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(修正版)東京地方裁判所 平成28年(ワ)第38586号

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  1. 東京地方裁判所
  2. 平成28年(ワ)第38586号
  3. 平成30年03月09日
  4. 判決
  5. 東京都(以下略)
  6. 原告 X
  7. 同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
  8. 同 山本祥平
  9. 同 唐澤貴洋
  10. 東京都(以下略)
  11. 被告 Y1株式会社
  12. 同代表者代表取締役 Y2
  13. 同訴訟代理人弁護士 青井裕美子
  14. 同 麻生裕介
  15. 同 渋谷洋平
  16. 同 浅原弘明
  17. 主文
  18. 1 原告の請求を棄却する。
  19. 2 訴訟費用は原告の負担とする。
  20. 事実及び理由
  21. 第1 請求
  22.     被告は、原告に対し、169万6710円及びこれに対する平成28年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  23. 第2 事案の概要
  24.     1 本件は、電子商取引を目的としてインターネット上で運営されている(省略)と称するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)におけるアカウントを停止された原告がAギフト券(以下「本件ギフト券」という。)を発行した被告に対し、当該アカウントに登録済みであった本件ギフト券の未使用残高(以下「アカウント残高」という。)を本件サイトにおける商品等の購入に利用できなくなり、被告が原告の損失の下、アカウント残高相当額を法律上の原因なく利得したとして、不当利得返還請求権に基づき、169万6710円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年11月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
  25.     2 前提事実
  26.         (1) 当事者等
  27.         ア 原告は自然人の男性である。(弁論の全趣旨)
  28.         イ(ア) 本件サイトは、米国法人であるBがインターネット上で運営する巨大なショッピングサイトである。(乙4)
  29.         (イ) C合同会社は、本件サイトで商品等を販売する合同会社、被告は、本件ギフト券を発行、販売する株式会社であり、いずれもBの関連会社(以下、Bと併せて「C」という。)である。(争いがない)
  30.         (2) 本件サイトのアカウント
  31.         ア 本件サイトの利用者が本件サイトを利用して商品等を購入するには、所定の情報を入力してアカウントを開設する必要があり、アカウントの開設ページには、利用者が本件サイト上でアカウントにログイン(サインイン)することにより、Cの利用規約(以下「本件規約」という。)等に同意したとみなされる旨明示されている。(甲3)
  32.         イ 本件規約には「Cは、その裁量の下で予告なく、サービスの拒否、アカウントの停止等を行う権利を留保します」と定めた規定がある。なお、同一の利用者が複数のアカウントを開設することは禁じられていない。(乙4、弁論の全趣旨)
  33.         (3) 本件ギフト券
  34.         ア 本件ギフト券は、本件サイト上でC等が販売する商品等を購入する際、その購入代金の全部または一部の支払方法として利用することを予定した被告が発行する前払式支払手段(資金決済に関する法律3条1項1号)に当たる。Cは、本件ギフト券を本件サイトのほか、Cが承認したウェブサイト、店舗等を介して販売している。(乙7、16、弁論の全趣旨)
  35.         イ 本件ギフト券には、個別に券面額、ギフト券番号、有効期限が定められており、Cは、サーバー上でギフト券番号に基づき、当該ギフト券の存否・金額等を自動的に確認して本件ギフト券の使用を管理している。
  36.         (弁論の全趣旨)
  37.         ウ 本件ギフト券の大まかな利用手順は次のとおりである。
  38.         〈1〉 本件サイトの顧客が本件サイトまたはCが承認した販売者等から本件ギフト券を購入したり贈られたりすると、被告が送信または発行するメール又はプラスチックカード等を通じて本件ギフト券のIDに相当するギフト券番号を入力して本件ギフト券を登録することができる。(甲1、2、乙7、13、15[枝番を含む。]、弁論の全趣旨)
