Name: 緋城◆397b662d ID:9b198830 前を表示する / 次を表示する Date: 2011/11/01 17:57 第59話 巣立つ雛たち 2001年12月09日(日)  20時03分、B19フロアの夕呼の執務室を武は訪ねていた。  これに先立って、霞と純夏の下にいって団欒の時間を過ごしていたのだが、トライアルの後始末で夕呼が多忙であると知っていた為に時間調節をしたのであって、思うところがあって夕呼を後回しにした訳ではなかった。 「お疲れ様でした、夕呼先生。各国の反応はどうでしたか?」  武がそう訊ねると、夕呼は退屈そうに淡々と説明を始めた。 「XM3に関しては、各勢力押し並べて、直ぐにでも欲しいって言ってきてるわ。けど、ライセンス生産はアメリカが乗ってくるまでは無理ね。  ソ連にライセンスを渡しちゃったら、即座に技術情報が米国に流れるからね。  まあ、米国も近日中に交渉して来るでしょ。それまでは、来年の国内生産分の分配交渉でお茶を濁しておくわよ。  陽動支援機構想も、反応自体は良かったわよ。ただし、あれにもXM3が搭載されてると説明したら、渋い顔をしてたわね。  有人機に優先配備したいんだろうから当然でしょうけど。  恐らく、XM3で旧OSをエミュレートして、陽動支援機を遠隔操縦する方法を採用するんじゃないかしらね。  自律制御がお粗末になるけど、XM3の絶対数が少ない内は、使い捨てが前提の陽動支援機に搭載する余裕は無いでしょ。」 「なるほど。で、ライセンス生産をちらつかせる事で、各国に米国への外交圧力を約束させたってとこですか。」  武の言葉に夕呼は妖艶な笑みを浮かべ、満足気に応じる。 「そ。あんたも駆け引きってもんが解ってきたじゃないの。  尤も、本来ならば、オルタネイティヴ4の副産物である高性能並列処理コンピューターのライセンスは、国連加盟国諸国の共有財産でもあるんだけどね。  そうは言ってもオルタネイティヴ計画は、誘致した提唱国の負担が大きいから、今回みたいに開発の当初から帝国との共同開発と言う事にしてしまえば、諸外国は一応の権利を帝国に認めざるを得ないって訳よ。  ま、あたしは別に金が欲しい訳じゃないから、その辺は帝国にくれてやるけどね。  米国もさんざんライセンスで稼いでる以上、コピーはしないでしょうね。新OS開発に金をつぎ込んでシェアを取り戻そうとはするだろうけど。  で、米国の衛士達をリーディングした結果はどうだったの?」 「この間のクーデターで介入しそびれたまま、特に指令は下ってないみたいですね。  CIAの工作員であるイルマ・テスレフ少尉も、一衛士として参加していただけのようでしたから。」  夕呼の問いかけに、少しだけ眉を顰めて武は応えた。夕呼は軽く頷いて言う。 「ま、そうでしょうね~。今頃失敗の言い訳に四苦八苦してるところだろうし。  ふふん。あたし相手にちょっかい出そうだなんて、身の程知らずな事するから火傷すんのよ。」  昏い(くらい)笑みを浮かべる夕呼に、武は頃合を見計らって声をかけた。 「で、207訓練小隊の任官の方はどうなりましたか?」 「ああ、そっちの方は問題ないわ。  富士教導隊相手に互角以上にやって、米軍の『ラプター』まで落としたんだから、あの娘たち―――と、あんたもか―――とにかく、207の実力を疑う奴なんてもう居ないわよ。  明日にでも訓練小隊解隊式やって、明後日にはA-01に配属させるわ。  大体、最大の問題だった御剣の件は、あんたが解決したようなもんじゃないの。  悠陽殿下と御剣の件は、あんたの思い通りになって満足した? 新潟に斯衛を引き摺り出すって言い出した時から、ずっと狙ってたんでしょ?  最悪、悠陽殿下として戦場に立たせるつもりだったのが、晴れて殿下の名代として―――御剣冥夜として胸張って活躍できるようになったんだから、さぞかし、嬉しいんじゃないの~?」  夕呼はあっさり答えてから、武をからかうように続けた。それに対して武は真面目に深々と頭を下げた。 「その件に関しては、お骨折りいただきありがとうございました。夕呼先生の方から国連軍上層部や国連事務局、帝国政府など、各方面に根回しして下さいましたよね?  207訓練小隊の任官を、帝国と国連の、融和の象徴として宣伝効果が見込めると言って、各方面を説得していただき、本当にありがとうございました!」 「べ、べつにあんたに礼を言われるこっちゃないわよ。その方がこっちの都合が良かったからそうしただけ。A-01に関してもそう。  ―――だから、いちいち頭なんか下げないでよね。