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Jan 10th, 2015
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  7. 漆黒の魔女と純白の退魔師
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  11. 夜の空に──丸い月が二つ、浮かんでいる。
  12. 一つは、淡い黄金の光に満ちた月。
  13. その表面の複雑な陰影が、見慣れた模様を作り出している。
  14. もう一つは、白蒼に輝く、やはり満ちた月。
  15. 冷たく凛とした光を、静かに発する。
  16. 青白い月光が、柔らかな山吹色のそれにもまして、地を照らす。
  17. 火星に二つの月があるように、木星に六十七の月があるように。
  18. この地球にも、二つの月がある。
  19. 今宵は──
  20. かぐや
  21. 輝夜
  22. だ。
  23. それは、彼が幼い頃から見慣れた風景。
  24. 馴染みの夜景。
  25. 夕方まで降っていた雨は止み、空気は澄み渡っている。
  26. 二つの月の光が冴え冴えしく、彼の瞳に届く。
  27. 気持ちの良い──夜だ。
  28. しかし――
  29. いま、その静寂は破られた。
  30. 一つ目は、二人の少女。
  31. 両の月の下で、彼女たちは対峙している。
  32. 一人は漆黒を身に纏い、もう一人は純白に身を包む。
  33. 年の頃は、ともに十代後半といったところか。
  34. 大人びた表情の中にも、どこかあどけなさを残している。
  35. 二つの月を空に見て、二人の少女が相対する。
  36. 彼女たちの背後、その奥には、高い高い塔が
  37. そび
  38. え立つ。
  39. 蒼い月まで届くかと思えるほどに、その頂は見えない。
  40. 二つ目の初めては、その塔だ。
  41. 陽の光の下、或いはただ一つの黄金の月が出ている夜には、
  42. 決して、見えることのない高い、高い塔。
  43. この蒼い月の下でのみ、その姿を現す不思議な塔。
  44. それ自身は、幼い頃から
  45. かぐや
  46. 輝夜
  47. に馴染みのある彼には、
  48. 見覚えあるものだ。
  49. だが、今宵は少しばかり様子が違う。
  50. 異形の塔は、全身がほのかに蒼白い。
  51. 目の錯覚ではない。
  52. 蒼い月の灯りを受けて光っている──のでもない。
  53. 塔自身が、幽幻の如く、蒼い光を発している。
  54. 今宵、彼の目の前には、二つの異様が共存している。
  55. かぐや
  56. 輝夜
  57. の闇の中、蒼い月と同じに光る蒼い塔。
  58. そして、その青みを帯びた夜に映える、凛とした少女たち。
  59. 時季は晩秋。そろそろ、夜は肌寒さを覚える季節。
  60. 蒼い月の光の下、空気の鋭さはさらに増している。
  61. ???
  62. 「…何処かで?」
  63. 勘違いだろう。
  64. それよりも、目前の出来事に集中しなくてはいけない。
  65. 少女たちは言葉を交わしているようだが、聞き取ることができない。
  66. もう少し近づくべきか。
  67. どちらが“敵”であるかを見極めるならば、そうすべきだが――。
  68. 判断に迷っていた時間は、それほど長くはない。
  69. 彼が動くよりも先に、少女たちが動いた。
  70. 静から動へ。
  71. 闇から光へ。
  72. 沈黙が破られ、轟音が響き渡る。
  73. すぐに彼は悟る。
  74. 戦いの火蓋が切って、落とされたのだと。
  75. 漆黒の少女と、純白の少女のぶつかり合い。
  76. どちらが先に仕掛けたのか、きっかけが何であったのか、
  77. 彼には分からなかった。
  78. 見えるのは、真白い光と、蒼黒の炎のせめぎ合いだ。
  79. 花嫁を彷彿とさせる乙女の如き衣装に身を包む少女の手からは、
  80. 目も眩むような、稲光が。
  81. 闇夜を編み込んだ死神の如き衣装に身を包む少女の手からは、
  82. 蒼い月の夜に溶けていきそうな、蒼炎が。
  83. 放たれ──激突し、そして弾ける。
  84. ビリビリと空気が震え、草樹が揺れる。
  85. 閃光と爆音で、視覚と聴覚が痺れる。
  86. 土埃が舞い散り、視界が奪われる。
  87. 続けて聞こえてくるのは、連続的な金属音。
  88. 鈍くも、どこか澄んだ音が続く。
  89. 二人が何かを打ち付け合っている。
  90. 土埃が鎮まるのを待つのがもどかしい。
  91. だが、焦らないように心を落ち着けて、時が過ぎるのを待つ。
  92. じきに、視界が確保される。
  93. その頃には耳の奥の異音も、もう残っていない。
  94. 純白の少女
  95. 「早々にお会いできて、光栄です。
  96. しかし、如何な私でも、まさか初日からあなたに来て頂ける
  97. とは思ってもみませんでした」
  98. 白い少女が、右手と左手に持つ鎖を見せつけるように掲げる。
  99. 蒼い月の下で、二本のそれが清く銀色に輝く。
  100. CG
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  106.  
