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  1.  《全 文》
  2.  
  3. 【文献番号】25498277  
  4.  
  5. 発信者情報開示請求事件
  6. 東京地方裁判所平成24年(ワ)第19870号
  7. 平成24年10月18日民事第18部判決
  8. 口頭弁論終結日・平成24年9月6日
  9.  
  10.        判   決
  11.  
  12. 原告 P1
  13. 同法定代理人親権者父 P2
  14. 同法定代理人親権者母 P3
  15. 同訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇
  16. 被告 株式会社NTTぷらら
  17. 同代表者代表取締役 P4
  18. 同訴訟代理人弁護士 宮友一
  19. 同 高橋慶彦
  20.  
  21.  
  22.        主   文
  23.  
  24. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
  25. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  26.  
  27.  
  28.        事実及び理由
  29.  
  30. 第1 請求
  31.  主文1項同旨
  32. 第2 事案の概要
  33. 1 本件は,原告が,電気通信事業等を営む被告に対し,その電気通信設備を経由して送信され,インターネットウェブサイト「2ちゃんねる」内に設けられた電子掲示板に掲載された別紙情報目録の投稿記事内容欄記載の記事(以下「本件記事」という。)によって、原告の名誉が毀損されたとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件記事の発信者の氏名等,住所及び電子メールアドレスの開示を求める事案である。
  34. 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
  35. (1)被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社である。 
  36. (2)掲載された記事が不特定の者によって閲覧されることを目的とするインターネットウェブサイト「2ちゃんねる」(URL http:<以下略>。以下「本件サイト」という。)内に設置された「a」と題する電子掲示板(URL http:<以下略>。以下「本件スレッド」という。)において,平成24年3月8日,本件記事が47番目の記事として掲載された(甲1,6)。
  37. (3)本件記事の発信者は,別紙情報目録記載の投稿日時頃に,被告が提供するインターネット接続サービスを利用し,被告の電気通信設備を経由して本件記事を本件サイトに送信した(甲2から4まで)。
  38.  被告の電気通信設備を経由して本件記事を本件サイトへ送信することは,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信に当たり,被告は,法2条3号に定める特定電気通信役務提供者に当たる。
  39. (4)原告は,本件記事の発信者に対して損害賠償等を求めるために,本件記事の発信者の氏名等,住所及び電子メールアドレスの開示を求めている(甲5)。
  40. 3 争点及び当事者の主張
  41.  本件の争点は,本件記事による原告の権利侵害の明白性であり,この点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。
  42. (1)原告
  43.  原告は平成24年4月から国士舘大学法学部現代ビジネス法学科に在籍する者であるところ,本件スレッドのタイトルは「a」であること,本件記事が掲載された時点で,原告の住所や卒業した学校名等が既に他の投稿によって明らかにされていたこと,本件記事が原告を「犯罪者」と表現していることからすれば,本件記事は,一般の本件スレッドの閲覧者をして原告が犯罪者であると誤信させ,その社会的評価を著しく低下させるものであって,原告の人格権,名誉権を侵害するものであることは明らかである。
  44.  また,原告が犯罪を行った事実はないが,原告は本件記事の掲載当時18歳であったところ,公訴提起された犯罪等を行った未成年者については,本人であることが推知できるような記事等の出版物への掲載が少年法61条により禁止されており,本件記事に少年の要保護性を上回るほどの公益目的は見いだせないこと,具体的な記述を伴わず,原告を犯罪者と断定するだけの本件記事の内容からみて,そこに公益目的を認め難いことからも,本件記事につき違法性阻却事由は存在しないというべきである。
  45. (2)被告
  46.  本件記事の内容は「犯罪者P1を許すな」というものであるが,本件スレッドが誰でも投稿できる匿名型のインターネット掲示板であり,情報源の引用もないため,その信ぴょう性は非常に低いし,具体的な事実の記述も伴っていないことからすると,「犯罪者」が何を意味するのかも明らかではなく,実際に犯罪を行った事実を摘示する趣旨ではなく,原告をやゆする表現にすぎないとも考えられ,現にそのように読めるものであるから,本件記事によって,原告の社会的評価が著しく低下したことが明白であるとはいえない。
  47.  また,本件記事に公益目的があるかどうかは,情報の受領者の利益を考慮すべきであり,原告が少年であるという一事から公益目的が否定されることはない。さらに,原告に犯罪者であるとやゆされるような行いがあったかについては,国士舘大学という限定されたコミュニティー内の関係者にとって一般的な関心事であり,「許すな」と呼びかける文言が他者への警戒や認識を促すものであることから,公益目的の存在がうかがわれるし,原告が犯罪者に該当することやそのようにやゆされる行いをしたことについて証拠が提出され,真実性が立証される可能性も排除できない。これらの点からも,権利侵害が明白であるとはいえない。
  48. 第3 争点に対する判断
  49. 1 本件記事の内容は,「犯罪者P1を許すな」というものであるところ,本件記事が投稿された本件スレッドの名称は「a」であること,原告が平成24年4月に国士舘大学に入学した者であること(甲5),本件スレッドには本件記事と前後してP1が国士舘大学に入学した旨を摘示する記事が掲載されていること(甲6)からすると,本件記事は,原告を特定した上で,原告が犯罪者であるという事実を摘示するものであるから,原告の人格権,名誉権を侵害するものであることは明らかというべきである。
  50.  この点について,被告は,本件記事の信ぴょう性が低く,具体的な事実の記述も伴っておらず,単なるやゆにすぎない表現とも考えられるなどと主張するが,たとえそうした可能性が存するとしても,理由なく犯罪者と名指しされ,これをインターネット上の掲示板に掲示され,誰からも閲覧できる状態に置かれることを甘受すべきいわれはないのであるから,被告主張の点は原告の権利侵害の明白性を否定する事情には当たらないというべきである。
  51.  さらに,被告は,本件記事には公益目的の存在がうかがわれ,真実性の立証次第では,違法性が阻却される可能性がある旨主張するが,原告が少年であることが公益目的の否定につながるか否かはともかく,本件記事の内容に照らせば,そこに公益目的の存在は見いだし難いところであり,被告主張の事情はいずれも公益目的の存在を基礎付けるものではないから,真実性の立証の可能性いかんにかかわらず,違法性阻却事由の存在を認めることはできないというべきである。
  52. 2 以上によれば,本件記事により原告の権利が侵害されたことは明らかであり,また,前記前提事実(第2の2)(4)によれば,原告には本件記事の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
  53. 第4 結論
  54.  よって,原告の請求は,理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
  55. 東京地方裁判所民事第18部
  56. 裁判官 吉田徹
  57.  
  58. (別紙)発信者情報目録
  59. 別紙情報目録記載の投稿日時において,被告が管理する同目録記載のIPアドレスを使用して,同目録記載の投稿用URLに対し通信を行った者についての次の情報
  60. 1 氏名又は名称
  61. 2 住所
  62. 3 電子メールアドレス
  63. (別紙)情報目録
  64.  
  65.  
  66.  《全 文》
  67.  
  68. 【文献番号】25513407  
  69.  
  70. 発信者情報開示請求事件
  71. 東京地方裁判所平成25年(ワ)第1455号
  72. 平成25年6月19日民事第16部判決
  73. 口頭弁論終結日 平成25年5月15日
  74.  
  75.        判   決
  76.  
  77. 原告 A
  78. 同訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇
  79. 被告 ニフティ株式会社
  80. 同代表者代表取締役 B
  81. 同訴訟代理人弁護士 増原陽子
  82. 同 荒木泉子
  83.  
  84.  
  85.        主   文
  86.  
  87. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  88. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  89.  
  90.  
  91.        事実及び理由
  92.  
  93. 第1 請求
  94.  主文同旨
  95. 第2 事案の概要
  96. 1 本件は,原告が,インターネット上の電子掲示板に書き込みをされたことにより,人格権ないし名誉権を侵害されたとして,当該書き込みをした者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のために,同発信者の経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、当該発信者の氏名及び住所等の情報の開示を求める事案である。
  97. 2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実又は証拠により容易に認められる事実等)
  98. (1)原告は,現在独身の女性で,世田谷区役所に勤務する公務員であり,同区役所で「○○○○○○○○○@○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」のメールアドレス(以下「本件メールアドレス」という。)を使用している(甲7ないし9)。 
  99. (2)本件メールアドレスの表示を含む別紙情報目録記載の情報[1]及び[2](以下「本件情報[1]」等という。)が,本件発信者により,URL(http://<以下略>)で表示されるウェブサイトの電子掲示板に発信された(甲6)。
  100. (3)原告は,上記ウェブサイトを管理するGMOメディア株式会社に対し,本件発信者に係る発信者情報の仮の開示を求める仮処分を申し立て,同仮処分決定に基づき,本件発信者のIPアドレス等の開示を受けた(甲1,2)。
  101. (4)被告は,電気通信事業を営む株式会社で上記IPアドレスを保有する者であり,被告は法4条1項の「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」に該当する(甲3)。
  102. (5)原告は,被告に対し,本件発信者に係る発信者情報の開示を請求したが,被告は,同開示請求に応じなかった(甲5)。
  103. 3 争点
  104.  本件各情報により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか否か。
  105. (1)原告の主張
  106. ア 本件情報[1]は,原告が,勤務先区役所のメールアドレスを私的に使用する公私混同する人物で,不特定多数の男性に対して衆人環視のもとで誘いをかける性的道徳観念が一般人と異なる人物であると,一般の読者をして誤信させるものであり,また,本件情報[2]は,原告が違法な不倫行為を行っていると,一般の読者をして誤信させるものである。
  107. イ 本件各情報は,いずれも原告の社会的評価を著しく低下させるもので,同情報の流通により原告の人格権ないし名誉権が侵害されたことは明らかである。また,本件各情報は,本件発信者が原告になりすまして発信したもので真実でなく,内容も私生活上の交際関係に関するもので公益目的もないから,原告の権利侵害について違法性を阻却する事由はない。
  108. (2)被告の主張
  109. ア 原告の使用するメールアドレスを知る者は,限られたごく一部の者にとどまり,一般読者の普通の注意と読み方を基準とした場合,本件各情報に表示された本件メールアドレスをもって,原告の使用するメールアドレスと特定することはできず,世田谷区役所に属する者の使用するメールアドレスと判別することもできない。
  110. イ 本件各情報は,表示されている年齢や内容が矛盾しており,一般読者の普通の注意と読み方を基準とした場合,同情報発信がいたずらであって,表示されたメールアドレスも無効又は他人のものと考えるのが自然であり,インターネット上の匿名掲示板に真偽が定かでない投稿が往々にしてみられることは,一般読者の常識である。また,職場のメールアドレスの私的利用は通常は大目にみてもらえる程度の違反であり,独身の女性が恋人候補を募集することは非難されるものではなく,不倫も犯罪ではないから,本件各情報の流通により原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。
  111. 第3 当裁判所の判断
  112. 1 証拠(甲4,8)及び弁論の全趣旨によれば,本件メールアドレスを使用している世田谷区役所の職員は原告のみであり,同区役所内では原告の使用するメールアドレスが知られているものと認められ,同メールアドレスが表示された本件各情報は,原告に関する投稿であることが特定されているというべきである。
  113. 2 そして,証拠(甲1,2,6)によれば,本件情報[1]は,職場で出会いがないことからメールで恋人を募集するとして,本件メールアドレスを表示した上,写真つきの返信者の中から気に入った者に連絡するとの趣旨を内容とするもので,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば,原告が自ら本件各情報を発信したものと誤信させ,原告が勤務先のメールアドレスを私的に利用して同情報内に表示し,不特定多数に働きかけて恋人候補を募集するという,異性との交際の端緒として一般的でない方法を用い,これを不特定多数の第三者に知られることに躊躇を感じない人物であるとの印象を抱かせるものというべきである。
  114. 3 また,上記各証拠(甲1,2,6)によれば,本件情報[2]は,妻帯者である勤務先の男性と性関係を伴う交際していること及び交際の具体的内容を摘示し,本件メールアドレスを表示した上で,上記のいわゆる不倫関係についてアドバイスを求める趣旨を内容とするもので,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば,原告が上記不倫関係にあり,自ら同情報を発信したものと誤信させるものというべきである。
  115.  なお,上記各証拠によれば,本件情報[2]には,勤務先男性との不倫の内容及び発信者が45歳である旨の摘示があるのに対し,本件情報[1]には,職場に出会いがなく発信者は25歳である旨の摘示があるが,本件各情報は異なる日時に発信されたものであり(甲2),一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば,上記の相容れない箇所があることをもって,本件各情報が第三者によるいたずらと受け止められるものとは認め難い。
  116. 4 以上によれば,本件各情報は,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものというべきであり,また,本件各情報について違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存しないから,本件情報の流通により原告の権利が侵害されていることが明らかというべきである。
  117.  よって,本件請求は法4条1項の要件を満たしているものと認められるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
  118. 東京地方裁判所民事第16部
  119. 裁判官 茂木典子
  120.  
  121. 発信者情報目録
  122.  別紙情報目録記載の投稿日時において,被告が管理する別紙情報目録記載のIPアドレスを使用していた者についての次の情報
  123. 1 氏名又は名称
  124. 2 住所
  125. 3 電子メールアドレス
  126. 情報目録
  127.  
  128.  
  129.  
  130.  《全 文》
  131.  
  132. 【文献番号】25513548  
  133.  
  134. 発信者情報開示請求事件
  135. 東京地方裁判所平成25年(ワ)第1332号
  136. 平成25年6月24日民事第33部判決
  137. 口頭弁論終結日 平成25年5月27日
  138.  
  139.        判   決
  140.  
  141. 原告 有限会社山本道場
  142. 代表者代表取締役 V1
  143. 訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇
  144. 被告 中部テレコミュニケーション株式会社
  145. 代表者代表取締役 V2
  146. 訴訟代理人弁護士 星川勇二
  147. 同 星川信行
  148. 同 渡部英人
  149. 同 竹本英世
  150.  
  151.  
  152.        主   文
  153.  
  154. 1 被告は、原告に対し、別紙投稿記事目録記載の番号1ないし19、21ないし32及び34ないし51の各投稿記事の投稿に用いられた同目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時頃に使用して同目録記載のURLに接続した者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
  155. 2 原告のその余の請求を棄却する。
  156. 3 訴訟費用は原告と被告が各2分の1の負担とする。
  157.  
  158.  
  159.        事実及び理由
  160.  
  161. 第1 請求
  162.  被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  163. 第2 事案の概要
  164. 1 請求及び争点
  165.  原告は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、インターネット掲示板「2ちゃんねる」への投稿について、経由プロバイダである被告に対し、発信者情報の開示を求めた。
  166.  請求の根拠である法4条1項は、特定電気通信(インターネット)による情報の流通によって自己の権利が侵害されたとする者は、次の〔1〕、〔2〕のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者(インターネットサービスプロバイダ)に対し、当該プロバイダが保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所等)の開示を請求することができると定める。
  167. 〔1〕当該権利を侵害したとする情報(侵害情報)の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
  168. 〔2〕当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
  169.  本件の争点は、上記〔1〕の要件、すなわち「権利侵害の明白性」の有無である。
  170. 2 前提事実
  171.  以下の事実は、当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実である。
  172.  原告は、愛知県において、NPO法人全世界空手道連盟新極真会に所属する空手道場「愛知山本道場」を経営している(甲5、甲7)。原告の代表取締役であるV1(以下「V1」という。)は、愛知山本道場の唯一の師範として、V3(以下「V3」という。甲8)は、指導員の1人として、道場生の指導にあたっている。
  173.  インターネット掲示板「2ちゃんねる」の「q」という表題のスレッドに、別紙投稿記事目録記載の記事(甲1)が、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して発信された。以下、投稿記事を目録の番号により「投稿1」ないし「投稿51」という。
  174.  投稿1ないし19、21ないし32及び34ないし51の投稿者は、同一人であり、投稿20及び33の投稿者は、これとは別の同一人である(被告の証拠説明書、乙1、乙2の1・2)。
  175. 3 請求の原因(原告の主張)
  176.  原告が、投稿1ないし51の投稿記事(以下「本件投稿」という。)によって名誉権の侵害を受けていることは、以下のとおり明白であって、権利侵害の明白性の要件を満たす。原告は、上記名誉毀損による不法行為に基づき、発信者に対して、損害賠償を求めるため、被告に対し、発信者の氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの開示を求めるものであるから、正当理由の要件も充足している。
  177.  本件投稿は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、別紙記事別主張一覧のとおり、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
  178.  V1やV3は、暴力団員ではなく、原告においても一切暴力団関係がない。V1は、道場における選手クラスの指導を行っており、躁欝病に罹患しているということもない。原告は、倒産していない。したがって、本件投稿に摘示された事実は、いずれも真実ではない。さらに、本件投稿で描写の対象となっているのは、私人の精神状況や一空手道場での指導の在り方であって、公益目的は観念し得ず、また、公共の利害に関するものでもない。よって、本件投稿については、違法性阻却事由の要件を満たすものではない。
  179. 4 被告の主張(争点)
  180. (1)骨子
  181.  以下に主張するとおり、本件投稿は、原告の名誉権を侵害することが明らかであるとは言えず、「当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(法4条1項1号)に該当しない。
  182.  仮に本件投稿が原告の名誉権を侵害するものであるとしても、本件投稿は、原告が暴力団と関係があること等を指摘することにより、原告の反社会性を公衆の批判に晒し、指導者としての原告の資質について世に訴えるものであるから、公共の利益にかなうものであるし、投稿者は、これを認識して投稿しているのであるから、公益を図る目的でされたものである。また、本件投稿が原告と暴力団との関係性等原告の内部事情を晒すものであることからして、本件投稿は、原告の内部事情をよく知る者によってされたと思われるため、事実は真実であるか、事実が真実ではない場合でも、投稿者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があると思われるから、故意又は過失がなく、不法行為の成立が否定されるものである。
  183. (2)投稿1ないし7、12及び14について
  184.  本件投稿がされたインターネット掲示板「2ちゃんねる」は、誰しもが匿名で自由に投稿をなし得るとの性質上、投稿内容に虚偽が含まれることが多々あり、本件掲示板においてされた投稿内容の信用性は、社会一般的に、そう高くはないと認識されているものである。かかる本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、上記各投稿が、およそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「そううつ病」、「精神病」、「精神安定剤や、抗うつ剤などの薬の副作用でしょうか」、「V1師範の「そう状態」や「うつ状態」は、誰の目にも明らかだったし」、「この人、完全に頭おかしいな!」などと指摘したものにすぎないことからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「V1が精神的に不安定な人間であり、かかる精神的に不安定な人物によって、原告が経営されている」などといった印象を抱くことはないのであり、たかだか同投稿の指摘がされたことのみによって、原告の社会的評価が低下することなどあり得ない。同投稿によって、一般の閲覧者が抱く印象は、精々が、同投稿の投稿者が原告に対して批判的な立場にあるといった程度のものであろう。したがって、同投稿は、原告の社会的評価を低下させるものではないから、原告の名誉権を侵害することが明らかとは言えない。
  185. (3)投稿6、9、12、23、26、28ないし36、38ないし43、45、46及び48ないし51について
  186.  本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、上記各投稿は、およそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「職員の、V4さんって、「指定暴力団 山口組」の幹部みたいですね」、「V1は、極道とも、深い付き合いがあって、裏の社会でも、かなりの顔が効くらしい」、「極道育成」、「「愛知山本道場」は、V5のコネで、「指定暴力団 山口組・傘下」に収まり」、「ヤクザ」などと抽象的に指摘したにすぎないものであり、さらには、同投稿は、「みたいですね」(投稿6)、「らしい」(投稿9)、「みたいだね」(投稿23)、「考えられないだろうか」(投稿30及び31)などと不確定な事実として指摘したにすぎないものであることなどを併せ考えるならば、一般の閲覧者が、上記各投稿から直ちに、「原告が暴力団と関係がある」などといった印象を抱くことはない。
  187. (4)投稿8、10、11、13、16及び17について
  188.  投稿13は、「V1師範も、レイプ事件や強盗事件を起こして、支部長辞めさせられて逮捕さらた「V6」みたいになるのが、オチかもね…」との指摘から明らかなとおり、一般の閲覧者においては、逮捕されるようなことをしたのは「V6」なる人物であることが容易に読み取れるのであって、「V1が「逮捕」されるようなことをしている」などと読み取れるものではないから、同投稿は、原告の社会的評価を低下させるものではない。
  189.  投稿16は、「指導員は、タダ同然でこき使い」などと指摘するものであるが、一般に、「タダ同然」とは、賃金が法律の定める基準を下回るものではないものの、賃金が安いことを皮肉を込めて表現する時に用いられることが間々あるものであるから、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告が違法な労働環境にある、原告が違法な経営をしている」などと読み取れるものではない。
  190.  投稿17は、「山本道場なんて…「マルチ商法」と大差無いだろう?」などと指摘するところ、一般に、「マルチ商法」とは、特定商取引に関する法律の定める「連鎖販売取引」を指すものであり、かかる「連鎖販売取引」は、書面の交付義務等同法の定める規制(同法37条等)を遵守しさえすれば、何ら違法性のない取引形態であるから、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告が違法な経営をしている」などと読み取れるものではない。
  191.  仮に、前記投稿が、原告の主張するとおり読み取れるものであったとしても、本件掲示板上においてされた投稿の信用性の問題に加え、上記各投稿がおよそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「V1は、…脱税したり、職員の給料ごまかして、横領しているって話だぞ」、「V1のやってる事は、ほとんど「違法」だと思う」、「V1は、自分のやってる事がばれても、自分だけは捕まらないように」などと指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「犯罪者によって原告が経営されている、道場生への指導がされている」、「原告が違法な経営をしている」などといった印象を抱くことはない。
  192. (5)投稿15について
  193.  本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、投稿15がおよそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「指導一切やらず」、「遊びまくってたら誰だって怒るぞ」などと指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「経営のことを一切考えない人間に原告が経営されている」などといった印象を抱くことはない。
  194. (6)投稿18ないし20、22及び24について
  195.  本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、上記各投稿は、およそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「「倒産」したくさいな」、「何で…「有限会社 山本道場」が倒産してしまったのか説明してみろよ!」、「計画倒産じゃないの?」、「会社が潰れると、ここまで無残?」、「山本道場が潰れてないなら、根拠を示してみろよ」などと抽象的に指摘したにすぎないものであり、さらには、同投稿は、「「倒産」したくさいな」(投稿18)などと不確定な事実として指摘したにすぎないものであることなどを併せ考えるならば、一般の閲覧者が、上記各投稿から直ちに、「原告が経営破綻におちいっている」などといった印象を抱くことはない。
  196. (7)投稿21、25及び47について
  197.  原告は、「ハイパーリンクを設定表示することにより、原告が経営破綻に陥っている、暴力団と関係がある、精神的に不安定な者によって経営されていると誤信させ」などと主張し、あたかも上記各投稿が、同投稿が指摘するリンク先(http://<以下略>)に記載されている記述内容(「V1師範は、精神病(そううつ病)をわずらってから、大分まいっていたみたいだけど」などといった記述内容)まで指摘するものであるかの如き主張をしている。しかし、リンク先は、本件掲示板とは全く別のサイトであって、同投稿とリンク先の記述内容は、全く別の場所に存在しているものであり、同投稿を閲覧しただけでは、リンク先の記述内容など閲覧し得ないものであるし、加えて、同投稿を閲覧した者がリンク先の記述内容まで閲覧するとは限らないのであるから、同投稿が指摘する内容は、あくまで「http://<以下略>」にすぎないと言うべきである。
  198.  仮に同投稿が、指摘するリンク先の記述内容まで指摘するものであると言うことができたとしても、本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に鑑みるならば、何らの客観的根拠を指摘することなく、単に、「V1師範は、精神病(そううつ病)をわずらってから、大分まいっていたみたいだけど」などといった抽象的な指摘がされたことのみによって、直ちに、一般の閲覧者が、原告が「経営破綻に陥っている、暴力団と関係がある、精神的に不安定な者によって経営されている」などといった印象を抱くことはない。
  199. (8)投稿27について
  200.  投稿27は、「極道チックに仕事をする事で有名」などと指摘するところ、原告に多数在籍する指導員の中の一人に、「極道チックに仕事をする」者が存在することから直ちに、原告の労働環境が「極道チック」になるわけでは必ずしもないことからすれば(ある指導員の指導状況と職場の労働環境とは、さほど関係するものではないと思われる。)、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告における労働環境が劣悪なものにある」などと読み取れるものではない。
  201.  仮に同投稿が、原告が主張するとおり読み取れるものであったとしても、本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、同投稿がおよそ客観的な事実を何ら指摘することなく、単に、「極道チックに仕事をする事で有名」などと指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「暴力団組員のように仕事をする人物がいて原告における労働環境が劣悪なものにある」などといった印象を抱くことはない。
  202. (9)投稿37について
  203.  本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、同投稿がおよそ客観的な根拠を何ら指摘することなく、ただ一言、「指導員として不適切な人を使った」などと抽象的に指摘したにすぎないものであることからすれば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「原告において問題のある人物が指導員になっている」などといった印象を抱くことはない。
  204. (10)投稿44について
  205.  投稿44は、「山本道場も、オカルト宗教の仲間入りをしてるのかな??」などと指摘するところ、「オカルト」とは、超自然の現象を意味する表現であり、「反社会的」との意味合いを有するものではないから、一般の閲覧者において、かかる指摘から直ちに、「原告が空手団体として反社会的な集団である」などと読み取れるものではない。仮に同投稿が、原告が主張するとおり読み取れるものであったとしても、本件掲示板上においてされた投稿内容の信用性の問題に加え、同投稿は、客観的な根拠を何ら指摘することなく、単に、「山本道場も、オカルト宗教の仲間入りをしてるのかな??」などと不確定な事実として指摘したにすぎないものであることなどを併せ考えるならば、一般の閲覧者が、同投稿から直ちに、「原告が空手団体として反社会的な集団である」などといった印象を抱くことはない。
  206. 第3 裁判所の判断
  207. 1 投稿1ないし19、21ないし32及び34ないし51について(主文1項)
  208. (1)投稿1~7、12及び14について
  209. 〔1〕原告の主張
  210.  原告は、投稿1、3ないし5は、V1が「躁欝病」であると記載することで、投稿2、6は、V1が「精神病」であると記載することで、投稿7は、V1が「精神安定剤」や「抗うつ剤」を飲んでいると記載することで、投稿12は、V1が「そう状態」や「うつ状態」にあると記載することで、投稿14は、V1が「頭おかしい」と記載することで、V1が精神的に不安定な人間である、かかる精神的に不安定な人物によって原告が経営されている、道場生への指導がされていると読者に誤信させ、原告の社会的評価を低下させるものであると主張する。
  211. 〔2〕投稿内容
  212. 投稿1「V1師範も、指導してないって事は、持病の精神病(そううつ病)が余り、良くないんだな」
  213. 投稿2「V1師範の、精神病を、影で治療していたV7さんも、詐欺で逃げ回ってるって話しだもんな」
  214. 投稿3「V1師範が精神病、病んでる事も、V8さんが詐欺で逃げ回ってるのも、全部本当の事だよ。単なる噂では無く、きちんとした所からの情報だから間違いない。V1師範が、そううつ病なのは、昔から有名な話だよ。」
  215. 投稿4「V8さん、いなくなってから、V1師範、そううつ病を抑える薬、きちんと飲んでるのかな?」
  216. 投稿5「V1師範が、薬辞めて、また前みたいに、そううつ病を繰り返し、「そう状態」で、道場出しまくったり、「うつ状態」で、家に引きこもったりされると回りが迷惑するから、きちんと「精神科」に通って下さい。「そう状態」で浪費を繰り返し、全財産を失ったり、「性的逸脱行為」を繰り返し、女性に手を出しまくったりされると迷惑です。過去に、何度も同じ過ちを繰り返してきたでしょう?その結果、師範はどうなりましたか?」
  217. 投稿6「V1師範は、「精神病」だ」
  218. 投稿7「V1師範、あの「剛毛でチリ毛」が、かなり薄くなって来ましたね…。やはり、精神安定剤や、抗うつ剤などの薬の副作用でしょうか…」
  219. 投稿12「V1師範の「そう状態」や「うつ状態」は、誰の目にも明らかだった」
  220. 投稿14「以前、師範に、夜中にファミレスに呼び出され、「愛知県を制覇してやる!」みたいな、妄想がかった事を、延々聞かされ、意味不明な事ばかりで、「この人、完全に頭おかしいな!」と思い、非常に迷惑した」
  221. 〔3〕判断
  222.  上記投稿がインターネット掲示板「2ちゃんねる」の「q」との表題のスレッドに同一の投稿者によって投稿された一連のものであること、及び、上記投稿の内容からすれば、投稿先が「2ちゃんねる」という投稿内容の信用性がそう高くはないと社会一般的に認識されているインターネット掲示板であることを考慮しても、上記投稿は、一般の閲覧者にとって、原告が経営する空手道場である愛知山本道場が、躁欝病という精神病に罹患したV1を師範として運営されている空手道場であることを摘示し、原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。
  223.  そして、上記投稿内容が、「V1師範、そううつ病を抑える薬、きちんと飲んでるのかな?」(投稿4)とか、「「剛毛でチリ毛」が、かなり薄くなって来ましたね」(投稿7)など、憶測を交え、身体の特徴を揶揄する表現まで用いていることから、上記各投稿は、その目的が専ら公益を図る目的であるといえないことが明らかである。
  224.  よって、上記各投稿については、これによって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであり、当該侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき(法4条1項1号)にあたる。
  225. (2)同一投稿者の他の投稿について
  226.  投稿8ないし11、13、15ないし19、21ないし32及び34ないし51も、前記(1)の投稿と同一の投稿者により、同一のインターネット掲示板のスレッドにされた一連の投稿である。そして、その内容(記載されたリンク先の記事も含む。甲6)によれば、原告の師範のV1が、脱税や横領などの違法な行為をしていると摘示し(投稿8、10、11)、V1が極道とも深い付き合いがあることを摘示し(投稿9)、原告が倒産したことを摘示し(投稿18、19)、指導員の一人であるV3が暴力団山口組の組員であると摘示するなど(投稿26ないし32)、全体として原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
  227.  この投稿者は,被告に対し,発信者情報開示に同意しない理由として,「V1が昔自分の給料から300万以上だましとっていって数々の脱税を手伝わせた為」などと回答したことが認められ,この事実からすれば,脱税の事実を摘示する投稿(投稿8)及びそれに関連する投稿(投稿10,11)については,公益を図る目的ももって書き込まれたことが窺えないではない。
  228.  しかし,根拠のない憶測や揶揄を交えた(1)の投稿と同一投稿者による一連の投稿であること、上記投稿の中でも「V1師範も、レイプ事件や強盗事件を起こして、支部長辞めさせられて逮捕さらた「V6」みたいになるのが,オチかもね」(投稿13)など根拠のない予測に基づく揶揄を加えていることからすれば、上記回答内容をふまえても,上記各投稿は、その目的が専ら公益を図る目的であるといえないことが明らかである。
  229.  よって、上記各投稿も、これによって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであり、当該侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき(法4条1項1号)にあたる。 
  230. (3)まとめ
  231.  上記各投稿については、その投稿記事(侵害情報)の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであり、名誉毀損の不法行為による損害賠償請求権の行使のために必要であるから、原告には、発信者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
  232.  よって、被告は、法4条1項に基づき、原告に対し、上記各投稿の発信者に係る前記の発信者情報を開示すべき義務がある(主文1項)。
  233. 2 投稿20、33について(主文2項)
  234. (1)投稿20について
  235.  投稿20は、「税金がヤバイので計画倒産じゃないの?」というものであり、それに先立つ投稿18に、「「有限会社山本道場」も職員(従業員)が全部辞めちゃって、師範も「社長」もへったくれも無くって、「倒産」したくさいな。会社にしてると、法人税なんかが、かなりかかるから、会社潰したんだな」との投稿内容があることを受けて投稿されたものである。
  236.  原告は、投稿20は、原告が倒産したと記載することで、原告が経営破綻に陥っていると読者に誤信させ、原告の社会的評価を低下させると主張する。
  237.  しかし、一般の閲覧者がこの投稿を読めば、投稿20の投稿者は、先にされた投稿18における原告が倒産したとの事実摘示を前提として、投稿者自身は、原告が倒産したか否かもよく知らないのに、倒産の目的について、税金支払回避のための計画倒産ではないか、という根拠のない憶測を付け加えたにすぎない内容であることが、疑問符も付けられたその投稿内容自体から明らかに読みとることができる。
  238.  すなわち、投稿20は、原告が倒産したという事実は、既にされた投稿に基づき仮定した上で、そうであるとすれば倒産の実態が計画倒産ではないかという憶測ないし意見を付け加えたにすぎない。その投稿内容や、「2ちゃんねる」という信用性の乏しい掲示板への一投稿にすぎないという社会的評価を前提とすれば、投稿20の内容は、それ自体によって一般の閲覧者が、「原告が倒産した」との事実を摘示していると読みとることができるものとはいえない。
  239.  したがって、投稿20は、原告が倒産したという事実を摘示するものではないし、閲覧者に対し、原告が経営破綻に陥っているとの印象を与えるものでもない。投稿20は、原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。
  240. (2)投稿33について
  241.  投稿33は、「V1の友達が『V9ちゃん(V10?)めっちゃ面白い~良い人やん』って言っていたよ。カジュアルな極道?」というものであり、先立つ投稿に、「山本道場の指導員で、今も師範の右腕として働いている「V11」に和彫りの刺青が入っているのは、まぎれも事実 自分の目でしっかりと確認した。全身、刺青だらけで、元か現役か知らないけど、極道なのは誰の目にも明らか」(投稿26)、「指定暴力団山口組・幹部「V3」1、極道だから、おそらく、全身に和彫りの刺青が入っていると思われる」(投稿28)などの投稿がされたことを受けて投稿されたものである。
  242.  原告は、投稿33は、指導員の一人であるV3が「極道」すなわち現役の暴力団員であると記載することで、原告が暴力団と関係があると読者に誤信させ、原告の社会的評価を低下させると主張する。
  243.  しかし、投稿33は、事実摘示としては単に、「V1(V1師範)の友達が、『V9ちゃん(投稿者は、これを道場の指導員の一人であるV3であると推測している。)は、とても面白い良い人だ』と言っていた」という事実を摘示しているにすぎず、その後の「カジュアルな極道?」との記述は、疑問符を付けていることからも、先にされた投稿におけるV3が極道であるとの事実摘示を前提として、投稿者自身は、V3が極道であるか否かもよく知らないのに、先の投稿に摘示されたようにV3が本当に極道であればと仮定し、投稿者がV3について聞いていたことと合わせると、V3は、「カジュアルな極道」と評価できるのではないかという推測的な意見を付け加えたにすぎない内容であることが、その投稿内容自体から明らかに読みとることができる。
  244.  投稿33は、上記の投稿内容や、「2ちゃんねる」という信用性の乏しい掲示板への一投稿にすぎないという社会的評価を前提とすれば、それ自体によって一般の閲覧者が、「V3が極道である」との事実を摘示していると読みとることができるものとはいえない。投稿33は、V3が「極道」すなわち現役の暴力団組員であるという事実を摘示するものではないし、一般の閲覧者に対し、原告が暴力団と関係があるとの印象を与えるものでもないから、原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。
  245. (3)まとめ
  246.  以上によれば、投稿20及び投稿33については、これによって原告が名誉権の侵害を受けていることが明らかであるとはいえないから、その情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
  247.  法4条1項1号の要件が満たされないから、原告の請求のうち、これらの投稿についての発信者情報の開示を求める部分は,理由がない(主文2項)。 
  248. 東京地方裁判所民事第33部
  249. 裁判長裁判官 小林久起 裁判官 外山勝浩 裁判官 藤田直規
  250.  
  251. (別紙)発信者情報目録
  252. 別紙投稿記事目録記載の各投稿記事の投稿に用いられた同目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時ころに使用して同目録記載のURLに接続した者に関する情報であって,次に掲げるもの
  253. 1 氏名又は名称
  254. 2 住所
  255. 3 電子メールアドレス
  256. (別紙)投稿記事目録
  257. (別紙)記事別主張一覧
  258.  
  259.  
  260.  
  261.  《全 文》
  262.  
  263. 【文献番号】25516072  
  264.  
  265. 発信者情報開示請求事件
  266. 東京地方裁判所平成25年(ワ)第8544号
  267. 平成25年11月25日民事第13部判決
  268. 口頭弁論終結日 平成25年10月21日
  269.  
  270.        判   決
  271.  
  272. 原告 A1
  273. 同訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇
  274. 被告 株式会社ドリーム・トレイン・インターネット
  275. 同代表者代表取締役 A2
  276. 同訴訟代理人弁護士 矢吹公敏
  277. 同 西出恭子
  278.  
  279.  
  280.        主   文
  281.  
  282. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
  283. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  284.  
  285.  
  286.        事実及び理由
  287.  
