになくってさ」
- 「はいはい、わかりました。あと大井っち言わないでください」
- 「ははーっ! ありがとうございます大井様!」
- 「……魚雷撃っていいですか?」
- 「すいません、作業に戻ります」
- 「そうしてください」
- そんなやりとりをしつつ、提督である俺と秘書艦の大井は郵便物の仕分け作業に戻ったのであった。
- 作業自体は、難しいものではない。難しいものではないが量があるし、単純作業なので飽きてくる。こういう仕事が一番辛い。
- しかも手紙が封書じゃなく葉書で送られてきたりすると、文面を見ないように気をつけなければいけない。むしろ本来はしっかり内容を検閲――は言い過ぎだとしても、チェック的な事はするべきなのかもしれない。
- 「でも、そこまでするのもなあ」
- その場合、封書は全部開封しなければいけなくなってしまうわけだし。
- まあ、特に問題は起きてないんだから大丈夫だろ。
- 手紙の内容は知らないけど、受け取った艦娘は概ね喜んでいるみたいだし。たまにちょっと変な感じのものが来ることもあるらしいけど、それもそこまで深刻なものではないようだ。
- 少なくとも俺のところに手紙の内容で相談が上がってくることはなく、今のところは――とは言っても数えるほどしかなかったらしいが、全て秘書艦が処理できるレベルのものだったらしい。
- 実際どんな内容だったのかは知らない。というか一応気になったので聞いてみたら、秘書艦に「女性に宛てられた手紙を見たがるとか、ドン引くどころじゃないですね」とか冷たくあしらわれた。提督という立場について色々と考えたくもなったけど、その後「私の方で処理できないようなら改めて相談させて貰いますから」と付け加えてくれたので、それで納得しておくことにした。
- ちなみに『処理』の詳細は聞いていない。世の中には、知らない方がいいことだってある。
- さておきその秘書艦――要するに目の前にいる大井なんだけど、嫌がっていた割にはしっかりと仕分けの作業をしてくれている。相変わらず手際も良い。
- 基本的に辛辣というか口は悪い方な大井だけど、言うだけのことはあるのだ。艦隊戦では重雷装巡洋艦として深海棲艦を容赦なく殲滅するし、秘書艦としての各種業務も見ての通りである。しかも美人だし、プロポーションもけっこういい。
- よくいっしょにいてセットというかコンビで扱われる北上とは違って表情も割と豊かだし――ほら、今もなんだか凄い顔している。
- 「大井?」
- 「はい、何か」
- 「いや『何か』じゃなくて。なんか凄い顔してるけど、大丈夫か?」
- 「凄い顔ってなんですか」
- 「例えるなら俺が指揮をミスった結果、中破して帰ってくることになった時みたいな顔」
- 「……よく見てますね」
- 「おう、任せろ。これでも一応提督だからな」
- 「ドヤ顔したかったら、そもそも指揮をミスしないでほしいんですが」
- 「すいません……」
- 気配りできる一面を見せたつもりが藪蛇だった。しかしこんな事で落ち込んではいられない。
- 「で、どうしたんだ?」
- 「めげませんね」
- 「そりゃまあ、いつものことだしな」
- そう言ってちょっぴりキザかなと思いつつ肩などすくめてみせたが、それに対する大井っちの反応はというと。
- 「……はぁ」
- 溜息だった。これ見よがしという表現が正にぴったりな態度だったけど、今さらそんなことを気にする俺ではない。繰り返しになるけど、いつものことなのだ。
- そしてそんな俺を見た大井は、諦めたようにその口を開く。
- 「お手紙をいただけるのは嬉しいんですけど」
- 「うむ」
- 「なんというか、その。女性ばっかりだなあと」
- 「なるほど」
- 「……」
- 「……」
- 「……」
- 「え、それだけ?」
- 「ええ。『それだけ』ですが、何か」
- 「あ、いや、すまん。別に変な意味はなかったんだ」
- 大井の笑顔が超怖い。
- しかし幸いながらそれ以上追求する気はないらしく、もう一度溜息をついてから言葉を続けた。