調子狂うから……」  武の真摯な言葉に、途端にそっぽを向く夕呼。武は、もう一度だけ深々と頭を下げてから、その言葉に従った。 「―――はい。あ……帝国軍と言えば、草薙大尉の方は、一応納得してもらえたようですよ?」 「そ。まあ、あっちは嫌がっても逃げられないように根回ししてあるから、最悪どうなっても構わなかったんだけどね。  けどまあ、あんたが居たから駄目元でやらせてみただけよ。  それに、あの女なら、XM3と陽動支援機の価値は見逃さないわ。」  本気でどうでも良さ気に応える夕呼。その様子を見て、相変わらずだなと武は思った。  夕呼は、自身が多くの責務を抱え過ぎている事を自覚している。それ故に、最低限の目標さえ達成していれば、一々仔細を問うことはしなかった。  そして、目標が達成されなかった場合も、次善の策が達成できればそれで満足するようにしている。  それは、個々の案件に拘り過ぎると、次々とドミノ倒しのように、複数の案件に支障が出てしまいかねないからであった。  しかし、最近の夕呼は幾つかの案件において、自分で手を打った上で白銀にフォローをさせるようになっていた。  自分と違って人当たりが良く、しかも妙に相手に好まれ易い白銀に相手をさせる事で、案件がスムースに片付く事に気付いた為であった。  長年、霞という傍観者であり理解者でもある存在こそ居たものの、独りでオルタネイティヴ4を運営してきた夕呼は、ここに至ってようやくパートナーを得たと言えるのかもしれない。  本人は、決して認めはしないであろうが…… 「ま、いずれにしても、明後日の配属後、あんたには斯衛軍や帝国軍の教導に出張ってもらうわよ。  6日間で全部済ませてきなさい。そうすれば、A-01との連携訓練に残り6日間が使えるわ。  明日、明後日で、6日分の訓練スケジュールを伊隅に指示しておくのね。沙霧も、一時的に伊隅に預けるといいわ。  ―――そうね。衛士としての基礎教育は沙霧がいくらか肩代わりできるはずだから、伊隅にはヴァルキリーズの先任をちゃんと鍛えとくように言っといてちょうだい。  あんたの教導には、まりもを助手に付けたげるわ。」  大人しく夕呼の話を聞いていた武だったが、まりもの名前に驚きの声を上げた? 「え?! ほんとですか? まりもちゃん連れてっていいんですか?」  武の声に顔を顰めて、夕呼は軽く睨み付けるように武を見て言った。 「なによ、随分と喜ぶじゃないの。あんたって年上趣味だったわけ?  ま、まりもも、ここんとこ男日照が続いてるから、この機会にヤっちゃってもいいけどね~。」 「そんなんじゃありませんけど、本当に助かりますよ、先生。まりもちゃんなら、帝国軍の内情にも詳しいでしょうし、旧OSからXM3への移行経験もありますからね。」  せっかく振ったネタを軽く流された夕呼は、はいはいと気だるげに手を振ると、面倒くさそうに口を開いた。 「わかってるわよ~、そんなこと。だからこそ、同行させるんだから。  ま、まりもも、来年度の訓練兵の入隊準備以外には、大した仕事も無いしね~。精々移動時間くらいは、旅行気分でも味合わせてやってちょうだい。」 「了解しました!」  元気一杯に応える武に、何処と無く不機嫌そうな表情を向けながらも、夕呼は言葉を続ける。 「それと、鎧衣の所の部下が何人かあんたの護衛につくけど、そいつらに変な尻尾を捕まれないように注意しなさい。いいわね?  あとは……明日辺りに、今日のトライアルを踏まえて、『甲21号作戦』への各軍の参加戦力の詳細が届くわ。  それを確認した上で、テストプランを修正して、細部を煮詰めてちょうだい。あんたと違って、こっちはチェックするだけでもそれなりに時間が掛かるんだから、さっさと仕上げんのよ?」 「了解しました。」 「そ、じゃあ、今日のところはもう戻っていいわ。―――あ、明日の訓練小隊解隊式は少しばかり大げさになるから、あの娘達に自分の立場と役割ってものを自覚させておきなさい。  それすらも、任務の内だって、ちゃんと納得させとくのよ、いいわね?」  夕呼が念を押すと、武は一瞬だけ難しげな表情を浮かべたものの、素直に頷いて一つだけ確認を取る。 「解りました。みんなの立場上仕方ないですね。あ、でも美琴は鎧衣課長の立場を知らないはずですが、その辺はどうするんです?」 「あ~、鎧衣の娘ね。本人には何も教えないでいいわ。今後広告塔になるって事だけ叩き込んでおきなさい。  どうせ、はっきりと立場を言い立てられるのなんて、御剣と、精々が榊に珠瀬くらいなもんでしょ。  あ、沙霧も居たか。