  288. 第1 請求
  289.  主文同旨
  290. 第2 事案の概要
  291.  本件は,原告が,インターネット上の電子掲示板にされた匿名の記事の投稿によって名誉を侵害されたとして,当該投稿をした者(以下「本件投稿者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のために,本件投稿者にインターネット接続サービスを提供した被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件投稿者の氏名,住所等の情報の開示を求めた事案である。
  292. 1 前提となる事実(項末に証拠を掲記した事実以外の事実は当事者間に争いがない。)
  293. (1)原告は,A3との名称を用いてアニメーション作品やゲーム等の登場人物等の扮装(コスプレ)を趣味としている者である。
  294. (甲6から8まで)
  295. (2)被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
  296. (3)氏名不詳の本件投稿者は,平成24年9月15日午後零時46分21秒頃,トゥギャッター株式会社が管理するインターネット上のウェブサイト(http://<以下略>)に,別紙情報目録記載の記事(以下「本件記事」という。)を投稿した。
  297.  なお,トゥギャッター株式会社は,上記ウェブサイトにおいて,投稿者が,ツイッター(Twitter)上の投稿を取捨選択し,一定の意味のある投稿記事群として再投稿することができるサービスを提供しており(以下,このサービスを利用して投稿者が作成した投稿記事群を「まとめ」という。),本件記事は,本件投稿者が作成したまとめ(以下「本件まとめ」という。)のタイトルである。
  298. (甲1から3まで)
  299. (4)原告は,平成24年12月14日,トゥギャッター株式会社から,本件まとめが作成された際の投稿者のIPアドレス及びタイムスタンプの開示を受けた。
  300. (甲2)
  301. (5)被告は,上記(4)のIPアドレスを割り当てた経由プロバイダであり,法4条1項の開示関係役務提供者に当たる。
  302. (6)被告は,別紙情報目録記載のIPアドレス及びタイムスタンプによって特定される投稿者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスを保有している。
  303. 2 争点及びこれに関する各当事者の主張
  304. (1)争点
  305.  本件記事によって原告の権利が侵害されたことが明らかといえるか
  306. (2)各当事者の主張
  307. 〔原告の主張〕
  308. ア 本件記事が摘示する事実は,原告が,コミックマーケット(自主製作の写真集や漫画等を販売するイベントを指す。)のスタッフを,同人が所属する会社に対して圧力をかけて強制的に退職させたというものである。
  309.  すなわち,「退職に追い込む」という言葉は,能動的な働きかけを意味するものであるから,本件記事を一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば,「原告が,スタッフの勤務する会社に対して,同人を解雇させ,又は違法な退職勧奨によって自主退社させるように働きかけた。」という事実が摘示されているということができる。
  310.  本件記事は,原告が,権限なく他人の雇用関係に干渉して解雇等を求めるような,一般社会の行動規範に従わない人物であるという印象を与えるものであり,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  311. イ 原告は,本件記事が投稿された時点で既に名誉を侵害された。インターネット上では,原告が本件記事の摘示する事実を現実に行ったものとして,原告を誹謗する記事が拡散している。本件記事が投稿の2日後に変更されたとしても,原告の名誉が侵害された事実に影響を与えるものではない。
  312. ウ 本件記事の摘示する事実は,真実ではない上,多数一般の利害に関するものではない。また,本件記事が,公益を図る目的で投稿されたものでないことは明らかである。
  313. 〔被告の主張〕
  314. ア 本件記事は,原告が,コミックマーケットのスタッフが所属する会社に対して,「同人を退職させるように働きかけた」とも,「同人を解雇するように働きかけた」とも,「違法な退職勧奨により同人を自主退職させるように働きかけた」とも記載していない。
  315.  本件記事は,原告が,だれに対し,どのような行動をとり,その結果どうなったかなど,「退職に追い込む」ことの具体的な内容ないし態様が明らかではない。
  316.  本件記事は,原告の社会的評価を低下させるような具体的事実を摘示したものとはいえない。
  317. イ 本件記事は,遅くとも本件記事が投稿された日の2日後である平成24年9月17日午後1時23分には変更され,さらに,原告の要請を受けて翌18日午前零時41分頃には,「α」との記載が追加された。
  318.  本件記事は,原告の求めに応じて迅速に変更されているのであって,これによって原告の社会的評価の低下は阻止されている。
  319. ウ 原告は,コスプレによって様々なメディアで取上げられているとのことであるが,そのような公の場で活動する人物に対しては,しばしば批判的又は否定的なコメントが投稿されることがある。一般の読者は,必ずしもそのようなコメントを真実として理解するものではない。しかも,本件記事は,上記のとおり,その意味内容が一義的に明らかではない。このような記事によって名誉が侵害されるというのであれば,一般人の表現の自由に萎縮的効果が生じるおそれがある。
  320. 第3 当裁判所の判断
  321. 1 証拠(甲1,甲8,甲9の1から3まで)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事の背景等として,次の事実が認められる。
  322. (1)原告は,コミックマーケットに作品を出品したところ,そのスタッフから,当該作品が自主製作のものではなく,出版社の商業作品ではないかとの指摘を受け,また,平成24年9月11日,ツイッター上でA4を名乗る者(以下「A4」という。)から同様の指摘を受けた。
  323.  原告は,ツイッター上で,A4に対し,原告が商業作品を出品した事実はない旨の反論をし,更に,匿名で他人を非難することは問題であるとして,A4のフェイスブック(face book)上でのアカウントや本名及び勤務先会社を公表した。
  324. (2)A4は,平成24年9月14日,ツイッターに「【謹告】会社から呼び出しなう」,「退社しました」,「もうひとつお知らせがあります。カテナ株式会社に対しては既に退職届を出し受理されております。」等の投稿をした。
  325. (3)原告とA4との間の上記(1)及び(2)のやり取りに係る記事は,ツイッター等のインターネット上で公開され,これを目にした読者が,更に別のインターネット上の電子掲示板に掲載することもあった。
  326. (4)本件投稿者は,平成24年9月15日,上記(1)及び(2)の原告及びA4のツイッター上の投稿について,本件まとめを作成・投稿し,そのタイトルとして本件記事を投稿した。
  327. 2 本件記事によって,原告の権利(名誉)が侵害されたことが明らかであるといえるかについて検討する。
  328. (1)原告は,A3の名称を使用してコスプレを行っている者であるから(前記第2の1(1)),本件記事が原告を対象としていることは明らかである。
  329. (2)本件記事は,本件投稿者がツイッター上の投稿記事を取捨選択して作成したまとめのタイトルであるから,本件記事を読む一般の読者は,上記1(1)及び(2)の事実に係る記事を把握しているものということができる。
  330.  本件記事は,上記の各事実を踏まえて一般の読者の注意と読み方を基準とすれば,原告が,自らを批判するコミックマーケットのスタッフ(A4)について,同人の勤務する会社に対して何らかの働きかけをして,退職を余儀なくさせたという事実を摘示したものと認められる。また,このような事実は,原告について,他人からの批判を許さず,批判者については勤務先会社との雇用関係にも干渉する傾向を有する者であるかのような印象を与えるものであるから,本件記事は,原告の社会的評価を低下させると認めることができる。
  331.  被告は,本件記事の記載について,原告が,だれをどのようにして「退職に追い込んだ」のか,摘示する事実の内容が一義的に明らかではない旨主張する。しかしながら,上記のとおり,本件記事の前提となるツイッター上の記事を踏まえて読めば,本件記事の内容は,原告の社会的評価を低下させる事実が摘示されていることが明らかである。
  332. (3)被告は,本件記事が掲載の日から2日後には変更され,更にその翌日には「α」とのタイトルが追加されたことによって,原告の社会的評価の低下は阻止された旨主張する。
  333.  しかしながら,インターネットの発達した現代社会においては,ウェブサイト内に投稿された記事は,直ちに多数人によってその内容を認識され,また,他所において引用・複製され得るものであって(甲9の1から3まで参照)、本件記事が2日余りで変更されたことにより,当該投稿の違法性の程度や賠償すべき損害額等に一定の影響がある可能性は否定できないとしても,原告の社会的評価の低下が完全に阻止され,又は回復されるものとはいえず,被告の上記主張は採用できない。
  334.  また,被告は,原告が公の場で活動する人物であり,そのような人物に対する批判的なコメントについて,一般の読者は必ずしも真実であるとは理解しない旨主張するが,公の場で活動する人物(原告がこれに当たるか否かはひとまず措く。)に対する真実でない記事ないしコメントが,当該人物の名誉を侵害しないということはできない。被告の上記主張は採用しない。 
  335. (4)以上のとおり,本件記事は,原告の名誉を侵害するものと認められるところ,本件記事の摘示する事実が真実であることをうかがわせる事情や証拠はない。また,本件記事の内容に公益性があるとはいえず,本件投稿者の目的が専ら公益を図るものであるということもできない。
  336.  したがって,原告が本件記事によって権利を侵害されたことは明らかであるということができる。
  337.  また,原告が,本件投稿者に対して損害賠償等を請求するためには,その氏名,住所及び電子メールアドレスの開示が必要である。
  338.  なお,別紙情報目録記載のIPアドレスは,本件まとめが最初に作成された時に付与されていたものであるところ(甲2),被告は,これが本件記事の投稿時に付与されていたものと同一であるとは限らない旨主張するが,本件まとめ上に記載されているタイトルの変遷(甲1参照)に照らせば,本件記事の作成以前に,これとは異なるタイトルが本件まとめに付されていたとは解されないし,その他,本件まとめの作成時期と本件記事の投稿時期が異なるものであったことをうかがわせるような格別の事情も見当たらないことに照らせば,被告の上記主張は,理由があるとは認められない。
  339. 3 結論
  340.  以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容し,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
  341. 東京地方裁判所民事第13部
  342. 裁判長裁判官 花村良一 裁判官 栗田正紀 裁判官 高田卓
  343.  
  344. (別紙)発信者情報目録
  345.  別紙情報目録記載の投稿日時において,被告が管理する別紙情報目録記載のIPアドレスを使用していた者についての次の情報
  346. 1 氏名又は名称
  347. 2 住所
  348. 3 電子メールアドレス
  349. (別紙)情報目録
  350.  
  351.  
  352.  
  353.  《全 文》
  354.  
  355. 【文献番号】25503415  
  356.  
  357. 割増賃金等請求控訴、同附帯控訴事件
  358. 東京高等裁判所平成25年(ネ)第5962号,平成25年(ネ)第7081号
  359. 平成26年2月27日第24民事部判決
  360.  
  361.        判   決
  362.  
  363. 控訴人・附帯被控訴人 株式会社レガシィ
  364. 同代表者代表取締役 乙山次郎
  365. 控訴人・附帯被控訴人 税理士法人レガシィ
  366. 同代表者代表社員 乙山次郎
  367. 上記両名訴訟代理人弁護士 八代徹也
  368. 同 木野綾子
  369. 被控訴人・附帯控訴人 甲野太郎
  370. 同訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇
  371. 同 今村邦雄
  372. 同 阿部通子
  373.  
  374.  
  375.        主   文
  376.  
  377. 1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
  378. (1)控訴人(附帯被控訴人)らは,被控訴人(附帯控訴人)に対し,連帯して201万4333円及びこれに対する平成22年10月6日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
  379. (2)被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
  380. 2 その余の本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
  381. 3 訴訟費用は,第1審及び第2審を通じこれを5分し,その3を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
  382. 4 この判決は,1項(1)について,仮に執行することができる。
  383.  
  384.  
  385.        事実及び理由
  386.  
  387. 第1 当事者の求める裁判
  388. (控訴人(附帯被控訴人,以下「控訴人」と表示する。)らの控訴の趣旨)
  389. 1 原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。
  390. 2 前項の部分についての被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。
  391. (被控訴人(附帯控訴人,以下「被控訴人」と表示する。)の附帯控訴の趣旨)
  392.  原判決主文2項を次のとおり変更する。
  393.  控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して201万4333円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
  394. 第2 事案の概要
  395. 1 本件は,控訴人ら双方に雇用されていた被控訴人が,控訴人らに対し,時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして,〔1〕割増賃金201万4333円及びこれに対する退職日翌日の後の日である平成22年10月6日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)6条1項,同法施行令1条所定の年14.6%の割合による遅延損害金,〔2〕前同額の付加金及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金を,それぞれ連帯して支払うことを求める事案である。控訴人らは,被控訴人には専門業務型裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。
  396.  原審は,被控訴人には専門業務型裁量労働制が適用されないなどとして,被控訴人の請求のうち〔1〕の請求を認容し,〔2〕については付加金20万円及びこれに対する判決確定の日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容した(なお,〔2〕の請求についての遅延損害金の起算日は,履行期である判決確定の日ではなく,その翌日が正当であるから,原判決にはこの点について誤りがある。)。これに対し,それぞれの敗訴部分を不服として,控訴人らが控訴し,被控訴人が附帯控訴した。
  397. 2 本件における前提事実(争いがないか,証拠〈略〉及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)は,原判決「事実及び理由」欄第2の1に記載されたとおりであるから,これを引用する(ただし,「被告」を「控訴人」に,「原告」を「被控訴人」に,それぞれ適宜読み替える。)。なお,以下における略称は,原判決の例による。 
  398. 3 本件における争点及びこれに関する主張は,以下のとおり当審における当事者の補充主張に関して補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄第2の2ないし4に記載されたとおりであるからこれを引用する。
  399. (1)原判決9頁26行目の「何ら対応しなかった。」の次に「そればかりか,控訴人らは,被控訴人の請求に対する書面において,被控訴人が控訴人らのノウハウ及び顧客に関連する資料を持ち出している可能性があることが判明したとしてその返還を求めたが,この主張は,調査を行うこともなく,被控訴人が割増賃金の支払請求をしたことのみを根拠にしたものであり,被控訴人にその請求を躊躇させる目的でした威嚇である。このように」を加える。
  400. (2)原判決12頁3行目の末尾の次に「また,このことは,単に深夜労働に従事する場合の手続に違反したというにとどまらず,被控訴人主張の労働が使用者である控訴人らの指揮命令に基づいておらず,債務の本旨に従った労務の提供となっていないものであるから,これに対応する賃金請求権が被控訴人に発生しないというべきである。」を加える。
  401. 第3 当裁判所の判断
  402. 1 当裁判所は,被控訴人の請求のうち第2の1〔1〕について,割増賃金の全額である201万4333円及びこれに対する退職日の後に到来する支払期日の翌日である平成22年10月6日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,賃確法6条1項,同法施行令1条所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求める部分及び第2の1〔2〕の付加金の支払請求については,いずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄第3の1から9までに記載されたとおりであるから,これを引用する。
  403. 2 原判決「事実及び理由」欄第3の2(16頁8行目から19頁3行目まで)を次のとおり改める。
  404. 「2 争点1(被控訴人の時間外労働について割増賃金の規定が適用されるか)について
  405. (1)労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制は,業務の性質上,業務遂行の手段や方法,時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務(以下「対象業務」という。)を対象とし,その業務の中から,対象となる業務を労使協定によって定め,労働者を実際にその業務に就かせた場合,労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度である。専門業務型裁量労働制は昭和62年法律第99号による労働基準法の改正において創設された制度であるところ,創設当時における対象業務についての法律の規定としては,「当該業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため,当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないものとして当該協定で定める業務」との包括的定義規定である平成5年法律第79号による改正前の労働基準法38条の2第4項のみが置かれ,対象業務を明確化するための通達において,研究開発技術者,情報処理技術者,プロデューサー,ディレクター,デザイナーなど五つの専門的業務が例示列挙されていたが,上記改正法による労働基準法の平成5年改正によって以上の仕組みが改められ,対象業務を省令によって限定列挙する仕組み,すなわち,上記5業務を省令で定めたほか,「中央労働基準審議会の議を経て労働大臣の指定する業務」を追加し(労働基準法施行規則24条の2第6項),これらの中から労使協定で対象業務を定めることとされた。このように,対象業務の規定方法が例示列挙方式から限定列挙方式に変更された趣旨は,裁量労働制が労働者が実際に労働した時間を問題としないで,労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなし,割増賃金の支払を不必要とするというものであり,賃金面で労働者の不利益となる可能性がある制度であるため,その対象業務をできる限り明確化すべきことにあったと解される。現行の専門業務型裁量労働制は,以上の基本的仕組みを引き継いでいて,労働基準法施行規則24条の2の2,平成9年2月14日厚生労働省告示第7号において,「税理士の業務」を専門業務型裁量労働制の対象と定めている。そして,「税理士の業務」が専門業務型裁量労働制の対象とされた趣旨は,税理士が法律上の国家資格として専門性が確立していると考えられることに着目したものであり,行政解釈においては,ここでいう「税理士の業務」を法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいい,税理士法2条1項所定の税務代理,税務書類の作成,税務相談がこれに該当すると解していること(労働省労働基準局長通達平成14年2月13日基発第0213002号),税理士の業務については,税理士法52条により,税理士又は税理士が社員となって設立する税理士法人(税理士法48条の2及び4)でない者が行うことが制限されていて,税理士又は税理士法人以外の者が業として他人の求めに応じて税務代理,税務書類の作成等を行うことは許されないこと,また,税理士の業務は,公認会計士,弁護士あるいは建築士の業務等と並んで,いずれも専門性の高い国家資格を要する業務であることに基づくものであることに照らせば,専門業務型裁量労働制の対象となる「税理士の業務」とは,税理士法3条所定の税理士となる資格を有し,同法18条所定の税理士名簿への登録を受けた者自身を主体とする業務をいうと解するのが相当である。
  406. (2)以上に対し,控訴人らは,専門業務型裁量労働制の対象となる業務の範囲については,その業務を行う手段や時間配分の決定などについて使用者が具体的な指示をすることが困難な業務か否かという観点から実質的に解釈すべきであると主張する。控訴人らの主張は,税理士以外の者による事実上の税務書類の作成等の業務について,実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して,専門業務型裁量労働制の対象と認め得ることを前提にした上で,被控訴人に専門業務型裁量労働制が適用されるとする趣旨の主張であると解される。
  407.  しかしながら,控訴人らが主張するように,対象業務の範囲について,「税理士の業務」概念の外延を画する要素から税理士という業務主体を外した上で,その業務を行う手段や時間配分の決定などについて使用者が具体的な指示をすることが困難な業務か否かという観点からこれを実質的に解釈することになれば,「税理士の業務」概念の外延は曖昧となり,対象業務の明確性が損なわれてしまうから,専門業務型裁量労働制がその対象業務について限定列挙方式という仕組みを採用した趣旨が没却されることになり,相当でないというべきである。控訴人らの主張は採用することができない。
  408. (3)本件では,前記1で認定したとおり,被控訴人は,控訴人らとの間で,控訴人らの法人税・資産税部門の税理士の補助業務を行うスタッフ(〈証拠略〉によれば,控訴人らにおいては役職を7等級の階層に分類する構造を採用していて,スタッフとはその最下層のものである。)として,期間の定めなく雇用される旨の労働契約を締結し,被控訴人は,控訴人らそれぞれの就業規則に従って就業し,雇用されている間,確定申告に関する業務,土地等の簡易評価の資料作成業務等を行っていたのであるが,被控訴人は,税理士となる資格を有せず,税理士名簿への登録も受けていなかったのであるから,その業務は専門業務型裁量労働制の対象となる「税理士の業務」ということはできない。
  409. (4)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人には専門業務型裁量労働制が適用されないから,控訴人らは,被控訴人に対し,時間外労働についての割増賃金を支払う義務があることになる。」
  410. 3 原判決19頁18行目から20行目までを「したがって,被控訴人の所属長(B)による深夜に労働することの許可の有無は,被控訴人がいた深夜労働についての割増賃金発生に影響しないというべきである。」に改める。
  411. 4 原判決20頁2行目から9行目までを「 しかしながら,休日に関して規定する労働基準法35条は,その第1項でいわゆる週休制の原則を規定し,毎週少なくとも1回の休日を設けることとなっている。ここに毎週とは暦週ではなく7日の期間毎にの意味であるが,就業規則等に格別の定めがない場合暦週と解される。そして,同条2項の変形週休制はその例外であるから,これを適用するためには,就業規則において単位となる4週間の起算日を定める必要がある(労働基準法施行規則12条の2第2項)。証拠(〈証拠略〉)によれば,控訴人らにおいては,就業規則上,日曜日,土曜日,国民の祝日,年末年始(12月30日から翌年1月4日まで),使用者が「レガシィカレンダー」により定める日が休日とされていること,控訴人会社の就業規則(〈証拠略〉)では,レガシィカレンダーがある場合はその記載が優先すると明記され,変形週休制は採られていないこと,控訴人法人の就業規則(〈証拠略〉)では変形週休制に言及しているが,単位となる4週間の起算日が定められていないことが認められる。また,証拠(〈証拠略〉)によれば,控訴人らにおいては,平成21年及び平成22年の暦の特定の月日に出勤日等が記載されている「レガシィカレンダー」により,土曜日又は国民の祝日のうちの特定の3日についてあらかじめ出勤日とする旨が定められていることが認められる。そして,以上に加え,労働基準法35条自体は休日を特定したり,毎週一定の曜日を休日とすることまでを要求していないものの,行政解釈においては,週休制の趣旨に鑑み,就業規則等で休日をできるだけ特定明示することが法の趣旨にかなうものとされ,そのような指導がされていること(労働省労働基準局長通達昭和23年5月5日基発682号,同昭和63年3月14日基発150号)に照らせば,少なくとも平成22年においては,就業規則の合理的な解釈として日曜日が法定休日とされていたものと認めるのが相当であり,それが被控訴人と控訴人らとの労働契約の内容となっていたということができる。控訴人らの上記主張は,採用することができない。」に改める。
  412. 5 原判決「事実及び理由」欄第3の7(21頁13行目から22頁1行目まで)を次のとおり改める。
  413. 「7 争点6(割増賃金に対する遅延損害金の利率についての賃確法適用の有無)について
  414.  賃確法6条2項は,賃金の支払遅滞が「天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合」に同条1項を適用しないとしていて,これを受けた賃確法施行規則6条は,厚生労働省令で定める遅延利息に係るやむを得ない事由として,天災地変(1号),事業主が破産手続開始の決定を受け,又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令2条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなったこと(2号),法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること(3号),支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること(4号),その他前各号に掲げる事由に準ずる事由(5号)を規定している。本件では,被控訴人の時間外労働の割増賃金支払の前提問題として,専門業務型裁量労働制が被控訴人に適用されるか否かが争点の一つとなっていて,その対象業務の解釈が争われているところ,この点に関する当事者双方の主張内容や事実関係に照らせば,控訴人らが被控訴人の割増賃金の支払義務を争うことには合理的な理由がないとはいえないというべきである。したがって,被控訴人の未払割増賃金に対する遅延損害金については,商事法定利率によるべきこととなる。」
  415. 6 原判決22頁6行目から12行目までを削る。
  416. 7 原判決「事実及び理由」欄第3の9(22頁14行目から26行目まで)を次のとおり改める。
  417. 「9 争点8(付加金)について
  418.  本件に顕れた一切の事情,特に,賃確法6条1項及び同法施行令1条による年14.6%の割合による遅延損害金の支払請求の当否について判断したところを考慮すると,本件においては,控訴人らに対し,労働基準法114条所定の付加金の支払を命じるのは相当ではない。」
  419. 8 以上のとおりであり,被控訴人の請求については,割増賃金201万4333円及びこれに対する平成22年10月6日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであり,その余を棄却すべきこととなる。
  420. 第4 結論
  421.  したがって,以上と異なる原判決は一部失当であるから,本件控訴に基づき,原判決を変更し,その余の本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
  422. 東京高等裁判所第24民事部
  423. 裁判長裁判官 三輪和雄 裁判官 松村徹 裁判官 佐久間健吉
  424.  
  425.  
  426.  
  427.  《全 文》
  428.  
  429. 【文献番号】25522189  
  430.  
  431. 発信者情報開示請求事件
  432. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第10787号
  433. 平成26年10月30日民事第26部判決
  434. 口頭弁論終結日 平成26年10月2日
  435.  
  436.        判   決
  437.  
  438. 原告 A
  439. 訴訟代理人弁護士 ○○○○
  440. 被告 ソネット株式会社
  441. 代表者代表取締役 B
  442. 訴訟代理人弁護士 浦中裕孝
  443. 同 青木晋治
  444. 同 坂本雅史
  445. 同 唐沢新
  446.  
  447.  
  448.        主   文
  449.  
  450. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  451. 2 訴訟費用は,被告の負担とする。
  452.  
  453.  
  454.        事実及び理由
  455.  
  456. 第1 請求
  457.  主文と同旨
  458. 第2 事案の概要
  459. 1 本件は,原告が,インターネット上の掲示板における投稿記事によって名誉を毀損されたと主張して,特定電気通信役務提供者である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて,発信者情報の開示を求める事案である。
  460. 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,容易に認められる事実)
  461. (1)ア 原告は,ヤマト運輸株式会社(以下「ヤマト運輸」という。)a店のbビルセンターにおいて,センター長として勤務する者である(甲5)。
  462. イ 被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
  463. (2)インターネット上のレンタル掲示板サービス「したらば掲示板」により提供される掲示板の中に「○○○○○○○○○○」(以下「本件掲示板」という。)と題するものがあり,その中に「○○○○○○○○○○」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)がある。
  464. (3)氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は,本件スレッドに別紙情報目録記載の情報(以下「本件情報」という。)を発信した(甲1)。
  465. (4)原告は,本件掲示板に係るウェブサイトを管理するシーサー株式会社(以下「シーサー」という。)に対し,本件発信者に係るIPアドレス及びタイムスタンプの仮の開示を求めて仮処分を申し立て,仮処分決定を得て,シーサーから同情報の開示を受けた(甲2,3)。シーサーから開示されたIPアドレスは,被告の保有に係るものであった(甲4,7)。
  466. (5)本件掲示板は特定電気通信であり,被告は,本件掲示板の用に供する電気通信設備を設置,管理する者として特定電気通信役務提供者に当たる。
  467. 3 争点及び争点に関する当事者の主張
  468. (1)権利侵害の明白性について
  469. ア 原告
  470. (ア)「○○○○○○○○○○」というのは,ヤマト運輸の関係者であれば,a店を指すのは容易にわかることである。a店においては,千代田区と中央区を管轄している。原告は,千代田区のセンター長の地位にある。a店においてAという姓の者は原告しかいない。a店の関係者は,本件情報を見て,実際に原告について書かれたものであると同定している。また,本件情報の直近のレスで,Aと名字が明記されており,一体的に記事は読まれるべきである。したがって,本件情報が原告に関するものであることは明らかであり,一般の閲覧者もそのように理解するものである。
  471. (イ)「全然仕事をしない!!」という表現は,一般の閲覧者をして,会社の従業員である原告が労務の提供を一切していないと誤信させるものである。また,本件情報内には,「クビにしてください」と記載されており,一般の閲覧者をして解雇事由に当たるような職務怠慢をしていると誤信させるものである。
  472. (ウ)本件情報は真実でない。また,一個人の私生活上の振る舞いによって公益が増進されるわけではないから,公共の利害に関する事項とはいえない。表現方法は「全然仕事をしない」などと苛烈でただ原告を誹謗中傷しており,積極的な加害意思しか見て取ることしかできず,公益目的も認められない。したがって,本件情報については,違法性阻却事由の要件を満たすものではない。
  473. イ 被告
  474. (ア)本件掲示板のタイトルやスレッド名,本件情報の前後の文脈を考慮しても,対象者を特定するのに役立つ情報として一般の閲覧者が読み取ることのできるものは,「ヤマト運輸」,「千代田」(地名),「◇○」(人名)程度である。しかし,東京都千代田区内にはヤマト運輸の営業所は多数存在するのであって,本件情報からは,その営業所すら特定することはできず,「◇○」という部分についても,「◇」から始まる2文字の苗字は珍しいものではないから,「A」と特定することはできない。したがって,本件情報を目にした一般の閲覧者が「千代田の◇○」を原告と同定することは不可能であるから,本件情報によって原告の社会的評価が低下することはない。
  475. (イ)「全然仕事をしない!!」という表現は,原告が摘示していない部分(「影武者がすべてやるし」)を考慮しても,社会的評価を低下させる表現として不法行為を構成するようなものではない。この程度の表現は,日常会話でもよく用いられるものであり,社会的相当性の範囲を逸脱したものではなく,一般に受忍されるべきものである。
  476. (ウ)原告が東京証券取引所第1部に上場しているヤマト運輸の営業所のセンター長という立場にあるのであれば,一定の社会的地位を有し,多数の部下や関与している取引先がある等,同社内において一定の影響力を有しているのが通常であり,そうであるならば,単なる一個人の私生活上の振る舞いとは言い難く,かかる原告の勤務状況に関する表現は,公共の利害に関する事実に当たらないとまではいえず,その表現内容も公共の利益を図る目的がないと認めるだけの証拠はない。また,本件情報が真実でないことの立証もされていない。
  477. (2)正当理由について
  478. ア 原告
  479.  原告は,名誉毀損による不法行為に基づき,本件発信者に対して,損害賠償を求めるため,被告に対し,本件発信者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの開示を求めるものであるから,正当理由の要件も充足している。なお,電子メールアドレスについては,本件発信者が未成年であった場合に親名義で携帯電話を契約している可能性があり,また,世帯主の名義で携帯電話を契約して,他の家族が使用している可能性もあるところ,電子メールアドレスは共有して利用するものでは通常ないため,実際の発信者を推知するためには必要な情報である。
  480. イ 被告
  481.  本件情報は,「権利侵害の明白性」の要件を充足するものではなく,名誉毀損を原因とする不法行為を構成するものではないから,原告は本件発信者に対して損害賠償を求めることはできない。したがって,損害賠償を求めることを理由とした開示を受けるべき正当な理由は存在しない。
  482. 第3 当裁判所の判断
  483. 1 争点(1)(権利侵害の明白性)について
  484. (1)法4条1項1号が定める「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは、発信者が有するプライバシー及び表現の自由の利益と被害者の権利回復を図る必要性との調和という観点から,権利侵害の明白性を要件としたものであるから,権利が侵害されたことが明らかであることに加え,違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことを,被害者において主張,立証する必要があると解するのが相当である。
  485. (2)ア 同定可能性について
  486.  前提事実並びに証拠(甲1,甲6の1ないし3,甲8,乙1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件情報は「○○○○○○○○○○」(本件掲示板)の中の「○○○○○○○○○○」と題するスレッドに書き込まれたものであること,ヤマト運輸の支社・主管支店の中にa店があること,同支店は千代田区と中央区を受け持っていること,原告は,千代田区に所在するヤマト運輸のbビルセンターのセンター長であること,a店に所属するセンター(営業所)において,Aという姓の者は原告しかいないこと,本件情報は,本件スレッドのレス番号×△に書き込まれたものであるが,それに近接するレス番号××には「A お前はヤクザか 右翼か チンピラか しね」(IPアドレスは本件情報のものと異なる。)という記事が投稿されていることが認められる。 
  487.  上記認定事実によれば,本件掲示板を見たヤマト運輸の関係者は,本件情報中の「◇○」という記載がAすなわち原告を示すものであると認識するものということができる。
  488. イ 権利侵害性について
  489.  本件情報は,「全然仕事をしない」,「影武者がすべてやる」,「こいつらクビにしてください」との記載内容であるところ,これらは,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読めば,原告は全く仕事をせずに部下が原告に代わってすべての仕事をするとの事実を摘示し,解雇に値するとの意見を表明するものと解され,原告の社会的評価を低下せしめるものとして,摘示された事実が真実でない限り,原告の名誉を毀損するものと解するのが相当である。
  490. ウ 違法性阻却事由の不存在について
  491.  本件情報は,一私企業の一従業員である原告が全く仕事をせず,部下が原告に代わってすべての仕事をするとの事実を摘示し,解雇に値するとの意見を表明するものであるところ,その簡潔な内容に照らせば,原告を誹謗中傷することに主たる目的があると認められ,主たる動機が公益を図ることにあったとはいえず,専ら公益を図る目的でされたものとは認められない。
  492.  したがって,本件記事は,摘示された事実が真実であるか否かについて検討するまでもなく,違法性阻却事由がないことが明らかであり,原告の名誉を侵害することが明白である。
  493. 2 争点(2)(正当理由の有無)について
  494.  証拠(甲6の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件発信者に対して損害賠償請求を行うために,被告に対して本件発信者に関する情報の開示を求めていると認められるところ,損害賠償請求権行使のためには,本件発信者を特定する必要があることは明らかであるから,原告は,被告から発信者情報の開示を受ける正当な理由がある。
  495. 3 結論
  496.  よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
  497. 東京地方裁判所民事第26部
  498. 裁判官 足立哲
  499.  
  500. (別紙)発信者情報目録
  501. 別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載の契約者についての次の情報
  502. 1 氏名又は名称
  503. 2 住所
  504. 3 電子メールアドレス
  505. (別紙)情報目録
  506.  
  507.  
  508.  
  509.  《全 文》
  510.  
  511. 【文献番号】25522911  
  512.  
  513. 発信者情報開示請求事件
  514. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第20848号
  515. 平成26年11月25日民事第43部判決
  516. 口頭弁論終結日 平成26年10月14日
  517.  
  518.        判   決
  519.  
  520. 原告 P1
  521. 同訴訟代理人弁護士 〇〇〇〇
  522. 被告 KDDI株式会社
  523. 同代表者代表取締役 P2
  524. 同訴訟代理人弁護士 渡部英人
  525. 同 春田大吾
  526.  
  527.  
  528.        主   文
  529.  
  530. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  531. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  532.  
  533.  
  534.        事実及び理由
  535.  
  536. 第1 請求
  537.  主文同旨
  538. 第2 事案の概要
  539. 1 本件は,原告が,インターネット上のウェブサイトの電子掲示板に投稿された記事が原告の名誉を毀損することが明らかであるなどとして,上記投稿記事の経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,上記投稿記事の発信者情報(氏名又は名称,住所,電子メールアドレス)の開示を求めた事案である。
  540. 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる事実)
  541. (1)被告は,電機通信事業を営む株式会社であり,法4条1項の「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」に該当する(争いなし)。
  542. (2)インターネット上のウェブサイトの電子掲示板「ネット人権侵害者を徹底的に叩くコンシェルジュ」(以下「本件掲示板」という。)において,平成○○年○月○○日別紙情報目録[1]記載の記事(以下「本件投稿記事1」という。)が,同月○○日別紙情報目録[2]記載の記事(以下「本件投稿記事2」という。)が,同年○月○日別紙情報目録[3]記載の記事(以下「本件投稿記事3」といい,本件投稿記事1ないし3を「本件各投稿記事」という。)が投稿された(甲4)。
  543. (3)被告は、本件各投稿記事が投稿された際の経由プロバイダであり,契約者情報として,本件各投稿記事の投稿に使用されたIPアドレス使用者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの情報を保有している(争いなし)。 
  544. (4)原告は,本件各投稿記事の発信者(以下「本件発信者」という。)に対し,後記の権利侵害を理由として,不法行為に基づく損害賠償請求等の準備をしている(弁論の全趣旨)。
  545. 3 主たる争点及びこれに対する当事者の主張
  546. (1)権利侵害の有無
  547. (原告の主張)
  548. ア 本件投稿記事1について
  549.  本件投稿記事1には,原告が「BB Chat TVに齢40にして36と称してキモい出会い系書き込み連発」と記載されているところ,「BB Chat TV」は女性と知り合うことができるウェブサイトであり,本件投稿記事1の上記記載は,一般の閲覧者に,既婚者である原告がいわゆる出会い系サイトを利用していると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものである。
  550. イ 本件投稿記事2について
  551.  本件投稿記事2には,原告について,「詐欺・逃亡野郎P1にエヅ民,2ちゃんねる民が恫喝されています」,「P1の経歴上かかわった経営層・部下・上司等が自分を棚に上げて誹謗中傷されています」などと記載されており,一般の閲覧者に,原告が他者に対して恫喝や誹謗中傷を行っている上,犯罪行為に関与していると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものである。
  552. ウ 本件投稿記事3について
  553.  本件投稿記事3には,「旧山一證券のP1関連部署の皆様 日立製作所のP1関連部署の皆様,リソー教育のP1研修担当の皆様 P1により一方的な誹謗中傷が行われています。」などと記載されており,一般の閲覧者に,原告が他人を誹謗中傷し,違法行為を行っていると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものである。
  554. (被告の主張)
  555.  否認ないし争う。
  556. ア 本件投稿記事1について
  557. (ア)本件投稿記事1には,人物の経歴らしき内容が記載されているが,これが原告の経歴であることを示す記載は一切ないから,本件投稿記事1を読んだ一般の閲覧者が,本件投稿記事1は原告のことを記載したものであると判断することはできない。
  558. (イ)また,原告は,本件投稿記事1中の,原告が「BB Chat TV」を利用しているとの記載は,一般の閲覧者に,既婚者である原告がいわゆる出会い系サイトを利用していると理解される内容であり,原告の社会的評価を低下させるものである旨主張する。
  559.  しかしながら,「BB Chat TV」が具体的に何なのか不明であるし,本件投稿記事1には「BB Chat TV」に書き込みをしているといった程度の抽象的な記載がなされているにとどまり,何ら具体的な事実は記載されていない。これに加え,インターネット上の掲示板における投稿は信用性が高いものとして評価されているわけではないことをも勘案すれば,本件投稿記事1を読んだ一般の閲覧者が,原告が出会い系サイトを利用していると理解するとは考えられないから,同記事の内容は原告の社会的評価を低下させるものであるとはいえない。
  560. イ 本件投稿記事2及び3について
  561.  本件投稿記事2及び3には,原告が誹謗中傷をしているといった程度の抽象的な記載がなされているにとどまり,何ら具体的な事実が述べられていない。これに加え,インターネット上の掲示板における投稿は信用性が高いものとして評価されているわけではないことを勘案すれば,本件投稿記事2及び3を読んだ一般の閲覧者が,原告が違法行為を行っていると理解するとは考えられないから,本件投稿記事2及び3の内容が原告の社会的評価を低下させるものであるとはいえない。
  562. (2)違法性阻却事由の有無
  563. (原告の主張)
  564.  本件各記事に記載された内容は真実ではない。また,上記記載は一個人の私生活に関する情報であり,公共の利害に関する事項とはいえない上,根拠を明確に示すことなく原告を誹謗中傷しており,積極的な加害意思しかみて取ることができないから公益目的も認められない。
  565.  したがって,本件各投稿記事の投稿につき違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しない。
  566. (被告の主張)
  567.  否認ないし争う。
  568.  原告が他者を誹謗中傷する投稿をしているとすれば,かかる事実は名誉毀損罪や信用毀損罪といった犯罪行為に該当する可能性があるから,広く社会に知らしめて公衆の批判にさらす必要があると考えられる。したがって,本件投稿記事2及び3は,公共の利害に関するものであり,その目的は公益を図るものに他ならないというべきである。そして,本件投稿記事2及び3は,原告の言動に詳しい人物が投稿したものと思われるから,いずれも真実であるか,仮に真実でなかったとしても真実であると信じるにつき相当の理由があったというべきである。したがって,本件投稿記事2及び3については違法性阻却事由が認められる。
  569. 第3 当裁判所の判断
  570. 1 争点(1)(権利侵害の有無)について
  571. (1)本件投稿記事1について
  572. ア 本件投稿記事1には,「1988年4月 山一證券株式会社に就職」,「1998年3月 株式会社日立製作所に入社」,「2008年4月 株式会社CSKに新事業の立ち上げ役として部長職で入社」などの人物の経歴が記載されているところ,本件掲示板には,「旧山一證券のP1関連部署の皆様」,「日立製作所のP1関連部署の皆様」,「CSK(SCSK)のP1の関連部署の皆様」などの記載のある本件投稿記事3が投稿されており,本件投稿記事1と本件投稿記事3を併せ読めば,本件投稿記事1に記載された経歴が原告の経歴であることは明らかであるといえるから,一般の閲覧者は,本件投稿記事1が原告に関する記事であると特定できたと認めることができる。
  573. イ 本件投稿記事1には,「19?年 小学校時代の同級生の妻と結婚」,「2006年11月 BB Chat TVに齢40にして36と称してキモい出会い系書き込み連発」と記載されているところ,上記記載中の「BB Chat TV」は不特定の女性と知り合うことができるウェブサイトであり(甲6),「BB Chat TV」が上記のようなサイトであることは本件投稿記事1中の「齢40にして36と称してキモい出会い系書き込み連発」との記載からも理解することができるといえる。そして,本件投稿記事1は,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば,既婚者である原告が,不特定の女性と知り合うことができるウェブサイトを利用しているとの事実を摘示していると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  574. (2)本件投稿記事2について
  575.  本件投稿記事2には,「>あらぬ情報を垂れ流したり,誹謗中傷の限りを尽くすものが大勢います。P1ですねわかりますwwwwwwwwwwwww」,「その他P1の経歴上かかわった経営層・部下・上司等が自分を棚に上げて誹謗中傷されていますボスケテwwwwww」と記載されており,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば,原告が真実でない情報を流したり,過去に関わりのあった者を誹謗中傷したりしているとの事実を摘示していると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  576. (3)本件投稿記事3について
  577.  本件投稿記事3には,「旧山一證券のP1関連部署の皆様 日立製作所のP1関連部署の皆様 リソー教育のP1研修担当の皆様 P1により一方的な誹謗中傷が行われています。」,「CSK(SCSK)のP1関連部署の皆様 IIJのP1関連部署の皆様 今後P1により一方的な誹謗中傷が行われる可能性が高いです。お気を付けください。」と記載されており,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば,原告が過去に関わりのあった者を一方的に誹謗中傷しており,今後も誹謗中傷を行う可能性が高いとの事実を摘示していると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  578. 2 争点(2)(違法性阻却事由の有無)について
  579. (1)本件投稿記事1について
  580.  本件投稿記事1が摘示する,既婚者である原告が不特定の女性と知り合うことができるウェブサイトを利用しているとの事実は,原告の私生活上の行状に関する事実であって公共の利害に関する事実には当たらないし,本件掲示板に上記事実を記載することの目的が専ら公益を図ることにあったと認めることもできない。したがって,本件投稿記事1の投稿について違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在しない。
  581. (2)本件投稿記事2について
  582.  本件投稿記事2が摘示する,原告が真実でない情報を流し,過去に関わりのあった者を誹謗中傷しているとの事実は,私人である原告の私生活上の行状に関するものであって公共の利害に関する事実と認めることはできないし,本件投稿記事2において上記事実を摘示する根拠が何ら明らかにされていないこと,同記事には原告を揶揄するような表現が用いられていることに照らすと,本件投稿記事2が公益を図る目的で投稿されたと認めることはできない。したがって,本件投稿記事2の投稿について違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在しない。
  583.  被告は,原告が他者を誹謗中傷する投稿をしているとすれば,かかる事実は名誉毀損罪や信用毀損罪といった犯罪行為に該当する可能性があるから,本件投稿記事2は公共の利害に関するものであり,その目的は公益を図るものと認められる旨主張するが,摘示された事実が犯罪行為に該当する可能性があるというだけで,当該事実が公共の利害に関するものであり,その事実の公表に公益目的があるということはできないから,被告の上記主張を採用することはできない。
  584. (3)本件投稿記事3について
  585.  本件投稿記事3が摘示する,原告が過去に関わりのあった者を一方的に誹謗中傷しており,今後も行う可能性が高いとの事実は,私人である原告の私生活上の行状に関するものであって公共の利害に関する事実と認めることはできないし,本件投稿記事3には,上記事実を摘示する根拠が何ら明らかにされていないこと,本件発信者が,その公表に公益目的の認められない本件投稿記事1及び2の投稿から間もなく本件投稿記事2と同様の内容の本件投稿記事3を投稿していることに照らすと,同記事が公益を図る目的で投稿されたと認めることはできない。したがって,本件投稿記事3の投稿について違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在しない。
  586.  被告は,本件投稿記事3についても本件投稿記事2について主張するのと同様の理由により,公共の利害に関するものであり,その目的に公益を図るものと認められる旨主張するが,この主張が採用できないことは上記(2)で説示したとおりである。
  587. 3 結論
  588.  以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
  589. 東京地方裁判所民事第43部
  590. 裁判官 山原佳奈
  591.  
  592. (別紙)発信者情報目録
  593. 別紙情報目録記載の投稿日時おける別紙情報目録記載の契約者についての次の情報
  594. 1 氏名又は名称
  595. 2 住所
  596. 3 電子メールアドレス
  597. (別紙)情報目録
  598.  
  599.  
  600.  
  601.  《全 文》
  602.  
  603. 【文献番号】25524697  
  604.  
  605. 発信者情報開示請求事件
  606. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第20853号
  607. 平成27年1月30日民事第50部判決
  608. 口頭弁論終結日 平成26年12月19日
  609.  
  610.        判   決
  611.  
  612. 原告 a
  613. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  614. 被告 アルテリア・ネットワークス株式会社
  615. 同代表者代表取締役 b
  616. 同訴訟代理人弁護士 石新智規
  617. 同 岩田裕介
  618.  
  619.  
  620.        主   文
  621.  
  622. 1 被告は,原告に対し,別紙1情報目録記載の投稿日時における同目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関するマンション所在地に係る情報を開示せよ。
  623. 2 原告のその余の請求を棄却する。
  624. 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
  625.  
  626.  
  627.        事実及び理由
  628.  