  107. 漆黒の少女
  108. 「ミナセは、戦う意味を見出せない」
  109. 純白の少女
  110. 「漆黒の魔女の言葉とは思えませんね。
  111. 世界に呪詛を撒き散らす災厄の化身。
  112. あなたこそ、永遠の咎人だと言うのに」
  113. 純白の少女
  114. 「私は、あなたと戦い、そして討ち果たし、
  115. 武器を奪うことを望んでいます。
  116. 私にとって、戦う意味は十二分にあります」
  117. 純白の少女
  118. 「…もっとも、まだ目覚めたばかりで寝惚けているのかも
  119. しれませんが。
  120. そういうことならば、私が目を覚まして差し上げます」
  121. そう言って、白い少女が右手を鋭く振るう。
  122. 純白の少女
  123. カースス・カテーナ
  124. 右手の破壊連環
  125. !」
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  132.  
  133. 漆黒の少女
  134. 「二本の銀の鎖…。
  135. これが
  136. ルナ・エクリプス
  137. 十支の武器
  138. であることを、ミナセは知っている」
  139. CG
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  146. 純白の少女
  147. 「それ以外に、思い出すことはありませんか?」
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  154.  
  155. 漆黒の少女
  156. 「塔の蒼い光…。異変が始まる予兆を、ミナセは感じ取った」
  157. CG
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  163.  
  164. 純白の少女
  165. 「それだけですか。いいでしょう、分かりました。
  166. やはり、記憶は簡単には取り出せないようですね」
  167. 純白の少女
  168. 「私の
  169. カースス・カテーナ
  170. 右手の破壊連環
  171. は、加速度的に威力を増します。
  172. 果たして、その細腕でどこまで耐えられますか?」
  173. CG
  174. M
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  179.  
  180. 漆黒の少女
  181. 「確かに速いと認める」
  182. 純白の少女
  183. 「その余裕、いつまで続くか楽しみです」
  184. 純白の少女は笑みを浮かべている。
  185. 未だ動く気配のない、彼女の左手の鎖が夜風に不気味に揺れる。
  186. 物陰に潜む彼に気づくことなく、白い少女の攻撃は続く。
  187. CG
  188. M
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  194. 漆黒の少女
  195. 「…………っ」
  196. 純白の少女
  197. 「どうしましたか?
  198. そろそろ、苦しくなってきたんじゃないですか?
  199. 守るだけではなく、その力の一端を私に見せて下さいませんか」
  200. 漆黒の少女
  201. 「…!」
  202. 99_EF_add
  203. 99_EF_add
  204. 漆黒の少女
  205. 「天は地に還り、地は風を産み、風は火と踊る」
  206. …あれは、詠唱か!
  207. 99_EF_add
  208. 黒衣の少女が呪文を唱え始めると同時に、蒼い炎が、
  209. その鎌に渦を巻き始める。
  210. 漆黒の少女
  211. 「蒼龍の吐息が、人の子に一時の安息をもたらさんことを」
  212. 蒼い炎が純白の少女に襲い掛かる。
  213. 至近距離からの、魔炎の一撃!
  214. 白い少女が避ける暇など、あろうはずもない。
  215. …だが。
  216. 純白の少女
  217. アスピス・カテーナ
  218. 左手の絶対連環
  219. !」
  220. それまで微動だにしなかった左手の銀鎖が、少女を螺旋に守る。
  221. 99_EF_add
  222. 純白の少女
  223. 「私の防御は、絶対です」
  224. 一瞬の後、蒼い炎は掻き消え、跡形もない。
  225. 白衣の少女の余裕の笑みは、対照的に消えることはない。
  226. 純白の少女
  227. 「…やはり、まだ目覚めていないようですね。
  228. もしくは、本気になってこの程度なのですか?
  229. そうであれば、失望してしまいますが…」
  230. 99_EF_add
  231. 純白の少女
  232. 「お目覚めには、もう少し、強い一撃が必要でしょうか」
  233. 純白の少女
  234. 「さあ、ふたたび舞いなさい! 
  235. カースス・カテーナ
  236. 右手の破壊連環
  237. !」
  238. その言葉を合図に、さらに速度を増した銀鎖が幾度となく、
  239. 黒衣の少女に牙を剥く。
  240. 手にしている鎌で辛うじて防いでいるが、劣勢は明らかだ。
  241. ???
  242. (…助けるべきか)
  243. 普段の彼ならば、迷わないだろう。
  244. だが、今だけは特別だ。
  245. どちらが自分の敵なのか、判断がつかない。
  246. もし、黒衣の少女が敵ならば、彼女を利する必要はない。
  247. 純白の少女
  248. 「さあ! さあ! さあ!」
  249. 純白の少女
  250. 「どうしましたか?
  251. その鎌はただの飾りですか?
  252. いつになったら、その力を見せて下さるんですか!」
  253. 純白の少女は悠然と構え、しかし対照的に攻撃は苛烈を極める。
  254. 右手の銀鎖は、少女が振るわずとも、激風の如く襲い掛かる。
  255. CG
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  262. 漆黒の少女
  263. 「………………っ」
  264. その勢いにじりじりと、黒衣の少女が後退していく。
  265. 今にも、その場に倒されてしまいそうだ。
  266. ???
  267. (…いや、違う!?)