けど、いずれにしても、知る人ぞ知るって事でいいのよ。いちいち種明かしなんてしないわ。  解る人間にだけ部隊の価値が伝われば、それで十分だしね。  他に質問は?―――じゃ、出てってちょうだい。あたしは、あちこちと意思疎通取るので大忙しなんだから。」  武は夕呼に一礼すると、執務室を後にするのだった。   ● ○ ○ ○ ○ ○ 2001年12月10日(月)  07時32分、訓練校の教室で207Bの全員を前に、武が話しを切り出そうとしていた。 「早くから集まってもらって悪いな。今日の日程が始まる前に、ちょっと折り入って話しておかなきゃならない事があるんだ。  この後、神宮司軍曹がくれば通達されると思うけど、9時から講堂で207訓練小隊の解隊式が執り行われる。」 「「「「「 解隊式?! 」」」」」「む……もう任官なのか……」  武の言葉に驚く女性陣と、なにやら残念そうに呟く沙霧。武は沙霧の呟きを耳にして、それに応じた。 「あー、部隊配属は明日になる予定です。今日は手続きやらなんやらで潰れますね。  ―――さてと、急に訓練校の卒業と任官が決まったように感じるかもしれないけど、これは元々予定されていた事だ。  逆に言うと、この時期にみんなを任官させる為に、昨日のトライアルで主役を務めてもらったと言っても過言じゃない。  月詠中尉たちと鍛錬に勤しんだ事もあって、みんなの衛士としての実力は既に平均を遥に超えている。  あと不足しているのは、実戦経験だけだ。  そして、対BETA戦術構想や装備群に関する知識も豊富。悪いけど、これ以上みんなを悠長に訓練させていられる状況でもないからな。  近々予定されている大規模作戦で、みんなにはこの横浜基地の精鋭部隊の一員として作戦に参加してもらう。  もちろん、新型装備を運用してBETA相手の最前線で頑張ってもらう事になるな。  なにしろ、現状で新型装備を熟知している衛士なんて殆ど居ないんだから。  今の話の流れで解ったと思うけど、みんなの配属先は横浜基地の教導部隊だ。この部隊が、実際に試作された対BETA戦術構想装備群の、運用テストをしていた。  現状で中隊規模の部隊なので、作戦前に衛士の補充が急がれたと思ってくれていい。  ここまでで質問は?」  武が話をどんどんと進めた為、沙霧を除いた全員の目が丸く見開かれ、鳩が豆鉄砲を喰らった様な状態になっていた。  そして、沙霧が手を上げて質問をする。 「―――つまり、私の配属から明日の任官まで、お膳立ては全て整っていたという事か? 白銀殿。」 「「「「「 え?! 」」」」」  沙霧の言葉に驚き、その衝撃で女性陣の頭が回り始める。 「まあ、そんな感じですね。207Bを近々任官させる予定が立っていたんで、そこに沙霧さんを滑り込ませて一緒に任官させる予定だったのは間違いないです。  もちろん、昨日のトライアルでみんなが実力を発揮できたからだけどな。昨日ボロ負けしてたら、今日の卒業は取り止めだった。  ま、そんな事、万に一つも無いと思ってたけどさ。」 「タケル……そなたは、全て知っておったのだな?」 「その癖、そ知らぬ顔して私達と接してたってわけ?」 「酷いよタケル~! ボクたちの間で隠し事するなんて~。」 「え? え? え?」 「もしかして、白銀が決めた?……」 「慧殿、いくら白銀殿でもそこまでの権限はないだろう。」 「そうだぞ彩峰。そんな事決定できるのは、香月副司令や基地司令、政威大将軍殿下あたりになっちまうぞ?」  沙霧の言葉を認めつつ、今回の任官は皆の実力による物だと説明した武に、苦情交じりの声がかけられる……中でも、壬姫は未だに状況が上手く把握できず、彩峰に至っては更に裏側を探ってくる。  しかし、彩峰の突っ込みには苦笑しながらも沙霧の反論が入り、それに力を得た武は彩峰を煙に巻こうとした。  尤も、そんな事で誤魔化される彩峰ではなく、さらに痛いところを突いてくる。 「じゃあ、その辺りに吹き込んだんだ……」 「う……彩峰、おまえなあ、オレをなんだと思ってるんだ?」 「……正体不明の変態衛士?」 「なんだよそれは! それと疑問系も止めろ!」 「まあ、正体不明はともかく、来歴不鮮明くらいなのは確かよね。年齢と能力の差が激しすぎるわ。」 「む……確かにそうだな。言われて見れば榊分隊長の言う事にも一理ある。」 「変態って言われるだけの所以も、少なからずタケルにはあるよね。あの突拍子も無い機動概念とか、後は、毎朝霞さんとあ~んしてるのだって、最初の頃はすっごい噂になってたもんね~。」 