  629. 第1 請求
  630.  被告は,原告に対し,別紙2発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  631. 第2 事案の概要等
  632. 1 事案の概要
  633.  本件は,原告が,別紙1情報目録記載の閲覧用URLにより表示されるインターネット掲示板2ちゃんねる(以下「本件ウェブサイト」という。)内の「△△△△△△△△△△」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)における氏名不詳者による投稿により名誉を毀損されたとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)に基づき,被告に対し,別紙2発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。
  634. 2 前提となる事実(争いのない事実,弁論の全趣旨及び証拠により容易に認められる事実)
  635. (1)被告は,電気通信事業を営む株式会社であり,法4条1項の「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」に該当するものである(争いなし)。 
  636. (2)氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は,本件ウェブサイト内の本件スレッドに,別紙1情報目録記載の投稿日時に同記載の投稿内容(以下「本件投稿」という。)を発信した(争いなし)。
  637. (3)本件投稿に係るIPアドレスは,別紙1情報目録記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)のとおりである。そして,同IPアドレスの管理者は被告であり,本件投稿は,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して発信された(甲2,6)。
  638. 3 争点及び当事者の主張
  639. (1)本件投稿により,原告の権利が侵害されたことが明白といえるか(争点〔1〕)。
  640. (原告の主張)
  641. ア 本件投稿は,原告が少女売春をしていると記載し,一般読者をして原告が犯罪行為に及んでいると誤信させ,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。また,本件投稿の内容は真実ではなく,公共の利害に関する事項とはいえず,原告を誹謗中傷するものであって,公益目的も認められない。
  642. イ 確かに,本件投稿は,別の投稿を複製して再投稿するものであり,末尾に「ひゃーたまげたなぁこれマジなの?」との記載が存在する。しかしながら,本件投稿には,原告が少女売春をしていない可能性については一切記載がなく,一般読者をして同投稿を読んだ場合,原告が少女売春したとの事実以外を読み取ることはできない。
  643. (被告の主張)
  644.  本件投稿の内,本件発信者自身が本件スレッドに書き込んだのは,末尾の「ひゃーたまげたなぁこれマジなの?」との文言のみである。同文言以外は,本件投稿の1つ前の投稿を複製したものであり,本件投稿内容は,その直前の投稿の内容が真実であるかを問いかけるものである。これを一般読者の注意と読み方を基準に解釈すれば,本件投稿は,単に直前の投稿の真偽を確認する内容というべきであり,原告に対する社会的評価を低下させるものではない。
  645. (2)本件投稿について発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点〔2〕)。
  646. (原告の主張)
  647.  原告は,本件投稿による名誉毀損行為について,本件発信者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求を行う予定である。そのためには,本件IPアドレスに係る利用者(発信者)に関する氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの開示を求める必要があり,別紙2発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当の理由がある。
  648. (被告の主張)
  649.  原告の主張は争う。
  650. (3)被告は,本件投稿に関して,別紙2発信者情報目録記載の情報を保有しているか(争点〔3〕)。
  651. (原告の主張)
  652.  被告は,別紙2発信者情報目録記載の各情報を保有している。
  653. (被告の主張)
  654.  本件IPアドレスは,特定のマンションに付与されているものであり,被告は,当該マンションの所在地に係る情報を保有するにすぎない。
  655. 第3 当裁判所の判断
  656. 1 前記前提となる事実,証拠(主要な証拠は各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
  657. (1)本件スレッドは,平成●●年●月●●日午後×時××分××秒,本件ウェブサイト内の特定のスレッドが原告を誹謗中傷するものであること,同スレッドの削除を求めること,警察署には相談済みであることなどを内容とする「a/代表取締役」名による投稿で開始された。
  658.  そして,本件スレッド上では,上記投稿を揶揄したり,嘲笑したりするかのような投稿や,これらに対して文句を言ったりする内容の投稿などが繰り返された後,本件投稿直前の同日午後××時××分××秒に,「◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇」との文言及び他のスレッドへのリンクが設定された記載が9回に渡って繰り返された投稿(以下「本件直前投稿」という。)がなされた(甲1)。
  659. (2)本件投稿の内容は,別紙1情報目録記載の投稿内容のとおりであるところ,同投稿内容中「〉〉□□」から「ひゃーたまげたなぁこれマジなの?」との記載の直前部分までは,本件直前投稿を複製して貼り付けたものであり,その後に,「ひゃーたまげたなぁこれマジなの?」との本件発信者による記載が付された構成となっている(甲1)。
  660. 2 争点〔1〕(権利侵害の明白性)について
  661. (1)本件直前投稿は,「a」が少女売春をしていたとの事実を繰り返し摘示するものであり,一般読者をして,原告が,過去に少女売春をしたとの印象を与える内容となっていることからするならば,同投稿内容は,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  662. (2)他方,本件投稿は,一見すると本件直前投稿を引用した上で,その真偽を問いかけている内容となっていると読むこともできる。しかしながら,本件投稿は,本件スレッド上で原告を揶揄したり,嘲笑したりするかのような投稿が繰り返されている中で投稿されたものであること,あえて本件直前投稿を全文複写して貼り付けていること,さらに,本件発信者による「ひゃーたまげたなぁこれマジなの?」との記載は,単に本件直前投稿の真偽を問いかけているというより,むしろ,本件直前投稿の内容について驚きを表現していると読むことができることに照らすと,単に本件直前投稿の内容について真偽を問いかけているというよりも,本件直前投稿を強調して「a」が過去に少女売春をしたとの事実を摘示した上で,驚きを示すものというべきであり,一般読者をして,原告が過去に少女売春をしたとの印象を与える内容となっているものといえる。
  663.  以上によれば,本件投稿は,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。そして,本件投稿が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合であって,摘示された事実が重要な部分において真実であることが証明され,仮に真実であることの証明がないときでも,行為者によって摘示された事実を真実と信じるについて,相当の理由があるといった違法阻却事由が存在するという事情を窺わせる証拠はない。したがって,本件投稿によって原告の名誉が毀損され,その権利が侵害されたことが明かであるというべきである。
  664. 3 争点〔2〕(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
  665.  原告は,本件発信者に対し,本件投稿による名誉毀損を理由に損害賠償を請求する予定であることからするならば,本件投稿に関する発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるというべきである。
  666. 4 争点〔3〕(発信者情報の保有)について
  667.  被告は,本件IPアドレスが特定のマンションについて付与されたものであり,当該マンションの所在地に係る情報しか保有していないと主張する。他方,原告は,本件IPアドレスの利用者(発信者)に関する氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの開示を求めているものの,被告が,上記マンションの所在地に係る情報以外に本件IPアドレスの利用者(発信者)に関する情報を保有していることを認めるに足りる証拠はない。
  668.  したがって,被告が,本件IPアドレスの利用者(発信者)に関するマンション所在地に係る情報以外の情報を保有していると認めることはできない。
  669. 5 結論
  670.  以上によれば,原告の請求は,本件IPアドレスの利用者(発信者)に関するマンション所在地に係る情報の開示を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとする。
  671. 東京地方裁判所民事第50部
  672. 裁判官 岡本利彦
  673.  
  674. (別紙1)情報目録
  675. (別紙2)発信者情報目録
  676.  別紙1情報目録記載の投稿日時における同目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
  677. 1 氏名又は名称
  678. 2 住所
  679. 3 電子メールアドレス
  680.  
  681.  
  682.  
  683.  《全 文》
  684.  
  685. 【文献番号】25523794  
  686.  
  687. 発信者情報開示請求事件
  688. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第30132号
  689. 平成27年2月19日民事第17部判決
  690. 口頭弁論終結日 平成27年1月29日
  691.  
  692.        判   決
  693.  
  694. 原告 A
  695. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  696. 被告 ビッグローブ株式会社
  697. 同代表者代表取締役 B
  698. 同訴訟代理人弁護士 高橋利昌
  699.  
  700.  
  701.        主   文
  702.  
  703. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  704. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  705.  
  706.  
  707.        事実及び理由
  708.  
  709. 第1 請求
  710.  主文同旨
  711. 第2 当事者の主張
  712. 1 請求原因
  713. (1)ア 原告は,株式会社東芝(以下「東芝」という。)の従業員で,解雇処分をした東芝を被告として,解雇無効確認等請求事件(以下「本件裁判」という。)の原告となっていた者である。
  714. イ 被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
  715. (2)インターネット掲示板2ちゃんねる(以下「本件ウェブサイト」という。)の「○○○○○○○○○○」というスレッド(以下「本件スレッド」という。)において,氏名不詳者により,別紙情報目録記載の投稿内容の書込がされた(以下,「本件投稿」という。)。
  716. (3)本件投稿は,原告について「裁判クレーマー」と記載している。
  717.  クレーマーとは,正当な理由なく執拗に要求を繰り返すといった意味があることから,裁判クレーマーと原告が記載されることで,原告が,正当な理由なく裁判を行って,自己の要求を執拗に繰り返している異常な人間だと一般の閲覧者をして誤信せしめ,もって原告の社会的評価を著しく低下させ,原告の名誉を毀損する。
  718.  原告は,原告自身のブログにて,東芝の株主総会において,原告が質問したことに関して,東芝の副社長が「本人(原告)が勝手に裁判をしている,という内容を強調した様な発言。一般的な人が聞いたら「東芝に裁判クレーマーな社員がいるんだな」としか思えないような回答」と記載したが,これは,東芝の副社長の対応が正当なものではなかったと述べているだけであって,原告自身のことを裁判クレーマーと自称したこともなければ,そのように思われても仕方がないといった記述をしたこともない。
  719.  原告は,本件裁判において請求認容判決を受けており,原告が正当な理由をもって裁判をしていたことは明らかな事実であって,本件投稿は真実ではない。
  720.  また,本件投稿の記載内容は,一私人に関する情報であり,専ら公共の利害に関する事項とはいえないし,その表現は,根拠を明確にすることなくただ原告を誹謗中傷しており,加害意思しか見て取ることはできず,公益を図る目的も認められない。
  721.  したがって,本件投稿には,違法性阻却事由はない。
  722.  よって,原告が本件投稿によって名誉権の侵害を受けていることは明白であって,権利侵害の明白性の要件を満たす。
  723. (4)原告は,本件発信者に対し,不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるが,本件発信者の住所,氏名に加え,本件発信者が未成年者であった場合,親名義で携帯電話を契約している可能性があり,また,世帯主名義で携帯電話を契約して,他の家族が使用している可能性もあるから,実際の発信者を推知するためにはメールアドレスについても開示を受ける必要があり,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を受ける正当な理由がある。
  724. (5)原告は,本件訴えに先立ち,本件ウェブサイトを管理する訴外会社「Race Queen Inc.」に対し,本件投稿に係る発信者情報の開示を求めて仮処分を申し立てたところ,同社は,本件投稿に係る発信者情報(IPアドレス及びタイムスタンプ)を開示した。
  725.  そこで,原告が開示を受けたIPアドレスを検索したところ,当該IPアドレスは被告の保有に係るもので,本件発信者は,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して,本件投稿を本件ウェブサイトに発信したことが明らかになった。
  726. (6)本件スレッドは,誰もが匿名で記事を投稿することが可能であり,本件スレッドにアクセスしてきた者は投稿された記事を誰でも閲覧することが可能である。したがって,本件スレッドは,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下,単に「法」という。)2条1号の特定電気通信に該当する。
  727.  被告は,被告が管理する電気通信設備を用いて,電気通信の送信の用に供される他人の通信を媒介するから,法4条1項の開示関係役務提供者に該当する。
  728. (7)よって,原告は,法4条1項に基づき,被告に対し,本件投稿に係る別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める。
  729. 2 請求原因に対する認否
  730. (1)請求原因(1)アは不知,同イは認める。
  731. (2)同(2)は不知。
  732. (3)同(3)は争う。
  733.  本件投稿が,その読者の通常の読み方において,原告個人を指した記載と特定され,「裁判クレーマーとは,(原告)の自称」という記載内容が具体的な事実の摘示であって,これにより原告に対する社会的評価が法的請求を可能な程度に低下させるといえるかについては,投稿内容の意味とともに疑義がある。
  734.  また,原告が作成し,インターネット上で公開しているブログには,原告が東芝を相手方として裁判をしていること,東芝の株主総会において原告が「東芝に裁判クレーマーな社員がいるんだな」としか思えないような回答を受けたこと,また,同社が原告の質問と全く違う回答をして,原告を「裁判クレーマー扱い!!」したことを記載し,原告自身が発信している。
  735.  原告は,「裁判クレーマー」という言葉で自分自身が評価されたことをブログに記載し,その際,「裁判クレーマー」という用語を原告自身に関する表現として選択し,公衆一般に閲覧可能な形で発信したのであり,原告のブログに記載された用語・内容が別の人の投稿中に記載され,あるいは他のネット上の記載からの複製により転載されるということは,前述の表現を公にした原告の行為に由来する結果ともいうべきものであり,IPアドレス使用者は,要約・転載として不正確の誹りは免れない可能性はあるとしても,少なくとも,この記載自体から同人に名誉毀損の故意があったかは明らかではない。
  736.  よって,本件投稿による原告に対する権利侵害が明白であるとまではいえない。
  737. (4)同(4)は,不知。
  738. (5)同(5)のうち,別紙情報目録記載のIPアドレスが投稿日時において,被告が,インターネットサービスプロバイダとしてインターネット接続サービスをその会員に提供するについて,特定の会員であるIPアドレス使用者に貸し出したものであったことは認め,その余は不知。
  739. (6)同(6)(7)は争う。
  740. 第3 当裁判所の判断
  741. 1 証拠(甲4,5)によれば,請求原因(1)アが認められ,同イは当事者間に争いがない。
  742. 2 証拠(甲1)によれば,請求原因(2)が認められる。
  743. 3 請求原因(3)について
  744. (1)法4条1項1号が定める「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは,発信者が有するプライバシー及び表現の自由の利益と被害者の権利回復を図る必要性の調和という観点から,権利侵害がされたことが明らかであることを必要とした要件であるから,権利が侵害されたことに加え,違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことを,原告において主張,立証する必要があると解するべきである。
  745. (2)本件投稿は,「裁判クレーマーとは,Aさんの自称」と摘示している。この摘示は,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば,原告が自ら裁判クレーマーと名乗っているとの事実を摘示したものと理解できるものというべきであり,裁判クレーマーという表現には,裁判における正当な権利主張の形式を取りながら,苦情や言いがかりを執拗に繰り返している者という印象を一般閲覧者に与えるものというべきであるから,本件投稿は,原告の社会的評価を下げるものとして,名誉毀損に当たるというべきである。
  746. (3)そして,証拠(甲4,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成25年9月に,原告自身のブログ「○○○○○○○○○○」中で,原告の解雇に関して東芝に提出した質問が,株主総会にて取上げられたが,東芝は,会社側は和解をしようとしたが原告が和解を受け入れず上告しているため,質問に答えられない旨回答するとともに,原告が勝手に裁判をしていると強調したような発言をしたこと,原告は東芝が過失を認めることを和解の条件にしていたところ,東芝が過失を認めないために2年にわたる和解交渉が決裂したのであり,東芝は原告の質問とは違う回答をして,原告を裁判クレーマー扱いしたこと等を記載したこと,原告は,本件裁判につき上告し,平成26年3月24日、最高裁判所は,原判決中,損害賠償請求及び見舞金支払請求に関する原告敗訴部分を破棄し,同部分につき,東京高等裁判所に差し戻すと判断したことが認められる。
  747.  原告の上記のブログの記載は,原告の立場から見た本件裁判の経過につき述べるとともに,東芝が原告を裁判クレーマー扱いしたと憤慨している内容であり,本訴に提出された証拠からは,原告自身が,裁判クレーマーと自称した事実はないことが認められるから,本件投稿は真実であるとは認められず,ほかに本件投稿につき違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在しない。 
  748. (4)したがって,本件投稿は原告の名誉を毀損するものというべきである。
  749. 4 請求原因(4)ないし(6)について
  750.  請求原因(5)のうち,別紙情報目録記載のIPアドレスが投稿日時において,被告が,インターネットサービスプロバイダとしてインターネット接続サービスをその会員に提供するについて,特定の会員であるIPアドレス使用者に貸し出したものであったことは当事者間に争いがなく,証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告が管理する電気通信設備を用いて,電気通信の送信の用に供される他人の通信を媒介するから,法4条1項の開示関係役務提供者に該当する(請求原因(5)(6))。
  751.  そして,弁論の全趣旨によれば,原告は本件投稿をした者に対し,権利侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償の準備をしており,そのためには,本件投稿をした者に係る発信者情報が必要であることが認められる(請求原因(4))。
  752. 5 よって,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
  753. 東京地方裁判所民事第17部
  754. 裁判官 今井和桂子
  755.  
  756. 発信者情報目録
  757.  別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する下記情報
  758. 1 氏名又は名称
  759. 2 住所
  760. 3 電子メールアドレス
  761. 以上
  762. 別紙 情報目録
  763.  
  764.  
  765.  
  766.  《全 文》
  767.  
  768. 【文献番号】25523932  
  769.  
  770. 発信者情報開示請求事件
  771. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第24342号
  772. 平成27年2月27日民事第31部判決
  773. 口頭弁論終結日 平成27年1月9日
  774.  
  775.        判   決
  776.  
  777. 原告 社会福祉法人天祐会
  778. 同代表者理事 A
  779. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  780. 被告 株式会社ジェイコム東京北
  781. 同代表者代表取締役 B
  782. 同訴訟代理人弁護士 萬幸男
  783.  
  784.  
  785.        主   文
  786.  
  787. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  788. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  789.  
  790.  
  791.        事実及び理由
  792.  
  793. 第1 請求
  794.  主文同旨。
  795. 第2 事案の概要
  796. 1 本件は,インターネット上のサイトに投稿された記事により権利を侵害されたとする原告が,当該記事を投稿した者に対する損害賠償請求権の行使のために,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,当該記事が投稿された電子掲示板を開設・運営する被告に対し,当該記事に係る発信者情報の開示を求める事案である。
  797. 2 前提となる事実(争いのない事実以外の事実は,括弧内に記載の証拠等によって認める。)
  798. (1)被告は,電気通信事業を業とする会社である。
  799. (2)被告の提供するインターネット接続サービスを経由して,インターネット掲示板2ちゃんねる(http://<以下略>)(以下「本件ウェブサイト」という。)の「社会福祉法人天祐会乗っ取り事件」というスレッド(以下「本件スレッド」という。)において,別紙情報目録記載の記事(以下同目録の番号に従い,「本件記事1」などという。)が投稿された。(甲1から3)
  800. (3)本件ウェブサイトは,誰でも匿名で記事を投稿することが可能であり,本件スレッドにアクセスしてきた者は,誰でも投稿された記事を閲覧することが可能である。(弁論の全趣旨)
  801. (4)被告は,別紙発信者情報目録記載の情報を保有している。(弁論の全趣旨)
  802. (5)原告は,本件記事1から7を投稿した者に対し,名誉権侵害による不法行為に基づき,損害賠償を請求することを予定している。(弁論の全趣旨)
  803. 3 当事者の主張
  804. (1)原告の主張
  805. ア 本件記事1から7は,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合,本件記事1,3から7は,原告において,違法な理事交代が行われており,原告のガバナンスに問題があるとの摘示をするものであり,本件記事2は,原告において犯罪者がいるとの事実を摘示するものであり,いずれも原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
  806. イ 本件記事1から7は,一社会福祉法人に関するものであり,公共の利害に関する事項とはいえず,根拠を明確に示すことなく,ただ原告を誹謗中傷しており,積極的な加害意思しか見て取ることができず,公益目的も認められない。さらに,本件記事1から7で摘示されている事実は真実ではない。
  807.  したがって,本件記事1から7について,違法性阻却事由の要件を満たすことは窺われない。
  808. ウ 以上からすれば,本件記事1から7は,プロバイダ責任制限法4条1項1号の「権利侵害の明白性」の要件を満たす。
  809. (2)被告の主張
  810.  争う。
  811. 第3 当裁判所の判断
  812. 1 本件記事1から7の権利侵害の明白性
  813. (1)一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件記事1は,原告において,乗っ取り事件が進行中であるとの事実を摘示するものと読むことができ,本件記事2は,原告に犯罪に類するような事件を起こす者がいるとの事実を摘示するものと読むことができ,本件記事3は,原告において,荒唐無稽な話をでっち上げ,緊急理事会で前理事長を解任し,乗っ取りが行われたとの事実を摘示するものと読むことができ,本件記事4は,原告で乗っ取り事件が起きたとの事実を摘示した上で,それは原告の職員や利用者にとって迷惑な事件であるとの意見を表明するものと読むことができ,本件記事5は,原告において,乗っ取り事件が発生したが,その事件は,政治家が関わっているとの事実を摘示するものと読むことができ,本件記事6は,原告において発生した乗っ取り事件の主犯格は政治家の公設第一秘書であった者であるとの事実を摘示するものと読むことができ,本件記事7は,原告を乗っ取った者らは,原告において,施設建設に関連する工事,リネンやおむつ,食材等の購入で多額の金銭が動くことから,原告の利権を得るために,原告を乗っ取ったとの事実を摘示するものと読むことができる。 
  814.  本件記事1,3から7は,原告における乗っ取り事件が発生したことを摘示又は前提としており,いずれも原告の社会的評価を低下させるものといえる。また,本件記事2も,原告に犯罪に類するような事件を起こす者がいるとの事実を摘示するものであり,原告の社会的評価を低下させるものといえる。
  815. (2)証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事1から7で摘示されている事実は,いずれも真実ではないと認められ,その余の点について検討するまでもなく,本件記事1から7について,違法性阻却事由の存在は窺われない。
  816. (3)以上からすると,本件記事1から7の投稿により,原告の権利が侵害されたことは明らかであるといえる。
  817. 2 結論
  818.  以上の次第で,原告の請求は理由があるから,これを認容することとする。
  819. 東京地方裁判所民事第31部
  820. 裁判官 小川弘持
  821.  
  822. (別紙)発信者情報目録
  823.  別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
  824. 1 氏名又は名称
  825. 2 住所
  826. 3 電子メールアドレス
  827. 以上
  828. (別紙)情報目録
  829.  
  830.  
  831.  
  832.  《全 文》
  833.  
  834. 【文献番号】25525478  
  835.  
  836. 発信者情報開示請求事件
  837. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第20852号
  838. 平成27年3月6日民事第49部判決
  839. 口頭弁論の終結の日 平成27年1月30日
  840.  
  841.        判   決
  842.  
  843. 原告 株式会社フジテックス
  844. 同代表者代表取締役 Z1
  845. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  846. 被告 KDDI株式会社
  847. 同代表者代表取締役 Z2
  848. 同訴訟代理人弁護士 今井和男
  849. 同 正田賢司
  850. 同 小倉慎一
  851. 同 山本一生
  852. 同 山根航太
  853. 同訴訟復代理人弁護士 森謙司
  854. 同 横室直樹
  855.  
  856.  
  857.        主   文
  858.  
  859. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
  860. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  861.  
  862.  
  863.        事実及び理由
  864.  
  865. 第1 請求
  866.  主文と同旨
  867. 第2 事案の概要
  868.  本件は,インターネット上の掲示板サイトにされた匿名の投稿によって名誉権を侵害されたとする原告が,その投稿をした者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使等のために,本件発信者にインターネット接続サービスを提供した被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件発信者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスの開示を求める事案である。
  869. 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
  870. (1)原告は,環境事業,販促事業,教育事業,健康事業を営む株式会社である。被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社である。
  871. (2)本件発信者は,インターネット上の掲示板サイト「2ちゃんねる」(http://www.2ch.net,以下「本件サイト」という。)の「□□□□□□□□□□」というスレッド(以下「本件スレッド」という。)に,被告が提供するインターネット接続サービスを経由して,原告に関する別紙情報目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)を発信し,本件投稿は掲載された(甲1)。
  872. 2 争点及び争点に関する当事者の主張
  873.  本件の争点は,〔1〕本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるか否か,〔2〕原告に本件発信者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか否かである。
  874. (1)争点1(権利侵害の明白性)について
  875. (原告の主張)
  876.  本件投稿の内容は,別紙情報目録記載のとおりであって,原告について,〔1〕「汚泥船」,〔2〕原告に雇われると「知識のない人間」になる,「全社員が会社に勤める上で必要な知識を知らない上に,全く学べない環境,会社」,〔3〕原告が「商社」を名乗ることで「騙」している,〔4〕「クレームとかすごい」,〔5〕クレームについて「社員に擦り付ける」と記載されており,本件投稿の一般の閲覧者をして,原告が,〔1〕すぐ沈む船,潰れる会社,〔2〕原告で働いても全く学ぶことがない,原告従業員が会社で仕事をする上で何ら必要な知識を有してない,〔3〕原告が事業内容を偽り,外部の人間を騙している,〔4〕原告の事業でクレームが多い,〔5〕クレームについて適切な対応をせず,ただ社員に擦り付けているだけであると誤信させるものであるといえ,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  877.  また,本件投稿の内容は,真実ではないし,一企業の労働環境や事業報告の在り方に関するもので,公共の利害に関するものとはいえず,その表現方法も何ら根拠を示すことなく原告を誹謗中傷するものであり,公益目的のために掲載されたものではない。本件において違法性を阻却する事由の存在をうかがわせる事由はない。
  878.  以上からすれば,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことは明らかである。
  879. (被告の主張)
  880.  原告の主張は否認ないし争う。本件投稿の内容には,原告を特定することができる情報はなく,また,具体的なものではなく根拠も記載されていないから,一般の閲覧者が通常の読み方をしても,原告が主張するような印象を持つとはいえない。すなわち,〔1〕「汚泥船」はその趣旨が不明であり,〔2〕「全社員が会社に勤める上で必要な知識を知らない上に,全く学べない環境,会社」との記載も,具体的なものではなく,原告の職場環境について具体的な印象を抱くことはできない,〔3〕「商社という名前に騙されないで下さい。この会社は,ただ商品を販売している会社。あくまでも卸売業です。」との記載も,一般の閲覧者は本件投稿者が原告を卸売業と考えているということの印象を受けるのみであり,卸売業であるからといって社会的評価が低下するものではない,〔4〕「クレームとかすごいんだろーな」,〔5〕クレームについて「社員に擦り付けるんだろーなー」との記載も,記載自体からして本件発信者の推測にすぎないことが明らかであるし,その内容も抽象的なものにすぎない。
  881.  また,本件投稿は,就職や転職を考える一般の人々がその判断に役立てるためのものであり,公共の利害に関するものであるといえるし,そのような人々に原告の評価を伝えるという公益目的のためのものであるといえる。加えて,本件投稿者がホームページやブログを見て本件投稿をしていることがうかがえるから,本件投稿者が本件投稿の内容が真実であると信じたことにつき相当な理由がある可能性を否定することはできない。
  882.  以上からすれば,本件投稿には違法性阻却事由の存在がないとはいえず,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
  883. (2)争点2(正当な理由の有無)について
  884. (原告の主張)
  885.  原告は,本件投稿によって明らかに名誉権を侵害されていて,本件発信者に対して名誉権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求を求めるためには,本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の各情報を得る必要がある。なお,電子メールアドレスは,通常同居家族においても共有して利用するものではないため,実際の発信者を特定するために必要な情報である。よって,原告には別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
  886. (被告の主張)
  887.  原告の主張は否認ないし争う。原告が,本件発信者に対して名誉権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起するのであれば,発信者の住所及び氏名を取得すれば十分であり,電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえない。
  888. 第3 争点に対する判断
  889. 1 争点1(権利侵害の明白性)について
  890. (1)原告の社会的評価の低下
  891.  証拠(甲1~6)及び弁論の全趣旨によれば,本件投稿は,インターネット上の本件サイトの「□□□□□□□□□□」と題する本件スレッドに投稿されたもので,その具体的内容は,別紙情報目録の投稿内容欄記載のとおりのコメントを付したものであることが認められる。
  892.  本件スレッドにおける本件投稿を,一般の閲覧者が通常の読み方をすれば,「□□□□□□□□□□」という本件スレッドのタイトルからして原告の評判に関するものであると理解され,また,本件投稿の具体的内容については,上記別紙情報目録の投稿内容欄記載のとおりであり,原告は「ヒドい」,「汚泥船」,「顔色ばっかり伺う会社」であり,原告に就職すると「知識のない人間」になり,「全社員が会社に勤める上で必要な知識を知らない上に,全く学べない環境,会社」であるから「自分の知識の無さに愕然とする日が必ずくる…。」,原告はただ商品を販売している卸売業であるのに「商社」を名乗り関係者を「騙」している,原告に対する「クレームとかすごいんだろーな。」と,そのクレームに対する対応等は「社員に擦り付けるんだろーなー。」と思われるとの指摘をしていると理解される。
  893.  そして,その結果,一般の閲覧者は,原告について,〔1〕原告は否定的な評価しかできない会社であり,〔2〕原告の従業員は主体的に働いていない人物ばかりであるから,原告に就職しても、職業人として持つべき知識を得ることができず,〔3〕原告は自社の事業内容を偽り,外部の関係者等を騙していて,〔4〕原告は,原告に対する関係者からのクレームについて,その対応等を社員に押し付けて会社として適切な対応をしていない,そのような会社であるとの認識を有するに至ると認めることができる。
  894.  これに対し,被告は,本件投稿には原告を特定することができる情報はなく,その内容は具体的なものではなく根拠も記載されていないから,一般の閲覧者が通常の読み方をしても,原告が主張するような印象を持つとはいえない旨主張するが,本件投稿がされた本件スレッドの題名には原告の商号が明記されているのであるから,原告を特定することができるし,本件投稿の内容からすれば,一般閲覧者は原告に関して上記のとおりの印象を有するに至ると認められるから,被告の主張は失当であり採用しない。 
  895.  以上からすれば,本件投稿は,原告に対する社会的評価を低下させるものであるということができる。
  896. (2)違法性阻却事由の存否等
  897.  上記の本件投稿の具体的内容はいずれも原告の組織的属性を指摘するものであるところ,本件スレッドはその題名からして原告の評判を気にする不特定多数の人に対して原告に関する情報を提供することを目的としているものであると見ることができるが,それだけで直ちに,本件投稿が公共の利害に関する事実に関してもっぱら公益を図る目的のために投稿されたものと認めることはできないというべきであるし,証拠(甲5,6)及び弁論の全趣旨によれば,原告は環境事業,販促事業,教育事業,健康事業を中心として事業を展開している会社であるところ,原告の従業員はすべて主体的に働いていない人物ばかりであって,原告に就職しても,職業人として持つべき知識を得ることができないとか,原告に対する関係者からのクレームへの対応等を社員に押し付けて会社として適切な対応をしていないという事実はないことが認められる。また,本件において,その他本件投稿の違法性を阻却する事由の存在をうかがわせる事由を認めるに足りる証拠もない。
  898. (3)小括
  899.  以上からすれば,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されたことは明らかである。
  900. 2 争点2(正当な理由の有無)について
  901.  上記1で認定判断したとおり,本件投稿によって原告の名誉権が侵害されていることが明らかであると認められるところ,原告は,本件発信者に対して損害賠償請求するために,被告に対して本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求めているのであるから,原告には,本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。なお,被告は発信者の電子メールアドレスは発信者情報には該当しない旨主張するが,法4条1項柱書にいう「発信者情報」は同かっこ書の総務省令(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)は発信者の電子メールアドレスを発信者情報として定めているし,本件投稿をすることができ得る電子端末機の一般的使用状況に鑑みれば,電子メールアドレスも実際の発信者を特定するために必要な情報であるということができる。よって,原告には別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
  902. 3 結論
  903.  以上の次第で,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
  904. 東京地方裁判所民事第49部
  905. 裁判官 佐久間健吉
  906.  
  907. (別紙)発信者情報目録
  908.  別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
  909. 1 氏名又は名称
  910. 2 住所
  911. 3 電子メールアドレス
  912. (別紙)情報目録
  913.  
  914.  
  915.  
  916.  《全 文》
  917.  
  918. 【文献番号】25540197  
  919.  
  920. 損害賠償請求事件
  921. 東京地方裁判所平成25年(ワ)第13802号
  922. 平成27年3月27日民事第11部判決
  923. 口頭弁論終結日 平成27年2月6日
  924.  
  925.        判   決
  926.  
  927. 原告 株式会社レガシィ
  928. 上記代表者代表取締役 A
  929. 原告 税理士法人レガシィ
  930. 上記代表者代表社員 A
  931. 上記両名訴訟代理人弁護士 八代徹也 木野綾子
  932. 被告 B
  933. 上記訴訟代理人弁護士 ○○○○ 今村邦雄
  934.  
  935.  
  936.        主   文
  937.  
  938. 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
  939. 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
  940.  
  941.  
  942.        事実及び理由
  943.  