  268. その瞳は、諦めていない。
  269. むしろ、機を狙っているものだ。
  270. 白衣の少女の尊大な振る舞いの、その死角を。
  271. 漆黒の少女
  272. 「風は火と踊り、火は水と競い、水は地を穿つ」
  273. 押されながらも、黒衣の少女がふたたび蒼炎を宿す。
  274. 純白の少女
  275. 「その魔法は私には効かないと、まだ分かりませんか!」
  276. いや、先ほどの繰り返し…ではない!
  277. 漆黒の少女
  278. 「蒼龍の息吹は、人の子の想いに寸暇の眠りを与えん」
  279. 豪炎が──見えない!
  280. 不発…。
  281. いや、下だ!
  282. 黒衣の少女の蒼炎は地を穿ち、白衣の少女の足元を狙っている!
  283. 確かに、あの
  284. アスピス・カテーナ
  285. 左手の絶対連環
  286. は真下に隙がある!
  287. 純白の少女
  288. 「お見事、と言いたいところですが」
  289. 99_EF_add
  290. 少女が、ふわり、と舞い上がる。
  291. さながら天女のように白衣を纏いながら。
  292. 蒼い炎が、地面から躍り出る!
  293. 天を舞う少女を目掛けて、噴き上がる!
  294. だが、炎龍はもはや純白の少女の敵ではなかった。
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  296. 純白の少女
  297. アスピス・カテーナ
  298. 左手の絶対連環
  299. !」
  300. 鎖は少女を護り抜き、またもや蒼い炎は掻き消える。
  301. しかし!
  302. 既に黒衣の少女も、宙を舞っていた。
  303. 月夜に踊る、人を惑わす妖精のように。
  304. 漆黒の少女が、大きな、大きな鎌を振るう。
  305. いや、妖精ではなく──死神だったか。
  306. 純白の少女
  307. 「――ッ!」
  308. そのまま、踊る二人の少女の影が空中で交錯した。
  309. 秋の終わりの、涼風が吹く夜。
  310. 空に並ぶは、蒼い月と黄金の月。
  311. 離れて見ゆる、淡く輝く天の塔。
  312. 純白の少女と漆黒の少女が宙で交錯する。
  313. だが、その時、彼はもう彼女たちを見ていなかった。
  314. 彼の瞳は、小さく輝くものが、落ちてきたのを見逃さない。
  315. どちらの少女が持っていたものか。
  316. 直前の交錯の際に、取り落としたのだろう。
  317. そんな経緯は、どうでもいい。
  318. 大切なことはただひとつ。
  319. 見間違うはずもない。
  320. 小さなそれこそが、彼の求めていたものだから。
  321. ???
  322. 「籠だ!」
  323. すぐに、取り返さなくては!
  324. そのために、彼はここまで来たのだから。
  325. だが、その数秒後に彼の思考は肉体ごと消滅する羽目になる。
  326. ???
  327. 「ヒャッハーッッッッ!!! 
  328. 間抜け、発見だぜっっっっっ!!!」
  329. ???
  330. 「………ッ!?」
  331. その声は、頭上からだった。
  332. 見上げる間もなく、幾筋もの光が降り注ぐ。
  333. 迸る閃光が、彼の体を何度も容赦なく貫く。
  334. 右手が、左足が、脇腹が、右胸が、そして、後頭部が──。
  335. おそらくは、穴だらけになり──。
  336. 彼の視界は途切れる。
  337. 初めての戦闘
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  344.  
  345. ???
  346. 「おっと…私としたことが、すこし興奮してしまったようです」
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  353.  
  354. ???
  355. 「それにしても、呆気無いですね。これで終わりとは。
  356. 私にかかれば、ざっとこんなものです」
  357. 襲ってきたのは、まだ年若い男だった。
  358. 二人の少女に比べると、随分とさっぱりした格好をしている。
  359. CG
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  364. 0
  365.  
  366. ???
  367. 「さて…」
  368. やつが次に定めた目標は…。
  369. 二人に視線を向ける漆黒の少女だった。
  370. CG
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  376.  
  377. CG
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  383.  
  384. 漆黒の少女
  385. 「…もう一人の、敵」
  386. CG
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  392.  
  393. ???
  394. 「そういうことです。
  395. あなたが仲間を潜ませていたのと同じように、
  396. 好機を伺っていたというわけです」
  397. CG
  398. M
  399. _
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  403.  
  404. 漆黒の少女
  405. 「ミナセには仲間はいない」
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  411. 0
  412.  
  413. ???
  414. 「ほぅ…? この彼が仲間ではないと?
  415. 不思議なことをいいますね。
  416. かぐや
  417. 輝夜
  418. の中で、巻き添えになったとでも言うのでしょうか」
  419. CG
  420. M
  421. _
  422. _
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  424. 0
  425.  
  426. ???
  427. 「まあ、いいでしょう。いずれにせよもう死にました。
  428. 私の手によって、ね。
  429. 続いてはあなたの番です」
  430. CG
  431. M
  432. _
  433. _
  434. 01
  435. 0
  436.  
  437. ???
  438. 「安倍のお嬢さんも情けない。
  439. 苦戦しているようですが、私があっという間に
  440. 消し炭にしてみせましょう」
  441. そんな二人のやり取りを眺めながら、
  442. 純白の少女は小さくため息をつく。
  443. CG
  444. M
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  448. 0
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  456.  