「ロリコン、ロリコン……」 「あ、彩峰さ~~~ん……」 「………………」  つい口ごもってしまった武だったが、苦し紛れの切り返しが上手く行き、幸か不幸か話題は武弄りへと流れを変えた。  事情を少なからず知っているつもりの冥夜だけは、一切発言をしなかったため、彩峰がそれを横目で見ていた。  武はそれに気付いたが、今は放置しておくことにして、ここで本題へと軌道修正を図る。 「でだ! 脱線しちまったが、本題は此処からだ。昨日のみんなの活躍に加えて、政威大将軍殿下のお言葉もあって、お前達に対する内外の注目度は非常に高い。  ま、昨日の今日だしな。しかも、ここ数年間に亘る国連軍と帝国軍の隔意を越えて、帝国からも好意的な感情を寄せられているのも事実だ。  なにしろ、政威大将軍殿下と国連軍横浜基地による共同開発計画の実験部隊であり、新装備を以って米軍の鼻を明かして見せたんだからな。」  ここでまたもや茶々が入った。 「やったのは、白銀と珠瀬……」 「いや、どちらかと言えば、評価が高かったのは『吹雪』で善戦した方の試合だったな。  『不知火』と『時津風』の試合の方は、一方的に圧勝したので却って印象に残らなかったようだ。」  米軍の『ラプター』に勝てなかった悔しさを滲ませて彩峰が呟くが、珍しく沙霧がすかさず言葉を返した。  何のかんのと言いながらも、彩峰の言動には真っ先に慣れてきている沙霧であった。 「うむ。珠瀬もタケルも、既に一廉(ひとかど)の衛士として認められていたからな。勝てて当然と受け止められたのであろう。」 「そうね。悔しいけど、同じ訓練小隊に属していても別格って感じよね。」 「アハハ。ボクなんて、一番影薄いもんね~。得意なのも存在感の無さを活用した隠蔽技術だし……」 「そんな、……鎧衣さんには、何時もお世話になってますよぉ~。鎧衣さんの隠蔽技術は凄いですぅ~。」 「……白銀は変態だから、何仕出かしてもあまり驚かれないね。」  それを切っ掛けに、またもや各々が思うところを述べ始めたが、またもや彩峰のところで白銀変態論に話題が舞い戻ってしまう。  武は半ば諦め気分で、再度話題を軌道修正する。 「だから、変態の話じゃなくて! オレ達は今や、在日国連軍と帝国軍の融和の象徴足り得るって話なんだよ!!  で、さっきもちょっと話した近々行われる大規模作戦は、在日国連軍と帝国軍、そして大東亜連合軍の3軍共同で行われるんだ。  だから、それに向けて、各軍将兵に対する士気高揚の一環として、オレ達の任官は広報的な意味合いを付加されちまったってことなんだよ。  良くも悪くも、この隊の面子は知る人ぞ知る背景を持ち過ぎてる。見る人が見れば、この面子が同じ隊で戦っているだけで、そこに意味を見出しちまうんだ。  ……そして、帝国も、基地司令部も、それを利用する気満々って事だ……」  ここまで一気に話すと、武は言葉を休めて皆の様子を窺う。  沙霧を含めて、心中穏やかならざる表情の並ぶ中、一人だけ空気を読まずに発言する者が居た。 「そう言えばそうだよね~。みんな何気に有名だもんね~。タケルだって今やXM3の開発者って事でビッグネームだしさ。」  能天気に自分だけは例外だと信じきって発言する美琴に、武は心中で突っ込みを入れた。 (おまえが知らないだけで、おまえの親父さんだって知る人ぞ知る有名人なんだぞ、美琴。)  そして、動揺を真っ先に収めたのは、既に政治的色彩を身に帯びる覚悟が出来ていた冥夜であった。 「私はむしろ望むところだ。虚飾に彩られようとも、殿下と国連軍の双方の役に立てるのであれば、これに勝る喜びは無かろう。」 「そうだな。既に罪を負ったこの身だ。如何様に処されても今更文句を言う資格もあるまい。それに将兵の士気を上げる事が叶うのであれば……」 「祀り上げられるのも任務の内………………気に食わないけどね……」 「…………そうね、任官するのだから、個人的な感情論で云々していい問題じゃないわよね。」 「そ、そうですよね! ミキも、少しでも争いの種が減るなら本望です!」  そして、冥夜の覚悟に触発され、他の面々も思いを定めて、次々と決意を表明した。  日本帝国国務全権代行、政威大将軍煌武院悠陽殿下より名代として指名され、自らは斯衛に於いては赤を纏える武家の出身である御剣冥夜。  しかも、冥夜が悠陽と血を分けた双子の姉妹である事は、帝国の上層部では知る人ぞ知る事実である。  そして、日本帝国総理大臣、榊是親卿の息女である榊千鶴、国連事務次官を務める日本人外交官である珠瀬玄丞斎を父に持つ珠瀬壬姫。  