  39.         〈2〉 本件ギフト券を登録すると、その券面額がアカウント残高に加算され、本件サイトで商品等を購入する際、アカウント残高の限度で商品等の購入代金を支払うことが可能になる。利用者は、いったん本件ギフト券を登録すると、登録を取り消したり、登録先のアカウントを変更することはできない。なお、本件ギフト券をアカウントに登録することなく、直接、商品等を購入する際にギフト券番号を入力して当該商品等の購入代金を支払うことも可能である。(甲2、乙7、15の8ないし15の10、弁論の全趣旨)
  40.         エ 本件サイトには、本件ギフト券について、Cと顧客との間に適用することが予定されたAギフト券細則(以下「本件細則」という。)が定められている。本件細則の一部は、要旨次のとおりである。
  41.         〈1〉 利用
  42.         本件ギフト券は、本件サイトにおいてのみ使用可能であり、使用には本件サイトのアカウントを開設する必要があり、本件サイトにおいてC等が販売する商品等の購入に利用できる。
  43.         〈2〉 制限
  44.         法律で要求されている範囲を除き、本件ギフト券に金額を補充すること、本件ギフト券を再販売その他対価をもって譲渡すること、換金すること、他のアカウントで使用することはできない。(以下、この条項の有償譲渡を制限する部分を「本件有償譲渡禁止特約」という。)これらの制限に反して取得された本件ギフト券は、Cは、使用を断る場合がある。アカウント残高は譲渡できない。本件ギフト券は、返金及び返品できない。
  45.         〈3〉 Cサイトのポリシー
  46.         本件ギフト券及び本件サイトにおける本件ギフト券の使用には、本件規約等が適用される。
  47.         〈4〉 危険負担等
  48.         本件ギフト券に関する危険及び所有権等はCが購入者又は購入者により指定された受取人に宛てて電子送信した時又は運送人に引き渡した時のうち、いずれか該当する時に購入者又は受取人に移転する。その後本件ギフト券が紛失、盗難、破損又は顧客の許可なく利用されてもCはその責任を負わない。
  49.         〈5〉 不正行為
  50.         本件ギフト券が詐欺その他不正行為により作成又は入手された場合、Cは、関連する顧客のアカウントを閉鎖し、当該本件ギフト券の使用を保留又は拒否し、他の支払方法を要求することができる。
  51.         (4)ア (省略)は、インターネット上で本件ギフト券を始めとする各種ギフト券等の買入れ、販売を行うCの承認を受けていない取引サイトであるが、原告は、平成28年6月14日から同月23日までの間、(省略)から券面額合計234万円相当の本件ギフト券を購入した。(甲16、乙14)
  52.         イ 原告は、本件サイトにおいて14個のアカウント(以下「本件各アカウント」という。)を開設しており、前記アで購入した本件ギフト券を券面額221万7400円の限度で本件各アカウントに登録した。(甲4[枝番を含む。]、16)
  53.         (5) Cは、平成28年6月23日、本件各アカウントの利用を不可能にする措置(以下「本件停止措置」という。)を採った。(乙3)
  54.     3 争点
  55.         (1) 原告の損失及び被告の利得の有無
  56.         (2) 被告の利得の法律上の原因の有無
  57.     4 争点に関する当事者の主張
  58.         (1) 争点(1)(損失及び利得)について
  59.         (原告の主張)
  60.         本件ギフト券は、本件サイトにおける商品等の購入の際の代金債務を消滅させる効果を伴うものであり、現金に代わる独立した価値自体であると解されるが、排他的支配可能性及び管理可能性を満たしているから、民法85条の物又はこれに準ずるものと解し、民法176条に基づく譲渡性が保障される。そのため、被告から本件ギフト券の発行を直接受けた購入者と被告との間で本件有償譲渡禁止特約が合意されても原告が取得した本件ギフト券の価値に何らの効果を及ぼすものではないし、そもそも本件有償譲渡禁止特約自体が消費者契約法10条により無効である。原告は、本件停止措置により本件ギフト券の使用に伴う負担を確定的に免れたことになるから。原告の損失と因果関係のある利得を得たことが明らかである。
  61.         (被告の主張)
  62.         本件ギフト券は、有体物に該当せず、民法85条の物に該当すると解する余地はない。仮に、本件ギフト券が債権でないとすれば、その譲渡性は、民法上保障されておらず、有償譲渡を禁じるか否かは発行者の自由であるところ、原告は、本件有償譲渡禁止特約に違反して本件ギフト券を有償で譲り受けたのであるから、本件ギフト券に係る権利を有していない。また、被告に対する対抗要件も具備されていない。そのため、本件停止措置により原告に損失が生じる余地はなく、被告に利得が生じることもない。すなわち、原告が本件ギフト券を事実上使用できなくても被告から有効に本件ギフト券の発行を受けて直接これを取得し、又は本件有償譲渡禁止特約に違反することなく本件ギフト券を譲り受け、未だ権利を喪失していない者(以下「ギフト券権利者」という。)による権利行使が妨げられるものではないから、被告は、ギフト券権利者が本件ギフト券を使用した場合にCに対する支払義務を履行しなければならない可能性がある。そのため、本件停止措置により被告は利得を得ておらず、けっk他としてギフト券権利者が本件ギフト券を使用せず、被告に利得が生じたとしても、これは原告の損失とは別の原因によるものにすぎない。