  944. 第1 請求
  945. 1 被告は,原告株式会社レガシィに対し,200万円及びこれに対する平成25年6月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
  946. 2 被告は,原告税理士法人レガシィに対し,200万円及びこれに対する平成25年6月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  947. 3 訴訟費用は被告の負担とする。
  948. 4 仮執行宣言
  949. 第2 事案の概要
  950.  本件は,原告らにおいて,被告に対し,被告が原告らの業務上の機密を第三者に漏洩したとして,労働契約上の機密保持義務違反による債務不履行に基づく損害賠償として各々200万円の支払に加え,原告株式会社レガシィ(以下「原告会社」という。)においては訴状送達日の翌日(平成25年6月2日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,原告税理士法人レガシィ(以下「原告法人」という。)においては訴状送達日の翌日(前同日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
  951. 1 前提となる事実
  952. (証拠等により認定した場合は,適宜,認定に供した証拠等を掲記する。)
  953. (1)当事者
  954. ア 原告会社は,金融,財務,その他の資産の管理及び運用に関する総合コンサルティング業務,経営コンサルティング業務,会計事務代行業務等を目的とする株式会社であり,原告法人は,他人の求めに応じ,租税に関し,税理士法2条1項に定める税務代理・税務書類の作成及び税務相談に関する事務等を行うこと等を目的とする税理士法人である。
  955. (弁論の全趣旨)
  956. イ 被告は,平成22年1月1日,原告法人及び原告会社のそれぞれとの間において,雇用契約を締結した。そして,被告は,同日から同年9月30日までの間,原告らの下で税務スタッフとして就労していた。
  957. (自白事実)
  958. (2)原告らの就業規則
  959.  原告会社は「社員就業規則」(甲1),原告法人は「従業員就業規則」(甲2)という名の就業規則を設けており,これら原告らの就業規則には,いずれも次の規定がある(掲記したのは社員就業規則であり,従業員就業規則では「社員」が「従業員」,「会社」が「法人」になる。)。
  960. 第31条(服務心得) 社員は,常に次の事項を守り服務に精励しなければならない。
  961. 2.自己の職務上の権限を越えて専断的なことを行わないこと
  962. 4.会社の業務上の機密および会社の不利益となる事項を他に洩らさないこと
  963. 5.会社の…製品および書類は丁寧に取扱い,その保管を厳重にすること
  964. 6.許可なく職務以外の目的で会社の設備,車両,機械器具その他の物品を使用しないこと
  965. (甲1,2)
  966. (3)被告による内部データの持ち出し
  967. ア 原告らは,税務スタッフであるC(以下「C」という。)らに対し,「集計シート」と呼ばれるデータを作成させていた。
  968.  この集計シートは,原告らの従業員各自について,担当する顧客名を被告の業務ごとに整理し,一部には報酬金額の時間単価を記載した欄を設けたうえ,当該従業員がその顧客からの受任業務を処理するのに費やした作業時間数が日々の欄に記載されている表形式の文書である。
  969. (甲3,弁論の全趣旨)
  970. イ 被告は,その雇用期間中である平成22年1月1日から同年9月30日までの間に,原告ら管理のサーバ上のフォルダから,既に退職していたCほか数名の元従業員に係る「集計シート」(以下「本件データ」という。)を自己のUSBにダウンロードし,これを原告らの事務所から持ち出した(以下「本件持出行為」という。)。
  971.  被告は,原告らを退職後,本件データをCに渡した(以下「本件交付行為」といい,本件持出行為と併せて「本件漏洩行為」という。)。
  972. (甲3,5,弁論の全趣旨)
  973. (4)本件データの別件における利用
  974. ア 原告らの従業員であったCらは,平成23年中に,原告らに対し,未払残業代の支払を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成23年(ワ)第31346号,第31376号残業代請求事件。以下「別件訴訟」という。)。
  975.  別件訴訟においては,本件データをプリントアウトした書面(甲3)が,Cらの労働時間に係る主張を根拠づける書証として提出された。
  976. (甲3,5,弁論の全趣旨)
  977. イ 被告は,平成24年6月2日,原告らに対し,未払残業代の支払を求める訴えを提起した。
  978. (弁論の全趣旨)
  979. (5)原告らによる本件漏洩行為の認知
  980.  原告らは,別件訴訟の証拠として,本件データを書証として印字した書面を平成23年12月6日に受領し,平成24年12月14日の口頭弁論期日において,Cが被告から本件データを入手したことを知った。
  981. (甲4,5,弁論の全趣旨)
  982. 2 争点
  983. (1)被告につき原告らの各就業規則31条4号違反の行為が存するか
  984. ア 被告に機密等保持義務があるか(争点1)
  985. イ 本件データは業務上の機密に該当するか(争点2)
  986. ウ 本件漏洩行為は債務不履行となる漏洩行為に当たるか(争点3)
  987. エ 本件漏洩行為について違法性阻却事由があるか(争点4)
  988. (2)被告につき原告らの各就業規則31条2号,5号,6号違反の行為が存するか(予備的主張)(争点5)
  989. (3)原告らの損害が認められるか(争点6)
  990. 3 争点に関する当事者の主張
  991. (1)争点1(被告に機密等保持義務があるか)について
  992. (原告ら)
  993. ア 原告らの各就業規則の内容は,被告を含む従業員に周知されていたから,原告らと被告との間の各労働契約の内容となっていた。
  994.  原告会社は,平成22年1月13日,自己の就業規則(甲1)を添付したメールを統括管理部長名で全従業員に一斉送信した。その宛先の中には被告も含まれていた。
  995. イ 労働者及び使用者は,労働契約を遵守するとともに,信義に従い誠実に,権利を行使し,及び義務を履行しなければならないのであり,かかる要請に基づく付随義務として,労働者は機密保持の義務を負うところ,漏洩の対象となった機密の保持者である原告らからすれば,労働者の退職の前後を問わず,漏洩にかかる被侵害利益は同様であり,その義務は退職後であっても存続する。すなわち,被告も,その退職後においても機密保持の義務を負う。
  996. ウ 本件漏洩行為が違法なものであることは,税理士法の規定からも明らかである。すなわち,税理士法54条は,税理士法人の使用人その他の従業者は,正当な理由がないのに業務上知り得た秘密を漏洩又は盗用してはならないこと,また,このことは当該税理士法人の使用人その他の従業者でなくなった後においても同様であることを規定しており,同条の違反行為については罰則が設けられている。このような規定の存在を前提とすれば,原告らと被告との間の労働契約においても,退職後においても機密保持の義務を負うことは明らかである。
  997. (被告)
  998.  原告らの就業規則の内容は,以下のとおり,原告らと被告との間の労働契約の内容となっていない。
  999. ア(ア)原告法人の就業規則は,被告が原告を退社した1年後に作成され,千代田区を管轄する中央基準監督署に届け出られたものであるから,被告在職中における被告ら従業員に対する周知はあり得ないのであって,被告との労働契約の内容にはなっていない。
  1000. (イ)原告会社の就業規則の存在は,被告の在勤中,従業員に周知されていなかったし,被告も知らなかったのであるから,被告との労働契約の内容にはならない。
  1001. イ 被告は,平成22年9月30日に原告らを退職しており,その際,被告と原告らとの間において,被告が機密等保持義務を退職後負担することについての合意をしていない。
  1002. ウ 税理士法54条により被告が労働契約上の機密保持義務を負うとする点は争う。同条の規定は存在するが,本件データは,後記(2)のとおり,業務上の機密に当たらないものであるから,業務上知り得た秘密には当たらない。
  1003. (2)争点2(本件データは業務上の機密に該当するか)について
  1004. (原告ら)
  1005.  就業規則の「業務上の機密」の要件は,秘密管理性,非公知性,有用性の3点が認められることであるところ,本件データは,正社員として原告らからID及びパスワードによってアクセス権限を付与された従業員でしかアクセスできないイントラネット上のフォルダに保管されていたものであり,秘密管理性が存在するものであった。
  1006.  本件データの内容は,特定の従業員の担当している顧客名,依頼内容,報酬の時間単位,その月に費やした顧客ごとの作業時間等が記載されており,顧客の個人情報であるとともに,原告らにとっては同業者等には知られては困る経営上の機密情報であって,非公知性及び有用性の存在するものであった。そして,漏洩された場合,本件データが流出することによって,顧客に報酬額に関する誤解が生じたり,同業者によって不当な競争が仕掛けられたりするおそれがある。
  1007.  これらによれば,本件データは,業務上の機密に当たるものといえる。
  1008.  なお,本件データは,各々の従業員が作成するものであるとしても,当該作成した従業員が退職した後には,当該従業員に交付してよい性質のものでないことは明らかである。退職者は,本件データへのアクセス権限が失われ,そのIDとパスワードは無効化されている。
  1009. (被告)
  1010.  原告らの主張するように,就業規則の「営業上の機密」に該当するというためには,秘密管理性,有用性,非公知性の3つの要件を満たすものであることが必要であるが,本件データは秘密管理性,有用性の要件を満たすものではなかった。
  1011.  すなわち,秘密管理性として,当該情報が当該企業において明確な形で秘密として管理されていることが求められるところ,本件データは,従業員であれば誰であっても,仮にそうでなくても正社員及び役員はすべてアクセスできるサーバ上のフォルダに保存されていたのであって、正社員及び役員がアクセス可能な情報のうち,秘密として管理されるべき情報がその他の情報と明確に区別されていないうえ,原告ら自らが正社員でもアクセスすることのできないデータが存在していたというように,本件データは重要度の低い情報であった。秘密管理性は認められない。
  1012.  また,有用性という観点からも,本件データの内容は,何ら他に特定の要素の存在しない名前,報酬という項目とともに,単価が不明なために実際の報酬額の算出過程が不明で,原告らの料金設定方法を知ることのできない数値,「遺クリ」など原告らでしか通用しない略語の記載からなっているにすぎず,そこには事業活動上に有用な技術又は営業上の情報は何ら記載されていないといえる。有用性は認められない。 
  1013.  なお,原告らは,本訴及び被告が原告らに対して割増賃金等を求めた別訴において,本件データを印字した集計シート(甲3〔別訴における乙17〕)をマスキングの処置をすることもなく自ら提出している。本件データに秘すべき情報がないことの証左である。
  1014. (3)争点3(本件漏洩行為は債務不履行となる漏洩行為に当たるか)について
  1015. (原告ら)
  1016.  本件漏洩行為は,原告らの保有する業務上の機密を他に洩らしたものとして,原告らの各就業規則の31条4号に該当する行為である。
  1017.  なお,被告の後記立論は,退職者において,自分の在職期間中に作成したり読んだりしてその内容を知っている書類やデータでありさえすれば,退職後であっても,何時でも現職の従業員からそれを入手し,それを何らかの証拠として他者に示すことができるという非常識なものである。
  1018. (被告)
  1019.  漏洩とは,いまだその情報の内容を知らない第三者に情報を伝達することをいうところ,本件で被告が本件データに係る集計シートを交付した相手方は,集計シートとして本件データを作成した作成者自身であり,本件データの内容は専ら労働時間であるから,交付を受けた労働者が一番その内容を熟知している者である。
  1020.  そして,これらの交付を受けた相手方は,自らの未払残業手当の支払を請求するための証拠資料として必要としていたにすぎないのであり,実際にも,原告らは,被告のほか,Cら複数の従業員から未払残業代の支払を求める訴えを提起されていたのであり,その別件訴訟において,当該訴訟の原告らから,本件データを印字したものが労働時間算出の根拠となる証拠として提出されたにすぎない。
  1021.  本件交付行為は,原告らの就業規則31条4号には該当しない行為である。よって,債務不履行となる漏洩行為にはならない。
  1022. (4)争点4(本件漏洩行為について違法性阻却事由があるか)について
  1023. (被告)
  1024.  本件データをCに渡した本件漏洩行為については,次のとおり,目的の正当性及び行為態様の相当性があることから,違法性は認められない。
  1025. ア 本件交付行為に係る目的の正当性
  1026.  Cは,原告らに対する残業代を請求する別件訴訟の提起を企図し,被告に対し,そのことを告げるとともに,本件データの提供を依頼したことから,被告は,その目的にのみ使用することを確認し,これに応じたものである。その際,被告は,Cの原告らに対する正当な権利の行使を補助するという正当な目的をもって,本件漏洩行為を行った。被告は,原告らがCに本来支払うべき残業代に関する資料をCに提供したにすぎず,そこには原告らに対する加害意思はない。もちろん,本件データの利用によって残業代を支払うことになっても,それを原告らの損害ということはできない。
  1027. イ 行為態様の相当性
  1028.  被告は,本件交付行為に当たって,Cに対し,本件データの利用目的を残業代請求のための資料として用いることに限定していた。Cは,受け取った本件データを別件訴訟において利用したのであり,第三者にコピーを取って渡すなどしていない。
  1029.  また,別件訴訟の原告であったCは,別件訴訟において,立証上の必要性があれば,同訴訟の被告であった原告らに対し,本件データを印字した文書について文書提出を請求し得る地位あった。
  1030. ウ 文書提出命令の対象文書性
  1031.  訴訟において,時間外労働,深夜労働,休日労働の時間が争点となり,他の証拠の存否・提出状況によって証拠調べの必要性が肯定される場合において,本件データについての文書提出命令の申立てがあったときには,本件データが民訴法220条4号イないしホのいずれにも該当せず,かつ,同条3号後段に該当するので,文書提出義務が認められる。
  1032. (原告ら)
  1033.  否認し,かつ,争う。
  1034. ア 本件漏洩行為が違法なものであることは,税理士法の規定からも明らかである。すなわち,税理士法54条は,税理士法人の使用人その他の従業者は,正当な理由がないのに業務上知り得た秘密を漏洩又は盗用してはならないこと,また,このことは当該税理士法人の使用人その他の従業者でなくなった後においても同様であることを規定しており,同条の違反行為については罰則が設けられている。このような税理士法の規定からも,被告の行為が違法であることは明らかである。
  1035.  なお,被告は本件データの利用を訴訟での利用に限定したとするが,本件データが流出することによって,顧客に報酬に関する誤解が生じたり,同業者によって不当な競争が仕掛けられたりするおそれがある。
  1036. イ 集計シートは,挙証者であるCと原告らとの間の法律関係それ自体を記載した文書でもなければ,その法律関係に関係のある文書でもなく,また,法律関係形成過程で作成された文書でもないから,民訴法220条3号後段の法律関係文書に該当しない。むしろ,専ら文書の所持者の利用に供するための文書に該当する。仮に,別件訴訟において,提出を求められたとすれば,顧客情報が記載されていない別の資料として,例えば出勤簿の提出を選択したはずである。
  1037. (5)争点5(被告につき原告らの各就業規則31条2号,5号,6号違反の行為が存するか)について
  1038. (原告ら)
  1039.  本件漏洩行為は,仮に,原告らの各就業規則31条4号所定の行為に該当しないものであるとしても,同条2号,5号及び6号に該当する行為である。
  1040. (被告)
  1041.  本件漏洩行為ないし本件交付行為は,原告らの就業規則31条2号,5号及び6号のいずれにも該当しない行為である。
  1042. (6)争点6(原告らの損害が認められるか)について
  1043. (原告ら)
  1044. ア 原告らは,平成24年12月14日以降,本件漏洩行為という債務不履行行為によって,原告らの代表者であるA(以下「A」という。)を含む役員らを中心として,誰がどのような範囲・態様で機密情報を漏洩したかについて調査し,データ管理方法を強化する必要に迫られた。
  1045. イ 原告らの代表者であるAは,上記の原告らが取らざるを得なくなった作業に少なくとも80時間従事することになり,その時間について別紙掲記の本来の税務・営業活動等に従事することができなくなった。
  1046. ウ Aが上記80時間分の本来の税務・営業活動等に従事することができなくなったことで,失われた原告らの損害の額は400万円(時間単価5万円)を下らない。
  1047. エ Aの原告ら各自に対する貢献度は,50対50と同程度であるところ,被告の債務不履行に基づく原告らの損害賠償請求権は可分債権であるから,原告らは,各自200万円の損害を被ったものとして,同額の損害賠償請求権を取得する。
  1048. (被告)
  1049.  否認する。原告らは,Aが「本来の税務・営業活動等」に従事することにより利益を得る機会を,本件作業に従事した結果喪失したと主張するが,次のとおり,理由がない。
  1050. ア 得べかりし利益の前提となる「本来の税務・営業活動等」の具体的な内容についての特定がない。
  1051. イ 原告の主張する80時間の労務については,その労務が行われた日時の特定がなく,裏付けとなる証拠もない。
  1052. ウ 原告らが行ったとする作業は,以下のとおり,本件漏洩行為と相当因果関係のある作業ではない。
  1053. (ア)本件データを印字した集計シート(甲3)は,有用性が認められず,また,別件訴訟における労働時間の立証のために提出されたという経緯(甲8)から考えて,集計シートの利用目的が原告らに対する残業代請求にあることは明らかであり,それ以外の用途に用いられたこともない。原告らが主張するような調査・対策を講ずる必要性はなかった。実際,原告らは,集計シートが送付された平成23年12月6日から1年以上経った平成24年12月14日以降に調査を開始していて,その間にCに対し,入手ルートの確認を行うこともなかった。
  1054. (イ)また,原告らの行った作業は,それを実施する必要性を別にすれば,原告ら内部における将来に向けた情報管理の在り方についての検討作業であり,原告らの業務内容に属するものであり,それ故,それに費やした時間も原告らの経営判断に基づくものである。
  1055. (ウ)さらに,調査等の実施時期も考え合わせれば,上記作業は,Cとの間の別件訴訟における和解交渉の準備として行われた作業であった。
  1056. エ 時間単価5万円についても,裏付けとなる証拠がない。
  1057. オ 原告らの損失は,Aの原告らに対する貢献度が50対50のため,均等に帰属するとするが,その根拠は何ら明らかではない。
  1058. カ そもそも集計シートと原告会社との間にいかなる関係があり,集計シートの漏洩が原告会社の損害にどのように繋がるのかについて主張されていないため,不明である。
  1059. 第3 当裁判所の判断
  1060. 1 争点1(被告に機密等保持義務があるか)について
  1061. (1)原告らと被告との間の労働契約の締結の際に,原告らの各就業規則31条の内容に対応するような合意が交わされたことを認めるに足りる証拠はない。そこで,原告らの各就業規則31条の規定内容が原告らと被告との間の各労働契約の内容となっていたかどうかを判断する前提として,就業規則の存在及びその内容が従業員に対して周知されていたことが認められるかを検討する。証拠(甲1,6の1・2,甲7)及び弁論の全趣旨によれば,原告会社においては,平成22年1月13日,社員就業規則が存在し,これの磁気データを添付したメールを統括管理部長名で全従業員に一斉送信し,その宛先の中には被告も含まれていたことが認められるが,原告法人においては,被告の在籍期間中に,従業員就業規則が存在したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告会社においては,社員就業規則31条の内容が被告との間の労働契約の内容となっていたといえるが,原告法人においては,従業員就業規則31条の内容が被告との間の労働契約の内容となっていたといえない。原告法人の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。
  1062. (2)また,原告会社は,労働契約の権利義務の内容には,社員就業規則の規定する労働者は機密保持の義務も含まれるところ,この労働者の機密保持義務は,当該労働契約の付随的義務として,労働者の退職後にも効力を及ぼす旨を主張する。しかし,労働契約の終了とともに同契約上の義務も終了するのが原則であり,不正競争防止法(2条1項7号,6項)も不法行為法の特別法として信義則上の守秘義務を認めたものと解されることを併せ考慮すると,信義則に基づく在職中の守秘義務は,原則どおり労働契約の終了とともに消滅すると解されるから,退職者の守秘義務の根拠としては,労働契約上の明確な根拠(秘密管理規定ないし守秘契約)が必要であるというべきである。そうすると,原告会社において退職後の従業員に対し守秘義務を負わせる根拠となる秘密管理規定が就業規則上定められていたり,守秘契約が締結されていたりしたことを認めるに足りる証拠はないから,原告会社を退職した被告について,退職後も就業規則31条の内容と同様の守秘義務を負うものとは認められない。
  1063.  そうすると,原告会社に対し,退職後も信義則上の付随義務として就業規則と同内容の機密保持義務を負うとする原告会社の主張は採用することができない。
  1064. (3)もっとも,本件においては,被告が,本件漏洩行為のうち本件持出行為を雇用期間中に行ったうえ,本件交付行為を退職後に行っていることから,就業規則の禁止規定が本件漏洩行為ないし本件交付行為に適用することができるものであるのか否かを検討する必要がある。思うに,退職後に機密保持の内容となっている情報を不当に開示する目的で,雇用期間中に当該情報を勤務先から持ち出した場合,雇用期間中に就業規則違反という債務不履行行為に着手しているのであり,その後は,労働契約上の機密保持義務を負わないという点で身分ない自己を道具としてその目的を達しようとするものであると評価できることから,本件漏洩行為は,本件交付行為の部分も含めて,労働契約上の機密保持義務の適用を受けるものと解すべきである。
  1065. (4)なお,原告らは,労働契約上の合意や就業規則の効力とは別に,税理士法54条の規定を根拠として,被告において,退職後も労働契約上の義務として機密保持義務を負うとするが,当該規定は行政法規上の規制を税理士法人の使用人その他の従業者に及ぼすことを目的とする規定であって,直ちに労働契約の内容を構成するものではないと解すべきであり,また,原告らの就業規則上,同条の規定内容を就業規則に取り込むとするような規定も見当たらないことから,原告らの主張は採用することができない(労働契約違反による債務不履行責任ではなく,同条項違反の違法行為による不法行為責任の成否を検討すべきものである。株式会社である原告会社の主張は,税理士法人でないものが税理士法人に関する規定を援用するものであり,失当である。)。
  1066. 2 争点2(本件データは業務上の機密に該当するか)について
  1067.  在職中の労働者は,労働契約上の信義則に基づく誠実義務として,当然に,業務上知り得た企業の機密をみだりに開示しない義務を負うところ,本件就業規則は,この義務を機密保持義務として明文化したものと解される。そして,ここで機密保持義務の対象となる機密は,不正競争防止法上の営業秘密よりも広い範囲のものとなり得るが,同時に,その守秘義務の範囲が無限定なものとなり,過度に労働者の権利ないし利益を制限したり,情報の取扱いについて萎縮させることのないように,その範囲を限定されると解される。ある情報をもって「営業上の機密」というためには,当該情報の属性として,機密の本来的な語義からしていまだ公然と知られていない情報であり(非公知性),当該企業の活動上の有用性を持つこと(有用性),そのうえで当該情報が当該企業において明確な形で秘密として管理されていること(秘密管理性)が必要であると解すべきである。以下,本件データについて検討する。
  1068. (1)非公知性
  1069.  非公知性とは,当該情報がいまだ公然と知られていない情報であることをいうところ,前提となる事実(3)アのとおり,本件データは,原告らの従業員の労働時間数に留まらず,原告らの顧客の名称,原告らが受任した業務に関する報酬を内容としている点で,原告会社内部における情報を記載したものであって,後記(3)に認定したとおり,当該情報を保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあるという本件データの管理体制に照らすと,本件データの非公知性を認めることができる。
  1070. (2)有用性
  1071.  有用性とは,正当な事業活動を行ううえで客観的な経済価値を有することをいい,製品の設計図や製法などのような技術的情報のみならず,顧客名簿,営業マニュアル等の営業情報も含むと解されるところ,前提となる事実(3)アのとおり,本件データには顧客の名称,一部の顧客に関する報酬の時間単価が記載されていることから,その有用性を否定することはできない。
  1072.  なお,被告は,前提となる事実(5)のとおり,別件訴訟の証拠として,本件データを書証として印字した書面を平成23年12月6日に受領していながら,約1年後に,Cが被告から本件データを入手したことを知るまで,調査等に着手していなかった経緯があり,そのことは,本件データが重要なものではなかったことを意味する旨の主張をするが,有用性のある非公知の情報が流出したとしても,それに対してどのような対応を取るかは,流出した情報の内容・量,流出により拡散した範囲,当該情報の重要さ等の諸要素を踏まえて,経営上の判断によって決められるものであり,被告主張のような事情があったとしても,ただちに本件データの有用性を否定することになるものではない。
  1073. (3)秘密管理性
  1074.  営業秘密における秘密管理性とは,情報・秘密へのアクセスの人的・物理的制限(アクセスの管理),情報・秘密の区分・特定・表示(秘密の客観的認識可能性),これらの管理を機能させるための組織の整備(組織的管理)の諸点を総合して判断すべきものであるところ,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,原告らの本件データの管理体制については,次のとおりに認めることができる。
  1075.  すなわち,原告らは,部外者がアクセスできないように構築されたイントラネット内に本件データを含む各種データを保管し,従業員には,事務所内に設置されたパソコンから保管されたデータにアクセスさせながら執務させている。この原告ら事務所内に設置されているパソコンを従業員が起動するには,従業員各自が与えられているパソコン用のIDとパスワードを入力する必要がある。このIDとパスワードは,原告らのイントラネット内のフォルダに保存されている各種データのうち,当該従業員がアクセスを許されているものとそうではないものとを識別する役割を果たしている。その識別は,イントラネット内にアクセスする際に改めてIDやパスワードを入力させるのではなく,どのIDとパスワードでパソコンを起動させたかによって自動的にされる。そして,本件データを含む集計シートのデータのように機密性の高いものについては,アクセス可能なのは正社員及び役員のみであり,パート・アルバイトや派遣スタッフはアクセスすることができない。
  1076.  そうすると,本件データは,秘密として管理されていたものと解すべきである。
  1077.  以上によれば,就業規則に規定された本件データは業務上の機密に該当するものということができる。
  1078.  なお,被告は,正社員である被告にもアクセスできないデータや,パート・アルバイト及び派遣スタッフでもアクセスできるデータというものも存在していることを指摘するが,そのことは上記の認定を左右するものではない。また,被告は,原告らが本件データを本訴等において証拠提出しているから営業上の機密に当たらないとも主張するが,営業上の機密をどのような場合に開示するかは,営業上の機密の保有者である原告らにおいて,当該情報を開示することにより拡散が想定される範囲,当該情報の重要さ等の諸要素を踏まえて経営上の判断によって決すべき問題であるから,証拠として提出したことが直ちに機密性の有無を左右するものとはいえず,この点の被告の主張も採用することができない。
  1079. 3 争点3(本件漏洩行為は債務不履行となる漏洩行為に当たるか)について
  1080.  漏洩とは,いまだその情報の内容を知らない第三者に情報を伝達することをいうところ,既にその情報を熟知する者に交付するものであっても,その者が提供した情報をさらにその情報の内容を知らない第三者に伝達することが当然に予定されているような場合には、漏洩したことになるというべきである。そして,公開の法廷で行われる訴訟に利用することを前提とした情報の提供も,その情報の内容を知らない第三者に伝達することが当然に予定されている場合として,漏洩に当たるものというのが相当である。したがって,本件交付行為は,本件漏洩行為の一部分を構成するものとして,原告会社の就業規則31条4項に違反する債務不履行行為となる。
  1081. 4 争点4(本件漏洩行為について違法性阻却事由があるか)について
  1082.  機密保持義務を負う場合にその対象となる情報・秘密を開示したとしても,当該情報を開示することに正当な理由があり,かつ,当該情報の取得が社会通念上著しく相当性を欠く方法でされたものではない場合には,当該開示行為の違法性が阻却されるものと解すべきところ,被告は,原告らに対する別件訴訟を提起することを企図していたCから依頼されて本件漏洩行為を行ったのであり,Cの原告らに対する正当な権利の行使を補助するという正当な目的をもっていたことが違法性阻却事由の評価根拠事実となることを主張する。 
  1083.  そこで検討するに,証拠(甲4,5)によれば,Cは,原告らを退職した後に,他人から誘われて残業代を請求する別件訴訟を提起することを決意したこと,その他人が何人分かの本件データを印字した書類やタイムカード等の資料を持っていたこと,その他人からCは本件データを含む証拠の提供を受けたこと,Cは,別件訴訟において,その他人について被告とかDという名前であることを証言していること,同時期に原告らに残業代を請求する訴訟を提起したEも,被告やDに誘われて訴訟提起を決意したことが認められるのであり,これらの事実からすると,被告は,原告らを退職する前に,Cらを誘って原告らに対する残業代請求訴訟を提起することを企図し,その際の証拠とすべく,本件持出行為を行い,退職後に,Cらを誘って,残業代請求訴訟を提起することを決意させるとともに,本件交付行為を行ったことが推認されるのであり,そうであれば,Cからの依頼を受けて,その正当な権利行使を補助しようとして本件交付行為ないし本件漏洩行為を行ったとする被告主張のような事実はそもそも認められないことになる。して参ると,その余の点を判断するまでもなく,被告による本件漏洩行為が正当行為であるとの主張は,理由がないことになる。
  1084. 5 争点5(原告らの損害が認められるか)について
  1085.  上記のとおり,被告による本件漏洩行為については原告会社の就業規則31条4号に違反するものと認められるので,争点5に係る原告会社の予備的主張(仮定的主張)については検討しない。
  1086. 6 争点6(原告会社の損害が認められるか)について
  1087.  原告会社は,代表取締役であるAにおいて,本来の税務・営業活動等に従事することができなくなった時間が生じ,その時間に別紙記載の各項目の業務を行うことができなくなって,利益を喪失したことを主張する。
  1088.  そこで検討するに,確かに,証拠(甲8,10ないし12,原告ら代表者本人)及び弁論の全趣旨(平成25年11月26日付け準備書面)によれば,本件漏洩行為への対応として,原告らにおいては,〔1〕原告らの代表者A,原告会社のF専務取締役,G取締役(統括管理部部長)らが中心になって,誰がどのような範囲・態様で機密情報を漏洩したのかにつき当時の関係者らに聞いて調査したり,データ管理方法をデバイス制限によって強化したりせざるを得なかったこと,〔2〕Cとの和解交渉の席で同人を問い詰めるために代理人と打合せをしたり,準備書面作成のための事前打合せ,裁判に提出していないものも含めて各種資料作成をしたことは認められる。そして,Aにおいて,上記〔1〕及び〔2〕の作業に223時間を費やしたことを供述する(甲10,原告ら代表者本人)。
  1089.  しかしながら,更に進んで検討するに,上記〔1〕の作業については,Aにおいて,具体的に如何なる作業を行い,その個々の作業について如何ほどの時間を費やしたのか,作業内容及び時間数を特定しこれを認定するに足りる主張及び証拠はない(原告会社は,Aの陳述書(甲12)に同人作成の手帳の記載を基に業務時間の一覧表を作成し,添付するが,これをもっても上記の認定を左右するものではない。)。また,上記〔2〕の作業については,時間外手当の不払いがあるとしてその支払を請求される別件訴訟に応訴したことに伴って当然かつ本来的に対応すべき範囲を超えた何らかの対応がされたものであることを認めるに足りる証拠はない(Aは,本訴請求の基礎とした80時間の業務時間のうち32時間について,平成23年2月10日から同月27日までの打合せ時間であり,被告に関連して生じたものであると供述するが(甲12),前提となる事実(5)のとおり,本件データが証拠化されたものを原告らが受領したのは同年12月6日であるなど,その供述はにわかに採用することができないといわざるを得ない。)。
  1090.  しかも,仮に何らかの必要な作業が主張に係る時間をかけて行われたものと措定するとしても,その対応に費やした時間内において処理することが予定されていたAの担当業務のうち,Aによる直接の処理ができなくなったことによって原告らとして業務を受任等する機会を逸し,あるいは代行者による処理をしたことにより収益が減少することになった具体的な業務の内容(別紙記載1,3,4)や,現実にAの同行営業活動により具体的に獲得することのできたであろう具体的な業務(別紙記載2)等々は何ら明らかでなく,それは別紙記載の他の項目についても同様であるだけでなく,実際に処理することができなくなった別紙記載の各項目に係る具体的な業務が存在するものと仮定したとしても,そのように処理ができなくなった業務により具体的な因果関係をもって発生した逸失利益及びその数額を認めるに足りる証拠も全くない。
  1091.  そして,上記の原告会社の立証状況に照らすと,原告会社主張の損害は,民法248条にいう「損害が生じたことが認められる場合」という程度に立証されておらず,また,そもそも「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき」に当たるものでもないから,同条による相当な損害額の認定もできない。
  1092.  そうすると,原告会社の損害を認定することができない。
  1093. 第4 結論
  1094.  以上によれば,原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
  1095. 東京地方裁判所民事第11部
  1096. 裁判官 佐々木宗啓
  1097.  
  1098. (別紙)
  1099. 1 セミナー・研修会講師(原告会社・原告法人)
  1100. 2 担当者との営業同行(原告会社・原告法人)
  1101. ※ 重要案件受注活動
  1102. 3 案件の税務相談・判断業務(原告法人)
  1103. ※ 相続税申告業務,法人税申告・会計業務等
  1104. 4 案件の経営者相談・判断業務(原告会社)
  1105. ※ 営業,通信販売,不動産仲介,建築紹介等
  1106. 5 新サービス開発(原告法人)
  1107. ※ 税務に関するサービス
  1108. 6 新商品開発(原告会社)
  1109. ※ 通信販売,不動産関連
  1110. 7 通信販売企画(原告会社)
  1111. ※ CD・DVD,マニュアル等の商品企画,講師検討
  1112. 8 書籍執筆(原告会社・原告法人)
  1113. ※ 税務,経営等に関する書籍の執筆(販促ツールとしての書籍利用も含む。)
  1114. 9 取材・広報活動(原告会社・原告法人)
  1115. 10 経営計画立案(原告会社・原告法人)
  1116. 11 人事(原告会社・原告法人)
  1117. ※戦略,採用,人事制度・規則
  1118.  
  1119.  
  1120.  
  1121.  《全 文》
  1122.  
  1123. 【文献番号】25525837  
  1124.  
  1125. 発信者情報開示請求事件
  1126. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第31946号
  1127. 平成27年4月28日民事第43部判決
  1128. 口頭弁論終結日 平成27年3月24日
  1129.  
  1130.        判   決
  1131.  
  1132. 原告 a
  1133. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  1134. 被告 KDDI株式会社
  1135. 同代表者代表取締役 b
  1136. 同訴訟代理人弁護士 今井和男
  1137. 同 小倉慎一
  1138. 同 山根航太
  1139. 同訴訟復代理人弁護士 横室直樹
  1140.  
  1141.  
  1142.        主   文
  1143.  
  1144. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1145. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  1146.  
  1147.  
  1148.        事実及び理由
  1149.  
  1150. 第1 請求
  1151.  主文同旨
  1152. 第2 事案の概要
  1153. 1 本件は,原告が,インターネット上のウェブサイトの電子掲示板に投稿された記事が原告の名誉を毀損することが明らかであるとして,上記投稿記事の経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,上記投稿記事の発信者情報(氏名又は名称,住所,電子メールアドレス)の開示を求めた事案である。
  1154. 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる事実)
  1155. (1)原告は,かつて,横濱浪漫館という屋号で人形等を販売する店舗を経営していたが,現在は,コルメキッサという屋号で作家やデザイナーの制作した服飾,人形等を販売する店舗を経営している(甲4から7まで)。 
  1156. (2)氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は,平成△△年△月△△日,インターネット上のウェブサイトの「□□□□□□□□□□」と題する掲示板(以下「本件掲示板」という。)に,別紙情報目録記載の記事(以下「本件投稿記事」という。)を投稿した(争いなし)。
  1157. (3)被告は,上記(2)の投稿に係る「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(法4条1項)に該当する(争いなし)。
  1158. (4)被告は,本件投稿記事が投稿された際の経由プロバイダであり,契約者情報として,本件投稿記事の投稿に使用されたIPアドレス使用者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの情報を保有している(弁論の全趣旨)。
  1159. 3 争点及びこれに関する当事者の主張
  1160. (1)権利侵害の明白性
  1161. (原告の主張)
  1162.  本件投稿記事には,原告について,「コルメキッサ垢見てると変な人だと思う デザイナー脅したり」と記載されており,その内容は,一般の読者をして,コルメキッサという屋号で店舗を経営する原告が,デザイナーを脅すという違法行為に及んでいると誤信させるものであり,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1163.  また,本件投稿記事の内容は真実ではないし,一私人に関する情報であって公共の利害に関する事項とはいえない上,根拠を明確に示すことなく原告を誹謗中傷するものであるから,投稿に公益目的は認められない。
  1164.  したがって,本件投稿記事の投稿によって原告の名誉が毀損されたことは明らかである。
  1165. (被告の主張)
  1166.  否認ないし争う。
  1167.  本件投稿記事には,原告の氏名,住所等原告を特定する情報は一切記載されていないから,一般の閲覧者が本件投稿記事を見て,原告に関する記載をしていると認識することはできない。
  1168.  仮に,本件投稿記事が,原告に関する記事であると認識できるとしても,本件投稿記事の内容は趣旨が不明であり,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として,原告の社会的評価を低下させるものであるということはできない。
  1169.  また,本件投稿記事の投稿は,一般の人々の関心の高い震災募金についての詐欺疑惑という犯罪事実の調査・告発を目的とするものであるから,本件投稿記事は公共の利害に関するものである上,その投稿には公益目的が認められる。
  1170.  したがって,本件投稿記事の投稿によって原告の名誉が毀損されたことは明らかであるとはいえない。
  1171. (2)正当理由の有無
  1172. (原告の主張)
  1173.  原告は,本件投稿記事の投稿による名誉毀損につき,本件発信者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するため,被告に対し,本件発信者の情報(氏名又は名称,住所,電子メールアドレス)の開示を求めるものであるから,上記情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
  1174. (被告の主張)
  1175.  否認ないし争う。
  1176.  本件投稿記事の投稿により原告の名誉が毀損されたことは明らかでないため,原告には本件発信者の情報の開示を受けるべき正当な理由はない。
  1177.  また,原告が本件発信者に対し損害賠償請求訴訟を提起するために,電子メールアドレスは必要でないから,電子メールアドレスにつき開示を求める正当な理由は認められない。
  1178. 第3 当裁判所の判断
  1179. 1 争点(1)(権利侵害の明白性)について
  1180. (1)本件掲示板は,「□□□□□□□□□□」と題する掲示板であり,同掲示板に投稿された本件投稿記事には,「ぶっちゃけコルメキッサ垢見てると変な人だと思う デザイナー脅したり」と記載されていること(前提事実(2)),原告は,かつて,横濱浪漫館という屋号で人形等を販売する店舗を経営していたが,現在は,コルメキッサという屋号で作家やデザイナーの制作した服飾,人形等を販売する店舗を経営している者であること(前提事実(1))からすると,本件投稿記事の内容は,原告に関するものであると特定できるといえる。
  1181. (2)そして,本件投稿記事は,一般の閲覧者の普通の読み方を基準とすれば,原告が,デザイナーを脅したとの事実を摘示していると理解される内容であるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1182. (3)また,本件投稿記事が摘示する,原告がデザイナーを脅したとの事実は,私人である原告の私生活上の言動に関するものであって公共の利害に関する事実と認めることはできないし,本件投稿記事において上記事実を摘示する根拠が何ら明らかにされていないことに照らすと,本件投稿記事が公益を図る目的で投稿されたと認めることはできない。したがって,本件投稿記事の投稿について違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在しない。
  1183.  この点,被告は,本件投稿記事の投稿は,一般の人々の関心の高い震災募金についての詐欺疑惑という犯罪事実の調査・告発を目的とするものであるから,本件投稿記事は公共の利害に関するものである上,その投稿には公益目的が認められると主張する。しかし,本件投稿記事の内容に鑑みると,同記事が震災募金についての詐欺疑惑という犯罪事実の調査・告発を目的とするものであるとは認められないから,被告の上記主張を採用することはできない。
  1184. (4)以上によれば,本件投稿記事の投稿によって原告の名誉が毀損されたことは明らかであるといえる。
  1185. 2 争点(2)(正当理由の有無)について
  1186.  原告は,本件投稿記事の投稿による名誉毀損につき,本件発信者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するため,被告に対し,本件発信者の情報(氏名又は名称,住所,電子メールアドレス)の開示を求めるものであるから(弁論の全趣旨),上記情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
  1187.  被告は,原告が損害賠償請求訴訟を提起するに当たり,電子メールアドレスは必要でないから,電子メールアドレスにつき開示を求める正当な理由は認められないと主張するが,電子メールアドレスも原告が損害賠償請求を行う相手方を特定し,連絡を行うのに合理的に有用な情報であって,原告の損害賠償請求権の行使のために必要な情報であると認められるから,原告には本件発信者の電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
  1188. 3 結論
  1189.  以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
  1190. 東京地方裁判所民事第43部
  1191. 裁判官 山原佳奈
  1192.  
  1193. (別紙)発信者情報目録
  1194.  別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
  1195. 1 氏名又は名称
  1196. 2 住所
  1197. 3 電子メールアドレス
  1198. (別紙)情報目録
  1199.  
  1200.  
  1201.  
  1202.  《全 文》
  1203.  
  1204. 【文献番号】25530281  
  1205.  
  1206. 発信者情報開示請求事件
  1207. 東京地方裁判所平成26年(ワ)第20849号
  1208. 平成27年5月12日民事第44部判決
  1209. 口頭弁論終結日 平成27年4月14日
  1210.  
  1211.        判   決
  1212.  
  1213. 原告 A
  1214. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  1215. 同訴訟復代理人弁護士 ○○○○
  1216. 被告 ビッグローブ株式会社
  1217. 同代表者代表取締役 B
  1218. 同訴訟代理人弁護士 平出晋一
  1219. 同 高橋利昌
  1220. 同 太田絢子
  1221.  
  1222.  
  1223.        主   文
  1224.  
  1225. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1226. 2 訴訟費用は,被告の負担とする。
  1227.  
  1228.  
  1229.        事実及び理由
  1230.  
  1231. 第1 請求
  1232.  主文と同旨
  1233. 第2 事案の概要
  1234. 1 本件は,原告がいわゆる経由プロバイダである被告に対し,インターネット上の匿名掲示板に原告が少女買春に及んだという虚偽の投稿をされ,その名誉を毀損されたとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める事案である。
  1235. 2 前提事実(当事者間に争いがない又は証拠等により容易に認められる事実)
  1236. (1)ア 原告は,株式会社インターコンシェルジュの代表取締役である。(甲2)
  1237. イ 被告は,インターネット等のネットワークを利用した情報通信サービス等の提供を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)
  1238. (2)「2ちゃんねる」は,インターネット上の多数の匿名掲示板からなるウェブサイトであるが,平成××年×月××日頃,その掲示板に「○○○○○○○○○○」という題名のスレッドが作成された。同スレッドには,別紙情報目録の「投稿日時」欄記載の日時・時刻頃に,同「レス番号」欄記載の投稿番号で,匿名で同「投稿内容」欄記載の内容の各投稿(以下「本件各投稿」という。)が同「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを利用してなされたものであった。(甲1)
  1239. (3)本件各投稿は,不特定多数の誰もが自由に閲覧できるものであり,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律2条1号所定の特定電気通信に当たり,別紙情報目録の「IPアドレス」欄記載のIPアドレスは,被告が提供するインターネット接続サービスの会員に対して割り当てられた。(争いがない,弁論の全趣旨)
  1240. (4)原告は,本件各投稿の投稿者を特定できれば,損害賠償請求又は刑事告訴の手続をとることを予定している。(甲7)
  1241. 3 争点
  1242.  権利侵害の明白性
  1243. 4 当事者の主張
  1244. (原告の主張)
  1245.  本件各投稿は,一般の読者をして原告が少女買春をしていると誤信させ,もって原告の社会的評価を低下させるものであり,公共の利害に関する事項ではなく,公益目的を欠いた虚偽の書込みであるから,原告の権利侵害は明白である。
  1246. (被告の主張)
  1247.  被告は,本件各投稿の内容について何も知らず,その真偽や違法性阻却事由の存否についても判断することができないから,原告の権利侵害が明白であるとは判断できない。
  1248. 第3 当裁判所の判断
  1249. 1 原告の権利侵害の明白性について判断するに,本件各投稿のうち,「A、少女買春をしていた」との記載部分は,いずれも原告が女子児童の買春行為に及んだという事実の摘示に当たる。当該事実は,原告が未成年者の人格を顧みず,青少年保護育成条例に違反する破廉恥な犯罪行為に及んだことを想起させるものであるから,本件各投稿が原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
  1250.  そこで,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情についてみるに,私人である原告による少女買春の事実については,これまでに捜査機関や報道機関から関心が寄せられたなどといった事情はうかがわれず,原告が代表取締役を務める株式会社インターコンシェルジュの事業内容が子育てなどを始めとする各種相談に関するコンサルティングサービスであることを考慮しても,公共の利害に関する事実には当たらないと認められる。また,本件各投稿は,その際に利用されたIPアドレス及び記載内容の類似性から同一投稿者によるものであることがうかがわれるところ,別紙情報目録の「レス番号」欄記載の×××番の投稿には,「A君,ここばかり埋めてないでほかのスレにも行かないとw」などと原告を揶揄する記載がみられる上,1つの投稿中に多数の異なるリンク先が貼り付けられており,当該リンク先の直上には全て「○○○○○○○○○○」旨執拗に記載されていることからすれば,本件各投稿は,公益を図る目的ではなく,原告の名誉をおとしめる意図をもってなされたものと優に推認される。そして,原告作成の各陳述書(甲6,7)において,原告は,少女買春に及んだことを明確に否定しており,本件全証拠を検討しても原告の陳述記載の信用性を疑うべき証拠はないから,原告が少女買春に及んだという事実が重要な部分において真実ではないものと認められる。
  1251.  したがって,本件各投稿は,原告の社会的評価を低下させる事実を摘示するものであり,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情もないことが明らかであるから,本件各投稿による権利侵害が明白であることをいう原告の主張は理由がある。 
  1252. 2 以上の次第で,原告の被告に対する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める請求は理由がある。
  1253.  よって,主文のとおり判決する。
  1254. 東京地方裁判所民事第44部
  1255. 裁判官 齋藤岳彦
  1256.  
  1257. 発信者情報目録
  1258.  別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
  1259. 1 氏名又は名称
  1260. 2 住所
  1261. 3 電子メールアドレス
  1262. 情報目録
  1263.  
  1264.  
  1265.  
  1266.  《全 文》
  1267.  
  1268. 【文献番号】25530394  
  1269.  
  1270. 発信者情報開示請求事件
  1271. 東京地方裁判所平成27年(ワ)第4818号
  1272. 平成27年6月16日民事第1部判決
  1273. 口頭弁論終結日 平成27年5月19日
  1274.  
  1275.        判   決
  1276.  
  1277. 原告 a
  1278. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  1279. 被告 株式会社ジェイコム札幌
  1280. 同代表者代表取締役 b
  1281. 同訴訟代理人弁護士 萬幸男
  1282.  
  1283.  
  1284.        主   文
  1285.  
  1286. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
  1287. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  1288.  
  1289.  
  1290.        事実及び理由
  1291.  
  1292. 第1 請求
  1293.  主文同旨
  1294. 第2 事案の概要
  1295.  本件は,インターネット上の電子掲示板における投稿記事により権利を侵害されたとする原告が,当該記事を投稿した者に対する損害賠償請求権の行使のために,当該記事に係る経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,当該記事に係る発信者情報の開示を求める事案である。
  1296. 1 請求原因
  1297. (1)原告は,株式会社インターコンシェルジュの代表取締役を務める者である。
  1298. (2)氏名不詳者は,インターネット上の2ちゃんねるという名称の電子掲示板(以下「本件掲示板」という。)の「△△△△△△△△△△」というスレッドにおいて,別紙情報目録記載の各情報(以下「本件情報」という。)を発信した。
  1299. (3)氏名不詳者は,被告の提供するインターネット接続サービスを利用して本件情報を本件掲示板において発信したものであり,被告は,本件情報に係るIPアドレスを保有している。
  1300. (4)本件情報は,不特定の誰もが自由に閲覧できるものであるから,プロバイダ責任制限法2条1号の特定電気通信に該当し,被告は,同条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。
  1301. (5)本件情報は,次のとおり,原告の名誉権を侵害することが明らかである。
  1302. ア 本件情報は,原告が少女買春をしていると記載しているから,一般の読者をして原告が犯罪行為をしていると誤信させ,原告の社会的評価を著しく低下させる。
  1303. イ 本件情報は,公共の利害に関する事項ではなく,公益目的もなく,内容は真実ではないから,違法性阻却事由の要件を満たさない。
  1304. (6)原告は,本件情報の発信者に対し,名誉権侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしており,本件情報の発信者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスの開示を求める正当な理由を有している。
  1305. (7)よって,原告は,被告に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める。
  1306. 2 請求原因に対する認否
  1307. (1)請求原因(1)(2)は不知。
  1308. (2)請求原因(3)の事実のうち,被告が本件情報に係るIPアドレスを保有していることは認め,その余は不知。
  1309. (3)請求原因(4)の事実は認める。
  1310. (4)請求原因(5)は否認ないし争う。被告が本件情報の発信者に意見照会をしたところ,同人及びその家族は,本件情報を発信したことを否認した。
  1311. (5)請求原因(6)は不知。
  1312. 第3 当裁判所の判断
  1313. 1 請求原因(4)の事実及び同(3)の事実のうち被告が本件情報に係るIPアドレスを保有していることは当事者間に争いがなく,証拠(甲2,3)によれば,同(3)のその余の事実が認められる。
  1314. 2 証拠(甲4,5)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(1)(2)(6)の各事実が認められる。
  1315. 3 証拠(甲1,5)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(5)の事実が認められる。
  1316.  被告は,本件情報の発信者が本件情報を発信した事実を否認したことから,本件情報の発信者による権利侵害の事実の明白性は不明であると主張する。
  1317.  しかし,本件情報の流通によって原告の名誉権が侵害された事実が認められることは上記のとおりであり,そうである以上は、特定電気通信役務提供者である被告は,その保有する本件情報に係る発信者情報を開示する義務があるのであって,発信者の上記の主張の当否は,被告の情報開示義務の存否に影響しないと解される。よって,被告の主張は理由がない。
  1318. 第4 結論
  1319.  以上によれば,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。 
  1320. 東京地方裁判所民事第1部
  1321. 裁判官 後藤健
  1322.  