さらには、大東亜連合軍将兵に高く評価されている故彩峰萩閣帝国陸軍中将の忘れ形見である彩峰慧と、憂国の義士にして練達の衛士であり、在りし日の彩峰中将から薫陶を授かり、部下でもあった沙霧尚哉。  おまけに当の本人は知らされていないが、情報畑では国際的に有名な帝国情報省外務二課課長、鎧衣左近の娘である鎧衣美琴。  最後に、画期的な戦術機用新OSであるXM3を開発し、BETA大戦に新風を吹き込まんとする新進気鋭の若き衛士、白銀武。  加えて、全員が国連軍に所属しながらも国籍は日本。  この部隊が、帝国本土絶対防衛線の後方に位置する、横浜基地に居座り続けるというのであれば非難も浴びるだろうが、前線に出て新型装備と新戦術の運用試験を行い、かつ対BETA戦の先鋒を務めるとなれば、国連軍、帝国軍、そして大東亜連合軍の将兵は自らの襟を正さざるを得ない。  来る『甲21号作戦』に於いて、作戦参加将兵の求心力と士気を高める為にも、各軍の上層部は207訓練小隊の任官を最大限に称揚するつもりであった。 「そっか、みんな解ってくれるか……みんな、これから色々あるかもしれないけど、頑張ってくれよなっ!」 「なにを言うか。そなたが最も大変であろうに。」 「そうそう、白銀は他人の心配をしてる場合じゃないでしょ。」 「……口の聞き方知らなさ過ぎ?」 「あはははは、やだなぁ慧さん。タケルも慧さんには言われたくないと思うよ。」 「よ、鎧衣さんも、話題は選んだ方がいいですよぉ~。」 「そうだな。白銀殿はいま少し威厳を身に付けた方が良いな。」  武が、皆の決意を聞いて励ますと、一部微妙な発言もあるものの、全員からの励ましが返ってきた。武は苦笑を浮かべながらもそれを受け入れ、解隊式に思いを馳せるのであった。   ● ○ ○ ○ ○ ○  08時55分、国連軍横浜基地の講堂に、衛士訓練学校の制服を身に付けた207訓練小隊の全員が整列していた。  そこへ、講堂の後方の入り口から、総勢100人近い賓客が姿を現し、講堂の後方や側方に並べられた椅子に腰掛けていく。  賓客の過半は、先日のトライアルの観戦の為に横浜基地を訪れていた、各国軍の将校や政治家であった。  この事からも、今や207訓練小隊が政治的光彩を強く放っていることが伺える。  講堂の前方寄り中央に、直立不動で整列する訓練兵7人は、横目で様子を窺うことも出来ぬまま、講堂が多くの人の気配でざわめいていくのを肌で感じ取っていた。  そして、09時00分。講堂右手前方の扉が開き、数名の人物が入場すると壇上に設えられた席へと上がって行った。  壇上の席に腰掛けたのは、横浜基地司令官パウル・ラダビノッド准将、帝国斯衛軍副司令官紅蓮醍三郎大将の他、国連太平洋方面第11軍総司令部総参謀長、帝国軍参謀本部次長、大東亜連合参謀本部次長と、錚々たる顔触れが並んだ。  その最後尾に付いて壇上に上がった女性下士官―――神宮司まりもは、独りだけ席に着かず、舞台袖に設えられたマイクの前に立ち、壇上のご歴々と会場内の賓客に向けて敬礼をし、式次第を述べた。 「―――只今より、国連太平洋方面第11軍、横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊解隊式を執り行う。  横浜基地司令官、パウル・ラダビノッド准将殿、演壇へお上がり下さい。」 「うむ―――。」  まりもの請願に従い、ラダビノッド基地司令が重々しく腰を上げ、壇上に設えられた講演台の向うに立った。  それを待って、まりもが号令をかける。 「第207訓練小隊各員ッ、ラダビノッド司令官に対し―――敬礼ッ!」  その号令に合わせ、7人の訓練兵は一斉に敬礼を捧げる。  それに対し、ラダビノッド基地司令は返礼し、訓練兵を順繰りに見廻すと、その手をゆっくりと下げた。 「―――休めッ!  ―――基地司令訓示! 第207小隊各員―――気を付けェッ!」  それに合わせて再びまりもによる号令と、式次第の進行が告げられ、ラダビノッド基地司令はマイクに向って口を開いた。 「楽にしたまえ……訓練兵の諸君。諸君は昨日のトライアルに於いて、その練成の成果を見事に衆目の下で証明した。  諸君の類稀なる実力は、我が基地司令部の要員のみならず、帝国軍、国連軍、そして国連加盟各国より招かれた賓客の方々、全ての目に明らかであった。  故に、我が横浜基地司令部は諸君の訓練課程を終了し、任官を命じるに十分な資格を諸君に認め、ここに訓練小隊解隊を命ずるものである。  諸君、世界は今、力と勇気ある若者を欲している。実戦において、経験豊富な指揮官や兵士の力は、勝利を掴み取るためには欠かせないものである。  