  63.         (2) 争点(2)(法律上の原因)について
  64.         (原告の主張)
  65.         ア 本件規約では、Cがアカウントを一時的に停止できることが認められているに過ぎず、アカウントの停止により、Cが本件ギフト券を無効にする権限があることまで示されていない。Cから原告に送信されたメールでは、アカウントが閉鎖されるとその時点で登録された本件ギフト券が無効になることが示されているが、このメールは、Cの一方的な警告に過ぎず、原告とCの権利関係を規律するものではない。
  66.         イ また、本件ギフト券のような前払式支払手段については、有償無償を問わず、自由に譲渡することが可能であり、譲受後の使用が認容されている(前払式支払手段自主規制規則16条3号参照)。にもかかわらず、本件有償譲渡禁止特約は、原告と被告の著しい交渉力の格差を背景として、不十分な表示のままで契約内容に加えられたものであるから、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条により無効である。
  67.         ウ したがって、本件停止措置に基づく被告の利得は法律上の原因を欠くものである。
  68.         (被告の主張)
  69.         ア Cは、原告が多数のアカウントに登録した本件ギフト券(ギフト券番号)を利用して特価品の購入数量制限に違反したため、原告に対し、2度の警告メールを送信したにもかかわらず、原告がさらに違反を繰り返したため、原告が購入数量制限を潜脱する意図で複数のアカウントを利用した極めて悪質な事案であると判断して本件停止措置を採ったのであり、本件停止措置は本件規約に基づく適法なものである。
  70.         イ また、本件停止措置により原告が使用を制限された本件ギフト券は、そもそも原告が有償で取得したものであるから、本件有償譲渡禁止特約に違反しており、Cは、本件細則に基づき、その使用を拒絶することができる。本件ギフト券の有償譲渡が認められれば、有償譲渡の取引の活発化を招き、本件ギフト券(ギフト券番号)をギフト券権利者から不法に入手した者に換金の場を与え、犯罪行為やマネーロンダリングを助長することになるのであって、本件有償譲渡禁止特約は合理的な規定であり、消費者契約法10条により無効になることはない。
  71.         ウ したがって、本件停止措置に基づく被告の利得には法律上の原因がある。
  72. 第3 当裁判所の判断
  73.     1 争点(1)(損失及び利得)について
  74.         (1)ア 原告が本件各アカウントに登録した本件ギフト券(ギフト券番号)は、いずれも被告が発行した真正なものであることは当事者間に争いがない。そこで、本件停止措置により、本件各アカウントに登録された本件ギフト券の使用が困難になり、原告が民法703条所定の損失を受けたと認められるか判断するに、原告は、本件ギフト券について、民法85条の物又はこれに準ずるものとして現金のような価値自体に相当すると主張する。
  75.         前提事実(3)によれば、本件ギフト券の内容は、購入者が被告に予め対価を支払い、購入者又はその指定する受取人が被告からサーバーで管理されるギフト券番号等の発行を受け、これを本件サイトの自己のアカウントに登録するなどして、当該ギフト券番号にかかる券面額の限度で本件サイトにおけるC等に対する商品等の売買代金債務等の弁済に利用できると認められ、購入者と被告との間の合意に基づき形成される被告に対する実体法上の権利であると解される。そして、その権利の行使(利用)は、インターネット上でギフト券番号という情報を利用して行われるもので有価証券のように権利を表章する有体物としての媒体が存在しない以上、本件ギフト券自体が民法85条の物又はこれに準ずるものに当たるという解釈には無理があるといわざるを得ず、原告の主張は採用できない。
  76.         イ ところで、原告は、本件各アカウントに本件ギフト券の登録を済ませているが、本件細則には本件ギフト券(ギフト券番号)の登録者をその権利者として確定させるという趣旨の条項は見当たらず、かえって、本件細則上、ギフト券番号が盗取された場合をCの免責の問題として位置付けており(前提事実(3)エ〈4〉)、不正に入手された本件ギフト券について、Cはその使用を拒絶することが可能であるとされている(前提事実(3)エ〈5〉)。これらの事情に加え、弁論の全趣旨によれば、いったん本件ギフト券を登録してもこれを解除する操作がシステム上も可能であると認められることも考慮すると、本件ギフト券が本件各アカウントに登録されたことをもって原告に実体法上の権利又は法的利益(価値)が付与されると認めることも困難である。