  1323. 発信者情報目録
  1324.  別紙情報目録記載の投稿日時おける別紙情報目録記載の契約者についての次の情報
  1325. 1 氏名又は名称
  1326. 2 住所
  1327. 3 電子メールアドレス
  1328. 以上
  1329. 情報目録
  1330.  
  1331.  
  1332.  
  1333.  《全 文》
  1334.  
  1335. 【文献番号】25530735  
  1336.  
  1337. 発信者情報開示請求事件
  1338. 東京地方裁判所平成27年(ワ)第1567号
  1339. 平成27年7月22日民事第49部判決
  1340. 口頭弁論終結日 平成27年5月20日
  1341.  
  1342.        判   決
  1343.  
  1344. 原告 株式会社伝創社
  1345. 同代表者代表取締役 A
  1346. 原告訴訟代理人弁護士 ○○○○
  1347. 被告 KDDI株式会社
  1348. 同代表者代表取締役 B
  1349. 被告訴訟代理人弁護士 今井和男
  1350. 同 正田賢司
  1351. 同 小倉慎一
  1352. 同 山本一生
  1353. 同 山根航太
  1354. 同 横室直樹
  1355.  
  1356.  
  1357.        主   文
  1358.  
  1359. 1 被告は,原告に対し,別紙情報目録記載[1]及び[3]の投稿の発信者に係る別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1360. 2 原告のその余の請求を棄却する。
  1361. 3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
  1362.  
  1363.  
  1364.        事実及び理由
  1365.  
  1366. 第1 請求の趣旨
  1367.  被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1368. 第2 事案の概要
  1369. 1 本件は,原告が,インターネット上の掲示板において,氏名不詳者がした原告を誹謗中傷する内容の投稿によって名誉を棄損されたなどと主張して,いわゆる経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,投稿者の(1)氏名又は名称,(2)住所,(3)電子メールアドレスの開示を求める事案である。
  1370. 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  1371. (1)原告は,企業広告の企画・制作をしている株式会社である。
  1372.  被告は,電気通信事業を営む株式会社であり,法4条1項の「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(以下「開示関係役務提供者」という。)である。
  1373. (2)氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」(http://<以下略>)(以下「本件ウェブサイト」という。)において,別紙情報目録記載の情報(以下「本件情報」といい,同目録記載[1]の情報を「本件情報[1]」といい,同目録記載[2]の情報を「本件情報[2]」といい,同目録記載[3]の情報を「本件情報[3]」という。)を発信した。 
  1374. (3)被告は,本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の発信者情報を保持している。
  1375. 3 争点及び当事者の主張
  1376. (1)本件情報が投稿されたことにより,原告の名誉が棄損されたことが明らかであるか否か(権利侵害の明白性。争点(1))
  1377. (原告の主張)
  1378.  本件情報が掲載されたスレッド(以下「本件スレッド」という。)は,「○○○○○○○○○○」というスレッドタイトルであり,原告について記事投稿するために作成されたスレッドであって,本件情報の対象が原告であることは明らかである。
  1379.  本件情報[1]は,「被害者の会つくろう」と記載し,一般の読者をして,原告が,他人の権利侵害をして,「被害者」を生み出している企業と誤信させるものであり,もって原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1380.  本件情報[2]の「辞めたけど良かった会社」とは,一般の読者は,その会社を辞めて良かったと読み取るものであり,従業員にとって優良な労働環境にないと誤信させ,もって原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1381.  本件情報[3]は,「嘘付きまくり盛りまくりの会社」と記載し,一般の読者をして原告が虚偽の事実を告知する会社であると誤信させ,もって原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1382.  本件情報は真実ではない上,記載内容は公共の利害に関する事項とはいえず,表現方法は根拠を明確に示すことなくただ原告を誹謗中傷しており,積極的な加害意思しか見て取ることしかできず,公益目的も認められない。したがって,違法性阻却事由の要件を満たさない。
  1383. (被告の主張)
  1384.  本件情報[1]には,原告の会社名が記載されているものの,本店所在地等それ以外の原告を特定する情報は一切記載されていない。また,本件情報[2],本件情報[3]には,原告の本店所在地等の原告を特定する情報はおろか,原告の会社名すら記載されていない。したがって,一般の閲覧者が,本件情報を見て,本件情報の対象が原告であると認識するとは到底考えられない。
  1385.  本件情報[1]の「被害者の会つくろう」とは,単に投稿者による呼びかけにすぎず,事実が摘示されているとはいえない。また,そもそも何の被害者なのかすら明らかではなく,一般の閲覧者が,原告が「被害者」を生み出している企業であるとの印象を持つことが明らかであるとはいえない。
  1386.  本件情報[2]の記載は,むしろ,辞めた従業員からは,原告の会社が良い会社であるとの評価を受けている事実を摘示するものであって,原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえない。
  1387.  本件情報[3]は,その趣旨が不明な記載であり,一般の閲覧者が到底意味を理解できる投稿ではない。また,仮に一般の閲覧者が意味を理解できたとしても,あくまで投稿者の評価を述べたものにすぎず,事実を告知するものではない。さらに,本件情報[3]には,何ら具体的な事情や根拠の記載がないから,一般の閲覧者にとって,原告が虚偽の事実を告知する会社であるとの印象を持つことが明らかであるとはいえない。
  1388.  仮に,本件情報により原告の社会的評価が低下し得るとしても,本件情報は,「○○○○○○○○○○」というスレッドにあり,本件情報は,会社への就職や転職を考える一般の人々がその就職・転職する際の判断に役立てるためのものであり,公共の利害に関する事実である。また,投稿の内容から,原告及びそこに関わる人に対する評価を閲覧者に伝えるという公益目的を持って投稿していると考えられ,公益目的がないことが明らかとはいえない。さらに,本件情報[2]については,真実であるといえるし,本件情報[1]及び本件情報[3]についても,投稿者が相当な根拠をもって本件情報を投稿していることがうかがえ,本件情報の内容が真実であること,又は本件情報の投稿者がこれらの書き込まれた内容が真実であると信じたことにつき相当の理由がある可能性は否定できない。したがって,本件情報について,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しないとはいえない。
  1389. (2)原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点(2))
  1390. (原告の主張)
  1391.  原告は,本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償の請求をするため,被告に対し,本件発信者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの開示を求めるものであるから,正当理由の要件も充足している。電子メールアドレスも本件発信者を推知するためには必要な情報である。
  1392. (被告の主張)
  1393.  争う。
  1394.  原告が発信者に対し損害賠償請求訴訟を提起するのであれば,発信者の住所及び氏名を取得すれば十分であり,電子メールアドレスの情報は不要である。したがって,電子メールアドレスの開示には,法4条1項2号の正当な理由がない。
  1395. 第3 当裁判所の判断
  1396. 1 争点(1)について
  1397. (1)本件情報は,「○○○○○○○○○○」というタイトルのスレッドにおいて投稿されているところ(甲1),上記記載で示される企業が原告以外に存在するということもうかがわれないことからすれば,本件情報が原告について書かれたものであることは明らかである。
  1398. (2)権利侵害の明白性の要件の充足の有無の判断について
  1399.  ウェブサイト上に掲載された情報が他人の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損する権利侵害行為に当たるか否かは,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に,前後の文脈等を考慮し,当該情報全体が読者に与える印象によって判断するのが相当であり,当該情報の特定の表現が事実の摘示を含むか否かも,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として,証拠等によりその存否を決することが可能な特定の事実を摘示しているか否かによって判断すべきである。そして,特定の事実の摘示が名誉毀損に該当する場合には,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合において,当該事実の重要な部分について真実であること(真実性)又は真実であると信じることに相当の理由があること(相当性)の証明があったときには,その行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解される。
  1400.  以上の見地から,本件情報について権利侵害の明白性の要件を充足するか否かを検討する。
  1401. (3)本件情報[1]について
  1402.  本件情報[1]のうち,「被害者の会つくろう」というのは,他人の権利を侵害して,被害者が発生している状況がなければならず,証拠等によってその真否を決することが可能な特定の事実を摘示していると解するのが相当であり,同情報は事実を摘示していると見るべきである。そして,そこで示された事実は,これを読んだ者に,原告について,被害者を生み出すような不良な労働環境の会社であるかのような印象を抱かせて,原告の社会的評価を低下させるということができ,本件情報[1]の投稿は,名誉を毀損する権利侵害行為に当たる。
  1403.  次に,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しないことについて立証があったといえるかについて検討するに,本件情報[1]は,「○○○○○○○○○○」というタイトルのスレッドに投稿され,何らの根拠を挙げることなく原告を誹謗中傷するものであり,本件証拠上,本件情報[1]の目的が専ら公益を図るものであること及び上記摘示事実が真実であり,又は本件の投稿者において,真実であると信じるについて相当の理由があることなど,本件情報[1]について,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は見当たらない。
  1404.  したがって,本件情報[1]は,権利侵害の明白性の要件を充足する。
  1405. (4)本件情報[2]について
  1406.  本件情報[2]は,「見られ方は変わってきてます。おかげさまでダイヤモンドオンラインの「辞めたけど良かった会社ランキング」で,数々の大手グローバル企業を抑えて15位に入りました!」という投稿内容であるところ,これは,辞めた従業員からは,原告の会社が良い会社であるとの評価を受けている事実を摘示するものであって,一般の閲覧者が,本件情報[2]を普通の注意と読み方で読んだときには,原告の会社が良い会社であるという印象を持つものというべきである。本件情報[2]の投稿が原告に対する肯定的な評価に基づいたものであることは,この投稿が,原告について,「偽名を名乗る韓国人か北朝鮮人がオーナーで,その一族経営でやっている会社というのは変わったのでしょうか?」との本件スレッド内での質問に対する回答としてされたものであることから明らかであり,本件投稿[2]の「見られ方は変わってきてます。」との回答は,質問者の原告に対する否定的な印象を払拭するためにされたものと一般の閲覧者は理解するものと考えられる。
  1407.  したがって,本件情報[2]は,原告の社会的評価を低下させることが明らかであるとはいえず,権利侵害の明白性の要件を欠く。
  1408. (5)本件情報[3]について
  1409.  本件情報[3]の「嘘付きまくり盛りまくりの会社」というのは,虚偽の事実を頻繁に告知する会社のあり様を示していると解され,証拠等によってその真否を決することが可能な特定の事実を摘示していると解するのが相当であり,同情報は事実を摘示していると見るべきである。そして,そこで示された事実は,これを読んだ者に,原告について,虚偽の事実を頻繁に告知するような会社であるかのような印象を抱かせて,原告の社会的評価を低下させるということができ,本件情報[3]の投稿は,名誉を毀損する権利侵害行為に当たる。
  1410.  次に,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しないことについて立証があったといえるかについて検討するに,本件情報[3]は,「○○○○○○○○○○」というタイトルのスレッドに投稿され,何らの根拠を挙げることなく原告を誹謗中傷するものであり,本件証拠上,本件情報[3]の目的が専ら公益を図るものであること及び上記摘示事実が真実であり,又は本件の投稿者において,真実であると信じるについて相当の理由があることなど,本件情報[3]について,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は見当たらない。
  1411.  したがって,本件情報[3]は,権利侵害の明白性の要件を充足する。
  1412. 2 争点(2)について
  1413.  前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,原告には,損害賠償請求権の行使のために被告から発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることは認められ,その発信者情報の範囲は,法4条1項及び「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令」3号の規定により,発信者の氏名,住所及び電子メールアドレスに及ぶ。
  1414.  被告は,電子メールアドレスについては開示の必要性がないと主張するが,電子メールアドレスは侵害情報の発信者の特定及び原告の権利行使に資する情報であり,開示の必要性が認められる。
  1415. 3 結論
  1416.  以上によれば,原告の請求のうち,別紙情報目録記載[1]及び[3]の投稿の発信者に係る別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める請求については理由があるから認容することとし,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
  1417. 東京地方裁判所民事第49部
  1418. 裁判官 戸室壮太郎
  1419.  
  1420. (別紙)情報目録
  1421. (別紙)発信者情報目録
  1422. 別紙情報目録記載の投稿日時における別紙情報目録記載のIPアドレスの利用者(発信者)に関する次の情報
  1423. 1 氏名又は名称
  1424. 2 住所
  1425. 3 電子メールアドレス
  1426. 以上
  1427.  
  1428.  
  1429.  
  1430.  《全 文》
  1431.  
  1432. 【文献番号】25531710  
  1433.  
  1434. 損害賠償請求事件
  1435. 東京地方裁判所平成25年(ワ)第31340号
  1436. 平成27年8月3日民事第7部判決
  1437. 口頭弁論終結日 平成27年5月18日
  1438.  
  1439.        判   決
  1440.  
  1441. 原告 A
  1442. 原告訴訟代理人弁護士 ○○○○
  1443. 被告 株式会社新潮社
  1444. 代表者代表取締役 B
  1445. 被告 C
  1446. 被告ら訴訟代理人弁護士 岡田宰
  1447. 同 広津佳子
  1448. 同 杉本博哉
  1449. 同 堀口雅則
  1450. 被告ら訴訟復代理人弁護士 藤峰裕一
  1451.  
  1452.  
  1453.        主   文
  1454.  
  1455. 1 被告らは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成24年1月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  1456. 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
  1457. 3 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
  1458. 4 この判決は第1項に限り,仮に執行することができる。
  1459.  
  1460.  
  1461.        事実及び理由
  1462.  
  1463. 第1 請求
  1464. 1 被告らは,原告に対し,連帯して550万円及びこれに対する平成24年1月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  1465. 2 被告株式会社新潮社は,被告株式会社新潮社が発行する週刊誌「週刊新潮」に,別紙2記載の要領により,別紙1記載の謝罪広告を1回掲載せよ。
  1466. 第2 事案の概要
  1467.  本件は,原告が,被告株式会社新潮社(以下「被告会社」という。)の発行した週刊誌「週刊新潮」△△△△年△月△日号(以下「本件雑誌」という。)上の記事(以下「本件記事」という。)によって名誉を毀損されたと主張して,被告会社及び本件雑誌の編集長である被告C(以下「被告C」という。)に対し,共同不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めるとともに,被告会社に対し,民法723条に基づき,謝罪広告の掲載を求めた事案である。
  1468. 1 前提事実
  1469.  当事者間に争いがない事実及び文末に掲げた証拠等によれば,以下の事実を認めることができる。
  1470. (1)当事者等
  1471. ア 大学の関係者等
  1472. (ア)原告は,Dという芸名で活動する邦楽囃子の演奏家であり,昭和51年にW大学(以下「本件大学」という。)の非常勤助手となり,その後,常勤助手,助教授を経て,平成19年に教授となり,平成24年3月をもって本件大学を定年退職した者である(甲5)。
  1473. (イ)E(以下「E」という。)は,大阪外国語大学の朝鮮語学科を卒業後,本件大学別科長唄囃子専攻に入学し,博士課程修了後,平成21年に邦楽科の非常勤講師となり,平成23年に原告の後任として後任人事委員会より推薦を受け,平成24年4月から本件大学音楽学部准教授を務める者である(甲5,乙19の2)。
  1474. (ウ)F(以下「F」という。)は,Gという芸名で活動している邦楽囃子の演奏家であり,昭和53年に原告に弟子入りし,また,Hに対し本件大学の入学を勧め邦楽囃子の指導をしてきた者である(甲6,乙4)。
  1475. イ 被告会社の関係者等
  1476. (ア)被告会社は,書籍及び雑誌の出版等を目的とする株式会社である。
  1477. (イ)被告Cは,本件雑誌の編集人であり,平成24年1月当時,本件雑誌に掲載される記事の内容や掲載の可否を決定する権限を有していた者である(甲2)。
  1478. (ウ)J(以下「J記者」という。)は,本件雑誌発行当時,被告会社週刊新潮編集部記者として,本件記事についての取材をした者である(乙18,証人J)。
  1479. (2)本件記事
  1480.  被告らは,本件雑誌の46頁及び47頁に,本件記事を掲載したところ,その内容は,次のような記載を含むものであった(甲4)。
  1481. ア 本件雑誌の46頁には,「□□□□□□□□□□」という大見出し(以下「本件大見出し」という。)が掲載され,これに続いて「創立130年を超え,我が国の芸術教育を支える唯一の国立であるW大学。その名門学府で尋常ならぬ騒動が涌き起こっている。老教授が自らの後継に愛人を指名したと,愛弟子に告発されているのだ。」との柱書(以下「本件柱書」という。)が記載されているほか,「◇◇◇◇◇◇◇◇」との小見出し(以下「本件小見出し」という。)が記載されている。
  1482. イ 本件柱書部分に続いて,「『先生は私の直接の師匠であり,後継として内定した女性は私の直弟子です。本来なら快挙と祝うべきでしょうが,どうしても看過できない点があるのです』眦を決してそう訴えるのは,能や狂言,長唄などの囃子方として小鼓や太鼓など邦楽打楽器を演奏するGことF氏で,W大音楽学部邦楽科の元非常勤講師である。このF氏が師匠と呼ぶのがDことA教授。望月流の顔として演奏活動に勤しみ,W大では5年前から教授を務めているが,この3月末での定年退職が決まっている。そして4月からの准教授昇格が内定したのが,非常勤講師を務める30代後半の女性だ。『彼女とA教授が不適切な男女関係にあることを私が最初に聞いたのは,06年5月。他でもない教授の奥さまからでした。その時には女性は否定したのですが,その後も度々同じ噂を耳にしましたし,当時W大の学生だった私の息子が女性の自宅前で2人を目撃したり,私自身も何度か教授の車を目撃した。証拠はないが,疑われても仕方がないのでは,と思いました』」との記載がされている。
  1483. ウ 本件小見出しを付した部分には,「そんな状況下で昨年4月,F氏はA教授から学内に呼び出され,自身の定年退職に伴って准教授を公募するので是非とも応募するようにと言われる。『私も非常勤講師でしたが,大学院を修了していないので断ったんです。でも,それでも強く言われたので必要書類を提出した。ところが,わずか1週間後に1次審査落選の通知。つまり書類だけで落とされたわけです』実はA教授は少なくとも14名に応募するよう指示していたが,彼女以外の13名は全員1次で落選。W大大学院卒が5名,博士号取得者も3名,長年,W大の非常勤講師を務めている候補者もいた。が,問題の女性は他大学を卒業後も就職せず,フラリとF氏の稽古場を訪れて弟子になり,W大別科(2年制)から数年して博士課程まで終え,4年ほど前にようやく非常勤講師になったばかり。『つまり,彼女には囃子に必要な経験が決定的に不足しているのです』別の応募者もこう訝る。『情実批判をかわすために私たちを利用しただけではないのか。すでに3年ほど前から学内で2人の関係も怪しまれていたしね』そしてF氏は10月,A教授に女性との関係を問い質したところ,『何度か“家の方”に行ったことは認めたものの,男女の関係は否定しました。ただ,やはり選考過程に疑問を感じ,昨年末,学長に告発文書も送りました』当事者たちは,『10名以上に応募の声はかけたが,選考人事は把握してない。男女の関係は事実無根です』(A教授)『私からは事実はないとしか言えません』(女性)『ご指摘のような事実はない』(W大総務課)と言うが,F氏はあくまで追及の構え。“老いらくの恋”を巡る疑惑は,まだ晴れてはいなさそうだ。」との記載がされている。
  1484. (3)本件雑誌について
  1485.  被告会社は,平成▲▲年▲月▲▲日,本件雑誌を発行したところ,週刊新潮の発行部数は約56万部であり(甲1),その販売広告は,一般新聞紙や多数の乗客の見る電車内の広告に掲示されるものである。
  1486. (4)本件記事による原告の社会的評価の低下について
  1487.  本件記事は,原告が女性と不倫関係にあり,大学教授という職務上の立場を利用して,自らの後継者にその女性を指名したという事実(以下「本件摘示事実」という。)を摘示したものであり,本件摘示事実は,原告が大学教授としてふさわしくないという印象を与え,原告の社会的評価を低下させるものである。
  1488. 2 争点
  1489. (1)真実性及び相当性の抗弁(争点1)
  1490. (2)損害額及び謝罪広告の掲載の必要性(争点2)
  1491. 3 争点に関する当事者の主張
  1492. (1)争点1(真実性及び相当性の抗弁)
  1493. (被告ら)
  1494. ア 公共の利害に関する事実
  1495.  本件記事は,創立130周年を超え,我が国の芸術教育を支える唯一の国立大学である本件大学の邦楽科において教授を務める原告が,非常勤講師を務める女性と不適切な男女関係にあるという疑惑があるだけでなく,自らの定年退職に伴う准教授の公募にあたり,疑問のある選考過程によって当該女性が選定されたという事実を報道するものであり,その報道内容は公共の利害に関する事実である。
  1496. イ 公益目的
  1497.  被告らは,厳正かつ公平になされるべき国立大学の准教授の選考において,現職の教授の不倫相手と疑われる女性が,公正とは言い難い選考方法によって後任として選任されたという極めて重大な問題を広く読者に問うという専ら公益を図る目的で本件記事を掲載しているものであって,公益目的も認められる。
  1498. ウ 真実性
  1499.  本件記事において原告との不倫関係を指摘されている女性はEであるところ,被告らは,本件記事を執筆及び掲載するにあたり,原告の弟子でありかつHの師匠でもあるFのほか,本件大学関係者などに対して取材を行って,〔1〕Fが原告とEが不倫関係にあるという噂を聞いていたこと,〔2〕F自身,原告の自動車をEの自宅周辺で度々見かけていたこと,〔3〕原告の妻が原告とEの不倫関係を疑い興信所まで使って調査を行っていたことなどを確認しており,Fは法廷でも同旨の証言をし,同証言は当時の日記によって裏付けられていることなどからすれば,原告がEと不倫関係にあったことは真実である。
  1500.  また,被告らは,Fから,〔1〕准教授の選考にあたって実施された書類審査のみの一次審査において,15名の応募者のうちEよりも芸歴も豊富な応募者を含む14名が落とされたこと,〔2〕原告は,准教授の選考にあたって,選考に迷った時は,学歴は大学院修了以上,男性より女性,年齢は若い方,本件大学出身者より他大学出身者の方を選ぶという条件をつけていたこと,〔3〕原告は,准教授選考に関与していないと述べながら,Eに対し,二次審査の課題曲の稽古を密かにつけていたこと,〔4〕原告は,二次審査終了後,応募者や学生に対する説得に腐心していたことなどを確認しており,Fは法廷でも同旨の証言をし,同証言が原告の書簡をめぐる本件大学関係者のメールによって裏付けられていることなどからすれば,原告が後継者としてHを指名したことも真実であり,被告らは,名誉棄損による不法行為責任を負わない。
  1501. エ 相当性
  1502.  仮に,原告がHと不倫関係にあったこと,原告が後継者としてHを指名したことの事実のうち,真実であることの証明がされないものがあるとしても,被告らは,本件記事を執筆及び掲載するにあたり,十分な調査を行っているところ,Fからの聴取内容が詳細かつ具体的であり,本件の准教授選考について,自らの名前を明かした上で本件大学学長宛に意見書を提出していることなどからすれば,その信用性は極めて高く,上記各事実が真実であると信じるにつき相当な理由があり,被告らは,名誉棄損による不法行為責任を負わない。
  1503. (原告)
  1504. ア 真実性が認められないこと
  1505.  Fからの聴取内容,学長宛意見書,関係者のメール,選考方法及び結果のいずれについても,原告が女性と不倫関係にあるという事実,原告が大学教授という職務上の立場を利用して自らの後継者にその女性を指名したという事実が真実であるという裏付けとはなり得ない。
  1506.  また,Fは,原告について相当な根拠に基づかず事実は判断できないことを被告会社に話してしまって大変申し訳ないと述べていることからすれば,本件摘示事実は真実ではない。
  1507. イ 相当性が認められないこと
  1508.  被告において取材を担当したJ記者は,Fからの情報を詳細かつ具体的だというだけで鵜呑みにしており,被告らが本件記事を真実であると確信をもつに十分な材料を収集しておらず,本件摘示事実を真実であると信じるにつき相当な理由がないことは明らかである。
  1509. (2)争点2(損害額及び謝罪広告の掲載の必要性)
  1510. (原告)
  1511. ア 本件記事により,邦楽囃子の教授としての原告の社会的評価は著しく低下し,これによって,原告は,大きな精神的打撃を受けて,これにより不眠症,高血圧の悪化,演奏会の責任者の降板などの結果が生ずるなどしたものであり,これによる原告の精神的損害に対する慰謝料は500万円を下らず,また,弁護士費用50万円は下らない。
  1512. イ 原告は,本件雑誌の発行及び販売により,社会的評価を著しく低下させられており,前記のような本件雑誌の発行部数等に鑑みると,原告の社会的評価を回復するために損害賠償をもってするだけでは不十分であり,謝罪広告の掲載が不可欠である。
  1513. (被告ら)
  1514.  否認し,又は争う。
  1515. 第3 当裁判所の判断
  1516. 1 争点1(真実性及び相当性の抗弁)について
  1517. (1)公共の利害に関する事実及び公共目的
  1518. ア 事実摘示による名誉毀損については,摘示行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合において,摘示された事実の重要な部分につき真実であることが証明されたときは,当該行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当であり,また,その事実が真実であることが証明されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときには,当該行為については故意・過失がなく,同じく不法行為は成立しないものと解される。
  1519. イ 前記前提事実によれば,本件記事は,国立大学である本件大学の邦楽科において教授を務める原告について,本件大学の非常勤講師を務める女性との不倫関係という不適切な男女関係を指摘するとともに,国立大学である本件大学の准教授の選考過程を取りあげた記事であって,そこにおける摘示事実は,単なる私生活上の行状に関する事実には止まらない社会の正当な関心事に当たり,当該摘示行為は,公共の利害に関する事実に係るものと認められる。
  1520.  また,厳正かつ公平になされるべき国立大学の准教授の選考が,現職の教授の不倫相手と疑われる女性が不公正な選考方法によって選任されたという問題を広く読者に問うという目的は,前記前提事実の本件記事の内容に沿うものと認められ,本件記事における摘示行為は,その目的が専ら公益を図ることにあったものと認めるのが相当である。
  1521. (2)真実性及び相当性について
  1522. ア 事実経過等
  1523.  前記前提事実に加え,証拠(文末に掲げたもののほか,乙18,証人J)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  1524. (ア)本件大学においては,原告の定年退職を控え,平成23年5月ころ,本件大学邦楽囃子の分野で准教授の選考が行われることとなり(以下「本件選考」という。),同選考に,H,Fほか13名の合計15名が応募した。
  1525. (イ)Fは,平成23年7月19日に上記応募をしたが,同年8月3日に書類選考で落選したことを知り(乙5),その後,本件選考において,一次審査で残ったのがHのみであると推察されたことから,同年12月ころ,本件選考の過程及び結果に関して本件大学の学長宛てに意見することとし,同じく本件選考の応募者であり,書類選考で落選していたK及びLにも意見書の文案を送って意見を求めたところ,Lの賛意を得たため(乙7),同月15日付で,原告とHが不適切な関係にあるという噂が業界及び大学内外に広範囲に渡って流れていること,H以外の応募者が原告からの声掛けによって応募していること,邦楽囃子の世界では技術と同じくらい経験値を重視するにもかかわらず経験値を欠いているHのみが一次の書類選考を通過していることは不自然であることなどに触れた上でHの内定破棄を求める書面を自らの氏名,立場を明らかにした上で,本件大学学長であるM宛てに送付した(乙6)。
  1526. (ウ)本件大学内では,本件選考の過程及び結果に対する疑義が噂され,平成23年12月25日,原告も出席の上,学生らに対し,本件選考に関する説明会が行われた(乙25の1ないし31)。
  1527. (エ)J記者は,平成24年1月19日,本件大学出身の日本舞踏家であるN(以下「N」という。)に対して対面取材を行い,〔1〕Nは,平成23年12月14日,邦楽関係者数人が集まる忘年会において,P,Q及びRから,原告が本件大学を定年退官するにあたって,原告の愛人であるEを後任に指名したことを聞いたこと,〔2〕Eは,邦楽界において何の実績もない演奏家で,望月流の芸名はまだもらっていないこと,〔3〕Nは,Sが原告の後任として准教授になるだろうと予想していたため,Eが選任されることを不思議に思ったこと,〔4〕Nは,本件大学の人事を許せないと強く思っていたので,後日複数人に話をしていたという経緯があり,知人である被告会社のTに伝えたことを聴取した(乙11)。
  1528. (オ)被告会社は,平成24年1月20日,Nからの情報をもとにしたJ記者の企画を採用し,J記者は,上記忘年会の出席者に連絡したところ,Fを紹介されたため,Fに取材を申込み,同月21日,対面取材を行った。
  1529.  J記者は,同取材において,〔1〕Fは,平成18年5月ころ,原告の妻から「Eと原告ができている。住所を教えて欲しい。」と聞いたこと,〔2〕原告の妻は,同月ころ,本件大学の演奏会の終演後,Hを探し,睨みつけていたこと,〔3〕原告の妻がHに対する尾行を探偵に依頼していたようであること,〔4〕Fの息子が,Eの自宅の前で原告とEが一緒にいるのを目撃したこと,〔5〕原告は上記のとおり目撃されたことに関して「設定してもらったコンピューターを取りに行っただけだ」と弁明したこと,〔6〕Fは,平成22年5月ころ,Eの自宅の前に,原告の自動車が停車しているのを目撃したこと,〔7〕Fは,そのほかに2度,Eの自宅の前に原告の車が停車しているのを目撃したこと,〔7〕原告は,平成22年5月ころ,本件大学を定年退職することになり,本件大学邦楽囃子の分野で准教授の募集があったこと,〔8〕原告は,かかる募集に先立って,Fに対して准教授の募集への応募を促したところ,Fは,これに応募したが一次審査で落選したこと,〔9〕原告に促されて准教授の募集へ応募した14名のうち,Eを除く全ての応募者が一次審査で落選したこと,〔10〕応募者の中には本件大学の非常勤講師を長年務める者や,Eより若くに博士号を取得していた者もおり,他方でEは邦楽囃子の世界で重要視される経験値が欠けていること,〔11〕平成22年秋ころ,二次審査において,Eの囃子の技術や模擬講義の出来が判定されたこと,〔12〕Fは,稽古に同席した者から,Eが二次審査の前にαの桜木会館において原告から「島の千歳」という曲の指導を受けたと聞いたこと,〔13〕原告は,平成23年10月18日,Fに対して「後任の話なんだけど,Eがなってもおかしくないんだよね」と述べ,Fは,原告に対して「原告との噂がある限り,その人事は許されないと思う。大騒ぎになりますよ」と述べたところ,原告は,Fに対し,Eの家の方に行ったことはあると認めたものの、個人的な太鼓のレッスンのために近くの会館を借りて稽古していたものであり,男女の関係はないと弁明したこと,〔14〕原告の妻は,平成23年11月26日,Fに対し,「Eの内定が決まったらしいという噂は,本当ですか」と述べ,原告とEの関係を疑っているようであったこと,〔15〕原告は,過去に2度,教え子と男女の関係になったことがあること,〔16〕Fは,本件大学の学長宛で,准教授の人事をめぐっての意見書を提出したこと,〔17〕原告は,平成23年10月,Fに対し,准教授の人事をめぐる怪文書のことを追及し,「もしやったら大変なことになるよ」と脅したこと,〔18〕本件大学邦楽科主任教授のU(以下「U」という。)は,Fに対し,「手紙を読みましたが,審査の内容に不公平なところはありませんでした。それ以上の詳しい内容についてはお話しできません」,Eと同じ学歴の人が一次審査で落とされていることについて「現代音楽ができることを条件にした結果,そうなった」と述べたこと,〔19〕Fは,本件大学が人事介入を食い止められなかった背景には,原告と親しい付き合いを続けている本件大学邦楽科の教授であるVが,女性関係の弱みを握られているという事情もあったのではないかと考えていることなどを聴取し(乙12。当該聴取結果を以下「F聴取結果」という。),同聴取結果を裏付けるFの日記(乙5)を確認した。
  1530. (カ)J記者は,平成24年1月22日,原告に対して対面取材を行い,〔1〕原告は,後任人事委員会に入っていないので答えることはできないこと,〔2〕原告は,後任人事の口利きもできないこと,〔3〕原告は,Eと男女の関係にはないこと,〔4〕Eの自宅の前に原告の自動車が停車していた際は,原告は稽古をしていただけであることなどを聴取した(乙13)。 
  1531.  また,同日,原告の妻に対してインターホン越しに取材を行い,〔1〕原告の妻は,探偵を雇って原告の浮気調査をしたことはないこと,〔2〕原告の妻は,原告の後任人事,原告の大学のことは一切知らないことなどを聴取した(乙14)。
  1532.  さらに,同日,Eに対して電話で取材を行い,〔1〕Eは,どのように准教授の選考がなされたのかは把握していないこと,〔2〕Eは,原告と男女の関係にないことなどを聴取した(乙15)。
  1533. (キ)J記者は,平成24年1月23日,本件大学に対して取材の申入れを行い,〔1〕原告が同年3月31日付けで本件大学を退職し,Eが4月1日より准教授に就任するという人事は事実であるか,〔2〕原告の実質的な後任ポストとなる准教授職を本件大学が公募するにあたり,原告は周囲の人間に応募を促していたが,かかる行為をどのように考えるか,〔3〕准教授の公募に応じたのは何名か,〔4〕一次審査を通過したのがEのみであるか,〔5〕審査の基準を具体的に明らかしてほしい,〔6〕二次審査はいつ,どこで,どのような形で,どういったことを審査基準にして行われたのかを詳細に明らかにしてほしい,〔7〕審査委員会を構成していた人々の名前を明らかにしてほしい,〔8〕原告とEは不適切な男女の関係にあると噂され,Fは,今回の人事においては,両者の不適切な関係がEの准教授内定を後押しする形で作用したと指摘し,本件大学の学長宛に告発の文書を送っているが,どう考えるか,〔9〕Fの送った告発の文書のほかに匿名の文書2通が本件大学宛に送られたというのは事実かなどとの質問を記載した「取材のお願い」と題する書面を送付した(乙16)。
  1534.  これに対し,本件大学は,同日午後4時15分,〔1〕原告が同年3月31日付けで定年退職予定であることは事実である,〔2〕後任人事については未だ発令前であり回答を差し控える,〔3〕本件大学は,ホームページによる公募情報の公開や各大学に対して文書による公募を行っており,声掛けについては個人の判断による行為であり,特に禁止していない,〔4〕二次審査は,平成23年9月5日,本件大学で行っており,原告は審査委員会に入っていない,〔5〕審査内容に関する質問項目については,審査の性格上回答を差し控える,〔6〕文書が本件大学に届いたことは事実であり,本件大学は指摘の事実はないと確認したという回答を記載した書面をファクシミリでJ記者宛に送付した(乙17)。
  1535. (ク)被告会社は,以上の取材経過を経て,平成24年1月26日,本件記事が掲載された本件雑誌を発売した。
  1536. (ケ)原告は,平成24年9月24日,Fを被告として,名誉棄損を理由とした損害賠償請求訴訟を提訴したところ(乙1),同年12月18日,和解が成立し(以下「別件和解」という。),同和解において,Fは,本件記事等に関して,相当な根拠に基づかず,事実とは判断できないことを公表した名誉棄損行為により,原告の名誉を著しく傷つけたことを謝罪の上,名誉棄損行為による損害賠償債務として90万円の支払義務を認めた(乙3)。
  1537. (コ)原告は,平成25年3月,本件大学関係者らに対し,別件和解について報告する書面を送付したところ(乙8),同月29日,本件選考の選考委員の一人であったUは,同書面について,「真実を表している,と思う人はどこにもいないでしょう」などと述べた(乙10)。
  1538. イ 真実性
  1539. (ア)事実摘示による名誉毀損については,摘示された事実の細部に至るまで客観的真実に完全に一致するものではなくても,その重要な部分につき真実であることが証明されたときは,当該行為には違法性がなく,不法行為は成立しないというべきであるところ,本件摘示事実は,原告が女性と不倫関係にあり,自らの後継者にその女性を指名しており,大学教授としてふさわしくないという印象を与え,原告の社会的評価を低下させるというものであるから,本件摘示事実における重要な部分は,〔1〕原告が女性と不倫関係にある,〔2〕原告が自らの後継者にその女性を指名したという部分(以下「本件重要部分」という。)であるということができる。
  1540. (イ)そこで,本件重要部分が真実であるといえるか検討する。
  1541.  この点に関し,被告らは,前記認定のとおりのJ記者の取材結果及びF聴取結果と同旨の証人Fの証言等からすれば,本件重要部分は真実であると主張する。
  1542.  しかしながら,Fは,原告及びHとそれぞれ子弟関係にあり,本件選考に応募の上,落選した者であり,その証言等の信用性は慎重に検討することを要する上,仮にFの証言等の信用性を肯定したとしても,〔1〕Fが,原告の妻から,原告とEが不倫関係にあることを聞いたこと,〔2〕Fが,Fの息子から,Eの自宅の前に原告とEがいたのを目撃したと聞いたこと,〔3〕F自身,Eの自宅の近くに,原告の自動車と思われる車が停車されていたのを目撃したこと,〔4〕本件選考の過程においてEのみが一次書類選考を通過したことなどが認められるにすぎないところ,上記〔1〕については原告の妻からの伝聞にすぎず,原告の妻の供述が客観的な裏付けに基づくものであることは明らかではないことから直ちに原告とEの不倫関係が認められるものではないし,上記〔2〕及び〔3〕は原告がEの自宅の近くに行ったことがあることを窺わせるにすぎず,このことから直ちに原告とEの不倫関係が認められるものではなく,さらに,上記〔4〕においても准教授の選考過程において具体的に不公正さを窺わせる事情があるわけではなく,Eのみが選考を通過したことから直ちに原告が自らの後継者にEを指名したことが認められるものではない。
  1543.  そして,F自身,Fは,原告がEと不倫関係にあるという直接的な状況,原告がEの自宅やその他宿泊施設においてEと過ごしている状況,原告がEと抱き合うなどのスキンシップをしている状況等は確認していないと証言し,別件和解においても原告に対し謝罪をしていること,取材の経緯(乙13から17まで)及び原告の供述(甲5,原告)によれば,原告,原告の妻,E及び本件大学は,いずれも本件重要部分について認めていないことなどをも併せ考慮すれば,上記Fの証言等を根拠に本件重要部分が真実であると認めることはできず,本件大学関係者に,本件選考の過程及び結果に疑義を有する者が複数いたことを考慮しても,そもそも同人らにおいても,伝聞,噂をもととし,具体的な根拠を有しているわけではないことが窺われるところであって,そうである以上,やはり,本件重要部分が真実であると認めるには足りないものというべきである。
  1544.  なお,被告らは,原告の供述中,芸邦会の稽古をHの自宅に近い白山東区民会館で行っていたとする点につき,芸邦会に参加していた者らがこれを否定していること(乙21ないし24,26),また,平成23年12月25日の本件選考に関する説明会に原告は出席していないとする点につき,これが事実に反すること(乙25の1ないし31)を指摘し,原告の供述は信用性がない旨主張するが,これらの点に関する供述の信用性が乏しいとしても,そのことが本件重要部分の真実性を裏付けるものとはいえない。
  1545. ウ 相当性
  1546.  被告らは,前記のとおりの取材の経緯からすれば,本件記事において摘示された事実の重要な部分(本件重要部分)について真実と信ずるにつき相当な理由があると主張する。
  1547.  しかしながら,前記認定の事実によれば,被告らは,〔1〕Nから,Nが原告の愛人であるEが原告の後任に指名されたと聞いたことを聴取した,〔2〕Fから,Fが原告の妻から「Eと原告ができている」と聞いたこと,原告又は原告の自動車がEの自宅の近くにいるのを目撃したことがあること,経験の浅いEのみが原告の後任人事の一次審査を通過したことなどを聴取したにすぎず,他方で,原告及びEは,原告とEの不適切な男女関係について否定しており,また,原告は,原告による後任人事の指名について否定し,原告の妻,E及び本件大学もこれを認めていないことからすれば,結局のところ,被告らは,F及びNから聴取した噂とFの推測を根拠としているにすぎず,これらに鑑みれば,被告らの取材は,原告とEの不倫関係及び原告の後任人事への指名に関し,直接的な内容を聴取できていないことに加え,これについての客観的かつ合理的な裏付けを備えるにも至っていないものというべきであり,前記認定,説示のとおり,Fの証言等から直ちに本件重要部分が真実であると認められるものではないことをも併せ考慮すると,被告らは,十分な取材を尽くすことなく,F聴取結果を軽信して,本件記事を執筆及び掲載したものといわざるを得ないところであって,本件重要部分について,被告らにおいてこれを真実と信ずるにつき相当な理由があると認めることはできないものというべきである。
  1548. (3)以上によれば,本件重要部分について真実であるとも,真実と信じるについて相当の理由があるとも認めることができず,したがって,被告らは,原告に対する不法行為責任を免れない。
  1549. 2 争点2(損害額及び謝罪広告の掲載の必要性)について
  1550. (1)前記認定のとおり,原告は,国立大学である本件大学の教授を務めていた者であって,邦楽囃子の演奏家として活動しているところ,本件記事は,原告の不適切な男女関係を内容とし,本件大学における原告の後継者の選考過程において不適切な指名を行ったかのように報じるものであるにもかかわらず,被告らは,これについての充分な取材を尽くして客観的かつ合理的な裏付けを備えることなく,F聴取結果を軽信して,本件記事を執筆及び掲載したものといわざるを得ないこと,本件記事が,全国的に販売され多数の発行部数を誇る著名な雑誌である本件雑誌に掲載されたことにより,原告の社会的評価は低下させられたこと,本件口頭弁論に顕れたその他の事情を勘案すれば,原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円,本件記事の掲載と相当因果関係のある弁護士費用は10万円と認めるのが相当である。
  1551.  したがって、被告らは,共同不法行為に基づき,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する不法行為日である平成24年1月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。 
  1552. (2)また,原告は,被告会社に対し,謝罪広告の掲載を求めており,前記認定のとおり本件記事については原告の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損する記述を含むものであることが認められるが,名誉毀損行為の態様及び程度のほか,上記の損害賠償を認めることなどを踏まえれば,原告が被った損害を回復させるために損害賠償のほかに被告会社に対して謝罪広告掲載を命ずる必要があるとまでは認められないというべきである。
  1553. 第4 結論
  1554.  以上によれば,原告の請求は,主文第1項の限度で理由がある。
  1555. 東京地方裁判所民事第7部
  1556. 裁判官 野中伸子 裁判官 友部一慶
  1557. 裁判長裁判官笠井之彦は,転補のため署名押印することができない。
  1558. 裁判官 野中伸子
  1559.  