だが、それと同じくらい重要なものがある。―――それは勝利を信じる心だ。  若者たちよ、失敗を恐れず己の最善を尽くせ。どんな苦境に陥ろうとも、最後の勝利を信じ努力を惜しむな。勝利を信じあきらめぬ心、それこそが君たち若者が持つ唯一にして最大の武器なのだ。」  ここまで告げて、ラダビノッド基地司令は、だた独り、若者とは言い難い沙霧を見て瞳を一瞬だけ和らげた。が、次の瞬間には謹厳な表情に戻り、訓辞を続ける。 「人類は今正に、未曾有の窮地より、反撃の途に着いた所である! 先の国連軍によるオリジナルハイヴの殲滅を皮切りに、近々人類は長きに渡る忍耐を越え、反攻を開始することであろう。  無論、戦況は予断を許さず厳しいものとなるやもしれぬ。―――が、だからこそ、必勝の信念を曲げてはならない。諦めたらそこで終わってしまうのだ。  ましてや、諸君は任官を前にして、既に多くの期待を受ける身である。重責ではあろうが、それに押し潰される事無く、勝利を目指して奮闘し続けることを、諸君は求められているのだ。  いま地球人類はその歴史上初めて、ひとつの絆によって結ばれている。  それは、人種、民族、宗教、国境といったあらゆる人為的区分を超越した、『同じ種である』という最も根源的な絆である。  そう、地球の全ての人々は同じ赤い血潮が流れる同胞なのだ。  隣人と、それに連なる人々に思いをはせよ。明日も彼らが在るか否かは、諸君らにかかっているのだ。  人の姿が絶え、建物が朽ち果て、寒風吹き荒ぶ荒野となった大地に思いをはせよ。来るべき未来、そこに緑が蘇り人々の笑みが在るか否かは、諸君らにかかっているのだ。  座して手に入れられるものは何も無い。命をかけて掴み取れ。  それがどれほどの気概を必要とするか……諸君は今後赴くであろう戦場でそれを知り、或いは挫けそうになるやもしれない。  しかし、その時諸君は、その傍らに必ずや戦友の姿を見出すはずだ。心の中に先達の思いを見出すはずだ。  諸君は、必ずやそれらに支えられて苦境を乗り切り、未来を人類の手に取り戻すために、全力で戦い続けるであろうことを、私は信じて疑わない。  脈々と紡がれてきた人類の歴史を、そして、それらが育まれた大地を、未来の世代に受け渡す―――それこそが、我々に与えられた使命だ。  第207衛士訓練小隊の若人よ。私は、諸君の意志と力が、人類の悲願を達するに当たり、必ずや一助となるであろうことを確信している。  本日をもって諸君は、人類防衛の前衛たる国連軍衛士の資格を得た。  その栄誉と責任を噛み締め、必勝の気概を持って、勝利と未来を掴み取る為に、その持てる力を尽くしてほしい。  ましてや、君達は人類反攻の先鋒たる事を、既に定められた者たちだ。  諸君の後に続く多くの将兵の、そして全人類の願いの重さをも噛み締め、持てる力の限りを尽くし切って尚、人類の悲願達成の為に、さらなる力を振り絞ってほしい。  君たちの誇りは私の誇りであり、日本国民の誇りである。―――そして、世界の、全人類の誇りだ。  ……手のひらを見たまえ。―――その手で何を掴む?―――その手で何を守る?  ……拳を握りたまえ。―――その拳で何を拓く?―――その拳で何を倒す?  ……国連軍衛士として、人類の戦士として、諸君はその手に委ねられたものを決して放擲してはならないということを銘記してほしい。  ………………  最後に、極めて異例な事ではあるが……誠に光栄な事に、諸君の任官に際し、お言葉が寄せられている。  日本帝国政威大将軍、煌武院悠陽殿下からの御祝辞、心して賜りたまえ。」  そして、ラダビノッド基地司令により、悠陽の祝辞が代読された。 『第207衛士訓練小隊の皆様。この度の皆様の任官、誠に目出度き仕儀と存じます。  皆様には、任官を前にして既に、人類の悲願達成の為に力を尽くしていただき、感謝の念に堪えません。  そして、今後更なる尽力を求められるであろう皆様の任官に当たり、わたくしからのせめてもの餞として、祝辞を述べさせていただきます。  古来、先人達はこの国と民を愛し慈しみ、それが永らえることを願って参りました。  それら先人の想いは、この地に暮らす全ての人に託されております。  そして、それは他国に於いてもなんら異ならないはずです。  その想いを果たす事は、今の世に於いて並々ならぬ事ではございましょう。  されど、一人一人が成すべきことを成し、相克を乗り越え、力を合わせる時、それでも尚、果たさざるものなどありはしないでしょう。  