  457. 純白の少女
  458. 「…もう少し様子を見る予定だったはずです。
  459. 海勝さん、出てくるのが早すぎますよ」
  460. CG
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  462. _
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  464. 01
  465. 0
  466.  
  467. 海勝
  468. 「最後には倒すのですから、同じこと。指図は受けません」
  469. CG
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  475.  
  476. 純白の少女
  477. 「やれやれ…ですが、妙だと思いませんか?」
  478. CG
  479. M
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  483. 0
  484.  
  485. 海勝
  486. 「何が、です?」
  487. CG
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  489. _
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  491. 01
  492. 0
  493.  
  494. 純白の少女
  495. 「いま、あなたが撃った跡を見て下さい」
  496. CG
  497. M
  498. _
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  501. 0
  502.  
  503. 海勝
  504. 「…おや? 死体が…無い?
  505. 私の閃光で焼き尽くしてしまいましたか」
  506. CG
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  509. _
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  511. 0
  512.  
  513. 純白の少女
  514. 「…いや、違いますね。
  515. 恐らく、元から人間ではない…。幻影だった…のでしょうか。
  516. いや、しかし、すると…これは…」
  517. CG
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  522. 0
  523.  
  524. 海勝
  525. 「一人でぶつぶつ言ってないで、
  526. 私にも分かるような説明をする義務があるのでは?」
  527. CG
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  529. _
  530. _
  531. 01
  532. 0
  533.  
  534. 純白の少女
  535. 「海勝さん、ちょっと黙っていてもらえませんか?
  536. 私は、いまとても大切な考え事をしているのです」
  537. CG
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  540. _
  541. 01
  542. 0
  543.  
  544. 海勝
  545. 「ちっ…なんだってんだ…いったい。
  546. …っと、言葉遣いが汚くなってしまいました。失礼」
  547. CG
  548. M
  549. _
  550. _
  551. 01
  552. 0
  553.  
  554. 海勝
  555. 「仕方ありません。
  556. ひとまず、お嬢さんと遊ぶことにしましょう」
  557. そう言って、漆黒の少女を睨めつける。
  558. CG
  559. M
  560. _
  561. _
  562. 01
  563. 0
  564.  
  565. 漆黒の少女
  566. 「遊ぶとはどういう意味か」
  567. CG
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  571. 01
  572. 0
  573.  
  574. 海勝
  575. 「遊ぶと言ったら、もちろん楽しいことに決まってます。
  576. つまり、こういうことですよ!」
  577. やつの背後に、五つの珠が浮かび上がる。
  578. 海勝
  579. 「私の閃光をたっぷりと、味わいなさい!
  580. さっきの彼のように!」
  581. CG
  582. M
  583. _
  584. _
  585. 01
  586. 0
  587.  
  588. 純白の少女
  589. 「海勝さん!」
  590. だが、少女の一喝に海勝はびくりと震える。
  591. CG
  592. M
  593. _
  594. _
  595. 01
  596. 0
  597.  
  598. 海勝
  599. 「ちっ…さっきから何だ! 
  600. 俺に指図するなと――!?」
  601. CG
  602. M
  603. _
  604. _
  605. 01
  606. 0
  607.  
  608. 純白の少女
  609. 「同じ撃つなら、彼女ではなく、あの物陰を撃ってみて下さい。
  610. 面白いものが見られるかも知れませんよ」
  611. …察知されていたのか。
  612. やはり、あの白い少女は只者ではないようだ。
  613. CG
  614. M
  615. _
  616. _
  617. 01
  618. 0
  619.  
  620. 海勝
  621. 「その顔…なにか考えがありそうですね。
  622. 素直に言うことを聞くのも癪に障りますが、いいでしょう」
  623. 言うが早いか、海勝がこちらを向く。
  624. 海勝
  625. さんらんだん
  626. 燦爛弾
  627. !」
  628. やつの叫び声とともに、背後に展開する五つの珠から、
  629. 一斉に鋭い光の筋が放たれる。
  630. 避ける暇はない。
  631. 打つ手はある。
  632. 頭で考えるよりも先に、体が動いていた。
  633. ???
  634. オープン
  635. 顕現
  636. !」
  637. 手首に巻いた数珠が、俺の呼びかけに応え、真の姿を現す。
  638. ???
  639. リフレクト
  640. 返照
  641. !」
  642. 俺の身を守るのは、大ぶりの銀鏡。
  643. 全てを反射する、魔法の鏡だ!
  644. 海勝
  645. 「なにっ!」
  646. 海勝の放った光刃は、その五筋全てが鏡に正面からぶつかり、
  647. そして、そのまま跳ね返る!
  648. CG
  649. M
  650. _
  651. _
  652. 01
  653. 0
  654.  
  655. 海勝
  656. 「…ちぃぃっ!? 
  657. っ」
  658. 海勝は反射的に飛び上がると、目にも留まらぬ速さで、
  659. 後退する。
  660. 反射された光の筋は、やつの頬を僅かに掠めただけだった。
  661. CG
  662. M
  663. _
  664. _
  665. 01
  666. 0
  667.  
  668. 海勝
  669. 「……っ」
  670. CG
  671. M
  672. _
  673. _
  674. 01
  675. 0
  676.  
  677. CG
  678. M
  679. _
  680. _
  681. 01
  682. 0
  683.  