  1560. 別紙1 謝罪広告
  1561.  当社が発行した「週刊新潮」平成▲▲年△月△日号46頁から47頁に掲載された記事において,DことA氏が弟子の女性と愛人関係にあり,同氏が大学教授という地位を利用して愛人を後継に指名したなどと報じましたが,これらはすべて事実無根であることが判明しました。
  1562.  事実無根の記事を掲載し,A氏の名誉を著しく傷つけましたことを,ここに深くお詫び申し上げます。
  1563. 株式会社新潮社 代表取締役 B
  1564. 週刊誌「週刊新潮」編集長 C
  1565. 別紙2 掲載要領
  1566. 掲載紙は,「週刊新潮」,
  1567. スペースは,1頁の5分の2(縦8.2cm,横15cm),
  1568. 文字の大きさは11ポイント以上,
  1569. 字体はゴシック体とする。
  1570.  
  1571.  
  1572.  
  1573.  
  1574.  
  1575.  
  1576.  
  1577. ■29014442
  1578.  
  1579. 東京地方裁判所
  1580.  
  1581. 平成27年(ワ)第17049号
  1582.  
  1583. 平成27年10月23日
  1584.  
  1585. 東京都(以下略)
  1586. 原告 X
  1587. 同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
  1588. 同 山岡裕明
  1589. (住所略)
  1590. 被告 株式会社ジェイコムウエスト
  1591. 同代表者代表取締役 A
  1592. 同訴訟代理人弁護士 萬幸男
  1593.  
  1594.  
  1595. 主文
  1596. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1597. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  1598.  
  1599.  
  1600. 事実及び理由
  1601. 第1 請求
  1602.   主文と同旨
  1603. 第2 事案の概要
  1604.  1 本件は、原告が、氏名不詳者により被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイトに投稿された記事が、原告の名誉を侵害する旨主張し、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案である。
  1605.  2 前提事実(証拠を掲記したものを除き、当事者間に争いがないか、又は弁論の全趣旨により認定することができる。)
  1606.   (1) 当事者
  1607.   原告は、私立大学の非常勤講師を務める者である(甲5)。
  1608.   被告は、電気通信事業等を業とする会社である。
  1609.   (2) 本件記事の投稿
  1610.   インターネットの掲示板「B」(以下「本件サイト」という。)には、「C」というスレッドが存在し、被告の提供するインターネット接続サービスを利用し、被告のサーバを経由して、平成27年4月16日、別紙「情報目録」記載の情報に係る投稿1及び2(以下「本件情報1」及び「本件情報2」という。)が、同月19日、別紙「情報目録」記載の情報に係る投稿3(以下「本件情報3」という。なお、本件情報1ないし同3を併せて「本件各情報」という。)がなされ、不特定多数の者が閲覧することのできる状態に置かれた(甲1)。
  1611.   (3) 被告による本件各情報の発信者に係る情報の保有
  1612.   被告は、被告が、別紙情報目録の「投稿日時」欄記載の日時に、「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを割り振った者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスに係る情報を保有している(甲3、4)。
  1613.  3 争点―権利侵害の明白性
  1614.   (原告の主張)
  1615.   (1) 本件情報1について
  1616.   本件情報1は、原告が、過去に付き合っていた女性を誹謗中傷し、かつ、DVを行っていたという事実を摘示するものであり、これは、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が陰湿かつ凶暴な人物であると一般の読者を誤信させるものであり、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1617.   しかも、本件情報1は、真実でなく、その指摘は、公共の利害に関する事項とはいえず、公益目的も認められない。したがって、上記指摘に違法性阻却事由はない。
  1618.   (2) 本件情報2について
  1619.   本件情報2は、原告が、Dと呼称される人物に暴力を振るった事実及び大麻を扱っている事実を摘示するものであり、これは、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が凶暴な人物であり、かつ、大麻取締法で禁止されている行為を行っている疑惑のある遵法精神の乏しい人物であると一般の読者を誤信させるものであり、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1620.   しかも、前記(1)と同様に、上記指摘に違法性阻却事由はない。
  1621.   (3) 本件情報3について
  1622.   本件情報3は、原告が、犯罪者として逮捕されるという事実の摘示又は法的見解の表明であり、これは、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が犯罪者として逮捕されるような違法行為を行った危険な人物であると一般の読者を誤信されるものであり、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1623.   しかも、本件情報3は、真実でないが、それが法的見解の表明にすぎないとしても、その前提としている事実は、重要な部分について真実でない。したがって、前記(1)と同様に、上記指摘に違法性阻却事由はない。
  1624.   (被告の主張)
  1625.   本件情報1及び2は、可能性を示したに留まり、自らの意見を論評したものであって、直ちに原告の社会的評価を著しく低下させるものではない。
  1626.   また、本件情報3は、純粋な意見、論評の表明にすぎない。
  1627.   そして、意見ないし論評の表明については、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、不法行為は成立しないと解されるから、本件各情報の指摘が不法行為を構成するとは即断できない。
  1628.  
  1629.  
  1630. 第3 当裁判所の判断
  1631.  1 原告の社会的評価を低下させるか
  1632.   (1) 原告は、本件情報1は、原告が、過去に付き合っていた女性を誹謗中傷し、かつ、DVを行っていたという事実を摘示するものである旨主張する。
  1633.   確かに、本件情報1の、「1月頃からFBでアーティストの元カノを誹謗中傷しつっ」、「今度はBでオカルトネタで元カノの誹謗中傷を始める」、「DVの疑惑などが浮上」などの指摘は、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が、過去に交際していた女性を誹謗中傷し、DVを行っていたと疑われる男性であるという意味となり、原告の社会的評価を低下させ、名誉権を侵害するものといえる。
  1634.   (2) 原告は、本件情報2は、原告が、Dと呼称される人物に暴力を振るった事実及び大麻を扱っている事実を摘示するものである旨主張する。
  1635.   確かに、本件情報2の、「XがDさんに1月5日前にリアル暴力を振るった可能性が出た」、「Dさんが丸くおさめようとしたらX父が「それが何?」の反応」、「Xに大麻疑惑」などの指摘は、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が、Dという女性に暴力を振るう(可能性に止まらないからこそ、Dさんが丸くおさめようとするのだとみることもできる。)、あるいは、大麻を扱っている疑いのある男性であるという意味となり、原告の社会的評価を低下させ、名誉権を侵害するものといえる。
  1636.   (3) 原告は、本件情報3は、原告が、犯罪者として逮捕されるという事実の摘示又は法的見解の表明である旨主張する。
  1637.   この点、本件情報3の、「Xがリアル犯罪者としての逮捕されたら冗談どころじゃないもんな。」、「みんな冗談なんて言ってないけど。」などの指摘は、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が犯罪者として逮捕される、少なくともその可能性があることを前提に、それが大変なことであるという意味となり、ある事実を基礎として意見を表明するものである。
  1638.   ところで、このような事実を基礎とした意見の表明が名誉棄損となり得ることは、「ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉棄損にあっては、その行為が公共の利害に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁)。」とされるとおりである。
  1639.   したがって、本件情報3の指摘は、原告の社会的評価を低下させ、名誉権を侵害するものといえる。
  1640.  2 違法性阻却事由について
  1641.   本件各情報について、その内容が真実である(あるいは、そう信ずるについて相当の理由がある)ことや、その指摘が公共の利害に関する事項に係り、公益を図る目的に出たことの立証はない。
  1642.   したがって、本件各情報の指摘に、違法性阻却事由はない。
  1643.  3 以上によれば、本件各情報については、権利の侵害がなされたことが明白で、不法行為等の成立を阻却する事由の存在を窺わせるような事情が存在しないといえる。
  1644. 第4 結論
  1645.   以上のとおり、原告の請求は理由がある。よって、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
  1646.  
  1647. 民事第37部
  1648.  
  1649.  (裁判官 堀禎男)
  1650.  
  1651. 別紙(省略)
  1652.  
  1653.  
  1654.  
  1655. ■29015190
  1656.  
  1657. 東京地方裁判所
  1658.  
  1659. 平成27年(ワ)第14895号
  1660.  
  1661. 平成27年11月20日
  1662.  
  1663. 東京都(以下略)
  1664. 原告 X
  1665. 同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
  1666. 同 山岡裕明
  1667. 東京都(以下略)
  1668. 被告 KDDI株式会社
  1669. 同代表者代表取締役 A
  1670. 同訴訟代理人弁護士 今井和男
  1671. 同 山根航太
  1672. 同 横室直樹
  1673.  
  1674.  
  1675. 主文
  1676. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1677. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  1678.  
  1679.  
  1680. 事実
  1681. 第1 当事者の求めた裁判
  1682.  1 請求の趣旨
  1683.   (1) 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1684.   (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  1685.   (3) 仮執行宣言
  1686.  2 請求の趣旨に対する答弁
  1687.   (1) 原告の請求を棄却する。
  1688.   (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
  1689. 第2 当事者の主張
  1690.  1 請求原因
  1691.   (1) 当事者
  1692.   ア 原告は、B大学及びC大学で非常勤講師を務める者である。
  1693.   イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
  1694.   (2) インターネット上への投稿記事の掲載
  1695.   氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、インターネット上の電子掲示板サイトである「D」内にある「X4」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)において、別紙情報目録の投稿日時欄記載の各日時に、同目録の投稿情報内容欄記載の各内容の記事(以下「本件各記事」といい、個々の記事については、同目録の各記事の前に付した番号を用いて「本件記事1」のように表記する。)を投稿した。
  1696.   (3) 本件各記事にかかる開示関係役務提供者
  1697.   本件各記事は被告を経由プロバイダとして投稿されたものであるから、被告は、本件各記事との関係で、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項の定める開示関係役務提供者に該当する。
  1698.   (4) 権利侵害の明白性
  1699.   ア 同定可能性
  1700.   本件スレッドの題名には原告の氏名そのものである「X」との文字が含まれており、かつ、一般に当該スレッドの中心テーマを提示するレス番号1では、「非常勤講師」として原告の職業を明示した上、その勤務先として、原告の勤務先であるB大学及びC大学の名称を記載している。したがって、本件スレッドにおける「X」、「先生」及び「教員」との呼称は、原告の属性等について一定の知識、情報を有している者らによって、原告であるとの特定がなされる可能性があるので、名誉毀損における原告の特定として十分である。
  1701.   また、電子掲示板における一般的な投稿の手法に鑑みれば、あるスレッドに投稿された記事は、当該スレッドの中心テーマと異なる氏名若しくは名称等の固有名詞がことさら明示されている場合又は投稿の文脈上当該投稿が中心テーマと異なる他のテーマに関するものであることが明らかである場合を除いては、中心テーマについての意見等を述べるものと考えるべきである。したがって、「X」との文字を含む本件記事1、3及び15、「先生」との文字を含む本件記事2、4、6、7及び11、並びに「教員」との文字を含む本件記事10のみならず、それらの文字を含まない本件記事5、8、9、13及び14についても、本件スレッドの中心テーマである原告以外の者の氏名又は名称等の固有名詞がことさら明示されてはいないし、投稿の文脈上原告と異なる他のテーマに関するものであることが明らかであるとはいえないから、原告をその話題の対象としていることは明らかである。
  1702.   イ 原告の社会的評価の低下
  1703.   (ア) 本件記事1
  1704.   本件記事1は、「E」と称される人物が原告から暴力を受けて避難しているとの事実を摘示するものと読むことができ、原告が他者に対して暴力を用いたと一般の閲覧者をして誤信させるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  1705.   (イ) 本件記事2、3、4、6、7、8、11、12、13及び14
  1706.   本件記事2、3、4、6、7、8、11、12、13及び14は、原告がストーカーであるとの事実を摘示するものと読むことができ、原告がストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」という。)に抵触するストーカー行為を行う遵法精神の乏しい人物であると一般の閲覧者をして誤信させるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  1707.   (ウ) 本件記事5
  1708.   本件記事5は、原告にはDV疑惑があるとの事実を摘示するものと読むことができ、原告が家庭内で暴力行為を行う凶暴な人物であると一般の閲覧者をして誤信させるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  1709.   (エ) 本件記事9
  1710.   本件記事9は、原告が暴力をふるい、かつストーカーであるとの事実を摘示するものと読むことができ、原告が凶暴であり、かつストーカー規制法に抵触するストーカー行為を行う遵法精神の乏しい人物であると一般の閲覧者をして誤信させるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  1711.   (オ) 本件記事10
  1712.   本件記事10は、原告がネットハラスメント及びDVをしているとの事実を摘示するものであり、原告がインターネット上で誹謗中傷を行い、かつ家庭内で暴力行為を行うという陰湿かつ凶暴な人物であると一般の閲覧者をして誤信させるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  1713.   (カ) 本件記事15
  1714.   本件記事15は、原告が発信する文書で他人のプライバシーを中傷し、被害者を徹底的にリンチした結果性犯罪に近い案件に関わっていたとの事実を摘示するものと読むことができ、原告が他者のプライバシー権を侵害し、暴行を加え、性犯罪に加担した可能性のある残忍かつ反社会的な成功を有する人物であると一般の閲覧者をして誤信させるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  1715.   ウ 違法性阻却事由の不存在
  1716.   本件各記事の内容は一私人に関する情報であって、公共の利害に関する事項とはいえない。
  1717.   また、本件各記事の表現方法は、根拠を明確に示すことなくただ原告を誹謗中傷するものであり、積極的な加害意思しか見て取ることができず、公益目的も認められない。
  1718.   さらに、原告が、「E」と称される人物等に対する暴力行為、ストーカー行為、ネットハラスメント、又はプライバシー侵害、リンチ、性犯罪若しくはそれらに準じるような行為に及んだ事実はなく、本件各記事の内容はいずれも真実ではない。
  1719.   (5) 開示を受けるべき正当な事由
  1720.   ア 原告は、本件投稿者に対し、本件各記事に係る名誉毀損による不法行為に基づき損害賠償を求めるために、本件投稿者の発信者情報の開示を求めるものであるから、その開示を求める正当な理由がある。
  1721.   イ 電子メールアドレスについては、本件投稿者が未成年者であった場合、親名義で携帯電話を契約している可能性があり、また、世帯主の名義で携帯電話を契約して、他の家族が使用している可能性もあるところ、電子メールアドレスは通常共有して利用するものではないため、実際の発信者を推知するためには必要な情報である。
  1722.   (6) よって、原告は、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める。
  1723.  2 被告の認否及び反論
  1724.   (1) 請求原因(1)アの事実は知らず、同イの事実は認める。
  1725.   (2) 請求原因(2)及び同(3)の事実は認める。
  1726.   (3) 請求原因(4)の事実は否認し、主張は争う。
  1727.   ア 同定可能性
  1728.   本件スレッドの題名が「X4」であること及び本件各記事の一部に原告と同一の氏名又は姓のみが記載されていることは認めるが、それ以外に原告を特定する情報は記載されておらず、同姓同名の者も存在する可能性がある以上、一般の閲覧者がそれらの記事を見てその対象が原告であると直ちに認識するとは考えられない。
  1729.   また、その余の記事には、「先生」等の記載を含むものもあるものの、本件スレッドには原告以外にも「先生」との呼称が用いられる人物に関する記載もあり、一般の閲覧者がそのような記載のみから記事の対象が原告であるとは認識しないし、そのような記載すらない記事については、他の記事に対する応答であることを踏まえても、記事の対象が原告であるとは認識しない。
  1730.   イ 原告の社会的評価の低下
  1731.   (ア) 本件記事1
  1732.   本件記事1の記載は全く趣旨不明であり、しかも、具体的な事実摘示は一切ないから、当該記載を見た一般の閲覧者が、原告が他者に対して暴力行為を働いたと誤信することはない。
  1733.   (イ) 本件記事2、3、4、6、7、8、11、12、13及び14
  1734.   本件記事2、3、4、6、7、8、11、12、13及び14に記載された「ストーカー」との記載は単なる評価に過ぎず、事実の摘示があったとはいえない。
  1735.   (ウ) 本件記事5
  1736.   本件記事5の記載は全く趣旨不明であり、また、「DV疑惑」との記載は単なる個人の疑いを表すに過ぎず、事実摘示がなされているとはいえない。
  1737.   (エ) 本件記事9
  1738.   本件記事9のうち、「リアル暴力やっつてたら」(ママ)との記載は仮定についての記載であり、一般の閲覧者は原告が暴力を振るったとは読まない。また、「ストーカー」との記載は、前記(イ)のとおり事実摘示がなされているとはいえない。
  1739.   (オ) 本件記事10
  1740.   本件記事10の記載は趣旨不明であるし、「ネットハラスメント」や「DV」といった記載は個人の評価に過ぎず、事実摘示がなされているとはいえない。
  1741.   (カ) 本件記事15
  1742.   本件記事15の記載は全く趣旨不明であり、事実摘示がなされているとはいえない。
  1743.   ウ 違法性阻却事由の不存在
  1744.   本件各記事の内容は、教員という立場にある原告がストーカーであることなど犯罪となりうる行為を告発するものであり、公共の利害に関する事実であることは明白である。
  1745.   また、本件投稿者が公益目的を持って投稿していると考えられ、少なくともこのような目的がないことが明らかとはいえない。
  1746.   さらに、本件投稿者は、相当な根拠をもって本件各記事を投稿していることがうかがわれ、本件各記事の内容が真実である可能性は否定できない。
  1747.   (4) 請求原因(5)の事実は知らず、主張は争う。
  1748.   原告が本件投稿者に対し損害賠償請求訴訟を提起するのであれば、発信者の住所及び氏名を取得すれば十分であり、電子メールアドレスは同訴訟提起のために必要ではない。
  1749.  
  1750.  
  1751. 理由
  1752.  1 請求原因(1)アの事実は甲4から認められ、同イの事実は当事者間に争いがない。
  1753.  2 請求原因(2)及び(3)の事実は当事者間に争いがない。
  1754.  3 請求原因(4)について
  1755.   (1) 請求原因(4)アについて
  1756.   本件スレッドの題名が「X4」であることは当事者間に争いがないところ、この題名に含まれる唯一の人名である「X」は、原告の氏名と漢字表記まで合致する。また、甲1及び甲4によれば、本件スレッドの題名と密接に関連すると考えられるレス番号1の記事には、「非常勤講師」、「B大学」、「C大学」等の記載があることが認められるところ、これらは、原告の職業及び勤務先と合致する。以上によれば、本件スレッドの題名中の「X」との記載は、原告を特定して指し示すものと認めるのが相当である。
  1757.   そして、本件スレッドの題名が上記のようなものであることに照らせば、本件スレッドは、その全体を通じて専ら原告を話題の対象とするものであると推認されるところ、本件各記事について、その話題の対象が原告以外の者であるとうかがわせる記載はなく、本件各記事は、いずれも原告を話題の対象としているものと認められる。
  1758.   以上によれば、請求原因(4)ア(同定可能性)の事実が認められる。
  1759.   (2) 請求原因(4)イについて
  1760.   請求原因(4)イ(原告の社会的評価の低下)の事実が認められることは、以下のとおりである。
  1761.   ア 本件記事1について
  1762.   本件記事1のうち、「Eが堀之内出版のFからXからの暴力の避難先に送られた存在抹消の内容証明をツイッターにアップ」なる記載のうち「Xからの暴力の避難先」との文言は、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、「E」なる人物がXから暴力を受けて避難した事実を摘示するものと容易に理解できる。そして、当該事実は、Xすなわち原告が他者に暴力を行使したとする点で、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1763.   イ 本件記事2、3、4、6、7、8、11、12、13及び14について
  1764.   本件記事2、3、4、6、7、8、11、12、13及び14は、いずれも、原告を「ストーカー」と称するものであるところ、上記各記事全体の文言及び本件スレッド全体の文脈等に照らせば、これらの記事は、原告がストーカー行為を行ったとの事実を摘示するものといえる。
  1765.   そして、当該事実は、原告が、犯罪ともなり得る行為であるストーカー行為を行ったとする点で、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1766.   ウ 本件記事5について
  1767.   本件記事5の記載のうち、「DV疑惑をもみ消すために被害者になりすます」との記載は、もみ消しの対象となる事実が存在することを前提とするものということができるところ、かかる記載は、本件スレッド全体の文脈に照らし、原告によるDVすなわち家庭内暴力が存在するとの事実を摘示するものといえる。
  1768.   そして、当該事実は、原告が他者に暴力を行使したとする点で、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1769.   エ 本件記事9について
  1770.   本件記事9は、「もしリアル暴力やっつてたら」(ママ)とするものであり、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、この記載部分は原告が現実に暴力を振るった事実があった場合の仮定を示すものと理解され、これに反する事情も見当たらないから、原告が暴力を振るった事実を摘示するものとは認められない。
  1771.   一方、本件記事9は、上記記載に続いて「ストーカーだしどうすんだろうね」とするものであり、この記載部分は、上記仮定に関わらず、原告が「ストーカー」であること、すなわち「ストーカー」行為を行った事実を摘示するものといえる。
  1772.   したがって、本件記事9は、前記イで述べたところによれば、上記の限度で原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1773.   オ 本件記事10について
  1774.   本件記事10は、「あんなネットハラスメントとDVいってたら教員どころじゃねえ」との記載を含むところ、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、この記載部分は、原告がネットハラスメント及び家庭内暴力と称されるべき行為を行っているとの事実を摘示し、それに基づいて、教員としての資質に欠ける旨評価しているものと理解することができる。
  1775.   これに対し被告は、「ネットハラスメント」及び「DV」との記載が本件投稿者による評価に過ぎず何らの事実をも摘示するものではない旨主張するが、上記各記事全体の文言及び本件スレッド全体の文脈等に照らせば、上記各記事におけるこれらの記載は、何らの事実に基づかずに評価のみをするものではなく、上記のとおりの事実を摘示しているものといえるから、被告の上記主張は採用できない。
  1776.   そして、当該事実は、原告が、ネットハラスメント及び家庭内暴力と称されるべき、犯罪ともなりうる行為を行ったとする点で、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1777.   カ 本件記事15について
  1778.   本件記事15は、必ずしもその文意が明瞭でない部分もあるが、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、「ハラスメントの要素が強いから性犯罪に近い案件」とする記載部分からすると、「被害者を徹底的にリンチ」するなど不適切な行為を行ったとの事実を摘示した上で、当該行為について性犯罪に近いと評価するものであると理解できる。
  1779.   そして、本件記事15は、原告が不適切な行為を行った事実を摘示し、それが性犯罪に近いと評価する点で、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1780.   (3) 請求原因(4)ウについて
  1781.   甲4によると、原告は、前記(2)のとおり本件各記事が摘示する事実について、いずれも実際には行ったことがなく、真実でない旨陳述するところ、これに反する証拠は特段見当たらないから、これらの事実はいずれも真実でないものと認められる。
  1782.   したがって、その余の点につき判断するまでもなく、違法性阻却事由はないことが認められる。
  1783.  4 請求原因(5)アの事実は甲4により認められ、当該事実によれば、原告には、本件投稿者の発信者情報の開示を求める正当な理由が認められる。
  1784.   なお、被告は、電子メールアドレスについては開示を求める正当な理由がない旨主張するが、例えば、同一の者が契約した複数の端末を複数の者が使用しており、各端末に電子メールアドレスが登録されている場合など、電子メールアドレスによって投稿者の特定に資することが考えられるから、これについても開示を求める正当な理由が認められる。
  1785.  5 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。
  1786.  
  1787. 民事第15部
  1788.  
  1789.  (裁判長裁判官 青木晋 裁判官 佐藤隆幸 裁判官 佐藤貴大)
  1790.  
  1791. 別紙(省略)
  1792.  
  1793.  
  1794.  
  1795.  
  1796.  《全 文》
  1797.  
  1798. 【文献番号】25532640  
  1799.  
  1800. 発信者情報開示請求事件
  1801. 東京地方裁判所平成27年(ワ)第22268号
  1802. 平成27年12月3日民事第18部判決
  1803. 口頭弁論終結日 平成27年10月15日
  1804.  
  1805.        判   決
  1806.  
  1807. 原告 a
  1808. 同訴訟代理人弁護士 ○○○○
  1809. 同 ●●●●
  1810. 被告 株式会社NTTドコモ
  1811. 同代表者代表取締役 b
  1812. 同訴訟代理人弁護士 上田雅大
  1813. 同 嶋村直登
  1814. 同 上村哲史
  1815. 同 横山経通
  1816.  
  1817.  
  1818.        主   文
  1819.  
  1820. 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
  1821. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  1822.  
  1823.  
  1824.        事実及び理由
  1825.  
  1826. 第1 請求
  1827.  主文同旨
  1828. 第2 事案の概要
  1829.  本件は,原告が,電気通信事業者である被告に対し,被告の電気通信設備を経由してインターネット上の掲示版サービスに投稿された別紙情報目録記載の各情報(内容は別紙情報目録の「投稿情報内容」欄記載のとおりであり,以下,これらの情報を併せて「本件各情報」という。)によって原告の名誉権が侵害されているところ,本件各情報の発信者に対して損害賠償請求を行うために必要であるとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて,本件各情報の発信者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスの開示を求める事案である。
  1830. 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
  1831. (1)当事者
  1832. ア 原告は,中学校及び高等学校を運営する学校法人順心広尾学園(平成19年の改称前の名称は学校法人順心女子学園。以下,改称の前後を通じて「広尾学園」という。)において学園長職を以前に務めていた者であり,現在は,広尾学園とは別の法人が運営する中学校及び高等学校の学園長を務めている。(甲1~3,8,9)
  1833. イ 被告は,電気通信事業を営む株式会社である。(争いのない事実)
  1834. (2)平成◎◎年◎月◎◎日から同年◎月◎◎日にかけて,それぞれ別紙情報目録の「投稿日時」欄記載の日時ころに,インターネット上の掲示版サービス「2ちゃんねる」(以下「本件ウェブサイト」という。)の「□□□□□□□□□□」とのタイトルのスレッド(以下「本件スレッド」という。)中に,本件各情報が投稿・掲載された。(甲4,6)
  1835. (3)本件各情報の発信者は,いずれも,インターネットを通じて,被告が提供するインターネット接続サービスを利用して本件各情報の投稿を行った。(甲6,7,弁論の全趣旨)
  1836. (4)本件ウェブサイトに本件各情報の投稿を行うことは,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)に当たり,当該特定電気通信について,被告は,法4条1項の当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)に該当する。(弁論の全趣旨)
  1837. (5)被告は別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。(争いのない事実)
  1838. 2 争点及び当事者の主張
  1839.  本件の争点は,本件各情報によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるか(権利侵害の明白性・法4条1項1号)及び発信者情報の開示を受ける正当な理由の有無(法4条1項2号)であり,これに対する当事者の主張は次のとおりである。
  1840. (1)本件各情報による権利侵害の明白性の有無
  1841. (原告の主張)
  1842.  本件各情報は,以下のとおり,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合に原告の社会的評価を低下させ,その名誉権を侵害するものであり,違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情も存在しないから,本件各情報によって原告の権利が侵害されていることは明白である。
  1843. ア 本件各情報による原告の社会的評価の低下の有無について
  1844. (ア)本件各情報が原告についての記載であること
  1845.  広尾学園において「学園長」という役職は,平成17年9月1日に設けられて原告が就任したものであり,原告はそれから平成25年3月までおよそ7年半もの間学園長を単独で務め,原告の退任後,広尾学園において学園長職に就いたものはいない。
  1846.  本件各情報はいずれも「□□□□□□□□□□」との本件スレッドにおいて,平成◎◎年◎月◎◎日から同年◎月◎◎日までの間に,「元学園長」又は「前学園長」についての記載がされているものであるところ,そこでの「元学園長」又は「前学園長」が原告を指すことは明らかである。
  1847. (イ)本件情報1
  1848.  別紙情報目録記載1の情報(以下「本件情報1」という。)は,「前学園長」が「改竄」を「指示」したという事実を摘示するもので,原告が広尾学園の学園長を務めていた当時,違法又は不正の目的で,その地位を濫用して,広尾学園の生徒に係る成績の違法又は不正な書換えに関わっていたと一般の読者をして誤信させるものであり,特に教育に関わる原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1849. (ウ)本件情報2
  1850.  別紙情報目録記載2の情報(以下「本件情報2」という。)は,「広尾学園」の「前学園長」である原告が,「当スレ」ッドにおいて「c氏を個人攻撃」しているという事実,「なりすまし」をしているとの事実を摘示するもので,これは,原告が第三者になりすまして,本件スレッド上でc氏を誹謗中傷するという卑劣極まりない人物であると一般の読者をして誤信させるものであり,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1851. (エ)本件情報3
  1852.  別紙情報目録記載3の情報(以下「本件情報3」という。)は,「元学園長」である原告が,「不正」を行い「解雇追放」されたとの事実を摘示するものであり,これは原告が何らかの不正行為を行ったこと,及び当該行為が原因で解雇された反社会的な人物であると一般の読者をして誤信させるものであり,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  1853. イ 違法性阻却事由を窺わせる事情の有無について
  1854.  本件各情報は,いずれも真実ではない。本件各情報は,一介の私人に関する情報であって公共の利害に関する事項とはいえず,また,表現方法は根拠を明確に示すことなくただ原告を誹謗中傷するもので,積極的な加害意思しか見て取ることができず,公益目的も認められない。
  1855. (被告の主張)
  1856.  原告の主張は争う。本件各情報による権利侵害が明白であるとまではいえない。
  1857. ア 本件各情報による原告の社会的評価の低下の有無について
  1858.  本件各情報には原告の氏名は記載されておらず,「前学園長」(本件情報1),「広尾学園前学園長」(本件情報2),「元学園長」(本件情報3)がそれぞれ原告のことを指すと同定可能であるとはいえない。
  1859.  仮に,これらが原告であると同定可能であるとしても,本件情報2,本件情報3に接した場合に原告の社会的評価が低下するといえるかどうか疑義がある。
  1860. イ 違法性阻却事由を窺わせる事情の有無について
  1861.  仮に本件各情報が原告の社会的評価を低下させるといえるとしても,本件各情報の内容が真実であるか,真実であると信ずるに足りる相当な理由があり,公共性及び公益目的があると認められ,違法阻却事由が存在する可能性がある。
  1862. (2)発信者情報の開示を受ける正当な理由の有無
  1863. (原告の主張)
  1864.  原告は,本件各情報の発信者に対して,不法行為(名誉毀損)に基づく損害賠償請求をするために,別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求めるものであり,開示を受ける正当な理由がある。
  1865.  なお,被告と本件各情報の発信者との契約については,本件各情報の発信者が未成年であった場合に親名義で携帯電話を契約している可能性,その他,世帯主の名義で携帯電話を契約して他の家族が使用している可能性もあるところ,電子メールアドレスは共有して利用するものでは通常ないため,実際の発信者を推知するためには,電子メールアドレスの開示も受ける必要がある。
  1866. (被告の主張)
  1867.  原告の主張は争う。
  1868.  氏名又は名称及び住所の開示を受けることができる場合には,それだけで損害賠償請求権の行使が可能であるから,電子メールアドレスの情報の開示は不要であり,その開示請求には正当な理由がない。
  1869. 第3 当裁判所の判断
  1870. 1 本件各情報による権利侵害の明白性の有無について
  1871. (1)本件各情報による原告の社会的評価の低下の有無について
  1872. ア 本件各情報が原告についての記載であるといえるかについて
  1873.  証拠(甲1~3,8,9)及び弁論の全趣旨によれば,原告が平成17年9月から平成25年3月まで広尾学園の学園長職を務めたこと,それ以前に広尾学園において「学園長」という役職の者はおらず,原告の退任後,平成27年9月ころまでの間,広尾学園において「学園長」職として活動していた者はいなかったことが認められる。
  1874.  本件各情報が投稿された本件スレッドのタイトルが「□□□□□□□□□□」と原告の元勤務先の名称を含むものであること(甲4),本件各情報は原告が広尾学園の学園長職を離れた後の平成◎◎年◎月◎◎日から同年◎月◎◎日までの間に投稿されたものであり,それぞれ「前学園長」(本件情報1),「広尾学園前学園長」(本件情報2),「元学園長」(本件情報3)との記載がされていること,本件スレッドの中に「a前学園長」(レス番号×)や「前学園長であるa氏」(レス番号△△△)などと原告の氏名が記載されているものがあることからすれば,本件各情報において「前学園長」又は「元学園長」として記載されている人物は原告を指し,そのことは一般の閲覧者においても十分理解可能であったと認められる。
  1875. イ 本件情報1について
  1876.  本件情報1には「前学園長の改竄指示は事実」との記載がされているところ,その直前に「学園内部の教職員から生徒成績情報を不正に入手し,学園の成績改ざん事件をでっち上げたこと」との記載を含む投稿(レス番号×××)がされているという文脈を踏まえると,本件情報1は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,「前学園長」であった原告が広尾学園の生徒の成績の改ざんを指示したとの事実を摘示したものと認めるのが相当であり,これは,原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉を毀損するものであるというべきである。
  1877. ウ 本件情報2について
  1878.  証拠(甲1,4)によれば,本件スレッド上には,以前に広尾学園において勤務していたc(以下「c」という。)について不正行為があったとの記載が多数されているところ(レス番号×××,△△△など),本件情報2は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,「広尾学園前学園長」である原告が,cを個人攻撃するために,不特定多数が閲覧するインターネット上の掲示板(本件スレッド)において,他人になりすまして投稿をしているとの事実を摘示するものと認められ,これは,原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉を毀損するものであるというべきである。
  1879. エ 本件情報3について
  1880.  本件情報3は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,「元学園長」である原告が,広尾学園において何らかの不正行為を行い,広尾学園を解雇されたとの事実を摘示するものと認められ,これは,原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉を毀損するものであるというべきである。 
  1881. オ 以上のとおりであり,本件各情報は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,いずれも原告の社会的評価を低下させ,名誉を毀損するものといえる。
  1882. (2)違法性阻却事由を窺わせる事情の有無について
  1883.  前記(1)で検討した,本件各情報における摘示事実の真実性について検討すると,甲第1号証(原告の陳述書)においては,本件情報1につき,原告が広尾学園において生徒の成績を改ざんした事実はなく,本件情報2につき,原告は本件ウェブサイト(2ちゃんねる)に投稿をしたこと自体なく,本件情報3につき,原告が広尾学園の学園長職等を退任したのは任期満了によるものであり,広尾学園を解雇された事実はなく,同所において不正行為を行ったこともない旨の説明がそれぞれされており,また,広尾学園がその管理するウェブサイトに掲載した原告の退任の挨拶(甲2)においても,原告の退任は任期の終了によるものとの説明がされている。そして,本件全証拠によっても,これらの記載内容についてその信用性を疑わせる具体的な事情は認められない(被告も,本件情報3について下記の主張をするほかは,上記の陳述書等の記載内容の信用性について具体的な指摘をするものではない。)。
  1884.  そうすると,本件証拠上,本件各情報における前記(1)の摘示事実は真実ではなく,本件各情報について違法性阻却事由を窺わせる事情はないものと認めるのが相当である。
  1885.  なお,被告は,本件情報3について,発信者からは,原告が建設会社から利益供与を受けたため,広尾学園を解雇されたとの意見を聴取した旨主張するものの,意見聴取結果の具体的内容や聴取に係る事実を裏付ける証拠を提出するものではなく,上記の結論を覆すに足りない。
  1886. (3)以上によれば,本件各情報によって,原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるというべきである。
  1887. 2 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無について
  1888.  弁論の全趣旨によれば,原告は本件各情報の発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており,そのためには,原告において,別紙発信者情報目録記載の各情報(発信者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレス)の開示を受ける必要があるものと認められるから,当該情報の開示を受けるべき正当な理由があるものというべきである。
  1889.  この点につき,被告は,電子メールアドレスの開示を求める正当な理由は存在しないと主張するが,損害賠償請求の前提として,発信者をより正確に特定し,また,任意に連絡をとって事実関係の確認等を行うためには,電子メールアドレスの開示を受ける必要もあるものと認められる。
  1890. 3 結論
  1891.  以上のとおりであり,原告の請求は全部理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
  1892. 東京地方裁判所民事第18部
  1893. 裁判官 矢野紀夫
  1894.  
  1895. (別紙)発信者情報目録
  1896. 別紙情報目録記載の投稿日時において,同目録記載の投稿用URLに接続し通信を行っていた電気通信回線の同投稿日時における契約者に関する次の情報
  1897. 1 氏名又は名称
  1898. 2 住所
  1899. 3 電子メールアドレス
  1900. (別紙)情報目録
  1901.  
  1902.  
  1903.  
  1904.  
  1905.  
  1906. ■29016021
  1907.  
  1908. 東京地方裁判所
  1909.  
  1910. 平成26年(ワ)第34056号
  1911.  
  1912. 平成27年12月10日
  1913.  
  1914. (住所略)
  1915. 原告 X
  1916. 同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
  1917. 東京都(以下略)
  1918. 被告 株式会社ドリーム・トレイン・インターネット
  1919. 同代表者代表取締役 A
  1920. 同訴訟代理人弁護士 矢吹公敏
  1921. 同 西出恭子
  1922. 同 細川日色
  1923.  
  1924.  
  1925. 主文
  1926. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  1927. 2 訴訟費用は、被告の負担とする。
  1928.  
  1929.  