- 「金剛さんとこや空母の人たちは、男女問わず手紙貰ってるじゃないですか」
- 「まあ、そうだな」
- 「姉さんたちもそうですし」
- 「うむ」
- 「私のところに来るのって、ほとんどが女性なんですよ。男性から来るのとか、ほんとごく稀で」
- 「なるほど」
- 言われてみれば、確かに艦娘ごとにその辺の差はあるかも知れない。大井が言うように金剛や空母のみんなは男女問わず手紙が来ているし、陸奥や島風あたりに来る手紙は男性の方が多い。仕分け作業中に目に入る宛名で判断しているだけなので、実際に数えてみると違っているのかもしれないけど、まあそれは置いておこう。
- 確かに思い返してみると、大井のところに来る手紙は女性名のものが大半だったような気もする。
- 「でも、それって嬉しいんじゃないのか?」
- 「確かに感謝や応援の気持ちを込めた手紙を貰えるのはありがたいですけど」
- 「そうじゃなく」
- 察しのいい大井にしては珍しく、俺の言いたいことが伝わっていないようだ。
- いや、これは大井の察しがいいとか悪いとかそれ以前に俺の説明の仕方が悪いのかもしれない。
- 若干無理矢理聞き出したような部分もあるし、ここは適当に誤魔化したりせずにしっかりと伝えるべきだろう。
- 「大井だったら、その方が嬉しいんじゃないのか?」
- 「だから、どうしてですか?」
- まだ不思議そうな顔をしている大井に対し、多少乱暴な表現であってもわかりやすく――そして誤解なく俺の真意を伝えられる言葉を選んで投げかける。
- 「いやだって、大井ってレズだろ?」
- ごいん、と。
- 執務室に鈍い音が響いた。
- ◇
- 「聞いて下さいよ、北上さん」
- 「はいはい、聞いてるよー」
- 演習を終えて来たら、大井がくだを巻いていた。そしてそれを聞かされているのは北上である。
- 「提督ったら、まったくもう」
- 「そうだねー、提督が悪いねー」
- 北上は大井の愚痴を聞き流しつつ、よしよしと頭を撫でている。
- 大井は割としっかり者に見られがちだけど、実はあんなもんである。何か失敗したりすると、ああやって北上に愚痴をこぼしたりするのだ。その姿を提督は見たことないだろうけど。
- 大井に限らず――というかまあ、艦娘に限らず、異性がいると隙を見せないようにしようと警戒してしまうものなのだ。警戒は言い過ぎだとしても、向こうがいくら「楽にしてくれていいから」って言ってくれても気を張ってしまう。それはしょうがないことだろう。
- まあその結果として大井は提督にきついことばっかり言っているみたいなので、もうちょっとなんとかした方がいいと思うが。
- そしてそんなことはあたしが言うまでもなく北上だって先刻ご承知なので、いつも通りのゆったりとした口調で大井に言い聞かせる。
- 「大井っち。ツンデレもいいけど、もう少し素直にならないと怒られちゃうよ」
- 「北上さん……」
- 「摩耶あたりとキャラが被っちゃう」
- 「待て」
- ツッコミを入れざるを得なかった。
- 「あれ、摩耶。盗み聞き?」
- 「普通に聞こえたんだよ」
- ここは艦娘が飯食う食堂である。演習を終えて小腹を空かせたあたしが何かつまみにやってきたとしても、責められるいわれはない。
- 「いいじゃん、聞かれて困る話でもないんだし」
- 「じゃあ盗み聞きとかいうなよ!」
- 「なんですか摩耶さん、横から口を挟んできて。私たちのことは気にせず、その辺でスタ丼大盛りでもかっこんでればいいじゃないですか」
- 「じゃあ人のことを話のネタにするなよ! ていうかどうしてスタ丼なんだよ!」
- 「そうだよ大井っち。摩耶だって油そば特盛にニンニク増したい時もあるよ」
- 「だからどうしてあたしのメニューはそっち系限定なんだよ!」
- 「そうよ、北上さん。摩耶ちゃん改二になってからは、お腹が気になるのかサラダ主体なんだから」
- 「姉さんも余計な暴露ぶっこんでこなくていいから――って、愛宕姉さん!?」