  684. 純白の少女
  685. 「海勝さん。あなたが避けたら、私の方に飛んで来るのですが。
  686. もう少し、レディに対して気を使って欲しいものです」
  687. 海勝が避けた反射光は、純白の少女が振るう鎖で掻き消される。
  688. CG
  689. M
  690. _
  691. _
  692. 01
  693. 0
  694.  
  695. 海勝
  696. 「…私の顔に傷が! 貴様ぁぁぁ!」
  697. CG
  698. M
  699. _
  700. _
  701. 01
  702. 0
  703.  
  704. 純白の少女
  705. 「傷といっても、ほんのかすり傷じゃないですか。
  706. すぐに治りますよ」
  707. CG
  708. M
  709. _
  710. _
  711. 01
  712. 0
  713.  
  714. 海勝
  715. 「…ふぅぅ、つい取り乱してしまいました。
  716. ですが、私の顔に僅かでも傷をつけるとは…
  717. 許せるはずがありません」
  718. CG
  719. M
  720. _
  721. _
  722. 01
  723. 0
  724.  
  725. 純白の少女
  726. 「それよりも、そこのあなた。今のは鏡ではないですか?」
  727. 少女の声は、明らかに俺の方を向いている。
  728. やはり、分かってしまうか。
  729. とうこ
  730. 董子
  731. …悪い。言いつけは守れなかった。
  732. CG
  733. M
  734. _
  735. _
  736. 01
  737. 0
  738.  
  739. 純白の少女
  740. 「先ほどの幻影で、もしかして、と思っていましたが。
  741. …やはり、そうですか。さすがの私も、興奮を隠し切れません」
  742. CG
  743. M
  744. _
  745. _
  746. 01
  747. 0
  748.  
  749. 純白の少女
  750. 「よく顔を見せて下さいませんか?
  751. あなたは、不破の末裔なのでしょう?」
  752. 隠れていても、無駄のようだ。
  753. それに不破の末裔…とはどういう意味だ。
  754. ???
  755. 「…分かったよ」
  756. 俺は鏡を
  757. オープン
  758. 顕現
  759. させたまま、用心深く姿を現す。
  760. CG
  761. M
  762. _
  763. _
  764. 01
  765. 0
  766.  
  767. 純白の少女
  768. 「それが、鏡ですか。
  769. 唯一、行方知れずになっていた、
  770. ルナ・エクリプス
  771. 十支の武器
  772. のひとつ…」
  773. 俺の目の前には、純白の少女と海勝という青年。
  774. そして、少し離れた場所で漆黒の少女が様子を窺っている。
  775. CG
  776. M
  777. _
  778. _
  779. 01
  780. 0
  781.  
  782. 海勝
  783. 「鏡? まさか、この男が…?
  784. だが、こいつは私が殺したはずだ」
  785. 海勝は俺の顔を認め、首を捻る。
  786. CG
  787. M
  788. _
  789. _
  790. 01
  791. 0
  792.  
  793. 純白の少女
  794. 「あれが鏡の能力の一つ、
  795. ミラージュ
  796. 幻影
  797. ですよ。
  798. 偵察や囮に、自分の分身を送り込むのです。
  799. 私も、家の文献で読んだことがあるだけですが」
  800. 000000
  801. CG
  802. M
  803. _
  804. _
  805. 01
  806. 0
  807.  
  808. CG
  809. M
  810. _
  811. _
  812. 01
  813. 0
  814.  
  815. 純白の少女
  816. 「そして、もう一つの能力が
  817. リフレクト
  818. 返照
  819. というわけですね。
  820. それでは、少し試してみましょうか」
  821. CG
  822. M
  823. _
  824. _
  825. 01
  826. 0
  827.  
  828. 純白の少女
  829. カースス・カテーナ
  830. 右手の破壊連環
  831. !」
  832. 言うが早いか、少女の右の鎖が意志ある槍穂の如く、空を裂き、
  833. 俺に襲いかかってくる。
  834. だが、俺の鏡は狙い通りに銀の穂先を跳ね返す。
  835. 寸分違わず、少女の手元に向かって、飛んで行く!
  836. CG
  837. M
  838. _
  839. _
  840. 01
  841. 0
  842.  
  843. 純白の少女
  844. 「…なるほど」
  845. だが、すぐに速度は落ちて、少女の手元に鎖は収まってしまう。
  846. 鎖の動作は自由自在というわけか。
  847. CG
  848. M
  849. _
  850. _
  851. 01
  852. 0
  853.  
  854. 純白の少女
  855. 「海勝さんの珠では、相性が悪いようですね。
  856. あなたの攻撃は直線的ですから」
  857. CG
  858. M
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  860. _
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  864. CG
  865. M
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  868. 01
  869. 0
  870.  
  871. 海勝
  872. 「問題ありません。先程は少し油断しただけです。
  873. タネさえ分かれば、こんな子供には負けませんよ。
  874. 私の顔に傷をつけた借りは、千倍にして返して差し上げます」
  875. CG
  876. M
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  878. _
  879. 01
  880. 0
  881.  
  882. 海勝
  883. 「キミ、名前はなんですか?
  884. これから死んでいく前に、それくらいは聞いてあげましょう」
  885. CG
  886. M
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  889. 01
  890. 0
  891.  