  1930. 事実及び理由
  1931. 第1 請求
  1932.   主文同旨
  1933. 第2 事案の概要等
  1934.  1 事案の概要
  1935.   本件は、原告が、電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社である被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、発信者情報の開示を求める事案である。
  1936.  2 前提事実
  1937.   (1) 当事者
  1938.   ア 原告は、反人種差別等を標榜し、人種差別団体に対して圧力をかける等の活動をする団体であるC組の組長を名乗っている(乙2、乙8の1、弁論の全趣旨)。
  1939.   イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である(争いがない。)。
  1940.   (2) 本件発信者による情報の発信
  1941.   氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、インターネット掲示板B(http://(以下略))の「X(X)Xくん」というスレッドにおいて、別紙情報目録記載の情報を投稿した(甲1、以下「本件投稿」という。)。
  1942.   (3) 本件発信者に係る情報と被告との関わり
  1943.   本件発信者は、被告をアクセスプロバイダとして、本件投稿を行った(甲2ないし4)。
  1944.   (4) 被告の開示関係役務提供者該当性
  1945.   被告は、法4条1項の当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に該当する(争いがない。)。
  1946.   (5) 本件発信者に係る情報の開示請求の目的
  1947.   原告は、本件発信者に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することを予定しており、そのために本件発信者に係る情報の開示を求めている(弁論の全趣旨)。
  1948.  3 争点及び争点に関する当事者の主張
  1949.   本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるか
  1950.   (1) 違法性阻却事由の存在を窺わせる事情の不存在について
  1951.   (原告の主張)
  1952.   ア 「D組組員」との投稿の真実性
  1953.   本件投稿では、原告は、「D組組員」であるとされている。D組とは、E組系の暴力団である。原告が、過去も現在も暴力団構成員であった事実は存在しない。また、原告がD組組員であると標榜したことは一度もない。
  1954.   イ 「暴力団の組長」との投稿の真実性
  1955.   原告の所属するC組は、反レイシズムのための市民活動のために結成された集団であり、暴力団ではない。「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下、「暴対法」という。)に定義される「暴力団」とは、「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」(同法2条2号)をいうが、C組は、集団的又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれはない。
  1956.   ウ 真実と信じたことについて相当な理由がないこと
  1957.   被告は、インターネット上に、原告がD組の組員であることの情報が大量にあったと主張するが、否認する。
  1958.   C組については、ホームページ等から明らかなとおり、反レイシズムのための市民活動を行う集団にすぎない。C組において、暴力行為を推奨したこともなければ、容認したこともない。過去の市民活動の中で逮捕等されたことをもって、通常の一般人はC組を暴力団と判断しない。
  1959.   エ 公共の利害に関する事実ではないこと
  1960.   一個人の経歴あるいは私生活上の言動等については、当該個人の社会的地位、活動等が公的なものであるような場合はともかく、そうでない場合には、特段の事情がない限り、公共の利害に関する事実とはいえない。原告は、公的な地位にもおらず、単にレイシズムに対する反対運動をしているにすぎない。このような原告の経歴について、公共の利害に関する事実とはいえない。
  1961.   オ 公益目的が認められないこと。
  1962.   本件投稿には、記事内容として、公益に資するような情報は一切存在せず、公益目的は認められない。
  1963.   (被告の主張)
  1964.   ア 「D組組員」との投稿の真実性
  1965.   原告は以前、「F」なるアカウントを用いて、自身がD組組員であるとツイートしていたところ、このような原告のツイートに対して、「G」なる人物(「H」なるアカウントを使用)が、原告に対して、「お前指定暴力団の名前出してケツもてんのかって聞いてんだよ。今更「暴力団の名前じゃありません」とかカッコ悪い逃げ方すんなよ。」とツイートしたとのことである(乙16)。当該ツイートからすれば、原告が「指定暴力団の名前」を出していたことが窺われ、「D組」が指定暴力団E組の二次団体であることにも照らすと(甲6)、原告が「D組組員」であることを自称していたことが窺われる。また、原告と思われる人物の写真に、「E組系D組組員I」との文言が付記された画像がインターネット上に公開されているようであり(乙17)、当該画像は原告が「D組組員」であることを窺わせるものである。
  1966.   加えて、原告と思われる刺青を施した人物の写真に原告の氏名及び「自称:E組系D組組員」との文言が付記された記事が存在していること(乙12)、第三者がK上で原告に対し「ワレ、Jの暴力団員と言うたやないかい」「組の名前は先に出してもらおかいのぉ」と発言していること(乙14)からしても、原告が暴力団員又は「D組組員」であると自称していたことが窺われ、原告が「D組組員」であることが窺われる。
  1967.   したがって、「D組組員」との記載について、真実であることを窺わせる事情が存在する。
  1968.   イ 「暴力団の組長」との投稿の真実性
  1969.   原告は、「F」なるアカウントを用いてK上で発言をしていたところ、K上で氏名不詳者から「C組ってヤクザごっこしてるんですか?」との発言がされたことに対して、原告は、「ごっこじやねーよ。ヤクザだよ。」と発言しているようである(乙21)。原告の当該発言は、C組がヤクザであることを自認するものといえる。
  1970.   加えて、原告を含むC組のメンバーがデモ参加者に対し暴行・脅迫行為を行い、デモ参加者に対する暴行・脅迫、傷害、暴力行為等処罰法違反の容疑で現に逮捕されていること(乙9の1ないし3、乙19、乙22の1・2)(これらはC組の活動に付随して発生したことが窺われるが、いずれも、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則1条2号より、暴対法2条1号の「暴力的不法行為等」に該当するとされている犯罪であり、また、暴力行為等処罰法が団体又は多衆による集団的な暴行・脅迫などを特に重く処罰する法律であることからすれば、C組が集団で暴力行為等を行っていたことが窺われる)、原告がその傷害事件につき有罪の判決を言い渡されているようであること(乙4、5)、C組においては「組長」、「副長」、「舎弟頭」、「若頭」といった暴力団において用いられる役職名が使用されていること(乙8の1。なお、C組の開設するウェブページには、「組長」等の役職名の掲載に加え、刺青を施したメンバーの写真も掲載されている(乙8の2))、にも照らすと、「C組」が「暴力団」であることが窺われる。
  1971.   したがって、「暴力団」との記載について、真実であることを窺わせる事情が存在する。
  1972.   ウ 真実と信じたことについて相当な理由があること
  1973.   本件発信者によると「原告がD組組員であるとの情報が大量にインターネット上に投稿されていたため、原告が暴力団(D組)組員であると思っていた」、「C組が(その目的は何であれ)暴力行為を容認し、これを目的実現のための手段として推奨していること、実際に逮捕者が出ていることから、…C組が世間一般に言う「暴力団」であると思った」とのことである(乙15)。
  1974.   原告がD組組員であること及びC組が暴力団であることを示す情報が現に存在すること(D組組員について:乙10の1・2、乙12、14、16、17。暴力団について:乙4、5、乙8の1・2、乙9の1ないし3、乙10の1・2、乙19、21、乙22の1・2)、原告を含むC組のメンバーがデモ参加者に対する暴行及び脅迫、傷害、暴力行為等処罰法違反の容疑で現に逮捕されていることからすれば、本件投稿の「D組組員」及び「暴力団」との記載につき、本件発信者において真実であると信じたことについて相当な理由が認められる。
  1975.   エ 公共の利害に関する事実であること
  1976.   ある人物が「暴力団の組長」であるかどうかは、公共の安全にかかわる事実であり、一般国民の正当な関心事であるといえる。また、原告は、「日本の反レイシズムと反ファシズムのフロントに立ち」差別主義に反対する運動を展開する「C組」と称する団体の「組長」として、同団体の先頭に立つ人物であるようであるところ(乙2、乙1の資料5-1)、団体の代表者に関する事実は、当該団体の活動に対する評価の一資料として、一般公衆が正当な関心を有する事項であり、公共の利害に関する事実と言い得る。さらに、本件回答者によると、原告ら「C組」のメンバーは暴力的行為を行っているようであるところ、公訴提起前の犯罪行為については、原則として、公共の利害に関する事実に該当すると解され、本件情報は、この点からも公共の利害に関する事実であると窺える。
  1977.   したがって、本件情報については、公共の利害に関する事実であることを窺わせる事情が存在する。
  1978.   オ 公益目的であることを窺わせる事情があること
  1979.   本件投稿は、上記のような活動を展開する「C組」の「組長」である原告に関する事実を淡々と述べるにとどまり、原告に対する不当な人格攻撃に及ぶ表現は見受けられない。また、本件投稿情報の内容は、上記のとおり、公共の利害に関する事実とも言い得るところ、公共の利害に関する事実の摘示は、不当な人格攻撃等に及んでいるような場合を除き、公益目的をもってなされたものと考えられる。
  1980.   したがって、本件情報については、公益目的であることを窺わせる事情がある。
  1981.   (2) 開示を受けるべき正当な理由の存在について
  1982.   (原告の主張)
  1983.   原告は、損害賠償請求訴訟等法的手段を講じるために発信者情報が必要であり、本件訴訟を提起しているにすぎない。したがって、開示請求権の濫用のおそれは存在しない。原告と原告訴訟代理人の間では、書面による許可がなければ、本件訴訟で知り得た情報について、第三者に開示することはできない。被告が指摘する原告の発言は、時期的にも内容的にも、何ら本件訴訟と関係がないK上での発言である。
  1984.   (被告の主張)
  1985.   原告は、Kにおいて、「お前は特定したからな。気を付けろよ」、「どんどん住所特定してるぞ いきなり訪問してやるから楽しみにしておけ」、「君たちは既に特定してるからね。ネトウヨ辞めないと叱りにいくよ」などの発言を多数行っているとのことである(乙1の資料10-1、資料10-5)。また、原告は、「行動界隈やネトウヨよ!これからは本気でお前らを潰しにかかるから覚悟しとけ!どんどん住所特定してるからな。楽しみに待ってろよ!」との発言もしているようである(乙3)。
  1986.   このような原告の発言は、原告が住所氏名不詳者の個人情報を入手した上、これらの者の自宅を訪問するなどして、これらの者に直接接触することを示唆するものである。また、原告は、「叱りにいく」、「潰しにかかる」との発言に加え、「俺がストリートでお前にケンカを教えてやるよw 懲役くらいお互いに覚悟しようぜ!」などとも発言しており(乙1の資料10-4)、一連の原告のK上での発言は、原告が個人情報を入手して直接接触した相手方に対し、何らかの不利益を与えることを示唆するものである。
  1987.   これらの事情から、原告には、不当な自力救済等を目的とするなど開示請求権の濫用のおそれがあり、発信者情報を入手する合理的な必要性を欠く。
  1988. 第3 争点に対する判断
  1989.  1 違法性阻却事由の存在を窺わせる事情の不存在について
  1990.   (1) 「D組組員」との投稿の真実性
  1991.   証拠(甲5、6)及び弁論の全趣旨によれば、D組とは、E組系の暴力団であることが認められ、原告はD組に所属したことがないことが認められる。したがって、「D組組員」との投稿は、真実でないことが認められる。
  1992.   被告は、原告は以前、「F」なるアカウントを用いて、自身がD組組員であるとツイートしていた旨主張するが、これを裏付ける証拠はない。
  1993.   また、被告は、原告と思われる人物の写真に、「E組系D組組員I」との文言が付記された画像がインターネット上に公開され、原告と思われる刺青を施した人物の写真に原告の氏名及び「自称:E組系D組組員」との文言が付記された記事が存在していること、第三者がK上で原告に対し原告が暴力団員であることを自称していたことを前提とするツイートをしたことから、原告がD組組員であったことの真実性が窺える旨主張するが、これらの各発信は信頼できる情報源によるものとは解されないから、原告がD組組員であったことを裏付けるに足らない。したがって、被告の上記主張は採用できない。
  1994.   (2) 以上によれば、「D組組員」との投稿が真実でない以上、「暴力団の組長」との投稿の真実性、公共の利害に関する事実であるかどうか及び公益目的であるかどうかについて判断するまでもなく、違法性阻却事由の存在を窺わせる事情の不存在が認められる。
  1995.   なお、被告は、本件投稿の「D組組員」及び「暴力団」との記載につき、本件発信者において真実であると信じたことについて相当な理由が認められる旨主張するが、開示請求者側に氏名不詳の発信者の主観までの立証責任を負わせることは著しい困難を強いるものであるから、このような主観的要件の不存在についての主張・立証をするまでの必要性はないものと解するのが相当である。したがって、相当性について判断するまでもなく、権利侵害要件の充足が認められ、被告の前記主張は採用できない。
  1996.   (3) そして、本件投稿は、原告が以前指定暴力団の構成員であったとの事実を摘示するものであるから、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  1997.  2 開示を受けるべき正当な理由の存在について
  1998.   被告は、原告のK上での発言から、原告には、不当な自力救済等を目的とするなど開示請求権の濫用のおそれがある旨主張する。しかしながら、原告の上記K上での発言は、本件発信者に対するものではなく、また、原告が現実に自力救済手段を用いたことを窺わせる証拠はないから、K上での行き過ぎた発言以上の意味を看取することも困難である。したがって、本件において、原告に不当な自力救済等を目的とするなど開示請求権の濫用のおそれがあるとは認められない。
  1999. 第4 結論
  2000.   以上によれば、本件請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
  2001.  
  2002. 民事第43部
  2003.  
  2004.  (裁判官 升川智道)
  2005.  
  2006. 別紙(省略)
  2007.  
  2008.  
  2009.  
  2010.  
  2011.  
  2012.  
  2013.  
  2014.  
  2015. ■29015880
  2016.  
  2017. 東京地方裁判所
  2018.  
  2019. 平成26年(ワ)第34663号
  2020.  
  2021. 平成27年12月24日
  2022.  
  2023. 東京都(以下略)
  2024. 原告 株式会社日東商会
  2025. 同代表者代表取締役 X
  2026. 東京都(以下略)
  2027. 原告 X
  2028. 原告ら訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
  2029. (住所略)
  2030. 被告 Y
  2031. 被告訴訟代理人弁護士 寺井勇人
  2032.  
  2033.  
  2034. 主文
  2035. 1 被告は、原告Xに対し、33万円及びこれに対する平成23年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2036. 2 被告は、原告株式会社日東商会に対し、11万円及びこれに対する平成23年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2037. 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
  2038. 4 訴訟費用はこれを100分し、その86を原告らの、その余を被告の負担とする。
  2039. 5 この判決の第1項及び第2項は仮に執行することができる。
  2040.  
  2041.  
  2042. 事実及び理由
  2043. 第1 請求
  2044.  1 被告は、原告Xに対し、165万円及びこれに対する平成23年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2045.  2 被告は、原告株式会社日東商会(以下「原告会社」という。)に対し、165万円及びこれに対する平成23年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2046. 第2 事案の概要
  2047.  本件は、原告会社及びその代表取締役である原告が、インターネット上の掲示板である「A」に被告が行った投稿により、名誉あるいは信用を毀損された等と主張して、不法行為に基づく損害賠償として、被告に対し、それぞれ165万円の支払及びこれに対する不法行為の後である平成23年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
  2048.  1 前提となる事実(証拠を付記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨から容易に認められる。)
  2049.   (1) 原告会社は、清涼飲料、嗜好飲料及び食品の販売等を目的とする株式会社であり、原告Xは原告会社の代表取締役である。
  2050.   (2) 被告は、インターネット上の掲示板である「A」における「(股で金を稼ぐ)B4(整形告白)」及び「(股で金を稼ぐ)B5(整形告白)」と題するスレッド(以下、併せて「本件スレッド」という。)に、平成23年6月2日から同月17日の間に、別紙投稿記事目録記載1から7までの各投稿(以下「本件各投稿」といい、個別に「本件投稿1」等という。)をした。
  2051.  2 争点
  2052.   (1) 本件各投稿による原告らの社会的評価の低下の有無等
  2053.   (原告らの主張)
  2054.   ア 本件投稿1
  2055.  本件投稿1は、「C区の日東商会」及び「X」と記載することで原告らについての記載であることが特定できるものであり、「C区の日東商会は、もう求人もできないね~」「Xさんの下で働こうなんて誰も思わないもんね~」と記載することで、原告会社が求人をできないような労働環境にある会社であり、働くことに問題がある会社であるとの印象を一般の読者に与えるものである。また、上記各記載は、原告Xが経営者として問題のある人物であるとの印象を一般の読者に与えるものである。したがって、本件投稿1は、原告らの社会的評価を低下させる。
  2056.   イ 本件投稿2
  2057.  本件投稿2は、原告XがBと愛人関係にあると記載しており、同記載は一般の読者に対し、原告Xが金銭でBを囲っている、あるいは不道徳な交際をしているとの印象を与え、同原告の社会的評価を低下させる。
  2058.  また、同投稿が原告Xについて「D」「病気」と記載したことは、同原告に対する侮辱である。
  2059.   ウ 本件投稿3
  2060.  本件投稿3における「会社名義で家賃払ってもらって」との記載は、原告Xが原告会社に対する背任行為を行っているとの印象を一般の読者に与えるものであり、原告Xの社会的評価を低下させるものである。同時に、同記載は、原告会社の代表者が背任行為をする人物であるとの印象を与えるものであり、原告会社の社会的評価も低下させる。
  2061.  また、同投稿における「営業妨害してぇ~」との記載は、原告Xの平穏に生活する利益を侵害している。
  2062.   エ 本件投稿4
  2063.  本件投稿4は、原告Xについて「人として恥ずかしい」と記載しており、同記載は一般の読者に原告Xが人として恥ずかしい行為をしているとの印象を与えるものであるから、原告Xの社会的評価を低下させる。
  2064.   オ 本件投稿5
  2065.  本件投稿5は、原告Xについて「病気」と記載しており、同記載は原告Xを侮辱するものである。
  2066.   カ 本件投稿6
  2067.  本件投稿6は、原告Xに関し「会社の経理とか大丈夫?」「怪しい交際費やら変な経費増えてない??」と記載しており、これらの記載は原告Xが横領や背任行為を行っているとの印象を一般の読者に与えるから、同原告の社会的評価を低下させる。同時に上記記載は、原告会社において不正な経理が行われているとの印象を一般の読者に与えるから、原告会社の社会的評価を低下させる。
  2068.   キ 本件投稿7
  2069.  本件投稿7における「D」「病気」との記載は、原告Xを侮辱するものである。
  2070.   (被告の主張)
  2071.   ア 本件投稿1
  2072.  被告は、平成22年8月から原告Xと肉体関係を伴う交際をし、同年10月には婚姻の約束をしていたにもかかわらず、原告Xは同時期にBとも交際しており、被告はその事実を平成23年5月にBの作成していたブログを見て認識した。本件投稿1における原告Xに関する記載は、上記経緯に基づく被告の原告らに対する正当な評価を記載したものであり、これにより原告らの社会的評価が低下することはない。
  2073.   イ 本件投稿2
  2074.  本件投稿2の当時、原告Xは婚姻していたから、原告XとBとの関係を「愛人関係」と記載したことは事実を指摘したに留まり、同原告の社会的評価を低下させない。
  2075.   ウ 本件投稿3
  2076.  原告らがBの生活を支えていることは何ら違法ではなく、その旨の記載により原告らの社会的評価が低下することはない。また、営業妨害したい旨の記載は何ら不法行為を構成しない。
  2077.   エ 本件投稿4
  2078.  被告と原告Xの交際の経緯に照らすと、本件投稿4における同原告についての評価は、被告としての正当な評価であり、同原告の社会的評価を低下させるものではない。
  2079.   オ 本件投稿5
  2080.  本件投稿5には、原告らに関する記載であると特定し得る記載はなく、原告らの社会的評価を低下させない。
  2081.   カ 本件投稿6
  2082.  被告と原告Xの交際の経緯及び原告XがBと交際していたことが事実であることに照らすと、本件投稿6における同原告についての評価は被告としての正当な評価であり、社会通念を逸脱するものではないから、同原告の社会的評価を低下させない。また、原告会社の経費に関する記載は合理的に生じる疑義を指摘したに過ぎず、原告会社に関する情報提供の意味で、知る権利に資するものであるから不法行為を構成しない。
  2083.   キ 本件投稿7
  2084.  本件投稿7の当時、原告Xは婚姻していたから、原告XとBとの関係を「愛人関係」と記載したことは事実を指摘したに留まり、同原告の社会的評価を低下させない。
  2085.  被告と原告Xとの交際の経緯に照らすと、本件投稿7における同原告についての評価は、被告としての正当な評価であり、社会通念を逸脱するものではない。
  2086.   (2) 原告らの損害
  2087.   (原告らの主張)
  2088.   ア 原告Xの損害
  2089.   (ア) 本件各投稿は本件掲示板の管理者によって削除されるまでの間、インターネット上で誰でも閲覧できる状態にあり、不特定多数の者が本件各投稿を読んだことにより、原告Xの名誉は著しく侵害され、同原告は精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料は150万円が相当である。
  2090.   (イ) 弁護士費用 15万円
  2091.   イ 原告会社の損害
  2092.   (ア) 本件各投稿が不特定多数の者に読まれたことにより、原告会社の名誉が著しく侵害され、社会的信用が低下した。その損害を金銭に評価すれば150万円が相当である。
  2093.  なお、原告会社の社員が本件各投稿を読んだことにより原告Xが社員管理に腐心したり、複数の取引銀行から経理に関する問い合わせを受けたりするなどの状況となり、説明に赴くなどの対応を要した。
  2094.   (イ) 弁護士費用 15万円
  2095.   (3) 原告らの損害賠償請求が信義則に反するか否か
  2096.   (被告の主張)
  2097.  本件各投稿は、原告Xと婚姻の約束をして、肉体関係を伴う交際をしていた被告が、原告XとBとの交際を知り、これを問いただしたところ、連絡を取らないよう求められるとともに、原告Xと被告とが出会う契機となった愛人クラブに契約違反であると連絡する旨を告げられ、交際を破棄されて行った。このような原告Xの行為の反社会性に照らせば、本件各投稿を行った被告の行為は非難されるべきではなく、本件各投稿により原告らの社会的評価が低下したとしても、それを理由に原告らが被告に対し損害賠償を請求することは信義則に反し許されない。
  2098.   (原告らの主張)
  2099.  原告Xは、被告と婚姻の約束をしたことはない。本件各投稿は原告Xと被告との関係に何ら言及しておらず、被告主張の事実関係に照らしても、本件各投稿による名誉毀損を理由に損害賠償請求することが信義則に反することはない。
  2100. 第3 争点に対する判断
  2101.  1 争点(1)(本件各投稿による原告らの社会的評価の低下の有無等)について
  2102.   (1) 各投稿の検討
  2103.   ア 本件投稿1について
  2104.  証拠(甲1)によると、本件スレッドはBが自己のブログに掲載している内容等をもとにBの行動等の評価を内容とする投稿がされるスレッドであることが認められるところ、本件投稿1は、そのような内容の投稿が複数なされている本件スレッドに、「C区の日東商会は、もう求人もできないね~ Xさんの下で働こうなんて誰も思わないもんね~ 可哀相w Eからの贈り物www」との内容でされたものである。その記載内容からすれば、本件投稿1は原告Xの下で働こうと思う者はいないとの投稿者の原告Xに対する評価を記載するとともに、同評価を前提として、原告Xが代表者を務める原告会社は求人をすることができないとの投稿者の評価を記載したものであると認められる。
  2105.  原告Xに関する上記記載は、一般の読者に対し、原告Xが企業の経営者として問題がある人物であるとの印象を抱かせるものであるから、同原告の社会的評価を低下させるというべきである。
  2106.  他方、原告会社に関する上記記載は、原告会社の代表者である原告Xに問題があることを前提とするが、原告会社が求人できないような労働環境にある会社であり、働くことに問題がある会社であるとまでの印象を一般の読者に与えるとは認められず、原告会社の社会的評価を低下させるものであるとまでは認められない。
  2107.   イ 本件投稿2について
  2108.  本件投稿2は、その記載内容全体から、原告XとBが愛人関係にあるとの事実を摘示するものであると認められるが、「愛人関係」が婚姻関係外の男女関係を意味することは明らかであるものの、同記載により一般の読者が原告Xが金銭でBを囲っている、あるいは不道徳な交際をしているとの印象を受けるとまでは認められない。もっとも、同記載は、原告Xが婚姻関係にある配偶者がありながら、配偶者以外の異性と男女関係を有しているとの事実を摘示するものであるから、一定程度、同原告の社会的評価を低下させるというべきである。また、原告Xを「D」と呼称し「病気」と評価することは、同原告に対する侮辱として、同原告の名誉感情を侵害するものというべきである。
  2109.  なお、本件投稿2おいて原告会社への言及はないから、原告会社に対する不法行為の成否は問題とならない。
  2110.   ウ 本件投稿3について
  2111.  本件投稿3は、Bに関し「Xもしくは会社(日東商会)名義で家賃払ってもらって」と記載しているところ、同記載は、原告Xが個人で、あるいは原告会社の経費によりBの住居の家賃を支払っているとの事実を摘示するものであり、原告会社の経費により支払を行っている場合には、原告Xが原告会社に対し背任行為を行っていることとなる。そうすると、上記記載は原告Xが背任行為を行っていると断定するものではないが、一般の読者に対し、原告Xが背任行為を行っている可能性があるとの印象を与えるものといわざるを得ず、原告Xの社会的評価を低下させるというべきである。そして、同記載は、代表者が背任行為をする人物であるとの印象を与えることにより、原告会社の社会的評価も低下させるというべきである。
  2112.  なお、原告らは、本件投稿3における「営業妨害してぇ~」との記載が原告Xの平穏に生活する利益を侵害しているとも主張するが、同記載のみから原告Xの平穏に生活する利益が侵害されたとは認められない。なお、本件投稿3は平成23年6月6日に行われているが、原告XはBと被告との間で裁判上の和解が成立した平成25年10月1日(甲2)より後に本件各投稿を認識したと主張しており、実際に営業妨害を受けたとの事実は主張していない。これらを前提とすると、原告Xは本件投稿3の内容を認識した時点で、投稿者により実際に営業妨害等がされていないことも認識していたというべきであるから、この点からも本件投稿3の上記記載により原告Xの平穏に生活する利益が侵害されたとは認められない。
  2113.   エ 本件投稿4について
  2114.  本件投稿4は、本件スレッドにおいてBと原告Xの男女関係等に関する記載がされていることを前提として「Xさんの友達とか知り合いとか、ここ見つけたら彼に教えてあげてください」と記載した上で「いい年して、人として恥ずかしいよって」として、原告Xについての評価を記載したものと認められる。そして、当該評価の記載は、原告XとBとの男女関係等の事実と別に原告Xの社会的評価を低下させるものとは認められない。
  2115.  また、本件投稿4においては、原告会社に対する言及はない。
  2116.   オ 本件投稿5について
  2117.  証拠(甲1)によると、本件投稿5は、Bに関する本件スレッドにおいて、原告XがBの交際相手として取り上げられていることを前提として「下品な女と一緒に歩ける男の気がしれない。さらにあちこちで写真まで撮って、恥ずかしいにもほどがある。二人とも病気だね。」と記載するものである。本件スレッドにおける投稿を読む者は前後の投稿と併せて読むことにより各投稿に記載された意味を把握するのが通常であると解されることからすれば、本件投稿5における「二人」とはBと原告Xを指すと認められる。したがって、本件投稿5は、原告Xについて「病気」と評価し、原告Xを侮辱するものである。
  2118.  なお、本件投稿5は、原告会社には言及していない。
  2119.   カ 本件投稿6について
  2120.  本件投稿6は、原告会社について「Cの日東商会 自販機設置会社」と特定し、原告会社の従業員に呼びかける形で、取締役である原告XがBと「贅沢三昧」をしている旨記載した上で、「会社の経理とか大丈夫? 怪しい交際費やら変な経費増えてない??」と記載している。これらの記載は原告Xが原告会社の資金を横領したり、背任行為を行ったりしているとの印象を一般の読者に与えるから、同原告の社会的評価を低下させるというべきである。同時に上記記載は、原告会社が取締役の私的な費用を経費として支出する会社であるとの印象を一般の読者に与えるものと認められるから、原告会社の社会的評価も低下させるというべきである。
  2121.   キ 本件投稿7について
  2122.  原告Xを「D」と呼称し「病気」と評価することは、同原告に対する侮辱として、同原告の名誉感情を侵害するものというべきである。
  2123.   (2) 上記(1)で認定説示したところによれば、被告が行った本件投稿1から3まで及び5から7までは原告Xに対する名誉毀損あるいは侮辱の不法行為を構成すると認められ、本件投稿3及び6は原告会社に対する信用毀損の不法行為を構成すると認められる。
  2124.  この点、被告は、原告Xが女性と反社会的な関係を持ち、そのうちの一人であった被告を騙した上で一方的に関係を絶ったとの事実を背景にすれば、被告との関係で原告Xの上記のような行為が本件掲示板に掲載されたとしても名誉毀損は成立しない旨主張する。しかしながら、本件各投稿には原告XがBと婚姻外の男女関係を有していることを批判的に評価する旨の記載はあるものの、被告と原告Xとの関係への言及はない。被告が本件各投稿を行った動機が被告主張のような被告と原告Xとの関係にあるとしても、それにより同関係と異なる事柄を用いて原告Xの名誉あるいは原告会社の信用を毀損することが正当化されるものではない。
  2125.  また、被告は本件各投稿における記載について知る権利との関連を主張するが、本件各投稿が公共の事実に関するものであるとも、公共の目的によりなされたものであるとも認められないから、上記主張は採用できない。
  2126.  2 争点(2)(原告らの損害)について
  2127.   (1) 原告Xについて
  2128.  原告Xに対する不法行為を構成する各投稿はインターネット上の本件掲示板になされたものであること、上記各投稿において摘示された具体的な事実は原告XとBが婚姻外の男女関係にある事実、原告Xあるいは原告会社がBの住居の家賃を支払っている事実であり、他の記載は事実を前提としない評価あるいは侮辱的表現であること等、本件に現れた事情を全て考慮すると、原告Xに対する名誉毀損及び侮辱に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当であり、被告の原告Xに対する不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は3万円と認める。
  2129.   (2) 原告会社について
  2130.  原告会社に対する信用毀損であると認められる本件投稿3及び6の内容はいずれも断定的に具体的な事実を指摘するものではないこと等、本件に現れた事情を全て考慮すると、原告会社に対する信用毀損に対する賠償は10万円と認めるのが相当であり、被告の原告会社に対する不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は1万円と認める。
  2131.  3 争点(3)(原告らの損害賠償請求が信義則に反するか否か)について
  2132.  原告Xが被告との交際において被告に対し反社会的行為を行ったとしても、被告が本件各投稿を行うとの方法で原告らの名誉あるいは信用を毀損することが正当化されるものではなく、被告は法制度において正当と認められる権利行使等の方法を選択すべきであったというべきである。また、上述したように、本件各投稿の内容は、被告主張の被告と原告Xとの交際に関する事実に基づき原告Xを非難するものであるとは認められない。これらのことからすれば、本件各投稿により名誉あるいは信用を毀損された原告らが、被告に対し損害賠償を請求することが信義則に反し許されないとは解されない。
  2133.  したがって、原告らの本件請求が信義則により許されないとの被告の主張は理由がない。
  2134.  4 結論
  2135.  以上によれば、原告Xの請求は損害賠償33万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告会社の請求は損害賠償11万円及びこれに対する不法行為の後である上記同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらの限度で認容することとして、主文のとおり判決する。
  2136.  
  2137. 民事第28部
  2138.  
  2139.  (裁判官 倉地真寿美)
  2140.  
  2141. 別紙(省略)
  2142.  
  2143.  
  2144.  
  2145.  
  2146.  
  2147.  
  2148.  
  2149.  
  2150. ■29015900
  2151.  
  2152. 東京地方裁判所
  2153.  
  2154. 平成27年(ワ)第25108号
  2155.  
  2156. 平成27年12月25日
  2157.  
  2158. 東京都(以下略)
  2159. 原告 X
  2160. 同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
  2161. 同 唐澤貴洋
  2162. 東京都(以下略)
  2163. 被告 株式会社NTTドコモ
  2164. 同代表者代表取締役 A
  2165. 同訴訟代理人弁護士 上田雅大
  2166. 同 嶋村直登
  2167. 同 上村哲史
  2168. 同 横山経通
  2169.  
  2170.  
  2171. 主文
  2172. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  2173. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  2174.  
  2175.  
  2176. 事実及び理由
  2177. 第1 請求
  2178.   主文同旨
  2179. 第2 事案の概要
  2180.   本件は、原告が、インターネット上の掲示板への投稿によって名誉権を侵害されたところ、それらの投稿が被告を経由プロバイダとしてされたものであったとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、単に「法」という。)4条1項の発信者情報開示請求権に基づき、上記投稿をした者に関する発信者情報の開示を求めている事案である。
  2181.  1 前提事実(争いのない事実のほかは、各項に掲記の証拠により認める。)
  2182.   (1) 当事者
  2183.   ア 原告は、平成17年4月1日から平成25年3月まで学校法人B(平成19年4月1日変更前の名称は「学校法人C」。以下「B」という。)の理事を務め、そのうち平成17年4月1日から平成24年4月19日まで理事長を、平成17年9月1日から平成25年3月まで校長及び学園長を、それぞれ務めた者である(甲1ないし3、7、8)。
  2184.   イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
  2185.   (2) インターネット掲示板への投稿
  2186.   平成27年7月31日から同年8月23日までの間に、インターネット上の掲示板「D」(以下「本件ウェブサイト」という。)の「(省略)」とのスレッド(以下「本件スレッド」という。)において、別紙情報目録記載の各投稿記事(以下「本件各投稿記事」といい、同目録に付された1から35までの番号ごとに「本件投稿記事1」などという。)が投稿された(甲4。以下、本件各投稿記事を投稿した者を「本件発信者」という。)。
  2187.   (3) 被告の「開示関係役務提供者」該当性
  2188.   本件各投稿記事は、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して投稿されたものであり、被告は、これらの投稿との関係において、法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる(甲6)。
  2189.  2 争点
  2190.   (1) 本件各投稿記事の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか。
  2191.   (2) 原告に、本件発信者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。
  2192.  3 争点についての当事者の主張
  2193.   (1) 本件各投稿記事の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか。
  2194.   (原告の主張)
  2195.   以下のとおり、本件各投稿記事の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかである(法4条1項1号)。
  2196.   ア 名誉権侵害
  2197.   本件各投稿記事は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、原告の社会的評価を下げることが明らかである。すなわち、本件各投稿記事はいずれも、「元」又は「前」の「学園長」について記載するものであるところ、本件スレッドの名称及び本件各投稿記事の投稿時期からすれば、これが原告を意味することは明らかである。
  2198.   そして、本件各投稿記事は、原告が、Bの校舎の建設を請け負った建設業者から利益供与を受けたとか、E氏なる人物を個人的な理由で攻撃しているとか、生徒の成績を改ざんしていたなどと記載しており、原告の社会的評価を著しく低下させるものであるから、原告の名誉権を侵害するものである。
  2199.   イ 違法性阻却事由の不存在
  2200.   本件各投稿記事は、いずれも真実ではない。
  2201.   また、本件各投稿記事は、一介の私人に関する情報であり、公共の利害に関する事項とはいえず、また、表現方法は根拠を明確に示すことなくただ原告をひぼう中傷しており、積極的な加害意思しか見て取ることができず、公益目的も認められない。
  2202.   (被告の主張)
  2203.   以下の点によれば、本件各投稿記事の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
  2204.   ア 本件各投稿記事は、いずれも原告の氏名を記載するものではなく、話題となっている人物が明記されていないか、記載されていても、「元学園長」、「前学園長」等と記載されているものであり、一般人の普通の注意と読み方を基準として、これが原告のことを指すと同定可能であるとはいえない。
  2205.   イ 本件各投稿記事において摘示された事実は、抽象的な記載にとどまり、具体的な事実を摘示するものではなく、一般人の普通の注意と読み方を基準として、これらの事実が真実であると受け止められることにより原告の社会的評価を低下させるものといえるか疑義がある。
  2206.   また、「ぺてん師」、「広告詐欺師」といった記載も、具体的事実を摘示して述べるものではなく、そのような記載のみで社会的評価を低下させるものといえるか疑義がある。
  2207.   ウ 本件各投稿記事については、その内容が真実であり、又は真実であると信じるに足りる相当の理由があり、公共性及び公益目的が認められて、違法性が阻却される可能性がある。
  2208.   (2) 原告に、本件発信者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。
  2209.   (原告の主張)
  2210.   原告は、本件発信者に対し、本件各投稿記事に係る名誉毀損による不法行為に基づき、損害賠償を求めるため、本件発信者らに係る発信者情報の開示を求めるものであるから、正当な理由がある(法4条1項2号)。
  2211.   なお、開示を求める情報のうち、電子メールアドレスについては、本件発信者が未成年であった場合、親名義で携帯電話を契約している可能性があり、また、世帯主の名義で携帯電話を契約して、他の家族が使用している可能性もあるところ、電子メールアドレスは通常共有して利用するものではないため、実際の発信者を推知するために必要な情報である。
  2212.   (被告の主張)
  2213.   原告の主張は争う。
  2214.   なお、原告において本件発信者の氏名又は名称及び住所の開示を受けることができる場合には、それだけで損害賠償請求権の行使が可能であるから、電子メールアドレスの開示は不要である。
  2215. 第3 争点に対する判断
  2216.  1 争点(1)(本件各投稿記事の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか。)について
  2217.   (1) 同定可能性について
  2218.   前記のとおり、本件各投稿記事は、本件ウェブサイトの「(省略)」とのスレッドに、平成27年7月31日から同年8月23日までの間に投稿されたものであるところ、原告は、平成17年9月1日から平成25年3月までBの学園長を務めており、かつ、証拠(甲7)によれば、Bの学園長を務めた者は現在まで原告のみであるというのであるから、本件各投稿記事中に、「B前学園長」、「前B長」、「B元学園長」とあるのはもとより、「元学園長」、「前学園長」とあるのも、原告を指していることは明らかである。
  2219.   (2) 本件各投稿記事の流通による原告の名誉権の侵害の有無について
  2220.   本件投稿記事1、3、5、11、12、23、25ないし28、30、31、33は、いずれも、原告が「裏金」を受け取っていた、あるいはより具体的に、校舎建設業者から利益供与を受けた旨摘示するもので、これらが学園長という地位にあった原告にとってその社会的評価を低下させるものであることは明らかというべきである。
  2221.   また、本件投稿記事1、6、14、17、18、22ないし26、29ないし31、33ないし35は、いずれも、原告が本件スレッドを設け、あるいはこれを利用して、「E氏」を攻撃し、あるいは何者かに対してストーカー行為を行っている旨摘示するもので、かかる事実も原告の社会的評価を低下させるものである。
  2222.   さらに、本件投稿記事23、26ないし28、30、31、33は、いずれも、原告が生徒の成績を改ざんしていた旨指摘するものであり、これが原告の社会的評価を低下させるものであることも明らかである。
  2223.   このほか、本件投稿記事4、8、13は、いずれも、それらがいかなる事実を前提とするものであるのか必ずしも明らかでないものの、「汚い方法で得てきた金まみれ」、「汚い方法で人を騙し陥れた」、「犯罪」(以上、本件投稿記事4)、「ぺてん師」(本件投稿記事8)、「広告詐欺師」、「偽妄された父兄続出」(以上、本件投稿記事13)といった表現は、それ自体、原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。
  2224.   以上によれば、本件各投稿記事は、いずれも、原告の名誉権を侵害するものであると認められる。
  2225.   (3) 違法性阻却事由について
  2226.   本件各投稿記事のうち、事実を摘示するものについて、その内容が真実であり、又は真実であると信じるに足りる相当の理由があることをうかがわせる事情は存在しない。
  2227.   また、具体的な事実を摘示していないものについては、その表現自体から、単に原告に対する人身攻撃を企図するものと認められ、正当な意見ないし論評と評価される余地はない。
  2228.   したがって、本件各投稿記事の投稿について、違法性が阻却される事情のあることはうかがわれない。
  2229.   (4) 小括
  2230.   以上によれば、本件各投稿記事の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかというべきである。
  2231.  2 争点(2)(原告に、本件発信者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
  2232.   証拠(甲5ないし6の6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各投稿記事に係る名誉毀損を理由として、本件発信者に損害賠償を求めるべく、本件請求を行っているものと認められる。
  2233.   したがって、原告には、本件発信者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
  2234.   なお、被告は、発信者情報のうち電子メールアドレスについては開示の必要性がないと主張するが、電子メールアドレスは、携帯電話等の利用契約の当事者と実際の利用者が異なるような場合に、実際の利用者を特定するために必要な情報であると考えられるから、開示すべき発信者情報からこれを除くべき理由はない。
  2235. 第4 結論
  2236.   以上によれば、本訴請求は理由がある。
  2237.  
  2238. 民事第31部
  2239.  
  2240.  (裁判官 鈴木進介)
  2241.  
  2242. 別紙(省略)
  2243.  
  2244.  
  2245.  
  2246.  
  2247.  
  2248.  
  2249.  
  2250.  
  2251. ■29016405
  2252.  
  2253. 東京地方裁判所
  2254.  
  2255. 平成27年(ワ)第25107号
  2256.  
  2257. 平成28年01月25日
  2258.  
  2259. 東京都(以下略)
  2260. 原告 X
  2261. 同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
  2262. 唐澤貴洋
  2263. 東京都(以下略)
  2264. 被告 ビッグローブ株式会社
  2265. 同代表者代表取締役 A
  2266. 同訴訟代理人弁護士 平出晋一
  2267. 髙橋利昌
  2268. 太田絢子
  2269. 武田有可
  2270.  
  2271.  
  2272. 主文
  2273. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  2274. 2 訴訟費用は被告の負担とする。
  2275.  
  2276.  