顧みれば、我が国は一時は怨敵の跳梁を許すも、遂には一隅へと押し戻し、母国を蹂躙されし東亜の勇士は、今も尚、日夜奮戦を続け、人類は皆、その力を束ねて怨敵に対峙しております。  そして、ようやくにして、人類がその力を結集し、怨敵に対する反撃の狼煙を上げる時がやってきたのです。  今正に、人類の反攻が開始されんとするこの時、任官される皆様が人類の先鋒として立ち、国籍や立場を超え、相克を超越し、融和を体現して、人類の悲願を達成するべく活躍される事を切に願います。  皆様が正しき道を歩まれる限り、わたくしの心は、如何なる時も皆様とともに有ります。  どうか、誇りを持って、軍務に邁進なさってください。』  代読を終えて、ラダビノッド基地司令は暫し間を置いた後、再び話し始めた。 「……昇任に際し、殿下よりお言葉を賜るという名誉は、諸君に向けられる期待の大きさの顕れである。  諸君は未だ任官したばかりではあるが、既にして大きな期待を背に、国連軍衛士としての歩みを始める事となった。  しかし、私は諸君が必ずや期待に応えるであろう事を確信している! 諸君の前途に栄光のあらんことを。  …………以上である。」 「第207訓練小隊―――気を付けェッ!  ラダビノッド司令官に対し―――敬礼ッ!  ―――引き続き、衛士徽章授与を行う。」  そして、式次第は衛士徽章授与に移り、ラダビノッド基地司令とまりもが壇上より降り、訓練兵たちの前へと歩み寄る。  ラダビノッド基地司令は、千鶴の前に立つと名を呼び、呼ばれた千鶴はそれに応じて一歩前に出る。  ラダビノッド基地司令は、脇に従うまりもの持つ台から衛士徽章をひとつ取ると、それを千鶴の胸元に付けた。  そして、祝辞を述べると千鶴と敬礼を交し、千鶴は一歩下がって列へと戻る。  その儀式は、その後も冥夜、美琴、彩峰、壬姫、武、沙霧と順に繰り返され、恙無く衛士徽章の授与は終了した。  厳密に言えば、軍籍抹消された沙霧はともかく、武は衛士徽章を保持していたのだが、解隊式の前に返上して、再度授与される形となった。  ラダビノッド基地司令とまりもは再び壇上に戻り、まりもによる式次第の進行が行われる。 「―――衛士徽章授与を終了する。  第207訓練小隊―――気を付けェッ!  ラダビノッド司令官に対し―――敬礼ッ!  ―――以上を以って、国連太平洋方面第11軍、横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊解隊式を終わる。  ―――第207訓練小隊―――解散ッ!」 「「「「「「「 ―――ありがとうございましたッ!! 」」」」」」」  直立不動で謝辞を述べる訓練兵達に、講堂内の賓客から拍手が送られる。  そして、壇上の御歴々とまりもが退場すると、賓客たちも満足気に訓練兵達を一瞥して講堂から立ち去って行った。 「……そろそろいいんじゃないか?」 「うむ、そうだな……私にも気配は感じられぬが……鎧衣、どうだ?」 「うん……ちょっとまってね…………いいよ、みんな。もう誰も居ないや。」  美琴が、視界に入っている時計の保護ガラスや金属の表面など、背後の光景を反射している部分を目だけ確認してから、そろそろと後ろを振り向いて結論を出す。  すると、沙霧を除く、全員が一斉に力を抜いた。 「はぁ~~~~、き、緊張しましたぁ~~~。」 「そうだな。私の経験した解隊式でも、規模はともかく、ここまで豪華な来賓というのは例が無いな。」 「外野なんか関係ない……」 「そうね。……でも、これで私達、晴れて衛士に成れたのね。」  壬姫が胸に手を当てて、全身で深呼吸をしながら溢せば、沙霧も首を回して緊張を解しながらも同意する。  それに平然とした風を取り繕いながら彩峰が受け、千鶴が喜びに瞳を潤ませながらも思いを口にする。 「白銀と、尚哉は、出戻りだけどね……」 「もう! こんな時くらい、まぜっかえさないでよね!」 「良いではないか、榊。これが我等207訓練小隊B分隊の在るがままの姿だ。最早残照に過ぎぬが、最後に味わっておいても良かろう。」 「そうだよね~。なんだか、独特の雰囲気があったよね~。ボクが思うに、これだけ個性的な面子が集まる訓練小隊ってそうそう無いと思うんだ~。」 「そ、そうですね~。ほんっとぉ~~~にっ、鎧衣さんの言う通りだって、ミキも思います……」  すかさず茶化す彩峰に言い返す千鶴。その様子に全員の緊張が解れ、したり顔で冥夜が述べた言葉に、美琴が何度も頷きながら解説を始める。  長くなると思ったのか、途中で壬姫が口を挟んで同意して見せるが、その笑顔と口調は、美琴の他人事のような態度に呆れかえっているものであった。  