  892. 純白の少女
  893. 「海勝さん。…それ逆にやられる悪役の台詞ですよ」
  894. CG
  895. M
  896. _
  897. _
  898. 01
  899. 0
  900.  
  901. 九十九
  902. 「俺は、九十九。
  903. 和泉九十九だ」
  904. 俺は名乗りを上げる。
  905. CG
  906. M
  907. _
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  909. 01
  910. 0
  911.  
  912. 純白の少女
  913. 「和泉…? その名は確か、籠の…。
  914. しかし、鏡の継承者は不破家のはず…どういうことでしょう。
  915. 私の知らない何かが、まだあるようですね…」
  916. 先ほどから、じっと様子を見つめる黒衣の少女に視線を向ける。
  917. CG
  918. M
  919. _
  920. _
  921. 01
  922. 0
  923.  
  924. 純白の少女
  925. 「先ほどあなたは、自分には仲間はいないと言った。
  926. 彼は、あなたを助けに来た訳ではないということですか?」
  927. CG
  928. M
  929. _
  930. _
  931. 01
  932. 0
  933.  
  934. 漆黒の少女
  935. 「ミナセは、顔を確認する」
  936. 初めて、漆黒の少女の声を間近で聞く。
  937. 短い言葉は、夜風に揺れる風鈴のように、軽やかな音色だった。
  938. …ずきん、と頭の奥の奥が鈍く疼いた。
  939. いま聞いたその声が、その鈍痛を引き起こしたような。
  940. やはり、何処かで…。
  941. 自分の目で、直接視認すると、再びそんな錯覚を覚える。
  942. それを振り払うべく、俺は大きく息を吐き出す。
  943. ここは戦場だ。
  944. 意味の分からないことに気を取られる訳にはいかない。
  945. CG
  946. M
  947. _
  948. _
  949. 01
  950. 0
  951.  
  952. 漆黒の少女
  953. 「今の質問には、改めて否と答える。
  954. ミナセは、この九十九という少年を知らない」
  955. 少女は一瞬、俺の顔を見た後で、首を振る。
  956. …そうだよな。
  957. 俺もこの娘も、お互いのことを知るはずがない。
  958. だが、一度否定したにも関わらず、彼女はまだ俺のことを
  959. 見つめていた。
  960. CG
  961. M
  962. _
  963. _
  964. 01
  965. 0
  966.  
  967. 純白の少女
  968. 「…そうですか。まあ、いいでしょう。
  969. しかし、九十九さん…?
  970. あなたは私の味方、というわけでも無さそうですね」
  971. 今度は白い少女が、俺を見つめる。
  972. 射すくめるような視線は、文字通り俺の体を貫きそうだ。
  973. 九十九
  974. 「…当たり前だ」
  975. 俺の答えに満足したか分からないが、純白の少女は鷹揚に頷く。
  976. CG
  977. M
  978. _
  979. _
  980. 01
  981. 0
  982.  
  983. 純白の少女
  984. 「ああ! 今夜は、なんと素敵な夜なのでしょう。
  985. 私が、長らく探していたものが、一挙に二つも見つかりました。
  986. 端緒が網に掛かれば儲け物、くらいに思っていましたが」
  987. CG
  988. M
  989. _
  990. _
  991. 01
  992. 0
  993.  
  994. 純白の少女
  995. 「あの光の効果は、想定以上でしたね。
  996. 予想外の収獲に、心躍ってしまいます」
  997. 塔の建つ方に僅かに顔を向け、楽しそうな笑みを浮かべる。
  998. CG
  999. M
  1000. _
  1001. _
  1002. 01
  1003. 0
  1004.  
  1005. 純白の少女
  1006. 「…しかし、そろそろ時間切れのようです。
  1007. 名残惜しいですが、今夜は、これくらいにしておきましょう。
  1008. じきに蒼い月も沈む頃です」
  1009. 九十九
  1010. 「おい、ちょっと待て。俺は聞きたいことが山ほどある。
  1011. さっきの、不破の末裔って、どういう意味だ!」
  1012. だが、彼女は俺の問いかけには、耳を貸さなかった。
  1013. CG
  1014. M
  1015. _
  1016. _
  1017. 01
  1018. 0
  1019.  
  1020. 純白の少女
  1021. 「もう少し準備が必要のようです。海勝さん、退きますよ」
  1022. CG
  1023. M
  1024. _
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  1026. 01
  1027. 0
  1028.  
  1029. CG
  1030. M
  1031. _
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  1033. 01
  1034. 0
  1035.  
  1036. 海勝
  1037. 「待って下さい。顔の傷の借りをまだ返していません!」
  1038. CG
  1039. M
  1040. _
  1041. _
  1042. 01
  1043. 0
  1044.  
  1045. 純白の少女
  1046. 「その機会は、いずれ訪れるでしょう。
  1047. そう、遠くないうちに」
  1048. CG
  1049. M
  1050. _
  1051. _
  1052. 01
  1053. 0
  1054.  
  1055. それから、彼女はもう一度俺たちを見据える。
  1056. CG
  1057. M
  1058. _
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  1060. 01
  1061. 0
  1062.  
  1063. 純白の少女
  1064. 「これは、置き土産です」
  1065. 九十九
  1066. 「…? なんだ?」
  1067. 地震か?