  2277. 事実及び理由
  2278.  第1 請求
  2279.  主文1項に同じ。
  2280.  第2 事案の概要
  2281.  本件は、インターネット上の電子掲示板にされた匿名の書き込みによって名誉を毀損されたとする原告が、その書き込みをした者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使のために、同書き込みの発信者(以下「本件発信者」という。)にインターネット接続サービスを提供した被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、本件発信者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示を求める事案である。
  2282.  1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実又は証拠により容易に認定できる事実)
  2283.  (1) 当事者
  2284.  ア 原告は、平成17年4月1日から平成25年3月まで、学校法人B学園(現在のC学園。以下「C学園」という。)の理事を務め、そのうち平成17年4月1日から平成24年4月19日まで同学園の理事長を務め、平成17年9月1日から平成25年3月まで同学園の校長及び学園長を務めた者である(甲1~3、8)。原告は、平成25年4月から現在まで、学校法人D学園が運営するE学園中学校及び高等学校の学園長を務める(甲1)。
  2285.  イ 被告は、電気通信事業者であって、インターネットサービスプロバイダーとして、インターネット接続サービスを会員らに提供する株式会社である。
  2286.  (2) 書き込みの存在
  2287.  インターネット上の電子掲示板である「F」(http://(以下略)。以下「本件掲示板」という。)のスレッド「G(省略)」(以下「本件スレッド」という。)において、別紙情報目録記載1ないし4の書き込み(以下、同記載1ないし4の各書き込みを、その順に「本件書き込み1」ないし「本件書き込み4」といい、これらの書き込みを併せて「本件各書き込み」という。)がされた(甲4)。
  2288.  (3) 被告管理サーバ経由による発信であることの特定等
  2289.  原告は、本件掲示板を管理するRace Queen Inc.(以下「管理会社」という。)に対し、本件各書き込みの発信者に係る発信者情報(IPアドレス及びタイムスタンプ)の請求をしたところ、管理会社は、原告に対し、別紙情報目録記載のとおりのIPアドレス及び投稿日時を開示した(甲5)。その結果、本件各書き込みは、被告提供のインターネット接続サービスを経由して発信されたことが明らかとなった(甲6)。
  2290.  2 争点
  2291.  (1) 本件各書き込みにより、原告の権利が違法に侵害されたことが明らかであるか(権利侵害の明白性)(争点1)
  2292.  (2) 原告に本件発信者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(正当な理由の有無)(争点2)
  2293.  第3 争点に対する当事者の主張
  2294.  1 争点1(権利侵害の明白性)について
  2295.  (原告の主張)
  2296.  (1) 原告の社会的評価の低下
  2297.  本件各書き込みは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、以下のとおり、原告の社会的評価を下げることが明らかである。
  2298.  ア 本件各書き込みは、いずれも「G」との本件スレッドにおいて、元学園長又は前学園長について記載しているところ、ここでいう元学園長又は前学園長とは、平成25年3月までC学園の学園長を務めた原告を意味する。
  2299.  イ その上で、本件書き込み1は「異常な書き込みばかり。やはり、C学園前学園長ですか」と、本件書き込み3は「ネットに異常な書き込みを続ける元学園長」と記載する。これらの記載は、C学園の前又は元学園長である原告が異常な内容の書き込みをインターネット上で繰り返しているという事実を摘示するものであって、原告は、常軌を逸した内容の書き込みを反復継続して行っている執拗かつ陰湿な人物であると誤信させるものであり、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  2300.  ウ 本件書き込み2は「元学園長は校舎建設業者から受けた裏金」と、本件書き込み4は「元学園長は、建設業者からもらった裏金返せ」と記載する。これらの記載は、C学園の元学園長である原告が同学園の校舎の建設を請け負う建設業者から裏金を受領したとの事実を摘示するものであって、原告が自ら学園長を務めていた学園校舎の建設工事に際して、その学園長である地位を利用して、特定の建設業者に便宜を図って当該建設工事を発注し、その見返りとして不正又は不当に金員を受領したと誤信させるものであり、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  2301.  エ また、本件書き込み4は、「元学園長は、生徒成績改ざんを謝罪せよ」と記載する。この記載は、元学園長である原告が生徒成績を改ざんしたという事実を摘示するものであり、原告がC学園の学園長を務めていた当時、違法又は不当の目的の下、その地位を濫用して同学園の生徒に係る成績の違法又は不正な書換えに関わっていたと誤信させるものであり、特に教育に関わる原告にとっては、その社会的地位を著しく低下させるものである。
  2302.  (2) 違法性阻却事由の不存在
  2303.  本件各書き込みはいずれも真実ではない。また、本件各書き込みは、私人に関する情報であり、公共の利害に関する事項といえず、また、その表現方法は、根拠を明確に示すことなく、ただ原告を誹謗中傷しており、積極的な加害意思しか見て取ることができず、公益目的も認められない。
  2304.  (被告の主張)
  2305.  (1) 原告の社会的評価の低下がない可能性があること
  2306.  原告主張に係るIPアドレスの使用者(以下「本件使用者」という。)からの回答によると、本件各書き込みに記載された内容は事実であり、それ自体、原告を知る者にはある程度知られた事実であって、本件各書き込みに係る通信による情報の流通によって原告の社会的評価が低下するものではない可能性がある。
  2307.  (2) 違法性阻却事由に該当する可能性の存在
  2308.  本件各書き込みは、正当な批評、被害の防止のための注意喚起など、社会的な意義、正当な理由があって、違法性阻却事由に該当する可能性がある。
  2309.  2 争点2(正当な理由の有無)について
  2310.  (原告の主張)
  2311.  原告は、本件各書き込みによって社会的評価を低下させられており、本件発信者に対して名誉毀損による不法行為に基づく損害賠償を求めるため、本件発信者を特定することが不可欠であって、発信者情報開示を受けるべき正当な理由がある。
  2312.  (被告の主張)
  2313.  不知である。
  2314.  第4 争点に対する判断
  2315.  1 争点1(権利侵害の明白性)について
  2316.  (1) 原告の社会的評価の低下の有無について
  2317.  本件各書き込みは、本件スレッド(インターネット上の匿名の電子掲示板である本件掲示板上の「G(省略)」)において、〈1〉「異常な書き込みばかり。やはり、C学園前学園長ですか」(本件書き込み1)、「ネットに異常な書き込みを続ける元学園長」(本件書き込み3)とし、C学園の前学園長である原告が異常な内容の書き込みをインターネット上で繰り返しているとの事実、〈2〉「元学園長は校舎建設業者から受けた裏金」(本件書き込み2)、「元学園長は、建設業者からもらった裏金返せ」(本件書き込み4)とし、原告がC学園の校舎建設業者から裏金を受領したとの事実、〈3〉「元学園長は、生徒成績改ざんを謝罪せよ」(本件書き込み4)とし、原告が生徒の成績を改ざんしたとの事実をそれぞれ摘示するものである。このような本件各書き込みについては、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、これを読む者をして、いずれも原告の社会的評価を低下させるものといえる。
  2318.  (2) 違法性阻却事由の存否について
  2319.  被告は、本件使用者からの回答(乙1)によると、本件各書き込みは真実であると主張し、その内容として、〈1〉ネットにおけるC学園の元事務局長であったH氏や、原告が関与する学習塾についての書き込み等につき、原告及び数名の者しか知らない内容であること、〈2〉原告とC学園校舎の建設業者の癒着が問題となっており、C学園校舎の建設業者が原告の自宅の建築に絡んでいるとのことがC学園の労働組合のブログに記載されていること、〈3〉原告がC学園中学校における生徒の成績を改ざんしたとの事実をH氏が東京都庁私学課及び朝日新聞社に通報し、原告がその事実を全教職員に詫び、また、その後、C学園において公式に原告による生徒成績改ざんに関する調査委員会が設けられ、実態究明の結果、改ざんの事実を認める最終報告がされたなどとされている。
  2320.  しかしながら、上記〈1〉の点については、上記回答が指摘する事項については、H氏やその他のC学園関係者も知っている事実であること(甲8)、指摘される学習塾につき、原告がその経営会社の代表取締役や取締役を務めていたのは平成8年までである上に(甲11)、原告以外にもC学園と上記学習塾の両者に関与する者が存在すること(甲8)が認められ、他方、原告が本件掲示板に書き込みをしていることをうかがわせる事実は存在しない。
  2321.  また、上記〈2〉の点については、C学園校舎の建設業者が原告宅の建築に関係しているとは認め難く(甲1、8、16~18)、その他、原告が上記建設業者から裏金を受領したことをうかがわせる事実は存在しない。
  2322.  さらに、上記〈3〉の点については、C学園の教員が、当時C学園の事務局長をしていたH氏に対して平成22年度の生徒の成績が事実と異なると伝えたことがあったが、その後、この点は、C学園内の10段階評価につき、東京都立高等学校入学者選抜実施要綱・同細目に従って5段階評価への引き直しをする際の問題であって、成績の改ざんというようなものでなかったことが明らかとなり、東京都の監督部署においても問題とされなかったことが認められる(甲1、8、19、20)。
  2323.  以上によれば、本件各書き込みは、いずれも真実と認められないものであって、また、正当な批評等として社会的な意義、正当な理由があるものということができるものでもない。
  2324.  (3) 小括
  2325.  したがって、本件各書き込みが違法性阻却事由に該当する可能性があると認められるものではなく、本件各書き込みによって原告の権利が違法に侵害されたことが明らかであるということができる。
  2326.  2 争点2(正当な理由の有無)について
  2327.  上記1のとおり、本件各書き込みにつき、原告に対する名誉毀損による不法行為が認められるところ、弁論の全趣旨によると、原告は、本件各書き込みを行った者に対して損害賠償を求めるために、被告に対して本件発信者情報の開示を求めていることが認められるから、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるというべきである。
  2328.  3 結論
  2329.  以上の次第であるから、原告の請求は理由がある。
  2330.  
  2331. 民事第30部
  2332.  
  2333.  (裁判官 本多知成)
  2334.  
  2335. 別紙(省略)
  2336.  
  2337.  
  2338.  
  2339.  
  2340.  
  2341.  
  2342.  
  2343.  
  2344. ■29016261
  2345.  
  2346. 東京地方裁判所
  2347.  
  2348. 平成27年(ワ)第15991号
  2349.  
  2350. 平成28年01月29日
  2351.  
  2352. 東京都(以下略)
  2353. 原告 X
  2354. 同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
  2355. 東京都(以下略)
  2356. 被告 ソネット株式会社
  2357. 同代表者代表取締役 A
  2358. 同訴訟代理人弁護士 浦中裕孝
  2359. 同 柏木健佑
  2360. 同 羽間弘善
  2361.  
  2362.  
  2363. 主文
  2364. 1 被告は、原告に対し、別紙情報目録2ないし5、7、10、11及び13の各情報の投稿に用いられた、同目録記載のIPアドレスを、同目録記載の投稿日時ころに使用して情報を発信していた電気通信設備を管理する者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
  2365. 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
  2366. 3 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
  2367.  
  2368.  
  2369. 事実
  2370. 第1 当事者の求めた裁判
  2371.  1 請求の趣旨
  2372.   (1) 被告は、原告に対し、別紙情報目録2ないし5、7、10ないし14の各情報の投稿に用いられた、同目録記載のIPアドレスを、同目録記載の投稿日時ころに使用して情報を発信していた電気通信設備を管理する者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。
  2373.   (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  2374.  2 請求の趣旨に対する答弁
  2375.   (1) 原告の請求をいずれも棄却する。
  2376.   (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
  2377. 第2 当事者の主張
  2378.  1 請求原因
  2379.   (1) 当事者
  2380.   ア 原告は、株式会社インターコンシェルジュの代表取締役を務める者である。
  2381.   イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
  2382.   (2) インターネット上への投稿記事の掲載
  2383.   氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、インターネット上の電子掲示板サイトである「B」(以下「本件サイト」という。)において、別紙情報目録2ないし5、7及び10ないし14の各投稿日時欄記載の日時に、同各投稿内容欄記載の内容の記事(以下「本件各記事」といい、個々の記事については、同目録の各記事の前に付した番号を用いて「本件記事2」のように表記する。)を投稿した。
  2384.   (3) 本件各記事にかかる開示関係役務提供者
  2385.   本件各記事は、被告の管理する電気通信設備を用いて投稿されたものであるから、被告は、本件各記事との関係で、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項の定める開示関係役務提供者に該当する。
  2386.   (4) 権利侵害の明白性
  2387.   以下のとおり、本件各記事はいずれも原告の権利を侵害することが明らかである。
  2388.   ア 名誉
  2389.   (ア) 原告が犯罪を行った事実
  2390.   本件記事2、3、5及び11は、原告について「逮捕も秒読み」、「少女買春で逮捕歴あり」、「少女買春をしていた」とそれぞれ記載し、いずれも原告が犯罪行為に及んでいる事実を摘示するものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
  2391.   なお、本件記事2には、原告の姓のみしか記載がないが、同記事が投稿されたスレッドのタイトル並びにレス番号1の記事及び本件記事2の直前に投稿された記事の各内容によれば、本件記事2の「X」が原告を指すものであることは明らかである。
  2392.   (イ) 原告が無職である事実
  2393.   本件記事3、4、7及び10は、いずれも原告が無職であるとの事実を摘示するものである。通常働いている世代の人間が職に就いていないというのは、本人に労働意欲がないか、社会的に労働力として必要とされていないか等何らかのマイナスの要因が当該人物にあるからであると一般的には判断されやすいし、原告についていえば、原告が経営する会社の実態が存在せず又は会社自体が存在しないなどと誤信される危険がある。したがって、上記事実は原告の社会的評価を低下させるものである。
  2394.   (ウ) 原告が他人を誹謗中傷した事実
  2395.   本件記事12は、同記事の投稿された「(元事務局長)俺は教師の師匠だ!C某(変態)」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)を原告が立てたとの事実を摘示するものである。本件スレッドは、そのスレッドタイトル及びレス番号1の記事において、第三者について「変態」、「誹謗中傷行為を繰り返す」、「名誉棄損の数々をこなす」などと投稿するものであり、かかる投稿は法的に違法な行為であるから、原告が本件スレッドを立てたとの事実は、原告がそのような違法な行為をしたとする点で、原告の社会的評価を低下させる。
  2396.   (エ) 違法性阻却事由
  2397.   前記(ア)ないし(ウ)の事実はいずれも真実でないし、個人の私生活に関する情報であるから公共の利害に関する事項でもなく、かつ、その表現方法からすれば公益目的も認められないから、違法性阻却事由はない。
  2398.   イ 肖像権
  2399.   本件記事13及び14は、いずれもウェブサイトのリンクを掲載するものであるところ、そのリンク先にはいずれも写真(以下、それぞれ「本件写真13」及び「本件写真14」という。)が掲載されている。本件写真13及び14はいずれも原告の写真であるところ、これらは原告に無断で掲載されており、原告の肖像権を侵害するものであるから、それに係るリンクを掲載する本件記事13及び14も、原告の肖像権侵害を助長するものである。
  2400.   ウ 著作権及び著作者人格権
  2401.   本件写真13及び14はいずれも原告が撮影した写真であるところ、本件記事13及び14のリンク先にはいずれも原告が撮影した写真が原告に無断で掲載されており、原告の著作権を侵害するものであるから、それに係るリンクを掲載する本件記事13及び14も、原告の著作権侵害を助長するものである。
  2402.   また、本件記事13のリンク先の写真には、少女買春との記載があることからすると、名誉を侵害する方法により原告の著作物を利用する行為であり、原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるから(著作権法113条6項)、それに係るリンクを掲載する本件記事13は、原告の著作者人格権侵害を助長するものである。
  2403.   (5) 開示を受けるべき正当な事由
  2404.   原告は、本件発信者に対し、本件各記事に係る名誉毀損による不法行為に基づき損害賠償を求めるために、本件発信者の発信者情報の開示を求めるものであるから、その開示を求める正当な理由がある。
  2405.   (6) よって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、別紙情報目録2ないし5、7、10ないし14の各情報の投稿に用いられた、同目録記載のIPアドレスを、同目録記載の投稿日時ころに使用して情報を発信していた電気通信設備を管理する者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示を求める。
  2406.  2 被告の認否及び反論
  2407.   (1) 請求原因(1)アは知らず、同イは認める。
  2408.   (2) 請求原因(2)及び同(3)は認める。
  2409.   (3) 請求原因(4)アないしウはいずれも争う。
  2410.   ア 名誉
  2411.   (ア) 原告が犯罪を行った事実
  2412.   不特定の個人が匿名で自由に投稿できるという本件サイトの性質からすると、本件サイトにされた投稿について、一般の閲覧者がその内容を直ちに真実であると受け止めるとは考えがたい。そして、本件記事2、3、5及び11の内容は、いずれも具体的根拠を欠き又はきわめて曖昧なものにとどまるものであり、その信頼性は著しく低いから、これらの記事によって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
  2413.   また、本件記事2において話題の対象とされている「X」なる人物が原告と同一であるとはいえない。
  2414.   (イ) 原告が無職である事実
  2415.   無職、すなわち仕事をしていない理由は様々なものが考えられ、無職であることが直ちに社会的評価に結び付くものではないから、原告が無職であるとの事実の摘示によって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
  2416.   (ウ) 原告が他人を誹謗中傷した事実
  2417.   本件スレッドの内容は明らかではないから、原告が他人を誹謗中傷するスレッドを立てたとの事実が摘示されていることは明らかとはいえず、したがって、本件スレッドを立てたとの事実の摘示によって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
  2418.   イ 肖像権
  2419.   本件記事13及び14に掲載されたリンク先の写真に写る人物が原告であることは明らかでない。また、仮にこれが原告であったとしても、目元にモザイク処理がなされていることに鑑みれば、その写真の利用が社会通念上受忍限度を超えるとはいえない。
  2420.   ウ 著作権及び著作者人格権
  2421.   争う。
  2422.   (4) 請求原因(5)は争う。
  2423.   本件各記事の投稿により原告にいかなる損害が発生しているのかは明らかでなく、原告の主張する損害賠償請求が認容される具体的可能性は認められない。
  2424.   また、本件各記事のIPアドレス及びスタンプによる通信に係る被告との契約者(以下「本件契約者」という。)は、被告による意見照会に対し、本件各記事を投稿していない旨回答しているから、同契約者の電子メールアドレスが「発信者の電子メールアドレス」(プロバイダ責任制限法第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年5月22日総務省令第57号)3号)に該当するとは認められない。
  2425.  
  2426.  
  2427. 理由
  2428.  1 請求原因(1)アの事実は甲5及び甲9から認められ、同イの事実は当事者間に争いがない。
  2429.  2 請求原因(2)及び(3)の事実は当事者間に争いがない。
  2430.  3 請求原因(4)について
  2431.   (1) 請求原因(4)アについて
  2432.   ア 請求原因(4)ア(ア)について
  2433.   甲1によると、本件記事2には原告の姓のみが記載されており、名の記載はないことが認められる。しかしながら、甲1及び甲6により認められる本件記事2が投稿されたスレッドのタイトル及び当該スレッドにおけるレス番号1の記事の内容からすると、当該スレッド全体において特定の人物が話題の対象とされていることがうかがわれ、しかも、甲1によると、本件記事の直前に投稿された記事においては原告の姓及び名の全部並びに住所及び電話番号が記載されていることに鑑みれば、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、本件記事2は原告を話題の対象としていることが認められる。また、甲1によると、本件記事3、5及び11には、原告の姓及び名の全部が記載されていることが認められるから、これらの記事が原告を話題の対象としていることは明らかである。
  2434.   甲1によると、本件記事2には「Xの逮捕も秒読み」、本件記事3には「少女買春で逮捕歴あり」、本件記事5及び11には「少女買春をしていた」との記載がそれぞれあることが認められる。これらの記事は、いずれも、原告が児童買春等の犯罪を行った事実、又は何らかの犯罪の嫌疑により逮捕される蓋然性が高い事実を摘示するものと認められるから、原告の社会的評価を低下させると認められる。
  2435.   そして、甲9によると、原告は犯罪を行ったことがない旨陳述しており、これに反する証拠はないから、上記の事実はいずれも真実でないものと認められる。それゆえ、その余の点につき判断するまでもなく、上記の事実の摘示につき違法性阻却事由がないことが認められる。
  2436.   したがって、本件記事2、3、5及び11は、上記の点において、いずれも原告の名誉を毀損することが明らかであると認められる。
  2437.   イ 請求原因(4)ア(イ)について
  2438.   甲1によると、本件記事3、4、7及び10には、いずれも原告の姓及び名の全部が記載されていることが認められるから、これらの記事が原告を話題の対象としていることは明らかである。
  2439.   甲1により認められる本件記事3、4、7及び10の内容によると、これらの記事はいずれも原告が無職であるとの事実を摘示するものであると認められる。無職であることの理由は多様であって、無職であること自体が直ちに当該人物の能力又は資質の低さに結び付くものではないが、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすると、無職であるとの事実が摘示されれば、当該人物の労働意欲又は労働能力が乏しいかのような印象を与え、当該人物の社会的評価を低下させることは否定し難い。そして、本件記事3、4、7及び10の内容全体の記載態様からすれば、これらの記事も上記のような印象を与えるものと認められるから、これらの記事は、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
  2440.   前記1のとおり、原告は株式会社インターコンシェルジュの代表取締役を務めており無職ではないことが認められるから、上記の事実は真実ではないものと認められる。それゆえ、その余の点につき判断するまでもなく、上記の事実の摘示につき違法性阻却事由がないことが認められる。
  2441.   したがって、本件記事3、4、7及び10は、上記の点において、いずれも原告の名誉を毀損することが明らかであると認められる。
  2442.   ウ 請求原因(4)ア(ウ)について
  2443.   甲1によると、本件記事12には、いずれも原告の姓及び名の全部が記載されていることが認められるから、これらの記事が原告を話題の対象としていることは明らかである。
  2444.   甲1により認められる本件記事12の内容によると、この記事は、本件スレッドを立てた、すなわち、本件スレッドのタイトル及びそのレス番号1の記事を投稿したのが原告である事実を摘示するものであると認められる。甲7によると、本件スレッドのタイトル及びそのレス番号1の記事においては、「有名私立学校元事務局長C某」なる人物について、同人物が誹謗中傷や恐喝を行っている事実などが記載されていることが認められる。しかしながら、同人物が実在するのか否か、実在するとした場合それらの事実が真実であるか否かなどの点は、タイトル及び記事の内容自体に加え、本件全証拠をもってしても明らかではないから、それらを投稿することが、当然に違法と評価されるとは認め難い。それゆえ、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、原告が上記のような投稿を行ったとの事実が摘示されたからといって、直ちに原告の社会的評価が低下するとまでは認めることができない。
  2445.   したがって、本件記事12は、上記の点においては、原告の名誉を毀損するとは認められない。
  2446.   (2) 請求原因(4)イについて
  2447.   人は、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益を有すると解され、当該人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえる場合には、不法行為法上違法となるものと解される。
  2448.   甲1、甲4及び甲8によると、本件記事13及び14に掲載されたURLのリンク先の写真は、いずれも原告の写真であると認められる。そこで、それらの写真が、社会生活上受忍の限度を超えて原告の人格的利益を侵害するものであるかについて検討する。
  2449.   甲4のとおり、本件写真13は、原告の容貌及び上半身の写真の目元にモザイク処理を施し、「少女買春常習犯」との文字を付したものである。それゆえ、本件写真13は、原告があたかも児童買春という犯罪を常習的に行っているかのような印象を与えるものであり、そのような原告の容貌が撮影された写真の公表の態様に鑑みれば、原告の人格的利益の侵害は社会生活上受忍の限度を超えるものといえるから、この写真を公表した行為は、不法行為法上違法であるといえる。それゆえ、同写真へのリンクを掲載した本件記事13は、同写真へのアクセスを容易にすることにより、上記違法な行為による原告の人格的利益の侵害を拡大させる点で、原告の権利を侵害するものと認められる。
  2450.   これに対し、甲4のとおり、本件写真14は、本件写真13と同様の写真に、「会社、勉強・・・・」、「すべて宣言通り、実行あるのみ。」との文字を付したものである。その意味は必ずしも明確ではないが、本件記事14の投稿内容において「何一つ実現できていない模様」と記載されていることからすると、一般閲覧者の普通の注意と読み方からすれば、原告の仕事や学業等に対する意欲を揶揄する趣旨が含まれるものと解されないではないが、本件写真14自体が直ちに原告の社会的評価を低下させるものとまでは認め難い。また、甲8によると、原告の容貌はインターネット上で公開されていることがうかがわれる。これらのことに鑑みれば、本件写真14を公表した行為は、社会生活上受忍の限度を超えて原告の人格的利益を侵害するとは認め難いから、不法行為法上違法であるとはいえない。それゆえ、同写真へのリンクを掲載した本件記事14についても、原告の権利を侵害するものとは認められない。
  2451.   (3) 請求原因(4)ウについて
  2452.   本件写真13及び14が原告により撮影されたものであることや、これらが著作物として原告の著作権に服するものであることについては、これらを認めるに足る証拠はないから、これらの写真を公表することが原告の著作権を侵害するものであるとは認め難く、したがって、これらへのリンクを記載した本件記事13及び14についても、原告の著作権又は著作者人格権を侵害するものとは認められない。
  2453.   (4) 小括
  2454.   以上のとおり、本件記事2ないし5、7、10及び11は原告の名誉を毀損し、本件記事13は原告の肖像権を侵害するものであると認められるが、本件記事12及び14は、原告の権利を侵害するものとは認められない。
  2455.  4 請求原因(5)のうち、原告が、本件発信者に対し、本件各記事に係る名誉毀損による不法行為に基づき損害賠償を求めるために、本件発信者の発信者情報の開示を求めるものである事実は甲9により認められ、当該事実によれば、原告には、本件発信者の発信者情報の開示を求める正当な理由が認められる。
  2456.   なお、被告は、本件契約者が被告からの意見照会に対し本件記事を投稿していない旨回答しているとして、これに基づいて、本件契約者の電子メールアドレスが本件各記事の「発信者の電子メールアドレス」に該当しない旨主張する。しかしながら、本件契約者は、原告の権利を侵害する情報を発信した際に用いられた電気通信設備に係る契約を被告との間で締結している以上、本件各記事を投稿した者であることが事実上推認されるところ、本件契約者が上記の回答をしたことを裏付ける証拠はなく、仮にそのような回答があったとしても、当該回答のみから、本件契約者以外の者が本件記事を投稿したことが直ちにうかがわれるものでもなく、他に本件契約者以外の者が本件各記事を投稿したことをうかがわせる証拠もないから、本件各記事を投稿したのは本件契約者であると認められる。したがって、本件契約者の電子メールアドレスは「発信者の電子メールアドレス」に該当するから、これについても、開示を求める正当な理由を認めることができる。
  2457.  5 以上によれば、原告の請求のうち別紙情報目録2ないし5、7、10、11及び13の各情報に係る部分はいずれも理由があるからこれを認容することとし、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条及び64条本文を適用して、主文のとおり判決する。
  2458.  
  2459. 民事第15部
  2460.  
  2461.  (裁判長裁判官 青木晋 裁判官 澤井真一 裁判官 佐藤貴大)
  2462.  
  2463. 別紙(省略)
  2464.  
  2465.  
  2466.  
  2467.  
  2468.  
  2469.  
  2470.  
  2471.  
  2472.  
  2473.  
  2474. ■29016359
  2475.  
  2476. 東京地方裁判所
  2477.  
  2478. 平成27年(ワ)第26993号
  2479.  
  2480. 平成28年01月29日
  2481.  
  2482. 群馬県(以下略)
  2483. 原告 X
  2484. 同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋
  2485. 山岡裕明
  2486. 東京都(以下略)
  2487. 被告 ソフトバンク株式会社
  2488. 同代表者代表取締役 A
  2489. 同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
  2490. 梶原圭
  2491. 寺門峻佑
  2492. 小林貴恵
  2493. 田中真人
  2494. 小塩康祐
  2495. 津城尚子
  2496. 丸住憲司
  2497.  
  2498.  
  2499. 主文
  2500. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  2501. 2 訴訟費用は、被告の負担とする。
  2502.  
  2503.  
  2504. 事実及び理由
  2505. 第1 請求の趣旨
  2506.   主文同旨
  2507. 第2 当事者の主張
  2508.  1 原告の主張
  2509.   (1) 原告は、群馬県(以下略)において、眼科医として開業している者である。被告は、電子通信事業を営む会社であり、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)に規定する「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)に当たる。
  2510.   (2) 氏名不詳の本件発信者は、平成27年8月17日、インターネット上の掲示板サイトにおいて、別紙情報目録記載のとおり、原告の勤務先と氏名を特定し、「変態」であるとする本件情報を投稿し、閲覧者をして、原告が悪趣味又は異常な性欲若しくは性的傾向を有するがごとく誤信させた。
  2511.   (3) 本件情報は、現在もコピーサイト上で流通しており、原告の社会的信用や客観的評価を低下させており、その権利を明白に侵害する。また、その文面からして、抽象的な伝聞に基づき、単なる私人である原告を誹謗中傷するものであって、違法性阻却事由の存在を窺わせる事情もない。
  2512.   (4) したがって、原告には、本件発信者に損害賠償を求めるため、「開示関係役務提供者」(法4条1項)に対し、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。なお、回線契約が家族名義等である可能性もあるので、開示の対象には、電子メールアドレスをも含める必要がある。
  2513.   (5) よって、原告は、本件情報の流通に関して「開示関係役務提供者」に当たる被告に対し、本件発信者情報を開示することを求める。
  2514.  2 被告の主張
  2515.   (1) 被告が、本件発信者情報を保有すること、本件情報の流通について、法4条1項柱書の「開示関係役務提供者」に当たることは認める。しかし、本件は、同項1号所定の権利侵害の明白性の要件を欠き、また、少なくとも電子メールアドレスの開示について、同項2号の正当な理由がない。
  2516.   (2) すなわち、本件情報は、同姓同名の可能性を考慮すれば、原告を対象とする表現であるのか明らかでなく、しかも、事実を摘示せず、主観的な感想を表現するにすぎないから、対象者の社会的評価を低下させるものともいえない。したがって、本件情報は、原告の社会的評価を低下させない。
  2517.   (3) また、原告は校医という公的な職務に就いており、本件情報の投稿に公共性がないとはいえず、公益性及び真実性がないことが明白であるともいえない。実際、本件発信者は、被告からの照会に対し、本件情報の発信について、公益性、公共性及び真実性がある旨の回答をしている。
  2518.   (4) 仮に、本件情報の発信に権利侵害の明白性があるとしても、本件発信者の氏名又は名称及び住所が開示されれば、原告が損害賠償の請求をすることは可能であるから、原告には、本件発信者情報のうち、電子メールアドレスの情報まで開示を受けるべき正当な理由は存在しない。
  2519.   (5) そうすると、被告としては、本件発信者の同意もなく、裁判所の判断も示されていないのに、本件発信者情報を開示することはできない。
  2520.  
  2521.  
  2522. 第3 当裁判所の判断
  2523.  1 原告の社会的評価の低下について
  2524.   (1) 証拠(甲1から甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者が、平成27年8月17日、インターネット上の掲示板サイトの「B」と題するスレッドにおいて本件情報を投稿したこと、同スレッドは、主として、異常性のある性的犯罪等に関する報道を紹介する投稿、当該投稿が紹介する性的犯罪等の「変態」性の度合いを相撲の「番付」になぞらえるなどして論評する投稿等からなるものであることが認められる。
  2525.   そして、本件情報は、校医である原告が「変態」であり、「女子」が受診を嫌がり、「親たち」も心配しているというのであるから、一般の閲覧者としては、原告が、女子生徒を診察する際などに、性的に問題ある言動をとるなどしているとの指摘が、当該学校の生徒からの情報提供の体で投稿されていると理解するのが通常であると考えられる。そうすると、これが原告の社会的評価を低下させるものであることは明白である。
  2526.   (2) これに対し、被告は、当該校医が原告であるとは特定されていないと主張する。しかし、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件情報にいう勤務先に誤りはなく、当該勤務先に同姓同名の医師が所属するような事情もないと認められ、当該校医が原告を指すことは明らかである。そして、一般の閲覧者が、医師の氏名と勤務先の医療機関の名称をインターネット上で検索するなどし、原告を特定することも困難ではないというべきである。
  2527.   また、被告は、本件情報は主観的感想にすぎず、社会的評価を低下させないと主張する。しかし、前記のとおり、本件情報は、「変態」性のある性的犯罪を紹介するスレッドに投稿され、原告の診察を「女子」生徒が嫌がっているというのであるから、「変態」であるという評価の前提として、抽象性はあるにせよ、性的な問題行動の存在が指摘されていると理解せざるを得ないのであり、これが原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
  2528.   (3) なお、証拠(乙3)によれば、本件発信者は、被告からの照会に対し、本件情報は、原告が不特定多数の女性に自らの精子を用いて人工授精をするなどしていることを「変態」と表現したものであるなどと説明していることが認められる。しかし、そのような趣旨を本件情報から読み取ることは困難であり、一般の閲覧者は、甲第1号証の587番及び588番の投稿にもみられるとおり、前記(1)のように理解するのが通常であると考えられる。
  2529.   また、本件発信者は、本件情報の投稿記事が早期に削除されていることなどから、原告の社会的評価の著しい低下はないと指摘していることも認められる。しかし、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者も自認するとおり、本件投稿に反応する記事が4件はあることが認められ(甲1の585番から588番の記事)、その程度はともかく、原告の社会的評価が低下したこと自体を否定することはできない。
  2530.  2 本件発信者の違法性阻却事由について
  2531.   (1) 本件情報は、前記1(1)のとおり、一般人の通常の注意と読み方を基準にしたとき、校医である原告が、女子生徒を診察する際などに、性的に問題ある言動をとるなどの事実があることを前提に、原告を「変態」と表現したものであると理解されるものである。現に、甲第1号証の587番及び588番の記事は、そのような理解の下、本件情報に反応した投稿であることが明らかであるが、本件発信者が、その理解を訂正しようとした形跡もない。
  2532.   しかるに、本件発信者の回答(乙3)によれば、当該投稿は、原告が、学会のガイドライン等に反し、不特定多数の女性に自らの精子を用いて人工授精をするなどしている事実を前提に、本件情報を投稿したというのであるから、前段落にいう診察の際の性的問題行動などについて、真実性又は相当性があるはずもない。したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件情報の投稿の違法性を阻却する事由はないことになる。
  2533.   (2) もっとも、仮に、本件発信者が、原告による前記人工授精等の事実について注意を喚起するため記事を投稿しようとしたが、その言葉に足りない部分があるなどしたため、診察の際の性的問題行動等を問題とするかのように理解される文言となってしまったというのであれば、人工授精等の事実に真実性又は相当性があることなどを要件として、その記事投稿の違法性又は責任が阻却されるという法的構成を検討する余地がないでもない。
  2534.   しかしながら、証拠(乙3)によれば、本件発信者の説明によっても、本件発信者は、前記事実関係を「買い物をしていた際、女子中学生らしき複数人物の会話」から知り、その後、「複数の当事者らの証言」から真実性を確認したとはいうものの、その「当事者」の氏名や立場も全く明らかにされないことが認められる。そうすると、現在の証拠上、いずれにせよ、当該事実関係の真実性又は相当性をうかがわせる事情はないことになる。
  2535.  3 開示を求める正当な理由について
  2536.   (1) 被告が、本件情報の流通について、法4条1項柱書の「開示関係役務提供者」に当たることに争いはないところ、前記1及び2によれば、原告が、本件情報の流通によって権利を侵害されたことが明らかな者に当たるということができ(同項1号)、弁論の全趣旨によれば、原告が、本件発信者に損害賠償請求権を行使するため、本件発信者情報の開示を求めていると認められるから、その正当な理由があるといえる(同項2号)。
  2537.   (2) これに対し、被告は、本件発信者情報のうち、電子メールアドレスに関しては、その開示を受けるべき正当な理由がないというが、被告との契約関係が、法人名義や家族名義である場合もあるから、原告には、「電子メールアドレス」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令3号)を含めた開示を受ける正当な理由があるというべきである。
  2538.  4 結論
  2539.   よって、原告の請求は理由があるから、これを認容するが、仮執行宣言は相当でないから、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。
  2540.  
  2541. 民事第26部
  2542.  
  2543.  (裁判官 吉野俊太郎)
  2544.  
  2545. 別紙(省略)
  2546.  
  2547.  
  2548.  
  2549.  
  2550.  
  2551.  
  2552.  
  2553.  
  2554. ■29016646
  2555.  
  2556. 東京地方裁判所
  2557.  
  2558. 平成27年(ワ)第29202号
  2559.  
  2560. 平成28年02月09日
  2561.  
  2562. 東京都(以下略)
  2563. 原告 X
  2564. 同法定代理人親権者 A
  2565. 同 B
  2566. 同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
  2567. 同 唐澤貴洋
  2568. 東京都(以下略)
  2569. 被告 エヌ・テイ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
  2570. 同代表者代表取締役 C
  2571. 同訴訟代理人弁護士 五島丈裕
  2572.  
  2573.  
  2574. 主文
  2575. 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
  2576. 2 訴訟費用は、被告の負担とする。
  2577.  
  2578.  
  2579. 事実及び理由
  2580. 第1 請求
  2581.   主文同旨
  2582. 第2 事案の概要等
  2583.  1 事案の概要
  2584.   本件は、原告が、インターネット上の電子掲示板に投稿された記事により、名誉が毀損され、かつ名誉感情が侵害されたとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、被告に対し、上記投稿の発信者に関する情報の開示を求めた事案である。
  2585.  2 前提となる事実(末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)
  2586.   (1) 原告は、平成27年9月15日当時、D市立E小学校に通学する小学校5年生であった者である(弁論の全趣旨)。
  2587.   (2) 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、Race Queen Inc.(以下「本件管理者」という。)が管理する「F」という名称のインターネット上の掲示板(以下「本件掲示板」という。)内の「お誕生日おめでとう@E小学校」との名称のスレッドに、別紙情報目録記載1の「投稿日時」記載の日時に、「投稿情報内容」記載のとおりの書込みを、本件掲示板内の「(D)Eで盛り上がっていますか?(G・NT)」との名称のスレッドに、別紙情報目録記載2の「投稿日時」記載の日時に、「投稿内容」記載のとおりの書込みを、それぞれ投稿し(以下、同目録記載1及び2の投稿をまとめて「本件投稿」という。)、これらを不特定多数の閲覧に供した(甲1(枝番含む)及び弁論の全趣旨)。
  2588.   (3) 原告の請求により、本件管理者は、原告に対し、本件投稿についての発信者情報を開示したところ、本件投稿で使用されたIPアドレスは、別紙情報目録記載1及び2の各IPアドレスのとおりであり、本件投稿は、いずれも、被告を経由プロバイダとして、本件掲示板に投稿されたことが判明した(甲2、3)。
  2589.   (4) 被告は、本件投稿につき、法4条1項「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」に該当する(弁論の全趣旨)。
  2590.   (5) 原告は、本件発信者に対し、権利侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求を求める準備をしており、そのために本件発信者に関する情報を必要としている(弁論の全趣旨)。
  2591.  3 争点及び当事者の主張
  2592.   本件の争点は、権利侵害の明白性の有無であり、争点についての当事者の主張は、以下のとおりである。
  2593.   (1) 原告の主張
  2594.   本件投稿は、原告の所属する小学校名等を表示したスレッドに原告の氏名を表示して原告を特定して、原告の名誉を毀損し、かつ名誉感情を侵害するものである。
  2595.   ア 名誉毀損について
  2596.   本件投稿は、「ボッチでも友達に会いたいとX」「補欠でもサッカー好き好きスミで1人X」と記載しているところ、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準としてかかる記載を読んだ場合、本件投稿は、原告が仲間はずれにされてひとりぼっちであるとの印象や原告がいじめられているとの印象を与えるものであるため、原告の名誉を毀損するものである。
  2597.   そして、本件投稿の内容は真実ではない上、わずか11歳にすぎない平凡な小学生に関するものであって、公共の利害に関する事項であるはずがなく、原告を誹謗中傷するものであるから、公益目的も認められるものではない。
  2598.   イ 名誉感情の侵害について
  2599.   本件投稿は、同内容の情報を繰り返し投稿して原告を侮辱するものであり、これは社会通念上許される限度を超える侮辱行為である。
  2600.   (2) 被告の主張
  2601.   本件投稿は、「ボッチでも友達に会いたい」、「補欠でもサッカー好き好きスミで1人」と摘示するものであるが、全体の体裁や表現から、一般の閲覧者は、本件投稿について、未成熟である年齢(小学生)の発信者が、根拠なく同級生を否定的に記載しているものであるという印象を持つにすぎず、真実、原告が孤立しているとか、いじめを受けていると信じるものとはいえない。
  2602.   そして、本件投稿の全体の体裁や表現は、上記のとおりであるため、本件投稿の表現が、社会通念上許容される程度を越えて、名誉感情を侵害するものともいえない。
  2603.  
  2604.  
  2605. 第3 当裁判所の判断
  2606.  1 本件投稿が、原告の名誉を毀損するものであるかについて
  2607.   (1) 本件投稿は、いずれも、原告が所属する小学校の名前がついたスレッド及び原告が居住している地域の名称である「D」「E」がついたスレッドに投稿され、また、原告の氏名と同じ名前が表示されていることからすれば、本件投稿で示された「X」及び「X」とは原告を示すものといえる。
  2608.   (2) 本件投稿は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告が、友達をつくることができず、サッカーを原告と一緒に行う者もいないと摘示するものであって、原告の社会的評価を低下させるものであるため、本件投稿は、いずれも、原告の名誉を毀損するものである。
  2609.  2 そして、原告は、本件投稿が発信された当時、小学校5年生であり、原告に友達がいないことは公益に関わることではないため、本件投稿につき、違法性阻却事由に該当するような事情は見あたらないというべきである。
  2610.  3 以上によれば、本件投稿が、原告の名誉感情を侵害するか否かを判断するまでもなく、本件投稿につき、権利侵害の明白性が認められる。
  2611. 第4 結論
  2612.   よって、原告の請求は、理由があるのでこれを認容することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言は、相当ではないため、これを付さないこととする。
  2613.  
  2614. 民事第5部
  2615.  
  2616.  (裁判官 藤原和子)
  2617.  
  2618. 別紙(省略)
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