  77.         ウ したがって、原告は、本件ギフト券を本件各アカウントに登録しており、アカウント残高にその価値が表示されるに至ってはいたが、これは、原告が本件ギフト券に係る権利又は法的検疫を有することを示すものではないから、原告が民法703条所定の損失を受けたと認められるには、当該権利等を承継したことが認められる必要がある。
  78.         (2) そして、原告は、(省略)から本件ギフト券に係る権利の譲渡を受けたことが認められるが、(省略)に本件ギフト券に係る権利を譲渡した譲渡人は特定されておらず、被告から本件ギフト券の発行を受けた購入者又はその指定を受けた受取人等から(省略)に至るまでの取引経緯は不明であり、(省略)に本件ギフト券に係る権利が承継されたと認めるに足りないといわざるを得ない。
  79.         (3) したがって、原告が本件各アカウントに登録した本件ギフト券について、実体法上の権利を承継されたと認めるに足りず、本件停止措置により、原告の損失及び被告の利得が生じたことをいう原告の主張には理由がないが、本件ギフト券に関する権利関係の特殊性にかんがみ、念のため、争点(2)(法律上の原因)について判断する。
  80.     2 争点(2)(法律上の原因)について
  81.         (1) 前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
  82.         ア Cは、平成28年6月頃、本件サイトにおいて、D社のオフィス(E)(以下「本件商品」という。)を特価品として購入数量を1人10個までに制限して販売した。原告は、本件各アカウントの2つを利用して本件商品を合計10個注文していたが、同月14日、本件各アカウントの1つを利用して本件商品を2個注文した。そのため、Cは、同日、この注文を取り消し、原告に対し、〈1〉この注文が購入数量制限に違反したために注文を取り消したこと、〈2〉今後購入数量制限に違反した場合には関連アカウントを含めてアカウント閉鎖の措置を採る可能性があること、〈3〉アカウントが閉鎖された場合には本件ギフト券が無効になることを警告するメールを送信した。(乙1、弁論の全趣旨)
  83.         イ しかし、原告は、平成28年6月21日、本件各アカウントの5つを利用して本件商品を合計10個注文し、Cは、同日、原告の注文を取り消し、原告に対し、前記アと同じ内容のメールを再度送信した。(乙2[枝番を含む。]、弁論の全趣旨)
  84.         ウ さらに、原告は、平成28年6月23日、本件各アカウントの1つを利用して本件商品を2個注文し、Cは、同日、原告の注文を取り消し、本件停止措置を採った。(乙3、弁論の全趣旨)
  85.         (2) 以上の事実関係の下、Cによる本件停止措置が本件規約に基づくものとして適法と認められるか判断するに、原告が本件商品の購入数量制限を免れるために本件各アカウントを利用し、アカウントの閉鎖により本件ギフト券が無効になることを明示した2度の警告をCから受けたにもかかわらず、10日足らずのうちに3度目の違反に及んだことからすれば、原告の購入数量制限違反は故意によるものであると認められ、本件各アカウントの利用を継続することが本件サイトにおけるCによる特価品の販売を円滑に進めるための妨げになるおそれが高いといわざるを得ず、Cによる警告にも効果が認められなかったことに照らすと、本件各アカウントの閉鎖(永続的停止)もやむを得ないといわざるを得ない。
  86.         原告は、本件各アカウントの停止は、本件ギフト券の権利行使を妨げるべき理由には当たらない旨主張するが、本件細則では、本件ギフト券の使用は本件サイトのアカウントを通して行うことが明示されており(前提事実(3)エ〈1〉)、本件ギフト券について返品・返金や登録解除等が認められていないこと(前提事実(3)エ〈2〉)に照らすと、本件各アカウントの停止が本件ギフト券の実質的な喪失を伴うことは、本件細則により了知することが可能であるというべきであるから、原告の主張は採用できない。
  87.         したがって、本件停止措置は、本件規約に基づき、Cに認められる本件サイトを運営するための裁量の範囲内の行為として適法であるというべきである。
  88.         (3) そうすると、本件有償譲渡禁止特約違反の被告の主張に関して判断するまでもなく、本件停止措置により生じた被告の利得が法律上の原因を欠くことをいう原告の主張は理由がない。
  89.     3 以上の次第で、原告の被告に対する不当利得返還請求権に基づく請求は理由がない。
  90.     よって、主文のとおり判決する。
  91. 東京地方裁判所民事第44部
  92. 裁判官 齋藤岳彦
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