  1068. …いや、震えているのは大気だ。
  1069. CG
  1070. M
  1071. _
  1072. _
  1073. 01
  1074. 0
  1075.  
  1076. 海勝
  1077. 「えっ!? まさか、あれをやるのですか…。
  1078. 私まで、巻き添えにっ!?」
  1079. CG
  1080. M
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  1084. 0
  1085.  
  1086. 純白の少女
  1087. 「この程度で死んでしまうなら、あなたも私には付いてこられない、
  1088. ということになりますが」
  1089. CG
  1090. M
  1091. _
  1092. _
  1093. 01
  1094. 0
  1095.  
  1096. 海勝
  1097. 「くそっ」
  1098. …あの白い少女のとっておき、という訳か。
  1099. ここは、素直に逃げるのが懸命だが…
  1100. だが…純白の少女の足元には籠が落ちている。
  1101. あれを回収しなければ、ここまで来た意味がない。
  1102. 九十九
  1103. とうこ
  1104. 董子
  1105. …」
  1106. いまも病院のベッドの上で眠る、姉の姿が思い浮かぶ。
  1107. どうしても、彼女の許にあれを持ち帰らなくては。
  1108. 九十九
  1109. 「…っ!」
  1110. 俺は走る!
  1111. 白い少女に向かって!
  1112. CG
  1113. M
  1114. _
  1115. _
  1116. 01
  1117. 0
  1118.  
  1119. 海勝
  1120. 「なっ…あいつ、馬鹿か!」
  1121. CG
  1122. M
  1123. _
  1124. _
  1125. 01
  1126. 0
  1127.  
  1128. 純白の少女
  1129. 「これは、予想外の行動ですね…。驚きました。
  1130. 私は俄然、あなたに興味が湧いてきました。
  1131. ですが、手加減はしませんよ」
  1132. 少女の両の手の間に、大気の震えが凝縮している。
  1133. 圧縮されたそれは、瞬時のうちに莫大な
  1134. スペクター
  1135. 霊素
  1136. を秘めた雷球となる!
  1137. 純白の少女
  1138. アルゲントゥム・フルグル
  1139. 清澄なる銀の稲妻
  1140. !」
  1141. 九十九
  1142. リフレクト
  1143. 返照
  1144. !」
  1145. 右手を前に出し、銀の魔雷を受けようと構える。
  1146. 九十九
  1147. 「……くぅぅぅっ!?」
  1148. 化け物じみた
  1149. スペクター
  1150. 霊素
  1151. の奔流が襲いかかる。
  1152. 九十九
  1153. 「ぐ、ううぅぅぅううううっ…!?」
  1154. スペクター
  1155. 霊素
  1156. の濁流に足を踏ん張るのが精一杯だ。
  1157. 足を前に進めようとしても、その余裕が無い。
  1158. 純白の少女まで、籠まで、あと少しだと言うのに。
  1159. 九十九
  1160. 「あああぁあああ…!?」
  1161. 不味い!!
  1162. このままでは…押し切られる!?
  1163. 漆黒の少女
  1164. 「ミナセは無謀だと忠告する」
  1165. 俺の傍らに、黒い影が踊り出る。
  1166. 九十九
  1167. 「…お前は!?」
  1168. 漆黒の少女
  1169. 「火は土より熾り、火は風より湧き、火は水より芽吹き、
  1170. 火は火より創られる」
  1171. 漆黒の少女
  1172. 「蒼龍の咆哮が、人の子に穏やかな眠りを」
  1173. 詠唱を終えると同時に、双頭の蒼い炎が龍の如く、
  1174. 白く染まった闇夜にうねり狂う!
  1175. 雄叫びのような轟音を上げて、銀の稲妻に向かう!
  1176. 銀雷と──蒼龍の──激突。
  1177. 最初の激突も、これだったのか…。
  1178. だが、ともに威力はその時とは桁違いだ!
  1179. CG
  1180. M
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  1184. 0
  1185.  
  1186. 漆黒の少女
  1187. 「ミナセと一緒に逃げる」
  1188. その隙を逃さず、漆黒の少女が、俺の右手を引く。
  1189. 思いがけない、強い力だ。
  1190. 九十九
  1191. 「待ってくれ! 籠が!」
  1192. CG
  1193. M
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  1196. 01
  1197. 0
  1198.  
  1199. 漆黒の少女
  1200. 「ミナセは、その意見を拒絶する」
  1201. だが、彼女は聞く耳を持たない。
  1202. CG
  1203. M
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  1205. _
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  1207. 0
  1208.  
  1209. 漆黒の少女
  1210. 「ミナセと一緒に走る」
  1211. どうして、振り解けないのか。
  1212. 少女の細腕は、頑丈な鍵のようにがっしりと、俺の手を握り、
  1213. 離そうとしない。
  1214. ミナセとの約束
  1215. 九十九
  1216. 「…ふぅ」
  1217. 気づけば、塔から離れ、辿り着いたのは街の外れだ。
  1218. 衝突の時にできた擦り傷は、まだヒリヒリと痛む。
  1219. 九十九
  1220. 「いったい、何がどうなっているんだ…」
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  1227.  