- 「はぁい、姉さんでーす」
- 北上と大井に抗議していたら、いつの間にか愛宕姉さんがやってきた。
- 「内緒話をしたかったら、もう少し声のボリュームを下げる事ね」
- 「高雄姉さんと、鳥海もか」
- 「食堂の前を通りがかったら摩耶の声が聞こえて、愛宕姉さんが『面白そう』って」
- 「あー。鳥海ちゃん、ひどーい。ナイショって約束したのに」
- 「約束っていうか、愛宕が一方的に言っていただけよね」
- 「もう、高雄まで!」
- 気付けば全員勢揃いだった。
- 「あの、姉妹喧嘩という名のキャッキャウフフは余所でやって貰っていいですか?」
- 「まあまあ、大井っち」
- そして大井は相変わらず不機嫌であり、北上が宥めている。そもそもの原因はお前らじゃねえかと言いたくなったが、そんなことを気にする二人でもないだろう。
- 「せっかくだしさ。高雄型のみんなに相談してみればいいじゃない」
- 「えー?」
- 「なになに、恋バナかしら?」
- 「それは違います」
- そして面倒なことを言い出したので逃げ出そうと思ったときには、もう既に愛宕姉さんが食いついていた。
- 「まーっかせなさい! 大井さんの恋の悩み、この愛宕さんがしっかり解決してあげちゃうわよ!」
- 「だから違いますって」
- 「まあまあ。恋バナかどうかは置いとくとしても、その手の話ならみんな得意そうじゃん。いかにも『女子力高そう!』って感じで」
- 「……それはまあ、確かに」
- 北上の言葉にそう答えると、ぐるりとあたしたちを見回した。
- 「一部例外はいますけど」
- 「おいこら、それ誰のことだ」
- 「自覚あるんじゃないですか」
- 「よしテメェ、表に出ろ」
- その後姉さんたちと北上に宥められて、大井の説明を聞くまでにしばらくの時間を費やした。
- そして執務室での一件を聞かされたあたしの感想はというと。
- 「要するにアレだろ? 大井がレズだっていう」
- 「ぶん殴りますよ?」
- 「まあまあまあまあ」
- 北上が大井を宥めているのを見ながら、高雄姉さんが口を開く。
- 「とにかく、大井さんはその誤解を解きたいのよね」
- 「そうですね。誤解されたままというのは嫌です」
- 「ていうか、それ本当に誤解なのか? そこんところハッキリさせないと姉さんたちだって相談に乗れないんじゃねえの」
- 「摩耶!」
- 「うるせぇな、それは事実だろ?」
- 鳥海に睨まれても、知ったことではない。正直な話大井がレズだろうとなんだろうとあたしには関係ないし、そんな話を延々と聞かされても困るのだ。というか腹減った。
- そんなわけで遠慮や気遣いなんぞ一切せずに直球でぶっこんでみたのだが、大井はそれを気にした様子もなくテーブルの下から何かを取り出した。
- 「では、こちらをご覧下さい」
- フリップだった。しかも上に紙かなんかが貼ってある、情報番組なんかでよく見る奴。
- 「いつの間にそんなもの」
- 「秘書艦なめんなってことです」
- 「意味わかんねえよ」
- 「今回の件に関し、各鎮守府の大井に電話アンケートを採らせていただきました」
- 「各鎮守府の大井て」
- 「アンケートの内容は『あなたはレズですか?』そして、回答はこちら」
- こっちのツッコミは完全にスルーしつつ、大井はフリップに貼られた紙をめくる。
- するとそこには円グラフが描かれていた。
- 「『A.はい』が42%、『B。いいえ』が11%、『C.どちらともいえない』が18%、『D.回答拒否』が29%になります」
- いやもう、どこから突っ込めばいいのやら。
- http://i.imgur.com/VD8BTlE.png
- 果たして摩耶はツッコミきれるのか、そして大井っちのプレゼンはどうなるのか。さらにいうなら提督は無事なのか。
- 気になった人は夏コミにGOだ!
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