そして、新任の衛士となった女性陣は互いに手を取り合って、任官の喜びを分かち合っていた。  その様子を、邪魔しないようにやや離れて見守りながら、武と沙霧は小声で話す。 「これで、沙霧さんも思う存分腕を振るえますね。」 「ああ。思いの他、短い再訓練だったが……振り返ると、無聊を託つ閑もなかったな。  帝都防衛第1師団での訓練と比べても密度の濃いものであった。しかも、中々に奇天烈な装備群にもお目にかかれたしな。退屈するどころではなかったよ。  ……なにより、衛士としての技量とは異なる面で、多くの事を学べたような気がする。白銀殿には感謝しているぞ。」 「いや、そんな……オレなんかより、あいつらに感謝してやってくださいよ。そして、これからは沙霧さんもあいつらを導いてやってください。」 「無論だ……一度は道を誤ったこの身だが……それ故に導ける事もあろう。まあ、私もまだまだ学ばねばならぬ事が多そうだがな……  ん? 白銀殿、どうやらお呼びのようだぞ?」  沙霧が、お互いに言葉を告げあうのを止めて、一斉に武に視線を投げた女性陣に気付いて言うと、武の背を押し出すようにして、数歩その身を引いた。 「ん? どうした? みんな。」  笑顔で歩み寄る武を少し眩しそうな目で見ながら、女性陣は一列に並ぶと、千鶴の号令に合わせて頭を下げた。 「白銀武臨時中尉、ご指導ありがとうございましたッ!」 「「「「 ―――ありがとうございましたッ! 」」」」  武は、目を見開いて驚いた後、途端に真っ赤になって意味も無く手を泳がせて叫ぶ。 「なッ!! や、止めてくれよ~! おんなじ訓練兵なのに、ご指導って何だよ……仲間だろ~、な、止めようぜこんなの……」  そんな武の様子に、上目遣いで覗いていた美琴が噴出し、他の面々も下げていた頭を上げて、武の珍妙な様子に大笑いする。 「プッ……アハハ……タケルぅ、なにその情けない顔~っ!」 「あはははは、顔真っ赤ですよ? たけるさ~ん」 「うむ。ここまで動揺した武も中々拝めぬからな。任官の祝いに良きものを見せてもらったぞ。」 「ワラエル、ワラエル……」 「ちょっとぉ! もう少ししゃんとしなさいよね、白銀!……でも、本当に感謝しているわ。私達はこの2ヶ月弱で、あなたから多くの事を教わったわ。」 「うむ。そなたが配属されてからの日々は、それまでに数倍する密度であったぞ。タケルそなたに感謝を。」 「ほんとうに、ありがとうございます。たけるさん。」 「うん、ボクたち、凄く運がよかったと思うんだ。ホント、タケルには感謝してるんだよ?」 「ま、苦労もさせられたけどね……」 「彩峰!」  一頻り珍妙な武に対する感想を述べた所で、千鶴が武の情けない態度を叱り飛ばしてから、真面目な顔で改めて謝辞を述べる。  すると、それに続いて皆が口々に心からの謝辞を述べていった。唯一天邪鬼な発言をした彩峰を千鶴が一喝するが、彩峰の頬は上気し視線は横を向いており、思いっ切り照れまくっている事は衆目にも明らかであった。 「まあまあ、委員長。彩峰の言う通りだし……それに……」  武は、千鶴を宥めてから意味有り気に言葉を途切らせ、皆を見廻す。  女性陣に加えて沙霧も、一体何を言いだすのかと、口をつぐんで武に注目する。 「―――これからもお前らには苦労してもらうからさ。」  満面の笑みで言い放つ武に、全員が虚を突かれたように一瞬だけ間が空いたが、直ぐに雪崩のように言葉が返される。 「ふっ……それこそ私の臨む所だぞ、タケル。」「はいはい、今更楽しようなんて思ってないわよ。」「ミキも、精一杯頑張りますね! たけるさん。」「タケルに頼まれたんじゃあ仕方ないかな~。」「ヤキソバ奢ってくれたら、頑張ったげる……」「ふむ。全身全霊を以って期待に応えよう。」 「そっか。じゃ、これからもよろしく頼むぜ、みんな。それから………………今まで世話になったな! みんな、任官おめでとうッ!!」 「タケル……」「白銀……」「……白銀」「たけるさん……」「タケルぅ……」  武からの祝辞に、涙目になって武に縋りつく女性陣。武の、照れながらも満面の笑みを浮かべたその顔は、心底嬉しそうであった。  その仲睦まじい様子を、沙霧は苦笑しながら見るとも無く眺めていた。 「ふむ……あれがカリスマと言う物なのか? まあ、いずれにしても、無邪気なものだな……」  沙霧は、独り呟くと、光の差し込む、明り取りの窓の向うに広がった空を見て、来るべき戦塵に塗れる日々に思いを馳せた。  その日は、決して遠くは無いであろうと…… 前を表示する / 次を表示する