  1228. 漆黒の少女
  1229. 「ミナセは、東の空を見ることを提案する」
  1230. 顔を上気させる俺とは対照的に、彼女は汗一つかいていない。
  1231. 少女の言葉のままに、俺は空を見上げた。
  1232. 白白とした曙光が、夜明けを告げている。
  1233. そして、暁天に鐘の音が静かに響く。
  1234. チェシャズ・チャイム
  1235. 黒猫の鐘の音
  1236. ”と
  1237. とうこ
  1238. 董子
  1239. が呼ぶ、幻の鐘音だ。
  1240. 繰り返される荘厳な音色は、
  1241. かぐや
  1242. 輝夜
  1243. の終わる合図だ。
  1244. 九十九
  1245. 「…長い夜だったな」
  1246. 実質的には一時間ほどのはずだが、途方もない時間に感じた。
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  1254. 漆黒の少女
  1255. 「もう安全。
  1256. ミナセは、ここで別れる」
  1257. 九十九
  1258. 「ちょっと待てくれ」
  1259. 余韻に浸る暇すら与えず、少女が立ち去ろうとするのを、
  1260. 慌てて手首を握り、引き止める。
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  1268. 漆黒の少女
  1269. 「ミナセには、特に用はない」
  1270. 九十九
  1271. 「まだお礼を言っていない。
  1272. 助けてくれて、ありがとう」
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  1279.  
  1280. 漆黒の少女
  1281. 「………あ」
  1282. 九十九
  1283. 「それに、知りたいことが山ほどある。
  1284. そっちも、俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?」
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  1292. 漆黒の少女
  1293. 「ミナセは、その言葉を否定しない」
  1294. 九十九
  1295. 「だったらお互い様だな」
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  1303. 漆黒の少女
  1304. 「…その前に、ミナセの手を離して欲しい」
  1305. ずっと手首を取ったままだったことに気づく。
  1306. 九十九
  1307. 「離した途端に、逃げないだろうな」
  1308. 少女は、僅かに逡巡した様子を見せるが、微かに首を縦に振る。
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  1316. 漆黒の少女
  1317. 「ミナセは、夕方この場所に来ることを希望する」
  1318. 九十九
  1319. 「ここに?」
  1320. こくり、と今度は首肯する。
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  1328. 漆黒の少女
  1329. 「その時、話をすることを、ミナセは約束する」
  1330. 九十九
  1331. 「分かった。必ず、来るよ。
  1332. …えっと、名前は…ミナセでいいのか?」
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  1340. 漆黒の少女
  1341. 「ミナセは、ミナセ。
  1342. …天舞ミナセ」
  1343. 天舞ミナセ…。
  1344. 改めて、その顔を見る。
  1345. 九十九
  1346. 「なあ…以前に何処かで会ったことがあるか?」
  1347. 先ほど一瞬だけ襲った、あの感覚。
  1348. また、鈍い痛みが、その郷愁を呼び起こす。
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  1356. ミナセ
  1357. 「ミナセには覚えのない顔だと、先程も言った。
  1358. しかし、ミナセも昔のことは霞がかったように、
  1359. 曖昧であることを否定しない」
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  1367. ミナセ
  1368. 「何処かで出会っている可能性は皆無ではないと、補足する」
  1369. 九十九
  1370. 「そう、なのか…。だったら…」
  1371. 俺はもう一度、少女の顔を確認する。
  1372. 闇を編みこんだような衣装に目を取られていたが、よく見れば、
  1373. まだ幼さを残した、少年めいた顔立ちをしている。
  1374. やはり、見覚えのない顔だった。しかし…。
  1375. 九十九
  1376. 「少しだけ、安心した」
  1377. その時だけは妖精でも、死神でもなく、人に見えたからだ。
  1378. 戦っているときに覚えた感覚。
  1379. 人であるようで、同時に現世の者ではないような、危うい存在。
  1380. そんなあやふやで、境界線にあるような──神秘的な少女。
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  1388. ミナセ
  1389. 「長く凝視されることに、ミナセは慣れていない」
  1390. ふい、とそっぽを向いてしまう。
  1391. 九十九
  1392. 「…悪い」
  1393. その顔に見惚れていた、とは言えなかった。
  1394. 九十九
  1395. 「俺は、和泉九十九だ」
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  1403. ミナセ
  1404. 「ミナセには既知の事実」
  1405. 九十九
  1406. 「ま、名乗るところを聞いていたもんな。
  1407. でも、こういうのはちゃんとしなくちゃな」
  1408. ミナセ
  1409. 「………」
  1410. 九十九
  1411. 「なあ、ミナセ…」
  1412. さらに呼び止めようとした、そのとき…
  1413. ミナセの姿を不意に失う。
  1414. 蝋燭の炎が突然消えたかの様に、後には静寂だけが残る。
  1415. 九十九
  1416. 「…待って」
  1417. くれ、と続けようとした言葉は、口から漏れることはなかった。
  1418. 九十九
  1419. 「…夢、じゃないよな」
  1420. そう言いたくなってしまうほど、長い夜だった。
  1421. 聞きたいことはたくさんあった。
  1422. 本当に、また会えるだろうか。
  1423. 約束してくれたが、それでも不安になる。
  1424. いったい、彼女は何者なのだろう。
  1425. 改めて疑問に思う。
  1426. そして敵か味方かも分からない少女に、
  1427. もう一度会いたいと思っている自分に気づいた。
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